説明

NOGマウスを用いた高転移性細胞株の樹立

本発明は、腫瘍の転移を研究するための新規な再現性のあるトランスジェニックマウスモデルを提供する。特に、本発明はNOD/SCID/γcnullトランスジェニックマウスモデルで腫瘍の転移を研究することに関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、腫瘍転移を解析するためのトランスジェニック動物モデルに関する。特に、本発明は、トランスジェニック(ノックアウトを含む)マウスモデルにおいて、癌の転移の解析を含めた、腫瘍転移を研究するための方法を提供する。さらに、本発明は、NOD/SCID/γcnull (NOG)マウスを用いた、高い転移能を有するヒト癌細胞株の樹立に関する。
【背景技術】
【0002】
関連技術分野
免疫不全マウス、例えば無胸腺ヌードマウス、C.B-17/重症複合免疫不全(scid)マウス、およびNOD/SCIDマウスは、癌転移研究の動物モデルとして広く使用されている (Brunsら, Int. J. Cancer 10:102(2):101-8 (2002); Ohtaら, Jpn. J. Cancer Chemother. 23:1669-72 (1996); Jimenezら, Ann. Surg. 231:644-54 (2000))。こうして、かかるマウスモデルは新しい抗癌剤の前臨床試験のために、また、転移に関係した遺伝子の検出のために使用されてきた (Brunsら, 前掲; Ohtaら, 前掲; Jimenezら, 前掲; Hotzら, Pancreas 26:E89-98 (2003); Tarbeら, Anticancer Res. 21:3221-8 (2001))。しかし、ヒト癌細胞の転移を研究する際のこうしたモデルの使用は、主にレシピエントマウスにおける癌転移の発生率が低いため、また、所望の結果を達成するのに必要とされる細胞数が多いため、これまでのところ制限されている。
【0003】
近年、異種移植のための効率のよい動物レシピエントを確立するために、新規な免疫不全マウスNOD/SCID/γcnull(NOD/ShiJic-scid with γcnull、またはNOGとも呼ばれる)が開発された。NOGトランスジェニックマウスは、ヒト細胞を移植するための (Itoら, Blood 100:3175-82 (2002))、そしてまたCD34(+)細胞からのヒトT細胞のin vivo発生を研究するための(Saitoら, Int. Immunol. 14:1113-24 (2002)) すぐれたレシピエントマウスモデルである、と記載されている。ヒト臍帯血幹細胞(CBSC)をNOGマウス内で維持したところ、CBSCはTリンパ球へと分化して、末梢リンパ系器官に移動した (Yahataら, J. Immunol. 169:204-9 (2002))。
【0004】
肝転移をはじめとして、転移はヒト癌においてしばしば観察されており、例えば膵臓癌(早期の癌でさえも)、消化管の癌(結腸直腸癌、胃腸の癌を含む)、肺癌などに認められ、最も頻度の高い癌死の原因の一つとなっている。癌転移を管理するために新しいストラテジーが必要であり、同様に、腫瘍転移を研究するために、また、肝臓への転移を含めて腫瘍転移を治療するための薬物候補を試験するために、適切かつ効率のよい動物モデル、ならびに高い転移能を有する細胞株の利用可能性が求められている。
【発明の開示】
【0005】
発明の概要
一態様において、本発明は腫瘍転移を試験するための方法に関し、この方法は、
(a) 転移性の腫瘍または腫瘍細胞株からの腫瘍細胞をNOD/SCID/γcnull マウスに接種し、
(b) 腫瘍転移の発生をモニタリングする、
各ステップを含んでなる。
【0006】
一実施形態において、前記腫瘍は癌であり、例えば、膵臓癌、前立腺癌、乳癌、結腸直腸癌、消化管の癌、結腸癌、肺癌、肝細胞癌、子宮頸癌、卵巣癌、肝臓癌、膀胱癌、尿管の癌、甲状腺癌、腎臓癌、癌腫、メラノーマ、または脳腫瘍である。
【0007】
別の実施形態において、前記転移は肝臓、骨、脳、または肺への転移であり、特に肝転移である。
【0008】
さらに別の実施形態において、腫瘍細胞は転移性の腫瘍細胞株に由来するものであり、例えば、高度に、中程度に、または低度に転移性の腫瘍細胞株でありうる。
【0009】
本発明にとって好適な膵臓癌細胞株には、例えば、MIAPaCa-2、AsPC-1、PANC-1、Capan-1、およびBxPC-3が含まれる。
【0010】
接種は例えば門脈注入によって行うことができる。
【0011】
一実施形態では、少なくとも約1×102個の細胞を接種し、照射やサイトカイン投与といった他のどのような前処置も行わない。
【0012】
別の実施形態では、少なくとも約1×103個の細胞を接種する。
【0013】
さらに別の実施形態では、少なくとも約1×104個の細胞を接種する。
【0014】
腫瘍転移の発生は当技術分野で公知の方法によりモニタリングすることができ、例えば、形成された転移性小結節の出現および数を観察することによってモニタリングする。
【0015】
別の態様においては、本発明は抗転移候補化合物を試験するための方法に関し、この方法は、
(a) 腫瘍転移を発生しているNOD/SCID/γcnull マウスに候補化合物を投与し、
(b) 腫瘍転移に及ぼす候補化合物の効果をモニタリングする、
ことを含んでなる。
【0016】
試験化合物はどのような種類の分子であってもよく、例えばペプチド、ポリペプチド、抗体、または非ペプチド系の小分子が含まれるが、これらに限らない。
【0017】
さらなる態様において、本発明は、
(a) NOD/SCID/γcnull マウスに外来遺伝子を導入し、
(b) 該マウスにおける外来遺伝子の発現をモニタリングする、
ことを含んでなる方法に関する。
【0018】
外来遺伝子はどのような遺伝子導入方法でもマウスに導入することができるが、例えば、限定するものではないが、ウイルスベクターを用いて導入する。
【0019】
特定の実施形態では、外来遺伝子が肝転移のような腫瘍転移において差次的(differentially)に発現される遺伝子である。
【0020】
当該遺伝子は、例えば、以下から選択することができる:TIS1 1Bタンパク質; 前立腺分化因子(PDF); 糖タンパク質ホルモンα-サブユニット; トロンボポエチン(THPO); manic fringeホモログ(MFNG); 補体成分5 (C5); jaggedホモログ1 (JAG1); インターロイキンエンハンサー結合因子(ILF); PCAF会合因子65α; インターロイキン-12 α-サブユニット(IL-12-α); 核呼吸因子1 (NRF1); 幹細胞因子(SCF); 転写因子リプレッサータンパク質(PRDI-BF1); 小さい誘導性サイトカインサブファミリーAメンバー1 (SCYA1); トランスデューシンβ2サブユニット; X-ray repair complementing defective repair in Chinese hamster cells 1; 推定上の腎臓型有機アニオントランスポーター1; G1/S特異的サイクリンE (CCNE); レチノイン酸受容体-γ (RARG); S-100カルシウム結合タンパク質A1; 中性アミノ酸トランスポーターA (SATT); ドーパクロム互変異性酵素; ets転写因子(NERF2); カルシウム依存性カリウムチャネルβサブユニット; CD27BP; ケラチン10; 6-O-メチルグアニン-DNA-メチルトランスフェラーゼ(MGMT); 色素性乾皮症A群相補性タンパク質(XPA); CDC6関連タンパク質; 細胞分裂プロテインキナーゼ4; ノシセプチン受容体; シトクロムP450 XXVIIB1; N-myc原癌遺伝子; 溶質キャリアーファミリーメンバー1 (SLC2A1); 膜結合型キナーゼmyt1; カスパー(casper)、アポトーシスのFADD-およびカスパーゼ-関連インデューサー; およびC-src原癌遺伝子。
【0021】
特定の実施形態では、腫瘍転移の遺伝子マーカーを保有するマウスを抗転移候補化合物で処置し、その処置の結果としての遺伝子マーカーの発現レベルまたはその発現産物をモニタリングする。
【0022】
本発明はさらに、BxPC-3LM1の転移特性および遺伝子発現特性を有する、ヒト膵臓癌細胞の細胞株に関する。
【0023】
別の態様において、本発明は癌(転移性膵臓癌のような転移性の癌を含むが、これに限らない)を治療するための潜在的な治療薬をスクリーニングする方法に関し、この方法は、潜在的な治療薬を、BxPC-3LM1の転移特性および遺伝子発現特性を有する細胞株に投与し、該細胞株の細胞を培養し、潜在的な治療薬が該細胞の成長、該細胞の増殖、または該細胞の転移傾向を阻害するか否かを判定することを含んでなる。
【0024】
特定の実施形態では、前記細胞株がBxPC-3LM1である。
【0025】
さらに別の態様において、本発明は癌(転移性膵臓癌のような転移性の癌を含むが、これに限らない)を治療するための潜在的な治療薬をスクリーニングする方法に関し、この方法は、in vivoにおいて、BxPC-3LM1の転移特性および遺伝子発現特性を有する細胞株の細胞を哺乳動物宿主に投与し、該細胞を該宿主内で増殖させ、治療薬を該宿主に投与し、該宿主を検査して治療薬が膵臓癌細胞の成長、増殖または転移を阻害するか否かを調べることを含んでなる。
【0026】
この場合も、特定の実施形態では、前記細胞株がBxPC-3LM1である。
【0027】
別の実施形態では、哺乳動物宿主がNOGマウスのようなマウスである。
【0028】
好ましい実施形態の詳細な説明
A. 定義
特に断らない限り、本明細書で用いる技術用語と科学用語は、本発明が属する技術分野の当業者が通常理解している意味と同じ意味を有する。Singletonら, Dictionary of Microbiology and Molecular Biology 第2版, J. Wiley & Sons (New York, NY 1994)は、本出願中で用いた多くの専門用語の一般的な手引きを当業者に提供する。
【0029】
当業者は本明細書に記載したものと類似のまたは同等の多くの方法および材料を理解しており、これらも本発明を実施する際に使用することができるだろう。実際、本発明が記載した方法および材料に限定されることは決してない。本発明のために、次の用語を以下で定義する。
【0030】
本明細書で用いる「腫瘍」とは、悪性であろうと良性であろうと、あらゆる新生物細胞の成長および増殖、ならびにあらゆる前癌性および癌性の細胞および組織を意味する。
【0031】
「癌」および「癌性」とは、典型的には制御されない細胞増殖により特徴づけられる哺乳動物の生理学的状態を意味し、またはかかる生理学的状態を言う。癌の例としては、限定するものではないが、次のものが挙げられる:癌腫(上皮癌)、例えば膵臓癌、前立腺癌、乳癌、結腸直腸癌、消化管の癌、結腸癌、肺癌、肝細胞癌、子宮頸癌、卵巣癌、肝臓癌、膀胱癌、尿管の癌、甲状腺癌、腎臓癌、メラノーマ、および脳腫瘍;ならびに肉腫(非上皮癌)、例えば脂肪肉腫、平滑筋肉腫、黄紋筋肉腫、滑膜肉腫、血管肉腫、線維肉腫、悪性末梢神経腫瘍、消化管間質系腫瘍、類腱腫、ユーイング肉腫、骨肉腫、軟骨肉腫、白血病、リンパ腫、および骨髄腫。
【0032】
「転移」という用語は、本明細書では最も広義に解釈され、身体のある部分から他の部分への腫瘍(例えば、癌)の広がりを意味する。広がった細胞から形成される腫瘍は二次腫瘍と呼ばれ、もとの(一次)腫瘍と同じタイプの細胞を含む。こうして、肝臓や骨に転移した前立腺癌は、その存在場所にかかわらず、依然として前立腺の癌細胞を含むので、肝臓癌または骨癌ではなく、転移した前立腺癌である。
【0033】
癌の「病理」には患者の健康を損ねるあらゆる現象が含まれる。かかる病理として、異常なまたは制御不能な細胞増殖、転移、近隣細胞の正常機能の妨害、サイトカインまたは分泌産物の異常レベルでの放出、炎症性応答または免疫学的応答の抑制または悪化、新生物形成、前悪性度、悪性度、周囲のまたは離れた組織や器官(例えば、リンパ節)の侵襲などが挙げられるが、これらに限らない。
【0034】
「差次的に発現される遺伝子」、「差次的遺伝子発現」、およびこれらの同義語は、互換的に用いられ、ある細胞もしくは細胞型における、またはある患者もしくは被験者における発現レベルが、他の細胞もしくは細胞型と比べて、または他の患者もしくは被験者と比べて、より高いまたはより低いレベルにある遺伝子をさす。したがって、例えば、差次的遺伝子発現は、正常な細胞/組織/患者に対して罹患した対応する細胞/組織/患者において起こり、あるいは異なる細胞型間または異なる発生段階の細胞間の遺伝子発現パターンの差異を反映する。上記用語はまた、発現が同一疾患の異なるステージでより高いまたはより低いレベルに活性化される遺伝子を包含する。さらに、差次的に発現される遺伝子は、核酸レベルもしくはタンパク質レベルで活性化または抑制されるか、あるいは選択的スプライシングを受けて異なるポリペプチド産物をもたらしうることも理解されよう。かかる差異は、例えば、mRNAレベルの変化、表面発現、またはポリペプチドの分泌もしくは他のパーティショニング(partitioning)により証明することができる。差次的遺伝子発現には、2つ以上の遺伝子もしくはそれらの遺伝子産物同士の発現の比較、または2つ以上の遺伝子もしくはそれらの遺伝子産物同士の発現比の比較、または同一遺伝子の2つの異なってプロセシングされた産物の比較が含まれる。本発明において、「差次的遺伝子発現」は、比較されるサンプル間で所与の遺伝子または遺伝子産物の発現に少なくとも約2倍、好ましくは少なくとも約2.5倍、さらに好ましくは少なくとも約4倍、より一層好ましくは少なくとも約6倍、もっとも好ましくは少なくとも約10倍の差がある場合に、存在すると見なされる。
【0035】
「マイクロアレイ」という用語は、ハイブリダイズ可能なアレイエレメントが基板上に順序づけて配列されているものをさす。この用語は特にポリヌクレオチドマイクロアレイ(例えば、cDNAおよびオリゴヌクレオチドマイクロアレイ)とタンパク質アレイを包含する。特定の実施形態において、マイクロアレイは、何千もの個々の遺伝子(DNA)配列が固相支持体上に既知の順序で固定されているアレイからなる。異なる組織由来のRNAをチップ上のDNAとハイブリダイズさせる。RNA分子はそれを発現させたDNAとのみ結合するだろう。その結果、生物学的サンプル(例えば、正常組織と罹患組織、ある種の薬物で処理した組織と未処理の組織など)中の何千もの遺伝子の相対的発現をたった1つのアッセイで比較することができる。同様に、マイクロアレイチップ上にタンパク質配列をディスプレイさせることができ、これを用いてタンパク質-タンパク質相互作用または様々な生物学的サンプル(例えば組織)におけるタンパク質レベルの差を研究することが可能である。
【0036】
「ポリヌクレオチド」という用語は一般にはポリリボヌクレオチドまたはポリデオキシリボヌクレオチドをさし、これは修飾されていないRNAまたはDNAであってもよいし、修飾されたRNAまたはDNAであってもよい。こうして、例えば、本明細書で定義するポリヌクレオチドには、限定するものではないが、一本鎖および二本鎖DNA、一本鎖および二本鎖領域を含むDNA、一本鎖および二本鎖RNA、一本鎖および二本鎖領域を含むRNA、DNAとRNAを含むハイブリッド分子(一本鎖であるか、より典型的には二本鎖であり、または一本鎖および二本鎖領域を含んでいてもよい)が含まれる。加えて、本明細書で用いる「ポリヌクレオチド」という用語には、RNAまたはDNAまたはRNAとDNAの両方を含む三本鎖領域が含まれる。かかる領域の鎖は同一分子に由来するものであっても、異なる分子に由来するものであってもよい。この用語には、1個以上の修飾塩基を含有するDNA(cDNAを含む)およびRNAが含まれる。かくして、安定性のために、または他の理由のために修飾された主鎖を有するDNAまたはRNAは、この用語が本明細書で意図するところの「ポリヌクレオチド」である。さらに、イノシンのような特殊な塩基またはトリチウム化塩基のような修飾塩基を含有するDNAまたはRNAも本明細書で定義する「ポリヌクレオチド」という用語に含まれる。一般的に、用語「ポリヌクレオチド」は、修飾されていないポリヌクレオチドのあらゆる化学的、酵素的および/または代謝的修飾形態、ならびにウイルスおよび細胞(単純型および複雑型細胞を含む)に特徴的なDNAおよびRNAの化学的形態を包含する。
【0037】
「オリゴヌクレオチド」という用語は、比較的短いポリヌクレオチドをさし、限定するものではないが、一本鎖デオキシリボヌクレオチド、一本鎖または二本鎖リボヌクレオチド、RNA:DNAハイブリッド、および二本鎖DNAを包含する。
【0038】
「トランスジェニック動物」および「トランスジェニックマウス」ならびにそれらの文法的に同等の用語は、別の動物からの遺伝子を保有するように故意に作られた動物/マウスをさすために用いられる。
【0039】
「異種移植」という用語は、もっとも広い意味で用いられ、ある動物種由来の生きている細胞、組織または器官を別の動物種(ヒトを含む)に導入することを意味する。
【0040】
B. 詳細な説明
本発明を実施するにあたっては、特段の指示がない限り、当技術分野のスキルの範囲内にある分子生物学(組換え技術を含む)、微生物学、細胞生物学、および生化学の慣用技法を使用するものとする。そのような技法は文献に詳しく説明されており、例えば、“Molecular Cloning: A Laboratory Manual”, 第2版 (Sambrookら, 1989); “Oligonucleotide Synthesis” (M.J. Gait編, 1984); “Animal Cell Culture” (R.I. Freshney編, 1987); “Methods in Enzymology” (Academic Press, Inc.); “Handbook of Experimental Immunology”, 第4版 (D.M. Weir & C.C. Blackwell編, Blackwell Science Inc., 1987); “Gene Transfer Vectors for Mammalian Cells” (J.M. Miller & M.P. Calos編, 1987); “Current Protocols in Molecular Biology” (F.M. Ausubelら編, 1987); "Transgenic Mouse: Methods and Protocols" (Methods in Molecular Biology, Clifton N.J., Vol. 209, M.H. Hofkerら編)を参照されたい。
【0041】
本発明は、腫瘍転移を研究するための、感受性がありかつ信頼できるトランスジェニック動物モデルを提供する。特に、本発明は、NOGマウスへの哺乳動物(例えば、ヒト)癌細胞の導入を含む、再現可能な肝転移のマウスモデルを提供する。
【0042】
NOGマウスは実験動物中央研究所(CIEA、川崎市)で開発されたものであり、係属中の米国特許出願第10/221,549号(2001年10月25日出願)およびPCT公開WO 03/0182671号にも記載されている(これらの全開示内容を参照によりそのまま本明細書に組み入れるものとする)。
【0043】
簡単に説明すると、異種移植のための改良された動物レシピエントを樹立するために、C57BL/6J-γcnullマウスとNOD/Shi-scidマウスとの8回の戻し交配により、重症複合免疫不全(SCID)突然変異およびインターロイキン-2Rγ(IL-2Rγ)対立遺伝子突然変異(γcnull)について二重ホモ接合性のNOD/SCID/γcnull (NOG)マウスが作製された。臍帯血由来のヒトCD34+細胞をこの系統に移植したとき、末梢循環系、脾臓、および骨髄における移植率は、抗アシアロGM1抗体で処理したNOD/Shi-scidマウスまたはβ2-ミクログロブリン欠損NOD/LtSz-scid (NOD/SCID/β2mnull)マウス(これらのマウスは、NOD/SCID/γcnullマウスと同じくらい完全にNK細胞の働きが損なわれている)を用いて行ったときより著しく高かった。末梢血単核細胞を腹腔内に導入したときは、同じく高いヒト成熟細胞の移植率が腹水において認められた。高い移植率に加えて、多系列の細胞への分化も観察された。さらに、この系統においては1×102個ものCD34+細胞が成長して分化することができた。これらの結果に基づいて、NOD/SCID/γcnullマウスは異種移植のための、特にヒト幹細胞アッセイのための、優れた動物レシピエントであるとされた。さらなる詳細については、例えばHiramatsuら, Blood 100:3175-82 (2002)を参照されたい。
【0044】
その他のNOD/SCID/γcnullマウスがSchultzら, J. Immonol., 174:6477-6489 (2005)に記載されている。本明細書で用いる「NOG」マウスという用語には、Schultzらの論文に記載されたNOD-scidIL2Rγnullマウスを特に含めるものとする。
【0045】
このたび、NOGマウスはヒト癌の転移を研究するための優れたマウスモデルであることが見出された。したがって、このモデルを使って、例えば、抗癌剤候補および抗転移薬物候補のスクリーニングおよび評価を行うことができ、また、癌転移に関連した遺伝子の検出/スクリーニングを行うことができる。かかる薬物候補および遺伝子は、その後、転移性癌や関連症状の診断および/または治療(転移性癌の遺伝子治療を含む)に有用でありうる。
【0046】
本発明のマウスモデルは、肝転移、骨転移、脳転移、肺転移を含めて、あらゆる種類の転移をモデル化して研究するのに適している。転移はすべてのタイプの癌に起こり、限定するものではないが、膵臓癌、前立腺癌、乳癌、結腸直腸癌、消化管の癌、結腸癌、肺癌、肝細胞癌、子宮頸癌、卵巣癌、肝臓癌、膀胱癌、尿管の癌、甲状腺癌、腎臓癌、癌腫、メラノーマ、脳腫瘍などに起こる。本発明はヒト膵臓癌の肝転移を解析することにより説明されるが、本発明はそのような転移に限定されない。このNOGマウスモデルを使用することで、肝臓、骨、脳、肺を含めて、いずれかの場所に生じた他のタイプの癌からの転移をも研究することができる。
【0047】
異種移植の方法は当技術分野でよく知られており、例えば、以下の文献(それらをそのまま本明細書に組み入れる)に記載されている:Fiebigら, “Human Tumor Xenografts: Predictivity, Characterization and Discovery of New Anticancer Agents(ヒト腫瘍異種移植片:新抗癌剤の予測、特徴づけおよび発見),” Contributions to Oncology: Relevance of Tumor Models for Anticancer Drug Development, Fiebig & Burger編 (Basel, Karger1999), vol. 54, pp. 29-50; Bergerら, “Establishment and Characterization of Human Tumor Xenografts in Thymus-Aplastic Nude Mice(胸腺無形成ヌードマウスにおけるヒト腫瘍異種移植片の樹立および特徴づけ),” Immunodeficient Mice in Oncology, Fiebig & Berger編 (Basel, Karger 1992), pp. 23-46; Fiebig & Burger, “Human Tumor Xenografts and Explants(ヒト腫瘍異種移植片および外植片),” Models in Cancer Research, Teicher編 (Humana Press 2002) pp. 113-137。
【0048】
具体的な異種移植方法はまた、以下の実施例1に記載される。
【0049】
一般的には、哺乳動物腫瘍の標本(好ましくは、ヒト腫瘍標本)を取得して、マウス(好ましくは、無胸腺ヌードマウス)に移植する。腫瘍標本は当技術分野で公知のどのような方法で取得してもよい。ある実施形態では、腫瘍標本を外科的に切除するが、例えば生検において、あるいは哺乳動物から腫瘍を取り除く手術の過程で切除する。別の実施形態では、哺乳動物の血液から循環している腫瘍細胞を取り出して純化することにより腫瘍標本を取得する。
【0050】
典型的には、癌細胞をマウスに尾静脈注入により移植するが、致死量以下の線量の全身照射および/または免疫抑制剤の投与といった免疫抑制を前もってマウスに施してもよい。肝転移の研究の場合には、癌細胞を、適切な留置カテーテルを用いる脾臓内(門脈)注入により動物に導入することができる。肺転移は、例えば、腫瘍細胞をレシピエント動物に静脈内注入することで達成しうるが、これは例えばWorth & Kleinerman; Clin Exp. Metastasis 17:501-6 (1999)に記載されるように行う。腫瘍細胞は腫瘍(癌)細胞株に由来するものであってもよいし、ヒトまたは非ヒト被験者から得られる一次性(原発性)の腫瘍(例えば、癌)に由来するものであってもよい。
【0051】
骨転移を研究するためには、ヒト胎児骨またはマウス骨の巨視的な断片をNOGマウスに注入する。2,3週間後、ヒト腫瘍(癌)細胞株または一次性腫瘍(癌)の細胞を静脈内に注入する(転移増殖アッセイ)か、または移植した組織断片に直接的に注入する。腫瘍転移は各種イメージング技術および組織学的検査を含む当技術分野で公知の方法によりモニタリングすることができる。
【0052】
薬物スクリーニングに使用する場合は、異種の腫瘍細胞(細胞株由来か一次性腫瘍由来のいずれか)を移植した後、転移性癌を発症したNOGマウスを試験化合物で処置し、薬物処置の結果としての転移性小結節の数、大きさまたは他の性状の変化および試験動物の生存率を、未処置の対照および/または陽性対照と比べてモニタリングする。この場合の陽性対照は、一般的には、既知の抗転移性化合物で処置した動物である。試験化合物の投与はどのような適当な経路で行ってもよく、例えば、経口、経皮、静脈内、輸液、筋肉内などの投与経路が挙げられる。その後、このモデルで得られた結果は後続の薬物動態的、毒物学的、生化学的および免疫学的研究により、そして最終的にはヒト臨床試験により、確認される。
【0053】
NOGマウスモデルはまた、in vivoで転移性小結節への標的化された遺伝子送達(例えば、レトロウイルスベクターの門脈注入による)を研究するためにも使用することができる。特に、このNOGモデルを使用すると、腫瘍転移を標的とする遺伝子導入の実現可能性を研究したり、遺伝子発現の持続期間とレベルおよび治療効果の程度をモニタリングしたり、投薬レジメンおよび/または投与様式を最適化したり、非標的組織への遺伝子導入ベクターの拡散を研究したり(毒性の可能性についての情報を提供する)することが可能である。
【0054】
遺伝子の送達は、最も一般的には、レトロウイルスベクターを使って当技術分野で周知の方法により行われる。レトロウイルスは一本鎖RNA分子をそのゲノムとして含んでいるエンベロープウイルスである。感染後、ウイルスゲノムは二本鎖DNAに逆転写され、このDNAが宿主のゲノムに組み込まれて、そこで発現される。ウイルスゲノムには少なくとも3つの遺伝子が含まれており、gag(コアタンパク質をコードする)、pol(逆転写酵素をコードする)およびenv(ウイルスエンベロープタンパク質をコードする)である。ゲノムの各末端には長い末端反復配列(LTR)が存在し、これらはプロモーター/エンハンサー領域およびウイルスの組込みに関与する配列を含んでいる。さらに、env遺伝子中のウイルスDNAおよびRNAスプライス部位をパッケージングするのに必要とされる配列が存在する。マウスモデルでもっとも高頻度に用いられるレトロウイルスベクターは、モロニーマウス白血病ウイルス(Mo-MLV)に基づくものである。さらに、NOGマウスのような実験動物への遺伝子導入には、例えば、レンチウイルスを使用することができる。
【0055】
遺伝子の送達はアデノウイルスベクターを用いても行うことができる。アデノウイルスは線状二本鎖DNAゲノムをもち、エンベロープをもたない正二十面体のウイルスである。アデノウイルスは細胞表面受容体と相互作用することにより非分裂細胞に感染して、エンドサイトーシスにより細胞内に入る。アデノウイルスのゲノムは宿主細胞のゲノムに組み込まれないので、アデノウイルスベクターからの発現は一過性である。
【0056】
本発明のさらなる詳細を以下の非限定的な実施例により説明することにする。
【実施例】
【0057】
実施例1
ヒト膵臓癌の肝転移の研究
材料および方法
この研究では、実験動物中央研究所(CIEA、川崎市)から入手した、7〜9週齢の雄NOGマウスとNOD/shiJic-scidマウスを使用した。これらの動物はCIEAの動物実験の規制のためのガイドラインに従って特別な病原体フリーの条件下で飼育した。この研究で使用したヒト膵臓癌細胞株はすべてアメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション(Rockville, MD, USA)から入手した。AsPC-1およびCapan-1のための培地は、20%および15%のウシ胎児血清(FBS, Hyclone)をそれぞれ添加したダルベッコ変法イーグル培地(DMEM)とした。MIAPaCa-2およびPANC-1は10%FBSを添加したDMEM培地に維持した。BxPC-3、Capan-2およびPL45は10%FBSを添加したRPMI1640(SIGMA, カタログ番号D6046またはD5796)培地に維持した。これらは5%CO2の加湿雰囲気中で37℃に維持した。実験的肝転移は、以前に記載されたように(Khatibら, Cancer Res. 62:242-50 (2002))、癌細胞の脾臓内/門脈注入により発生させた。6〜8週間後動物を犠牲にし、前もって固定せずに、直ちに肝転移を数えた。転移病巣は次のスケールで評価した:0=転移病巣なし;1=1〜10個の転移病巣;2=11〜20個の転移病巣;3=21個以上の転移病巣。
【0058】
結果
肝転移の発生率および肝臓病巣の数はNOD/SCIDマウスよりもNOGマウスにおいてかなり高かった(表1、図1AおよびB)。マウスに1×104個の細胞を接種して6週間後に犠牲にした場合のNOGマウスにおける肝転移の発生率は次のとおりであった:
MIAPaCa-2、AsPC-1およびPANC-1 100%;
Capan-1 90%;
BxPC-3 12.5%;
PL45およびCapan-2 0%。
【0059】
さらに、1×103個のMIAPaCa-2、AsPC-1、PANC-1およびCapan-1細胞を接種した場合にも、50〜80%のNOGマウスに転移が見られたが、1×102個のMIAPaCa-2、AsPC-1およびPANC-1癌細胞を接種したときでさえ、37.5〜71.4%のNOGマウスが肝転移を示した。これらのデータは、ヒト膵臓癌細胞株を接種したNOGマウスにおける肝転移病巣が用量依存的に形成され、しかも再現可能であることを示している。
【0060】
NOGマウスおよびNOD/SCIDマウスにおける肝転移の典型的なマクロ的写真を図1Aに示す。MIAPaCa-2、AsPC-1、PANC-1、Capan-1およびBxPC-3細胞を注入したNOGマウスは肝臓に多数の丸い転移を示した。しかし、これらの細胞株の病巣の数は細胞株ごとに大きく異なっていた。7つの膵臓癌細胞株のうち5つはNOGマウスにおいて転移能を示したが、これに対して、NOD/SCIDマウスは、AsPC-1を除けば、同様の条件下で肝転移を示さなかった。図1AおよびBに示すとおり、AsPC-1は両方のマウス系統で転移能を示したが、NOGマウスにおける転移の程度はNOD/SCIDマウスにおけるよりもひどいものであった。
【0061】
Kusamaら(Gastroenterology 122:308-17 (2002))は、1×106個のAsPC-1細胞を注入した無胸腺ヌードマウスでは100%が転移病巣を示したことを報告した。こうした知見からは、AsPC-1が高い転移能をもつ細胞のひとつであることが示唆される(この場合の転移能は注入した細胞数に依存する)。
【0062】
Capan-1またはBxPC-3を接種したNOGマウスの転移発生率は、接種する細胞の数を少なくするにつれて減少した。これに対して、MIAPaCa-2またはAsPC-1を接種したNOGマウスでは、たった1×102個の細胞を接種したときでさえ、50%を上回るNOGマウスに転移の発生が見られた(表1)。これらの知見は、NOGマウスが他の免疫不全マウスモデル、特にNOD/SCIDマウスと比べて非常にすぐれた転移モデルであることを明確に示している。
【0063】
ヌードマウスを用いたヒト膵臓癌細胞の肝転移に関するこれまでの刊行物は、そのほとんどが100万個を超える癌細胞の脾臓内接種を報じている (Shishidoら, Surg. Today 29(6):519-25 (1999); Nomuraら, Clin. Exp. Metastasis 19:391-9 (2002); およびIkedaら, Jpn. J. Cancer Res. 81:987-93 (1990))。これらの細胞株から誘導される高転移性のクローンが樹立された場合を除いて、100%の転移発生率を報告したものはほとんどなかった。しかしながら、100万個を超える癌細胞が門脈から一度に肝臓に入って、膵臓癌患者の体内で転移病巣を形成するようなことはありそうもない。したがって、現在の転移性動物モデルは典型的なヒト臨床状況を代表するものではない。
【0064】
対照的に、NOGマウスは効果的な癌転移モデルを代表しており、かかるマウスはヒト膵臓癌の臨床状態および挙動を正しく反映している。こうして、NOGマウスに見られる、適切に組織化された再現性のある肝転移は、ヒト膵臓癌の肝転移を研究するうえで有用であり、新しい抗転移薬のスクリーニングおよび開発のための好適なモデルになると期待される。
【0065】
マウスNK活性はヌード、SCIDおよびNOD/SCIDマウスのような免疫不全動物では代償的に非常に高くなっており、腫瘍成長や癌転移の減速に寄与していることが報告された (Shpitzら, Anticancer Res. 14(5A):1927-34 (1994))。一方、Itoら(Blood 100:3221-8 (2001))は、NOGマウスにはT細胞、B細胞およびNK細胞が存在せず、マクロファージ機能と樹状細胞機能が低下していることを報告した。NOGマウスを用いる転移モデルでは、宿主の免疫系(特にNK活性)に複雑な影響を及ぼすことなく、癌細胞の転移能を検出できると提案される。
【0066】
結論
提示したデータは、NOD/SCID/γcnullマウスモデルが異種細胞移植の高い可能性を有することを実証している。癌細胞の脾臓内(門脈)注入のためにこのモデルを使用すると、ヒト膵臓細胞の信頼できる肝転移挙動が観察された。たった1×104個の細胞を移植してから6週間後のNOGマウスでは、7つの細胞株のうち4つが高い肝転移能(発生率>80%)を示し、研究した細胞株の3つは低い転移能(発生率<20%)を示した。さらに、高転移性の細胞株の1×102個の細胞を接種したときにも、NOGマウスに肝転移が見られた。こうして、癌細胞の転移能は広範囲の接種細胞数(3 log桁にわたる)により実証された。これらの結果はまた、癌転移研究の最適な動物モデルであると目下考えられているNOD/SCIDモデルよりもNOGマウスモデルが明らかにすぐれていることを示している。
【0067】
実施例2
cDNAマイクロアレイでの癌転移関連遺伝子の検出
材料および方法
ヒト膵臓腫瘍細胞株MIAPaCa-2、Panc1、Capan2およびPL45 (ATCCから入手可能) を実施例1に記載の方法に従って培養した。これらの細胞のコンフルエントに達した培養物から、TRIZOL試薬(GIBCO BRL)を用いて全RNAを抽出した。Atlasヒト1K特異的プライマーセット(BD)、PowerScript標識キット(BD)、およびCy-3蛍光色素(Amersham)を用いて、20μgの全RNAからCy-3標識cDNAプローブを合成した。その後、プローブをAtlas Glass Human 1.0 Microarray (BD)にメーカーの使用説明書に従ってハイブリダイズさせた。
【0068】
膵臓腫瘍細胞株の中で差次的に発現される遺伝子は、Atlas Glass Human 1.0 Microarray (BD)を使って包括的に検索した。Cy-3標識シグナルを検出し、対応する画像をGM418アレイスキャナー(Takara)により取得して解析した。データ処理はImagene Version 5.5ソフトウェアを用いて実施した。この実験では、ヒト膵臓腫瘍細胞株をそれらの転移能に基づいて2つのグループに分類した。MIAPaCa-2およびPanc1細胞株は高転移グループに分類する一方で、その他の細胞株Capan2およびPL45は非転移グループに分類した。発現プロファイルを比較するために、「高転移グループ」アレイから得られたシグナル値の平均を「非転移グループ」アレイから得られたシグナル値の平均で割った。得られる値を「遺伝子発現レベル」と呼び、ここでは10倍差およびそれより高い数値を有意とみなした。
【0069】
結果
各細胞株の遺伝子発現プロファイルをEXCELファイル(ArrayData.xcl)に記録した。非転移細胞株(Capan2およびPL45)と比べて高転移細胞株(MIAPaCa-2およびPanc1)において過剰発現していた遺伝子、ならびに非転移細胞株と比べて高転移細胞株において過少発現していた遺伝子を表2に示す。例えば、酪酸応答因子1遺伝子(BRF1)は非転移グループの細胞よりも高転移グループの癌細胞において100,000倍以上多く発現していた。対照的に、トランスデューシング-β-2サブユニット遺伝子の100,000倍以上の過剰発現が非転移グループの細胞に見られた。
【0070】
表2に示すとおり、下記の遺伝子は非転移細胞と比べて高転移細胞において有意に過剰発現される:TIS1 1Bタンパク質;前立腺分化因子(PDF);糖タンパク質ホルモンα-サブユニット;トロンボポエチン(THPO);manic fringeホモログ(MFNG);補体成分5 (C5);jaggedホモログ1 (JAG1);インターロイキンエンハンサー結合因子(ILF);PCAF会合因子65α;インターロイキン-12 α-サブユニット(IL-12-α);核呼吸因子1 (NRF1);幹細胞因子(SCF);転写因子リプレッサータンパク質(PRDI-BF1);および小さい誘導性サイトカインサブファミリーAメンバー1 (SCYA1)。
【0071】
表2に示すとおり、下記の遺伝子は非転移細胞と比べて高転移細胞において有意に過少発現される:トランスデューシンβ2サブユニット;X-ray repair complementing defective repair in Chinese hamster cells 1;推定上の腎臓型有機アニオントランスポーター1;G1/S特異的サイクリンE (CCNE);レチノイン酸受容体-γ(RARG);S-100カルシウム結合タンパク質A1;中性アミノ酸トランスポーターA (SATT);ドーパクロム互変異性酵素;ets転写因子(NERF2);カルシウム依存性カリウムチャネルβ-サブユニット;CD27BP;ケラチン10;6-O-メチルグアニン-DNA-メチルトランスフェラーゼ(MGMT);色素性乾皮症A群相補性タンパク質(XPA);CDC6関連タンパク質;細胞分裂プロテインキナーゼ4;ノシセプチン受容体;シトクロムP450 XXVIIB1;N-myc原癌遺伝子;溶質キャリアーファミリーメンバー1 (SLC2A1);膜結合型キナーゼmyt1;カスパー、アポトーシスのFADD-およびカスパーゼ-関連インデューサー;およびC-src原癌遺伝子。
【0072】
表に示した遺伝子および他の遺伝子の差次的発現は、例えば、抗癌剤候補および/または抗転移薬候補を試験するための薬物スクリーニングに使用することができ、また、診断および治療目的(例えば、遺伝子導入法による)のために使用することができる。
【0073】
実施例3
高い転移能をもつ細胞株の樹立
実施例1は、NOGマウスに異種移植されたヒト膵臓癌細胞を用いて肝転移パネルを確立することを記載している。このパネルを用いて、数種の細胞株の転移能を表1に示すように特徴づけた。これらの細胞株のひとつがBxPC-3である。この細胞株をNOGマウスの脾臓内に注入したところ、8匹のうち1匹のマウスだけが肝転移を発生した。すなわち、この細胞株の転移率はたったの12.5%であった。
【0074】
本実施例では、BxPC-3から高い転移能をもつ細胞株を作り出すことについて記載する。
【0075】
材料および方法
BxPC-3細胞(1×105個)をNOGマウスの脾臓に注入した。これはかろうじて転移を起こさせるのに必要な量である。6〜8週間後にマウスを犠牲にして、数個の転移病巣がある肝臓を摘出した。細かく切り刻んで、酵素により解離させて単細胞懸濁液を調製し、続いてin vitroで4週間培養した。この培養物の細胞をBxPC-3LM1と命名した。この方法の手順を図2および5に示す。
【0076】
結果
BxPC-3LM1細胞株は、この場合もNOGマウスを用いて肝転移能について調べたところ、高い肝転移能をもつことがわかった(図2)。表3では、もとの細胞株BxPC-3と亜細胞株BxPC-3LM1の、NOGマウスの肝臓への転移能が比較されている。
【0077】
表1に示したデータと一致して、1×104個のBxPC-3細胞は8匹のうち1匹のマウスに弱い転移(転移スコアI)を生じさせた。これは12.5%の転移発生率に一致する。同じ細胞量のBxPC-3ML1は、処理した6匹すべてのマウスに強い転移(スコアIIおよびIII)を発生させ、これは転移発生率100%となる。
【0078】
1×105個の細胞量では、BxPC-3は処理した8匹すべてのマウスに弱い肝転移を発生させた(転移発生率100%)。同じ細胞量のBxPC-3ML1も100%の転移発生率をもたらしたが、重要な相違点はすべての転移が強かったことである(グレードIII)。
【0079】
表4では、もとの細胞株BxPC-3と亜細胞株BxPC-3LM1の、NOD/SCIDマウスの肝臓への転移能が比較されている。このマウスモデルにおいては、1×104個のBxPC-3細胞は試験した6匹のマウスのいずれにも転移を生じさせなかったが、BxPC-3ML1は試験した5匹のマウスのうち3匹に弱い転移を発生させた(発生率60%)。1×105個のBxPC-3細胞の注入はこの実験で試験した6匹のマウスに依然として転移を発生させなかったが、BxPC-3LM1の場合には試験したすべてのマウスに強い転移が発生した。
【0080】
BxPC-3とBxPC-3LM1との転移能の差は、BxPC-3LM1がNOGマウスへのBxPC-3細胞の1回の移植で得られたものであるので、驚くべきことである。
【0081】
実施例4
遺伝子発現解析
表5に示したデータから明らかなように、BxPC-3とBxPC-3LM1は、それらの細胞数倍加時間、マイクロサテライトマーカー(STR)の存在、ならびにrasおよびp53突然変異状態が類似していた。こうして、その重要な特性において、BxPC-3LM1は親細胞株に対して差異を示さなかった。
【0082】
次に、BxPC-3とBxPC-3LM1の遺伝子発現プロファイルをマイクロアレイ解析 (GeneChip Human Genome U133 Plus 2.0 Array, Affymetrix)により、本質的に実施例2に記載した手順に従って、比較した。
【0083】
結果
マイクロアレイ解析の結果を表6に示すが、そこには遺伝子チップマイクロアレイの各スポットのシグナル強度をプロットしてある。表6にはマイクロアレイ解析で選択された84の遺伝子がすべて示される。これらの遺伝子の一部はRT-PCRによりさらに解析した。この解析の結果を図7に示す。
【0084】
考察
NODマウスへの移植による1回の移植実験に基づいて、もとの細胞株BxPC-3と高い転移能をもつ亜株BxPC-3LM1において遺伝子発現が有意に異なる84の遺伝子が同定された。両方の細胞株は同一の細胞株に由来し、病理学的および遺伝学的に同等であり、さらにそれらのin vitro増殖においても同等であることが見出された。したがって、これら2つの細胞株の遺伝子発現パターンに有意差があることが同定されたことは非常に重要であり、そして、差次的に発現される遺伝子がおそらく転移の原因であるだろう。同定された差次的に発現される遺伝子は、腫瘍転移の予防および治療用の薬物および治療法を開発するための重要な標的である。
【0085】
表の説明
表1は、各種のヒト膵臓癌細胞株を脾臓内に注入した後の肝転移を示す。
【0086】
表2は、低い転移能をもつ細胞株と比較した、高い転移能をもつ細胞株において差次的に発現される遺伝子を示す。
【0087】
表3は、NOGマウスの肝臓におけるBxPC-3およびBxPC-3LM1の転移能を示す。
【0088】
表4は、NOD/SCIDマウスの肝臓におけるBxPC-3およびBxPC-3LM1の転移能を示す。
【0089】
表5は、BxPC-3およびBxPC-3LM1細胞株の特性の比較を示す。
【0090】
表6は、マイクロアレイ解析により選択された、BxPC-3およびBxPC-3LM1細胞株間で差次的に発現される遺伝子のリストおよびシグナル対数比を示す。
【表1】


【0091】
【表2】

【0092】
【表3】

【0093】
【表4】

【0094】
【表5】

【0095】
【表6】


【図面の簡単な説明】
【0096】
【図1A】示した膵臓腺癌細胞株(MIAPaCa-2、AsPC-1、PANC-1、Capan-1、およびBxPC-3)の1x104、 1x103および1x102個の細胞を接種した後のNOGマウスにおける肝転移の発生および肝臓病巣の数を示す。
【図1B】示した膵臓腺癌細胞株(MIAPaCa-2、AsPC-1、PANC-1、Capan-1、およびBxPC-3)の1x104、 1x103および1x102個の細胞を接種した後のNOGマウスにおける肝転移の発生および肝臓病巣の数を示す。
【図2】低い転移性の細胞株BxPC-3から誘導された、高い転移性の細胞株BxPC-3LM1の樹立を示す。
【図3】BxPC-3LM1がヒト起源の細胞株であることを確認する、β-アクチン特異的プライマーを用いたPCRデータを示す。
【図4】in vitroでの細胞株BxPC-3およびBxPC-3LM1の顕微鏡写真を示す。
【図5】細胞株BxPC-3LM1を樹立して試験するための概要を示す。
【図6】BxPC-3LM1およびBxPC-3細胞株のマイクロアレイ解析の分散グラフである。遺伝子チップマイクロアレイ(遺伝子発現)の各スポットのシグナル強度をプロットした。青の下部領域にある遺伝子は低い強度のため以後の解析から除外した。赤の領域にある遺伝子をさらなる解析に供した。
【図7】遺伝子発現解析の結果を確認するために、BxPC-3とBxPC-3LM1において発現レベルが大きく相違していたいくつかの遺伝子をRT-PCRによる増幅に供した。この図は、増幅サイクル数を変えた後のRT-PCR解析の結果を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a) NOD/SCID/γcnullマウスに、肝腫瘍転移において差次的に発現される外来遺伝子を導入し、
(b) 該マウスにおける該遺伝子の発現をモニタリングする、
ことを含んでなる方法であって、
前記遺伝子が、インターロイキン1受容体様1、副甲状腺ホルモン様ホルモン、副甲状腺ホルモン様ペプチド、Gタンパク質シグナリングのレギュレーター4、ギャップ結合タンパク質β6、ニューレグリン1アイソフォームSMDF、菌類ステロール-C5-デサチュラーゼホモログ、Gタンパク質共役受容体、METH1タンパク質(ADAMTS1)、METH1タンパク質(ADAMTS15に近い)、BH-プロトカドヘリン(脳-心臓)、1,25-ジヒドロキシビタミンD-3によりアップレギュレーションされる遺伝子、リポカリン2 (癌遺伝子24p3) (LCN2)、アルギニノコハク酸シンテターゼ(ASS)、細胞外マトリックスタンパク質1 (ECM1)、S100カルシウム結合タンパク質A4 (S100Z4)、溶質キャリアーファミリー6 (神経伝達物質トランスポーター) meml、セリン(またはシステイン)プロテイナーゼ阻害剤クレードB (オボアルブミン)、組織プラスミノーゲン活性化因子(PLAT)、EST DKFZp666M1410、C100カルシウム結合タンパク質A8 (カルグラヌリンA) (S100A8)、EST (MGC:10500)、胎盤特異的8 (PLAC8)、インターフェロン誘導性グアニル酸結合タンパク質2、マトリックスメタロプロテイナーゼ7、ムチン1 (膜貫通)、EST鼻咽頭癌関連抗原/LOC5、巨核球増幅因子前駆体、アレスチンドメイン含有4 (arrestin domain containing 4)、インターフェロンγ誘導性インドールアミン2,3-ジオキシゲナーゼ、DKFZP434G031 (ケラチン23)、B因子(プロペルジン、補体)、塩素イオン細胞内チャネル3、シスタチンSN、癌胎児性抗原関連細胞接着分子7、KIAA1358 (ムチン20)、ハイポセティカルタンパク質(ムチン16=CA125)、リングフィンガータンパク質、アルデヒドデヒドロゲナーゼ3ファミリーメンバーB1、DKFZp564P1263、血清アミロイドA2、KiSS-1転移抑制因子(KISS1)、血清アミロイドA2-α、プロテインキナーゼC様1、グルコサミニル(N-アセチル)トランスフェラーゼ3ムチン型、インテグリン様タンパク質β2 (抗原CD18、p95)、カリクレイン8、NG22タンパク質、KIAA1359 (ムチン20)、SCA2b (扁平上皮癌抗原SCCA、SERPINB4)、癌胎児性抗原2b、スフィンゴシン-1-リン酸ホスファターゼ2、Susiドメイン含有2 (Susi domain containing 2)、癌でアップレギュレーシュンされる上皮タンパク質、KIF21Bキネシンファミリーメンバー21B、癌胎児性抗原、多量体免疫グロブリン受容体/肝細胞癌、γ-アミノ酪酸(GABA) A受容体pl、synaptogyrin 3、NM_024 783.1、α-1-アンチキモトリプシン前駆体、および前立腺幹細胞抗原からなる群より選択される、上記方法。
【請求項2】
前記外来遺伝子がウイルスベクターにより導入される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記肝転移が膵臓癌の転移である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記マウスを抗肝腫瘍転移化合物候補で処理し、該処理の結果として前記遺伝子の発現レベルまたはその発現産物をモニタリングすることをさらに含む、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
向上した転移能をもつ腫瘍細胞株を樹立する方法であって、
(a) 低い転移能をもつ親腫瘍細胞株の細胞をNOGマウスに導入し、
(b) 転移を発生させ、
(c) 該転移から得られた細胞をin vitroで分離して増やし、向上した転移能をもつ細胞株を得る、
各ステップを含んでなる、上記方法。
【請求項6】
(d) ステップ(c)で増やした細胞をNOGマウスに導入し、
(e) 腫瘍転移の発生を確認する、
各ステップをさらに含む、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記転移が肝転移である、請求項5または6に記載の方法。
【請求項8】
前記親細胞株がヒト由来である、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記細胞がヒト膵臓腫瘍細胞である、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記膵臓腫瘍細胞株がBxPC-3である、請求項5または6に記載の方法。
【請求項11】
向上した転移能をもつ細胞株がBxPC-3LM1である、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
BxPC-3LM1の転移特性および遺伝子発現特性を有する、ヒト膵臓癌細胞の細胞株。
【請求項13】
転移性膵臓癌を予防または治療するための潜在的治療薬をスクリーニングする方法であって、BxPC-3LM1の転移特性および遺伝子発現特性を有する細胞株に潜在的治療薬を投与し、該細胞株の細胞を培養し、該治療薬が該細胞の成長、該細胞の増殖、または該細胞の転移性を抑制するか否かを調べる、ことを含んでなる上記方法。
【請求項14】
前記細胞株がBxPC-3LM1である、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
転移性膵臓癌を治療するための潜在的治療薬をin vivoスクリーニングする方法であって、BxPC-3LM1の転移特性および遺伝子発現特性を有する細胞株の細胞を哺乳動物宿主に導入し、該細胞を該宿主内で増殖させ、該宿主に該治療薬を投与して、該治療薬が膵臓癌細胞の成長、増殖、転移性を抑制する否かを調べるために該宿主を検査する、ことを含んでなる上記方法。
【請求項16】
前記細胞株がBxPC-3LM1である、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記哺乳動物宿主がマウスである、請求項15または16に記載の方法。
【請求項18】
前記マウスがNOGマウスである、請求項17に記載の方法。

【図1A】
image rotate

【図1B】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公表番号】特表2008−514205(P2008−514205A)
【公表日】平成20年5月8日(2008.5.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−533795(P2007−533795)
【出願日】平成17年9月29日(2005.9.29)
【国際出願番号】PCT/US2005/035565
【国際公開番号】WO2006/039678
【国際公開日】平成18年4月13日(2006.4.13)
【出願人】(390016470)財団法人実験動物中央研究所 (12)
【出願人】(507070641)
【Fターム(参考)】