説明

MEMS圧電縦モード共振器

縦モード共振器は、基板と、基板に対してつり下げられたバーを備える。バーは、バーの厚みを横切る電界の印加に応答して、長手方向に自由に膨張及び収縮するようにつり下げられる。バーの膨張と収縮により、バーの基本周波数にほぼ等しい周波数を有する電界に応答して共振が生じる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般に、微小電気機械システム(MEMS)の分野に関連する。具体的には、本発明は、圧電MEMS共振器に関連する。
【0002】
尚、本出願は、2002年8月6日出願の米国仮特許出願第60/401,580号について優先権主張するものであり、当該仮特許出願の全内容は、参照により本明細書に組み込まれるものとする。
【背景技術】
【0003】
共振器は、部品、特にフィルタや発振器として伝統的に使用されている。共振器は、移動体通信技術の成長とコンピュータのクロック速度の高速化に伴って最近その重要性が増してきている。移動式装置は、小さくて正確なフィルタを必要とし、コンピュータのクロックは、誤差のない高周波発振が可能な発振器を必要とする。典型的な共振器の用途では、共振器は、約50Ωのインピーダンス負荷(これは、典型的な集積回路の一般的な電圧範囲に適合する)で1000より大きなQ値を示すことが要求され、また、1GHzの近くまたは1GHzより高い周波数で共振することが要求される。
【0004】
従来の共振器には、例えば、表面弾性波(SAW)共振器、基本モード薄膜共振器(TFR)、たわみモード(flexural mode)MEMSビーム共振器、被誘導電磁波構造、集中素子(lumped element)インダクタ及びコンデンサ、薄膜バルク音響共振器(TFBAR)、オーバーモードバルク水晶(overmoded bulk crystal)、及び、堅固に取り付けられた共振器(SMR)がある。これらのフィルタは、様々な欠点を有する。それらの欠点とは、例えば、多くのものは集積回路上に配置するには大きすぎ、動作周波数範囲が満足できないほどに狭く、必要な動作電圧があまりにも高く、及び/または、50Ω負荷の場合に十分に高いQ(quality)レベルを実現できない、といったことである。Qは、フィルタのエネルギー効率の測度であり、また、フィルタの周波数応答の形状の測度(すなわち、Qが高いフィルタの通過周波数帯域は、それよりQが低いフィルタよりも狭い)。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
多くの伝統的な共振器は、1つ以上の共振器を集積回路に組み込むには大きすぎる。例えば、薄膜共振器(TFR)は、一般に、数百ミクロンのオーダーの設置面積を有する。表面弾性波(SAW)共振器は、典型的には、さらに大きく、いくつかの場合には、所望の性能特性を実現するために数センチメートルまたは数インチ程の大きさの基板が必要となる。
【0006】
いくつかの伝統的な共振器は、不所望に限定された周波数範囲で動作する。MEMSたわみモードビーム共振器は、典型的には、極超短波域では満足のいく動作をしない。同様に、TFBAR及びSMRは、中心周波数を1GHzよりもはるかに低い周波数にすることが難しい。なぜなら、薄膜が厚くなると、薄膜応力が問題になるからである。さらに、ほとんどの薄膜ベースの共振器では、異なる周波数を有する複数の共振器を単一の集積回路に配置することができない。なぜなら、一般に、薄膜の厚みが基板全体にわたって均一だからである。
【0007】
多くのMEMSたわみモードビーム共振器はまた、共振器を標準的な集積回路に集積するのを難しくする起動(活性化)電圧を必要とするという問題を有する。MEMSたわみモードビーム共振器は、一般に、容量的に作動され、共振を実現するために50Vもの電圧を必要とする場合もある。
【0008】
多くの従来の共振器は、50Ω負荷の場合に十分に高いQレベルを達成しない。典型的な集中素子インダクタ、SMR、及び多くのTFBARは、50Ω負荷での動作に応答して、所望の1000というQレベルを達成できない。MEMSたわみモードビーム共振器は、より高いQレベルで動作可能であるが、そのような動作を行うためには、通常は、真空中で動作させる必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、1実施形態においては、集積回路に簡単に組み込むことが可能なミクロン(マイクロメートル)スケールのMEMS縦モード共振器を提供することによって、上述した従来の共振器の欠点を克服する。他の利点として、本発明は、大きな共振器アレイ(これは、単一の基板に組み込むことができる)に組み込むのに十分小さな共振器を提供する。したがって、本発明の実施形態を用いて、複数の周波数についての帯域通過フィルタ、具体的には、Rx/Txフィルタを単一の集積回路基板上に構築することができる。さらに、本発明にしたがって設計された共振器は、少なくとも約150MHz〜少なくとも約1.6GHzまでの広い周波数範囲にわたって動作することができる。本発明の実施形態は、また、多くの一般的な集積回路構成に容易に統合することができる。なぜなら、これらの実施形態は、50Ω回路とコンパチブルな(互換性のある)インピーダンスについて動作中に、限定された温度感受性と1000を超えるQレベルを示すからである。
【0010】
1態様では、本発明は、基板(または、基材。以下同じ)と、この基板に対してつり下げられた(すなわち、懸架された)(いくつかの実施形態では窒化アルミニウムのような圧電材料から構成される)バーを備える縦モード共振器を提供する。例えば、1構成では、2つのたわみ支持部が、基板に画定されたキャビティ上にバーをつり下げる。別の構成では、たわみ支持部は、絶縁性取り付けパッドを介してほぼ平坦な基板上にバーをつり下げる。代替的な構成では、バーの中心のほぼ下に配置された1つの支持部が基板に対してバーを支持する。1つのそのような構成では、支持部は、第2の基板に画定されたキャビティ中にバーをつり下げる。
【0011】
上記のつり下げアプローチ手段に関係なく、バーが、バーの厚み全体にわたる(またはバーの厚みを横切る)電界の印加に応答して、長手(縦)方向に自由に膨張し及び収縮するようにつり下げられるのが好ましい。バーの膨張及び収縮により、バーの基本周波数とほぼ等しい周波数を有する電界に応答して共振が実現される。バーの基本周波数はバーの長さの関数であるが、これは、製造者が、本発明の1実施形態に従って作成された共振器の周波数を、製造後に、共振器のバーをレーザトリミングすることによって変えることができるという利点をもたらす。
【0012】
1実施形態では、入力電極及び出力電極は、共振器のバーの第1の表面及び第2の表面に配置される。上述の単一支持部構成では、出力電極は、第2の基板のキャビティの底部に配置される。いくつかの構成では、縦モード共振器は、また、入力電極に電気信号入力を提供するために、入力電極と電気的に連絡する電気信号入力を備える。
【0013】
本発明のさらなる態様は、MEMS圧電共振器を作成する方法に関連する。この作成方法は、基板上に、少なくとも1つの圧電材料層を含む、スタック(積み重ね構造)をなす材料の層を基板上に形成するステップを含む。1実施形態では、このスタックには、第1の金属電極層、圧電材料層、及び第2の金属電極層が含まれる。他の実施形態では、このスタックは、絶縁層も含む。
【0014】
この場合、共振器の周波数は、スタックの上部にパターンマスクを付加することによって設定される。次に、1つ以上のエッチング用化学物質または技法を使用して、スタックをなす複数の層をエッチングする。例示的なエッチング技法には、反応性イオンエッチング及びウェットエッチングが含まれる。スタックのために選択される材料に依存して、1つのエッチング用化学物質または技法によって2つ以上の層を同時にエッチングして、共振器を作成するのに必要なエッチングの数を少なくすることができる。いくつかの実施形態では、さらに他のエッチングステップを使用して、個々の層に追加の特徴を形成することができる。そのような特徴には、電流止め(current stop)及び絶縁パッドが含まれる。先ず、層を積み重ねて、スタックの共通の特徴をエッチングすることにより、後で再度アライメントをとることなく、いくつかの追加の特徴を形成することができる。
【0015】
本発明の他の態様では、上述の縦モード共振器の実施形態(複数)が多周波数フィルタに組み合わせられる。多周波数フィルタには、基板、交番信号を受信するための入力端子、第1及び第2の共振器が含まれる。第1の共振器は、基板に対してつり下げられる第1の長さを有する第1のバーを備える。この第1のバーは、第1のバーの厚み全体にわたる(またはその厚みを横切る)電界の印加に応答して長手(縦)方向に自由に膨張及び収縮するようにつり下げられる。第1のバーは、第1のバーの基本周波数にほぼ一致する周波数を有する電界の印加に応答して共振を実現する。多周波数フィルタの第2の共振器は、基板に対してつり下げられる第2の長さを有する第2のバーを備える。この第2のバーは、第2のバーの厚み全体にわたる(またはその厚みを横切る)電界の印加に応答して長手(縦)方向に自由に膨張及び収縮するようにつり下げられる。第2のバーは、第2のバーの基本周波数にほぼ一致する周波数を有する電界の印加に応答して共振を実現する。
【0016】
多周波数フィルタはまた、入力端子と電気的に連絡するマルチプレクサ、第1の共振器、及び第2の共振器を備える。マルチプレクサは、第1の共振器と第2の共振器の少なくとも1つに交番信号を伝える。第1の共振器及び第2の共振器と通信して、フィルタリングされた交番信号を受信する出力端子が提供される。他の実施形態では、多周波数フィルタは、マルチプレクサと通信する複数の追加の共振器(単一のチップに所望されるだけの数まで可能)を備える。
【0017】
本発明の別の態様では、上述の縦モード共振器の実施形態は、多周波数発振器に組み合わされる。多周波数発振器は、基板、信号を提供するための増幅器のような非線形フィードバック要素、第1及び第2の共振器を備える。第1の共振器は、基板に対してつり下げられる第1の長さを有する第1のバーを備える。この第1のバーは、第1のバーの厚み全体にわたる(またはその厚みを横切る)電界の印加に応答して長手(縦)方向に自由に膨張及び収縮するようにつり下げられる。第1のバーは、第1のバーの基本周波数にほぼ一致する周波数を有する電界の印加に応答して共振を実現する。多周波数発振器の第2の共振器は、基板に対してつり下げられる第2の長さを有する第2のバーを備える。この第2のバーは、第2のバーの厚み全体にわたる(またはその厚みを横切る)電界の印加に応答して長手(縦)方向に自由に膨張及び収縮するようにつり下げられる。第2のバーは、第2のバーの基本周波数にほぼ一致する周波数を有する電界の印加に応答して共振を実現する。
【0018】
多周波数発振器はまた、入力端子と電気的に連絡するマルチプレクサ、第1の共振器、及び第2の共振器を備える。マルチプレクサは、第1の共振器と第2の共振器の少なくとも1つに信号を伝える。第1の共振器及び第2の共振器と通信して、発振信号を受信する出力端子が提供される。他の実施形態では、多周波数発振器は、マルチプレクサ及び出力端子と通信する複数の追加の共振器(単一の集積回路に所望されるだけの数まで可能)を備える。
【0019】
本発明の他の態様及び利点は、本発明の原理を例示的にのみ示す以下の詳細な説明及び添付図面から明かになるであろう。
【0020】
本発明の上記及び他の目的、特徴、及び利点並びに本発明自体については、以下の説明及び添付図面から十分に理解されよう。図面では、それぞれの図面を通じて同じ参照符号は、一般に、同じ部分を示している。図面は本発明の原理を例示するものであって、必ずしも同一のスケールで表示されていない。
【実施例】
【0021】
例示として図面に示すように、本発明を、例えば、MEMS縦モード共振器、2つ以上のMEMS縦モード共振器を利用する多周波数発振器回路、及び/または、2つ以上のMEMS縦モード共振器を利用する多周波数フィルタとして具現化することができる。
【0022】
図1は、本発明の例示的な1実施形態に従うMEMS縦モード共振器100の斜視図で示した概念図である。共振器100は、長さがほぼ等しい2つのたわみ支持部102と104、バー106、及び、2つの電極108及び110を備える。たわみ支持部102及び104は、基板114内のキャビティ112の上にバー106をつり下げる。
【0023】
例示的な実施形態では、たわみ支持部102及び104及びバー106は、厚みが約0.5μmであり、窒化アルミニウムのような単一の圧電材料から形成される。圧電材料は電圧が印加されると変形し、当該材料が変形すると当該材料の両端間に同様に電圧を生成する。この特性は、材料内の電荷の不均一な分布に起因する。共振器100は、圧電材料のこの特性を利用してバー106を共振状態に励起する。
【0024】
より詳しくは、電極108は入力電極である。他方の電極110は出力電極である。例示的な実施形態によれば、入力電極108はニッケルからなり、出力電極110はモリブデンからなる。どの電極を入力用として使用し、どの電極を出力用として使用するかの選択は、好ましくは、共振器が組み込まれる回路の残りの部分のレイアウトに依存して交換可能である。電極108と110のために使用される金属は、作成目的に関して異なり、そのため、電極108と110を、異なるエッチング用化学物質を使用して選択的にエッチングすることができる。他の作成プロセスでは、電極108及び110は、同じ材料から構成される。
【0025】
動作時、交番電気信号が入力電極108に印加される。交番電気信号は入力電極108と出力電極110との間にバー106を通る電界を生成する。電極108及び110は、共振器100全体のいずれかの側を覆うように形成されることができるが、電流止め116及び118を、それぞれ、入力電極108と出力電極110を貫通してエッチングして、装置(デバイス)の他の部分と電気的に連絡する電極材料だけが、それぞれのたわみ部104及び106の一方の側に配置されるようにするのが好ましい。この結果、主としてバー106だけに沿って、装置の他の部分と通信する電極材料が共振器100の対向する側に存在することになる。残りの電極材料111及び113は、作成プロセスのアーティファクト(結果物)である(例示的な1作成プロセスについてのより詳細な後述の記載を参照されたい)。
【0026】
バー106が圧電材料で構成される結果、電界がバー106を横切って生じることに応答して、バー106は、その電界に応じて膨張または収縮する。バーは、その全体についてあらゆる方向に様々な程度、膨張及び収縮するが、バーは、バーの形状及びバーの厚み全体にわたる(またはその厚みを横切る)電界の対称的な印加の結果として、主として、長手(縦)方向117に(すなわち、縦モードで)端部において膨張及び収縮する。この膨張及び収縮に伴って、バー106内の電荷分布の再配列が生じ、その結果、出力電極110に出力電流が流れる。バー106の基本周波数(f)にほぼ一致する電気信号の周波数に応答して、バー106は、それの縦モードにおける共振を生じ、膨張及び収縮によって生成された出力電流は、電界の周波数に非常に近い周波数を有する。例示として、これより高い高調波で共振を実現することもできる。誘発された圧電電流は、装置に電気信号を流すように作用するが、一方、共振によって誘発されたのではない信号は、不規則に誘発された圧電電流によって減衰させられる。いくつかの例示的な実施形態では、装置は、単純な、抵抗、インダクタ、コンデンサ(RLC)回路に似た応答特性を示す。
【0027】
バー106の基本周波数(f)はバーの長さ(L)115によって以下のように決まる。
【0028】
【数1】

【0029】
モジュラス(または引張応力)及び密度はバー106を構成する材料に関連付けられた定数である。結果として、異なる周波数を有する共振器を、バーの長さL 115を変えることによって設計することができる。例えば、6μmの長さのバーは約780MHzの中心周波数を有し、5μmの長さのバーは約1GHzの中心周波数を有する。
【0030】
本発明に従って構築された装置は、また、多くの一般的な共振器用途において十分に高いQ値を示す。上述したように、Qは、エネルギー入力及び装置の周波数応答の形状に関連した、装置によって失われるエネルギーのレベルを反映している。一般的には、1000より大きなQレベルが多くの用途において望ましい。機械式共振、縦共振、及び圧電材料を用いることにより、熱−弾性エネルギー損失を低減して、10000を超えるQ値を得ることができる。
【0031】
共振器100は、典型的には、シリコン、ゲルマニウム・シリコン(silicon germanium)または砒化ガリウム(gallium arsenide)のような半導体からなる基板114に取り付けられる。基板114の材料が用いられる様々なエッチングに適切に応答するように、基板材料の選択は作成プロセスに部分的に基づく。基板114は基板の表面にキャビティ(空洞部)を画定し、たわみ支持部102及び104がそのキャビティの上にバー106をつり下げる。キャビティ112の寸法は、好ましくは、バー106が最も膨張したとき(120)のバー106の寸法よりも大きい。キャビティ112のために、バー106は、基板114との摩擦を生じることなく膨張、収縮することができるようになる。
【0032】
図2は、本発明の別の例示的な実施形態によるMEMS縦モード共振器200の概念図を斜視図で示したものである。入力電極208と出力電極210の間にバー206がはさまれている。基板214からの支持部222が、バー206と電極208、210とを基板214に対して支持している。入力電極208は、共振器200を集積回路(不図示)の残りの部分に電気的に結合する信号入力リード224から電気信号を受け取る。電極208と210とが電気的に分離された状態を維持するために、出力電極210からの出力信号が、出力電極210に対して吊された(懸架された)コンデンサプレート(コンデンサ電極)226を通じて容量的に測定される。
【0033】
1実施形態では、容量性プレート226は、第2の基板(不図示)内のキャビティの底部に配置される。この場合、共振器200は、逆にされ、キャビティ内に支持部224から吊される。
【0034】
図3は、本発明の例示的な1実施形態によるMEMS縦モード共振器を作成するための例示的な1作成プロセス300を示すフローチャートである。図4A〜4Eは、図3のプロセスを図解した一連の概念図である。図3及び図4A〜4Eを参照すると、共振器400はバー406と106が吊される方法において図1の共振器100とは異なる。図1では、バー106は基板114内のキャビティ112に対して吊されている。図4Eでは、絶縁パッド426及び428が、バー406、支持部402、404を、共振器400に対してほぼ平坦な(あるいはほぼぴったりと接している)基板414から分離している。プロセス300は、図3及び図4A〜4Eを併せて見ることによって最も良く理解することができる。
【0035】
第1のステップ302は、絶縁層434、第1の金属電極層436、圧電材料層438、及び、第2の金属電極層440を含む基板層432上にスタック430(図4A参照)を形成することである。例示的な金属層は、モリブデン、ニッケル、チタン、アルミニウム、及び、金属の組み合わせを含む。例示的な実施形態では、基板層432は、Si(ケイ素)である。他の例示的な実施形態では、基板層432は、例えば、SiGe、GaAs、またはSiOである。1実施形態では、絶縁層434の絶縁材料は酸化物である。絶縁層434は基板層432に取り付けられる。次に、第1の金属電極層436が絶縁層434上に堆積される。典型的には窒化アルミニウムである、圧電材料層438が、次に、第1の金属電極層436上に成長させられる。第2の金属電極層440が、次に、圧電材料層438の上に堆積される。例示的な実施形態では、第1の金属電極層436はモリブデンからなり、第2の金属電極層440はニッケルからなる。本発明の他の実施形態では、第1の金属電極層436及び第2の金属電極層440に使用される金属は同じ金属である。
【0036】
次に、パターンマスクがスタック430の上部に適用され(ステップ303)、金属電極層436、440及び圧電材料層438が、一連のエッチングを使用してパターン形成されて、共振器400の大まかな形状442が形成される(ステップ304)(図4B参照)。パターンマスクの横方向の寸法により、共振器の共振周波数が設定される。1例を挙げると、ウェット化学エッチングを使用して第2の電極層440を形成し、塩素ベースのドライ反応イオンエッチング(RIE)を使用して圧電層438を形成し、フッ素ベースのRIEを使用して第1の金属電極層436及び絶縁層434を形成する。大まかな形状442において、バー406、たわみ支持部402,404、及び、未処理の電極408、410を認識することができる。たわみ支持部402及び404のいずれかの端部にある2つの構造は、取り付けパッド444及び446である。異なる電極金属を用いる他の作成プロセスでは、大まかな形状442は、単一の塩素ベースのRIEエッチングを使用して形成される。いずれの作成プロセスにおいても、パターンマスク(好ましくは単一のパターンマスク)を使用して、大まかな形状442が生成される。
【0037】
ステップ306では、第2の金属電極層440を化学的にエッチングして、第1の電流止め416を形成する(図4C参照)。例示的には、電流止め416とほぼ同じサイズであってたわみ支持部よりはわずかに広い窓がフォトレジストで開けられる。次に、化学エッチングを使用して第1の電流止め416をエッチングする。エッチングに使用される化学物質は、それが、第2の金属電極層440には影響を与えるが、第1の金属電極層436または圧電層402には影響を与えないようなものが選択される。第1の金属電極層436と第2の金属電極層440が同じ金属である場合の他の例示的な選択肢には、パターンマスク内に同じような大きさの窓を開けるステップと、一定の時間ウェットエッチングを適用するステップが含まれる。
【0038】
ステップ308では、第1の金属電極層436を化学的にエッチングして第2の電流止め418を形成する(図4D参照)。ステップ306のエッチングと同じように、フォトレジストを適用してそれをパターン形成するのが好ましく、第2の化学物質は、第1の金属電極層436を(露出したエッジから中に)選択的にエッチングするが、第2の金属電極層440または圧電層をエッチングしないように選択される。第1の金属電極層436及び第2の金属電極層440が同じ材料から構成されている場合には、第2の金属電極層440がエッチングから電気化学的に保護されるように、ある電圧を、第2の金属電極層440に印加する場合がある。同様に、ある電圧が存在する中で金属のエッチングだけを行うエッチング液(腐食液)を使用し、第1の金属電極層436に、そのようなある電圧を印加することができる。代替的には、金属電極層436及び440の両方をエッチングし、次に、パッチ技術を使用して上部の金属を「パッチ」することができる。
【0039】
ステップ310では、バー406、及びたわみ支持部402、404の下の絶縁材料が除去され、及び、絶縁材料が取り付けパッド444及び446の下に残って、絶縁パッド426及び428が形成されるように、絶縁層434をエッチングして除去する(図4E参照)。この実施形態では、取り付けパッドは、バー406及びたわみ支持部402,404よりも広い。したがって、絶縁材料を外側から中にエッチングして除去するウェットエッチングを適用することによって、この制約条件を満たすようにエッチング時間を容易に限定することができる。絶縁材料をエッチングにより除去した後(ステップ310)、バー406は、取り付けパッド444及び446の基部と基板層432との間に残存する絶縁パッド426及び428によって、基板層432から離れてつり下げられており、自由に発振することができる。
【0040】
作成プロセス300を用いて構築された例示的な共振器は、約3ミクロンから約10ミクロンまでの間の長さのバー406を有しており、約500MHz〜約1.6GHzまでの範囲の基本周波数を生成する。たわみ支持部402及び404の長さは、約5ミクロン〜約29ミクロンの範囲であり、その幅は、約1ミクロン〜約3ミクロンの範囲である。
【0041】
図5は、本発明に従って構築された縦モード共振器の例示的な用途を示すブロック図である。図5において、受信器500は、縦モード共振器502に電気信号を出力する。共振器502は、共振器502の基本周波数を囲む周波数を有する電気信号の成分を通過させ、それによって、帯域通過(バンドパス)フィルタとして作用する。
【0042】
図6は、本発明の例示的な1実施形態に従う多周波数共振器アレイを示すブロック図である。多周波数共振器アレイ600は、受信器602、マルチプレクサ604、コントローラ605、及び、複数のMEMS縦モード共振器606a〜606nを備える。共振器606a〜606nの各々は、マルチプレクサ604と電気的に連絡し、かつ、(使用される共振器の実施形態に依存して)長さが異なるバー106、206、または406を有する。
【0043】
1つの例示的な実施形態では、受信器602はアンテナを備える。受信器602は、入力信号をマルチプレクサ604に送る。マルチプレクサ604は、コントローラ605からの制御信号608に応答して、入力信号を選択的にフィルタリングするために、その入力信号を1つ以上の共振器606a〜606nに送る。MEMS縦モード共振器606a〜606nのサイズが小さいので、複数のフィルタ要素を組み込んだ単一の集積回路を作成することができる。
【0044】
同様の集積回路を使用して、本発明の別の例示的な実施形態に従う多周波数発振器を設計することができる。発振器は、受信器602の代わりに、増幅器のような非線形フィードバック要素を用いることによって作成される。この場合、ユーザは、制御信号608によってマルチプレクサを切り替えることにより、非線形フィードバック要素からの電気信号をそれぞれの共振器606a〜606nに送って、異なる周波数を有する出力信号を生成することができる。
【0045】
当業者には、本発明の思想または基本的な特性から逸脱することなく、他の特定の形態で本発明を具現化できるということが理解されよう。上記の実施形態は、したがって、本発明を限定するものではなく、すべての点において例示的なものである。本発明の範囲は、説明した上記の形態そのものには限定されない。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明の例示的な1実施形態に従う縦モード共振器の概念を斜視図で示す。
【図2】本発明の別の例示的な実施形態に従う縦モード共振器の概念を斜視図で示す。
【図3】本発明の例示的な1実施形態に従う例示的な縦モード共振器を作成するためのプロセスを示すフローチャートである。
【図4A】図3に示す作成プロセスの段階を概念的に示す斜視図である。
【図4B】図3に示す作成プロセスの段階を概念的に示す斜視図である。
【図4C】図3に示す作成プロセスの段階を概念的に示す斜視図である。
【図4D】図3に示す作成プロセスの段階を概念的に示す斜視図である。
【図4E】図3に示す作成プロセスの段階を概念的に示す斜視図である。
【図5】本発明の例示的な1実施形態による共振器を組み込んだフィルタのブロック図である。
【図6】本発明の例示的な1実施形態による多周波数フィルタのブロック図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
縦モード共振器において、
基板と、
前記基板に対してつり下げられたバーであって、バーの厚みを横切って印加される電界に応答して長手方向に自由に膨張及び収縮するようにつり下げられたバー
を備え、
前記膨張及び収縮は、前記バーの基本周波数にほぼ等しい周波数を有する電界に応答して共振を生ずることからなる、縦モード共振器。
【請求項2】
前記バーが、第1の表面と第2の表面をさらに有し、
前記縦モード共振器がさらに、
前記第1の表面に配置された入力電極と、
前記第2の表面に配置された出力電極
を備えることからなる、請求項1の縦モード共振器。
【請求項3】
前記入力電極に電気信号を提供するために、前記入力電極と電気的に連絡する電気信号入力接続をさらに備える、請求項2の縦モード共振器。
【請求項4】
前記バーが圧電材料から構成される、請求項1の縦モード共振器。
【請求項5】
前記バーが窒化アルミニウムから構成される、請求項1の縦モード共振器。
【請求項6】
前記バーを前記基板に対してつり下げるための2つのたわみ支持部をさらに備える、請求項1の縦モード共振器。
【請求項7】
前記基板はキャビティをさらに有し、前記たわみ支持部は、前記バーを前記基板内のキャビティに対してつり下げる、請求項6の縦モード共振器。
【請求項8】
さらに、前記バーを前記基板に対して支持するための支持部を前記基板上に有する、請求項1の縦モード共振器。
【請求項9】
前記バーが第1の表面と第2の表面を有し、
前記縦モード共振器がさらに、
前記第1の表面に配置された入力電極と、
前記第2の表面に配置された出力電極と、
前記出力電極に隣接して配置された容量性プレート
を備える、請求項1の縦モード共振器。
【請求項10】
キャビティを画定する第2の基板を備える請求項9の縦モード共振器であって、前記容量性プレートが、前記第2の基板のキャビティ内に配置され、前記バーが、前記第2の基板のキャビティ内につり下げられて、前記容量性プレートから隔置される、縦モード共振器。
【請求項11】
多周波数フィルタであって、
基板と、
交番信号を受信するための入力端子と、
前記基板に対してつり下げられた第1の長さを有する第1のバーを備える第1の共振器と、
前記基板に対してつり下げられた第2の長さを有する第2のバーを備える第2の共振器と、
前記入力端子、前記第1の共振器、及び前記第2の共振器と電気的に連絡するマルチプレクサと、
前記第1の共振器及び前記第2の共振器と電気的に連絡する出力端子
を備え、
前記第1のバーは、該第1のバーの厚みを横切って印加される電界に応答して、長手方向に自由に膨張及び収縮するようにつり下げられており、この膨張及び収縮は、前記第1バーの基本周波数にほぼ等しい周波数を有する電界に応答して共振を生じ、
前記第2のバーは、該第2のバーの厚みを横切って印加される電界に応答して、長手方向に自由に膨張及び収縮するようにつり下げられており、この膨張及び収縮は、前記第2のバーの基本周波数にほぼ等しい周波数を有する電界に応答して共振を生じ、
前記マルチプレクサは、前記第1の共振器と前記第2の共振器の少なくとも一方に信号を送ることからなる、多周波数フィルタ。
【請求項12】
前記第1のバーと前記第2のバーの少なくとも一方が、第1の表面と第2の表面をさらに有し、
前記多周波数フィルタが、さらに、
前記マルチプレクサと電気的に連絡する、前記第1の表面に配置された入力電極と、
前記第2の表面に配置された出力電極
を備えることからなる、請求項11の多周波数フィルタ。
【請求項13】
前記第1のバーと前記第2のバーの少なくとも一方が、圧電材料から構成される、請求項11の多周波数フィルタ。
【請求項14】
前記第1のバーと前記第2のバーの少なくとも一方が、窒化アルミニウムから構成される、請求項11の多周波数フィルタ。
【請求項15】
前記第1の共振器と前記第2の共振器の少なくとも一方が、前記第1のバーと前記第2のバーの一方を前記基板に対してつり下げるための2つのたわみ支持部をさらに備える、請求項11の多周波数フィルタ。
【請求項16】
前記基板がさらにキャビティを画定し、前記たわみ支持部は、前記第1のバーと前記第2のバーの一方を前記基板内のキャビティに対してつり下げる、請求項15の多周波数フィルタ。
【請求項17】
前記第1の共振器と前記第2の共振器の少なくとも一方が、さらに、前記第1のバーと前記第2のバーの少なくとも一方を前記基板に対して支持するための支持部を前記基板上に有する、請求項11の多周波数フィルタ。
【請求項18】
前記第1のバーと前記第2のバーの少なくとも一方が、第1の表面と第2の表面を有し、前記多周波数フィルタが、さらに、
前記マルチプレクサと電気的に連絡する、前記第1の表面に配置された入力電極と、
前記第2の表面に配置された出力電極と、
前記出力電極に隣接して配置された容量性プレート
を備えることからなる、請求項17の多周波数フィルタ。
【請求項19】
前記第1の共振器と前記第2の共振器の少なくとも一方が、さらに、第2の基板を有し、前記第2の基板はキャビティを画定し、前記容量性プレートが、前記第2の基板のキャビティ内に配置され、前記第1の共振器と前記第2の共振器の少なくとも一方のバーが、前記第2の基板のキャビティ内につり下げられて、前記容量性プレートから隔置される、請求項18の多周波数フィルタ。
【請求項20】
多周波数発振器であって、
基板と、
信号を提供するための非線形フィードバック要素と、
前記基板に対してつり下げられた第1の長さを有する第1のバーを備える第1の共振器と、
前記基板に対してつり下げられた第2の長さを有する第2のバーを備える第2の共振器と、
前記非線形フィードバック要素、前記第1の共振器、及び、前記第2の共振器と電気的に連絡するマルチプレクサと、
前記第1の共振器及び前記第2の共振器と電気的に連絡する出力端子
を備え、
前記第1のバーは、該第1のバーの厚みを横切って印加される電界に応答して、長手方向に自由に膨張及び収縮するようにつり下げられており、この膨張及び収縮は、前記第1バーの基本周波数にほぼ等しい周波数を有する電界に応答して共振を生じ、
前記第2のバーは、該第2のバーの厚みを横切って印加される電界に応答して、長手方向に自由に膨張及び収縮するようにつり下げられており、この膨張及び収縮は、前記第2のバーの基本周波数にほぼ等しい周波数を有する電界に応答して共振を生じ、
前記マルチプレクサは、前記第1の共振器と前記第2の共振器の少なくとも一方に信号を送ることからなる、多周波数発振器。
【請求項21】
前記第1のバーと前記第2のバーの少なくとも一方が、さらに、第1の表面と第2の表面を有し、
前記多周波数発振器が、さらに、
前記マルチプレクサと電気的に連絡する、前記第1の表面に配置された入力電極と、
前記第2の表面に配置された出力電極
を備えることからなる、請求項20の多周波数発振器。
【請求項22】
前記第1のバーと前記第2のバーの少なくとも一方が、圧電材料から構成される、請求項20の多周波数発振器。
【請求項23】
前記第1のバーと前記第2のバーの少なくとも一方が、窒化アルミニウムから構成される、請求項20の多周波数発振器。
【請求項24】
前記第1の共振器と前記第2の共振器の少なくとも一方が、前記第1のバーと前記第2のバーの一方を前記基板に対してつり下げるための2つのたわみ支持部をさらに備える、請求項20の多周波数発振器。
【請求項25】
前記基板がさらにキャビティを有し、前記たわみ支持部は、前記第1のバーと前記第2のバーの一方を前記基板内のキャビティに対してつり下げる、請求項20の多周波数発振器。
【請求項26】
前記第1の共振器と前記第2の共振器の少なくとも一方が、さらに、前記第1のバーと前記第2のバーの少なくとも一方を前記基板に対して支持するための支持部を前記基板上に有する、請求項20多周波数発振器。
【請求項27】
前記第1のバーと前記第2のバーの少なくとも一方が、第1の表面と第2の表面を有し、前記多周波数発振器が、さらに、
前記マルチプレクサと電気的に連絡する、前記第1の表面に配置された入力電極と、
前記第2の表面に配置された出力電極と、
前記出力電極に隣接して配置された容量性プレート
を備えることからなる、請求項20の多周波数発振器。
【請求項28】
前記第1の共振器と前記第2の共振器の少なくとも一方が、さらに、第2の基板を有し、前記第2の基板はキャビティを画定し、前記容量性プレートが、前記第2の基板のキャビティ内に配置され、前記第1の共振器と前記第2の共振器の少なくとも一方のバーが、前記第2の基板のキャビティ内につり下げられて、前記容量性プレートから隔置される、請求項29の多周波数発振器。
【請求項29】
前記非線形フィードバック要素が増幅器である、請求項20の多周波数発振器。
【請求項30】
所定の共振周波数を有するMEMS圧電共振器を作成する方法において、
スタックをなす層を基板上に形成するステップであって、前記スタックは上部層を有し、かつ、少なくとも1つの圧電材料層を備えることからなる、ステップと、
前記所定の周波数を決定するある長さを有するパターンマスクを選択し、及び、前記スタックの上部層に前記マスクを適用することによって、前記共振器の前記所定の周波数を設定するステップと、
前記パターンマスクに基づいて、前記スタックをなす複数の層を上部から開始してエッチングすることにより、前記共振器を形成するステップ
を含む、方法。
【請求項31】
前記スタックが、
第1の金属電極層と、
圧電バー層と、
第2の金属電極層
を有する、請求項30の方法。
【請求項32】
前記スタックがさらに、絶縁層を有する、請求項31の方法。
【請求項33】
エッチング液を加えて、前記スタックの少なくとも一部分を前記基板から隔置するステップをさらに含む、請求項31の方法。
【請求項34】
前記スタックをなす層(複数)をエッチングした後に、前記スタックの個々の層をエッチングするステップをさらに含む、請求項30の方法。
【請求項35】
前記スタックをなす層(複数)をエッチングした後に、前記スタックの個々の層をエッチングして、前記第1の金属電極層と前記第2の金属電極層の一方に少なくとも1つの電流止めを画定するステップをさらに含む、請求項30の方法。
【請求項36】
前記スタックの個々の層をエッチングして、前記第1の金属電極層と前記第2の金属電極層の一方に電流止めを形成するステップが、前記第1の金属電極層と前記第2の金属電極層の一方に電圧を印加するステップをさらに含むことからなる、請求項35の方法。
【請求項37】
前記スタックをなす層をエッチングした後に、
前記第1の金属電極層と前記第2の金属電極層をエッチングして、少なくとも1つの電流止めと所望されない電流止めを形成するステップと、
導電性のパッチを適用して、前記所望されない電流止めを充填するステップ
をさらに含む、請求項30の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2006−509476(P2006−509476A)
【公表日】平成18年3月16日(2006.3.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−563555(P2004−563555)
【出願日】平成15年7月31日(2003.7.31)
【国際出願番号】PCT/US2003/023982
【国際公開番号】WO2004/059836
【国際公開日】平成16年7月15日(2004.7.15)
【出願人】(505046905)チャールズ スターク ドレイパー ラボラトリー インコーポレイテッド (1)
【Fターム(参考)】