説明

IGF−1R阻害剤としてのイソキノリン誘導体

式(I)で表される化合物が合成された。これらの化合物はIGF−1受容体の発現または作用を抑制または阻害する。
【化1】


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インスリン様成長因子−1受容体(IGF−1R)の発現または作用を抑制または阻害することができる新規化合物およびプロドラッグ化合物に関する。また、本発明は、IGF−1Rの制御されていない発現が観察される、癌やその他の異常細胞増殖および代謝性疾患および血管増殖疾患を防止および/または治療するために、IGF−1Rの発現または作用を抑制または阻害するための医薬組成物および方法に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明は、本願出願人による国際特許出願第PCT/CH2004/000147号のいくつかの態様を改良したものであり、国際特許出願第PCT/CH2004/000147号の開示内容はこの参照によって本発明に組み込まれるものとする。
【0003】
インスリン様成長因子受容体(IGF−1R)はヒトに存在する58の膜貫通(trans−membrane)チロシンキナーゼ受容体の1つである(「レビュー:1型インスリン様成長因子受容体の構造および機能(Review:Structure and function of the Type 1 insulin−like growth factor receptor)」,T.E.Adamsら,Cell.Mol.Life Sci.57 (2000)1050〜1093頁;「インスリン様成長因子(Insulin−Like Growth Factors)」,Kluwer Academic/Plenum Publishers(2003),LeRoith,D.,Zumkeller,W.およびBaxter,R.C.編)。IGF−1受容体が欠乏した細胞に関する遺伝的知見および研究によって、IGF−1受容体は最適な成長に必要だが、成長の絶対条件ではないことが証明されている(Basergaら,Biochim.Biophys.Acta 1332(1997)105〜126頁)。IGF−1受容体の発現はアポトーシス(細胞自滅)から細胞を保護し、インビトロおよびインビボにおける形質転換表現型の確立と維持のための要件であるように思われる(Basergaら,Biochim.Biophys.Acta 1332(1997)105〜126頁)。いくつかのインビトロおよびインビボにおける研究は、IGF−1受容体の発現または作用を阻害することにより、形質転換表現型を逆転させ、腫瘍細胞の成長が抑制されることを証明している。これらの研究で使用される方法としては、抗体の中和(Kalebicら,Cancer Res.54(1994)5531〜5534頁;Arteaga,C.L.ら,Cancer Res.49(1989)6237〜6241頁;De Leon,D.D.ら,Growth Factors 6(1992)327〜336頁)、アンチセンスオリゴヌクレオチド(Resnicoffら,Cancer Res.54(1994)2218〜2222頁;Andrews,D.W.ら,J.Clin.Oncol.19(2001)2189〜2200頁)、White,P.J.ら,Antisense Nucleic Acid Drug Dev.10(2000)195〜203頁)、優性陰性突然変異体(D’Ambrosioら,Cancer Res.56(1996)4013〜4020頁;Prager,D.ら,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 91(1994)2181〜2185頁;Reiss,K.ら,Clin.Cancer Res.4(1998)2647〜2655頁)、三重螺旋形成オリゴヌクレオチド(Rinninslandら,Proc.Natl.Acad.Sci.USA.94(1997)5854〜5859頁)、アンチセンスmRNA(Nakamuraら,Cancer Res.60(2000)760〜765頁)、二本鎖RNAを使用したRNA干渉(V.M.Macaulayら,WO−A−03/100059)が挙げられる。
【0004】
表皮細胞内でのIGF−1受容体の発現を阻害するアンチセンスオリゴヌクレオチドの使用は、乾癬病斑で表皮超増殖を逆転させることが分かっている(C.J.Wraightら,Nat.Biotechnol.18(2000)521〜526頁)。
【0005】
また、IGF−1受容体の抑制は、糖尿病性網膜症(L.K.Shawverら,DDT 2(1997)50〜63頁)、アテローム性動脈硬化および再狭窄(A.Bayes−Genisら,Circ.Res.86(2000)125〜130頁)、ならびに関節リウマチ(J.Pritchardら,J.Immunol.173(2004)3564〜3569頁)等の疾患に対して有益な作用を有する可能性がある。
【0006】
IGF−1受容体系は、増殖がIGF−1受容体の発現または過剰発現によるものである疾患の予防および/または治療における魅力的なターゲットと見なされている(L.Longら,Cancer Research 55(1995)1006〜1009頁;R.Baserga,TIBTECH 14(1996)150〜152頁;R.Basergaら,Endocrine 7(1997年8月)99〜102頁;V.M.Macaulayら,Annals of Oncogene 20(2001)4029〜4040頁;A.J.Salisburyら,Horm.Metab.Res.35(2003)843〜849頁;Mitsiades,C.S.ら,Cancer Cell 5(2004)221〜230頁)。
【0007】
チルホスチン(tyrphostin)と呼ばれる一連の物質が、IGF−1受容体の発現を抑制または阻害するとされている(M.Parrizasら,Endocrinology 138(1997)1427〜1433頁;G.Blumら,Biochemistry 39(2000)15705〜15712頁;G.Blumら,J.Biol.Chem.278(2003)40442〜40454頁)。チルホスチンの欠点は、チルホスチンが細胞系において活性が低く、インスリン受容体と交差反応することである。
【0008】
高濃度のタモキシフェンは、IGF−1Rβサブユニットのチロシンリン酸化を抑制または阻害する能力を有し、下流への信号伝達を遮断することが分かっている(L.Kanter−Lewensohnら,Mol.Cell.Endocrinology 165(2000)131〜137頁)。
【0009】
米国特許第6,337,338 B1号では、多くのヘテロアリール−アリールウレア物質がIGF−1受容体のアンタゴニストとして記載されている。MCF−7およびMCF−10細胞系に関する細胞増殖阻害研究では、これらの物質は低い活性を示している。
【0010】
国際公開第WO02/102804 A1号では、ポドフィロトキシン、デオキシポドフィロトキシン、ピクロポドフィリン、およびデオキシピクロポドフィリンがIGF−1受容体の選択的かつ効率的な阻害剤であることが示されている。デオキシピクロポドフィリンは、リンパ球性白血病細胞L1210を接種したマウスの死亡を遅らせることに関してデオキシポドフィロトキシンよりも優れていることが示されている(A.Akahoriら,Chem.Pharm.Bull.20(1972)1150〜1155頁)。しかし、作用メカニズムについては提案されていない。
【0011】
国際公開第WO02/102805 A1号では、アセチルポドフィロトキシン、エピポドフィロトキシン、ポドフィロトキソン、および4’−デメチルポドフィロトキシンがIGF−1受容体のリン酸化の潜在的な阻害剤であることが示されている。
【0012】
国際公開第WO03/048133 A1号では、多くのピリミジン誘導体がIGF−1受容体の修飾物質として記載されている。しかし、これらのピリミジン誘導体は低いIGF−1R抑制活性を示している。
【0013】
国際特許出願第PCT/CH2004/000147号(Analytecon S.A.)は、非常に向上したIGF−1R抑制活性を有する化合物を提供する。
【0014】
しかし、国際特許出願第PCT/CH2004/000147号およびその他の文献に記載されている化合物に代わるものとして、水溶性が向上しかつ異なる物理的特性および代謝特性を有するIGF−1R抑制化合物がなお求められている。また、水溶性が向上し、経口投与後のプロドラッグまたは活性親化合物の吸収性が高く、特定の場合、治療域内における生体内濃度を長期間維持するために十分に長い半減期を有する国際特許出願第PCT/CH2004/000147号および本明細書の記載された化合物等の抗癌剤を提供するプロドラッグが求められている。
【0015】
本発明は、上述した問題を首尾良く解決するIGF−1R抑制活性の高い化合物を提供することを目的とする。特に、本発明の目的は、本明細書および国際特許出願第PCT/CH2004/000147号に記載されている活性親化合物の水溶性および安定性等を向上させた医薬プロドラッグ組成物を提供することにある。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記目的は、下記式(1)で表される化合物およびその製剤学的に許容されうる塩(下記を参照)によって達成される。
【0017】
【化3】

【0018】
(式中、RはH、OH、CN、トリフルオロメチル、NH、NHCN、NHCOCH、NHCOCHCH、NHCHO、NHCOOCH、アミノ(C−C)アルキル、アミノ(C−C)ジアルキル、(C−C)アルコキシ、(C−C)アルキル、カルボニル−R(Rは水素、(C−C)アルキル、(C−C)アルコキシ、(C−C)アルキル−R10、(C−C)アルコキシ−R10、アミノ(C−C)アルキル−R10またはアミノ(C−C)ジアルキル−R10(R10は少なくとも1つのOMe、OEt、OPr、Oイソプロピル、OH、CN、NH、(C−C)アルキルを有するエステル基、(C−C)アルキルを有する炭酸エステル基を示す。)を示す。)を示し、
は水素、Me、Et、CHO、CN、OH、OMe、COR、COOR、CONHRまたはCSNHR(Rは(C−C)アルキルを示す。)を示し、
は水素、(C−C)アルキル、OH、(C−C)アルコキシ、部分的または完全にフッ化された(C−C)アルコキシ、トリフルオロメチル、ハロゲンまたはOXを示し、
はMe、ハロゲン、水素、(C−C)アルコキシまたは部分的または完全にフッ化された(C−C)アルコキシ、SMe、またはSEtを示し、RがOHまたはOXである場合には、Rは水素であってもよく、
nは1または2であり、
’およびR’は互いに独立してOH、Me、Et、OMe、部分的または完全にフッ化されたOMe、トリフルオロメチルまたはハロゲンを示し、
UはNまたはCR’(R’は水素、(C−C)アルキル、(C−C)アルコキシ、トリフルオロメチルまたはハロゲンを示す。)を示し、
VはNまたはCR’(R’は水素、(C−C)アルコキシ、部分的または完全にフッ化された(C−C)アルコキシ、(C−C)アルキル、OH、トリフルオロメチル、ハロゲンまたはOXを示す。)を示し、
WはNまたはCR’(R’は水素、(C−C)アルキル、(C−C)アルコキシ、トリフルオロメチルまたはハロゲンを示す。)を示し、
OXはプロドラッグ特性を与えることができる基を示す。)
また、下記式(II)で表されるプロドラッグ化合物およびその製剤学的に許容されうる塩が提供される。
【0019】
【化4】

【0020】
(式中、少なくとも1つのOX基がRおよび/またはR’に含まれ、式(II)で表される化合物にプロドラッグ特性を与える)。
【0021】
また、VがCR’である場合には、Rおよび/またはR’の両方にOX基が含まれていてもよい。
【0022】
式(II)で表されるプロドラッグ化合物の好ましい実施形態は以下の説明から導かれる。
【0023】
本発明の別の目的は、薬剤、特にIGF−1受容体の発現または作用の抑制または阻害が有益であると考えられる疾患の予防または治療のための薬剤の製造における化合物(I)および/またはプロドラッグ化合物(I)、ならびに化合物(I)を含む医薬組成物の使用を提供することにある。
【0024】
その他の目的および利点は、以下の図面および添付の特許請求の範囲を参照して説明する以下の詳細な説明から当業者には明らかになるだろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
本発明の目的において、「プロドラッグ」という用語は、活性薬剤(親化合物)の不活性形態を含むか、または、薬剤に好ましい特性を与える化学基を含む。すなわち、本発明は、細胞に所望の生理的作用を与える可能性を有するが、当初は不活性であり(生理的作用を与えない)、変性後に生理学的に活性となり、細胞に生理的作用を与える組成物に関する。特に、本発明の親化合物の誘導体は化学的分解性基または代謝的分解性基を有し、生体内変換後に製剤学的に活性となる。
【0026】
本発明によれば、プロドラッグまたはその塩の生体内での変換は生理的条件下(インビボ)で行われ、酵素、または、胃酸、血液などの体液との反応により、酵素酸化、還元、加水分解または化学的加水分解を受け、活性親化合物に転換される。
【0027】
本明細書における「親化合物」、「活性親化合物」または「活性薬剤」という用語は、本明細書および国際特許出願第PCT/CH2004/000147号(アナリテコン S.A.)に記載されている複素環式化合物を示すものとして、同じ意味で相互的に使用され、OX部位を欠くものである。
【0028】
「生理的作用」という用語は、薬剤を投与した患者の健康を改善するために薬剤が細胞に与えるあらゆる作用に関する。作用は、疾病、欠乏症または病的症状を治療・予防するか、または、疾病、欠乏症または病的症状の発現を軽減するために生じさせる。
【0029】
「含む(comprise)」という用語は、内包する(include)と同義で使用し、1または複数の特性または成分が存在できることを意味する。
【0030】
式(I)で表される化合物および式(II)で表されるプロドラッグ化合物は、テトラヒドロイソキノリン部位(n=1)またはテトラヒドロベンズアゼピン部位(n=2)を含む。
【0031】
上記式(I)において、Rは、好ましくはH、OH、NH、アミノ(C−C)、アミノ(C−C)ジアルキル、CHOH、COOCH、OCOOCH、メチル、Et等である。
【0032】
は、好ましくはMe、OH、CN、CHO、CORまたはCOORであり、Rの特に好ましい例はMe(メチル)、CHO(ホルミル)、COMe(アセチル)またはCN(シアノ)である。
【0033】
は好ましくは水素、OX、OH、Me、OMe、ハロゲンまたはOXであり、Rは好ましくはOCHF、OMe、OCHCFまたはOEtである。Rは好ましくは水素、OX、OHまたはOMeであり、Rは好ましくはOCHF、OMe、OCHCFまたはOEtである。RおよびRの最も好ましい置換パターンは、Rが水素、OHまたはOXであり、RがOCHF、OMe、OCHCFまたはOEtである。
【0034】
式(I)において、1,2,3,4−テトラヒドロイソキノリン部位または2,3,4,5−テトラヒドロ−1H−2−ベンズアゼピン部位の1−位の置換基は、フェニル置換基(U=CR’;V=CR’;W=CR’)、4−ピリジル置換基(U=CR’;V=N;W=CR’)、2−ピリジル置換基(V=CR’;U=N,W=CR’またはU=CR’,W=N)、2−ピリミジル置換基(U,W=N;V=CR’)、4−ピリミジル置換基(V=N;U=CR’,W=NまたはU=N,W=CR’)またはトリアジニル置換基(U,V,W=N)であってもよい。
【0035】
1−位の置換基の好ましい置換パターンでは、R’およびR’はそれぞれ独立してクロロ、ブロモ、Me、OMeまたはOCHFである。より好ましい実施形態では、R’およびR’は同一である。別の好ましい実施形態では、R’およびR’は共にクロロ、ブロモ、Me、OMeまたはOCHFである。別の好ましい実施形態では、R’はクロロまたはブロモであり、R’はOMeである。最も好ましくは、R’およびR’は共にクロロ、ブロモまたはOCHFである。1−置換基がフェニルである場合、R’およびR’は好ましくは水素である。R’は好ましくは水素、OH、クロロ、ブロモ、Me、OMe、OCHFまたはOXである。1−置換基としてのフェニルの最も好ましい3つの置換パターンは、a)R’,R’,R’=OMe;b)R’=クロロ、R’,R’=OMe;c)R’=水素、OHまたはOX、R’,R’=共にクロロ、ブロモまたはOCHFである。フェニルは回転自由度を有するため、b)におけるR’およびR’の定義は互いに置き換えることができる。
【0036】
式(I)の置換基の定義において使用する(C−C)アルキルまたは(C−C)アルコキシにおけるアルキル残基は、分岐状、非分岐状または環状であってもよく、二重結合または三重結合を含んでいてもよい。例えば、アルキル残基は、メチル、エチル、n−プロピル、n−ブチル、イソプロピル、sec−ブチル、t−ブチル、シクロプロピル、シクロブチル、エテニル、プロペ−2−ニル、プロペ−3−ニル、ブテ−1−ニル、ブテ−2−ニル、ブテ−3−ニルまたはプロパルギルである。好ましくは、アルキル残基はメチル、エチルまたはイソプロピルであり、特に好ましくはメチルである。
【0037】
(C−C)アルキルまたは(C−C)アルコキシにおけるアルキル残基は、非分岐状、分岐状または環状であってもよく、二重結合または三重結合を含んでいてもよい。非分岐状アルキルの例としては、メチル、エチル、n−プロピル、n−ブチル、n−ペンチル、n−へキシルが挙げられる。分岐状アルキルの例としては、イソプロピル、sec−ブチル、t−ブチル、(1,1−ジエチル)メチル、(1−プロピル−1−メチル)メチル、(1−イソプロピル−1−メチル)メチル、(1,1−ジメチル−1−エチル)メチル、(1−t−ブチル)メチル、(1−プロピル−1−エチル)メチル、(1−イソプロピル−1−エチル)メチル、(1、1−ジエチル−1−メチル)メチル、(1−t−ブチル−1−メチル)メチルが挙げられる。環状アルキルの例としては、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、(2−または3−メチル)シクロペンチルが挙げられる。不飽和アルキルの例としては、エテニル、プロペ−2−ニル、ブテ−1−ニル、ブテ−2−ニル、ブテ−3−ニル、ペンテ−1−ニル、ペンテ−2−ニル、ペンテ−3−ニル、ペンテ−4−ニル、ペンタ−1,3−ジエニル、ペンタ−1,4−ジエニル、ペンタ−2,4−ジエニル、プロパルギルが挙げられる。
【0038】
本願においては、「ハロゲン」という用語は、フルオロ、クロロまたはブロモを意味する。
【0039】
本願において、「IGF−1受容体」という用語はヒトIGF−1受容体を含むが(ヒトIGF−1受容体のアミノ酸配列は知られている(例えば、T.E.Adamsら,Cellular and Molecular Life Sciences 2000,57,1050〜1093頁を参照))、「IGF−1受容体」には通常、哺乳動物のIGF−1R等の他のIGF−1Rも含まれる。
【0040】
式(II)のプロドラッグ化合物では、RまたはR’の一方に1つのOX基を含むか、または、VがCR’を示す場合には、RおよびR’の両方にOX基を含むことができる。
【0041】
本発明では、−OX基は、以下で説明するようなリン酸エステル誘導体、エステル誘導体、炭酸エステル誘導体(親化合物のアシルオキシ誘導体)および/または架橋ポリ(エチレングリコール)誘導体を示す。また、本発明の範囲内において、当業者に知られており、均等物とみなされるその他の適当な誘導体を使用することもできる。
【0042】
本発明の活性親化合物が水酸基を有する場合には、親化合物を適当なクロロ蟻酸アルキルまたはクロロ蟻酸アリールと反応させることによって調製された炭酸エステル誘導体をプロドラッグとして例示することができる。プロドラッグとして特に好ましい誘導体としては、−OCOOCH、−OCOOC、−OCOOプロピル、−OCOOイソプロピル、−OCOOBu、−OCOO(m−COONa−Ph)、−OCOOCHCHCOONa、−OCOOCHCHN(CH等が挙げられる。
【0043】
エステル誘導体の例としては、ギ酸エステル、酢酸エステル、安息香酸エステル(例えばOCO(m−COONa−Ph)、ジメチルグリシンエステル、アミノアルキルエステル、カルボキシアルキルエステル、アミノ酸を有するエステル等が挙げられる。
【0044】
また、本発明は、親化合物の寿命(circulating lifetime)を延ばすための化学修飾を含む。この特性を有する適当なポリ(エチレングリコール)誘導体の例は、例えば米国特許第2005171328号(NEKTAR THERAPEUTICS AL CORP)または米国特許第6,713,454(NOBEX CORP)号に記載れている。親化合物は高い脂溶性を有するため、PEGオリゴマー/ポリマーはプロドラッグの親水性および水溶性を向上させる。
【0045】
適当なプロドラッグ誘導体の選択方法および製造方法は、「プロドラッグの設計(Design of Prodrugs)Elsevier,Amsterdam 1985;G.R.Pettitら,Anti−Cancer Drug Design 16(2001)185〜193頁等の文献に記載されている。
【0046】
最も好ましくは、OX基はリン酸エステル誘導体を示す。後述する特に興味深いプロドラッグ化合物は、(1R)−1−(3,4,5,−トリメトキシフェニル)−2−ホルミル−5−(リン酸二水素)−6−メトキシ−1,2,3,4−テトラヒドロイソキノリン、(1R)−1−(3,5−ジクロロフェニル)−2−ホルミル−5−(リン酸二水素)−6−ジフルオロメトキシ−1,2,3,4−テトラヒドロイソキノリン、(1R)−1−[3,5−ジクロロ−4−(リン酸二水素)フェニル]−2−ホルミル−6−ジフルオロメトキシ−1,2,3,4−テトラヒドロイソキノリン、およびそれらに対応する6−(2,2,2−トリフルオロエトキシ)誘導体、2−シアノ誘導体、2−アセチル誘導体、ならびにそれらの塩である。
【0047】
【化5】

【0048】
上記物質は、5−水酸基または4’−水酸基を含むそれらの親化合物をホスホロキシクロライド(phosphoroxychloride)と反応させた後、対応するリン酸エステルに加水分解することにより合成することができる(例えば、米国特許第5,637,680号(エトポシドリン酸エステル(Etoposide phosphate))を参照)。その他の適当な試薬は、四塩化炭素との組み合わせによる亜リン酸ジベンジル(実施例1)およびクロロリン酸ジエチル(実施例4および実施例6)である。
【0049】
対応する親化合物の溶解度が約20mg/mlであるのに対して(実施例2)、pH7.4のリン酸ナトリウム緩衝液におけるプロドラッグ(1−(3,4,5−トリメトキシフェニル)−2−ホルミル−5−(リン酸二水素)−6−メトキシ−1,2,3,4−テトラヒドロイソキノリン)の溶解度は、50mg/mlを超えることが分かった。
【0050】
本発明によれば、製剤学的に許容しうる塩は、酸性の無機化合物または有機化合物、あるいは、アルカリ性の無機化合物または有機化合物から生成される。
【0051】
本明細書における「製剤学的に許容しうる塩」という用語は、特定の化合物の遊離酸または塩基の生物学的有効性を保持する塩を意味し、生物学的有効性を保持しない塩である場合には望ましくない。式(I)で表される化合物および/または式(II)で表されるプロドラッグ化合物の薬学的に許容されうる塩は、薬学的に許容されうる酸による酸付加塩であり、OX基が塩基性窒素原子を含む場合に、Rが水素、MeまたはEtでありおよび/またはU、V、およびWのうちの少なくとも1つが窒素であることが可能である。
【0052】
望ましい塩は、塩酸、臭化水素酸、硫酸、硝酸、リン酸等の無機酸または蟻酸、酢酸、マレイン酸、コハク酸、マンデル酸、マレイン酸、フマル酸、マロン酸、ピルビン酸、蓚酸、グリコール酸、サリチル酸、グルクロン酸またはガラクツロン酸等のピラノシジル酸(pyranosidyl acid)、クエン酸または酒石酸等のα−ヒドロキシ酸、アスパラギン酸またはグルタミン酸等のアミノ酸、安息香酸または桂皮酸等の芳香族酸、メタンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸またはエタンスルホン酸等のスルホン酸等の有機酸によって遊離塩基を処理する方法等の公知の適当な方法によって調製することができる。
【0053】
本発明では、好ましいアンモニウム塩は、塩酸、臭化水素酸、メタンスルホン酸、酢酸、プロピオン酸、安息香酸、クエン酸、酒石酸、リンゴ酸、マレイン酸、フマル酸、乳酸、硝酸、リン酸、またはコハク酸から得られる。
【0054】
通常、アンモニウム塩は、遊離塩基と化学量論的量または過剰量の所望の塩とを反応させ、適当な溶媒または様々な組み合わせの溶媒内に無機酸または有機酸を形成することによって調製する。例えば、遊離塩基は、適当な酸と例えば溶液を、例えば溶液のエバポレーション等の通常の方法によって回収される塩との混合水溶液に溶解させることができる。あるいは、低級アルカノール、炭素原子数が2〜10の対称または非対称エーテル、アルキルエステルまたはそれらの混合物等の有機溶媒内に遊離塩基を投入し、適当な酸で処理して対応する塩を形成することができる。アンモニウム塩は、例えば混合物から所望の塩を濾過する一般的な回収方法によって回収するか、または、塩が溶解しない溶媒を添加することによって沈殿させて、溶媒から回収することができる。
【0055】
様々な反応を行うための適当な無機溶媒および有機溶媒の例としては、反応物質または生成物に悪影響を与えない任意の無機溶媒または有機溶媒、例えば、塩化メチレン等のハロゲン化溶媒、クロロホルム、ジエチルエーテル等のエーテル溶媒、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジグライム(diglyme)、シクロオクタン、ベンゼンまたはトルエン、ヘプタン、シクロヘキサン、脂肪族化合物等のその他の溶媒、脂環式および芳香族炭化水素溶媒、水、酸性水溶液、有機溶液または無機溶液、酢酸エチル、酢酸プロピル、ならびにそれらの混合物等が挙げられる。
【0056】
また、本発明は、リン酸エステル、アルカリ性の無機化合物または有機化合物等の酸性のプロドラッグから形成される塩も含む。塩に含まれる好ましい無機カチオンは、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、アンモニウム、カルシウム、マグネシウム、亜鉛、マンガンである。例えば、リン酸エステルの製造は、G.R.Pettitらの「抗癌剤設計(Anti−Cancer Drug Design)」16(2001)185〜193頁に記載されている。
【0057】
また、好ましい塩としては、例えば酸性のプロドラッグおよび有機アミン(イミダゾールおよびモルホリン等)から形成される塩が挙げられる。また、アルカリ性のアミノ酸塩を使用することもできる。本発明における「アミノ酸」という用語は特に天然のα−アミノ酸を意味するが、それらの同族体、異性体および誘導体も含まれる。異性体の例としては、鏡像異性体を挙げることができる。誘導体は、例えば保護基を有するアミノ酸であってもよい。好ましいアルカリ性アミノ酸は、アルギニン、オルニチン、ジアミノ酪酸、リジンまたはヒドロキシリジンであり、特にL−アルギニン、L−リジンまたはL−ヒドロキシリジン、アルカリ性ジペプチドあるいは製剤学的に許容されうるアルカリ性アミノ酸誘導体である。
【0058】
本発明に係る式(I)で表される化合物は、国際特許出願第PCT/CH2004/000147号に記載されている方法を使用して調製することができ、国際特許出願第PCT/CH2004/000147号の開示内容はこの参照によって本発明に組み込まれるものとする。なお、当業者に知られているその他の適当な方法も本発明の範囲に含まれる。
【0059】
国際特許出願第PCT/CH2004/000147号では、出発物質は芳香族部分が置換されたフェネチルアミンである。本発明では、出発物質は、ベンジル性炭素原子上にさらに置換基を有することができるフェネチルアミンである。適当な置換フェニルアセトニトリルをアルキル化した後、アミンに還元することによって(「有機合成(Organic Syntheses)」,Coll.第76巻,169頁;Sukata,K.Bull.Chem.Soc.Jpn.56(1983)3306〜3307頁)、または、置換β−ニトロスチレンを介して(Ambros,R.ら,J.Med.Chem.33(1990)153〜160頁;Schafer,H.ら,Tetrahedron 51(1995)2305〜2334頁)これらの出発物質を得ることができる。
【0060】
当業者には明らかなように、本発明のプロセスにおいては、開始試薬または中間化合物中の水酸基等の所定の官能基は、保護基によって保護されていなければならない場合がある。したがって、化合物(I)の調製は、1または複数の保護基の付加および除去を含むことができる。官能基の保護および脱保護は、「有機化学における保護基(Protective Groups in Organic Chemistry)」,J.W.F.McOmie編,Plenum Press(1973)および「有機合成における保護基(Protective Groups in Organic Synthesis)」,第2版,T.W.GreeneおよびP.G.M.Wuts,Wiley−Interscience(1991)および「保護基(Protecting Groups)」第3版,P.J.Kocienski,Georg Thieme Verlag(2005)に記載されている。
【0061】
本発明における芳香族水酸基の適当な保護基は、例えばべンジル基およびイソプロピル基である。ベンジル基およびイソプロピル基の除去は、接触水素添加(触媒:Pd/炭素)およびBClによる処理によってそれぞれ容易に行うことができる。別の試薬はトリメチルヨードシランであり、トリメチルヨードシランはジフルオロメトキシ基の存在下で特に有用である。
【0062】
本発明に係るプロドラッグ化合物を生体内変換することにより生じた、式(II)で表されるプロドラッグ親化合物は、以下の実施例1,4,5,および6ならびに国際特許出願第PCT/CH2004/000147号に記載されている方法を使用して調製することができ、国際特許出願第PCT/CH2004/000147号の開示内容はこの参照によって本明細書に組み込まれるものとする。好ましい化合物(I)は、1または数個のジフルオロメトキシ基を含む。化合物(I)の合成における中間化合物は、2−(3−ジフルオロメトキシフェニル)エチルアミンであり、2−(3−ジフルオロメトキシフェニル)エチルアミンは、国際特許出願第PCT/CH2004/000147号に記載されている通常の方法にしたがって、3−ジフルオロメトキシベンズアルデヒド(市販)から合成される。その他の有用な出発物質は、2−ベンジルオキシ−3−ジフルオロメトキシベンズアルデヒドであり、2−ベンジルオキシ−3−ジフルオロメトキシベンズアルデヒドは、2−ベンジルオキシ−3−ヒドロキシベンズアルデヒド(Kessar,S.V.ら,J.Org.Chem.53(1988)1708〜1713頁)をジフルオロメチル化することによって(Guay,D.ら,Med.Chem.Lett.12(2002)1457〜1461頁と同様に)得られる。その他の出発物質は、適当な水酸化安息香酸から製造することができる。水酸化安息香酸の一例は、3,5−ジヒドロキシ安息香酸であり、ジメチルホルムアミド中にてクロロジフルオロ酢酸メチル(またはクロロジフルオロメタン)および炭酸カリウムで処理し、加水分解することによって、3,5−ジ(ジフルオロメトキシ)安息香酸が得られる。なお、その他の公知の適当な方法も本発明の範囲に含まれる。
【0063】
本発明の化合物およびプロドラッグ化合物は少なくとも1つのキラル中心を含み、異なる鏡像異性体として存在することができる。特に好ましい化合物(I)およびプロドラッグ化合物(II)は鏡像異性的に純粋だが、両方の鏡像異性体およびあらゆる比率の混合物(ラセミ混合物)も本発明の範囲に含まれる。
【0064】
本発明のプロドラッグ化合物(II)は、出発物質として鏡像異性的に純粋な親化合物を使用することによって、鏡像異性的に純粋な形態で得ることができる。鏡像異性的に純粋な化合物(I)およびプロドラッグ化合物(II)は、キラル酸による付加塩の結晶化によってそれらのラセミ体から得るか(例えば、D.L.Minorら,J.Med.Chem.37(1994)4317〜4328頁;米国特許第4349472号を参照)、あるいは、市販のキラル相を使用してプレパラティブHPLCによって単離することもできる。化合物(I)およびプロドラッグ(II)の親化合物の純粋な鏡像異性体を得る別の方法は、当業者に知られているように、不斉合成の使用(M.J.Munchhofら,J.Org.Chem.60(1995)7086〜7087頁;R.P.Polniaszekら.Tetrahedron Letters 28(1987)4511〜4514頁)、中間的イミン(II)またはイミニウム塩(III)の非対称の移動水素化(N.Uematsuら,J.Am.Chem.Soc.118(1996)4916〜4917頁;G.Meuzelaarら,Eur.J.Org.Chem.1999,2315〜2321頁)またはそのキラルジアステレオマー誘導体の分割である。
【0065】
化合物(I)および/または式(II)で表されるプロドラッグ化合物ならびにその製剤学的に許容されうる塩は、当業者にとってIGF−1受容体の阻害が有益であると考えられる疾患を予防または治療するために、製薬学的に許容しうる助剤、希釈剤または担体と組み合わせた医薬組成物として投与することができる。本発明は、上述した式(I)で表されるプロドラッグ化合物またはその製剤学的に許容されうる塩を、製剤学的に許容しうる助剤、希釈剤または担体と共に含む医薬組成物を提供する。適当な賦形剤、希釈剤、助剤に関しては、これらについて記載している標準的な文献、例えば、「包括的医薬品化学(Comprehensive Medicinal Chemistry)」Pergamon Press,1990,第5巻の第25.2章および「Lexikon der Hilfsstoffe fur Pharmazie, Kosmetik und angrenzende Gebiete」,H.P.Fiedler,Editio Cantor,2002(ドイツ語)を参照するものとする。
【0066】
また、化合物(I)および/または式(II)で表されるプロドラッグ化合物は、コアセルベーション法、ヒドロキシメチルセルロースまたはゼラチンマイクロカプセルおよびポリ−(メチルメタクリレート)マイクロカプセル等の界面重合法、コロイド(例えば、リポソーム、アルブミン小球体、マイクロエマルジョン、ナノ粒子、ナノカプセル)のドラッグデリバリシステム、マクロ乳化等によってマイクロカプセル化することもできる。こうした方法は、「レミントン薬学(Remington’s Pharmaceutical Sciences)」第l6版、Osol,A.編(1980)に開示されている。
【0067】
徐放製剤を調製することができる。徐放製剤の適当な例としては、プロドラッグ化合物(I)を含有する固体の疎水性ポリマーの半透過性基材が挙げられ、半透過性基材は、フィルムまたはマイクロカプセル等の成形品の形態である。徐放基材の例としては、ポリエステル、ヒドロゲル(例えばポリ(2−ヒドロキシエチル−メタクリレート)、ポリ(ビニルアルコール)、ポリラクチド(米国特許第3,773,919号)、L−グルタミン酸と[ガンマ]エチル−L−グルタマートとのコポリマー、非分解性エチレン−酢酸ビニル、LUPRON DEPOT(商標)(乳酸−グリコール酸コポリマーおよび酢酸ロイプロリドからなる注射可能な小球体)等の分解性乳酸−グリコール酸コポリマー、ポリ−D−(−)−3−ヒドロキシブチル酸が挙げられる。
【0068】
本発明の医薬組成物は、0.001〜50質量%の化合物(I)を含むことが好ましい。
【0069】
生体により対応する活性親化合物に変換されたプロドラッグ化合物(II)は、8μg/ml〜150ピコグラム/mlの範囲の無損傷細胞系(intact cell system)におけるIC50活性を有する。活性が大きく異なるため、本発明の医薬組成物は0.001〜50質量%のプロドラッグ化合物(II)を含むことが好ましい。
【0070】
化合物(I)および/または式(II)で表されるプロドラッグ化合物の1日当たりの投与量は、治療対象者、投与経路、治療対象の疾患の重症度および種類によって変更する必要がある。したがって、最適な投与量は、対象となる患者を治療している医師が決定することができる。
【0071】
本発明の医薬組成物は、局所投与する場合には、クリーム、ゲル、溶液、軟膏剤、懸濁液、プラスター等として製剤化することができ、吸入投与の場合には、エアロゾルまたは乾燥粉末等として製剤化することができ、経口投与の場合には、錠剤、カプセル、ゲル、シロップ、懸濁液、溶液、粉体、粒剤等として製剤化することができ、直腸または腟内投与の場合には、坐剤等として製剤化することができ、注射剤(静脈内、皮下、筋肉内、血管内、点滴を含む)の場合には、無菌液、懸濁液、エマルション等として製剤化することができる。
【0072】
本発明の化合物(I)および/または生体により対応する活性親化合物に変換された式(II)で表されるプロドラッグ化合物は、構造的に密接に関係するインスリン受容体を阻害することなく、ヒトIGF−1受容体の発現または作用を抑制または阻害することが分かった。これらの化合物は、悪性細胞のアポトーシスを促進し、分裂周期の前期において悪性細胞をブロックすることにより、細胞分裂を妨げることが分かった。
【0073】
得られた活性親化合物は、癌等の細胞増殖疾患、アテローム性動脈硬化、再狭窄、乾癬等の炎症性疾患、慢性関節リウマチ等の自己免疫疾患、移植拒絶反応を含むIGF−1Rの非制御発現による疾患の予防および/または治療に有用である。
【0074】
「治療(Treatment)」という用語は、治療処置と予防または再発防止の両方を意味する。治療を要する者には、既に疾患を有する者および疾患を予防すべき者が含まれる。そのため、治療すべき哺乳動物は、疾患を有すると診断されたか、疾患にかかりやすいまたは感染しやすい可能性があると診断されたものであってもよい。
【0075】
治療を目的とする「哺乳動物」とは、ヒトや、イヌ、ウマ、ネコ、ウシ、サル等の家畜またはペット等の哺乳動物に分類されるあらゆる動物を意味する。好ましくは、哺乳動物はヒトである。
【0076】
「治療学的に有効な量」という用語は、哺乳動物における疾患または障害を治療するために有効な薬剤の量を意味する。癌の場合には、治療学的に有効な量の薬剤によって癌細胞の数を減少させ、腫瘍を縮小させ、癌細胞が周囲組織に浸潤することを阻止し(ある程度遅延させ、好ましくは停止する)、腫瘍転移を阻止し(ある程度遅延させ、好ましくは停止する)、腫瘍の成長を抑制しかつ/または1または複数の癌に関わる症状をある程度軽減する。薬剤によって既存の癌細胞の成長を防止させることができ、および/または既存の癌細胞を死滅させることができる程度を、薬剤が細胞増殖抑制性を有する、および/または細胞毒性を有すると言える。ここでは「治療学的に有効な量」という用語は、少なくとも約30%、好ましくは少なくとも約50%、好ましくは少なくとも70%、好ましくは少なくとも80%、好ましくは少なくとも90%の標的細胞の塊、癌細胞または腫瘍群あるいは病理学的その他の特徴の成長、進行または有糸分裂活性における臨床的に著しい変化を防止、好ましくは減少させるために十分な量を意味する。
【0077】
「癌」および「癌性」という言葉は、通常、制御されない細胞の成長を特徴とする哺乳動物の生理的状態を意味または説明する。
【0078】
IGF−1Rが非制御発現あるいは過剰発現した場合に、得られた親化合物によって予防および/または治療することができる癌の例としては、例えば、乳癌、前立腺癌、結腸癌、肺癌、脳癌、腎臓癌、すい臓癌、黒色腫、多発性骨髄腫瘍、リンパ腫、白血病が挙げられる。
【0079】
また、化合物(I)および/または式(II)で表されるプロドラッグ化合物は、細胞増殖疾患に対して光照射および/または1または複数の化学療法薬、例えばアクチノマイシン、アルトレタミン、ブレオマイシン、ブスルファン、カペシタビン、カルボプラチン、カルムスチン、クロラムブシル、シスプラチン、クラドリビン、Crisantaspase、シクロフォスファミド、シタラビン、ダカルバジン、ダウノルビシン、ドキソルビシン、エピルビシン、エトポシド、フルダラビン、フルオロウラシル、ゲムシタビン、イダルビシン、イホスファミド、イリノテカン、ロムスチン、メルファラン、メルカプトプリン、メトトレキサート、マイトマイシン、ミトキサントロン、オキサリプラチン(Oxaliplati)、ペントスタチン、プロカルバジン、ストレプトゾシン、タキソール(TACO)、テモゾロマイド、チオグアニン、チオテパ、トポテカン、トレオサルファン、ビンブラスチン、ビンクリスチン、ビンデシンまたはビノレルビン等の従来の治療法と組み合わせて使用することができる。
【0080】
化学療法薬を化合物(I)および/または式(II)で表されるプロドラッグ化合物と組み合わせて使用する場合には、同時投与のためにこれらの2つの薬剤の組み合わせを含む薬剤として使用してもよく、または、それぞれ薬剤を含む別々の剤形として使用してもよく、後者の場合には、各剤形は連続的に使用してもよい。すなわち、化合物(I)および/または式(II)で表されるプロドラッグ化合物を含む剤形を投与した後に、化学療法薬を含む剤形を投与してもよく、あるいは、化学療法薬を含む剤形を投与した後に、化合物(I)および/または式(II)で表されるプロドラッグ化合物を含む剤形を投与してもよい。2つの異なる剤形を使用する実施形態は、キットとして提供することができる。
【0081】
通常、キットは、容器と、容器上に設けられるかまたは容器に関連付けられたラベルまたは包装挿入物(package insert)とを含む。適当な容器としては、例えば、ボトル、バイアル、注射器等が挙げられる。容器は、ガラスまたはプラスチック等の各種材料で形成することができる。容器は、症状を治療するために有効な化合物の組成物、プロドラッグ組成物または製剤学的に許容されうる塩を保持し、無菌アクセス口(例えば、容器は静脈注射用溶液バッグまたは皮下注射針を貫通させることができるストッパーを有するバイアルであってもよい)を有することができる。ラベルまたは包装挿入物は、組成物を癌等の任意の症状を治療するために使用することを表示することを示唆する。
【0082】
治療学薬としての使用に加えて、新しい治療薬剤の探求の一部として、ネコ、イヌ、ウサギ、サル、ラット、マウス等の実験動物における細胞周期活性阻害剤の作用を評価するために、化合物(I)および/または式(II)で表されるプロドラッグ化合物ならびにその製剤学的に許容されうる塩は、インビトロおよびインビボの試験の開発および標準化における薬理学ツールとして有用である。
【0083】
当業者には、具体的に説明した例以外に本発明を容易に変更および変形することができることは明らかであろう。本発明は、その精神または基本的特徴から逸脱することなくそのような変更および変形を含む。また、本発明は、本明細書において参照または示した全ての工程、特徴、組成物および化合物を個々または一括して含み、複数の工程または特徴の全ての組み合わせを含むものである。したがって、本願の開示は例示した態様に限定されるものではなく、本発明は添付の特許請求の範囲に示され、本発明の範囲に含まれる均等物の意味および範囲内である、あらゆる変形を含む。
【0084】
本明細書において様々な参考文献を引用しているが、各参考文献の内容は参照によって本明細書に組み込まれるものとする。
【0085】
上記説明は、以下の実施例を参照することによりさらに完全に理解されるだろう。ただし、以下の実施例は本発明を実施する方法の例示に過ぎず、本発明の範囲を限定するものではない。
【実施例】
【0086】
実施例に記載された生成物は、十分なプロトン核磁気共鳴スペクトルおよび/またはマススペクトルデータを有していた。融点は補整されていない。
【0087】
[実施例1:(1R)−1−(3,4,5−トリメトキシフェニル)−2−ホルミル−5−(リン酸二水素)−6−メトキシ−1,2,3,4−テトラヒドロイソキノリン]
1.2−ベンジルオキシ−3−メトキシフェニルエチルアミン(74.7g)を、水酸化ナトリウム水溶液(450ml、2M)およびジクロロメタン(300ml)に添加した。ジクロロメタン(250ml)に溶解させた3,4,5−トリメトキシべンゾイルクロライド(66.8g)を、激しく撹拌したアミンを含む混合物に室温で30分間添加した。添加後、混合物をさらに60分間撹拌した。ジクロロメタン相を分離し、塩酸(200ml、2M)で洗浄し、乾燥(硫酸ナトリウム)し、濃縮乾固した。得られたアミド(137.4g)は精製することなく対応するイミンの製造に使用した。
【0088】
2.工程1で得られたアミド(105.0g)、トルエン(500ml)、およびオキシ塩化リン(160ml)の混合物を還流下で2時間加熱した。反応混合物を室温まで冷却し、濾過した。得られた結晶をトルエン(200ml)、次いでジエチルエーテル(200ml)によって洗浄し、所望のイミン塩酸塩(79.8g)を得た。メタノール−ジエチルエーテルから結晶化させて、200〜204℃の融点を有する白色固体を得ることにより、分析サンプルを得た。
【0089】
3.工程2によって生成されたイミン(47.0g)を、メタノール(250ml)および1,2−ジメトキシエタン(250ml)の混合物中に溶解し、出発物質が残らなくなるまで水素化ホウ素ナトリウムによって10℃で処理した(TLC法:シリカゲル/酢酸エチル)。混合物を濃縮乾固し、水酸化ナトリウム水溶液(400ml、2M)およびジクロロメタン(400ml)を使用して分離した。有機相を分離、乾燥、濃縮乾固して、第二級アミン(46.4g)を得た。エタノールから結晶化させて、122〜124℃の融点を有する白色固体を得ることにより、分析サンプルを得た。
【0090】
4.方法Aによって生成された第二級アミン(40.0g)を高温のエタノール(1000ml)に溶解し、その溶液を、高温のエタノール(400ml)に溶解させたアセチル−D−ロイシン(16.0g)と混合した。スラリーが45℃に達したときに、混合物を撹拌、濾過した。得られた結晶をエタノール(1000ml)によって洗浄、乾燥し、白色固体(24.8、53.1%ee)を得た。エタノール(950ml)による2回目の結晶化(24.5g)によって、白色固体((13.9g、>99.9%ee)、融点:209〜212℃、[α]D20−53.5°(c=1.0、DMF)を得た。
【0091】
5.上記工程1によって生成されたアセチル−D−ロイシン塩(29.5g)を、ジクロロメタン(300ml)および水酸化ナトリウム水溶液(200ml、2M)を使用して分離した。有機相を乾燥し、濃縮乾固して、第二級アミンを得た。このアミン、トルエン(400ml)、およびギ酸(20ml)の溶液をディーンスタークトラップ(Dean−Stark trap)を使用して18時間還流した。反応混合物を濃縮乾固して、粘性油状物として5−ベンジルエーテルのホルミル誘導体を得た。ジメチルホルムアミド(200ml)およびエタノール(100ml)の混合物に溶解させた残渣の溶液を、炭素(2.5g、5%)に担持されたパラジウム存在下で水素と2時間反応させた。混合物を濾過し、濾過液を濃縮乾固した。残渣をエタノールから結晶化させて、(1R)−1−(3,4,5−トリメトキシフェニル)−2−ホルミル−5−ヒドロキシ−6−メトキシ−1,2,3,4−テトラヒドロイソキノリン(20.1g)を得た。融点:190〜192℃、[α]20−191.2°(c=1.0、CHCl)。
【0092】
6.アセトニトリル(100ml)およびジメチルホルムアミド(40ml)の混合物に溶解させた(1R)−1−(3,4,5−トリメトキシフェニル)−2−ホルミル−5−ヒドロキシ−6−メトキシ−1,2,3,4−テトラヒドロイソキノリン(11.0g)、四塩化炭素(25ml)、ジイソプロピルエチルアミン(17ml)および4−ジメチルアミノピリジン(400mg)の溶液を−10℃に冷却した。亜リン酸ジベンジル(25g、純度80%)を−5℃〜−10℃で撹拌しながら滴下した。−5℃で5時間撹拌後、二水素リン酸カリウム水溶液(50ml、0.5M)、次いで水(400ml)を滴下することで反応を終了させた。混合物を酢酸エチル(2×300ml)によって抽出し、有機相を乾燥し、濃縮乾固した。残渣を溶離剤として酢酸エチルを使用してシリカゲルクロマトグラフィー(250×6cm)によって精製した。少量の出発物質および主に5−O−ジベンジルホスホリル誘導体を含む2番目のフラクション(15.0g)を粘性油状物として得た。
【0093】
7.上記工程6によって生成された(1R)−1−(3,4,5−トリメトキシフェニル)−2−ホルミル−5−(リン酸ジベンジル)−6−メトキシ−1,2,3,4−テトラヒドロイソキノリン(15.0g)のエタノール(200ml)溶液を、炭素に担持されたパラジウム(2.5g、5%)によって水素雰囲気下で2時間撹拌した。スラリーを濾過し、濾過液を濃縮乾固した。残渣(10.8g)を水(400ml)およびジクロロメタン(2×100ml)を使用して分離した。水相を濃縮乾固し、残渣(8.6g)を2−プロパノールから結晶化させ、(1R)−1−(3,4,5−トリメトキシフェニル)−2−ホルミル−5−(リン酸二水素)−6−メトキシ−1,2,3,4−テトラヒドロイソキノリン(7.2g)を得た。融点:138〜141℃、[α]20−145.2°(c=1.0、メタノール)。
【0094】
[実施例2:(1R)−1−(3,4,5−トリメトキシフェニル)−2−ホルミル−5−(リン酸二水素)−6−メトキシ−1,2,3,4−テトラヒドロイソキノリンの生理的に許容されうる緩衝液中の溶解度]
pH7.4のリン酸ナトリウム緩衝液における標記化合物の溶解度は50mg/mlを超えることが分かった。親化合物の対応する溶解度は約20μgである。
【0095】
[実施例3:(1R)−1−(3,4,5−トリメトキシフェニル)−2−ホルミル−5−(リン酸二水素)−6−メトキシ−1,2,3,4−テトラヒドロイソキノリンのアルカリホスファターゼによる脱リン酸反応]
ウシのアルカリホスファターゼ(VIIS型、Sigma−Aldrich)の標記化合物の脱リン酸化能力をインビトロで調べた。半減期は、フォスファターゼの濃度が10units/ml(37℃、pH7.4)のときに8.0分であることが分かった。その結果、標記化合物の静脈内投与により、(1R)−1−(3,4,5−トリメトキシフェニル)−2−ホルミル−5−ヒドロキシ−6−メトキシ−1,2,3,4−テトラヒドロイソキノリンの活性部位が急速に形成されることが理解できる(図1を参照)。
【0096】
[実施例4:(1R)−1−(3,5−ジクロロフェニル)−2−アセチル−5−(リン酸二水素)−6−エトキシ−1,2,3,4−テトラヒドロイソキノリン]
1.上記工程3と同様に生成された(1R)−1−(3,5−ジクロロフェニル)−2−アセチル−5−ヒドロキシ−6−エトキシ−1,2,3,4−テトラヒドロイソキノリン(6.2g、融点:238〜241℃、[α]20−128.9°、c=1.0、CHCl)を、エタノールを含有しないクロロホルム(150ml)に溶解させた。ジイソプロピルエチルアミン(15ml)および4−ジメチルアミノピリジン(200mg)をこの溶液に添加し、次いでジエチルクロロホスフェート(6ml)を滴下した。5時間撹拌後、水(200ml)を添加した。有機相を分離し、塩酸(0.5M、200ml)で洗浄し、乾燥し、濃縮乾固した。残渣を溶離剤として酢酸エチルを使用してシリカゲルクロマトグラフィー(250×6cm)によって精製し、5−O−ジエチルホスホリル誘導体(7.9g)を固体として得た。
【0097】
2.トリメチルブロモシラン(9.2g)を、(1R)−1−(3,5−ジクロロフェニル)−2−アセチル−5−(リン酸ジエチル)−6−エトキシ−1,2,3,4−テトラヒドロイソキノリン(7.5g)のジクロロメタン(50ml)溶液に添加した。室温で17時間撹拌後、ジクロロメタン(150ml)および水(200ml)を添加した。有機相を分離、乾燥、濃縮乾固して、白色固体(6.2g)を得た。エタノール/水からの結晶化により、(1R)−1−(3,5−ジクロロフェニル)−2−アセチル−5−(リン酸二水素)−6−エトキシ−1,2,3,4−テトラヒドロイソキノリン(5.3g)を白色固体として得た。融点:225〜228℃、[α]20−79.7°(c=1.0、メタノール)。
【0098】
[実施例5:1−(3,5−ジクロロ−4−ヒドロキシフェニル)−2−ホルミル−6−ジフルオロメトキシ−1,2,3,4−テトラヒドロイソキノリン]
1.ジメチルホルムアミド(400ml)に溶解した3,5−ジクロロ−4−ヒドロキシ安息香酸エチル(100.0g)、炭酸カリウム(60g)および塩化ベンジル(98ml)の混合物を、55℃で15時間加熱した。スラリーを濾過し、濾過液を濃縮乾固した。残渣をメタノールから結晶化させ、66〜68℃の融点を有する4−ベンジルオキシ−3,5−ジクロロ安息香酸エチル(104.2g)を白色固体として得た。
【0099】
2.4−ベンジルオキシ−3,5−ジクロロ安息香酸エチル(103.0g)、水酸化カリウム(32g)およびエタノール/水(1000ml,8:2)の混合物を、室温で3時間撹拌した。溶液を濃縮乾固し、残渣を塩酸水溶液(1M、500ml)およびクロロホルム/エタノール(1000ml、3:2)を使用して分離した。有機相を乾燥し、濃縮乾固して、未精製の4−ベンジルオキシ−3,5−ジクロロ安息香酸(90.2g)を得た。エタノールから結晶化させて、211〜213℃の融点を有する4−ベンジルオキシ−3,5−ジクロロ安息香酸を白色固体として得ることにより、分析サンプルを得た。
【0100】
3.4−ベンジルオキシ−3,5−ジクロロ安息香酸(64.8g)のジメチルホルムアミド(500ml)溶液を1,1’−カルボニルジイミダゾール(40.5g)によって50℃で1時間処理した。溶液を25℃に冷却し、2−(3−ジフルオロメトキシフェニル)エチルアミン(40.8g)のジメチルホルムアミド(150ml)溶液を滴下した。1時間撹拌した後、混合物を水(1000ml)およびt−ブチルメチルエーテル(500ml)を使用して分離した。有機相を分離し、塩酸水溶液(1M、300ml)、次いで水酸化ナトリウム水溶液(1M、200ml)で洗浄し、乾燥し、濃縮乾固した。残渣を溶離剤としてジクロロメタン/酢酸エチル(9:1)を使用してシリカゲルクロマトグラフィー(8×40cm)によって精製し、純粋なアミドを得た(84.0g)。メタノールからの結晶化によって99〜100℃の融点を有する分析サンプルを得た。
【0101】
4.工程3で得られたアミド(4.0g)、キシレン(50ml)、およびオキシ塩化リン(15ml)の混合物を還流下で67時間加熱した。反応混合物を濃縮乾固し、残渣をジクロロメタン(200ml)および水酸化ナトリウム水溶液(2M、200ml)を使用して分離した。有機相を乾燥し、濃縮乾固した。残渣を溶離剤としてジクロロメタンおよび酢酸エチルの混合物(97:3)を使用してシリカゲルクロマトグラフィー(6×25cm)によって精製し、粘性油状物としてイミン(0.8g)を得た。
【0102】
5.工程4によって生成されたイミン(0.8g)を、メタノール(100ml)中に溶解し、出発物質が残らなくなるまで水素化ホウ素ナトリウムによって室温で処理した(TLC法:シリカゲル/酢酸エチル)。混合物を濃縮乾固し、水酸化ナトリウム水溶液(2M、200ml)およびジクロロメタン(200ml)を使用して分離した。有機相を分離、乾燥、濃縮乾固して、粘性油状物として未精製の第二級アミン(0.75g)を得た。
【0103】
6.前記アミン(0.75g)、トルエン(100ml)およびギ酸(2ml)の溶液をディーンスタークトラップを使用して3時間還流した。反応混合物を濃縮乾固して、ゴム状物質としてホルミル誘導体を得た。
【0104】
7.工程6で得られたホルミル誘導体の2滴の濃塩酸を含有する酢酸エチル(50ml)溶液を、炭素(100mg、10%)に担持されたパラジウム存在下で水素と2時間反応させた。混合物を濾過し、濾過液を濃縮乾固して、ゴムとして1−(3,5−ジクロロ−4−ヒドロキシフェニル)−2−ホルミル−6−ジフルオロメトキシ−1,2,3,4−テトラヒドロイソキノリンを得、173〜176℃の融点を有するジエチルエーテルによって処理することによりそれを固化した。
【0105】
[実施例6:(1R)−1−[3,5−ジクロロ−4−(リン酸二水素)フェニル]−2−ホルミル−6−(2,2,2−トリフルオロエトキシ)−1,2,3,4−テトラヒドロイソキノリン]
1.ジメチルホルムアミド(600ml)に溶解させた3,5−ジクロロ−4−ヒドロキシ安息香酸エチル(102.7g)、炭酸カリウム(60g)および臭化イソプロピル(80ml)の混合物を、55℃で15時間加熱した。スラリーを濾過し、濾過液を濃縮乾固した。残渣をt−ブチルメチルエーテル(700ml)および水酸化ナトリウム水溶液(2M、400ml)を使用して分離した。有機相を乾燥し、濃縮乾固して、4−イソプロポキシ−3,5−ジクロロ安息香酸エチル(109.0g)を粘性油状物として得た。
【0106】
2.3,5−ジクロロ−4−イソプロポキシ安息香酸エチル(103.0g)、水酸化カリウム(32g)およびエタノール/水(800ml,8:2)の混合物を、室温で3時間撹拌した。溶液を濃縮乾固し、残渣を塩酸水溶液(1M、500ml)とクロロホルム/エタノール(1000ml、3:2)を使用して分離した。有機相を乾燥し、濃縮乾固して、4−イソプロポキシ−3,5−ジクロロ安息香酸(90.2g)を得た。残渣をエタノール/水(1:1)から結晶化させて、140〜142℃の融点を有する4−イソプロポキシ−3,5−ジクロロ安息香酸(79.2g)を白色固体として得た。
【0107】
3.3,5−ジクロロ−4−イソプロポキシ安息香酸(61.5g)のジメチルホルムアミド(500ml)溶液を1,1’−カルボニルジイミダゾール(44.4g)によって50℃で1時間処理した。溶液を25℃に冷却し、2−(3−ベンジルオキシフェニル)エチルアミン(56.0g)のジメチルホルムアミド(150ml)溶液を滴下した。1時間撹拌した後、混合物を水(1000mlおよびt−ブチルメチルエーテル(500ml)を使用して分離した。有機相を分離し、塩酸水溶液(1M、300ml)、次いで、水酸化ナトリウム水溶液(1M、200ml)で洗浄し、乾燥し、濃縮乾固して、未精製のアミド(109.7g)を粘性油状物として得た。
【0108】
4.工程3で得られたアミド(109.7g)、トルエン(550ml)、オキシ塩化リン(180ml)の混合物を還流下で2.5時間加熱した。反応混合物を濃縮乾固し、残渣をジクロロメタン(1000ml)および水酸化ナトリウム水溶液(2M、600ml)を使用して分離した。有機相を乾燥し、濃縮乾固して、未精製のイミン(110g)を得た。
【0109】
5.工程4によって生成されたイミン(110g)を、メタノール(500ml)およびテトラヒドロフラン(500ml)の混合物中に溶解し、出発物質が残らなくなるまで水素化ホウ素ナトリウムによって室温で処理した(TLC法:シリカゲル/酢酸エチル)。混合物を濃縮乾固し、水酸化ナトリウム水溶液(2M、400ml)とジクロロメタン(600ml)を使用して分離した。有機相を分離、乾燥、濃縮乾固して、未精製の第二級アミン(109g)を粘性油状物として得た。アミンを塩酸塩に変換させて、白色結晶性粉末(59.2g)として単離した。メタノールからの結晶化によって、220〜240℃の融点を有する分析サンプルを得た。
【0110】
6.工程5によって生成された第二級アミン(24.5g、塩酸塩から生成)を高温のエタノール(400ml)に溶解させ、その溶液を高温のエタノール(100ml)に溶解させたアセチル−D−ロイシン(10.0g)と混合した。混合物を室温で20時間放置した後、濾過した。得られた結晶をエタノール(200ml)によって洗浄、乾燥し、白色固体(15.6g、79.5%ee)を得た。エタノール(370ml)による2回目の結晶化(15.2g)によって、白色固体(13.1g、99.0%ee)を得た。融点:188〜192℃、[α]D20−21.2°(c=1.0、DMF)。
【0111】
7.上記工程6によって生成されたアセチル−D−ロイシン塩(12.4g)を、ジクロロメタン(300ml)および水酸化ナトリウム水溶液(2M、200ml)を使用して分離した。有機相を乾燥し、濃縮乾固して、第二級アミンを得た。アミン、トルエン(200ml)、およびギ酸(20ml)の溶液をディーンスタークトラップを使用して18時間還流した。反応混合物を濃縮乾固して、ホルミル誘導体をゴムとして得た。残渣の0.3mlの濃塩酸を含有する酢酸エチル(130ml)溶液を、炭素(0.5g、5%)に担持されたパラジウム存在下で水素と2時間反応させた。混合物を濾過し、濾過液を濃縮乾固した。残渣をメタノールから結晶化させ、(1R)−1−(3,5−ジクロロ−4−5−イソプロポキシフェニル)−2−ホルミル−6−ヒドロキシ−1,2,3,4−テトラヒドロイソキノリン(4.2g)を得た。融点:196〜198℃、[α]20−207.7°(c=0.4、CHCl)。
【0112】
8.(1R)−1−(3,5−ジクロロ−4−イソプロポキシフェニル)−2−ホルミル−6−ヒドロキシ−1,2,3,4−テトラヒドロイソキノリン(7.0g)のジメチルホルムアミド(70ml)溶液を、水素化リチウム(350mg)によって80℃で40分間処理した。2,2,2−トリフルオロエチルメタンスルホネート(5.9g)を添加し、溶液を120℃で20時間加熱し、混合物を塩酸水溶液(2M、300ml)およびジクロロメタン(400ml)を使用して分離した。有機相を水酸化ナトリウム水溶液(2M、300ml)で洗浄し、乾燥し、濃縮乾固した。残渣を、溶離剤としてジクロロメタン/酢酸エチル(9:1)を使用してシリカゲルクロマトグラフィーによって精製し、(1R)−1−(3,5−ジクロロ−4−イソプロポキシフェニル)−2−ホルミル−6−(2,2,2−トリフルオロエトキシ)−1,2,3,4−テトラヒドロイソキノリン(4.0g)を粘性油状物として得た。[α]D20−50°(c=1.1、CHCl)。
【0113】
9.(1R)−1−(3,5−ジクロロ−4−イソプロポキシフェニル)−2−ホルミル−6−(2,2,2−トリフルオロエトキシ)−1,2,3,4−テトラヒドロイソキノリン(3.8g)のジクロロメタン溶液(40ml)を、三塩化ホウ素のジクロロメタン(1M、24ml)溶液によって−20℃で10分間処理した。反応混合物を室温で30分間放置した後、ジクロロメタン(200ml)および水(200ml)を添加した。混合物を20分間激しく撹拌した後、有機相を分離、乾燥、濃縮乾固して、(1R)−1−(3,5−ジクロロ−4−ヒドロキシフェニル)−2−ホルミル−6−(2,2,2−トリフルオロエトキシ)−1,2,3,4−テトラヒドロイソキノリン(3.5g)を非晶質固体として得た。[α]D20−55°(c=1.0、CHCl)。
【0114】
10.上記工程9に記載した物質の4’−O−ジエチルホスホリル誘導体を、実施例4の工程1で説明したように合成した。生成物は粘性油状物として単離した。
【0115】
11.基本的に実施例4の工程2で説明したように、4’−O−ジエチルホスホリル誘導体(工程10)をトリメチルブロモシランによって処理することにより、標記化合物を得た。生成物は非晶質固体として得た。[α]D20−38.9°(c=1.15、メタノール)。
【0116】
[実施例7:(1R)−1−(3,4,5−トリメトキシフェニル)−2−ホルミル−5−ヒドロキシ−6−メトキシ−1,2,3,4−テトラヒドロイソキノリンによるDU−145細胞内のMAPKおよびAKTのリン酸化の阻害]
DU−145細胞(前立腺癌)を無血清培地内で標記化合物とともに一晩中培養した。IGF−1(50nM)によって15分間活性化させた後、細胞を溶解し、溶解物をリン酸−MAPKおよびリン酸−AKTに関するイムノブロッティングによって分析した。IC50をそれぞれ50nM、40nMとする投与量依存方式で標記化合物を存在させることによって、MAPK(Erk1/2)およびAKTのリン酸化が阻害されることが分かった。
【0117】
標準としてのピクロポドフィリン(picropodophyllin)は、リン酸−MAPK(Erk1/2)を阻害するIC50が約5μMであることを示した。
【図面の簡単な説明】
【0118】
【図1】(1R)−1−(3,4,5−トリメトキシフェニル)−2−ホルミル−5−(リン酸二水素)−6−メトキシ−1,2,3,4−テトラヒドロイソキノリンのアルカリホスファターゼによる脱リン酸化率を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(I)で表される化合物およびその製剤学的に許容されうる塩。
【化1】

(式中、RはH、OH、CN、トリフルオロメチル、NH、NHCN、NHCOCH、NHCOCHCH、NHCHO、NHCOOCH、アミノ(C−C)アルキル、アミノ(C−C)ジアルキル、(C−C)アルコキシ、(C−C)アルキル、カルボニル−R(Rは水素、(C−C)アルキル、(C−C)アルコキシ、(C−C)アルキル−R10、(C−C)アルコキシ−R10、アミノ(C−C)アルキル−R10またはアミノ(C−C)ジアルキル−R10(R10は少なくとも1つのOMe、OEt、OPr、Oイソプロピル、OH、CN、NH、(C−C)アルキルを有するエステル基、(C−C)アルキルを有する炭酸エステル基を示す。)を示す。)を示し、
は水素、Me、Et、CHO、CN、OH、OMe、COR、COOR、CONHRまたはCSNHR(Rは(C−C)アルキルを示す。)を示し、
は水素、(C−C)アルキル、OH、(C−C)アルコキシ、部分的または完全にフッ化された(C−C)アルコキシ、トリフルオロメチル、ハロゲンまたはOXを示し、
はMe、ハロゲン、(C−C)アルコキシまたは部分的または完全にフッ化された(C−C)アルコキシ、SMeまたはSEtを示し、
nは1または2であり、
’およびR’は互いに独立してOH、Me、Et、OMe、部分的または完全にフッ化されたOMe、トリフルオロメチルまたはハロゲンを示し、
UはNまたはCR’(R’は水素、(C−C)アルキル、(C−C)アルコキシ、トリフルオロメチルまたはハロゲンを示す。)を示し、
VはNまたはCR’(R’は水素、(C−C)アルコキシ、部分的または完全にフッ化された(C−C)アルコキシ、(C−C)アルキル、OH、トリフルオロメチル、ハロゲンまたはOXを示す。)を示し、
WはNまたはCR’(R’は水素、(C−C)アルキル、(C−C)アルコキシ、トリフルオロメチルまたはハロゲンを示す。)を示し、
OXはプロドラッグ特性を与えることができる基を示す。)
【請求項2】
請求項1において、
がH、OH、NH、アミノ(C−C)、アミノ(C−C)ジアルキル、CHOH、COOCH、OCOOCH、メチルまたはEtである、化合物。
【請求項3】
請求項1において、
下記一般式(II)で表される化合物およびその製剤学的に許容されうる塩。
【化2】

(式中、少なくとも1つのOX基がRおよび/またはR’に含まれ、前記式(II)で表される化合物にプロドラッグ特性を与える)。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項において、
がMe、OH、CN、CHO、CORまたはCOORを示す、化合物。
【請求項5】
請求項4において、
がMe、CN、CHOまたはCOMeを示す、化合物。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項において、
が水素、Me、OMe、ハロゲン、OHまたはOXを示す、化合物。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項において、
がOCHF、OCHCF、OMeまたはOEtを示す、化合物。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項において、
がOX、OH、水素またはOMeを示し、
がOCHF、OCHCF、OMeまたはOEtを示す、化合物。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項において、
’およびR’がそれぞれ独立してクロロ、ブロモ、Me、OMeまたはOCHFを示す、化合物。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか1項において、
’およびR’が同一であるか、または、
’がクロロまたはブロモを示し、R’がOMeを示す、化合物。
【請求項11】
請求項9において、
’およびR’が共にクロロ、ブロモまたはOCHFを示す、化合物。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれか1項において、
UおよびWがCHを示し、VがCR’を示す、化合物。
【請求項13】
請求項12において、
’が水素、OH、クロロ、ブロモ、Me、OMe、OCHFまたはOXを示す、化合物。
【請求項14】
請求項1〜13のいずれか1項において、
’、R’およびR’がOMeを示すか、または、
’がクロロを示し、R’およびR’がOMeを示すか、または、
’が水素を示し、R’およびR’が共にクロロ、ブロモまたはOCHFを示す、化合物。
【請求項15】
請求項1〜14のいずれか1項において、
(R)−または(S)−鏡像異性体である、化合物。
【請求項16】
請求項1〜15のいずれか1項において、
OX基がリン酸エステル誘導体、エステル誘導体、炭酸エステル誘導体および/または架橋ポリ(エチレングリコール)誘導体を示す、化合物。
【請求項17】
請求項16において、
好ましい炭酸エステル誘導体が−OCOOCH、−OCOOC、−OCOOプロピル、−OCOOイソプロピル、−OCOOBu、−OCOO(m−COONa−Ph)、−OCOOCHCHCOONa、−OCOOCHCHN(CHである、化合物。
【請求項18】
請求項16において、
好ましいリン酸エステル誘導体が、(1R)−1−(3,4,5,−トリメトキシフェニル)−2−ホルミル−5−(リン酸二水素)−6−メトキシ−1,2,3,4−テトラヒドロイソキノリン、(1R)−1−(3,5−ジクロロフェニル)−2−ホルミル−5−(リン酸二水素)−6−ジフルオロメトキシ−1,2,3,4−テトラヒドロイソキノリン、(1R)−1−[3,5−ジクロロ−4−(リン酸二水素)フェニル]−2−ホルミル−6−ジフルオロメトキシ−1,2,3,4−テトラヒドロイソキノリン、それらに対応する6−(2,2,2−トリフルオロエトキシ)誘導体、2−シアノ誘導体、および2−アセチル誘導体、ならびにそれらの製剤学的に許容されうる塩である、化合物。
【請求項19】
請求項1〜18のいずれか1項において、
製剤学的に許容しうる塩が酸性の無機または有機化合物あるいはアルカリ性の無機または有機化合物から生成される、化合物。
【請求項20】
請求項1〜18のいずれか1項において、
薬剤として使用される、化合物。
【請求項21】
IGF−1受容体の発現または作用の抑制または阻害が有益である疾患の予防または治療のための薬剤の製造のための請求項1〜19のいずれか1項に記載の化合物の使用。
【請求項22】
請求項21において、
前記疾患が、癌等の細胞増殖疾患、アテローム性動脈硬化、再狭窄、乾癬等の炎症性疾患、慢性関節リウマチ等の自己免疫疾患、および移植拒絶反応から選択される、使用。
【請求項23】
IGF−1受容体の発現または作用の抑制または阻害が有益である疾患を、それらの治療または予防を必要とする患者において予防または治療するための方法であって、
請求項1〜19のいずれか1項に記載の化合物を、前記IGF−1受容体の発現または作用を抑制または阻害するために有効な量で前記患者に投与することを含む、方法。
【請求項24】
請求項23において、
前記疾患が、癌等の細胞増殖疾患、アテローム性動脈硬化、再狭窄、乾癬等の炎症性疾患、慢性関節リウマチ等の自己免疫疾患、および移植拒絶反応から選択される、方法。
【請求項25】
請求項1〜19のいずれか1項に記載の化合物と、
製薬学的に許容しうる助剤、希釈剤または担体と、
を含む、医薬組成物。
【請求項26】
請求項1〜19のいずれか1項に記載の化合物と、化学療法薬とを、IGF−1受容体の発現または作用の抑制または阻害が有益である疾患の治療において同時に、別々にまたは連続して投与するための組み合わせとして含む、物品。
【請求項27】
実験動物における細胞周期活性阻害剤の作用を評価するためのインビトロおよび/またはインビボの試験の開発および標準化における薬理学ツールとしての請求項1〜19のいずれか1項に記載の化合物の使用。

【図1】
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【公表番号】特表2009−507820(P2009−507820A)
【公表日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−529711(P2008−529711)
【出願日】平成18年9月8日(2006.9.8)
【国際出願番号】PCT/IB2006/002474
【国際公開番号】WO2007/029107
【国際公開日】平成19年3月15日(2007.3.15)
【出願人】(506306802)
【氏名又は名称原語表記】ANALYTECON S.A.
【住所又は居所原語表記】Rue du Pr・Jorat 30, CH−2108 Couvet Switzerland
【Fターム(参考)】