説明

In2O3薄膜パターン、In(OH)3薄膜パターン及びそれらの作製方法

【課題】In薄膜パターン、In(OH)薄膜パターンとこれらの作製方法を提供する。
【解決手段】基板上に形成されたIn材料であって、基板に形成した自己組織化単分子膜上のPd乃至貴金属ナノ粒子付着領域上に選択的又は非選択的に形成されており、In結晶であり、可視光領域で60%より高い透過率を示し、キャリア濃度が少なくとも2.1×1019cm−3、ホール移動度が少なくとも5.2cm−1−1、比抵抗が5.8×10−2Ωcmより低い、ことを特徴とするIn材料、その作製方法及び透明導電性電子デバイス。
【効果】エッチング工程を経ることなく、In薄膜パターン及びIn(OH)薄膜パターン等を合成し、提供することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、In薄膜パターン、In(OH)薄膜パターン及びそれらの作製方法に関するものであり、更に詳しくは、自己組織化単分子膜上のPd触媒ナノ粒子パターンをテンプレートとし、該Pd領域上に形成されたIn薄膜パターン、In(OH)薄膜パターンと、それらの作製方法及び該薄膜パターンからなる透明導電性電子デバイスに関するものである。
【0002】
本発明は、基板上に形成されたIn薄膜パターン、In(OH)薄膜パターン、In薄膜、In(OH)薄膜、In、In(OH)であって、基板との界面にPdを有することを特徴とし、また、基板との界面において、例えば、Pdの下部にAPTS−SAMのアミノ基又はアミノ基由来のN原子を有することを特徴とするものである。本発明は、透明導電膜、分子センサー、ガスセンサー、溶液センサー及び色素増感型太陽電池等の透明導電性電子デバイスとして利用できるIn薄膜パターン、その作製方法及びその製品を提供するものである。
【背景技術】
【0003】
ITO(Sn doped In、インジウムスズ酸化物)やIn(酸化インジウム)は、透明導電膜として電子デバイス等に不可欠な材料である。しかし、近年、Inの枯渇が問題となっており、その代替材料やInの少量消費によるデバイス作製方法の開発が求められている。
【0004】
In膜は、以下のような種々の方法により作製することが可能である。RF sputtering and DC sputtering(RFスパッタリング法、DCスパッタリング法)[非特許文献1]、 Vacuum and e−beam evaporation(真空蒸着法、電子ビーム蒸着法)[非特許文献2,3]、Thermal oxidation(熱酸化法)[非特許文献4,5]、Reactive ion plating(反応性イオンプレーティング)[非特許文献6]、Sol−gel technique(ゾルゲル法)[非特許文献7]、Reactive evaporation(反応蒸着法)[非特許文献8]、CVD(化学気相堆積法)[非特許文献9,10]、Ultrasonic spray CVD(超音波噴霧CVD法)[非特許文献11]、Spray pyrolysis(スプレー熱分解法)[非特許文献12,13]及びLaser ablation(レーザーアブレーション)[非特許文献14]。
【0005】
また、ITO薄膜やIn薄膜のパターン化の際には、ドライエッチングあるいはウェットエッチングが用いられている[非特許文献15]。ドライエッチングよりもウェットエッチングの方が処理能力が高く、低価格であることから、パネルの生産工程において多用されている。
【0006】
しかし、ウェットエッチングは、粒界の選択的なエッチング等を引き起こしてしまう。また、既存のInやITO成膜手法では、膜内において、異なるエッチング速度を引き起こしてしまう[非特許文献16]。このような不均一なエッチング現象は、InやITO薄膜の電気的特性を劣化させてしまい、深刻な特性劣化をもたらしてしまう[非特許文献17]。
【0007】
ウェットエッチングの特性は、InやITO薄膜の微細構造や結晶性に大きく依存し、薄膜の不均一性によりエッチング後に残留成分が残ってしまい、また、薄膜パターンの側壁もエッチングされてしまう[非特許文献18,19]。また、InやITOは、酸性溶液にのみ溶解可能であるため[非特許文献20−22]、通常用いられるエッチング溶液は、ハロゲン酸[非特許文献23,24]や王水[非特許文献17]などの強酸が主成分である。
【0008】
LCD向けITO膜のパターン形成においては、強酸による下地の金属層の腐食が問題となっている[非特許文献25]。更に、残留するハロゲン化合物による特性劣化も重要な課題である[非特許文献17]。そのため、透明導電材料によるナノマイクロデバイス作製のため、均一な透明導電膜の形成、及びエッチング工程を含まない新規パターニングプロセスの開発が望まれている。
【0009】
【非特許文献1】A.S.Ryzhikov,R.B.Vasiliev,M.N. Rumyantseva,L.I.Ryabova,G.A.Dosovitsky,A.M.Gilmutdinov,V.F.Kozlovsky,A.M.Gaskov,Materials Science and Engineering B 96/3(2002)268
【非特許文献2】K.R.Murali,V.Sambasivam,M.Jayachandran,M.J.Chockalingam,N.Rangarajan,V.K.Venkatesan,Surface & Coatings Technology 35/1−2(1988)207
【非特許文献3】J.K.Sheu,Y.K.Su,G.C.Chi,M.J.Jou,C.M.Chang,Appl.Phys.Lett.72/25(1998)3317
【非特許文献4】M.Girtan,G.I.Rusu,G.G.Rusu,S.Gurlui,Applied Surface Science 162(2000)492
【非特許文献5】M.Girtan,G.I.Rusu,G.G.Rusu,Materials Science and Engineering B 76/2(2000)156
【非特許文献6】J.I.Jeong,J.H.Moon,J.H.Hong,J.S.Kang,Y.Fukuda,Y.P.Lee,J.Vac.Sci.Technol.A 14/2(1996)293
【非特許文献7】A.Gurlo,M.Ivanovskaya,A.Pfau,U.Weimar,W.Gopel,Thin Solid Films 307/1−2(1997)288
【非特許文献8】V.Korobov,M.Leibovitch,Y.Shapira,Applied Physics Letters 65/18(1994)2290
【非特許文献9】T.Maruyama,K.Fukui,Journal of Applied Physics 70/7(1991)3848
【非特許文献10】T.Maruyama,T.Kitamura,Jpn.J.Appl.Phys.28/7(1989)1096
【非特許文献11】M.Girtan,Surface and Coatings Technology 184/2−3(2004)219
【非特許文献12】J.C.Manifacier,J.P.Fillard,J..Bind,Thin Solid Films 77/1−3(1981)67
【非特許文献13】M.Girtan,H.Cachet,G.I.Rusu,Thin Solid Films Proceedings of Symposium K on Thin Film Materials for Large Area Electronics of the European Materials Research Society (E−MRS) 2002 Spring Conference 427/1−2(2003)406
【非特許文献14】C.Grivas,D.S.Gill,S.Mailis,L.Boutsikaris,N.A.Vainos,Applied Physics a−Materials Science & Processing 66/2(1998)201
【非特許文献15】T.H.Tsai,Y.F.Wu,Journal of the Electrochemical Society 153/1(2006)C86
【非特許文献16】J.Y.Park,H.S.Kim,D.H.Lee,K.H.Kwon,G.Y.Yeom,Surface and Coatings Technology 131/1−3(2000)247
【非特許文献17】C.J.Huang,Y.K.Su,S.L.Wu,Materials Chemistry and Physics 84/1(2004)146
【非特許文献18】J.E.A.M.van den Meerakker,P.C.Baarslag,W.Walrave,T.J.Vink,J.L.C.Daams,Thin Solid Films 266/2(1995)152
【非特許文献19】M.Takabatake,Y.Wakui,N.Konishi,Journal of the Electrochemical Society 142/7(1995)2470
【非特許文献20】G.Bradshaw,A.J.Hughes,Thin Solid Films 33/2(1976)L5
【非特許文献21】M.Inoue,T.Matsuoka,Y.Fujita,Abe,Jpn.J.Appl.Phys.28(1989)274
【非特許文献22】J.E.A.M.van den Meerakker,W.R.ter Veen,Journal of the Electrochemical Society 139/2(1992)385
【非特許文献23】M.Scholten,J.E.A.M.van den Meerakker,J.Electrochem.Soc.140(1993)471
【非特許文献24】J.Vandenmeerakker,P.C.Baarslag,M.Scholten,Journal of the Electrochemical Society 142/7(1995)2321
【非特許文献25】H.Takatsuji,T.Hiromori,K.Tsujimoto,S.Tsuji,K.Kuroda,H.Saka,Mater.Res.Soc.Symp.Proc.508(1998)315
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
このような状況の中で、本発明者らは、上記従来技術に鑑みて、透明導電材料によるナノマイクロデバイスを作製するために、均一な透明導電膜の形成手法とエッチング工程を含まないIn薄膜パターンの作製プロセスを開発することを目標として鋭意研究を積み重ねた結果、溶液プロセスによるIn薄膜のパターン化形成を実現することに成功し、本発明を完成するに至った。本発明は、上記従来の事情に鑑みてなされたものであり、In薄膜パターン、In(OH)薄膜パターン等を提供し、かつ、これらの作製方法及びその製品を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するための本発明は、以下の技術的手段から構成される。
(1)基板上に形成されたIn材料であって、1)基板に形成した自己組織化単分子膜上のPd乃至貴金属ナノ粒子付着領域上に選択的又は非選択的に形成されている、2)In結晶である、3)可視光領域で60%より高い透過率を示す、4)比抵抗が5.8×10−2Ωcmより低い、ことを特徴とするIn材料。
(2)基板上に形成されたIn薄膜パターン又はInパターンである、前記(1)に記載のIn材料。
(3)基板上に形成されたIn薄膜である、前記(1)に記載のIn材料。
(4)基板上に形成されたIn(OH)材料であって、基板に形成した自己組織化単分子膜上のPd乃至貴金属ナノ粒子付着領域上に選択的又は非選択的に形成されていることを特徴とするIn(OH)材料。
(5)基板上に形成されたIn(OH)薄膜パターン又はIn(OH)パターンである、前記(4)に記載のIn(OH)材料。
(6)基板上に形成されたIn(OH)薄膜である、前記(4)に記載のIn(OH)材料。
(7)基板上に形成されたIn(OH)材料を作製する方法であって、1)基板上にアミノ基を末端に持つ自己組織化単分子膜を形成する工程、2)基板にフォトマスクを介した紫外線照射を行うことにより、露光領域をアミノ基からシラノール基へ変性させる工程、3)Pdイオン又はPd粒子を含む反応溶液を用いて液相から上記基板のアミノ基領域にPdナノ粒子を付着形成させる工程、4)In(OH)を析出する反応系に上記基板を浸漬し、In(OH)を析出させる工程、からなることを特徴とする上記In(OH)材料の製造方法。
(8)自己組織化単分子膜の代わりに、pH5において正のゼータ電位を有する基板表面を用いる、前記(7)に記載のIn(OH)材料の製造方法。
(9)液相から形成したPdナノ粒子形成基板の代わりに、真空蒸着又はPd粒子吹きつけによって作製したPdナノ粒子形成基板を用いる、前記(7)に記載のIn(OH)材料の製造方法。
(10)自己組織化単分子膜として、APTS−SAM、又はpH5において正のゼータ電位を有する自己組織化単分子膜を用いる、前記(7)に記載のIn(OH)材料の製造方法。
(11)基板が、ガラス、シリコン、金属、セラミックス、又はポリマー基板である、前記(7)から(10)のいずれかに記載のIn(OH)材料の製造方法。
(12)前記(7)から(11)のいずれかに記載の方法で作製したIn(OH)材料を還元雰囲気で加熱処理してIn結晶へ相移転することを特徴とするIn材料の製造方法。
(13)前記(1)から(3)のいずれかに記載のIn材料からなることを特徴とする透明導電性電子デバイス。
(14)透明導電膜、分子センサー、ガスセンサー、溶液センサー又は色素増感型太陽電池用電子デバイスである、前記(13)に記載の電子デバイス。
【0012】
次に、本発明について更に詳細に説明する。
本発明は、基板上に形成されたIn材料であって、基板に形成した自己組織化単分子膜上のPd乃至貴金属ナノ粒子付着領域上に選択的又は非選択的に形成されていること、In結晶であること、可視光領域で60%より高い透過率を示すこと、比抵抗が5.8×10−2Ωcmより低いこと、を特徴とするものである。
【0013】
また、本発明は、基板上に形成されたIn(OH)材料であって、基板に形成した自己組織化単分子膜上のPd乃至貴金属ナノ粒子付着領域上に選択的又は非選択的に形成されていることを特徴とするものである。
【0014】
また、本発明は、基板上に形成されたIn(OH)材料を作製する方法であって、基板上にアミノ基を末端に持つ自己組織化単分子膜を形成する工程、基板にフォトマスクを介した紫外線照射を行うことにより、露光領域をアミノ基からシラノール基へ変性させる工程、Pdイオン又はPd粒子を含む反応溶液を用いて液相から上記基板のアミノ基領域にPdナノ粒子を付着形成させる工程、In(OH)を析出する反応系に上記基板を浸漬し、In(OH)を析出させる工程、からなることを特徴とするものである。
【0015】
また、本発明は、上記In材料の製造方法であって、上記の方法で作製したIn(OH)材料を還元雰囲気で加熱処理してIn結晶へ相移転することを特徴とするものである。更に、本発明は、上記In材料からなる透明導電性電子デバイスの点に特徴を有するものである。
【0016】
本発明では、自己組織化単分子膜及びPd触媒ナノ粒子を用いることにより、ガラス基板等の基板上への透明導電In膜のパターン化形成を実現する。本発明では、エッチングプロセスを用いることなく、薄膜パターンを形成する。そのため、原料Inを全て薄膜形成に使用することが可能となる。また、エッチングに伴う特性劣化も回避することができる。
【0017】
作製したIn膜は、高い可視光透過性(約60−70%)と、低い比抵抗(5.8×10−2Ωcm)を有している。また、水溶液プロセスを用いて薄膜のパターン化形成を実現しているため、ポリイミドなどの導電性ポリマー上への透明導電膜の形成も可能である。本発明は、自己組織化単分子膜上にパターン化したPd触媒ナノ粒子を用いて、Inパターン、In(OH)パターンを合成することを最も主要な特徴とする。自己組織化単分子膜には、APTS−SAMを用いることができる。
【0018】
また、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(6−アミノヘキシル)アミノプロピルトリメトキシシラン、3−(m−アミノフェノキシ)プロピルトリメトキシシラン、m−アミノフェニルトリメトキシシラン、アミノブチルトリエトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノイソブチルメチルジメトキシシラン、(アミノエチルアミノメチル)フェネチルトリメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン等の自己組織化単分子膜を用いることができる。
【0019】
更に、自己組織化単分子膜には、pH5において正のゼータ電位を有するAPTS−SAM以外のオクタデシルトリクロロシラン、(ヘプタデカフルオロ−1,1,2,2−テトラヒドロデシル)トリクロロシラン等の自己組織化単分子膜を用いることができる。自己組織化単分子膜の代わりに、pH5において正のゼータ電位を有する基板表面を用いることができる。アミノ基とシラノール基でパターン化された自己組織化単分子膜の代わりに、pH5において正のゼータ電位を有する領域及び負のゼータ電位を有する領域にパターン化された基板を用いることができる。
【0020】
NaPdCl(0.38mM)及びNaCl(0.01M)を含む0.01M 2−morpholinoethane sulfonate水溶液(pH5)を用いることができるが、これの代わりに、Pdコロイド溶液を生成する溶液であれば、他のPdイオン含有溶液を用いることができる。NaPdCl(0.38mM)及びNaCl(0.01M)を含む0.01M 2−morpholinoethane sulfonate水溶液(pH5)の代わりに、Pd粒子を含む溶液であれば、Pd粒子分散溶液等を用いることができる。
【0021】
液相から形成したPdナノ粒子のパターン化基板の代わりに、真空蒸着やPd粒子の吹きつけ等によって作製したPdパターン化基板を用いることができる。Pdの代わりに、pH上昇をもたらすPt、Au等の他の貴金属触媒を用いることができる。液相から形成したPdナノ粒子のパターン化基板の代わりに、蒸着等によって作製したPdパターン化基板を用いることができる。
【0022】
In(NOの代わりに、酢酸インジウム等のインジウム塩を用いることができる。TMAB(trimethylamine−borane−complex,(CHN−BH,CAS 75−22−9)の代わりに、Pd触媒によって酸化され、電子を生成する物質を用いることができる。In(NO及びTMABを含む水溶液の代わりに、Inを含む水溶液を用いることができる。
【0023】
In(OH)が析出する反応系であれば、有機溶液等の、非水溶液反応系も用いることができる。In(OH)が析出する反応系であれば、水熱反応等も用いることができる。温度も、原料濃度、添加剤、pH等に合わせて、水溶液の凝固点以上かつ沸点以下(およそ0−99℃)の範囲で調整することができる。
【0024】
ガラスやシリコン基板以外に、金属、セラミックス、ポリマー等の種々の基板を用いることができる。また、平板状基板以外に、粒子基材、繊維基材、複雑形状基材等も用いることができる。200−300℃での加熱処理に代えて、使用する基板の融点以下の温度で加熱することができる。
【0025】
(3%−H/N)での還元雰囲気加熱処理に代えて、水素濃度0%以上100%までの還元雰囲気で加熱処理することができる。(3%−H/N)での還元雰囲気加熱処理に代えて、カーボンルツボ内等の酸素消費条件における還元雰囲気で加熱処理することができる。
【0026】
自己組織化単分子膜のパターン化では、例えば、ガラス基板やシリコン基板上に、アミノ基を末端に持つAPTS−SAMを形成する。この基板にフォトマスクを介した紫外線照射を行うことにより、露光領域をアミノ基からシラノール基へと変性する。Pdナノ粒子の合成とパターニングでは、NaPdCl(0.38mM)及びNaCl(0.01M)を含む0.01 M 2−morpholinoethane sulfonate水溶液(pH5)を調製する。パターン化APTS−SAMを浸漬し、アミノ基領域にのみ、Pd触媒ナノ粒子を付着させる。
【0027】
Pd吸着領域へのIn(OH)の析出では、例えば、Pd触媒をパターン化吸着させたSAMを、In(NO及びTMAB(trimethylamine−borane−complex,(CHN−BH,CAS 75−22−9)の溶解した水溶液に浸漬し、65℃にて1時間保持する。Pd近傍でのみpHの上昇が起こり、Pd付着領域上でのみIn(OH)が析出する。Inへの結晶化では、例えば、In(OH)薄膜パターンを、還元雰囲気(3%−H/N)にてIn(OH)を300℃で1時間加熱処理し、In結晶へと相転移させる。例えば、ガラス上形成した薄膜において、可視光領域で約60−70%の透過率を示し、また、キャリア濃度、ホール移動度及び比抵抗は、それぞれ、少なくとも2.1×1019cm−3、少なくとも5.2cm−1−1及び5.8×10−2Ωcmより低い値を示す。
【0028】
本発明のIn材料又はIn(OH)材料としては、薄膜及び薄膜パターンに制限されるものではなく、例えば、In又はInの粒子等を合成することが可能であり、粒子、繊維、チューブ等のIn又はIn(OH)によるコーティングあるいは部分コーティングにも適用することができる。また、Snを添加することにより、ITO材料、ITO薄膜、ITO薄膜パターン、ITO粒子としても用いることができる。
【発明の効果】
【0029】
本発明により、次のような効果が奏される。
(1)エッチング工程を経ることなく、In薄膜パターン及びIn(OH)薄膜パターンを合成することができる。
(2)エッチング工程を経ることなく、Inパターン及びIn(OH)パターンを合成することができる。
(3)エッチングによるInの廃棄を回避することができる。また、未反応のInイオンは溶液中に残存するため、新しい基材を浸漬することにより、連続して成膜することが可能である。
(4)本発明では、原料Inを全てIn膜形成に使用することができる。
(5)エッチングダメージによるIn及びIn(OH)の特性劣化を抑えることができる。
(6)液相からの析出反応を用いているため、複雑形状基材や粒子や繊維へのInコーティングも容易に行うことができる。
(7)溶液条件の調整等により、Sn等をドーピングしてITO薄膜パターン等を合成することができる。
(8)本発明品は、例えば、透明導電膜、分子センサー、ガスセンサー、溶液センサーや色素増感型太陽電池等の透明導電性電子デバイスとして好適に利用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
次に、実施例に基いて本発明を具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例によって何ら限定されるものではない。
【実施例】
【0031】
本実施例では、自己組織化単分子膜上に形成したPd触媒ナノ粒子を用いて、In薄膜パターン及びIn(OH)薄膜パターンを作製した。
(1)APTS−SAMの作製
基板については、アセトン、エタノール、イオン交換水の順で、それぞれ5分間ずつ超音波洗浄した後、UV照射を10分間行った[低圧水銀ランプ、a UV/ozone cleaner(184.9nm and 253.7nm)(low−pressure mercury lamp 200W,PL21−200,SEN Lights Co.,18mW/cm,distance from lamp 30mm,24℃,humidity 73%,air flow 0.52m/min,100V,320W)]。
【0032】
基板を、APTS(3−aminopropyltriethoxysilane)分子の溶解した無水トルエン溶液中に、窒素雰囲気下にて1時間浸漬した。図1に、酸化インジウム薄膜のパターン化形成の模式図を示す。浸漬後、窒素雰囲気下にて基板を無水トルエンで洗浄し、更に大気中にて120℃で5分間加熱処理を施した。
【0033】
(2)APTS−SAMのパターニング
フォトマスクを介して、APTS−SAMに紫外線照射(低圧水銀ランプ、PL21−200)を10分間行い、露光領域をアミノ基からシラノール基へと変性した(図1)。APTS−SAMのアミノ基表面は、水に対する接触角48°を示すのに対し、紫外線照射を行い、シラノール基へと変性した表面は、接触角は5°以下の親水性を示した。
【0034】
(3)評価方法
Pdコロイド粒子の粒径及びゼータ電位は、レーザーゼータ電位計(ELS−8000,Otsuka Electronics Co.,Ltd.)を用いて、光散乱法により測定した。基板表面は、原子間力顕微鏡(AFM;SPI 3800N,Seiko Instruments Inc.)及び走査型電子顕微鏡(SEM;S−3000N,Hitachi,Ltd.)を用いて評価した。
【0035】
SEM観察時の元素分布評価は、エネルギー分散型蛍光X線分析装置(EDX;EDAX Falcon,EDAX Co.,Ltd.)により行った。薄膜表面の化学状態の評価は、XPS(ESCALAB 210,VG Scientific Ltd.)により行った。薄膜の結晶構造の評価は、粉末X線回折装置(XRD;RINT−2100,Rigaku)を用いて行った。
【0036】
ガラス基板上に形成した薄膜の透過率及び反射率測定は、紫外可視分光計(UV−Vis;V−570,JASCO Co.,Ltd.(FLH−467 for transmittance or ARN−475 for reflectance))により行った。光学バンドギャップは、薄膜の透過率及び反射率より算出した。比抵抗(R)、キャリア濃度(n)、ホール移動度(μ)は、還元雰囲気(3%−H/N)における300℃での加熱処理後の薄膜について評価した。本発明において、比抵抗、キャリア濃度、ホール移動度の値は、特にことわりのない限り、当該条件で評価した値を示す。
【0037】
(4)Pdナノ粒子の合成とパターニング
NaPdCl(0.38mM)及びNaCl(0.01M)を含む0.01M 2−morpholinoethane sulfonate水溶液(pH5)を調製した(図1)。この溶液中でPd粒子が生成した。光散乱測定により、溶液中に直径30nmのコロイド粒子が存在することが示された。Pdナノ粒子は、pH5.0において、−30.5eVの負のゼータ電位を示した。図2に、アミノ基上へのPdナノ粒子付着の模式図を示す。
【0038】
一方、表面にアミノ基(−NH)を有するAPTS−SAM(APTS自己組織化単分子膜)は、アミノ基へのプロトン付加により、−NHとなり、pH5.0において正のゼータ電位を示した。また、APTS−SAMの紫外線照射により生成したシラノール基(−Si−OH)は、プロトンの解離により−Si−Oとなり、pH5.0において負のゼータ電位を示した。
【0039】
パターン化APTS−SAMを、生成したPdナノ粒子が分散する25℃の水溶液中に30分間浸漬した後、水洗し、乾燥した。この浸漬により、負のゼータ電位を有するPdナノ粒子を、正のゼータ電位を有するアミノ基表面に、静電相互作用を用いて、パターン化して付着させた(図2)。
【0040】
一方のシラノール基領域では、シラノール基の負のゼータ電位により、Pd粒子が反発され、付着が抑制された。パターン化SAM(アミノ基領域とシラノール基領域にパターン化されたSAM)のアミノ基領域に付着したPd粒子は、直径約30nmであり、ラフネス(RMS)が約1nmであることがAFM観察により示された。図3に、Pd触媒ナノ粒子のAFM像を示す。
【0041】
Pd粒子がアミノ基領域に均一な粒子膜を形成したことにより、低いラフネスを実現している。平坦かつ薄いPd触媒層の形成は、均一な透明導電膜作製には不可欠な技術である。XPSにより、パターン化SAMのアミノ基領域からPdが検出された。これは、AFMによる観察と矛盾がなく、AFMで観察された粒子がPdであることが示された。
【0042】
一方、シラノール基領域からは、Pdは検出されず、パターン化SAMへのPdの付着における、高い領域選択性が示された。APTS−SAM上から、Pd3d5/2(337.2eV)と3d3/2(342.5eV)が検出された。Pd3d5/2の結合エネルギーは、Pd金属の結合エネルギー(334.6eV[L.Hilaire,P.Legare,Y.Holl,G.Maire,Solid State Comm.32/2(1979)157],335.1eV[C.D.Wagner,W.M.Riggs,L.E.Davis,J.F.Moulder,G.E.Muilenberg,Handbook of X−ray Photoelectron Spectroscopy,Perkin−Elmer Corp.,Physical Electronics Div.,Eden Prairie,Minnesota,1979、P.Weightman,P.T.Andrews,J.Phys.C−Solid State Phys.13/29(1980)L815、P.Weightman,P.T.Andrews,J.Phys.C−Solid State Phys.13/29(1980)L821])よりも高いものであった。
【0043】
Pd3d5/2を、Pd−N(338.7eV)[V.I.Nefedov,I.A.Zakharova,I.I.Moiseev,M.A.Porai−koshits,M.N.Vargoftik,A.P.Belov,Zh.Neorg.Khim.18/12(1973)3264]、Pd−Cl(337.8eV)[V.I.Nefedov,Y.V.Kokunov,Y.A.Buslaev,Poraikos.Ma,Gustyako.Mp,E.G.Ilin,Zhurnal Neorganicheskoi Khimii 18/4(1973)931、B.M.Choudary,K.R.Kumar,Z.Jamil,G.Thyagarajan,Journal of the Chemical Society−Chemical Communications/13(1985)931、O.Sakurada,H.Takahashi,M.Taga,Bunseki Kagaku38/9(1989)407]、Pd−O(336.9eV)[A.K.Datye,J.Bravo,T.R.Nelson,P.Atanasova,M.Lyubovsky,L.Pfefferle,Applied Catalysis a−General 198/1−2(2000)179]に分けることができ、それらの相対強度比は、Pd−N:Pd−Cl:Pd−O=0.01:0.11:0.88であった。APTS−SAM上のPdは、主に、Pd−O(336.9eV)により酸素と結合しているものと考えられる。これらの結果により、APTS−SAM上のPdコロイド層の表面は、Pd−O又はPd−OHを主成分とし、少量のPd−Clを含んだ形で存在するものと考えられる。
【0044】
(5)Pd吸着領域へのIn(OH)の析出
Pd触媒をパターン化吸着させたSAMを、In(NO及びTMAB(trimethylamine−borane−complex,(CHN−BH,CAS 75−22−9)の溶解した水溶液に浸漬し、65℃にて1時間保持した(図1)。反応式(a)に示すように、硝酸インジウムの溶解により硝酸イオンが生成した。
In(NO→In3++3NO (a)
【0045】
Pd触媒により、反応(b)、(c)が進行した。
(CHNBH+2HO→BO+(CHN+7H+6e(b)
NO+HO+2e→NO+2OH (c)
【0046】
還元剤であるTMABの酸化がPd触媒により促進され、反応式(b)のように、電子が生成した。反応式(c)に示すように、硝酸イオンは電子を受け取り、亜硝酸イオンへと還元された。また、Pd触媒の近傍領域では、式(c)のように、酸化還元反応により水酸化物イオンが生成した。そのため、Pd触媒近傍では、局所的にpHが上昇した。
【0047】
反応式(d)により、高pH領域では、In(OH)が核生成し、成長した。
In3++3OH→In(OH) (d)
【0048】
これらの反応により、パターン化APTS−SAM上のPd触媒付着領域では、In(OH)が析出した(図1)。その後、In(OH)の加熱処理によりInを作製した(還元雰囲気(3%−H/N)、300℃、1時間)(反応式(e))。
2In(OH)→In+3HO (e)
【0049】
(6)In(OH)薄膜のパターン化析出
Pd触媒粒子をパターン化付着させたAPTS−SAMを、In(NO及びTMABを含む水溶液中に浸漬し、取り出した後、水洗し、大気中で乾燥させた。アミノ基領域への薄膜形成がSEM観察により示された。図4に、In(OH)薄膜パターンのSEM像を示す。アミノ基領域への薄膜析出により、SEM像において、アミノ基領域、シラノール基領域は、それぞれ、白色及び黒色を呈している。
【0050】
また、形成した薄膜は、マイクロメーターオーダーのクラックを持たない連続した粒子膜であり、数十〜数百nmの微細孔が表面に見られた。EDXにより元素分布を評価したところ、マッピングイメージにおいて黒色で表示されるように、アミノ基領域からInが検出された。図5に、In(OH)薄膜パターンのSEM像及び同一領域の元素分布マッピングイメージ(In及びSi)を示す。また、薄膜の形成していないシラノール基からは、基板由来のSiが検出された(図5)。これらは、アミノ基領域のみに、Inを含有する薄膜が析出したことを示している。
【0051】
薄膜表面の形状評価をAFMにより行った(室温、大気中)。アミノ基領域のみから薄膜の形成が観察された。図6に、In(OH)薄膜のAFM像を示す。薄膜表面は、均質な形態であり、ラフネス(RMS)は13nmであった。ガラス上に形成した薄膜は透明であり、これは、表面のラフネスが小さいことにより、表面での可視光の散乱が抑えられたことによるものと考えられる。
【0052】
薄膜を形成している粒子の面内方向のサイズは、直径約10−25nmであり、薄膜エッジ領域の段差から見積もられる膜厚は約84nmであった。XRDにより、形成した薄膜がIn(OH)結晶(JCPDS No.16−0161)の単相であることが示された。図7に、In薄膜のXRDパターン(大気加熱前後)を示す。
【0053】
また、In(OH)の002面及び004面からの回折線のみが観察されたことから、薄膜は、高いc軸配向性を有しているものと考えられる。002回折線の半値幅よりシェラーの式を用いて見積もられた結晶子サイズは、約17.4nmであり、これは、AFMから見積もられた粒子サイズと同程度であった。これらのことから、薄膜を形成する直径約10−25nmの微粒子は、それぞれが単結晶であるものと考えられる。
【0054】
XPS評価において、アミノ基領域に析出したIn(OH)薄膜から、In3d5/2(445.1eV)、In3d3/2及びO 1sが検出された。薄膜から検出されたIn3d5/2の結合エネルギーは、In金属(443.1[S.C.Ouchene M.,Belin E.,Gheorghiu A.,Theye M.,J.Non−Cryst.Solids 59&60(1983)625],443.6[P.A.Bertrand,J.Vac.Sci.Technol.18(1981)28、L.L.Kazmerski,O.Jamjoum,P.J.Ireland,S.K.Deb,R.A.Mickelsen,W.Chen,J.Vac.Sci.Technol.19(1981)467],443.8[P.Sen,M.S.Hegde,C.N.Rao,Appl.Surf.Sci.10(1982)63],444.3eV[C.D.Wagner,Discuss.Faraday Soc.60,(1975)291])やIn(444.5[J.C.C.Fan,J.B.Goodenough,J.Appl.Phys.48/8(1977)3524、A.W.C.Lin,N.R.Armstrong,T.Kuwana,Anal.Chem.49/8(1977)1228],444.6[D.T.Clark,T.Fok,G.G.Roberts,R.W.Sykes,Thin Solid Films70(1980)261],444.7[A.W.C.Lin,N.R.Armstrong,T.Kuwana,Anal.Chem.49/8(1977)1228、D.Cahen,P.J.Ireland,L.L.Kazmerski,F.A.Thiel,J.Appl.Phys.57/10(1985)4761],444.8[L.L.Kazmerski,O.Jamjoum,P.J.Ireland,S.K.Deb,R.A.Mickelsen,W.Chen,J.Vac.Sci.Technol.19(1981)467],444.9[R.W.Hewitt,N.Winograd,Journal of Applied Physics 51/5(1980)2620]eV)よりも高い値であり、In(OH)(445.0[C.D.Wagner,W.M.Riggs,L.E.Davis,J.F.Moulder,G.E.Muilenberg,Handbook of X−ray Photoelectron Spectroscopy,Perkin−Elmer Corp.,Physical Electronics Div.,Eden Prairie,Minnesota,1979],445.2eV[M.Faur,M.Faur,D.T.Jayne,M.Goradia,C.Goradia,Surf.Interface Anal.15(1990)641])の結合エネルギーと同程度であった。
【0055】
これは、薄膜中のIn原子がO原子との結合形成によって、In金属よりも正に帯電していることを示唆している。薄膜中のIn3d5/2の結合エネルギーがInよりもIn(OH)に近い値であったことは、XRDにより、薄膜がIn(OH)と同定されたことと矛盾がない。一方、Inはシラノール基領域からは検出されず、このことは、In(OH)がアミノ基領域にのみ析出したことを示している。
【0056】
(7)In薄膜のパターン化形成と光学特性
水溶液プロセスにより形成したIn(OH)薄膜を200℃、250℃、300℃にて大気加熱処理した(図7)。250℃以上での加熱により、In(OH)は、単相のIn結晶へと相転移した(図7)。300℃で加熱処理した後の薄膜からは、In(JCPDS No.44−1087)の222、400、332、431及び440の各回折線が観察された。
【0057】
222回折線の半値幅から見積もられた結晶子サイズは、約6.8nmであり、これは、焼成前のIn(OH)の002回折線から見積もられた結晶サイズの約0.4倍であった。XPSにおけるIn3d5/2ピークは、250℃での大気加熱処理によって、444.9eVへと低エネルギー側へシフトした。これは、In中のIn3d5/2の結合エネルギーの範囲内であり、XRDにより見られたInへの結晶化と矛盾しない。
【0058】
250℃の大気加熱においても、薄膜は、均一な表面形態を維持し、加熱後のAFM観察から見積もられた表面荒さ(RMS)は、約11nmであった。図8に、InO薄膜のAFM像を示す。面内方向の粒子サイズは、約10−25nmであった。薄膜のエッジ領域から見積もられた膜厚は、約45nmであった。これは、結晶化に伴う体積減少によるものと考えられる。
【0059】
ガラス上形成した薄膜において、可視光領域で約60−70%の透過率を示した。図9に、In薄膜の透過率と反射率を示す。これは、低い表面荒さによって散乱が約5−15%に抑えられたことに起因していると考えられる。また、全てのバンド間遷移が直接遷移であると仮定した際の、Inの直接遷移の光学バンドギャップは、約3.7eVと見積もられた。図10に、In薄膜の光学バンドギャップの見積りを示す。
【0060】
(8)In薄膜の電気特性
キャリア濃度の増加を目的として、大気中加熱処理に代えて、還元雰囲気(3%−H/N)にてIn(OH)を300℃で1時間加熱処理した。加熱後の薄膜からは、In(JCPDS No.44−1087)の222、400、332、431及び440のX線回折線が検出された。図11に、In薄膜のXRDパターン(還元雰囲気加熱後)を示す。222回折線から見積もられた結晶子サイズは、約9.8nmであった。
【0061】
これは、焼成前のIn(OH)の002回折線から見積もられた結晶サイズの約0.6倍であり、300℃大気加熱後の結晶子サイズよりも僅かに大きい値であった。In3d5/2のXPSピークは、還元雰囲気での加熱処理により、445.0eVへと低エネルギー側にシフトした。これは、In中のIn3d5/2の結合エネルギーの範囲内であり、XRDにより見られたInへの結晶化と矛盾しない。
【0062】
キャリア濃度及びホール移動度は、ホール効果測定により、それぞれ、2.1×1019cm−3及び5.2cm−1−1と見積もられた。また、ファン・デア・ポール法(Van der Pauw method)により、比抵抗は、5.8×10−2Ωcmと見積もられた。
【0063】
これらの電気的特性は、ゾルゲル法により作製されたIn薄膜の特性(carrier concentration:1.7×1019cm−3,Hall mobility:5.9cm−1−1,specific resistance:6.1×10−2Ωcm)[R.B.H.Tahar,T.Ban,Y.Ohya,Y.Takahashi,J.Appl.Phys.82/2(1997)865]と同程度であった。
【0064】
薄膜中の粒界において電子が散乱されるため、このことが、ホール移動度を減少させ、比抵抗を増加させたものと考えられる。薄膜形成プロセスの改良及び還元加熱処理の最適化により、キャリア濃度を増加させ、粒界を減少させることで、高いホール移動度と低い比抵抗が実現でき、これらによって電気特性が更に改善されるものと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0065】
以上詳述したように、本発明は、In薄膜パターン、In(OH)薄膜パターン及びそれらの作製方法に係るものであり、本発明により、エッチング工程を経ることなく、In薄膜パターン及びIn(OH)薄膜パターンを合成することができる。エッチングによるInの廃棄を回避することができる。また、未反応のInイオンは溶液中に残存するため、新しい基材を浸漬することにより、連続して成膜することが可能である。エッチングダメージによるIn及びIn(OH)の特性劣化を抑えることができる。液相からの析出反応を用いているため、複雑形状基材や粒子や繊維へのInコーティングも容易に行うことができる。本発明は、透明導電膜、分子センサー、ガスセンサー、溶液センサー及び色素増感型太陽電池等の透明導電性電子デバイスとして好適に利用できるIn薄膜パターン及びその作製方法等を提供するものとして有用である。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】酸化インジウム薄膜のパターン化形成の模式図を示す。
【図2】アミノ基上へのPdナノ粒子付着の模式図を示す。
【図3】Pd触媒ナノ粒子のAFM像を示す。
【図4】In(OH)薄膜パターンのSEM像を示す。
【図5】In(OH)薄膜パターンのSEM像及び同一領域の元素分布マッピングイメージ(In及びSi)を示す。
【図6】In(OH)薄膜のAFM像を示す。
【図7】In薄膜のXRDパターン(大気加熱前後)を示す。
【図8】In薄膜のAFM像を示す。
【図9】In薄膜の透過率と反射率を示す。
【図10】In薄膜の光学バンドギャップの見積もりを示す。
【図11】In薄膜のXRDパターン(還元雰囲気加熱後)を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に形成されたIn材料であって、(1)基板に形成した自己組織化単分子膜上のPd乃至貴金属ナノ粒子付着領域上に選択的又は非選択的に形成されている、(2)In結晶である、(3)可視光領域で60%より高い透過率を示す、(4)比抵抗が5.8×10−2Ωcmより低い、ことを特徴とするIn材料。
【請求項2】
基板上に形成されたIn薄膜パターン又はInパターンである、請求項1に記載のIn材料。
【請求項3】
基板上に形成されたIn薄膜である、請求項1に記載のIn材料。
【請求項4】
基板上に形成されたIn(OH)材料であって、基板に形成した自己組織化単分子膜上のPd乃至貴金属ナノ粒子付着領域上に選択的又は非選択的に形成されていることを特徴とするIn(OH)材料。
【請求項5】
基板上に形成されたIn(OH)薄膜パターン又はIn(OH)パターンである、請求項4に記載のIn(OH)材料。
【請求項6】
基板上に形成されたIn(OH)薄膜である、請求項4に記載のIn(OH)材料。
【請求項7】
基板上に形成されたIn(OH)材料を作製する方法であって、(1)基板上にアミノ基を末端に持つ自己組織化単分子膜を形成する工程、(2)基板にフォトマスクを介した紫外線照射を行うことにより、露光領域をアミノ基からシラノール基へ変性させる工程、(3)Pdイオン又はPd粒子を含む反応溶液を用いて液相から上記基板のアミノ基領域にPdナノ粒子を付着形成させる工程、(4)In(OH)を析出する反応系に上記基板を浸漬し、In(OH)を析出させる工程、からなることを特徴とする上記In(OH)材料の製造方法。
【請求項8】
自己組織化単分子膜の代わりに、pH5において正のゼータ電位を有する基板表面を用いる、請求項7に記載のIn(OH)材料の製造方法。
【請求項9】
液相から形成したPdナノ粒子形成基板の代わりに、真空蒸着又はPd粒子吹きつけによって作製したPdナノ粒子形成基板を用いる、請求項7に記載のIn(OH)材料の製造方法。
【請求項10】
自己組織化単分子膜として、APTS−SAM、又はpH5において正のゼータ電位を有する自己組織化単分子膜を用いる、請求項7に記載のIn(OH)材料の製造方法。
【請求項11】
基板が、ガラス、シリコン、金属、セラミックス、又はポリマー基板である、請求項7から10のいずれかに記載のIn(OH)材料の製造方法。
【請求項12】
請求項7から11のいずれかに記載の方法で作製したIn(OH)材料を還元雰囲気で加熱処理してIn結晶へ相移転することを特徴とするIn材料の製造方法。
【請求項13】
請求項1から3のいずれかに記載のIn材料からなることを特徴とする透明導電性電子デバイス。
【請求項14】
透明導電膜、分子センサー、ガスセンサー、溶液センサー又は色素増感型太陽電池用電子デバイスである、請求項13に記載の電子デバイス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2008−297169(P2008−297169A)
【公開日】平成20年12月11日(2008.12.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−146306(P2007−146306)
【出願日】平成19年5月31日(2007.5.31)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】