説明

LMNA遺伝子、ならびにハッチンソン−ギルフォード早老症候群(HGPS)および動脈硬化におけるその関与

HGPSの原因となるLMNA遺伝子中の点変異が、本明細書において開示される。これらの変異はLMNA遺伝子内部の潜在スプライス部位を活性化し、それがエクソン(11)の一部の欠失、および、正常タンパク質よりも(50)アミノ酸短い変異型ラミンAタンパク質産物の生成をもたらす。新規ラミンAバリアントタンパク質およびこのバリアントをコードする核酸に加えて、対象におけるLMNA変異と関連性のある生物学的状態(例えば、HGPS、動脈硬化および他の加齢性疾患)の検出にこれらの分子を用いる方法、このような状態を治療する方法、治療手段を選択する方法、ラミンA活性に影響を及ぼす化合物をスクリーニングする方法、およびLMNAまたはLMNAバリアントの発現に影響を及ぼす方法も開示される。記載した方法の例に用いるためのオリゴヌクレオチドおよび他の化合物も提供され、野生型ラミンAと比較して優先的に、ラミンAバリアントタンパク質の少なくとも1つのエピトープに対して特異的に結合するタンパク質特異的結合因子(抗体など)、ならびにこのような抗体を診断、治療およびスクリーニングに用いるための方法も提供される。本明細書に記載の方法を実施するためのキットも提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
開示の分野
本開示は老化の遺伝的基盤に関し、より詳細には、ラミン(Lamin)A/Cをコードする遺伝子LMNA、およびハッチンソン-ギルフォード早老症候群(HGPS)と呼ばれる疾患を含む老化現象におけるその関与に関する。
【背景技術】
【0002】
開示の背景
老化した状態を元に戻し、細胞の増殖能を回復させる可能性があることは多くの活動分野に影響を及ぼす。老年期の疾患の多くはこの能力の喪失と関係している。さらに、痛ましい疾患である早老症(これは外見に基づき、文献にしばしば早老症候群として記載されている)は、細胞の増殖能の喪失と関係している。ウェルナー症候群およびハッチンソン-ギルフォード早老症候群(HGPS)は早老性疾患の2つである。この2つの間の主な臨床的差異は、ハッチンソン-ギルフォード早老症候群(時に小児期早老症と呼ばれる)の発症は生後10年以内に起こるが、ウェルナー症候群(時に成人期早老症と呼ばれる)の最初の徴候が出現するのは思春期以降に限られ、すべての症状が発現するのは20〜30歳になってからという点にある。
【0003】
より詳細には、ハッチンソン-ギルフォード早老症候群(HGPS)(ハッチンソン-ギルフォード症候群または早老症とも呼ばれる)は、早期老化(早老症)の諸特徴、出生年から通常始まって低身長および低体重を引き起こす成長障害、皮下脂肪層(皮下脂肪組織)の変質、ならびに特徴的な頭蓋顔面異常(前額突出、顎発達不全(小顎症)、目の異常突出および/または小さい「くちばし状の」鼻が含まれる)によって特徴づけられる、小児の極めて稀な進行性疾患である。さらに、生後1年または2年のうちに、頭髪、眉毛および睫毛がまばらになり、頭皮の静脈が異常に目立つようになる。そのほかの症状および身体所見には、関節硬直、反復性の難治性骨折、皮膚の進行性加齢様外観、歯牙萌出(生歯)遅滞ならびに/または歯の奇形および叢生が含まれうる。本疾患の患者は一般に知能は正常である。ほとんどの場合、患者には動脈壁の広範な早期肥厚および弾性低下(動脈硬化)がみられ、これはしばしば、心発作および脳卒中といった命にかかわる合併症を引き起こし、これが通常は死因となる。
【0004】
HGPSは遺伝病と考えられているが、その遺伝様式、分子的基盤および発症機序はいずれも解明されていない。これは以前は散発性常染色体優性遺伝子変異に起因すると考えられていた。
【0005】
HGPSに伴う変異の同定は本疾患の発見、診断および予後評価における非常に大きな進展となると考えられ、HGPSおよびこれと関連または類似した病状(より一般的には動脈硬化および老化を含む)の治療およびおそらくは予防に対しても道を開くものと考えられる。
【発明の開示】
【0006】
開示の概要
驚いたことに、HGPSの原因となる点変異がLMNA遺伝子中に同定された。その遺伝は新規の突然変異-常染色体優性であり、同定された変異はコドン608に存在する;最も頻度の高いものはCpGジヌクレオチドにおけるCからTへの塩基置換である。現在、変異の機序はLMNA遺伝子の内部にある潜在スプライス部位の活性化であって、これがエクソン11の一部の欠失および正常タンパク質よりも50アミノ酸短いラミンAタンパク質産物の生成を招くと考えられている。同定された変異はすべて、ラミンAには影響を及ぼすがラミンCには影響しないと予想されている。さらに、分節性UPDの2例では線維芽細胞DNAからは変異が認められず、このことは(インビボまたはインビトロでの)体細胞レスキュー事象を示している可能性がある。
【0007】
したがって、本開示は、新規ラミンAバリアントタンパク質およびこのバリアントをコードする核酸を提供する。また、対象におけるLMNA変異と関連性のある生物学的状態(例えば、HGPS、動脈硬化および他の加齢性疾患)の検出にこれらの分子を用いる方法、このような状態を治療する方法、治療手段(例えば、有糸分裂乗り換えを促進し、それによって体細胞レスキュー事象を促進する薬剤)を選択する方法、ラミンA活性に影響を及ぼす化合物のスクリーニング方法、およびLMNAまたはLMNAバリアントの発現に影響を及ぼす方法も開示される。このような方法の例に用いるためのオリゴヌクレオチドおよびその他の化合物も提供される。
【0008】
野生型ラミンAと比較して選好的に、ラミンAバリアントタンパク質の少なくとも1つのエピトープに対して特異的に結合するタンパク質特異的結合因子(抗体など)、ならびにこのような抗体を診断、治療およびスクリーニングに用いるための方法も本明細書中に開示される。
【0009】
本明細書に記載の方法を実施するためのキットも提供される。
【0010】
上記およびその他の特徴および利点は、添付の図面を参照しながら進められる、以下のいくつかの好ましい態様の詳細な説明により、さらに明らかになると考えられる。
【0011】
詳細な説明
I. 略号
ASO:対立遺伝子特異的オリゴヌクレオチド
ASOH:対立遺伝子特異的オリゴヌクレオチドハイブリダイゼーション
DASH:動的対立遺伝子特異的ハイブリダイゼーション
DEXA:二重エネルギーX線吸収測定法
HGPS:ハッチンソン-ギルフォード早老症候群
RT-PCR:逆転写ポリメラーゼ連鎖反応
【0012】
II. 用語
別に指摘する場合を除き、技術用語は従来の用法に従って用いられる。分子生物学における一般的な用語の定義は、Benjamin Lewin, 「遺伝子V(Genes V)」、Oxford University Pressにより刊行、1994(ISBN 0-19-854287-9);Kendrew et al.(eds.)、「分子生物学辞典(The Encyclopedia of Molecular Biology)、Blackwell Science Ltd.により刊行、1994(ISBN 0-632-02182-9);およびRobert A. Meyers(ed.)、「分子生物学およびバイオテクノロジー:包括的便覧(Molecular Biology and Biotechnology: a Comprehensive Desk Reference)」、VCH Publishers, Inc.により刊行、1995(ISBN 1-56081-569-8)に記載されている。ハッチンソン-ギルフォード早老症候群の諸様相およびこの症候群に関係のある用語は、例えば、DeBusk(J. Pediatrics, 80:697-724, 1974)に記載されている。
【0013】
本発明のさまざまな態様の吟味を容易にするために、特定の用語に対して以下の非制限的な説明を行う。
【0014】
異常:正常な特性からの逸脱。正常な特性は、対照、母集団に関する標準などに見いだしうる。例えば、異常状態が早老症などの疾患状態である場合には、正常な特性の適切な源のいくつかとして、疾患(例えば、早老症)に罹患していない個体、疾患に罹患していないと考えられる個体の母集団標準などが含まれうる。
【0015】
同様に、異常が、ある疾患と関連性のある状態を指す場合もある。「関連性のある(associated with)」という用語には、その疾患自体のほか、その疾患を発症するリスクが高いことも含まれる。例えば、ある種の異常(LMNA核酸またはラミンタンパク質発現の異常)は、早老症の生物学的状態、および早老性疾患または状態を発症する傾向と関連性があると記載することができる。
【0016】
異常核酸(例えば、異常LMNA核酸)とは、正常(野生型)核酸とは何らかの様式で異なるもののことである。このような異常には、以下のものが含まれる(ただし、必ずしもこれらには限定されない):(1)核酸における変異(点変異(例えば、一塩基多型)または少数〜数ヌクレオチドの短い欠失もしくは重複);(2)核酸の複製または発現を変化させるような、その核酸に付随する制御配列における変異(プロモーターの機能的な不活性化など);(3)細胞または他の生物試料における核酸の量またはコピー数の減少(選択的な遺伝子喪失もしくは染色体の比較的大きな部分の喪失による核酸の欠失、またはmRNAの低発現など);(4)細胞または試料における核酸の量またはコピー数の増加(核酸の部分もしくは全体のゲノム性増幅、またはmRNAの過剰発現)(以上はそれぞれ対照または標準との比較による);および(5)正常スプライスシグナルが不活性化されるか、または異常スプライスシグナルが生成されるような様式での、スプライシング機構を制御する配列における変化。これらのタイプの異常が、同一の核酸中、または同一の細胞もしくは試料中に共存しうることは理解されると考えられる;例えば、ゲノム性に増幅された核酸配列が、1つまたは複数の点変異を含んでもよい。さらに、核酸における異常が、対応するタンパク質の発現における異常と関連性があってもよく、実際にその原因であってもよいことは理解されると考えられる。
【0017】
異常なタンパク質発現(例えば、異常なラミンAタンパク質発現)とは、正常な(野生型の)状況でのタンパク質の発現とは何らかの様式で異なるタンパク質の発現のことを指す。これには以下のものが含まれる(ただし、これらには必ずしも限定されない):(1)アミノ酸残基の1つまたは複数が異なるような、タンパク質における変異;(2)タンパク質の配列に対する1つまたは少数のアミノ酸残基の短い欠失または付加;(3)タンパク質ドメイン全体またはサブドメインが除去または付加されるような、アミノ酸残基の比較的長い欠失または付加;(4)対照または標準の量と比較しての、タンパク質の発現の量の増加;(5)対照または標準の量と比較しての、タンパク質の発現の量の減少;(6)タンパク質の細胞内局在または標的指向性の変化;(7)時間的な調節を受けるタンパク質発現の変化(タンパク質が通常は発現されないと考えられる時期に発現される、または通常は発現されると考えられる時期に発現されない);および(8)タンパク質の限局的(例えば、臓器または組織に特異的な)発現の変化(タンパク質が通常は発現されると考えられる場所で発現されない、または通常は発現されないと考えられる場所で発現される)(以上はそれぞれ対照または標準との比較による)。
【0018】
異常性の判定を目的としての、試料との比較のために適した対照または標準には、正常と考えられる試料のほかに、たとえ恣意的な集合である可能性があるにしても、検査室での値が含まれるが、そのような値は検査室ごとに異なる可能性があることに留意する。検査室での標準および値は、既知または測定された集団値に基づいて設定されたものであってもよく、測定され実験的に決定された値の簡単な比較を可能にするようなグラフまたは表の様式で提供されたものであってもよい。
【0019】
アンチセンス、センス、およびアンチジーン(antigene):二本鎖DNA(dsDNA)は、プラス鎖と呼ばれる5'→3'鎖、およびマイナス鎖と呼ばれる3'→5'鎖(逆相補鎖)の2本の鎖を持つ。RNAポリメラーゼは核酸を5'→3'方向に付加するため、DNAのマイナス鎖は転写中にRNAの鋳型としての役割を果たす。したがって、形成されたRNAは(TがUに置換されていることを除き)マイナス鎖と相補的であってプラス鎖と同一な配列を有すると考えられる。
【0020】
アンチセンス分子とは、RNAまたはDNAのプラス鎖のいずれかと特異的にハイブリダイズ可能な、または特異的に相補的な分子である。センス分子とは、DNAのマイナス鎖と特異的にハイブリダイズ可能な、または特異的に相補的な分子である。アンチジーン分子とは、dsDNAを標的とするアンチセンス分子またはセンス分子である。
【0021】
(オリゴヌクレオチドの)結合または安定的な結合:オリゴヌクレオチドが標的核酸と結合する、または安定的に結合するとは、十分な量のオリゴヌクレオチドが標的核酸と塩基対を形成するかハイブリダイズして、その結合の検出が可能となる場合のことである。結合は、標的:オリゴヌクレオチド複合体の物理的または機能的な性質によって検出しうる。標的とオリゴヌクレオチドとの結合は、機能的および物理的な結合アッセイ法の両方を含む、当業者に知られた任意の方法によって検出可能である。結合が遺伝子の発現、DNA複製、転写、翻訳などの生合成過程に対して観察可能な効果を及ぼすか否かを判定することにより、結合を機能的に検出することができる。
【0022】
DNAまたはRNAの相補鎖の結合を物理的に検出する方法は当技術分野において周知であり、これには例えば、DNアーゼIまたは化学的フットプリント法、ゲルシフトおよびアフィニティー切断アッセイ法、ノーザンブロット法、ドットブロット法、ならびに吸光度検出法などの方法が含まれる。例えば、非常に容易で信頼性があるために広く用いられている方法は、温度を穏やかに上昇させながら、オリゴヌクレオチド(または類似体)および標的核酸を含む溶液の220nm〜300nmでの吸光度の変化を観察する段階を含む。オリゴヌクレオチドまたは類似体がその標的と結合していれば、オリゴヌクレオチド(または類似体)および標的が固有の温度で互いに解離または融解するために、吸光度の急激な上昇がみられる。
【0023】
オリゴマーとその標的核酸との間の結合はしばしば、オリゴマーの50%がその標的から融解する温度(T)によって特徴づけられる。高い(T)は、低い(Tm)と比較してより強いまたはより安定な複合体を意味する。
【0024】
cDNA(相補的DNA):内部の非コード性セグメント(イントロン)および転写調節配列を欠いたDNA片。cDNAは、対応するRNA分子の翻訳を制御する役割を担う非翻訳領域(UTR)も含みうる。cDNAは通常、研究室で、細胞から抽出したメッセンジャーRNAからの逆転写により合成される。
【0025】
相補性および相補率(percentage complementarity):相補的核酸を有する分子は、ワトソン-クリック型、フーグスティーン型または逆フーグスティーン型の塩基対を形成することによって互いに結合する(ハイブリダイズする)と、安定した二重鎖および三重鎖を形成する。安定的な結合は、オリゴヌクレオチドが必要な条件下で標的核酸配列と検出可能な結合を保つ場合に起こる。
【0026】
相補性とは、1つの核酸鎖における塩基が第2の核酸鎖における塩基と塩基対を形成する度合いのことである。相補性は、パーセンテージによって、例えば、2本の鎖の間または2本の鎖の特定の領域もしくはドメインの内部で塩基対を形成するヌクレオチドの割合によって記載することが好都合である。例えば、15ヌクレオチドのオリゴヌクレオチドのうち10ヌクレオチドがDNA分子の標的領域と塩基対を形成するならば、そのオリゴヌクレオチドは標的となったDNAの領域と66.67%の相補性を有するという。
【0027】
当業者が所望の条件下で用いるのに適切なオリゴヌクレオチドを設計することを可能にする結合条件を確立することにかかわる質的および量的な事項の詳細な処理に関しては、Beltz et al. Methods Enzymol 100: 266-285, 1983、およびSambrook et al.(ed.), 「分子クローニング:実験マニュアル(Molecular Cloning:A Laboratory Manual)」、2nd ed., vol. 1-3, Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, NY, 1989に示されている。
【0028】
DNA(デオキシリボ核酸):DNAは、ほとんどの生物の遺伝物質を構成する長鎖重合体である(いくつかのウイルスはリボ核酸(RNA)を含む遺伝子を有する)。DNA重合体の反復単位は4種類のヌクレオチドであり、そのそれぞれは、4種類の塩基、アデニン、グアニン、シトシンおよびチミンのうち1つがデオキシリボース糖と結合し、それにリン酸基が結合したものから構成される。ヌクレオチドのトリプレット(コドンと呼ぶ)は、ポリペプチド中のそれぞれのアミノ酸または終結シグナルをコードする。コドンという用語は、そのDNA配列から転写されたmRNAにおける対応する(および相補的な)3つのヌクレオチド配列に対しても用いられる。
【0029】
別に指定する場合を除き、DNA分子に対するいずれの言及にも、そのDNAの逆相補物が含まれるものとする。一本鎖であることが本明細書の文面により要求される場合を除き、DNA分子には、一本鎖のみを表すように記載されている場合であっても、二本鎖DNA分子の両方の鎖が含まれる。したがって、ラミンAをコードする核酸分子またはその断片に対する言及は、センス鎖およびその逆相補鎖の双方を包含する。したがって、例えば、開示された核酸分子の逆相補配列からプローブまたはプライマーを作製することは妥当である。
【0030】
欠失:DNAの配列の除去であって、除去された配列の両側にある領域が互いに連結されること。
【0031】
エピトープタグとは、それに対して特異的抗体を産生させることができるアミノ酸の短い連鎖のことであり、これはいくつかの態様において、生きた生物または培養細胞に添加したタグ標識タンパク質を特異的に同定して追跡することを可能にする。タグ標識分子の検出はさまざまな異なる技法を用いて行うことができる。このような技法の例には以下のものが含まれる:免疫組織化学、免疫沈降、フローサイトメトリー、免疫蛍光顕微鏡法、ELISA、イムノブロット法(「ウエスタン」)およびアフィニティークロマトグラフィー。有用なエピトープタグの例には、FLAG、T7、HA(赤血球凝集素)およびmycが含まれる。FLAGタグ(DYKDDDDK)は、本明細書に開示したいくつかの具体的な例で用いられているが、これはこの検出のために高品質な試薬を利用しうるためである。
【0032】
ゲノム標的配列:1つまたは複数の特定の遺伝的異常(ヌクレオチド多型、欠失または増幅など)に対応するヒトゲノム中の特定の領域に位置するヌクレオチドの配列。標的は例えばコード配列でありうる;また、コード鎖に対応する非コード鎖もありうる。
【0033】
ハイブリダイゼーション:オリゴヌクレオチドおよびそれらの類似体は、相補的塩基間のワトソン・クリック型、フーグスティーン型、または逆フーグスティーン型水素結合を含む水素結合によりハイブリダイズする。一般に核酸は、ピリミジン(シトシン(C)、ウラシル(U)、およびチミン(T))またはプリン(アデニン(A)およびグアニン(G))のいずれかである含窒素塩基からなる。それらの含窒素塩基はピリミジンとプリンとの間で水素結合を形成し、ピリミジンとプリンとの結合は「塩基対合」と呼ばれる。より詳細には、AはTまたはUと水素結合し、GはCと結合する。「相補的」とは、2つの別個の核酸配列、または同一核酸配列中の2つの別個の領域の間に生ずる塩基対合のことを指す。例えば、あるオリゴヌクレオチドは、ラミンAをコードするmRNA、またはラミンAをコードするdsDNAに対して相補的でありうる。
【0034】
「特異的にハイブリダイズする」および「特異的に相補的な」は、オリゴヌクレオチド(またはその類似体)とDNAまたはRNAの標的との間に安定で特異的な結合が生じるのに十分な程度の相補性のことを表す用語である。オリゴヌクレオチドまたはオリゴヌクレオチド類似体は、特異的にハイブリダイズするためにその標的配列と100%相補的である必要はない。オリゴヌクレオチドまたは類似体と標的DNAまたはRNA分子との結合が、標的DNAまたはRNAの正常な機能を妨げ、例えばインビボのアッセイ法または系の場合の物理的条件下などの特異的な結合が要求される状況下で、オリゴヌクレオチドまたは類似体が非標的配列と非特異的に結合するのを妨げるのに十分な程度の相補性がある場合に、オリゴヌクレオチドまたは類似体は特異的にハイブリダイズするという。そのような結合を特異的ハイブリダイゼーションと称する。
【0035】
特定の度合いのストリンジェンシーが生じるハイブリダイゼーション条件は、選択したハイブリダイゼーション方法の性質、およびハイブリダイズする核酸配列の組成および長さによって異なると考えられる。一般に、ハイブリダイゼーションの温度およびハイブリダイゼーション緩衝液のイオン強度(特にNa+濃度)がハイブリダイゼーションのストリンジェンシーを決定するが、作業時間もストリンジェンシーに影響する。特定の度合いのストリンジェンシーを得るために必要なハイブリダイゼーション条件に関する計算は、Sambrook et al(ed.), 「分子クローニング:実験マニュアル(Molecular Cloning:A Laboratory Manual)」、2nd ed., vol. 1-3, Cold Spring Harbor Laboratory Press), Cold Spring Harbor, NY, 1989、第9章および11章に論じられており、これは参照として本明細書に組み入れられる。
【0036】
本開示の目的において、「ストリンジェントな条件」には、ハイブリダイゼーション分子と標的配列との間のミスマッチが25%未満の場合にのみハイブリダイゼーションが起こるような条件が含まれる。より厳密な定義においては、「ストリンジェントな条件」を、複数の特定レベルのストリンジェンシーに分類することもできる。すなわち、本明細書で用いる「穏やかなストリンジェンシー」条件とは、25%を上回る配列ミスマッチがある分子はハイブリダイズしないような条件である;また、「中程度のストリンジェンシー」条件とは、15%を上回る配列ミスマッチがある分子はハイブリダイズしないような条件であり、「高ストリンジェンシー」条件とは、10%を上回るミスマッチがある配列はハイブリダイズしないような条件である。「超高ストリンジェンシー」条件とは、6%を上回るミスマッチがある配列はハイブリダイズしないような条件である。
【0037】
単離された:「単離された」生体成分(核酸分子、タンパク質またはオルガネラなど)とは、その生体成分が天然に存在する生物体の細胞中の他の生体成分、例えば他の染色体性および染色体外のDNAおよびRNA、タンパク質ならびにオルガネラから実質的に分離または精製されたものである。「単離された」核酸およびタンパク質には、標準的な精製方法によって精製された核酸およびタンパク質が含まれる。この用語には、宿主細胞における組換え体の発現によって調製された核酸およびタンパク質、ならびに化学合成された核酸も含まれる。
【0038】
ヌクレオチド:「ヌクレオチド」には、糖と結合したピリミジン、プリンもしくはそれらの合成類似体などの塩基またはペプチド核酸(PNA)のようにアミノ酸と結合した塩基を含むモノマーが非制限的に含まれる。ヌクレオチドはポリヌクレオチドにおけるモノマー単位である。ヌクレオチド配列とは、ポリヌクレオチドにおける塩基の配列のことを指す。
【0039】
オリゴヌクレオチド:オリゴヌクレオチドは、天然のホスホジエステル結合により連結された複数個の連結性ヌクレオチドであり、長さは約6ヌクレオチドから約300ヌクレオチドの間である。オリゴヌクレオチド類似体とは、オリゴヌクレオチドと同様に機能するが、天然には存在しない部分を有する成分のことを指す。例えば、オリゴヌクレオチド類似体は、ホスホロチオエートオリゴデオキシヌクレオチドのように、改変された糖部分または糖間結合などの天然に存在しない部分を含みうる。天然に存在するポリヌクレオチドの機能的類似体はRNAまたはDNAと結合することができ、これにはペプチド核酸(PNA)分子が含まれる。
【0040】
個々のオリゴヌクレオチドおよびオリゴヌクレオチド類似体は、長さが約200ヌクレオチドまでの線状配列、例えば、少なくとも6塩基、例えば少なくとも8、10、15、20、25、30、35、40、45、50、100塩基もしくはさらに200塩基の長さ、または約6塩基〜約50塩基、例えば12、15、もしくは20塩基などの約10〜約25塩基の長さである配列(DNAまたはRNAなど)を含みうる。
【0041】
機能的に結合した:第1の核酸配列が第2の核酸配列と機能的な関係に位置する場合、第1の核酸配列は第2の核酸配列と機能的に結合している。例えば、プロモーターがコード配列の転写または発現に影響を及ぼす場合、プロモーターはコード配列と機能的に結合している。一般に、機能的に結合した複数のDNA配列は連続しており、2つのタンパク質コード領域を連結する必要がある場合には同一のリーディングフレーム内にある。
【0042】
オープンリーディングフレーム:内部に終止コドンがない、アミノ酸をコードする一連のヌクレオチド・トリプレット(コドン)。これらの配列は通常、ペプチドに翻訳されうる。
【0043】
非経口的:腸管外への、例えば消化管を介さない投与。一般に、非経口製剤とは、経口摂取以外の任意の可能な様式によって投与されるものである。この用語は特に、静脈内、髄腔内、筋肉内、腹腔内、または皮下のいずれかによって投与される注射、ならびに例えば鼻腔内、皮内および局所外用を含むさまざまな体表適用のことを指す。
【0044】
ペプチド核酸(PNA):ペプチド結合によって連結したアミノ酸モノマーなどの、アミド(ペプチド)結合によって連結したモノマーを含む骨格を有するオリゴヌクレオチド類似体。
【0045】
薬学的に許容される担体:本開示において有用な薬学的に許容される担体は従来のものである。Martin, 「レミントン薬学(Remington's Pharmaceutical Science)」、Mack Publishing Co., Easton, PAにより刊行、第19版, 1995には、本明細書で開示したヌクレオチドおよびタンパク質の薬学的送達に適した組成物および製剤が記載されている。
【0046】
一般に、担体の性質は、用いる具体的な投与様式によって決まると考えられる。非経口的製剤は通常、水、生理的食塩水、平衡塩類溶液、水性デキストロース、グリセロールなどの薬学的および生理的に許容しうる液体を含む注入可能な液体を媒体として含む。固体組成物(例えば、粉剤、丸剤、錠剤またはカプセル剤)の場合は、例えば、医薬品級のマンニトール、ラクトース、デンプンまたはステアリン酸マグネシウムなどの従来の非毒性担体を含めることができる。投与される薬学的組成物は、生物的に中性な担体に加えて、湿潤剤および乳化剤、保存料およびpH緩衝剤などの非毒性補助物質、例えば酢酸ナトリウムまたはソルビタンモノラウレートを微量に含みうる。
【0047】
多型:遺伝子の配列におけるバリアント。多型は、個体間、異なる人種集団間、地理的場所の間で一般に認められる差異のように、異なるヌクレオチド配列を有していながら機能的に等価な遺伝子産物を生じる差異(ヌクレオチド配列の違い)でありうる。多型という用語には、機能が変化した遺伝子産物を生じる変異、例えば、機能的に等価でない遺伝子産物をもたらす遺伝子配列におけるバリアントも含まれる。この用語には、遺伝子産物を生じない変異、不活性な遺伝子産物または遺伝子産物の増加を生じる変異も含まれる。多型という用語は、文脈に別のことが明示されている場合を除き、対立形質または変異と互換的に用いうる。
【0048】
多型は、例えば、差異が存在するヌクレオチド部位により、ヌクレオチドの差異によって引き起こされたアミノ酸配列の変化により、または差異と関連のある核酸分子の他の何らかの特性の変化(例えば、ステムループなどの二次構造の変化、またはポリメラーゼ、RNアーゼなどの関連分子に対する核酸の結合親和性の変化)により、表すことができる。今回の場合には、変異1はG608G(GGC>GGT)とも呼ばれ、これは変異がコドン608にあること、それがサイレント性であること(コードされるアミノ酸に変化を生じさせないという点で)、および厳密なヌクレオチド配列変化はそのコドンの3番目の位置におけるCからTへのものであることを示している。同様に、変異2はG608S(GGC>AGC)とも呼ばれ、これは変異にコドン608にあること、それがアミノ酸置換(グリシンからセリンに)を引き起こすこと、および厳密なヌクレオチド配列変化はそのコドンの1番目の位置におけるGからAへのものであることを示している。
【0049】
プローブおよびプライマー:プローブは、単離された核酸が検出可能な標識またはレポーター分子と結合したものを含む。一般的な標識には、放射性同位体、リガンド、化学発光物質および酵素が含まれる。標識のための方法、および種々の目的に適した標識の選択の手引きについては、例えば、Sambrook et al.(「分子クローニング:実験マニュアル(Molecular Cloning: Laboratory Manual)」中、CSHL, New York, 1989)およびAusubel et al.(「分子クローニングにおける最新プロトコール(Current Protocols in Molecular Biology)」、John Wiley & Sons, New York, 1998)に考察されている。
【0050】
プライマーは、例えば増幅しようとする連続した相補的ヌクレオチドまたは配列とハイブリダイズする、短い核酸分子、例えば長さが10ヌクレオチドまたはそれ以上であるDNAオリゴヌクレオチドである。より長いDNAオリゴヌクレオチドは、長さが約15、20、25、30もしくは50ヌクレオチドまたはそれ以上であってもよい。プライマーを核酸ハイブリダイゼーションによって相補的な標的DNA鎖とアニーリングさせ、プライマーと標的DNA鎖とのハイブリッドを形成させた上で、DNAポリメラーゼ酵素によって標的DNA鎖に沿って伸長させることができる。プライマー対は、核酸配列の増幅、例えば、PCRまたは当技術分野で知られた他の核酸増幅方法によるものに用いることができる。増幅法のその他の例には、米国特許第5,744,311号に開示されている鎖置換増幅法;米国特許第6,033,881号に開示されている非転写等温増幅法;WO 90/01069号に開示されている修復連鎖反応増幅法;EP-A-320308号に開示されているリガーゼ連鎖反応増幅法;米国特許第5,427,930号に開示されているギャップ充填リガーゼ連鎖反応増幅法;および米国特許第6,025,134号に開示されているNASBA(商標)RNA非転写増幅法が含まれる。
【0051】
核酸プローブおよびプライマーは、本開示に提供した核酸分子に基づいて容易に調製しうる。また、これらの開示された核酸分子の断片または部分、例えばLMNAコード配列内部のヌクレオチド1822およびヌクレオチド1824にある同定された多型を含む領域に基づいて、プローブおよびプライマーを作製することも妥当である。
【0052】
プローブおよびプライマーの調製および使用のための方法は、例えば、Sambrook et al.(「分子クローニング:実験マニュアル(Molecular Cloning:Laboratory Manual)」中、CSHL, New York, 1998)、Ausubel et al.(ed)(「分子生物学における最新プロトコール(Current Protocols in Molecular Biology)」中、John Wiley & Sons, New York, 1998)、およびInnis et al.(「PCRプロトコール:方法および応用への手引き(PCR Protocols, A Guide to Methods and Applications)」、Academic Press, Inc., San Diego, CA, 1990)に記載されている。増幅プライマー対は既知の配列から得ることができ、これは例えば、Primer(バージョン0.5、(著作権)1991, Whitehead Institute for Biomedical Research, Cambridge, MA)などの、それを目的とするコンピュータプログラムを用いることによって行える。当業者は、特定のプローブまたはプライマーの特異性がその長さに伴って高くなることを理解している。したがって、例えば、ラミンAをコードするヌクレオチドまたはその隣接領域のうち30個の連続したヌクレオチドを含むプライマー(「ラミンAプライマー」または「ラミンAプローブ」)は、15ヌクレオチドに過ぎない対応するプライマーよりも、標的配列に対してより高い特異性でアニーリングすると考えられる。このため、より高い特異性を得る目的で、ラミンAヌクレオチド配列のうち少なくとも20、25、30、35、40、45、50個またはそれ以上の連続したヌクレオチドを含むようにプローブおよびプライマーを選択することができる。
【0053】
したがって、本開示は、ラミンAをコードする配列および/または隣接領域のうち指定された長さを含む、単離された核酸分子を含む。このような分子は、これらの配列のうち少なくとも10、15、20、23、25、30、35、40、45もしくは50個の連続したヌクレオチドまたはそれ以上を含んでよく、開示された配列の任意の領域から得ることができる。例えば、ヒトLMNAの遺伝子座、cDNA、ORF、コード配列および遺伝子配列(LMNAコード配列の上流および下流の両方の配列を含む)を配列長に基づいて約半分または4分の1に分け、単離された核酸分子(例えば、オリゴヌクレオチド)を、分子の半分のうち第1もしくは第2のもの、または分子の4分の1のうち任意のものから得ることができる。cDNAを同じく、例えば8分の1、16分の1、20分の1、50分の1といった小さな領域に分割し、同様の効果を得ることも可能と考えられる。
【0054】
特定の態様において、単離された核酸分子は、早老症および/または早老性の疾患もしくは状態を予測させる多型と関連性があることが示された少なくとも1つの残基位置を含む、またはそれと部分的に重複する。このような多型部位には、1822位(変異2多型に対応する)および1824位(変異1多型に対応する)が含まれる。
【0055】
タンパク質:遺伝子によって発現され、アミノ酸から構成される生体分子、特にポリペプチド。
【0056】
精製された:「精製された」という用語は、絶対的に純粋であることを必要としない;実際には、これは相対的な用語として意図されている。このため、例えば、精製されたタンパク質調製物とは、対象のタンパク質が、細胞内または生産用反応チャンバー内(適宜)の天然の環境にあるタンパク質よりも純粋であるもののことである。
【0057】
組換え体:組換え核酸とは、天然に存在しない配列、または配列中の別個の異なる2つのセグメントの人為的な組合せによって作製された配列を有する核酸のことである。この人為的な組合せは、化学合成によって、またはより一般的には、単離された核酸セグメントの人為的な操作、例えば遺伝子工学技術によって得ることができる。
【0058】
レプレゼンテーショナルディファレンス分析(representational difference analysis):近縁関係にある細胞系に存在するmRNA転写物の違いを同定するために用いられる、PCRに基づくサブトラクティブハイブリダイゼーション法。
【0059】
遺伝子発現の連続分析:Velculescu et al.(Science 270: 484-487, 1995)に記載されたように、短い診断配列タグを用いて、組織中の多数の転写物の定量的かつ同時の分析を可能にすること。
【0060】
特異的結合因子:実質的に規定の標的のみに対して結合する因子(agent)。したがって、ラミンAタンパク質特異的結合因子は実質的にラミンAタンパク質のみと結合する。本明細書で用いる場合、「ラミンタンパク質特異的結合因子」という用語には、抗ラミンタンパク質抗体(およびその機能的断片)、ならびに実質的にラミンタンパク質のみと結合する他の因子(可溶性受容体など)が含まれる。特定の態様において、ある種のラミン特異的結合因子は、ラミンの一型、例えばラミンAまたはラミンCに対して特異的であることを特に想定している。
【0061】
抗ラミンタンパク質抗体は、Harlow and Lane(「抗体、実験マニュアル(Antibodies, A Laboratory Manual」、 CSHL, New York, 1988)を含む、多くの教科書に記載された標準的な手段を用いて作製しうる。特定の因子が実質的に標的タンパク質のみと結合することの判定は、ルーチン的な手順を用いるか適応させることにより、容易に行うことができる。適切なインビトロアッセイ法の1つに、ウエスタンブロット法を利用するものがある(Harlow and Lane(「抗体、実験マニュアル(Antibodies, A Laboratory Manual)」、CSHL, New York, 1988)を含む、多くの標準的な教科書に記載されている)。ウエスタンブロット法を用いて、抗ラミンタンパク質モノクローナル抗体などの所定の標的タンパク質結合因子が、実質的に指定の標的タンパク質のみと結合することを確かめることもできる。
【0062】
抗体の短い断片も特異的結合因子として役立てることができる。例えば、ラミンAと結合するFAb、Fvおよび一本鎖Fv(SCFv)は、特異的結合因子となりうる。これらの抗体断片は以下のように定義される:(1)FAb、これは抗体分子の一価抗原結合性断片を含む断片であり、完全な抗体を酵素パパインによって消化して1本の完全な軽鎖および1本の重鎖の一部分を得ることによって作製される;(2)FAb'、これは完全な抗体をペプシンで処理した後に還元し、1本の完全な軽鎖および1本の重鎖の一部分を得ることによって入手しうる抗体分子の断片である;抗体分子1つにつき2つのFAb'断片が得られる;(3)(FAb')2、これは完全な抗体を酵素ペプシンで処理し、その後に還元を行わないことによって入手しうる抗体断片である;(4)F(Ab')2は2つのFAb'断片が2つのジスルフィド結合によって連結した二量体である;(5)Fv、これは2本の鎖として発現された軽鎖の可変領域および重鎖の可変領域を含む遺伝子操作断片と定義される;ならびに(6)一本鎖抗体(「SCA」)、これは軽鎖の可変領域および重鎖の可変領域が適したポリペプチドリンカーによって連結され、遺伝的に融合された一本鎖分子となったものを含む遺伝子操作分子である。これらの断片を作製する方法はルーチン的である。
【0063】
対象:生きている多細胞性脊椎生物であり、ヒトおよび非ヒト哺乳動物の両方を含むカテゴリー。対象由来のサンプルを扱う者は、対象が誰か、またはサンプルがどこから入手されたかさえ知る必要はないように、この用語は公知および未知の個体の両方を含む。
【0064】
標的配列:「標的配列」とは、治療的に有効なオリゴヌクレオチドまたはオリゴヌクレオチド類似体とのハイブリダイゼーションによって発現の阻害が起こる、ssDNA、dsDNAまたはRNAの一部分である。例えば、治療的に有効なオリゴヌクレオチドとLMNA標的配列とのハイブリダイゼーションにより、ラミンAの発現が阻害される。アンチセンス分子またはセンス分子はいずれも、dsDNAの一部を標的とするために用いることができるが、これはどちらもdsDNAのその部分の発現を妨げると考えられるためである。アンチセンス分子はプラス鎖と結合可能であり、センス分子はマイナス鎖と結合しうる。このため、標的配列としてssDNA、dsDNA、およびRNAが可能である。
【0065】
形質転換された:形質転換細胞とは、分子生物学の技法によって核酸分子が内部に導入された細胞のことである。本明細書で用いる場合、形質転換という用語には、ウイルスベクターを用いたトランスフェクション、プラスミドベクターを用いた形質転換、ならびに電気穿孔、リポフェクションおよび微粒子銃法による裸のDNAの導入を含む、核酸分子をこのような細胞内に導入しうるすべての技法が含まれる。
【0066】
ベクター:宿主細胞に導入され、それによって形質転換宿主細胞を生じさせる核酸分子。ベクターは、自らの宿主細胞内での複製を可能にする複製起点などの核酸配列を含みうる。ベクターはまた、1つまたは複数の選択マーカー遺伝子および当技術分野で知られた他の遺伝因子も含みうる。
【0067】
別に説明する場合を除き、本明細書で用いるすべての技術用語および科学用語は、本開示が属する当業者が一般に理解しているものと同じ意味を有する。単数形の「1つの(a)」「1つの(an)」および「その(the)」は、その文脈で別の指示が明らかになされない限り、複数のものに関する言及も含む。同様に、「または(or)」という単語は、その文脈で別の指示が明らかになされない限り、「および(and)」も含む。このため、「AまたはBを含む」は、A、またはB、またはAおよびBを含むことを意味する。さらに、核酸およびポリペプチドに関して提示したすべての塩基サイズまたはアミノ酸サイズ、ならびにすべての分子量または分子質量の値は概略値であり、説明のために提示したものである。本発明の実施または検討のために本明細書に記載したものと同様または同等の方法および材料を用いることができるが、適した方法および材料は以下に説明するものである。本明細書で言及するすべての刊行物、特許出願、特許およびその他の参考文献は、その全体が参照として本明細書に組み入れられる。対立が生じた場合には、定義を含め、本明細書が支配的であるものとする。さらに、材料、方法および例は例示的なものに過ぎず、限定を意図したものではない。
【0068】
III. ハッチンソン-ギルフォード早老症候群
ハッチンソン-ギルフォード早老症候群(HGPS, OMIM #176670)は、800万件の生児出生のうち約1件に起こる、極めて稀な早老性症候群である(DeBusk, J Pediat. 80: 697-724, 1972)。この疾患は一般に「早老症」または「小児期早老症」とも呼ばれる。その臨床的特徴には顕著な再現性がある。典型的な罹患児は、出生時の外見は正常であるが、成長障害、歯牙萌出遅延、無毛症、および強皮症性皮膚変化といった独特な特徴が1年以内に出現しはじめる。患児は一般に知能は正常であり、極めて低身長で体重増加が乏しく、性成熟不全を示す。平均13歳で死に至り、患者の少なくとも90%は冠動脈および脳血管動脈の進行性アテローム性動脈硬化が原因で死亡する(Baker et al., Arch. Pathol. Lab. Med. 105: 384-386, 1981;Shozawa et al., Acta Pathol. Jpn. 34: 797-811 1984)。これは一般に早老症候群と呼ばれているが、正常老化過程の特徴のいくつか(白内障、アルツハイマー病および老眼)はHGPSの患者には認められない。
【0069】
ほぼすべての症例が散発的に出現するため、その遺伝パターンはこれまで知られていなかった。散発性優性変異が原因であることを支持するものとしては、父親の年齢の影響がわずかにみられること、同胞対の罹患がほとんどないこと(非常に大規模な同胞群であっても)に関する複数の報告、および近親婚と判明しているものの報告が乏しいことがある(Jones et al., J Pediatr. 86: 84-88, 1975;Brown, Mech. Aging. Dev, 9:325-336, 1979;およびBrown et al.,「早老症:早期老化の遺伝病モデル(Progeria: a genetic disease model of premature aging)」、「老化の遺伝的影響II(Genetic Effects on Aging II)」(ed. Harrison, D.E.)中、521-542, Telford Press, Inc., Caldwell, New Jersey, 1990)。近親婚と判明しているものの割合は一般集団における割合を上回らないと考えられている。劣性変異を支持するものとしては、同胞対の罹患に関するごく少数の報告があるが(Franklyn, Clin. Radiol. 27: 327-333, 1976;Trevas-Maciel, Am, J Med. Genet, 31:483-487, 1988;Khalifa, Clin. Genet, 35:125-132, 1989;Parkash et al., Am. J. Med. Genet. 36: 431-433, 1990)、このような症例は古典的な早老症ではなく、下顎骨肢端骨異形成などの関連疾患の場合であるという議論もある(Schrander-Stumpel et al., Am. J. Med. Genet. 43: 877-881, 1992)。
【0070】
IV. ラミンA
ラミンは中間径フィラメントファミリーのタンパク質のメンバーであり、内核膜の核質側にある線維層であって核膜の枠組みを付与するとともにクロマチンとの相互作用も行うと考えられている核ラミナの構成要素である。ラミンAおよびCは哺乳動物のラミナに概ね同量存在する。ラミンA/CはLMNAという同一遺伝子座の産物であり、同じ最初の転写物の選択的スプライシングによって生じる。ラミンAはエクソン1〜12からなり、一方、ラミンCはエクソン1〜10からなる。ラミンAでは、ラミンCの場合の終止コドンの上流にあるエクソン10内部のスプライス部位が、エクソン11とともにスプライシングを受ける。ラミンCの最後の6アミノ酸はラミンAには存在しない。
【0071】
図5に示したように、LMNAのエクソン1の一部はN末端の球状ドメインをコードし、エクソン1の残りの部分からエクソン7の一部までは中央のヘリカルドメインをコードし、エクソン7の残りからエクソン12まではラミンAのC末端をコードする。ラミンCは類似した構造を有するがC末端が短く、これはエクソン7〜10によってコードされる。ラミンAの長いC末端は、CaaXモチーフとして知られる末端テトラペプチド配列を備えている(ここでCはシステインであり、「a」は脂肪族側鎖を有する任意のアミノ酸であり、Xは任意のアミノ酸である)。このモチーフは疎水性イソプレン(ファルネシル)基の翻訳後付加が起こる部位であり、これによってその内核膜への組み入れが可能になる。膜に位置した後、CaaXモチーフおよびそれと連続した18残基はタンパク質分解による切断によって除去され、成熟型のラミンAが生じる。ラミンCの短いC末端はこれらの翻訳後修飾を受けず、内核膜へのその組み入れはラミンAとの会合に依存する。
【0072】
ラミナの構造的完全性は細胞周期によって厳密に制御されており、分裂前期および終期にはそれぞれ核膜の崩壊および形成が認められる。核膜の崩壊の前にはラミンのリン酸化が亢進し、これはおそらくラミン会合の調節に役割を果たしていると考えられる。
【0073】
V. ラミンA/Cと以前に関連づけられていた疾患
LMNAの欠陥は、筋力低下、拘縮および伝導障害を伴う心筋症を特徴とする常染色体劣性または優性の疾患である、エメリー-ドレフュス型筋ジストロフィー(EDMD;例えば、ヘテロ接合性R527Pと関連性がある)の原因である。また、LMNAの欠陥は拡張型心筋症1a(CMD1A;例えば、R644Cと関連性がある)の原因でもある。さらに、LMNAの欠陥は、四肢および体幹の皮下脂肪組織は顕著に減少するが頭頸部には過度の脂肪沈着がみられることを特徴とする常染色体優性疾患である、家族性部分的リポジストロフィー(Dunnigan型)(FPLD)の原因でもある。この疾患には高度のインスリン抵抗性、異脂肪血症および糖尿病が高い頻度で伴う。ごく最近、劣性疾患である下顎骨肢端骨異形成(例えば、ホモ接合性R527Hと関連性がある)の患者において、LMNAにおける特異的変異が同定された。
【0074】
VI. HGPS、動脈硬化および老化におけるラミンAの関与
驚いたことに、HGPSの原因となる点変異がLMNA遺伝子中に同定された。その遺伝は新規の突然変異-常染色体優性であり、同定された変異はコドン608に存在する;最も頻度の高いものはCpGジヌクレオチドにおけるCからTへの塩基置換である。現在、変異の機序はLMNA遺伝子の内部にある潜在スプライス部位の活性化であって、これがエクソン11の一部の欠失および正常タンパク質よりも50アミノ酸短いラミンAタンパク質産物の生成を招くと考えられている。同定された変異はすべて、ラミンAには影響を及ぼすがラミンCには影響しないと予想されている。さらに、染色体1qの分節性UPDを有する古典的HGPSの2例が同定されたが、線維芽細胞DNAからは変異が認められず、このことは(インビボまたはインビトロでの)体細胞レスキュー事象を示している可能性がある。
【0075】
本明細書に記載した結果は、早老性疾患の範囲を超えて、老化プロセスならびに関連性のある状態および疾患に一般化することができる。これはHGPSが多くの点で正常な老化プロセスと密接に関係しているためである。HGPSは有用な老化モデルとしてますます認識されるようになっている(Fossel, 「ヒトの老化および早老症(Human aging and progeria)」、J Pediatr Endocrinol Metab. 13 Suppl 6: 1477-1481, 2000)。例えば、アテローム性動脈硬化との関連性は非常に強く、冠動脈のものは特にそうである。また、HGPSにおける無毛症は高齢者にみられるものと類似している。さらに、Hayflickらによって何年も前に記載されているように(Hayflick, 「ヒトの老化の細胞生物学(The Cell biology of human aging)」、N Engl J Med 295: 1302-1308, 1976)、HGPSの細胞上の最大の特徴は早期の細胞老化状態である。HGPSの線維芽細胞において細胞分裂の数が限定的であることは、高齢者から得た線維芽細胞でみられるものと類似している。この点は最近、HGPS線維芽細胞と高齢者由来の線維芽細胞との間に遺伝子発現パターンの類似性があり、それらがより若年齢の者に由来する線維芽細胞とは異なることを示した研究によってさらに検討が進められた(Ly et al., 「有糸分裂調節異常とヒトの老化(Mitotic misregulation and human aging)」、Science 287: 2486-2492, 2000)。
【0076】
同定された具体的な変異
同定された中で頻度の高い方の変化(本明細書では変異1と呼ぶ)は、GI 292250(アクセッション番号L12401)におけるヌクレオチド4277位にあり、これはアクセッション番号P02545におけるアミノ酸608に対応する;この変異はアミノ酸を変化させるのではなく、潜在スプライス部位を生じさせ、ラミンAの選択的スプライシングバリアントをもたらすと予想されている。変異2の場合には、GI 292250におけるヌクレオチド4275位に変化があり、これはアミノ酸608に対応する;この変異はラミンAにおけるグリシンをセリンに変化させ、変異1と同じ潜在スプライス部位を生じさせると予想されている。この理由で、変異1および変異2は同一の変異型ラミンAタンパク質を生じさせる。この2つの変異はいずれもアミノ酸608をコードする同一のコドンに存在する。
【0077】
LMNAの配列における稀なバリアントがHGPSの原因になるという発見はさらなる態様であるさまざまな診断法、予後評価法および治療法も可能する。HGPS、ならびにより一般的には加齢性疾患および動脈硬化/アテローム性動脈硬化における、ラミンAの役割の新たな認識により、対象におけるこれらの状態に対する素因の発見が可能になる。本開示はまた、これらの状態のリスクが高い対象の早期発見を可能にし、予防および/または早期治療の機会も与える。
【0078】
変異1および2は野生型ラミンAよりも50アミノ酸短いタンパク質を生じさせると予想されるため、HGPSを同定するための簡便な診断方法は、ウエスタンブロット法を行って異常な(短い)バンドを検索することである。
【0079】
さらに、エクソン11の後半の欠失(変異1および2によって起こると予想される)は、ラミンAのプロセシングのために通常必要な切断部位も取り除く。ラミンAのC末端にあるCaaXボックス(これは変異型にもやはり存在する)はこのタンパク質の膜内への係留を可能にするが、この係留機構は通常、プロセシング切断によって取り除かれる。本明細書に記載したラミンA変異体タンパク質は切断されないと予想され、このためこの膜位置に捕捉されると考えられる。ラミンAは大きな多タンパク質複合体の一部であるため、その局在性の異常は他の随伴タンパク質を同じ不適切な位置におそらく引き寄せると思われる。これは核の構造異常を招く可能性があり、それはHGPSの診断指標になりうると考えられる上、光学顕微鏡検査、免疫組織化学法、免疫蛍光法、共焦点顕微鏡検査または電子顕微鏡検査によって観察しうると考えられる。
【0080】
単一の機序に限定することは意味しないが、HGPSの原因となるLMNA中の変異は常に優性であると現在考えられている。
【0081】
本明細書に記載した例を含む、HGPS患者の一部に認められる片親性イソダイソミーは、注目に値する、より正確に言えば前例のない機序によるものであったと今日では考えられている。例えば、個体C8803は受胎の時点で、本明細書に記載した頻度の高いG608G変異を有していたと考えられる。しかし、HGPSの対象由来の皮膚線維芽細胞に対する数十年にわたる研究によって示されているように、本疾患の個体からの細胞は正常なものよりも増殖性が弱い。本発明者らは、患者におけるインビボまたは細胞培養物におけるインビトロのいずれかにおいて稀な有糸分裂乗り換え事象が起こり、そのために、G608G変異を含む第1染色体の長腕を失い、その代わりに第1染色体の正常腕を重複して持つようになった細胞が生じたとの仮説を立てた。この稀な事象はHGPSの細胞を本質的には「治癒」させ、このような細胞はその後、近傍のものよりも良好に増殖するようになったと考えられる。最終的に、検討した細胞培養物中には元の変異細胞は残存せず、レスキューされた細胞のみが残ったと考えられる。これにより、なぜ表2においてUPDの2例の患者および欠失を有する1例(これも「体細胞レスキュー」事象であった可能性がある)のみが変異を示さなかったかが説明される。この説明に基づくと、有糸分裂乗り換えを促進させる因子は、もし十分に早期に与えられれば、HGPSの治療に有益な可能性がある。本質的には、このような薬剤は個々の細胞に対して自己治癒をもたらすと考えられる。
【0082】
以下の実施例は、いくつかの特定の特徴および/または態様を例示するために提供される。これらの実施例は、本発明を、記載した特定の特徴または態様に限定するものとみなされるべきではない。
【0083】
実施例
実施例1:HGPSと関係づけられるものとしてのLMNAの同定
本実施例は、ハッチンソン-ギルフォード早老症候群(HGPS, OMIM #176670)と関連性があってその原因となる、LMNAにおける稀な配列バリアントに関する証拠を、本疾患の患者の分子遺伝学的分析に基づいて提供する。
【0084】
HGPSは極めて稀な早老性症候群である。平均16歳で死に至り、これは通常心血管疾患のためである。HGPSの遺伝パターンは知られていない。同胞対の罹患および父親の年齢のわずかな影響に関する報告がごく少数存在し、さらに近親婚と判明している症例はごく少数に過ぎないことから、散発性で優性の機序を支持する人々もある。しかし、同胞4人が罹患した近親婚家庭の報告が以前にあることは常染色体劣性遺伝を支持するものである。
【0085】
本実施例は、ラミンAにおけるデノボ変異が本疾患の原因であることを示す。まずHGPS遺伝子が染色体1qにあることを、1qの片親性イソダイソミーの2症例、およびすべての父性対立遺伝子に6メガベース(6Mb)の中間部欠失がある1症例を観察することによって特定した。ラミンA(LMNA)の位置はこの区間に同定され、特に、関連している可能性のある他の多くの遺伝性疾患にも役割を果たしていると考えられることから、これは興味深い候補遺伝子として浮上した。古典的HGPSの20症例におけるLMNAのシークエンシングにより、それらのうち18例は全く同じ単一の塩基置換G608G(GGC>GGT)を、この遺伝子のエクソン11の内部に有することが判明した。この変異は患児の両親には認められず、このことは各々の症例においてそれが新規に生じたことを示している。同じコドン内に異なる置換[G608S(GGC>AGC)]を有する別の1症例も同定された。これらの変異はいずれも、エクソン11内部の潜在スプライス部位の不活性化を引き起こし、C末端付近の50アミノ酸が欠失した転写物の生成をもたらすことが示された。ウエスタンブロット法によって異常なタンパク質産物が確かめられ、ラミンAを標的とする抗体を用いたHGPS線維芽細胞の免疫蛍光法により、多くの細胞が核膜の外見上の異常を示すことが判明した。考えられる単一の説明に限定されることは意図しないが、異常ラミンAタンパク質はドミナントネガティブ性に作用し、核膜不安定性(これは機械的剪断作用を受ける組織において特に重要と思われる)をもたらすと現在考えられている。この早老モデルの分子的基盤の発見は、ヒトの老化という一般的な現象の解明に役立つと考えられる。
【0086】
方法および材料
被験者およびDNA/RNAの調製
本研究は、NIHのヒト被験者(Human Subject)に関する審査のプロセスを経て承認された。古典的HGPSと診断された個体および彼らの一親等血縁者(入手可能な場合)からの初代真皮線維芽細胞培養物およびEBVをトランスフェクトしたリンパ芽球細胞株は、Aging Repository of the Coriell Cell Repository(CCR), Camden, NJおよびProgeria Research FoundationのCell and Tissue Bank, Peabody, MAから入手した。DNAはPuregene DNA単離キット(Gentra Systems, Minneapolis, MN)を用いて調製した。ホモ接合性に関するゲノムスキャンには、12例の古典的HGPS患者から得たサンプル(サンプルAG01972、AG03259、AG03344、AG03506、AG06297、AG06917、AG10578、AG10579、AG10587、A010801、AG11498およびAG11513)および16例の罹患していない一親等血縁者から得たサンプル(サンプルAG03258、AG03260、AG03262、AG03263、AG03343、AG03342、AG03345、AG03346、AG03504、AG03505、AG03507、AG03508、AG06298、AG06299、AG10585、AG10588)を含めた。本研究に用いたそのほかのサンプルは、古典的HGPS由来のサンプル(サンプルAG10677、HGADFN001、HGADFN003、HGALBV009、HGALBV011、HGALBV057、HGADFN005、HGADFN008、HGADFN014、HGALBV071、C8803[CCRにおけるAG10548としても知られる])および彼らの罹患していない一親等血縁者由来のサンプル(サンプルHGMLBV010、HGFLBV021、HGMLBV023、HGFLBV031、HGMLBV066、HGFLBV067、HGMLBV013、HGFLBV050、HGMLBV058、HGSLBV059、HGMLBV078、HGFLBV079、HGFLBV082およびHGMLBV081)とした。TRIzol試薬(Invitrogen)を用いて全RNAを細胞から抽出した。
【0087】
遺伝子型判定
全ゲノムスキャンには、平均間隔が9.2cMで平均ヘテロ接合性が〜0.8である403個の高度多型性マイクロサテライトマーカーを含めた(Gillanders et al. 原稿準備中)。家系図の検査はPedCheck(O'Connell & Weeks, Am J Hum Genet 63: 259-266, 1998)を用いて行い、遺伝子型の誤りが同定された場合はそれを除外した。本発明者らは、HGPS症例に対して種々の程度の近親婚を仮定してホモ接合性マッピングを行った(Smith, J. R. Stat. Soc. B 15: 153-184, 1953)。Sputnikプログラム(Abajian, 1994;プログラムはUniversity of WashingtonのDepartment of Molecular Biotechnologyからオンラインで利用可能)を用いて染色体1q上のそのほかのマイクロサテライト反復配列を同定し(表1)、これらをUPD症例、およびC8803における父性欠失領域のさらなる検討に用いた。マイクロサテライトマーカーは3100 genetic analyzer(PE Biosystems)を用いて分析した。遺伝子型はGeneScan 3.7およびGenotyper 2.5ソフトウエア(PE Biosystems)を用いて分析した。
【0088】
(表1)染色体1q21.3〜23.1のマイクロサテライトマーカー

【0089】
FISH
サンプルC8803由来の分裂中期のものに対する単色FISH法および二色FISH法を、以前に発表された手順(Casper et al., Cell 111: 779-789, 2002)に従って、父性欠失領域内のBACのサブセットを用いて行った。FISH分析のためのプローブとして用いたBACは、RP1-140J1、RP1-148L21、RP1-178F15、RP11-137P24、RP11-66D17、RP11-110J1、RP11-91G5、RP11-120D12、RP11-101J8、RP11-81N17、RP11-144L1、RP11-317F9、RP11-452O22およびRP11-137M19であった。
【0090】
LMNAの変異分析
LMNAの直接シークエンシングを、LMNAのエクソン1〜12に対する以前に記載されたプライマー配列を主に用いて行った(De Sandre-Giovannoli et al., Am. J. Hum. Genet. 70: 726-736, 2002)。LMNAに対する別のプライマーを以下の3つのエクソンに対して設計した。

シークエンシングのために用いたプライマーはすべて、M13順方向タグおよび逆方向タグを用いて合成した。PCR産物は、BioRobot 8000自動核酸精製・液体処理ロボット(Qiagen)を用いて、QiaQuick PCR精製キットにより精製した。シークエンシング反応は4分の1強度の反応液でBig Dye Terminator化学反応キット(Applied Biosystems)を用いて行い、ABI 3700 DNA Analyzer(Applied Biosystems)で電気泳動を行った。多配列アラインメントはSequencher(Genecodes Inc., Ann Arbor, MI)を用いて行った。すべてのPCR産物の両方向でのシークエンシングを行おうと試みたが、エクソンの約13%では読み取り可能な配列が得られなかった。
【0091】
エクソン11に対するRT-PCR
すべてのRNA試料に関して、20μgの全RNAを、RQ1 RNase-Free DNaseにより、製造元の推奨(Promega, USA)に従って処理した。DNaseで処理した全RNAの800ngを、ランダムヘキサマー(Superscript(商標), Invitrogen)を用いる第一鎖cDNA合成のために用いた。各試料に対して、逆転写酵素を含まない対照試料を同時に処理した。エクソン7/8およびエクソン12におけるラミンA/C遺伝子に対するPCRプライマーを設計した。プライマー配列は

とした。PCR断片のゲル精製またはクローニング(TOPO TAクローニングキット、Invitrogen)を行った上でシークエンシングを行った。GAPDH特異的プライマーを用いるPCRを、すべての試料に対して対照として行った。
【0092】
ウエスタン分析
全細胞(1×10個)を収集し、PBSで2回洗浄した。ペレットを、プロテイナーゼインヒビター混合物(Roche)を含むRIPAバッファー(50mM Hepes pH 7、0.1%SDS、1%Triton X-100、1mM EDTA、1%デオキシコール酸および150mM NaCl)中に再懸濁した。タンパク質濃度をBCAタンパク質アッセイキット(Pierce, Perbio, Rockford, USA)を用いてアッセイし、分光光度計により分析した。タンパク質20μgをSDSタンパク質ローディングバッファーと混合し、2分間煮沸して氷上に置いた後に、8%Tris-Glycineミニゲル(Invitrogen)による電気泳動を行った。ブロットをニトロセルロースに移行させて、ラミンA/Cに対する一次モノクローナル抗体(JOL2, Chemicon International, USA)とともに4℃で12時間インキュベートした。TBSTによる室温での洗浄の後に、FITCを結合させた二次抗体(Jackson ImmunoResearch laboratories, USA)を添加し、室温で45分間インキュベートした。フィルターの露光はECL+ウエスタンブロット検出システム(Amersham Biosciences)を用いて行った。
【0093】
免疫蛍光法
線維芽細胞を、24ウェル培養皿内のカバースリップ上で、5%CO2の存在下にて37℃で培養した。集密度50〜70%となった細胞を固定し(3.2%PFA)、透過化処理(1%NP40)を行った上でブロックした(0.1%Brij58、および二次抗体の起源に対応する5%ヤギ血清またはロバ血清)。ラミンA/C(モノクローナル抗体JOL2、Chemicon International, USA、およびクローンXB10、CRP Inc, USA)およびミトコンドリア(HMS-0100, Immunovision Inc., Springdale, AL, USA)を免疫蛍光法のために染色した。核DNAの染色のために、4,6-ジアミジン-2-フェニルインドール二塩酸(DAPI)1μg/mlを二次抗体とのインキュベーション中に添加した。分析はBiorad 1024およびLeica SP2システムを用いる共焦点顕微鏡法によって行い、CoolLocalizer画像化ソフトウエア(Cytolight, Stockholm, Sweden)を用いて緑色(ラミンA/C)、赤色(ミトコンドリア)および青色(DAPI)の帯域として描出した。
【0094】
細胞周期およびアポトーシス
免疫蛍光実験の1日後に、細胞を収集してPBSにより洗浄した。各々の細胞培養物に対して2回ずつ実験を行った。合計5×10個の細胞をNuCyclヨウ化プロピジウム(NuCycl(商標)PIキット、Exalpha Corp., Boston, MA)0.5ml中に再懸濁し、製造元による推奨の通りに処理した。総DNA含量をDNAフローサイトメトリーにより測定した。細胞の生存度も、標準化された手順(BD Biosciences)に従ってAnnexin V-FITCおよびヨウ化プロピジウムを用いてアッセイした。
【0095】
結果
HGPS遺伝子の染色体1qへの初期マッピング
ホモ接合性の証拠を求めて、稀な劣性疾患の遺伝子座を同定するための強力な手段であるゲノム全域にわたるスキャン検索を行った(Smith, J. R. Stat. Soc. B 15: 153-184, 1953;Lander & Botstein, Science 236: 1567-1570, 1987)。稀な劣性疾患では多くの症例が特定の変異に関してホモ接合性であると想定すると、その遺伝子の領域内にある密接に連鎖したマーカーのホモ接合性に関する統計的な証拠を調べることが考えられる。平均間隔が9.2cMである403個の多型マイクロサテライトマーカーを含めた全ゲノムスキャンを、古典的HGPSであると判断された個体からの12件のDNA試料に対して行った。試料セット全体を通じてホモ接合性に関する証拠は得られなかったが、2件のHGPS試料は染色体1qに片親性イソダイソミー(UPD)を有することが判明した(図1A)。これらの症例のうち1例に関しては、母親および兄弟からのDNA試料を得ることができた。この症例では、イソダイソミー性セグメントが母親由来であること、および第1染色体の短腕に二親性遺伝が存在することを明らかにすることができた。2例のUPD症例のうち1例のスペクトル核型判定(SKY)およびGバンド法では正常な核型が示された。
【0096】
以前のある報告(Brown, Am. J. Clin. Nutr, 55:1222S-1224S, 1992)は、HGPSの一卵性双生児における異常核型を記載している。この報告は、細胞の70%が均衡型逆位挿入[46XY, inv ins(1;1) (q32;q44q23)]を含み、残りの細胞は外見上正常な核型を有するというモザイク性細胞集団を記載している。同じ個体(サンプルID C8803)ならびに彼の両親から線維芽細胞培養物を入手した。核型判定によって最初の結果が裏づけられたが、この場合には分裂中期の細胞のうち第1染色体の再構成を示したのはごくわずかな割合に過ぎなかった(図1B)。驚いたことに、マイクロサテライトマーカーの遺伝子型判定により、父性マーカーのすべてが完全に欠失している概ね6メガベースの区間が同定された(図1C)。この区間全体をマッピングするBACを用いる蛍光インサイチューハイブリダイゼーション(FISH)を用いたところ、この欠失は外見上正常な核型を有していた細胞にも存在することが判明した(図1D)。このすべての情報と合計44個の別のマイクロサテライトマーカーからの遺伝子型とを総合して、HGPS遺伝子は近位染色体1q上の4.82Mbの区間に存在するに違いないと決定された(図1E)。
【0097】
HGPS遺伝子の同定
候補区間は概ね80個の既知の遺伝子を含む。注目を集めたのは、その1つであり、内核膜ラミナの主な構成要素である2種類のタンパク質産物(ラミンAおよびラミンC)をコードするLMNA遺伝子であった。LMNAにおける変異は、エメリー-ドレフュス型筋ジストロフィー2型、拡張型心筋症の一型、ダニガン型家族性部分的リポジストロフィー、肢帯筋ジストロフィー1B型、シャルコー-マリー-トゥース病2B1型および下顎骨肢端骨異形成から構成される、6種類の劣性疾患および優性疾患の原因であることが以前に判明していた(ラミン病(laminopathy)の総説に関しては、Burke & Stewart, Nature Rev. 3: 575-585,2002を参照されたい)。
【0098】
LMNA遺伝子は12個のエクソンを含み、ゲノムDNAの〜25kbをカバーする。ラミンAはエクソン1〜12によってコードされ、ラミンCはエクソン1〜10によってコードされる(図5)。ラミンCの終止コドンのすぐ上流に位置するエクソン10内のスプライス部位は、エクソン11および12を伴うスプライシングを行うことでラミンAをコードする(McKeon et al., Nature 319: 463-468, 1986;Fisher et al., Proc. Nat. Acad. Sci. 83: 6450-6454, 1986;Lin & Worman, J. Biol. Chem. 268: 16321-16326, 1993)。
【0099】
LMNA遺伝子の全エクソンのPCR増幅(エクソン-イントロン境界を含む)およびそれに続く直接シークエンシングを、古典的HGPSの患者からの23件の試料において行った。これらの試料のうち18件では、LMNA遺伝子のエクソン11内部にヘテロ接合性塩基置換[G608G(GGC>GGT)]が同定された(図2A)。HGPSサンプルAG10801では同じコドン内に異なるヘテロ接合性塩基置換が同定された[G608S(GGC>AGC)](図2A)。HGPSサンプルAG10677では、エクソン2内にヘテロ接合性塩基置換が同定された[E145K(GAG>AAG)]。
【0100】
両親からのDNAが入手可能であった8症例において、G608G変異は両親には存在せず、このことからこれらがデノボ変異であることが裏づけられた。同様に、G608S変異およびE145K変異は、それぞれAG10801両親にもAG10677の両親にも認められなかった。結局、検討した23例の古典的HGPS症例のうち、LMNA変異が全く認められなかったのは3例のみであった(表2):すなわち、2例のUPD症例(AG10578およびHGADFN005)および6Mbの父性欠失がみられたサンプル(C8803)であった。
【0101】
(表2)

NA、得られず;seq、ヌクレオチド配列;*、コドン145では正常。多型と推定されるそのほかの配列バリアントが以下において同定された:エクソン3[L240L(CTG>CTA)]、イントロン4(IVS4+61C>T)、エクソン5[A287A(GCT>GCC)]、エクソン7[D446D(GAT>GAC)]、イントロン8(IVS8-41C>T)およびエクソン10[H566H(CAC>CAT)]。エクソン5、7および10におけるバリアントは以前に報告されている(Genschel & Schmidt, Hum. Mutat. 16: 451-459, 2000;Speckman et al., Am. J. Hum. Genet. 66: 1192-1198, 2000;Speckman et al.,(errata)Am. J. Hum. Genet. 67: 775, 2000)。
【0102】
疾患の原因となる機序
最も頻度の高い変異G608G(GGC>GGT)はサイレント置換である。同じコドンにおける2番目の変異G608S(GGC>AGC)は、グリシンからセリンへの保存的置換をもたらす。穏やかに思われるこれらのデノボ変異がいかにしてHGPSを引き起こすことができるのであろうか。コドン608の周辺の正常配列の検査により、観察されたHGPS変異はどちらもコンセンサススプライスドナーに対するマッチングを向上させることが判明し(図2B)、このことからそれらが潜在スプライス部位を活性化する可能性が示唆された。
【0103】
このことを確かめるために、エクソン7および8の接合部にまたがる順方向プライマー、ならびにエクソン12内部の逆方向プライマーを用いてRT-PCRを行った。罹患していない個体からのRNAには、予想される産物が出現する(図2C)。HGPS変異を有する細胞株からのRNA試料には、別のより小さなRT-PCR産物が出現する。これらの断片の配列から、エクソン11内部の150ヌクレオチドが欠失していることが示されている。リーディングフレームは保たれているため、この異常転写物は、ラミンAのC末端付近に50アミノ酸の内部欠失を有するタンパク質をコードすると予想される。ラミンCは影響を受けないと考えられる。
【0104】
頻度の高い方のコドン608変異を含む初代線維芽細胞から抽出したRNAに対するRT-PCRによって得られた正常な全長断片のクローニングおよびシークエンシングにより、23個のクローンのうち7個が変異型配列を有することが判明した。このため、エクソン11内部の潜在スプライス部位の活性化は完全ではない。
【0105】
変異型mRNAが実際にタンパク質へと翻訳されるか否かを明らかにするために、ラミンA/Cに対するモノクローナル抗体を用いてウエスタンブロット法を行った(図3)。古典的HGPS症例からの試料に対応するレーンのうち4つには、ラミンAおよびラミンCの正常バンドに加えて別のバンドが存在するが、彼らの両親のものには存在しない。HGPS患者AG11498[G608G(GGC>GGT)を有する]からのタンパク質試料を含むレーンには異常バンドは認められないが、これはこの線維芽細胞培養物で発現されるラミンAが極めて少量なことによる可能性が高い。
【0106】
ラミンA/Cに対する2種類のモノクローナル抗体を用いた免疫蛍光試験(図4)を、罹患していない両親2例(AG06299およびAG06298)、および、頻度の高い変異(表2)が同定されている古典的HGPS症例2例(AG11498およびAG06917)からの初代線維芽細胞に対して行った。古典的HGPSのサンプルからの細胞のうち48%では、核膜の不規則形状が認められた(図4e〜4h)。罹患していない対照からの細胞(図4a〜4d)ではこの表現型を示す細胞が有意に少なかった(<6%)。
【0107】
この結果がHGPSおよび対照の線維芽細胞培養物の状態の二次的な違いによるアーチファクトでないことを確かめるために、免疫蛍光試験のために用いた細胞と同じフラスコから得た細胞を、細胞周期(蛍光活性化細胞分析による)およびアポトーシスの程度(ヨウ化プロピジウムおよびアネキシンによる)の違いに関してモニタリングした。古典的HGPS患者に由来する細胞と罹患していない両親に由来する細胞との間に有意差は認められなかった。
【0108】
考察
本明細書に報告した結果に基づき、HGPSを今回、LMNA遺伝子の変異に起因することが示された非常に多くのヒト遺伝病のリストに加えることができる。このリストは優性疾患および劣性疾患の両方を含む。遺伝子型-表現型相関に関して入手可能なデータの総説(Genschel & Schmidt, Hum. Mutat. 16: 451-459, 2000)からは、LMNAの機能が完全に喪失したヒト表現型がエメリー-ドレフュス型筋ジストロフィーであり、それ以外の表現型はラミンAおよびラミンCタンパク質の種々のドメインにおけるミスセンス変化によって生じることが示唆されている。HGPS変異は大きく2つの点で通常とは異なる:1)これはコード領域の大きな内部欠失を伴う;2)これはもっぱらラミンAに対して影響を及ぼす。
【0109】
古典的HGPSの20症例のうち18例において全く同一な点変異のデノボ再現(recurrence)がみられたことは驚くべき所見であるが、このような前例がないわけではない。頻度の高いHGPS変異はCpGジヌクレオチド環境におけるCからTへのものであり、メチル化されたCは容易に脱アミノ化されてTとなり、誤複写が起こることから、これは脊椎動物ゲノムにおいて最も変異しやすい塩基であることがよく知られている。極めて類似した現象が軟骨無形成症で起こっており(Shiang et al., Cell 78: 335-342, 1994;Rousseau et al., Nature 371: 252-254, 1994)、この場合にはほぼすべての散発性症例が、明らかな機能獲得型変異(G380R)を引き起こす、FGFR3遺伝子におけるCpGからTpGへの変異に起因する。
【0110】
本明細書に提示したデータは、LMNAのコドン608におけるHGPS変異が異常スプライシングを招き、C末端付近の50アミノ酸を欠失したタンパク質産物をもたらすことを示している。ラミンAの生化学的機能に関する過去の広範囲の研究から、疾患の原因となる機序に関して示唆が得られる。ラミンAは通常、前駆体分子(プレラミンA)として合成される。そのC末端にはファルネシル化を受けるCAAX-ボックスモチーフがある。その後に内部タンパク質分解による切断が起こり、コードされる18個のアミノ酸が除去されて(Lutz et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 89: 3000-3004, 1992;Sinensky et al., J. Cell Sci. 107: 61-67, 1994;Hennekes & Nigg, J. Cell Sci 107: 1019-1029, 1994)、成熟型ラミンAが生成される。HGPS変異およびその結果としての異常スプライシングは、CAAXボックスを依然として保持し、内部タンパク質分解による切断のための部位を欠失したプレラミンAを生じさせることが予想される。
【0111】
また、ラミンAの細胞周期依存的なリン酸化がその正常な機能のためには重要であり、異常HGPSタンパク質ではリン酸化のための部位が少なくとも1つ(Ser625)欠失しているという証拠もある(Eggert et al., Eur. J. Biochem. 213: 659-671, 1993)。ラミンAは内核膜内に多タンパク質複合体を形成するため、完全でないプロセシングを受けたこのプレラミンAはドミナントネガティブ性に作用する可能性がある。実際、免疫蛍光画像(図4)では、HGPS変異が核膜安定性に及ぼす重大な結果が示されている。細胞分裂を繰り返した後に、異常型のプレラミンAを発現する細胞は最終的には生存不能になり、アポトーシスを起こすと考えられる。これは心血管および筋骨格系のように機械的剪断力に曝される細胞では特に顕著であると思われる。HGPS表現型の出現の遅れ(これは一般に生後1年前後になってはじめて現れる)は、初期胚発生中および分化度の低い細胞では一般に発現されないという、ラミンA/Cの発現の発生上の時期に起因すると思われる(Rober et al., Dev. 105: 365-378, 1989)。
【0112】
興味深いことに、プレラミンAのプロセシングの欠陥がZmpste24メタロプロテイナーゼのノックアウトマウスで最近同定された(Pendas et al., Nature Genet, 31:94-99, 2002;Bergo et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 99: 13049-13054, 2002)。Zmpste24はプレラミンAのタンパク質分解性プロセシングに関与すると考えられており、実際にはエンドプロテアーゼであると思われる。Zmpste24のホモ接合型ノックアウト体は、成長遅滞、心機能異常による早期死亡(20週)および無毛症を含め、HGPS患者で観察される臨床的特徴に類似した表現型を呈する。しかし、顕著な骨粗鬆症といった別の特徴も存在する(Bergo et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 99: 13049-13054, 2002)。これらの動物由来の細胞に対する免疫蛍光実験では、HGPS患者由来の細胞で観察されたものと高度の類似性が認められている(図4)。Lmna遺伝子のノックアウトマウスも以前報告されている(Sullivan et al., J. Cell Biol. 147: 913-920, 1999)。高度の出生後成長遅滞および筋ジストロフィーが観察され、核の免疫蛍光法では核の脱出を伴う伸長した不規則な細胞が示されている。
【0113】
HGPSの主な原因はエクソン11における異常スプライスドナーの生成であると思われるが、1例の患者(AG10677)におけるエクソン2のデノボ点変異は興味深い。過去に遡ると、この患者(Smith et al., Am. J. Neuroradiol, 14:441-443, 1993)は、古典的HGPSとは表現型が微妙に異なる、ある程度非定型的な臨床的特徴(頭部に硬い毛が存続し、四肢の皮下組織が多く、4歳から高度の脳卒中が始まったことを含む)を有していた。
【0114】
23例の古典的HGPSサンプルのうち3例ではLMNA変異は同定されなかった(表2)。これらはまさにHGPS遺伝子の染色体1qへのマッピングに役立ったサンプルである。このうち2例のUPD症例は、LMNA遺伝子配列がこの2例において正常であるならば、彼らはなぜHGPSとなったのか、という興味深いジレンマを示している。インプリンティングの可能性を考慮する必要はある。しかし、第1染色体の父性および母性の完全イソダイソミーの過去の症例はいずれも、この染色体上にインプリンティングされた遺伝子座が存在することは支持しない(Pulkkinen et al., Am. J. Hum. Genet. 61: 611-619, 1997;Gelb et al., Am. J. Hum. Genet. 62: 848-854, 1998)。DNA試料を母親および同胞から入手できた症例において(図1A)、本発明者らは、この現象により、部分的に父性対立遺伝子で部分的に母性対立遺伝子を有する染色体が生じたものと結論づけた。これはある種の受精後の事象によって生じたはずであり、これはホモログ間の有糸分裂乗り換えによる可能性が最も高い。このような事象は正常発生でも稀に起こる可能性があるが、通常はクローン性増殖には至らないと考えられる。
【0115】
現在、これらの症例は実際にはHGPSの早老性表現型の「体細胞レスキュー」事象を表すものと仮定されている。この仮説によれば、これらの線維芽細胞の由来となった個体は当初は、LMNA中に典型的なコドン608のHGPS変異を有していた。おそらくはインビボ事象として、またはおそらくは線維芽細胞培養物におけるインビトロ事象として有糸分裂乗り換えが起こり、LMNAの野生型対立遺伝子が重複していてHGPS変異は消失している分節性UPDを有する細胞が生じた。すると、このような細胞は近傍のものよりも増殖上有利になると考えられる。これは2例のUPD症例ではごく初期には起こらなかったか、彼らは臨床的に罹患しなかったと考えられる。この仮説の証明には、死亡したUPD患者からの多数の組織を得ることが必要と考えられるが、これは残念ながら得られなかった。
【0116】
6Mbの欠失を有していた患者でもLMNA遺伝子における変異は同定されなかった(図1C)。これも体細胞レスキュー事象によるものと考えられている。具体的には、この患者は当初コドン608のLMNA変異に関してヘテロ接合性であったが、この場合には「レスキュー」は変異型対立遺伝子を含む6Mbの内部欠失を伴い、それとともに第1染色体のより複雑なモザイク性再構成が生じたと仮定されている。この患者(および彼の一卵性双生児)が、出生時から拘縮が存在するという特に重篤な疾患を示したことは特に興味深く、これは「レスキューされた」組織においてLMNAの一方の対立遺伝子が完全に失われた結果である可能性がある。
【0117】
最近、Delgado-Luengoらは、染色体1q23に明らかな中間部欠失が認められる古典的HGPSの1症例を報告した(Am. J. Med. Genet. 113: 298-301, 2002)。細胞およびDNAをこの患者から入手したが、驚いたことにこれには典型的なヘテロ接合性G608G変異が存在する。さらに、高分解能染色体バンド化によっても1q23〜1q24領域にまたがるBACを用いるFISHによっても中間部欠失の存在を確かめることは不可能であった。これは、当初の報告で分析された細胞のクローンには中間部欠失があるが同じ患者からの他の試料には存在しないという、体細胞レスキューのもう1つの例と思われる。
【0118】
HGPSの変異上の基盤の発見の臨床的な意義は2つある。第1に、ほどんどのHGPS症例は同一のコドンにデノボ変異を有するように思われるため、分子診断を直ちに実現可能である。これは、若齢小児において臨床的表現型が完全に出現する前に診断を下すのに特に有用であると考えられる。分子診断法は出生前段階でも助けになると思われ、親の体細胞モザイクおよび今後の妊娠における疾患の再発の可能性を取り扱うことが今や可能である。第2に、分子的機序の描写により、可能性のある治療アプローチがもたらされる。例えば、ファルネシル化阻害薬(スタチン系薬剤またはファルネシルトランスフェラーゼ阻害薬)は変異型プレラミンAの量を減少させる可能性がある。核膜異常を是正する低分子を同定するためのハイスループットスクリーニングを考えることも今や可能である。
【0119】
さらに、HGPSの分子的基盤の発見により、正常な老化プロセスの諸様相におけるLMNAの役割も示唆される。並外れた長寿命との関連性を示す可能性のあるこの遺伝子における頻度の高いバリアントを探索すること、および生涯にわたって蓄積したLMNA中の体細胞変異が老化状態に何らかの役割を果たしているか否かを調べることは重要であると考えられる。
【0120】
実施例2:その他のLMNA多型および/または変異
LMNA遺伝子バリアントとHGPSとの間に相関があるという本明細書の規定をもって、早老性症候群を招くバリアントを含むそのほかのLMNAバリアント単離および同定が可能となり、それを行う動機付けが得られる。このようなそのほかの多型を同定するためには、集団内の遺伝子多型の同定のための任意の従来の方法を用いうる。
【0121】
例えば、LMNAのさまざまなバリアントを分離するために動物における選択交配試験を行う。または、既存の集団(例えば、マウスまたはヒトの集団)を早老症および/または加齢性もしくは早老性の疾患に関して評価し、集団内の個体(特に早老症または他の早老性疾患を有するもの)のLMNA配列に関する遺伝子判定を行う。続いて、1つまたは複数のバリアント性ヌクレオチド位置の存在を明らかにするために、これらのLMNA配列を参照LMNA配列(本明細書に示した正常対立遺伝子など)と比較する。ひとたびバリアント性ヌクレオチドが同定されれば、母集団の統計分析を用いて、これらのバリアントが早老症および/または別の老化関連疾患、例えば動脈硬化およびアテローム性動脈硬化と相関するか否かを判定する。
【0122】
または、正常老化に対して影響を及ぼす(しかし、早老性疾患を引き起こすほど重大なものではない)LMNAのバリアントは比較的高頻度であると考えられる。この種のバリアントを検討する目的で、LMNA(上流、下流、エクソン、イントロン)におけるできるだけ多くのSNPに関するデータを収集することができる。例えば、公開データベースを調査すること、遺伝子の再シークエンシングを行うこと(例えば、極めて高齢の多くの個体および平均寿命の多くの個体において)およびその結果得られた配列を解析することによる。同定されたSNPが近傍のものとどの程度相関するかを、「ハプロタイプ」を構築する目的で調べる。続いて、並外れて高齢の個体において平均よりも高いまたは低い比率を占めるハプロタイプを規定するSNPの遺伝子型判定を行う。
【0123】
同じく同定されたものには、早老性疾患の原因であるか関連性があると考えられるLMNA中のそのほかの変異がある。これらには以下のものが含まれる:ヘテロ接合性R644C(サンプルID AG00989(非定型的早老症)で同定;臨床的記載:非定型的早老症および不特定型の悪液質性小人症と診断);ヘテロ接合性E145K(サンプルID AG10677(非定型的早老症);臨床的記載:低身長、成長障害、頭皮の部分的無毛症、乾燥性で不規則な色素沈着過剰を伴う皮膚、尖った鼻、突出した目、小顎症および額の突出を含む、早老症の臨床徴候);ヘテロ接合性R471C(エクソン8)およびR527C(エクソン9)(サンプルID AG07091(非定型的早老症)で同定;臨床的記載:早老症);およびヘテロ接合性A269V(サンプルID AG01178(非定型的早老症)で同定;臨床的記載:早老症)。
【0124】
実施例3:LMNAバリアントの臨床的用途
個体のLMNA配列における多型または変異の有無に関する診断検査を行うためには、適したゲノムDNAを含む試料を対象から入手し、従来の技法を用いてDNAを抽出する。例えば、いくつかの態様においては、血液試料、口腔擦過標本、毛胞標本または鼻吸引物を、DNA試料を得るための細胞の供給源として用いる。続いて、抽出したDNAの増幅を標準的な手順に従って行う。一塩基対多型の対立遺伝子は、マニュアル式および自動式の蛍光DNAシークエンシング、プライマー伸長法(Nikiforov, et al., Nucl Acids Res. 22: 4167-4175, 1994)、オリゴヌクレオチド連結アッセイ(OLA)(Nickerson et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 87: 8923-8927, 1990)、対立遺伝子特異的PCR法(Rust et al., Nucl. Acids Res. 6: 3623-3629, 1993)、RNアーゼミスマッチ切断、一本鎖高次構造多型(SSCP)、変性勾配ゲル電気泳動(DGGE)、Taq-Man、オリゴヌクレオチドハイブリダイゼーション、MALDI-TOF質量分析法などを含む、従来の方法によって決定される。疾患の予測および/または診断を目的とする多型分析の方法および応用の記載に関しては、以下の米国特許も参照されたい:第4,666,828号(ハンチントン病に関するRFLP);第4,801,531号(アテローム性動脈硬化の予測);第5,110,920号(HLA型判定);第5,268,267号(小細胞癌の予測);および第5,387,506号(自律神経障害の予測)。
【0125】
早老症、特にHGPS、および/または加齢性疾患になる可能性の高さと関連性のある稀なバリアントの例には、本明細書において変異1および変異2と称している変異がある。LMNAにこれらの変異または類似の変異がないことは、早老症を保因するか有する可能性が比較的低いこと、および他の早期加齢性疾患もしくは早老性疾患(例えば、非定型的早老症、悪液質性小人症)を有する可能性が比較的低いことを示す。これらの特定の多型に加えて、早老症(例えば、HGPS)に対する種々の程度の素因と関連性のある他の対立遺伝子を発見し、対象が早老症を発症する傾向を有する、または別の加齢性状態もしくは疾患を発症する可能性がある、またはこのような可能性の遺伝的保因者であるという確率を予測する目的で、開示したLMNA多型と併用することも可能である。
【0126】
例えば、プレラミンAの翻訳後プロセシングにおける最終段階にかかわる部位における変異(すなわち、RSYLLGモチーフにおける変異)も、早老性対象において、例えば、本明細書で考察したコドン608の変異を有する例において認められるものと類似した疾患症状をもたらす可能性がある。これらの変異型対立遺伝子ではこの領域はエクソン11の異常スプライシングのために欠失している。
【0127】
本開示のマーカーは、変異1および/または変異2バリアントに関してヘテロ接合性である個体の発見および識別のために用いることができる;同定されている変異は新たなものでしかも散発性に生じているため、ホモ接合性個体が同定される確率は極めて低いと考えられる。LMNAの早老症性対立遺伝子の保因者である個体(例えば、早老症と関連性のあるLMNA多型を含む対立遺伝子、例えばヌクレオチド1822位でのGからAへの塩基置換または1824位でのCからTへの塩基置換に関してヘテロ接合性である個体)を同定する意義は、これにより、若齢小児では確定がしばしば困難である状態に対する正確な分子診断が可能になることにある。これらの変異のいずれかを同定し、両親には存在しないこと(これまでに検討したいずれの場合にもそうであったように)を示すことで、極めて再現性の低いリスクに関する正確な遺伝カウンセリングも可能になり、これは将来子供を作ることを迷っている両親にとって非常に重要であると考えられる。さらに、これらの個体を早期老化疾患と関係のある健康状態に関してさらに調査することも可能である。
【0128】
実施例4:多型/変異遺伝子のプローブおよびマーカー
LMNA遺伝子における、一塩基対多型を取り囲み、それらと重複する配列は、さまざまな遺伝子のマッピング、ターゲティングおよび検出の手順に有用な可能性がある。例えば、変異1または変異2の多型のハイブリダイゼーションおよび検出のための遺伝子プローブは容易に調製することができる。理解されるであろうが、プローブ配列の長さは約12オリゴヌクレオチドまたはそれ以上であり、対立遺伝子同士を識別するのに十分な相補性を有すると考えられる。同様に、具体的に開示した一塩基対多型(または本教示に従って見いだされた他の多型)のいずれかを取り囲み、それと重複する配列、または具体的に開示した多型の両方を含む配列を、対立遺伝子特異的なハイブリダイゼーション法に利用することもできる。同様のアプローチを他のLMNA多型を検出する目的に応用することもできる。
【0129】
LMNA多型を取り囲む配列およびそれと重複する配列、または多型の同定を可能にするそれらの任意の部分もしくはサブセットは有用性が高い。したがって、もう1つの態様は、LMNAの変異1多型を予測する遺伝子マーカーであって、以下のヌクレオチド配列:

における「N」を含む少なくとも約10個の連続したヌクレオチド残基を含むヒトゲノムの部分配列、およびそれに対して相補的な配列を含み、「N」がC、またはヒトLMNA対立遺伝子においてNに存在するCの一塩基対多型であるような遺伝子マーカーを提供する。多型の一例はCからTへの塩基置換であるが、CからAまたはCからGへの塩基置換も含まれうる。
【0130】
同様に、もう1つの特定の態様は、LMNAの変異2多型を予測する遺伝子マーカーであって、以下のヌクレオチド配列:

における「N」を含む少なくとも約10個の連続したヌクレオチド残基を含むヒトゲノムの部分配列、およびそれに対して相補的な配列を含み、「N」がG、またはヒトLMNA対立遺伝子においてNに存在するGの一塩基対多型であるような遺伝子マーカーを提供する。多型の一例はGからTへの塩基置換であるが、GからAまたはGからCへの塩基置換も含まれうる。
【0131】
実施例5 SNP/稀なバリアントの検出
正常LMNA配列のバリアント、例えばヌクレオチド残基1822(アミノ酸残基608をコードする1番目の位置)および/またはヌクレオチド残基1824(アミノ酸608をコードする最後の位置)でのものは、さまざまな技法によって検出することができる。これらの技法には、プローブと配列とのハイブリダイゼーション、ストリンジェントな洗浄およびシグナルの検出を伴う、対立遺伝子特異的なオリゴヌクレオチドハイブリダイゼーション(ASOH)(Stoneking et al., Am. J. Hum. Genet. 48: 370-382, 1991)が含まれる。他の新たな方法には、ハイブリダイゼーションのさらに頑健なスコア化を組み入れた技法が含まれる。これらの手順の例には、Wu and Wallace(Genomics 4: 560-569, 1989)によって開示された連結連鎖反応(ASOH+選択的な連結および増幅);Syvanen(Meth. Mol. Biol. 98: 291-298, 1998)に考察されているミニシークエンシング(ASOH+一塩基伸長);およびLipshutz et al.(BioTechniques 19: 442-447, 1995)に開示されたDNAチップの使用(多数のオリゴヌクレオチドアレイを有する小型化されたASOH)が含まれる。または、単標識または二重標識が行われたプローブを用いるASOHを、5'-エキソヌクレアーゼアッセイ(Heid et al., Genome Res. 6: 986-994, 1996)のようにPCRと組み合わせること、または分子ビーコンと組み合わせること(Tyagi and Kramer, Nat. Biotechnol. 14: 303-308, 1996のように)もできる。
【0132】
もう1つの技法は動的対立遺伝子特異的ハイブリダイゼーション(DASH)であり、これはHowell et al.(Nat. Biotech. 17: 87-88, 1999)に開示されているように動的な加熱およびDNA変性の同時モニタリングを伴う。一方のプライマーをビオチン化したPCRによって標的配列を増幅する。このビオチン化された産物鎖を、ストレプトアビジンをコーティングしたマイクロタイタープレートのウェルと結合させ、ビオチン化されていない鎖はアルカリ洗浄液によるすすぎ洗いで除去する。一方の対立遺伝子に対して特異的なオリゴヌクレオチドプローブを低温で標的とハイブリダイズさせる。このプローブは、二本鎖特異的なインターカレーション色素と相互作用する二重鎖DNA領域を形成する。その後に励起すると、色素は二本鎖DNA(プローブ-標的二重鎖)の存在量に比例する蛍光を発する。続いて試料を定常的に加熱しながら蛍光を連続的にモニタリングする。蛍光の急激な減少により、プローブ-標的二重鎖の変性温度が示される。この技法を用いると、プローブと標的との間の一塩基ミスマッチは融解温度(T)の顕著な低下をもたらし、これを容易に検出することができる。
【0133】
DNAの差異を検出するために、さまざまな他の技法を用いることもできる。単なる例に過ぎないが、このような方法のためのさまざまな検出法が、米国特許第4,666,828号;第4,801,531号;第5,110,920号;第5,268,267号;第5,387,506号;第5,691,153号;第5,698,339号;第5,736,330号;第5,834,200号;第5,922,542号;および第5,998,137号に記載されている。特に想定している態様においては、配列の差異をMALDI-TOF質量分析計を用いて検出する。
【0134】
実施例6:LMNA核酸レベルの検出
LMNA遺伝子に変異を有する個体、またはLMNA遺伝子の増幅もしくはヘテロ接合性欠失を有する個体を、さまざまな技法を用いることにより、DNAまたはRNAのレベルで検出することができる。点変異の検出については上に述べた;以下のこの実施例では、試料中のLMNA核酸分子のレベルを検出するための技法を提供する。
【0135】
このような診断手順のためには、対象(マウスまたはヒトなどの動物)の生物試料であって対象由来のDNAまたはRNAのいずれかを含む生物試料を、変異、増幅または欠失したLMNAコード配列に関して(例えばLMNA遺伝子のゲノム増幅またはLMNA mRNAの過剰もしくは不足などに関して)アッセイする。適した生物試料には、対象の身体の細胞(例えば末梢血、尿、唾液、生検組織、外科手術標本、羊水穿刺試料および剖検材料に存在するもの)から入手したゲノムDNAまたはmRNAを含む試料が含まれる。生物試料における変異型LMNA遺伝子、変異型LMNA RNA、または増幅もしくはホモ接合性もしくはヘテロ接合性に欠失したLMNA遺伝子の検出は、さまざまな方法によって行いうる。
【0136】
遺伝子量(コピー数)は疾患状態において重要である可能性があり、mRNAに影響を及ぼしてそれによってタンパク質レベルに影響を及ぼしうる;このため、組織の試料におけるLMNA核酸のコピー数を決定することは有益である。LMNAのコード配列から作製したプローブ(LMNAプローブまたはプライマー)を、LMNA遺伝子のゲノム量の調査および測定のために用いることができる。
【0137】
遺伝子量の測定のために適した技法は当技術分野で知られている;例えば、米国特許第5,569,753号(「癌検出用プローブ(Cancer Detection Probes)」)およびPinkel et al,(Nat. Genet. 20: 207-211, 1998)(「マイクロアレイに対する比較ゲノムハイブリダイゼーションを用いたDNAコピー数の差異の高分解能分析(High Resolution Analysis of DNA Copy Number Variation using Comparative Genomic Hybridization to Microarrays)」)を参照されたい。
【0138】
他の技法を用いた患者由来の試料の細胞における遺伝子コピー数の決定も当技術分野で知られている。例えば、不死化細胞株の間期FISH分析を以前の記載の通りに行うことができる(Barlund et al., Genes Chromo. Cancer 20: 372-376, 1997)。ハイブリダイゼーションの評価はZeiss蛍光顕微鏡を用いて行いうる。例えば、DAPI対比染色に基づき、重複していない約20個の無傷形態の核をスコア化して、被験プローブおよび参照プローブのそれぞれに対するハイブリダイゼーションシグナルの平均数を決定する。
【0139】
同様に、Kononen et al., Nat. Med. 4: 844-847, 1998に記載されたように、FISHを組織マイクロアレイに対して行う。簡潔に述べると、アレイの連続切片に脱パラフィン処理を行い、エタノール中で脱水し、70%ホルムアミド/2×SSC中にて74℃で5分間変性させた上で、被験プローブおよび参照プローブとハイブリダイズさせる。シグナルの密なクラスターを含む標本、または腫瘍細胞の少なくとも10%で第17染色体の動原体と比較して被験プローブの数が3倍以上であった標本は、増幅されたものとみなしうる。種々の組織を用いたマイクロアレイは、WO9944063号およびWO9944062号に記載されたようにして構築することができる。
【0140】
LMNA遺伝子の過剰発現または低発現を、LMNA特異的mRNAの細胞レベルを測定することによって検出することもできる。mRNAの測定は、例えばノーザン分析、RT-PCRおよびmRNAインサイチューハイブリダイゼーションを含む、当技術分野で周知の技法を用いて行うことができる。さらに、本明細書で変異1として特定したものなどのスプライスバリアントは、正常(野生型)LMNAから生じるものとは長さの異なるmRNAを生じるため、ノーザンブロット上で転写物を検討することによって変化を検出することができる。
【0141】
実施例7:ラミンAポリペプチドの発現
ラミンAタンパク質などのタンパク質の発現および精製は、標準的な実験技術を用いて行うことができる。発現の後に、精製されたラミンAタンパク質は、機能分析、抗体産生、診断および患者の治療に用いることができる。さらに、LMNA/ラミンA cDNAのDNA配列を、遺伝子の発現およびその産物の機能を解明するための研究において操作することもできる。変異型のヒトLMNAは、本明細書に含まれる情報に基づいて単離することができ、相対量による発現パターン、組織特異性、およびコードされる変異型ラミンAタンパク質の機能的性質の変化を検出するために調べることができる。被験タンパク質をコードする部分的および全長cDNA配列は、細菌発現ベクター中に連結することができる。大腸菌(E.coli)に導入したクローニング遺伝子からタンパク質を大量発現させる方法を、タンパク質の精製、位置決定および機能解析のために利用することができる。例えば、大腸菌lacZまたはtrpE遺伝子の一部によりコードされるアミノ末端ペプチドをLMNAタンパク質に連結したものからなる融合タンパク質は、これらのタンパク質に対するポリクローナル抗体およびモノクローナル抗体を調製するために用いることができる。その後これらの抗体を、免疫アフィニティクロマトグラフィーによるタンパク質の精製、タンパク質レベルを定量する診断用アッセイ法、ならびに免疫蛍光法による組織および個々の細胞におけるタンパク質の位置決定のために使用することができる。
【0142】
機能的検討のために、無傷の天然タンパク質を大腸菌において大量に産生させることもできる。細菌における融合タンパク質および無傷の天然タンパク質の産生のための方法およびプラスミドベクターは、Sambrook et al.(「分子クローニング:実験マニュアル(Molecular Cloning:A Laboratory Manual)」、Ch.17, CSHL, New York, 1989)に記載されている。このような融合タンパク質は大量に作製可能であって精製が容易であり、抗体反応を誘発させるのに用いることができる。クローニングした遺伝子の上流に強力な調節プロモーターおよび有効なリボゾーム結合部位を配置することにより、天然タンパク質を細菌に産生させることができる。低レベルのタンパク質が産生される場合は、タンパク質産生を増加させるための追加的処置をとることができる;高レベルのタンパク質が産生される場合は、精製は比較的容易である。適した方法はSambrook et al.(「分子クローニング:実験マニュアル(Molecular Cloning:A Laboratory Manual)」、CSHL, New York, 1989)に記載されており、これらは当技術分野で周知である。高レベルで発現されたタンパク質はしばしば不溶性の封入体中に認められる。これらの凝集物からタンパク質を抽出する方法は、Sambrook et al.(「分子クローニング:実験室マニュアル(Molecular Cloning:A Laboratory Manual)」、Ch.17, CSHL, New York, 1989)に記載されている。LacZ融合遺伝子の発現に適したベクター系には、pURシリーズのベクター(Ruther and Muller-Hill, EMBO J. 2: 1791, 1983)、pEX1-3(Stanley and Luzio, EMBO J. 3: 1429, 1984)、およびpMR100(Gray et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 79: 6598, 1982)が含まれる。無傷の天然タンパク質の産生に適したベクターには、pKC30(Shimatake and Rosenberg, Nature 292: 128, 1981)、pKK177-3(Amann and Brosius, Gene 40: 183, 1985)、およびpET-3(Studiar and Moffatt, J. Mol. Biol. 189: 113, 1986)が含まれる。ラミンA融合タンパク質は、タンパク質ゲルから単離し、凍結乾燥し、破砕して粉末にした上で、抗原として用いることができる。DNA配列を、既存の環境から、例えば他のプラスミド、バクテリオファージ、コスミド、動物ウイルスおよび酵母人工染色体(YAC)(Burke et al., Science 236: 806-812, 1987)などの他のクローニング媒体に移すことも可能である。続いてこれらのベクターを、体細胞ならびに細菌、真菌(Timberlake and Marshall, Science 244: 1313-1317, 1989)、無脊椎動物、植物(Gasser and Fraley, Science 244:1293, 1989)および動物(Pursel et al., Science 244: 1281-1288, 1989)のような単純または複雑な生物を含むさまざまな宿主に導入することができ、それらの細胞または生物は、異種LMNA cDNAの導入によってトランスジェニックとなる。
【0143】
哺乳動物細胞における発現のために、cDNA配列を、pSV2ベクター中のシミアンウイルス(SV)40プロモーター(Mulligan and Berg, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 78: 2072-2076, 1981)などの異種プロモーターに連結して、サルCOS-1細胞(Gluzman, Cell 23: 175-182, 1981)などの細胞に導入し、一時的または長期的な発現を得ることもできる。哺乳動物細胞におけるキメラ遺伝子構築物の安定した組み込みは、ネオマイシン(Southern and Berg, J. Mol. Appl. Genet. 1: 327-341, 1982)およびミコフェノール酸(Mulligan and Berg, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 78: 2072-2076, 1981)などの生化学的選択によって維持することができる。
【0144】
DNA配列は、制限酵素消化、DNAポリメラーゼによる平滑末端化、エキソヌクレアーゼによる削除、ターミナルデオキシヌクレオチドトランスフェラーゼによる伸長、合成またはクローニングしたDNAの連結、一本鎖バクテリオファージ中間体を介するか特異的ヌクレオチドをPCRと組み合わせて用いることによる部位特異的配列改変などの標準的な手順によって操作することができる。
【0145】
cDNA配列(もしくはそれに由来する部分)またはミニ遺伝子(イントロンおよび自らのプロモーターを有するcDNA)は、従来の技法により、真核生物発現ベクターに導入することができる。これらのベクターは、cDNAの転写を開始して増強し、その適切なスプライシングおよびポリアデニル化を確実に行わせる調節配列を含むことにより、真核細胞におけるcDNAの転写を可能にするように設計されている。SV40のプロモーター領域およびエンハンサー領域またはラウス肉腫ウイルスの末端反復配列(LTR)ならびにSV40由来のポリアデニル化シグナルおよびスプライシングシグナルを含むベクターは容易に入手可能である(Mulligan et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 78: 1078-2076, 1981;Gorman et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 78: 6777-6781, 1982)。cDNAの発現レベルは、この種のベクターを用いて、異なる活性を有するプロモーターを用いることにより(例えば、バキュロウイルスpAC373はS. frugiperda細胞においてcDNAを高レベルで発現可能であり(Summers and Smith, 「遺伝的改変ウイルスと環境(Genetically Altered Viruses and the Environment)」Fields et al.(Eds.)中、22: 319-328, CSHL Press, Cold Spring Harbor, New York, 1985))、または例えばマウス乳癌ウイルス由来の糖質コルチコイド応答性プロモーター(Lee et al., Nature 294: 228, 1982)のような調節されたプロモーターを含むベクターを用いることにより、操作することができる。レシピエント細胞におけるcDNAの発現は、導入後24時間〜72時間にわたってモニターしうる(一時的発現)。
【0146】
加えて、一部のベクターは、細菌遺伝子gpt(Mulligan and Berg, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 78: 2072-2076, 1981)またはneo(Southern and Berg, J. Mol. Appl. Genet. 1: 327-341, 1982)などの選択マーカーを含む。これらの選択マーカーは、ベクター(従ってcDNA)の安定的で長期的な発現を示すトランスフェクト細胞の選択を可能にする。ベクターは、パピローマウイルス(Sarver et al., Mol. Cell Biol. 1: 486, 1981)またはエプスタイン-バーウイルス(Sugden et al., Mol. Cell Biol. 5: 410, 1985)などの調節エレメントを用いることにより、エピソーム性の自由に複製する実体として細胞中に維持することができる。または、ゲノムDNAにベクターが組み込まれた細胞株を作製することも可能である。これらの型の細胞株はいずれも継続的に遺伝子産物を産生する。また、高レベルの遺伝子産物を産生しうる細胞株を作製するために、ベクター(従ってcDNAも同様)のコピー数が増幅された細胞株を作製することもできる(Alt et al., J. Biol. Chem. 253: 1357, 1978)。
【0147】
真核細胞、特にヒト細胞または他の哺乳動物細胞へのDNAの導入は現在では通常の技法である。ベクターは、例えば、リン酸カルシウム(Graham and vander Eb, Virology 52: 466, 1973)もしくはリン酸ストロンチウム(Brash et al., Mol. Cell Biol. 7: 2013, 1987)を用いた沈降法、電気穿孔法(Neumann et al., EMBO J 1: 841, 1982)、リポフェクション(Felgner et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 84: 7413, 1987)、DEAEデキストラン(McCuthan et al., J. Natl. Cancer Inst. 41: 351, 1968)、微量注入(Mueller et al., Cell 15: 579, 1978)、プロトプラスト融合(Schafner, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 77: 2163-2167, 1980)または空気銃(Klein et al., Nature 327: 70, 1987)により、レシピエント細胞に純粋なDNAとして導入される(トランスフェクション)。または、cDNAまたはその断片を、ウイルスベクターによる感染によって導入することもできる。例えば、レトロウイルス(Bernstein et al., Gen. Engr'g 7: 235, 1985)、アデノウイルス(Ahmad et al., J. Virol. 57: 267, 1986)またはヘルペスウイルス(Spaete et al., Cell 30: 295, 1982)を用いる系が開発されている。変異型のラミンAをコードする配列を含め、ラミンAをコードする配列を、非感染系、例えばリポソームを介して標的細胞にインビトロで送達することもできる。
【0148】
これらの真核生物発現系は、ラミンAをコードする核酸およびそれらの分子の変異型、ラミンAタンパク質およびこのタンパク質の変異型の検討のために用いることができる。このような用途には、例えば、本開示に含まれる情報を利用してヒトゲノムDNAライブラリーから単離しうるゲノムクローン上のLMNA遺伝子の5'領域内に位置する調節エレメントの同定が含まれる。真核生物発現系を、正常な完全タンパク質の機能、タンパク質の特異的部位、または天然に存在するもしくは人為的に作製された変異タンパク質の検討に用いることもできる。
【0149】
上記の技法を用いて、LMNA遺伝子配列もしくはcDNAを含む発現ベクター、またはそれらの断片もしくはバリアントもしくは変異体を、必要に応じて、ヒト細胞、他の種の哺乳動物細胞または非哺乳動物細胞に導入することができる。細胞の選択は処理の目的によって決まる。例えば、高レベルのSV40 T抗原を産生してSV40の複製起点を含むベクターの複製を可能にするサルCOS細胞(Gluzman, Cell 23: 175-182, 1981)を用いてもよい。同様に、チャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO)、マウスNIH 3T3線維芽細胞、またはヒトの線維芽細胞もしくはリンパ芽球を用いることもできる。
【0150】
したがって、本開示は、適切な宿主における発現のために、LMNA遺伝子またはcDNAまたはそれらのバリアントなどのLMNAコード配列のすべてまたは一部を含む、組換えベクターを含む。LMNA cDNAは、LMNAポリペプチドが発現されうるように、ベクター中で組換えDNA分子の発現制御配列と機能的に結合している。発現制御配列は、原核細胞または真核細胞およびそれらのウイルスの遺伝子ならびにそれらの組み合わせの発現を制御する配列からなる群より選択することができる。発現制御配列は、lac系、trp系、tac系、trc系、ファージλの主要オペレーターおよびプロモーター領域、fdコートタンパク質の制御領域、SV40の初期および後期プロモーター、ポリオーマウイルス、アデノウイルス、レトロウイルス、バキュロウイルスおよびシミアンウイルス由来のプロモーター、3-ホスホグリセリン酸キナーゼのプロモーター、酵母酸性ホスファターゼのプロモーター、酵母α接合因子のプロモーター、ならびにそれらの組合せからなる群より個別に選択することができる。
【0151】
本開示のベクターによるトランスフェクションを行いうる宿主細胞は、大腸菌、シュードモナス(Pseudomonas)、枯草菌、バチルス・ステアロサーモフィラス(Bacillus stearothermophilus)もしくはその他のバチルス属;その他の細菌;酵母;真菌;昆虫;マウスもしくはその他の動物;または植物宿主;またはヒト組織細胞からなる群より選択することができる。
【0152】
変異型またはバリアントのLMNA DNA配列に関して、変異型産物を発現させて産生させるために同様の系が用いられることは認識されている。さらに、ラミンAタンパク質の断片を本質的には上記の通りに発現させることもできる。このような断片には、ラミンAタンパク質の個々のドメインまたはサブドメインのほか、ペプチドなどの短い断片も含まれる。治療的性質を有するラミンAタンパク質断片をこのようにして発現させることもできる。
【0153】
さらに、ラミンAタンパク質、特に提示した変異型などのバリアントが、タグと機能的に結合したものを含む構築物も特に想定している。タグの例には一般に、エピトープタグ、精製用タグおよび同定用タグが含まれる。ペプチドタグの具体的な例には、FLAGタグ、c-mycタグ、6×Hisタグ、HAタグ、T7タグ、GFPペプチドおよびGSTペプチドが含まれる。
【0154】
実施例8:ラミンAタンパク質特異的な結合因子の作製
正常ラミンAタンパク質またはこのタンパク質の変異型のいずれかに対するモノクローナル抗体またはポリクローナル抗体を作製することができる。好ましくは、これらのタンパク質またはペプチドに対して作製された抗体は、抗体の作製に用いたタンパク質またはペプチドを、場合によってはそのタンパク質の特定の変異型を、特異的に検出すると考えられる。すなわち、ラミンAタンパク質またはその断片に対して作製された抗体はラミンAタンパク質を認識して結合し、ヒト細胞に認められる他のタンパク質は実質的に認識もせず結合もしないと考えられる。
【0155】
ある抗体がラミンAタンパク質を特異的に検出することは、さまざまな標準的なイムノアッセイ法のうち任意の方法、例えば、ウエスタンブロット法(Sambrook et al., 「分子クローニング:実験マニュアル(Molecular Cloning: A Laboratory Manual)」、CSHL, New York, 1989)によって判定される。所与の抗体調製物(例えば、マウスで産生されたもの)がラミンAタンパク質を特異的に検出することをウエスタンブロット法によって確かめるためには、全細胞タンパク質をヒト細胞(例えば、リンパ球)から抽出し、ドデシル硫酸ナトリウム-ポリアクリルアミドゲル上で電気泳動を行う。続いてタンパク質をウエスタンブロット法によって膜(例えば、ニトロセルロース)に移行させ、抗体調製物を膜とともにインキュベートする。非特異的に結合した抗体を膜の洗浄によって除去した後、アルカリホスファターゼなどの酵素を結合させた抗マウス抗体を用いることにより、特異的に結合した抗体の存在を検出する。アルカリホスファターゼの基質である5-ブロモ-4-クロロ-3-インドリルリン酸/ニトロブルーテトラゾリウムを適用すると、免疫学的に局在したアルカリホスファターゼによって濃青色の化合物が生成される。ラミンAタンパク質を特異的に検出する抗体は、この技法により、ラミンAタンパク質のバンド(分子量によって決まるゲル上の特定の位置に局在する)に結合することが示される。抗体と他のタンパク質との非特異的結合も起こる可能性があり、これはウエスタンブロット上で弱いシグナルとして検出される。この結合の非特異的な性質は、ウエスタンブロット上で得られるシグナルが、特異的な抗体とラミンAタンパク質との結合によって生じる強い主要シグナルと比較して弱いことにより、当業者に認識される。
【0156】
免疫原として用いるのに適した実質的に純粋なラミンAタンパク質またはタンパク質断片(ペプチド)は、上記のようなトランスフェクト細胞または形質転換細胞から単離しうる。最終調製物におけるタンパク質またはペプチドの濃度は、例えばAmiconフィルター装置による濃縮によって、数マイクログラム/mlのレベルに調整する。続いて、タンパク質に対するモノクローナル抗体またはポリクローナル抗体を以下のように調製することができる:
【0157】
A. ハイブリドーマ融合によるモノクローナル抗体の作製
ラミンAタンパク質のエピトープに対するモノクローナル抗体は、マウスハイブリドーマから、Kohler and Milstein(Nature 256: 495-497, 1975)の古典的な方法またはその派生的な方法に従って調製することができる。簡潔に述べると、マウスに数マイクログラムの選択したタンパク質を数週間にわたり繰り返し接種する。続いてマウスを屠殺し、脾臓の抗体産生細胞を単離する。脾臓細胞をポリエチレングリコールを用いてマウス骨髄腫細胞と融合させ、余分な非融合細胞を、系をアミノプテリンを含む選択培地(HAT培地)中で培養することによって死滅させる。融合に成功した細胞を希釈し、希釈液のアリコートをマイクロタイタープレートのウェルに播き、そこで培養物の増殖を続けさせる。抗体を産生するクローンは、例えばEngvall(Meth. Enzymol. 70: 419-439, 1980)により最初に記載されたELISAおよびその派生的な方法などのイムノアッセイ法によって、ウェルの上清液中の抗体を検出することにより同定される。選択された陽性クローンを増殖させ、それらのモノクローナル抗体産物を収集して用いることができる。モノクローナル抗体の作製のための詳細な手順は、Harlow and Lane(「抗体、実験マニュアル(Antibodies, A Laboratory Manual)」、CSHL, New York, 1988)に記載されている。
【0158】
B. 免疫処置によるポリクローナル抗体の産生
単一のタンパク質の異種エピトープに対する抗体を含むポリクローナル抗血清は、発現されるタンパク質(これは改変されていないものでもよく、免疫原性を高めるために修飾されていてもよい)によって適した動物の免疫処置を行うことによって調製しうる。抗原および宿主種の両方に関係した多くの要因が、効率的なポリクローナル抗体の産生に影響する。例えば、低分子は他のものより免疫原性が低い傾向にあり、担体およびアジュバントの使用を必要とする可能性がある。また、宿主動物は接種の部位および用量に応じて反応性が異なり、抗原の用量が不十分または過剰であれば低い力価の抗血清が生じる。低用量(ナノグラムのレベル)の抗原を複数の皮下部位に連続的に投与することが最も確実であると思われる。ウサギの効果的な免疫処置プロトコールは、Vaitukaitis et al.(J. Clin. Endocrinol. Metab. 33: 988-991, 1971)に記載されている。
【0159】
追加免疫注射は規則的な間隔で行うことができ、半定量的な測定で(例えば、既知の濃度の抗体に対する寒天中での二倍免疫拡散法による)、抗体の力価が下がり始めた時点で抗血清を採取する。例えば、Ouchterlony et al.(「実験免疫学ハンドブック(Handbook of Experimental Immunology)」、Wier, D.(ed)、第19章、Blackwell, 1973)を参照されたい。抗体のプラトー濃度は通常、血清1ml当たり約0.1mg〜0.2mgの範囲にある(約12μM)。抗血清の抗原に対する親和性は、例えばFisher(「臨床免疫学マニュアル(Manual of Clinical Immunology)」、第42章, 1980)により記載されたように、結合競合曲線を作成することによって判定しうる。
【0160】
C. 合成ペプチドに対して産生された抗体
ラミンAタンパク質またはペプチドに対する抗体を産生するための第3のアプローチは、ラミンAタンパク質またはペプチドの予想されるアミノ酸配列に基づき、市販のペプチド合成装置で合成した1つまたは複数の合成ペプチドを用いることである。
【0161】
本明細書で提供したバリアント/変異体タンパク質に対して特異的な抗体を産生させうることを特に想定している。例えば、このようなバリアント特異的抗体は、本明細書に記載したようにエクソン11およびエクソン12の中央部にある異常な接合部に相当するエピトープを用いることによって作製することができる。SGSGAQSPQNC(SEQ ID NO: 7の601位〜611位)はその一例であると考えられる。このエピトープを認識するが野生型ラミンAは認識しない抗体は、HGPSに対する極めて特異性の高い診断検査のために用いうる。このことにとどまらず、この抗体は、変異型タンパク質を標的とし、正常型は標的としないため、治療薬としても有用な可能性がある。
【0162】
D. LMNAコード配列の注射により産生された抗体
所望のタンパク質またはペプチドを発現する組換えDNAベクターをマウスなどの実験動物に皮下注射することにより、ラミンAタンパク質またはペプチドに対する抗体を産生させることもできる。組換えベクターの動物への送達は、Tang et al.(Nature 356: 152-154, 1992)によって記載されたような携帯型の遺伝子銃システム(Sanford et al., Particulate Sci. Technol. 5: 27-37, 1987)によって実現することができる。この目的に適した発現ベクターには、ラミンAコード配列をヒトβアクチンプロモーターまたはサイトメガロウイルス(CMV)プロモーターのいずれかの転写制御下で発現するものが含まれる。
【0163】
抗体調製物、例えばこれらのプロトコールに従って調製されたものは、生物試料中の抗原性を有する物質の濃度を測定する定量的イムノアッセイ法に有用である;これらはまた、生物試料中の抗原の存在を半定量的もしくは定量的に同定するため;またはラミンAタンパク質の免疫学的位置決定のためにも用いられる。
【0164】
ヒト患者に対する投与のためには、抗体、例えばラミンA特異的モノクローナル抗体を、当技術分野で知られた方法によってヒト化することができる。所望の結合特異性を有する抗体は商業的にヒト化することもできる(Scotgene, Scotland, UK;Oxford Molecular, Palo Alto, CA)。
【0165】
さらに、ラミンAに対する抗体は市販もされている。例えば、Covance Research Products(CRP, Inc., Denver, PA, USA)カタログ番号MMS-107R、ラミンAおよびラミンCの両方を認識するモノクローナル抗体を参照されたい。
【0166】
実施例9:タンパク質に基づく診断および検出
例えば遺伝子の増幅、欠失または変異、さらには異常ラミンA発現を含む、LMNAにおける異常を検出する代替的な方法は、個体の細胞におけるラミンAタンパク質のレベルを定量すること、および/またはその分子量を決定することである。この診断手段は、例えば、短縮型、非機能的または不安定なポリペプチドを生じさせるLMNA遺伝子のプロモーター領域内の変異または遺伝子のコード領域内の変異、ならびにLMNA遺伝子の一部分または全体の欠失に起因する、ラミンAタンパク質のレベルの低下を検出するのに有用であると考えられる。または、ラミンAコード配列の重複をラミンAタンパク質の発現レベルの上昇として検出することもできる。このようなタンパク質発現の増加が、LMNA遺伝子内のプロモーター領域または他の調節配列もしくはコード配列のアップレギュレート性変異の結果である場合もある。ラミンA発現の局在性および/または協調性(時間的または空間的なもの)を、細胞もしくは組織に特異的な、または時期特異的な試料からのラミンAの単離および比較といった既知の技法を用いて調べることもできる。
【0167】
対照細胞(例えば、HGPSなどの早老症に罹患していない対象から採取した正常なもの)における発現と比較して、ラミンAタンパク質のレベルが低いまたは高いことを判定することは、以上に概要を述べた方法およびその等価物によるLMNA遺伝子の欠失、増幅または変異の状態の直接的な判定に対する、代替的または補助的なアプローチである。
【0168】
ラミンAタンパク質に対して特異的な抗体が得られれば、当技術分野で周知であってHarlow and Lane(「抗体、実験マニュアル(Antibodies, Laboratory Manual)」、CSHL, New York, 1988)に示されたさまざまなイムノアッセイ法のいずれかによる、細胞性ラミンAの検出および定量が容易になる。このような抗体の構築方法は上記で考察しており、ラミン特異的抗体は市販されている。
【0169】
ラミンAポリペプチドまたはタンパク質のレベルの測定には、任意の標準的なイムノアッセイ形式(例えば、ELISA、ウエスタンブロット法またはRIAアッセイ)を用いうる;比較は野生型(正常)ラミンAレベルに対して行われ、ラミンAポリペプチドの変化により、早老症などの異常な生物学的状態および/または早老性の疾患もしくは状態を発症する素因が示されると考えられる。ラミンAポリペプチドまたはタンパク質の検出のために免疫組織化学法を利用することもできる。例えば、組織試料を対象から入手し、ラミンA特異的結合因子(例えば、抗ラミンA抗体)および任意の標準的な検出システム(例えば、西洋ワサビペルオキシダーゼと結合させた二次抗体を含むもの)を用いて、切片をラミンAの存在に関して染色する。このような技法に関する一般的な手引きは、例えば、Bancroft and Stevens(「組織学の技法の理論および実践(Theory and Practice of Histological Techniques)」、Churchill Livingstone, 1982)およびAusubel et al.(「分子生物学における最新プロトコール(Current Procotols in Molecular Biology)」、John Wiley & Sons, New York, 1998)に記載されている。
【0170】
ラミンAタンパク質を定量する目的には、対象(これは任意の動物、例えばマウスまたはヒトであってよい)からの生物試料(この試料は細胞タンパク質を含む)が必要である。このような生物試料は、対象の身体の細胞(例えば末梢血、尿、唾液、生検組織、外科手術標本、羊水穿刺試料および剖検材料に存在するもの)、特に乳房細胞から入手しうる。ラミンAタンパク質の定量はイムノアッセイ法によって行い、対照細胞(例えば、早老症でないことが判明している患者由来のように健常なもの)で認められるタンパク質レベルと比較することができる。正常ヒト細胞におけるラミンAタンパク質の量と比較して対象の細胞におけるラミンAタンパク質の量が著しく少ないこと(例えば、10%またはそれ以上)により、その対象がLMNA遺伝子に欠失または変異を有する可能性があることが示され、一方、著しく多いこと(例えば、10%またはそれ以上)により、LMNAタンパク質またはmRNAの重複(増幅)が、もしくはその安定性を高める変異が生じている可能性があることが示される。ラミンAコード配列の、またはその内部における、欠失、変異および/または増幅、ならびにラミンAタンパク質の実質的な低発現または過剰発現は、早老症であること、および/または早老性の疾患もしくは状態を発症する素因もしくはそれに関係する対立遺伝子を保有していることを示すと思われる。
【0171】
変異1および2は野生型ラミンAよりも50アミノ酸短いタンパク質を生じさせるため、HGPSを同定するための簡便な診断方法は、ウエスタンブロット法を行って異常な(短い)バンドを検索することである。
【0172】
実施例10:バリアントに関して個体がホモ接合性であるかヘテロ接合性であるかの識別
当業者には理解されるが、Nickerson et al.(Proc. Natl. Acad. Sci. USA 87: 8923-8927, 1990)に記載されたようなオリゴヌクレオチド連結アッセイ(OLA)により、LMNA遺伝子におけるバリアント配列、例えば変異1または変異2バリアントのいずれかに関してホモ接合性である個体とヘテロ接合性である個体とを識別することが可能になる。これにより、ある個体が、少なくとも1つの早老症関連バリアントに関して、または、早老症を発症する素因が比較的強いこと、および/またはアテローム性動脈硬化などの加齢性の疾患もしくは状態の可能性が高いこととその状態に関連性がある他の多型に関して、ホモ接合性であるか否かを迅速かつ容易に判定することが可能になる。または、対象がLMNA遺伝子で同定された多型に関してホモ接合性であるか否かを判定するためにOLAを用いることもできる。
【0173】
OLAアッセイの一例として、マイクロタイタープレートにおいて実施する場合には、1つのウェルをヌクレオチド1822位にGを含むLMNA対立遺伝子の存在の判定のために用い、第2のウェルをヌクレオチド1822位にAを含むLMNA対立遺伝子の存在の判定のために用いる。これにより、多型に関してヘテロ接合性である個体に関する結果はGウェルおよびAウェルともにシグナルを示すと考えられ、変異2多型に関してホモ接合性である個体はAウェルにおいてのみシグナルを示すと考えられる。
【0174】
実施例11:ラミンA発現の抑制
細胞におけるラミンAタンパク質の発現の低下は、ヒトLMNA cDNA配列もしくは遺伝子配列(本明細書に示したもの)またはその隣接領域を含む、LMNAコード配列に基づくアンチセンス構築物を細胞に導入することによって実現しうる。アンチセンス抑制のためには、LMNAコード配列に由来するヌクレオチド配列、例えばLMNA cDNAまたは遺伝子のすべてまたは一部を、形質転換ベクターのプロモーター配列に対して逆方向に配置する。ベクターのその他の局面は本明細書に考察したように選択することができ、これは周知である。
【0175】
導入される配列は、完全長ヒトLMNA cDNAもしくは遺伝子またはその相補物である必要はなく、形質転換しようとする細胞種に存在する等価な配列と全く相同である必要もない。しかし、一般的には、導入された配列の長さが短い場合には、効果的なアンチセンス抑制のために、天然のLMNA配列に対するより高い相同性が必要とされると考えられる。ベクター中にある導入されるアンチセンス配列の長さは少なくとも30ヌクレオチドであってよく、アンチセンス配列の長さが増すほど一般にアンチセンス抑制の向上がみられると考えられる。ベクター中のアンチセンス配列の長さは100ヌクレオチドより長いほうが有利である。LMNA遺伝子自体を抑制するために、アンチセンス構築物の転写は、細胞の内因性LMNA遺伝子から転写されたmRNA分子に逆相補性であるRNA分子の産生をもたらす。
【0176】
アンチセンスRNA分子が遺伝子発現を妨げる正確な機序は明らかになっていないが、アンチセンスRNA分子は内因性mRNA分子に結合することによって内因性mRNAの翻訳を阻害すると考えられている。
【0177】
ラミンAの発現を、短鎖干渉性(small inhibitory)RNAを用いて、例えば以前に記載されたものに類似した技法(例えば、Tuschl et al., Genes Dev 13, 3191-3197, 1999;Caplen et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 98, 9742-9747, 2001;およびElbashir et al,, Nature 411, 494-498, 2001を参照されたい)を用いて低下させることも可能である。特に、変異型ラミンAにおける異常スプライス接合部を標的とするRNAiを用いる方法を想定しており、これによって異常タンパク質を遮断して正常なものは遮断しないことが可能であると考えている。
【0178】
内因性ラミンAの発現の抑制を、リボザイムを用いて達成することもできる。リボザイムは特異性の高いエンドリボヌクレアーゼ活性を有する合成RNA分子である。リボザイムの作製および用法については、Cechに対する米国特許第4,987,071号およびHaselhoffに対する米国特許第5,543,508号に開示されている。アンチセンスRNAに結合する内因性mRNA分子が切断されるように、アンチセンスRNAにリボザイムの配列を含めてアンチセンスRNAにRNA切断活性を与えることが可能であり、その結果、内因性遺伝子の発現のアンチセンス抑制が増強される。
【0179】
さらに、内因性ラミンA活性をブロックするために、ドミナントネガティブ変異型のラミンAを用いることもできる。例えば、本明細書に記載した変異体1および変異体2はドミナントネガティブ変異体である。
【0180】
実施例12:LMNA遺伝子治療
対象における早老症を抑制もしくは治療するため、または早老性の疾患もしくは状態のリスクを低下させるための遺伝子治療アプローチが、今回、本開示によって可能となった。
【0181】
遺伝子治療の実験のためには、高い効率での感染ならびに安定な組み込みおよび発現を伴うレトロウイルスが好ましいベクターであると考えられている(Orkin et al., Prog. Med. Genet. 7: 130-142, 1988)。全長LMNA遺伝子またはcDNAをレトロウイルスベクター中にクローニングし、その内因性プロモーターまたは例えばレトロウイルスのLTR(末端反復配列)のいずれかによって誘導させることが可能である。アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス(AAV)(McLaughlin et al., J. Virol. 62: 1963-1973, 1988)、ワクシニアウイルス(Moss et al., Annu. Rev. Immunol. 5: 305-324, 1987)、ウシパピローマウイルス(Rasmussen et al., Methods Enzymol.139: 642-654, 1987)またはエプスタイン‐バーウイルス(Margolskee et al., Mol. Cell. Biol. 8: 2837-2847, 1988)などのヘルペスウイルス群のメンバーを含む、その他のウイルスのトランスフェクション系をこの種のアプローチに用いることもできる。
【0182】
遺伝子治療技術には、Cole-Strauss, et al.(Science 273: 1386-1389, 1996)に記載されたような、RNA-DNAハイブリッドオリゴヌクレオチドの使用が含まれる。この技術は、クローニングされた配列の部位特異的な組込みを可能にし、それによって正確に標的化された遺伝子置換を可能にする。
【0183】
ウイルスベクターを用いたラミンAの細胞への送達のほかに、非感染性の送達方法を用いることも可能である。例えば、脂質およびリポソームを介した遺伝子送達が、最近、さまざまな遺伝子のトランスフェクションに用いられて成果を上げている(総説に関しては、Templeton and Lasic, Mol. Biotechnol. 11: 175-180, 1999;Lee and Huang, Crit. Rev. Ther. Drug Carrier Syst. 14: 173-206;およびCooper, Semin. Oncol. 23: 172-187, 1996を参照されたい)。例えば、陽イオン性リポソームは単球性白血病細胞をトランスフェクトする能力に関して分析されており、ウイルスベクターの使用に代わる選択肢となることが示された(de Lima et al., Mol. Membr. Biol. 16: 103-109, 1999)。このような陽イオン性リポソームを、例えばモノクローナル抗体または他の適切な標的リガンドを含めることにより、特定の細胞に対して標的化することも可能である(Kao et al., Cancer Gene Ther.3: 250-256, 1996)。
【0184】
ラミンAの発現レベルを低下させるために、アンチセンスまたは他の抑制性構築物を用いて遺伝子治療を行うことができ、その構築については上記で考察している。
【0185】
実施例13:キット
LMNA遺伝子に対して特異的なプローブまたはプライマーといった、ラミンAをコードする配列における多型の有無を判定するために必要な試薬を含むキットが提供される。このようなキットは、対象が早老症の素因を有するか否かもしくは早老症に関してヘテロ接合性であるか否か、または別の様式で早老性の疾患もしくは状態に罹患する可能性が高いか否かを判定する目的で、本明細書に記載した方法とともに用いることができる。
【0186】
提供されるキットは、書面による指示書も含んでよい。この指示書は、決められた(例えば、実験的に測定された)値と比較するための検量線または図表を提供することができる。mRNA(例えば、プローブを含む)またはラミンAタンパク質(例えば、抗体または他のラミンAタンパク質特異的結合因子を含む)の発現の亢進または抑制を判定するためのキットも提供される。
【0187】
A. LMNA配列の増幅のためのキット
LMNA配列、特にLMNAのエクソン11の内部または近傍の配列とハイブリダイズしうるオリゴヌクレオチドプローブおよびプライマーを、例えば、対象における早老症に対する素因の検出に用いるためのキットの形で供給することができる。このようなキットでは、適量の1つまたは複数のオリゴヌクレオチドプライマーが、1つまたは複数の容器中に提供される。オリゴヌクレオチドプライマーは、例えば水溶液に懸濁するか、またはフリーズドライもしくは凍結乾燥を行った粉末として供給することができる。オリゴヌクレオチドを供給する容器は、供給される形態を収容しうる任意の通常の容器、例えば微量遠心管、アンプルまたは瓶であってよい。一部の用途においては、別々の、典型的には使い捨てのチューブまたは同等の容器に、あらかじめ測定した1回分の使用量のプライマー対を供給することができる。このような準備を行うことにより、LMNA多型の存在に関して検査する試料を個々のチューブに加えて直接増幅することができる。
【0188】
キット中に供給される各々のオリゴヌクレオチドプライマーの量は、その製品が対象とする市場に応じた任意の適切な量でよい。例えば、キットが研究または臨床的使用のために適合化される場合には、提供される各々のオリゴヌクレオチドプライマーの量は、数回のPCR増幅反応を開始するのに十分な量であると思われる。当業者は、1回の増幅反応に用いるのに適したオリゴヌクレオチドプライマーの量を把握している。一般的な指針は、例えば、Innis et al. (「PCRプロトコール、方法および応用の手引き(PCR Protocols, A Guide to Methods and Applications)」、Academic Press, Inc., San Diego, CA, 1990)、Sambrook et al.(「分子クローニング:実験マニュアル(Molecular Cloning: A Laboratory Manual)」、Cold Spring Harbor, New York, 1989)およびAusubel et al.(「分子生物学における最新プロトコール(Current Protocols in Molecular Biology)」、Greene Publ. Assoc. and Whiley-Intersciences, 1992)に記載されている。
【0189】
キットは、LMNA配列、例えばLMNA遺伝子またはその5'もしくは3'隣接領域のインビトロ増幅を容易にするために、2つを上回るプライマーを含んでもよい。
【0190】
いくつかの態様において、キットは、核酸増幅反応を行うために必要な試薬(例えば、DNA試料調製試薬、適切な緩衝液(例えば、ポリメラーゼ緩衝液)、塩(例えば塩化マグネシウム)およびデオキシリボヌクレオチド(dNTP)を含む)を含んでもよい。
【0191】
キットはさらに、LMNA多型の検出に用いるための標識性または非標識性のオリゴヌクレオチドプローブを含んでもよい。ある種の態様において、これらのプローブは、増幅された標的配列に存在する可能性のある多型に対して特異的であると考えられる。このようなプローブとして適切な配列は、プローブの配列が多型部位および周囲のLMNA配列に対して相補的となるような、同定された多型部位、特にヌクレオチド1822位および1824位の1つまたは複数を含む任意の配列であると考えられる。
【0192】
増幅反応に用いるための1つまたは複数の対照配列をキット中に提供することも有益であると思われる。適切な陽性対照配列の設計は当業者に周知である。
【0193】
B. LMNA mRNAの発現を検出するためのキット
LMNA多型の検出のための以上に開示されたものに類似したキットをそのまま、LMNA mRNAの発現、例えば過剰発現または低発現を検出するために用いることができる。このようなキットは、RNA増幅に用いるための当技術分野で明らかな改良が加えられた、上記に提供されたものと類似した、逆転写PCR反応などに用いるための1つまたは複数の適量のオリゴヌクレオチドプライマーを含む。
【0194】
いくつかの態様において、LMNA mRNAの発現の変化を検出するためのキットは、RT-PCRインビトロ増幅反応を行うために必要な試薬(例えば、RNA試料調製試薬(例えば、RNアーゼ阻害薬を含む)、適切な緩衝液(例えば、ポリメラーゼ緩衝液)、塩(例えば、塩化マグネシウム)およびデオキシリボヌクレオチド(dNTP)を含む)を含んでもよい。書面による指示書も含めてもよい。
【0195】
このようなキットはさらに、インビトロで増幅された標的配列の検出に用いるための標識性または非標識性のオリゴヌクレオチドプローブを含んでもよい。このようなプローブとして適切な配列は、2つの提供されたオリゴヌクレオチドプライマーのアニーリング部位間に位置する任意の配列であると考えられ、そのプローブに相補的な配列がPCR反応中で増幅される。ある種の態様において、これらのプローブは、増幅された標的配列に存在する可能性のある多型に対して特異的である、例えば変異1対立遺伝子に対して特異的である(例えば、LMNA配列の1824位にあるT残基を検出しうる)と考えられる。
【0196】
RT-PCR反応に用いるための1つまたは複数の対照配列をキット中に提供することも有益でありうる。適切な陽性対照配列の設計は当業者に周知である。
【0197】
または、キットに、LMNA mRNAの定量的または半定量的なノーザン分析を行うために必要な試薬を提供することもできる。このようなキットには、例えば、プローブとして用いるための少なくとも1つのLMNA特異的オリゴヌクレオチドが含まれる。このオリゴヌクレオチドは、放射性同位体、酵素基質、補助因子、リガンド、化学発光性もしくは蛍光性の試薬、ハプテンまたは酵素を含む、選択された任意の従来法により標識することができる。ある種の態様において、このようなプローブは、増幅された標的配列に存在する可能性のある多型に対して特異的である、例えば変異1対立遺伝子に対して特異的である(例えば、LMNA配列の1824位にあるT残基を検出しうる)と考えられる。
【0198】
C. ラミンAタンパク質またはペプチド発現を検出するキット
ラミンAタンパク質の発現(例えば、過剰発現もしくは低発現、または正常細胞に認められるものとは長さの異なるタンパク質の発現)を検出するためのキットも想定している。このようなキットは、少なくとも1つの標的タンパク質特異的結合因子(例えば、ラミンAタンパク質を特異的に認識するポリクローナル抗体もしくはモノクローナル抗体または抗体断片)および少なくとも1つの対照(既定量のラミンAタンパク質、または既定量のラミンAタンパク質を含む試料)を含みうる。ラミンAタンパク質特異的結合因子および対照を別個の容器に収容してもよい。
【0199】
ラミンAタンパク発現検出キットはラミンA:結合因子複合体を検出するための手段を含んでもよく、例えばこの因子が検出可能なように標識されていてもよい。検出可能な因子が標識されていない場合には、それを例えば第1の抗体またはプロテインAによって検出することもでき、ある種のキットではそれを1つまたは複数の別個の容器で提供することができる。このような技術は周知である。
【0200】
特定のキットにおける補足的な構成要素には、アッセイ法を行うための指示書が含まれうる。指示書は、試験者がラミンAの発現レベルが上昇しているか否かを判定することを可能にすると考えられる。キットには、反応容器および補助的試薬(色素原、緩衝液、酵素などの色素原、緩衝液、酵素など)を含めることもできる。
【0201】
D. ホモ接合性対ヘテロ接合性の対立性を区別して検出するためのキット
LMNAの変異1または変異2多型のいずれかに関してホモ接合性である個体とヘテロ接合性である個体との識別を可能にするキットも提供される。このようなキットは、Nickerson et al.(Proc. Natl. Acad. Sci. USA 87: 8923-8927, 1990)に記載されているように、オリゴヌクレオチド連結アッセイ(OLA)を行うために必要な材料を提供する。特定の態様において、これらのキットは、本明細書に記載したような、対象のLMNA配列における多型を検出するように設計された1つまたは複数のマイクロタイタープレートアッセイを含む。
【0202】
これらのキットの一部のものにおける補足的な構成要素には、アッセイ法を行うための指示書が含まれうる。指示書は、試験者が、LMNA対立遺伝子がホモ接合性であるかヘテロ接合性であるかを判定することを可能にすると考えられる。キットには、反応容器および補助的試薬(色素原、緩衝液、酵素などの色素原、緩衝液、酵素など)を含めることもできる。
【0203】
キット中に、OLA反応に用いるための1つまたは複数の対照配列を提供することも有益でありうる。適切な陽性対照配列の設計は当業者に周知である。
【0204】
実施例14:ラミンAノックアウトおよび過剰発現のトランスジェニック動物
ラミンAタンパク質を低発現または過剰発現する変異体生物は研究に有用である。このような変異体は、健常および/または病的な生物におけるLラミンAの生理学的および/または病理学的な役割に関して、例えば、老化ならびに老化に関連した疾患および状態(早老症を含む)の特性決定において、洞察をもたらす。これらの変異体は「遺伝子操作」されており、これはヌクレオチドの形態にある情報が、通常であれば存在しないと思われる場所または組合せで変異体のゲノムに導入されていることを意味する。このような方法で導入されたヌクレオチドは「非天然」と呼ばれる。例えば、天然のLMNA遺伝子の上流に挿入された、LMNAのものでないプロモーターは、非天然であると呼ばれる。細胞に形質転換により導入されたプラスミド上のLMNA遺伝子追加的コピーも非天然であると考えられる。
【0205】
変異体は、例えば、ラミンAを過剰発現もしくは低発現するか、またはラミンAを全く発現しない、または変異型のラミンA(例えば、本明細書に記載した変異1対立遺伝子によって生じるスプライスバリアントなど)を発現する、哺乳動物(マウスなど)から産生させることができる。過剰発現変異体は、生物におけるLMNA遺伝子の数を増加させること、またはマウス乳癌ウイルス(MMTV)プロモーターもしくは乳清酸性タンパク質(WAP)プロモーターもしくはメタロチオネインプロモーターなどの構成性または誘導性またはウイルス性のプロモーターの制御下にあるLMNA遺伝子を生物に導入することによって作製される。ラミンAを低発現する変異体は、誘導性もしくは抑制性のプロモーターを用いることにより、またはLMNA遺伝子を欠失させることにより、または例えばトランスポゾン挿入による遺伝子の破壊によってLMNA遺伝子の機能を破壊もしくは制限することにより、作製することができる。
【0206】
上記に考察したように、ラミンAの発現を低下させるか、または阻害するために、構成性または誘導性のプロモーターの下にあるアンチセンス「遺伝子」またはsiRNAを生物に導入することができる。
【0207】
遺伝子工学を用いて遺伝子発現を無視し得るレベルにまで打ち消すか、または減少させた場合に、遺伝子は「機能的に除去」されている。本出願において、変異体が改変または機能的に除去されたLMNA遺伝子を有すると言及する場合、これはLMNA遺伝子およびこの遺伝子の任意のオルソログのことを指す。変異体が、「通常のコピー数より多く」の遺伝子を有すると言及する場合、これはその変異体が野生型の生物、例えば二倍体のマウスまたはヒトに認められる通常の数より多くの遺伝子を有することを意味する。
【0208】
変異型ラミンAを過剰発現する変異体マウスは、マウス乳癌ウイルス(MMTV)プロモーターまたは乳清酸性タンパク質(WAP)プロモーターなどのプロモーターによって誘導されるLMNA遺伝子を有するプラスミドを構築することによって作製しうる。このプラスミドをマイクロインジェクションによってマウス卵母細胞に導入することもできる。この卵母細胞を偽妊娠させた雌に移植し、同腹仔を導入遺伝子の挿入に関してアッセイする。その後、導入遺伝子を含む多数の系統を研究のために利用することができる。
【0209】
WAPは授乳期間中の乳腺発現に対する特異性が極めて高く、MMTVは乳腺、唾液腺、およびリンパ系組織を含むさまざまな組織で発現される。例えば、メタロチオネインプロモーターなどの他の多くのプロモーターを、さまざまな発現パターンを得るために用いることができる。
【0210】
マウスに与えることができる物質(テトラサイクリンなど)によって調節されるプロモーターにより、対象となる発現構築物が誘導されるような、誘導可能な系を作製することができる。このような技法は当技術分野で周知である。
【0211】
具体的なトランスジェニックマウスの一例は、G608G変異の一方が重複している、HGPSのマウスモデルである。マウス配列はこの場合には完全に同一であるため、これによって、ラミンAによる、ヒトにおけるものと同じ種類の結果が生じると考えられる。
【0212】
実施例15:ノックイン生物
ノックアウト系に加えて、野生型タンパク質の発現は消失しているものの、異なる型(通常は変異型)の同じタンパク質の発現を獲得した「ノックイン体」を作製することも有益である。
【0213】
例えば、優性変異体タンパク質の影響を検討するためのモデル系を得る目的で、本明細書で提供した優性変異型ラミンAタンパク質をノックアウト環境において、例えば、LMNA発現に関して欠損性または選択的欠損性(例えば、誘導性ノックアウト)が付与された変異体マウスにおいて発現させることが可能である。特定の態様においては、この結果生じたノックイン生物により、老化、動脈硬化および/またはHGPSに似た状態を研究するための系が得られる。
【0214】
関連した技術分野の当業者は、ノックイン生物の作製方法を把握している。例えば、Rane et al.(Mol. Cell Biol., 22:644-656, 2002);Sotillo et al.(EMBO J., 20: 6637-6647, 2001);Luo et al.(Oncogene, 20:320-328, 2001);Tomasson et al,(Blood, 93:1707-1714, 1999);Voncken et al.(Blood, 86: 4603-4611, 1995);Andrae et al.(Mech.Dev., 107: 181-185, 2001);Reinertsen et al.(Gene Expr., 6: 301-314, 1997);Huang et al.(Mol. Med., 5: 129-137, 1999)を参照されたい。
【0215】
実施例16:治療用化合物の開発
いくつかの態様において、本開示はさらに、被験化合物を、LMNAにおける変異、特に短縮変異型のラミンAを生じさせる変異1および変異2などの優性変異ならびにLMNAにおける他の変異によって媒介される疾患または状態を治療する、検出する、分析する、回復させる、改善させる、および/または予防する能力に関してスクリーニングするための新規な方法に関する。詳細には、本開示は、HGPSならびに他の早老性の状態および疾患、動脈硬化およびアテローム性動脈硬化を含む、老化に関連または付随する疾患または状態の治療、回復、改善および/または予防のために用いうる被験化合物を同定するための方法を提供する。
【0216】
目的の化合物(これは、コンビナトリアルライブラリー、天然物、既知の治療薬、低分子量無機分子などを非制限的に含む、任意の供給源からのものでありうる)の検査は、例えば、本明細書に記載した新規ラミンAバリアントまたは別のバリアント型ラミンAタンパク質を化合物に対して曝露させることによって行うことができ、もし化合物がラミンAバリアントのいずれかを阻害するならば、その化合物を、細胞が培養下で行いうる分裂の数を増加させる能力といった抗疾患特性に関してさらに評価する。具体的な例として、検査方法は、ハイスループット法、例えばアレイを用いる方法および/またはコンピュータにより可能となる方法である。
【0217】
1つの面は、HGPSまたは動脈硬化もしくはアテローム性動脈硬化などの加齢性疾患の治療、予防または回復のために有効な化合物のスクリーニング方法であって、提供されたラミンAバリアントまたは別のドミナントネガティブ性ラミンAバリアントの化合物による阻害を確かめることを含む方法を伴う。いくつかの態様において、このスクリーニング方法はさらに、化合物が細胞培養下にある線維芽細胞などの細胞の増殖または寿命を向上させるか否かを判定することを含む。このような方法の具体的な例において、培養線維芽細胞はHGPSの対象に由来する;また別の例において、それらは中央値もしくは規定された年齢を上回る対象から、または中央値もしくは規定された年齢を上回ることが判明している家族に属する対象から入手した線維芽細胞である。
【0218】
また別の例において、スクリーニング方法は、目的の化合物で処理した細胞(早老症または早老性疾患を有することが判明している対象からの細胞またはその対象に由来する細胞など)における核膜の形態を調べて、化合物が形態を変化させるか否かを判定することを含む。核膜の形態を観察する方法は当業者には周知であり、これにはラミン(例えば、抗体または他の特異的結合因子を用いる)またはDNA(例えば、DAPIを用いる)に対する染色が非制限的に含まれる。続いて、形態をより正常に近づける(例えば、早老症も早老性疾患も有しないことが判明している対象からの細胞(または対象に由来する細胞)において認められるものにより近づける)化合物を、さらなる検査および評価のために選択する。
【0219】
これらの様式のいずれかにおける化合物のスクリーニングにより、HGPSおよび他の早老性疾患ならびに動脈硬化およびアテローム性動脈硬化を含む加齢性の疾患および状態を治療するための有益であって改良されている可能性のある化合物を、過去に可能であったよりもより迅速かつより高い精度で同定することができる。
【0220】
本開示は、LMNA遺伝子における、特にこの遺伝子のエクソン11における変異と遺伝病HGPSとの間の関連性を提供する。他の早老性疾患と関連性のある他のLMNA変異も同定されている。本開示はさらに、LMNA遺伝子の対立遺伝子またはラミンAの発現の異常の同定に基づいて、早老症および例えば動脈硬化またはアテローム性動脈硬化などの他の老化関連疾患を検出する方法、診断する方法、治療する方法および別の様式によって影響を及ぼす方法も提供する。記載した方法の厳密な詳細を、記載した発明の精神を逸脱することなく、変更または改変しうることは明らかであると考えられる。本発明者らは、以下の特許請求の範囲の範囲および精神に含まれるそのような改変および変更のすべての権利を主張するものである。
【図面の簡単な説明】
【0221】
【図1A】染色体1qの分節性の片親性イソダイソミー(UPD)であることが特定された2例のHGPS症例の間でのマーカーの比較を示している。マーカーのサブセットおよびそれらの遺伝子型を示している。平均間隔が1.75cMである、100個を上回る染色体1q特異的マイクロサテライトマーカーを分析した。図示されているように、q腕上のすべてのマーカーは少なくともマーカー1q22からマーカー1q44まではホモ接合性を示した。SKYおよびGバンド法ではこれらの個体に関して正常な核型が認められ、他の染色体にそれ以外のホモ接合性領域は存在せず、これによって近親婚である可能性は否定された。NAは試料が得られなかったことを示す。
【図1B】Brown et al.(ASHG Abstract, 1990)によって記載された核型であり、より重症型のHGPSであった個体(サンプルC8803)の核型分類を示している。この対象は、染色体1q上の均衡型逆位挿入(balanced inverted insertion)に関してモザイク性であった。
【図1C】発端者C8803(この患者に対するもう1つのサンプルIDはAG10548である)の遺伝子型系統図を示しており、これにより、1q21.3と1q23.1との間に約6Mbの父性欠失が示された。父性欠失領域における情報価値のあるマーカーのサブセットおよびそれらの遺伝子型を示している。枠で囲んだ区間は、母親のみから遺伝した領域である。このサンプルは染色体再構成に関してモザイク性であったが(T. Brown et al., ASHG Abstract, 1990により以前に報告)、欠失は細胞の100%に影響を及ぼしているように思われた。
【図1D】欠失区間内部にあるBACプローブを用いた、C8803線維芽細胞からの分裂中期スプレッドに対するFISHハイブリダイゼーション分析を示している。この分裂中期は核型上は正常と思われるモザイク性サンプルにおける細胞の1つからのものであるが、第1染色体の一方のBACシグナルの完全な欠失を明らかに示している。
【図1E】サンプルC8803で観察された1q21.3〜q23.2の父性欠失領域のマップである。マイクロサテライトマーカーは矢印で示されている;C8803における最大の欠失領域の範囲を規定するマーカーはD1S2346およびD1S2635である。太く短い水平方向の線は、サンプルC8803に対するFISHのために用いたBACプローブを示している。RP1-140J1およびRP11-137M19は欠失領域の外側にあったが、他のBACは内部にあった。この欠失による情報をUPD症例の一方の境界と総合して考えると、HGPS遺伝子の候補区間の4.82Mbの範囲に定めることができる。LMNAはこの区間にある〜80種の既知の遺伝子の1つである。 同定された欠失領域は約80種の遺伝子を含み、その1つがLMNA(ラミンA/Cをコードする)であり、これが図示されている。
【図2A】LMNAにおけるヘテロ接合性塩基置換を示す一連のシークエンシング結果である。一番上の配列図はLMNAのコドン608の周囲の正常配列を示している;中央の図はHGPSサンプルの一方における同じ領域を示している;3番目の図はサンプルAG10801からの配列図を示している。ヘテロ接合性ヌクレオチドはNで表している。
【図2B】本明細書で同定したコドン608の2つの変異で起こる、エクソン11における潜在スプライスドナー部位の活性化の機序を示している。これらの変異(図には変異1および変異2と表示)はエクソン11内部の潜在スプライス部位を活性化し、それによって結果的に生じるタンパク質の構造を変化させるが、最初の検討では外見上「サイレント」であるように見える。スプライスドナーに関するコンセンサス配列は図の最上部に列記している。 正常配列(これは罹患していないすべての一親等血縁者に認められた配列でもある)には、コンセンサススプライス配列に対して2つのミスマッチが認められる。変異1は今日までに同定された2つの変異のうち頻度の高い方であり、この配列を単一のミスマッチがあるものに変化させる。変異2は別のヌクレオチドを変化させることにより、それと同じことを行う。 エクソン11内部の潜在スプライス部位の活性化は、エクソン11の一部をmRNA配列から欠失させる。エクソン12は依然としてインフレームであるため、結果として生じるラミンAタンパク質はちょうど50アミノ酸の内部欠失を有する。
【図2C】代表的なサンプルに対するRT-PCR実験の結果を示したDNAゲルの図である。正常産物は639bpに認められるが、2例のHGPS発端者(AG03506およびAG10801)では、潜在スプライス部位の活性化に起因する489bpの産物も認められる。レーンは1つおきに、逆転写酵素を用いていない対照からのRT-PCR産物を含んでいる。
【図3】ラミンA/Cに対するモノクローナル抗体を用いたウエスタンブロットである。最初の5つのレーンはEBVにより形質転換を行ったリンパ芽球細胞株から得たタンパク質試料である。次の4つのレーンは初代真皮線維芽細胞から得たタンパク質試料である。「AG03505父親」および「AG03504母親」と表記した試料は、HGPSサンプルAG03506の両親に由来する。HeLa細胞由来のタンパク質試料を陽性対照として用いた;このレーンにおけるラミンAおよびラミンCの移動度が幾分異なることは翻訳後修飾の差異に起因すると推定される。
【図4】罹患していない母親および古典的HGPSの小児から得た初代真皮線維芽細胞に対してラミンA/Cに対する抗体JOL2を用いた免疫蛍光を示した一連の写真である。抗体XB10を用いた場合も同じ結果が得られた。図4a〜4dは、罹患していない母親AG06299からの結果を示している。図4e〜4hは古典的HGPS患者AG11498からの結果を示している。図4aおよび4eにおける抗体はラミンA/Cに対するものである。図4bおよび4fでは細胞はDAPI染色されており、核の位置が示されている。図4cおよび4bにおける抗体はミトコンドリアを染色し、サイトゾルの分布を示している。図4dは図4a〜4cの合成画像である。図4hは図4e〜4gの合成画像である。
【図5】ラミンAタンパク質およびラミンCタンパク質をコードするLMNA遺伝子の2種類の概略図を提示しており、疾患の原因となる変異の位置(図5Aおよび5B)およびタンパク質の模式的構造(図5A)を示している。 LMNA遺伝子には12個のエクソンがあり、ここでは枠で示されている。ラミンAの予想される構造モチーフは、一方がN末端、一方がC末端にある2つの球状ドメインとして示されており、中央部のコイルドコイル領域がこの2つを結びつけている(図5A)。 この図は、個々の変異ではなく、疾患により影響されるエクソンを示している。常染色体優性エメリー-ドレフュス型筋ジストロフィー(AD-EDMD)の原因となる変異はLMNA遺伝子の全体にわたって存在する。拡張型心筋症(DCM)の原因となる変異はエクソン1、3、6、8、10および11に見いだされている;ダニガン型家族性部分的リポジストロフィー(FPLD)と関連性のある変異はエクソン8および11に存在する;肢帯筋ジストロフィー1B(LGMD-1B)と関連性のある変異はエクソン3、6および10に存在する;ならびに、2型シャルコー-マリー-トゥース病(AR-CMT2)と関連性のある1つの変異はエクソン5に存在する。また、下顎骨肢端骨異形成の劣性変異もエクソン9に存在する。
【配列表フリーテキスト】
【0222】
配列の簡単な説明
本明細書に列記した核酸配列およびアミノ酸配列は、米国特許法施行規則1.822条(37 C.F.R. 1.822)に定義された、ヌクレオチド塩基に関する標準的な一文字略号およびアミノ酸配列に関する三文字コードを用いて示されている。各々の核酸配列の一方の鎖のみが示されているが、表示された鎖に対するいかなる言及にも相補鎖が含まれるものと解釈される。
【0223】
SEQ ID NO: 1は、正常(野生型)LMNAの核酸配列およびそれから導き出されたアミノ酸配列を示している。この配列はAH001498に由来するが、Fisher et al.(PNAS USA, 83: 6450-6454, 1986)に従ってコドン位置555および556が修正されている;訂正されたcDNA配列はGenBankアクセッション番号NM_170707(ラミンA)およびNM_005572(ラミンC)にも示されている。LMNAのゲノムDNA配列およびmRNA配列(エクソン3〜12)はGI 292250(アクセッション番号L12401と同じ)に示されている。さらに、LMNAエクソンのすべて(1、2および3〜12)に加えて5'および3' UTRがアクセッション番号AH001498に記載されている。
【0224】
SEQ ID NO: 2は、正常ラミンAタンパク質のアミノ酸配列を示している。
【0225】
SEQ ID NO: 3は、LMNAの正常エクソン11の核酸配列を示している。
【0226】
SEQ ID NO: 4は変異1(G608G(GGC>GGT)とも称する)を有するLMNAのエクソン11の核酸配列を示している。
【0227】
SEQ ID NO: 5は、変異2(G608S(GGC>AGC)とも称する)を有するLMNAのエクソン11の核酸配列を示している。
【0228】
SEQ ID NO: 6は、変異1(G608G(GGC>GGT))および変異2(G608S(GGC>AGC))のいずれかのイントロン/エクソンプロセシング(いずれも同一の予想される変異型cDNA配列をもたらす)によって生じる、予想されるcDNA(および、それによってコードされる、それから導き出されたアミノ酸配列)を示している。この配列は、潜在スプライス部位の活性化が原因でスプライシングにより除去される野生型LMNA cDNAのエクソン11内部の150ヌクレオチドを欠いている。
【0229】
SEQ ID NO: 7は、変異1または変異2のいずれかの試料中のcDNAによってコードされる変異型ラミンAタンパク質のアミノ酸配列を示している。このタンパク質は、SEQ ID NO: 2に示されている正常ラミンAよりも50アミノ酸短い。
【0230】
SEQ ID NO: 8〜57は、染色体1q21.3〜23.1上のマイクロサテライトマーカー(表1に記載)の分析のために用いたプライマーの核酸配列を示している。
【0231】
SEQ ID NO: 58〜63は、LMNAの変異分析のために用いたプライマーの核酸配列を示している。
【0232】
SEQ ID NO: 64および65は、エクソン11のRT-PCR分析のために用いたプライマーの核酸配列を示している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象(subject)における優性LMNA変異と関連性のある生物学的状態を検出する方法であって、対象がLMNAにおける変異を有するか否かを判定する段階を含み、変異がヒトLMNAのコドン608、ヒトLMNAのコドン644、ヒトLMNAのコドン145、ヒトLMNAのコドン471、ヒトLMNAのコドン527、ヒトLMNAのコドン269またはそれらの2つもしくはそれ以上における、またはそれらに対応する、バリアント(variant)核酸配列を含む方法。
【請求項2】
バリアント核酸配列が、G608G(GGC>GGT)、G608S(GGC>AGC)、またはR644C、E145K、R471C、R527CもしくはA269Vをコードするバリアントを含む、請求項1記載の方法。
【請求項3】
変異が優性変異であり、バリアント核酸配列がG608G(GGC>GGT)またはG608S(GGC>AGC)を含む、請求項1記載の方法。
【請求項4】
LMNA核酸と関連性のある対象の生物学的状態を検出する方法であって、対象からの試料における:
疾患と関連性のあるLMNA核酸における変異;
LMNA核酸の発現の変化;または
試料における変異型LMNA核酸の発現、
を検出する段階を含み、変異、発現の変化または変異型LMNA核酸の発現によって対象がその生物学的状態を有することが示される方法。
【請求項5】
対象における短縮型(truncated)ラミンA変異と関連性のある生物学的状態を検出する方法であって、対象が短縮型ラミンAバリアントタンパク質を有するか否かを判定する段階を含む方法。
【請求項6】
短縮型ラミンAバリアントタンパク質が、SEQ ID NO: 7に示された配列から本質的になる配列を有する、請求項5記載の方法。
【請求項7】
対象がLMNAにおける変異を有するか否かの判定が、
対象からの試料に含まれる少なくとも1つのLMNA分子を、LMNA特異的結合因子(LMNA-specific binding agent)を含む試薬と反応させてLMNA:因子複合体を形成させる段階
を含む、請求項1記載の方法。
【請求項8】
請求項7記載の方法を用いて対象における変異型LMNA分子を検出することによって、対象が優性LMNA変異と関連性のある生物学的状態を有するか否かを判定するためのキットであって、
容器;および
その内部に含まれる、LMNA特異的結合因子
を含むキット。
【請求項9】
LMNA特異的結合因子がLMNA特異的オリゴヌクレオチドまたはラミンAタンパク質特異的結合因子を含む、請求項8記載のキット。
【請求項10】
ラミンAタンパク質特異的結合因子がラミンAバリアントタンパク質の内部のエピトープとは特異的に結合しうるが野生型ラミンAのエピトープとは結合しない、請求項9記載のキット。
【請求項11】
LMNA特異的オリゴヌクレオチドがLMNA変異と特異的にハイブリダイズしうる、請求項9記載のキット。
【請求項12】
変異が、変異1(G608G(GGC>GGT))または変異2(G608S(GGC>AGC))を含む、請求項11記載のキット。
【請求項13】
対象における変異型LMNA配列を検出することによって、対象が優性LMNA変異と関連性のある生物学的状態を有するか否かを判定するためのキットであって、
容器;
その内部に含まれる、LMNA変異配列に対して特異的な少なくとも1つのオリゴヌクレオチド;ならびに
キットを用いるための指示書であって、
試料における変異型LMNA核酸の存在を検出するための方法を実施するため;および
その方法によって生成されたデータを分析するため
の段階を示した指示書
を含み、
指示書が、試料における変異型核酸の存在によって個体がその生物学的状態を有するかそれに対する素因があることが示されることを示している、キット。
【請求項14】
対象が優性ラミンA変異と関連性のある生物学的状態を有するか否かを判定するためのキットであって、
第1の容器;
その内部に含まれる、ラミンAバリアント特異的抗体;
第2の容器;
その内部に含まれる、陰性対照試料;ならびに
キットを用いるための指示書であって、
対象からの組織および/または体液の被験試料におけるラミンAバリアントタンパク質の量を検出するための検査アッセイを実施するため、
陰性対照試料におけるラミンAバリアントタンパク質の量を検出するための陰性対照アッセイを実施するため;ならびに
検査アッセイおよび陰性対照アッセイによって生成されたデータを比較するため
の段階を示した指示書
を含み、
指示書が、被験試料におけるラミンAバリアントタンパク質の量が陰性対照試料におけるラミンAバリアントタンパク質の量を上回ることによって対象がその生物学的状態を有することが示されることを示している、キット。
【請求項15】
ラミンAバリアントタンパク質が短縮(truncation)を含む、請求項14記載のキット。
【請求項16】
生物学的状態が早老性疾患を含む、請求項1から15のいずれか一項記載の方法。
【請求項17】
早老性疾患がハッチンソン-ギルフォード早老症候群である、請求項16記載の方法。
【請求項18】
生物学的状態が動脈硬化またはアテローム性動脈硬化を含む、請求項1から15のいずれか一項記載の方法。
【請求項19】
哺乳動物におけるラミンA媒介性の疾患または状態に影響を及ぼすのに有用な化合物をスクリーニングする方法であって、被験化合物が配列KASASGSGAQSPQNCSIM(SEQ ID NO: 7の597位から614位まで)の少なくとも5個の連続したアミノ酸を含むポリペプチドと結合または相互作用するか否かを判定する段階、およびそのように結合する化合物を選択する段階を含む方法。
【請求項20】
化合物の結合によってラミンAバリアントタンパク質の生物活性が阻害される、請求項19記載の方法。
【請求項21】
被験化合物を被験細胞に対して適用する、請求項19記載の方法。
【請求項22】
請求項19記載の方法によって選択された化合物。
【請求項23】
請求項19記載の化合物、および少なくとも1つの薬学的に許容される担体または添加剤を含む、組成物。
【請求項24】
以下に示されたアミノ酸配列を含む、野生型ラミンAタンパク質と比較して内部欠失を有する実質的に精製されたヒトラミンAタンパク質:
(a)SEQ ID NO: 7;
(b)ラミンAタンパク質が内部欠失を含むようにコドン608に野生型との差異を含む、(a)に対して少なくとも80%の配列同一性を有する配列;または
(c)ラミンAタンパク質が内部欠失を含むようにコドン608に野生型との差異を含む、(a)もしくは(b)の保存的バリアント。
【請求項25】
請求項24記載のラミンAタンパク質をコードする、単離された核酸分子。
【請求項26】
以下に示されたアミノ酸配列を含む、実質的に精製された変異型ラミンAタンパク質:
(a)アミノ酸バリアントR644Cを含む、SEQ ID NO: 2;
(b)アミノ酸バリアントE145Kを含む、SEQ ID NO: 2;
(c)アミノ酸バリアントR471Cを含む、SEQ ID NO: 2;
(d)アミノ酸バリアントR527Cを含む、SEQ ID NO: 2;
(e)アミノ酸バリアントA269Vを含む、SEQ ID NO: 2;
(f)(a)から(e)のいずれか1つに対して少なくとも80%の配列同一性を有する配列であって、(a)から(e)に特定されたアミノ酸バリアントの1つもしくは複数を含む配列;または
(g)(a)から(e)に特定されたアミノ酸バリアントの1つもしくは複数を含む、(a)から(f)のいずれか1つの保存的バリアント。
【請求項27】
請求項26記載の変異型ラミンAタンパク質をコードする、単離された核酸分子。

【図1A】
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【図1B】
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【図1C】
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【図1D】
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【図1E】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2006−507845(P2006−507845A)
【公表日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−501470(P2005−501470)
【出願日】平成15年10月17日(2003.10.17)
【国際出願番号】PCT/US2003/033058
【国際公開番号】WO2004/035753
【国際公開日】平成16年4月29日(2004.4.29)
【出願人】(505004949)アメリカ合衆国 (7)
【出願人】(505143293)ザ プロジェリア リサーチ ファウンデーション インコーポレーティッド (1)
【出願人】(505143318)リサーチ ファウンデーション フォー メンタル ハイジーン インコーポレーティッド (1)
【Fターム(参考)】