説明

MnZn系フェライト粉末、MnZn系フェライト顆粒、MnZn系フェライトコアの製造方法およびMnZn系ファライトコア

【課題】 高い飽和磁束密度(Bs)を備えるとともにコアロスが小さく、さらには製造コストの低減と環境負荷の低減を可能とするMnZn系フェライトコアを提供する。
【解決手段】 中間原料製品である金属鉄を含有するMnZn系フェライト粉末あるいは顆粒を用いて、MnZn系フェライト焼結体を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電源トランス等に用いられるMnZn系フェライトコアおよびその製造過程で使用される中間原料製品等に関し、特に、高い飽和磁束密度(Bs)を備えるとともにコアロスが小さく、さらには製造コストの低減と環境負荷の低減を可能とするMnZn系フェライトコアの製造方法、並びに中間原料製品に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器の小型化、多機能化が急速に進展するに伴い、電源や各種部品の高集積化、高周波化も進み、供給される電流も大電流化が進んでいる。
【0003】
このような大電流化に伴い、各種部品からの発熱は増大する傾向にあり、さらに電子機器の駆動時の発熱による温度上昇も考慮して、トランス、チョークコイルといった回路部品に用いられる磁芯材料は、室温から100℃程度の高温まで高い飽和磁束密度Bsを確保することが求められるとともに、各種部品は、高温での安定かつ確実な駆動が求められている。
【0004】
MnZn系フェライトコアは、一般に、トランス及びチョークコイル等の材料として使用されており、上記の要望に応じるべく、トランスやチョークコイルなどに用いられるMnZn系フェライトコアは、動作温度において高い飽和磁束密度Bs及び低いコアロス(磁気損失)Pcvを有することが求められている。
【0005】
MnZn系フェライトコアの飽和磁束密度Bsは、一般に、基本組成と焼結体密度に依存する。MnZn系フェライトコアは、基本成分のFe23量を多く、ZnO量を少なく配合することで、磁気モーメントが増大し、高い飽和磁束密度Bsを得ることができる。また、組成を調整することによりキュリー温度を上昇させ、100℃付近の高温での飽和磁束密度Bsの低下を小さくさせることができる。
【0006】
しかしながら、基本成分のFe23量を多くして、ZnO量を少なくすると、焼結性が悪化して焼結体の密度が低下してしまい、飽和磁束密度Bsの低下とコアロスPcvの増大を招くおそれが生じる。
【0007】
そのため、MnZn系フェライトコアを構成するFe23とMnOとZnOとの各々の組成を単に調整するだけでは、高い飽和磁束密度Bsを得つつ、低いコアロスPcvを得ることは困難である。このような理由から、組成配合の検討のみならず、焼成条件等の最適化を図ることにより高密度・高飽和磁束密度・低コアロスのフェライトを製造する努力がなされてきた。
【0008】
ところで、MnZn系フェライトコアは、通常以下の手順で作製される。すなわち、所定の組成となるように配合されたMnZn系フェライト原料粉末の混合物は、大気中で700〜1000℃で仮焼きされた後、粉砕され、さらに造粒された後、成形されて成形体となる。この成形体はいわゆる本焼成されて焼成体となり、この焼成体を加工することによりMnZn系フェライトコアが得られる。
【0009】
しかしながら、上記プロセスの中で、仮焼きの段階では一部の成分しかスピネル化されていない。そのため、MnZn系フェライトは、焼成過程の昇温中に残りの成分が反応してスピネル相となるとともに酸素を放出する。MnZn系フェライト粉末に含まれる酸素の放出が不十分である場合には、酸素ガスが焼成体の中に残ったままとなり、焼結体にポアが発生するおそれがある。この一方で、焼成雰囲気中の酸素濃度が高いと、焼結体内部の酸素の拡散と排出が阻害されてしまい、焼結体密度の向上に悪影響を及ぼす。
【0010】
そのため、放出された酸素をなるべく系外へ排出させ、高い焼結体密度のコアを得るためにコア周辺のガスの流れをよくする必要がある。従って、原料粉末を本焼成する際の昇温段階、特に、1000℃以上の温度領域では雰囲気中に窒素を大量に供給して、放出された酸素を置換し、雰囲気の酸素濃度または酸素分圧を低くする方法が採用されてきた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平10−203864号公報
【0012】
しかしながら、大量の窒素ガスを流すことにより製造コストと環境負荷が大幅に増加するという問題が生じる。より具体的には、大量の窒素ガスを消費することによるコスト増加がある。次に、大量の窒素ガスを1000℃付近まで加熱してまたそのまま排出するので、加熱のための大量のエネルギーが無駄になる。さらに、大流量の焼成ガス雰囲気を作るために、焼成炉や付属設備の改造や複雑化が避けられず、これも製造コストの増加要因となる。
【0013】
また、焼成過程においては、焼成炉内の箇所により成形体の数量の多少やガスの流れの違いにより酸素濃度や温度がばらつくため、製品特性のバラつきが発生しやすい。つまり、成形体が多く置かれた箇所では成形体からに酸素放出が多い一方、成形体の阻害によりガスの流れが悪いので、雰囲気中の酸素濃度が高くなりやすい。これは製品特性のばらつき原因となるため、その低減のために積載量を減らしたり、焼成炉や付属設備を複雑化したりする必要があり、これも製造コストの増加要因となる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
このような実状のもとに、本発明は創案されたものであって、その目的は、高い飽和磁束密度(Bs)を備えるとともにコアロスが小さく、さらには製造コストの低減と環境負荷の低減を可能とするMnZn系フェライトコアおよびその製造過程におけるフェライト中間原料製品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
このような課題を解決するために、本発明は、MnZn系フェライト焼結体を形成するための中間原料製品であるMnZn系フェライト粉末であって、該MnZn系フェライト粉末は、金属鉄(Fe)を含有するように構成される。
【0016】
また、本発明のMnZn系フェライト粉末の好ましい態様として、前記MnZn系フェライト粉末は、フェライト仮焼粉末に金属鉄(Fe)の粉末を含有させたものであって、当該金属鉄(Fe)の重量含有率Y(wt%)は、下記式(1)で示される範囲とされる。
Y=a・X …式(1)
ここで、X(wt%)は、仮焼後のフェライト仮焼粉末を不活性ガス雰囲気下で1200℃まで昇温させつつ熱重量分析(Thermogravimetric Analysis :TG)を行った場合の700℃〜1200℃間の重量減少分であり、aは、前記重量減少分を酸素放出による酸素量とし、当該放出酸素量の一部が鉄酸化物(Fe34)を形成するために使用されたとして換算して求められた係数であって、a=0.2〜2.6である。
【0017】
本発明は、MnZn系フェライト焼結体を形成するための中間原料製品であるMnZn系フェライト顆粒であって、該MnZn系フェライト顆粒は、金属鉄(Fe)を含有するように構成される。
【0018】
また、本発明のMnZn系フェライト顆粒の好ましい態様として、前記MnZn系フェライト顆粒は、フェライト仮焼粉末に金属鉄(Fe)を含有させた後に顆粒としたものであって、当該金属鉄(Fe)の重量含有率Y(wt%)は、下記式(1)で示される範囲内とされる。
Y=a・X …式(1)
ここで、X(wt%)は、仮焼後のフェライト仮焼粉末を不活性ガス雰囲気下で1200℃まで昇温させつつ熱重量分析(Thermogravimetric Analysis :TG)を行った場合の700℃〜1200℃間の重量減少分であり、aは、前記重量減少分を酸素放出による酸素量とし、当該放出酸素量の一部が鉄酸化物(Fe34)を形成するために使用されたとして換算して求められた係数であって、a=0.2〜2.6である。
【0019】
本発明のMnZn系フェライトコアは、前記記載のMnZn系フェライト粉末または顆粒MnZn系フェライト顆粒を用い、コア形状に成形し、しかる後、焼成することにより形成される。
【0020】
また、本発明のMnZn系フェライトコアの好ましい態様として、主成分として、酸化鉄をFe23換算で53.0〜67.0モル%、酸化亜鉛をZnO換算で3.0〜25.0モル%、および酸化マンガン(MnO換算)を残部モル%含むように構成される。
【0021】
本発明のMnZn系フェライトコアの製造方法は、仮焼工程、粉砕工程、成形工程および焼成工程を有し、前記仮焼工程によりMnZn系フェライト仮焼物が形成され、前記粉砕工程により前記仮焼工程により形成されたMnZn系フェライト仮焼物が粉砕されるとともに、金属鉄(Fe)が含有される操作が行なわれ、前記成形工程によって、コア形状に成形され、しかる後、焼成工程により焼結体が形成されるように構成される。
【0022】
また、本発明のMnZn系フェライトコアの製造方法の好ましい態様として、前記金属鉄(Fe)の重量含有率Y(wt%)は、下記式(1)で示される範囲内とされる。
Y=a・X …式(1)
ここで、X(wt%)は、仮焼後のフェライト仮焼粉末を不活性ガス雰囲気下で1200℃まで昇温させつつ熱重量分析(Thermogravimetric Analysis :TG)を行った場合の700℃〜1200℃間の重量減少分であり、aは、前記重量減少分を酸素放出による酸素量とし、当該放出酸素量の一部が鉄酸化物(Fe34)を形成するために使用されたとして換算して求められた係数であって、a=0.2〜2.6である。
【0023】
また、本発明のMnZn系フェライトコアの製造方法の好ましい態様として、前記焼成工程における焼成時の900〜1100℃の温度域において、焼成雰囲気中の酸素濃度は1wt%以下であるように構成される。
【発明の効果】
【0024】
本発明のMnZn系フェライト焼結体を形成するための中間原料製品であるMnZn系フェライト粉末あるいはMnZn系フェライト顆粒は、金属鉄(Fe)を含有するように構成される。従って、このようなフェライト粉末あるいは顆粒を用いて、コア形状に成形し、しかる後、焼成することによりMnZn系フェライトコアを製造した場合、焼成工程の例えば1000℃付近で酸素が放出されると、MnZn系フェライト粉末中に含まれている金属Feの粉末が酸化し、Fe34などの鉄酸化物になるため、結果的に放出された酸素はその場で吸収されることになり、フェライトの焼結体内部に酸素ガスは実質的に残らず、緻密なフェライトコアが得られ、高い飽和磁束密度(Bs)を備えるとともにコアロスが小さい特性が得られる。さらには、設備の改造や、焼成時に大量の窒素ガスを流すことが必要となくなり得るので製造コストの低減と環境負荷の低減を可能とすることができる。
【0025】
本発明の作用は以下のとおり。
MnZn系フェライト成形体が本焼成される際(いわゆる焼成工程)、仮焼き後のスピネル化していないFe23やMn23などの酸化物は、昇温過程の700℃から1200℃の間の温度領域で、下記式(1)及び(2)のように、スピネル化反応により酸素が放出される。
【0026】
よって、本焼成に至る前の状態で、MnZn系フェライト粉末中にスピネル化していない成分が多いほど、焼成の過程で大量の酸素が放出され、重量減少率が大きくなる。
【0027】
Mn23 + 2Fe23 → 2MnFe24 + (1/2)O2↑ …(1)
3Fe23 → 2Fe34 + (1/2)O2↑ …(2)
【0028】
一方で、仮焼き粉に添加、混合される金属Feの酸化は、下記式(3)のように、Fe34の形成にともない酸素が消費される。
【0029】
3Fe + 2O2 → Fe34 …(3)
【0030】
従って、本発明のごとく適切な金属Fe量がフェライト粉末あるいは顆粒中に存在すれば、焼成工程時に酸素の放出を基本的に無くすことが可能となるのである。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】図1は、仮焼後のフェライト仮焼き粉末を窒素ガス雰囲気下で1200℃まで昇温させて熱重量分析(Thermogravimetric Analysis :TG)を行った場合のデータの一例をグラフとして示したものである。
【図2】図2は、図1に追加する形で、仮焼後のフェライト仮焼粉末に金属鉄(Fe)を1wt%、2wt%、3wt%、10wt%とそれぞれ、添加した場合の、熱重量分析結果の一例を示したものである。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明のMnZn系ファライトコアおよびMnZn系フェライトコアの製造方法について説明する。これらの説明によって、中間原料製品である本発明のMnZn系フェライト粉末、およびMnZn系フェライト顆粒の構成も容易に理解することができる。
【0033】
本発明のMnZn系フェライトコアの製造方法の説明
本発明のMnZn系フェライトコアの製造方法は、以下に示すような、(1)秤量・配合工程、(2)混合工程(3)仮焼き工程、(4)粉砕工程、(5)造粒工程、(6)成形工程、(7)焼成工程、を有し構成される。
【0034】
以下、各工程毎に詳細に説明する。
(1)秤量・配合工程
目標のフェライトが得られるように原料粉末を秤量し、所定の配合比で混合して混合粉末を得るための工程である。主成分の原料として、酸化物または加熱により酸化物となる化合物、例えば、炭酸塩、水酸化物、蓚酸塩、硝酸塩などの粉末が用いられる。各原料粉末の平均粒径は、0.1〜3.0μm程度の範囲で適宜選定すればよい。なお、上述した原料粉末に限らず、2種以上の金属を含む複合酸化物の粉末を原料粉末としてもよい。
【0035】
なお、最終製品としてのMnZn系フェライトコアの主成分が、酸化鉄をFe23換算で53.0〜67.0モル%、酸化亜鉛をZnO換算で3.0〜25.0モル%、および酸化マンガン(MnO換算)を残部モル%となるように、秤量・配合されることが望ましい。また、主成分組成であるMnOの一部をNiOに代えて使用するようにしてもよい。
【0036】
この秤量・配合工程において、副成分を添加することもできるが、通常、副成分は後述する仮焼後の粉砕工程において、添加される。
【0037】
(2)混合工程
原料粉末を均一に混合する混合工程が行なわれる。原料粉末は、例えばボールミルを用いて湿式混合されることが好ましいが、乾式混合とすることもできる。湿式混合の場合、その後、乾燥工程が行なわれるが、乾式混合の場合には乾燥工程が省略される。さらに、必要に応じて、粉砕、篩い分けが行なわれる。
【0038】
(3)仮焼き工程
前述の混合工程により、例えば、原料粉末をボールミルにより湿式混合し、乾燥、粉砕、篩い分けをした後、700〜1000℃の温度範囲内で所定時間保持する仮焼きが行われる。
【0039】
仮焼きの雰囲気温度は、窒素または大気雰囲気とされる。仮焼きの保持時間は例えば1〜5時間の範囲内で適宜選定すればよい。
【0040】
仮焼きは、原料粉末の熱分解や、原料粉末に含まれる成分の均質化や、MnZn系フェライト相の生成(スピネル化)や、焼結による超微粉の消失や、適度の粒子サイズへの粒成長を起こさせ、混合粉末を後述の工程に適した形態に変えるために行なわれる。
【0041】
(4)粉砕工程
仮焼き後の仮焼体を粉砕してMnZn系フェライト粉末を得る工程である。仮焼き後、仮焼体は、例えば、平均粒径0.5〜5.0μm程度までに粉砕される。粉砕は仮焼体の凝集や融着を崩して適度の焼結性を有する粉末を製造するために行なわれる。
【0042】
本発明においては、この粉砕工程において、金属鉄(Fe)の粉末が所定量、添加され混合される。添加される金属鉄(Fe)の粉末の重量含有率Y(wt%)は、下記式(1)で示される範囲内とされる。
【0043】
Y=a・X …式(1)
ここで、X(wt%)は、仮焼き後のフェライト仮焼き粉末を不活性ガス雰囲気下で1200℃まで昇温させつつ熱重量分析(Thermogravimetric Analysis :TG)を行った場合の700℃〜1200℃間の重量減少分であり、aは、前記重量減少分を酸素放出による酸素量とし、当該放出酸素量が鉄酸化物(Fe34)を形成するために使用されたとして換算して求められた酸化鉄換算係数を目安に大量な実験により最適範囲を求められたものであって、a=0.2〜2.6、好ましくは、0.5〜2.5である。
つまり、aは多量の実験結果に基づく補正因子を含む係数である。
【0044】
なお、熱重量分析(Thermogravimetric Analysis :TG)の重量変化を求める基準点を700℃とするのは、600℃までの低温で重量減少が発生し得るバインダー類の分解の影響を排除するためである。
【0045】
上記のaの値についてより具体的に説明すると、いま100単位の仮焼き後のフェライト仮焼き粉末を不活性ガス雰囲気下で1200℃まで昇温させつつ熱重量分析(Thermogravimetric Analysis :TG)を行った場合の700℃〜1200℃間の重量減少分Xを1単位(1wt%)とする。(3)式の反応において金属鉄と酸素の重量比率はFe:O2=167.5:64なので、1単位(1wt%)の酸素を完全にFe34とするためには金属Fe量が2.62単位(2.62wt%)必要となる。しかし、大量な実験の結果、放出される酸素を完全に吸収する2.62単位(2.62wt%)の金属鉄を混入すると、焼成したコアの磁気特性が逆に低下することが確認された。このような不都合を避けるために、aの上限を2.6程度とした。
【0046】
上記aの値が上限値を超えて、過剰の量の金属鉄(Fe)が含まれると、焼成時の放出酸素でFe34まで完全に酸化させることができずに、一部、磁性を持たないFeOとして残るおそれがある。この場合には、逆に磁気特性の低下を引き起こす。計算上放出酸素がちょうど完全に吸収されるa=2.62の金属鉄を含まれる場合でも、粉末の分散性の問題で局所的に金属鉄が過剰となるため、磁気特性の低下が発生することがある。また、aの値が下限値未満となると、本発明の効果が十分に発現しない。これらの不都合の発生を回避するために、本発明における金属鉄(Fe)の添加量は、仮焼き粉のスピネル化の状態を見極めて、大量な実験により最適範囲を求められた上記の範囲内にすることが必要である。
【0047】
また、十分な効果を発揮させるためには、金属鉄(Fe)粉末の粒径がフェライトの原料粉末とほぼ同じ程度か、それより小さいものとし、かつ金属鉄(Fe)粉末を酸化物粉末に均一に分散することが必要である。均一に分散できなければ、局部的に金属鉄(Fe)量が不足だったり、過剰だったりするので、焼結体の構造的・組成的な不均一および変形、割れなどの原因となり得る。
【0048】
この粉砕工程において、粉砕された仮焼き粉末に所定量の金属鉄(Fe)粉末が添加・混合されて、本発明のMnZn系フェライト焼結体を形成するための中間原料製品であるMnZn系フェライト粉末が形成される。この段階で中間原料製品とする場合には、後の工程は、中間原料製品購入者によって、別途行なわれる。
【0049】
なお、粉砕される前の仮焼物に金属鉄(Fe)粉末を添加して粉砕するようにしてもよい。
【0050】
図1には、仮焼後のフェライト仮焼き粉末を窒素ガス雰囲気下で1200℃まで昇温させて熱重量分析(Thermogravimetric Analysis :TG)を行った場合のデータがグラフとして示されている。図1において、仮焼きの段階では一部の成分しかスピネル化されていない残りの成分が反応してスピネル相となるとともに酸素を放出し、酸素放出に伴う重量減少分が、Xとして表示されている。
【0051】
また、図2には、図1に追加する形で、仮焼後のフェライト仮焼粉末に金属鉄(Fe)を1wt%、2wt%、3wt%、10wt%とそれぞれ、添加した場合の、熱重量分析結果が示されている。これによれば、添加される金属鉄(Fe)の割合が増加するにつれて、放出される酸素が鉄と反応する量が増え、結果として、重量減少分が小さくなっていることが分かる。極端な例として10wt%もの過剰な金属Feを添加した場合には、酸素の放出がほぼ完全に無くなっている。
【0052】
なお、この粉砕工程において、仮焼粉砕後に得られた主成分の粉末に、他の成分の原料粉末を所定量添加し混合するようにしてもよい。例えば、NiO、CoO、CuO、SiO2、CaO、Nb25、Ta25、V25、ZrO2、SnO2、TiO2等の種々の副成分を含有させるようにしてもよい。
【0053】
上述してきたMnZn系フェライト焼結体を形成するための中間原料製品である本発明の金属鉄を含むMnZn系フェライト粉末は、不活性ガス雰囲気下で1200℃まで昇温させつつ熱重量分析を行った場合の700℃〜1200℃間の重量減少分が2wt%以下程度とすることが望ましい。
【0054】
(5)造粒工程
水分と粘結剤(例えばポリビニルアルコール(PVA))とを混合して、適度な流動性を有する顆粒にする工程である。すなわち、造粒は、粉砕材料を適度な大きさの凝集粒子である顆粒とし、成形に適した形態とすることにより、後述の成形工程を円滑にさせる。得られる顆粒の粒径は80〜200μm程度とすることが望ましい。
【0055】
この造粒工程において、所定量の金属鉄(Fe)粉末が含有された中間原料製品であるMnZn系フェライト顆粒が形成される。この段階で中間原料製品とする場合には、後の工程は、中間原料製品購入者によって、別途行なわれる。
【0056】
上述してきたMnZn系フェライト焼結体を形成するための中間原料製品である本発明の金属鉄を含むMnZn系フェライト顆粒は、不活性ガス雰囲気下で1200℃まで昇温させつつ熱重量分析を行った場合の700℃〜1200℃間の重量減少分が2wt%以下程度とすることが望ましい。
【0057】
(6)成形工程
圧力を加えてMnZn系フェライト顆粒を所定の形にする工程である。一般には圧縮成形用金型を用いてMnZn系フェライト顆粒を圧縮成形することによって、フェライトコア形状の成形体が得られる。
【0058】
(7)焼成工程
焼成工程は、昇温操作部、高温保持操作部、降温操作部をこの順で有する。
【0059】
昇温操作部は、焼成温度を室温から漸増的に上げていき最高温度に到達するまでの操作領域である。高温保持操作部は、到達した最高温度を所定時間安定維持したままの状態とする操作領域である。降温操作部は、到達した最高温度を漸減的に室温近傍まで下げていく操作領域である。本発明における室温近傍とは、0〜50℃の温度範囲内をいう。
【0060】
以下、各操作部ごとにさらに詳細に説明する。
昇温操作部
昇温操作部においては、窒素中で昇温操作することが望ましい。昇温速度は、50〜300℃/hr、より好ましくは50〜150℃/hrの範囲とされる。
【0061】
高温保持操作部
高温保持操作部における高温保持温度は、1300〜1350℃の範囲内で適宜設定される。
【0062】
高温保持操作部の焼成雰囲気は、窒素雰囲気中に少量の酸素を導入したものとされ、当該高温保持操作部における、酸素分圧と温度の操作については、酸素分圧(PO2(単位:%))と温度(T(単位:絶対温度K))との平衡関係を示す平衡関係式により導かれる。
本発明の組成の焼成において、適用され得る平衡酸素分圧(PO2(単位:%))は、例えば、高温保持温度の1300〜1350℃においては1%以下、特に、0.2〜0.3%程度とされることが望ましい。
【0063】
降温操作部
降温操作部における酸素分圧と温度の操作については、例えば、空気雰囲気中に窒素を導入した還元雰囲気とされ、当該降温操作部における、酸素分圧と温度の操作については、酸素分圧(PO2(単位:%))と温度(T(単位:絶対温度K))との平衡関係を示す平衡関係式により求めるようにすればよい。
【0064】
上述してきた本発明の製造方法でMnZn系フェライトコア(焼結体)を製造すれば、焼成過程において、昇温時にフェライト仮焼粉末から発生される酸素が、別途添加されている金属鉄(Fe)粉末を酸化させることに使用されて吸収され、焼結体に残留することがなく、緻密なフェライトコアが得られる。
【0065】
また、雰囲気中に排出される酸素量がほとんどなくなるか、大幅に減少するので、雰囲気の制御がしやすくなり、大量な窒素ガスを使用することなく緻密で飽和磁束密度が高く、低コアロスのMnZn系フェライトコアを低コストで製造することが可能となる。また、焼成炉内各所での成形体の量やガスの流れの違いによるばらつきを低減することも可能となる。
【0066】
本発明のMnZn系フェライトコアの説明
上記説明したように、本発明のMnZn系フェライト粉末や顆粒を用い、本発明の製造方法により焼成された焼結体であるMnZn系フェライトコアは、酸化鉄、酸化亜鉛、および酸化マンガンからなる主成分を含み構成される。
【0067】
前述したように酸化鉄は、Fe23換算で53.0〜67.0モル%、酸化亜鉛はZnO換算で3.0〜25.0モル%、および酸化マンガンは残部であり、MnO換算で8.0〜44.0モル%含有される。また、主成分組成であるMnOの一部をNiOに代えて使用するようにしてもよい。
【0068】
酸化鉄の含有量がFe23換算で53.0モル%未満となると、飽和磁束密度が低下するという不都合が生じる傾向があり、この一方で、酸化鉄の含有量がFe23換算で67.0モル%を超えると、コアロスが急激に増加するという不都合が生じる傾向がある。なお、酸化鉄は、秤量・配合工程で配合された鉄分と、MnZn系フェライト粉末や顆粒に金属鉄(Fe)として添加された鉄分との総和量である。
【0069】
また、酸化亜鉛の含有量がZnO換算で3.0モル%未満となると、コアロスが増加するという不都合が生じる傾向があり、この一方で、酸化亜鉛の含有量がZnO換算で25.0モル%を超えると、飽和磁束密度が低下するという不都合が生じる傾向がある。
【0070】
このような主成分に対して、副成分として、NiO、CoO、CuO、SiO2、CaO、Nb25、Ta25、V25、ZrO2、SnO2、TiO2等を添加するようにしてもよい。
【0071】
本発明におけるMnZn系フェライトコアの焼結体内部に酸素は実質的に残らず、緻密なフェライトコアが得られ、高い飽和磁束密度(Bs)を備えるとともにコアロスが小さい特性が得られる。
【実施例】
【0072】
以下、具体的な実施例を挙げて、本発明をさらに詳細に説明する。
〔実験例I〕
【0073】
焼成後の組成が下記表1に示される組成となるように、Fe23、Mn34、ZnO、NiO等の各原料を秤量・調整して、鋼鉄製ボールミルで16時間湿式混合した。なお、最終的に表1に示される目標組成となるよう、ここで秤量するFe23の量は、仮焼体を粉砕した後に添加される金属鉄(Fe)が酸化してなる分のFe23を取り除いた量とした。
【0074】
このような原料粉末を、上記のごとく湿式混合し、乾燥、粉砕、篩い分けをした後、大気中900℃で2時間、仮焼きした。
【0075】
得られた仮焼き物に、金属鉄(Fe)粉末を、下記表1に示される割合で添加し、鋼鉄製ボールミルで16時間湿式粉砕した。
【0076】
なお、金属鉄(Fe)粉末の添加量を所定範囲に定めるために、予め、仮焼後のフェライト仮焼粉末を窒素ガス雰囲気下で1200℃まで昇温させつつ熱重量分析(Thermogravimetric Analysis :TG)を行ない700℃〜1200℃間の重量減少分X(wt%)を求めておいた。
【0077】
混合粉砕して得られた混合物粉末にバインダを加え、顆粒化した後、成形してトロイダル形状の成形体を得た。トロイダル形状の成形物を、1300℃の温度で酸素分圧を制御しつつ5時間焼成して、その後、降温操作を行い、下記表1に示される種々のサンプル焼結体(焼成体)を作製した。
【0078】
下記、表1に示される各サンプルについて、
(1)磁気損失(コアロス)Pcv 〔at 100℃(kW/m3)〕
(2)飽和磁束密度Bs 〔at 100℃(mT)〕
(3)相対密度(%)
(4)混合粉末の酸素放出量の値(wt%)
をそれぞれ測定した。
【0079】
なお、上記の各測定要領は、以下のとおりとした。
【0080】
(1)磁気損失(コアロス)Pcv (kW/m3
周波数 100kHz、最大磁束密度 200mTの正弦波交流磁界を印加し、測定温度100℃での磁気損失(コアロス)をBHアナライザーにて測定した。
【0081】
(2)飽和磁束密度Bs (mT)
上記のコアロスの測定に準じ、測定温度100℃での飽和磁束密度BsをBHループトレーサーにて測定した。
【0082】
(3)相対密度(%)
理論密度に対する焼結体の密度で表示した。
【0083】
(4)混合粉末の酸素放出量の値(wt%)
ここでいう混合粉末とは、仮焼き後、粉砕した仮焼き物に金属鉄(Fe)粉末を添加したものであり、当該混合粉末について、熱重量分析(TG)を行い、700℃〜1200℃間の重量減少分(wt%)をその酸素放出量とした。
【0084】
結果を下記表1中に示した。
【0085】
【表1】

【0086】
表1に示される結果より、金属鉄を含む本発明の場合、金属鉄無添加のものに比べ、相対密度が高く、100℃における飽和磁束密度を高く、100℃におけるコア損失を低くすることができる。
【0087】
上記の結果より、本発明の効果は明らかである。すなわち、本発明のMnZn系フェライト焼結体を形成するための中間原料製品であるMnZn系フェライト粉末あるいは顆粒を用いて、コア形状に成形し、しかる後、焼成することによりMnZn系フェライトコアを製造した場合、焼成工程の例えば1000℃付近で酸素が放出されると、MnZn系フェライト粉末中に含まれている金属Feの粉末が酸化し、Fe34などの鉄酸化物になるため、結果的に放出された酸素はその場で吸収されることになり、フェライトの焼結体内部に酸素は実質的に残らず、緻密なフェライトコアが得られ、高い飽和磁束密度(Bs)を備えるとともにコアロスが小さい特性が得られる。さらには設備の改造や、焼成時に大量の窒素ガスを流すことが必要となくなり得るので製造コストの低減と環境負荷の低減を可能とすることができる。
【産業上の利用可能性】
【0088】
本発明のMnZn系フェライトコアは、幅広く各種の電気部品産業に利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
MnZn系フェライト焼結体を形成するための中間原料製品であるMnZn系フェライト粉末であって、
該MnZn系フェライト粉末は、
金属鉄(Fe)を含有することを特徴とするMnZn系フェライト粉末。
【請求項2】
前記MnZn系フェライト粉末は、フェライト仮焼粉末に金属鉄(Fe)の粉末を含有させたものであって、
当該金属鉄(Fe)の重量含有率Y(wt%)は、下記式(1)で示される範囲とされる請求項1に記載のMnZn系フェライト粉末。
Y=a・X …式(1)
ここで、X(wt%)は、仮焼後のフェライト仮焼粉末を不活性ガス雰囲気下で1200℃まで昇温させつつ熱重量分析(Thermogravimetric Analysis :TG)を行った場合の700℃〜1200℃間の重量減少分であり、aは、前記重量減少分を酸素放出による酸素量とし、当該放出酸素量の一部が鉄酸化物(Fe34)を形成するために使用されたとして換算して求められた係数であって、a=0.2〜2.6である。
【請求項3】
MnZn系フェライト焼結体を形成するための中間原料製品であるMnZn系フェライト顆粒であって、
該MnZn系フェライト顆粒は、
金属鉄(Fe)を含有することを特徴とするMnZn系フェライト顆粒。
【請求項4】
前記MnZn系フェライト顆粒は、フェライト仮焼粉末に金属鉄(Fe)を含有させた後に顆粒としたものであって、
当該金属鉄(Fe)の重量含有率Y(wt%)は、下記式(1)で示される範囲内である請求項3に記載のMnZn系フェライト顆粒。
Y=a・X …式(1)
ここで、X(wt%)は、仮焼後のフェライト仮焼粉末を不活性ガス雰囲気下で1200℃まで昇温させつつ熱重量分析(Thermogravimetric Analysis :TG)を行った場合の700℃〜1200℃間の重量減少分であり、aは、前記重量減少分を酸素放出による酸素量とし、当該放出酸素量の一部が鉄酸化物(Fe34)を形成するために使用されたとして換算して求められた係数であって、a=0.2〜2.6である。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれかに記載のMnZn系フェライト粉末または顆粒MnZn系フェライト顆粒を用い、コア形状に成形し、しかる後、焼成することにより形成されるMnZn系フェライトコア。
【請求項6】
主成分として、
酸化鉄をFe23換算で53.0〜67.0モル%、
酸化亜鉛をZnO換算で3.0〜25.0モル%、および
酸化マンガン(MnO換算)を残部モル%含む、請求項5に記載のMnZn系フェライトコア。
【請求項7】
仮焼工程、粉砕工程、成形工程および焼成工程を有するMnZn系フェライトコアの製造方法であって、
前記仮焼工程によりMnZn系フェライト仮焼物が形成され、
前記粉砕工程により前記仮焼工程により形成されたMnZn系フェライト仮焼物が粉砕されるとともに、金属鉄(Fe)が含有される操作が行なわれ、
前記成形工程によって、コア形状に成形され、しかる後、焼成工程により焼結体が形成されることを特徴とするMnZn系フェライトコアの製造方法。
【請求項8】
前記金属鉄(Fe)の重量含有率Y(wt%)は、下記式(1)で示される範囲内である請求項7に記載のMnZn系フェライトコアの製造方法。
Y=a・X …式(1)
ここで、X(wt%)は、仮焼後のフェライト仮焼粉末を不活性ガス雰囲気下で1200℃まで昇温させつつ熱重量分析(Thermogravimetric Analysis :TG)を行った場合の700℃〜1200℃間の重量減少分であり、aは、前記重量減少分を酸素放出による酸素量とし、当該放出酸素量の一部が鉄酸化物(Fe34)を形成するために使用されたとして換算して求められた係数であって、a=0.2〜2.6である。
【請求項9】
前記焼成工程における焼成時の900〜1100℃の温度域において、焼成雰囲気中の酸素濃度は1wt%以下である請求項7または請求項8に記載のMnZn系フェライトコアの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−180258(P2012−180258A)
【公開日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−46067(P2011−46067)
【出願日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】