説明

Liイオン電池用正極活物質、およびその製造方法

【課題】 環境に低負荷であり、高価な装置を必要としないで、容量が高く、サイクル特性のよいLiイオン電池用正極活物質、およびその製造方法を提供する。
【解決手段】 球状LiFePO粉末と、ロッド状LiFePO粉末とを含み、さらに前記球状LiFePO粉末および/または前記ロッド状LiFePO粉末の内部および/または表面にカーボンナノファイバーが存在することを特徴とする、Liイオン電池用正極活物質である。この正極活物質は、リチウム化合物、鉄化合物、リン酸化合物、およびカーボンナノファイバーを含有する水溶液に、不活性雰囲気中、還元性雰囲気中または真空雰囲気中で超音波を照射しながらLiFePOを合成することにより製造する。好ましくは、上記水溶液が、さらに水と相溶性のある極性溶媒を含有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Liイオン電池用正極活物質として用いられるLiFePO、およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話やノート型パソコン等のポータブル電子機器の発達や、電気自動車の実用化等に伴い、小型軽量でかつ高容量の二次電池が必要とされている。現在、この要求に応える高容量二次電池の正極材料としてLiCoO等のリチウム含有遷移金属酸化物を用い、負極活物質として炭素系材料を用いたリチウムイオン二次電池が商品化されている。
【0003】
ところが、LiCoOを用いたリチウムイオン電池は、小型電池としての性能は優れているものの、原料のコバルト埋蔵量が少ないため、資源的制約があり、激しい価格変動があることに加えて、充電時に何らかの原因で内部短絡が生じた際や過充電の際に、LiCoOからの酸素放出により激しい発熱が起こり、電解液を燃焼、電池を爆発させる危険性を有している等の問題を抱えている。
【0004】
今後、電気自動車やハイブリッド車等の環境対応車の開発が重要になってくる状況を考慮すると、安全でかつ安価なリチウムイオン電池用の正極材料が必要とされてくる。このような状況下、Liイオン電池の正極材料として、原料の豊富な鉄系の材料、特にLiFePOに期待が持たれている。
【0005】
しかし、LiFePOは電子伝導性が非常に低いため、単に導電助剤を共存させて正極を構成するだけでは不十分であり、優れた電池特性の確保が困難である。そこで、LiFePOを用いたリチウムイオン電池用の正極材料において、電子伝導性を高める技術が検討されている。
【0006】
例えば、リチウム化合物、鉄化合物、リン含有アンモニウム塩、炭素物質微粒子を混合して混合物を得る原料混合工程と、該混合物を600℃以上750℃以下の温度で焼成する焼成工程を含む方法により製造された、炭素含有リチウム鉄複合酸化物が、示されている(特許文献1)。また、炭素−リン酸鉄複合体を沈殿により製造する工程、上記炭素−リン酸鉄複合体とリン酸リチウムとを含有する共沈物を製造する工程、上記共沈物を焼成する工程を有する炭素−オリビン型リン酸鉄リチウム複合粒子の製造方法が示されている(特許文献2)。
【0007】
また、リン酸鉄リチウムの原料に電子伝導性物質として炭素を加えて、分散又は粉砕処理を行い、その後、熱水条件下で反応させるリン酸鉄リチウムの製造方法が、示されている(特許文献3)。
【0008】
しかしながら、上記の製造方法で使用されている炭素材料は、いずれも粉末であり、各原料と炭素材料を、均一な状態で製造することは困難である。また、上記の炭素−リン酸鉄複合体とリン酸リチウムとを含有する共沈物を用いる製造方法には、炭素粉末として、カーボンナノファイバーが例示されているが(特許文献2の第0022段落)、カーボンナノファイバーの分散性は乏しいので、単純にカーボンナノファイバーを各原料と混合焼成しただけでは、カーボンナノファイバーの凝集物が正極材料中に形成され、十分な効果が発揮できない。また、上記の分散又は粉砕処理を行った後、熱水条件下で反応させる方法(特許文献3)では、分散又は粉砕処理によって炭素材料の分散性は高まる可能性はあるが、工程が多く複雑で、手間やコストがかかり、安価であるという鉄系材料のメリットを活かし難い。
【0009】
加えて、上記のような鉄系正極材料の合成においては、主原料は安価であるが、その合成方法には、一般的には固相反応や水熱合成(特許文献3では、「熱水処理」と記載)が用いられるため、手間やコストがかかる。さらに、固相反応では一次粒子径が大きくなる、水熱合成ではオートクレーブを用いるため、高圧条件となり、作業環境上の安全維持が必要となる、という課題がある。その課題を改善している方法の例として、出発原料であるリチウム化合物、鉄化合物、リン酸化合物を溶解させた水溶液に、超音波を照射して反応を行う方法が示されている(特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2003−34534号広報
【特許文献2】特開2007−35295号広報
【特許文献3】特表2007−511458号広報
【特許文献4】特開2007−250203号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、上記の出発原料であるリチウム化合物、鉄化合物、リン酸化合物を溶解させた水溶液に、超音波を照射して反応を行う方法では、放電容量が60〜70mAh/gと大きくなく、充放電を繰り返したときの容量劣化、いわゆるサイクル特性も十分ではない。
【0012】
そこで、発明者らは、鋭意研究した結果、LiFePOを、超音波を用いで製造する方法において、原料溶液に、カーボンナノファイバー分散液を添加した後、超音波を照射しながら合成すると、特定形状で微細なLiFePO粉末であって、LiFePO粉末内部および表面にカーボンナノファイバーを含むLiイオン電池用正極活物質を合成できることを見出した。
【0013】
ここで、上記方法では、水溶液への超音波照射により水から生じたOHラジカルがHとなって酸化剤として作用し、Feの一部を2価から3価にしてしまう。その結果、目的とする物質中でそれらが不純物となり、電池特性が低下してしまう場合がある。そこで、LiFePOを、超音波を用いで製造する方法において、原料溶液に、カーボンナノファイバーに加えて、さらに水と相溶性のある極性溶媒を添加した後、超音波を照射しながら合成すると、LiFePOの容量やサイクル特性を顕著に改善できることを見出した。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、以下に示す構成によって上記課題を解決したLiイオン電池用正極活物質、およびその製造方法に関する。
(1)球状LiFePO粉末と、ロッド状LiFePO粉末とを含み、さらに前記球状LiFePO粉末および/または前記ロッド状LiFePO粉末の内部および/または表面に、カーボンナノファイバーが存在することを特徴とする、Liイオン電池用正極活物質。
(2)球状LiFePO粉末の平均粒径が80〜600nmであり、ロッド状LiFePO粉末の平均短軸径が20〜300nm、平均長軸径が100〜2000nmであり、かつカーボンナノファイバーの平均短軸径1〜100nm、アスペクト比が5以上である、上記(1)記載のLiイオン電池用正極活物質。
(3)リチウム化合物、鉄化合物、リン酸化合物、およびカーボンナノファイバーを含有する水溶液に、不活性雰囲気中、還元性雰囲気中または真空雰囲気中で超音波を照射しながらLiFePOを合成することを特徴とする、Liイオン電池用正極活物質の製造方法。
(4)水溶液が、さらに水と相溶性のある極性溶媒を含有する、上記(3)記載のLiイオン電池用正極活物質の製造方法。
(5)水と相溶性のある極性溶媒が、水酸基を有する、上記(4)記載のLiイオン電池用正極活物質の製造方法。
(6)水と相溶性のある極性溶媒が、炭素数が3個以上のアルコールである、上記(5)記載のLiイオン電池用正極活物質の製造方法。
(7)炭素数が3個以上のアルコールが、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、2−メチルプロパノール、および2−メチル−2−プロパノールからなる群より選択される少なくとも1種である、上記(6)記載のLiイオン電池用正極活物質の製造方法。
(8)カーボンナノファイバーの平均短軸径が1〜100nmであり、かつアスペクト比が5以上である、上記(3)〜(7)のいずれか記載のLiイオン電池用正極活物質の製造方法。
(9)カーボンナノファイバーを、水溶液中のFeイオン:1質量部に対して2.98×10−5〜2.98×10質量部、および/または水溶液中のLiイオンに対して8.00×10−5〜8.00×10質量部含有する、上記(3)〜(8)のいずれか記載のLiイオン電池用正極活物質の製造方法。
(10)超音波の周波数が、200kHz〜600kHzである、上記(3)〜(9)のいずれか記載のLiイオン電池用正極活物質の製造方法。
(11)リチウム化合物が、水酸化リチウム、クエン酸リチウム、シュウ酸リチウム、リン酸リチウム、および炭酸リチウムからなる群より選択される少なくとも1種である、上記(3)〜(10)のいずれか記載のLiイオン電池用正極活物質の製造方法。
(12)鉄化合物が、クエン酸鉄、シュウ酸鉄、リン酸鉄および硫酸鉄からなる群より選択される少なくとも1種である、上記(3)〜(11)のいずれか記載のLiイオン電池用正極活物質の製造方法。
(13)リン酸化合物が、リン酸二水素アンモニウム、リン酸水素二アンモニウム、およびリン酸からなる群より選択される少なくとも1種である、上記(3)〜(12)のいずれか記載のLiイオン電池用正極活物質の製造方法。
(14)超音波を照射しながらLiFePOを合成した後、さらに不活性雰囲気中、還元性雰囲気中または真空雰囲気中、300〜800℃で加熱をする、上記(3)〜(13)のいずれか記載のLiイオン電池用正極活物質の製造方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明(1)によれば、かつ物質の放電容量が高く、かつ、カーボンナノファイバーにより、導電性が顕著に改良されたLiイオン電池用正極活物質が得られ、これにより、放電容量が高く、サイクル特性の良好なLiイオン電池を、容易に製造することができる。
【0016】
本発明(3)によれば、容量が高く、サイクル特性のよいLiFePOを、水溶液中で簡便に製造することができる。ここで、カーボンナノファイバーは、超音波照射時のLiFePO合成の起点となり、かつ製造された正極活物質への導電性付与剤として寄与するという顕著な効果をもたらすと考えられる。カーボンナノファイバーの分散は、超音波照射による水溶液中におけるキャビティ(微細気泡)生成量の増加に寄与し、それが、LiFePOの核となることで、微細粒子を得ることが期待できる。さらに、そのキャビティが圧壊する時の、マイクロジェット流により、結晶成長の抑制が期待できる。また、超音波照射は、水溶液中のカーボンナノなのファイバーの均一分散にも寄与する。この製造方法は、環境に低負荷であり、高価な装置を必要としない点においても優れている。したがって、放電容量、サイクル特性の優れたLiイオン電池を容易に提供することができる。
【0017】
本発明(4)によれば、LiFePO合成時のFeの酸化を抑制できるため、さらに容量が高く、かつサイクル特性のよいLiFePOを、水溶液中で簡便に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】実施例3で作製したLiイオン電池用正極活物質の走査電子顕微鏡写真である。
【図2】実施例3で作製したLiイオン電池用正極活物質の走査電子顕微鏡写真である。
【図3】実施例3で作製したLiイオン電池用正極活物質の透過型電子顕微鏡写真である。
【図4】実施例3で作製したLiイオン電池用正極活物質の透過型電子顕微鏡写真である。
【図5】超音波を用いた製造装置の概略図の一例である。
【図6】実施例1で作製したLiイオン電池用正極活物質の走査電子顕微鏡写真である。
【図7】実施例1で作製したLiイオン電池用正極活物質の走査電子顕微鏡写真である。
【図8】実施例2で作製したLiイオン電池用正極活物質の走査電子顕微鏡写真である。
【図9】実施例2で作製したLiイオン電池用正極活物質の走査電子顕微鏡写真である。
【図10】実施例4で作製したLiイオン電池用正極活物質の走査電子顕微鏡写真である。
【図11】実施例4で作製したLiイオン電池用正極活物質の走査電子顕微鏡写真である。
【図12】実施例5で作製したLiイオン電池用正極活物質の走査電子顕微鏡写真である。
【図13】実施例5で作製したLiイオン電池用正極活物質の走査電子顕微鏡写真である。
【図14】比較例1で作製したLiイオン電池用正極活物質の走査電子顕微鏡写真である。
【図15】比較例1で作製したLiイオン電池用正極活物質の走査電子顕微鏡写真である。
【図16】実施例4と比較例1で作製したLiイオン電池用正極活物質のX線回折図である。
【図17】実施例で合成した活物質を測定するために用いた電気化学セルの構成図である。
【図18】実施例4で得られたLiイオン電池用正極活物質の充放電結果を示す図である。
【図19】実施例5で得られたLiイオン電池用正極活物質の充放電結果を示す図である。
【図20】比較例1で得られたLiイオン電池用正極活物質の充放電結果を示す図である。
【図21】比較例2で得られたLiイオン電池用正極活物質の充放電結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下本発明を実施形態に基づいて具体的に説明する。なお、%は特に示さない限り、また数値固有の場合を除いて質量基準の%である。
【0020】
〔Liイオン電池用正極活物質〕
本発明のLiイオン電池用正極活物質は、球状LiFePO粉末と、ロッド状LiFePO粉末とを含み、さらに前記球状LiFePO粉末および/または前記ロッド状LiFePO粉末の内部および/または表面にカーボンナノファイバーが存在することを特徴とする。
【0021】
LiFePOは、オリビン型であり、好ましい組成は、LiFePO4(式中、x=0〜1を示す)である。ここで、Li、Fe、P、Oの定量分析は、ICP質量分析法で行う。なお、例えば、結晶構造におけるFeのサイトの一部を、Co、Ni、Al、Mg、Cu、Zn、Ge等の他の元素で置換してもよい。
【0022】
例えば、Mn、Mg、Ni、Co、Cu、Zn、Geは、Feと略同等のイオン半径を有し、かつFeとは異なる電位で酸化還元するものである。そのため、Feサイトの一部を、これらの元素の1種以上で置換することにより、リチウム鉄複合酸化物の結晶構造の安定化を図ることができる。したがって、リチウム鉄複合酸化物は、Feのサイトの一部を他の元素Mで置換した、組成式LiFe1−yPO(ここで、Mは、Mn、Mg、Ni、Co、Cu、Zn、Geから選ばれる少なくとも1種であり、y=0〜0.2である)で示されるものとすることが望ましい。特に、資源的にも豊富で安価であるという理由から、置換元素MはMnとすることが望ましい。
【0023】
図1、図2に、実施例3で作製したLiイオン電池用正極活物質の走査型電子顕微鏡写真を示す。図1、図2からわかるように、Liイオン電池用正極活物質は、球状LiFePO粉末と、ロッド状LiFePO粉末とを含む。ここで、球状とは、図1、図2中の○で示されているような断面が多角形状で角が丸い粒状をいい、ロッド状とは、図1、図2中の×で示されているような棒状のものをいう。また、図3、図4に実施例3で作製したLiイオン電池用正極活物質の透過型電子顕微鏡写真を示す。図3、図4から、LiFePO粉末の表面にカーボンナノファイバーが存在し、LiFePO粉末とカーボンナノファイバーが重なって電子線が透過している部分があることがわかる。参考として図14、図15に、カーボンナノファイバーを添加せずに合成した比較例1で作製したLiイオン電池用正極活物質の走査電子顕微鏡写真を示す。図1、図2と、図14、図15との比較から、カーボンナノファイバーの存在により、ロッド状のLiFePO粉末が選択的に合成されていることがわかる。
【0024】
上記LiFePO粉末の平均粒径は、好ましくは0.01〜2μmであり、より好ましくは、0.1〜1μmである。詳しくは、結晶構造維持とリチウムイオンおよび電子の移動距離の観点から、球状LiFePO粉末の平均粒径は、80〜600nmが好ましく、80〜570nmがより好ましい。ロッド状LiFePO粉末の平均短軸径は、20〜300nmが好ましく、80〜250nmがより好ましい。平均長軸径は、100〜2000nmが好ましく、170〜1690nmがより好ましい。ここで、平均粒径は、JEOL製走査電子顕微鏡(型番:JSM−5900)によるSEM写真の観察、あるいはマイクロトラック社製粒度分布測定装置(型番:UPA−EX)を用いて算出する。また、Liイオン電池用正極活物質の比表面積は、3〜70m/gが好ましく、6〜40m/gが、より好ましい。
【0025】
カーボンナノファイバーは、平均短軸径が1〜100nmであり、アスペクト比が5以上であると、導電パス形成及び良好な導電性付与の観点から好ましい。また、アスペクト比は、10000以下であると、分散性の観点から好ましい。なお、水溶液中での分散性の観点から、カーボンナノファイバーの表面は、酸処理等により親水化処理されていると好ましい。図3、4に、実施例3で作製したLiイオン電池用正極活物質の透過型電子顕微鏡写真を示す。図3、4からわかるように、前記球状LiFePO粉末および/または前記ロッド状LiFePO粉末の表面の少なくとも一部に、カーボンナノファイバーが存在する。
【0026】
カーボンナノファイバーは、LiFePOの核形成および粒子成長抑制、良好な導電性付与、良好なサイクル特性の観点から、Liイオン電池用正極活物質:100質量部に対して、0.01〜100質量部であると好ましく、0.03〜30質量部であるとより好ましい。
【0027】
〔Liイオン電池用正極活物質の製造方法〕
本発明のLiイオン電池用正極活物質の製造方法は、リチウム化合物、鉄化合物、リン酸化合物、およびカーボンナノファイバーを含有する水溶液に、不活性雰囲気中、還元性雰囲気中または真空雰囲気中で超音波を照射しながらLiFePOを合成することを特徴とする。また、リチウム化合物、鉄化合物、リン酸化合物、およびカーボンナノファイバーを含有する水溶液が、さらに水と相溶性のある極性溶媒を含有することが好ましい。
【0028】
リチウム化合物は、LiFePOのリチウム源となり、水に溶解可能なものであればよく、このようなリチウム化合物としては、水酸化リチウム、クエン酸リチウム、シュウ酸リチウム、リン酸リチウム、および炭酸リチウム等が挙げられ、リチウム化合物は、これらを単独で或いは2種以上混合して用いてもよい。好ましくは、水酸化リチウム、リン酸リチウム、および炭酸リチウムであり、より好ましくは、水溶性の観点から水酸化リチウムである。詳細にはわかっていないが、水酸化リチウムを含有する水溶液はアルカリ性になる点も好ましいと思われる。純度は、試薬メーカーから特級として市販されているものが好ましい。
【0029】
鉄化合物は、LiFePOの鉄源となり、水に溶解可能なものであればよく、このような鉄化合物としては、クエン酸鉄、シュウ酸鉄、リン酸鉄、硫酸鉄、酸化鉄、および金属鉄等が挙げられ、これらを単独で或いは2種以上混合して用いてもよい。好ましくは、硫酸鉄、リン酸鉄である。硫酸鉄は、水に溶解しやすく、鉄イオンが溶出しやすい材料のためであり、また、その分離した硫酸イオンが電池材料の合成を阻害しない、もしくは電池材料に混合しないため、より好ましい。また、硫酸鉄は価格が安価であるので、より好ましい。
【0030】
リン酸化合物は、LiFePOのリン酸源となり、水に溶解可能なものであればよく、このようなリン酸化合物としては、リン酸二水素アンモニウム、リン酸水素二アンモニウム、およびリン酸等が挙げられ、これらを単独で或いは2種以上混合して用いてもよい。好ましくは、リン酸水素二アンモニウムである。水に可溶で、常圧において、リチウムと反応する観点からである。
【0031】
カーボンナノファイバーについては、上述のとおりであるが、予めカーボンナノファイバーの分散体であると、分散または粉砕処理が不要になるため、好ましい。このカーボンナノファイバーを添加した後、超音波照射をすることにより、LiFePOの微粒子化、さらには均一な結晶化が可能となる。詳細は明らかではないが、カーボンナノファイバーは、導電助剤として作用するだけでなく、LiFePOの核形成剤および粒子成長抑制剤として働いていると考えられる。これは、超音波照射によるキャビティの圧壊が、よく分散されたカーボンナノファイバー周辺で起こり、その周辺でマイクロジェット流が多く発生することになるため、粒子成長が抑制されると考えられる。また、カーボンナノファイバーの添加量により、合成されるLiFePOの形状を変化させることができる。また、超音波による化学反応はキャビティの生成と圧壊によるため、カーボンナノファイバー添加によるキャビティ量の増加は、省エネルギー合成という点でも優れている。
【0032】
水としては、水道水、蒸留水、イオン交換水、純水等が挙げられ、無機イオン不純物混入回避の観点から、イオン交換水、純水等が好ましい。
【0033】
水溶液中でのリチウムイオンの濃度は、0.1〜60g/dmが好ましい。0.1g/dmより低いと反応の進行が遅く合成に時間がかかり、60g/dmより高いと鉄の酸化を引き起こす可能性が高くなる。ただし、上記は出力が200Wのときの条件であり、出力を変更するときにはこの限りではない。
【0034】
水溶液中での鉄イオンの濃度は、0.2〜170g/dmが好ましい。1g/dmより低いと反応の進行が遅く合成に時間がかかり、140g/dmより高いと目的とするLiFePOが合成され難くなる。また、水溶液中での鉄イオンの濃度は、リチウムの濃度の0.01〜4倍が好ましい。0.01倍より低いと反応の進行が遅く合成に時間がかかり、4倍より高いと目的とするLiFePOが合成され難くなる。ただし、上記は出力が200Wのときの条件であり、出力を変更するときにはこの限りではない。
【0035】
水溶液中でのリンの濃度は、0.1〜95g/dmが好ましい。0.1g/dmより低いと反応の進行が遅く合成に時間がかかり、95g/dmより高いと目的とするLiFePOが合成され難くなる。また、水溶液中でのリン酸化合物の濃度は、リチウム化合物の濃度の0.02〜7倍が好ましい。0.02倍より低いと反応の進行が遅く合成に時間がかかり、7倍より高いと目的とするLiFePOが合成され難くなる。ただし、上記は出力が200Wのときの条件であり、出力を変更するときにはこの限りではない。
【0036】
水溶液中でのカーボンナノファイバーの濃度は、8.33×10−4〜1.0×102g/dmが好ましい。8.33×10−4g/dmより低いと反応の進行が遅く合成に時間がかかり、また、LiFePOへの導電性付与が十分でなく、1.0×102g/dmより高いと目的とするLiFePOが合成され難くなる。また、カーボンナノファイバーを、水溶液中のFeイオン:1質量部に対して2.98×10−5〜2.98×10質量部、および/または水溶液中のLiイオン:1質量部に対して8.00×10−5〜8.00×10質量部含有する、と好ましい。製造するLiFePO:1質量部に対しては、カーボンナノファイバーを、1.06×10−5〜1.06×10質量部になるように含有させると好ましい。
【0037】
ここで、上記水溶液に、さらに水と相溶性のある極性溶媒を含有させると、超音波を照射するとき、原料表面のキャビテーション効果の増加に寄与すると考えられ、合成するLiイオン電池用正極活物質の容量やサイクル特性を増加させる。詳しくは後述する。ここで、「水と相溶性のある極性溶媒」とは、室温で、水溶液全体に対して2質量%より多く溶解可能な極性溶媒をいう。この水と相溶性のある極性溶媒としては、アルコール;エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン等の多価アルコール;アセトニトリル;アセトン;酢酸;ジメチルホルムアミド;N―メチルピロリドン;N,N−ジメチルアセトアミド等が挙げられ、水酸基を有すると好ましく、炭素数が3個以上のアルコールがより好ましく、炭素数が3個以上の直鎖状または分岐状のアルコールが、さらに好ましい。炭素数が3個以上のアルコールとしては、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、2−メチルプロパノール、および2−メチル−2−プロパノール等が、さらにより好ましい。水との相溶性の観点から、炭素数が3個以上のアルコールは、炭素数が6個以下であることが、より好ましい。水と相溶性のある極性溶媒は、単独で或いは2種以上混合して用いてもよい。
【0038】
水溶液中での水と相溶性のある極性溶媒の濃度は、水溶液全体の0.5〜50質量%であると好ましく、1〜20質量%であると、より好ましく、2〜10質量%であると、さらに好ましい。0.5質量%より少ないと添加の効果が現れず、50質量%より高いと原材料の溶解の妨げとなる。
【0039】
水溶液は、水中に、上記のリチウム化合物、鉄化合物およびリン酸化合物を添加後、撹拌しながら溶解し、カーボンナノファイバーを好ましくは分散液の状態で添加し、場合により、さらに水と相溶性のある極性溶媒を添加し、撹拌することにより作製することができる。撹拌は、プロペラ撹拌等の常法によればよい。また、水溶液は、脱気または脱酸素をすると、合成中のFeの酸化を防ぐ観点から好ましい。
【0040】
超音波の周波数は、100〜1000kHzであると好ましく、200〜600kHzであると、より好ましい。100kHzより低いと、水溶液を撹拌する効果はあるものの、キャビテーションのサイズが大きいため化学反応作用が小さく、また微細粒子の核形成剤として期待できず、1000kHzより高いとキャビテーションが起こり難く、起こすためには高い出力を要することからエネルギー効率的に好ましくない。
【0041】
図5に、超音波を用いた製造装置の概略図の一例を示す。1は多周波超音波発生装置、2は振動子、3はナス型フラスコ、4は撹拌機、5はガス注入口、6は水槽、7は水溶液、8はガス出口である。なお、本発明を実施するための装置としては、水溶液に超音波を照射することができるものであれば、特に限定されない。
【0042】
本発明のLiイオン電池用正極活物質の製造方法は、以下の反応式により起こると考えられる。
3LiOH・HO+(NHHPO+FeSO・7H
→LiFePO+LiSO+2NH+13H
上記の反応式では、Feは2価のままであるが、実際には副反応としてFeが2価から3価に酸化する反応がわずかに起きており、この酸化反応により、製造するLiFePOの容量が低下し、サイクル特性が劣化していると考えられる。以下の反応式に示すように、水に超音波を照射すると、水が分解し、水素ラジカルとヒドロキシルラジカルが生成する。還元剤である水素ラジカルは、水素となり、水溶液外に放出されるが、酸化剤であるヒドロキシルラジカルは過酸化酸素となって水溶液内に残留し、Feの一部を2価から3価に酸化する。
O→H・ +OH・
2H・ →H
2OH・ →H
2Fe(II)+H→2Fe(III)+2OH
なお、上記中「・」は、ラジカルを示し、特記しない限り、以下の反応式においても同様である。
【0043】
また、カーボンナノファイバーを水溶液に添加すると、生成する過酸化水素の量が増加するため、カーボンナノファイバーの添加量の増加に伴い、生成する過酸化水素の量が増加することが、実験結果からわかっている。過酸化水素の量が増加することから、この過酸化水素を生成する元となるヒドロキシラジカルの量も増加していると推察される。この原因としては、キャビティがCNFに衝突することで圧壊機会が増加するので、CNFを添加しないときより、圧壊の回数が増加し、その現象に伴い生成するヒドロラジカル量も増加する、と推測される。
【0044】
ここで、水と相溶性のある極性溶媒は、超音波を照射すると、水溶液中や原料表面で起こるキャビティの圧壊の際にHラジカルを発生させ、このHラジカルが酸化抑制剤となり、水から生じるOHラジカルからHが発生することを抑制し、Feの2価から3価への酸化反応を抑制することができる。以下に、水と相溶性のある極性溶媒にアルコールを用いる場合の反応式を示す。
2n+1OH→C2n+1O・ +H・
OH・+H・→H
【0045】
詳細は明らかではないが、水と相溶性のある極性溶媒として、例えば2−プロパノール等を用いると、キャビティの圧壊の際にHラジカルを発生させ、このHラジカルが酸化抑制剤となり、LiFePOの合成を促進させる、と考えられる。このように水と相溶性のある極性溶媒によれば、高価な還元剤であるアスコルビン酸ナトリウム等を用いることなく、安価で容易に、かつ環境に低負荷で、高容量で、サイクル特性が良好なLiFePOを得ることができる。他方、水と相溶性のある極性溶媒として、消泡剤としても用いられるエタノール等を使用すると、原料表面でのキャビティの発生を抑制する傾向があるため消泡作用の小さい2−プロパノールが望ましい。
【0046】
以上のように、本発明の製造方法においては、Feの酸化を防ぐことにより所望の効果を得ることができるので、アルゴンガス、窒素ガス等の不活性雰囲気中;水素、一酸化炭素等の還元性雰囲気中;または真空雰囲気中、で超音波を照射する。
【0047】
また、超音波を照射しながらLiFePOを合成した後、さらに不活性雰囲気中、還元性雰囲気または真空雰囲気中、300〜800℃で加熱をすると、LiFePOの高容量化、サイクル特性向上の観点から好ましく、500〜700℃が、より好ましい。300℃より低いと、加熱の効果が得られず、800℃より高いと焼結が進行し粒径が大きくなってしまう。また、加熱時間は、30〜300分が好ましく、60〜180分が、より好ましい。
【0048】
本発明の方法で製造されたLiイオン電池用正極活物質を用いて、リチウムイオン電池用の正極を構成するには、例えば、Liイオン電池用正極活物質を、そのまま活物質として用い、その他については従来公知の正極と同様に、バインダーや、必要に応じて更に炭素材料などの導電助剤を含有する正極スラリーの成形体とすればよい。また、必要に応じて、これらの正極スラリーを、集電体となる導電性基体の片面または両面に、正極活物質層として形成すればよい。
【0049】
本発明の方法で製造されたLiイオン電池用正極活物質を用いたリチウムイオン電池用の正極を用いてリチウムイオン電池を構成する際には、負極、セパレーター、非水電解液、外装体などの各種構成については特に制限はなく、従来公知のリチウムイオン電池と同様の構成を採用することができる。
【0050】
本発明の方法で製造されたLiイオン電池用正極活物質は、電池電極、二次電池用電極の正極活物質として有効に使用される。特に、リチウムイオン電池、リチウムイオンポリマー電池、リチウムポリマー電池等の非水電解液二次電池用正極活物質として極めて有効であり、リチウム一次電池用正極活物質としても有効である。本発明の電極活物質を用いた非水電解液二次電池は、大きな充放電容量と高いエネルギー密度を持ち、優れたサイクル特性、安全性等を発現し、中・大型二次電池や車載用二次電池の正極活物質として有効に適用できる。また、本発明の製造方法は、大掛かりな装置が不要で、容易に合成できるため、時間や手順を短縮し、製造コストを抑えることができる。
【実施例】
【0051】
以下、実施例により、本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0052】
〔カーボンナノファイバー分散液の調整〕
カーボンナノファイバーを硝酸(濃度60%)と硫酸(濃度95%以上)の混合液に、カーボンナノファイバー:硝酸:硫酸=1重量部:5重量部:15重量部の割合で混合し、加熱した後、濾過・水洗を行い、親水化処理を行った。乾燥後、得られたカーボンナノファイバー:5gを、イオン交換水:95cmに分散させ、カーボンナノファイバー分散液を調整した。
【0053】
〔実施例1〕
LiFePOは、脱気したイオン交換水を60cm入れたフラスコに、Li、Fe、Pの原料として、それぞれ水酸化リチウム1水和物:0.3g、硫酸鉄7水和物:0.8g、リン酸水素アンモニウム:0.4gを加え、撹拌した後、カーボンナノファイバー分散液:0.100cmを加え、撹拌して、水溶液を作製した。図5に示す装置を用い、アルゴン雰囲気下、超音波(200kHz)を120分間照射して、正極活物質を合成した。その後、アルゴン雰囲気中、700℃で加熱した。
【0054】
〔実施例2〕
LiFePOは、脱気したイオン交換水を60cm入れたフラスコに、Li、Fe、Pの原料として、それぞれ水酸化リチウム1水和物:0.3g、硫酸鉄7水和物:0.8g、リン酸水素アンモニウム:0.4gを加え、撹拌した後、カーボンナノファイバー分散液:0.500cmを加え、撹拌して、水溶液を作製した。図5に示す装置を用い、アルゴン雰囲気下、超音波(200kHz)を120分間照射して、正極活物質を合成した。その後、アルゴン雰囲気中、700℃で加熱した。
【0055】
〔実施例3〕
LiFePOは、脱気したイオン交換水を57cm入れたフラスコに、Li、Fe、Pの原料として、それぞれ水酸化リチウム1水和物:0.3g、硫酸鉄7水和物:0.8g、リン酸水素アンモニウム:0.4gを加え、撹拌した後、カーボンナノファイバー分散液:0.003cmを加え、さらに、水と相溶性のある極性溶媒として、2−プロパノール:2gを加え、撹拌して、水溶液を作製した。図5に示す装置を用い、アルゴン雰囲気下、超音波(200kHz)を120分間照射して、正極活物質を合成した。その後、アルゴン雰囲気中、700℃で加熱した。
【0056】
〔実施例4〕
LiFePOは、脱気したイオン交換水を57cm入れたフラスコに、Li、Fe、Pの原料として、それぞれ水酸化リチウム1水和物:0.3g、硫酸鉄7水和物:0.8g、リン酸水素アンモニウム:0.4gを加え、撹拌した後、カーボンナノファイバー分散液:0.100cmを加え、さらに、水と相溶性のある極性溶媒として、2−プロパノール:2gを加え、撹拌して、水溶液を作製した。図5に示す装置を用い、アルゴン雰囲気下、超音波(200kHz)を120分間照射して、正極活物質を合成した。その後、アルゴン雰囲気中、700℃で加熱した。
【0057】
〔実施例5〕
LiFePOは、脱気したイオン交換水を57cm入れたフラスコに、Li、Fe、Pの原料として、それぞれ水酸化リチウム1水和物:0.3g、硫酸鉄7水和物:0.8g、リン酸水素アンモニウム:0.4gを加え、撹拌した後、カーボンナノファイバー分散液:0.003cmを加え、さらに、水と相溶性のある極性溶媒として、2−プロパノール:2gを加え、撹拌して、水溶液を作製した。図5に示す装置を用い、窒素雰囲気下、超音波(200kHz)を120分間照射して、正極活物質を合成した。その後、アルゴン雰囲気中、700℃で加熱した。
【0058】
〔実施例6〕
LiFePOは、脱気したイオン交換水を57cm入れたフラスコに、Li、Fe、Pの原料として、それぞれ水酸化リチウム1水和物:0.3g、硫酸鉄7水和物:0.8g、リン酸水素アンモニウム:0.4gを加え、撹拌した後、カーボンナノファイバー分散液:0.500cmを加え、さらに、水と相溶性のある極性溶媒として、2−プロパノール:2gを加え、撹拌して、水溶液を作製した。図5に示す装置を用い、アルゴン雰囲気下、超音波(200kHz)を120分間照射して、正極活物質を合成した。その後、アルゴン雰囲気中、700℃で加熱した。
【0059】
〔比較例1〕
LiFePOは、脱気したイオン交換水を60cm入れたフラスコに、Li、Fe、Pの原料として、それぞれ水酸化リチウム1水和物:0.3g、硫酸鉄7水和物:0.8g、リン酸水素アンモニウム:0.4gを加え、撹拌した後、撹拌して、水溶液を作製した。図5に示す装置を用い、アルゴン雰囲気下、超音波(200kHz)を120分間照射して、正極活物質を合成した。その後、アルゴン雰囲気中、700℃で加熱した。
【0060】
〔比較例2〕
LiFePOは、脱気したイオン交換水を57cm入れたフラスコに、Li、Fe、Pの原料として、それぞれ水酸化リチウム1水和物:0.3g、硫酸鉄7水和物:0.8g、リン酸水素アンモニウム:0.4gを加え、撹拌した後、水と相溶性のある極性溶媒として、2−プロパノール:2gを加え、撹拌して、水溶液を作製した。図5に示す装置を用い、アルゴン雰囲気下、超音波(200kHz)を120分間照射して、正極活物質を合成した。その後、アルゴン雰囲気中、700℃で加熱した。
【0061】
〔参考例1〕
LiFePOは、脱気したイオン交換水を57cm入れたフラスコに、Li、Fe、Pの原料として、それぞれ水酸化リチウム1水和物:0.3g、硫酸鉄7水和物:0.8g、リン酸水素二アンモニウム:0.4gを加え、撹拌した後、エタノール:2gを加え、撹拌して、水溶液を作製した。図5に示す装置を用い、アルゴン雰囲気下、超音波(200kHz、200W)を120分間照射して、LiFePOを合成した。その後、アルゴン雰囲気中、700℃で加熱した。X線回折測定結果より、LiFePO以外にLiPO、Feが不純物として合成されたことがわかった。
【0062】
〔試験例1〕
実施例1で得られた正極活物質をJEOL製走査電子顕微鏡(型番:JSM−5900)で観察した。図6、図7に、その結果を示す。同様に、実施例2の結果を、図8、図9に;実施例3の結果を、図1、図2に;実施例4の結果を、図10、図11に;実施例5の結果を、図12、図13に、示す。また、比較例1で得られたLiFePOを観察した。図14、15に、その結果を示す。
【0063】
〔試験例2〕
実施例3で得られた正極活物質をJEOL製透過型電子顕微鏡(型番:JEM−1200EX)で観察した。その結果を、図3、図4に示す。
【0064】
〔試験例3〕
実施例4、5、比較例1の正極活物質の比表面積をBET法で測定した。表1に、結果を示す。
【0065】
【表1】

【0066】
〔試験例4〕
実施例4で得られた正極活物質を、リガク製X線回折装置を用いて、2θ:10〜70°の範囲でX線回折測定を行った。その結果を図16(a)に示す。同様に、比較例1で得られたLiFePOを測定した。図16(b)に、その結果を示す。
【0067】
〔試験例5〕
図17に、電池特性評価に用いた電気化学セルの構成図を示す。図17では、10は作用極、11は正極および集電体、12は不織布、13はセパレーター、14は負極、15は対極、16は電解液を示す。電極面積は1cmとした。合成したLiFePO粉末、アセチレンブラック(導電助剤)、ポリテトラフルオロエチレン(結着剤)を、質量比70:25:5で混合したもの(総量:0.1g)を正極11とした。負極14には、金属リチウムを用い、電解液16には、ポリカーボネートとジメトキシエタンを体積比1:1で混合した溶液に電解質として1mol/dmのLiClOを溶解した有機溶媒を用いた。集電体11には、ニッケルメッシュ、セパレーター13には、日揮化学株式会社製セパレーター、さらに不織布12には、三井石油化学工業製ポリプロピレン不織布を用いた。
【0068】
充放電測定は、充放電測定装置(北斗電工(株)製 HJ−101 SM6)を用いて行った。測定条件は、20℃の温度条件下、2端子法で、充放電レート0.2C(理論容量分を充放電するのにかかる時間を5時間とするレート)、電圧範囲2.5〜4.0Vで、充電・放電を10回繰り返した。図18に、実施例4で得られた正極活物質の結果を、図19に、実施例5で得られた正極活物質の結果を、図20に、比較例1で、図21に、比較例2で得られたLiFePOの結果を示す。
【0069】
また、表2に、初期放電容量、10サイクル後の放電容量、容量維持率を示す。ここで、容量維持率は、〔(10サイクル後の放電容量)/(初期放電容量)〕である(単位は、「%」)。
【0070】
【表2】

【0071】
〔試験例6〕
カーボンナノファイバー分散液を、それぞれ0、0.100、0.500cm添加した、0.1mol/dmのKI溶液:50cmに、超音波照射(200kHz)をアルゴン雰囲気中で3分間行い、分光光度計(JASCO製V−630)を用いて、溶液中の過酸化水素量を測定した。吸光波長は351nmとした。表3に、吸光度、表4に過酸化水素生成量の結果を示す。
【0072】
【表3】

【0073】
【表4】

【0074】
図1、図2、図6〜図13からわかるように、カーボンナノファイバーを添加して合成した実施例1〜5で得られた正極活物質は、球状粉末およびロッド状粉末であり、粒度分布計(マイクロトラック社製UPA−EX)の結果、粒径は500nm程度(詳しくは、80〜570nmの球状粉末と、短軸径:80〜250nmで長軸径:170〜1690nmのロッド状粉末)と非常に小さかった。これに対して、図14、図15に示すように、カーボンナノファイバーを添加せずに合成した比較例1で得られた正極活物質は、球状粉末であり、粒径も700nm程度(大部分が600〜800nm)であった。また、図16に示すように、実施例4では、全てのピークがLiFePOのピークと一致した。この結果、カーボンナノファイバーの添加による不純物の生成は確認できなかった。比較例1でも、同様に全てのピークがLiFePOのピークと一致した。また、表1からわかるように、合成時のカーボンナノファイバーの含有量の増加により、正極活物質の比表面積が増加した。このことから、合成時の水溶液中のカーボンナノファイバーの濃度増加に伴い、正極活物質中のカーボンナノファイバーの含有量も増加していると考えられる。また、図8〜図13では、板状粉末が観察される。本発明の製造方法では、球状粉末、ロッド状粉末に加えて、板状粉末を製造することができることも一つの特徴であり、カーボンナノファイバーを含む球状粉末、ロッド状粉末から形成された板状粉末は、粒径が大きくなっても電池特性に大きな影響を与えない。なお、水溶液中でのプロパノールの含有量により、板状粒子の生成量を変化させることができる。
【0075】
表2からわかるように、実施例4〜5で得られた正極活物質は、初期放電容量が100〜102mAh/gと大きく、10サイクル後の容量維持率も97〜98%と高かった。特に、実施例4では、カーボンナノファイバー分散液:0.100cmを加えて超音波を照射して合成しているので、充電と放電の電圧差(分極)は0.16Vと小さかった。比較例2では分極は0.24Vであり、0.08V改善が見られた。これはカーボンナノファイバーにより正極の電子伝導性が改善されたためと考えられる。なお、比較例1では、10サイクル後の容量維持率が100%より高くなっているが、LiFePOの表面がアモルファスや不活性なもので覆われていたためである、と考えられる。また、図18、図19からわかるように、分極が抑えられることで、3.2−3.3V以上での放電容量が高く、実用上も好ましいことがわかる。
【0076】
また、表3、表4から、水溶液中のカーボンナノファイバー含有量が増加すると、生成する過酸化水素量が増加している。このことから、カーボンナノファイバーの添加により、ヒドロキシラジカルの量も増加し、これにより過酸化水素量が増加していると推測される。カーボンナノファイバーの添加により生成するヒドロキシルラジカルおよび過酸化水素の量が増加した原因としては、キャビティがカーボンナノファイバーに衝突することで圧壊を起こし、それが存在しない場合と比較して圧壊の回数が増加したことが考えられる。圧壊の回数が多いほど結晶の形成の核となるカーボンナノファイバーの周辺でジェット流が多く発生することとなるため、粒子成長の抑制に効果があると考えられ、カーボンナノファイバーを超音波照射過程で添加することで得られる試料の微粒子化が期待できる.また、カーボンナノファイバー添加により圧壊回数が増加することは、キャビティが結晶形成の核となる場合においても、核形成の機会を増加させるので、微細粒子化につながる。以上より、カーボンナノファイバーはLiFePOの導電助剤としての利用だけでなく、超音波照射過程で添加することで核形成剤および粒子成長抑制剤としての利用も期待できる。
【0077】
以上より、本発明のLiイオン電池用正極活物質は、球状LiFePO粉末と、ロッド状LiFePO粉末とを含み、さらに前記球状LiFePO粉末および前記ロッド状LiFePO粉末の内部および/または表面にカーボンナノファイバーが存在しており、容量が高く、サイクル特性のよいことがわかった。ここで、カーボンナノファイバーは、LiFePO粉末の微細化、電子伝導性の向上に寄与することに加えて、製造プロセスの効率化にも寄与すると考えられる。また、本発明のLiイオン電池用正極活物質の製造方法によれば上記Liイオン電池用正極活物質を、水溶液中で簡便に製造することができる。
【符号の説明】
【0078】
1 多周波超音波発生装置
2 振動子
3 ナス型フラスコ
4 撹拌機
5 ガス注入口
6 水槽
7 水溶液
8 ガス出口
10 作用極
11 正極および集電体
12 不織布
13 セパレーター
14 負極
15 対極
16 電解液

【特許請求の範囲】
【請求項1】
球状LiFePO粉末と、ロッド状LiFePO粉末とを含み、さらに前記球状LiFePO粉末および/または前記ロッド状LiFePO粉末の内部および/または表面に、カーボンナノファイバーが存在することを特徴とする、Liイオン電池用正極活物質。
【請求項2】
球状LiFePO粉末の平均粒径が80〜600nmであり、ロッド状LiFePO粉末の平均短軸径が20〜300nm、平均長軸径が100〜2000nmであり、かつカーボンナノファイバーの平均短軸径1〜100nm、アスペクト比が5以上である、請求項1記載のLiイオン電池用正極活物質。
【請求項3】
リチウム化合物、鉄化合物、リン酸化合物、およびカーボンナノファイバーを含有する水溶液に、不活性雰囲気中、還元性雰囲気中または真空雰囲気中で超音波を照射しながらLiFePOを合成することを特徴とする、Liイオン電池用正極活物質の製造方法。
【請求項4】
水溶液が、さらに水と相溶性のある極性溶媒を含有する、請求項3記載のLiイオン電池用正極活物質の製造方法。
【請求項5】
水と相溶性のある極性溶媒が、水酸基を有する、請求項4記載のLiイオン電池用正極活物質の製造方法。
【請求項6】
水と相溶性のある極性溶媒が、炭素数が3個以上のアルコールである、請求項5記載のLiイオン電池用正極活物質の製造方法。
【請求項7】
炭素数が3個以上のアルコールが、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、2−メチルプロパノール、および2−メチル−2−プロパノールからなる群より選択される少なくとも1種である、請求項6記載のLiイオン電池用正極活物質の製造方法。
【請求項8】
カーボンナノファイバーの平均短軸径が1〜100nmであり、かつアスペクト比が5以上である、請求項3〜7のいずれか1項記載のLiイオン電池用正極活物質の製造方法。
【請求項9】
カーボンナノファイバーを、水溶液中のFeイオン:1質量部に対して2.98×10−5〜2.98×10質量部、および/または水溶液中のLiイオンに対して8.00×10−5〜8.00×10質量部含有する、請求項3〜8のいずれか1項記載のLiイオン電池用正極活物質の製造方法。
【請求項10】
超音波の周波数が、200kHz〜600kHzである、請求項3〜9のいずれか1項記載のLiイオン電池用正極活物質の製造方法。
【請求項11】
リチウム化合物が、水酸化リチウム、クエン酸リチウム、シュウ酸リチウム、リン酸リチウム、および炭酸リチウムからなる群より選択される少なくとも1種である、請求項3〜10のいずれか1項記載のLiイオン電池用正極活物質の製造方法。
【請求項12】
鉄化合物が、クエン酸鉄、シュウ酸鉄、リン酸鉄、硫酸鉄、酸化鉄、および金属鉄からなる群より選択される少なくとも1種である、請求項3〜11のいずれか1項記載のLiイオン電池用正極活物質の製造方法。
【請求項13】
リン酸化合物が、リン酸二水素アンモニウム、リン酸水素二アンモニウム、およびリン酸からなる群より選択される少なくとも1種である、請求項3〜12のいずれか1項記載のLiイオン電池用正極活物質の製造方法。
【請求項14】
超音波を照射しながらLiFePOを合成した後、さらに不活性雰囲気中、還元性雰囲気中または真空雰囲気中、300〜800℃で加熱をする、請求項3〜13のいずれか1項記載のLiイオン電池用正極活物質の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【公開番号】特開2011−181293(P2011−181293A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−43630(P2010−43630)
【出願日】平成22年2月27日(2010.2.27)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り ソノケミストリー研究会(共催:日本化学会)、第18回ソノケミストリー討論会講演論文集、13〜14頁、2009年10月23日
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【出願人】(597065282)三菱マテリアル電子化成株式会社 (151)
【出願人】(504409543)国立大学法人秋田大学 (210)
【Fターム(参考)】