説明

ITO粉末、ITO粒子の製造方法、透明導電材用塗料並びに透明導電膜

【課題】粒子径ばらつきが小さいナノ粒子であるITO粉末およびその製造方法を提供する。
【解決手段】TEM写真から求めた平均粒子径が10nm以上、100nm以下であり、粒子径の標準偏差を平均粒子径で除して求めた変動係数が15%以下であるITO粒子を含むITO粉末およびその製造方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スズを含有する酸化インジウム(Indium−Tin−Oxide)(以下、ITOと記載する場合がある。)粉末、ITO粒子の製造方法、当該ITO粉末を含む透明導電材用塗料、並びに当該塗料を用いて製膜される透明導電膜に関する。
【背景技術】
【0002】
ITOを含む透明導電膜は、可視光に対する高い透光性と、導電性とを示すことから、各種表示デバイスや太陽電池などの透明電極膜として用いられている。この透明導電膜の製膜方法としては、ITOターゲットを用いたスパッタリング法等の物理蒸着法、ITO粒子の分散液、スズおよびインジウムの有機化合物を塗布する塗布法、等が知られている。
【0003】
一般的に透明導電膜を製膜するには、低電気抵抗性、高可視光透過率、化学的安定性の観点から、ITOターゲットを用いたスパッタリング成膜法等の物理蒸着法によるITO成膜法が広く使用されている。しかしながら現行のスパッタリング成膜法においては、成膜時のスパッタ装置内へのITOの付着ロス、配線形成時のエッチングロス等が発生する。これらのロスの為、用いられるITOターゲットのうち、実際に透明電極として使用される量はわずかである。尤も、スパッタリング成膜使用後のITOターゲットの大部分は、リサイクルにより再資源化される。しかし、当該リサイクルによる再資源化にはリードタイムが存在するため、実際の工程においては配線として使用される量よりも、多くの量のインジウム原料の確保が必要となる。さらに、現行のスパッタリング成膜法では、大型薄型テレビの急速な需要拡大等にあわせて、その都度ITOターゲット、真空チャンバー等の大型化が求められ、成膜装置の更新が行われている。
【0004】
これに対して、塗布法により得られるITO膜は、スパッタリング製膜法などの物理的方法により成膜されたITO膜に比べて導電性は多少低いものの、真空装置などの高価な装置を用いることなく大面積や複雑形状の製膜が可能であり、成膜コストを低減できる利点がある。そして、当該塗布法の中でも、ITO粒子を塗料化し基板上に直接塗布し大気下にて加熱することで透明導電膜を成膜、配線化する技術が注目されつつある。この方法を用いると、インジウム原料の使用効率を高めることが可能であると共に、印刷技術の応用により大面積の電極作製も可能であるため、注目されつつある技術である。
【0005】
一方、ITO膜の形成に用いられるITO粉末を構成するITO粒子の製造方法として、塩化インジウム水溶液などのインジウムイオンと、塩化スズ水溶液などのスズイオンとを含む水溶液中に、アンモニア、苛性ソーダなどのアルカリを加えて中和・沈殿させ、スズを含有するインジウム水酸化物を生成させ、大気雰囲気または還元性雰囲気で500℃以上の高温で加熱処理(焼成)して結晶化させる方法が提案されている。
【0006】
また本出願人らは特許文献1として、インジウム水酸化物を110℃以下で加熱して、立方体や直方体の非常に結晶性の良好な水酸化インジウム粒子を生成させ、ここへスズ塩と塩基性沈殿剤を添加して水酸化インジウム・水酸化スズ沈殿物を得、さらに当該水酸化インジウム・水酸化スズ沈殿物を、加圧容器中にて水熱処理することによって結晶性を上げた後、500℃以上の高温で加熱処理して結晶性の良好なITO粒子を得る方法を開示している。
【0007】
またITO粒子の製造方法として、有機物を使用する製法も提案されている。例えば特許文献2は、有機溶媒にインジウム塩とスズ塩とを溶解した後、ここへ無機塩のアルカリ
水溶液を添加してインジウム水酸化物とスズ水酸化物を生成させ、得られたインジウム水酸化物とスズ水酸化物との混合物を乾燥後、加熱処理することを提案している。さらに特許文献3、4は、有機溶媒中で酸化インジウム粒子を作製する方法として、インジウムおよびスズを含む無機塩に塩基性塩を添加し作製した生成物を有機溶媒中に分散させ、分散させた有機溶媒を240℃以上の温度で加熱することによって、スズを含有する酸化インジウムを作製する方法を提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2008−222467号公報
【特許文献2】特開平3−54114号公報
【特許文献3】特開2007−269617号公報
【特許文献4】特願2009−115212号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ITOは、主に、液晶ディスプレイ等に用いられる透明電極材料に用いられ、液晶ディスプレイの更なる普及等により、ITOの需要が増大し、それに伴い、インジウムの消費量も増大することが予想されている。インジウムは資源量が限られる希少金属であり、液晶ディスプレイの需要拡大には、液晶ディスプレイ1枚あたりに必要なインジウム消費量(インジウム原単位)低減が急務となっている。
【0010】
当該インジウム消費量低減の観点から、ITO粉末を塗料化し、当該ITO塗料を基板上に直接塗布した後、大気下での加熱をおこなうという比較的低温のプロセス(塗布法)により、ITO膜を製膜・配線化する技術は有望な技術である。そして、当該プロセスにおいて、インジウムの使用の原単位低減方法として、透明導電膜の厚さを低減することが有効である。
しかし、本発明者らの検討によれば、塗布されたITO粒子の粒子径ばらつきが大きい場合には、透明導電膜中のITO粒子の密度(膜密度)が低くなる。そして、当該膜中におけるITO粒子の密度低下の為、ITO透明導電膜の膜厚を薄くしようとすると、ITO粒子同士の接触する面積が低減し、電気抵抗値が上がるという不具合が生じる。
【0011】
例えば、特許文献1においては水溶液中でインジウムおよびスズを含む無機塩に塩基性塩を添加し作製した生成物を100℃以下で加熱後、さらに200℃以上の水熱処理を行うことによって、結晶性の良好なスズ含有インジウム水酸化物を得ており、さらに、当該スズ含有インジウム水酸化物を乾燥した後、当該乾燥物を加熱処理によって結晶性の良好なITO粒子を得ている。しかしながらオートクレーブなど加圧条件下での水熱処理では、インジウム水酸化物、インジウムオキシ水酸化物の生成は出来るものの、インジウム酸化物の生成は困難である。この為、特許文献1の方法によりITO粒子を得るためには、水熱処理後の生成物を乾燥させた後、再び当該生成物に加熱処理をすることが求められる。
【0012】
また、特許文献2においては、インジウム水酸化物とスズ水酸化物とを有機溶媒中にて混合することにより、1次粒子の凝集を低減させた状態で加熱処理を行っている。しかしながら、当該製法においても、従来のITO粉体の製造方法と同様、大気下または所定の雰囲気下において、500℃以上の加熱処理を行う工程を不可欠としている。この為、当該加熱処理工程において、ITO粒子同士が焼結し粗大化してしまう現象が避けられない。この結果、大気中または所定の雰囲気下で加熱処理を行う工程を経由し得られたITO粒子を塗料化しようとする際、当該ITO粒子をそのまま分散させても、分散性の良いITO塗料を得るのは非常に困難である。その為、当該ITO粒子の分散性をよくするため
に、当該ITOの二次粒子の解砕・分散工程が必要である。
もし、上述したITOの二次粒子の解砕・分散が十分におこなわれず、粗いITO粒子を含むITO塗料にてITO膜形成を行ってしまった場合、ITO粒子の分散性が低い為、ITO塗膜の透明性が低下し、濁度が高くなる。
一方、上述した解砕・分散を十分に行う為、当該解砕・分散にビーズミル等を用いた場合は、長時間の粉砕時間を必要とするので生産性が低下する上、使用されるビーズ等のメディアからのコンタミにより、ITO塗料へ不純物が混入することで、得られる塗膜の導電性特性が悪化するという問題がある。
【0013】
一方、特許文献3、4は、上述したように、スズ含有インジウム水酸化物を有機溶媒中で240℃以上の温度で加熱処理することによって、ITO粒子を得る方法を提案している。しかしながら、当該特許文献3、4に記載の方法により得られるITO粒子は、粒子サイズのばらつきが大きく、粒度分布がシャープではない上に、粒子形状も不定形のものが多く含まれているという問題がある。
【0014】
以上の検討結果から、本発明者らは、塗布法において透明導電膜の厚さを低減する究極の形態は、粒子径と形状が揃ったナノ粒子からなるITO粉末を用い、ITO粒子が緻密に(空隙の少ない状態で)配置した塗布膜を加熱し、膜密度の高い透明導電膜得ることにより、低い抵抗値と、厚みを低減した透明導電膜を得ることであることに想到した。この場合、粒子形状が立方体形状であれば、塗布膜形成時にITO粒子を緻密に(空隙の少ない状態で)配置することになり、さらに好ましいことにも想到した。しかし、従来の技術にかかるITO粒子の製造方法では、粒子径ばらつきが小さいナノ粒子であるITO粉末が得られなかった。
本発明は、上述の課題に鑑み、粒子径ばらつきが小さいナノ粒子であるITO粉末およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、上述の課題を解決すべく鋭意研究を行った結果、有機溶媒中において、直接にインジウムおよびスズを含む前駆体(スズ含有水酸化インジウム)を形成させ、次に当該前駆体と有機溶媒との混合物を加熱処理することによって、ITO粒子を生成させる方法において、前記前駆体を形成する際に添加する塩基性沈殿剤として、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド(TMAH)、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド、テトラプロピルアンモニウムヒドロキシド、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド(TBAH)の群から選択される1種以上を用いることにより、粒子径ばらつきが小さいナノ粒子からなるITO粉末を得られるという新規な構成に想到し、本発明を完成した。
【0016】
すなわち、上述の課題を解決するための第1の構成は、
TEM写真から求めた平均粒子径が10nm以上、100nm以下であり、当該粒子径の標準偏差を平均粒子径で除して求めた変動係数が15%以下であることを特徴とするITO粉末である。
【0017】
第2の構成は、
前記ITO粒子の平均アスペクト比が1.2以下、且つ、前記ITO粒子の(最大径)/(長軸径)の平均値が1.1以上であることを特徴とする第1の構成に記載のITO粉末である。
【0018】
第3の構成は、
前記ITO粒子の粒子形状が立方体であることを特徴とする第1または第2の構成に記載のITO粉末である。
【0019】
第4の構成は、
前記ITO粒子において「(TEM写真より求めた平均粒子径)/(XRD回折ピークから求めた結晶子径)」の値が0.75以上、1.2以下であることを特徴とする第1から第3の構成のいずれかに記載のITO粉末である。
【0020】
第5の構成は、
インジウムを含む塩とスズを含む塩とを有機溶媒中に溶解した液と、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド(TMAH)、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド、テトラプロピルアンモニウムヒドロキシド、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド(TBAH)の群から選択される1種以上の塩基性沈殿剤とを混合し、インジウムとスズとを含む前駆体と、有機溶媒との混合物を、生成させる第1の工程と、
第1の工程で生成したインジウムとスズとを含む前駆体と、有機溶媒との混合物を、240℃以上、350℃以下の温度で加熱処理してITO粒子を生成させる第2の工程とを、有することを特徴とするITO粒子の製造方法である。
【0021】
第6の構成は、
前記有機溶媒として、当該溶媒分子1個当たり、1個以上のOH基を含む有機溶媒を用いることを特徴とする第5の構成に記載のITO粒子の製造方法である。
【0022】
第7の構成は、
前記有機溶媒として、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ポリエチレングリコール、1.2−プロピレングリコール、1.3−ブチレングリコール、2.3−ブチレングリコール、ヘキシレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、グリセリンの群から選択される1種以上を用いることを特徴とする第6の構成に記載のITO粒子の製造方法である。
【0023】
第8の構成は、
前記第2の工程において、加熱処理温度を240℃以上、350℃以下とすることを特徴とする第5から第7の構成のいずれかに記載のITO粒子の製造方法である。
【0024】
第9の構成は、
前記第2の工程において、加熱処理時間を30分間〜200時間とすることを特徴とする第5から第8の構成のいずれかに記載のITO粒子の製造方法である。
【0025】
第10の構成は、
前記塩基性沈殿剤の添加量を、前記有機溶媒中に溶解したインジウム1molに対して3.5mol以上とすることを特徴とする、第5から第9の構成のいずれかに記載のITO粒子の製造方法である。
【0026】
第11の構成は、
第1から第4の構成のいずれかに記載のITO粉末を含むことを特徴とする透明導電材用塗料である。
【0027】
第12の構成は、
第11の構成に記載の透明導電膜塗料を用いて製造されたことを特徴とする透明導電膜である。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、粒子径のばらつきが小さいナノ粒子からなるITO粉末を製造するこ
とが出来た。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】実施例1で得られたITO粒子のTEM像である。
【図2】実施例1で得られたITO粒子のXRD測定結果である。
【図3】実施例2で得られたITO粒子のTEM像である。
【図4】実施例3で得られたITO粒子のTEM像である。
【図5】実施例4で得られたITO粒子のTEM像である。
【図6】実施例5で得られたITO粒子のTEM像である。
【図7】実施例6で得られたITO粒子のTEM像である。
【図8】比較例1で得られたITO粒子のTEM像である。
【図9】比較例2で得られたITO粒子のTEM像である。
【図10】比較例3で得られたITO粒子のTEM像である。
【図11】比較例4で得られたITO粒子のTEM像である。
【図12】比較例4で得られたITO粒子のXRD測定結果である。
【図13】比較例5で得られたITO粒子のTEM像である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明に係る透明導電材用塗料に適したITO粉末を構成するITO粒子について説明する。
(平均粒径)
本発明に係るITO粉末を構成するITO粒子のTEM像から測定される平均粒子径は、10nm以上、100nm以下である。当該平均粒子径が10nm以上あることで、塗膜時の単位面積当たりの粒子同士の接点の増加が抑制され、粒子同士の接点に生じる接触抵抗の増加が抑制されるからである。一方、当該平均粒子径が100nm以下であることで、粒子の焼結温度が下がる。そして、当該平均粒子径が100nm以下であれば、低温度にて粒子同士が焼結し、均質な膜を作製できるからである。
尚、本発明において粒子径とは、TEMを用いてITO粒子を観察した場合において、後述する長軸径と短軸径との平均値を指す。また、当該粒子径は、当該TEM写真上で重なり合っていないITO粒子(一次粒子)100個について、当該粒子の粒子径を測定し、その平均値を計算することにより算出したものである。
【0031】
(粒径の変動係数)
本発明に係るITO粉末を構成するITO粒子の、上記TEM写真から測定される粒子径の変動係数は15%以下であることが好ましい。ここで前記変動係数とは、100個の粒子について、粒子径を測定し、式1により算出される値である。
変動係数=(粒子径の標準偏差)/(粒子径の平均値)・・・・(式1)
前記変動係数が15%超であると、粒子径のばらつきによる膜密度の低下が起こり、一定の電気抵抗値を得るためには、ITO膜の膜厚を厚くしなければならない不具合が生じることがある。従って、前記変動係数は小さいことが好ましく12%以下であることがさらに好ましい。
【0032】
(粒子形状)
本発明に係るITO粉末を構成するITO粒子の形状は、略立方体の形状を有している。
ITO粉末を構成するITO粒子が立方体の形状であると、球状粒子である場合よりも結晶性が高まる。
これは、ITO塗膜において、ITO粒子が立方体の形状であると、当該立方体のITO粒子を規則的に配列させ易くなることによる。規則的に配列した立方体ITO粒子は、球状、不定形または直方体形状であるITO粒子を配列させるよりも空隙の少ないITO
膜の形成が可能であり、焼成後、電気抵抗値の低い導電膜を得ることが可能となり、好ましい構成である。
【0033】
本発明では、ITO粒子100個をTEMで観察した際、観察された粒子形状が下記条件を満足する場合、ITO粒子は略立方体であると判定した。
即ち、当該条件とは、ITO粒子のアスペクト比が、1.2以下であり、かつ、TEM写真により観察された粒子形状が式3を満足する。
ここで、当該アスペクト比は式2により、計算した値である。
アスペクト比=(長軸径)/(短軸径)・・・・(式2)
尚、式2において、短軸径は粒子のTEM写真を二本の平行線ではさんだ時の最小間隔であり、長軸径は粒子のTEM写真を短軸径に直交する二本の平行線ではさんだ時の間隔である。
(最大径)/(長軸径)≧1.1・・・・(式3)
尚、式3において、最大径は粒子のTEM写真を二本の平行線ではさんだ時の最大間隔である。従って、TEMにより観察された粒子形状が、正方形の場合には、(最大径)/(長軸径)の値は約1.41になり、円形の場合には1となる。つまり、(最大径)/(長軸径)の値が1.41に近いほど、粒子の形状は正方形に近いと考えられる。
以上から、前記100個の粒子のアスペクト比の平均値が1.2以下であり、かつ(最大径)/(長軸径)の平均値が1.1以上である当該ITO粉末の粒子形状は、略立方体であると判定した。
そして、粒子径の変動件数が15%以下であり、粒子形状が略立方体であるITO粉末は、特に好ましいものといえる。
【0034】
さらに、本発明に係る、透明導電材用塗料に適したITO粉末を構成するITO粒子において、式4の値:Rが1.0に近い値であることが好ましい。
(TEM写真より求めた平均一次粒子径)/(XRD回折ピークから求めた酸化インジウムの(222)面から算出される結晶子径)=R・・・・(式4)
当該式4において、TEM像から観察されるITO粒子(一次粒子)径を、XRDスペクトルから求めた酸化インジウムの(222)面から算出される結晶子径で割った当該値:Rが1.0に近い値であることは、当該ITO粒子自体が単結晶に近い粒子であることを示していると考えられるからである。具体的には、当該値:Rが0.75以上、1.2以下、さらに好ましくは0.9以上、1.1以下であることである。Rが当該数値範囲を満たす場合、本発明に係るITO粉末を構成する粒子は、1粒子中に結晶粒界が存在しない非常に結晶性の良い粒子となり、導電性が高く、電気抵抗値の低い膜の形成が可能となるからである。
【0035】
(本発明に係るITO粉末の製造方法)
本発明に係るITO粉末の製造方法について、詳細に説明する。
まず、インジウムとスズとを含有した溶液を準備する。具体的には、溶媒とインジウム塩とスズ塩を混合して、前記インジウムとスズとを含有した溶液を得る。
【0036】
当該溶液に溶解させるインジウム塩としては、In(C、InCl、In(NOおよびIn(SOの群から選ばれる少なくとも1種のインジウムの無水物結晶塩、または、In(NO・3HO、InCl・4HO、In(SO・9HOなどの水和物の結晶塩、または、インジウムメタルをH、HNO、HCl、HSOなどに溶解することによって得られる溶液、を有機溶媒中に溶解することによって得ることができる。ただし、有機溶媒溶液中の含有水分を少なくするという観点から、インジウムの無水の結晶塩を用いることが好ましい。
【0037】
当該溶液に溶解させるスズ塩としては、Sn(C、SnCl、SnCl
、Sn(NOおよびSnSOの群から選ばれる少なくとも1種のスズの無水物結晶塩、または、Sn(NO・3HO、SnCl・2HO、SnCl・5HO、Sn(SO・2HO、などの水和物の結晶塩、またはスズメタルをH、HNO、HCl、HSOなどに溶解することによって得られる溶液を、有機溶媒中に溶解することによって得ることができる。また、テトラメチルスズ、テトラブチルスズなどの有機スズを有機溶媒中に溶解して用いても良い。
ただし、有機溶媒溶液中の含有水分を少なくするという観点から、使用するスズ塩は、スズの無水の結晶塩または有機スズを用いることが好ましい。但し、有機スズは取り扱いに注意が必要なため、無水のスズ結晶塩を用いる方がさらに好ましい。
【0038】
当該インジウムとスズとを含有した有機溶媒溶液中のインジウム濃度は、中和反応前において、0.1〜4.0mol/L、好ましくは0.2〜2.0mol/Lになるように調整する。これは、インジウム濃度が0.1mol/L以上であれば生産性の観点から好ましいからである。また、インジウム濃度が4.0mol/L以下であれば、インジウム塩が有機溶媒中に溶け残ることなく溶解することが可能となり、後述する加熱処理時の溶液中においてインジウム塩が有機溶媒中に均一に存在することになり、均一な粒径の略立方体粒子を作製することが容易になるからである。当該有機溶媒溶液において、スズ塩の添加量は、インジウム塩に対して5〜15mol%とすることが好ましい。
【0039】
インジウム塩とスズ塩とを溶解する溶液の溶媒としては、沸点が100℃から350℃以下の有機溶媒を用いることができる。1分子当たりに、少なくともOH基を1個以上持つ有機溶媒が好ましい。さらに好ましくは、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ポリエチレングリコール、1.2−プロピレングリコール、1.3−ブチレングリコール、2.3−ブチレングリコール、ヘキシレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、グリセリンが挙げられる。これらの有機溶媒は1種のみではなく、2種以上を混合して用いても良い。しかし、これに限らず、その有機溶媒の沸点が100℃から350℃以下である多価アルコールまたは、その誘導体であればよく、またイオン性液体でもよい。また、前記溶媒溶液は含有水分が少ないことが好ましいが、3質量%程度の少量の水を含んでも良い。
【0040】
これは、出発原料となるインジウム塩、スズ塩の親水性が強いため、当該有機溶媒が1分子当たり少なくとも1個以上のOH基を有するか、または、イオン性であれば、当該原料塩が均一に溶解され易くなり、中和時、および熱処理時の均一反応性が良くなる為ではないかと考えられる。勿論、これらの有機溶媒は1種のみではなく、2種以上を混合して用いても良い。さらに好ましくは、50体積%以上の水を溶解出来る親水性の強い水溶性の有機溶媒を用いる。
【0041】
一方、後工程であるITOの塗布液からITO膜への製膜温度としては、基板となるガラスの軟化点や他の電子部材の耐熱温度が300℃付近にあることから、製膜時の加熱温度は250℃以下、さらに好ましくは200℃以下であることが求められる。従って、使用する有機溶媒の沸点が240℃未満であれば、製膜時に容易に有機溶媒が蒸発するため好ましく、さらには当該沸点が200℃未満であることが好ましい。
尤も、当該有機溶媒の沸点が低すぎると、反応加熱時の圧力が非常に高くなるため、圧力に準じた高圧容器が必要となり設備的なコストが必要となる。したがって、当該観点からは、当該沸点が100℃以上であることが好ましい。
以上とは別に、成膜温度が300℃超の用途に用いるITO塗布液を製造する場合には、沸点が240℃以上の溶媒を使用することが便宜である。これは、当該ITO塗布液製造の際の加熱・反応が常圧で可能になるので有利だからである。
【0042】
上述したように、本実施形態に係るITO粒子の生成に用いる有機溶媒は、分子1個あたりにOH基を1個以上持つものであることが好ましい。
さらに、当該有機溶媒が分子1個あたりにOH基を1個以上持つことで、上述した効果とは異なる効果も発揮する。それは、当該有機溶媒中に存在するOH基がスズ含有酸化インジウムからO(酸素)を奪って、これを還元し、酸素欠陥を生成させる効果である。当該生成した酸素欠陥に起因して、生成するITO粒子中にキャリアが発生するので導電性が向上する。
ここで、分子1個あたりにOH基を多く有する化合物という観点から、有機溶媒としては分子1個あたりにOH基を2個以上もつポリオールが好ましい。
【0043】
次に、インジウムとスズとを含有した有機溶媒溶液と、塩基性沈殿剤とを混合して、水酸化インジウム−水酸化スズ沈殿物(以下、「スズ含有水酸化インジウム」と記載する場合がある。)を得る。
ここで、塩基性沈殿剤を含有した溶液について説明する。
まず塩基性沈殿剤としては、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド(TMAH)、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド、テトラプロピルアンモニウムヒドロキシド、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド(TBAH)の群から選ばれる少なくとも1種を使用する。前記塩基性沈殿剤は、予め、上述した有機溶媒中に溶解し、その後、インジウムとスズとを含有した有機溶媒溶液へ混合することが均一に混合し易いので好ましい。
【0044】
ここで、当該混合溶解時に発熱することから、液温が不必要に高くなるのを防ぐ観点から、出来るだけ低温度で混合することが好ましい。具体的には、当該インジウムとスズを含有した溶液の液温は、5℃〜95℃、好ましくは10℃〜50℃の範囲に維持する。そして、保温された当該溶液へ、当該塩基性沈殿剤を、24時間以内、好ましくは1分間〜120分間の添加時間で添加し、スズ含有水酸化インジウムを含む沈殿溶液を生成させる。当該塩基性沈殿剤の添加量は、有機溶媒溶液中に含まれるインジウム1molに対して、塩基性沈殿剤3.5mol〜10.0mol、さらに好ましくは、塩基性沈殿剤4.0mol〜6.0molとなるまで添加し、有機溶媒中においてスズ含有水酸化インジウムを含む沈殿溶液を生成させる。
溶液中に含まれるインジウム1molに対して、塩基性沈殿剤の添加量が3.5mol以上あれば、粒子径ばらつきが小さい立方体形状のITO粒子が得られ、インジウムが十分析出し、生産収率を保つことが出来る。一方、溶液中に含まれるインジウム1molに対して、塩基性沈殿剤の添加量が10.0mol以下であれば塩基性沈殿剤が過剰とならず、生産コスト的に好ましい。
【0045】
次に、当該生成したスズ含有水酸化インジウム沈殿溶液からITO粒子を得る為に、得られたスズ含有水酸化インジウム沈殿溶液を加熱処理する。この際、当該スズ含有水酸化インジウム粒子を当該スズ含有水酸化インジウム沈殿溶液から固液分離し、乾燥させることなく加熱処理工程に移行することが好ましい。これは、前駆体である当該スズ含有水酸化インジウム粒子を、完全に乾燥させることなく加熱処理工程に移行させることで、この段階における前駆体の凝集体発生を回避出来るからである。
ここで、加熱処理温度は240℃から350℃、処理時間は30分間から200時間の範囲が好ましい。加熱処理温度が240℃以上あれば、長時間の加熱処理を回避することが出来る。
この加熱処理を使用する溶媒の沸点以上温度で行う場合には、密閉容器中にて加熱処理(オートクレーブ処理)を行う。高温条件になるほど密閉容器中の圧力が上昇する。そこで、加熱温度が350℃以下であれば、反応時の圧力が高くなり過ぎることがないので特殊な装置を必要とせず好ましい。
加熱処理工程において、密閉容器中にて加熱処理されるスズ含有水酸化インジウム沈殿溶液に含まれる水分量は15質量%以下とすることが好ましい。水分量が15質量%以下
である場合には、高純度のスズ含有酸化インジウムが得られる。同様の理由により、水分量は5質量%以下とすることが、さらに好ましい。
【0046】
本実施形態で使用される加熱装置として、例えば、マントルヒーター、リボンヒーター、オイルバス等が挙げられる。尤も、350℃まで加熱可能なものであれば、多様な加熱装置が適用可能である。また、本実施形態で使用される反応器は、加熱温度が使用する溶媒の沸点を超える場合、前記加熱温度における溶媒の蒸気圧の圧力下でも密閉状態を保持する機能を有する反応器であることが求められる。
【0047】
当該加熱処理後に固液分離・洗浄を行い、ITO粉末のスラリーを得る。当該ITO粉末のスラリーを、このまま、次工程である透明導電膜塗料の製造工程へ送っても良いし、一旦、乾燥させてITO粉末とした後、次工程である透明導電膜塗料の製造工程へ送っても良い。固液分離は、遠心分離等の公知の方法を使用することができる。洗浄に使用する溶媒は、特に限定されないが、エタノール、メタノール等を使用することができる。固液分離と洗浄を繰り返すことにより、より不純物の少ないITO粉末を得ることができる。
【0048】
このようにして得られた本実施形態に係るITO粒子は、上述した、本発明に係る透明導電材用塗料に適したITO粉末を構成するITO粒子である。
【0049】
本実施形態に係るITO粒子は、すべて青色系の粒子であり、酸素欠陥を有するITO粒子が生成していることが判明した。当該酸素欠陥を有するITO粒子は、当該ITO粒子中にキャリアが発生するので導電性が向上する。酸素欠損を持たないITO粒子は、一般的に白色または黄色の粒子であるが、酸素欠損を持つことにより緑色または青色系の粒子となる。
【0050】
次に、本実施形態に係るITO粉末またはITO粉末のスラリーを用いた透明導電膜塗料の製造について説明する。
当該本発明に係る透明導電膜塗料は、本発明に係るITO粉末またはITO粉末のスラリーを溶媒中に分散させることで製造することが出来る。この際、当該透明導電膜塗料におけるITO粉末の濃度は、5〜25質量%の範囲で調整すればよい。
また、本実施形態に係るITO粉末またはITO粉末のスラリーを分散させる液状媒体としては、上述した反応に用いた有機溶媒の他に、アルコール、ケトン、エーテル、エステル、トルエン、シクロヘキサン等の有機溶媒でも良く、純水でも良い。さらに、界面活性剤またはカップリング剤などの分散剤を併用してもよい。
【0051】
本発明に係る透明導電膜塗料は、セラミック、ガラス等の基板、有機フィルム等、様々な基板材に塗布可能であった。さらに、当該透明導電膜塗料の塗布時に、ムラの発生は見られなかった。
【0052】
次に、本発明に係る透明導電膜塗料を用いた透明導電膜の成膜方法例について説明する。
例えば、ガラス基板上に成膜する場合は、当該ガラス基板をスピンコーターにより回転させる。そこへ、本発明に係る透明導電膜塗料を滴下してコートする。得られたコート後のガラス基板を乾燥後、大気雰囲気下で、例えば250℃まで昇温させて20分間保持した後、自然冷却させることで、透明導電膜が形成されたガラス基板を得ることが出来る。得られた透明導電膜が形成されたガラス基板は、加熱温度が250℃程度であるにも拘わらず良好な導電性を示した。
【実施例】
【0053】
以下、透明導電材用塗料に適したITO粉末を構成するITO粒子、およびその製造方
法について、実施例を詳細しながら説明する。
【0054】
[実施例1]
インジウムとスズとを含有した溶液として、エチレングリコール(EG)25mL中に、三塩化インジウム四水和物と四塩化スズ五水和物とを添加して攪拌することにより、インジウムを0.5mol/L、スズを0.05mol/L含有するEG溶液(本発明において、In、Sn溶液と記載する場合がある。)を調製した。これとは別に、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド(TMAH)を2.0mol/L含むEG溶液(東京化成製)(TMAH溶液)25mlを準備した。
前記TMAHのEG溶液を5mL分取して0℃に冷却し撹拌を継続した、ここへ前記In、Sn溶液5mlを滴下して混合溶液を得た。当該滴下終了後、前記混合溶液を15分間撹拌し、その後、前記混合溶液をオートクレーブへ装填した。このときのスズ含有水酸化インジウム沈殿溶液に含まれる水分量は3質量%以下であった。
オートクレーブに装填されたスズ含有水酸化インジウム沈殿溶液を、250℃、96時間静置して加熱処理しスズ含有水酸化インジウム沈殿(懸濁液)を得た。当該加熱処理後のスズ含有水酸化インジウム沈殿(懸濁液)に対し、遠心分離機を用いて18000rpm、10分間の固液分離処理を行い、沈殿物を分離採集した。採集した沈殿物をエタノール20mL中に分散させ、その後、再び、前記と同条件で遠心分離機を用いて固液分離した。得られた沈殿物に対して、さらに純水20mLを用いた分散と前記と同条件の遠心分離機を用いて固液分離を2回繰り返して沈殿物の洗浄を行い、実施例1に係るITO粉末を得た。なお、回収したITO粉末の粉体重量より求めた収率は80%であった。塩基性沈殿剤に無機塩を用いた比較例5の収率と比較すると、塩基性沈殿剤にテトラメチルアンモニウムヒドロキシドを用いることにより、収率が大幅に向上することが判明した。
【0055】
得られた実施例1に係るITO粉末に対し、TEM(透過電子顕微鏡)により形状観察を行った。その結果、下記より、当該ITO粉末の粒子形状は、略立方体形状と判定された。
ITO粉末の平均粒子径は、当該TEM写真上で重なり合っていないITO粒子(一次粒子)100個について、当該粒子の短軸径と長軸径とを測定して粒子径を計算した。そして当該100個の粒子径の平均値を計算することにより算出した。
実施例1に係るITO粒子を透過型電子顕微鏡(TEM)観察した写真を図1に示す。また、平均粒子径は15nmであった。平均粒子径を求めた粒子100個の粒子径から計算した標準偏差は1.6nmであった。前記標準偏差を平均粒子径で除して求めた変動係数は10.6%であった。
【0056】
さらに、平均粒子径を求める際に参照した100個の粒子に対し、長軸径、短軸径、最大径を測定した。これらのデータにより、下記式2、式3で示される値を計算により求めた。
アスペクト比=(長軸径)/(短軸径)・・・(式2)
ここでアスペクト比は、式2により100個の粒子のアスペクト比を求めて、その平均値を計算した値である。
(最大径)/(長軸径)=X・・・・(式3)
実施例1に係る100個の粒子のアスペクト比の平均値は、1.12であった。そして、式3で示すXの平均値は1.18であった。したがって、実施例1に係わる粒子はアスペクト比が1.2以下であり、かつ、Xの値が1.1以上であるため、粒子形状のばらきがなく、立方体に近い粒子形状であることが判明した。
【0057】
当該ITO粉末のXRDスペクトルを測定した結果を図2に示す。得られた回折パターンは酸化インジウムの回折パターンと一致しており、立方晶系を有する酸化インジウムの単一組成と同じ結晶構造であることが判明した。さらに、2θ角で29.0°〜31.0
°(CuKα1線源)にピークが現れる(222)回折ピークについて、回折ピークの強度Int.(222)と、半価幅Bとを算出した。そして、シェラーの式Dx=0.94λ/Bcosθ(但し、Dxは結晶子の大きさ、λは測定に用いたX線の波長(CuKα1線源)、Bは回折ピークの半価幅、θは回折ピークのブラッグ角である。)より、実施例1に係るITO粉末の結晶子径を求めたところ16.3nmであった。
また、「(TEM写真より求めた平均粒子径)/(XRD回折ピークから求めた結晶子径)」の値は0.92であった。
【0058】
[実施例2]
TMAH溶液中のテトラメチルアンモニウムヒドロキシド(TMAH)濃度を2.0mol/Lから、2.5mol/Lに変更した以外は、実施例と同様の方法で、実施例2に係るITO粉末を得て、その評価をおこなった。
【0059】
実施例2に係るITO粉末に対し、TEM(透過電子顕微鏡)で形状観察を行った。下記により、ITO粉末の粒子形状は略立方体形状と判定された。
平均粒子径は17.2nmであった。平均粒子径を求めた粒子100個の粒子径から計算した標準偏差は2.35nmであった。前記標準偏差を平均粒子径で除して求めた変動係数は13.7%であった。結晶子径は17.7nmであり、「(TEM写真より求めた
平均粒子径)/(XRD回折ピークから求めた結晶子径)」の値は0.97であった。また、100個の粒子のアスペクト比の平均値は1.12であり、(最大径)/(長軸径)の平均値は1.17であった。
実施例2に係るITO粒子を透過型電子顕微鏡(TEM)観察した写真を図3に示す。
【0060】
[実施例3]
In、Sn溶液中のスズ濃度を0.05mol/Lから0.075mol/Lに変更した以外は、実施例1と同様の方法で、実施例3に係るITO粉末を得て、その評価をおこなった。
【0061】
実施例3に係るITO粉末に対し、TEM(透過電子顕微鏡)を用いて形状観察を行った。下記より、ITO粉末の粒子形状は、略立方体形状と判定された。
平均粒子径は11.2nmであった。平均粒子径を求めた粒子100個の粒子径から計算した標準偏差は2.0nmであった。前記標準偏差を平均粒子径で除して求めた変動係数は13.7%であった。結晶子径は12.7nmであり、「(TEM写真より求めた平均粒子径)/(XRD回折ピークから求めた結晶子径)」の値は0.88であった。
また、100個の粒子のアスペクト比の平均値は1.15であり、(最大径)/(長軸径)の平均値は1.10であった。
実施例3に係るITO粒子を透過型電子顕微鏡(TEM)観察した写真を図4に示す。
【0062】
[実施例4]
加熱処理時間を96時間から48時間に変更した以外は、実施例1と同様の方法で、実施例4に係るITO粉末を得て、その評価をおこなった。
【0063】
実施例4に係るITO粉末に対し、TEM(透過電子顕微鏡)で形状観察を行った。下記より、ITO粉末の粒子形状は略立方体形状と判定された。
平均粒子径は13.5nmであった。平均粒子径を求めた粒子100個の粒子径から計算した標準偏差は1.96nmであった。前記標準偏差を平均粒子径で除して求めた変動係数は14.6%であった。結晶子径は15.8nmであり、「(TEM写真より求めた平均粒子径)/(XRD回折ピークから求めた結晶子径)」の値は0.85であった。また、100個の粒子のアスペクト比の平均値は1.15であり、(最大径)/(長軸径)の値は1.12であった。
実施例4に係るITO粒子を透過型電子顕微鏡(TEM)観察した写真を図5に示す。
【0064】
[実施例5]
テトラメチルアンモニウムヒドロキシド(TMAH)を2.0mol/L含むEG溶液25ml(TMAH溶液)を調製する代わりに、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド(TBAH)を2.0mol/L含むEG溶液25ml(TBAH溶液)を調製することに変更した以外は、実施例1と同様の方法で、実施例5に係るITO粉末を得て、その評価をおこなった。
【0065】
実施例5に係るITO粉末に対し、TEM(透過電子顕微鏡)で形状観察を行った。下記により、ITO粉末の粒子形状は略立方体形状と判定された。
平均粒子径は23.2nmであった。平均粒子径を求めた粒子100個の粒子径から計算した標準偏差は3.1nmであった。前記標準偏差を平均粒子径で除して求めた変動係数は13.3%であった。結晶子径は23.4nmであり、「(TEM写真より求めた平均粒子径)/(XRD回折ピークから求めた結晶子径)」の値は0.99であった。また、100個の粒子のアスペクト比の平均値は1.10であり、(最大径)/(長軸径)の平均値は1.11であった。
実施例5に係るITO粒子を透過型電子顕微鏡(TEM)観察した写真を図6に示す。
【0066】
[実施例6]
反応温度を250℃から240℃に変更した以外は、実施例1と同様の方法で、実施例6に係るITO粉末を得て、その評価をおこなった。
【0067】
実施例6に係るITO粉末に対し、TEM(透過電子顕微鏡)で形状観察を行った。下記より、ITO粉末の粒子形状は、略立方体形状と判定された。
平均粒子径は13.8nmであった。平均粒子径を求めた粒子100個の粒子径から計算した標準偏差は2.1nmであった。前期標準偏差を平均粒子径で除して求めた変動係数は13.7%であった。結晶子径は16.2nmであり、「(TEM写真より求めた平均粒子径)/(XRD回折ピークから求めた結晶子径)」の値は0.85であった。また、100個の粒子のアスペクト比の平均値は1.11であり、(最大径)/(長軸径)の値は1.12であった。
実施例6に係るITO粒子を透過型電子顕微鏡(TEM)観察した写真を図7に示す。
【0068】
[比較例1]
加熱処理の温度を250℃から220℃に変更した以外は、実施例1と同様の方法で、比較例1に係るITO粉末を得て、その評価をおこなった。
【0069】
比較例1に係るITO粉末に対し、TEM(透過電子顕微鏡)で形状観察を行った。下記により、ITO粉末の粒子形状は略立方体形状と判定されず、球状に近い形状の粒子が多く存在した。
平均粒子径は7.4nmであった。平均粒子径を求めた粒子100個の粒子径から計算した標準偏差は1.6nmであった。前記標準偏差を平均粒子径で除して求めた変動係数は21.2%であった。結晶子径は16.8nmであり、「(TEM写真より求めた平均粒子径)/(XRD回折ピークから求めた結晶子径)」の値は、0.44であった。また、100個の粒子のアスペクト比の平均値は1.24であり、(最大径)/(長軸径)の平均値は1.12であった。
比較例1に係るITO粒子を透過型電子顕微鏡(TEM)観察した写真を図8に示す。
【0070】
[比較例2]
TMAH溶液中のテトラメチルアンモニウムヒドロキシド(TMAH)濃度を2.0m
ol/Lから、1.5mol/Lに変更した以外は、実施例1と同様の方法で、比較例2に係るITO粉末を得た。
【0071】
得られた比較例2に係るITO粉末に対し、TEM(透過電子顕微鏡)で形状観察を行った。下記より、ITO粉末の粒子径はばらつきが多く、粒子形状は、略立方体形状と判定されず、球状に近い形状の粒子が多く存在した。
平均粒子径は20.9nmであった。平均粒子径を求めた粒子100個の粒子径から計算した標準偏差は3.4nmであった。前記標準偏差を平均粒子径で除して求めた変動係数は16.4%であった。結晶子径は25.4nmであり、「(TEM写真より求めた平均粒子径)/(XRD回折ピークから求めた結晶子径)」の値は0.82であった。また、100個の粒子のアスペクト比の平均値は1.19であり、(最大径)/(長軸径)の平均値は1.02であった。
比較例2に係るITO粒子を透過型電子顕微鏡(TEM)観察した写真を図9に示す。
【0072】
[比較例3]
テトラメチルアンモニウムヒドロキシド(TMAH)を2.0mol/L含むEG溶液25ml(TMAH溶液)を調製する代わりに、テトラヘキシルアンモニウムヒドロキシド(THAH)を2.0mol/L含むEG溶液25ml(THAH溶液)を調製することに変更した以外は、実施例1と同様の方法で、比較例3に係るITO粉末を得た。
【0073】
得られた比較例3に係るITO粉末に対し、TEM(透過電子顕微鏡)で形状観察を行った。下記より、ITO粉末の粒子径はばらつきが多く、粒子形状は略立方体形状と判定されず、球状に近い形状の粒子が多く存在した。
平均粒子径は24.8nmであった。平均粒子径を求めた粒子100個の粒子径から計算した標準偏差は4.9nmであった。前記標準偏差を平均粒子径で除して求めた変動係数は19.6%であった。結晶子径は24.1nmであり、「(TEM写真より求めた平均粒子径)/(XRD回折ピークから求めた結晶子径)」の値は1.03であった。また、100個の粒子のアスペクト比の平均値は1.13であり、(最大径)/(長軸径)の平均値は1.06であった。
比較例3に係るITO粒子を透過型電子顕微鏡(TEM)観察した写真を図10に示す。
【0074】
[比較例4]
In,Sn溶液中のスズ濃度を0.05mol/Lから0.10mol/Lに変更した以外は、実施例1と同様の方法で、比較例4に係るITO粉末を得た。
【0075】
得られた比較例4に係るITO粉末に対し、TEM(透過電子顕微鏡)で形状観察を行った。下記により、ITO粉末の粒子形状は、略立方体形状と判定されず、球状に近い形状の粒子が多く存在した。またXRDの回折ピークを確認すると、InOOHと思われる不純物相が確認された。
比較例4に係るITO粒子を透過型電子顕微鏡(TEM)観察した写真を図11に、XRD測定結果を図12に示す。
【0076】
[比較例5]
比較例5は、塩基性沈殿剤としてNaOHを用いて製造したITO粉末である。
当該請求項5に係るITO粉末の製造方法について説明する。
インジウムとスズとを含有した溶液として、エチレングリコール25ml中に、インジウムが0.50mol/L、スズが0.05mol/Lとなるように、InCl・4HOを3.44g、SnCl・5HOを0.44g秤量した。両塩を撹拌しながら、ジエチレングリコール25mlを少量ずつ加え、インジウムとスズとを含有した溶液を調
整した。
また、エチレングリコール25ml中にNaOHが2.0mol/LとなるようにNaOHを2.00g秤量した。当該NaOHを溶解しながら、エチレングリコール25mlを少量ずつ加え、塩基性溶液を調整した。
【0077】
前記NaOH溶液を5mL分取し、0℃に冷却し、撹拌しながら、前記In,Sn溶液5mlを滴下して、混合溶液を得た。滴下終了後、前記混合溶液を15分撹拌し、その後、前記混合溶液をオートクレーブへ移し、250℃、96時間静置し、加熱処理した。加熱処理後の混合溶液(懸濁液)に対し、遠心分離機を用いて、18000rpm、10分間処理して固液分離して、沈殿物を分離採集した。採集した沈殿物をエタノール20mL中に分散させ、その後再び前記と同じ条件で遠心分離機を用いて固液分離した。得られた沈殿物に対して、さらに純水20mLを用いて分散させ前記と同条件の固液分離操作を2回繰り返すことで沈殿物の洗浄を行い、比較例5に係るITO粉末を得た。なお、回収したITO粉末の粉体重量より求めた収率は20%であった。
【0078】
比較例5に係るITO粉末をTEM(透過電子顕微鏡)で形状観察を行った。下記により、ITO粉末の粒子径はばらつきが多く、粒子形状は略立方体形状と判定されず、球状に近い形状の粒子が多く存在した。
平均粒子径は、15.1nmであり、平均粒子径を求めた粒子100個の粒子径から計算した標準偏差は、3.0nmであった。前記標準偏差を平均粒子径で除して求めた変動係数は20.0%であった。結晶子径は、17.6nmであり、「(TEM写真より求めた平均粒子径)/(XRD回折ピークから求めた結晶子径)」の値は、0.86であった。また、100個の粒子のアスペクト比の平均値は、1.23であり、(最大径)/(長軸径)の平均値は1.13であった。比較例5に係るITO粒子を透過型電子顕微鏡(TEM)観察した写真を図13に示す。
当該比較例5の結果から、塩基性沈殿剤として従来の製法である無機塩を用いた場合、ITO粉末の収率が悪く、ITO粒子径のばらつきが生じ、均一な粒子径が得られないことが判明した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
TEM写真から求めた平均粒子径が10nm以上、100nm以下であり、当該粒子径の標準偏差を平均粒子径で除して求めた変動係数が15%以下であることを特徴とするITO粉末。
【請求項2】
前記ITO粒子の平均アスペクト比が1.2以下、且つ、前記ITO粒子の(最大径)/(長軸径)の平均値が1.1以上であることを特徴とする請求項1に記載のITO粉末。
【請求項3】
前記ITO粒子の粒子形状が立方体であることを特徴とする請求項1または2に記載のITO粉末。
【請求項4】
前記ITO粒子において「(TEM写真より求めた平均粒子径)/(XRD回折ピークから求めた結晶子径)」の値が0.75以上、1.2以下であることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載のITO粉末。
【請求項5】
インジウムを含む塩とスズを含む塩とを有機溶媒中に溶解した液と、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド(TMAH)、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド、テトラプロピルアンモニウムヒドロキシド、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド(TBAH)の群から選択される1種以上の塩基性沈殿剤とを混合し、インジウムとスズとを含む前駆
体と、有機溶媒との混合物を、生成させる第1の工程と、
第1の工程で生成したインジウムとスズとを含む前駆体と、有機溶媒との混合物を、240℃以上、350℃以下の温度で加熱処理してITO粒子を生成させる第2の工程とを、有することを特徴とするITO粒子の製造方法。
【請求項6】
前記有機溶媒として、当該溶媒分子1個当たり、1個以上のOH基を含む有機溶媒を用いることを特徴とする請求項5に記載のITO粒子の製造方法。
【請求項7】
前記有機溶媒として、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ポリエチレングリコール、1.2−プロピレングリコール、1.3−ブチレングリコール、2.3−ブチレングリコール、ヘキシレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、グリセリンの群から選択される1種以上を用いることを特徴とする請求項6に記載のITO粒子の製造方法。
【請求項8】
前記第2の工程において、加熱処理温度を240℃以上、350℃以下とすることを特徴とする請求項5から7のいずれかに記載のITO粒子の製造方法。
【請求項9】
前記第2の工程において、加熱処理時間を30分間〜200時間とすることを特徴とする請求項5から8のいずれかに記載のITO粒子の製造方法。
【請求項10】
前記塩基性沈殿剤の添加量を、前記有機溶媒中に溶解したインジウム1molに対して3.5mol以上とすることを特徴とする、請求項5から9のいずれかに記載のITO粒子の製造方法。
【請求項11】
請求項1から4のいずれかに記載のITO粉末を含むことを特徴とする透明導電材用塗料。
【請求項12】
請求項11に記載の透明導電膜塗料を用いて製造されたことを特徴とする透明導電膜。

【図2】
image rotate

【図12】
image rotate

【図1】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図13】
image rotate


【公開番号】特開2011−126746(P2011−126746A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−287816(P2009−287816)
【出願日】平成21年12月18日(2009.12.18)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成20年度 独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「希少金属代替材料開発プロジェクト/透明電極向けインジウム使用量低減技術開発」に係る委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【出願人】(506334182)DOWAエレクトロニクス株式会社 (336)
【Fターム(参考)】