説明

Notch経路阻害剤を用いて癌を治療する方法

本発明は、Notchシグナル伝達経路が癌に関係するという発見に基づく。したがって、本発明は、癌を治療するための方法および組成物を提供する。さらに、被験体における癌の診断および治療で用いるための、Notchシグナル伝達経路におけるタンパク質の発現および/または活性を調節する方法も提供する。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は概して、癌に関し、より具体的にはNotch経路に影響を及ぼす薬剤に関する。
【背景技術】
【0002】
背景情報
Notch遺伝子は、細胞運命決定を調節する、進化的に保存された大きな1回膜貫通タンパク質をコードする。ショウジョウバエ(Drosophila)、シノラブディス・エレガンス(Caenorhabditis elegans)および哺乳類の細胞培養での研究は、NotchがDSL(デルタ(Delta)、セレート(Serrate)、Lag-2)ファミリーのリガンドの受容体および2つの下流経路を通るシグナルとして働くことを示している。これらの1つは、CSL(CBFl、Hairlessの抑制因子、Lag-1)ファミリーの転写因子を介し、もう1つは細胞質アダプタータンパク質Deltexを介する。哺乳動物において、Notchシグナル伝達経路は、4つの受容体(Notch 1〜4)および5つのリガンド(デルタ-様 1, 3および4ならびにJagged 1および2)を含む。これらの遺伝子における変異は、ヒトにおいて劇的な発生上の効果をもたらす可能性があり、いくつかの遺伝性疾患(例えば、皮質下梗塞および白質脳症を伴う常染色体優性脳動脈症(CADASIL)、アラジール症候群、および脊椎肋骨異骨症(SCDO))、および癌(例えば、白血病、皮膚癌、頸部癌、肺癌、前立腺癌、神経芽細胞腫、および乳癌)におけるNotchシグナル伝達に影響を与える可能性がある。
【0003】
Notchシグナル伝達の負の制御因子は、Numb、SEL-10およびSu(dx)を含む。これに対して、Sanpodo、Neuralized、Mind bomb、LNX、SiahlおよびMdm2は、この経路の正の制御因子である。Numbは、PTBドメインを含む細胞質アダプタータンパク質であって、その細胞内ドメインとの相互作用を通じてNotchの負の制御因子として作用する。Numb-Notchの会合は、Notch 1のユビキチン化を促進する。NumbがE3リガーゼItchの細胞質HECTドメインと相互作用し、そしてNumbおよびItchがNotch 1のユビキチン化を促進するよう協同的に作用することが明らかにされている。その一方で、Numbは、経路の正の制御因子であるSanpodoの機能を変化させることによりNotchシグナル伝達を阻害する可能性がある。Sandopoは、細胞表面上で全長Notch受容体と物理的に相互作用する、4回膜貫通タンパク質をコードする。Numbは、Sanpodoと物理的に相互作用し、Sanpodoの膜移行を阻害し、そのNotchとの会合を妨げる。アクチンフィラメントの長さを制御する哺乳類のアクチン結合タンパク質、Tropomodulin(トロポモジュリン)は、Sanpodoの相同体である。NumbおよびSanpodoは、発生事象の間Notch経路の重要な制御因子である。
【0004】
Deltexの抑制因子(Su(dx))は、Notchシグナル伝達経路の負の制御因子として作用する、ショウジョウバエで最初に同定されたもう1つのタンパク質である。Su(dx)の過剰発現は、内在性のNotchシグナル伝達を阻止し、異所性の静脈分化および翅の外縁の欠損をもたらす。これに対して、Su(dx)の下方制御は、Notch過剰発現の表現型に類似の翅脈のギャップを示す。Itchは、Su(dx)のマウス相同体であり、マウス変異体が免疫不全と共にそう痒行動を示すことからそのように名付けられる。SEL-10とは異なり、Itchは、細胞膜を標的とするリン脂質結合モチーフ、4つのWW-モチーフ、およびE3ユビキチンリガーゼとして機能するHECTドメインを含む。Itchは、そのWW-モチーフを介してNICDのN末端部分に結合し、そのHECTドメインを通じてNICDのユビキチン化を促進する。哺乳類の細胞では、この相互作用はNotchシグナル伝達を下方制御する。
【0005】
Notchシグナル伝達経路が乳腺の新生物発生に関与する可能性があるという最初の徴候は、Czech IIマウスにおけるマウス乳腺腫瘍ウイルス(MMTV)のNotch4遺伝子内の共通挿入部位に生じた。この挿入は、Notch4の細胞内ドメインをコードする切断型の転写物の発現をもたらし、このタンパク質の発現はシグナル伝達経路を活性化する。腫瘍発生におけるNotchシグナル伝達の必然的な役割は、乳腺で特異的にこのタンパク質を発現するトランスジェニックマウスで示された。これらのマウスは12ヶ月以内に乳房腫瘍を示した。さらに、細胞培養実験は、Notch 1またはNotch4細胞内ドメインの過剰発現がマウス乳房上皮細胞株を形質転換し、軟寒天で足場非依存性増殖をもたらすことを明らかにした。
【0006】
Notchシグナル伝達は、幅広いヒト乳癌で異常に活性化されている。このことは、シグナル伝達中の全長タンパク質の切断により生じNotchシグナルを伝達する、Numbの減少およびNotch 1細胞内ドメイン(NICD)の蓄積、ならびに標的遺伝子HeslおよびHeylの上方制御により最も明確に実証される。さらに、経路構成要素の変化は、有用な予後マーカーとなることが判明する可能性がある。例えば、NotchlおよびそのリガンドJaggedlの転写物レベルの上昇は、予後不良と相関し、そしてNumbのプロテオソーム分解は高悪性度の腫瘍で主に見られる。この経路の阻害は乳癌細胞株の形質転換された表現型を戻し、原発腫瘍細胞の増殖を抑制するため、最終的にNotchシグナル伝達の亢進は、乳癌の病因に重要な役割を果たす。
【0007】
Notchシグナル伝達の改変は、癌を含むヒト疾患に関連付けられるが、ヒト腫瘍におけるNotchの実質的な関与はとらえ所がないままである。機構的には、Numb陰性の腫瘍細胞におけるNumbの異所性発現が増殖を阻害するが、Numb-陽性の腫瘍細胞では阻害しないことから、Numbは癌抑制因子として作動する。Notchシグナル伝達の亢進はNumb-陰性腫瘍で観察されるが、Numbの発現実施の後は基礎レベルに戻る。逆に、Numbのサイレンシングは、正常な乳房細胞およびNumb-陽性乳房腫瘍においてNotchシグナル伝達を亢進する。Numb/Notch生物学的拮抗作用は、正常な乳房実質組織のホメオスタシスに関連している。よって、Notch経路の異常なシグナル伝達により引き起こされる癌を診断するおよび治療する方法の必要性が存在する。
【発明の概要】
【0008】
発明の概要
本発明は、いくつかのヒト乳癌がNotch経路の上方制御を含むという独創的な発見に基づく。具体的には、これらの癌は、Notchシグナル伝達の亢進およびNotch経路の負の制御因子であるNumbの発現の低下を有するものとして特徴付けられる。
【0009】
1つの態様において、本発明は、癌細胞を図3Aまたは図3Bに示すような構築物と接触させる段階を含む癌を治療する方法を提供する。本発明の方法は、癌細胞を化学療法剤と接触させる段階をさらに含む。
【0010】
別の態様において、本発明は、癌細胞がNotch経路阻害剤による治療に応答性か否かを決定する方法であって、細胞におけるNotch 1のレベルを決定する段階であって、正常な細胞におけるレベルと比べて高いNotch 1のレベルがNotch経路阻害剤による治療に応答性の細胞であることを示す段階を含む方法を提供する。図3Aまたは3BにNotch経路阻害剤を例示する。
【0011】
1つの局面において、本方法は、細胞におけるNumb発現のレベルを決定する段階であって、正常な細胞におけるレベルと比べて低いレベルのNumb発現がNotch経路阻害剤または細胞中のNumbの発現を増やす薬剤による治療に応答性の細胞であることを示す段階をさらに含む。
【0012】
本発明はさらに、図3Aおよび図3Bに例示するような特定の構築物を提供する。
【0013】
別の態様において、本発明は、癌細胞をドミナントネガティブMastermindアイソフォームを含む構築物と接触させる段階を含む、癌を治療する方法を提供する。1つの局面において、癌は例えば、乳癌、卵巣癌、大腸癌、前立腺癌、肺癌、造血癌または膵臓癌である。さらなる態様において、癌細胞はさらに、化学療法剤と接触させてもよい。別の態様において、細胞は、アンテナペディア(Antennapedia)核酸またはアンテナペディアタンパク質と接触させてもよい。(アンテナペディアホメオドメインは生物体ドロソフィラ・メラノガスター(Drosophila melanogaster)由来の配列特異的転写因子である。このタンパク質は、アンテナペディア(antp)遺伝子によってコードされる。Antpは、細胞を生物の前後軸上の特定に位置に位置付ける制御システムのメンバーである。このようにAntpは、ショウジョウバエにおいて中胸分節の細胞発生の制御を助ける。)(例えば、Y. -Q. Qian et al., The Structure of the Antennapedia Homeodomain Determined by NMR Spectroscopy in Solution: Comparison With Prokaryotic Repressors, Cell 59:573 (1989)参照)。
【0014】
別の態様において、本発明は、癌細胞をNumbアイソフォームを含む構築物と接触させる段階を含む癌を治療する方法を提供する。さらなる態様において、癌細胞はさらに、化学療法剤と接触させてもよい。別の態様において、細胞は、アンテナペディア核酸またはアンテナペディアタンパク質と接触させてもよい。
【0015】
1つの態様において、細胞におけるNotch 1のレベルを決定する段階であって、正常な細胞のレベルと比べて高いレベルのNotch 1がNotch経路阻害剤による治療に応答性の細胞であることを示す段階を含む、癌細胞がNotch経路阻害剤による治療に応答性であるか否か決定するための方法が記載される。1つの局面において、Notch経路阻害剤は、ドミナントネガティブMastermindアイソフォームを含む。別の態様において、Notch経路阻害剤は、Numbアイソフォームを含む。さらに別の態様において、本方法は、細胞におけるNumb発現のレベルを決定する段階であって、正常な細胞のレベルと比べて低いレベルのNumb発現がNotch経路阻害剤による治療に応答性の細胞であることを示す段階を含む。さらなる態様において、癌細胞は、乳癌細胞、卵巣癌細胞、大腸癌細胞、または膵臓癌細胞である。
【0016】
本発明の別の態様において、Notchシグナル伝達経路に関与する1つまたは複数の遺伝子の活性または発現を決定する段階を含む、癌を有するまたは癌を有するリスクがある被験体を治療するための治療計画をモニターする方法が記載される。1つの局面において、Notchシグナル伝達経路に関与する遺伝子は、Jaggedl、Jagged2、デルタ-様4、E-Cadherin(E-カドヘリン)、Numb、NICD Notch 3、Heyl、Hes5、またはそれらの組合せからなる群より選択される。
【0017】
1つの態様において、Notchシグナル伝達経路に関与する1つまたは複数の遺伝子の活性または発現を決定する段階であって、正常な細胞におけるレベルと比べたNotchシグナル伝達経路に関与する1つまたは複数の遺伝子の活性または発現の変化が癌を有するまたは癌を有する危険性がある被験体の診断となる段階を含む、癌を有するまたは癌を有する危険性がある被験体を診断するための方法が記載される。別の態様において、Notch経路に関与する遺伝子は、Jaggedl、Jagged2 デルタ-様4、E-カドヘリン、Numb、NICD Notch 3、Heyl、Hes5またはそれらの組合せからなる群より選択される。
【0018】
本発明の別の態様において、試験薬剤をNotchシグナル伝達経路に関与する1つまたは複数の遺伝子の発現を示す細胞と接触させる段階、およびNotchシグナル伝達経路に関与する1つまたは複数の遺伝子の活性または発現の変化を検出し、それによって試験薬剤をNotchシグナル伝達経路に関与する1つまたは複数の遺伝子の活性または発現を調節する薬剤として同定する段階を含む、Notchシグナル伝達経路に関与する1つまたは複数の遺伝子の活性または発現を調節する薬剤を同定するための方法が記載される。1つの態様において、Notchシグナル伝達経路に関与する遺伝子は、Jaggedl、Jagged2 デルタ-様4、E- カドヘリン、Numb、NICD Notch 3、Heyl、Hes5、またはそれらの組合せからなる群より選択される。別の態様において、細胞は癌細胞である。1つの局面において、癌細胞は、乳癌細胞、卵巣癌細胞、大腸癌細胞または膵臓癌細胞である。1つの態様において、薬剤は、化学化合物、タンパク質または核酸である。
【0019】
1つの態様において、細胞をアンテナペディアまたはその機能部分と融合させた化合物と接触させる段階を含む、化合物を細胞に送達するための方法が記載される。1つの局面において、化合物は化学物質、タンパク質または核酸であり、アンテナペディアは核酸またはアミノ酸配列である。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1A】ショウジョウバエのNotch受容体および4つの公知の哺乳類の受容体の図表示。
【図1B】ショウジョウバエおよび哺乳動物におけるNotch受容体の膜貫通型DSLリガンド(デルタ、セレート、LAG 2) を示す。
【図1C】哺乳類のF3およびコンタクチン(Contactin)リガンドの模式構造。
【図1D】CBFl-依存性Notchシグナル伝達経路概略図。
【図2A】親細胞、ベクター対照細胞およびMCF7/Numb形質移入細胞由来のMCF7細胞から軟寒天中に形成されるコロニー数を示すグラフ。
【図2B】親細胞、ベクター対照細胞およびMDA-MB231/Numb形質移入細胞由来のMCF7細胞からの軟寒天中に形成されるコロニー数を示すグラフ。
【図3A】pSecTagNC/ANTP/NUMB(SEQ ID NO.: 1)を図示する。
【図3B】pSecTagNC/ANTP/DN-MAML(SEQ ID NO. : 2)を図示する。
【図4】ANTP/DN-MAML融合タンパク質で処置した動物の腫瘍量(4A)、およびANTP/DN-MAML融合タンパク質で処置した後の動物生存率(4B)を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0021】
発明の詳細な説明
本発明は、Notchシグナル伝達経路が癌と関連しているという発見に基づく。Notchシグナル伝達経路におけるタンパク質の発現および/または 活性の調節は、被験体における癌の診断および治療に用いられる可能性がある。
【0022】
ショウジョウバエNotch受容体は、複数の異なるドメインを含む、2703アミノ酸(aa)の大きな1回膜貫通糖タンパク質である(図1A)。Notchタンパク質は、細胞内ドメインと非共有結合で連結される大きな細胞外ドメインで構成されるヘテロダイマーとして細胞表面上に発現する。細胞外ドメインは、36回のタンデム上皮増殖因子(EGF)様リピート(それぞれ約38 aa)および3回のシステインリッチLIN12/Notch(LNR)リピートからなる。Notch細胞内ドメイン(NICD)は、CSL 転写因子に結合する、RAM23ドメイン;2つの核移行配列(NLSlおよび2);タンパク質-タンパク質相互作用に必要な7回のタンデムCDC10/Ankyrin(ANK)リピート;サイトカイン応答領域(NCR);転写活性化ドメイン(TAD);およびPEST配列(SEQ ID NO: 7)(プロリン(P)、グルタミン(E)、セリン(S)、スレオニン(T))を含む。PEST配列は、急速に分解されるタンパク質の特徴である。
【0023】
4つの 公知の哺乳類のNotch受容体 (Notch 1〜4)が存在する (図1A)。哺乳類のNotchlおよびNotch2は、36回のEGF-様リピートを含むのに対し、Notch3およびNotch4はそれぞれ、34回および29回のEGF-様リピートを含む。4つの哺乳類のNotch受容体は全て、RAMドメイン、NLSlドメイン、ANKドメインおよびPESTドメインを含む。しかしながら、TADはNotchlおよびNotch2のみで見られ、Notch4はNLS2モチーフおよびNCRモチーフを欠く。Notch受容体間の最も高い相同性はアンキリン(ankyrin)リピート内であるのに対し最も高い多様性はC末端PEST配列中にある。哺乳類のNotchlタンパク質およびNotch2タンパク質は、Furin様転換酵素によりトランス-ゴルジ装置内(1655残基)で切断される(SI切断とも呼ばれる); Notch3およびNotch4は同様に切断される可能性がある。長い細胞外ドメインは、非共有結合性Ca2+依存性相互作用を通じて膜貫通ドメインに結合される。このヘテロダイマーは、細胞表面で受容体の優勢型である。Notch DSL リガンドがNotchと相互作用するために11回および12回のEGF-様リピートが必要であることが、明らかになっている(図1A)。
【0024】
ショウジョウバエでは、デルタおよびセレートがNotch受容体の主要なリガンドである(図1B)。Notchと同じように、これらのタンパク質は、その細胞外ドメイン内に様々な数のEGF-様リピートを伴う大きな1回膜貫通型タンパク質である。デルタおよびセレートはそれぞれ、9回および17回のEGF-様リピートを含む。それらは、DSL (デルタ、セレート、(ショウジョウバエ)Lag-2 (C. elegans)として知られている保存されたシステインリッチドメインを通じてN-末端でNotchと相互作用する。これらのモチーフに加えて、セレートは、EGF-様リピートと膜貫通ドメインの間に第3のシステインリッチ(CR)ドメインを含み、これによりセレートとデルタとが区別される。哺乳動物では5つのデルタおよびセレート相同体、Jaggedlおよび2ならびにデルタ-様l、3および4が存在する(図1B)。DSLリガンドは、Notchの大きな細胞内ドメインと比べてきわめて短い細胞内ドメインを有する。
【0025】
最近、F3/コンタクチンファミリーのメンバーであるF3/コンタクチンおよびNB-3がマウスにおけるオリゴデンドロサイト成熟の過程でさらなるNotchリガンドとして作用することが示された(図1C)。F3は、免疫グロブリンファミリーに属するグリコシルホスファチジルイノシトール(GPI)結合型神経接着分子である。F3およびコンタクチンは、N-末端シグナルペプチド、4回のフィブロネクチンIII型リピートに結合された6回の免疫グロブリンドメイン、およびGPIアンカードメインを含む糖タンパク質のグループに属する。コンタクチンはF3と比べて、さらなる膜貫通および短い細胞質ドメインを有する。F3およびNB-3は、マウスNotch 1受容体の1〜12および22〜34のEGF-様リピート内に結合することが示されている。
【0026】
Notch受容体は、Furin転換酵素によりゴルジで切断され、(S1切断として公知の工程)、細胞表面上に、非共有結合で連結されたヘテロダイマーNotch受容体の発現をもたらす(図1D)。Notchリガンド相互作用の非存在下では、Numbは、Notchの細胞質ドメインと直接相互作用し、その切断を阻害する。これらの条件下で、CSLは少なくとも、4つのコリプレッサー(SMRT、HDAC、SKIPおよびkyoT2)に結合し、転写を抑制する。リガンドが結合すると、2つの連続的な切断が起こる。1つ目は、S2切断として知られ、ADAMプロテアーゼTACE(腫瘍壊死因子α-変換酵素)により媒介され、膜貫通ドメイン近くのaa 1771で起こり、そして、もう1つは、S3切断として知られ、膜貫通ドメイン内のaa 1744でγ-セクレターゼにより媒介される。このS3切断は、Notchの細胞内ドメイン(NICD)を遊離し、その核移行を可能にし、そしてNICDはCBFlに結合した場合に4つのコリプレッサーを置き換わることにより転写抑制因子から転写活性化因子に変わる。Mastermind(MAM)と共に、NICDおよびCBFlは大きな転写活性化複合体を形成し、p300などのコアクチベーターをリクルートする。活性化されたCBFlはその後、Hairy of enhancer of split(Hes)およびHeyファミリーのメンバーを含むその標的遺伝子を転写することができる。p21(ケラチノサイトでの標的)などの他の標的は、組織特異的である。Numbの安定性は、Mdm2、LNXおよびShiaなどのE3リガーゼにより制御される。
【0027】
哺乳動物では、Notchシグナル伝達は、NICDの切断を引き起こし、NICDは続いて核へ移行し、(RBP-Jkとしても知られる)CBFl転写因子に結合する。これは、Notchシグナル伝達経路の主要な核エフェクターであって、二機能性である。NICDの非存在下では、CBFlは、少なくとも4つのコリプレッサー、レチノイドおよび甲状腺ホルモン受容体のサイレンシングメディエーター(SMRT)、ヒストンデアセチラーゼ-1(HDACl)、KyoT2、およびSki-相互作用タンパク質(SKIP)に結合し、転写を抑制する(図1D)。これに対して、CBFlとNICDのRAM23リピートおよびANKリピートとの相互作用は、これらのリプレッサーに置き換わり、転写活性化複合体を生じる。核タンパク質Mastermind様(MAML)もまたこの複合体と相互作用し、さらに転写を増加させる(図1D)。一方、MAMLlのドミナントネガティブ(DN)型は、62-アミノ酸ペプチドからなり、MAMLの末端でCBFl/NICD転写複合体に特異的に結合し、哺乳類のNotch受容体4つ全てによりNotchシグナル伝達活性化を阻害する。
【0028】
哺乳動物では、NotchとそのDSLリガンド間の相互作用は、Notchの細胞外部分におけるEGF様リピートの11および12に関与する(図1D)。リガンド/受容体相互作用は、細胞膜からNICDを遊離するNotchタンパク質内の2つのさらなるタンパク質切断を誘導し、第1の切断はS1部位でのNotchの成熟の過程で生じる。細胞表面上では、TNF-α変換酵素(TACE)およびADAMl7メタロプロテアーゼによるタンパク質切断(S2切断とも呼ばれる)が細胞外で起こり(1711残基)、膜繋留フラグメント(membrane tethered fragment)(NEXT)を生じる。これは、(プレセニリンおよびニカストリンを含む)γ-セクレターゼによりさらに切断される(S3切断)一過性の中間体である。これは、膜貫通ドメイン内(1744残基)で起こり、そして細胞質中へのNICD遊離をもたらす。NICDは、核を標的とする2つのNLSドメインを含む。核内では、NICD RAMドメインおよびANKドメインは、MAMと結合してNICDを転写抑制因子から転写活性化因子に変えるCBFlに結合する。NICD/CBFl/MAM複合体は、hairy-and-enhancer of split 1および5(Hes lおよび5)ならびにHes-関連転写因子1-3 (HRTl-3、Heyl-3としても知られる)などのベーシック・ヘリックス-ループ-ヘリックス(bHLH)転写因子を含む、Notchシグナル伝達の主な標的遺伝子の発現を上方制御する。
【0029】
全てのHesメンバーは、Grouchoなどの転写コリプレッサーをリクルートするC末端YRPW(SEQ ID NO: 6)テトラペプチドモチーフを共有し、転写抑制因子として機能する。経路の他の標的は、それぞれケラチノサイトおよび心血管の発生で発現するp21ならびに心血管のヘリックス-ループ-ヘリックス因子l および2(CHFl-2)など組織特異的である。Notchシグナル伝達の活性化に加えて、NumbならびにE3ユビキチンリガーゼSEL-10およびItchを含むいくつかのタンパク質は、Notch分子のユビキチン化およびリソソーム分解を促進することによりNotchシグナル伝達を終了することができる。CBFlとNotchのアンキリンリピートまたは単純ヘルペスウイルス(HSV)VP16の転写活性化ドメインとの間の融合がCBFlの構成的活性型を生じることも示されている。
【0030】
哺乳類の4つのNotch受容体(Notch 1〜4)および5つのリガンド(Jagged 1および2;デルタ様l、-3、および-4)は全て、リガンド-受容体シグナル伝達が隣接する細胞間で起こるように膜貫通ドメインを含む。リガンド-受容体結合は、Notchの細胞内ドメインを核に遊離し転写因子CBF-1(RBP-JκまたはCSLとしても知られる)との結合を促進する、γ-セクレターゼ-依存性の切断を引き起こす。引き続いて起こるコアクチベーター、mastermind様(MAML)タンパク質のリクルートメントは、転写因子のhairy and enhancer of split(HES)およびHES-関連リプレッサータンパク質(HERP)ファミリーなどの下流のエフェクターの転写活性化を促進する。
【0031】
本組成物および本方法を記載する前に、組成物、方法および条件などは変わる可能性があるため、この発明は記載される特定の組成物、方法および実験条件に限定されないことが理解されるべきである。さらに、本発明の範囲は添付の特許請求の範囲にのみ限定されることから、本明細書において用いられる用語は特定の態様を記載することのみを目的とし、限定を意図しないことも理解されるべきである。
【0032】
本明細書および添付の特許請求の範囲で用いられるように、単数形「1つ(a)」、「1つ(an)」および「その(the)」は、文脈上明確に異なる解釈を要する場合を除き、複数への言及を含む。よって例えば、「その(the)方法」という言及は、本開示などを読むことによって当業者に明らかになると考えられる、1つまたは複数の方法、および/または本明細書において記載される種類の段階を含む。
【0033】
他に定義されている場合を除き、本明細書において用いられる全ての技術用語および科学用語は、本発明が属している技術分野における当業者により通常理解される意味と同じ意味を有する。本明細書において記載されているものと類似または等価の任意の方法および材料が発明の実施または試験において用いることができるが、好ましい方法および材料をこれから記載する。
【0034】
本明細書において用いられる用語「被験体」は、本方法が実行される任意の個体または患者を指す。当業者に理解されるように、被験体は動物であってもよいが、一般的に被験体はヒトである。よって、(マウス、ラット、ハムスターおよびモルモットを含む)げっ歯類、ネコ、イヌ、ウサギ、およびウシ、ウマ、ヤギ、ヒツジ、ブタなどを含む家畜、および(サル、チンパンジー、オランウータンおよびゴリラを含む)霊長類などの哺乳動物を含む他の動物は、被験体の定義内に含まれる。
【0035】
本明細書において用いられる、「正常な細胞」または「正常な試料」は、調べられる細胞と同じ臓器に由来し、かつ調べられる細胞と同じ種類である、被験体由来の細胞または試料を指す。1つの局面において、対応する正常な細胞は、癌を有さない健康な個体から得られた細胞の試料を含む。そのような対応する正常な細胞は、必須ではないが、調べられる細胞を提供する個体と年齢を適合させた個体および/または同じ性別個体に由来する可能性がある。
【0036】
本明細書において用いられる、用語「試料」および「生物試料」は、本発明により提供される方法に適した任意の試料を指す。細胞の試料は、例えば腫瘍を有する被験体の生検により得られた腫瘍試料、または手術(例えば、腫瘍を取り除くおよび/または減量するための外科手技)により得られた腫瘍試料を含む、任意の試料であってもよい。よって、1つの態様において、本発明の生物試料は、組織試料、例えば針生検からの試料などの生検検体である。試料は、例えば血液試料、尿試料、組織試料、または任意の生体液を含んでもよい。
【0037】
用語「細胞増殖性疾患」または「細胞性増殖性疾患」は、罹患した細胞の増殖能が罹患していない細胞の正常な増殖能と異なっている任意の疾患を指す。細胞増殖性疾患の一例は、腫瘍形成である。悪性細胞(すなわち、癌)は、多段階工程の結果として発生する。用語「悪性」は、もはや正常な細胞増殖制御下にない腫瘍または造血疾患を指し得る。
【0038】
本明細書において提供される用語「癌性細胞」は、本明細書において提供される癌性状態の任意の1つに罹患している細胞を含む。用語「細胞腫」は、周囲の組織に浸潤し、転移を引き起こす傾向がある上皮細胞で構成される、悪性の新規増殖を指す。
【0039】
本明細書において記載されるような細胞増殖性疾患は、新生物であってもよい。そのような新生物は、良性または 悪性のいずれかである。用語「新生物」は、細胞の新規異常増殖または正常な細胞より早く複製する異常な細胞の増殖を指す。新生物は、良性または悪性いずれかである可能性がある不定形の塊(腫瘍)を作る。用語「良性」は、非癌性、例えばその細胞が増殖していないまたは周囲組織に浸潤していない腫瘍を指す。
【0040】
用語「送達」または「投与」は、発明の化合物または薬学的組成物を治療を必要としている被験体に提供する行動を含むよう定義される。この用語は、通常注入による経腸投与および経皮投与を含み、限定されないが、静脈内、筋肉内、動脈内、くも膜下腔内、嚢内、眼窩内、心臓内、皮内、腹腔内、経気管、皮下、表皮下、関節内、皮膜下、くも膜下、髄腔内および胸骨内の注射および注入を含む。
【0041】
本明細書において用いられる、用語「タンパク質」は、少なくとも2つの共有結合しているアミノ酸を指し、タンパク質、ポリペプチド、オリゴペプチドおよびペプチドを含む。タンパク質は、天然に存在するアミノ酸およびペプチド結合、または合成のペプチド模倣の構造で構成されてもよい。よって、本明細書において用いられるような「アミノ酸」または「ペプチド残基」は、天然に存在するアミノ酸および合成のアミノ酸の両方を意味する。例えば、ホモ-フェニルアラニン、シトルリンおよびノルロイシンは、本発明の目的のアミノ酸であると考えられる。「アミノ酸」はまた、プロリンおよびヒドロキシプロリンなどのイミノ酸残基も含む。側鎖は、R体またはS体の立体配置いずれであってもよい。
【0042】
用語「融合タンパク質」は、別の分子または化合物に融合させたタンパク質を指す。分子または化合物は、タンパク質、化学物質、または核酸であってもよい。
【0043】
本明細書において用いられる、用語「核酸」は、DNA、RNA、一本鎖、二本鎖または三本鎖およびその任意の化学修飾体を意味する。核酸の実質的に任意の修飾が企図される。「核酸」は、10、20、30、40、50、60、75、100、125、150、175、200、225、250、275、300、400、500、600、700、800、900、1000、1500、2000、2500、3000、3500、4000、4500、5000、6000、7000、8000、9000、10,000、15,000、20,000、30,000、40,000、50,000、75,000、100,000、150,000、200,000、500,000、1,000,000、1,500,000、2,000,000、5,000,000 またはさらに大きな塩基長から、染色体DNA分子全長までのほとんどあらゆる長さである可能性がある。遺伝子の発現を解析する方法では、試料から単離される核酸は典型的にはRNAである。
【0044】
本発明は、いくつかの癌がNotch経路における遺伝子の異常なレベルの発現を示すという独創的な発見に基づく。例えば、これらの癌は、Notchのレベルが増加し、Numb、Notch経路の負の制御因子のレベルが低下している。
【0045】
本発明は、癌細胞を例えば図3Aまたは3Bに示すような構築物などの融合タンパク質と接触させる段階を含む、癌を治療する方法を提供する。本発明の方法は、癌細胞を化学療法剤と接触させる段階をさらに含む。
【0046】
薬剤は、特定の種類の癌を治療するために用いられる薬剤の任意の典型的な方法で、または薬剤の標的腫瘍細胞との接触および適切な場合は細胞内への移行を促進する条件下で投与されうる。例えば細胞内へのポリペプチド薬剤の移行は、その細胞に感染することができるウイルスベクター内に該ポリペプチドを取り込むことにより促進されうる。細胞の種類に特異的なウイルスベクターが入手できない場合には、ベクターは、標的細胞上に発現するリガンド(または受容体)に特異的な受容体(またはリガンド)を発現するよう修飾されうる、またはそのようなリガンド(または受容体)を含むようさらに修飾されうるリポソーム内に封入されうる。ペプチド薬剤は、例えば、ペプチドの細胞内への移行を促進しうるヒト免疫不全ウイルスTATタンパク質形質導入ドメインなどのタンパク質形質導入ドメインを含むようペプチドを操作することによる方法を含む、種々の方法により細胞内に導入されうる。一般的に、薬剤は、被験体への投与に適した組成物(例えば、薬学的組成物)の状態で製剤化される。そのような製剤化された薬剤は、メラノーマまたは非メラノーマ性の皮膚癌を患っている被験体を治療するための薬剤として有用である。よって、同定される薬剤は、治療される癌の種類に応じて組織特異的な作用を有すると考えられる。
【0047】
通常、候補薬剤は有機分子であり、多くの場合100ダルトンより大きく2,500ダルトンより小さな分子量を有する低分子有機化合物(すなわち低分子)だが、候補薬剤は、多数の化学分類を包含する。候補薬剤は、タンパク質との構造的相互作用に必要な官能基、特に水素結合を含み、通常少なくともアミン基、カルボニル基、ヒドロキシル基またはカルボキシル基、好ましくは機能的な化学基のうち少なくとも2つを含む。候補薬剤は多くの場合、上記の官能基の1つまたは複数によって置換される環状炭素(cyclical carbon)もしくは複素環構造および/または芳香族もしくは他環芳香族構造を含む。候補薬剤はまた、ペプチド、糖類、脂肪酸、ステロイド、プリン、ピリミジン、誘導体、構造類似体またはそれらの組合せを含む、生体分子の中にも見出される。
【0048】
候補薬剤は、合成化合物または天然化合物のライブラリーを含む、多種多様な供給源から得られる可能性がある。例えば、多数の手段が、多種多様な有機化合物および生体分子の無作為のおよび直接の合成に利用でき、無作為化されたオリゴヌクレオチドの発現を含む。あるいは、微生物、菌類、植物および動物の抽出物の形で天然の化合物のライブラリーが、利用可能である、または容易に作製される。加えて、天然のまたは合成的に作製したライブラリーおよび化合物は、通常の化学的手段、物理的手段および生化学的手段を通じて容易に修飾される。公知の薬理学的薬剤をアシル化、アルキル化、エステル化、アミド化などの直接的なまたは無作為の化学修飾に供し、構造的類似体を作製してもよい。
【0049】
別の態様において、本発明は、細胞におけるNotch 1のレベルを決定する段階であって、正常な細胞のレベルと比べて高いレベルのNotch 1がNotch経路阻害剤による治療に応答性の細胞であることを示す段階を含む、癌細胞がNotch経路阻害剤による治療に応答性であるか否かを決定する方法を提供する。Notch経路阻害剤の例示を図3Aまたは3Bに示す。
【0050】
用語「阻害剤」、「活性化因子」、および「修飾因子」は、活性化する分子、阻害性の分子または修飾する分子を指すものとして用いられる。阻害剤は、例えば部分的にまたは全体的に活性を阻止する、低減する、妨げる、活性化を遅らせる、不活性化する、脱感作する、またはNotchシグナル伝達経路における1つまたは複数の遺伝子の活性または発現を下方制御するよう結合する化合物である。「活性化因子」は、亢進する、開口する、活性化する、促進する、活性を増強する、感作する、刺激する、またはNotchシグナル伝達経路における1つまたは複数の遺伝子を上方制御する化合物である。阻害剤、活性化因子、または修飾因子はまた、Notchシグナル伝達経路における1つまたは複数の遺伝子の遺伝的に修飾された型、例えば活性の変化を伴う型、ならびに天然に存在するおよび合成のリガンド、基質、アンタゴニスト、アゴニスト、抗体、ペプチド、環状ペプチド、核酸、アンチセンス分子、リボザイム、RNAiおよび低分子化学分子なども含む。阻害剤は、例えば図3Aおよび3Bならびに4Aおよび4Bに例示するような融合タンパク質であってもよい。
【0051】
1つの態様において、本発明の方法は、細胞におけるNumb発現のレベルを決定する段階であって、正常な細胞のレベルと比べて低いレベルのNumb発現がNotch経路阻害剤による治療に応答性の細胞であることを示す段階をさらに含む。
【0052】
本明細書において用いられる、用語「回復させる」または「治療する」は、癌に関連する臨床的徴候および/または症状が、実施された措置の結果として減ぜられることを意味する。モニターされるべき徴候および症状は、特定の癌の特徴であり、当業者に周知であると考えられ、徴候および状態をモニターするための方法も周知であると考えられる。例えば、当業者は、腫瘍の大きさまたは増殖の速度が特定の腫瘍に通常用いられる画像診断法を用いてモニターする(例えば、超音波または磁気共鳴画像(MRI)を用いて腫瘍をモニターする)ことができることを知っている。
【0053】
癌を治療する方法はいずれも、1つまたは複数の補助的な成分を構成する薬学的に許容される担体に付随して薬剤を運ぶ段階をさらに含み得る。被験体への投与のために薬剤を製剤化するのに有用な薬学的に許容される担体は、当技術分野において周知であり、例えば、水もしくは生理的緩衝生理食塩水などの水溶液、または他の溶剤、またはグリコール、グリセロール、オリーブオイルなどのオイルまたは注射可能な有機エステルなどの溶媒を含む。薬学的に許容される担体は、例えば複合体の吸収を安定化または増加させるよう作用する生理的に許容される化合物を含むことができる。そのような生理的に許容される化合物は、例えば、グルコース、スクロースもしくはデキストランなどの炭水化物、アスコルビン酸もしくはグルタチオンなどの抗酸化剤、キレート剤、低分子量タンパク質もしくは他の安定化剤、または賦形剤を含む。当業者は、生理的に許容される化合物を含む薬学的に許容される担体の選択が、例えば治療薬剤の物理化学的な性質、および組成物の投与のルートに依存し、投与のルートが、例えば経口的にまたは静脈内など非経口的に、および注射、挿管または当技術分野において公知の他のそのような方法によることを理解している。薬学的組成物はまた、診断試薬、栄養物質、毒素または治療薬剤、例えば癌化学療法剤および/またはビタミンなどの第2の(またはそれより多い)化合物を含みうる。
【0054】
本発明の薬剤を含む組成物の投与の経路は、分子の化学構造に部分的に依存する。ポリペプチドおよびポリヌクレオチドは、例えば、消化管で消化される可能性があるため、経口的に投与される場合には特に有用ではない。しかしながら、ポリヌクレオチドおよびポリペプチドを、例えば内在性のヌクレアーゼまたはプロテアーゼそれぞれによる分解に対する感受性を低下させる、または消化管からの吸収性を高めるように化学的に修飾するための方法は周知である(例えば、Blondelle et al., Trends Anal. Chem. 14:83-92, 1995; Ecker and Crook, BioTechnology, 13:351-360, 1995参照)。例えば、ペプチド薬剤は、D-アミノ酸を用いて調製されうる、またはペプチドドメインの構造を模倣する有機分子であるペプチド模倣薬に基づく、もしくはビニル性ペプトイドなどのペプトイドに基づく1つまたは複数のドメインを含みうる。阻害剤がステロイド系アルカロイドなどの低分子有機分子である場合には、体内の所望の部位で活性薬剤を放出する形で、または阻害剤が標的細胞に循環するような血管内への注射により投与されうる。
【0055】
本発明の方法の実施において投与されるべき化合物または組成物の総量は、単一用量としてボーラスまたは比較的短時間での注入のいずれかで被験体に投与されうる、または複数回用量が長期間にわたって投与される分割治療プロトールを用いて投与されうる。当業者は、被験体における癌を治療するためにNotchシグナル伝達経路における1つまたは複数の遺伝子の活性または発現を調節する薬剤の量が、被験体の年齢および全体の健康ならびに投与が行われる投与経路および治療の回数に依存することを理解している。これらの要因を考慮し、当業者は必要とされる特定の用量を調整する。一般的には、薬学的組成物の剤形ならびに投与の経路および頻度は、フェーズIおよびフェーズII臨床試験を用いてはじめに決定される。
【0056】
本発明は、癌細胞をドミナントネガティブMastermindアイソフォームを含む構築物と接触させる段階を含む、癌を治療する方法を提供する。癌細胞は、例えば乳癌細胞、卵巣癌細胞、大腸癌細胞または膵臓癌細胞であってもよい。癌細胞はまた、化学療法剤と接触させることもできる。加えて、細胞はアンテナペディア(ANTP)と接触させることができる。
【0057】
ANTPホモドメインは、生物体ドロソフィラ・メラノガスター由来の配列特異的転写因子である。このタンパク質は、アンテナペディア(antp)遺伝子によりコードされる。Antpは、細胞を生物体の前後軸上の特定の位置に位置付ける制御システムのメンバーである。よって、Antpは、ショウジョウバエにおいて中胸分節での細胞発生の制御を助ける。
【0058】
本発明はまた、癌細胞をNumbアイソフォームを含む構築物と接触させる段階を含む、癌を治療する方法を提供する。癌細胞は、例えば乳癌細胞、卵巣癌細胞、大腸癌細胞、または膵臓癌細胞であってもよい。癌細胞はさらに、化学療法剤と接触させることができる。加えて、細胞は、アンテナペディア(ANTP)と接触させることもできる。
【0059】
1つの態様において、細胞におけるNotch 1のレベルを決定する段階であって、正常な細胞のレベルと比べて高いレベルのNotch 1がNotch経路阻害剤による治療に応答性の細胞であることを示す段階を含む、Notch経路阻害剤による治療に応答性の癌細胞か否かを決定するための方法が記載される。Notch経路阻害剤は、例えばドミナントネガティブMastermindアイソフォームまたはNumbアイソフォームであってもよい。さらに別の態様において、本方法は、細胞におけるNumb発現のレベルを決定する段階であって、正常な細胞のレベルと比べて低いレベルのNumb発現がNotch経路阻害剤による治療に応答性の細胞であることを示す段階を含む。癌細胞は、例えば乳癌細胞、卵巣癌細胞、大腸癌細胞、または膵臓癌細胞であってもよい。
【0060】
本発明の別の態様において、Notchシグナル伝達経路に関与する1つまたは複数の遺伝子の活性または発現を決定する段階を含む、癌を有するまたは癌を有する危険性がある被験体を治療するための治療計画をモニターする方法が記載される。Notchシグナル伝達経路に関与する遺伝子は、例えばJaggedl、Jagged2 デルタ様4、E-カドヘリン、Numb、NICD Notch 3、Heyl、またはHes5であってもよい。
【0061】
1つの態様において、Notchシグナル伝達経路に関与する1つまたは複数の遺伝子の活性または発現を決定する段階であって、正常な細胞のレベルと比べたNotchシグナル伝達経路に関与する1つまたは複数の遺伝子の活性または発現の変化が癌を有するまたは癌を有する危険性がある被験体と診断する段階を含む、癌を有するまたは癌を有する危険性がある被験体を診断するための方法が記載される。Notchシグナル伝達経路に関与する遺伝子は、例えばJaggedl、Jagged2 デルタ様4、E-カドヘリン、Numb、NICD Notch 3、Heyl、またはHes5であってもよい。
【0062】
本発明の別の態様において、試験薬剤をNotchシグナル伝達経路に関与する1つまたは複数の遺伝子の発現示す細胞と接触させる段階、およびNotchシグナル伝達経路に関与する1つまたは複数の遺伝子の活性または発現の変化を検出し、それによってNotchシグナル伝達経路に関与する1つまたは複数の遺伝子の活性または発現を調節する薬剤として試験薬剤を同定する段階を含む、Notchシグナル伝達経路に関与する1つまたは複数の遺伝子の活性または発現を調節する薬剤を同定するための方法が記載される。Notch経路に関与する遺伝子は、例えばJaggedl、Jagged2 デルタ様4、E-カドヘリン、Numb、NICD Notch 3、Heyl、またはHes5であってもよい。細胞は、癌細胞であってもよく、例えば乳癌細胞、卵巣癌細胞、大腸癌細胞、または膵臓癌細胞であってもよい。薬剤は、例えば化学化合物、タンパク質または核酸であってもよい。
【0063】
本発明は、細胞をアンテナペディアまたはその機能部分に融合させた化合物と接触させる段階を含む、化合物を細胞に送達するための方法を含む。化合物は、例えば化学物質、タンパク質または核酸であってもよい。
【0064】
本発明の方法は、細胞の試料をエクスビボで、例えば培養培地中でまたは固体支持体上で接触させる段階により実施されうる。その代わりに、またはそれに加えて、本方法はインビボで、例えば癌細胞試料を試験動物(例えば、ヌードマウス)内に移植する段階、および試験薬剤または組成物を試験動物に投与する段階により実施されうる。インビボアッセイの利点は、試験薬剤の有効性を生きている動物で評価でき、よって臨床状態をより忠実に模倣できるる点にある。インビボアッセイは、通常より高価であるため、インビトロ方法を用いる「リード」薬剤の同定に続く2次スクリーニングとして特に有用である可能性がある。
【0065】
ハイスループット(または超ハイスループット)形式で実施する時には、本発明の方法は、固体支持体(例えば、マイクロタイタープレート、シリコンウエハー、またはスライドガラス)上で実施可能であり、対象の細胞試料および/または遺伝子は、それぞれが互いに線引きされるように(例えば、ウェル中で)位置付けられる。任意の数の試料(例えば、96、1024、10,000、100,000、またはそれより多く)を、用いられる特定の支持体に応じてそのような方法を用いて並行して調べることができる。試料を配列(すなわち、規定された様式)に配置する場合、配列中の各試料は、(例えば、x-y軸を用いて)その位置により規定され、その結果、各試料に「アドレス」を与えることができる。アドレス指定できる配列形式を用いる利点は、細胞試料、試薬、および対象の遺伝子などを所望の時点に特定の位置に分配する(または取り除く)ことができ、および試料(またはアリコート)を例えばNotchシグナル伝達経路に関係する1つまたは複数の遺伝子の活性または発現についてモニターすることができるように、本方法を全体または一部で自動化できるという点にある。
【0066】
本明細書において記載される薬剤と組み合わせて用いることができる化学療法剤の例は、限定されないが、ダウノルビシン、ダクチノマイシン、ドキソルビシン、ブレオマイシン、マイトマイシン、ナイトロジェンマスタード、クロラムブシル、メルファラン、シクロホスファミド、6-メルカプトプリン、6-チオグアニン、シタラビン(CA)、5-フルオロウラシル(5-FU)、フロクスウリジン(5-FUdR)、メトトレキサート(MTX)、コルヒチン、ビンクリスチン、ビンブラスチン、エトポシド、テニポシド、シスプラチンおよびジエチルスチルベストロール(DES)などの抗癌剤を含む。抗炎症剤もまた、本明細書において記載される薬剤と組み合わせて用いてもよく、限定されないが、非ステロイド性抗炎症薬およびコルチコステロイド含み、そして、限定されないがリバビリン、ビダラビン、アシクロビルおよびガンシクロビルを含む抗ウイルス剤もまた、本発明の組成物および方法と組合せてもよい。2つ以上の化合物の組合せが、共にまたは連続的に用いられてもよい。
【0067】
以下の実施例は、本発明の利点および特徴をさらに説明するために提供されるが、発明の範囲を限定することは意図されない。それらは用いられる可能性がある典型例だが、当業者に公知の他の手法、方法論または技術が、代わりに用いられる可能性がある。
【0068】
実施例
実施例1
正常なヒト試料および乳癌ヒト試料中のNotch構成要素の検出
ヒト乳癌におけるNotchシグナル伝達の性質を明らかにするために実験を行った。2つの正常な試料(AおよびB)および20の乳癌試料(C群、D群、E群、F群、G群)をNotch発現解析のために入手した(表2.1)。全ての試料は、病理報告を伴った。乳癌試料は、予後および臨床成績と相関する腫瘍中のER、PR、erbB2、EGFR の発現に基づいて、5つの群(表1、C群、D群、E群、F群、G群)に分類された。加えて、各群内の腫瘍は、様々な型 (小葉または腺管)およびグレード(I、II、III)の腫瘍が存在した。グレードI の腫瘍の細胞は、通常高分化型であり、多くの場合正常な構造および機能を有する。グレードIIの乳房腫瘍は、異常に見えはじめている細胞を有する。他方、グレードIIIの乳房腫瘍の細胞は、通常低分化または未分化型であり、特定化された構造は有さず、激しく増殖および拡大する傾向がある。ER/PR陽性腫瘍を伴う乳癌患者は、他の乳癌の種類全ての中で最もよい予後および臨床成績を有する。ER/PR陰性の乳房腫瘍の10%未満およびER陽性/PR陰性の乳房腫瘍のおよそ40%がホルモン療法に応答する一方で、ER/PR陽性腫瘍は70%がホルモン療法に応答する。ErbB2-陽性腫瘍は通常、好ましくない臨床成績を伴う活動的な癌である。erbB2陽性腫瘍を伴う患者は、erbB2陰性腫瘍を伴う患者が80%を上回るのに対して、40%のみに過ぎない5年間生存率を示した。ER陰性、erbB2陽性の患者は、非常に予後不良であり、この腫瘍型に対する治療戦略は他の乳癌の腫瘍型と比べてより少ない。erbB2/ER陽性腫瘍は、erbB2陽性ER陰性腫瘍よりホルモン療法に対し良好な応答性を有することが示唆されている。20試料のうち13試料が腺管癌、7試料が小葉癌であった。13の腺管癌試料のうち、1つがグレードIであり、4つがグレードIIであり、6つがグレードIIIであり、1つが上皮内腺管癌(DCIS)であった。グレードは、小葉癌試料では不明であった。22試料(2つは正常、20は腫瘍原性)について重さを計り、ウェスタンブロッティングおよび免疫組織学的解析のために2つに分けた。
【0069】
(表2.1)乳房組織試料

*0%: ERまたはPR発現なし、50%:中程度のERまたはPR発現、100%:強いERまたはPR発現、2+:中程度のerbB2発現、3+:強いerbB2発現、2/3:中程度のEGFR発現。小葉:小葉中に病変がみられる、腺管:腺管内に病変がみられる、DCIS:上皮内腺管癌。グレードI、グレードII およびグレードIII はそれぞれ、低度、中程度および高度の核の分化を指す。N/A: 該当なし、-: 陰性。
【0070】
加えて、3つの正常な(MCF-10A、MTSVl-7 HB4A)および8つの腫瘍原性の(Hs578T、MDA-MB468、MCF7、ZR75T、CAL51、MDA-MB231、SK-BR3、およびPMC42)ヒト乳房上皮細胞株がウェスタンブロッティング解析に利用可能であった。表2.2は、 3つの正常なヒト乳房上皮細胞株MCF-10A、MTSVl-7、HB4A、および9つの腫瘍ヒト乳房上皮細胞株Hs578T、MDA-MB468、MCF7、ZR75T、CAL51、MBA- MB231、SK BR3、PMC42におけるER、PR、ErbB2、およびEGFRの発現を示す。
【0071】
(表2.2)乳房上皮細胞株

ER: エストロゲン受容体、PR: プロゲステロン受容体、EGFR: 上皮成長因子受容体、+: 陽性、-: 陰性、N/A: 該当なし
【0072】
Notchシグナル伝達が乳房腫瘍内で変化しているか否か決定するために、正常な組織で検出されたNotch受容体およびリガンドの発現を、2つの正常な試料および20の乳癌組織試料においてウェスタンブロット解析により解析した。加えて、NICDタンパク質レベルおよびNumbの発現を調べた。Numbは、Notchの細胞内ドメインと相互作用する細胞質アダプタータンパク質である。それは、NICD活性のユビキチン化および下方制御に必要とされるため、経路の負の制御因子として働く。
【0073】
Jagged2は、正常な組織と比較した場合、ER+/PR+/erbB2-カテゴリーの7つの腫瘍試料のうち5試料、ER+/PR-/erbB2- カテゴリーの7試料のうち2試料、ER+/erbB2+の3試料のうち2試料で下方制御され、ER-/erbB2+試料およびER-/EGFR+試料では変化していなかった。Numbの発現は全ての乳癌試料で消失した。これに対し、NICDの発現は、2つの正常な試料と比較した場合、全ての乳癌試料で上方制御された。加えて、切断された低分子量NICDがいくつかの乳癌試料で観察され、 Notch受容体が乳癌で変異されている可能性があることが示唆された。
【0074】
Jagged2下方制御をER+/ER+/erbB2-(C1-C7)乳癌試料、正常な乳房組織試料(AおよびB)、4つの腺管癌および3つの小葉癌から抽出したタンパク質のウェスタン解析により決定した。試料をSDS-PAGEにより分離し、Numb、切断型Notch 1(NICD)、Notch 1、Jagged2、デルタ様4およびE-カドヘリン一次抗体として用い探索した。Numbは、7つの癌試料全てにおいて2つの正常な試料と比べて下方制御された。これに対し、Notchの活性型は、7つの乳癌試料全てにおいて上方制御された。Jagged2は、4つの腺管乳癌試料のうち3試料(Cl、C3、およびC4)および3つの小葉癌試料のうち2試料(C5およびC6)で下方制御された。デルタ様4は、4つの腺管乳房腫瘍試料のうち2試料および3つの小葉乳房腫瘍試料の全てにおいて下方制御された。E-カドヘリンは腫瘍試料全てにおいて下方制御された。試料番号C2では、さらに低分子量型の切断型Notchが存在した。試料C2、C4、C6、およびC7では、さらに低分子量型のJagged2が存在した。
【0075】
加えて、ER+/PR-/erbB2-(Dl-D7)乳癌試料から抽出したタンパク質のウェスタン解析を行った。2つの正常な試料(AおよびB)、4つの腺管ER+/PR-/erbB2-乳房腫瘍試料、および3つの小葉ER+/PR-/erbB2-乳房腫瘍試料から総溶解物を単離し、タンパク質をSDS-PAGEにより分離し、Numb、切断型Notch(NICD)、Notch 1、Jagged2、デルタ様4およびE-カドヘリン一次抗体を用いて探索した。Numbは、2つの正常な試料と比較して、7つの癌試料全てにおいて下方制御された。それに対して、Notchの活性型は、7試料の全てにおいて上方制御された。Jagged2は、4つの腺管試料のうち3試料および3つの小葉試料の全てにおいて下方制御された。デルタ様4は、4つの腺管腫瘍試料のうち3試料および3つの小葉腫瘍試料の全てにおいて下方制御された。E-カドヘリンは、4つの腺管癌試料のうち2試料および小葉乳癌試料の全てにおいて下方制御された。試料番号DlおよびD3では、さらに低分子量型のJagged2 が存在した。上皮のマーカーDesmoplakinは、各試料内の上皮細胞を標準化する働きをした。
【0076】
ウェスタン解析はまた、ER+/erbB2+(El-E3)、ER-/erbB2+(Fl)、ER-/EGFR+(GlおよびG2)乳癌試料から抽出したタンパク質に対しても行われた。総細胞溶解物を2つの正常な試料(AおよびB)、3つのER+/erbB2+乳房腫瘍試料、1つのER-/erbB2+乳房腫瘍試料および2つのER-/EGFR+乳房腫瘍試料から抽出し、溶解物をSDS-PAGEにより分離し、Numb、切断型Notch(NICD)、Jagged2、デルタ様4およびE-カドヘリン一次抗体を用いて探索した。Notchの活性型が7つの癌試料全てにおいて上方制御された一方で、Numbは2つの正常な細胞と比べて7つ癌試料全てにおいて下方制御された。Jagged2は、3つのER+/erbB2+癌試料のうち2試料で下方制御された。デルタ様4は、ER+/erbB2+試料全てにおいて下方制御された。E-カドヘリンは、7試料のうち4試料で下方制御された。さらに低分子量型の切断型のNICDおよびJagged2がいくつかの試料中に存在した。上皮のマーカーDesmoplakinは各試料内の上皮細胞を標準化する働きをした。
【0077】
切断型低分子量Jagged2は、いくつかの乳癌試料で観察された。しかしながら、このアイソフォームの関連性は明らかではない。デルタ様4の発現は、正常な試料および乳癌試料で変化するが、全体的にみて正常な試料と比べた場合、乳房腫瘍試料で下方制御されている。E-カドヘリンは、いくつかの腫瘍で下方制御された。
【0078】
ウェスタン解析は上皮組織と間質性組織とを区別しないことから、上記乳房組織試料に対して免疫組織化学検査を行い、腫瘍内のNotchl過剰発現の局在を確かめた。乳房上皮マーカーMuclによって判断される上皮細胞内での強いNotchl(NICD)染色は、Numbの下方制御を伴った。加えて、強いNotch3染色が上皮細胞内で検出された。JaggedlおよびJagged2発現は、上皮細胞に限定された。これらのデータは、Notch経路が乳癌の発生および進行の過程で上方制御されることを実証する。
【0079】
実施例2
正常な細胞株および乳癌細胞株におけるNotch構成要素の検出
乳癌試料のウェスタンブロットおよび免疫組織化学検査の結果を支持するために、3つの正常なヒト乳房上皮細胞株(MCF-10A、MTSV1-7 HB4A)および8つの腫瘍原性ヒト乳房上皮細胞株(Hs578T、MDA-MB468、MCF7、ZR75T、CAL51、MDA-MB231、SK-BR3およびPMC42)に対してウェスタンブロット解析を行った。結果は、腫瘍試料から得られた結果と一致した。
【0080】
ウェスタンブロットは、Numb、切断型Notch(NICD)、Notch 1、Notch 3、Jaggedl、Jagged2、デルタ様4、E-カドヘリン、HeylおよびHes5一次抗体を用いて探索した。Numbは、3つの正常な細胞株と比べて9つの癌細胞株の全てにおいて下方制御された。これに対して、Notchの活性型は9つの細胞株全てにおいて上方制御された。Notchの活性化型の切断型は、腫瘍細胞株のうち5つで観察された。加えて、Hey2およびHes5発現は、乳癌細胞の全てにおいて上方制御され、NICDの蓄積がNotchシグナル伝達の増大と相関することを実証する。Notch3は、9つのうち6細胞株(Hs578T、MDA MB468、MCF7、ZR75T、CAL51、SK BR3)で上方制御され、Jaggedlは、9つのうち7細胞株(Hs578T、MDA MB468、ZR75T、MDA MB231、SK BR3、MDA MB435、PMC42)で上方制御された。これらの結果を総合すると、Notchシグナル伝達は解析した乳癌細胞株の全てにおいて活性化されていることを示す。これに対し、Jagged2は、試験を行った9つの腫瘍細胞株のうち7つで下方制御され、Jagged2の高分子量型が複数の腫瘍細胞株で検出された。デルタ様4は、9つの腫瘍細胞株のうち3つ(Hs578T、ZR75T、SK BR3)で下方制御された。E-カドヘリンは、9つの腫瘍細胞株のうち5つ(Hs578T、ZR75T、MDA MB231、SK BR3、PMC42)で下方制御された。
【0081】
この解析の結果は、Notchシグナル伝達が乳癌進行の過程で亢進することを強く示唆する。Notchシグナル伝達経路の構成要素は、試験を行った乳癌組織試料および細胞株の全てにおいて過剰発現された。さらに、負の制御因子、Numbの発現は、解析した試料の全てにおいて常に下方制御された。しかしながら、さらに重要なことには、確認されたNICD蓄積はNotchシグナル伝達の直接の生化学的指標である。このことと一致して、標的遺伝子Hes5およびHeylの発現が乳癌細胞株で上方制御された。
【0082】
切断型NICD分子の蓄積はまた、いくつかの乳癌試料および乳房上皮細胞株でも観察されている。同様の切断型は、T細胞急性リンパ性白血病で検出されており、Notch 1のPEST配列内にフレームシフトまたは中途終止コドンを生ずる変異を原因とすることが示されている。結果として生じるNotch 1タンパク質は、PESTドメインがNICD分解に重要な配列を含んでいるので、より安定である。その結果、これらの変異は、Notchシグナル伝達を亢進をもたらす。ここで解析したヒト乳癌試料における切断型Notch 1(NICD)分子の存在は、同様の活性化変異が乳癌で起こっている可能性を示唆する。
【0083】
最終的に、Notch発現と予後マーカー(PR、ER、erbB2、EGFR)との関連の解析は、乳癌検体または細胞株のいずれにおいても有意な相関を明らかにしなかった。この解析の結果は、Notch経路がヒト乳癌で変化していることの強力な証拠を提供する。
【0084】
実施例3
Notchシグナル伝達の阻害はヒト乳癌細胞株MDA-B231および MCF7の形質転換された表現型を元に戻す
乳癌患者および細胞株の解析からの結果は、Notchシグナル伝達が、解析を行った20のヒト乳癌試料および8の腫瘍原性乳房上皮細胞株の全てにおいて活性化されていたことを示す。Notchシグナル伝達の増大が腫瘍発生に関与するか否か決定するために、Notchシグナル伝達をNumbを過剰発現することにより2つの異なる乳癌細胞株で阻害した。この試験のために選択した2つの細胞株は、MDA-MB-231およびMCF7であった。MDA-MB231細胞株は、 ER、PR、EGFR、およびE-カドヘリンを発現しないがerbB2を強く発現する腺癌に由来する(表2参照)。ヌードマウス中に注射した場合に高転移性であることも報告されている。これに対し、MCF7細胞株は、ER、PR、E-カドヘリン陽性およびerbB2、EGFR陰性であり(表2.1参照)、こちらも腺癌に由来するが、ヌードマウス中に注射した場合に転移しない。
【0085】
細胞形質転換におけるNumbの潜在的役割を調べるために、Numbを安定的に発現するMCF7およびMDA-MB231細胞株を作製した。2つの細胞株にNumbタンパク質をコードしかつネオマイシン耐性カセットを保有するpcDNA3.1発現ベクターを形質導入した。ベクターの安定的な組込みを保持する細胞をジェネテシンを用いて選択した。対照として空のpcDNA3.1ベクターを保有するMCF7およびMDA-MB231細胞株も作製した。ウェスタンブロッティングにより判断されたように、Numb発現レベルは、親細胞およびベクター対照細胞と比べてMCF7/Numb細胞株およびMDA-MB231/Numb細胞株で増加した。Numbの過剰発現は、NICDおよびHeylの下方制御を伴った。E-カドヘリンの上方制御はまた、MCF7/Numb細胞では観察されたが、MDA-MB231/Numb細胞では観察されなかった。
【0086】
細胞の形態に対するNumbの影響を評価するために、親細胞、ベクター対照細胞およびMCF7/NumbまたはMDA-MB231/Numb細胞を解析した。親のおよびベクター対照のMCF7細胞は、腫瘍原性の紡錘体様の表現型を呈した。これに対して、MCF7/Numb細胞の表現型は、正常な上皮の丸石様の形態に変化した。加えて、MCF7/Numb細胞は、親のおよびベクター対照の細胞株の組織化されていない増殖と比べて、互いに密着している組織化された細胞群として増殖した。これに対し、MCF7/Numb細胞は、正常な細胞株と類似した丸石様の上皮の形態を示した。この形態変化は、MCF7/Numb細胞株がその形質転換された表現型を失っていることを示唆する。しかしながら、このことをより厳密に試験するため、およびMDA-MB231/Numb細胞株について試験するために、2つの細胞株を軟寒天で培養した。MCF7/Numb細胞およびMDA-MB231/Numb細胞が形成したコロニーの数は、親細胞およびベクター対照細胞が形成した数と比べてそれぞれ5%および0%に減少した(図2Aおよび2B)。この結果は、Notchシグナル伝達がMCF7細胞およびMDA-MB231細胞で形質転換された表現型を維持するために必要とされることを強力に示唆する。
【0087】
データは、Notchシグナル伝達の活性化が乳房上皮細胞の形質転換の重要な事象であることを示唆する。MCF7細胞では、NumbによるNotch経路の不活性化が、E-カドヘリン発現を上方制御し、正常な上皮細胞の形態を回復させる。この形態変化は、おそらく接着結合の回復によるものである。軟寒天中のMCF7/Numb細胞およびMDA-MB231/Numb細胞のコロニー形成能が低下が低下したことは、両細胞株の足場非依存性増殖がNumbにより阻止されたことを示唆する。
【0088】
加えて、Numbを用いるNotchシグナル伝達経路の減弱は、免疫不全のヌードマウスにおける腫瘍形成を阻害する。Numbまたは空のベクターを安定的に発現する5×105個の細胞をそれぞれ免疫不全のヌードマウスの右側腹部または左側腹部内に注射した。腫瘍増殖は、空のベクターを発現する細胞を注射された左側腹部のみで支持され、Notch阻害剤Numbを発現する細胞を注射された右側腹部では支持されなかった。
【0089】
実施例4
Notch活性化に対抗するTR3 およびTR4産物
低い生体膜透過性は、抗癌ポリペプチド部分の送達の障害を通常引き起こしており、その治療的価値を制限する。生体膜を横断するペプチドの移行が古典的なエンドサイトーシス経路ではなく、外見上エネルギーを必要としない機構を通じて起こりうるという実証は、生物医学研究における新たな可能性を示している。
【0090】
本発明の方法は、Trojanペプチドアンテナペディア(ANTP)の細胞移行能を利用し、癌を治療する。「トロイの木馬(Trojan horse)」ペプチドは、タンパク質形質導入ドメイン(PTD)とも呼ばれる低分子のタンパク質またはタンパク質の領域であって、温度、受容体および輸送体に非依存性の様式で血液脳関門を含む生体膜を効率的に横断する能力を有する。その極めて大きな治療可能性は、ペプチドがそれらに融合させた任意の薬学的化合物(化学物質、タンパク質、DNA)をその物理的性質に関係なく一緒に運ぶことができるという事実にある。そのようなペプチドの1つは、ショウジョウバエホメオティック転写因子ANTPである。ANTPホメオドメインは、生物体ドロソフィラ・メラノガスター由来の配列特異的転写因子である。このタンパク質は、アンテナペディア(antp)遺伝子によりコードされる。Antpは、生物体の前後軸上の特定の位置に細胞を位置付ける制御システムのメンバーである。よって、Antpは、ショウジョウバエにおける中胸分節の細胞発生の制御を助ける。
【0091】
ホメオボックスドメインまたはホメオドメインは、ヘリックス・ターン・ヘリックス構造モチーフを通じてDNAに結合するドメインである。ホメオボックスドメインを含むタンパク質は通常発生において役割を果たし、これらの多くは配列特異的転写因子である。ANTPホメオドメインは、60アミノ酸残基長であり、4つのαヘリックスを含む。このモチーフは、原核生物のリプレッサータンパク質で見られるものと類似している。
【0092】
融合タンパク質を、アンテナペディア-Numb(Tr3産物)からなるよう、遺伝子改変し、そのインビボで腫瘍細胞を標的化する能力を試験した(図3A)。Tr3融合タンパク質の配列をSEQ ID NO.:1に記載する。Numb配列単独ではSEQ ID NO.: 3に記載する。
【0093】
実施例5
ANTP/DN-MAMLの実験作製および特徴付け
Mastermind様(MAML)は、Notchシグナル伝達活性化に必須のグルタミンリッチな核タンパク質である。MAMLは、4つのNotch受容体の全てのコアクチベーターである。Mastermindは、活性型Notchの細胞内部分(NICD)、転写因子CBFlおよびDNAと複合体を形成する。これは、転写リプレッサーのファミリーを含むNotch標的遺伝子HesおよびHeyの活性化をもたらす。しかしながら、複合体との結合を保持することができるMAMLの切断型は、ドミナントネガティブ(DN)の様式で動作し、Notch活性化を阻害する。DN-MAMLは、CBFlおよびNotch 1のアンキリンリピート両方に対する接触を通じて安定な三重複合体を形成する62アミノ酸がねじれたα-ヘリックスからなるが、Notch活性化を担うMAMLlのC末端部分を欠く。
【0094】
ANTP/DN-MAML(TR4)(図3B)(SEQ ID NO.:2)からなる融合タンパク質を構築した。
核移行媒介能、Notchシグナル伝達活性化阻害能、動物における生態分布、ならびに乳房腫瘍の外核、中核および内核標的化能について、構築物を試験した。
【0095】
作製
ANTP/DN-MAML融合タンパク質を微生物発現系(E CoIi)で作製した。微生物の発現株を融合遺伝子を含むベクターで形質転換し、発現を誘導し、そして微生物を溶解した。ANTP/DN-MAML融合タンパク質の発現は、誘導後3時間で培養液の2.5 mg/Lまで最大化した。融合タンパク質産物は、ニッケルキレートセファロースカラムによる金属アフィニティクロマトグラフィーを用いて変性条件下でグアニジウムハイドロクロライドおよび尿素により単離された。次にPBSによる2回の透析前に、融合タンパク質産物をトリス緩衝食塩水でリフォールディングし、最終的な機能産物を生じた。重要なことに、リフォールディングしたタンパク質は、非機能性であり、溶液から沈殿する。培養液1リットル当たり0.8〜1 mgの活性化合物の最終収量が得られる。
【0096】
製剤および保存
融合タンパク質をPBS中で0.25 mg/mLで凍結した。使用前に、融合タンパク質を2.5 mg/mLに10倍濃縮した。
【0097】
特徴付けおよび検出
ANTP/DN-MAMLは、以下の14.18 KDa 融合タンパク質である:
(a) 6.6 KDaの分子量を有する60アミノ酸アンテナペディアホモドメイン(SWISSPROT = P02833)

(b) 6.8 KDaの分子量を有する62アミノ酸DN/MAML配列(SWISSPROT = Q92585 (MAMLl- ヒト、アミノ酸13-74))

(c) 0.775 KDaの分子量を有する精製のためのペンタヒスチジンタグ
【0098】
アフィニティカラムから精製されたANTP/DN-MAML融合タンパク質の分画をクーマシーブルー染色によるSDS-PAGE、ならびに抗ペンタヒスチジン抗体、続いてペルオキシダーゼ結合抗体を用いる免疫ブロッティングにより検出した。
【0099】
実施例6
ANTP/DN-MAML媒介核移行
ANTP/DN-MAML(TR4)融合タンパク質の細胞移行を決定するために、ヒト乳房上皮乳癌MDA-MB231細胞に対する免疫染色を行った。MDA-MB231細胞を10%仔ウシ血清を含むDulbecco変法Eagle培地中で37℃でサブコンフルエンスまで培養した。細胞が付着したカバーガラスを洗い、ANTP/DN-MAML精製融合タンパク質と共に無血清中で50 μMの濃度で2時間インキュベートした。細胞を3回洗い、パラホルムアルデヒドで15分間固定化した。簡単な洗浄の後、カバーガラスをブロッキング溶液と共に、続いて抗His1次抗体およびFITC結合2次抗体と共にインキュベートした。蛍光をZeiss Axioscope 40蛍光顕微鏡で観察した。
【0100】
結果は、付着細胞におけるANTP/DN-MAMLの核移行を示す。ヒト癌乳房上皮細胞株MDA- MB231は形質移入がより難しい細胞であるため、この移行は興味深い。
【0101】
実施例7
ANTP/DN-MAML媒介Notch阻害
ANTP/DN-MAMLのNotchシグナル伝達活性化を阻害する潜在的役割を調べるために、高転移性乳房上皮細胞株MDA-MB231細胞株をANTP/DN-MAML融合タンパク質で2時間処理した。総タンパク質をSDSバッファーを用いて細胞から抽出した。総タンパク質濃度をBCAタンパク質アッセイキットを用いて決定した。総タンパク質(10〜50 g)を5×試料バッファー(250 M Tris-HCl pH 6.8、500 mM ジチオスレイトール、10%SDS、0.5%ブロモフェノールブルー、50%グリセロール)で希釈し、100℃で加熱し、SDS-PAGEにより解析した。電気泳動をランニングバッファー(25mM Tris HCl、250mM グリシン、0.1% SDS)中で60分間またはブロモフェノールブルーがゲルから流れ出るまで行った。分離したタンパク質をニトロセルロース膜に氷冷トランスファーバッファー(39mM グリシン、48mM Tris HCl)中で90分間100Vで電気泳動的に転写した。1次抗体によるウェスタンブロットをブロッキングバッファー中で4℃で一晩ヤギで作製した抗マウスIgGペルオキシダーゼ1次抗体(Sigma A9917)を用いて探索した。ニトロセルロース膜を4回それぞれ5分間TBS-Tバッファー中で洗浄した。2次抗体ポリクローナルウサギ抗ヤギ抗体をブロッキングバッファーで1:10,000で希釈し、60分間室温でインキュベートし、次に5分の洗浄を4回TBS-Tで行った。2 ml のSuper Signal West Pico Chemiluminescent基質試薬(PIERCE)を用いて特定の結合を検出し、シグナルをKodak XAR-5フィルム上で捉えた。
【0102】
ANTP/DN-MAMLの発現は、ANTP/DN-MAMLを形質導入した細胞におけるNotchの活性型(NICD)の下方制御を伴ったが、ANTPを形質導入した細胞または親の(形質導入されていない)細胞では伴わなかった。Notch活性化の下方制御は、ANTP/DN-MAML融合タンパク質で処理した細胞で起こったが、ANTP単独で処理した細胞では起こらなかった。結果は、ANTP/DN-MAMLがNotch活性化を阻止するために用いられうることを示す。
【0103】
実施例8
ANTP/DN-MAML生体内分布
アンテナペディアがDN-MAMLをインビボで送達するのに用いることができるか否かを決定するために、CDlヌードマウスに4mg/kgのANTP/DN-MAML 融合タンパク質を尾静脈を介して注射した。マウスを5分間リン酸緩衝生理食塩水で灌流し、注射2時間後に屠殺した。各器官におけるANTP/DN-MAMLの発現をウェスタンブロット解析により決定した。ANTP/DN-MAML注射マウス由来の肝臓、腎臓、心臓、肺、脾臓、および脳由来の組織試料は、対照のPBS注射マウスと比べて重要なシグナルを示した。興味深いことに、ANTP/DN-MAMLは動物の脳においても検出されており、このことは、ANTP/DN-MAMLが血流脳関門を通過できることを示唆する。したがって、本発明の標的化送達システムは、中枢神経系への治療タンパク質の投与において広く適用できる可能性がある。
【0104】
実施例9
ANTP/DN-MAMLは乳房腫瘍の外核、中核および内核に浸透する
精製されたANTP/DN-MAML融合タンパク質を MDA MB231ヒト乳房上皮乳癌細胞を異種移植されたCD 1ヌードマウス内に尾静脈を介して注射した。マウスを5分間リン酸緩衝生理食塩水で灌流し、注射2時間後に屠殺した。腫瘍を取り出し、立体鏡下で解剖し、腫瘍の外核、中核および内核に分けた。腫瘍のそれぞれの核部位におけるANTP/DN-MAMLをウェスタンブロットにより決定した。ANTP/DN-MAMLの発現は、ANTP/DN-MAMLを注射した動物における腫瘍の外核、中核および内核で検出されたが、PBSを注射した対照動物では検出されなかった。
【0105】
ANTP/DN-MAMLの腫瘍内への移行を確かめるために、上記の乳房癌試料に対して免疫組織化学検査を行った。乳房癌細胞の核内で激しいANTP/DN-MAML染色を観察した。これらのデータは、ANTP/DN-MAML融合タンパク質がインビボで核移行を媒介することを実証する。
【0106】
実施例10
アンテナペディアドミナントネガティブMastermindによるインビボでの腫瘍の減少
乳癌異種移植をマウスで確立した。マウスを2群に分け、対照としてPBS、または4 mg/kg ANTP/DN-MAML融合タンパク質のいずれかを2日ごとに注射した(1群当たりn=6)(図4A)。PBSで処置した対照マウスは急速に増殖する腫瘍を発生した。対照マウスを20日後に安楽死させた。ANTP/DN-MAMLで処置したマウスは32日後に腫瘍量の増加はなく、このことはANTP/DN-MAMLが腫瘍増殖を妨げるまたは抑制することを示す(図4B)。
【0107】
実施例11
毒物学的試験および免疫原性試験
次のインビボ実験は、腫瘍モデルにおけるANTP/DN-MAMLの安全性、免疫原性および有効性を調べるために行われた。免疫原性は、治療薬物に対する免疫応答の測定である。抗薬物抗体の発生はアレルギー反応もしくはアナフィラキシー反応、薬物有効性の減少、および/または自己免疫の誘導を引き起こす可能性があるため、免疫原性は治療タンパク質薬物の使用と関係がある。
【0108】
ANTP/DN-MAMLの免疫原性を免疫応答性マウスで調べた。動物をアジュバントなしで1日1回5日間ANTP/DN-MAML(0.2ml、2.5mg/ml)により静脈内注射で免疫化した。1週間に1回4ヶ月間にわたってマウスから採血し、ELISAにより免疫応答をモニターした。血液試料をPBSで1:10、1:100および1:1000に希釈し、免疫応答を未変性のANTP/DN-MAML (50 μg/mlで被覆された)に対するELISAによりモニターし、抗マウス抗体を用いて検出した。結果は、ANTP/DN-MAMLは1週間当たり2.5 mgの用量で免疫応答性マウスに免疫応答を生じさせないことを示した。この用量は、ヒトにおける100 mg/kgと等価である。
【0109】
実施例12
インビボ最大耐性量試験)
ANTP/DN-MAML尾静脈投与をマウスが12週齢に達した時に開始した。低血糖ショックまたは薬物副作用の徴候についてマウスを連続的にモニターし、体重減少が15%を超えた場合に屠殺した。4mg/kg/日から開始し、種々の投与量を試験した。57mg/kg/日のANTP/DN-MAMLが最大耐性量であることがわかった。この用量で、マウスは食欲の減少、体重減少および低血糖症を患った。この試験を注射後3日で動物を屠殺することにより終わらせた。
【0110】
実施例13
卵巣癌、大腸癌および膵臓癌のモデル
高レベルのNotchが大腸癌細胞において発現する。異種移植されたColo205腫瘍を有するメスのヌードマウスにANTP/DN-MAMLを投与した。0.2 mlの4mg/ml ANTP/DN-MAMLタンパク質の注射を一日おきにマウスに投与した。この用量は、患者1人当たり2gのANTP/DN-MAML融合タンパク質と等価である。結果は、ANTP/DN-MAMLの投与がインビボで大腸癌細胞の増殖を減らすことを示した。
【0111】
本発明は上記実施例に関して記載されているが、改変および変更が発明の精神および範囲の範囲内に包含されることが理解されるであろう。したがって、本発明は以下の特許発明の範囲によってのみ限定される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
癌細胞と図3A(SEQ ID NO:1)または図3B(SEQ ID NO:2)に示す構築物とを、構築物を発現させるのに十分な時間接触させ、それによって癌を治療する段階を含む、癌を治療する方法。
【請求項2】
癌が乳癌である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
癌細胞と化学療法剤とを接触させる段階をさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項4】
以下の段階を含む、Notch経路阻害剤による治療に対する癌細胞の応答性を決定する方法:
細胞におけるNotch1のレベルを決定する段階であって、正常な細胞のレベルと比べて高いレベルのNotch 1がNotch経路阻害剤による治療に対して応答性の細胞であることを示す段階。
【請求項5】
Notch経路阻害剤が図3Aまたは図3Bに示される、請求項4記載の方法。
【請求項6】
以下の段階をさらに含む、請求項4記載の方法:
細胞におけるNumb発現のレベルを決定する段階であって、正常な細胞におけるレベルと比べて低いレベルのNumb発現がNotch経路阻害剤による治療に応答性の細胞であることを示す段階。
【請求項7】
癌細胞が乳癌細胞である、請求項4記載の方法。
【請求項8】
図3AまたはSEQ ID NO: 1に示される構築物。
【請求項9】
図3BまたはSEQ ID NO:2に示される構築物。
【請求項10】
癌細胞とドミナントネガティブMastermindアイソフォームまたはNumbアイソフォームとを接触させる段階を含む、癌を治療する方法。
【請求項11】
癌が、乳癌、卵巣癌、大腸癌、肺癌、前立腺癌、造血癌または膵臓癌である、請求項10記載の方法。
【請求項12】
癌細胞と化学療法剤とを接触させる段階をさらに含む、請求項10記載の方法。
【請求項13】
細胞とアンテナペディア(Antennapedia)とを接触させる段階をさらに含む、請求項10記載の方法。
【請求項14】
以下の段階を含む、癌細胞がNotch経路阻害剤による治療に応答性か否かを決定する方法:
細胞におけるNotch 1のレベルを決定する段階であって、正常な細胞におけるレベルと比べて高いレベルのNotch 1がNotch経路阻害剤による治療に応答性の細胞であることを示す段階。
【請求項15】
Notch経路阻害剤がドミナントネガティブMastermindアイソフォームまたはNumbアイソフォームを含む、請求項14記載の方法。
【請求項16】
以下の段階をさらに含む、請求項14記載の方法:
細胞におけるNumb発現のレベルを決定する段階であって、正常な細胞におけるレベルと比べて低いレベルのNumb発現がNotch経路阻害剤による治療に応答性の細胞であることを示す段階。
【請求項17】
癌細胞が、乳癌細胞、卵巣癌細胞、大腸癌細胞、肺癌細胞、前立腺癌細胞、造血細胞または膵臓癌細胞である、請求項14記載の方法。
【請求項18】
癌を有するまたは癌を有する危険性がある被験体を治療するための治療計画をモニターする方法であって、Notchシグナル伝達経路に関与する1つまたは複数の遺伝子の活性または発現を決定する段階を含む、方法。
【請求項19】
Notchシグナル伝達経路に関与する遺伝子が、Jaggedl、Jagged2、デルタ(Delta)様4、E-カドヘリン(E-Cadherin)、Numb、NICD、Notch 3、Heyl、Hes5またはそれらの組合せからなる群より選択される、請求項18記載の方法。
【請求項20】
以下の段階を含む、癌を有するまたは癌を有する危険性がある被験体を診断する方法:
Notchシグナル伝達経路に関与する1つまたは複数の遺伝子の活性または発現を決定する段階であって、正常な細胞におけるレベルと比べたNotchシグナル伝達経路に関与する1つまたは複数の遺伝子の活性または発現の変化が癌を有するまたは癌を有する危険性がある被験体の診断となる段階。
【請求項21】
Notch経路に関与する遺伝子が、Jaggedl、Jagged2 デルタ様4、E-カドヘリン、Numb、NICD、Notch 3、Heyl、Hes5、またはそれらの組合せからなる群より選択される、請求項20記載の方法。
【請求項22】
以下の段階を含む、Notchシグナル伝達経路に関与する1つまたは複数の遺伝子の活性または発現を調節する薬剤を同定する方法:
試験薬剤とNotchシグナル伝達経路に関与する1つまたは複数の遺伝子の発現を示す細胞とを接触させる段階、および
Notchシグナル伝達経路に関与する1つまたは複数の遺伝子の活性または発現の変化を検出し、それによってNotchシグナル伝達経路に関与する1つまたは複数の遺伝子の活性または発現を調節する薬剤として試験薬剤を同定する段階。
【請求項23】
Notchシグナル伝達経路に関与する遺伝子が、Jaggedl、Jagged2、デルタ様4、E-カドヘリン、Numb、NICD、Notch 3、Heyl、Hes5、またはそれらの組合せからなる群より選択される、請求項22記載の方法。
【請求項24】
細胞が癌細胞である、請求項22記載の方法。
【請求項25】
癌細胞が、乳癌細胞、卵巣癌細胞、大腸癌細胞、肺癌細胞、前立腺癌細胞、造血癌細胞または膵臓癌細胞である、請求項24記載の方法。
【請求項26】
薬剤が、化学化合物、タンパク質、または核酸である、請求項22記載の方法。
【請求項27】
薬剤がアンチセンス分子またはRNAi分子である、請求項26記載の方法。
【請求項28】
細胞とアンテナペディアまたはその機能部分に融合させた化合物とを接触させる段階を含む、化合物を細胞に送達する方法。
【請求項29】
化学療法剤が、ダウノルビシン、ダクチノマイシン、ドキソルビシン、ブレオマイシン、マイトマイシン、ナイトロジェンマスタード、クロラムブシル、メルファラン、シクロホスファミド、6-メルカプトプリン、6-チオグアニン、シタラビン(CA)、5-フルオロウラシル(5-FU)、フロクスウリジン(5-FUdR)、メトトレキサート(MTX)、コルヒチン、ビンクリスチン、ビンブラスチン、エトポシド、テニポシド、シスプラチンもしくはジエチルスチルベストロール(DES)またはそれらの組合せから選択される、請求項3または12記載の方法。

【図1A】
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【図1B】
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【図1C】
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【図1D】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4】
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【公表番号】特表2010−540611(P2010−540611A)
【公表日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−527537(P2010−527537)
【出願日】平成20年10月6日(2008.10.6)
【国際出願番号】PCT/GB2008/003378
【国際公開番号】WO2009/044173
【国際公開日】平成21年4月9日(2009.4.9)
【出願人】(510092753)トロジャン テクノロジーズ リミテッド (2)
【Fターム(参考)】