説明

P含有鋼の連続鋳造方法

【課題】合金化溶融亜鉛めっき鋼板においてめっき・合金化後に生ずる筋状欠陥を安定して防止できるP含有鋼の連続鋳造方法を提示する。
【解決手段】質量%でPを0.035%以上含有する鋼を、タンディッシュから鋳型へ溶鋼を注入する浸漬ノズル内に不活性ガスを吹き込みながら鋳造するP含有鋼の連続鋳造方法において、浸漬ノズル内に不活性ガスを吹き込むガス吹込み部の気孔を、全気孔に対する気孔径20μm以下の気孔の体積比率が50%以下になるように設定したことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Pを多く含有する冷延鋼板素材を連続鋳造機で鋳造するP含有鋼の連続鋳造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車用冷延鋼板は、自動車走行燃費の向上と強度や耐食性向上の両立のため、従来よりも薄い鋼板が使用される傾向にある。このため、P含有量が多い成分系の鋼板が一般的に製造されるようになった。
しかし、Pを多く含む場合、冷延鋼板の合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造工程において、合金化ムラが発生し、その部位が線状の模様として認識され、商品価値を損なうという問題があった。
【0003】
このような問題を解決する提案として、鋼板中P量に応じた研削量で鋼板表面研削を行い、合金化処理を誘導加熱方式の合金化炉で行うという提案がなされている(特許文献1参照)。
しかしながら、この方法のように鋼板の表面研削を行うのでは、鉄ロスによる歩留まりの低下が著しく、鋼板の製造コストを大幅に増大するとの問題がある。
そこで、その後の提案において、同様の課題を解決するものとして、合金化ムラ発生の原因を、鋳片表面のオシレーションマーク部に形成される爪部に生成するPの濃化であるとの知見に基づき、連続鋳造時に鋳型内電磁攪拌を実施し、メッキ前に行う鋼板表面研削による研削量を2μm以下にし、また鋳片溶削量を2mm以下にすることによって鉄歩留ロスを少なくした合金化亜鉛メッキ鋼板の製造方法が提案されている(特許文献2参照)。
【0004】
また、本願が対象としている欠陥ではないが、冷延鋼板をプレス加工するときに表面に生じる筋状模様の欠陥(ゴーストライン)の発生防止を目的としたP含有低炭素鋼の連続鋳造方法の発明が提案されている(特許文献3参照)。この欠陥は、冷延鋼板のめっき有無に関わらず発生する。
【0005】
特許文献3においては、ゴーストラインの原因が、浸漬ノズルの詰まり防止を目的としてノズル内に吹き込まれるアルゴンガスが鋳片内部に気泡として残存することによるとの知見に基づき、鋳片内の気泡の残存個数を減少させるためにアルゴンガスの吹き込み量をスループットが大きいほど低減させると共に、アルゴン気泡径を縮小させるためにアルゴンガスと窒素ガスの混合ガスを特に規定した混合割合で吹き込むようにしている。
【特許文献1】特許第2576329号公報
【特許文献2】特許第3728287号公報
【特許文献3】特開2006−55888号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献2に示した方法においては、鋼板表面の研削量を2μm以下にして、鉄歩留ロスを少なくするとしているが、表面積が鋳片に比べて200倍以上になっためっき前の冷延鋼板の表面を2μm程度研削することは、歩溜まりがよいとは言えず、工程の増加、デリバリー遅延を考えると、生産性が極端に低下する。
【0007】
また、特許文献2においては、鋳片溶削を2mm以下にするとしているが、近年より厳格な品質が要求されるようになった自動車用外板材の場合、鋳片表面手入れ厚みが2〜6mm程度実施される場合もあるが、このような対策を実施しても、めっき・合金化後に、黒色の筋状欠陥(外観上0.10〜0.25mm幅、長さ50〜150mm;鋳片厚/冷延板厚み=300〜310の場合)が発生する場合があり、特許文献2の方法では十分とは言えない。
【0008】
また、特許文献3の対象としている欠陥原因となる気泡は、その存在位置が、鋳片の表面から80mm以内であり、また、気泡径は300μm以上である(特許文献3の[0014]参照)。
これに対して、本願の対象としている欠陥原因となる気泡の存在位置は、後述するように、鋳片表層下5mm以内である。また、欠陥原因となる臨界気泡径は300μmよりも小さい200μm程度である。
したがって、鋳片表層下におけるより内部にある気泡で、かつ、より大きな気泡を原因と考える特許文献3の方法では、本願が対象としている主として鋳片表層下5mm以内で、かつ、臨界気泡径が200μmの気泡が原因である冷延鋼板の合金化亜鉛めっき鋼板の筋状欠陥を完全に防止することはできない。
【0009】
なお、欠陥原因となる臨界の気泡径がゴーストライン欠陥では300μmであるのに対して、本発明の対象となる欠陥では200μmである理由は、ゴーストライン欠陥の原因となる気泡が比較的鋳片の内部に存在するのに対して、本発明が対象とする欠陥の原因となる気泡は鋳片表層部に存在するため、欠陥に対する感受性がより高くなり、よって欠陥となる限界の気泡径が小さくなるためである。
【0010】
また、特許文献3の方法では、スループットとガス吹込み量とを関連付けているため、欠陥防止対策のためにガス吹込み量が制限され、ノズルの詰まりを生ずる危険もある。
【0011】
以上のように、特許文献2に開示の方法は、本願が対象としている欠陥発生の防止にはなるが、その方法は、上述のように、歩溜まりの悪さ、工程の増加、デリバリー遅延などから、生産性が極端に低下するという問題がある。
また、特許文献3に開示の方法は、そもそも本願が対象としている欠陥とは異なる欠陥を対象としているため、上述のようにその原因の相違から、その手段を講じたとしても本願が対象としている欠陥防止には十分な結果を得ることはできない。
【0012】
本発明はかかる課題を解決するためになされたものであり、合金化溶融亜鉛めっき鋼板においてめっき・合金化後に生ずる筋状欠陥を安定して防止できるP含有鋼の連続鋳造方法を提示することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、鋳片表層5mm以内に捕捉された気泡と冷延めっき材の筋状欠陥の関係を鋭研究した結果、Pを多く含有する合金化溶融亜鉛めっき鋼板の筋状欠陥は、従来例において指摘されているような、鋳片表面のPの濃化が生じるオシレーションマークの爪部の存在が原因ではなく、気泡部のPの濃化が原因であることを突き止めた。
【0014】
この理由は、表層下5mm以内の鋳片内部に捕捉された気泡の周囲に形成されたPの正偏析が冷延までの間に表面に露出し、これが原因でめっきムラが生じるためと考えられる。
気泡の周囲に形成されるP偏析度は、その大きさ(圧延方向に直角方向の幅)が小さい場合には、気泡周辺が凝固してからめっきされるまでの熱履歴に依存して、軽減される。つまり、偏析幅が小さい場合には、濃化したPが周囲のマトリックスに十分に拡散してめっき前までには、偏析として認識されなくなる。
よって、P偏析幅が或る臨界値以下では無害化される。つまり、凝固直後のP偏析幅は捕捉された気泡径にほぼ対応するため、欠陥が無害化する臨界気泡径が存在することになる。
【0015】
この臨界気泡径は、筋状欠陥発生率と鋳片表層下5mm以内に存在する気泡径密度の関係から求めることができる。厚み方向の気泡分布は凝固初期には凝固速度が速い為、鋳造条件にほとんど影響されず、鋳片表層下4mm近傍で最も存在密度が高く、さらに深くなると減少する特徴がある。
そこで、P含有率0.035〜0.045、0.045〜0.070、0.070〜0.10の三種類の鋼について、鋳片表層下4mm面での気泡密度を、以下の方法で調査した。すなわち、鋳片幅方向6分割し、その分割境界部で面積50mm(鋳造方向)×150mm(幅方向)を切り出し、表面を4mm研削しバフ研磨後ピクリン酸腐食して気泡部を顕在化させて気泡径を測定し、単位面積当りの気泡密度を算出した。
その結果、欠陥発生率は全気泡密度や平均気泡径との間でも相関が若干認められるが、気泡径200μm以上の気泡密度との相関が最も強いことがわかった。特に、200μm以上の気泡密度が0.03個/cm以下では、筋状欠陥がほとんど防止できることがわかった。
図1は上記結果をグラフ表示したものであり、縦軸が筋状欠陥発生率(%)、横軸が200μm以上の気泡密度(1/cm2)を示している。
【0016】
上記のことから、筋状欠陥発生を防止するためには、鋳片内部の表層5mm以内の気泡径200μm以上の気泡密度を低減することが重要であるとの知見を得た。
なお、5mmより内部の気泡は冷延板まで加工されても表面に内部のP偏析部が露出しないため、5mm以内を対象とすればよい。
【0017】
以上のような知見を基に発明者は鋭意研究を重ね、鋳片内部の表層5mm以内の気泡径200μm以上の気泡密度を低減する方法見出し、本発明を完成させたのであり、具体的には以下の構成を備えてなるものである。
【0018】
(1)本発明に係るP含有鋼の連続鋳造方法は、質量%でPを0.035%以上含有する鋼を、タンディッシュから鋳型へ溶鋼を注入する浸漬ノズル内に不活性ガスを吹き込みながら鋳造する連続鋳造方法において、浸漬ノズル内に不活性ガスを吹き込むガス吹込み部の気孔を、全気孔に対する気孔径20μm以下の気孔の体積比率が50%以下になるように設定したことを特徴とするものである。
【0019】
(2)また、上記(1)に記載のものにおいて、不活性ガスがアルゴンと溶解性ガスの混合ガスであり、アルゴンの体積含有率α(%)を下記式で与えて鋳造することを特徴とするものである。
α<100×(200/dmax
但し、dmaxは、アルゴン単独ガスを吹き込んで鋳造した鋳片の表層下5mm以内に捕捉された最大気泡直径(μm)
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、鋳片段階で合金化溶解亜鉛めっき鋼板の、筋状合金化ムラの原因となるP偏析を抑制できるため、冷延板表面の研削をすることなく、筋状欠陥の発生を安定して防止できる。その結果、従来例に比較して、製品歩留まり向上やデリバリーの短縮という効果が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下においては、本願発明の各構成要件の根拠を説明する。
上述したように、合金化ムラの原因となる気泡は、鋳片表層下5mm以内の鋳片内部に捕捉されたものである。そして、鋳片表層下5mm以内に捕捉されやすい気泡径を調べたところ、50〜500μmの範囲であり、その中でも平均径100μm前後のものがほとんどである。
これは、気泡径50〜500μmのように気泡が小さいと、浮力の影響よりも溶鋼流動の影響が顕在化し、より鋳片表層まで流れに乗って到達し易くなるためと考えられる。
そこで、鋳片内に捕捉されやすい50〜500μm範囲の気泡径の存在に影響する因子を鋭意研究した結果、吹き込みノズルの気孔径分布が強く影響することを見出した。
【0022】
そしてさらに、本発明対象の黒筋状欠陥の原因である直径200μm以上の気泡密度と、ノズルの気孔径分布との関係について研究した。
図2はこの関係を知るために行った実験結果を示すグラフであり、縦軸が直径200μm以上の気泡密度を示し、横軸がガス吹込みノズルにおけるガス吹込み部の全気孔に対する気孔径20μm以下の気孔体積比率を示している。
【0023】
図2に示されるように、直径200μm以上の気泡密度が極端に小さくなる条件(気泡密度<0.03となる条件)は、吹き込みノズルにおけるガス吹込み部の全気孔に対して気孔径20μm以下の気孔体積比率が50%以下の場合である。
【0024】
ガス吹込み部の全気孔に対し気孔径20μm以下の気孔体積比率が50%以下で、200μm以上の気泡の占める割合が極端に小さくなる理由は、以下のように考えられる。
20μmより大きい気孔の気孔体積比率の増加により、ガス吹込み後に形成される気泡の径分布が、径の大きい方向にシフトする。このため、吹込みガス量に対する浮上・分離するガス量の比率(ガス浮上比率)が増加し、溶鋼内に残存する気泡は直径が小さく、かつその絶対量も少なくなる。その結果、鋳片表層下に捕捉される気泡径は小さくなり、またその絶対量も少なくなる。
【0025】
もっとも、気孔径20μm以下の気孔体積比率を小さくし過ぎると、単体気泡径が大きくなり過ぎて溶鋼中の介在物との衝突頻度が低下して介在物浮上促進が妨げられ、介在物浮上促進という吹込みガスの本来の作用が阻害される。また、径の大きい気泡が溶鋼から浮上離脱する際の湯面撹乱によるモールドフラックス巻き込みが発生し易くなる。さらに、ノズル詰まりも起こりやすくなる。よって、これらを防止する観点から、気孔径20μm以下の気孔体積比率の下限は、15%が好適である。
【0026】
以上のように、ガス吹込み部の全気孔に対し気孔径20μm以下の気孔体積比率が15〜50%のガス吹込みノズルを使用して、対象鋼種を鋳造すれば、介在物起因欠陥の増加を防止しつつ黒筋状欠陥を防止できる。
【0027】
[実施の形態2]
実施の形態1で示したようなガス吹込みノズルを使用することにより、鋳片内部の表層5mm以内に捕捉される200μm以上の気泡(以下、単に「200μm以上の気泡」という場合あり。)の占める割合を少なくすることができるが、完全になくすることができるとは限らない。
そこで、発明者は、さらに検討を重ね、Arを単独使用する代わりにArと溶解性ガス(例えば、N)を一定の割合で混合して使用することにより、200μm以上の気泡をさらに少なくできることを見出した。
この理由を以下に説明する。
【0028】
Arガス単独使用時において、鋳片表層5mm以内に捕捉された最大気泡径をdmaxとし、この最大気泡径dmaxが200μm以上であった場合には、Arガスを単独で使用するのではなく、Arガスに溶解性ガス(例えば、N)を混合して使用(以下、単に「混合ガス」という)する。
このようにする理由は、Arガス単独使用時と混合ガスの吹込み量が同量であるとすると、ガス吹込みの瞬間には、混合ガスによってできる気泡の径はArガス単独使用時と同様にdmaxであるが、混合ガスの場合には、溶解性ガスが溶けて気泡の径が小さくなるため、ガス吹込みの瞬間には気泡径が200μm以上であったとしても、その後に気泡径が小さくなり、気泡径を200μmより小さくすることができるからである。
【0029】
混合ガスを使用するとして、その場合のArガスの体積率α(%)をいくらにすればよいかについてさらに説明する。
混合ガスにおけるArガスの体積をVAR、Nの体積をVN2とし、混合ガスの吹き込みの瞬間における気泡の直径をdmaxとし、一つの気泡に着目すれば、以下の関係式が成立する。
AR+VN2=(4/3)π(dmax/2) ・・・・ (1)
また、混合ガスの吹き込み後、Nが溶解したことにより、気泡が縮小したときの気泡径をdminとすると、下式の関係が成立する。
AR=(4/3)π(dmin/2) ・・・・ (2)
したがって、混合ガス中のArガスの体積率α(%)とすると、上記の(1)、(2)式から、
α=100×{VAR/(VAR+VN2)}=100×(dmin/dmax ・・ (3)
となる。
ここで、dminが臨界径である200μmであるとすれば、(3)式は下記のようになる。
α=100×(200/dmax ・・ (4)
【0030】
(4)式におけるαの示すところは、混合ガスにおける気泡径が200μmになるときの混合ガス中のArガスの体積率であるから、混合ガスにおける気泡径を200μmより小さくなるようにするには、混合ガス中におけるArガスの体積率を上記(4)式で示される値よりも小さくすればよい。結局、混合ガスにおける気泡径を200μmより小さくするためのαの条件は下式で与えられる。
α<100×(200/dmax ・・・(5)
ここで、dmaxは、アルゴン単独ガスを吹き込んで鋳造した鋳片の表層下5mm以内に捕捉された最大気泡直径(μm)である。この最大気泡直径の測定は、前述したのと同様に、鋳片を分割して、表面4mm研削しパフ研磨後、ピクリン酸腐食して気泡部を顕在化させて測定すればよい。
【0031】
(5)式中の200は、溶鋼中P濃度[%Po]=0.050時の欠陥発生の臨界気泡径200μmを意味する。
しかしながら、溶鋼中P濃度が変わった場合であっても、(5)式中の200はそのままでよい。
この理由は、筋状欠陥は、欠陥部とそれ以外の部分の相対的な色合いの変化により認識される欠陥であるため、筋部P偏析の絶対値ではなく、偏析比(Pmax/Po;ここで、Pmax:筋部最大濃度、Po:溶鋼中のP濃度)に影響されるためである。
したがって、[%Po]=0.050%時において得られた欠陥発生の臨界気泡径200μmは、溶鋼中のP濃度に影響されず、(5)式で規定できるのである。
【0032】
以上のように、αを(5)式で示す値よりも小さくすることにより、直径200μm以上の気泡を極端に少なく(理論上はゼロに)できる。
もっとも、αが小さ過ぎると、生成する気泡径も減少し過ぎるため、溶鋼中の介在物と気泡との衝突・合体による介在物の浮上促進が阻害され、溶鋼清浄性が悪化し、介在物性欠陥が増大する懸念がある。
よって、介在物性欠陥が増大しない範囲内で最小のαを経験的に決定すればよい。
なお、使用する溶解性ガスとしては、窒素がハンドリング上好適であるが、水素、CO、プロパンガス等でもよい。
【0033】
また、ガス吹込み流量は、スループット当たりのガス流量Qを一定にする(例えば、Q=3.2TP、TP:スループット(ton/min))とする操業が好ましい。このようにすることで、ガス吹込みの効果を十分に発揮しつつ欠陥発生を防止できる。このように、スループットの増減に伴ってガス吹込み流量を増減できるのは、本発明では、残存気泡を少なくする手段としてスループットと関わりのない気泡径に着目し、気泡径を臨界径以下にするという手段を講じたためである。
この点、従来例である、特開2006-55888号公報(特許文献2)、特開2003-73771号公報(特許文献3)に記載の発明では、スループット増加にしたがってガス吹込み量を減少させている。このように、従来例の方法では、ノズルへのガス吹込み量がスループットの影響を受けるので、ガス吹込み効果を十分に発揮できない可能性がある。
【0034】
また、混合ガスの吹き込み流量については、以下の範囲にするのが好適である。
8≦Q=3.2TP≦18 ・・・(6)
ここで、Qはスループット当りのガス流量(NL/ton)であり、TPはスループット(ton/min)である。
流量に下限値8NL/minを設けているのはノズル詰まり防止のためである。一方、上限値18NL/minは他の欠陥(介在物系欠陥、モールドフラックス系欠陥)の増加防止のためである。
【0035】
上記においては、欠陥発生の臨界気泡径が200μmであるとして説明した。これは、欠陥発生率と鋳片に存在する気泡密度との関係から、欠陥発生率が、気泡径が200μm以上の気泡密度と相関があるとの知見を前提としたものである。
この前提が正しいことを実証するために、連続鋳造した鋼板を合金化溶融亜鉛めっき鋼板にしたものであって、筋状欠陥が発生したものをサンプルとして、欠陥発生の臨界気泡径を求めたので、これについて説明する。
【0036】
連続鋳造した鋼板を、合金化溶融亜鉛めっき鋼板にしたものであって、筋状欠陥が発生したものをサンプルとして、EPMA分析によって、最大偏析比を求めたところ、1.6以上であった。EPMA分析による最大偏析比とは、めっき層をインヒビター入りのアルカリ溶液あるいは希塩酸で化学溶解除去後、ビーム径1μmで分析し得られるマッピング結果から、偏析部を50μm幅でライン分析した際のPoに対するPmax(最大濃度)の比をいう。
【0037】
上記の最大偏析比を、加熱炉からめっきまでの熱履歴を考慮したPの拡散計算によって、鋳造後の冷却した鋳片内の偏析比、すなわち鋳片厚み方向断面内の気泡をビーム径1μmで分析して得られるマッピング結果から、偏析部を50μm幅ライン分析した際のPoに対する最大濃度の比に換算すると、3.8以上であった。
つまり、鋳片内の気泡部偏析比が3.8以上であることが筋状欠陥になる臨界値である。
そこで、P含有率0.035〜0.045、0.045〜0.070、0.070〜0.10の三種類の鋼について、気泡径と気泡部P偏析比との関係を求めた。図3はこの結果をグラフで示したものであり、縦軸が気泡部P偏析比(Pmax/Po)を示し、横軸が気泡径(μm)を示している。
図3から分かるように、いずれの鋼種の場合にも気泡径が200μm以上のときに、気泡部P偏析比が3.8以上になっている。このことから、気泡径が200μm以上になると筋状欠陥が発生すると認められる。
この結果は、200μm以上の気泡密度が大きくなると欠陥発生率が急増することを示した図1の結果とも符合する。
【実施例】
【0038】
本発明の効果を確認するために、本発明で規定した条件およびそれ以外の条件により、極低炭素鋼(C:0.0015、Si<0.05、Mn:0.40、P:0.035〜0.10、S:0.001、Al:0.04)のスラブ(サイズ220mm×1000〜1800mm)を、垂直曲げ型の鋼の連続鋳造機によって鋳造し、溶融亜鉛めっき鋼板を製造した。
鋳造およびめっきの条件は以下に示すもの及び後述の表1に示す通りである。
【0039】
(1)ガス吹込み条件
図4はガス吹込み部の説明図であり、タンディッシュ1と鋳型(図示なし)間に配置された浸漬ノズル3の上方に設けられた上ノズル5の一部をポーラス煉瓦で構成してポーラス部7とし、この部分からガス吹込みを行うようにした。
タンディッシュ上ノズルにおけるガス吹込み部の20μm以下気孔径の体積比率は、表1の通りである。なお、気孔径分布は水銀圧入法で測定した。
(2)吹き込みガス条件
アルゴン単独と前述の(4)式で規定した窒素との混合ガスとし、3.2NL/ton一定とした。
(3)鋳造速度
1.0〜2.2m/minで鋳造した。
(4)鋼板製造条件
鋳造後、無手入れのまま、通常の方法にて熱間圧延を経て、冷間圧延し0.7mm厚みとし、その後、溶融亜鉛めっきした。
(5)めっき条件
亜鉛浴温度460℃、浴中のAl濃度0.13%、付着量片面当たり50g/m2、鉄合金化度が10%になるように合金化温度を520〜580℃の範囲で調整した。
(6)欠陥検査条件
めっき・合金化後の表面を目視検査し筋状欠陥の有無を検査した。筋状欠陥の判定は、筋状欠陥の程度を鮮明度(見え方)で評価し、A(弱),B(中),C(強)の3段階で順位付けして、C評価を筋状欠陥とする。そして、C評価となった筋状欠陥の個数を数え、所定個数以上の筋状欠陥がある製品を不良製品とし、ある製造チャンスにおける全製品重量に対する不良製品重量の比率で筋状欠陥発生率を評価した。
すなわち、筋欠陥発生率=不良製品重量/製品重量×100%
また、鋳片表層下4mm面での気泡密度の調査を、以下の方法により行った。鋳片幅方向6分割し、その分割境界部で50mm(鋳造方向)×150mm(幅方向)を切り出し、表面を4mm研削しパフ研磨後ピクリン酸腐食して気泡部を顕在化させて気泡径を測定し、単位面積当りの気泡密度を算出した。
表1に結果をまとめた。
【0040】
【表1】

【0041】
表1に示されるように、ガス吹込み部の20μm以下気孔径の体積比率が50%以下のもの(本発明例)では、筋状欠陥発生率が、比較例に比べて著しく小さくなっている。このことから、本発明によって筋状欠陥発生を効果的に低減できることが実証された。
また、NO.8、NO.9は共に本発明例であり、P%とガス吹込み部の20μm以下気孔径の体積比率が同じで、NO.8はArガスの単独とし、NO.9は混合ガスとしたものであるが、NO.9の方が、吹込みガス総量が多いにもかかわらず、最大気泡径および200μm以上気泡密度が小さく、筋状欠陥発生率も小さくなっている。
このことから、本発明で規定した割合での混合ガス吹き込みが筋状欠陥発生防止に効果的であることが実証された。
【0042】
なお、上記の実施例では、図4に示すように、上ノズルからガス吹込みを行うようにした例を示したが、本発明においては、ガス吹込みの位置は特に限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】筋状欠陥発生率と気泡密度の関係を示すグラフである。
【図2】上ノズル気孔径20μm以下の体積比率と200μm以上気泡密度の関係を示すグラフである。
【図3】鋳片内の気泡径と気泡周囲のP偏析比の関係を示すグラフである。
【図4】本発明の実施例におけるガス吹込み部の説明図である。
【符号の説明】
【0044】
1 タンディッシュ
3 浸漬ノズル
5 上ノズル
7 ポーラス部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%でPを0.035%以上含有する鋼を、タンディッシュから鋳型へ溶鋼を注入する浸漬ノズル内に不活性ガスを吹き込みながら鋳造するP含有鋼の連続鋳造方法において、
浸漬ノズル内に不活性ガスを吹き込むガス吹込み部の気孔を、全気孔に対する気孔径20μm以下の気孔の体積比率が50%以下になるように設定したことを特徴とするP含有鋼の連続鋳造方法。
【請求項2】
不活性ガスがアルゴンと溶解性ガスの混合ガスであり、アルゴンの体積含有率α(%)を下式で与えて鋳造することを特徴とする請求項1記載のP含有鋼の連続鋳造方法。
α<100×(200/dmax
但し、dmaxは、アルゴン単独ガスを吹き込んで鋳造した鋳片の表層下5mm以内に捕捉された最大気泡直径(μm)

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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