説明

Nb3Sn超電導線材およびその製造方法

【課題】高Sn濃度のブロンズを用いても、Nbフィラメント径に比べて大きなδ相の発生を抑制し、高い磁場での実用レベルの超電導特性を発揮するブロンズ法NbSn超電導線材、およびこうした超電導線材を製造するための有用な方法を提供する。
【解決手段】超電導線材の製造方法は、Cu−Sn基合金製母材2に複数のNbまたはNb基合金芯1を埋設した前駆体5を用いて、ブロンズ法NbSn超電導線材を製造するに当り、前記Cu−Sn基合金製母材2は、15.6超〜19質量%のSnを含有するものを用いると共に、第一段階で650〜797℃の範囲の温度T1で保持し、最終段階で500〜670℃の範囲の温度T2(但し、T1>T2)で保持する複数段階の溶体化処理を行うものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブロンズ法によって製造されるNbSn超電導線材およびその製造方法に関するものであり、特に高分解能核磁気共鳴(NMR)分析装置のマグネットに代表される液体ヘリウム浸漬冷却型の超電導マグネットや冷凍機冷却型の超電導マグネット等に適用される構成素材として有用なNbSn超電導線材およびこうした超電導線材を製造するための方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
超電導線材を巻回したコイルに大電流を流し強磁場を発生させる超電導マグネットは、核磁気共鳴(NMR)分析装置や各種物性評価装置の他に、核融合装置等への応用を目指して、その開発が進められている。このうち、NMR分析装置は、結晶化できない生体高分子やタンパク質の分子構造を解析できる唯一の装置であり、ポストゲノム開発を推進するための強力なツールである。またこの装置では、超電導マグネットが発生する磁場が高ければ高い程、分析の分解能が向上しNMR信号とノイズの比が高くなって、より短時間での分析が可能となる。そして、上記のような超電導マグネットの構成素材としては、従来からNbSn超電導線材が代表的なものとして汎用されている。
【0003】
上記のようなNbSn超電導線材を製造する方法としては、これまでも様々なものが知られているが、最も代表的な方法としては、ブロンズ法が知られている。
【0004】
図1は、ブロンズ法によって製造されるNbSn超電導線材の断面構造を模式的に示した説明図であり、図中1はNbまたはNb合金芯、2は線状のCu−Sn基合金製母材(ブロンズマトリックス)、3は拡散バリヤー層、4は安定化銅、5は一次スタック材(NbSn超電導線材製造用前駆体)、6は外層ケース、7は二次多芯ビレットを夫々示す。
【0005】
まず図1に示すように、六角断面に成形したCu−Sn基合金製母材2に複数(この図では7)のNbまたはNb合金芯1を埋設して一次スタック材5(NbSn超電導線材製造用前駆体)を構成し、この一次スタック材5を複数束ねて、拡散バリアー層3としてのNbシートやTaシートを巻いたパイプ状のCu−Sn合金(外層ケース6)内に挿入し、或は束ねた一次スタック材に直接NbシートやTaシートを巻き付け、更にその外側に安定化銅4を配置して二次多芯ビレット7を組み立てる。尚、前記拡散バリヤー層3は、NbSn生成のための熱処理時にSnの外方への拡散を抑制する機能を発揮するものである。また安定化銅4は、NbSn超電導線材の安定化材として配置されるものであり、例えば無酸素銅からなるものである。
【0006】
図1に示した二次多芯ビレットを、静水圧押出しし、続いて引き抜き加工等により減面加工を施してNbSn超電導線材製造用多芯型前駆体とする。その後、680〜750℃程度の温度で100時間ほどの熱処理(拡散熱処理)をすることにより、NbまたはNb合金芯1の表面近傍(この場合には、Cu−Sn合金製母材2とNbまたはNb合金芯1の界面)にNbSn相を形成させるものである。
【0007】
尚上記構成では、二次多芯ビレット7における安定化銅4は、最外層として設けたものを示したけれども、安定化銅4の位置は、二次多芯ビレット7の中心部(軸芯部)に設ける構成も採用される。また、図1に示したものは、二次多芯ビレット7の断面形状は円形のものを示したが、例えば図2に示すような断面矩形状のもの(平角線材)も採用される。
【0008】
ところで、ブロンズ法でNbSn超電導線材を作製する場合、ブロンズマトリックス中のSn濃度が高いほど高磁場中の臨界電流密度Jcが向上し、より高い磁場を発生させる超電導マグネットの実現に有利となる。しかしながら、Cu−Sn基合金のα相中のSn固溶限界は15.8質量%であり、これを超えてSnを含有させる場合には、Cu−Snの金属間化合物(代表的なものとして「δ相」)が生成する。
【0009】
Cu−Sn基合金のインゴットは、溶解鋳造直後の組織では、Cu−Snの金属間化合物が残っているので、一般的には650〜790℃程度の温度で100時間以上保持して組織を均質化するための溶体化処理が行なわれる。この溶体化処理によって、Sn濃度が固溶限界以下の場合には、理論上はCu−Sn化合物は消失することになる。しかしながら、Sn濃度が固溶限界を超えている場合には、上記のような溶体化処理を施してもCu−Sn化合物は消失しないことになる。
【0010】
しかも、上記固溶限界値は520〜586℃の高温での値であって、実際のブロンズインゴットの製造段階では、冷却の関係から15.6質量%程度が固溶限界となり、Cu−Sn化合物が消失しない可能性が高くなる。
【0011】
そして、上記のようなδ相はα相よりも硬く延性が乏しいため、減面加工中に線材割れの原因となる。またNbSnの上部臨界電流値を高めるために、Cu−Sn基合金母材中にTi等の第三元素を添加することも知られているが、その場合でもSnの固溶限界はほとんど変化しない。
【0012】
Sn濃度を比較的多くすると共に、所定量のTiを含有することによって、高温における押し出し比を大きくできる技術も提案されている(例えば、特許文献1)。しかしながら、この技術においては、δ相への認識はされておらず、実施例においても上記固溶限界までのSnしか含有されていないものである。現実には、固溶限界以上のSnを含有したCu−Sn基合金には加工性の乏しいδ相が析出し、線材加工性に悪影響を及ぼすことになる。
【0013】
また、高磁場中での超電導特性(特に、臨界電流密度)を向上させることを目的として、TiやZr等の第三元素を含有することも行なわれているが、含有量が少な過ぎると臨界電流密度が向上せず、含有量が多過ぎるとNbフィラメント(減面加工された後のNbまたはNb基合金芯)と同等サイズのCu−Sn−Ti化合物やCu−Sn−Zr化合物が生成して、Nbフィラメントの健全な加工を阻害し、NMR分析装置のマグネットに用いる線材として必要な超電導特性(臨界電流密度Jcとn値)を満足することは難しい。尚、n値とは、超電導状態から常電導状態への転移の鋭さを示す量であり、大きな方が特性的に優れていると言われているものである。
【0014】
上記のような課題が存在するために、これまで20T(テスラ)以上という非常に高い磁場で、4.2Kの液体ヘリウム温度で実用レベルの超電導特性を有するブロンズ法NbSn超電導線材は実現されていないのが実情である。
【特許文献1】特許第1515094号公報 特許請求の範囲等
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は、こうした状況の下でなされたものであって、その目的は、高Sn濃度のブロンズを用いても、Nbフィラメント径に比べて大きなδ相の発生を抑制し、高い磁場での実用レベルの超電導特性を発揮するブロンズ法NbSn超電導線材、およびこうした超電導線材を製造するための有用な方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記目的を達成することのできた本発明のブロンズ法NbSn超電導線材の製造方法とは、Cu−Sn基合金製母材に複数のNbまたはNb基合金芯を埋設した前駆体を用いて、ブロンズ法NbSn超電導線材を製造するに当り、
前記Cu−Sn基合金製母材は、15.6超〜19質量%のSnを含有するものを用いると共に、第一段階で650〜797℃の範囲の温度T1で保持し、最終段階で500〜670℃の範囲の温度T2(但し、T1>T2)で保持する複数段階の溶体化処理を行う点に要旨を有するものである。
【0017】
上記方法において、溶体化処理のより具体的な条件として、下記(1)または(2)の条件が挙げられる。
【0018】
(1)第一段階で650〜797℃の範囲の温度T1で保持し、次いで500〜670℃の範囲の温度T3(但し、T1>T3)で保持する二段階の溶体化処理を行う、
(2)650〜797℃の範囲の温度T1から500〜670℃の範囲の温度T2に平均冷却速度0.2〜3.0℃/時で冷却しながら溶体化処理を行なう。
【0019】
またこの方法において、前記Cu−Sn基合金製母材とNbまたはNb基合金の界面にNbSn相を形成する熱処理を行なうに際して、600〜670℃で50〜200時間の熱処理を行なった後、680〜750℃で50〜150時間の二段階の熱処理を行なうことが好ましい。
【0020】
一方、上記目的を達成し得た本発明のブロンズ法NbSn超電導線材とは、Cu−Sn基合金製母材に複数のNbまたはNb基合金芯を埋設した前駆体を用いて製造されるブロンズ法NbSn超電導線材であって、
前記Cu−Sn基合金製母材は、15.6超〜19質量%のSnを含有すると共に、Cu−Sn化合物を含まず、且つNbまたはNb基合金芯の熱処理前の最終平均径Df以上の大きさを有するCu−Sn−M化合物(但し、Mは、Ti,Zr,HfおよびTaよりなる群から選ばれる1種以上の元素)を含まないものである点に要旨を有するものである。
【0021】
このブロンズ法NbSn超電導線材においては、前記Cu−Sn基合金製母材は、第一段階で650〜797℃の範囲の温度T1で保持し、最終段階で500〜670℃の範囲の温度T2(但し、T1>T2)で保持する複数段階の溶体化処理を行ったものであることが好ましい。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、溶体化処理条件を適切に制御することによって、固溶限界を超える高いSn濃度を有しながらδ相の生成を抑制したブロンズ合金をマトリックスとするNbSn超電導線材を製造することが可能となり、性能的に従来よりも高い磁場で必要とされる超電導特性が得られるようになった。これにより、これまでに存在しない、例えば960MHz以上のNMRマグネットなどを実現することが可能となり、生体高分子やタンパク質の分子構造の詳細な解析が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
本発明者らが、上記課題を解決するために様々な角度から検討した。その結果、溶体化処理を複数段階で行うように適切に制御すれば、Cu−Sn基合金中のδ相そのものを消失することができることが判明したのである。こうしたCu−Sn基合金では、Sn含有量が固溶限界以上であっても、加工性が良好なものとなり、最終製品としての超電導線材の臨界電流密度やn値を向上できるものとなる。
【0024】
本発明では、まず第一段階で650℃〜797℃の範囲の温度T1で保持することによって、溶体化前のインゴットに残存しているCu−Sn化合物をより短時間で分解し、最終段階で500〜670℃の範囲の温度(この温度範囲は、Snの固溶限界が比較的高い温度領域)に保持することによって、Cu−Sn金属間化合物の析出を無くすものである。但し、前記温度T1とT2は、Cu−Sn化合物を先に分解してSnを拡散させるという観点から、T1>T2とする必要がある。
【0025】
こうした溶体化処理を二段階で行なう場合には、まず上記T1の温度で保持した後、引き続きT3(即ち、T3=T2)の温度で行なうことになるが、初段の温度T1は、650℃よりも低温であれば、Cu−Sn化合物の分塊に長時間が必要となるため現実的でなく、797℃よりも高温になれば液相が生じるために適切でない。また、二段目(若しくは最終段階)の温度T2が500℃よりも低温であればSnの拡散に必要な時間が長過ぎて現実的でなく、670℃よりも高温になれば、Snの固溶限界が低くなって、Cu−Sn化合物の析出が起こるので適切でない。
【0026】
本発明では、溶体化処理時の保持回数は二段階に限らず、三段階以上であってもよいが、こうした場合には最終段の温度が500〜670℃であり、保持温度が段階的に低下するのであれば、その効果は発揮されることになる。
【0027】
こうした二段階以上の溶体化処理をする場合の保持時間については、合計〈全体〉で50〜300時間程度とするのが好ましい、50時間未満となると均質化が不十分となり、300時間を超えると長すぎて実用的でなくなる。またこのうち、一段階目の溶体化時間をt1としたとき、前記全体の処理時間t2との関係(t1/t2)は、0.2〜0.6程度とすることが好ましい。この割合が0.2よりも低いと、溶解鋳造直後の残存しているCu−Sn化合物が容易に分解しないことになる。またこの割合が0.6よりも大きくなると、Cu−Sn化合物は分解しても、Snの拡散が遅くなって容易に均一化しなくなる。
【0028】
特に、二段階で溶体化処理する場合には、一段階目の保持時間t1と二段階目の保持時間t3との関係(t1/t3)は、0.25〜1.5の範囲とすることが好ましい。この割合が0.25よりも低いと、溶解鋳造直後に残存しているCu−Sn化合物が容易に分解しないことになる。またこの割合が1.5よりも大きくなると、Cu−Sn化合物は分解しても、Snの拡散が遅くなって容易に均質化しなくなる。
【0029】
上記のような二段階の溶体化処理する替わりに、650℃〜797℃の範囲の温度T1にした後、500〜670℃の範囲の温度まで0.2〜3.0℃/時の平均冷却速度で冷却することによっても溶体化処理を行なうことができる。こうした方法では、冷却中に溶体化処理が行なわれるので各保持時間t1、t3が短くなっても上記二段階以上による溶体化処理と同様の効果を得ることができる。このときの平均冷却速度が0.2℃/時よりも遅くなると、冷却に必要な時間が長くなりすぎて実用的でなく、3.0℃/時よりも速くなると、Cu−Sn化合物が残存して適切でない。
【0030】
Cu−Sn基合金においては、TiやZrを含有させることによって、超電導特性(特に、臨界電流密度)が改善されることになることは知られている。本発明者が検討したところによれば、HfやTa等も同等の効果を発揮することが判明した。従って、本発明のCu−Sn合金にはこれらの元素(Ti,Zr,HfおよびTaよりなる群から選ばれる1種以上)を含有させることも有用である。但し、これらの元素はNbフィラメントと同等サイズ以上のCu−Sn―M化合物(Mは、Ti,Zr,HfおよびTaより生る群から選ばれる1種以上の元素)を生成して健全な加工性を阻害する可能性があるので、その含有量を適切に制御する必要がある。
【0031】
本発明で用いるCu−Sn基合金において、上記のような複数段階の溶体化処理を行なった場合には、Cu−Sn−M化合物は細かく分散されやすいので、上記各元素を比較的多く含有させても、加工性を粗大することはない。こうした観点から、上記元素を含有させるときの含有量は、合計で0.3〜2.5質量%の範囲とすることが好ましい。即ち、その含有量が0.3質量%未満になると、超電導特性改善という効果が発揮されず、2.5質量%を超えると、複数段階の溶体化処理を行なっても粗大な化合物(Cu−Sn−M化合物)が生成してCu−Sn基合金の加工性を阻害し、最終製品としての超電導線材の特性を劣化させることになる。換言すれば、上記元素を適性量含んだCu−Sn基合金を用いて上記のような複数段階の溶体化処理を施せば、固溶限界以上(15.6超〜19.0質量%)にSnを含有させることができると共に、生成するCu−Sn−M化合物は少なくとも熱処理前のNbフィラメントの最終平均径Df(即ち、最終減面加工時におけるNbまたはNb合金芯の径)以上の大きさを有するものが存在せず、最終平均径Dfよりも小さいものだけとなる。
【0032】
上記のように溶体化処理したCu−Sn基合金を用いて前駆体(NbSn超電導線材製造用多芯型前駆体)を構成し、その前駆体に対して熱処理することによってNbSn相を形成することになる。このときの熱処理条件は680〜750℃で100時間程度が通常であるが、(600〜670℃×50〜100時間)+(680〜750℃×50〜150時間)の二段階の熱処理を行なうことも有用であり、これによって臨界電流密度やn値を更に高くすることが可能である。
【実施例】
【0033】
以下、本発明を実施例によって更に詳細に説明するが、下記実施例は本発明を限定する性質のものではなく、前・後記の趣旨に徴して設計変更することはいずれも本発明の技術的範囲に含まれるものである。
【0034】
比較例1
Cu−16質量%Sn−0.5質量%Tiの組成のCu−Sn基合金を溶解鋳造し、大気中において680℃×200時間の条件で溶体化処理を行なった。尚、Cu−Sn基合金の組成は、誘導結合プラズマ分光法(ICP)により確認した。得られたCu―Sn0基合金の電子顕微鏡とX線マイクロアナリシスによるミクロ観察分析では、50μm以上の大きさのCu−Sn化合物(δ相)が残存していることが確認された。光学顕微鏡で観察したインゴットのミクロ組織を図3(図面代用写真)に示す。
【0035】
このCu−Sn基合金と純Nbを用い、ブロンズ比(NbまたはNb基合金芯に対するCu−Sn基合金の比)が2.2の一次スタック材(図1、2参照)を製作した。この一次スタック材を約4000本束ねたものに直接Nbシート(前記拡散バリヤー層3)を巻き付け、無酸素銅パイプの中に挿入して二次多芯ビレットを組み立てた。この二次多芯ビレットを静水圧押出しし、その後抽伸加工と中間焼鈍を繰り返して減面加工を行ない、最後に矩形のダイスを用いた引き抜き加工により、前記図2に示したような断面構造を有する平角線材(NbSn超電導線材製造用多芯型前駆体)を製作した。この線材の断面サイズは、1.40×2.30mm(Nbフィラメントの平均径Df=6.0μm)である。最終条長が合わせて2500mの線材に加工する途中で、合計5回の断線が生じた。断線部分を電子顕微鏡で観察すると、Cu−Sn化合物(δ相)が起点となっていることが確認された。尚、多芯型前駆体でのブロンズ比BzとNbフィラメントの平均径については、電子顕微鏡写真を用いて確認した。
【0036】
電子顕微鏡によるブロンズ比BzとNbフィラメントの平均径Dfの確認については、下記のようにして行なった。まずブロンズ比Bzについては、一次スタック材が少なくとも19個以上の領域において、電子顕微鏡写真を画像処理し、Cu−Sn基合金とNbフィラメントに分けてその面積比を求めた。Nbフィラメントの平均径Dfについては、一次スタック材が少なくとも19個以上の領域において、電子顕微鏡写真の各Nbフィラメント断面の最長径を加算して、加算したNbフィラメントの数で割って求めた。
【0037】
誘導結合プラズマ分光法(ICP)による線材のCu−Sn基合金の組成は、下記のようにして求めた。まず、線材を数10mm長さに切断し、安定化銅部分を硝酸で除去した後に、塩酸と硝酸と水の混合溶液に線材サンプルを入れて200〜300℃に加熱し、Nbを残してCu−Sn基合金部分を全て溶かし、更に硫酸を加えて加熱することにより、溶け残った酸化物も溶かしてサンプル溶液を作った。このサンプル溶液をプラズマ発光させ、分光スペクトルにより溶液中の組成を求めた。
【0038】
電子顕微鏡とX線マイクロアナリシスによるCu−Sn−Ti等の観察は、電子顕微鏡で線材断面の反射電子像(組成が異なると明暗のコントラストがつく)を観察しながら、Cu−Sn基合金やNb芯とは異なる析出物が見られた部分に10〜30keVに加速した電子線を照射して、放出された特性X線のスペクトルから、Cu−Sn−Ti等の組成を求めた。
【0039】
比較例2
Cu−16質量%Sn−2.0質量%の組成のCu−Sn基合金を溶解鋳造し、大気中において680℃×200時間の条件で溶体化処理を行なった。尚、Cu−Sn基合金の組成は、誘導結合プラズマ分光法(ICP)により確認した。電子顕微鏡によるミクロ観察分析では、50μmレベルのCu−Sn化合物(δ相)が残っていることが確認された。
【0040】
このCu−Sn基合金と純Nbを用い、ブロンズ比が2.2の一次スタック材(図1、2参照)を製作した。この一次スタック材を約4000本束ねたものに直接Nbシートを巻き付け、無酸素銅パイプの中に挿入して二次多芯ビレットを組み立てた。この二次多芯ビレットを静水圧押出しし、その後抽伸加工と中間焼鈍を繰り返して減面加工を行ない、最後に矩形のダイスを用いた引き抜き加工により、前記図2に示したような断面構造を有する平角線材(NbSn超電導線材製造用多芯型前駆体)を製作した。この線材の断面サイズは、1.40×2.30mm(Nbフィラメントの平均径Df=6.0μm)である。
【0041】
このとき、断線が2回も生じた。電子顕微鏡とX線マイクロアナリシスによって断面をミクロ観察分析したところ、Nbフィラメントの平均径Dfの6.0μm以上のCu−Sn−Ti化合物の存在が認められ、或る部分はNbフィラメントを歪めるようにして析出していることが判明した。
【0042】
製作した多芯型前駆体を720℃×100時間で熱処理した後、温度4.2K、外部磁場20T中で非銅部の臨界電流密度nonCu-Jc(=臨界電流/安定化銅を除いた部分の断面積)とn値(発生電圧と通電電流の対数プロットの傾き)を評価したところ、nonCu-Jc=135A/mmと高磁場NMR用線材として使用可能と考えられる基準の130A/mmを超える値が得られていたが、n値は17となっており使用可能と考えられる30以上という基準を下回っていた。尚、多芯型前駆体でのブロンズ比BzとNbフィラメントの平均径については、電子顕微鏡写真を用いて確認した。
【0043】
実施例1
Cu−16.0質量%Sn−0.5質量%Tiの組成のCu−Sn基合金を溶解鋳造し、二段階の降温パターン(680℃×100時間+600℃×100時間)で均質化のための溶体化処理を行なった。Cu−Sn基合金の組成は、誘導結合プラズマ分光法(ICP)により確認した。電子顕微鏡によるミクロ観察では、Cu−Sn化合物(δ相)が消失していることが確認された。またCu−Sn−Ti化合物は認められるが、夫々6μm以下に細かく分散していた。光学顕微鏡で観察したインゴットのミクロ組織を図4(図面代用写真)に示す。
【0044】
このCu−Sn基合金と純Nbを用い、ブロンズ比が2.2の一次スタック材(図1、2参照)を製作した。この一次スタック材を約4000本束ねたものに直接Nbシートを巻き付け、無酸素銅パイプの中に挿入して二次多芯ビレットを組み立てた。この二次多芯ビレットを静水圧押出しし、その後抽伸加工と中間焼鈍を繰り返して減面加工を行ない、最後に矩形のダイスを用いた引き抜き加工により、前記図2に示したような断面構造を有する平角線材(NbSn超電導線材製造用多芯型前駆体)を製作した。この線材の断面サイズは、1.40×2.30mm(Nbフィラメントの平均径Df=6.0μm)である。このとき、断線は1回も生じなかった。
【0045】
電子顕微鏡とX線マイクロアナリシスによって断面をミクロ観察分析したところ、Nbフィラメントの平均径Dfの6.0μm以上のCu−Sn−Ti化合物の存在は認められず、2μm程度のCu−Sn−Ti化合物が見られた。
【0046】
製作した多芯型前駆体を720℃×100時間で熱処理した後、温度4.2K、外部磁場20T中で非銅部の臨界電流密度nonCu-Jcとn値を評価したところ、nonCu-Jc=148A/mmとn値=35という高い値が得られ、いずれも高磁場NMR用線材として使用可能と考えられる基準を満たしていた。尚、多芯型前駆体でのブロンズ比BzとNbフィラメントの平均径Dfについては、電子顕微鏡写真を用いて確認し、計算によって求めた。
【0047】
尚、上記Cu−Sn基合金において、Tiの替わりにZr,Hf,Taのいずれかを0.5質量%含有したものを用いても、またこれらの元素の2種以上を組み合わせて合計で0.5質量%となるように含有させても、上記実施例1と同様の効果が得られた。
【0048】
実施例2
Cu−16.0質量%Sn−0.5質量%Tiの組成のCu−Sn基合金を溶解鋳造し、温度を常時変化させながら降温するパターンで(680℃から600℃までの温度範囲を0.5℃/時の平均冷却速度)で降温し、均質化のための溶体化処理を行なった。Cu−Sn基合金の組成は、誘導結合プラズマ分光法(ICP)により確認した。電子顕微鏡によるミクロ観察では、Cu−Sn化合物(δ相)が消失していることが確認された。
【0049】
このCu−Sn基合金と純Nbを用い、ブロンズ比が2.2の一次スタック材(図1、2参照)を製作した。この一次スタック材を約4000本束ねたものに直接Nbシートを巻き付け、無酸素銅パイプの中に挿入して二次多芯ビレットを組み立てた。この二次多芯ビレットを静水圧押出しし、その後抽伸加工と中間焼鈍を繰り返して減面加工を行ない、最後に矩形のダイスを用いた引き抜き加工により、前記図2に示したような断面構造を有する平角線材(NbSn超電導線材製造用多芯型前駆体)を製作した。このとき、断線は1回も生じなかった。
【0050】
電子顕微鏡とX線マイクロアナリシスによって断面をミクロ観察分析したところ、Nbフィラメントの平均径Dfの6.0μm以上のCu−Sn−Ti化合物の存在は認められず、2μm程度のCu−Sn−Ti化合物が見られた。
【0051】
製作した多芯型前駆体を720℃×100時間で熱処理した後、温度4.2K、外部磁場20T中で非銅部の臨界電流密度nonCu-Jcとn値を評価したところ、nonCu-Jc=146A/mmとn値=36という高い値が得られ、いずれも高磁場NMR用線材として使用可能と考えられる基準を満たしていた。尚、多芯型前駆体でのブロンズ比BzとNbフィラメントの平均径Dfについては、電子顕微鏡写真を用いて確認した。
【0052】
この結果から明らかなように、650〜797℃の範囲の温度から、500〜670℃の範囲の温度まで平均冷却速度で0.2〜3.0℃/時で冷却すれば、実施例1と同様の効果が得られることが分かる。
【0053】
尚、上記実施例1、2では、NbSn相を生成するための熱処理を720℃×100時間の一段階のみで行なっているが、前述の如く、(600〜670℃×50〜100時間)+(680〜750℃×50〜150時間)の二段階の熱処理を行なうことも有用である。
【0054】
尚、上記実施例1、2では、一次スタック材として同一サイズのものを使用したが、異なるサイズの一次スタック材を用いたり、NbやNb基合金を埋設していないCu−Sn基合金の一次スタック材を一部として用いて多芯型前駆体を構成することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】ブロンズ法によって製造されるNbSn超電導線材の断面構造の一例を模式的に示した説明図である。
【図2】ブロンズ法によって製造されるNbSn超電導線材の断面構造の他の例を模式的に示した説明図である。
【図3】比較例1で作製したCu−Sn基合金インゴットのミクロ組織を示す図面代用光学顕微鏡写真である。
【図4】実施例1で作製したCu−Sn基合金インゴットのミクロ組織を示す図面代用光学顕微鏡写真である。
【符号の説明】
【0056】
1 NbまたはNb合金芯
2 Cu−Sn基合金製母材(ブロンズマトリックス)
3 拡散バリヤー層
4 安定化銅
5 一次スタック材(NbSn超電導線材製造用前駆体)
6 外層ケース
7 二次多芯ビレット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Cu−Sn基合金製母材に複数のNbまたはNb基合金芯を埋設した前駆体を用いて、ブロンズ法NbSn超電導線材を製造するに当り、
前記Cu−Sn基合金製母材は、15.6超〜19質量%のSnを含有するものを用いると共に、第一段階で650〜797℃の範囲の温度T1で保持し、最終段階で500〜670℃の範囲の温度T2(但し、T1>T2)で保持する複数段階の溶体化処理を行うことを特徴とするブロンズ法NbSn超電導線材の製造方法。
【請求項2】
前記Cu−Sn基合金製母材は、第一段階で650〜797℃の範囲の温度T1で保持し、次いで500〜670℃の範囲の温度T3(但し、T1>T3)で保持する二段階の溶体化処理を行うものである請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記Cu−Sn基合金製母材は、650〜797℃の範囲の温度T1から500〜670℃の範囲の温度T2に平均冷却速度0.2〜3.0℃/時で冷却しながら溶体化処理を行なうものである請求項1に記載の製造方法。
【請求項4】
前記Cu−Sn基合金製母材とNbまたはNb基合金の界面にNbSn相を形成する熱処理を行なうに際して、600〜670℃で50〜200時間の熱処理を行なった後、680〜750℃で50〜150時間の二段階の熱処理を行なう請求項1〜3のいずれかに記載の製造方法。
【請求項5】
Cu−Sn基合金製母材に複数のNbまたはNb基合金芯を埋設した前駆体を用いて製造されるブロンズ法NbSn超電導線材であって、
前記Cu−Sn基合金製母材は、15.6超〜19質量%のSnを含有すると共に、Cu−Sn化合物を含まず、且つNbまたはNb基合金芯の熱処理前の最終平均径Df以上の大きさを有するCu−Sn−M化合物(但し、Mは、Ti,Zr,HfおよびTaよりなる群から選ばれる1種以上の元素)を含まないものであることを特徴とするブロンズ法NbSn超電導線材。
【請求項6】
前記Cu−Sn基合金製母材は、第一段階で650〜797℃の範囲の温度T1で保持し、最終段階で500〜670℃の範囲の温度T2(但し、T1>T2)で保持する複数段階の溶体化処理を行ったものである請求項5に記載のブロンズ法NbSn超電導線材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−141683(P2007−141683A)
【公開日】平成19年6月7日(2007.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−334722(P2005−334722)
【出願日】平成17年11月18日(2005.11.18)
【出願人】(502147465)ジャパンスーパーコンダクタテクノロジー株式会社 (56)
【Fターム(参考)】