説明

I型コラーゲン産生促進剤、アデノシン三リン酸産生促進剤、グルタチオン産生促進剤、フィラグリン産生促進剤、メラニン産生抑制剤、塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)mRNA発現抑制剤、及び肌の透明感向上剤

【課題】優れた作用を有し、かつ安全性の高い、I型コラーゲン産生促進剤、アデノシン三リン酸産生促進剤、グルタチオン産生促進剤、フィラグリン産生促進剤、メラニン産生抑制剤、塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)mRNA発現抑制剤、及び肌の透明感向上剤の提供。
【解決手段】マタタビ(Actinidia polygama)の抽出物を含有することを特徴とするI型コラーゲン産生促進剤、アデノシン三リン酸産生促進剤、グルタチオン産生促進剤、フィラグリン産生促進剤、メラニン産生抑制剤、塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)mRNA発現抑制剤、及び肌の透明感向上剤である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マタタビの抽出物を含有するI型コラーゲン産生促進剤、アデノシン三リン酸産生促進剤、グルタチオン産生促進剤、フィラグリン産生促進剤、メラニン産生抑制剤、塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)mRNA発現抑制剤、及び肌の透明感向上剤に関する。
【背景技術】
【0002】
皮膚の表皮及び真皮は、表皮細胞、皮膚線維芽細胞、及び、これらの細胞の外にあって皮膚構造を支持するコラーゲン等の細胞外マトリックスにより構成されている。若い皮膚においては、これら皮膚組織の相互作用が恒常性を保つことにより、水分保持、柔軟性、弾力性等が確保され、肌は外見的にも張りや艶があってみずみずしい状態に維持される。
ところが、紫外線(UV−A、UV−B)の照射、空気の著しい乾燥、過度の皮膚洗浄、過酸化水素との接触等の外的因子の影響があったり、加齢が進んだりすると、コラーゲン等の細胞外マトリックスの産生量が減少すると共に、架橋による弾力低下を起こす。その結果、皮膚は保湿機能や弾力性が低下し、角質は異常剥離を始めるため、肌は張りや艶を失い、荒れ、シワ等の老化症状を呈するようになる。
このように皮膚の老化に伴う変化、即ち、シワ、くすみ、きめの消失、弾力性の低下等には、コラーゲン等の真皮マトリックス成分の減少乃至変性が関与していることが知られている。
コラーゲンの中でもI型コラーゲンは、最も多く体内に含まれるコラーゲンであり、皮膚の真皮にも多く含まれ、皮膚の強さを生み出す役割を果たしていることが知られている。
【0003】
また、アデノシン三リン酸(ATP)は、生体内で用いられるエネルギー成分である。ATPの産生を高めることによれば、肌細胞に活力を与え、結果的にくすんだ肌や疲れた肌の改善など、様々な皮膚症状の予防・改善に繋がると考えられる。
【0004】
また、グルタチオンはグルタミン酸、システイン、グリシンの3つのアミノ酸からなるトリペプチドであり、細胞内の主要なシステイン残基を有する化合物である。細胞内におけるグルタチオンの役割はラジカルの捕捉、酸化還元による細胞機能の調節、各種酵素のSH供与体であり、抗酸化成分としても知られている。グルタチオンの作用発現はそのシステイン残基に由来すると考えられている。しかし、皮膚中のグルタチオン量は、加齢に伴って低下することが報告されており、このことが皮膚における酸化防御能を低下させ、細胞のDNA及びタンパク質などの構成成分にダメージを与える一因であると考えられている。
このように皮膚においてグルタチオンの産生を促進することは、加齢により衰える酸化ストレスの防御を高め、かつ紫外線による酸化ストレスに対する傷害を抑制することにつながり、皮膚の老化の予防、治療、あるいはシミ等の色素沈着に対する改善が期待できると考えられる。そこで、グルタチオン産生促進作用を有するものとして、例えばビルベリー抽出物又はウォルナット抽出物(特許文献1参照)、クチナシ属植物の抽出物(特許文
献2参照)、などが開示されている。
【0005】
また、天然保湿因子(Natural Moisturizing Factors;NMF)の主成分であるアミノ酸は、ケラトヒアリン顆粒に由来するフィラグリンが角質層内で分解されて産生される。このフィラグリンは、角質層直下の顆粒層に存在する表皮ケラチノサイトでプロフィラグリンとして発現する。その後、直ちにリン酸化し、ケラトヒアリン顆粒に蓄積され、脱リン酸,加水分解を経てフィラグリンへと分解され、角質層に移行して、ケラチンフィラメントの凝集効率を高め、角質細胞の内部構築に関与することが報告されている(非特許文献1参照)。
近年、このフィラグリンが皮膚の水分保持に非常に重要かつ必要不可欠であること、及び乾燥などの条件によってフィラグリンの合成力が低下し、角質層におけるアミノ酸量が低下することが報告されている(非特許文献2参照)。
従って、表皮ケラチノサイトにおいてプロフィラグリンmRNAの発現促進を通じて、フィラグリンの合成を促進することによって角質層内のアミノ酸量を増大させ、角質層の水分環境を本質的に改善できることが期待される。
このため、フィラグリン合成促進剤としては、例えば、カンゾウ抽出物(特許文献3参照)、天然植物中に含まれるフラバノン配糖体として知られるリクイリチン(特許文献4参照)、プロフィラグリン及びフィラグリン蛋白産生促進剤の少なくともいずれかとして、Citrus属に属する植物エキス又は酵母エキス(特許文献5参照)、などが提案されている。
【0006】
また、皮膚においてメラニンは紫外線から生体を保護する役目も果たしているが、過剰生成や不均一な蓄積は、皮膚の黒化やシミの原因となる。一般に、メラニンは色素細胞の中で生合成される酵素チロシナーゼの働きによって、チロシンからドーパ、ドーパからドーパキノンに変化し、次いで、5,6−ジヒドロキシインドフェノール等の中間体を経て形成される。したがって、皮膚の色黒(皮膚色素沈着症)を予防・改善するため、即ち美白のためには、メラニンの産生を抑制すること、或いは既に産生したメラニンを淡色漂白することが有効であると考えられる。
【0007】
また、塩基性線維芽細胞増殖因子(basic Fibroblast Growth Factor,bFGF)は、FGF−2とも呼ばれ、紫外線照射により角化細胞からの遊離が促進され、遊離されたbFGFが色素細胞に作用してメラニン合成を促進し、かつ色素細胞の細胞分裂をも促進すると考えられている(非特許文献3参照)。
そのため、bFGFの異常産生は、色素細胞の異常増殖につながり、メラニン産生を亢進させ、シミ、ソバカス、くすみ等の原因となると考えられる。
したがって、bFGFの発現上昇を抑制することは、色素細胞の増殖を抑制し、皮膚におけるメラニンの過剰産生を抑制し、日焼け後の色素沈着、シミ、ソバカス等の予防又は抑制に有用であると考えられる。
【0008】
また、肌の透明感は、外界の影響による角層タンパク質のカルボニル化が透明感の低下の一因と考えられている(非特許文献4参照)。
したがって、タンパク質のカルボニル化を抑制することは、肌の透明感の向上に有用であると考えられる。
【0009】
また、マタタビ(Actinidia polygama)の抽出物は、タンパク質と還元糖とのメイラード反応を抑制乃至阻害する作用を有することが知られている(特許文献6参照)が、I型コラーゲン産生促進作用、アデノシン三リン酸産生促進作用、グルタチオン産生促進作用、フィラグリン産生促進作用、メラニン産生抑制作用、塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)mRNA発現抑制作用、肌の透明感向上作用、及びタンパク質のカルボニル化抑制作用を有することは知られていない。
【0010】
このように、I型コラーゲン、アデノシン三リン酸、グルタチオン、及びフィラグリンの産生を促進すること、メラニンの産生、及び塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)mRNAの発現を抑制すること、肌の透明感を向上すること、タンパク質のカルボニル化を抑制することのできる物質は、非常に有用であることが考えられる。しかしながら、現在までのところ、前記したような作用を有し、かつ安全性が高く、そのため、皮膚外用剤、美容用飲食品、研究用試薬などの成分として広く利用が可能な優れた物質は、未だ提供されておらず、その速やかな提供が強く求められているのが現状である。
【0011】
【特許文献1】特開2006−241062号公報
【特許文献2】特開2006−347934号公報
【特許文献3】特開2002−363054号公報
【特許文献4】特開2003−146886号公報
【特許文献5】特開2001−261568号公報
【特許文献6】特許第3695472号公報
【非特許文献1】フレグランスジャーナル臨時増刊 Vol.17、p14−19、2000年発行
【非特許文献2】「Arch. Dermatol. Res.」Vol.288、p.442−446、1996年発行
【非特許文献3】Halaban R. et al., J. Cell. Biol., No.107, 1988, p.1611−1619
【非特許文献4】Ichiro Iwai et al., J. Soc. Cosmet. Chem. Jpn., Vol.42, No.1, 2008, p.16−21
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、前記従来における諸問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明は、第1に、優れたI型コラーゲン産生促進作用を有し、かつ安全性の高いI型コラーゲン産生促進剤を提供することを目的とする。
また、本発明は、第2に、優れたアデノシン三リン酸産生促進作用を有し、かつ安全性の高いアデノシン三リン酸産生促進剤を提供することを目的とする。
また、本発明は、第3に、優れたグルタチオン産生促進作用を有し、かつ安全性の高いグルタチオン産生促進剤を提供することを目的とする。
また、本発明は、第4に、優れたフィラグリン産生促進作用を有し、かつ安全性の高いフィラグリン産生促進剤を提供することを目的とする。
また、本発明は、第5に、優れたメラニン産生抑制作用を有し、かつ安全性の高いメラニン産生抑制剤を提供することを目的とする。
また、本発明は、第6に、優れた塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)mRNA発現抑制作用を有し、かつ安全性の高い塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)mRNA発現抑制剤を提供することを目的とする。
また、本発明は、第7に、優れた肌の透明感向上作用を有し、かつ安全性の高い肌の透明感向上剤を提供することを目的とする。
また、本発明は、第8に、優れたタンパク質のカルボニル化抑制作用を有し、かつ安全性の高いタンパク質のカルボニル化抑制剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意検討を行ったところ、マタタビ(Actinidia polygama)の抽出物が、優れたI型コラーゲン産生促進作用、アデノシン三リン酸産生促進作用、グルタチオン産生促進作用、フィラグリン産生促進作用、メラニン産生抑制作用、塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)mRNA発現抑制作用、肌の透明感向上作用、及びタンパク質のカルボニル化抑制作用を有することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0014】
本発明は、本発明者らの前記知見に基づくものであり、前記課題を解決するための手段としては、以下の通りである。即ち、
<1> マタタビ(Actinidia polygama)の抽出物を含有することを特徴とするI型コラーゲン産生促進剤である。
<2> マタタビ(Actinidia polygama)の抽出物を含有することを特徴とするアデノシン三リン酸産生促進剤である。
<3> マタタビ(Actinidia polygama)の抽出物を含有することを特徴とするグルタチオン産生促進剤である。
<4> マタタビ(Actinidia polygama)の抽出物を含有することを特徴とするフィラグリン産生促進剤である。
<5> マタタビ(Actinidia polygama)の抽出物を含有することを特徴とするメラニン産生抑制剤である。
<6> マタタビ(Actinidia polygama)の抽出物を含有することを特徴とする塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)mRNA発現抑制剤である。
<7> マタタビ(Actinidia polygama)の抽出物を含有することを特徴とする肌の透明感向上剤である。
<8> タンパク質のカルボニル化抑制作用を有する前記<7>に記載の肌の透明感向上剤である。
<9> マタタビ(Actinidia polygama)の抽出物を含有することを特徴とするタンパク質のカルボニル化抑制剤である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によると、従来における諸問題を解決することができ、前記目的を達成することができる。
即ち、本発明によると、第1に、優れたI型コラーゲン産生促進作用を有し、かつ安全性の高いI型コラーゲン産生促進剤を提供することができる。
また、本発明によると、第2に、優れたアデノシン三リン酸産生促進作用を有し、かつ安全性の高いアデノシン三リン酸産生促進剤を提供することができる。
また、本発明によると、第3に、優れたグルタチオン産生促進作用を有し、かつ安全性の高いグルタチオン産生促進剤を提供することができる。
また、本発明によると、第4に、優れたフィラグリン産生促進作用を有し、かつ安全性の高いフィラグリン産生促進剤を提供することができる。
また、本発明によると、第5に、優れたメラニン産生抑制作用を有し、かつ安全性の高いメラニン産生抑制剤を提供することができる。
また、本発明によると、第6に、優れた塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)mRNA発現抑制作用を有し、かつ安全性の高い塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)mRNA発現抑制剤を提供することができる。
また、本発明によると、第7に、優れた肌の透明感向上作用を有し、かつ安全性の高い肌の透明感向上剤を提供することができる。
また、本発明によると、第8に、優れたタンパク質のカルボニル化抑制作用を有し、かつ安全性の高いタンパク質のカルボニル化抑制剤を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
(I型コラーゲン産生促進剤、アデノシン三リン酸産生促進剤、グルタチオン産生促進剤、フィラグリン産生促進剤、メラニン産生抑制剤、塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)mRNA発現抑制剤、肌の透明感向上剤、及びタンパク質のカルボニル化抑制剤)
本発明のI型コラーゲン産生促進剤、アデノシン三リン酸産生促進剤、グルタチオン産生促進剤、フィラグリン産生促進剤、メラニン産生抑制剤、塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)mRNA発現抑制剤、肌の透明感向上剤、及びタンパク質のカルボニル化抑制剤は、マタタビ(Actinidia polygama)の抽出物を含有してなり、更に必要に応じてその他の成分を含有してなる。
前記マタタビの抽出物が含有する、前記各作用(I型コラーゲン産生促進作用、アデノシン三リン酸産生促進作用、グルタチオン産生促進作用、フィラグリン産生促進作用、メラニン産生抑制作用、塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)mRNA発現抑制作用、肌の透明感向上作用、及びタンパク質のカルボニル化抑制作用)を発揮する物質の詳細については不明であるが、前記マタタビの抽出物がこのような優れた作用を有することは、従来には知られておらず、本発明者らによる新たな知見である。
【0017】
前記マタタビ(Actinidia polygama)は、マタタビ科の植物であり、日本の山野に自生し、また朝鮮半島から中国大陸北部等に分布しており、これらの地域から容易に入手可能である。
抽出原料として使用する前記マタタビの部位としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、花、蕾、果実、果皮、種子、種皮、茎、葉、枝、枝葉、幹、樹皮、根、根茎、根皮、これらの混合物などが挙げられ、これらの中でも、果実が好ましい。
【0018】
抽出原料である前記マタタビは、例えば、乾燥した後に、そのままの状態で又は粗砕機等を用いて粉砕した状態で、溶媒抽出に供することができる。中でも、前記抽出原料としては、採取後ただちに乾燥し、粉砕したものが好ましい。前記乾燥は、例えば、天日で行ってもよいし、通常使用される乾燥機を用いて行ってもよい。なお、前記マタタビは、ヘキサン、ベンゼン等の非極性溶媒によって脱脂等の前処理を施してから抽出原料として使用してもよい。脱脂等の前処理を行うことにより、前記マタタビの極性溶媒による抽出処理を、効率よく行うことができる。
【0019】
前記マタタビの抽出物は、植物の抽出に一般に用いられる方法を利用することによって、容易に得ることができる。また、前記マタタビの抽出物としては、市販品を使用してもよい。なお、前記マタタビの抽出物には、前記マタタビの抽出液、該抽出液の希釈液若しくは濃縮液、該抽出液の乾燥物、又は、これらの粗精製物若しくは精製物のいずれもが含まれる。
【0020】
前記抽出に用いる溶媒としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、水、親水性有機溶媒、又は、これらの混合溶媒を、室温又は溶媒の沸点以下の温度で用いることが好ましい。前記マタタビに含まれるI型コラーゲン産生促進作用、アデノシン三リン酸産生促進作用、グルタチオン産生促進作用、フィラグリン産生促進作用、メラニン産生抑制作用、塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)mRNA発現抑制作用、肌の透明感向上作用、及びタンパク質のカルボニル化抑制作用を示す成分は、極性溶媒を抽出溶媒とする抽出処理によって、容易に抽出することができる。
【0021】
前記抽出溶媒として使用し得る水としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、純水、水道水、井戸水、鉱泉水、鉱水、温泉水、湧水、淡水等の他、これらに各種処理を施したものが含まれる。水に施す処理としては、例えば、精製、加熱、殺菌、ろ過、イオン交換、浸透圧の調整、緩衝化等が含まれる。したがって、前記抽出溶媒として使用し得る水には、精製水、熱水、イオン交換水、生理食塩水、リン酸緩衝液、リン酸緩衝生理食塩水等も含まれる。
【0022】
前記抽出溶媒として使用し得る親水性有機溶媒としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、メタノール、エタノール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコール等の炭素数1〜5の低級アルコール;アセトン、メチルエチルケトン等の低級脂肪族ケトン;1,3−ブチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン等の炭素数2〜5の多価アルコールなどが挙げられ、該親水性有機溶媒と水との混合溶媒なども用いることができる。なお、前記水と前記親水性有機溶媒との混合溶媒を使用する際には、低級アルコールの場合は水10質量部に対して1質量部〜90質量部、低級脂肪族ケトンの場合は水10質量部に対して1質量部〜40質量部を混合したものを使用することが好ましい。また、多価アルコールの場合は水10質量部に対して1質量部〜90質量部を混合したものを使用することが好ましい。
【0023】
抽出原料である前記マタタビから、I型コラーゲン産生促進作用、アデノシン三リン酸産生促進作用、グルタチオン産生促進作用、フィラグリン産生促進作用、メラニン産生抑制作用、塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)mRNA発現抑制作用、肌の透明感向上作用、及びタンパク質のカルボニル化抑制作用を有する抽出物を抽出するにあたって、特殊な抽出方法を採用する必要はなく、室温又は還流加熱下で、任意の抽出装置を用いて抽出することができる。
具体的には、抽出溶媒を満たした処理槽内に、前記抽出原料を投入し、更に必要に応じて時々攪拌しながら、30分〜4時間静置して可溶性成分を溶出した後、ろ過して固形物を除去し、得られた抽出液から抽出溶媒を留去し、乾燥することにより抽出物を得ることができる。抽出溶媒量は通常、抽出原料の5倍量〜15倍量(質量比)である。抽出条件は、抽出溶媒として水を用いた場合には、通常50℃〜95℃にて1時間〜4時間程度である。また、抽出溶媒として水とエタノールとの混合溶媒を用いた場合には、通常40℃〜80℃にて30分間〜4時間程度である。なお、溶媒で抽出することにより得られる抽出液は、抽出溶媒が安全性の高いものであれば、そのまま本発明のI型コラーゲン産生促進剤、アデノシン三リン酸産生促進剤、グルタチオン産生促進剤、フィラグリン産生促進剤、メラニン産生抑制剤、塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)mRNA発現抑制剤、肌の透明感向上剤、及びタンパク質のカルボニル化抑制剤の有効成分として用いることができる。
【0024】
抽出により得られる前記マタタビの抽出液は、該抽出液の希釈液若しくは濃縮液、該抽出液の乾燥物、又はこれらの粗精製物若しくは精製物を得るため、常法に従って希釈、濃縮、乾燥、精製等の処理を施してもよい。なお、得られる前記マタタビの抽出液は、そのままでもI型コラーゲン産生促進剤、アデノシン三リン酸産生促進剤、グルタチオン産生促進剤、フィラグリン産生促進剤、メラニン産生抑制剤、塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)mRNA発現抑制剤、肌の透明感向上剤、及びタンパク質のカルボニル化抑制剤の有効成分として使用することができるが、濃縮液又はその乾燥物としたものの方が利用しやすい。抽出液の乾燥物を得るにあたっては、常法を利用することができ、また、吸湿性を改善するためにデキストリン、シクロデキストリン等のキャリアーを添加してもよい。また、抽出原料である前記マタタビは特有の匂いと味を有している場合があり、そのため、前記マタタビの抽出物に対しては、生理活性の低下を招かない範囲で、脱色、脱臭等を目的とする精製を行うことも可能であるが、例えば皮膚化粧料に添加する場合などには大量に使用するものではないから、未精製のままでも実用上支障はない。なお、精製は、具体的には、活性炭処理、吸着樹脂処理、イオン交換樹脂処理等によって行うことができる。
【0025】
以上のようにして得られる前記マタタビの抽出物は、優れたI型コラーゲン産生促進作用、アデノシン三リン酸産生促進作用、グルタチオン産生促進作用、フィラグリン産生促進作用、メラニン産生抑制作用、塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)mRNA発現抑制作用、肌の透明感向上作用、及びタンパク質のカルボニル化抑制作用を有し、これらの作用に基づき、本発明のI型コラーゲン産生促進剤、アデノシン三リン酸産生促進剤、グルタチオン産生促進剤、フィラグリン産生促進剤、メラニン産生抑制剤、塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)mRNA発現抑制剤、肌の透明感向上剤、及びタンパク質のカルボニル化抑制剤の有効成分として好適に利用可能なものである。
【0026】
前記I型コラーゲン産生促進剤、アデノシン三リン酸産生促進剤、グルタチオン産生促進剤、フィラグリン産生促進剤、メラニン産生抑制剤、塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)mRNA発現抑制剤、肌の透明感向上剤、及びタンパク質のカルボニル化抑制剤中の前記マタタビの抽出物の含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、また、前記I型コラーゲン産生促進剤、アデノシン三リン酸産生促進剤、グルタチオン産生促進剤、フィラグリン産生促進剤、メラニン産生抑制剤、塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)mRNA発現抑制剤、肌の透明感向上剤、及びタンパク質のカルボニル化抑制剤は、前記マタタビの抽出物そのものであってもよい。
【0027】
また、前記I型コラーゲン産生促進剤、アデノシン三リン酸産生促進剤、グルタチオン産生促進剤、フィラグリン産生促進剤、メラニン産生抑制剤、塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)mRNA発現抑制剤、肌の透明感向上剤、及びタンパク質のカルボニル化抑制剤中に含まれ得る、前記マタタビの抽出物以外のその他の成分としても、本発明の効果を損なわない範囲内であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記マタタビの抽出物を所望の濃度に希釈等するための、生理食塩液などが挙げられる。
また、前記I型コラーゲン産生促進剤、アデノシン三リン酸産生促進剤、グルタチオン産生促進剤、フィラグリン産生促進剤、メラニン産生抑制剤、塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)mRNA発現抑制剤、肌の透明感向上剤、及びタンパク質のカルボニル化抑制剤は、前記その他の成分として、I型コラーゲン産生促進作用、アデノシン三リン酸産生促進作用、グルタチオン産生促進作用、フィラグリン産生促進作用、メラニン産生抑制作用、塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)mRNA発現抑制作用、肌の透明感向上作用、及びタンパク質のカルボニル化抑制作用を有する、前記マタタビの抽出物以外の天然抽出物等を含んでいてもよい。前記I型コラーゲン産生促進剤、アデノシン三リン酸産生促進剤、グルタチオン産生促進剤、フィラグリン産生促進剤、メラニン産生抑制剤、塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)mRNA発現抑制剤、肌の透明感向上剤、及びタンパク質のカルボニル化抑制剤中の前記その他の成分の含有量にも、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0028】
また、前記I型コラーゲン産生促進剤、アデノシン三リン酸産生促進剤、グルタチオン産生促進剤、フィラグリン産生促進剤、メラニン産生抑制剤、塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)mRNA発現抑制剤、肌の透明感向上剤、及びタンパク質のカルボニル化抑制剤は、必要に応じて製剤化することにより、粉末状、顆粒状、錠剤状等、任意の剤形とすることができる。この際、助剤としては、例えば、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、安定剤、矯臭剤等を用いることができる。
【0029】
前記I型コラーゲン産生促進剤は、有効成分として含有されるマタタビの抽出物の作用により、I型コラーゲン産生促進作用を発揮する。
前記アデノシン三リン酸産生促進剤は、有効成分として含有されるマタタビの抽出物の作用により、アデノシン三リン酸産生促進作用を発揮する。
前記グルタチオン産生促進剤は、有効成分として含有されるマタタビの抽出物の作用により、グルタチオン産生促進作用を発揮する。
前記フィラグリン産生促進剤は、有効成分として含有されるマタタビの抽出物の作用により、フィラグリン産生促進作用を発揮する。
前記メラニン産生抑制剤は、有効成分として含有されるマタタビの抽出物の作用により、メラニン産生抑制作用を発揮する。
前記塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)mRNA発現抑制剤は、有効成分として含有されるマタタビの抽出物の作用により、塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)mRNA発現抑制作用を発揮する。
前記肌の透明感向上剤は、有効成分として含有されるマタタビの抽出物の作用により、肌の透明感向上作用を発揮する。
前記タンパク質のカルボニル化抑制剤は、有効成分として含有されるマタタビの抽出物の作用により、タンパク質のカルボニル化抑制作用を発揮する。
【0030】
本発明のI型コラーゲン産生促進剤によると、優れたI型コラーゲン産生促進作用を通じて、例えば、皮膚の老化に伴う変化、即ち、シワ、くすみ、きめの消失、弾力性の低下等を改善し、皮膚の老化を予防・改善することが可能となる。ただし、本発明のI型コラーゲン産生促進剤は、これらの用途以外にもI型コラーゲン産生促進作用を発揮することに意義のある全ての用途に用いることができる。
【0031】
本発明のアデノシン三リン酸産生促進剤によると、優れたアデノシン三リン酸産生促進作用を通じて、例えば、肌細胞に活力を与え、結果的にくすんだ肌や疲れた肌などを改善し、皮膚の老化を予防・改善することが可能となる。ただし、本発明のアデノシン三リン酸産生促進剤は、これらの用途以外にもアデノシン三リン酸産生促進作用を発揮することに意義のある全ての用途に用いることができる。
【0032】
本発明のグルタチオン産生促進剤によると、優れたグルタチオン産生促進作用を通じて、例えば、加齢により衰える酸化ストレスの防御を高め、かつ紫外線による酸化ストレスに対する傷害を抑制し、皮膚の老化の予防・改善、あるいは、シミ等の色素沈着を改善し、美白効果を得ることが可能となる。ただし、本発明のグルタチオン産生促進剤は、これらの用途以外にもグルタチオン産生促進作用を発揮することに意義のある全ての用途に用いることができる。
【0033】
本発明のフィラグリン産生促進剤によると、優れたフィラグリン産生促進作用を通じて、例えば、角質層内のアミノ酸量を増大させ、角質層の水分環境を改善し、皮膚の老化を予防・改善することが可能となる。ただし、本発明のフィラグリン産生促進剤は、これらの用途以外にもフィラグリン産生促進作用を発揮することに意義のある全ての用途に用いることができる。
【0034】
本発明のメラニン産生抑制剤によると、優れたメラニン産生抑制作用を通じて、例えば、皮膚の色黒(皮膚色素沈着症)を予防・改善し、美白効果を得ることが可能となる。ただし、本発明のメラニン産生抑制剤は、これらの用途以外にもメラニン産生抑制作用を発揮することに意義のある全ての用途に用いることができる。
【0035】
本発明の塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)mRNA発現抑制剤によると、優れた塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)mRNA発現抑制作用を通じて、例えば、色素細胞の増殖を抑制し、皮膚におけるメラニンの過剰産生を抑制し、日焼け後の色素沈着、シミ、ソバカス等を予防又は抑制して美白効果を得ることが可能となる。ただし、本発明の塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)mRNA発現抑制剤は、これらの用途以外にも塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)mRNA発現抑制作用を発揮することに意義のある全ての用途に用いることができる。
【0036】
本発明の肌の透明感向上剤によると、優れた肌の透明感向上作用を通じて、優れた肌の透明感を得ることが可能となる。
本発明の肌の透明感向上剤が有する肌の透明感向上作用は、例えば、角層タンパク質のカルボニル化抑制作用に基づいて発揮される。
なお、肌の透明感向上作用とは、肌の透明感が低下した状態(悪い状態)をより優れた状態(平常状態、又は平常状態より良い状態)とすること、平常状態をより優れた状態とすることのいずれも含む。
【0037】
本発明のタンパク質のカルボニル化抑制剤によると、優れたタンパク質のカルボニル化抑制作用を通じて、例えば、肌の透明感の低下等を予防又は抑制して美肌効果を得ることが可能となる。ただし、本発明のタンパク質のカルボニル化抑制剤は、これらの用途以外にもタンパク質のカルボニル化抑制作用を発揮することに意義のある全ての用途に用いることができる。
【0038】
なお、本発明のI型コラーゲン産生促進剤、アデノシン三リン酸産生促進剤、グルタチオン産生促進剤、フィラグリン産生促進剤、メラニン産生抑制剤、塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)mRNA発現抑制剤、肌の透明感向上剤、及びタンパク質のカルボニル化抑制剤は、ヒトに対して好適に適用されるものであるが、それぞれの作用効果が奏される限り、ヒト以外の動物(例えば、マウス、ラット、ハムスター、イヌ、ネコ、ウシ、ブタ、サル等)に対して適用することもできる。
【0039】
本発明のI型コラーゲン産生促進剤、アデノシン三リン酸産生促進剤、グルタチオン産生促進剤、フィラグリン産生促進剤、メラニン産生抑制剤、塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)mRNA発現抑制剤、肌の透明感向上剤、及びタンパク質のカルボニル化抑制剤は、優れた作用を有するとともに、皮膚に適用した場合の使用感と安全性に優れているため、例えば、皮膚外用剤に配合するのに好適である。ここで、前記皮膚外用剤としては、その区分に制限はなく、皮膚化粧料、医薬部外品、医薬品等を幅広く含むものであり、具体的には、例えば、軟膏、クリーム、乳液、美容液、ローション、パック、ファンデーション、リップクリーム、入浴剤、ヘアートニック、ヘアーローション、石鹸、ボディシャンプー等が挙げられる。
【0040】
また、本発明のI型コラーゲン産生促進剤、アデノシン三リン酸産生促進剤、グルタチオン産生促進剤、フィラグリン産生促進剤、メラニン産生抑制剤、塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)mRNA発現抑制剤、肌の透明感向上剤、及びタンパク質のカルボニル化抑制剤は、優れた作用を有するとともに、経口的に摂取した場合の安全性にも優れているため、例えば、美容用飲食品に配合するのに好適である。ここで、前記美容用飲食品としては、その区分に制限はなく、経口的に摂取される一般食品、健康食品、保健機能食品、医薬部外品、医薬品等を幅広く含むものである。
【0041】
また、本発明のI型コラーゲン産生促進剤、アデノシン三リン酸産生促進剤、グルタチオン産生促進剤、フィラグリン産生促進剤、メラニン産生抑制剤、塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)mRNA発現抑制剤、肌の透明感向上剤、及びタンパク質のカルボニル化抑制剤は、優れた作用を有するので、I型コラーゲン、アデノシン三リン酸、グルタチオン、フィラグリン、メラニン、塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)、肌の透明感、及びタンパク質のカルボニル化に関連する疾患の研究のための試薬としても好適に利用可能である。
【実施例】
【0042】
以下、本発明の実施例を説明するが、本発明は、これらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0043】
(製造例1:マタタビの果実の水抽出物(凍結乾燥品)の製造)
マタタビの果実(乾燥物)200gに、質量比で10倍量の水を加え、還流抽出器で80℃で2時間抽出し、熱時ろ過した。次いで、ろ液を減圧濃縮し、その後凍結乾燥して、マタタビの水抽出物(凍結乾燥品)を得た。なお、得られたマタタビの水抽出物の抽出率は、26.4%であった。
【0044】
(製造例2:マタタビの果実の30質量%エタノール抽出物(凍結乾燥品)の製造)
マタタビの果実(乾燥物)200gに、質量比で10倍量の30質量%エタノールを加え、還流抽出器で80℃で2時間抽出し、熱時ろ過した。次いで、ろ液を減圧濃縮し、その後凍結乾燥して、マタタビの30質量%エタノール抽出物(凍結乾燥品)を得た。なお、得られたマタタビの30質量%エタノール抽出物の抽出率は、21.2%であった。
【0045】
(製造例3:マタタビの果実の80質量%エタノール抽出物(凍結乾燥品)の製造)
マタタビの果実(乾燥物)200gに、質量比で10倍量の80質量%エタノールを加え、還流抽出器で80℃で2時間抽出し、熱時ろ過した。次いで、ろ液を減圧濃縮し、その後凍結乾燥して、マタタビの80質量%エタノール抽出物(凍結乾燥品)を得た。なお、得られたマタタビの80質量%エタノール抽出物の抽出率は、17.6%であった。
【0046】
(実施例1:I型コラーゲン産生促進作用試験)
前記製造例1〜3のマタタビの抽出物を被験試料として用い、下記の試験方法により、I型コラーゲン産生促進作用を試験した。
【0047】
ヒト正常線維芽細胞(NB1RGB)を10質量%のFBS含有ダルベッコMEMを用いて37℃、5%CO下で培養した後、トリプシン処理により細胞を回収した。回収した細胞を1.6×10cells/mLの濃度に上記培地で希釈した後、96穴マイクロプレートに1穴当たり100μLずつ播種し、37℃、5%CO下で一晩培養した。培養終了後、培地を抜き、0.25質量%のFBS含有ダルベッコMEMに溶解した被験試料を各穴に200μL添加し(試料濃度:100ppm又は25ppm)(ppm=μg/mL)、37℃、5%CO下で3日間培養した後、上清90μLをELISAプレートに移し換え、4℃、一晩でプレートに吸着させた後、溶液を捨て、0.05%Tween−20を含むリン酸生理緩衝液(PBS−T)にて、洗浄を行った。その後、1%ウシ血清アルブミンを含むリン酸生理緩衝液で、ブロッキング操作を行った。溶液を捨て、0.05%Tween−20を含むリン酸生理緩衝液(PBS−T)にて、洗浄を行い、抗ヒトコラーゲンタイプI抗体(ウサギIgG;ケミコン社製)を反応させた。溶液を捨て、0.05%Tween−20を含むリン酸生理緩衝液(PBS−T)にて、洗浄を行い、HRP標識抗ウサギIgG抗体と反応させた後、同様の洗浄操作を行い、発色反応を行った。
I型コラーゲン産生促進率は、標準品を用いて上記ELISAを行い、検量線を作成し、試料無添加時のI型コラーゲン産生量を100%として算出した。各試料のI型コラーゲン産生促進率(%)を表1に示す。なお、I型コラーゲン産生促進率の計算方法は以下のとおりである。
I型コラーゲン産生促進率(%)=A/B×100
ただし、前記式中、Aは被験試料添加時のI型コラーゲン量、Bは被験試料無添加時のI型コラーゲン量を表す。
【0048】
【表1】

表1の結果から、マタタビの抽出物が、I型コラーゲン産生促進作用を有することが認められた。また、マタタビの抽出物のI型コラーゲン促進作用は、濃度依存性であることが認められた。
【0049】
(実施例2:アデノシン三リン酸(ATP)産生促進作用試験)
前記製造例1〜3のマタタビの抽出物を被験試料として用い、下記の試験方法により、ATP産生促進作用を試験した。
【0050】
正常ヒト新生児包皮表皮角化細胞(NHEK)を、正常ヒト表皮角化細胞長期培養用増殖培地(EpiLife−KG2)を用いて、37℃、5%CO下で培養した後、トリプシン処理により細胞を回収した。回収した細胞を2.0×10cells/mLの濃度にEpiLife−KG2で希釈した後、コラーゲンコートした96穴プレートに1穴当たり100μLずつ播種し、37℃、5%CO下で一晩培養した。培養終了後、培地を抜き、EpiLife−KG2で溶解した被験試料(試料濃度:20μg/mL)を各穴に100μL添加し、37℃、5%CO下で2時間培養した。ATP産生促進作用は、ホタルルシフェラーゼ発光法を用いて細胞内のATP量を測定した。即ち、培養終了後、『「細胞の」ATP測定試薬』(東洋ビーネット社製)を各穴に100μLずつ添加した。反応後、化学発光量を測定した。結果を表2に示す。
ATP産生促進率の計算方法は以下のとおりである。
ATP産生促進率(%)=A/B×100
ただし、前記式中、Aは被験試料を添加した細胞での化学発光量、Bは被験試料を添加しない細胞での化学発光量を表す。
【0051】
【表2】

表2の結果から、マタタビの抽出物が、ATP産生促進作用を有することが認められた。
【0052】
(実施例3:グルタチオン産生促進作用試験(線維芽細胞))
前記製造例1〜3のマタタビの抽出物を被験試料として用い、下記の試験方法により、グルタチオン産生促進作用を試験した。
【0053】
ヒト正常皮膚線維芽細胞(NB1RGB)を、10質量%のFBS含有α−MEM培地を用いて、37℃、5%CO下で培養した後、トリプシン処理により細胞を回収した。回収した細胞を2.0×10cells/mLの濃度に10質量%のFBS含有α−MEM培地で希釈した後、48穴プレートに1穴当たり200μLずつ播種し、37℃、5%CO下で一晩培養した。培養終了後、1質量%のFBS含有D−MEM培地に溶解した被験試料(試料濃度:12.5μg/mL、50μg/mL、200μg/mL)を各穴に200μL添加し、37℃、5%CO下で24時間培養した。培養終了後、各穴から培地を抜き、400μLのPBS(−)にて洗浄後、150μLのM−PER(R)(PIERCE社製)を用いて細胞を溶解した。
前記溶解したうちの100μLを用いて、総グルタチオンの定量を行った。即ち、96穴プレートに溶解した細胞抽出液 100μL、0.1Mリン酸緩衝液 50μL、2mM NADPH 25μL、及びグルタチオンレダクターゼ 25μL(終濃度 17.5unit/mL)を加え、37℃で10分間加温した。次いで、10mM 5,5’−dithiobis(2−nitrobenzoic acid) 25μLを加え、5分後までの波長412nmにおける吸光度(OD)を測定し、ΔOD/minを求めた。総グルタチオン濃度は、酸化型グルタチオンを用いて作成した検量線をもとに算出した。得られた値は、総タンパク量当たりのグルタチオン量に補正した後、下記の式に従い、グルタチオン産生促進率を算出した。結果を表3に示す。
グルタチオン産生促進率(%)=B/A×100
ただし、前記式中、Aは被験試料を添加しない細胞中における総タンパク量当たりのグルタチオン量(対照)、Bは被験試料を添加した細胞中における総タンパク量当たりのグルタチオン量を表す。
【0054】
【表3】

表3の結果から、マタタビの抽出物が、線維芽細胞においてグルタチオン産生促進作用を有することが認められた。
【0055】
(実施例4:グルタチオン産生促進作用試験(表皮角化細胞))
前記製造例1〜3のマタタビの抽出物を被験試料として用い、下記の試験方法により、グルタチオン産生促進作用を試験した。
【0056】
正常ヒト新生児包皮表皮角化細胞(NHEK)を、正常ヒト表皮角化細胞長期培養用増殖培地(EpiLife−KG2)を用いて、37℃、5%CO下で培養した後、トリプシン処理により細胞を回収した。回収した細胞を1.0×10cells/mLの濃度にEpiLife−KG2で希釈した後、コラーゲンコートした24穴プレートに1穴当たり500μLずつ播種し、37℃、5%CO下で一晩培養した。培養終了後、EpiLife−KG2で溶解した被験試料(試料濃度:3.125μg/mL、12.5μg/mL)を各穴に400μL添加し、さらに、37℃、5%CO下で24時間培養した。培養終了後、各穴から培地を抜き、1mLのPBS(−)にて洗浄後、150μLのM−PER(R)(PIERCE社製)を用いて細胞を溶解した。
前記溶解したうちの100μLを用いて、総グルタチオンの定量を行った。即ち、96穴プレートに溶解した細胞抽出液 100μL、0.1Mリン酸緩衝液 50μL、2mM NADPH 25μL、及びグルタチオンレダクターゼ 25μL(終濃度 17.5unit/mL)を加え、37℃で10分間加温した。次いで、10mM 5,5’−dithiobis(2−nitrobenzoic acid) 25μLを加え、5分後までの波長412nmにおける吸光度(OD)を測定し、ΔOD/minを求めた。総グルタチオン濃度は、酸化型グルタチオンを用いて作成した検量線をもとに算出した。得られた値は、総タンパク量当たりのグルタチオン量に補正した後、下記の式に従い、グルタチオン産生促進率を算出した。結果を表4に示す。
グルタチオン産生促進率(%)=B/A×100
ただし、前記式中、Aは被験試料を添加しない細胞中における総タンパク量当たりのグルタチオン量(対照)、Bは被験試料を添加した細胞中における総タンパク量当たりのグルタチオン量を表す。
【0057】
【表4】

表4の結果から、マタタビの抽出物が、表皮角化細胞においてグルタチオン産生促進作用を有することが認められた。
【0058】
(実施例5:プロフィラグリン・フィラグリン産生促進作用試験)
前記製造例1〜3のマタタビの抽出物を被験試料として用い、下記の試験方法により、フィラグリン産生促進作用を試験した。
【0059】
正常ヒト新生児皮膚表皮角化細胞(NHEK)を80cmのフラスコで正常ヒト表皮角化細胞培地(KGM)にて37℃、5%CO下で培養し、常法によりにより細胞を集めた。得られた細胞を同培地にて1.5×10cells/mLとなるように調整し、2mLずつ6穴コラーゲンコートプレートに播種して5%CO下、37℃で3日間培養した。培養後、培地を0.5質量%DMSOに溶解した被験試料(試料濃度:12.5μg/mL、50μg/mL)を含む、又は含まない(コントロール)KGM 2mLに交換し、37℃、5%CO下で5日間培養した。培養終了後、常法により総タンパクの調製を行った。
<ウエスタンブロッティング>
10μg/列に調製したサンプルをSDS−PAGEにより展開し、PVDF膜に転写した。5%スキムミルクを含むPBS(−)でブロッキングを行った後、抗ヒトフィラグリンモノクローナル抗体(Harbor Bio−Products社製)、ビオチン標識抗マウスIg(Whole Ab,Amersham Biosciences社製)、及びストレプトアビジン−ペルオキシダーゼ複合体(CALBIOCHEM社製)を、0.1%Tween20、0.3%スキムミルクを含むPBS(−)で1,000倍に希釈して順次反応させ、ECL Western blotting detection reagents and analysis system(Amersham Biosciences社製)の発光により、プロフィラグリン及びフィラグリンを検出した。検出したバンドをKODAK 1D Image Analysis Software EDAS290 Version3.5にて定量的に測定した。
結果は、被験試料添加及び無添加で培養した細胞のそれぞれから調製したタンパク10μg中のプロフィラグリン及びフィラグリンのNet intensity(バンド強度)を合算した値を用いて、被験試料のフィラグリン産生促進作用を評価し、プロフィラグリン・フィラグリン産生促進率(%)を下記式に基づいて算出した。結果を表5に示す。
プロフィラグリン・フィラグリン産生促進率(%)=A/B×100
ただし、前記式中、Aは「被験試料添加時のNet intensity(プロフィラグリン及びフィラグリンの合計値)」を、Bは「被験試料無添加時(コントロール)のNet intensity」を表す。
【0060】
【表5】

表5の結果から、マタタビの抽出物が、フィラグリン産生促進作用を有することが認められた。
【0061】
(実施例6:メラニン産生抑制作用試験)
前記製造例1〜3のマタタビの抽出物を被験試料として用い、下記の試験方法により、メラニン産生抑制作用を試験した。
【0062】
B16メラノーマ細胞を、10質量%FBS含有のダルベッコMEM培地を用いて、37℃、5%CO下で培養した後、トリプシン処理により細胞を回収した。回収した細胞を10質量%FBS及び1mmol/L テオフィリン含有のダルベッコMEM培地で25.0×10cells/mLの濃度に希釈した後、48穴プレートに1穴当たり300μLずつ播種し、37℃、5%CO下で6時間培養した。培養終了後、10質量%FBS及び1mmol/L テオフィリン含有のダルベッコMEM培地で溶解した被験試料(試料濃度:100μg/mL、200μg/mL、400μg/mL)を各穴に300μL添加し、37℃、5%CO下で4日間培養した。培養終了後、各穴から培地を取り除き、1mol/LのNaOH溶液200μLを添加して超音波破砕器により細胞を破壊し、波長475nmにおける吸光度を測定し、メラニン産生量とした。
また、細胞生存率の測定のため、同様に培養後、400μLのPBS(−)で洗浄し、終濃度0.05mg/mLで10質量%FBS含有のダルベッコMEM培地に溶解したニュートラルレッドを各穴に200μL添加した。37℃、5%CO下で2.5時間培養した後、ニュートラルレッド溶液を捨て、エタノール・酢酸溶液(エタノール:酢酸:水=50:1:49)を各穴に200μL添加し、色素を抽出した。抽出後、波長540nmにおける吸光度を測定した。
空試験として、10質量%FBS及び1mmol/L テオフィリン含有のダルベッコMEM培地のみで培養した細胞を同様の方法で試験した。
結果を表6に示す。なお、メラニン産生抑制作用、及び細胞生存率の計算方法は以下のとおりである。
メラニン産生抑制率(%)={1−(B/D)/(A/C)}×100
細胞生存率(%)=(D/C)×100
ただし、前記式中、Aは被験試料無添加での475nmにおける吸光度、Bは被験試料添加での475nmにおける吸光度、Cは被験試料無添加での540nmにおける吸光度、Dは被験試料添加での540nmにおける吸光度を表す。
【0063】
【表6】

表6の結果から、マタタビの抽出物が、メラニン産生抑制作用を有することが認められた。
【0064】
(実施例7:塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)mRNA発現抑制作用試験)
前記製造例1〜3のマタタビの抽出物を被験試料として用い、下記の試験方法により、塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)mRNA発現抑制作用を試験した。
【0065】
正常ヒト新生児包皮表皮角化細胞(normal human epidermis keratinocyte;NHEK)を、80cmフラスコで正常ヒト表皮角化細胞長期培養用増殖培地(EpiLife−KG2)において、37℃、5%CO下で前培養し、トリプシン処理により細胞を集めた。
次に、EpiLife−KG2を用いて35mmシャーレ(FALCON社製)に40×10cells/2mL/シャーレずつ播き、37℃、5%CO下で一晩培養した。24時間後に培養液を捨て、HEPES緩衝液1mLを加え、UV−B照射(50mJ/cm)を行い、その後、EpiLife−KG2で必要濃度に溶解した被験試料(試料濃度:1μg/mL、10μg/mL)を各シャーレに2mLずつ添加し、37℃、5%CO下で24時間培養した。培養後、培養液を捨て、ISOGEN(NIPPON GENE社製;Cat.No.311−02501)にてtotal RNAを抽出し、それぞれのRNA量を分光光度計にて測定し、200ng/μLになるようにtotal RNAを調製した。
このtotal RNAを鋳型とし、bFGF(basic Fibroblast Growth Factor;塩基性線維芽細胞増殖因子)、及び内部標準であるGAPDHのmRNAの発現量を測定した。検出はリアルタイムPCR装置(Smart Cycler(R)、Cepheid社製)を用いて、Takara SYBR(R) PrimeScriptTM RT−PCR Kit(Perfect Real Time、code No.RR063A)によるリアルタイム 2 Step RT−PCR反応により行った。
bFGFのmRNAの発現量は、「紫外線未照射、被験試料無添加」、「紫外線照射、被験試料無添加」、及び「紫外線照射、被験試料添加」でそれぞれ培養した細胞から調製した総RNA標品を基にして、GAPDHの値で補正値を求め、更に「紫外線未照射、被験試料無添加」の補正値を100とした時の「紫外線照射、被験試料無添加」、及び「紫外線照射、被験試料添加」の補正値を算出した。結果を表7に示す。
なお、塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)mRNA発現抑制率の計算方法は、以下の通りである。
塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)mRNA発現抑制率(%)
={(A−B)−(A−C)}/(A−B)×100
ただし、前記式中、Aは「紫外線未照射、被験試料無添加」時の補正値、Bは「紫外線照射、被験試料無添加」時の補正値、Cは「紫外線照射、被験試料添加」時の補正値をそれぞれ表す。
【0066】
【表7】

表7の結果から、マタタビの抽出物が、塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)mRNA発現抑制作用を有することが認められた。
【0067】
(実施例8:肌の透明感向上作用試験(角層タンパク質のカルボニル化抑制作用試験))
前記製造例2のマタタビの抽出物を被験試料として用い、下記の試験方法により、角層タンパク質のカルボニル化抑制作用を試験した。
【0068】
頬部粘着テープを皮膚に押し付けて採取した角層を20μmol/L次亜塩素酸ナトリウム(和光純薬社製)水溶液0.98mLに37℃、16時間浸漬し、カルボニル化処理した。その際、被験試料(試料の終濃度:10μg/mL、50μg/mL、100μg/mL)を0.02mL共存させ、カルボニル化レベルを以下の方法で評価した。
前記カルボニル化処理によりカルボニル化された角層タンパク質のカルボニル基を、20μmol/L蛍光ヒドラジド(fluorescein−5−thiosemicarbazide、AnaSpec社製)、0.1mol/L 2−morpholinoethane sulfonic acid−Na(pH5.5)緩衝溶液に浸漬してラベル化した。
観察画像を解析し(撮影装置:蛍光顕微鏡オリンパスIX71、オリンパス社製、解析ソフト:ImageJ、National Institute of Health社製)、角層面積あたりの蛍光輝度をカルボニル化レベルとした。
空試験として、20μmol/L次亜塩素酸ナトリウム(和光純薬社製)水溶液のみを同様の方法で試験した。
角層タンパク質のカルボニル化抑制率は、「次亜塩素酸無し、被験試料無添加」時の蛍光輝度を100%として算出した。結果を表8に示す。なお、角層タンパク質のカルボニル化抑制率の計算方法は、以下の通りである。
角層タンパク質のカルボニル化抑制率(%)={(A−B)/(A−C)}×100
ただし、前記式中、Aは「次亜塩素酸有り、被験試料無添加」時の蛍光輝度、Bは「次亜塩素酸有り、被験試料添加」時の蛍光輝度、Cは「次亜塩素酸無し、被験試料無添加」時の蛍光輝度をそれぞれ表す。
【0069】
【表8】

表8の結果から、マタタビの抽出物が角層タンパク質のカルボニル化抑制作用を有することが認められ、マタタビノ抽出物が肌の透明感向上作用を有することが示唆された。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明のI型コラーゲン産生促進剤、アデノシン三リン酸産生促進剤、グルタチオン産生促進剤、フィラグリン産生促進剤、メラニン産生抑制剤、塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)mRNA発現抑制剤、肌の透明感向上剤、及びタンパク質のカルボニル化抑制剤は、優れたI型コラーゲン産生促進作用、アデノシン三リン酸産生促進作用、グルタチオン産生促進作用、フィラグリン産生促進作用、メラニン産生抑制作用、塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)mRNA発現抑制作用、肌の透明感向上作用、及びタンパク質のカルボニル化抑制作用を有し、かつ安全性にも優れるので、例えば、皮膚外用剤、美容用飲食品中の成分や、研究用の試薬として好適に利用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マタタビ(Actinidia polygama)の抽出物を含有することを特徴とするI型コラーゲン産生促進剤。
【請求項2】
マタタビ(Actinidia polygama)の抽出物を含有することを特徴とするアデノシン三リン酸産生促進剤。
【請求項3】
マタタビ(Actinidia polygama)の抽出物を含有することを特徴とするグルタチオン産生促進剤。
【請求項4】
マタタビ(Actinidia polygama)の抽出物を含有することを特徴とするフィラグリン産生促進剤。
【請求項5】
マタタビ(Actinidia polygama)の抽出物を含有することを特徴とするメラニン産生抑制剤。
【請求項6】
マタタビ(Actinidia polygama)の抽出物を含有することを特徴とする塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)mRNA発現抑制剤。
【請求項7】
マタタビ(Actinidia polygama)の抽出物を含有することを特徴とする肌の透明感向上剤。

【公開番号】特開2010−120876(P2010−120876A)
【公開日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−295571(P2008−295571)
【出願日】平成20年11月19日(2008.11.19)
【出願人】(591082421)丸善製薬株式会社 (239)
【Fターム(参考)】