説明

III族窒化物結晶の製造方法とそれに用いるシード

【課題】アモノサーマル法や液相法によりIII族窒化物結晶を簡便で効率良く製造する方法を提供する。
【解決手段】貫通孔102を有する100mg以上のIII族窒化物単結晶シード101に、前記貫通孔を利用して前記貫通孔にワイヤーを通して、前記III族窒化物単結晶シードを位置決めした状態で、オートクレーブ1中に吊り下げ、超臨界状態及び/又は亜臨界状態にある窒素を含有する溶媒6中でIII族窒化物結晶を成長させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、III族窒化物結晶の新規な製造方法とそれに用いるシードに関する。
【背景技術】
【0002】
アモノサーマル法や液相法によりGaNなどのIII族窒化物結晶を製造しようとする場合、同種の結晶をシードとして、その上にIII族窒化物結晶を育成することにより製造するのが一般的である。シードは、通常は板状や棒状に成型加工された単結晶であり、反応容器中において位置決めしたうえでIII族窒化物結晶の育成に用いられる。このときのシードの位置決めは、種々の方法により行われている。
例えば、シードとなる結晶をワイヤー等で縛ったうえで反応容器内の所定の位置に設置する方法がある。ワイヤー等で縛る際には、少なくともシードとなる結晶の外表面を1周させる必要があるが、通常はワイヤー等により結晶をより確実に縛るために結晶の外表面を2周以上させている。しかしながら、この方法により位置決めしたシードを用いてIII族窒化物結晶を育成すると、育成のための昇温中にシード表面が溶融してワイヤー等からシードが脱落してしまうことがあるうえ、脱落しなかったとしてもワイヤー等を巻いた部分に育成するIII族窒化物結晶の歩留まりが低下してしまうという問題があった。また、この方法では大型の結晶を縛って位置決めすることが困難であるため、小型の結晶しかシードとして用いることができないという問題もあり、さらにはPt等の高価な材料からなるワイヤーをシードとなる結晶の周りに多重に巻くことによるコストアップの問題もあった。
【0003】
このような問題点の幾つかに対処する方法として、特許文献1には、12.6〜48.4mgの小型の結晶に高出力レーザーで貫通孔をあけておき、その貫通孔にワイヤーを通して反応容器中に吊り下げたうえで、アモノサーマル法によりGaN結晶を育成する方法が記載されている(特許文献1実施例1〜5参照)。この文献には、径が0.13mmのワイヤーを用いたことが記載されているが、結晶に形成した貫通孔のサイズや位置などの詳細については記載されていない。一方、反応容器中におけるシードの吊り下げ方については、例えば特許文献2には、バッフルの下に吊す方法などが開示されている(特許文献2[0029]参照)。
また、ワイヤー等を使用しない方法も提案されている。特許文献3には、シードとなる結晶を溝付きのシードラックにはめ込んだり、クリップを用いてシードラックに取り付けたりしたうえで、アモノサーマル法によりGaN結晶を育成することが記載されている(特許文献3図2(a)参照)。さらに、特許文献4には、ホルダー内にシードとなる結晶を固定したうえで反応容器内に設置し、アモノサーマル法によりGaN結晶を育成することが記載されている(特許文献4図2、図7、図23参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2006−513122号公報
【特許文献2】特表2008−521737号公報
【特許文献3】WO2010/017232号公報
【特許文献4】特表2008−521737号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者らが上記特許文献に記載されている方法について検討を行った結果、特許文献1に記載されるように12.6〜48.4mgの小型の結晶に貫通孔を形成することにより得たシードを用いてIII族窒化物結晶を育成すると、幾つかの問題があることが判明した。まず、シード上に育成されるIII族窒化物結晶が必ずしも良質ではなく、そのサイズも小さいという問題があることが判明した。また、反応容器中でシードを吊り下げてIII族窒化物結晶の育成を行っても、シードがワイヤーから脱落して落下してしまったり大型の結晶を育成するにはワイヤーが細く強度が不足するため結晶成長中にワイヤーが切断し結晶が落下したりしやすいという問題があることも判明した。さらに、シードの取り扱いが容易ではなく、取り扱い中に破損などの危険性があることも判明した。
【0006】
一方、特許文献3や4に記載されるようにシードラックやホルダーを用いてシードを固定する方法は、そもそもシードラックやホルダーを設計して製造することが煩雑であるという問題がある。また、様々な形状を有するシードを用いる場合に、柔軟に対応できないという問題もある。さらには、シードラックやホルダーといったかさばる治具を反応容器内に入れることにより、原料の対流阻害の問題や、多数のシードを設置できないという問題もある。また、シードと接触する面積が大きくホルダーとシードとの熱膨張差により成長した結晶が破損するという問題もある。別の問題としては、使用する鉱化剤の種類によっては高価な貴金属を使用する必要があるが、その場合シードラックやホルダーに要する材料コストが極めて高くなるといった問題もある。
【0007】
このように、従来の方法では、結晶を保持するための充分な強度と結晶に対するダメージを最小限に抑えることを両立できていなかったために、ソルボサーマル法や液相法によって簡便で効率良くIII族窒化物結晶を育成することが困難であった。そこで本発明らは、このような従来技術の課題を解決して、アモノサーマル法や液相法によりIII族窒化物結晶を簡便で効率良く製造することを目的として検討を進めた。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは鋭意検討した結果、比較的大型なIII族窒化物単結晶に貫通孔を設けて、これをシードとしてアモノサーマル法または液相法によりIII族窒化物結晶を育成すれば課題を解決できることを見出した。その結果、以下の構成を有する本発明を提供するに至った。
[1] 貫通孔を有する100mg以上のIII族窒化物単結晶シード上にIII族窒化物結晶を成長させることを特徴とする、III族窒化物結晶の製造方法。
[2] 前記III族窒化物単結晶シードの主面の面積が50mm2以上である[1]に記載のIII族窒化物結晶の製造方法。
[3] 前記III族窒化物単結晶シード表面における前記貫通孔の最大径が0.2〜2mmである[1]または[2]に記載のIII族窒化物結晶の製造方法。
[4] 前記III族窒化物単結晶シードが2つ以上の貫通孔を有する[1]〜[3]のいずれか一項に記載のIII族窒化物結晶の製造方法。
[5] 前記III族窒化物単結晶シードの周縁から内側へ0.5mm以内の領域に貫通孔が存在しない[1]〜[4]のいずれか一項に記載のIII族窒化物結晶の製造方法。
[6] 前記III族窒化物単結晶シードの周縁から内側へ0.5〜10.0mmの領域に前記貫通孔が設けられている[1]〜[5]のいずれか一項に記載のIII族窒化物結晶の製造方法。
[7] III族窒化物単結晶シードに貫通孔を形成することにより、前記貫通孔を有する100mg以上のIII族窒化物単結晶シードを得ることをさらに含む[1]〜[6]のいずれか一項に記載のIII族窒化物結晶の製造方法。
[8] 前記貫通孔の形成後に、該貫通孔の形成により生じた加工歪み層をケミカルエッチングにより除去する[7]に記載のIII族窒化物結晶の製造方法。
[9] 前記貫通孔を利用して前記III族窒化物単結晶シードを位置決めした状態で前記III族窒化物結晶を成長させる[1]〜[8]のいずれか一項に記載のIII族窒化物結晶の製造方法。
[10] 前記貫通孔にワイヤーを通して前記III族窒化物単結晶シードを吊り下げる[9]に記載のIII族窒化物結晶の製造方法。
[11] 前記ワイヤーの直径が0.1〜1.9mmである[10]に記載のIII族窒化物結晶の製造方法。
[12] 前記ワイヤーの強度が10kg/mm2以上である[9]または[10]に記載のIII族窒化物結晶の製造方法。
[13] 前記III族窒化物結晶の成長を、成長後の結晶全体の重量が前記ワイヤーの耐加重の1/4を超えない範囲で行う[9]〜[12]のいずれか一項に記載のIII族窒化物結晶の製造方法。
[14] 前記貫通孔にフックをかけて前記III族窒化物単結晶シードを吊り下げることを特徴とする[9]に記載のIII族窒化物結晶の製造方法。
[15] 前記III族窒化物結晶を10g以上成長させる[1]〜[14]のいずれか一項に記載のIII族窒化物結晶の製造方法。
[16] 前記III族窒化物結晶の成長を超臨界状態及び/又は亜臨界状態にある窒素を含有する溶媒中で行う[1]〜[15]のいずれか一項に記載のIII族窒化物結晶の製造方法。
[17] 前記貫通孔が形成されていないIII族窒化物単結晶シードの直上に形成されたIII族窒化物結晶を切り出してウェハーを得ることをさらに含む[1]〜[16]のいずれか一項に記載のIII族窒化物結晶の製造方法。
[18] 前記III族窒化物が窒化ガリウムである[1]〜[17]のいずれか一項に記載のIII族窒化物結晶の製造方法。
[19] [1]〜[18]のいずれか一項に記載の製造方法により製造されるIII族窒化物結晶。
[20] [1]〜[18]のいずれか一項に記載の製造方法により製造されるIII族窒化物結晶を切り出したIII族窒化物ウェハー。
[21] 貫通孔を有する100mg以上のIII族窒化物単結晶シード。
【発明の効果】
【0009】
本発明の製造方法によれば、大型で品質が良好なIII族窒化物結晶を簡便で効率良く製造することが可能である。特に、本発明の製造方法によれば、かさばる治具を用いることなく、簡単な操作で大型のIII族窒化物結晶を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明においてシードとして用いることができるIII族窒化物単結晶の具体例を示す斜視図である。
【図2】円柱状のシードの上面図である。
【図3】本発明で用いることができるアモノサーマル法による結晶製造装置の模式図である。
【図4】本発明で用いることができるアモノサーマル法による別の結晶製造装置の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下において、本発明のIII属窒化物結晶の製造方法ついて詳細に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、本発明の代表的な実施態様に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施態様に限定されるものではない。
また、本明細書において「〜」を用いて表される数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
【0012】
[III族窒化物結晶の製造方法]
本発明のIII族窒化物結晶の製造方法は、貫通孔を有する100mg以上のIII族窒化物単結晶シード上にIII族窒化物結晶を成長させることを特徴とする。以下において、本発明の製造方法に用いるシードや結晶成長の方法について順に詳しく説明する。
【0013】
(III族窒化物単結晶シードの種類と構成)
本発明の製造方法に用いるIII族窒化物単結晶シード(以下、単に「シード」と称する場合がある)は、反応容器中に設置して、その上にIII族窒化物結晶を成長させるために用いられる。
III族窒化物結晶の種類としては、GaN、InN、AlN、InGaN、AlGaN、AllnGaNなどを挙げることができる。好ましいのは少なくともGaとNを含む結晶であり、より好ましくはGaN、AlGaN、AllnGaNであり、さらに好ましくはGaNである。本発明の製造方法では、シード上に成長させようとしているIII族窒化物結晶と同一種のIII族窒化物単結晶をシードとして用いることが好ましい。例えば、シード上にGaN結晶を成長させることを意図している場合は、シードとしてGaN単結晶を選択することが好ましい。
【0014】
シードの形状は特に制限されない。立方体、長方体、円柱状、多角柱状などの種々の形状を有する結晶をシードとして用いることができる。好ましいのは、大きな主面を有する結晶である。ここでいう主面とは、結晶中において最も面積が大きい面を意味する。シードの主面の種類は特に制限されない。シードの主面は、極性面であっても、非極性面であっても、半極性面であってもよい。本発明の製造方法では、主面を含むシードの表面全体上にIII族窒化物結晶を成長させることが好ましく、主としてシードの主面上にIII族窒化物結晶を成長させることがより好ましい。ここで、主としてシードの主面上に成長させるとは、シードの主面に垂直な方向の成長速度が最も速い場合を意味する。シードの主面の面方位は、最終的に使用したいIII族窒化物結晶やウェハーの主面やサイズ等を考慮して決定することができる。シードの主面と最終的に使用したいIII族窒化物結晶やウェハーの主面は一致させることが好ましいが、シード上に育成したIII族窒化物結晶を所望の方向に切り出してウェハーを切り出すこともできるため主面は一致させなくても構わない。
【0015】
シードの主面の面積は、50mm2以上であることが好ましく、200mm2以上であることがより好ましく、400mm2以上であることがさらに好ましい。また、シードの最大径は10mm以上であることが好ましく、20mm以上であることがより好ましく、50mm以上であることがさらに好ましい。シードの厚み(典型的には主面に垂直な方向の厚み)は、取り扱い易さと貫通孔形成の容易性の観点から、0.1mm以上であることが好ましく、0.2mm以上であることがより好ましく、0.3mm以上であることがさらに好ましい。
【0016】
本発明でシードとして用いるIII族窒化物単結晶の製造法は特に制限されない。例えばHVPE法、アモノサーマル法、フラックス法などで製造した単結晶を用いることができるが、なかでもアモノサーマル法で製造した単結晶を用いることが欠陥密度が低く、結晶性が高い点で好ましい。また、製造した単結晶は本発明の製造方法に使用する前に、研磨、エッチングなどの方法により表面を平滑化しておくことが好ましい。
【0017】
(貫通孔)
本発明でシードとして用いるIII族窒化物単結晶は、少なくとも1つの貫通孔を有する。1つのIII族窒化物単結晶に形成される貫通孔の数は、1〜6であることが好ましく、1〜5であることがより好ましく、1〜4であることがさらに好ましい。貫通孔を複数設けたIII族窒化物単結晶をシードとして用いれば、結晶成長中のシードの回転、揺れを抑制し高品質な結晶を成長させることが可能である。また、複数設けた貫通孔のそれぞれにワイヤーやフックなどの位置決め手段を適用することにより、反応容器中でIII族窒化物結晶が成長する場のより正確な位置決めを行うことが可能になり、反応温度の設定などが容易になるため好ましい。また、複数設けた貫通孔のそれぞれにワイヤーやフックなどを通して固定することにより、主面の傾きを鉛直方向に対して平行から垂直まで任意の傾きに固定することが可能となり、これにより結晶の成長速度や品質を制御することが可能となる。一方、貫通孔を1つにすれば一段と簡便に本発明の製造方法を実施することができるうえ、貫通孔を除く領域を広く確保することができるため、その上にIII族窒化物結晶をより多く育成して利用することが可能になる。1つのIII族窒化物単結晶に2つ以上の貫通孔を形成する場合、各貫通孔のサイズはそれぞれ異なっていても同一であってもよい。
【0018】
III族窒化物単結晶に形成される貫通孔は、III族窒化物単結晶の1つの表面を起点として、別の表面を終点とする孔である。貫通孔は必ずしも直線状である必要はないが、形成しやすさの点から一定の径を持った直線状の孔であることが好ましい。また、貫通孔は主面上に形成されていても、主面以外の面上に形成されていてもよいが、好ましいのは主面上に形成されている場合である。貫通孔は、主面に対して垂直な方向に伸長していることが好ましい。図1に、本発明においてシードとして用いることができる典型的なIII族窒化物単結晶101の具体例を示す。貫通孔102は、主面103に対して垂直な方向に直線状に伸長している。
シード表面における貫通孔の最大径は0.2mm以上であることが好ましく、0.3mm以上であることがより好ましく、0.4mm以上であることがさらに好ましい。最大径は2mm以下であることが好ましく、1.5mm以下であることがより好ましく、1.0mm以下であることがさらに好ましい。孔の最大径が2.0mm以下であれば、結晶成長過程で孔が埋まり高品質な結晶を成長させることができる。
【0019】
シードとして用いるIII族窒化物単結晶において貫通孔を形成する位置は、単結晶の周縁に近すぎないことが好ましい。単結晶の周縁から、貫通孔の最も単結晶周縁に近い孔端までの距離は、0.5mm超であることが好ましく、0.8mm超であることがより好ましく、1.0mm超であることがさらに好ましい。III族窒化物単結晶の周縁から内側へ0.5mm以内の領域に貫通孔が存在しないようにシードを設計すれば、III族窒化物結晶を育成するために昇温した際に貫通孔と周縁までの間の領域が溶融して貫通孔が周縁の一部となってしまうのを防ぎやすくなる。こうすることによって、例えば貫通孔にワイヤーを通してシードを反応容器内に設置したときに、III族窒化物結晶がワイヤーから外れて脱落する事態をより防ぎやすくなる。一方、貫通孔の位置は、周縁部から遠すぎないことも好ましい。貫通孔近傍に成長するIII族窒化物結晶は他の主面上に成長するIII族窒化物結晶に比べて品質が劣ることが多いため、貫通孔が形成されていない主面領域をできるだけ広くしておいて、その上に良質なIII族窒化物結晶を育成することが好ましい。このような観点から、単結晶の周縁から、貫通孔の最も単結晶周縁に遠い孔端までの距離は、10.0mm以下であることが好ましく、5.0mm以下であることがより好ましく、2.0mm以下であることがさらに好ましい。
【0020】
III族窒化物単結晶の周縁から内側へ0.5〜10.0mmの領域だけに貫通孔が存在するようにシードを設計すれば、昇温時にシードの脱落を防ぎやすくなるうえ、より大きくて良質なIII族窒化物結晶を育成しやすくなる。例えば、円柱状のシードを用いる場合、図2に示すように周縁111から内側へ0.5mmまでの周縁近傍領域112と、周縁111から内側へ10.0mm超の中央領域114には貫通孔を形成せず、中間領域113にのみ貫通孔を形成すれば、昇温中に周縁近傍領域112の周縁付近が溶融したとしても貫通孔は維持され、なおかつ中央領域114を含む広いシード表面上に良質なIII族窒化物結晶を育成することができる。
【0021】
貫通孔の形成方法としては、III族窒化物結晶の貫通孔形成に用いられる方法を適宜選択して用いることができる。例えば、レーザーなどの非接触タイプの手段を用いて貫通孔を形成してもよいし、超音波やドリルなどの接触タイプの手段を用いて貫通孔を形成してもよい。また、これらの手段を組み合わせて用いてもよい。貫通孔形成後は、貫通孔形成箇所およびその近傍を含む領域について表面処理を行うことが好ましい。表面処理法としては、例えばケミカルエッチング、研磨、バフ研磨等を挙げることができ、ケミカルエッチングを採用することがコストや簡便性の点で好ましい。ケミカルエッチングの具体例として飽和KOH溶液などの強アルカリ溶液を用いて100℃程度でエッチングする方法を好ましい方法として例示することができる。このように、貫通孔形成後に表面処理を行うことによって、貫通孔の形成により生じた加工歪み層を除去することができ、その上に育成されるIII族窒化物結晶の品質を良化することができる。
【0022】
(位置決め)
貫通孔を形成したIII族窒化物単結晶シードは、その上にIII族窒化物結晶を成長させるために反応容器内に設置する。このとき、III族窒化物単結晶シードは、位置決め手段を用いて反応容器内で貫通孔を利用して位置決めしておくことが好ましい。位置決め手段としては、ワイヤー、フック、あるいはこれらの組み合わせなどを用いることが可能であるが、本発明ではワイヤーを用いることが好ましい。ワイヤーを用いる場合、ワイヤーをIII族窒化物単結晶シードの貫通孔に挿通し、反応容器に固定されている治具や反応容器側面にワイヤーを保持することによりIII族窒化物単結晶シードを位置決めすることができる。ここでいう位置決めとは、III族窒化物単結晶シードが動かないように固定する場合と、III族窒化物単結晶シードがある限られた領域内を移動しうるようにする場合の両方を含むものである。例えば、III族窒化物単結晶シードに2つ以上の貫通孔を設けておき、各貫通孔にワイヤーを挿通してワイヤーの端を反応容器内に設置されている治具や反応容器側壁に固定することにより、III族窒化物単結晶シードが動かないように固定することができる。また、III族窒化物単結晶シードに設けられた1つの貫通孔にワイヤーを挿通し、ワイヤーの端を反応容器内に設置されている治具(例えばシードラックなど)に結びつけることにより、治具からIII族窒化物単結晶シードが吊り下げられた状態にして一定の領域内をIII族窒化物単結晶シードが移動できるようにしてもよい。本発明では、後者のように、一定の領域内をIII族窒化物単結晶シードが移動できるように位置決めしておくことが、シード上により均一なIII族窒化物結晶を育成しうる点で好ましい。本発明では、1本のワイヤーに複数のIII族窒化物単結晶シードを挿通してもよい。
【0023】
ワイヤーを用いる場合、ワイヤーの直径は、0.1mm以上であることが好ましく、0.15mm以上であることがより好ましく、0.2mm以上であることがさらに好ましい。また、ワイヤーの直径は1.9mm以下であることが好ましく、1.5mm以下であることがより好ましく、1.0mm以下であることがさらに好ましい。ワイヤーの直径は、III族窒化物単結晶シードの貫通孔の直径よりも小さくなければならず、その直径の差は0.01mm以上であることが好ましく、0.05mm以上であることがより好ましく、0.1mm以上であることがさらに好ましく、また、1.9mm以下であることが好ましく、1.5mm以下であることがより好ましく、1.0mm以下であることがさらに好ましい。
【0024】
本発明で使用するワイヤーの強度は10kg/mm2以上であることが好ましく、15kg/mm2以上であることがより好ましく、20kg/mm2以上であることがさらに好ましい。また、上限値については例えば400kg/mm2以下にすることができる。ワイヤーは耐食性の材料で構成されていることが好ましく、例えばPt、Pt合金、W、W合金、Ta、Ta合金、Mo、Mo合金、Ti、Ti合金、Nb、Nb合金、Ni、Ni合金、Ag、Ag合金、Au、Au合金製のワイヤーを好ましく採用することができる。
【0025】
本発明の製造方法にしたがって、貫通孔を有するIII族窒化物単結晶シードを用いれば、上記のようにシードをより簡便な方法で効率良く位置決めすることができる。従来技術のようにシードラックやホルダー内にシードを固定すると、シードに応力がかかるため、シードに歪みや割れが発生することがあったが、本発明にしたがって貫通孔を有するIII族窒化物単結晶シードを用いれば、そのような問題を解消させることができる。特にシードホルダーの場合はシードとの接触面積が大きく、結晶成長過程でシードラックが結晶内部に取り込まれると、シードラックと成長した結晶との熱膨張差により結晶が破損することがあった。太すぎるワイヤーを用いた場合も同様に破損の可能性があるが、2.0mm以下のワイヤーを用いれば破損の確率を大幅に低減させ良質な結晶を成長させることができる。また、固定具にシードを固定すると、固定具に接しているシード面からはIII族窒化物結晶を成長させることができないが、本発明にしたがってIII族窒化物単結晶シードを吊すなどの位置決めを行えば、シードの全面を有効に活用することができ、歩留まりを向上させることができる。さらに、本発明にしたがって貫通孔を有するIII族窒化物単結晶シードを用いれば、大型の結晶であってもシードとして用いることができ、比較的大きな貫通孔を形成して太いワイヤーを用いることもできる。また、貫通孔以外の領域を広くしておくことにより、シード上に高品質なIII族窒化物結晶を育成できるようにすることもできる。
【0026】
(結晶成長)
反応容器内に設置したIII族窒化物単結晶シード上には、ソルボサーマル法や液相法によりIII族窒化物結晶を育成する。このとき、III族窒化物単結晶シードの主面を含む表面上にIII族窒化物結晶を育成することが好ましい。III族窒化物結晶は、III族窒化物単結晶シードの貫通孔を覆うように育成することが可能であり、また、貫通孔に挿通しているワイヤー等も覆うように育成することが可能である。貫通孔の径、ワイヤーの径が上記の好ましい範囲内であれば、貫通孔およびワイヤー部を覆うように成長した部分からクラックなどの破損が進展することなく良質な結晶を成長させることが出来る。III族窒化物単結晶シード上へのIII族窒化物結晶の育成は、育成されるIII族窒化物結晶の重量が例えば10g以上、好ましくは30g以上、さらに好ましくは50g以上になるまで行うことが可能である。上限については、III族窒化物単結晶シードを吊り下げているワイヤーの耐加重や最終的に使用したいIII族窒化物結晶のサイズなどに応じて決定することができる。ワイヤーに吊り下げられているIII族窒化物単結晶シード上へのIII族窒化物結晶の成長は、成長後の結晶全体の重量がワイヤーの耐加重の1/4を超えない範囲で行うことが好ましく、1/6を超えない範囲で行うことがより好ましく、1/10を超えない範囲で行うことがさらに好ましい。
【0027】
結晶成長の方法については特に限定されないが、アモノサーマル法、水熱合成法などのソルボサーマル法や化学平衡法、温度差法、Naフラックス法などの液相法を挙げることができる。本発明では、特にアモノサーマル法を用いることが好ましい。「アモノサーマル法」は、超臨界状態及び/又は亜臨界状態にあるアンモニア溶媒などの窒素を含有する溶媒を用いて、原材料の溶解−析出反応を利用して所望の材料を製造する方法である。アモノサーマル法を結晶成長へ適用するときは、溶媒への原料溶解度の温度依存性を利用して温度差により過飽和状態を発生させて結晶を析出させる。たとえば溶媒としてアンモニアを用いる場合には、アモノサーマル法による結晶成長は、高温高圧の超臨界アンモニア環境下での反応であり、さらに、超臨界状態の純アンモニア中へのIII族窒化物の溶解度が極めて小さいため、溶解度を向上させ結晶成長を促進させるために鉱化剤が用いられる。本発明のIII族窒化物結晶の製造方法は、シード、窒素を含有する溶媒、原料、ならびに鉱化剤を入れた反応容器内の温度及び圧力を、前記溶媒が超臨界状態及び/又は亜臨界状態となるように制御して前記シードの表面に窒化物結晶を成長させる工程を含むことが好ましい。
【0028】
以下において、アモノサーマル法を用いて本発明のIII族窒化物結晶を製造する方法について詳しく説明するが、本発明の結晶育成工程はこれに限定されるものではない。
1)鉱化剤
本発明では、一般にアモノサーマル法において用いられる鉱化剤を適宜選択して用いることができる。用いる鉱化剤は、塩基性鉱化剤であっても、酸性鉱化剤であってもよい。塩基性鉱化剤としては、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類金属と窒素原子を含む化合物で、アルカリ土類金属アミド、希土類アミド、窒化アルカリ金属、窒化アルカリ土類金属、アジド化合物、その他ヒドラジン類の塩が挙げられる。好ましくは、アルカリ金属アミドで、具体例としてはナトリウムアミド(NaNH2)、カリウムアミド(KNH2)、リチウムアミド(LiNH2)が挙げられる。また、酸性鉱化剤としては、ハロゲン原子を含む化合物で、ハロゲン化アンモニウム等が挙げられる、例えば塩化アンモニウム(NH4Cl)、ヨウ化アンモニウム(NH4I)、臭化アンモニウム(NH4Br)、フッ化アンモニウム(NH4F)である。本発明では、ハロゲン化アンモニウムを含む酸性鉱化剤を用いることが好ましい。前記ハロゲン化アンモニウムを鉱化剤として添加する代わりに、ハロゲン化水素ガスとして添加してもよい。ハロゲン化水素ガスは反応容器中でアンモニアと反応することによりハロゲン化アンモニウムを生成する。ここで用いる鉱化剤としては、上記のうち1種を単独で用いても、複数種を混合して用いてもよい。
【0029】
なお、前記結晶成長を行う際には、反応容器にハロゲン化アルミニウム、ハロゲン化リン、ハロゲン化シリコン、ハロゲン化ゲルマニウム、ハロゲン化亜鉛、ハロゲン化ヒ素、ハロゲン化スズ、ハロゲン化アンチモン、ハロゲン化ビスマスなどを存在させておいてもよい。
鉱化剤に含まれるハロゲン元素のアンモニアなどの溶媒に対するモル濃度は0.1mol%以上とすることが好ましく、0.3mol%以上とすることがより好ましく、0.5mol%以上とすることがさらに好ましい。また、鉱化剤に含まれるハロゲン元素のアンモニアなどの溶媒に対するモル濃度は30mol%以下とすることが好ましく、20mol%以下とすることがより好ましく、10mol%以下とすることがさらに好ましい。濃度が低すぎる場合、溶解度が低下し成長速度が低下する傾向がある。一方濃度が濃すぎる場合、溶解度が高くなりすぎて自発核発生が増加したり、過飽和度が大きくなりすぎたりするため制御が困難になるなどの傾向がある。
【0030】
2)溶媒
アモノサーマル法に用いられる溶媒としては、窒素を含有する溶媒を用いることができる。窒素を含有する溶媒としては、成長させる窒化物単結晶の安定性を損なうことのない溶媒が挙げられる。前記溶媒としては、例えば、アンモニア、ヒドラジン、尿素、アミン類(例えば、メチルアミンのような第1級アミン、ジメチルアミンのような第二級アミン、トリメチルアミンのような第三級アミン、エチレンジアミンのようなジアミン)、メラミン等を挙げることができる。これらの溶媒は単独で用いてもよいし、混合して用いてもよい。
溶媒に含まれる水や酸素の量はできるだけ少ないことが望ましく、これらの含有量は1000ppm以下であることが好ましく、10ppm以下であることがより好ましく、0.1ppm以下であることがさらに好ましい。アンモニアを溶媒として用いる場合、その純度は通常99.9%以上であり、好ましくは99.99%以上であり、さらに好ましくは99.999%以上であり、特に好ましくは99.9999%以上である。
【0031】
3)原料
本発明の製造方法においては、シード上に成長させようとしているIII族窒化物結晶を構成する元素を含む原料を用いる。好ましくはIII族窒化物結晶の多結晶原料及び/又はIII族元素の金属であり、より好ましくは窒化ガリウム及び/又はガリウムである。多結晶原料は、完全な窒化物である必要はなく、条件によってはIII族元素がメタルの状態(ゼロ価)である金属成分を含有してもよく、例えば、結晶が窒化ガリウムである場合には、窒化ガリウムと金属ガリウムの混合物が挙げられる。
前記多結晶原料の製造方法は、特に制限されない。例えば、アンモニアガスを流通させた反応容器内で、金属又はその酸化物もしくは水酸化物をアンモニアと反応させることにより生成した窒化物多結晶を用いることができる。また、より反応性の高い金属化合物原料として、ハロゲン化物、アミド化合物、イミド化合物、ガラザンなどの共有結合性M−N結合を有する化合物などを用いることができる。さらに、Gaなどの金属を高温高圧で窒素と反応させて作製した窒化物多結晶を用いることもできる。
【0032】
本発明において原料として用いる多結晶原料に含まれる水や酸素の量は、少ないことが好ましい。多結晶原料中の酸素含有量は、通常10000ppm以下、好ましくは1000ppm以下、特に好ましくは1ppm以下である。多結晶原料への酸素の混入のしやすさは、水分との反応性又は吸収能と関係がある。多結晶原料の結晶性が悪いほど表面にNH基などの活性基が多く存在し、それが水と反応して一部酸化物や水酸化物が生成する可能性がある。このため、多結晶原料としては、通常、できるだけ結晶性が高い物を使用することが好ましい。結晶性は粉末X線回折の半値幅で見積もることができ、(100)の回折線(ヘキサゴナル型窒化ガリウムでは2θ=約32.5°)の半値幅が、通常0.25°以下、好ましくは0.20°以下、さらに好ましくは0.17°以下である。
【0033】
4)反応容器
アモノサーマル法は、反応容器中で実施することができる。
前記反応容器は、窒化物結晶を成長させるときの高温高圧条件に耐え得るもの中から選択することができる。前記反応容器としては、特表2003−511326号公報(国際公開第01/024921号パンフレット)や特表2007−509507号公報(国際公開第2005/043638号パンフレット)に記載されるように反応容器の外から反応容器とその内容物にかける圧力を調整する機構を備えたものであってもよいし、そのような機構を有さないオートクレーブであってもよい。
前記反応容器は、耐圧性と耐食性を有する材料で構成されているものが好ましく、特にアンモニア等の溶媒に対する耐食性に優れたNi系の合金、ステライト(デロロ・ステライト・カンパニー・インコーポレーテッドの登録商標)等のCo系合金を用いることが好ましい。より好ましくはNi系の合金であり、具体的には、Inconel625(Inconelはハンティントン アロイズ カナダ リミテッドの登録商標、以下同じ)、Nimonic90(Nimonicはスペシャル メタルズ ウィギン リミテッドの登録商標、以下同じ)、RENE41(Teledyne Allvac, Incの登録商標)、Inconel718(Inconelはハンティントン アロイズ カナダ リミテッドの登録商標)、ハステロイ(Haynes International,Incの登録商標)、ワスパロイ(United Technologies,Inc.の登録商標)が挙げられる。
【0034】
これらの合金の組成比率は、系内の溶媒の温度や圧力条件、及び系内に含まれる鉱化剤及びそれらの反応物との反応性及び/又は酸化力・還元力、pHの条件に従い、適宜選択すればよい。これらを反応容器の内面を構成する材料として用いるには、反応容器自体をこれらの合金を用いて製造してもよく、内筒として薄膜を形成して反応容器内に設置してもよく、任意の反応容器の材料の内面にメッキ処理を施してもよい。
反応容器の耐食性をより向上させるために、貴金属の優れた耐食性を利用して、貴金属を反応容器の内表面をライニング又はコーティングしてもよい。また、反応容器の材質を貴金属とすることもできる。ここでいう貴金属としては、Pt、Au、Ir、Ru、Rh、Pd、Ag、及びこれらの貴金属を主成分とする合金が挙げられ、中でも優れた耐食性を有するPtを用いることが好ましい。
【0035】
次に図3および4を用いて前記反応容器について説明する。図3は、本発明で用いることができる結晶製造装置の模式図である。図4は、本発明で用いることができる別の結晶製造装置の模式図である。
図3に示される結晶製造装置においては、オートクレーブ1中に反応容器として装填されるカプセル20中で結晶成長を行う。カプセル20中は、原料を溶解するための原料溶解領域9と結晶を成長させるための結晶成長領域6から構成されている。原料溶解領域9には原料8とともに溶媒や鉱化剤を入れることができ、結晶成長領域6にはシード7をワイヤーで吊すなどして設置することができる。原料溶解領域9と結晶成長領域6の間には、2つの領域を区画バッフル板5が設置されている。バッフル板5の開孔率は2〜60%であるものが好ましく、3〜40%であるものがより好ましい。バッフル板の表面の材質は、反応容器であるカプセル20の材料と同一であることが好ましい。また、より耐食性を持たせ、成長させる結晶を高純度化するために、バッフル板の表面は、Ni、Ta、W、Mo、Ti、Nb、Pd、Pt、Au、Ir、pBNであることが好ましく、Pd、Pt、Au、Ir、pBNであることがより好ましく、Ptであることが特に好ましい。図3に示される結晶製造装置では、オートクレーブ1の内壁とカプセル20の間の空隙には、第2溶媒を充填することができるようになっている。ここには、バルブ10を介して窒素ボンベ13から窒素ガスを充填したり、アンモニアボンベ12からマスフローメーター14で流量を確認したりしながら第2溶媒としてアンモニアを充填することができる。また、真空ポンプ11により必要な減圧を行うこともできる。なお、本発明のIII族窒化物結晶の製造方法を実施する際に用いる結晶製造装置には、バルブ、マスフローメーター、導管は必ずしも設置されていなくてもよい。
【0036】
前記窒化物結晶の製造方法に用いることができる別の結晶製造装置の具体例を図4に示す。図4に示される結晶製造装置では、カプセルを使用せず、オートクレーブ内を反応容器として結晶成長が行われる。オートクレーブ1中は図3の結晶製造装置のカプセル20中と同様に、原料を溶解するための原料溶解領域9と結晶を成長させるための結晶成長領域6とから構成されている。その他の部材の設置も、図3の結晶製造装置と同様に上述の通りとすることができる。
前記オートクレーブにより耐食性を持たせるためにライニングを使用することもできる。ライニングする材料として、Pt、Ir、Ag、Pd、Rh、Cu、Au及びCのうち少なくとも一種類以上の金属又は元素、もしくは、少なくとも一種類以上の金属を含む合金又は化合物であることが好ましく、より好ましくは、ライニングがしやすいという理由でPt,Ag、Cu及びCのうち少なくとも一種類以上の金属又は元素、もしくは、少なくとも一種類以上の金属を含む合金又は化合物である。例えば、Pt単体、Pt−Ir合金、Ag単体、Cu単体やグラファイトなどが挙げられる。
【0037】
5)製造工程
アモノサーマル法によるIII族窒化物結晶の育成手順について説明する。まず、反応容器内に、シード、窒素を含有する溶媒、原料、及び鉱化剤を入れて封止する。これらを反応容器内に導入するのに先だって、反応容器内は脱気しておいてもよい。また、材料の導入時には、窒素ガスなどの不活性ガスを流通させてもよい。反応容器内へのシードの装填は、通常は、原料及び鉱化剤を充填する際に同時又は充填後に装填する。シードは、反応容器内表面を構成する貴金属と同様の貴金属製の治具で位置決めことが好ましい。装填後には、必要に応じて加熱脱気をしてもよい。
図3に示す製造装置を用いる場合は、反応容器であるカプセル20内にシード、窒素を含有する溶媒、原料、及び鉱化剤を入れて封止した後に、カプセル20を耐圧性容器(オートクレーブ)1内に装填し、好ましくは耐圧性容器と該反応容器の間の空隙に第2溶媒を充填して耐圧容器を密閉する。
その後、全体を加熱して反応容器内を超臨界状態および/または亜臨界状態とする。超臨界状態では一般的には、粘度が低く、液体よりも容易に拡散されるが、液体と同様の溶媒和力を有する。亜臨界状態とは、臨界温度近傍で臨界密度とほぼ等しい密度を有する液体の状態を意味する。例えば、原料充填部では、超臨界状態として原料を溶解し、結晶成長部では亜臨界状態となるように温度を変化させて超臨界状態と亜臨界状態の原料の溶解度差を利用した結晶成長も可能である。
【0038】
超臨界状態にする場合、反応混合物は、一般に溶媒の臨界点よりも高い温度に保持する。アンモニア溶媒を用いた場合、臨界点は臨界温度132℃、臨界圧力11.35MPaであるが、反応容器の容積に対する充填率が高ければ、臨界温度以下の温度でも圧力は臨界圧力を遥かに越える。本発明において「超臨界状態」とは、このような臨界圧力を越えた状態を含む。反応混合物は、一定の容積の反応容器内に封入されているので、温度上昇は流体の圧力を増大させる。一般に、T>Tc(1つの溶媒の臨界温度)及びP>Pc(1つの溶媒の臨界圧力)であれば、流体は超臨界状態にある。
【0039】
超臨界条件では、窒化物結晶の十分な成長速度が得られる。反応時間は、特に鉱化剤の反応性及び熱力学的パラメータ、すなわち温度及び圧力の数値に依存する。窒化物結晶の合成中あるいは成長中、反応容器内の圧力は120MPa以上にすることが好ましく、150MPa以上にすることがより好ましく、180MPa以上にすることがさらに好ましい。また、反応容器内の圧力は700MPa以下にすることが好ましく、500MPa以下にすることがより好ましく、350MPa以下にすることがさらに好ましく、300MPa以下にすることが特に好ましい。圧力は、温度及び反応容器の容積に対する溶媒体積の充填率によって適宜決定される。本来、反応容器内の圧力は、温度と充填率によって一義的に決まるものではあるが、実際には、原料、鉱化剤などの添加物、反応容器内の温度の不均一性、及びフリー容積の存在によって多少異なる。
【0040】
反応容器内の温度範囲は、下限値が500℃以上であることが好ましく、515℃以上であることがより好ましく、530℃以上であることがさらに好ましい。上限値は、700℃以下であることが好ましく、650℃以下であることがより好ましく、630℃以下であることがさらに好ましい。本発明のIII族窒化物結晶の製造方法では、反応容器内における原料溶解領域の温度が、結晶成長領域の温度よりも高いことが好ましい。温度差(|ΔT|)は、結晶品質の維持と自発核発生結晶の制御の観点から、5℃以上であることが好ましく、10℃以上であることがより好ましく、100℃以下であることが好ましく、80℃以下であることがより好ましく、60℃以下が特に好ましい。反応容器内の最適な温度や圧力は、結晶成長の際に用いる鉱化剤や添加剤の種類や使用量等によって、適宜決定することができる。
【0041】
前記の反応容器内の温度範囲、圧力範囲を達成するための反応容器への溶媒の注入割合、すなわち充填率は、反応容器のフリー容積、すなわち、反応容器に多結晶原料、及びシードとそれを設置する構造物の体積を反応容器の容積から差し引いて残存する容積、またバッフル板を設置する場合には、さらにそのバッフル板の体積を反応容器の容積から差し引いて残存する容積の溶媒の沸点における液体密度を基準として、通常20〜95%、好ましくは30〜80%、さらに好ましくは40〜70%とする。
【0042】
反応容器内での窒化物結晶の成長は、熱電対を有する電気炉などを用いて反応容器を加熱昇温することにより、反応容器内をアンモニア等の溶媒の亜臨界状態又は超臨界状態に保持することにより行われる。加熱の方法、所定の反応温度への昇温速度に付いては特に限定されないが、通常、数時間から数日かけて行われる。必要に応じて、多段の昇温を行ったり、温度域において昇温スピードを変えたりすることもできる。また、部分的に冷却しながら加熱したりすることもできる。
なお、前記の「反応温度」は、反応容器の外面に接するように設けられた熱電対、及び/又は外表面から一定の深さの穴に差し込まれた熱電対によって測定され、反応容器の内部温度へ換算して推定することができる。これら熱電対で測定された温度の平均値をもって各々の領域の温度とする。通常は、原料溶解領域の温度と結晶成長領域の温度の平均値を平均温度とする。
【0043】
所定の温度に達した後の反応時間については、窒化物結晶の種類、用いる原料、鉱化剤の種類、製造する結晶の大きさや量によっても異なるが、通常、数時間から数百日とすることができる。反応中、反応温度は一定にしてもよいし、徐々に昇温又は降温させることもできる。また、反応中に温度差(|ΔT|)を変化させてもよい。所望の結晶を生成させるための反応時間を経た後、降温させる。降温方法は特に限定されないが、ヒーターの加熱を停止してそのまま炉内に反応容器を設置したまま放冷してもかまわないし、反応容器を電気炉から取り外して空冷してもかまわない。必要であれば、冷媒を用いて急冷することも好適に用いられる。
【0044】
反応容器外面の温度、あるいは推定される反応容器内部の温度が所定温度以下になった後、反応容器を開栓する。このときの所定温度は特に限定はなく、通常、−80℃〜200℃、好ましくは−33℃〜100℃である。ここで、反応容器に付属したバルブの配管接続口に配管を接続し、水などを満たした容器に通じておき、バルブを開けてもよい。さらに必要に応じて、真空状態にするなどして反応容器内のアンモニアなどの溶媒を十分に除去した後、乾燥し、反応容器の蓋等を開けて生成した窒化物結晶及び未反応の原料や鉱化剤等の添加物を取り出すことができる。
なお、本発明のIII族窒化物結晶の製造方法にしたがって窒化ガリウムを製造する場合、前記以外の材料、製造条件、製造装置、工程の詳細については特開2009−263229号公報を好ましく参照することができる。該公開公報の開示全体を本明細書に引用して援用する。
【0045】
[III族窒化物結晶]
本発明の製造方法によれば、比較的大きなサイズのIII族窒化物結晶を製造することができる。例えば最大径が25mm以上のIII族窒化物結晶を製造することが可能であり、好ましくは50mm以上のIII族窒化物結晶を製造することが可能であり、より好ましくは75mm以上のIII族窒化物結晶を製造することが可能である。
本発明にしたがって製造されたIII族窒化物結晶は、シードやワイヤーを包含する形で利用に供してもよい。例えば、シードやワイヤーを包含したまま表面に育成されたIII族窒化物結晶を表面処理してシードとして用いることが可能である。得られたシードはワイヤーが装着されているため、そのワイヤーの端を反応容器中の治具や反応容器壁面に固定することにより、簡便に新たな結晶成長反応を進めることができる。なお、結晶端部を切断するなどして、ワイヤーを除去したうえで結晶を使用することも可能である。
【0046】
本発明の製造方法により育成したIII族窒化物結晶は、特定の方向に切断することによって所望の主面を有するウェハー(III族窒化物結晶基板)とすることが可能である。例えば、本発明の製造方法によって厚くて大口径のM面を有する窒化物結晶を製造した場合は、M面に平行な方向に切り出すことにより、大口径のM面ウェハーを得ることができる。また、本発明の製造方法によって大口径の半極性面を有する窒化物結晶を製造した場合は、半極性面に平行に切り出すことにより、大口径の半極性面ウェハーを得ることができる。なお、特に高い結晶品質を有するものを取得したい場合は、貫通孔の近傍に形成された結晶を避けるように切り出すことにより高品質な結晶を得ることができる。
本発明の製造方法によれば、転位密度が1×107/cm2以下のIII族窒化物結晶を製造することが可能であり、好ましくは1×105/cm2以下のIII族窒化物結晶を製造することが可能であり、より好ましくは1×103/cm2以下のIII族窒化物結晶を製造することが可能である。また、本発明の製造方法により製造されるIII族窒化物結晶は、積層欠陥密度が小さいという特徴も有する。
【0047】
本発明の製造方法により育成したIII族窒化物結晶や上記のウェハーは、デバイス、即ち発光素子や電子デバイスなどの用途に好適に用いられる。本発明のIII族窒化物結晶やウェハーが用いられる発光素子としては、発光ダイオード、レーザーダイオード、それらと蛍光体を組み合わせた発光素子などを挙げることができる。また、本発明のIII族窒化物結晶やウェハーが用いられる電子デバイスとしては、高周波素子、高耐圧高出力素子などを挙げることができる。高周波素子の例としては、トランジスター(HEMT、HBT)があり、高耐圧高出力素子の例としては、サイリスター(IGBT)がある。本発明のIII族窒化物結晶やウェハーは、高品質であるという特徴を有することから、前記のいずれの用途にも適している。
【実施例】
【0048】
以下に実施例と比較例を挙げて本発明の特徴をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
なお、以下の記載において「C面」とは、六方晶構造(ウルツ鋼型結晶構造)における{0001}面と等価な面であり、極性面である。(0001)面を指す。III族窒化物結晶では、C面はIII族面又は窒素面であり、窒化ガリウムではそれぞれGa面又はN面に相当する。また、以下の記載において「M面」とは、{1−100}面、{01−10}面、[−1010]面、{−1100}面、{0−110}面、{10−10}面として包括的に表される非極性面であり、具体的には(1−100)面や、(01−10)面、(−1010)面、(−1100)面、(0−110)面、(10−10)面を意味する。
【0049】
<実施例1>
図3に示す装置を用いて、以下の手順にしたがってアモノサーマル法によるGaN結晶成長を行った。
RENE41製オートクレーブ1を耐圧性容器として用い、Pt−Ir製カプセル20を反応容器として結晶成長を行った。原料として多結晶GaN粒子を秤量し、カプセル下部領域(図3における原料溶解領域9)内に設置した。次に鉱化剤として十分に乾燥した純度99.999%のヨウ化アンモニウムと純度99.999%のフッ化ガリウムをカプセル内に投入した。
さらにカプセル下部の原料溶解領域9と上部の結晶成長領域6との間に、白金製バッフル板5を設置した。シードとしてHVPE法により成長した六方晶系GaN単結晶より切り出したC面を主面とする直径50mm、厚み0.5mmの円形ウェハー(主面面積約2000mm2:重量3.86g)1枚と(10−11)面を主面とする45×25mm、厚み0.5mmの矩形ウェハー(主面面積;約1125mm2:重量2.00g)1枚をそれぞれ用いた。それぞれのシードの周縁から内側へ1mmの位置に直径0.6mmの貫通孔を1個あけ直径0.2mmの白金ワイヤー(強度14kg/mm2)を貫通孔に通した。白金ワイヤーを白金合金製のシード支持枠に結びシードを吊り下げるように固定した。このときシードは支持枠の水平位置の中央部近傍になるように位置決めし支持枠に触れることがないようにした。また垂直位置としては2枚のシード同士が結晶成長後でも接触しない距離を保つよう位置決めを行ない固定した。このシード支持枠を結晶成長領域に設置したのち、アンモニア充填用のチューブが付属したキャップをカプセル上部に溶接により接続した。その後、チューブを通じて真空ポンプを用いてカプセル内を真空脱気して、カプセル内を窒素ガスにて5回パージした後、真空ポンプに通じた状態でカプセル外壁に設置したバンドヒーターにてカプセルを数時間加熱しカプセル内の吸着ガスおよび水分を除去した。
【0050】
続いて、カプセルをドライアイスエタノールを用いて冷却しながらアンモニアを充填し、チューブを封じ切り、カプセルを密閉した。
カプセル20をオートクレーブ1内に挿入してオートクレーブ蓋を閉じた。オートクレーブ内を真空脱気して窒素ガスパージを複数回行った後、オートクレーブをドライアイスエタノールで冷却しながら流量制御に基づき、カプセル内のアンモニア量とバランスする量のアンモニアをオートクレーブ内でオートクレーブとカプセルの空隙に充填した。
続いて、オートクレーブ1を上下に2分割されたヒーターで構成された電気炉内に収納した。オートクレーブ外壁から19mmの深さに差し込んだ熱電対で測定したオートクレーブの結晶成長領域の温度が585℃、同じく19mmの深さに差し込んだ熱電対で測定した原料溶解領域の温度が630℃(温度差45℃:平均温度607℃)になるように昇温し、設定温度に達した後、その温度にて20日間保持した。オートクレーブ内の圧力は210MPaであった。
【0051】
結晶成長終了後、オートクレーブを冷却しカプセル外およびカプセル内のアンモニアを排出後、カプセルを開きカプセル上部開口部から目視にて内部を観察した。結晶はそれぞれシード支持枠に白金ワイヤーにて吊るされた状態であった。結晶を取り出すためシード支持枠を手作業にて引き上げた。育成後の結晶の重量はC面結晶が68.3g、(10−11)面結晶が34.6gであった。シードを吊るすための使用した白金ワイヤーは結晶中に一部埋もれていたが、その部分から目視で確認できるクラックなどの欠陥は確認されなかった。貫通孔は塞がり、ここからも目視で確認できるクラックなどの発生は確認されなかった。
【0052】
<実施例2>
実施例1と同様の耐圧性容器とカプセルを用いて、シードの準備を下記の通りとした以外は同様のプロセスで20日間の結晶成長を行なった。
シードとしてHVPE法により成長した六方晶系GaN単結晶より切り出したM面を主面とする50×40mm、厚み0.5mmの矩形ウェハー(主面面積;約2000mm2:重量3.51g)1枚とM面を主面とする50×30mm、厚み0.5mmの矩形ウェハー(主面面積;約1500mm2:重量2.69g)をそれぞれ用いた。それぞれのシードの端面から2mmの位置に直径0.6mmの貫通孔を2個ずつあけ直径0.4mmの白金ワイヤーを貫通孔に通した。白金ワイヤーを白金合金製のシード支持枠に結びシードを吊り下げるように固定した。
結晶成長終了後、オートクレーブを冷却しカプセル外およびカプセル内のアンモニアを排出後、カプセルを開きカプセル上部開口部から目視にて内部を観察した。結晶はそれぞれシード支持枠に白金ワイヤーにて吊るされた状態であった。結晶を取り出すためシード支持枠を手作業にて引き上げた。育成後の結晶の重量はそれぞれ55.4gと31.0gであった。シードを吊るすための使用した白金ワイヤーは結晶中に一部埋もれていたが、その部分から目視で確認できるクラックなどの欠陥は確認されなかった。貫通孔は塞がり、ここからも目視で確認できるクラックなどの発生は確認されなかった。
【0053】
<実施例3>
実施例1と同様の耐圧性容器とカプセルを用いて、シードの準備を下記の通りとした以外は同様のプロセスで23日間の結晶成長を行なった。
シードとして、HVPE法により成長した六方晶系GaN単結晶より切り出したM面を主面とする10×20mm、厚み0.3mmの矩形ウェハー(主面面積;約200mm2:重量0.40g)3枚を用いた。それぞれのシードの端面から0.6mmの位置に直径0.6mmの貫通孔を1個ずつあけ直径0.2mmの白金ワイヤーを貫通孔に通した。白金ワイヤーを白金合金製のシード支持枠に結びシードを吊り下げるように固定した。
結晶成長終了後、オートクレーブを冷却しカプセル外およびカプセル内のアンモニアを排出後、カプセルを開きカプセル上部開口部から目視にて内部を観察した。結晶はそれぞれシード支持枠に白金ワイヤーにて吊るされた状態であった。結晶を取り出すためシード支持枠を手作業にて引き上げた。育成後の結晶の重量はそれぞれ11.2g、10.5g、10.5gであった。シードを吊るすための使用した白金ワイヤーは結晶中に一部埋もれていたが、その部分から目視で確認できるクラックなどの欠陥は確認されなかった。貫通孔は塞がり、ここからも目視で確認できるクラックなどの発生は確認されなかった。
【0054】
<実施例4>
実施例3と同時に投入した下記のシードにて結晶成長を行なった。
シードとして、HVPE法により成長した六方晶系GaN単結晶より切り出したC面を主面とする直径50mm、厚み0.5mmの円形ウェハー(主面面積;約2000mm2:重量3.96g)1枚を用いた。それぞれのシードの端面から1mmの位置に直径1.8mmの貫通孔を1個あけ直径0.4mmの白金ワイヤーを貫通孔に通した。白金ワイヤーを白金合金製のシード支持枠に結びシードを吊り下げるように固定した。
結晶成長終了後、オートクレーブを冷却しカプセル外およびカプセル内のアンモニアを排出後、カプセルを開きカプセル上部開口部から目視にて内部を観察した。結晶はシード支持枠に白金ワイヤーにて吊るされた状態であった。結晶を取り出すためシード支持枠を手作業にて引き上げた。育成後の結晶の重量は97.8gであった。シードを吊るすための使用した白金ワイヤーは結晶中に一部埋もれていたが、その部分から目視で確認できるクラックなどの欠陥は確認されなかった。貫通孔は塞がり、ここからも目視で確認できるクラックなどの発生は確認されなかった。
【0055】
<比較例1>
実施例1と同時に投入した下記のシードにて結晶成長を行なった。
シードとして、HVPE法により成長した六方晶系GaN単結晶より切り出したM面を主面とする20×25mm、厚み1.0mmの矩形ウェハー(主面面積;約500mm2:重量4.43g)1枚とM面を主面とする10×20mm、厚み0.3mmの矩形ウェハー(主面面積;約200mm2)2枚を用いた。それぞれのシードにはワイヤーを通す貫通孔はあけず、それぞれのシードの短辺の端面から約3〜5mmの位置にて直径0.2mm白金ワイヤーを3重に巻きつけて、その白金ワイヤーを白金合金製のシード支持枠に結びシードを吊り下げるように固定した。白金ワイヤーを巻きつけた時点では、摩擦によりシードが容易には落下しないことを確認した。
結晶成長終了後、オートクレーブを冷却しカプセル外およびカプセル内のアンモニアを排出後、カプセルを開きカプセル上部開口部から目視にて内部を観察した。結晶は3個全て落下しバッフル板の上に落ちて成長していた。白金ワイヤーはシードを巻きつけた形状を保持したまま、シード支持枠に固定されていたことから、結晶成長開始前にシードが白金ワイヤーから脱落したと推察される。落下の原因は結晶成長前のシード表面の溶解により白金ワイヤーとの間に隙間が発生し摩擦力が低下し落下したものと考えられる。
【符号の説明】
【0056】
101 III族窒化物単結晶(シード)
102 貫通孔
103 主面
111 周縁
112 周縁近傍領域
113 中間領域
114 中央領域
1 オートクレーブ
2 オートクレーブ内面
3 ライニング
4 ライニング内面
5 バッフル板
6 結晶成長領域
7 シード
8 原料
9 原料溶解領域
10 バルブ
11 真空ポンプ
12 アンモニアボンベ
13 窒素ボンベ
14 マスフローメーター
20 カプセル
21 カプセル内面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
貫通孔を有する100mg以上のIII族窒化物単結晶シード上にIII族窒化物結晶を成長させることを特徴とする、III族窒化物結晶の製造方法。
【請求項2】
前記III族窒化物単結晶シードの主面の面積が50mm2以上である、請求項1に記載のIII族窒化物結晶の製造方法。
【請求項3】
前記III族窒化物単結晶シード表面における前記貫通孔の最大径が0.2〜2mmである、請求項1または2に記載のIII族窒化物結晶の製造方法。
【請求項4】
前記III族窒化物単結晶シードが2つ以上の貫通孔を有する、請求項1〜3のいずれか一項に記載のIII族窒化物結晶の製造方法。
【請求項5】
前記III族窒化物単結晶シードの周縁から内側へ0.5mm以内の領域に貫通孔が存在しない、請求項1〜4のいずれか一項に記載のIII族窒化物結晶の製造方法。
【請求項6】
前記III族窒化物単結晶シードの周縁から内側へ0.5〜10.0mmの領域に前記貫通孔が設けられている、請求項1〜5のいずれか一項に記載のIII族窒化物結晶の製造方法。
【請求項7】
前記貫通孔を利用して前記III族窒化物単結晶シードを位置決めした状態で前記III族窒化物結晶を成長させる、請求項1〜6のいずれか一項に記載のIII族窒化物結晶の製造方法。
【請求項8】
前記貫通孔にワイヤーを通して前記III族窒化物単結晶シードを吊り下げる、請求項7に記載のIII族窒化物結晶の製造方法。
【請求項9】
前記ワイヤーの直径が0.1〜1.9mmである、請求項8に記載のIII族窒化物結晶の製造方法。
【請求項10】
前記ワイヤーの強度が10kg/mm2以上である、請求項8または9に記載のIII族窒化物結晶の製造方法。
【請求項11】
前記III族窒化物結晶を10g以上成長させる、請求項1〜10のいずれか一項に記載のIII族窒化物結晶の製造方法。
【請求項12】
前記III族窒化物結晶の成長を超臨界状態及び/又は亜臨界状態にある窒素を含有する溶媒中で行う、請求項1〜11のいずれか一項に記載のIII族窒化物結晶の製造方法。
【請求項13】
前記貫通孔が形成されていないIII族窒化物単結晶シードの直上に形成されたIII族窒化物結晶を切り出してウェハーを得ることをさらに含む、請求項1〜12のいずれか一項に記載のIII族窒化物結晶の製造方法。
【請求項14】
請求項1〜13のいずれか一項に記載の製造方法により製造されるIII族窒化物結晶。
【請求項15】
貫通孔を有する100mg以上のIII族窒化物単結晶シード。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−71889(P2013−71889A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−215660(P2012−215660)
【出願日】平成24年9月28日(2012.9.28)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】