説明

In−Ga−Zn系複合酸化物焼結体およびその製造方法

【課題】比抵抗が低く、かつ、光の透過率が高い薄膜を形成することができるIn−Ga−Zn系複合酸化物焼結体およびその製造方法を提供する。
【解決手段】本In−Ga−Zn系複合酸化物焼結体は、ZnGa24結晶で形成される第1相と、In23結晶で形成される第2相とを含み、焼結体の任意の断面における全ての相に対する第1相および第2相の合計の相面積比率が70%以上100%以下である。また、本In−Ga−Zn系複合酸化物焼結体の製造方法は、ZnO粉末とGa23粉末とを混合して第1混合物を調製する第1混合工程と、第1混合物を800℃以上1300℃以下で仮焼してZnGa24を含む粉末を形成する仮焼工程と、ZnGa24を含む粉末とIn23粉末とを混合して第2混合物を調製する第2混合工程と、第2混合物を焼結する焼結工程と、を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ZnGa24結晶およびIn23結晶を含むIn−Ga−Zn系複合酸化物焼結体およびその製造方法に関する。かかる焼結体はスパッタリングのターゲットに好適に用いられる。
【背景技術】
【0002】
液晶表示装置、薄膜EL(エレクトロルミネッセンス)、有機EL表示装置などにおいて、TFT(薄膜トランジスタ)のチャネル層または透明電極用の透明薄膜として、従来は、主としてアモルファスシリコン膜が使用されてきた。
【0003】
しかし、近年、上記の透明薄膜として、In−Ga−Zn系複合酸化物(以下、IGZOという)を主成分とするアモルファス半導体膜が、アモルファスシリコン膜よりもキャリアの移動度が高いという利点から注目されている。
【0004】
かかるIGZOを主成分とするアモルファス半導体膜を形成するためのIGZOスパッタリングターゲットとして、たとえば、特開2008−214697号公報(以下、引用文献1という)では、DCスパッタリングで使用しても異常放電の発生を抑制できるターゲットとして、InGaZnO4で表わされる化合物を主成分とし正四価以上の金属元素を含む焼結体が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−214697号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
また、上記引用文献2に開示のターゲットにおいては、比抵抗を低減するために正四価以上の金属元素が添加されているため、添加された正四価以上の金属元素により、光の透過率が低減する。このため、かかるターゲットを用いてスパッタ法により作製される薄膜は、光の透過率が低下するすなわち透明度が低下するという問題があった。
【0007】
本願発明は、上記問題を解決して、スパッタリングのターゲットとして用いることにより、IGZO(In−Ga−Zn系複合酸化物)を主成分とする、比抵抗が低く、かつ、光の透過率が高い薄膜を形成することができるIGZO焼結体およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、ZnGa24結晶で形成される第1相と、In23結晶で形成される第2相とを含み、焼結体の任意の断面における全ての相に対する第1相および第2相の合計の相面積比率が70%以上100%以下であるIn−Ga−Zn系複合酸化物焼結体である。
【0009】
本発明にかかるIn−Ga−Zn系複合酸化物焼結体において、第1相の平均粒径を2μm以上6μm以下とし、第2相の平均粒径を1μm以上2μm以下とすることができる。また。In−Ga−Zn系複合酸化物焼結体に含まれるIn、GaおよびZnの全量を100原子%とするとき、Inの比率を35原子%以上50原子%以下、Gaの比率を35原子%以上50原子%以下、およびZnの比率を15原子%以上30原子%とすることができる。また、かかるIn−Ga−Zn系複合酸化物焼結体は、スパッタリングのターゲットに用いることができる。
【0010】
本発明は、上記のIn−Ga−Zn系複合酸化物焼結体の製造方法であって、ZnO粉末とGa23粉末とを混合して第1混合物を調製する第1混合工程と、第1混合物を800℃以上1300℃以下で仮焼してZnGa24を含む粉末を形成する仮焼工程と、ZnGa24を含む粉末とIn23粉末とを混合して第2混合物を調製する第2混合工程と、第2混合物を焼結する焼結工程と、を含むIn−Ga−Zn系複合酸化物焼結体の製造方法である。
【0011】
本発明にかかるIn−Ga−Zn系複合酸化物焼結体の製造方法において、第2混合工程における混合時間を12時間以上30時間以下とすることができる。また、第2混合物は、平均粒径を1μm以上1.5μm以下とすることができる。また、第2混合物は、比表面積を11m2/g以上15m2/g以下とすることができる。
【発明の効果】
【0012】
上記のように、本発明によれば、スパッタリングのターゲットとして用いることにより、IGZO(In−Ga−Zn系複合酸化物)を主成分とする、比抵抗が低く、かつ、光の透過率が高い薄膜を形成することができるIGZO焼結体およびその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
[実施形態1]
本発明のある実施形態であるIGZO(In−Ga−Zn系複合酸化物)焼結体は、ZnGa24結晶で形成される第1相と、In23結晶で形成される第2相とを含み、焼結体の任意の断面における全ての相に対する第1相および第2相の合計の相面積比率が70%以上100%以下である。本実施形態の焼結体は、かかる構造を有するため、比抵抗が低く、かつ、光の透過率が高くなる。焼結体の任意の断面における全ての相に対する第1相および第2相の合計の相面積比率が70%未満であると、ZnGa24結晶で形成される第1相およびIn23結晶で形成される第2相に比べて比抵抗が高いZnO結晶などで形成される他の相の相面積比率が大きくなる。かかる観点から、第1相および第2相の合計の相面積比率は75%以上100%以下が好ましい。ここで、他の相としては、ZnO結晶で形成される相、InGaZnO4結晶で形成される相などが挙げられる。
【0014】
ここで、第1相を形成するZnGa24結晶、第2相を形成するIn23結晶、他の相を形成するZnO結晶、InGaZnO4結晶などの化学組成は、X線回折により解析することができる。また、焼結体の任意の断面における全ての相に対する第1相、第2相およびその他の相の相面積比率は、SEM(走査型電子顕微鏡)の反射電子像のコントラスト差およびEDX(エネルギー分散型X線)分析装置による結晶相の同定により解析することができる。
【0015】
本実施形態のIGZO焼結体において、第1相の平均粒径は2μm以上6μm以下かつ第2相の平均粒径は1μm以上2μm以下であることが好ましい。第1相および第2相の平均粒径が上記の範囲外であると、かかる焼結体をターゲットとして用いたスパッタリングは不均一となるため、ターゲットにおけるノジュールの発生およびスパッタ速度の低下の原因となり、スパッタリングにより形成される薄膜の比抵抗が大きくなる。
【0016】
ここで、焼結体の第1相、第2相、およびその他の相の平均粒径は、SEM(走査型電子顕微鏡)の反射電子像のコントラスト差およびEDX(エネルギー分散型X線)分析装置による結晶相の同定から算出することができる。
【0017】
本実施形態のIGZO焼結体に含まれるIn、GaおよびZnの全量を100原子%とするとき、Inの比率が35原子%以上50原子%以下、Gaの比率が35原子%以上50原子%以下、およびZnの比率が15原子%以上30原子%であることが好ましい。Inの比率が35原子%より低いと比抵抗が高くなり、Inの比率が50原子%より高いと原料コストが高くなる。Gaの比率が35原子%より低いと光の透過性が低くなり、Gaの比率が50原子%より高いと焼結温度が低下して低温でInGaO4結晶相およびIn2Ga2ZnO7結晶相が析出し易くなる。Znの比率が15原子%より低いと成膜された薄膜のアモルファス構造を不安定化させる原因となり、Znの比率が30原子%より高いと大気中で化学的に不安定となる。
【0018】
ここで、焼結体に含まれるIn、Ga、およびZnなどの元素の原子%は、ICP(誘導結合プラズマ)発光分析法などにより分析することができる。
【0019】
本実施形態のIGZO焼結体をスパッタリングのターゲットとして用いることにより、比抵抗が低く、かつ、光の透過率が高い薄膜が得られる。また、本実施形態の焼結体は、たとえば以下に説明する実施形態2の焼結体の製造方法により製造することができる。
【0020】
[実施形態2]
本発明の他の実施形態であるIGZO(In−Ga−Zn系複合酸化物)焼結体の製造方法は、ZnO粉末とGa23粉末とを混合して第1混合物を調製する第1混合工程と、第1混合物を800℃以上1300℃以下で仮焼してZnGa24を含む粉末を形成する仮焼工程と、ZnGa24を含む粉末とIn23粉末とを混合して第2混合物を調製する第2混合工程と、第2混合物を焼結する焼結工程と、を含む。
【0021】
本実施形態のIGZO焼結体の製造方法により、スパッタリングのターゲットとして用いることにより、IGZOを主成分とする、比抵抗が低く、かつ、光の透過率が高い薄膜を形成することができるIGZO焼結体が得られる。
【0022】
(第1混合工程)
本実施形態のIGZO焼結体の製造方法は、ZnO粉末とGa23粉末とを混合して第1混合物を調製する第1混合工程を含む。混合方法および混合時間は特に制限はないが、均質で高純度な混合物を得る観点から、混合方法は、ボールミルによる混合、ビーズミルによる混合、湿式ジェットミルによる混合などが好ましく、混合時間は12時間以上30時間以下が好ましい。また、ZnO粉末とGa23粉末との混合比は、特に制限はないが、次工程の仮焼工程においてZnGa23を高効率で生成させる観点から、ZnO粉末とGa23粉末との混合モル比が、1:1またはその近傍であることが好ましく、たとえば、1:0.75〜1.25が好ましく、1:0.80〜1.20がより好ましい。
【0023】
(仮焼工程)
本実施形態のIGZO焼結体の製造方法は、第1混合物を800℃以上1300℃以下で仮焼してZnGa24を含む粉末を形成する仮焼工程を含む。800℃より低い温度で仮焼されたZnGa24を含む粉末は、仮焼によりZnOとGa23とが反応して生成したZnGa24の含有量が少なく、Ga23と反応しないで多く残存するZnOが、後の焼結工程の際にIn23と反応するため、焼結体が不均質になるとともに、焼結の際の体積収縮による気孔の形成が多くなり、焼結体の相対密度が低下する。1300℃より高い温度で仮焼されたZnGa24を含む粉末は、強い凝結が生じているため粉砕が困難であるとともに、不活性になっているため焼結が困難となる。
【0024】
(第2混合工程)
本実施形態のIGZO焼結体の製造方法は、ZnGa24を含む粉末とIn23粉末とを混合して第2混合物を調製する第2混合工程を含む。混合方法および混合時間は特に制限は無いが、均質で高純度な混合物を得る観点から、混合方法は、ボールミルによる混合、ビーズミルによる混合、湿式ジェットミルによる混合などが好ましく、混合時間は12時間以上30時間以下が好ましい。かかる混合により、第2混合物のZnGa24を含む粉末およびIn23粉末を粉砕して、第2混合物の平均粒径および/または比表面積を好適な範囲とすることができる。第2混合工程の混合時間が12時間より短いと、第2混合物の平均粒度を十分に小さくできないため緻密な焼結体を得ることが困難になるとともに、ZnGa24を含む粉末の粉砕が不十分であるためスパッタリングにより形成される薄膜の主表面が不均一となり電気特性が低下する。第2混合工程の混合時間が30時間より長いと、第2混合物が凝結により嵩高く不均質になるとともに、混合による混合装置から第2混合物への不純物の混入によりスパッタリングにより形成される薄膜の電気特性および光の透過特性が低下する。
【0025】
仮焼工程で得られたZnGa24を含む粉末とIn23粉末との混合比は、特に制限は無いが、次工程の焼結工程においてZnGa24結晶相(第1相)およびIn23結晶相(第2相)の合計の相面積比率が高い焼結体を形成させる観点から、ZnGa24を含む粉末とIn23粉末との混合モル比が、1:1またはその近傍であることが好ましく、たとえば、1:0.78〜1.23が好ましく、1:0.82〜1.17がより好ましい。
【0026】
第2混合工程において調製される第2混合物は、平均粒径が1.0μm以上1.5μm以下であることが好ましい。ここで、第2混合物中の粉末の平均粒径は、光散乱式の粒度分布測定装置により測定される。平均粒径が1.0μmより小さい第2混合物は、混合による混合装置から不純物が混入しているため、スパッタリングにより形成される薄膜の電気特性および光の透過特性が低下する。また、平均粒径が1.5μmより大きい第2混合物は、緻密な焼結体を得ることが困難になるとともに、ZnGa24を含む粉末の粉砕が不十分であるためスパッタリングにより形成される薄膜の主表面が不均一となり電気特性が低下する。
【0027】
第2混合工程において調製される第2混合物は、比表面積が11m2/g以上15m2/g以下であることが好ましい。ここで、第2混合物中の粉末の比表面積は、BET法により測定される。比表面積が15m2/gより大きい第2混合物は、混合による混合装置から不純物が混入しているため、スパッタリングにより形成される薄膜の電気特性および光の透過特性が低下する。また、比表面積が11m2/gより小さい第2混合物は、緻密な焼結体を得ることが困難になるとともに、ZnGa24を含む粉末の粉砕が不十分であるためスパッタリングにより形成される薄膜の主表面が不均一となり電気特性が低下する。
【0028】
(焼結工程)
本実施形態のIGZO焼結体の製造方法は、第2混合物を焼結する焼結工程を含む。かかる焼結工程により、比抵抗が低く、かつ、光の透過率が高い薄膜を形成することができるIGZO焼結体が得られる。
【0029】
上記の焼結工程は、相対密度の高い焼結体が得られる工程であればその方法に特に制限はなく、たとえば、CIP(冷間等方加圧)法、鋳込み成形法などの方法により、第2混合物を成形して成形体を形成した後、かかる成形体を焼結してもよく、また、HP(熱加圧)法、HIP(熱間等方加圧)法などの方法により第2混合物を成形するとともに焼結してもよい。
【0030】
ここで、焼結体の相対密度を高める観点から、成形のための圧力は9.8MPa以上294MPa以下が好ましく、焼結のための温度は1200℃以上1450℃以下が好ましい。
【実施例】
【0031】
(実施例I)
1.原料
原料として、平均粒径が0.82μmで比表面積が4.6m2/gのZnO粉末、平均粒径が0.77μmで比表面積が18.9m2/gのGa23粉末、および平均粒径が3.45μmで比表面積が13.4m2/gのIn23粉末を準備した。
【0032】
2.第1混合工程
上記のZnO粉末1molとGa23粉末1molとを、ボールミルを用いて12時間湿式混合した(第1湿式混合)。ボールとしては、直径5mmのZrO2ボールを用いた。第1湿式混合により得られた混合スラリーを自然乾燥させて第1混合物を得た。
【0033】
3.仮焼工程
得られた第1混合物を、大気炉を用いて、750℃(試料I−1)、800℃(試料I−2)、950℃(試料I−3)、1300℃(試料I−4)、または1350℃(試料I−5)で仮焼した。X線回折による回折パターンの解析から、750℃または800℃で仮焼した粉末中にはZnO結晶、Ga23結晶およびZnGa24結晶の存在が確認され、950℃、1300℃または1350℃で仮焼した粉末中にはZnGa24結晶のみの存在が確認された。
【0034】
4.第2混合工程
上記の仮焼後の粉末とIn23粉末1molとを、ボールミルを用いて12時間湿式混合した(第2湿式混合)。ボールとしては、直径5mmのZrO2ボールを用いた。第2湿式混合により得られた混合スラリーを自然乾燥後さらに300℃で真空乾燥させて第2混合物を得た。
【0035】
5.焼結工程
上記得られた第2混合物を、油圧プレス機にて200kgf/cm2(19.6MPa)の圧力で成形した後さらにCIPにて2000kgf/cm2(196MPa)の圧力で成形した。得られた成形体を、大気炉にて1300℃で焼結した。得られた焼結体の相対密度をアルキメデス法により測定した。ここで、焼結体の相対密度とは、その焼結体の真密度に対する見かけの密度の百分率をいう。750℃で仮焼した粉末から得られた焼結体の相対密度は94.3%、800℃で仮焼した粉末から得られた焼結体の相対密度は97.8%、950℃で仮焼した粉末から得られた焼結体の相対密度は98.7%、1300℃で仮焼した粉末から得られた焼結体の相対密度は98.9%、1350℃で仮焼した粉末から得られた焼結体の相対密度は95.2%であった。結果を表1にまとめた。
【0036】
得られた焼結体の主表面を平面研削盤で1.0mm研削した後、X線回折により相分析を行った結果、800℃で仮焼した粉末または850℃で仮焼した粉末から得られた焼結体ではZnO結晶、ZnGa24結晶、およびIn23結晶の存在が確認され、950℃、1300℃または1350℃で仮焼した粉末から得られた焼結体ではZnGa24結晶およびIn23の結晶の存在が確認された。結果を表1にまとめた。
【0037】
得られた焼結体の表面から500μm内部の断面における全ての相(結晶相)に対する各相(各結晶相)の相面積比率を、SEM(日立ハイテク社製S−3400N)の反射電子像のコントラストの差から解析した。反射電子像で観察される各結晶粒のコントラストに対応する結晶相の同定は、EDX分析装置(サーモフィッシャー社製NORAN System Seven)により分析した。750℃で仮焼した粉末から得られた焼結体は、ZnGa24結晶相(第1相)の相面積比率が18%、In23結晶相(第2相)の相面積比率が50%、ZnO結晶相の相面積比率が32%、すなわち第1相および第2相の合計の相面積比率は68%であった。800℃で仮焼した粉末から得られた焼結体は、ZnGa24結晶相(第1相)の相面積比率が26%、In23結晶相(第2相)の相面積比率が49%、ZnO結晶相の相面積比率が25%、すなわち第1相および第2相の合計の相面積比率は75%であった。950℃で仮焼した粉末から得られた焼結体は、ZnGa24結晶相(第1相)の相面積比率が49%、In23結晶相(第2相)の相面積比率が51%、すなわち第1相および第2相の合計の相面積比率は100%であった。1300℃で仮焼した粉末から得られた焼結体は、ZnGa24結晶相(第1相)の相面積比率が47%、In23結晶相(第2相)の相面積比率が53%、すなわち第1相および第2相の合計の相面積比率は100%であった。1350℃で仮焼した粉末から得られた焼結体は、ZnGa24結晶相(第1相)の相面積比率が52%、In23結晶相(第2相)の相面積比率が48%、すなわち第1相および第2相の合計の相面積比率は100%であった。結果を表1にまとめた。
【0038】
得られた焼結体の各相(各結晶相)の粒径を、上記のSEM(日立ハイテク社製S−3400N)の反射電子像のコントラストの差から算出した。反射電子像で観察される各結晶粒のコントラストに対応する結晶相の同定は、EDX分析装置(サーモフィッシャー社製NORAN System Seven)により分析した。750℃で仮焼した粉末から得られた焼結体は、ZnGa24結晶相(第1相)の粒径が13.6μm、In23結晶相(第2相)の粒径が10.1μm、ZnO結晶相の粒径が1.3μmであった。800℃で仮焼した粉末から得られた焼結体は、ZnGa24結晶相(第1相)の粒径が6.0μm、In23結晶相(第2相)の粒径が1.7μm、ZnO結晶相の粒径が0.7μmであった。950℃で仮焼した粉末から得られた焼結体は、ZnGa24結晶相(第1相)の粒径が2.7μm、In23結晶相(第2相)の粒径が1.5μmであった。1300℃で仮焼した粉末から得られた焼結体は、ZnGa24結晶相(第1相)の粒径が5.8μm、In23結晶相(第2相)の粒径が1.9μmであった。1350℃で仮焼した粉末から得られた焼結体は、ZnGa24結晶相(第1相)の粒径が19.4μm、In23結晶相(第2相)の粒径が8.3μmであった。結果を表1にまとめた。
【0039】
得られた焼結体の比抵抗は、比抵抗計(三菱油化社製ロレスタ)を用いて四探針法により測定したところ、750℃で仮焼した粉末から得られた焼結体が3.8×10-1Ωcm、800℃で仮焼した粉末から得られた焼結体が1.0×10-3Ωcm、950℃で仮焼した粉末から得られた焼結体が5.0×10-4Ωcm、1300℃で仮焼した粉末から得られた焼結体が9.2×10-4Ωcm、1350℃で仮焼した粉末から得られた焼結体が4.7×10-2Ωcmであった。結果を表1にまとめた。
【0040】
6.スパッタリングによる薄膜の作製
薄膜の作製は、上記で得られた焼結体をターゲットとして用い、DCマグネトロンスパッタ法にて行った。
【0041】
得られた焼結体を、それぞれポリシングにより、主表面の面粗さRa(JIS B0601:2001に規定する算出平均粗さRaをいう。以下同じ。)が20nmとなるように精密研磨した。焼結体のサイズは、直径3インチ(76.2mm)、厚さ5mmであった。
【0042】
まず、真空装置内の水冷してある基板ホルダに、25mm×25mm×厚さ0.6mmの合成石英ガラス基板を配置した。このとき、合成石英ガラス基板の一部に金属マスクを配置した。また、真空装置内に、合成石英ガラス基板の主表面に焼結体の直径3インチの主表面が対向するように、ターゲットとして精密研磨をした焼結体を配置した。すなわち、焼結体の直径3インチの主表面がスパッタ面となるように焼結体を配置した。合成石英ガラス基板と焼結体との距離は40mmであった。合成石英ガラス基板および焼結体が配置された真空装置内を1×10-4Pa程度まで真空引きを行った。
【0043】
次に、それぞれの焼結体のプレスパッタを行った。合成石英ガラス基板と焼結体との間にシャッターを入れた状態で、真空装置内にArガスをその分圧が1Paになるまで導入し、合成石英ガラス基板と焼結体との間に30Wの直流電力を印加することにより、スパッタリング放電を起こし、焼結体表面のクリーニングを10分間行った。
【0044】
次に、真空容器内にさらにAr:O2(モル比)が99:1の混合ガスを雰囲気圧力が0.5Paになるまで導入し、合成石英ガラス基板と焼結体との間のシャッターを外して、合成石英ガラス基板と焼結体との間に50Wの直流電力(スパッタ電力)を印加することにより、合成石英ガラス基板上に薄膜を形成させた。このとき、基板ホルダは、バイアス電圧が印加されておらず、水冷されているのみであった。合成石英ガラス基板上の金属マスクが配置されていない部分に形成された薄膜は、EDX分析装置(サーモフィッシャー社製NORAN System Seven)による化学組成分析とXRD(X線回折)装置(Rigaku社製Ultima IV)による同定を行ったところ、IGZO薄膜であった。
【0045】
金属マスクを外して、IGZO薄膜が形成されている部分と形成されていない部分との段差を触針式表面粗さ計により測定することにより、IGZO薄膜の厚さを測定した。750℃で仮焼した粉末から得られた焼結体を用いたスパッタリングにより得られた薄膜の厚さは5.1nmであった。800℃で仮焼した粉末から得られた焼結体を用いたスパッタリングにより得られた薄膜の厚さは6.2nmであった。950℃で仮焼した粉末から得られた焼結体を用いたスパッタリングにより得られた薄膜の厚さは8.0nmであった。1300℃で仮焼した粉末から得られた焼結体を用いたスパッタリングにより得られた薄膜の厚さは12.0nmであった。1350℃で仮焼した粉末から得られた焼結体を用いたスパッタリングにより得られた薄膜の厚さは3.0nmであった。結果を表1にまとめた。
【0046】
得られたIGZO薄膜の比抵抗は、比抵抗計(三菱油化社製ロレスタ)を用いて四探針法により測定したところ、750℃で仮焼した粉末から得られた焼結体を用いたスパッタリングにより得られた薄膜が7.6×10-1Ωcm、800℃で仮焼した粉末から得られた焼結体を用いたスパッタリングにより得られた薄膜が2.5×10-3Ωcm、950℃で仮焼した粉末から得られた焼結体を用いたスパッタリングにより得られた薄膜が6.8×10-4Ωcm、1300℃で仮焼した粉末から得られた焼結体を用いたスパッタリングにより得られた薄膜が1.3×10-3Ωcm、1350℃で仮焼した粉末から得られた焼結体を用いたスパッタリングにより得られた薄膜が8.9×10-2Ωcmであった。結果を表1にまとめた。
【0047】
得られたIGZO薄膜の光の透過率は、石英ガラス基板とともに、分光光度計(日立ハイテク社製Nicolet6700)を用いて400nmから26000nmまでの波長領域で測定したところ、750℃で仮焼した粉末から得られた焼結体を用いたスパッタリングにより得られた薄膜が60.2%、800℃で仮焼した粉末から得られた焼結体を用いたスパッタリングにより得られた薄膜が78.5%、950℃で仮焼した粉末から得られた焼結体を用いたスパッタリングにより得られた薄膜が80.6%、1300℃で仮焼した粉末から得られた焼結体を用いたスパッタリングにより得られた薄膜が82.1%、1350℃で仮焼した粉末から得られた焼結体を用いたスパッタリングにより得られた薄膜が76.5%であった。ここで、IGZO薄膜の光の透過率は、IGZO薄膜単体での測定が困難であるため、石英ガラス基板とIGZO薄膜を一体として測定した。石英ガラス基板は、400nmから26000nmまでの波長領域では、ほぼ透明であるため、これらの測定値はIGZO薄膜の光の透過率と同一視できる。なお、結果を表1にまとめた。
【0048】
【表1】

【0049】
表1を参照して、試料I−2、I−3およびI−4から明らかなように、ZnO粉末とGa23粉末とを混合した第1混合物を800℃以上1300℃以下で仮焼してZnGa24を含む粉末を形成し、かかるZnGa24を含む粉末とIn23粉末とを混合した第2混合物を焼結して得られた焼結体は、ZnGa24結晶で形成される第1相と、In23結晶で形成される第2相とを含み、焼結体の任意の断面における全ての相に対する第1相および第2相の合計の相面積比率が70%以上100%以下であり、第1相の平均粒径が2μm以上6μm以下で第2相の平均粒径が1μm以上2μm以下であった。また、かかる焼結体をターゲットとして用いたスパッタリングにより得られた薄膜は、厚さが6.2nm〜12.0nm程度と厚く、比抵抗が6.8×10-4Ωcm〜2.5×10-3Ωcm程度と低く、光の透過率が78.5%〜82.1%程度と高かった。すなわち、上記焼結体をターゲットとして用いたスパッタリングにより、比抵抗が低くかつ光の透過度が高いIGZO薄膜が高い成膜速度で得られた。
【0050】
試料I−1においては、仮焼温度が750℃と低いため、得られる焼結体は、上記第1相および第2相の合計の相面積比率が70%より小さく、第1相および第2相の粒径がそれぞれ13.6μmおよび10.1μmと大きく、相対密度が94.3%と低く、比抵抗が3.8×10-1Ωcmと高くなった。このため、かかる焼結体をターゲットとして用いたスパッタリングにより得られた薄膜は、厚さが5.1nmと薄く、比抵抗が7.6×10-1Ωcmと高く、光の透過率が60.2%と低くなった。
【0051】
試料I−5においては、仮焼温度が1350℃と高いため、得られる焼結体は、第1相および第2相の粒径がそれぞれ19.4μmおよび8.3μmと大きく、相対密度が95.2%と低く、比抵抗が4.7×10-2Ωcmと高くなった。このため、かかる焼結体をターゲットとして用いたスパッタリングにより得られた薄膜は、厚さが3.0nmと薄く、比抵抗が8.9×10-2Ωcmと高く、光の透過率が76.5%と低くなった。
【0052】
(実施例II)
1.原料
原料として、実施例Iと同様のZnO粉末、Ga23粉末およびIn23粉末を用いた。
【0053】
2.第1混合工程
上記のZnO粉末1molとGa23粉末1molとを、実施例Iと同様にして第1混合物を得た。
【0054】
3.仮焼工程
得られた第1混合物を、大気炉を用いて、950℃で仮焼した。
【0055】
4.第2混合工程
上記の仮焼後の粉末とIn23粉末1molとを、ボールミルを用いて、6時間(試料II−1)、12時間(試料II−2)、24時間(試料II−3)、または36時間(試料II−4)湿式混合した(第2湿式混合)。ボールとしては、直径5mmのZrO2ボールを用いた。第2湿式混合により得られた混合スラリーを自然乾燥後さらに300℃で真空乾燥させて第2混合物を得た。
【0056】
得られた第2混合物の平均粒径は、光散乱方式の粒度分布測定装置(日機装社製MicrctracMT3000)を用いて測定したところ、6時間混合物が5.74μm、12時間混合物が1.47μm、24時間混合物が1.08μm、36時間混合物が0.86μmであった。また、得られた第2混合物の比表面積は、BET法により測定したところ、6時間混合物が8.7m2/g、12時間混合物が12.2m2/g、24時間混合物が13.8m2/g、36時間混合物が16.3m2/gであった。結果を表2にまとめた。
【0057】
5.焼結工程
得られた第2混合物を、実施例Iと同様にして焼結した。得られた焼結体の相対密度は、実施例Iと同様にアルキメデス法により測定したところ、6時間混合物から得られた焼結体が94.0%、12時間混合物から得られた焼結体の相対密度は98.1%、24時間混合物から得られた焼結体の相対密度は99.5%、36時間混合物から得られた焼結体の相対密度は96.9%であった。結果を表2にまとめた。
【0058】
得られた焼結体の主表面を平面研削盤で1.0mm研削した後、X線回折により相分析を行った結果、すべての混合物から得られた焼結体のそれぞれについてZnGa24結晶およびIn23の結晶の存在が確認された。
【0059】
得られた焼結体の各相(各結晶相)の粒径を、SEM(日立ハイテク社製S−3400N)の反射電子像のコントラストの差から算出した。反射電子像で観察される各結晶粒のコントラストに対応する結晶相の同定は、EDX分析装置(サーモフィッシャー社製NORAN System Seven)により分析した。6時間混合物から得られた焼結体は、ZnGa24結晶相(第1相)の粒径が12.9μm、In23結晶相(第2相)の粒径が4.6μmであった。12時間混合物から得られた焼結体は、ZnGa24結晶相(第1相)の粒径が2.5μm、In23結晶相(第2相)の粒径が1.4μmであった。24時間混合物から得られた焼結体は、ZnGa24結晶相(第1相)の粒径が1.7μm、In23結晶相(第2相)の粒径が1.8μmであった。36時間混合物から得られた焼結体は、ZnGa24結晶相(第1相)の粒径が6.4μm、In23結晶相(第2相)の粒径が5.7μmであった。結果を表2にまとめた。
【0060】
得られた焼結体の比抵抗は、比抵抗計(三菱油化社製ロレスタ)を用いて四探針法により測定したところ、6時間混合物から得られた焼結体が6.6×10-3Ωcm、12時間混合物から得られた焼結体が5.3×10-4Ωcm、24時間混合物から得られた焼結体が3.4×10-4Ωcm、36時間混合物から得られた焼結体が5.7×10-3Ωcmであった。結果を表2にまとめた。
【0061】
6.スパッタリングによる薄膜の作製
薄膜の作製は、実施例Iと同様にして行った。得られた薄膜は、実施例Iと同様にして同定したところ、IGZO薄膜であった。
【0062】
得られたIGZO薄膜の厚さは、実施例Iと同様に測定したところ、6時間混合物から得られた焼結体を用いたスパッタリングにより得られた薄膜が6.6nm、12時間混合物から得られた焼結体を用いたスパッタリングにより得られた薄膜が9.3nm、24時間混合物から得られた焼結体を用いたスパッタリングにより得られた薄膜が11.4nm、36時間混合物から得られた焼結体を用いたスパッタリングにより得られた薄膜が7.2nmであった。結果を表2にまとめた。
【0063】
得られたIGZO薄膜の比抵抗は、実施例Iと同様に測定したところ、6時間混合物から得られた焼結体を用いたスパッタリングにより得られた薄膜が1.8×10-2Ωcm、12時間混合物から得られた焼結体を用いたスパッタリングにより得られた薄膜が6.4×10-4Ωcm、24時間混合物から得られた焼結体を用いたスパッタリングにより得られた薄膜が5.6×10-4Ωcm、36時間混合物から得られた焼結体を用いたスパッタリングにより得られた薄膜が9.8×10-3Ωcmであった。結果を表2にまとめた。
【0064】
得られたIGZO薄膜の光の透過率は、実施例Iと同様に測定したところ、6時間混合物から得られた焼結体を用いたスパッタリングにより得られた薄膜が79.6%、12時間混合物から得られた焼結体を用いたスパッタリングにより得られた薄膜が81.9%、24時間混合物から得られた焼結体を用いたスパッタリングにより得られた薄膜が83.6%、36時間混合物から得られた焼結体を用いたスパッタリングにより得られた薄膜が78.0%であった。結果を表2にまとめた。
【0065】
【表2】

【0066】
表2を参照して、試料II−2およびII−3から明らかなように、ZnO粉末とGa23粉末とを混合した第1混合物を800℃以上1300℃以下で仮焼してZnGa24を含む粉末を形成し、かかるZnGa24を含む粉末とIn23粉末とを12時間以上30時間以下で混合した第2混合物を焼結して得られた焼結体は、ZnGa24結晶で形成される第1相と、In23結晶で形成される第2相とを含み、第1相の平均粒径が2μm以上6μm以下で第2相の平均粒径が1μm以上2μm以下であった。また、かかる焼結体をターゲットとして用いたスパッタリングにより得られた薄膜は、厚さが9.3nm〜11.4nm程度と極めて厚く、比抵抗が5.6×10-4Ωcm〜6.4×10-4Ωcm程度と極めて低く、光の透過率が81.9%〜83.6%程度と極めて高かった。すなわち、上記焼結体をターゲットとして用いたスパッタリングにより、比抵抗が低くかつ光の透過度が高いIGZO薄膜が高い成膜速度で得られた。
【0067】
試料II−1においては、第2混合工程における混合時間が6時間と短いため、第1相および第2相の粒径がそれぞれ12.9μmおよび4.6μmと大きく、相対密度が94.0%と低く、比抵抗が6.6×10-3Ωcmと少し高くなった。このため、かかる焼結体をターゲットとして用いたスパッタリングにより得られた薄膜は、厚さが6.6nmと少し薄く、比抵抗が1.8×10-2Ωcmと少し高く、光の透過率が79.6%と少し低くなった。また、スパッタリングの際に、焼結体のスパッタ面にノジュールが発生した。
【0068】
試料II−4においては、第2混合工程における混合時間が36時間と長いため、得られる焼結体は、第1相および第2相の粒径がそれぞれ6.4μmおよび5.7μmと大きく、相対密度が96.9%と少し低く、比抵抗が5.7×10-3Ωcmと少し高くなった。このため、かかる焼結体をターゲットとして用いたスパッタリングにより得られた薄膜は、厚さが7.2nmと少し薄く、比抵抗が9.8×10-3Ωcmと少し高く、光の透過率が78.0%と少し低くなった。
【0069】
(比較例RI)
1.原料
原料として、実施例Iと同様のZnO粉末、Ga23粉末およびIn23粉末を用いた。
【0070】
2.混合工程
ZnO粉末1molとGa23粉末1molとIn23粉末1molとを、ボールミルを用いて12時間湿式混合した(試料RI−1)。または、ZnO粉末1molとGa23粉末1molとIn23粉末1molと正四価の金属元素を含む金属酸化物2.0×10-4molとをボールミルを用いて12時間湿式混合した(試料RI−2〜RI−5)。ここで、正四価の金属元素を含む金属酸化物として、SnO2(Sn4+;試料RI−2)、ZrO2(Zr4+;試料RI−3)、GeO2(Ge4+;試料RI−4)、またはCeO2(Ce4+;試料RI−5)を用いた。ボールとしては、直径5mmのZrO2ボールを用いた。湿式混合により得られた混合スラリーを自然乾燥させた後300℃で真空乾燥して混合物を得た。
【0071】
3.仮焼工程
得られた混合物を、大気炉を用いて、950℃で仮焼した。X線回折により回折パターンの解析から、仮焼後の粉末中にはZnGa24結晶およびIn23結晶の存在が確認された。
【0072】
4.再混合工程
上記の仮焼後の粉末を、ボールミルを用いて12時間湿式で粉砕混合した。ボールとしては、直径5mmのZrO2ボールを用いた。湿式粉砕混合により得られた混合スラリーを自然乾燥後さらに300℃で真空乾燥させて再混合物を得た。
【0073】
再混合物の平均粒径は、光散乱方式の粒度分布測定装置(日機装社製MicrctracMT3000)を用いて測定したところ、正四価の金属元素を含む金属酸化物が添加されなかった再混合物が2.71μm、SnO2が添加された再混合物が2.89μm、ZrO2が添加された再混合物が2.65μm、GeO2が添加された再混合物が2.85μm、CeO2が添加された3.02μmであった。結果を表3にまとめた。
【0074】
5.焼結工程
再混合物を、実施例Iと同様にして焼結した。得られた焼結体の相対密度は、実施例Iと同様にアルキメデス法により測定したところ、正四価の金属元素を含む金属酸化物が添加されなかった再混合物から得られた焼結体が96.8%、SnO2が添加された再混合物から得られた焼結体の相対密度は98.4%、ZrO2が添加された再混合物から得られた焼結体の相対密度は97.1%、GeO2が添加された再混合物から得られた焼結体の相対密度は98.6%、CeO2が添加された再混合物から得られた焼結体の相対密度は99.0%であった。結果を表3にまとめた。
【0075】
得られた焼結体の主表面を平面研削盤で1.0mm研削した後、X線回折により相分析を行った結果、すべての混合物から得られた焼結体のそれぞれについてZnGa24結晶およびIn23の結晶の存在が確認された。
【0076】
得られた焼結体の比抵抗は、比抵抗計(三菱油化社製ロレスタ)を用いて四探針法により測定したところ、正四価の金属元素を含む金属酸化物が添加されなかった再混合物から得られた焼結体が3.6×10-3Ωcm、SnO2が添加された再混合物から得られた焼結体が1.5×10-3Ωcm、ZrO2が添加された再混合物から得られた焼結体が1.0×10-3Ωcm、GeO2が添加された再混合物から得られた焼結体が2.7×10-2Ωcm、CeO2が添加された再混合物から得られた焼結体が5.6×10-3Ωcmであった。結果を表3にまとめた。
【0077】
6.スパッタリングによる薄膜の作製
薄膜の作製は、実施例Iと同様にして行った。得られた薄膜は、実施例Iと同様にして同定したところ、IGZO薄膜であった。
【0078】
得られたIGZO薄膜の厚さは、実施例Iと同様に測定したところ、正四価の金属元素を含む金属酸化物が添加されなかった再混合物から得られた焼結体を用いたスパッタリングにより得られた薄膜が6.3nm、SnO2が添加された再混合物から得られた焼結体を用いたスパッタリングにより得られた薄膜が6.8nm、ZrO2が添加された再混合物から得られた焼結体を用いたスパッタリングにより得られた薄膜が9.3nm、GeO2が添加された再混合物から得られた焼結体を用いたスパッタリングにより得られた薄膜が4.2nm、CeO2が添加された再混合物から得られた焼結体を用いたスパッタリングにより得られた薄膜が5.9nmであった。結果を表3にまとめた。
【0079】
得られたIGZO薄膜の比抵抗は、実施例Iと同様に測定したところ、正四価の金属元素を含む金属酸化物が添加されなかった再混合物から得られた焼結体を用いたスパッタリングにより得られた薄膜が4.1×10-3Ωcm、SnO2が添加された再混合物から得られた焼結体を用いたスパッタリングにより得られた薄膜が2.2×10-3Ωcm、ZrO2が添加された再混合物から得られた焼結体を用いたスパッタリングにより得られた薄膜が2.0×10-3Ωcm、GeO2が添加された再混合物から得られた焼結体を用いたスパッタリングにより得られた薄膜が3.5×10-2Ωcm、CeO2が添加された再混合物から得られた焼結体を用いたスパッタリングにより得られた薄膜が7.1×10-3Ωcmであった。結果を表3にまとめた。
【0080】
得られたIGZO薄膜の光の透過率は、実施例Iと同様に測定したところ、正四価の金属元素を含む金属酸化物が添加されなかった再混合物から得られた焼結体を用いたスパッタリングにより得られた薄膜が76.6%、SnO2が添加された再混合物から得られた焼結体を用いたスパッタリングにより得られた薄膜が79.3%、ZrO2が添加された再混合物から得られた焼結体を用いたスパッタリングにより得られた薄膜が80.4%、GeO2が添加された再混合物から得られた焼結体を用いたスパッタリングにより得られた薄膜が72.6%、CeO2が添加された再混合物から得られた焼結体を用いたスパッタリングにより得られた薄膜が77.7%であった。結果を表3にまとめた。
【0081】
【表3】

【0082】
表3を参照して、試料RI−1〜RI−5から明らかなように、ZnO粉末、Ga23粉末およびIn23粉末を一度に混合し仮焼し再混合し焼結して得られた焼結体は、正四価金属元素を含有する金属酸化物の添加の有無に関わらず、比抵抗が10-3〜10-2Ωcmオーダーと高くなった。このため、かかる焼結体をターゲットに用いたスパッタリングにより得られた薄膜は、比抵抗が10-3〜10-2Ωcmオーダーと高くなった。
【0083】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した説明でなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内のすべての変更が含まれることが意図される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ZnGa24結晶で形成される第1相と、In23結晶で形成される第2相とを含み、焼結体の任意の断面における全ての相に対する前記第1相および前記第2相の合計の相面積比率が70%以上100%以下であるIn−Ga−Zn系複合酸化物焼結体。
【請求項2】
前記第1相の平均粒径が2μm以上6μm以下であり、前記第2相の平均粒径が1μm以上2μm以下である請求項1に記載のIn−Ga−Zn系複合酸化物焼結体。
【請求項3】
前記焼結体に含まれるIn、GaおよびZnの全量を100原子%とするとき、前記Inの比率が35原子%以上50原子%以下、前記Gaの比率が35原子%以上50原子%以下、および前記Znの比率が15原子%以上30原子%である請求項1または請求項2に記載のIn−Ga−Zn系複合酸化物焼結体。
【請求項4】
スパッタリングのターゲットに用いられる請求項1から請求項3のいずれかに記載のIn−Ga−Zn系複合酸化物焼結体。
【請求項5】
請求項1に記載のIn−Ga−Zn系複合酸化物焼結体の製造方法であって、
ZnO粉末とGa23粉末とを混合して第1混合物を調製する第1混合工程と、
前記第1混合物を800℃以上1300℃以下で仮焼してZnGa24を含む粉末を形成する仮焼工程と、
前記ZnGa24を含む粉末とIn23粉末とを混合して第2混合物を調製する第2混合工程と、
前記第2混合物を焼結する焼結工程と、を含むIn−Ga−Zn系複合酸化物焼結体の製造方法。
【請求項6】
前記第2混合工程における混合時間は12時間以上30時間以下である請求項5に記載のIn−Ga−Zn系複合酸化物焼結体の製造方法。
【請求項7】
前記第2混合物は、平均粒径が1μm以上1.5μm以下である請求項5または請求項6に記載のIn−Ga−Zn系複合酸化物焼結体の製造方法。
【請求項8】
前記第2混合物は、比表面積が11m2/g以上15m2/g以下である請求項5から請求項7のいずれかに記載のIn−Ga−Zn系複合酸化物焼結体の製造方法。

【公開番号】特開2011−195924(P2011−195924A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−65911(P2010−65911)
【出願日】平成22年3月23日(2010.3.23)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】