説明

IMSシステム

IMSシステムは、端部に吸気口(2)を有するセル(1,101)を含む。解析すべきガス又は蒸気は、吸気口(2)からセル(1,101)に供給される。セル(1,101)における選択的障壁(6)は、選択した分子がイオン化領域(7)内を透過し、生成したイオンがゲート(8)を介してドリフト領域(9)に至る。前記イオンはセル(1,101)に沿ってコレクター(11)までドリフトし、電気的出力を生成する。システム(40,140)は、清浄かつ乾燥した空気をセル(1,101)の反対側の端部(30)に供給し、前記イオンの流れに抗してセル内を流す。システム(40)は、ドープされたモレキュラーシーブ(41)を含み、第1の試薬を連続して前記空気に付加し、セル中で選択したイオンと結合させる。システム(40)は、付加的な異なる試薬の追加の貯蔵室(42,43,44)を含む。この追加の試薬は、セル出力が示された際に前記第1の試薬に加えて前記空気に供給され、妨害イオンと結合する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セルに対して分析すべき蒸気又はガスを供給するための導入口を有するIMSセルを含むイオン移動度分光分析システムに関する。
【背景技術】
【0002】
IMSシステムは、爆発物、薬物、水疱及び神経性ガスなどの物質を検出するために良く用いられる。IMSシステムは、検出対象となる物質を含む空気のサンプルをガス又は蒸気の状態で供給すべき検出セルを具えている。前記セルは、大気圧又はその近傍の圧力下で駆動されるとともに電極を含んでいる。この電極は、電圧印加によって励起され、セルの全体を通じて電圧勾配を生ぜしめる。空気サンプル中の分子は、放射線源あるいはコロナ放電などの手段によってイオン化され、一端に設けられた静電ゲートによって前記セル中のドリフト領域内に収容される。前記イオン化された分子は、イオンの大きさに依存した速度で前記セルの対向する別の端までドリフトする。したがって、前記セル中を横断する際の飛行時間を測定することによって、前記イオンを同定することができる。また、前記セルに対して試薬やドーパントを添加することも必要に応じてなされている。前記試薬は、問題となる物質と結合して、比較的ゆっくりとした速度で飛行し、他の物質から容易に識別できるようなものを選択する。
【0003】
IMSシステムの例は、例えばGB2324407、GB2324875、GB2316490、GB2323165及びUS4551624において記載されている。US6459079には、異なる試薬を含んだ正のセル及び負のセルを有するシステムが記載されている。US6495824には、検出すべき物質に依存させて、異なる試薬から適宜に選択した一種の試薬を供給することができるシステムが記載されている。US2002088936には、ドーパントとして注入すべき再循環ガスを乾燥し、クリーニングするためのモレキュラーシーブを有するIMSシステムが開示されている。
【0004】
しかしながら、現存するシステムは、応答が複雑であること、並びに応答速度が遅いなどの種々の不利益を有する。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、従来のIMSシステムに対して代替し得る新規なIMSシステムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様においては、上述したような種類のイオン移動度分光分析システムが提供される。このイオン移動度分光分析システムは、第1の試薬源と、この第1の試薬と異なる追加の試薬源とを具え、前記第1の試薬は、この試薬に対して前記セルに供給される蒸気及びガスが晒されるようにして連続的に供給され、前記追加の試薬は前記セルに対して断続的に供給されるように構成したことを特徴とする。
【0007】
前記システムは、物質の存在を示す前記セルからの出力に応答して、前記物質と結合する追加の試薬を供給するように配置することが好ましい。また、前記追加の試薬は妨害物質を同定できるように選択することができる。さらに、前記第1の試薬源はドープされたシーブを含むことができる。また、前記第1の試薬及び前記追加の試薬は、解析すべき蒸気又はガスとは独立に前記セルに対して供給することが好ましい。解析すべき前記蒸気又はガスは、前記セルの選択的障壁の反対側に供給することができる。前記第1の試薬源はシーブユニットを含み、前記追加の試薬源は前記第1の試薬源と異なる複数の試薬を含む、複数の貯蔵室を含み、前記システムは、ガスが前記シーブユニットを介して直接的に、又は前記複数の貯蔵室の一以上を介して前記セルに供給できるように、前記シーブユニット、前記貯蔵室及び前記セルを接続するようにすることができる。
【0008】
本発明の他の態様においては、IMSセルに対して解析すべき蒸気又はガスを供給する工程と、所定の物質の存在可能性を指示する前記セルからの出力に応答して、前記セルに対して第1の試薬を連続的に供給する工程と、前記セルに対して前記第1の試薬に加え、この第1の試薬と異なる追加の試薬を供給して前記セルからの第2の出力を得、前記所定の物質の存在を確認する、又は否定する工程とを具えることを特徴とする、イオン移動度分光分析システムの操作方法を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
最初に、図1及び図2に言及すると、図示したシステムは吸気ポート3及び排気口4を有するインテークマニホールド2を含むIMSドリフトセル1を具えている。解析に供すべき空気サンプルは、吸気ポート3に供給される。排気口4はポンプ5を通じて大気中に接続されている。マニホールド2は、選択的障壁6を介して前記セルの左側端部に開口して接続されている。障壁6は、WO93/01485に記載されているようにピンホールとすることもでき、半透過性膜とすることもできる。さらには、多数の分子が存在している中で、問題となる分子のみを透過できるような他の形態とすることもできる。また、障壁6を介する代わりに、解析に供すべき試料をEP596978に記載されているような、その他のインターフェイスを用いてセル1に供給するようにすることもできる。
【0010】
障壁6は放射線源やコロナ放電などのイオン化源が設けられたイオン化領域7に連通している。イオン化領域の右方にはブラッドバリーニールソン(Bradbury Nielson)ゲートグリッド8が設けられており、イオン化した分子の透過の度合いを制御して並列に配列されたドリフト電極10が設けられたドリフト領域9内に導入される。前記セルの右側端部に設けられたコレクター11は、ドリフト領域9を通過したイオンを集積し、プロセッサ20に対して所定の出力を供給する。プロセッサ20は、ゲート8を制御し、本システムの種々の機能を制御する。プロセッサ20は、ディスプレイ21又は前記試料の特性を示すことができる他の手段に対して出力を供給する。
【0011】
セル1の右側端部には吸気口30が設けられており、この吸気口30を通じてセル1内部に空気が取り込まれ、セル1内を右側から左側に移行し、イオン化領域7のゲートグリッド8に近接して設けられた排気口31を通じて大気中に排気される。前記空気は、大気中に開放した吸気口33及びセル吸気口30に接続された排気口34を有するポンプ32の手段により、空気乾燥/清浄/ドーピングシステム40を介してセル吸気口30に供給される。
【0012】
空気乾燥/清浄/ドーピングシステム40の詳細は図2において示されている。空気乾燥/清浄/ドーピングシステム40は、US2002088936に記載されたような種類の、ドーピングされたモレキュラーシーブ41を有している。このモレキュラーシーブ41の一端はポンプ32の排気口34に接続されている。モレキュラーシーブ41は、空気を清浄するとともに、乾燥するようにして機能し、好ましくは適当な試薬をドーピングできるように機能する。前記試薬は、前記空気がモレキュラーシーブ41内を通過する際に、その微小量を収集することによってドーピングされる。モレキュラーシーブ41の出力側はセル1に直接接続することもできるし、バルブ45、46及び47を介して、互いに平行に配置された複数のドーパント源42,43及び44を介してセル1に接続するようにすることもできる。ドーパント源42、43及び44は、バルブ48、49及び50を介してセル吸気口30に接続されている。バルブ51によれば、バルブ51が開状態となった際に、モレキュラーシーブ41からセル1に対して直接空気が供給される。モレキュラーシーブ41及びドーパント源42〜44は、それぞれ試薬の貯蔵室として機能する。モレキュラーシーブ41及びドーパント源42〜44における試薬の種類は互いに異なる。これらの試薬は、本発明のIMSシステムが検出すべき物質の種類に応じて適宜に選択することができる。
【0013】
バルブ45〜47、48〜50及び51は、プロセッサ20によって遠隔操作することができる。これらのバルブは、前記空気がドーパント源42、43及び44の少なくとも1つを通じて流れるようにすることもできるし、モレキュラーシーブ41から直接セル1に流れるようにすることもできる。したがって、例えば、バルブ45及び48を開にするとともに、他のバルブ46、47、49及び50を閉にして、空気サンプルがドーパント源42内のみを通過し、他のドーパント源43及び44内を通過しないようにすることもできる。また、例えば、バルブ45、47、48及び50を開にし、空気がドーパント源42及び44内を通過するようにし、そのドーパント源を吸収するようにすることもできる。適当なソフトウエアを用いてバルブに対するスイッチングプロトコルを設定することにより、上述したドーパント源を含むチャンバーに対するフラッシングを行うことができる。モレキュラーシーブ41がドーパントを含む場合は、吸気口30を介してセル1内に供給された空気は常に試薬を吸収することになる。したがって、バルブ51を開にした場合を除き、前記空気はドーパント源42〜44に起因した1〜3種類のドーパントを吸着するようになるので、前記空気は合計で1〜4種類の試薬を吸収した状態でセル1内に供給される。セル1内に供給された試薬は、障壁6を透過してきた分子と反応する。なお、ドーパント源の数は、上述した数よりも多くすることもできるし、少なくすることもできる。モレキュラーシーブ41がドーパントを含まない場合、セル1に供給される空気は、1〜3種類の試薬を吸収して含むことになる。
【0014】
本システムの通常モードでの操作は以下のようにして実施する。最初に、バルブ45及び48を開にして、インテークマニホールド2に対して空気サンプル中の分子を供給し、モレキュラーシーブ41及びドーパント源42のドーパントに晒す。プロセッサ20が、モニタリングすべき物質の存在可能性を示すピークを検出すると、プロセッサ20は、例えばバルブ46及び49を開にして、ドーパント源43内の試薬がセル1内に導入されるようにする。これによって、妨害物質の存在を示す異なるピークを生ぜしめる。この場合、前記システムは警告を発しない。しかしながら、そのようなピークが生成されない場合、プロセッサ20は初期のピークがモニタリングされた物質の存在を示すものであると解釈し、ディスプレイ上に警告を表示する。
【0015】
上記システムは、種々の他の方法で操作することができる。例えば、付加的な試薬が付加され、付加的なピークが生成された場合に、モニタリングすべき物質の存在を確認し、そのようなピークが生成されない場合に、モニタリングすべき物質が存在しないことを確認するようにすることができる。
【0016】
図3に示すシステムは、図1に示すシステムと類似しており、同様の構成要素に対しては“100”を付加した同様の参照数字を用いて表している。図1の配置で示したように、清浄/乾燥/ドーピングシステムに対して空気を供給する代わりに、図3に示すシステムは、再循環システムを構成している。この場合、ポンプ132の吸気口133はセル101の左側端部の排気口131に対して接続されている。乾燥/清浄/ドーピングシステム140は、上述したような乾燥/清浄/ドーピングシステム40と正確に一致するようにして構成され、同様の方法で機能する。
【0017】
サンプルは少なくとも1つのドーパントに連続的に晒されることになり、システムの構成及び操作も単純化される。また、特定の物質の存在を示すような指標が存在する場合に、ドーパントがスイッチされるような構成のシステムに比較して応答がより迅速となる。また、サンプルキャリアガス中よりも、セル中にドーパントを付加する構成の方がシステムを単純化することができる。また、解析すべきガス又はその際のキャリアガスとは無関係に、セルに対して直接試薬を供給するようにすることによって、前記セル自身がドープされ、イオン交換を前記セルのドリフト領域に限定するようにすることができる。したがって、サンプルガスやそのキャリアガス自身がドープされるよりも、検出時間をより短くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】外部空気供給器を有する本システムの概略図である。
【図2】図1に示すシステムの一部をより詳細に示す図である。
【図3】再循環空気供給器を有する代替システムの概略図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
IMSセル(1,101)に対して解析すべき蒸気又はガスを供給するための吸気口(2,3)を有するIMSセル(1,101)を含むイオン移動度分光分析システムであって、
前記システムは、第1の試薬源(41)と、この第1の試薬と異なる追加の試薬源(42,43,44)とを具え、前記第1の試薬は、この試薬に対してセル(1,101)に供給される蒸気及びガスが晒されるようにして連続的に供給され、前記追加の試薬はセル(1,101)に対して断続的に供給されるように構成したことを特徴とする、イオン移動度分光分析システム。
【請求項2】
前記システムは、物質の存在を示すセル(1,101)からの出力に応答して、前記物質と結合する追加の試薬を供給するように配置したことを特徴とする、請求項1に記載のイオン移動度分光分析システム。
【請求項3】
前記追加の試薬は妨害物質を同定できるように選択することを特徴とする、請求項1又は2に記載のイオン移動度分光分析システム。
【請求項4】
前記第1の試薬源はドープされたシーブ(41)を含むことを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一に記載のイオン移動度分光分析システム。
【請求項5】
前記第1の試薬及び前記追加の試薬は、解析すべき蒸気又はガスとは独立にセル(1,101)に対して直接供給することを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一に記載のイオン移動度分光分析システム。
【請求項6】
解析すべき前記蒸気又はガスは、セル(1,101)の選択的障壁6の反対側に供給することを特徴とする、請求項5に記載のイオン移動度分光分析システム。
【請求項7】
前記第1の試薬源はシーブユニット(41)を含み、前記追加の試薬源は前記第1の試薬源と異なる複数の試薬を含む、複数の貯蔵室(42,43,44)を含み、前記システムは、ガスが前記シーブユニットを介して直接的に、又は前記複数の貯蔵室の一以上を介して前記セルに供給できるように、シーブユニット(41)、貯蔵室(42,43,44)及びセル(1,101)が接続されてなることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか一に記載のイオン移動度分光分析システム。
【請求項8】
IMSセル(1,101)に対して解析すべき蒸気又はガスを供給する工程と、
所定の物質の存在可能性を指示するセル(1,101)からの出力に応答して、セル(1,101)に対して第1の試薬を連続的に供給する工程と、
セル(1,101)に対して前記第1の試薬に加え、この第1の試薬と異なる追加の試薬を供給して、セル(1,101)からの第2の出力を得、前記所定の物質の存在を確認する、又は否定する工程と、
を具えることを特徴とする、イオン移動度分光分析システムの操作方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2007−504633(P2007−504633A)
【公表日】平成19年3月1日(2007.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−530476(P2006−530476)
【出願日】平成16年5月5日(2004.5.5)
【国際出願番号】PCT/GB2004/001938
【国際公開番号】WO2004/102611
【国際公開日】平成16年11月25日(2004.11.25)
【出願人】(501038551)スミスズ グループ ピーエルシー (26)
【氏名又は名称原語表記】SMITHS GROUP PLC
【Fターム(参考)】