説明

N−ハロゲン化アミノ酸処方物ならびに洗浄および消毒のための方法

本発明は、コンタクトレンズを消毒または洗浄する方法であって、コンタクトレンズを、レンズを消毒または洗浄するのに十分な時間、N−ハロゲン化アミノ酸および相間移動剤を含む処方物と接触させることを含む方法に関する。本明細書は、N−ハロゲン化アミノ酸および相間移動剤を含む、コンタクトレンズを消毒する処方物をさらに開示する。さらに別の実施形態において、本発明はN−ハロゲン化アミノ酸および相間移動剤を、組成物を保存するのに十分な量で含む医薬組成物を開示する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願への相互参照)
本願は、米国特許法第119条の下、2007年9月7日に出願された米国仮特許出願第60/970,634号、および2007年5月1日に出願された米国仮特許出願第60/915,291号の優先権を主張し、双方の米国仮特許出願の全体の内容は、本明細書中に参考として援用される。
【0002】
(発明の技術分野)
本発明は、N−ハロゲン化アミノ酸を用いてコンタクトレンズを洗浄および消毒する方法に関する。本発明は、N−ハロゲン化アミノ酸および相間移動剤を含む、コンタクトレンズの洗浄および消毒のための処方物にさらに関する。
【背景技術】
【0003】
(発明の背景)
眼のコンタクトレンズは、正常な着用の間、広域スペクトルの微生物および非感染性汚染物に曝露される。コンタクトレンズ表面での感染性および非感染性の汚染物の集積を回避するために、レンズの洗浄および消毒が必要とされる。特に親水性の(ソフト)コンタクトレンズのために、毎日の洗浄および消毒が必要となり得る。レンズの適切な洗浄および消毒を怠ると、レンズ着用者に眼の刺激から重大な感染症までの結果をもたらす。P.aeruginosaなどの特に病原性の強い微生物に起因する眼の感染症は、無処置で放置するか、または処置開始前に進行段階に到達させると、視力損失に至ることもある。
【0004】
引き続き、1)使用しやすく、2)強力な抗微生物活性を有し、3)無毒性である(すなわち、レンズ物質への結合の結果として眼の刺激を引き起こさない)改善されたコンタクトレンズの洗浄および消毒のシステムの必要性がある。コンタクトレンズを消毒および洗浄するための既知の技術には、時間のかかる加熱工程を必要とする熱的方法が含まれる。しかし、利便性のため、現在の慣行では化学消毒方法がより広く用いられている。
【0005】
現在既知の化学的消毒および洗浄の方法では、レンズを消毒および洗浄するのに十分な時間、コンタクトレンズを液体処方物に浸漬する。コンタクトレンズの化学的および光学的性質を変えず、コンタクトレンズ使用者への副作用の発生率を低く維持するために、消毒剤が比較的低い濃度で含まれる液剤を用いてコンタクトレンズを消毒する。残念なことに、低い濃度の消毒化合物を有する処方物の使用は望ましくない影響の可能性の低下を一般に助けるが、この慣行は、その処方物が必要なレベルの消毒活性を達成することができないリスクを増加させる。また、消毒化合物が十分な濃度で用いられない場合、微生物耐性が発達することがある。したがって、コンタクトレンズの消毒のために、抗微生物化合物成分のより低い濃度を利用しつつも十分な消毒活性を維持し、望ましくない副作用および微生物耐性の発生率およびリスクを低下させる、改善された処方物が望ましい。
【0006】
微生物汚染から医薬組成物を保存する、改善手段の必要性もある。この必要性は、眼および耳用の組成物の分野で特に一般的である。眼および耳用の水性組成物を保存するために利用される抗菌物質(antimicrobial)は、眼および耳の組織に無毒性である濃度で用いられる場合に、組成物の微生物汚染を予防するのに有効でなければならない。
【0007】
一部の抗微生物化合物は塩素を含有し、塩素は、それ自体、または化合物の形態で、飲用水の処理などの消毒用途のために用いられる。抗微生物活性を有する塩素化合物には、N−クロロアミドおよびイミド、クロロシアヌル酸(chlorocynauric acid)およびその塩、クロラミンT、1,3−ジクロロヒダントインならびにN−クロロアルキルアミンが含まれる。これらの化合物の多くは安定性に限度があり、それらを含むあらゆる処方物の貯蔵寿命を制限している。クロラミンなどの、他の塩素含有抗菌物質も研究されている。WeilおよびMorrisは、次亜塩素酸塩とメチルアミンおよびジメチルアミンとの間の反応を研究し、クロラミンが形成される過程を記載した。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0008】
(発明の簡単な要旨)
本発明は、ある実施形態では、コンタクトレンズを消毒および洗浄するための、改善された方法および処方物を目的とする。本明細書で記載されるように、N−ハロゲン化アミノ酸および相間移動剤を含む処方物の使用を通して、改善は達成される。政府規制は、コンタクトレンズを消毒する処方物が、他の組成物(例えば、洗浄組成物または保存された生理食塩水の洗浄溶液)の助けなしで消毒の達成が可能なことを求めている。これらの規制は、かなりより高い抗微生物活性を有する処方物の必要性を生んだ。本発明の多くの実施形態は、この基準(standard)を満たすのに十分な抗微生物活性を有するコンタクトレンズ消毒処方物を提供する。N−ハロゲン化アミノ酸および相間移動剤を組み合わせることは、本発明の処方物の殺菌効力を高め、N−ハロゲン化アミノ酸の濃度の低減を可能にする。したがって、眼の炎症を引き起こす本発明の処方物の可能性が低減される。また、理論によって束縛されることを望まないが、本発明の処方物がより高い疎水性を有し、それによって、それらの殺菌活性およびコンタクトレンズへの取り込みを増大させると考えられている。
【0009】
本発明のある実施形態は、タンパク質除去のために消毒溶液に通常組み込まれる、αヒドロキシル化合物様クエン酸塩を含有しない処方物を含む。これらの処方物のあるもののクエン酸塩は、酢酸塩、アジピン酸塩、コハク酸塩および/またはマレイン酸塩(meleate)、特に複数のカルボキシル基を含むものなどの化合物で置換することができる。
【0010】
本発明の一実施形態は、コンタクトレンズを消毒および/または洗浄する方法であって、コンタクトレンズを、レンズを消毒および/または洗浄するのに十分な時間、N−ハロゲン化アミノ酸および相間移動剤を含む処方物と接触させる工程を含む方法である。
【0011】
本発明の別の実施形態は、N−ハロゲン化アミノ酸および相間移動剤を含む、コンタクトレンズを消毒する処方物である。さらに別の実施形態は、N−ハロゲン化アミノ酸および相間移動剤を、組成物を保存するのに十分な量で含む医薬組成物である。
【0012】
前記の概要は、本発明のある実施形態の特徴および技術的な利点を広く記載する。追加の特徴および技術的な利点は、以下の本発明の詳細な説明に記載される。本発明の特徴であると考えられる新規特徴は、本発明の詳細な説明からよりよく理解される。
【発明を実施するための形態】
【0013】
I.定義
特に定義されない場合は、本明細書で用いる技術用語および科学用語は、当業者が通常理解するのと同じ意味を有する。
【0014】
本明細書で用いるように、用語「洗浄する」または「洗浄」は、コンタクトレンズ沈着物ならびに表面および表面下の汚染物を離すか除去することを意味する。
【0015】
本明細書で用いるように、用語「消毒する」、「消毒すること」および「消毒」は、微生物(それらに限定されないが、細菌、ウイルス、酵母、真菌類、胞子、原生動物、寄生生物などを含む)を死滅させるか、それらの増殖を阻止することを指す。
【0016】
本明細書で用いるように、用語「消毒剤」および「抗菌物質」は、微生物(それらに限定されないが、細菌、ウイルス、酵母、真菌類、胞子、原生動物、寄生生物などを含む)を死滅させるかそれらの増殖を阻止する能力を有する化合物を指す。
【0017】
本明細書で用いるように、用語「イオンペアリング剤」は、溶液中でN−ハロゲン化アミノ酸とイオン対を形成する任意の化合物を指す。
【0018】
本明細書で用いるように、用語「相間移動剤」は、有機溶液中でのN−ハロゲン化アミノ酸の溶解性を高める任意の化合物を指す。相間移動剤にはイオンペアリング剤が含まれるが、これに限定されない。溶液中で一緒に処方されると、相間移動剤はN−ハロゲン化アミノ酸の見かけの透過性を増加させる。
【0019】
II.方法および処方物
本発明のN−ハロゲン化アミノ酸は、以下の一般式
【0020】
【化1】

を有し、式中、Xは1つまたは複数のハロゲンであり、R1およびR2は、当業者に公知である無極性の、非荷電極性の、ならびに荷電した極性のアミノ酸およびアミノ酸誘導体側鎖のいずれかである。Aは、カルボン酸、スルホン酸、リン酸、ホウ酸または当業者に公知である他の酸などの酸を表す。アミンと酸との間に1つまたは複数の炭素原子があってもよく、各炭素は1つまたは複数のR置換基を含むことができる。
【0021】
本発明の好ましいN−ハロゲン化アミノ酸は、以下の構造を有する;ハロアミノ−安定剤−リンカー−酸であって、そこにおいて(a)「ハロアミノ」は、N−ハロゲンまたはN,N−ジハロゲン(例えば、−NHClまたは−NCl)であり;(b)「安定剤」は、ハロアミノ基に隣接する炭素に結合される側鎖を含み(例えば、水素、−CH、低級アルキル、基−COOHまたはC3〜6シクロアルキル環);(3)「リンカー」は、アルキルまたはシクロアルキルであり;(d)「酸」は、以下の1つである:−COOH、−SOH、−P(=O)(OH)、−B(OH)または水素、および、それらに限定されないが、ナトリウム、カリウム、カルシウムなどの、当業者に一般に公知であるこれらの酸のすべての薬学的に許容される塩。
【0022】
最も好ましいN−ハロゲン化アミノ酸は、2,2−ジメチル−N,N−ジクロロタウリン、カルボン酸、リン酸、ホウ酸塩その他によるスルホン酸基の置換によって形成された2,2−ジメチル−N,N−ジクロロタウリンの類似体、2,2−ジアルキル−N,N−ジクロロタウリン、および2,2−R−N,N−ジクロロタウリンであり、上式で、Rは脂肪族または芳香族の側鎖である。N−ハロゲン化アミノ酸のメチル基は、アルキル、アリール、ベンジルまたは他の炭化水素環状もしくは非環状の基で置換されてもよい。追加のN−ハロゲン化アミノ酸は、「N−HALOGENATED AMINO ACID FORMULATIONS」と題する2007年5月1日に出願の米国特許仮出願第60/915,291号に開示され、その全体の内容は参考として援用される。
【0023】
一般に、本発明の相間移動剤は、頭部基(head group)および親油性アルキル鎖またはアリール置換基を有する基本構造を有する。これらの相間移動剤の大部分は、脂肪酸およびアルコールなどの天然の基本要素(building block)から作製される。親油性アルキルおよびアリール置換基は合わせて、通常合計約4〜8個の炭素から約30個までの炭素を含む。アルキルおよびアリール置換基の最も好ましい炭素総数は、約15個から20個の炭素である。
【0024】
本発明の好ましい相間移動剤は第四級アミン化合物であり、それらに限定されないが、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド(TBAH)、テトラプロピルアンモニウムヒドロキシド(TPAH)、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムヒドロキシド、ドデシルトリエチルアンモニウムヒドロキシド、テトラブチルホスホニウムクロリド(TBPC)、およびそれらの組合せが含まれる。また、当業者に公知である、第四級アミン化合物の様々な塩も含まれる。これらには、それらに限定されないが、塩化物、臭化物、硫酸塩、リン酸塩および酢酸塩が含まれる。
【0025】
本発明の実施形態で用いることができる他の相間移動剤には、塩化ベンザルコニウム(BAC)、ならびに異なる炭素鎖長のその同族体および類似体が含まれる。そのようなBAC様化合物には、それらに限定されないが、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム(benzathonium chloride)、塩化セタルコニウム、臭化セトリモニウム、塩化セチルピリジニウム、塩化ステアラルコニウム、ならびに、様々な鎖長の親油性部分を含む、これらの化合物の同族体および類似体が含まれる。4〜10個の炭素の親油性鎖を有するBAC同族体は、親油相への分配の増加した水性溶液中で、2,2−ジメチル−N,N−ジクロロタウリンとイオン対を形成することができる。これらのBAC同族体および類似体はより低い微生物学的活性を有し得、角膜および結膜組織などの生物組織への刺激はより少なくあり得るので、それらは、特に興味がある。一般に、10個の炭素より大きいアルキル基を有するBAC同族体および類似体は、水性溶液から溶出する(oil out)疎水性の複合体をN−ハロゲン化アミノ酸と形成し、したがってクリームおよびローションなどの水中油型および油中水型乳剤のための防腐剤として役立つことができる。
【0026】
本発明の実施形態で用いることができるさらなる相間移動剤には、それらに限定されないが、ジミリストイルホスファチジルコリン(DMPC)などのリン脂質コリンが含まれる。
【0027】
ホスホニウムイオン相間移動剤には、それらに限定されないが、当業者に公知である不飽和および芳香族のアルキル置換基を含む、1個から22個の炭素の様々なアルキル鎖長のテトラアルキルホスホニウム塩が含まれる。塩には、それらに限定されないが、塩化物、臭化物、硫酸塩、リン酸塩、ホウ酸塩および酢酸塩が含まれる。その例は、テトラブチルホスホニウムクロリド(TBPC)およびベンジルデシルジメチルホスホニウムクロリドである。
【0028】
N−ハロゲン化アミノ酸および相間移動剤の好ましい組合せは、以下の一般構造
【0029】
【化2】

のイオン対を形成し、式中、イオン対の負荷電部分については、
Xは、塩素、臭素および/またはヨウ素であり;
R1は、水素またはC1〜C6アルキルであり;
R2は、水素またはC1〜C6アルキルであり;
R1およびR2は、それらが結合する炭素原子と一緒にC3〜C6シクロアルキル環を形成し;
nは、ゼロまたは1〜6の整数であり;
は、水素またはアルキルであり;
は、COO、SO、POまたは他の酸であり;
は、水素またはアルキルであり;
イオン対の正荷電部分については、
Bは、窒素またはリンであり;
R1からR4は、アルキルエステル、アルコール、ヒドロキシル、ケトン、酸、含硫黄および芳香族エステル、ヒドロキシル、ケトンおよび含硫黄酸から各々選択され、R1からR4は水素であることができない。さらに、R1からR4は、正電荷を形成する窒素原子に直接連結する炭素原子を有するべきである。この正電荷は、N−ハロゲン化アミノ酸の負荷電した酸部分とイオン対を形成する。
【0030】
III.用途
本明細書に記載されるある処方物は、当業者に公知である工程に従ってコンタクトレンズを消毒および/または洗浄するために用いることができる。具体的な用途では、コンタクトレンズを患者の眼から取り外し、次に、レンズを消毒するのに十分な時間、本明細書に記載の処方物に浸して接触させる。消毒および/または洗浄は、少なくとも4〜6時間処方物中にレンズを浸す工程を一般的に必要とする。
【0031】
本発明の実施形態は、それらに限定されないが、ヒドロゲルソフトレンズ、HEMAレンズ、高含水量ヒドロゲルHEMAレンズ、および強固なガス透過性(RGP)レンズを含む多種類のコンタクトレンズで使える。
【0032】
接触させる温度は好ましくは約15℃から約37℃の室温領域であるが、一般的に、洗浄または消毒するコンタクトレンズ材料によって許容される温度、および/または高温に対する処方物中の消毒剤または他の賦形剤の安定性によって制限される。
【0033】
必要というわけではないが、少なくともレンズからの沈着物質の除去を促進するために、コンタクトレンズを含む溶液を、例えば、処方物およびコンタクトレンズを含む容器を振盪することによって攪拌してもよい。レンズからさらなる沈着物質を除去するために、任意選択で、生理食塩水または実質的に等張性の溶液を用いてコンタクトレンズを手動でぬぐってもよい。洗浄および消毒することは、レンズを着用者の眼に戻す前にレンズをすすぐ工程を含むこともできる。
【0034】
本発明のある実施形態では、コンタクトレンズのin situ消毒および/または洗浄を用いることもできる。これらの実施形態では、N−ハロゲン化アミノ酸および相間移動剤を含む処方物を、コンタクトレンズ着用者の眼に点眼する。受容されるコンタクトレンズの消毒および/または洗浄を保証するために、処方物は定期的に使用される。洗浄および消毒工程を完了するために、任意選択で、着用者はまばたきすること、または、閉じたまぶたを優しくこすることができる。本発明のin situ法は、ソフトコンタクトレンズへの適用については、好ましくは少なくとも毎日実施される。
【0035】
IV.処方物
N−ハロゲン化アミノ酸および相間移動剤に加えて、本発明の処方物は、1つまたは複数の追加成分を任意選択で含む。そのような成分には、それらに限定されないが、張性剤、防腐剤、キレート化剤、緩衝剤、界面活性剤、共溶媒および抗酸化剤が含まれる。ある実施形態で使用される他の成分は、可溶化剤、安定化剤、快適性増進剤、重合体、緩和剤、pH調節剤および/または滑沢剤である。本発明のある処方物で用いることができる成分には、水、水およびC1〜C7−アルカノールなどの水溶性溶媒の混合物、0.5〜5%の無毒性水溶性重合体を含む植物油または鉱油、アルギン酸塩、ペクチン、トラガカントゴム、カラヤゴム、キサンタンガム、カラゲニン、寒天およびアラビアゴムなどの天然生成物、酢酸デンプンおよびヒドロキシプロピルデンプンなどのデンプン誘導体、さらに、ポリビニルアルコール、ポリビニルメチルエーテル、ポリエチレンオキシド、好ましくは架橋ポリアクリル酸およびそれらの生成物の混合物などの他の合成生成物が含まれる。成分の濃度は、一般的に、N−ハロゲン化アミノ酸の濃度の1倍から100,000倍である。好ましい実施形態では、成分は、N−ハロゲン化アミノ酸および/または相間移動剤に対するそれらの不活性に基づいて選択される。
【0036】
N−ハロゲン化アミノ酸に加えて、本発明の処方物は、追加の抗微生物剤を含むことができる。適する抗微生物剤には、それらに限定されないが、コンタクトレンズケア溶液または他の眼用溶液で一般に用いられるもの、例えば、重合体の第四級アンモニウム化合物であるポリクオタニウム−1、過酸化水素およびヨウ化カリウムが含まれる。
【0037】
適する抗酸化剤には、それらに限定されないが、亜硫酸塩、アスコルビン酸塩、ブチル化ヒドロキシアニソール(BHA)およびブチル化ヒドロキシトルエン(BHT)が含まれる。
【0038】
本発明の処方物で利用される界面活性剤は、カチオン性、アニオン性、非イオン性または両性であってよい。好ましい界面活性剤は、5w/v%までの量で存在することができる、中性または非イオン性(noninonic)の界面活性剤である。本発明のある実施形態で用いることができる界面活性剤には、それらに限定されないが、脂肪酸のポリエチレングリコールエーテルまたはエステル、およびポリオキシプロピレン−ポリオキシエチレングリコール非イオン性ブロック共重合体(例えば、Pluronic F−127およびF−68などのポロキサマー)が含まれる。
【0039】
本発明のある実施形態では、適する共溶媒には、グリセリン、プロピレングリコールおよびポリエチレングリコールが含まれる。
【0040】
本発明の処方物に組み込むことができる緩衝剤には、それらに限定されないが、アルカリ金属塩、例えば炭酸、酢酸、ホウ酸、リン酸のカリウム塩またはナトリウム塩、ならびに弱酸、例えば酢酸およびホウ酸が含まれる。好ましい緩衝剤は、アルカリ金属ホウ酸塩、例えばホウ酸ナトリウムまたはホウ酸カリウムである。他のpH調節剤、例えば無機の酸および塩基を利用することもできる。例えば、塩酸または水酸化ナトリウムを、眼の組成物に適する濃度で使用することができる。上記の緩衝剤は、一般に、約0.1〜約2.5w/v%、好ましくは約0.5〜約1.5w/v%の量で存在する。
【0041】
本発明の処方物は、好ましくは等張性またはわずかに低張性であり、一般に210〜320mOsm/kgの範囲のモル浸透圧を有し、好ましくは235〜300mOsm/kgの範囲のモル浸透圧を有する。これは、処方物のモル浸透圧を所望のレベルにするために、張性剤を必要とし得る。張性調節剤には、それらに限定されないが、塩化ナトリウム、グリセリン、ソルビトールまたはマンニトールが含まれる。
【0042】
本明細書で示す処方物は、1つまたは複数の防腐剤を含むことができる。防腐剤の例には、p−ヒドロキシ安息香酸エステル、第四級アンモニウム化合物(例えばポリクオタニウム−1など)、過ホウ酸ナトリウム、亜塩素酸ナトリウム、パラベン(例えばメチルパラベンまたはプロピルパラベンなど)、アルコール(例えばクロロブタノール、ベンジルアルコールまたはフェニルエタノールなど)が含まれる。ある実施形態では、処方物は自己保存性を有することができ、保存剤を必要としない。
【0043】
コンタクトレンズを効果的に消毒して、いかなる副作用も最小にするために、最少量の有効成分が用いられるようにして、処方物の消毒活性を最大にすべきことが肝要である。周知のように、この種の抗微生物剤の活性は、その剤自体の結果であり、N−ハロゲン化アミノ酸以外の処方物成分は、通常、ほとんど効果を表さない。所望の消毒活性を達成するために必要とされるN−ハロゲン化アミノ酸の量は、当業者によって決定することができる。許容される安全性および毒性特性を保持しながら消毒剤としての所望の活性を達成するために必要とされる濃度は、本明細書で「有効量」と呼ばれる。有効量は、一般に認められた活性の基準、例えばEN ISO 14729:2001眼の光学−コンタクトレンズケア製品−コンタクトレンズの衛生管理のための製品およびレジメンのための微生物学的要件および試験方法を満たすのに十分な抗微生物活性を有する。
【0044】
本発明の処方物を構成する成分の濃度が、異なり得ることも意図される。それには限定されない態様では、その割合(percentage)は、総処方物の重量または容量によって計算することができる。当業者は、所与の処方物中の成分の添加、置換および/または削除に依存して、濃度が異なり得ることを理解する。
【0045】
処方物のpHは、6.7〜8.0の眼の許容範囲にあることができる。したがって、好ましい処方物は、処方物を約6.7のpHから約8.0のpHに維持する緩衝系を用いて調製される。
【0046】
特定の実施形態では、処方物は、in situでコンタクトレンズを消毒するために、哺乳動物の眼への使用に適する。例えば、眼への投与のために、処方物は、溶液、懸濁液、ゲル、油中水型および水中油型乳剤、または軟膏であってもよい。眼への投与のための好ましい処方物は、点滴剤の形の水性溶液である。一般的に、用語「水性」は、賦形剤が水の>50重量%、より好ましくは>75重量%、特に>90重量%である水性処方物を表す。これらの点滴剤は、好ましくは無菌であり、したがって処方物の静菌成分を不要にすることができる単一用量アンプルから送達することができる。あるいは、点滴剤は、送達時に処方物から防腐剤を抽出する装置を好ましくは含むことができる、複数用量ビンから送達することができ、そのような装置は当技術分野で公知である。本発明の眼用の処方物を投与する追加の方法には、それに限定されないが、まぶたの下に置かれる、N−ハロゲン化アミノ酸および相間移動剤を含む溶解性挿入剤の使用を含めることができる。
【0047】
in situ消毒のためのある実施形態では、N−ハロゲン化アミノ酸および相間移動剤は、1つまたは複数の涙代用品を含む処方物で処方することができる。様々な涙代用品が当技術分野で公知であり、それらに限定されないが、以下のものが含まれる。グリセロール、プロピレングリコールおよびエチレングリコールなどの単量体ポリオール;ポリエチレングリコールなどの重合体のポリオール;ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウムおよびヒドロキシプロピルセルロースなどのセルロースエステル;デキストラン70などのデキストラン;ポリビニルアルコールなどのビニル重合体;ならびに、カルボマー934P、カルボマー941、カルボマー940およびカルボマー974Pなどのカルボマー。in situ消毒のための眼用処方物は、一般に、0.5〜100cps、好ましくは0.5〜50cps、最も好ましくは1〜20cpsの粘度を有する。この比較的低い粘度は、その製品が快適であり、くもりを引き起こさず、製造、移動および充填操作の間、容易に処理されることを保証する。
【0048】
本発明のある実施形態では、消毒処方物は二液性系であってもよい。例えば、N−ハロゲン化アミノ酸は1つの容器に存在することができ、残りの処方物成分、例えば相間移動剤は、使用者が消毒のために処方物を使用する準備が整うまで、別の容器または同じ容器の異なる部分に分けられる。必要時に、2つの部分を使用者が混合し、コンタクトレンズを消毒するために用いることができる。二液性系は、処方物の1つまたは複数の成分が合わせられると安定性の問題を起こす場合に有用である。1つまたは複数の成分は、例えば、二液性系の固体部分の崩壊および溶解の速度を上げることができる、発泡特性を有することもできる。そのような特性は、コンタクトレンズ表面の洗浄に資することができ、洗浄および消毒の両活性を有するある特性の処方物をもたらす。発泡性の系は当業者に公知であり、例えば、重炭酸ナトリウムに加えてアジピン酸、マレイン酸またはコハク酸などの酸を含むことができる。
【0049】
N−ハロゲン化アミノ酸によって提供される抗微生物活性および/または洗浄活性に加えて洗浄活性を含む本発明の処方物は、コンタクトレンズ表面からタンパク質および他の望ましくない沈着物を除去するように設計された1つまたは複数の作用物質(agent)を任意選択で含むことができる。そのような作用物質は、亜塩素酸ナトリウムなどの酸化剤、あるいは酵素、界面活性剤または、キチンもしくはその誘導体のようなタンパク質複合体形成剤などの非酸化剤であってもよい。
【実施例】
【0050】
V.実施例
以下の実施例は、本発明の選択された実施形態をさらに例示するために提供される。
【0051】
(実施例1)
処方物
【0052】
【表1】

モル浸透圧は、必要に応じて、プロピレングリコール(propylene glucol)またはマンニトールなどの非イオン性モル浸透圧構築剤、または塩化ナトリウムなどのイオン性モル浸透圧構築剤で、210〜300mOsm/kgに調節することができる。
【0053】
(実施例2)
処方物
【0054】
【表2】

アジピン酸のような他の酸で、存在するα−ヒドロキシ基を有しないマロン酸を置換することができる。そのような酸の濃度は、それらのリゾチーム除去能力に基づいて調節することができる。そのような分子は、単独で、または他の酸と組み合わせて、または適する界面活性剤と組み合わせて用いることができる。
** Pluronicは、ポリエチレンオキシドおよびポリプロピレンオキシドを含むブロックポリマーである。ブロックの割当ておよび型は、最大効力を達成するために変更することができる。これらは、他の適合する界面活性剤によって置換されてもよい。
*** モル浸透圧は、必要に応じて210〜300mOsm/kgに調節することができる。
【0055】
(実施例3)
抗微生物試験
N−ハロゲン化アミノ酸および相間移動剤を含む処方物の試験試料を、媒体(vehicle)中に0.001%の目標濃度で調製し、タイム−キル(time−kill)法によって抗微生物活性についてスクリーニングする。試験試料を、Candida albicans、Fusarium solani、Pseudomonas aeruginosa、Serratia marcescensおよびStaphylococcus aureusの標準化懸濁液で負荷し、生存微生物数を6および24時間時に判定した。
【0056】
本発明、およびその実施形態を詳細に記載した。しかし、本発明の範囲は、明細書に記載されるいかなる工程、製造、組成物、化合物、手段、方法および/またはステップの特定の実施形態にも限定されることは意図しない。本発明の精神および/または必須の特性から逸脱せずに、様々な改変、置換および変更を開示されている物質に加えることができる。したがって、本明細書で記載した実施形態と実質的に同じ機能を果たすか、または実質的に同じ結果を達成する後の改変、置換および/または変更を、本発明のそのような関係のある実施形態に従って利用することができることを、当業者は本開示から容易に理解する。したがって、以下の請求項は、本明細書で開示される工程、製造、組成物、化合物、手段、方法および/またはステップに対する改変、置換および変更を、それらの範囲に包含するものとする。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンタクトレンズを消毒および/または洗浄する方法であって、
コンタクトレンズを、レンズを消毒および/または洗浄するのに十分な時間、N−ハロゲン化アミノ酸および相間移動剤を含む処方物と接触させる工程を含む方法。
【請求項2】
前記相間移動剤が、
第四級アミン、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド(TBAH)、テトラプロピルアンモニウムヒドロキシド(TPAH)、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムヒドロキシド、ドデシルトリエチルアンモニウムヒドロキシド、テトラブチルホスホニウムクロリド(TBPC)、ホスホニウムイオン相間移動剤、およびそれらの組合せからなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記処方物が二液性処方物である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記N−ハロゲン化アミノ酸がクロロタウリンである、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記クロロタウリンが2,2−ジメチル−N,N−ジクロロタウリンナトリウムである、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記処方物がαヒドロキシル化合物を含まない、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
コンタクトレンズを消毒する処方物であって、
N−ハロゲン化アミノ酸および相間移動剤を含む処方物。
【請求項8】
前記相間移動剤が、
第四級アミン、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド(TBAH)、テトラプロピルアンモニウムヒドロキシド(TPAH)、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムヒドロキシド、ドデシルトリエチルアンモニウムヒドロキシド、テトラブチルホスホニウムクロリド(TBPC)、ホスホニウムイオン相間移動剤、およびそれらの組合せからなる群から選択される、請求項7に記載の処方物。
【請求項9】
前記処方物が二液性処方物である、請求項7に記載の処方物。
【請求項10】
前記N−ハロゲン化アミノ酸がクロロタウリンである、請求項7に記載の処方物。
【請求項11】
前記クロロタウリンが2,2−ジメチル−N,N−ジクロロタウリンナトリウムである、請求項10に記載の処方物。
【請求項12】
前記処方物がαヒドロキシル化合物を含まない、請求項7に記載の処方物。
【請求項13】
医薬組成物であって、
N−ハロゲン化アミノ酸および相間移動剤を、該組成物を保存するのに十分な量で含む医薬組成物。
【請求項14】
表面を消毒または洗浄する方法であって、
該消毒または洗浄する表面を、N−ハロゲン化アミノ酸および相間移動剤を含む処方物と接触させる工程を含む方法。
【請求項15】
前記消毒する表面が組織である、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記処方物がαヒドロキシル化合物を含まない、請求項14に記載の方法。

【公表番号】特表2010−525886(P2010−525886A)
【公表日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−506587(P2010−506587)
【出願日】平成20年4月30日(2008.4.30)
【国際出願番号】PCT/US2008/061952
【国際公開番号】WO2008/134694
【国際公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【出願人】(508185074)アルコン リサーチ, リミテッド (160)
【Fターム(参考)】