説明

NCプログラム作成装置

【課題】各駆動軸の性能を十分に発揮させるNCプログラムを作成して、所望の加工精度を確保しつつ、加工時間の短縮を図ることができるNCプログラム作成装置を提供する。
【解決手段】工作機械の各駆動軸の剛性に応じて、各駆動軸の駆動方向における回転工具60による被加工物Wの切込量Px,Py、または、各駆動軸の駆動方向における回転工具60と被加工物Wの相対的な送り速度を決定し、決定した各切込量Px,Pyまたは送り速度によりNCプログラムを作成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工具と被加工物との相対的な動作を行うための複数の駆動軸を有する工作機械に適用され、各駆動軸の駆動を実行するためのNCプログラムを作成するNCプログラム作成装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
金型などの三次元曲面を加工する際には、例えばボールエンドミルにより等高線加工を行う。等高線加工とは、ボールエンドミルの回転軸方向(Z軸方向)の位置を固定した状態で、当該回転軸方向に直交する方向(X軸方向およびY軸方向)に切り込むことにより行う加工方法である。そして、X軸方向およびY軸方向の切込量(ピックフィード量とも称する)は、例えば、特許文献1,2に記載されているように、同一値に設定されている。一般に、CAMシステムにおいて、X軸方向の切込量とY軸方向の切込量は同一であることを前提とした入力が行われる。すなわち、X軸方向およびY軸方向の切込量として、共通の入力項目が用意されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11−123631号公報(図6)
【特許文献2】特開平9−325807号公報(図6,7)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、高精度に加工するために、X軸方向およびY軸方向の切込量は、工作機械のX軸方向およびY軸方向の剛性を考慮して決定される。しかし、工作機械において、X軸方向の剛性とY軸方向の剛性は同一ではない。そのため、X軸方向およびY軸方向の共通の切込量は、X軸方向の剛性とY軸方向の剛性のうち低い方を考慮した値とせざるを得なかった。そのため、X軸方向の剛性とY軸方向の剛性のうち高い方における軸方向については、十分な性能を発揮しているものではなかった。
【0005】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、各駆動軸の性能を十分に発揮させるNCプログラムを作成して、所望の加工精度を確保しつつ、加工時間の短縮を図ることができるNCプログラム作成装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に係るNCプログラム作成装置は、工具と被加工物との相対的な動作を行うための複数の駆動軸を有する工作機械に適用され、各前記駆動軸の駆動を実行するためのNCプログラムを作成するNCプログラム作成装置であって、各前記駆動軸の剛性に応じて、各前記駆動軸の駆動方向における前記工具による前記被加工物の切込量、または、各前記駆動軸の駆動方向における前記工具と前記被加工物の相対的な送り速度を決定し、決定した各前記切込量または各前記送り速度により前記NCプログラムを作成するものである。
【0007】
請求項2に係るNCプログラム作成装置は、前記工具は、回転工具であり、前記工作機械における複数の前記駆動軸は、前記回転工具の回転軸に対して直交方向に駆動する複数の工具軸直交駆動軸であり、各前記工具軸直交駆動軸の剛性に応じて、各前記工具軸直交駆動軸の駆動方向における前記回転工具による前記被加工物の切込量、または、各前記工具軸直交駆動軸の駆動方向における前記回転工具と前記被加工物の相対的な送り速度を決定するものである。
請求項3に係るNCプログラム作成装置は、決定した各前記切込量または各前記送り速度により等高線加工方法に適用される前記NCプログラムを作成するものである。
【発明の効果】
【0008】
請求項1に係るNCプログラム作成装置によれば、各駆動軸の剛性に応じて各駆動軸の駆動方向における工具による被加工物の切込量、または、各駆動軸の剛性に応じて各駆動軸の駆動方向における工具と被加工物の相対的な送り速度を決定している。ここで、駆動軸の剛性とは、工具が被加工物により当該駆動軸の駆動方向に力(切削抵抗)を受けた場合に、当該駆動方向における工具と被加工物との相対変位量の関係を意味する。例えば、駆動軸の剛性が大きい場合には、その駆動軸の駆動方向に工具が被加工物により力を受けた場合に、当該駆動方向おける工具と被加工物との相対変位量は小さくなる。逆に、駆動軸の剛性が小さい場合には、その駆動軸の駆動方向に工具が被加工物により力を受けた場合に、当該駆動方向おける工具と被加工物との相対変位量は大きくなる。
【0009】
つまり、本発明によれば、例えば、駆動軸の剛性が大きいほどその駆動方向における切込量または送り速度を大きく設定し、駆動軸の剛性が小さいほどその駆動方向における切込量または送り速度を小さく設定する。従って、剛性が大きな駆動軸においては、剛性が小さな駆動軸に比べて、その駆動方向の切込量または送り速度を相対的に大きくすることができる。そして、このように切込量または送り速度を駆動軸毎に異なるようにしたとしても、所望の加工精度を確保することができる。つまり、従来に比べてある駆動軸の駆動方向の切込量または送り速度を大きくすることにより、所望の加工精度を確保しつつ、加工時間を短縮することができる。
【0010】
請求項2に係る発明によれば、いわゆるX軸方向の切込量とY軸方向の切込量、または、X軸方向の送り速度とY軸方向の送り速度とを、それぞれの剛性に応じて決定することができる。つまり、本発明によれば、マシニングセンタなどによる加工が対象となる。これにより、加工対象を金型などとした場合において、所望の加工精度を確保しつつ、加工時間の短縮を図ることができる。
請求項3に係る発明によれば、等高線加工を行うことにより、加工時間の短縮を図るという効果が顕著となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】マシニングセンタの機械構成を示す図である。
【図2】CAMシステムの処理を示すフローチャートである。
【図3】矩形ポケット形状を等高線加工する場合におけるX−Y平面上の工具移動経路を示す図である。
【図4】円形ポケット形状を等高線加工する場合におけるX−Y平面上の工具移動経路を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明のNCプログラム作成装置を具体化した実施形態について図面を参照しつつ説明する。
【0013】
(マシニングセンタの機械構成)
本発明のNCプログラム作成装置により作成されるNCプログラムを実行する工作機械として、立形マシニングセンタを例に挙げて説明する。立形マシニングセンタとは、機械設置面に対して垂直な方向に回転工具の回転軸が向くように構成されたマシニングセンタである。この立形マシニングセンタは、ベッド10の上面に被加工物Wを載置するテーブル20が固定される。また、ベッド10の上面のうちテーブル20が載置される位置とは異なる位置に、Y軸方向に移動可能なサドル30が配置されている。
【0014】
さらに、このサドル30の上面に、X軸方向に移動可能なコラム40が配置されている。つまり、コラム40は、ベッド10に対してX軸方向に移動可能であると共に、Y軸方向に移動可能である。このコラム40のうちテーブル20側には、主軸頭50がZ軸方向に移動可能に配置されている。主軸頭50には例えばボールエンドミルなどの回転工具60がZ軸回りに回転可能に支持されている。つまり、回転工具60は、テーブル20に載置された被加工物Wに対して、X,Y,Z軸方向に移動可能である。
【0015】
このような構成からなる立形マシニングセンタでは、X軸の剛性は、Y軸の剛性に比べて低い。各駆動軸の剛性とは、回転工具60が被加工物Wにより当該駆動軸の駆動方向に力(切削抵抗)を受けた場合に、当該駆動方向における回転工具60と被加工物Wとの相対変位量の関係を意味する。例えば、駆動軸の剛性が大きい場合には、その駆動軸の駆動方向に回転工具60が被加工物Wにより力を受けた場合に、当該駆動方向おける回転工具60と被加工物Wとの相対変位量は小さくなる。逆に、駆動軸の剛性が小さい場合には、その駆動軸の駆動方向に回転工具60が被加工物Wにより力を受けた場合に、当該駆動方向おける回転工具60と被加工物Wとの相対変位量は大きくなる。従って、相対変位量、すなわち加工精度を所望値とした場合には、X軸方向に受けることができる最大の切削抵抗は、Y軸方向に受けることができる最大の切削抵抗よりも小さくなる。
【0016】
従って、回転工具60を被加工物に対してX軸方向に移動させて被加工物Wを加工した場合に所望の加工精度を得るための切込量Pxの最大値は、回転工具60を被加工物に対してY軸方向に移動させて被加工物Wを加工した場合に所望の加工精度を得るための切込量Pyの最大値より小さくなる。
【0017】
(CAMシステムの構成)
次に、CAMシステム(本発明のNCプログラム作成装置に相当する)について、図2を参照して説明する。CAMシステムは、上述した立形マシニングセンタなどに適用され、当該立形マシニングセンタの各駆動軸(X,Y,Z軸)の駆動を実行するためのNCプログラムを作成する。
【0018】
このCAMシステムの処理について説明する。まず、被加工物Wの素材形状(加工前形状)と製品形状(加工後形状)を入力する(S1)。続いて、NCプログラムを適用する立形マシニングセンタのX軸方向の剛性とY軸方向の剛性の比率を入力する(S2)。上述した立形マシニングセンタにおいては、例えば、X軸方向の剛性とY軸方向の剛性との比率は、1:3などとする。続いて、素材形状から製品形状に加工するための加工工程を決定する(S3)。この加工工程には、荒加工工程や仕上げ加工工程などの工程種類、それぞれの工程種類に用いる工具種類、それぞれの工程種類における加工条件が含まれる。加工条件には、工具送り速度、X,Y,Z軸方向の切込量などが含まれる。
【0019】
この加工工程の決定において、例えば、荒加工工程において等高線加工を行う場合に、加工条件として、Z軸方向(回転工具60の回転軸方向)の切込量Pzと、X軸方向の切込量Pxを入力する。そして、X軸方向の切込量PxとステップS2にて入力された剛性比率とにより、Y軸方向の切込量Pyを算出する。X軸方向の剛性とY軸方向の剛性との比率を1:3とした場合には、Y軸方向の切込量Pyは、X軸方向の切込量Pxの3倍の値となる。また、仕上げ加工工程においても荒加工工程と同様に、各軸の切込量Px,Py,Pzを決定する。続いて、決定された加工工程に従って、NCプログラムを作成する(S4)。NCプログラムは、被加工物Wに対する回転工具60の移動経路を示す点群データである。つまり、上述した各軸の切込量Px,Py,Pzを考慮したNCプログラムが作成される。
【0020】
(工具移動経路)
上述したCAMシステムにより作成されたNCプログラムによる第一例の工具移動経路について図3を参照して説明する。ここで、第一例として、製品形状が、素材形状に対して矩形ポケット形状(矩形凹形状)を加工した形状である場合とする。図3の工具移動経路にて示すように、Y軸方向の切込量Pyは、X軸方向の切込量Pxの3倍となる。
【0021】
ここで、従来は、X軸とY軸のうち剛性の低い方、すなわち上記の例によればX軸の剛性を考慮してX軸方向およびY軸方向の共通の切込量Pxyが決定されていた。一方、本実施形態によれば、所望の加工精度を確保した場合に、X軸方向の切込量Pxは同一であるが、Y軸方向の切込量Pyを従来に比べて大幅に大きくすることができる。その結果、所望の加工精度を確保しつつ、加工時間を短縮することができる。
【0022】
次に、第二例における工具移動経路について図4を参照して説明する。ここで、第二例として、製品形状が、素材形状に対して円形ポケット形状(円形凹形状)を加工した形状である場合とする。図4の工具移動経路にて示すように、Y軸方向の切込量Pyは、X軸方向の切込量Pxの3倍となる。なお、工具移動経路がX軸方向成分とY軸方向成分を有する場合には、その成分比率が、1:3となっている。この場合にも、図3に示した場合と同様に、所望の加工精度を確保しつつ、加工時間を短縮することができる。
【0023】
(その他)
上記実施形態においては、X軸の剛性およびY軸の剛性に応じてX軸方向の切込量PxおよびY軸方向の切込量Pyを決定した。これに替えて、各駆動軸における回転工具60と被加工物Wとの相対的な送り速度を異なるようにしてもよい。つまり、X軸の剛性およびY軸の剛性に応じて、X軸方向の送り速度およびY軸の送り速度を異なるように決定する。このように決定された各軸の送り速度により、NCプログラムを作成する。この場合も同様の効果を奏する。
【0024】
また、上記実施形態においては、立形マシニングセンタを例に挙げて説明したが、横型マシニングセンサにも同様に適用できる。また、機械構成によって、X軸方向の剛性とY軸方向の剛性は異なるものであるため、対象の機械構成に応じた剛性を採用する必要がある。
【符号の説明】
【0025】
10:ベッド、 20:テーブル、 30:サドル、 40:コラム
50:主軸頭、 60:回転工具、 W:被加工物


【特許請求の範囲】
【請求項1】
工具と被加工物との相対的な動作を行うための複数の駆動軸を有する工作機械に適用され、各前記駆動軸の駆動を実行するためのNCプログラムを作成するNCプログラム作成装置であって、
各前記駆動軸の剛性に応じて、各前記駆動軸の駆動方向における前記工具による前記被加工物の切込量、または、各前記駆動軸の駆動方向における前記工具と前記被加工物の相対的な送り速度を決定し、
決定した各前記切込量または各前記送り速度により前記NCプログラムを作成することを特徴とするNCプログラム作成装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記工具は、回転工具であり、
前記工作機械における複数の前記駆動軸は、前記回転工具の回転軸に対して直交方向に駆動する複数の工具軸直交駆動軸であり、
各前記工具軸直交駆動軸の剛性に応じて、各前記工具軸直交駆動軸の駆動方向における前記回転工具による前記被加工物の切込量、または、各前記工具軸直交駆動軸の駆動方向における前記回転工具と前記被加工物の相対的な送り速度を決定することを特徴とするNCプログラム作成装置。
【請求項3】
請求項2において、
決定した各前記切込量または各前記送り速度により等高線加工方法に適用される前記NCプログラムを作成することを特徴とするNCプログラム作成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−242905(P2011−242905A)
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−112814(P2010−112814)
【出願日】平成22年5月17日(2010.5.17)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】