説明

IDカード及びIDカード製造方法

【課題】赤外線吸収材料を含有する特殊インクを使用することなく、IDカードを可視光線帯域において透明であって赤外線帯域光を所定の割合で遮光する透明なIDカードを提供する。
【解決手段】透明又は半透明の所定サイズのプラスチック基体の一方の面又は両面における一部又は全領域上に、特定の波長帯域の光を選択的に反射する反射層が形成される。この反射層は、所定の酸化物誘電体を含有する透明又は半透明の光学膜により形成され、当該光学膜は、屈折率が異なる第1屈折率層と第2屈折率層が交互に複数積層されて形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気カード、バーコードカード又はICカード等のカードであってこれを所有する個人を認証するために使用されるIDカードとその製造方法に関し、特に、そのカード基体が透明又は半透明(本願では、適宜、これを総称して「透明」という)の素材で形成されたキャッシュカード、クレジットカード、パスカード、会員カード、社員証カード等に使用される個人認証用の各種カード(以下、「IDカード」という)とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
個人を認証するものとして種々の多様なデザインのIDカードが広く使用されるに至っている。このようなIDカードの多くは、これを所持する者を同定するデータを格納するべく、磁気ストライプ記憶手段、バーコード又は非接触又は接触式のICチップ等を搭載する。そして、近年、これらIDカードに対しては、デザインの多様性や独自性を生じさせる観点から、カードの全部又は1部を透明にしたいとの要請がある。
【0003】
しかしながら、例えば、ATM(現金自動預け払い機)や小売店舗やレストラン等に設置されクレジット処理が可能なPOS端末装置等に接続されたカード読取装置は、IDカードを検知する検知装置として多くの場合赤外線センサを使用し、カードが装置内の所定位置に配置された発光素子から放射された赤外線帯域光を遮光又は反射したことを検知センサが検知することによって、装置内にカードが挿入されたことを検知するようにしている。
【0004】
従って、IDカードが赤外線帯域光に対して透明であるとカードが挿入されたことを検知できない。このような事情に鑑みて、IDカードの技術的仕様を規定するJISX6301は、カードの光透過性に関して、「規定された領域で、1.5以上の光透過濃度をもたなければならない」と規定している。ここで、「規定された領域」とは、カードにおける光学センサの検知位置に相対する領域である。
【0005】
また、IDカードの試験方法を規定するJISX6305は、波長400nm〜1000nmにわたり波長20nm間隔で測定し、その最低値を記録することを規定している。
【0006】
ちなみに、JISが規定する「光透過濃度」とは、式「Log10(入光照度)/(出光照度)」で定義されることから、カードに入光された光の100%が透過する完全透明の場合で「0」、10%の透過で「1」、1%の透過で「2」を示し、「光透過濃度1.5以上」とは、光センサを構成する発光センサから照射された光量の97%以上をカードが吸収又は反射しなければならないことを規定していることとなる。
【0007】
しかしながらカード読み取り装置の殆どは赤外線センサを使用していることと、その検出マージンとから実用上は850nm〜1000nmの波長領域における光透過濃度を1.0以上にすることが実用可能な条件である。
【0008】
このため、従来の透明又は半透明カードにおいては、カードを可視光線帯域において透明化すると共に赤外線帯域においては前記条件を満足させるために、例えば、赤外線吸収材料を練り込んだシートをカードに貼付するか、赤外線吸収材料を含有する特殊インクをカード面に印刷するようにしていたのである(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】登録実用新案第3102849号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
このように、従来の透明カードでは、赤外線吸収材料を練り込んだシートをカードに貼付するか、赤外線吸収材料を含有する特殊インクをカード面に印刷するようにしていたが、ここで使用されている赤外線吸収材料は、当然のことながら赤外線を吸収すると共に、赤外線帯域光のみならず可視光線帯域に属する赤色光をも吸収する性質を有するため、この赤外線や赤色光の影響を受けて、IDカードが全体の色調が黄茶色に変色して見えてしまうという問題があった。
【0010】
また、IDカード全体の領域を、可視光線透過領域と赤外線吸収又は反射帯域(インク部分も含む)とに分けて形成する必要があるので、製造工程が複雑で、製造コストが高くなってしまうという問題を有していた。
【0011】
本願は、このような従来の透明又は半透明カードの課題に鑑みてなされたものであり、このため、透明又は半透明のIDカードであって可視光帯域光は透過させるものの赤外線帯域光を機械読み取りできるレベルで吸収又は反射させることが可能な低コストのIDカードと、当該IDカードの製造方法を提供することを目的とするものである。
【0012】
また、本発明は、長時間使用してもカードの化学的及び物理的特性が安定で、カード全体の色調が変色して見えてしまうことがないIDカードを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
このため、本願は、赤外線吸収材料を含有するインクを一切使用することなく、透明又は半透明の所定サイズのプラスチック基体の一方の面又は両面における一部又は全領域上に、特定の波長帯域の光を選択的に反射する反射層が形成されたことを特徴とするIDカードを提供するものである。
【0014】
ここで、前記反射層は、波長850〔nm〕乃至1000〔nm〕の赤外線帯域光に対する反射率が可視光線帯域光に対する反射率の少なくとも2倍以上である。また、前記反射層は、可視光線帯域光に対する光透過濃度が少なくとも1.5以下である。
【0015】
そして、前記反射層は、所定の酸化物誘電体を含有する透明又は半透明の光学膜により形成され、当該光学膜は、屈折率が異なる第1屈折率層と第2屈折率層が交互に複数積層されたことを特徴とする。このように形成された光学膜は有機材料の赤外吸収特性に比較すると波長に対してシャープカットな光学特性が得られる。
【0016】
ここで、前記光学膜は、前記プラスチック基体の一方の面上に合計(2n+1:n=整数)層の前記第1屈折率層と前記第2屈折率層が交互に積層されて形成される。また、前記プラスチック基体の他方の面上には合計(2n−1:n=整数)層の前記第1屈折率層と前記第2屈折率層が交互に積層されて形成される。
【0017】
ところで、前記所定の酸化物誘電体は、ニオビウム、チタン、タンタル、ジルコニウム、珪素、インジウム、錫、銀、亜鉛又はアルミニウムの中の1又は複数の酸化物を含有することを特徴とする。そして、前記反射層を付与したプラスチック基体を含む複数のプラスチック基体を、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂又は塩化ビニルの何れかを含有する接着剤により積層したのである。
【0018】
本発明は、さらに、透明又は半透明のプラスチック基体の一方の面又は両面における一部又は全領域上に、特定の波長帯域の光を選択的に反射する反射層を形成する工程と、前記反射層が形成されたプラスチック基体の一方の面又は両面に、それと異なる透明又は半透明のプラスチック基体を接着して積層する工程と、前記積層物を所定サイズに裁断する工程と、の各工程を含むことを特徴とする透明又は半透明の領域を有するIDカード製造方法を提供するものである。
【0019】
ここで、本IDカードを磁気カードとして使用する場合は、前記プラスチック基体又は前記反射層の上に磁気ストライプ記録層を形成する工程を含む。同様に、本IDカードを接触型又は非接触型のICカードとして使用する場合は、前記プラスチック基体の中に接触型又は非接触型のICチップを埋設する工程を含む。ここで、前記プラスチック基体は、塩化ビニルを素材とする。
【0020】
ところで、前記反射層を形成する工程は、(1)ドラム表面に巻きつけた所定厚のプラスチック基体を所定圧力のアルゴンガス環境下に置くステップと、(2)前記ドラムを回転させつつ、アルゴン放電を利用して前記プラスチック基体上に第1の金属をスパッタリングするステップと、(3)前記ドラムを回転させつつ、スパッタリングされた前記第1の金属を酸化させるステップと、(4)前記ドラムを回転させつつ、アルゴン放電を利用して第2の金属をスパッタリングするステップと、(5)前記ドラムを回転させつつ、スパッタリングされた前記第2の金属を酸化させるステップとの各ステップとから構成されることを特徴とする。そして、前記ステップ(2)乃至(5)を所定の回数だけ繰り返すのである。
【0021】
このような製造方法により、前記プラスチック基体の一方の面には、前記第1の金属の酸化物からなる第1屈折率層と前記第2の金属の酸化物からなる第2屈折率層が交互に合計(2n+1:n=整数)層だけ積層した反射層を接着するようにする。そして、前記プラスチック基体の他方の面には、前記第1の金属の酸化物からなる第1屈折率層と前記第2の金属の酸化物からなる第2屈折率層が交互に合計(2n−1:n=整数)層だけ積層した反射層を接着するのである。
【0022】
ところで、前記第1の金属及び前記第2の金属は、ニオビウム、チタン、タンタル、ジルコニウム、シリコン、インジウム、錫、銀、亜鉛又はアルミニウムの中から選択されることを特徴とする。また、前記第1金属はニオビウムであり、前記第2金属はシリコンである。
【0023】
そして、前記反射層を付与したプラスチック基体を含む複数のプラスチック基体を積層する手段として、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂又は塩化ビニルの何れかを含有する接着剤が用いられるのである。
【発明の効果】
【0024】
このように、本発明に係るIDカードにおいては、赤外線吸収材料を含有する特殊インクを一切使用することなく、屈折率が異なる2種類の酸化物誘電体の層を積層することにより、IDカードを可視光線帯域において透明化する一方、赤外線帯域においては前記した機械読み取り可能なレベルの光透過濃度を持つ透明IDカードを実現したのである。そして、本IDカードにおいては、赤外線吸収材料を含有するインクを使用していないので、長時間使用してもカードの化学的及び物理的特性が安定で、且つカード全体の色調が変色して見えてしまうことがないのである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0026】
〔第1の実施の形態〕
図1は、本発明の第1の実施形態に係るIDカードの断面図を示すものである。図1に示すように、本実施形態に係るIDカードは、透明基材1a,1b(特許請求の範囲に記載の「プラスチック基体」)と、接着剤3と、赤外線反射層(光学層)としての反射層2とが積層された構成を備える。反射層2は、透明基材1aの上に形成される。プラスチック基体の材料としては、塩化ビニル、ポリエチレンテレフタレート(PET)、非結晶ポリエステル(PETG)、ポリカーボネート、ポリエチレンナフタレートおよびこれらの混合物などが使用できる。
【0027】
本実施形態に係るIDカードは、反射層2を備えることで、波長850〔nm〕以上、かつ1000〔nm〕以下の赤外線領域における反射率が可視光線領域の反射率の2倍以上(好ましくは10倍以上)であり、かつ可視光線域において透明であるような光透過性を有する。ここで、可視光帯域光に対する光透過濃度は1.5より小さくする必要がある。但し、好ましくは0.3以下とする。従って、以下に説明する本IDカードの構成は、この光透過性を満足するものとして形成される。
【0028】
反射層2は、透明基材1a上にスパッタリングによって形成され、接着剤により透明基材1bの裏面に接着されている。なお透明基材1aおよび1bには透明のプラスチックフィルムを使用することができる。
【0029】
反射層2を構成する材料には、少なくとも透明な酸化物誘電体を含有した薄膜を有するものとする。本IDカードにおいては、より具体的には、高屈折率層(第1屈折率層)と低屈折率層(第2屈折率層)との積層が所定の回数だけ繰り返された積層構造をとるものとする。
【0030】
(製造方法)
図2は、本発明の第1の実施形態に係るIDカードの製造工程を示す工程別断面図であり、図2(a)は反射層の基材となる透明基材(フィルム)、図2(b)は赤外線反射層が形成された反射層、図2(c)は製造されたIDカードを示すものである。
【0031】
まず、図2(a)に示す透明基材1aの表面に、2種の金属を交互にスパッタ蒸着する手段等を用いて、高屈折率層(第1屈折率層)と低屈折率層(第2屈折率層)とを交互に形成することにより、図2(b)に示すように透明基材1a上に反射層2を形成することができる。
【0032】
次に、図2(b)に示す反射層2の表面を、接着剤3により透明基材1bと接合(固着)することにより、図2(c)に示すIDカードを得る。尚、このIDカードの表面又は裏面側に、磁気ストライプ又はバーコードを添付したり、ICカードとしての印刷を施したり、若しくはICチップをカード基体1内に埋設する工程は、公知の技術であるのでその説明を省略する。
【実施例1】
【0033】
ここで、以下、本発明の特に主要な構成である反射層2の形成工程について説明するが、その概要工程のフローは以下のとおりである。
(1)ドラム表面に巻きつけたプラスチック基体、具体的には可塑剤を含む耐熱PET(ポリエチレンテレフタレート)フィルムを真空環境下にした後に、所定圧力のアルゴンガス環境下に置く。
(2)前記ドラムを回転させつつ、アルゴン放電を利用して前記フィルム上に第1の金属をスパッタリングする。
(3)前記ドラムを回転させつつ、スパッタリングされた前記第1の金属を酸化させる。
(4)前記ドラムを回転させつつ、アルゴン放電を利用して第2の金属をスパッタリングする。
(5)前記ドラムを回転させつつ、スパッタリングされた前記第2の金属を酸化させる。そして、前記ステップ(2)乃至(5)を所定の回数だけ繰り返すのである。
【0034】
次に、上記した本発明の特に主要な構成である反射層2の形成工程の詳細を述べる。まず、可塑剤を含む耐熱PET(ポリエチレンテレフタレート)を材料とする厚さ300〔ミクロン〕の透明なフィルム(請求項に記載のプラスチック基体)を、回転可能な円柱状ドラムの表面に設置し(貼り付け)て、全体を真空装置内の真空容器に入れ、この真空容器を真空装置の真空ポンプによって排気する。
【0035】
この真空装置には、予め、ニオビウム金属ターゲット、金属シリコンターゲット、及び酸化プラズマゾーンを設置して、ドラムの回転により、このフィルムが回転した時に、このフィルムの表面が、前記のニオビウム金属ターゲット、金属シリコンターゲット、及び酸化プラズマゾーンを順次通過するように構成しておく。 また、前記の2つのターゲットを選択させるために、前記の2つのターゲットの各々と、フィルム表面との間にシャッターを設置しておいた。
【0036】
次に、この真空容器を、真空装置の真空ポンプによって真空に引きながら、真空容器内が所定の圧力となるように、この真空容器内にアルゴンガスを流し入れ、まず、ニオビウム金属ターゲット側のシャッターを開き、このターゲットがマイナス電位となるようにニオビウム金属ターゲットに約500〔V〕の電圧を印加した。これにより、プラズマ放電を起こしてニオビウム金属ターゲットをスパッタし、フィルム表面にニオビウム金属の薄膜が形成された。その後、ドラムの回転により、このフィルムが回転すると、前記形成されたニオビウム金属の薄膜が、酸化プラズマゾーンに達した時点で、この形成された薄膜は酸化されて、ニオビウム金属酸化薄膜に転換した。このような工程を所定の時間だけ繰り返すことにより、所定の膜厚を有する金属酸化物の薄膜層を得た。
【0037】
さらに、前述の工程と同様の工程を、金属シリコンターゲットにも適用することで、前記のニオビウム金属酸化薄膜が形成されたフィルム表面に、所定の膜厚の金属シリコン酸化薄膜を形成した。このように、選択的に形成させる金属の種類を2種として、交互に金属酸化物層の形成を行う工程を繰り返すことと、使用する2種の金属の種類を選ぶこととで、高屈折率金属酸化膜と低屈折率金属酸化膜とが交互に形成されることになり、求める薄膜、即ち、可視光線には透明でありながら、赤外線を所定の割合で反射することができる薄膜を形成するのである。
【0038】
このようにして求める薄膜が形成されたフィルムを真空装置の真空容器から取り出し、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、または塩化ビニル樹脂のいずれかを含む透明ホットメルト接着シートを用いて、厚さ50〔ミクロン〕の塩化ビニル板を接合した。これを、さらに、所定のIDカードのサイズとなるように断裁して、波長850〔nm〕以上、かつ1000〔nm〕以下の赤外線領域における反射率が可視光線領域の反射率の2倍以上であり、かつ可視光線域において光透過濃度が1.5より小さいIDカードを製造することができたのである。
【0039】
〔第2の実施形態〕
図3は、本発明の第2の実施形態に係るIDカードの断面図を示すものである。図3に示すように、本実施形態に係るIDカードは、透明基材1a,1b,1cと、接着剤3と、反射層2とが積層された構成を備える。反射層2は、透明基材1aの表面と裏面との双方に形成された構成を備える。
【0040】
本実施形態に係るIDカードは、反射層2を備えることで、波長850〔nm〕以上、かつ1000〔nm〕以下の赤外線領域における反射率が可視光線領域の反射率の2倍以上(好ましくは10倍以上)であり、かつ可視光線域において透明であるような光透過性を有する。具体的には、可視光帯域光に対する透過濃度が1.5より小さい。また、好ましくは0.3以下とする。従って、以下に説明する構成要素は、この光透過性を満足するものとして形成される。
【0041】
反射層2は、透明基材1cと透明基材1bとの間に挟まれ、その表面(より具体的には、上側の反射層2の表面)が、接着剤3によって、透明基材1bと接合(固着)され、かつ、その裏面(より具体的には、下側の反射層2の裏面)が、接着剤3によって、透明基材1cと接合(固着)されている。
【0042】
反射層2を構成する材料には、少なくとも透明な酸化物誘電体を含有した薄膜を有するものとする。より具体的には、高屈折率層と低屈折率層との積層が所定の回数だけ繰り返された積層構造をとるものとする。
【0043】
(製造方法)
図4は、本発明の第2の実施形態に係るIDカードの製造工程を示す工程別断面図であり、図4(a)は反射層を形成する基材となる透明基材(フィルム)、図4(b)は反射層が表裏に形成された透明基材、図4(c)は製造されたIDカードを示すものである。
【0044】
まず、図4(a)に示す透明基材1aの表面及び裏面に、2種の金属を交互にスパッタ蒸着する手段等を用いて、高屈折率層と低屈折率層とを交互に形成することにより、図4(b)に示す上下2層の反射層2を形成する。
【0045】
次に、図4(b)に示す上側の反射層2の表面を接着剤3により透明基材1bと接合(固着)し、さらに、下側の反射層2の裏面を接着剤3により透明基材1cと接合(固着)することにより、図4(c)に示すIDカードを得る。
【0046】
前述の2種の金属を交互にスパッタ蒸着する前述の手段において、形成される高屈折率層と低屈折率層の層数を、透明基材1aの表面については、高屈折率層と低屈折率層の層数を合計して(2n+1)層(n=1以上の整数)とすると共に、この場合、透明基材1aの裏面については、高屈折率層と低屈折率層の層数を合計して(2n−1)層とすることができる。
【0047】
なお、このIDカードに磁気ストライプ、ICなどの記憶媒体を形成する手段については、本発明に係る手段ではないので、説明を省略する。
以下、本実施形態に係るIDカードの1実施例としての製造工程を説明する。
【実施例2】
【0048】
まず、可塑剤を含む耐熱PET(ポリエチレンテレフタレート)を材料とする厚さ50〔ミクロン〕の透明なフィルム(基板)を、回転可能な円柱状ドラムの表面に設置し(貼り付け)て、全体を真空装置内の真空容器に入れ、この真空容器を真空装置の真空ポンプによって真空に引いた(排気した)。
【0049】
この真空装置には、予め、ニオビウム金属ターゲット、金属シリコンターゲット、及び酸化プラズマゾーンを設置して、ドラムの回転により、このフィルムが回転した時に、このフィルムの表面が、前記のニオビウム金属ターゲット、金属シリコンターゲット、及び酸化プラズマゾーンを順次通過するように構成しておいた。
【0050】
また、前記の2つのターゲットを選択させるために、前記2つのターゲットの各々と、フィルム表面との間にシャッターを設置しておいた。この真空容器を、真空装置の真空ポンプによって真空に引き(排気し)ながら、真空容器内が所定の圧力となるように、この真空容器内にアルゴンガスを流し入れ、まず、ニオビウム金属ターゲット側のシャッターを開き、このターゲットがマイナス電位となるようにニオビウム金属ターゲットに約500〔V〕の電圧を印加した。
【0051】
これにより、プラズマ放電を起こしてニオビウム金属ターゲットをスパッタし、フィルム表面にニオビウム金属の薄膜が形成された。その後、ドラムの回転により、このフィルムが回転すると、前記形成されたニオビウム金属の薄膜が、酸化プラズマゾーンに達した時点で、この形成された薄膜は酸化されて、ニオビウム金属酸化薄膜に転換した。このような工程を所定の時間だけ繰り返すことにより、前記透明フィルムの表面に、所定の膜厚を有する金属酸化物の薄膜層を得た。さらに、前述の工程と同様の工程を、金属シリコンターゲットにも適用することで、前記のニオビウム金属酸化薄膜が形成されたフィルム表面に、所定の膜厚の金属シリコン酸化薄膜を形成した。
【0052】
次に、前記の工程を経たフィルムの裏面に対して、前述の工程と同様の工程を実施することで、このフィルムの裏面に表面と同様の薄膜層を形成した。但し、このフィルムの表面と裏面とでは、形成する金属酸化薄膜の層数を変化させた(詳細は後述の図5を参照)。
【0053】
このようにして求める薄膜が形成されたフィルムを真空装置の真空容器から取り出し、その両面にエポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、または塩化ビニル樹脂のいずれかを含む厚さ150[ミクロン]の透明ホットメルト接着シートを用いて、厚さ200〔ミクロン〕の透明塩化ビニル板を接着した。
【0054】
これを、さらに、所定のIDカードのサイズとなるように断裁して、波長850〔nm〕以上、かつ1000〔nm〕以下の赤外線領域における反射率が可視光線領域の反射率の2倍以上であり、かつ可視光線域において光透過濃度が1.5より小さいIDカードを製造することができた。
【0055】
図5は、実施例2で形成される赤外線反射層の複数の高屈折率層と低屈折率層の各々の材料と膜厚とを層順に示した説明図である。同図に示すように、基材の透明フィルム表面には、上から第1,3,5,7,9番目の層として厚さ95(nm)のニオビア(酸化ニオビウム)、上から第2,4,6,8番目の層として厚さ150(nm)のシリカ(酸化シリコン)が、各々形成される。
【0056】
また、基材の透明フィルム表面には、上から第1番目の層として厚さ125(nm)のニオビア、上から第2番目の層として厚さ150(nm)のシリカ、第3,7番目の層として厚さ120(nm)のニオビア、第4,6番目の層として厚さ180(nm)のシリカ、第5番目の層として厚さ110(nm)のニオビアが、各々形成される。
【0057】
図6は、実施例2で形成された赤外線反射層の光透過特性(波長・透過濃度スペクトル)を示すグラフである。同図に示すように、可視領域の光透過濃度を1.5以下(ピーク時は0.2以下)に抑えられ、かつ850〜1000〔nm〕の赤外線領域での光透過濃度が1.0以上(ピーク時は1.4以上)に達する良好な光透過特性が得られた。
【0058】
以上詳しく説明したように、本発明に係るIDカードにおいては、透明又は半透明の所定サイズのプラスチック基体の一方の面又は両面における一部又は全領域上に、特定の波長帯域の光を選択的に反射する反射層が形成される。この反射層は、所定の酸化物誘電体を含有する透明又は半透明の光学膜により形成され、当該光学膜は、屈折率が異なる第1屈折率層と第2屈折率層が交互に複数積層されて形成されるのである。
【0059】
これにより、本発明は、赤外線吸収材料を含有する特殊インクを使用することなく、IDカードを可視光線帯域において透明であって赤外線帯域光を所定の割合で遮光する透明なIDカードを実現したのである。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明は、可視光帯域光は透過させるものの赤外線帯域光を1.0以上の光透過濃度値で吸収又は反射させることが可能な透明又は半透明のIDカード及びその製造方法に関するものであり、産業上の利用可能性を有する。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】本発明の第1の実施形態に係るIDカードの断面図を示す。
【図2】本発明の第1の実施形態に係るIDカードの製造工程を示す工程別断面図であり、(a)は反射層の基材となる透明基材(フィルム)、(b)は反射層が形成された透明基材、(c)は製造されたIDカードを示す。
【図3】本発明の第2の実施形態に係るIDカードの断面図を示す。
【図4】本発明の第2の実施形態に係るIDカードの製造工程を示す工程別断面図であり、(a)は反射層の基材となる透明基材(フィルム)、(b)は反射層が表裏に形成された透明基材、(c)は製造されたIDカードを示す。
【図5】実施例2で形成される赤外線反射層の複数の高屈折率層と低屈折率層の各々の材料と膜厚とを層順に示した説明図である。
【図6】実施例2で形成された赤外線反射層の光透過特性(波長・透過濃度スペクトル)を示すグラフである。
【符号の説明】
【0062】
1、1a、1b:プラスチック基体(透明基材)
2:赤外線反射層(光学層)
3:接着剤

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明又は半透明の所定サイズのプラスチック基体の一方の面又は両面における一部又は全領域上に、特定の波長帯域の光を選択的に反射する反射層が形成されたことを特徴とするIDカード。
【請求項2】
前記反射層は、可視光線帯域光に対する光透過濃度が少なくとも1.5未満であることを特徴とする請求項1に記載のIDカード。
【請求項3】
前記反射層は、波長850〔nm〕乃至1000〔nm〕の赤外線帯域光に対する反射率が可視光線帯域光に対する反射率の少なくとも2倍以上であることを特徴とする請求項1又は2に記載のIDカード。
【請求項4】
前記反射層は、所定の酸化物誘電体を含有する透明又は半透明の光学膜により形成され、当該光学膜は、屈折率が異なる第1屈折率層と第2屈折率層が交互に複数積層されたことを特徴とする請求項2又は3に記載のIDカード。
【請求項5】
前記光学膜は、前記プラスチック基体の一方の面上に合計「2n+1」層の前記第1屈折率層と前記第2屈折率層が交互に積層されて形成されたことを特徴とする請求項4に記載のIDカード。
【請求項6】
前記プラスチック基体の他方の面上には合計「2n−1」層の前記第1屈折率層と前記第2屈折率層が交互に積層されて形成されたことを特徴とする請求項5に記載のIDカード。
【請求項7】
前記所定の酸化物誘電体は、ニオビウム、チタン、タンタル、ジルコニウム、珪素、インジウム、錫、銀、亜鉛又はアルミニウムの中の1又は複数の酸化物を含有することを特徴とする請求項4に記載のIDカード。
【請求項8】
前記反射層を付与したプラスチック基体を含む複数のプラスチック基体を、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂又は塩化ビニルの何れかを含有する接着剤により積層したことを特徴とする請求項1乃至4の何れかの項に記載のIDカード。
【請求項9】
透明又は半透明のプラスチック基体の一方の面又は両面における一部又は全領域上に、特定の波長帯域の光を選択的に反射する反射層を形成する工程と、
前記反射層が形成されたプラスチック基体の一方の面又は両面に、それと異なる透明又は半透明のプラスチック基体を接着して積層する工程と、
前記積層物を所定サイズに裁断する工程と、
の各工程を含むことを特徴とする透明又は半透明の領域を有するIDカード製造方法。
【請求項10】
前記プラスチック基体又は前記反射層の上に磁気ストライプ記録層を形成する工程を含む請求項9に記載のIDカード製造方法。
【請求項11】
前記プラスチック基体の中に接触型又は非接触型のICチップを埋設する工程を含む請求項9に記載のIDカード製造方法。
【請求項12】
前記プラスチック基体は、塩化ビニルを素材とすることを特徴とする請求項9に記載のIDカード製造方法。
【請求項13】
前記反射層を形成する工程は、
(1)ドラム表面に巻きつけた所定厚のプラスチック基体を所定圧力のアルゴンガス環境下に置くステップと、
(2)前記ドラムを回転させつつ、アルゴン放電を利用して前記プラスチック基体上に第1の金属をスパッタリングするステップと、
(3)前記ドラムを回転させつつ、スパッタリングされた前記第1の金属を酸化させるステップと、
(4)前記ドラムを回転させつつ、アルゴン放電を利用して第2の金属をスパッタリングするステップと、
(5)前記ドラムを回転させつつ、スパッタリングされた前記第2の金属を酸化させるステップと、
の各ステップとから構成されることを特徴とする請求項9に記載のIDカード製造方法。
【請求項14】
前記ステップ(2)乃至(5)を所定の回数だけ繰り返すステップを有することを特徴とする請求項13に記載のIDカード製造方法。
【請求項15】
前記プラスチック基体の一方の面には、前記第1の金属の酸化物からなる第1屈折率層と前記第2の金属の酸化物からなる第2屈折率層が交互に合計(2n+1:n=整数)層だけ積層することを特徴とする請求項14に記載のIDカード製造方法。
【請求項16】
前記プラスチック基体の他方の面には、前記第1の金属の酸化物からなる第1屈折率層と前記第2の金属の酸化物からなる第2屈折率層が交互に合計(2n−1:n=整数)層だけ積層することを特徴とする請求項15に記載のIDカード製造方法。
【請求項17】
前記第1の金属及び前記の第2の金属は、ニオビウム、チタン、タンタル、ジルコニウム、シリコン、インジウム、錫、銀、亜鉛又はアルミニウムの中から選択されることを特徴とする請求項15又は16に記載のIDカード製造方法。
【請求項18】
前記第1の金属はニオビウムであり、前記第2の金属はシリコンであることを特徴とする請求項17に記載のIDカード製造方法。
【請求項19】
前記反射層を付与したプラスチック基体を含む複数のプラスチック基体を積層する手段として、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂又は塩化ビニルの何れかを含有する接着剤が用いられることを特徴とする請求項18に記載のIDカード製造方法。
【請求項20】
前記接着剤には、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂の何れか一方又は両方を含有するホットメルト接着剤が用いられることを特徴とする請求項19に記載のIDカードの製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2006−289879(P2006−289879A)
【公開日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−116477(P2005−116477)
【出願日】平成17年4月14日(2005.4.14)
【出願人】(593071993)タイゴールド株式会社 (2)
【出願人】(591064379)昌栄印刷株式会社 (15)
【Fターム(参考)】