説明

NFATシグナル阻害剤及びNFATシグナル阻害方法

【課題】 新規なNFATシグナル阻害剤、およびそれを用いたNFATシグナル阻害方法を提供する。
【解決手段】ナツシロギク、ナツシロギク抽出物、パルテノライドを含むNFATシグナル阻害剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、NFAT(nuclear factor of activated T cells)シグナル阻害剤及びそれを用いたNFATシグナル阻害方法に関する。
【背景技術】
【0002】
Nuclear factor of activated T cells(活性化T細胞核因子、以下、NFATと略称する)は、T細胞活性化に重要なインターロイキン2(Interleukin−2:IL−2)の転写を活性化する因子として発見された。NFATはセリン/スレオニン脱リン酸化酵素カルシニューリンにより脱リン酸化されることで活性化する。脱リン酸化されたNFATは、DNA上のNFAT結合部位に結合して下流の遺伝子転写を促すことが報告されている(図1参照)。このようなNFATによって下流の遺伝子転写が促進される細胞内シグナル伝達系をNFATシグナルという。
【0003】
サイクロスポリンA(以下、CsAと略称する)やタクロリムス(以下、FK506と略称する)は酵素カルシニューリンの活性化を阻害することが知られている。そのため、CsAやFK506は、NFATシグナルを阻害することによりT細胞活性化を抑制する免疫抑制剤として用いられている。さらに、CsAやFK506は移植免疫抑制剤としてのみならず、免疫系の関与することが知られている関節リウマチ、乾癬、アトピー性皮膚炎の治療薬としても認可されている。
【0004】
これまで、NFATは免疫系にのみ作用する転写因子として考えられていた。しかし、最近の研究からは免疫系に留まらず、心筋・骨格筋の分化調節による筋組織形成、脳における神経ネットワークの形成、骨芽細胞分化調節による骨代謝などにも関係することも明らかになっている。したがって、NFATは多くの組織で発現し、重要な役割を果たす「多機能転写因子」として捉えられるようになってきている。
【0005】
NFATシグナルを阻害することで、免疫抑制作用(例えば、非特許文献1参照)、(心)筋肥大抑制(例えば、非特許文献2参照)及び破骨細胞分化抑制作用(例えば、非特許文献3参照)などが期待できると報告されている。また、前述のようにNFATは免疫性サイトカインIL−2を産生する経路を調節していることから、NFATシグナル阻害剤は自己免疫疾患を含む免疫性サイトカインが関与していると考えられる疾患の治療または予防に有用である。かかる対象疾患としては、例えばインスリン依存性糖尿病、不妊症、動脈硬化、喘息、急性心筋梗塞、成人呼吸促迫症候群、末梢血管疾患、敗血症、間質性肝疾患、多発性硬化症などが挙げられる。したがって、新規にNFATシグナル阻害剤を見出せれば、このような阻害剤を免疫抑制剤、(心)筋肥大抑制剤、骨代謝疾患治療剤等として用いることが期待される。
【0006】
【非特許文献1】Lee M and Park J、“Regulation of NFAT activation:a potential therapeutic target for immunosuppression” Mol Cells,22:p.1−7,2006
【非特許文献2】Molkentin JD,Lu JR,Antos CL,Markham B,Richardson J,Robbins J,Grant SR,and Olson EN、“A calcineurin−dependent transcriptional pathway for cardiac hypertrophy”Cell,93:p.215−228,1998
【非特許文献3】Takayanagi H,Kim S,Koga T,Nishina H,Isshiki M,Yoshida H,Saiura A,Isobe M,Yokochi T,Inoue J,Wagner EF,Mak TW,Kodama T,and Taniguchi T、“Induction and activation of the transcription factor NFATc1 (NFAT2) integrate RANKL signaling in termial differentiation of osteoclasts” Developmental Cell,3:p.889−901,2002
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、新規なNFATシグナル阻害剤を提供することを目的とする。
さらに、本発明は、前記NFATシグナル阻害剤を用いたNFATシグナル阻害方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明者らは、NFATシグナル伝達に対する作用を評価する系を構築し、当該系を用いて種々の植物または化合物についてNFATシグナル阻害作用を網羅的に解析した。その結果、新たにNFATシグナル阻害作用を有する植物及び化合物を見出した。この知見に基づき、本発明を完成するに至った。
【0009】
本発明は、ナツシロギク、ナツシロギクの抽出物、およびパルテノライドからなる群より選ばれる少なくとも1種を含むことを特徴とするNFATシグナル阻害剤である。
さらに、本発明は、対象の細胞又は組織に対して、前記NFATシグナル阻害剤を用いることを特徴とするNFATシグナルの阻害方法に関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、新規NFATシグナル阻害剤を提供することができる。
さらに、本発明によれば、前記NFATシグナル阻害剤を用いたNFATシグナル阻害方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明者らは、種々の植物、およびそのエキスを用いてNFATシグナル阻害作用を有するエキスのスクリーニングを行った。その結果、ナツシロギクおよびナツシロギクの抽出物がNFATシグナル阻害作用を示すことを見出した。さらに、前記抽出物に含まれるパルテノライドについても、同様のNFATシグナル阻害作用を示すことを見出した。
本発明に係るNFATシグナル阻害剤は、ナツシロギク、ナツシロギクの抽出物、およびパルテノライドからなる群から選ばれる少なくとも1種を含むことを特徴とする。
【0012】
ナツシロギクとは、学名をTanacetum partheniumと称し、キク科に分類される植物である。ナツシロギクは、従来からサプリメント等の成分として用いられており、リウマチ、関節炎等の予防効果が報告されている。本発明者等は、今回新たにナツシロギクがNFATシグナル阻害作用を有することを明らかにした。
【0013】
本発明に係るNFATシグナル阻害剤は、ナツシロギクの全草、葉、樹皮、枝、果実又は根等をそのまま含むものであってもよいし、当該植物の全草、葉、樹皮、枝、果実又は根等を粉砕して用いたものであってもよい。本発明において、ナツシロギクの葉を使用することが好ましい。さらに、本発明に用いられるナツシロギクには、下記で説明するパルテノライドが含まれていることが好ましい。
【0014】
本発明において、ナツシロギク抽出物を用いる場合、抽出物を得る方法は特に限定されないが、植物を常温又は加温下にて抽出するか又はソックスレー抽出器等の抽出器具を用いて抽出することにより得ることが好ましい。
【0015】
ナツシロギク抽出物を得るために用いられる抽出溶剤(溶媒)としては、極性溶剤又は非極性溶剤のいずれをも使用することができる。抽出溶剤としては、例えば水;メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等のアルコール類;プロピレングリコール、ブチレングリコール等の多価アルコール類;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類;酢酸メチル、酢酸エチル等のエステル類;テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル等の鎖状及び環状エーテル類;ポリエチレングリコール等のポリエーテル類;スクワラン、ヘキサン、シクロヘキサン、石油エーテル等の炭化水素類;トルエン等の芳香族炭化水素類;ジクロロメタン、クロロホルム、ジクロロエタン等のハロゲン化炭化水素類;及び二酸化炭素等が挙げられる。上記抽出溶剤は単独で使用してもよく、または2種以上を組み合わせた混合物として使用してもよい。
本発明において、抽出溶剤としては、水性アルコールが好ましく、99.5質量%エタノールを用いることが特に好ましい。
本発明において、ナツシロギク抽出物を得るための抽出時間および抽出温度については特に制限はない。
【0016】
本発明において、前記抽出物をそのまま用いてもよいし、前記抽出物を希釈、濃縮または凍結乾燥した後、粉末又はペースト状に調製して用いることもできる。本発明において、ナツシロギク抽出物とは、前記のような抽出方法で得られた各種溶剤抽出液、その希釈液、その濃縮液又はその乾燥末を含むものである。また、前記抽出物をクロマトグラフィー液々分配等の分離技術に供し、当該抽出物から不活性な夾雑物を除去したものを用いることもできる。さらに、上記抽出物に、例えば酸化チタン、炭酸カルシウム、蒸留水、乳糖、デンプン等の適当な液体または固体の賦形剤または増量剤を加えてNFATシグナル阻害剤として用いてもよい。この場合、NFATシグナル阻害剤中の抽出物の量は特に制限されないが、前記抽出物が固形分濃度として0.0001〜1質量%含まれるのが好ましく、0.001〜1質量%含まれるのがより好ましく、0.01〜1質量%含まれるのがさらに好ましい。
【0017】
本発明に用いられるナツシロギク抽出物には、下記で説明するパルテノライドが含まれていることが好ましい。
【0018】
次に、パルテノライドについて説明する。
パルテノライドは、従来からガン転移抑制効果、リウマチ、関節炎の予防効果などが知られている化合物であり、下記式で表される化合物である。
【0019】
【化1】

【0020】
本発明者等は、パルテノライドがNFATシグナル阻害作用を有することを今回初めて見出した。
【0021】
本発明おいて、前記パルテノライドとして、人工的に合成されたものを用いてもよく、ナツシロギク等の天然物から抽出された抽出物を用いてもよい。
本発明に係るNFATシグナル阻害剤はパルテノライドを含有することが好ましい。NFATシグナル阻害剤中のパルテノライドの量は特に制限されないが、濃度が1〜100μMであることが好ましく、10〜100μMであることがより好ましい。
【0022】
なお、本発明に係るNFATシグナル阻害剤においては、ナツシロギク、その抽出物、パルテノライドを単独で用いてもよいし、これらを混合して用いてもよい。
本発明に係るNFATシグナル阻害剤としては、パルテノライドまたはナツシロギクの葉のアルコール抽出物を含有することがより好ましい。
【0023】
本発明に係るNFATシグナル阻害剤は、NFATによって正の転写制御がなされている種々の遺伝子の転写活性化を抑制することができる。したがって、本発明に係るNFATシグナル阻害剤は、例えば免疫抑制剤、(心)筋肥大抑制剤及び骨代謝疾患治療剤等として有用である。また、本発明に係るNFATシグナル阻害剤は、有効成分として天然物質に由来するものを含有することから安全面においても利点がある。
【0024】
本発明において、NFATシグナルとは、細胞質内で活性化されたNFATが、核内のNFAT結合部位(結合配列)に結合することにより、NFAT結合部位の下流に位置する遺伝子が正の転写調節を受けるような一連のシグナル伝達系をいう(図1参照)。
また、本発明においてNFATシグナルを阻害するとは、NFATに対して直接的又は間接的に作用してNFATによる転写の活性化を抑制することを意味する。
さらに、NFAT結合配列とは、NFATが結合可能な塩基配列を有するオリゴヌクレオチドをいい、例えばGGAGGAAAAACTGTTTCATACAGAAGGCGT(pNFAT−Luc、Stratagene社製)といった塩基配列が知られている。
【0025】
NFATシグナル阻害作用を測定する方法としては特に限定されないが、例えば、公知のNFAT結合配列と当該NFAT結合配列の下流にレポーター遺伝子とを有するプラスミドを導入した宿主を用いるレポーターアッセイを行い、阻害効果を測定する方法を挙げることができる(図2参照)。用いるレポーター遺伝子は、特に限定されず、従来、生化学実験の分野で使用されている如何なるレポーター遺伝子も使用することができる。例えばレポーター遺伝子としては、ルシフェラーゼ遺伝子、βグルクロニダーゼ遺伝子(GUS遺伝子)及びグリーンフルオレセントプロテイン遺伝子(GFP遺伝子)等を挙げることができる。また、プラスミド上のNFAT結合配列は、上述したような公知のNFAT結合配列に限定されるものではない。また、上述したような公知のNFAT結合配列を1セットとして複数セットを連結して導入してもよい。複数のNFAT結合配列を連結して使用することによって、NFATによる転写促進活性をより高感度に測定することができる。なお、NFATの活性は細胞内のカルシウムイオン濃度に依存するため、レポーターアッセイはカルシウムイオンを宿主に流入させる条件下で行うことが好ましい。
【0026】
NFATシグナル阻害作用は、NFATシグナル阻害率を指標として評価することができる。NFATシグナル阻害率とは、サンプル試料を加えない系でのNFATによる転写活性に対する、サンプル試料を加えたときの当該転写活性の低下率をいう。
【0027】
本発明に係るNFATシグナル阻害剤は、NFATによる転写の活性化を抑制することから、細胞や組織におけるNFATシグナルを阻害することができる。具体的には、上述した本発明に係るNFATシグナル阻害剤を対象とするヒトや動物等の細胞や組織に直接又は間接的に接触させることによって、当該細胞や組織におけるNFATシグナルを阻害することができる。これにより、当該細胞や組織においては、NFATシグナルによって生ずる種々の遺伝子発現を転写レベルで抑制することができる。
本発明に係るNFATシグナル阻害剤は、NFATによる転写の活性化を抑制することができるため、NFATによる転写活性の亢進に起因する種々の症状や疾患に対する治療剤、又は予防剤としても有用である。このような症状や疾患としては、例えばインスリン依存性糖尿病、不妊症、動脈硬化、喘息、急性心筋梗塞、成人呼吸促迫症候群、末梢血管疾患、敗血症、間質性肝疾患、多発性硬化症等を挙げることができる。したがって、本発明に係るNFATシグナル阻害剤は、免疫抑制剤、(心)筋肥大抑制剤及び骨代謝疾患治療剤等として有用である。
【0028】
本発明に係るNFATシグナル阻害剤を医薬用途として使用する場合、剤形として、特に限定されないが、例えば散剤、顆粒剤、カプセル剤、丸剤、錠剤等の固形製剤、水剤、懸濁剤、乳剤等の液剤等が挙げられる。本発明に係るNFATシグナル阻害剤を経口投与の医薬用組成物として使用する場合、上記NFATシグナル阻害剤の他、経口投与剤の形態に応じて一般に用いられる賦形剤、崩壊剤、結合剤、滑沢剤、界面活性剤、アルコール類、水、水溶性高分子、甘味料、矯味剤、酸味料等を添加し、常法に従って製造することができる。経口投与用医薬組成物としては、免疫抑制剤、(心)筋肥大抑制剤及び骨代謝疾患治療剤等が挙げられる。
【0029】
また、本発明に係るNFATシグナル阻害剤を皮膚用の医薬又は医薬部外品として使用する場合には、剤形としては、特に限定されるものではないが、例えば軟膏、水剤、エキス剤、ローション剤及び乳剤等が挙げられる。当該医薬又は医薬部外品には、植物の抽出物及びパルテノライドの他に、助剤、安定化剤、湿潤剤、乳化剤、吸収促進剤及び界面活性剤等の薬学的に許容される担体を任意に組合せて配合することができる。
【0030】
一方、本発明に係るNFATシグナル阻害剤を化粧料として使用する場合には、形状としては、特に限定されるものではないが、例えば油中水型又は水中油型の乳化化粧料、クリーム、ローション、ジェル、フォーム、エッセンス、ファンデーション、パック、スティック及びパウダー等が挙げられる。当該化粧料には、本発明のNFATシグナル阻害剤の他に、化粧料成分として一般に使用されている油分、界面活性剤、紫外線吸収剤、アルコール類、キレート剤、pH調整剤、防腐剤、増粘剤、色素類、香料及び各種皮膚栄養剤等を任意に組合せて配合することができる。具体的には、本発明に係る皮膚外用剤には皮膚化粧料に配合される薬効成分、例えば微粒子酸化亜鉛、酸化チタン、パーソールMCX、パーソール1789等の紫外線吸収剤、アスコルビン酸等のビタミン類、ヒアルロン酸ナトリウム、ワセリン、グリセリン、尿素等の保湿剤、ホルモン剤、及びコウジ酸、アルブチン、プラセンタエキス、ルシノール等の他の美白成分、ステロイド剤、アラキドン酸代謝物やヒスタミン等に代表される化学伝達物質産生・放出抑制剤(インドメタシン、イブプロフェン)、レセプター拮抗剤等の抗炎症剤、抗男性ホルモン剤、ビタミンA酸、ローヤルゼリーエキス、ローヤルゼリー酸等の皮脂分泌抑制剤、ニコチン酸トコフェロール、アルプロスタジル、塩酸イソクスプリン、塩酸トラゾリン等の抹消血管拡張剤及び末梢血管拡張作用のある炭酸ガス等、ミノキシジル、塩化カルプロニウム、トウガラシチンキ、ビタミンE誘導体、イチョウエキス、センブリエキス等の血行促進剤、ペンタデカン酸グリセリド、ニコチン酸アミド等の細胞賦活化剤、ヒノキチオール、L−メントール、イソプロピルメチルフェノール等の殺菌剤、グリチルリチン酸およびその誘導体またはその塩等の薬剤、セラミド及びセラミド類似化合物等を添加配合することができる。
【0031】
本発明に係るNFATシグナル阻害剤を医薬、医薬部外品又は化粧料として使用する場合、植物の抽出物及びパルテノライドの配合量は、乾燥物として計算して、通常、医薬、医薬部外品又は化粧料の全組成の0.00001〜5重量%、特に0.0001〜0.1重量%とすることが好ましい。また、本発明に係るNFATシグナル阻害剤を医薬として用いる場合、植物の抽出物及びパルテノライドの塗布量は通常の成人で固形分残量にして0.01mg〜1g/1日とすることが望ましい。なお、本発明に係る皮膚外用剤は有効成分の含有量により異なるが、例えばクリーム状、軟膏状の場合には皮膚面1cm当たり1〜20mg、液状製剤の場合には同じく1〜20mg使用するのが好ましい。
【0032】
また、本発明に係るNFATシグナル阻害剤を化粧品、医薬又は医薬部外品として使用する場合、例えばチョーク、タルク、フラー土、カオリン、デンプン、ゴム、コロイドシリカナトリウムポリアクリレート等の粉体;例えば鉱油、植物油、シリコーン油等の油又は油状物質;例えばソルビタントリオレエート、ソルビタントリステアレート、グリセロールモノオレエート、高分子シリコーン界面活性剤等の乳化剤;パラ−ヒドロキシベンゾエートエステル等の防腐剤;ブチルヒドロキシトルエン等の酸化防止剤;グリセロール、ソルビトール、2−ピロリドン−5−カルボキシレート、ジブチルフタレート、ゼラチン、ポリエチレングリコール等の湿潤剤;トリエタノールアミン又は水酸化ナトリウムのような塩基を伴う乳酸等の緩衝剤;グリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、アルキルグルコシド等の界面活性剤;密ろう、オゾケライトワックス、パラフィンワックス等のワックス類;増粘剤;活性増強剤;着色料;香料等、を必要に応じ適宜組合せて用いることができる。
【実施例】
【0033】
以下、本発明を実施例に基づきさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0034】
NFATシグナル阻害作用を検証するために、下記の評価システムを用いて、ナツシロギク抽出物及び市販のパルテノライド(Sigma−Aldrich社製、組成:>90%)についてのNFATシグナル阻害作用を検証した。
【0035】
実施例1
(1)ナツシロギク抽出物の調製
ナツシロギクの乾燥葉(ドイツ産)を80gとり、800mLの99.5質量%エタノールを加え、室温で3日間静置抽出後、ろ過して抽出液(640mL、蒸発残分0.55w/v%)を得た。ロータリーエバポレーターで抽出液から溶媒を減圧留居し、得られた固形分3.5gを99.5質量%エタノールに溶解(固形分濃度10w/v%に調整)させた。
【0036】
(2)NFATシグナル阻害作用評価方法
プラスミドを導入する宿主細胞として、ヒト腎(HEK293)細胞をATCC(American Type Culture Collection)より購入し、使用した。HEK293細胞は、DMEM(High glucose、10% heat−inactivated FBS)中で37℃、5% CO条件下で培養した。
4連のNFAT結合配列と、その下流にレポーター遺伝子としてホタルルシフェラーゼ遺伝子とが導入されたプラスミドpNFAT−luc(STRATAGENE社製)を前記ヒト腎(HEK293)細胞に導入(トランスフェクション)した。
また、トランスフェクション効率のばらつきを考慮して、ホタルルシフェラーゼのシグナル強度を補正するために、CMV promoterの下流にウミシイタケルシフェラーゼ遺伝子が導入されたプラスミドpRL−CMV(Promega社製)もヒト腎(HEK293)細胞にトランスフェクションした。
トランスフェクションは、LipofectAMINE 2000 reagent(Invitrogen社製)を用いて行った。
トランスフェクションの8時間後に培地を交換し、一晩インキュベートした。
【0037】
その後、前記ナツシロギク抽出物(0.003質量%)または市販のパルテノライド(30μM)を添加し、その1時間後に1μM Ionomycinを添加したサンプルを作成した。また、ベースコントロールとして、ナツシロギク抽出物または市販のパルテノライドを添加せず、Ionomycinも添加しないサンプルを作成した。ここで、Ionomycinは、カルシウムイオンに特異的なイオノフォアであり、細胞内にカルシウムイオンを流入させる薬剤として知られている。Ionomycin添加により、カルシウムイオン依存性脱リン酸化酵素であるカルシニューリンが活性化し、それに伴ってNFATの転写活性が上昇する。
【0038】
上記サンプルについて、Ionomycin添加から8時間後に、ルシフェラーゼレポーターアッセイを行った。ルシフェラーゼレポーターアッセイは、Dual−Glo Luciferase Assay System(Promega社製)を用いて行った。具体的には、培地を除去後、PBSにより2倍希釈したDual−Glo luciferase reagentを加え、攪拌した後、20分後にホタルルシフェラーゼ活性を測定した。その後、等量のDual−Glo Stop&Glo reagentを加え、攪拌した後にウミシイタケルシフェラーゼ活性を測定した。ルシフェラーゼ活性測定はMiniLumat LB 9506(EG&G BERTHOLD社製)を用いて行い、ルシフェラーゼによる発光量を定量的に検出した。双方ともルシフェラーゼ活性の測定時間は2秒とした。
【0039】
前記ヒト腎(HEK293)細胞に、ナツシロギク抽出物およびパルテノライドのいずれの添加しない場合も同様に、ルシフェラーゼ活性の測定を行った。
【0040】
全てのサンプルにおいて、ホタルルシフェラーゼ活性の値をトランスフェクション効率補正のために導入されたウミシイタケルシフェラーゼ活性の値で除することで補正した。その後、NFATシグナル阻害率を以下の式にて算出した。
【0041】
NFATシグナル阻害率(%)=100−A/B×100

A=(NFAT阻害剤及びIonomycinを添加したサンプルのルシフェラーゼ活性値)−(ベースコントロールのルシフェラーゼ活性値)
B=(Ionomycinのみ添加したサンプルのルシフェラーゼ活性値)−(ベースコントロールのルシフェラーゼ活性値)
【0042】
その結果、ナツシロギク抽出物によるNFATシグナル阻害率は83.1%、パルテノライドにおいてはNFATシグナル阻害率が102.0%であった。この結果から、ナツシロギク抽出物及びパルテノライドがNFATシグナルを阻害することが明らかとなった。すなわち、ナツシロギク抽出物及びパルテノライドは、NFATにより正に制御される転写を抑制する、優れたNFATシグナル阻害剤であることがわかった。
【0043】
実施例2
ナツシロギク抽出物の濃度またはパルテノライドの濃度を表1に示すように変更した以外は、実施例1と同様にしてサンプルを作成した。
これらのサンプルについて、実施例1と同様にNFATシグナル阻害率を測定した。得られた結果を表1に示す。
【0044】
【表1】

【0045】
その結果、ナツシロギク抽出物及びパルテノライドのいずれも、NFATシグナルの阻害に効果があることがわかった。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】NFATとNFAT結合部位との結合及びその下流の遺伝子転写促進のメカニズムを示す、NFATシグナルの概略図である。
【図2】NFATシグナル阻害作用を測定するレポーターアッセイの一例をあらわす概略図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナツシロギク、ナツシロギクの抽出物、およびパルテノライドからなる群より選ばれる少なくとも1種を含むことを特徴とするNFATシグナル阻害剤。
【請求項2】
前記ナツシロギクの抽出物にパルテノライドが含まれていることを特徴とする、請求項1記載のNFATシグナル阻害剤。
【請求項3】
対象の細胞又は組織に対して、請求項1記載のNFATシグナル阻害剤を用いることを特徴とするNFATシグナル阻害方法。
【請求項4】
前記細胞又は組織に対して、前記NFATシグナル阻害剤を直接接触させることを特徴とする、請求項3記載のNFATシグナルの阻害方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−13403(P2010−13403A)
【公開日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−175394(P2008−175394)
【出願日】平成20年7月4日(2008.7.4)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】