説明

NOxガス吸着分解剤及びその製造方法、並びにNOxガス吸着分解方法

【課題】大気中等に含まれるNOガスを効率よく吸着・分解するNOガス吸着分解剤、及びそれを容易に製造し得る方法、並びにNOガス吸着分解方法を提供する。
【解決手段】本発明に係る製造方法は、無機アルコシキド溶液をゾル−ゲル法で加水分解して得られるゾル体を、アルカリ土類金属の炭酸塩及び/又は水酸化物の存在下で重縮合して得られるゲル体に、光触媒前駆体溶液を含浸させて加熱焼成する。これにより、多孔質材料に散在したアルカリ土類金属の酸化物の表面が、光触媒によって被膜されたNOガス吸着分解剤を提供することが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大気中等に含まれる窒素酸化物ガスや硫黄酸化物ガスの吸着分解性能に優れた吸着分解剤及びその製造方法、並びにNOガス吸着分解方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
生活水準の上昇に伴って化石燃料の消費量が増大し、窒素酸化物(以下、NOと称する)ガスのみならず硫黄酸化物(以下、SOと称する)ガスや一酸化炭素、さらに二次的空気汚染としてオキシダント、ダイオキシン等による公害が問題となっている。
【0003】
近年、NOやSO等の特定の酸性ガスの除去方法や触媒に関する研究開発が盛んになっている。例えば、酸化チタンなどの光触媒を光励起させて生じる電子の持つ還元力や正孔の持つ酸化力を用いて、有害物質の分解・浄化、特にNOガスの浄化する試みが知られている。また、酸化チタン等の光触媒粒子の表面に、V,Fe,Co、Ni、Cu,Zn,Ru、Rh,Pt,Pd、Ag等の金属又はその金属の化合物を担持する試みもされている。しかしながら、これらの技術では充分な光触媒機能を果たすことができないという問題があった。
【0004】
そこで、特許文献1には、上記の光触媒粒子の表面に、中和により希土類金属化合物を担持することからなる窒素酸化物除去用光触媒体、及び当該光触媒粒子とアルカリ土類金属化合物とを含有することからなる窒素酸化物除去用光触媒体が開示されている。この窒素酸化物除去用光触媒体は、希土類金属化合物が粒子表面に強固に担持されているため、光触媒による有害物質除去能の向上とともに、光触媒機能が長期間にわたって持続するという利点がある。
【特許文献1】特開平10−174881号公報(1998年6月30日公開)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に開示された技術では、酸化チタン等の光触媒粒子を予め製造した後に、希土類金属化合物及びアルカリ土類金属化合物を改めて担持する必要があるため、製造工程が複雑であるという課題がある。
【0006】
そこで、本発明は、上記の問題を解決するためになされたものであって、その目的は、大気中等に含まれるNOを効率よく吸着・分解するNOガス吸着分解剤、及びそれを容易に製造し得る方法、並びにNOガス吸着分解方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願発明者らは、無機アルコキシドを加水分解して得られるゾル体に、アルカリ土類金属化合物を添加し、均一混合した後、重縮合反応によりゲルを調製して得られた多孔質材料に、加熱処理により光触媒となる光触媒成分を含浸担持し、加熱焼成することにより、低温であっても、屋外、室内など大気中のNOガスを効率よく除去できる光触媒を得ることができることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0008】
すなわち、本発明に係るNOガス吸着分解剤は、上記課題を解決するために、多孔質材料にアルカリ土類金属の酸化物が散在しており、上記酸化物の表面の少なくとも一部に光触媒が付着していることを特徴としている。
【0009】
また、本発明に係るNOガス吸着分解剤は、上記多孔質材料がシリカゲルであることが好ましい。
【0010】
また、本発明に係るNOガス吸着分解剤は、上記光触媒が酸化チタンであることが好ましい。
【0011】
また、本発明に係るNOガス吸着分解剤は、上記アルカリ土類金属がマグネシウムもしくはカルシウムであることが好ましい。
【0012】
また、本発明に係るNOガス吸着分解剤の製造方法は、上記課題を解決するために、無機アルコシキド溶液をゾル−ゲル法で加水分解して得られるゾル体を、アルカリ土類金属の炭酸塩及び/又は水酸化物の存在下で重縮合して得られるゲル体に、光触媒前駆体溶液を含浸させて加熱焼成することを特徴としている。
【0013】
また、本発明に係るNOガス吸着分解剤の製造方法は、上記光触媒前駆体溶液を含浸させる上記ゲル体が粒子形状であることが好ましい。
【0014】
また、本発明に係るNOガス吸着分解剤の製造方法は、上記無機アルコシキドとして、ケイ素のアルコシキドを用いることが好ましい。
【0015】
また、本発明に係るNOガス吸着分解剤の製造方法は、上記ケイ素のアルコシキドとして、テトラエトキシシラン(エチルシリケートともいう)を用いることが好ましい。
【0016】
また、本発明に係るNOガス吸着分解剤の製造方法は、上記アルカリ土類金属として、マグネシウムもしくはカルシウムを用いることが好ましい。
【0017】
また、本発明に係るNOガス吸着分解剤の製造方法は、上記光触媒前駆体溶液として、テトライソプロピルチタネートを用いることが好ましい。
【0018】
また、本発明は、上記した製造方法によって製造されるNOガス吸着分解剤も含まれる。
【0019】
また、本発明に係るNOガス吸着分解方法は、上記のNOガス吸着分解剤に、NOガスを接触させることによって、当該NOガス吸着分解剤にNOガスを吸着させ、且つ上記光触媒により当該NOガスを分解することを特徴としている。
【発明の効果】
【0020】
本発明に係るNOガス吸着分解剤は、以上のように、多孔質材料にアルカリ土類金属の酸化物が散在しており、上記酸化物の表面の少なくとも一部に光触媒が付着していることを特徴としている。また、本発明に係るNOガス吸着分解方法は、上記のNOガス吸着分解剤に、NOガスを接触させることによって、当該NOガス吸着分解剤にNOガスを吸着させ、且つ上記光触媒により当該NOガスを分解することを特徴としている。
【0021】
上記の構成によれば、アルカリ土類金属の酸化物を担持して塩基性となっている多孔質材料における当該アルカリ土類金属表面に光触媒が存在していることによって、光触媒作用と吸着作用とが非常に近接した位置で起こることから、大気中等に含まれる有害物質であるNOガスを効率よく吸着・分解することができる。例えば、上記光触媒として酸化チタンを用いたNOガス吸着分解剤の場合は、当該酸化チタンによって吸着したNOガスを酸化分解することができる。
【0022】
また、本発明に係るNOガス吸着分解剤の製造方法は、以上のように、無機アルコシキド溶液をゾル−ゲル法で加水分解して得られるゾル体を、アルカリ土類金属の炭酸塩及び/又は水酸化物の存在下で重縮合して得られるゲル体に、光触媒前駆体溶液を含浸させて加熱焼成することを特徴としている。
【0023】
これにより、大気中等に含まれる有害物質であるNOガスを、アルカリ土類金属を担持して塩基性となっているゲル体に効率よく吸着・分解させることができ、且つ、アルカリ土類金属の表面に存在する光触媒によって、吸着したNOガスを分解することができる吸着・分解性能の高いNOガス吸着分解剤を、簡易な方法によって製造できる。
【0024】
具体的には、上記ゾル体を、アルカリ土類金属の炭酸塩及び/又は水酸化物の存在下で重縮合することによって、多孔質のゲル体を得ることができ、ゲル体(NOガス吸着分解剤)の比表面積を大きくすることができることから、吸着分解能を向上させることができる。
【0025】
また、本発明によれば、アルカリ土類金属の表面に光触媒を付着させる構成とすることによって、少ない光触媒で高い光触媒機能を実現することができる。そのため、例えば、多孔質のゲル体表面全体に光触媒を付着させる構成であったり、ゲル体中に光触媒を分散させたりする構成と比較して、光触媒の使用(添加)量を低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
本願発明者らは、以前、アルカリ土類金属のアルコキシド、及びアルカリ金属以外の金属のアルコキシドとを含有する無機アルコキシド混合物をゾル−ゲル法により加水分解し、縮重合して得られる酸性ガス吸着分解剤について特許出願している(特開平11−76814号公報(1999年3月23日公開))。そこで、本願発明者らは、酸性ガスの中でもNOガスに対する吸着・分解性能をより一層高めた吸着分解剤を開発すべく鋭意検討した結果、多孔質材料にアルカリ土類金属を散在させるとともに、当該アルカリ土類金属表面の少なくとも一部を光触媒によって被膜することによって、以前の酸性ガス吸着分解剤と比較して高い吸着・分解性能を実現した酸性ガス吸着分解剤を得ることができることを見出し、本発明に至った。
【0027】
以下に、本発明に係るNOガス吸着分解剤、及びその製造方法についての一実施形態を説明する。なお、以下の説明では、本発明を実施するために技術的に好ましい種々の限定が付されているが、本発明の範囲が以下の実施形態に限定されるものではない。
【0028】
〔1〕NOガス吸着分解剤
本発明に係るNOガス吸着分解剤は、アルカリ土類金属が散在している多孔質材料における当該アルカリ土類金属表面の少なくとも一部に光触媒が付着している。
【0029】
以下に、アルカリ土類金属が散在した多孔質材料と、光触媒とについて具体的に説明する。
【0030】
(1−a)アルカリ土類金属が散在した多孔質材料
本実施形態で用いられるアルカリ土類金属が散在した多孔質材料は、無機アルコシキド溶液をゾル−ゲル法で加水分解して得られるゾル体を、アルカリ土類金属の炭酸塩及び/又は水酸化物の存在下で重縮合して得られるゲル体である。
【0031】
ここで、上記無機アルコシキドとは、アルカリ土類金属以外のアルコキシドのことであり、一般式:M(OR)(ただし、MはLi、Na、Cu、Zn、B、Al、Ga、Y、Si、Ge、Ta、W、La、Nd、Ni、Zr及びTiからなる群から選ばれた少なくとも1種の元素であり、Rはアルキル基、好ましくは炭素数が1〜4の低級アルキル基であり、mはMの原子価に相当する整数である。)により表される。以下に、アルカリ土類金属以外のアルコキシドの具体例を列挙する。
【0032】
(イ)アルコキシシラン
MがSi(原子価:4)の場合にはSi(OR)により表される。このようなアルコキシシランとしては、Si(OCH、Si(OC等が挙げられる。なかでも、Si(OCが好ましい。
【0033】
(ロ)アルミニウムアルコキシド
MがAl(原子価:3)の場合にはAl(OR)により表される。このようなアルミニウムアルコキシドとしては、Al(OCH、Al(OC、Al(O−n−C、Al(O−i−C、Al(OC等が挙げられる。
【0034】
(ハ)チタニウムアルコキシド
MがTi(原子価:4)の場合にはTi(OR)により表される。このようなチタニウムアルコキシドとしては、Ti(OCH、Ti(OC、Ti(OC、Ti(OC、Ti(O−i−C等が挙げられる。
【0035】
(ニ)ジルコニウムアルコキシド
MがZr(原子価:4)の場合にはZr(OR)により表される。このようなジルコニウムアルコキシドとしては、Zr(OCH、Zr(OC、Zr(O−i−C、Zr(O−t−C、Zr(O−n−C等が挙げられる。なかでもZr(OC、Zr(O−t−Cが好ましい。
【0036】
(ホ)その他のアルコキシド
その他のアルコキシドとして、Fe(OC、V(O−i−C、Sn(OC、Sn(O−i−C、Sn(O−t−C、Li(OC、Be(OC、B(OC、P(OC2H5)3、P(OCH等が挙げられる。また、二金属アルコキシドとしてNi[Al(O−i−C等が挙げられる。
【0037】
以上のなかでも、アルコキシシラン(ケイ素のアルコキシド)が最も好ましい。アルコキシシランを用いることによって、多孔質のゲル体を実現することができる。すなわち、ゲル体の比表面積を広く確保することができる。そのため、NOガスの吸着分解効率を向上できる。また、アルコキシシランを用いることによって光透過性に優れたゲル体を実現することができることから、アルカリ土類金属に付着した光触媒の触媒活性を向上させることができる。また、NOガス吸着分解剤の耐熱性を高めることが可能となる。
【0038】
なお、無機アルコシキド溶液に含まれる無機アルコシキドは、上記した種々のアルコシキドのなかから複数種を含むものであってもよく、1種のみを含むものであってもよい。
【0039】
以上のような無機アルコシキド溶液を加水分解して得られたゾル体は、アルカリ土類金属の炭酸塩及び/又は水酸化物の存在下で縮重合されることによって、ゲル中にアルカリ土類金属の酸化物が散在したゲル体となる。
【0040】
上記アルカリ土類金属の具体的な種類は特に限定されるものではなく、IIA族の元素の何れも好ましく用いることが可能であるが、本発明においては、IIA族の元素の中でもマグネシウム(Mg)およびカルシウム(Ca)を特に好ましく用いることができる。したがって、アルカリ土類金属の水酸化物及び/又は炭酸塩としては、炭酸マグネシウム(MgCO3)、炭酸カルシウム(CaCO3 )、水酸化マグネシウム(Mg(OH)2 )、水酸化カルシウム(Ca(OH)2)の少なくとも何れか1種を特に好ましく用いることができる。これらを添加することにより、多孔質材料中にCaO及び/又はMgO等の酸化物が形成される。これにより、このアルカリ土類金属の酸化物は、強い塩基点として作用し、NOガス吸着分解性能を向上させることができる。
【0041】
(1−b)光触媒
本実施形態におけるNOガス吸着分解剤は、上記した多孔質材料中に散在したアルカリ土類金属の表面に光触媒が存在している。
【0042】
NOガス吸着分解剤の製造方法の詳細は後述するが、本発明では、アルカリ土類金属が散在している多孔質材料を、光触媒前駆体溶液を含浸させて加熱焼成することによって、当該アルカリ土類金属の表面を光触媒で被膜している。被膜される光触媒としては、従来公知の光触媒作用をもつものを用いることができる。例えば、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化タングステンが挙げられる。
【0043】
例えば、酸化チタンを光触媒とする場合には、光触媒前駆体溶液として、四塩化チタンや金属チタンとアルコールとの反応などによって得られるテトライソプロピルチタネート、テトラブチルチタネート、ブチルチタネートダイマー、テトラキス(2−エチルへキシルオキシ)チタン、テトラステアリルチタネート、トリエタノールアミンチタネート、ジイソプロポキシ・ビス(アセチルアセトナト)チタン、ジブトキシ・ビス(トリエタノールアミナト)チタン、チタニウムエチルアセトアセテート、チタニウムイソプロポキシオクチレングリコレート、チタニウムラクテートなどのチタンのアルコキシド、およびイソプロピルトリイソステアロイルチタネート、イソプロピルトリドデシルベンゼンスルホニルチタネート、イソプロピルトリス(ジオクチルパイロホスフェート)チタネート、テトライソプロピルビス(ジオクチルホスファイト)チタネート、テトラオクチルビス(ジトリデシルホスファイト)チタネート、テトラ(2、2−ジアリルオキシメチル−1−ブチル)ビス(ジトリデシル)ホスファイトチタネート、ビス(ジオクチルパイロホスフェート)オキシアセテートチタネート、ビス(ジオクチルパイロホスフェート)エチレンチタネート、イソプロピルトリ(ジオクチルホスフェート)チタネート、イソプロピルトリクミルフェニルチタネート、イソプロピルトリ(N−アミドエチル・アミノエチル)チタネートなどのチタネート系カップリング剤などの有機チタン含有溶液を用いることができる。しかしながら、本発明はこれに限定されるものではない。
【0044】
また、酸化亜鉛を光触媒とする場合には、蓚酸亜鉛、炭酸亜鉛、酢酸亜鉛、各種アルコキシド(亜鉛メトキシド、亜鉛エトキシド、亜鉛イソプロポキシド、亜鉛ブトキシド)、ビス(アセチチルアセトナート)亜鉛、エチルアセトアセテートなどの酸化亜鉛含有溶液を用いることができる。しかしながら、本発明はこれに限定されるものではない。
【0045】
また、酸化タングステンを光触媒とする場合には、三酸化タングステン、タングステン酸、タングステン酸カルシウム
また、上述のチタン含有溶液は単独でも混合物でも制限なく利用できるが、これらに限定されるものではなく、濃度調整のために相溶性のある溶剤で希釈してもよい。希釈液としてはエタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、N−ヘキサン、ベンゼン、トルエン、キシレン、トリクレン、プロピレンジクロライド、水などチタン含有溶液と相溶性のあるものであれば何でも、単独でも混合物でも制限なく利用できる。
【0046】
〔2〕NOガス吸着分解剤の製造方法
本発明は、無機アルコシキド溶液をゾル−ゲル法で加水分解して得られるゾル体を、アルカリ土類金属の炭酸塩及び/又は水酸化物の存在下で重縮合して得られるゲル体に、光触媒前駆体溶液を含浸させて加熱焼成することによってNOガス吸着分解剤を製造する。
【0047】
(2−a)アルコキシドの加水分解
無機アルコキシドとして用いるアルカリ土類金属以外の金属のアルコキシドの、溶液中の濃度としては、300〜500g/Lとするのが好ましい。加水分解温度は、20〜85℃が好ましい。
【0048】
(2−b)ゾル化
加水分解した無機アルコキシドに必要に応じてゾル−ゲル法触媒を加え、0.5〜2時間撹拌すると、実質的に加水分解が完了し、反応液はゾル、沈殿物、乳濁物等になる。ゾル−ゲル法触媒としては、酸触媒及び塩基触媒が挙げられ、併用するのが好ましい。
【0049】
上記酸触媒は、無機アルコキシドの加水分解反応に使用する。なお加水分解の際に反応液を激しく撹拌する場合には、空気中の二酸化炭素が取り込まれて炭酸が生じ、酸触媒として作用するので、酸触媒を添加しなくても良い。具体的な酸触媒としては、塩酸・硫酸・硝酸等の鉱酸、塩化水素ガス等の鉱酸の無水物、酒石酸・フタル酸・マレイン酸・ドデシルコハク酸・ヘキサヒドロフタル酸・メチルナジック酸・ピロメリット酸・ベンゾフェノンテトラカルボン酸・ジクロルコハク酸・クロレンディック酸・無水フタル酸・無水マレイン酸・無水ドデシルコハク酸・無水へキサヒドロフタル酸・無水メチルナジック酸・無水ピロメリット酸・無水ベンゾフェノンテトラカルボン酸・無水ジクロルコハク酸・無水クロレンディック酸等の有機酸及びその無水物が挙げられる。
【0050】
上記酸触媒の使用量は、無機アルコキシド1モルに対して0.001〜0.5モルが好ましく、0.005〜0.3モルが特に好ましい。0.001モル未満の場合には加水分解が不充分となる虞があり、また0.5モルを超えると重縮合反応が過剰に進行し、粘度が増大しすぎる虞がある。
【0051】
上記塩基触媒は、主として無機アルコキシドの加水分解生成物の重縮合反応用触媒としてのみならず、その急速な架橋反応及び三次元網目構造形成用の触媒として作用する。塩基触媒としては、無機塩基及び有機塩基のいずれであってもよい。無機塩基としては、水酸化カルシウム、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、水酸化ルビジウム、水酸化マグネシウム、アンモニア等が挙げられる。また有機塩基としては、第一アミン、第二アミン、第三アミン、ポリアミン、アミン錯体等が挙げられる。有機塩基の具体例として、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、エタノールアミン、ブチルアミン、トリエチレンテトラミン、ジエチルアミノプロピルアミン、N−アミノエチルピペラジン、N,N−ジメチルベンジルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン、トリペンチルアミン、トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール、メタフェニレンジアミン、ジアミノジフェニルメタン、ジアミノジフェニルスルホン、ポリアミド樹脂、ジシアンジアミド、三フッ化ホウ素・モノエチルアミン、メンタンジアミン、キシリレンジアミン、エチルメチルイミダゾール等が挙げられる。塩基触媒のうち、水に実質的に不溶で有機溶媒に可溶な第三アミン(例えばN,N−ジメチルベンジルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン、トリペンチルアミン等)、及びアンモニアがより好ましく、N,N−ジメチルベンジルアミン及びアンモニアが特に好ましい。特にアンモニアガスを用いると、微細粒子状の多孔質材料を得ることができる。
【0052】
塩基触媒の使用量は、無機アルコキシド1モルに対して0.002〜1.5モルであるのが好ましい。0.002モル未満では重縮合反応の進行が遅く、1.5モルを超えると重縮合反応が急速に進行するため、得られる多孔質材料が不均一となるおそれがある。なお塩基触媒として水に不溶で有機溶媒に可溶な第三アミンを使用する場合、その使用量は0.004〜0.008モルであるのが好ましい。第三アミン以外の場合には0.1〜1.5モルであるのが好ましい。
【0053】
(2−c)溶媒
加水分解用の溶媒としては、加水分解に必要な水と、水に可溶な有機溶媒との混合溶媒を用いることができる。有機溶媒としては、メタノール、エタノール、ブタノール、プロパノール、ペンタノール、ヘキサノール、アセトン、メチルエチルケトン、ホルムアミドが好ましい。
【0054】
水の使用量は、無機アルコキシド1モルに対し10モル以下、好ましくは1〜10モル、より好ましくは2〜8モル、特に好ましくは3〜7モルである。水の使用量が少なすぎるとアルコキシドの加水分解が遅く、縮合反応が進行しにくい。但し、空気中の水分によっても加水分解が徐々に進行するため、溶媒中に必ずしも水を添加する必要はない。特に、ジルコニウム等を含む吸湿性の高いアルコキシドを使用する場合には水を加える必要はない。水の量が10モルを超えると、得られる多孔質材料のNOガス吸着・分解特性が低下するため好ましくない。
【0055】
(2−d)アルカリ土類金属の水酸化物及び/又は炭酸塩の添加
アルカリ土類金属の水酸化物及び/又は炭酸塩の添加は、無機アルコキシドをゾル−ゲル法により加水分解する前又は後のいずれでも良いが、加水分解後の方が好ましい。
【0056】
アルカリ土類金属の水酸化物及び/又は炭酸塩の添加量としては、無機アルコシキド(A)と、上記アルカリ土類金属(B)との配合比A:B(原子比)が、100:1〜1:1となるように添加すればよく、50:1〜2:1であることが好ましく、20:1〜3:1が最も好ましい。上記配合比100:1よりもアルカリ土類金属の添加量がさらに少なくなると塩基点の形成が不十分となるため好ましくない。また、上記配合比1:1よりもアルカリ土類金属の添加量がさらに多くなると比表面積が減少し、吸着分解作用が不足するため好ましくない。
【0057】
なお、アルカリ土類金属の水酸化物を添加する場合には、上記した塩基触媒は添加しなくてもよい。
【0058】
(2−e)縮重合反応によるゲル化
アルカリ土類金属の水酸化物及び/又は炭酸塩の存在下で、無機アルコキシドの加水分解生成物(ゾル、沈殿物又は乳濁物)の重縮合反応が進行するとゲル化が起こる。ゲル化時間は、塩基触媒の量により数秒〜数時間の範囲で自在に調整することが可能である。ゾル等状混合物のpHを6〜8程度に調整し、塩基触媒を少量にするとゲル化時間を数時間と長くなる。重縮合温度は20〜85℃が好ましい。
【0059】
(2−f)乾燥
縮重合によって得られたゲル体を粉砕して200℃以下の温度、好ましくは100〜180℃、特に120〜150℃の温度で1〜8時間加熱脱水することにより、微粒子状のゲル体を得る。
【0060】
(2−g)光触媒の添加
乾燥後の微粒子状のゲル体を、上述した光触媒前駆体溶液に浸漬する。
【0061】
光触媒前駆体溶液中の光触媒前駆体の量は、上記(2−d)で添加されるアルカリ土類金属(B)と、光触媒前駆体(C)との配合比B:C(原子比)が、100:1〜2.5:1となる量が含まれている溶液であればよく、50:1〜10:1であることが好ましく、30:1〜15:1とすることがさらに好ましい。配合比100:1よりも光触媒前駆体の量がさらに少なくなると、所望の光触媒作用を得ることができなくなるため好ましくない。また、配合比2.5:1よりも光触媒前駆体の量がさらに多くなると、光触媒前駆体同士が凝集し、光触媒作用を充分発揮することができないため好ましくない。
【0062】
浸漬時間は、例えば5分〜5時間、好ましくは2〜3時間行えばよく、浸漬温度は20〜50℃、好ましくは20〜30℃とすればよい。しかしながら、これらに限定されるものではない。
【0063】
(2−h)乾燥・焼成
光触媒前駆体溶液に浸漬した微粒子状のゲル体は、最後に乾燥・焼成してNOガス吸着分解剤となる。
【0064】
乾燥は、上記(2−f)と同じく、200℃以下の温度、好ましくは100〜180℃、特に120〜150℃の温度で1〜8時間加熱脱水することにより行う。
【0065】
焼成は、アルカリ土類金属の炭酸塩及び/又は水酸化物の少なくとも一部からMgO、CaO等のアルカリ土類金属酸化物が多孔質材料(ゲル体)に生成するとともに、光触媒前駆体の少なくとも一部が光触媒となるような条件下において行われる。なお、無機アルコキシドとして、アルカリ土類金属のアルコキシドを用いている場合は、このアルカリ土類金属のアルコキシドからもアルカリ土類金属酸化物が生成する。焼成条件としては、例えば、焼成温度は、400〜800℃とすることができ、600〜800℃が好ましい。また、焼成時間は、0.5〜20時間とすることができ、4〜15時間が好ましい。
【0066】
以上の製造方法によって製造されるNOガス吸着分解剤は、アルカリ土類金属が担持されていることによって多孔質材料が塩基性となっているため、大気中等に含まれる有害物質であるNOガスを効率よく吸着し、分解することができる。また、アルカリ土類金属の表面に光触媒が存在していることによって、吸着したNOガスを効率よく分解することができる。例えば、上記光触媒に酸化チタンを用いたNOガス吸着分解剤の場合は、当該酸化チタンによって吸着したNOガスを酸化分解することができる。
【0067】
また、本実施形態の製造方法によって製造されるNOガス吸着分解剤は、多孔質材料粒子(一次粒子)が10〜15nmと平均粒径が小さく、均一である。また、この一次粒子は0.1〜1nmの微細孔を有する。また、多孔質材料の気孔率は約60%となっている。なお、縮重合反応をさらに進行させることによって、一次微粒子同士が結合し、隙間の多い三次元構造の多孔質材料粒子(二次粒子)を形成することができる。また必要に応じて多孔質フィルムの形態とすることも可能である。
【0068】
〔3〕NOガス吸着分解方法
本発明に係るNOガス吸着分解剤をNOガスに接触させると、NOガスはNOガス吸着分解剤に吸着されて分解される。NOガス吸着分解方法を実施する温度は0〜300℃が好ましい。
【0069】
また、NOガス吸着分解剤は粉末の状態で用いることが可能である。この場合、粉末状のNOガス吸着分解剤を反応管内に充填し、NOガスを含有する気体を通過させる。実用的には、NOガス吸着分解剤を板状、ハニカム状等の三次元構造体に成形し、又は前述した方法で各種繊維材料、金属材料、プラスチック材料、木材等の基材の表面に付着させて、反応装置内に配置するのが好ましい。
【0070】
なお、本発明は、NOガスの吸着・分解を目的とするものであるが、他の酸性ガスとして知られる硫黄酸化物、酢酸ガス、弗化水素ガス等も吸着・分解可能である。
【0071】
本発明は、以下の実施例によってさらに詳細に説明されるが、これに限定されるべきではない。
【実施例】
【0072】
〔実施例1:本発明に係るNOガス吸着分解剤〕
本実施例では、上記無機アルコシキドとしてエチルシリケート(エチルシリケート40,コルコート社製)を用い、上記加水分解用の溶媒としてエタノールを用い、これらの混合溶液を出発原料とした。そして、この混合溶液に、水と、上記酸触媒である塩酸を添加して加水分解液(pH3〜6)とした。
【0073】
加水分解は、50℃で60分間行い、次に、上記アルカリ土類金属の炭酸塩として炭酸カルシウムを用い、これをエタノールと混合して懸濁した懸濁液として添加し均一混合した後、ゲル化させて湿潤ゲル体を得た。そして、湿潤ゲル体を粉砕した後、乾燥して乾燥ゲル体を作製した。
【0074】
上記した各組成物は、下記表1の割合で混合した。
【0075】
【表1】

【0076】
次に、光触媒前駆体溶液としてテトライソプロピルチタネート(キシダ化学製)を用い、作製した乾燥ゲル体に含浸させた。上記した各組成物は、下記表1の割合で用いた。
【0077】
【表2】

【0078】
含浸後、120℃で3時間乾燥を行い、続いて700℃で4時間焼成を行った。
【0079】
これにより、シリカゲルに散在した酸化カルシウムの表面に、アナターゼ型の酸化チタンが被膜された本発明に係るNOガス吸着分解剤(粒子状)を得た。
【0080】
〔比較例1〕
以上の手順で製造したNOガス吸着分解剤のNOガスに対する吸着分解性能の検証に際して、テトライソプロピルチタネートに含浸させない比較酸化ガス吸着分解性能を製造した。比較酸化ガス吸着分解性能の各組成は、上記した表1の通りであり、ゲル化した湿潤ゲル体を粉砕した後、乾燥して粒子状の乾燥ゲル体としたものである。
【0081】
〔NOガスに対する分解性能の評価〕
実施例1及び比較例1でそれぞれ得られたNOガス吸着分解剤の粉末1gを、それぞれ500mLのガラス容器に入れて密閉した後、一酸化窒素ガス(NOガス)を各々のガラス容器に注入し、ガラス容器内の空気中の一酸化窒素の濃度を100ppmとした。そして、ハンディUVランプ(SLUV−8,アズワン製)を用いて紫外線を照射しながら、室温(25℃)で15分放置した後、ガス検知管((株)ガステック製)を用いて、ガラス容器中の窒素酸化物濃度を測定した。
【0082】
その結果、実施例1で得られた本発明に係るNOガス吸着分解剤を入れたガラス容器中の窒素酸化物濃度は1ppmであった。すなわち、窒素酸化物の99%が吸着分解されたことが分かった。
【0083】
これに対して、比較例1で得られた比較NOガス吸着分解剤を入れたガラス容器中の窒素酸化物濃度は15ppmであった。すなわち、窒素酸化物の85%が吸着分解されたことが分かった。
【0084】
なお、実施例1で得られたNOガス吸着分解剤を入れたガラス容器を、紫外線を照射せずに室温(25℃)で15分放置した場合は、ガラス容器中の窒素酸化物濃度は4ppmであった。すなわち、窒素酸化物の96%が吸着分解されたことが分かった。
【0085】
以上の結果から、本発明のように、多孔質材料に散在したアルカリ土類金属の酸化物の表面に光触媒が存在していることによって、従来と比較して、効率よくNOガスの吸着・分解を行うことができることが示された。これは、紫外線照射の有無による測定結果の違いから、アルカリ土類金属の酸化物の表面に存在する光触媒が大きく影響していると考えられる。
【0086】
なお、本発明は、以下の構成を特徴としていると換言することができる。すなわち、本発明に係るNOガス吸着分解剤は、ケイ素のアルコキシド溶液をゾル−ゲル法で加水分解して得られるシリカゾルを、アルカリ土類金属炭酸塩及び又は水酸化物の存在下で重縮合して得られるシリカゲルに、酸化チタン前駆体化合物溶液を含浸させて加熱焼成することを特徴としていると換言することができる。また、上記の構成において、ケイ素のアルコキシドがエチルシリケートであることが好ましい。また、上記の構成において、アルカリ土類金属がマグネシウム及び/又はカルシウムであることが好ましい。さらに、上記の構成において、酸化チタン前駆体化合物がテトライソプロピルチタネートであることが好ましい。さらに、本発明に係るNOガス吸着分解剤の製造方法は、ケイ素のアルコキシド溶液をゾル−ゲル法で加水分解して得られるシリカゾルを、アルカリ土類金属炭酸塩及び又は水酸化物の存在下で重縮合して得られるシリカゲルに、酸化チタン前駆体化合物溶液を含浸させて加熱焼成することを特徴としていると換言することができる。
【産業上の利用可能性】
【0087】
本発明に係る酸性ガス吸着分解剤及びその製造方法によれば、大気中等に含まれるNOガスを効率よく吸着・分解する酸性ガス吸着分解剤を提供することができる。
【0088】
従って、このようなNOガス吸着分解剤は、空気清浄機、屋外(例えば、道路やトンネル)における排気ガス浄化装置等に好適に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質材料にアルカリ土類金属の酸化物が散在しており、上記酸化物の表面の少なくとも一部に光触媒が付着していることを特徴とするNOガス吸着分解剤。
【請求項2】
上記多孔質材料は、シリカゲルであることを特徴とする請求項1に記載のNOガス吸着分解剤。
【請求項3】
上記光触媒は、酸化チタンであることを特徴とする請求項1又は2に記載のNOガス吸着分解剤。
【請求項4】
上記アルカリ土類金属は、マグネシウムもしくはカルシウムであることを特徴とする請求項1から3の何れか1項に記載のNOガス吸着分解剤。
【請求項5】
無機アルコシキド溶液をゾル−ゲル法で加水分解して得られるゾル体を、アルカリ土類金属の炭酸塩及び/又は水酸化物の存在下で重縮合して得られるゲル体に、光触媒前駆体溶液を含浸させて加熱焼成することを特徴とするNOガス吸着分解剤の製造方法。
【請求項6】
上記光触媒前駆体溶液を含浸させる上記ゲル体は、粒子形状であることを特徴とする請求項5に記載のNOガス吸着分解剤の製造方法。
【請求項7】
上記無機アルコシキドとして、ケイ素のアルコシキドを用いることを特徴とする請求項5または6に記載のNOガス吸着分解剤の製造方法。
【請求項8】
上記ケイ素のアルコシキドとして、テトラエトキシシランを用いることを特徴とする請求項5から7の何れか1項に記載のNOガス吸着分解剤の製造方法。
【請求項9】
上記アルカリ土類金属として、マグネシウムもしくはカルシウムを用いることを特徴とする請求項5から8の何れか1項に記載のNOガス吸着分解剤の製造方法。
【請求項10】
上記光触媒前駆体溶液として、テトライソプロピルチタネートを用いることを特徴とする請求項5から9の何れか1項に記載のNOガス吸着分解剤の製造方法。
【請求項11】
請求項5から10の何れか1項に記載の製造方法によって製造されるNOガス吸着分解剤。
【請求項12】
請求項1から4の何れか1項に記載のNOガス吸着分解剤、もしくは請求項11に記載のNOガス吸着分解剤に、NOガスを接触させることによって、当該NOガス吸着分解剤にNOガスを吸着させ、且つ上記光触媒により当該NOガスを分解することを特徴とするNOガス吸着分解方法。

【公開番号】特開2007−244974(P2007−244974A)
【公開日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−70522(P2006−70522)
【出願日】平成18年3月15日(2006.3.15)
【出願人】(597065329)学校法人 龍谷大学 (120)
【出願人】(000150246)株式会社中戸研究所 (9)
【Fターム(参考)】