説明

Nb3Sn超電導線及びその製造方法

【課題】交流損失が低く、低コストで、長尺のNb3Sn超電導線及びその製造方法を提供するものである。
【解決手段】本発明に係るNb3Sn超電導線は、ブロンズ法により作製され、Nb/ブロンズ1の周りにSn拡散防止用のNbバリア3を、さらにその外周に安定化銅部4を備えたNb3Sn超電導線であり、Nb/ブロンズ1とNbバリア3との間にCu層2を介在させたものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高磁界を発生するための超電導マグネットに用いられるNb3Sn超電導線及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
Nb3Sn超電導線は、9T以上の磁界を発生させるほとんど全ての超電導マグネットに使用されている代表的な超電導線材である。
【0003】
現在、量産されている代表的な製造方法として、ブロンズ法と内部拡散法の2つがあり、この2つの製法で全体の95%以上が占められる。
【0004】
このうちブロンズ法は、Nb(あるいはNb合金)コアとCu−Sn(ブロンズ)マトリックスを複合化したサブマルチ六角線を多数本集合させ、それらをCuパイプ(安定化銅)中に装填して極細多芯化し、この極細多芯線に熱処理を施してブロンズマトリックス中のSn原子をNbコアへ拡散させ、Nb3Snを生成させる製法である。得られたNb3Sn超電導線は、その外周部に安定化銅部を有する。ブロンズ法は、最終的なフィラメント径を均一なサブミクロンオーダーとすることも可能であり、交流損失(ヒステリシス損失)の低減に有効である。
【0005】
ここで、熱処理時にブロンズマトリックス中のSn原子が安定化銅部に拡散すると、安定化銅がSnで汚染されて極低温における電気抵抗が高くなり、安定性が低下するので、安定化銅とサブマルチ六角線の集合体との境界にNbバリアが配置される。
【0006】
【特許文献1】特開2004−342561号公報
【特許文献2】特開平8−190825号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前述した従来製法のブロンズ法により作製したNb3Sn超電導線(以下、従来のブロンズ法Nb3Sn超電導線という)では、以下に示す問題があった。
【0008】
Nb3Snの生成熱処理時に、ブロンズマトリックス中のSn原子とNbバリアが反応して、Nbバリアの内層側にNb3Snの層が生成される。このNb3Sn層は、線材の交流損失を増加させる大きな原因となるため、核融合等のパルス運転されるマグネット用線材においては、解決すべき問題である。
【0009】
六角線集合体と安定化銅との境界に配置されるNbバリアをTaバリアに置き換えることで、バリア部におけるNb3Snの層の生成を防止することができる。しかしながら、Taの原材料コストが高いこと、TaはNbと比較すると加工性が低く、断線の可能性が高くなることから、「性能」、「低コスト」、「長尺材(加工性)」の3つのバランスを考慮すると、Nbバリアの方が有利である。
【0010】
そこで本発明の目的は、交流損失が低く、低コストで、長尺のNb3Sn超電導線及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の目的を達成するために、請求項1の発明は、ブロンズ法により作製され、Nb/ブロンズの周りにSn拡散防止用のNbバリアを、さらにその外周に安定化銅部を備えたNb3Sn超電導線において、上記Nb/ブロンズと上記Nbバリアとの間にCu層を介在させたことを特徴とするNb3Sn超電導線である。
【0012】
請求項2の発明は、上記Cu層の層厚が2μm以上、10μm以下である請求項1記載のNb3Sn超電導線である。
【0013】
請求項3の発明は、ブロンズマトリックス中に多数本のNbコアが配置されたサブマルチ六角線を多数本集合させ、その六角線集合体を、内周面にNbシートが配置されたCuパイプ内に装填してマルチビレットを形成した後、最終線径まで加工し、その後、Nb3Sn生成熱処理を施すNb3Sn超電導線の製造方法において、上記Cuパイプの内周面にNbシートを配置した後、更にCuシートを配置し、そのCuパイプ内に上記六角線集合体を装填することを特徴とするNb3Sn超電導線の製造方法である。
【0014】
請求項4の発明は、上記Cuシートの厚さが、上記Nbシートのシート厚以下である請求項3記載のNb3Sn超電導線の製造方法である。
【0015】
請求項5の発明は、上記マルチビレットを形成した後、そのマルチビレットに加熱した状態で静水圧押出しを施し、その後、伸線加工と中間熱処理を繰り返して最終線径まで加工してマルチ線を形成し、そのマルチ線にNb3Sn生成熱処理を施す請求項3又は4記載のNb3Sn超電導線の製造方法である。
【発明の効果】
【0016】
本発明のNb3Sn超電導線は、従来のブロンズ法Nb3Sn超電導線とほぼ同じコストで製造可能であり、加えて性能面ではNbバリアの部分において発生していた交流損失を格段に低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下本発明の実施の形態を添付図面により説明する。
【0018】
本発明の好適一実施の形態に係るNb3Sn超電導線の横断面図を図1に示す。
【0019】
図1に示すNb3Sn超電導線は、ブロンズ法により作製され、Nb/ブロンズ1の周りにSn拡散防止用のNbバリア3を、さらにその外周に安定化銅部4を備えている。本実施の形態に係るNb3Sn超電導線の特徴は、Nb/ブロンズ1とNbバリア3との間に、薄いCu層2を介在させたことにある。
【0020】
この薄いCu層の層厚は2μm以上、10μm以下とされる。また、Cu層2の構成材としては、純銅が挙げられる。
【0021】
次に、本実施の形態に係るNb3Sn超電導線の製造方法を、図2に基づいて説明する。
【0022】
先ず、ブロンズマトリックス(ブロンズビレット)中に多数本のNbコア(Nb棒)が配置されたサブマルチ六角線11を多数本(例えば313本)集合させ、六角線集合体が作製される。
【0023】
次に、Cuパイプ14の内周面に、先ずNbシート13が配置され、そのNbシート13の上(表面)にCuシート12が配置される。Cuシート12の厚さは、Nbシート13のシート厚以下とされる。この内周面にシートが配置されたCuパイプ14内に六角線集合体を装填し、マルチビレット15が作製される。
【0024】
次に、マルチビレット15を加熱した状態で静水圧押出しを施し(処理A)、その後、伸線加工と中間熱処理を繰り返して最終線径まで加工し(処理B)、マルチ線が作製される。この時、マルチ線におけるCu層の層厚が2〜10μmとなるように、マルチ線の最終線径が調整される。
【0025】
最後に、このマルチ線にNb3Sn生成熱処理を施すことで(処理C)、Nb3Sn超電導線16が得られる。
【0026】
ここで、Cu層の層厚を規定した理由を以下に述べる。
【0027】
Nb3Snの生成熱処理条件は、600〜700℃×100〜200時間である。平均的な生成熱処理条件として650℃×150時間を考えた場合、Cu層2の厚さが2μm未満の場合、Cu層2を拡散して通過したSn原子がNbバリアと反応してNb3Snの層が生成し、無視できないほどの交流損失が発生して従来構造のNb3Sn超電導線(Cu層なし)との違いが無くなってしまう。
【0028】
逆に、Cu層2が10μm超の場合、Nb3Snの層の生成防止には効果があるものの、線材断面において、Cu層2の占積率が高くなり、結果的に非超電導部の面積が増加する(超電導部の面積が減少する)ことで、Nb3Sn超電導線の臨界電流が低下してしまう。加えて、Nb/ブロンズ1からCu層2へSn原子が過剰に拡散するため、Cu層2近傍のNbフィラメントと反応するSn原子が供給不足となり、Nb3Sn超電導線の一部のNb3Snフィラメントの電流密度が低下する。
【0029】
以上より、本実施の形態に係るNb3Sn超電導線は、Nb/ブロンズ1とNbバリア3との間に、Nbバリア厚さ以下、具体的には2〜10μmの厚さのCu層2を介在させることで、Nb3Snの生成熱処理時におけるNb/ブロンズ1からのSn拡散を防止でき、Nbバリア3の内層側におけるNb3Snの層の生成を抑制できる。特に、Nb3Snの生成熱処理は固相拡散反応であるため、このCu層2を介在させることで、Nb3Snの層の生成を大幅に抑制することができる。このNb3Snの層の生成抑制により、Nb3Sn超電導線のNbバリアの部分において発生していた交流損失を大幅(格段)に低減することができる。ここで、本実施の形態に係るNb3Sn超電導線の、磁界振幅±5Tのヒステリシス損失Qhと、B=12Tの臨界電流Icとの比(Qh/Ic)は6.50以下が好ましく、4.40〜6.00がより好ましい。この時の臨界電流Icは、102A以上が好ましい。
【0030】
また、本実施の形態に係るNb3Sn超電導線と、従来のブロンズ法Nb3Sn超電導線との構造上の違いはCu層の有無だけであり、製法上の違いはCuシートの配置の有無だけであることから、本実施の形態に係るNb3Sn超電導線は、従来のブロンズ法Nb3Sn超電導線とほぼ同じコストで製造可能である。
【実施例】
【0031】
Cu−14.5wt%Sn−0.3wt%Tiマトリックス中に19芯のNb−1wt%Taコアが配置され、断面の対辺距離が1.2mm、長さが150mmのサブマルチ六角線を作製し、このサブマルチ六角線を313本束ねたもの(六角線集合体)をCuパイプ内に装填し、マルチビレットを作製した。
【0032】
マルチビレットにおけるCuパイプ内面と六角線集合体との境界部の構造は、以下に示す4種類とした。
(Type−1);Cuパイプと六角線集合体との境界に、厚さ0.4mmのNbシートが配置されたもの(比較例1)。
(Type−2);厚さ0.4mmのNbシートの内側に、更に厚さ0.1mmのCuシートが配置されたもの(実施例1)。
(Type−3);厚さ0.4mmのNbシートの内側に、更に厚さ0.2mmのCuシートが配置されたもの(実施例2)。
(Type−4);厚さ0.4mmのNbシートの内側に、更に厚さ0.5mmのCuシートが配置されたもの(比較例2)。
【0033】
各マルチビレットを400℃に加熱して静水圧押出した後、伸線加工と中間熱処理を繰り返し、最終線径0.8mmまで加工した。これらの最終線径の線材(マルチ線)におけるNbバリアの平均厚さは約12μmであった。また、比較例1、実施例1,2、比較例2の各マルチビレットを用いたマルチ線におけるCu層厚さは、それぞれ0μm、3μm、6μm、12μmであった。
【0034】
4種類のφ0.8mmのマルチ線に、真空中、650℃×150時間の熱処理を施し、マルチ線内のブロンズマトリックス中のSn原子をNbコアへ拡散させることでNb3Snが生成され、Nb3Sn超電導線を作製した。
【0035】
比較例1,2及び実施例1,2のマルチビレットを用いて作製した各Nb3Sn超電導線の、磁界振幅±5Tのヒステリシス損失Qh(J/cc)、B=12Tの臨界電流Ic(A)、及びヒステリシス損失Qhと臨界電流Icとの比(Qh/Ic)を表1に示す。
【0036】
【表1】

【0037】
表1に示すように、臨界電流Icは、比較例1のマルチビレットを用いて作製したNb3Sn超電導線が最も高いが、ヒステリシス損失Qhも最も高かった。
【0038】
ここで、臨界電流Icとヒステリシス損失Qhのバランスを係数α(=Qh/Ic)で定義すると、αが小さいほど高性能ということになる。作製した4種類のNb3Sn超電導線の係数αは、それぞれ6.53、5.85、4.55、4.65であり、これらの中では実施例2のマルチビレットを用いて作製したNb3Sn超電導線が、最も臨界電流Icとヒステリシス損失Qhのバランスがとれており、高性能であった。比較例2のマルチビレットを用いて作製したNb3Sn超電導線も、臨界電流Icとヒステリシス損失Qhのバランスがとれているものの、Cu層厚さが12μmと規定範囲(2〜10μm)を超えているため、臨界電流Icが低かった。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明の好適一実施の形態に係るNb3Sn超電導線の横断面図である。
【図2】図1のNb3Sn超電導線の製造方法を説明するためのフロー図である。
【符号の説明】
【0040】
1 Nb/ブロンズ
2 Cu層
3 Nbバリア
4 安定化銅部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブロンズ法により作製され、Nb/ブロンズの周りにSn拡散防止用のNbバリアを、さらにその外周に安定化銅部を備えたNb3Sn超電導線において、上記Nb/ブロンズと上記Nbバリアとの間にCu層を介在させたことを特徴とするNb3Sn超電導線。
【請求項2】
上記Cu層の層厚が2μm以上、10μm以下である請求項1記載のNb3Sn超電導線。
【請求項3】
ブロンズマトリックス中に多数本のNbコアが配置されたサブマルチ六角線を多数本集合させ、その六角線集合体を、内周面にNbシートが配置されたCuパイプ内に装填してマルチビレットを形成した後、最終線径まで加工し、その後、Nb3Sn生成熱処理を施すNb3Sn超電導線の製造方法において、上記Cuパイプの内周面にNbシートを配置した後、更にCuシートを配置し、そのCuパイプ内に上記六角線集合体を装填することを特徴とするNb3Sn超電導線の製造方法。
【請求項4】
上記Cuシートの厚さが、上記Nbシートのシート厚以下である請求項3記載のNb3Sn超電導線の製造方法。
【請求項5】
上記マルチビレットを形成した後、そのマルチビレットに加熱した状態で静水圧押出しを施し、その後、伸線加工と中間熱処理を繰り返して最終線径まで加工してマルチ線を形成し、そのマルチ線にNb3Sn生成熱処理を施す請求項3又は4記載のNb3Sn超電導線の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−305311(P2007−305311A)
【公開日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−129498(P2006−129498)
【出願日】平成18年5月8日(2006.5.8)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【Fターム(参考)】