NDフィルタ
【課題】金属・金属酸化物の酸化による光減衰膜の分光特性の変化を抑制することにより、分光特性を安定させたNDフィルタを得る。
【解決手段】透明基板21上に、第1、3、5、7、9層として誘電体層のAl2O3膜22、第2、4、6、8、10層として光吸収層のTixOy膜23とを交互に積層した光減衰膜を設け、第10層のTixOy膜23上に、第11層として水蒸気バリア層として機能するSi3N4膜24を積層し、更に最表層に反射防止膜であるMgF2膜25を成膜し、計12層から成るND膜26を形成している。Si3N4膜24により水蒸気等の浸入を防止し、光吸収層のTixOy膜23の劣化を防止する。
【解決手段】透明基板21上に、第1、3、5、7、9層として誘電体層のAl2O3膜22、第2、4、6、8、10層として光吸収層のTixOy膜23とを交互に積層した光減衰膜を設け、第10層のTixOy膜23上に、第11層として水蒸気バリア層として機能するSi3N4膜24を積層し、更に最表層に反射防止膜であるMgF2膜25を成膜し、計12層から成るND膜26を形成している。Si3N4膜24により水蒸気等の浸入を防止し、光吸収層のTixOy膜23の劣化を防止する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特にカメラ等に用いられるNDフィルタに関するものである。
【背景技術】
【0002】
ビデオカメラ或いはデジタルスチールカメラ等の光量絞り装置には、小絞り状態でのハンチング現象や回折現象等の影響を低減するために、ND(Neutral Density)フィルタが用いられている場合がある。
【0003】
近年では、撮像素子の感度が向上し、NDフィルタの濃度を濃くすることにより、更に光の透過率を低下させ、高感度の撮像素子を使用しても、明るい被写界に対して絞りの開口が小さくなり過ぎないようにする工夫が施されている。
【0004】
また、NDフィルタの基材となる基板には、ガラス等の透明基板も用いられるが、近年では任意形状への加工性や、小型化・軽量化等の要望に伴い、合成樹脂製の基板も用いられてきている。一般的なNDフィルタの作製方法としては、合成樹脂やガラスから成る透明基板上に、真空蒸着法やスパッタ法等により、多層膜を成膜することにより作製している。
【0005】
また、NDフィルタの分光特性においては、CCDの光感度向上等の理由から高精度化への要求が高まっており、その中でも概略λ=400〜700nmまでの可視光波長領域全域における分光特性が均一であることが求められている。これらのNDフィルタは、最適設計することにより、可視光波長全域において分光特性が均一な特性を得ることができる。しかしながら、NDフィルタは大気や基板から光減衰膜に浸入する水分等により、光減衰膜として用いられる金属・金属酸化物が酸化され、分光特性を変化させる問題を有している。
【0006】
この問題の対策として、特許文献1に記載のNDフィルタにおいては、光減衰膜としてTiNx、NbNx、TaNx、AlNx等の低級金属窒化物を用いている。これにより、隣接する誘電体である酸化物が外部環境に影響され光減衰膜が酸化することを防止し、安定した分光特性を有するNDフィルタを得ることが開示されている。
【0007】
図10は従来のNDフィルタ1の膜構成図を示している。透明基板2上には第1、3、5、7、9層にAl2O3膜3、第2、4、6、8、10層にTixOy膜4が交互に積層され、最表層である第11層にMgF2膜5を成膜した計11層から成るND膜6が成膜されている。
【0008】
このND膜6は可視光波長領域における分光透過率が均一になるように十分に考慮して設計されている。また、各層の膜厚等の設計値は異なるが、Al2O3膜3の任意の数層又は全てのAl2O3膜3をSiO2膜に置換してもよい。そして、Al2O3膜3をSiO2膜に置換し、TixOy膜4とを相互に積層する構成であっても、ほぼ同様の光学特性を有するND膜6を作製することが可能である。
【0009】
最表層のMgF2膜5はND膜6の面の反射率の低減を目的として構成された反射防止膜であり、屈折率nが可視光波長領域で1.5以下のものとして選択されている。反射防止膜は反射率の低減を主目的としているため、屈折率の小さい材料であればよく、例えばSiO2膜等を使用した場合であっても、ほぼ同様のND膜6を作製することができる。
【0010】
図11は図10に示したNDフィルタ1に環境負荷(60℃、90%、1000h)を与えた環境試験前後の可視光波長領域における透過率の変化を示しており、環境試験後の方が透過率が概略1%程度上昇している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2003−322709号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、光減衰膜としてTiNx、NbNx、TaNx、AlNx等の低級金属窒化物を使用した場合には、消衰係数が比較的大きいため、設計膜厚を薄くする必要がある。NDフィルタの光量減衰率は光減衰膜の膜厚に大きく依存するため、設計膜厚が薄いと成膜誤差が発生し易く、再現性の低下を招く要因となる。
【0013】
本発明の目的は、上述の課題を解消し、成膜誤差が少なく、光減衰膜として用いられる金属・金属酸化物の酸化による分光特性の変化を抑制することにより、長期間に渡り分光特性を安定させたNDフィルタを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するための本発明に係るNDフィルタは、透明基板の上に複数の光吸収層と複数の誘電体層を積層した光減衰膜を設け、該光減衰膜の最上層の上に、水蒸気バリア層及び反射防止膜を成膜したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係るNDフィルタによれば、光減衰膜に浸入する水分や酸素の影響による光減衰膜として使用される金属・金属酸化物の酸化を低減することにより、分光特性の変化を抑制したNDフィルタを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】実施例1の撮影光学系の構成図である。
【図2】実施例1のNDフィルタの膜構成図である。
【図3】実施例1の環境試験前後の透過率変化のグラフ図である。
【図4】実施例2のNDフィルタの膜構成図である。
【図5】実施例2のNDフィルタの膜構成図である。
【図6】実施例2の環境試験前後の透過率変化のグラフ図である。
【図7】実施例3のNDフィルタの膜構成図である。
【図8】実施例3のNDフィルタの膜構成図である。
【図9】実施例3の環境試験前後の透過率変化のグラフ図である。
【図10】従来のNDフィルタの膜構成図である。
【図11】従来のNDフィルタの環境試験前後の透過率変化のグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明を図示の実施例を基に詳細に説明する。
【実施例1】
【0018】
図1は本実施例における撮影光学系の構成図を示し、レンズ11、光量絞り装置12、レンズ13〜15、ローパスフィルタ16、CCD等から成る固体撮影素子17が順次に配列されている。光量絞り装置12においては、絞り羽根支持板18に一対の絞り羽根19a、19bが可動に取り付けられている。絞り羽根19aには、絞り羽根19a、19bにより形成される開口部を通過する光量を減光することを目的としたNDフィルタ20が接着されている。
【0019】
図2は本実施例1におけるNDフィルタ20の膜構成図を示している。NDフィルタ20の透明合成樹脂材から成る透明基板21には、耐熱性、柔軟性、更にはコスト的に基板材料として優れているノルボルネン系樹脂である板厚200μmのArton(JSR社製、商品名)のフィルムを選択している。
【0020】
なお、本実施例1においては透明基板21の材質としてArton(JSR社製、商品名)を選択したが、これに限らずZeonex、Zeonor(日本ゼオン社製、商品名)等の他のノルボルネン系樹脂を使用してもよい。また、ノルボルネン系樹脂以外のPMMA、ポリカーボネート、PET、PEN、PC、ポリイミド系樹脂等の様々な透明合成樹脂基板を使用することも可能である。
【0021】
一般的には、本実施例1のようなNDフィルタ20として使用される透明基板21の材質としては、耐熱性(ガラス転移点Tg)が高く、曲げ弾性が大きく、更には可視光波長領域において透明性が高く、吸水率が低い材料がより好ましい。
【0022】
本実施例1のように、薄いフィルム状の透明基板21上にND膜を成膜する場合には、上述した耐熱性や曲げ弾性、更にはコスト的な要因等を考慮すると、ノルボルネン系樹脂、ポリイミド系樹脂が最も適している材料の1つである。
【0023】
本実施例1においては、真空蒸着法により透明基板21上の第1、3、5、7、9層に誘電体層であるAl2O3膜22、第2、4、6、8、10層に光吸収層であるTixOy膜23が交互に積層して光減衰膜とされている。そして、光減衰膜の最上層である第10層のTixOy膜23上に、第11層として水蒸気バリア層として機能するSi3N4膜24を積層し、更に最表層に反射防止膜であるMgF2膜25を成膜し、計12層から成るND膜26を成膜している。
【0024】
このように、ND膜26の最表層であるMgF2膜25と、光減衰膜のうち最上層の第10層のTixOy膜23の間に、Si3N4膜24を成膜することにより、大気からの水蒸気等の浸入を防止することができる。これにより、光吸収層であるTixOy膜23の劣化を防止でき、分光特性の変化を抑制することができる。
【0025】
なお、MgF2膜25は反射防止膜であるため、ND膜26の最表層に位置することが好ましいが、水蒸気バリア層であるSi3N4膜24を最表層としてMgF2膜25の上に形成してもよい。
【0026】
図3は本実施例1のNDフィルタ20に対する環境試験前後(60℃、90%、1000h)の可視光波長領域における透過率の変化の実験結果を示している。環境試験前後での透過率の変化は概略0.6%程度であり、水蒸気バリア層を設けない図11に示す従来のNDフィルタ1の透過率と比較して大幅に改善される。
【0027】
本実施例1においてはND膜26の成膜に真空蒸着法を使用したが、スパッタリング法、IAD法(イオンアシスト成膜)、IBS法、イオンプレーティング法、クラスタ蒸着法等の成膜方法においても成膜が可能である。また、蒸着方法は目的や条件等を考慮し、最も適当な成膜方法を選択すればよい。
【実施例2】
【0028】
図4は実施例1のND膜26の膜構成に加えて、透明基板21の光減衰膜を成膜する面の表面である第1層に水蒸気バリア層であるSi3N4膜24を成膜することにより、計13層の膜構成としている。つまり、透明基板21に最も近いAl2O3膜22との間に水蒸気バリア層であるSi3N4膜24を成膜している。
【0029】
特に、透明基板21に合成樹脂材を使用すると、任意形状への加工性や、小型化・軽量化等の利点があるが、ガラス基板と比較して含水率が大きく、合成樹脂基板が有する水分により光減衰膜の分光特性が変化することが懸念される。しかし、このような構成とすることで、透明基板21の有する水分がSi3N4膜24の上層に浸入することを防止し、透明基板21からの水分による光減衰膜の分光特性の変化を低減することができる。
【0030】
この場合に、Si3N4膜24と透明基板21との密着性が問題となる場合がある。そのときは、図5に示すように比較的密着力が強く吸水率の小さいSiO2膜31やSiO膜等を第1層目に成膜し、その上層に水蒸気バリア層としてSi3N4膜24を成膜し、計14層の膜構成とすることで改善することができる。
【0031】
図6は本実施例2におけるNDフィルタ20に対する環境試験前後(60℃、90%、1000h)の可視光波長領域における透過率の変化の実験結果を示している。環境試験前後で透過率の変化は概略0.4%程度であった。
【実施例3】
【0032】
図7は実施例3における膜構成図を示している。本実施例3においては、全てのAl2O3膜22とTixOy膜23との間に水蒸気バリア層であるSi3N4膜24が成膜されている。同時に、最表層のMgF2膜25と光減衰膜の最上層の第20層のTixOy膜23との間にSi3N4膜24を成膜することにより、計22層の膜構成としている。Al2O3膜22とTixOy膜23の間に挿入されたSi3N4膜24は、Al2O3膜22によるTixOy膜23の酸化を防止し光減衰膜の透過率の変化を更に低減する。
【0033】
なお、全てのAl2O3膜22とTixOy膜23との間に水蒸気バリア層であるSi3N4膜24を成膜する必要はなく、図8に示すように適宜の積層間に水蒸気バリア層を介在してもよい。特に、酸素や水分の影響を最も受け易く最も薄いTixOy膜23の上下の面を水蒸気バリア層で成膜することが好ましい。
【0034】
図9は本実施例3におけるNDフィルタ20に対する環境試験前後(60℃、90%、1000h)の可視光波長領域における透過率の変化の実験結果を示したものである。環境試験前後で透過率の変化は概略0.3%程度であった。
【0035】
水蒸気バリア層であるSi3N4膜24の膜厚は、NDフィルタ20の使用帯域、例えばλ=400〜700nm程度の通常可視光波長領域で所定の光量減衰率、即ち所定の透過率を有する。このSi3N4膜24の膜厚はAl2O3膜22、TixOy膜23の各層の膜厚と共に調整して予め決められる。
【0036】
上述の実施例においては、水蒸気バリア層としてSi3N4膜24を使用しているが、SiOxNyを使用してもほぼ同様の効果が得られる。Si3N4、SiOxNyは消衰係数が比較的小さいため、Si3N4、SiOxNyによる光の吸収の影響が少なく、設計の自由度を広げることができる。つまり、水蒸気バリア層はSi3N4、SiOxNyの何れか1種類以上を用い、膜厚は希望する光学特性を満たすよう任意の厚さに設定すればよい。
【0037】
Si3N4、SiOxNyの成膜はSiを蒸発源として、それぞれAr・N2雰囲気下、Ar・N2・O2雰囲気下で反応させて成膜することができる。Si3N4、SiOxNyはAl2O3やTixOyに比較して、密着性が良くないため、IAD法やイオンプレーティング法等によるアシストを用いて成膜するとより緻密な膜となり、水蒸気バリアの効果が向上させることができる。
【0038】
このようにして製造したNDフィルタ20は、ビデオカメラやデジタルスチールカメラ等の撮像装置に適用することで、長期に渡り良好な性能の光量絞り装置が得られる。
【符号の説明】
【0039】
20 NDフィルタ
21 透明基板
22 Al2O3膜
23 TixOy膜
24 Si3N4膜
25 MgF2膜
26 ND膜
31 SiO2膜
【技術分野】
【0001】
本発明は、特にカメラ等に用いられるNDフィルタに関するものである。
【背景技術】
【0002】
ビデオカメラ或いはデジタルスチールカメラ等の光量絞り装置には、小絞り状態でのハンチング現象や回折現象等の影響を低減するために、ND(Neutral Density)フィルタが用いられている場合がある。
【0003】
近年では、撮像素子の感度が向上し、NDフィルタの濃度を濃くすることにより、更に光の透過率を低下させ、高感度の撮像素子を使用しても、明るい被写界に対して絞りの開口が小さくなり過ぎないようにする工夫が施されている。
【0004】
また、NDフィルタの基材となる基板には、ガラス等の透明基板も用いられるが、近年では任意形状への加工性や、小型化・軽量化等の要望に伴い、合成樹脂製の基板も用いられてきている。一般的なNDフィルタの作製方法としては、合成樹脂やガラスから成る透明基板上に、真空蒸着法やスパッタ法等により、多層膜を成膜することにより作製している。
【0005】
また、NDフィルタの分光特性においては、CCDの光感度向上等の理由から高精度化への要求が高まっており、その中でも概略λ=400〜700nmまでの可視光波長領域全域における分光特性が均一であることが求められている。これらのNDフィルタは、最適設計することにより、可視光波長全域において分光特性が均一な特性を得ることができる。しかしながら、NDフィルタは大気や基板から光減衰膜に浸入する水分等により、光減衰膜として用いられる金属・金属酸化物が酸化され、分光特性を変化させる問題を有している。
【0006】
この問題の対策として、特許文献1に記載のNDフィルタにおいては、光減衰膜としてTiNx、NbNx、TaNx、AlNx等の低級金属窒化物を用いている。これにより、隣接する誘電体である酸化物が外部環境に影響され光減衰膜が酸化することを防止し、安定した分光特性を有するNDフィルタを得ることが開示されている。
【0007】
図10は従来のNDフィルタ1の膜構成図を示している。透明基板2上には第1、3、5、7、9層にAl2O3膜3、第2、4、6、8、10層にTixOy膜4が交互に積層され、最表層である第11層にMgF2膜5を成膜した計11層から成るND膜6が成膜されている。
【0008】
このND膜6は可視光波長領域における分光透過率が均一になるように十分に考慮して設計されている。また、各層の膜厚等の設計値は異なるが、Al2O3膜3の任意の数層又は全てのAl2O3膜3をSiO2膜に置換してもよい。そして、Al2O3膜3をSiO2膜に置換し、TixOy膜4とを相互に積層する構成であっても、ほぼ同様の光学特性を有するND膜6を作製することが可能である。
【0009】
最表層のMgF2膜5はND膜6の面の反射率の低減を目的として構成された反射防止膜であり、屈折率nが可視光波長領域で1.5以下のものとして選択されている。反射防止膜は反射率の低減を主目的としているため、屈折率の小さい材料であればよく、例えばSiO2膜等を使用した場合であっても、ほぼ同様のND膜6を作製することができる。
【0010】
図11は図10に示したNDフィルタ1に環境負荷(60℃、90%、1000h)を与えた環境試験前後の可視光波長領域における透過率の変化を示しており、環境試験後の方が透過率が概略1%程度上昇している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2003−322709号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、光減衰膜としてTiNx、NbNx、TaNx、AlNx等の低級金属窒化物を使用した場合には、消衰係数が比較的大きいため、設計膜厚を薄くする必要がある。NDフィルタの光量減衰率は光減衰膜の膜厚に大きく依存するため、設計膜厚が薄いと成膜誤差が発生し易く、再現性の低下を招く要因となる。
【0013】
本発明の目的は、上述の課題を解消し、成膜誤差が少なく、光減衰膜として用いられる金属・金属酸化物の酸化による分光特性の変化を抑制することにより、長期間に渡り分光特性を安定させたNDフィルタを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するための本発明に係るNDフィルタは、透明基板の上に複数の光吸収層と複数の誘電体層を積層した光減衰膜を設け、該光減衰膜の最上層の上に、水蒸気バリア層及び反射防止膜を成膜したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係るNDフィルタによれば、光減衰膜に浸入する水分や酸素の影響による光減衰膜として使用される金属・金属酸化物の酸化を低減することにより、分光特性の変化を抑制したNDフィルタを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】実施例1の撮影光学系の構成図である。
【図2】実施例1のNDフィルタの膜構成図である。
【図3】実施例1の環境試験前後の透過率変化のグラフ図である。
【図4】実施例2のNDフィルタの膜構成図である。
【図5】実施例2のNDフィルタの膜構成図である。
【図6】実施例2の環境試験前後の透過率変化のグラフ図である。
【図7】実施例3のNDフィルタの膜構成図である。
【図8】実施例3のNDフィルタの膜構成図である。
【図9】実施例3の環境試験前後の透過率変化のグラフ図である。
【図10】従来のNDフィルタの膜構成図である。
【図11】従来のNDフィルタの環境試験前後の透過率変化のグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明を図示の実施例を基に詳細に説明する。
【実施例1】
【0018】
図1は本実施例における撮影光学系の構成図を示し、レンズ11、光量絞り装置12、レンズ13〜15、ローパスフィルタ16、CCD等から成る固体撮影素子17が順次に配列されている。光量絞り装置12においては、絞り羽根支持板18に一対の絞り羽根19a、19bが可動に取り付けられている。絞り羽根19aには、絞り羽根19a、19bにより形成される開口部を通過する光量を減光することを目的としたNDフィルタ20が接着されている。
【0019】
図2は本実施例1におけるNDフィルタ20の膜構成図を示している。NDフィルタ20の透明合成樹脂材から成る透明基板21には、耐熱性、柔軟性、更にはコスト的に基板材料として優れているノルボルネン系樹脂である板厚200μmのArton(JSR社製、商品名)のフィルムを選択している。
【0020】
なお、本実施例1においては透明基板21の材質としてArton(JSR社製、商品名)を選択したが、これに限らずZeonex、Zeonor(日本ゼオン社製、商品名)等の他のノルボルネン系樹脂を使用してもよい。また、ノルボルネン系樹脂以外のPMMA、ポリカーボネート、PET、PEN、PC、ポリイミド系樹脂等の様々な透明合成樹脂基板を使用することも可能である。
【0021】
一般的には、本実施例1のようなNDフィルタ20として使用される透明基板21の材質としては、耐熱性(ガラス転移点Tg)が高く、曲げ弾性が大きく、更には可視光波長領域において透明性が高く、吸水率が低い材料がより好ましい。
【0022】
本実施例1のように、薄いフィルム状の透明基板21上にND膜を成膜する場合には、上述した耐熱性や曲げ弾性、更にはコスト的な要因等を考慮すると、ノルボルネン系樹脂、ポリイミド系樹脂が最も適している材料の1つである。
【0023】
本実施例1においては、真空蒸着法により透明基板21上の第1、3、5、7、9層に誘電体層であるAl2O3膜22、第2、4、6、8、10層に光吸収層であるTixOy膜23が交互に積層して光減衰膜とされている。そして、光減衰膜の最上層である第10層のTixOy膜23上に、第11層として水蒸気バリア層として機能するSi3N4膜24を積層し、更に最表層に反射防止膜であるMgF2膜25を成膜し、計12層から成るND膜26を成膜している。
【0024】
このように、ND膜26の最表層であるMgF2膜25と、光減衰膜のうち最上層の第10層のTixOy膜23の間に、Si3N4膜24を成膜することにより、大気からの水蒸気等の浸入を防止することができる。これにより、光吸収層であるTixOy膜23の劣化を防止でき、分光特性の変化を抑制することができる。
【0025】
なお、MgF2膜25は反射防止膜であるため、ND膜26の最表層に位置することが好ましいが、水蒸気バリア層であるSi3N4膜24を最表層としてMgF2膜25の上に形成してもよい。
【0026】
図3は本実施例1のNDフィルタ20に対する環境試験前後(60℃、90%、1000h)の可視光波長領域における透過率の変化の実験結果を示している。環境試験前後での透過率の変化は概略0.6%程度であり、水蒸気バリア層を設けない図11に示す従来のNDフィルタ1の透過率と比較して大幅に改善される。
【0027】
本実施例1においてはND膜26の成膜に真空蒸着法を使用したが、スパッタリング法、IAD法(イオンアシスト成膜)、IBS法、イオンプレーティング法、クラスタ蒸着法等の成膜方法においても成膜が可能である。また、蒸着方法は目的や条件等を考慮し、最も適当な成膜方法を選択すればよい。
【実施例2】
【0028】
図4は実施例1のND膜26の膜構成に加えて、透明基板21の光減衰膜を成膜する面の表面である第1層に水蒸気バリア層であるSi3N4膜24を成膜することにより、計13層の膜構成としている。つまり、透明基板21に最も近いAl2O3膜22との間に水蒸気バリア層であるSi3N4膜24を成膜している。
【0029】
特に、透明基板21に合成樹脂材を使用すると、任意形状への加工性や、小型化・軽量化等の利点があるが、ガラス基板と比較して含水率が大きく、合成樹脂基板が有する水分により光減衰膜の分光特性が変化することが懸念される。しかし、このような構成とすることで、透明基板21の有する水分がSi3N4膜24の上層に浸入することを防止し、透明基板21からの水分による光減衰膜の分光特性の変化を低減することができる。
【0030】
この場合に、Si3N4膜24と透明基板21との密着性が問題となる場合がある。そのときは、図5に示すように比較的密着力が強く吸水率の小さいSiO2膜31やSiO膜等を第1層目に成膜し、その上層に水蒸気バリア層としてSi3N4膜24を成膜し、計14層の膜構成とすることで改善することができる。
【0031】
図6は本実施例2におけるNDフィルタ20に対する環境試験前後(60℃、90%、1000h)の可視光波長領域における透過率の変化の実験結果を示している。環境試験前後で透過率の変化は概略0.4%程度であった。
【実施例3】
【0032】
図7は実施例3における膜構成図を示している。本実施例3においては、全てのAl2O3膜22とTixOy膜23との間に水蒸気バリア層であるSi3N4膜24が成膜されている。同時に、最表層のMgF2膜25と光減衰膜の最上層の第20層のTixOy膜23との間にSi3N4膜24を成膜することにより、計22層の膜構成としている。Al2O3膜22とTixOy膜23の間に挿入されたSi3N4膜24は、Al2O3膜22によるTixOy膜23の酸化を防止し光減衰膜の透過率の変化を更に低減する。
【0033】
なお、全てのAl2O3膜22とTixOy膜23との間に水蒸気バリア層であるSi3N4膜24を成膜する必要はなく、図8に示すように適宜の積層間に水蒸気バリア層を介在してもよい。特に、酸素や水分の影響を最も受け易く最も薄いTixOy膜23の上下の面を水蒸気バリア層で成膜することが好ましい。
【0034】
図9は本実施例3におけるNDフィルタ20に対する環境試験前後(60℃、90%、1000h)の可視光波長領域における透過率の変化の実験結果を示したものである。環境試験前後で透過率の変化は概略0.3%程度であった。
【0035】
水蒸気バリア層であるSi3N4膜24の膜厚は、NDフィルタ20の使用帯域、例えばλ=400〜700nm程度の通常可視光波長領域で所定の光量減衰率、即ち所定の透過率を有する。このSi3N4膜24の膜厚はAl2O3膜22、TixOy膜23の各層の膜厚と共に調整して予め決められる。
【0036】
上述の実施例においては、水蒸気バリア層としてSi3N4膜24を使用しているが、SiOxNyを使用してもほぼ同様の効果が得られる。Si3N4、SiOxNyは消衰係数が比較的小さいため、Si3N4、SiOxNyによる光の吸収の影響が少なく、設計の自由度を広げることができる。つまり、水蒸気バリア層はSi3N4、SiOxNyの何れか1種類以上を用い、膜厚は希望する光学特性を満たすよう任意の厚さに設定すればよい。
【0037】
Si3N4、SiOxNyの成膜はSiを蒸発源として、それぞれAr・N2雰囲気下、Ar・N2・O2雰囲気下で反応させて成膜することができる。Si3N4、SiOxNyはAl2O3やTixOyに比較して、密着性が良くないため、IAD法やイオンプレーティング法等によるアシストを用いて成膜するとより緻密な膜となり、水蒸気バリアの効果が向上させることができる。
【0038】
このようにして製造したNDフィルタ20は、ビデオカメラやデジタルスチールカメラ等の撮像装置に適用することで、長期に渡り良好な性能の光量絞り装置が得られる。
【符号の説明】
【0039】
20 NDフィルタ
21 透明基板
22 Al2O3膜
23 TixOy膜
24 Si3N4膜
25 MgF2膜
26 ND膜
31 SiO2膜
【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明基板の上に複数の光吸収層と複数の誘電体層を積層した光減衰膜を設け、該光減衰膜の最上層の上に、水蒸気バリア層及び反射防止膜を成膜したことを特徴とするNDフィルタ。
【請求項2】
最表層に前記反射防止膜を成膜したことを特徴とした請求項1に記載のNDフィルタ。
【請求項3】
前記透明基板は透明な合成樹脂材としたことを特徴とする請求項1又は2に記載のNDフィルタ。
【請求項4】
前記透明基板と前記光減衰膜との間に前記水蒸気バリア層を設けたことを特徴とした請求項1〜3の何れか1つの請求項に記載のNDフィルタ。
【請求項5】
前記光減衰膜の積層間に前記水蒸気バリア層を介在したことを特徴とした請求項1〜4の何れか1つの請求項に記載のNDフィルタ。
【請求項6】
前記水蒸気バリア層はSi3N4、SiOxNyのうちの何れか1種類以上であることを特徴とした請求項1〜5の何れか1つの請求項に記載のNDフィルタ。
【請求項7】
絞り羽根を有する光量絞り装置において、請求項1〜6の何れか1つの請求項に記載のNDフィルタを有することを特徴とする光量絞り装置。
【請求項8】
請求項7に記載の光量絞り装置を使用した撮像装置。
【請求項1】
透明基板の上に複数の光吸収層と複数の誘電体層を積層した光減衰膜を設け、該光減衰膜の最上層の上に、水蒸気バリア層及び反射防止膜を成膜したことを特徴とするNDフィルタ。
【請求項2】
最表層に前記反射防止膜を成膜したことを特徴とした請求項1に記載のNDフィルタ。
【請求項3】
前記透明基板は透明な合成樹脂材としたことを特徴とする請求項1又は2に記載のNDフィルタ。
【請求項4】
前記透明基板と前記光減衰膜との間に前記水蒸気バリア層を設けたことを特徴とした請求項1〜3の何れか1つの請求項に記載のNDフィルタ。
【請求項5】
前記光減衰膜の積層間に前記水蒸気バリア層を介在したことを特徴とした請求項1〜4の何れか1つの請求項に記載のNDフィルタ。
【請求項6】
前記水蒸気バリア層はSi3N4、SiOxNyのうちの何れか1種類以上であることを特徴とした請求項1〜5の何れか1つの請求項に記載のNDフィルタ。
【請求項7】
絞り羽根を有する光量絞り装置において、請求項1〜6の何れか1つの請求項に記載のNDフィルタを有することを特徴とする光量絞り装置。
【請求項8】
請求項7に記載の光量絞り装置を使用した撮像装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
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【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2011−81083(P2011−81083A)
【公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−231710(P2009−231710)
【出願日】平成21年10月5日(2009.10.5)
【出願人】(000104652)キヤノン電子株式会社 (876)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年10月5日(2009.10.5)
【出願人】(000104652)キヤノン電子株式会社 (876)
【Fターム(参考)】
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