説明

NaCrO2材、溶融塩電池及びNaCrO2材の製造方法

【課題】正極の活物質として用いた場合に溶融塩電池の放電容量を向上させるNaCrO2 材、溶融塩電池、及びNaCrO2 材の製造方法を提供する。
【解決手段】本発明の溶融塩電池は、NaCrO2 の一次粒子が集合した二次粒子からなるNaCrO2 材を活物質とした正極1を備える。NaCrO2 の一次粒子の平均粒径は0.1μm以下であり、二次粒子は充填率80%以下の顆粒状となっている。Cr(OH)3 及びNaOHの水溶液を噴霧・乾燥することにより、Cr(OH)3 とNaOHとが反応してNaCrO2 が生成し、NaCrO2 の一次粒子が集合して顆粒状になった二次粒子が作成される。溶融塩電池の充電時、正極1へ達したナトリウムイオンは顆粒状の二次粒子内を素早く拡散して一次粒子内へ侵入するので、高い放電レートでの放電容量が従来よりも向上する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電解質として溶融塩を用いた溶融塩電池の電極の活物質として用いるNaCrO2 材、溶融塩電池及びNaCrO2 材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、太陽光又は風力等の自然エネルギーの利用が進められている。自然エネルギーを利用して発電を行った場合は発電量が変動し易いので、発電した電力を供給するためには、蓄電池を用いた充電・放電により、供給電力を平準化することが必要となる。このため、自然エネルギーの利用を促進させるためには、高エネルギー密度・高効率の蓄電池が不可欠である。このような蓄電池として、特許文献1に開示されたナトリウム−硫黄電池がある。ナトリウム−硫黄電池では、ナトリウムイオンが伝導イオンとなっている。他の高エネルギー密度・高効率の蓄電池として、電解質に溶融塩を用いた溶融塩電池がある。ナトリウムイオンを伝導イオンとした溶融塩電池では、充電時、ナトリウムイオンが負極側から正極側へ移動し、ナトリウムイオンは正極に吸収される。このような溶融塩電池には、正極活物質に亜クロム酸ナトリウム(NaCrO2 )を用いたものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−273297号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来、NaCrO2 材は焼成により作成していた。より詳しくは、原材料の炭酸ナトリウム(NaCO3 )と酸化クロム(III)(Cr23 )との粉末を混合し、アルゴン雰囲気中で850〜900℃の温度で5〜7時間焼成する。NaCrO2 は、粒径0.2〜0.4μm程度の粒子として生成する。生成したNaCrO2 の粒子を、以下、一次粒子と言う。NaCrO2 の一次粒子は凝集し、凝集した一次粒子はより大きな粒子を形成する。凝集した一次粒子が形成する粒子を、以下、二次粒子と言う。二次粒子をボールミルで粉砕することにより二次粒子の粒径を調整した後、二次粒子を正極の材料とする。従来の方法で作成したNaCrO2材を正極の活物質として用いた溶融塩電池は、放電容量が小さく、特に高い放電レートで放電を行う際に放電容量が低下するという問題がある。
【0005】
本発明は、斯かる事情に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、正極の活物質の一次粒子及び二次粒子の形状をイオンが吸収され易い形状とすることによって、正極の活物質として用いた場合に溶融塩電池の放電容量を向上させるNaCrO2 材、溶融塩電池、及びNaCrO2 材の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係るNaCrO2 材は、NaCrO2 を成分とする一次粒子が集合した二次粒子からなるNaCrO2 材において、前記二次粒子は顆粒状をなし、前記二次粒子内のNaCrO2 の充填率は80%以下であることを特徴とする。
【0007】
本発明に係るNaCrO2 材は、前記一次粒子の平均粒径が0.1μm以下であることを特徴とする。
【0008】
本発明に係る溶融塩電池は、溶融塩を電解質として用いた溶融塩電池において、本発明におけるNaCrO2 材を主材料とした正極を備えることを特徴とする。
【0009】
本発明に係るNaCrO2 材の製造方法は、NaCrO2 を成分とする一次粒子が集合した二次粒子からなるNaCrO2 材を製造する方法において、Cr(OH)3 の水溶液及びNaOHの水溶液を、噴霧後に混合されるように夫々噴霧することにより、Cr(OH)3 の水溶液及びNaOHの水溶液が混合した霧状の水溶液中でCr(OH)3 及びNaOHを反応させてNaCrO2 を生成させ、前記水溶液を乾燥させることにより、NaCrO2 からなる一次粒子が顆粒状に集合した二次粒子を作成することを特徴とする。
【0010】
本発明に係るNaCrO2 材の製造方法は、NaCrO2 を成分とする一次粒子が集合した二次粒子からなるNaCrO2 材を製造する方法において、Cr(OH)3 及びNaOHを溶解した水溶液を噴霧することにより、Cr(OH)3 及びNaOHが反応して生成したNaCrO2 を含む霧状の水溶液を生成し、前記水溶液を乾燥させることにより、NaCrO2 からなる一次粒子が顆粒状に集合した二次粒子を作成することを特徴とする。
【0011】
本発明に係るNaCrO2 材の製造方法は、前記Cr(OH)3 の水溶液のモル濃度よりも前記NaOHの水溶液のモル濃度を高くしておき、前記二次粒子を水洗することにより、残留したNaOHを除去することを特徴とする。
【0012】
本発明に係るNaCrO2 材の製造方法は、前記Cr(OH)3 及びNaOHを溶解した水溶液中でCr(OH)3 のモル濃度よりもNaOHのモル濃度を高くしておき、前記二次粒子を水洗することにより、残留したNaOHを除去することを特徴とする。
【0013】
本発明においては、NaCrO2 材は、NaCrO2 の一次粒子が集合した充填率80%以下の顆粒状の二次粒子からなり、溶融塩電池はこのNaCrO2 材を主材料とする正極を備える。溶融塩電池の充電時、正極へ達したナトリウムイオンは顆粒状の二次粒子内を空隙を通って素早く拡散する。
【0014】
また本発明においては、NaCrO2 材に含まれる一次粒子の平均粒径が0.1μm以下となっている。NaCrO2 の一次粒子の粒径が小さく、一次粒子の表面積が大きいので、溶融塩電池の充電時、ナトリウムイオンが一次粒子内へ侵入し易くなる。
【0015】
また本発明においては、Cr(OH)3 及びNaOHの水溶液からスプレードライ法により顆粒状の二次粒子を作成することによって、NaCrO2 材を製造する。
【0016】
また本発明においては、NaCrO2 を作成するための水溶液中でCr(OH)3 の物質量よりもNaOHの物質量を多くすることにより、安定的にNaCrO2 を作成する。
【発明の効果】
【0017】
本発明にあっては、溶融塩電池は、充電時に正極でNaCrO2 の二次粒子内でナトリウムイオンが拡散する抵抗が小さくなり、ナトリウムイオンが正極で吸収され易くなるので、放電容量が向上し、更に、高い放電レートでも放電容量の低下が抑制される等、本発明は優れた効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の溶融塩電池の構成例を示す模式的断面図である。
【図2】NaCrO2 の二次粒子の模式的断面図である。
【図3】スプレードライ法によりNaCrO2 材を製造する装置の模式的断面図である。
【図4】NaCrO2 材を製造した実施例において、乾燥室内の温度とNaCrO2 の一次粒子の平均粒径及びNaCrO2 の収率との関係を示す図表である。
【図5】溶融塩電池を作成した実施例において、放電容量を測定した結果を示す図表である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下本発明をその実施の形態を示す図面に基づき具体的に説明する。
図1は、本発明の溶融塩電池の構成例を示す模式的断面図である。図1には、溶融塩電池を縦に切断した模式的断面図を示している。溶融塩電池は、上面が開口した直方体の箱状の電池容器51内に、正極1、セパレータ3及び負極2を並べて配置し、電池容器51に蓋部52を冠着して構成されている。正極1及び負極2は矩形平板状に形成されており、セパレータ3はシート状に形成されている。セパレータ3は正極1及び負極2の間に介装されている。正極1、セパレータ3及び負極2は、重ねられ、電池容器51の底面に対して縦に配置されている。
【0020】
負極2と電池容器51の内側壁との間には、波板状の金属からなるバネ41が配されている。バネ41は、アルミニウム合金からなり非可撓性を有する平板状の押え板42を付勢して負極2をセパレータ3及び正極1側へ押圧させる。正極1は、バネ41の反作用により、バネ41とは逆側の内側壁からセパレータ3及び負極2側へ押圧される。バネ41は、金属製のスプリング等に限定されず、例えばゴム等の弾性体であってもよい。充放電により正極1又は負極2が膨脹又は収縮した場合は、バネ41の伸縮によって正極1又は負極2の体積変化が吸収される。
【0021】
負極2は、アルミニウムからなる矩形板状の負極集電体21上に、錫等の負極活物質を含む負極材22をメッキによって形成してある。負極活物質は錫に限定されず、例えば、錫を金属ナトリウム、炭素、珪素又はインジウムに置き換えてもよい。負極集電体21上に負極材22をメッキする際には、ジンケート処理として下地に亜鉛をメッキした後に錫メッキを施すようにしてある。負極材22は、例えば負極活物質の粉末に結着剤を含ませて負極集電体21上に塗布することによって形成してもよい。セパレータ3は、ケイ酸ガラス又は樹脂等の絶縁性の材料で、内部に電解質を保持でき、またナトリウムイオンが通過できるような形状に形成されている。セパレータ3は、例えばガラスクロス又は多孔質の形状に形成された樹脂である。
【0022】
セパレータ3には、電解質である溶融塩を含浸させてある。本実施の形態では、電解質としてFSA(ビスフルオロスルフォニルアミド)又はTFSA(ビストリフルオロメチルスルフォニルアミド)系アニオンと、ナトリウム及び/又はカリウムのカチオンとからなる溶融塩を用いる。なお、FSAはFSI(ビスフルオロスルフォニルイミド)と呼ばれることもあり、またTFSAはTFSI(ビストリフルオロメチルスルフォニルイミド)と呼ばれることもある。溶融塩が溶融する温度範囲では、溶融塩は、正極1等からのナトリウムイオンが含まれる電解液となる。即ち、本発明の溶融塩電池は、ナトリウムイオンを含む溶融塩を電解液として用いる溶融塩電池である。
【0023】
正極1は、アルミニウムからなる矩形板状の正極集電体11上に、正極活物質であるNaCrO2 材とバインダとを含む正極材12を塗布して形成してある。なお、正極集電体11は、アルミニウムに限定されず、例えばステンレス鋼又はニッケルであってもよい。正極材12には、正極活物質としてNaCrO2 材が含まれる。NaCrO2 材は、NaCrO2 の微結晶又は多結晶である一次粒子が集合した顆粒状の二次粒子からなる。
【0024】
図2は、NaCrO2 の二次粒子の模式的断面図である。図2Aは、本発明におけるNaCrO2 の二次粒子を示す。多数の一次粒子が集合して二次粒子を形成している。一次粒子は、NaCrO2 を成分としており、水等の除去しきれない不純物を含む可能性がある。図2A中には、二次粒子の外形を破線で示している。本発明におけるNaCrO2 材の二次粒子は、一次粒子が集合した顆粒の形態となっており、内部に空隙を含む。二次粒子内の一次粒子は互いに接触し、接触点で結合している。二次粒子におけるNaCrO2 の充填率は100%よりも低い。充填率は、二次粒子の体積中でNaCrO2 の一次粒子が占める割合である。具体的には、充填率は下記の式で算出される。
充填率=(平均一次粒子体積×平均一次粒子個数)/平均二次粒子体積
【0025】
平均一次粒子体積及び平均二次粒子体積は、一次粒子及び二次粒子の体積の平均であり、平均一次粒子個数は、二次粒子中に含まれる一次粒子の個数の平均である。平均二次粒子体積及び平均一次粒子個数は顕微鏡画像の観察により計測される。平均一次粒子体積は、一次粒子の平均粒径より算出される。ここで、平均粒径は、d50(50%累積粒度径)とする。d50は、粒度分布において累積度数が50%になる粒径を示す。一次粒子の平均粒径は、光散乱式の粒度分布計で測定される。本実施の形態においては、動的光散乱式の粒度分布計(具体的には日機装株式会社製 nanotrac UPA−EX150)を用いて一次粒子及び二次粒子の粒径を測定した。
【0026】
二次粒子の体積中で一次粒子以外の部分は、空隙となっている。各一次粒子の直径は、有効数字1桁で0.1μm以下となっている。後述するように、二次粒子の充填率は、40%以上80%以下である。図2Bは、焼成により生成した従来の二次粒子を示す。従来の一次粒子の粒径は0.2〜0.4μm程度である。従来の二次粒子の内部は一次粒子でほぼ充填されており、充填率は100%に近い。図2Aに示すように、本発明におけるNaCrO2 の一次粒子は従来に比べて直径が小さく、二次粒子は従来に比べて内部に空隙が多く、充填率は低い。本発明におけるNaCrO2 材は、図2Aに示す如き二次粒子を多数含んでなる。正極材12は、図2Aに示す如き二次粒子を多数含んだNaCrO2 材をバインダで固めた構成となっている。
【0027】
本発明では、水酸化クロム(III)(Cr(OH)3 )と水酸化ナトリウム(NaOH)とを原料として、スプレードライ法により本発明のNaCrO2 材を作成する。本発明では、下記の化学反応式に従った化学反応によりNaCrO2 を作成する。
Cr(OH)3 +NaOH→NaCrO2 +2H2
【0028】
図3は、スプレードライ法によりNaCrO2 材を製造する装置の模式的断面図である。図中61は乾燥室であり、乾燥室61には、乾燥室61内へ液体を噴霧するノズル62及び63が設けられている。乾燥室61は、内部に温風を吹き込む等の方法により、内部の雰囲気を乾燥した一定温度の雰囲気に保つようになっており、噴霧された液体を乾燥させる。ノズル62には、Cr(OH)3 水溶液が入った容器が連結されている。Cr(OH)3 水溶液には、Cr(OH)3 を水に溶解させるための酸又はアルカリを添加しておいてもよい。またCr(OH)3 水溶液はコロイド溶液であってもよい。ノズル63には、NaOH水溶液が入った容器が連結している。
【0029】
乾燥室61内の同一空間に対して、ノズル62はCr(OH)3 水溶液を噴霧し、ノズル63はNaOH水溶液を噴霧する。同一空間内に噴霧されたCr(OH)3 水溶液とNaOH水溶液とは、乾燥室61内で霧状になって混合し、混合した霧状の水溶液中で前述の化学反応によりCr(OH)3 とNaOHとが反応し、NaCrO2 が生成する。このときの化学反応を順調に行わせるために、霧状の水溶液中でCr(OH)3 の物質量(モル)よりもNaOHの物質量(モル)が多くなるように、Cr(OH)3 水溶液及びNaOH水溶液のモル濃度並びにノズル62及び63での噴霧量が調整される。例えば、Cr(OH)3 水溶液のモル濃度よりもNaOH水溶液のモル濃度を高くしておき、Cr(OH)3 水溶液及びNaOH水溶液の噴霧量をほぼ同量に調整する。霧状の水溶液が乾燥室61内で乾燥されることにより、水溶液中で生成したNaCrO2 の一次粒子が析出する。更に、乾燥室61内での水溶液の乾燥が進行することにより、析出したNaCrO2 の一次粒子が互いに付着し、顆粒状の二次粒子が作成される。作成されたNaCrO2 の二次粒子は、乾燥室61内を落下し、回収される。回収したNaCrO2 の二次粒子を水洗することにより、二次粒子に残留したNaOHを除去する。NaOHを除去した二次粒子を再度乾燥させることにより、NaCrO2 を成分とした一次粒子が集合した二次粒子を多数含んだNaCrO2 材が得られる。
【0030】
作成したNaCrO2 材とバインダとを混合した正極材12を正極集電体11上に塗布することにより、正極1を製造する。正極1を製造した後は、正極1、セパレータ3、負極2、押え板42及びバネ41を電池容器51内に配置する。電池容器51内では、正極1の正極材12と負極2の負極材22とを向かい合わせにし、正極1と負極2との間にセパレータ3を介装する。また負極2の両面の内、セパレータ3が位置する側の面とは逆の面側にバネ41を配置し、負極2とバネ41との間に押え板42を配置する。電池容器51の内側は、正極1と負極2との短絡を防止するために、絶縁性の樹脂で被覆する等の方法により絶縁性の構造となっている。
【0031】
蓋部52の外側には、外部に接続するための正極端子53及び負極端子54が設けられている。正極端子53と負極端子54との間は絶縁されており、また蓋部52の電池容器51内に対向する部分も絶縁皮膜等によって絶縁されている。正極集電体11の一端部は、正極端子53にリード線で接続され、負極集電体21の一端部は、負極端子54にリード線で接続される。リード線は、蓋部52から絶縁してある。蓋部52は、絶縁性の接着剤を用いて電池容器51に接着する等の方法により、電池容器51から絶縁した状態で電池容器51に冠着される。以上のようにして、本実施の形態に係る溶融塩電池は製造される。
【0032】
溶融塩電池は、溶融塩が溶融する温度範囲で二次電池として機能する。本実施の形態においては、80℃以上の温度で、溶融塩は溶融して電解液となり、溶融塩電池は二次電池として動作する。放電時には、ナトリウムイオンが電解液中を負極2から正極1へ移動し、ナトリウムイオンは正極活物質に吸収される。
【0033】
図4は、NaCrO2 材を製造した実施例において、乾燥室61内の温度とNaCrO2 の一次粒子の平均粒径及びNaCrO2 の収率との関係を示す図表である。NaCrO2 の一次粒子の平均粒径は、前述の粒度分布計により測定した。乾燥室61内の温度を50℃にした場合は、NaCrO2 の一次粒子の平均粒径は0.5μmとなり、乾燥室61内の温度を60℃にした場合は、一次粒子の平均粒径は0.2μmとなった。どちらの場合も、NaCrO2 の一次粒子は肥大し、平均粒径は0.1μmを超過しており、本発明には不適である。乾燥室61内の温度を70℃にした場合は、NaCrO2 の一次粒子の平均粒径は0.09μmとなり、乾燥室61内の温度を80℃にした場合は、一次粒子の平均粒径は0.08μmとなった。このように、NaCrO2 の一次粒子の平均粒径を0.1μm以下とするためには、乾燥室61内の温度を70℃以上にすることが必要である。また、乾燥室61内の温度を70℃にした場合は、NaCrO2 の収率は97%となり、乾燥室61内の温度を80℃にした場合は、NaCrO2 の収率は40%となった。従って、NaCrO2 の収率の低下を抑制するためには、乾燥室61内の温度は70℃以上80℃未満であることがより望ましい。
【0034】
図5は、溶融塩電池を作成した実施例において、放電容量を測定した結果を示す図表である。図5中には、従来の溶融塩電池の例と、本発明のNaCrO2 材を正極活物質とした溶融塩電池の13個の例とを示す。従来の溶融塩電池の例では、焼成によりNaCrO2 を作成した。本発明のNaCrO2 材を正極活物質とした溶融塩電池の13個の例は、夫々に、NaCrO2 材を製造する際のCr(OH)3 水溶液及びNaOH水溶液のモル濃度を異ならせたものである。放電容量は、0.5C、1C、2C及び4Cの4種類の放電レートについて測定した。1Cは1時間で放電が終了するような放電レートを示し、2Cは、1Cの倍の放電レート、即ち30分で放電が終了するような放電レートを示す。また、NaCrO2 材を製造する際には、粒径が20μmを超過する二次粒子を篩で除去した。
【0035】
No.10の例では、Cr(OH)3 水溶液及びNaOH水溶液のモル濃度を共に1モル/Lとすることによって、Cr(OH)3 とNaOHとの物質量を同一にした。この結果、NaOHが不足し、NaCrO2 を作成できなかった。他の例では、全てNaOHの物質量をCr(OH)3 よりも多くしてある。NaCrO2 を安定に作成するためには、NaOHの物質量をCr(OH)3 よりも多くすることが必要であることが明らかである。
【0036】
従来例では、本発明の例に比べて、一次粒子及び二次粒子の平均粒径が非常に大きい。このため、二次粒子内のNaCrO2 の充填率は90%と非常に高くなり、二次粒子の形状は空隙が少ない過密状態となっている。No.4及びNo.13の実施例でも、二次粒子の平均粒径が比較的大きく、充填率が高く、二次粒子の形状は過密状態となっている。またNo.1及びNo.5の実施例では、二次粒子の平均粒径が極端に小さく、充填率も10%台と極端に低く、二次粒子の形状は微紛の状態となっている。その他の実施例では、概ね、一次粒子の平均粒径は有効数字1桁で0.1μm以下、二次粒子の平均粒径は5μm以下、二次粒子内のNaCrO2 の充填率は40〜80%となっており、二次粒子の形状は顆粒状になっている。
【0037】
本発明の例では、従来例に比べて、放電容量が1.5倍以上となっている。NaCrO2 の一次粒子の平均粒径が、従来例で0.4μmであるのに対し、本発明の例では有効数字1桁で0.1μm以下であるので、本発明では、一次粒子の表面積が大きくなり、ナトリウムイオンが一次粒子内へ侵入し易くなったと考えられる。
【0038】
また従来例では、放電レートが上昇するに従って、放電容量が大幅に減少する。同様に、NaCrO2 の二次粒子の形状が過密状態となったNo.4及びNo.13の実施例でも、放電レートが上昇するに従って放電容量が大幅に減少し、放電レート4Cのときには0.5Cのときに比べて放電容量は半分程度となった。NaCrO2 の二次粒子の形状が過密状態である場合は、ナトリウムイオンが二次粒子の表面から侵入して内部へ拡散する抵抗が大きく、二次粒子が短時間でナトリウムイオンを吸収することが困難であるので、特に高い放電レートで放電容量が低下する。これに対し、NaCrO2 の二次粒子の形状が顆粒状である実施例では、放電容量が大きく、高い放電レートでも放電容量の低下は小さい。NaCrO2 の二次粒子の形状が顆粒状であるので、ナトリウムイオンは二次粒子内の空隙を通って二次粒子内に素早く拡散し、一次粒子内へ進入する。このため、ナトリウムイオンがNaCrO2 の二次粒子の内部へ拡散する抵抗が小さく、高い放電レートでも放電容量の低下が抑制されると考えられる。
【0039】
NaCrO2 の二次粒子の形状が微紛の状態となったNo.1及びNo.5の実施例では、従来例に比べて放電容量が大きい。しかし、充放電を繰り返す内、微紛状態のNaCrO2 が正極1から脱落し、溶融電池内で短絡が発生した。正極1からのNaCrO2 の脱落を防止し、溶融塩電池の動作を安定化するためには、NaCrO2 の二次粒子の平均粒径は1μm以上であることが望ましい。また、本発明の例では、NaCrO2 の二次粒子の充填率が40〜80%の場合に二次粒子の形状が顆粒状になる。二次粒子の充填率が40%より小さい場合は、一次粒子が集合した顆粒状の二次粒子が形成され難く、二次粒子からなるNaCrO2 材が生成されずにNaCrO2 は粉末状になる。また二次粒子の充填率が80%より大きい場合は、二次粒子内の空隙が少なくなり、二次粒子内は過密状態になる。従って、二次粒子内のNaCrO2 の充填率は40〜80%であるのが望ましい。
【0040】
以上詳述した如く、本実施の形態においては、スプレードライ法により、平均粒径0.1μm以下のNaCrO2 の一次粒子が集合した充填率80%以下の顆粒状の二次粒子からなるNaCrO2 材を製造する。また、溶融塩電池は、製造したNaCrO2 材を正極活物質とした正極1を備える。溶融塩電池の充電時、正極1へ達したナトリウムイオンは顆粒状の二次粒子内を空隙を通って素早く拡散するので、拡散の抵抗が小さくなる。従って、溶融塩電池の放電容量が向上し、更に、高い放電レートでも放電容量の低下が抑制される。この結果、高い放電レートでの放電容量が従来よりも向上する。またNaCrO2 の一次粒子の平均粒径が0.1μm以下と小さいので、一次粒子の表面積が大きくなり、ナトリウムイオンが一次粒子内へ侵入し易くなった結果、溶融塩電池の放電容量がより向上する。
【0041】
なお、本実施の形態においては、スプレードライ法によりNaCrO2 材を製造する際、Cr(OH)3 水溶液とNaOH水溶液とを個別に噴霧する形態を示したが、本発明のNaCrO2 材の製造方法は、これに限るものではない。本発明では、Cr(OH)3 及びNaOHの両方を溶解させた水溶液を噴霧することによってスプレードライ法を実行してもよい。このとき、Cr(OH)3 とNaOHとが反応する前の水溶液を噴霧してもよく、Cr(OH)3 とNaOHとが反応してNaCrO2 が生成した水溶液を攪拌した上で噴霧してもよい。どちらの場合でも、噴霧により、NaCrO2 が含まれる霧状の水溶液が生成され、霧状の水溶液の乾燥により、顆粒状の二次粒子からなるNaCrO2 材が製造される。このとき、水溶液中でCr(OH)3 のモル濃度よりもNaOHのモル濃度を高くしておき、NaCrO2 の二次粒子を水洗することにより残留したNaOHを除去する。
【0042】
また、溶融塩電池の形状は直方体の形状に限るものではなく、その他の形状であってもよい。例えば、負極2の形状を円柱状にし、負極2の周囲に円筒状のセパレータ3及び正極1を備えることにより、溶融塩電池の形状を円柱状にしてもよい。また、本実施の形態においては、電解質としてFSA又はTFSA系アニオンとナトリウム及び/又はカリウムのカチオンとからなる溶融塩を用い、80℃以上の温度で動作する溶融塩電池の例を示したが、本発明の溶融塩電池は、電解質としてその他の溶融塩を用いた形態であってもよい。電解質としてその他の溶融塩を用いた溶融塩電池は、溶融塩が溶融する温度以上で動作する。
【符号の説明】
【0043】
1 正極
12 正極材
2 負極
3 セパレータ
41 バネ
51 電池容器
52 蓋部
61 乾燥室
62、63 ノズル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
NaCrO2 を成分とする一次粒子が集合した二次粒子からなるNaCrO2 材において、
前記二次粒子は顆粒状をなし、
前記二次粒子内のNaCrO2 の充填率は80%以下であること
を特徴とするNaCrO2 材。
【請求項2】
前記一次粒子の平均粒径は、0.1μm以下であること
を特徴とする請求項1に記載のNaCrO2 材。
【請求項3】
溶融塩を電解質として用いた溶融塩電池において、
請求項1又は2に記載のNaCrO2 材を主材料とした正極を備えることを特徴とする溶融塩電池。
【請求項4】
NaCrO2 を成分とする一次粒子が集合した二次粒子からなるNaCrO2 材を製造する方法において、
Cr(OH)3 の水溶液及びNaOHの水溶液を、噴霧後に混合されるように夫々噴霧することにより、Cr(OH)3 の水溶液及びNaOHの水溶液が混合した霧状の水溶液中でCr(OH)3 及びNaOHを反応させてNaCrO2 を生成させ、
前記水溶液を乾燥させることにより、NaCrO2 からなる一次粒子が顆粒状に集合した二次粒子を作成すること
を特徴とするNaCrO2 材の製造方法。
【請求項5】
NaCrO2 を成分とする一次粒子が集合した二次粒子からなるNaCrO2 材を製造する方法において、
Cr(OH)3 及びNaOHを溶解した水溶液を噴霧することにより、Cr(OH)3 及びNaOHが反応して生成したNaCrO2 を含む霧状の水溶液を生成し、
前記水溶液を乾燥させることにより、NaCrO2 からなる一次粒子が顆粒状に集合した二次粒子を作成すること
を特徴とするNaCrO2 材の製造方法。
【請求項6】
前記Cr(OH)3 の水溶液のモル濃度よりも前記NaOHの水溶液のモル濃度を高くしておき、
前記二次粒子を水洗することにより、残留したNaOHを除去すること
を特徴とする請求項4に記載のNaCrO2 材の製造方法。
【請求項7】
前記Cr(OH)3 及びNaOHを溶解した水溶液中でCr(OH)3 のモル濃度よりもNaOHのモル濃度を高くしておき、
前記二次粒子を水洗することにより、残留したNaOHを除去すること
を特徴とする請求項5に記載のNaCrO2 材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−41237(P2012−41237A)
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−185401(P2010−185401)
【出願日】平成22年8月20日(2010.8.20)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】