説明

MnZn系フェライトの製造方法

【課題】 MnZn系のフェライトにLiを添加する場合であって、製品ロット間の特性バラツキを抑制することができ、製造歩留まりの向上および製品品質の信頼性の向上を図ることができるMnZn系フェライトの製造方法を提供する。
【解決手段】 MnZn系フェライトの主成分に対して副成分としてLiを添加してなるMnZn系フェライトの製造方法において、前記Liを添加するに際して用いられるLi化合物が、水に対して不溶性ないし難溶性の化合物とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、製品ロット間の特性バラツキを抑制することができ、製造歩留まりの向上および製品品質の信頼性の向上を図ることができるMnZn系フェライトの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器の小型化、高出力化が急速に進んでいる。それに伴い各種部品の高集積化、高速処理化が進み、電力を供給する電源ラインの大電流化が要求されている。トランス、チョークコイルといった部品に対しても大電力での駆動が求められており、さらに自動車等の使用環境の高温化や、駆動時の発熱による温度上昇から、100℃付近での安定駆動が求められている。
【0003】
大電流駆動に対応するため、フェライト磁心に対しては、高温、例えば100℃以上での温度領域での高飽和磁束密度が要求されている。
【0004】
このよう要望に対応するために、例えば、特開2001−155915号公報(特許文献1)には、Fe23の組成比が高く、飽和磁束密度が高く、かつ磁心損失が最小となる温度を実用的な温度に容易にすることができるMn−Zn系フェライト材料を提供することを目的とし、主成分として、Fe23:54〜56モル%、ZnO:5〜10モル%、MnO:残部を含有し、副成分として、Li2CO3:0.1〜0.5重量%、CaCO3:0.01〜0.3重量%、SiO2:0.001〜0.05重量%を含有するフェライト材料の提案がなされている。さらに、この提案においては、Liを添加することにより、磁心損失(コアロス)が最小となる温度を高温側にシフトさせることができるとされている。
【0005】
従来より、MnZn系のフェライトに、Liを添加する際に使用されるLi化合物の形態は、入手が容易であり、その使用が広く知られているLi2CO3を用いることが一般的である。
【0006】
【特許文献1】特開2001−155915号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、本願出願に係る発明者らが、MnZn系のフェライトへの各種添加成分の添加の際の(1)添加物の種類、および添加する際の(2)化合物の形態等に注目して鋭意研究した結果、Liを添加する場合であって、しかもその添加の際の化合物形態が、水に溶けやすいLi2CO3を用いた場合に限って、製品ロット間の特性バラツキが生じやすい傾向があることを実験的に見出した。
【0008】
フェライト製品ロット間の特性バラツキは、製品歩留まりを低下させる要因になるとともに、製品の品質の保証を阻害する要因となりうるおそれがあり、製造段階で特性バラツキは出来るだけ小さくすることが必要である。
【0009】
このような実状のもとに、本発明は創案されたものであって、その目的は、MnZn系のフェライトにLiを添加する場合であって、製品ロット間の特性バラツキを抑制することができ、製造歩留まりの向上および製品品質の信頼性の向上を図ることができるMnZn系フェライトの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
このような課題を解決するために、本発明は、MnZn系フェライトの主成分に対して副成分としてLiを添加してなるMnZn系フェライトの製造方法において、前記Liを添加するに際して用いられるLi化合物が、水に対して不溶性ないし難溶性の化合物であるように構成される。
【0011】
また、本発明の好ましい態様として、前記MnZn系フェライトは、主成分として酸化鉄をFe23換算で54〜60モル%、酸化亜鉛をZnO換算で3〜10モル%、酸化マンガン(MnO換算)を残部、含有してなるように構成される。
【0012】
また、本発明の好ましい態様として、前記Li化合物は、Li2CO3換算で、前記主成分に対して、0.1〜0.8重量%含有されるように構成される。
【0013】
また、本発明の好ましい態様として、前記Li化合物は、Liと、Fe、Mn、およびZnの中から選定された少なくとも1種以上の成分を含有する酸化物であるように構成される。
【0014】
また、本発明の好ましい態様として、前記Li化合物は、Liと、Feとの成分を含有する酸化物であるように構成される。
【0015】
また、本発明の好ましい態様として、前記Li化合物は、LiFeO2、LiFe58、Li2Fe35、およびLi5FeO4の中から選択された少なくとも1種以上であるように構成される。
【0016】
また、本発明の好ましい態様として、前記Li化合物は、Liと、Mnとの成分を含有する酸化物であるように構成される。
【0017】
また、本発明の好ましい態様として、前記Li化合物は、LiMn24、LiMnO2の中から選択された少なくとも1種以上であるように構成される。
【0018】
また、本発明の好ましい態様として、さらに、副成分として、Si、Ca、Zr、Nb、Ta、V、Bi、Mo、Snの中から選定された少なくとも1種以上が含有されるように構成される。
【発明の効果】
【0019】
本発明は、MnZn系フェライトの主成分に対して副成分としてLiを添加してなるMnZn系フェライトの製造方法において、前記Liを添加するに際して用いられるLi化合物が、水に対して不溶性ないし難溶性の化合物であるように構成しているので、製品ロット間の特性バラツキを抑制することができ、製造歩留まりの向上および製品品質の信頼性の向上を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明のMnZn系フェライトの製造方法について詳細に説明する。
まず、最初に本発明の製造対象となるMnZn系フェライトについて説明する。
【0021】
本発明の製造対象となるMnZn系フェライトの説明
本発明の製造対象となるMnZn系フェライトは、主成分として、酸化鉄をFe23換算で54〜60モル%(より好ましくは、55.5〜57.5モル%)、酸化亜鉛をZnO換算で3〜10モル%(より好ましくは、5〜8モル%)、残部として酸化マンガン(MnO換算)で含有して構成される。
【0022】
さらに、本発明においては、副成分として、Liが含有され、当該Liは、Li2CO3換算で、前記主成分に対して、0.1〜0.8重量%(より好ましくは、0.3〜0.6重量%)含有される。
【0023】
上記の組成範囲において、Fe23が54モル%未満となると、所望の高い飽和磁束密度の特性が得られなくなってしまうという不都合が生じる傾向があり、この一方で、Fe23が60モル%を超えると、コアロスが大きくなる傾向が生じて、所望の低コアロスの特性が得られなくなってしまうという不都合が生じる傾向がある。
【0024】
また、ZnOが3モル%未満となると、いわゆる相対密度の低下が生じる傾向があり、低コアロス化を図ることが困難となってしまう。この一方で、ZnOが10モル%を超えると、キュリー温度の低下が生じる傾向があり、高温化での飽和磁束密度が低下するという不都合が生じる傾向がある。
【0025】
また、前記Li量が0.1重量%未満となると、所望の高い飽和磁束密度が得られなくなってしまうという不都合が生じる傾向があり、また、前記Li量が0.8重量%を超えると、所望の低コアロスの特性が得られなくなってしまうという不都合が生じる傾向がある。
【0026】
本発明の製造対象となるMnZn系フェライトは、前述したLiに加えて、副成分として、Si、Ca、Zr、Nb、Ta、V、Bi、Mo、Snの中から選定された少なくとも1種以上を含有することができる。好ましい含有量(wt%)は以下の通りである。
【0027】
SiO2:0.005〜0.03wt%
CaO:0.008〜0.17wt%
Nb25:0.005〜0.03wt%
Ta25:0.01〜0.1wt%
25:0.01〜0.1wt%
ZrO2:0.005〜0.03wt%
Bi23:0.005〜0.04wt%
MoO3:0.005〜0.04wt%
【0028】
これらの中でも、酸化ケイ素、酸化カルシウムが特に好ましい。
【0029】
次いで、本発明のMnZn系フェライトの製造方法について説明する。
MnZn系フェライトの製造方法の説明
本発明のMnZn系フェライトの製造方法における発明要部は、副成分であるLiを添加するに際して用いられるLi化合物が、水に対して不溶性ないし難溶性の化合物である点にある。
【0030】
ここで本発明における「水に対して不溶性ないし難溶性の化合物(以下、単に「水不溶性の化合物」と称す)」とは、水100g(温度20℃)に対する化合物である溶質の量(グラム数)が1g以下の化合物をいう。
【0031】
このような水不溶性のLi化合物としては、MnZn系フェライト用に使用されるために、Liと、Fe、Mn、Znの中から選定された少なくとも1種以上の成分を含有する酸化物とすることが望ましい。
【0032】
好ましくは、(1)Liと、Feとの成分を含有するLiFeO2、LiFe58、Li2Fe35、Li5FeO4等の酸化物や、(2)Liと、Mnとの成分を含有するLiMn24、LiMnO2等の酸化物である。
【0033】
このような水不溶性のLi化合物を用いることによって、製品ロット間の特性バラツキを抑制することができ、製造歩留まりの向上および製品品質の信頼性の向上を図ることができる。このような水不溶性のLi化合物は、主成分とともに最初の秤量の段階で主成分組成に混合することもできるし、あるいは、仮焼粉砕後に得られた主成分の粉末に、水不溶性のLi化合物を添加し混合するようにすることもできる。なお、水不溶性のLi化合物に、Fe、Mn、Znを含む場合には、この量も考慮しつつ主成分組成の秤量・調整が行なわれる。
【0034】
また、このような水不溶性のLi化合物は、市販の化合物として容易に入手可能であれば、購入品をそのまま使用してもよい。また、混合、熱処理の工程を経て反応合成させることにより水不溶性のLi化合物を製造してもよい。例えば、Liを含有する原料と、Fe、Mn、Znの中から選定された少なくとも1種以上の成分を含有する原料とを乾式混合し、しかる後、例えば700〜1000℃の温度で空気中、1時間程度熱処理することにより水不溶性のLi化合物を得ることができる。具体的な一例を挙げると、LiCO3原料と、Fe23原料とを準備して、上記の手法により反応合成させて、LiFeO2を得ることができる。
【0035】
以下、MnZn系フェライトの製造方法の好適な一連の工程の一例について詳細に説明する。
【0036】
(1)目標のフェライトが得られるように金属イオンの比率が所定成分となるように秤量する工程
主成分の原料として、酸化物または加熱により酸化物となる化合物、例えば、炭酸塩、水酸化物、蓚酸塩、硝酸塩などの粉末が用いられる。各原料粉末の平均粒径は、0.1〜3.0μm程度の範囲で適宜選定すればよい。なお、上述した原料粉末に限らず、2種以上の金属を含む複合酸化物の粉末を原料粉末としてもよい。原料粉末は所定の組成となるように、それぞれ、秤量される。原料粉末として、副成分である水不溶性のLi化合物を秤量しておき、下記の混合の際に主成分に混合するようにしてもよい。
【0037】
(2)秤量物を湿式ないしは乾燥により混合した後の仮焼き工程
原料粉末をボールミルにより例えば湿式混合し、乾燥、粉砕、篩いかけをした後、700〜1000℃の温度範囲内で所定時間保持する仮焼きが行われる。仮焼きの保持時間は1〜5時間の範囲内で適宜選定すればよい。
【0038】
(3)仮焼き粉の粉砕工程
仮焼き後、仮焼体は、例えば、平均粒径0.5〜5.0μm程度までに粉砕される。
【0039】
なお、副成分である水不溶性のLi化合物を添加するタイミングは上述したものに限定されるものではない。例えば、まず一部の成分(特に、主成分)の粉末のみを秤量、混合、仮焼きおよび粉砕する。そして、仮焼粉砕後に得られた主成分の粉末に、副成分である水不溶性のLi化合物の原料粉末を所定量添加し混合することも好ましい態様である。
【0040】
(4)造粒・成形工程
粉砕された粉末は、後の成形工程を円滑にするために顆粒に造粒される。この際、粉砕粉末に適当なバインダ、例えばポリビニルアルコール(PVA)を少量添加することが望ましい。得られる顆粒の粒径は80〜200μm程度とすることが望ましい。造粒粉末を加圧成形した、例えば、トロイダル形状の成形体を形成する。
【0041】
(5)焼成工程
成形された成形体は焼成工程において焼成される。
【0042】
焼成工程においては、焼成温度と焼成雰囲気を制御する必要がある。焼成は1250〜1450℃の範囲で所定時間保持することにより行われる。本発明の効果を十分に発現させるためには、焼成は1300〜1400℃の範囲で保持、焼成するのがよい。
【実施例】
【0043】
以下、具体的実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明する。
【0044】
実験例I
本発明I−1サンプルの作製
〔水不溶性のLi化合物であるLiFeO2を予め反応合成させて得る準備工程〕
合成用の原料としてLi2CO3粉末とFe23粉末を、LiFeO2粉末が合成できる割合で秤量し、秤量した各粉末を乾式混合した後、反応合成させるために熱処理した。
【0045】
熱処理条件は、空気中、750℃、1時間とした。
【0046】
熱処理の結果、得られた粉末がLiFeO2であることを、X線回折法で確認した。
【0047】
〔MnZn系フェライトの製造〕
主成分の原料としてFe23粉末、Mn34粉末、およびZnO粉末を準備した。
【0048】
また、副成分の原料として、上記のLiFeO2に加えて、SiO2粉末、およびCaCO3粉末を準備した。
【0049】
フェライト主成分組成として、Fe23=56.0モル%、MnO=37.5モル%、ZnO=6.5モル%となるように主成分原料を秤量して、湿式ボールミルを用いて16時間湿式混合した後、乾燥させた。なお、後に添加するLiFeO2中のFe量を考慮して、最終的に同一の主成分比となるようにFe成分について調整した。
【0050】
次いで、乾燥物を大気中、900℃で3時間仮焼きした後、粉砕した。
【0051】
得られた仮焼き粉末に、副成分としてLiFeO2を、主成分に対して0.4重量%(Li2CO3換算)添加し、さらにSiO2を、主成分に対して最終的に0.01重量%、CaCO3を、主成分に対して最終的に0.08重量%となるように添加し、混合粉砕して得られた混合物粉末にバインダ(ポリビニルアルコール)を加え、顆粒化した後、成形してトロイダル形状の成形体を得た。
【0052】
次いで、得られた成形体を最高温度1350℃、N2−O2混合雰囲気で酸素分圧を制御した雰囲気中で焼成して本発明I−1サンプルを得た。焼成後のトロイダル形状の寸法は、外径20mm、内径10mm、厚さ5mmであった。
【0053】
比較例I−1サンプルの作製
上記本発明I−1サンプルの作製において、副成分のLi原料として、水不溶性の化合物LiFeO2に代えて水溶性のLi2CO3を用いた。それ以外は上記本発明I−1のサンプルの作製と同様にして、比較例I−1サンプルを作製した。
【0054】
得られた本発明I−1のサンプルおよび比較例I−1サンプルについて、100℃における飽和磁束密度Bs(測定条件:1194A/m)、100℃におけるコアロスPcv(測定条件:100kHz,200mT)をそれぞれ測定した。測定したサンプル個数nは、それぞれ30個とした。
【0055】
測定した総データを用いて、
(1)飽和磁束密度BsおよびコアロスPcvのそれぞれの平均値
(2)飽和磁束密度BsおよびコアロスPcvのそれぞれの最大値
(3)飽和磁束密度BsおよびコアロスPcvのそれぞれの最小値
(4)飽和磁束密度BsおよびコアロスPcvのそれぞれの(最大値−最小値)
(5)飽和磁束密度BsおよびコアロスPcvのそれぞれの標準偏差
をそれぞれ求め、結果を、下記表1に示した。
【0056】
【表1】

【0057】
また、本発明I−1サンプルおよび比較例I−1サンプルの各30個の生データを、縦軸をBs、横軸をPcvとしたグラフにプロットして、図1に示した。図1により、特性のバラツキのレベル差を視認することができる。
【0058】
実験例II
本発明II−1サンプルの作製
上記本発明I−1サンプルの作製において、フェライト主成分組成およびLi添加量を変えた。すなわち、フェライト主成分組成として、Fe23=57.5モル%、MnO=36.0モル%、ZnO=6.5モル%となるように主成分原料を秤量して、湿式ボールミルを用いて16時間湿式混合した後、乾燥させた。
【0059】
また、LiFeO2を、主成分に対して0.6重量%(Li2CO3換算)に変えた。
【0060】
それ以外は、上記本発明I−1サンプルと同様にして、本発明II−1サンプルを作製した。
【0061】
比較例II−1サンプルの作製
上記本発明II−1サンプルの作製において、副成分のLi原料として、水不溶性の化合物LiFeO2に代えて水溶性のLi2CO3を用いた。それ以外は上記本発明II−1のサンプルの作製と同様にして、比較例II−1サンプルを作製した。
【0062】
得られた本発明II−1のサンプルおよび比較例II−1サンプルについて、100℃における飽和磁束密度Bs(測定条件:1194A/m)、100℃におけるコアロスPcv(測定条件:100kHz,200mT)をそれぞれ測定した。測定したサンプル個数nは、それぞれ、20個とした。
【0063】
測定した総データを用いて、
(1)飽和磁束密度BsおよびコアロスPcvのそれぞれの平均値
(2)飽和磁束密度BsおよびコアロスPcvのそれぞれの最大値
(3)飽和磁束密度BsおよびコアロスPcvのそれぞれの最小値
(4)飽和磁束密度BsおよびコアロスPcvのそれぞれの(最大値−最小値)
(5)飽和磁束密度BsおよびコアロスPcvのそれぞれの標準偏差
をそれぞれ求め、結果を、下記表2に示した。
【0064】
【表2】

【0065】
実験例III
本発明III−1サンプルの作製
上記本発明I−1サンプルの作製において、フェライト主成分組成およびLi添加量を変えた。すなわち、フェライト主成分組成として、Fe23=59.3モル%、MnO=34.2モル%、ZnO=6.5モル%となるように主成分原料を秤量して、湿式ボールミルを用いて16時間湿式混合した後、乾燥させた。
【0066】
また、LiFeO2を、主成分に対して0.75重量%(Li2CO3換算)に変えた。
【0067】
それ以外は、上記本発明I−1サンプルと同様にして、本発明III−1サンプルを作製した。
【0068】
比較例III−1サンプルの作製
上記本発明III−1サンプルの作製において、副成分のLi原料として、水不溶性の化合物LiFeO2に代えて水溶性のLi2CO3を用いた。それ以外は上記本発明III−1のサンプルの作製と同様にして、比較例III−1サンプルを作製した。
【0069】
得られた本発明III−1のサンプルおよび比較例III−1サンプルについて、100℃における飽和磁束密度Bs(測定条件:1194A/m)、100℃におけるコアロスPcv(測定条件:100kHz,200mT)をそれぞれ測定した。測定したサンプル個数nは、それぞれ、20個とした。
【0070】
測定した総データを用いて、
(1)飽和磁束密度BsおよびコアロスPcvのそれぞれの平均値
(2)飽和磁束密度BsおよびコアロスPcvのそれぞれの最大値
(3)飽和磁束密度BsおよびコアロスPcvのそれぞれの最小値
(4)飽和磁束密度BsおよびコアロスPcvのそれぞれの(最大値−最小値)
(5)飽和磁束密度BsおよびコアロスPcvのそれぞれの標準偏差
をそれぞれ求め、結果を、下記表3に示した。
【0071】
【表3】

【0072】
実験例IV
本発明IV−1サンプルの作製
上記本発明I−1サンプルの作製において、フェライト主成分組成およびLi添加量を変えた。すなわち、フェライト主成分組成として、Fe23=56.2モル%、MnO=39.8モル%、ZnO=4.0モル%となるように主成分原料を秤量して、湿式ボールミルを用いて16時間湿式混合した後、乾燥させた。
【0073】
LiFeO2は、主成分に対して0.4重量%(Li2CO3換算)とした。
【0074】
それ以外は、上記本発明I−1サンプルと同様にして、本発明IV−1サンプルを作製した。
【0075】
比較例IV−1サンプルの作製
上記本発明IV−1サンプルの作製において、副成分のLi原料として、水不溶性の化合物LiFeO2に代えて水溶性のLi2CO3を用いた。それ以外は上記本発明IV−1のサンプルの作製と同様にして、比較例IV−1サンプルを作製した。
【0076】
得られた本発明IV−1のサンプルおよび比較例IV−1サンプルについて、100℃における飽和磁束密度Bs(測定条件:1194A/m)、100℃におけるコアロスPcv(測定条件:100kHz,200mT)をそれぞれ測定した。測定したサンプル個数nは、それぞれ、20個とした。
【0077】
測定した総データを用いて、
(1)飽和磁束密度BsおよびコアロスPcvのそれぞれの平均値
(2)飽和磁束密度BsおよびコアロスPcvのそれぞれの最大値
(3)飽和磁束密度BsおよびコアロスPcvのそれぞれの最小値
(4)飽和磁束密度BsおよびコアロスPcvのそれぞれの(最大値−最小値)
(5)飽和磁束密度BsおよびコアロスPcvのそれぞれの標準偏差
をそれぞれ求め、結果を、下記表4に示した。
【0078】
【表4】

【0079】
実験例V
本発明V−1サンプルの作製
上記本発明I−1サンプルの作製において、フェライト主成分組成およびLi添加量を変えた。すなわち、フェライト主成分組成として、Fe23=55.9モル%、MnO=35.1モル%、ZnO=9.0モル%となるように主成分原料を秤量して、湿式ボールミルを用いて16時間湿式混合した後、乾燥させた。
【0080】
LiFeO2は、主成分に対して0.4重量%(Li2CO3換算)とした。
【0081】
それ以外は、上記本発明I−1サンプルと同様にして、本発明V−1サンプルを作製した。
【0082】
比較例V−1サンプルの作製
上記本発明V−1サンプルの作製において、副成分のLi原料として、水不溶性の化合物LiFeO2に代えて水溶性のLi2CO3を用いた。それ以外は上記本発明V−1のサンプルの作製と同様にして、比較例V−1サンプルを作製した。
【0083】
得られた本発明V−1のサンプルおよび比較例V−1サンプルについて、100℃における飽和磁束密度Bs(測定条件:1194A/m)、100℃におけるコアロスPcv(測定条件:100kHz,200mT)をそれぞれ測定した。測定したサンプル個数nは、それぞれ、20個とした。
【0084】
測定した総データを用いて、
(1)飽和磁束密度BsおよびコアロスPcvのそれぞれの平均値
(2)飽和磁束密度BsおよびコアロスPcvのそれぞれの最大値
(3)飽和磁束密度BsおよびコアロスPcvのそれぞれの最小値
(4)飽和磁束密度BsおよびコアロスPcvのそれぞれの(最大値−最小値)
(5)飽和磁束密度BsおよびコアロスPcvのそれぞれの標準偏差
をそれぞれ求め、結果を、下記表5に示した。
【0085】
【表5】

【0086】
なお、上記実験例I〜実験例Vにおいて、Liの添加形態であったLiFeO2に代えてLiFe58、Li2Fe35、Li5FeO4を用いた場合においても、上記実験例I〜実験例Vで示されるのと同様な効果が発現することが確認されている。
【0087】
実験例VI
本発明VI−1サンプルの作製
上記本発明I−1サンプルの作製において、Li成分として添加したLiFeO2の添加形態をLiMn24に代えた。添加形態の変更に伴う主成分のFe、Mn量も実質的な変動がないように配慮した。
【0088】
それ以外は、上記本発明I−1サンプルと同様にして、本発明VI−1サンプルを作製した。
【0089】
比較例VI−1サンプルの作製
上記本発明VI−1サンプルの作製において、副成分のLi原料として、水不溶性の化合物LiMn24に代えて水溶性のLi2CO3を用いた。それ以外は上記本発明VI−1のサンプルの作製と同様にして、比較例VI−1サンプルを作製した。
【0090】
得られた本発明VI−1のサンプルおよび比較例VI−1サンプルについて、100℃における飽和磁束密度Bs(測定条件:1194A/m)、100℃におけるコアロスPcv(測定条件:100kHz,200mT)をそれぞれ測定した。測定したサンプル個数nは、それぞれ、20個とした。
【0091】
測定した総データを用いて、
(1)飽和磁束密度BsおよびコアロスPcvのそれぞれの平均値
(2)飽和磁束密度BsおよびコアロスPcvのそれぞれの最大値
(3)飽和磁束密度BsおよびコアロスPcvのそれぞれの最小値
(4)飽和磁束密度BsおよびコアロスPcvのそれぞれの(最大値−最小値)
(5)飽和磁束密度BsおよびコアロスPcvのそれぞれの標準偏差
をそれぞれ求め、結果を、下記表6に示した。
【0092】
【表6】

【0093】
以上、実験例I〜実験例VIの結果より、本発明の効果は明らかである。
【0094】
すなわち、本発明は、MnZn系フェライトの主成分に対して副成分としてLiを添加してなるMnZn系フェライトの製造方法において、前記Liを添加するに際して用いられるLi化合物が、水に対して不溶性ないし難溶性の化合物であるように構成しているので、製品ロット間の特性バラツキを抑制することができ、製造歩留まりの向上および製品品質の信頼性の向上を図ることができる。
【0095】
なお、原料の秤量物を混合する際に、副成分を添加した場合においても、Li化合物が、水に対して不溶性ないし難溶性の化合物である場合と、そうでない易溶性の化合物である場合とでは、やはり上記実験例で確認したのと同様な効果の差異が確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0096】
本発明のMnZn系フェライトの製造方法は、幅広く各種の電気部品産業に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0097】
【図1】本発明I−1サンプルおよび比較例I−1サンプルの各30個の生データを、縦軸をBs、横軸をPcvとしたグラフにプロットし、特性のバラツキのレベル差を視認できるようにしたものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
MnZn系フェライトの主成分に対して副成分としてLiを添加してなるMnZn系フェライトの製造方法において、
前記Liを添加するに際して用いられるLi化合物が、水に対して不溶性ないし難溶性の化合物であることを特徴とするMnZn系フェライトの製造方法。
【請求項2】
前記MnZn系フェライトは、主成分として酸化鉄をFe23換算で54〜60モル%、酸化亜鉛をZnO換算で3〜10モル%、酸化マンガン(MnO換算)を残部、含有してなる請求項1に記載のMnZn系フェライトの製造方法。
【請求項3】
前記Li化合物は、Li2CO3換算で、前記主成分に対して、0.1〜0.8重量%含有される請求項1または請求項2に記載のMnZn系フェライトの製造方法。
【請求項4】
前記Li化合物は、Liと、Fe、Mn、およびZnの中から選定された少なくとも1種以上の成分を含有する酸化物である請求項1ないし請求項3のいずれかに記載のMnZn系フェライトの製造方法。
【請求項5】
前記Li化合物は、Liと、Feとの成分を含有する酸化物である請求項4に記載のMnZn系フェライトの製造方法。
【請求項6】
前記Li化合物は、LiFeO2、LiFe58、Li2Fe35、およびLi5FeO4の中から選択された少なくとも1種以上である請求項5に記載のMnZn系フェライトの製造方法。
【請求項7】
前記Li化合物は、Liと、Mnとの成分を含有する酸化物である請求項4に記載のMnZn系フェライトの製造方法。
【請求項8】
前記Li化合物は、LiMn24、LiMnO2の中から選択された少なくとも1種以上である請求項7に記載のMnZn系フェライトの製造方法。
【請求項9】
さらに、副成分として、Si、Ca、Zr、Nb、Ta、V、Bi、Mo、Snの中から選定された少なくとも1種以上が含有される請求項1ないし請求項8のいずれかに記載のMnZn系フェライトの製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2008−290906(P2008−290906A)
【公開日】平成20年12月4日(2008.12.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−137621(P2007−137621)
【出願日】平成19年5月24日(2007.5.24)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】