説明

P2Y2受容体作動薬およびヒアルロン酸またはその塩を組み合わせたことを特徴とするドライアイ治療剤

【課題】より強力な涙液分泌促進作用を有する新たなドライアイ治療剤を探索する。
【解決手段】治療有効濃度のP2Y2受容体作動薬と、治療有効濃度のヒアルロン酸またはその塩とを組み合わせたことを特徴とするドライアイ治療剤であって、剤型が眼科用剤であるドライアイ治療剤は、涙液分泌を顕著に促進するとともに、角膜上皮障害をも顕著に改善することから、新たなドライアイ治療剤となることが期待される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、治療有効濃度のP2Y2受容体作動薬と、治療有効濃度のヒアルロン酸またはその塩とを組み合わせたことを特徴とするドライアイ治療剤であって、剤型が眼科用剤であるドライアイ治療剤に関する。
【背景技術】
【0002】
ドライアイは目が乾く、ゴロゴロするという不快感程度の症状から始まり、悪化すると日常生活に多大な支障をきたす疾患である。ドライアイ患者数は、高齢化社会の到来やパソコンなどのVDT(video display terminal)作業の増大に伴い年々増加しており、米国内の推定患者数は1,000万人以上、わが国においても800万人以上と言われている。
【0003】
ドライアイの病態については完全には明らかとなっていないものの、涙液分泌の減少、涙液蒸発の亢進などを原因とする角結膜上の涙液量の減少がその主な病因であると考えられている。すなわち、涙液量の減少に伴う角結膜の乾燥は、眼不快感、眼乾燥感、眼疲労感、充血、角結膜上皮障害などの病的症状および/または所見を引き起こす。これらの症状および/または所見が進行すると、究極的には視覚異常が生じるため、ドライアイを早期且つ適切に治療することは極めて重要である。
【0004】
ドライアイの治療法として最も望ましいことは、ドライアイ患者の涙液分泌を促進させることであると考えられるが、これまで、そのような作用を有するドライアイ治療剤は知られていなかった。そこで、従来のドライアイ治療においては、人工涙液点眼、涙点プラグによる涙液排出抑制などの治療法が選択されることが一般的であった。
【0005】
また、ドライアイ治療剤としては、ヒアルロン酸含有点眼液も汎用されている。ヒアルロン酸は涙液分泌促進作用を有していないものの、Cornea, 12(5), 433−436 (1993)(非特許文献1)には、ヒアルロン酸がその分子内に多数の水分子を保持することによって優れた保水性を示すことが開示されている。ヒアルロン酸含有点眼液によるドライアイ治療の作用機序には諸説あるものの、このようなヒアルロン酸の保水作用は角結膜の乾燥を緩和するものと考えられる。
【0006】
一方、P2Y2受容体とは、プリン受容体であるP2Y受容体のサブタイプの一つであり、塩化物イオンの分泌の制御などに深く関与していると考えられている。P2Y受容体のリガンドは生体内ヌクレオチドであると考えられており、Current Medicinal Chemistry, 13(3), 289−312 (2006)(非特許文献2)には、ウリジン−5’−三リン酸(UTP)、アデノシン−5’−三リン酸(ATP)およびそれらの誘導体に代表されるヌクレオチド、P1,P4−ビス(5’−ウリジル)四リン酸(「ジクアホソル」または「INS−365」とも呼ばれる)に代表されるジヌクレオチドなどが、P2Y2受容体のアゴニストとして機能することが記載されている。
【0007】
最近になって、これらのP2Y2受容体作動薬が涙液分泌を促進する作用を有することが明らかとなり、新たなドライアイ治療剤として注目を集めている。たとえば、Current Eye Research, 21(4), 782−787 (2000)(非特許文献3)には、UTPおよびATPがウサギにおいて涙液分泌を促進することが開示されており、P2Y2受容体を刺激することで涙液分泌が促進することが示唆されている。また、Cornea, 23(8), 784−792 (2004)(非特許文献4)には、臨床試験において、前記ジクアホソルを含有する点眼液が涙液分泌を促進し、且つ角結膜上皮障害を改善したことが報告されている。
【0008】
しかしながら、これらのドライアイ治療剤を以ってしても十分に治療できない重篤なドライアイ患者も存在し、より強力な涙液分泌促進作用を有するドライアイ治療剤の開発が待ち望まれている。
【0009】
ところで、特表2001−504858号公報(特許文献1)には、プリン受容体(P2Y2受容体)を活性化する化合物を含有する涙液分泌促進剤に、添加剤としてヒアルロン酸を添加しうることが示唆されている。ただし、医薬品添加物辞典, 220 (2007)(非特許文献5)に記載されているように、眼科用剤において添加剤として使用できるヒアルロン酸の最大量は0.2mg/g(0.02%(w/w))であり、治療有効濃度(点眼濃度として0.1%(w/v)以上)のヒアルロン酸とP2Y2受容体作動薬とを組み合わせて点眼することについては、一切記載も示唆もされていない。
【0010】
以上のように、P2Y2受容体作動薬と治療有効濃度のヒアルロン酸を組み合わせた時にどのような効果を奏するのかについては全く明らかとなっていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特表2001−504858号公報
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】Cornea, 12(5), 433−436 (1993)
【非特許文献2】Current Medicinal Chemistry, 13(3), 289−312 (2006)
【非特許文献3】Current Eye Research, 21(4), 782−787 (2000)
【非特許文献4】Cornea, 23(8), 784−792 (2004)
【非特許文献5】医薬品添加物辞典, 220 (2007)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
したがって、より強力な涙液分泌促進作用を有する新たなドライアイ治療剤を探索することは興味深い課題である。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、新たなドライアイ治療剤を探索するため鋭意研究を行なったところ、P2Y2受容体作動薬と治療有効濃度(0.1%および0.3%)のヒアルロン酸またはその塩を組み合わせて点眼したときに、正常ウサギにおいて、顕著な涙液分泌の促進が認められることを見出し、本発明に至った。さらに、P2Y2受容体作動薬と治療有効濃度のヒアルロン酸またはその塩を組み合わせて点眼した場合、ドライアイモデルにおいて、顕著な角膜上皮障害改善作用が確認された。
【0015】
一方で、P2Y2受容体作動薬と添加物濃度(0.002%)のヒアルロン酸またはその塩を組み合わせて点眼した場合には、前述の涙液分泌促進作用が認められなかったことを鑑みれば、これは驚くべき結果である。
【0016】
すなわち、本発明は、治療有効濃度のP2Y2受容体作動薬と、治療有効濃度のヒアルロン酸またはその塩とを組み合わせたことを特徴とするドライアイ治療剤であって、剤型が眼科用剤であるドライアイ治療剤(以下、「本治療剤」ともいう)である。
【0017】
また、本発明のドライアイ治療剤におけるP2Y2受容体作動薬は、下記一般式[I]で表される化合物(以下、これらを総称して「本化合物」ともいう)またはその塩であることが好ましい。
【0018】
【化1】

【0019】
[式中、X1はヒドロキシ基、チオール基、
【0020】
【化2】

【0021】
または
【0022】
【化3】

【0023】
を示し、X2は酸素原子、−NH−または−CR12−を示し、X3
【0024】
【化4】

【0025】

【0026】
【化5】

【0027】
または
【0028】
【化6】

【0029】
を示し、Aは
【0030】
【化7】

【0031】
または
【0032】
【化8】

【0033】
を示し、YはCO、CSまたはCHSR6を示し、R1、R2、R3、R4、R5およびR6は同一または異なって水素原子、ハロゲン原子またはアルキル基を示し、nは0〜4の整数を示す。]
また、本発明のドライアイ治療剤におけるP2Y2受容体作動薬は、P1,P4−ビス(5’−ウリジル)四リン酸(以下、「ジクアホソル」ともいう)、ウリジン 5’−三リン酸(UTP)、アデノシン 5’−三リン酸(ATP)またはそれらの塩であることが好ましい。
【0034】
また、本発明のドライアイ治療剤の眼科用剤の剤形は、点眼剤または眼軟膏であることが好ましい。
【0035】
本発明はまた、1〜5%(w/v)のジクアホソルまたはその塩と、0.05〜0.5%(w/v)の濃度のヒアルロン酸またはその塩とを組み合わせたことを特徴とするドライアイ治療用点眼剤についても提供する。
【0036】
本発明はさらに、3%(w/v)のジクアホソルまたはその塩と、0.1〜0.5%(w/v)の濃度のヒアルロン酸またはその塩とを組み合わせたことを特徴とするドライアイ治療用点眼剤についても提供する。
【発明の効果】
【0037】
後述するように、本治療剤は涙液分泌を顕著に促進するとともに、角膜上皮障害をも顕著に改善することから、新たなドライアイ治療剤となることが期待される。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】被験薬点眼後の涙液メニスカスの面積値の経時変化を示すグラフである。
【図2】被験薬点眼前後の角膜のフルオレセイン染色スコアの変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0039】
本発明のドライアイ治療剤は、P2Y2受容体作動薬およびヒアルロン酸またはその塩を、それぞれ治療有効濃度で組み合わせた点を大きな特徴とするものである。
【0040】
本発明における「P2Y2受容体作動薬」とは、P2Y2受容体に結合し、その下流のシグナル伝達経路を活性化する化合物であれば特に限定されるものではない。なお、P2Y2受容体作動薬は、Bioorg. Med. Chem. Lett. 11(2), 157−160 (2001)などに開示された方法に従って容易にスクリーニングすることができる。
【0041】
本発明におけるP2Y2受容体作動薬としては、上述した一般式[I]で表される本化合物またはその塩が好ましい。ここで、本化合物において、ハロゲン原子とはフッ素、塩素、臭素またはヨウ素を示す。また本化合物において、アルキル基は、その炭素数については特に制限されるものではないが、たとえば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、イソプロピル基、イソブチル基、イソペンチル基、イソヘキシル基、t−ブチル基、3,3−ジメチルブチル基などの1〜6個の炭素原子を有する直鎖または分枝のアルキル基であることが好ましい。
【0042】
(a)本化合物の好ましい例としては、一般式[I]で表される化合物において、各基が下記に示す基である化合物が挙げられる。
【0043】
(a1)X1
【0044】
【化9】

【0045】
または
【0046】
【化10】

【0047】
を示し;
(a2)X2は酸素原子を示し;
(a3)X3
【0048】
【化11】

【0049】

【0050】
【化12】

【0051】
または
【0052】
【化13】

【0053】
を示し;
(a4)Aは
【0054】
【化14】

【0055】
を示し;
(a5)YはCO、CSまたはCHSR6を示し;
(a6)R3およびR6は同一または異なって水素原子、ハロゲン原子またはアルキル基を示し;
(a7)nは0〜4の整数を示す。
【0056】
(b)本化合物の別の好ましい例としては、一般式[I]で表される化合物において、各基が下記に示す基である化合物が挙げられる。
【0057】
(b1)X1
【0058】
【化15】

【0059】
を示し;
(b2)X2は酸素原子を示し;
(b3)X3
【0060】
【化16】

【0061】
を示し;
(b4)Aは
【0062】
【化17】

【0063】
を示し;
(b5)R4およびR5は同一または異なって水素原子、ハロゲン原子またはアルキル基を示し;
(b6)nは1を示す。
【0064】
(c)本化合物の別の好ましい例としては、一般式[I]で表される化合物において、各基が下記に示す基である化合物が挙げられる。
【0065】
(c1)X1はヒドロキシ基またはチオール基を示し;
(c2)X2は酸素原子、−NH−または−CR12−を示し;
(c3)X3
【0066】
【化18】

【0067】

【0068】
【化19】

【0069】
または
【0070】
【化20】

【0071】
を示し;
(a4)Aは
【0072】
【化21】

【0073】
または
【0074】
【化22】

【0075】
を示し;
(c5)YはCO、CSまたはCHSR6を示し;
(c6)R1、R2、R3、R4、R5およびR6は同一または異なって水素原子、ハロゲン原子またはアルキル基を示す。
【0076】
本化合物の好ましい具体例として、下記化合物またはそれらの塩が挙げられる。
・P1,P3−ビス(5’−ウリジル)三リン酸[Up3U]
【0077】
【化23】

【0078】
・P1,P4−ビス(5’−ウリジル)四リン酸[ジクアホソル]
【0079】
【化24】

【0080】
・P1−(ウリジン 5’)−P4−(2’−デオキシシチジン 5’)四リン酸[Denufosol]
【0081】
【化25】

【0082】
・P1,P5−ビス(5’−ウリジル)五リン酸[Up5U]
【0083】
【化26】

【0084】
・P1,P6−ビス(5’−ウリジル)六リン酸[Up6U]
【0085】
【化27】

【0086】
・P1,P7−ビス(5’−ウリジル)七リン酸[Up7U]
【0087】
【化28】

【0088】
・P1,P4−ビス(5’−アデノシル)四リン酸[Ap4A]
【0089】
【化29】

【0090】
・ウリジン 5’−三リン酸[UTP]
【0091】
【化30】

【0092】
・ウリジン 5’−O−(3−チオ三リン酸)[UTPγS]
【0093】
【化31】

【0094】
・ウリジン 5’−(β,γ−イミド)三リン酸[β,γ−イミド−UTP]
【0095】
【化32】

【0096】
・ウリジン 5’−(β,γ−メチレン)三リン酸[β,γ−メチレン−UTP]
【0097】
【化33】

【0098】
・ウリジン 5’−(β,γ−ジフルオロメチレン)三リン酸[β,γ−ジフルオロメチレン−UTP]
【0099】
【化34】

【0100】
・(N)−メタノカルバ−UTP
【0101】
【化35】

【0102】
・L−α−スレオフラノシル−UTP[MRS−2488]
【0103】
【化36】

【0104】
・5−ブロモウリジン 5’−三リン酸[5−Br−UTP]
【0105】
【化37】

【0106】
・5−エチルウリジン 5’−三リン酸[5−Ethyl−UTP]
【0107】
【化38】

【0108】
・4−チオウリジン 5’−三リン酸[4−Thio−UTP]
【0109】
【化39】

【0110】
・4−ヘキシルチオウリジン 5’−三リン酸[4−ヘキシルチオ−UTP]
【0111】
【化40】

【0112】
・アデノシン 5’−三リン酸[ATP]
【0113】
【化41】

【0114】
・アデノシン 5’−O−(3−チオ三リン酸)[ATPγS]
【0115】
【化42】

【0116】
・アデノシン 5’−(β,γ−イミド)三リン酸[β,γ−Imido−ATP]
【0117】
【化43】

【0118】
・(N)−メタノカルバ−ATP
【0119】
【化44】

【0120】
・2−クロロアデノシン 5’−三リン酸[2−クロロ−ATP]
【0121】
【化45】

【0122】
・8−ブロモアデノシン 5’−三リン酸[8−ブロモ−ATP]
【0123】
【化46】

【0124】
本発明におけるP2Y2受容体作動薬として特に好ましいのは、ジクアホソル、UTP、ATPまたはそれらの塩である。
【0125】
本発明におけるP2Y2受容体作動薬として最も好ましいのは、ジクアホソルまたはその塩である。
【0126】
本化合物は有機合成化学の分野における通常の方法に従って製造できるが、たとえば、Nucleic acids research, 15(8), 3573−3580 (1987)、Bioorg. Med. Chem. Lett. 11(2), 157−160 (2001)などに記載された方法に従って製造することもできるし、また、Sigma社などにより市販されているものを用いることもできる。
【0127】
本化合物の中でも、特に、ジクアホソルおよびその塩については、特表2001−510484号公報に開示された方法により製造することができる。また、UTPのナトリウム塩(カタログ番号:U6625)、ATPのナトリウム塩(カタログ番号:A7699)、ATPγSのリチウム塩(カタログ番号:A1388)などは、Sigma社から市販されている。
【0128】
また、本発明のドライアイ治療剤に用いられるヒアルロン酸は、下記一般式[II]で示される化合物である。
【0129】
【化47】

【0130】
[式中、mは自然数を示す]
本発明における「ヒアルロン酸」として好ましいのは、平均分子量が50万〜390万のヒアルロン酸であり、さらに好ましいのは、平均分子量が50万〜120万のヒアルロン酸である。
【0131】
本化合物またはヒアルロン酸の塩としては、医薬として許容される塩であれば特に制限はなく、塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、硝酸、硫酸、リン酸などの無機酸との塩、酢酸、フマル酸、マレイン酸、コハク酸、クエン酸、酒石酸、アジピン酸、グルコン酸、グルコヘプト酸、グルクロン酸、テレフタル酸、メタンスルホン酸、乳酸、馬尿酸、1,2−エタンジスルホン酸、イセチオン酸、ラクトビオン酸、オレイン酸、パモ酸、ポリガラクツロン酸、ステアリン酸、タンニン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、硫酸ラウリルエステル、硫酸メチル、ナフタレンスルホン酸、スルホサリチル酸などの有機酸との塩;臭化メチル、ヨウ化メチルなどとの四級アンモニウム塩;臭素イオン、塩素イオン、ヨウ素イオンなどのハロゲンイオンとの塩;リチウム、ナトリウム、カリウムなどのアルカリ金属との塩;カルシウム、マグネシウムなどのアルカリ土類金属との塩;鉄、亜鉛などとの金属塩;アンモニアとの塩;トリエチレンジアミン、2−アミノエタノール、2,2−イミノビス(エタノール)、1−デオキシ−1−(メチルアミノ)−2−D−ソルビトール、2−アミノ−2−(ヒドロキシメチル)−1,3−プロパンジオール、プロカイン、N,N−ビス(フェニルメチル)−1,2−エタンジアミンなどの有機アミンとの塩などが挙げられる。
【0132】
本化合物またはヒアルロン酸の塩としては、ナトリウム塩が好ましい。特に、本化合物がジクアホソルの場合には、下記式で示されるジクアホソルの四ナトリウム塩(以下、単に「ジクアホソルナトリウム」ともいう)が好ましい。
【0133】
【化48】

【0134】
また、ヒアルロン酸のナトリウム塩としては、下記一般式[III]で示されるナトリウム塩(以下、「ヒアルロン酸ナトリウム」ともいう)が特に好ましい。
【0135】
【化49】

【0136】
[式中、nは自然数を示す]
また、本化合物、ヒアルロン酸またそれらの塩は、水和物または溶媒和物の形態をとっていてもよい。
【0137】
本化合物またはヒアルロン酸に幾何異性体または光学異性体が存在する場合は、当該異性体またはそれらの塩も本発明の範囲に含まれる。また、本化合物またはヒアルロン酸にプロトン互変異性が存在する場合には、当該互変異性体またはそれらの塩も本発明の範囲に含まれる。
【0138】
本化合物、ヒアルロン酸またはそれらの塩、水和物もしくは溶媒和物に、結晶多形および結晶多形群(結晶多形システム)が存在する場合には、それらの結晶多形体および結晶多形群(結晶多形システム)も本発明の範囲に含まれる。ここで、結晶多形群(結晶多形システム)とは、それら結晶の製造、晶出、保存などの条件および状態(なお、本状態には製剤化した状態も含む)により、結晶形が変化する場合の各段階における個々の結晶形およびその過程全体を意味する。
【0139】
ヒアルロン酸およびその塩は、有機合成化学の分野における通常の方法に従って製造することもできるし、特開平1−115902号公報に記載された方法に従って製造することもできる。また、本発明のヒアルロン酸およびそれらの塩は、Sigma社などにより市販されているものを用いることもでき、たとえば、ヒアルロン酸のナトリウム塩(カタログ番号:H5388)がSigma社から市販されている。
【0140】
本発明において、「治療有効濃度のP2Y2受容体作動薬と、治療有効濃度のヒアルロン酸またはその塩とを組み合わせたことを特徴とする」とは、治療有効濃度のP2Y2受容体作動薬および治療有効濃度のヒアルロン酸またはその塩を含有する配合眼科用剤を一度に投与することのみならず、治療有効濃度のP2Y2受容体作動薬を含有する眼科用剤と治療有効濃度のヒアルロン酸またはその塩を含有する眼科用剤を別々且つ連続的に投与することをも意味する。
【0141】
本発明において「治療有効濃度」とは、眼局所投与した場合に、当該薬物が眼局所において薬理作用を発揮し得る濃度であることを意味する。
【0142】
本発明において、P2Y2受容体作動薬の具体的な「治療有効濃度」は、P2Y2受容体作動薬として選択された化合物の種類、本治療剤の剤形などによって異なるが、たとえば、P2Y2受容体作動薬がジクアホソルまたはその塩である場合の治療有効濃度は、剤形として点眼剤を選択した場合には、0.01〜20%(w/v)、好ましくは0.3〜10%(w/v)、より好ましくは1〜5%(w/v)であり、剤形として眼軟膏を選択した場合には、0.01〜20%(w/w)、好ましくは0.3〜10%(w/w)、より好ましくは1〜5%(w/w)、さらに好ましくは3%(w/w)である。また、P2Y2受容体作動薬がUTP、ATPまたはそれらの塩である場合の治療有効濃度は、剤形として点眼剤を選択した場合には、0.01〜30%(w/v)、好ましくは0.3〜20%(w/v)、より好ましくは1〜10%(w/v)であり、剤型として眼軟膏を選択した場合には、0.1〜30%(w/w)、好ましくは0.3〜20%(w/w)、より好ましくは1〜10%(w/w)である。
【0143】
本発明において、ヒアルロン酸またはその塩の具体的な「治療有効濃度」は、剤形として点眼剤を選択した場合には、0.05〜5%(w/v)、好ましくは0.05〜1%(w/v)、より好ましくは0.05〜0.5%(w/v)、さらに好ましくは0.1〜0.5%(w/v)であり、剤形として眼軟膏を選択した場合には、0.05〜10%(w/w)、好ましくは0.05〜5%(w/w)、より好ましくは0.05〜1%(w/w)、さらに好ましくは0.1〜0.5%(w/w)である。
【0144】
なお、本発明における「ジクアホソルまたはその塩」、「UTPまたはその塩」「ATPまたはその塩」および「ヒアルロン酸またはその塩」の濃度とは、ジクアホソル、UTP、ATPまたはヒアルロン酸のフリー体の濃度でもあり得るし、それらの塩の濃度でもあり得る。
【0145】
本発明において、「ドライアイ」とは、「様々な要因による涙液および角結膜上皮の慢性疾患であり、眼不快感や視覚異常を伴う疾患」と定義づけられる。本発明におけるドライアイは乾性角結膜炎(KCS)が含まれ、また、涙液分泌減少型および涙液蒸発亢進型のいずれの類型のドライアイも含まれる。
【0146】
涙液分泌減少型ドライアイは、シェーグレン症候群に伴うドライアイと非シェーグレン症候群型のドライアイに分類される。非シェーグレン症候群型のドライアイとしては、先天性無涙腺症、サルコイドーシス、骨髄移植による移植片対宿主病(GVHD:Graft Versus Host Disease)などの涙腺疾患に伴うもの;眼類天疱瘡、スティーブンス・ジョンソン症候群、トラコーマなどを原因とする涙器閉塞に伴うもの;糖尿病、角膜屈折矯正手術(LASIK:Laser(−assisted) in Situ Keratomileusis)などを原因とする反射性分泌の低下に伴うものなどが挙げられる。
【0147】
また、涙液蒸発亢進型ドライアイは、meibom腺機能不全、眼瞼炎などを原因とする油層減少に伴うもの;眼球突出、兎眼などを原因とする瞬目不全または閉瞼不全に伴うもの;コンタクトレンズ装用による涙液安定性の低下に伴うもの;胚細胞からのムチン分泌低下に伴うもの;VDT作業に伴うものなどが挙げられる。
【0148】
本発明において「ドライアイ治療」とは、涙液分泌促進作用などを介して、ドライアイに伴う全ての病的症状および/または所見を改善することと定義づけられ、ドライアイに伴う眼乾燥感、眼不快感、眼疲労感、鈍重感、羞明感、眼痛、霧視(かすみ目)などの自覚症状の改善を意味するだけでなく、ドライアイに伴う充血、角結膜上皮障害などの改善も含まれる。
【0149】
本治療剤は、P2Y2受容体作動薬、ヒアルロン酸またはその塩、および医薬として許容される添加剤を混合し、汎用されている技術を用いて配合眼科用剤として製剤化することもできるし、また、P2Y2受容体作動薬またはヒアルロン酸もしくはその塩に、それぞれ医薬として許容される添加剤を加え、汎用されている技術を用いて単独眼科用剤として製剤化することもできる。
【0150】
なお、ジクアホソルまたはその塩のみを有効成分とする点眼剤は、特表2003−160491号公報に開示された方法に従って調製することができる。また、我が国では、0.3%(w/v)の濃度のジクアホソルナトリウムのみを有効成分として含有する「ジクアス(登録商標)点眼液3%」が市販されている。さらに我が国では、0.1%(w/v)の濃度のヒアルロン酸ナトリウムのみを有効成分として含有する「ヒアレイン(登録商標)点眼液0.1%」、0.3%(w/v)の濃度のヒアルロン酸ナトリウムのみを有効成分として含有する「ヒアレイン(登録商標)ミニ点眼液0.3%」などのヒアルロン酸またはその塩を含有する点眼剤が市販されている。
【0151】
本発明において、本治療剤は眼局所に投与される。本治療剤の投与形態としては、たとえば、点眼投与(眼軟膏の点入も含むものとする)、結膜下投与、結膜嚢内投与、テノン嚢下投与などが挙げられるが、点眼投与が特に好ましい。
【0152】
本発明において「眼科用剤」とは、眼局所投与に用いられる剤形であれば特に限定はされないが、たとえば、点眼剤、眼軟膏、注射剤、貼布剤、ゲル、挿入剤などが挙げられ、中でも点眼剤または眼軟膏が好ましい。なお、これらは当該分野で汎用されている通常の技術を用いて調製することができる。さらに、本治療剤は、これらの製剤の他に眼内インプラント用製剤やマイクロスフェアーなどのDDS(ドラッグデリバリーシステム)化された製剤にすることもできる。
【0153】
点眼剤は、塩化ナトリウム、塩化カリウム、濃グリセリンなどの等張化剤;リン酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、イプシロン−アミノカプロン酸などの緩衝化剤;ポリオキシエチレンソルビタンモノオレート、ステアリン酸ポリオキシル40、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油などの界面活性剤;クエン酸ナトリウム、エデト酸ナトリウムなどの安定化剤;ベンザルコニウム塩化物、パラベンなどの防腐剤などから必要に応じて選択して用い、調製することができ、pHは眼科製剤に許容される範囲内にあればよいが、通常4〜8の範囲内が好ましい。
【0154】
眼軟膏は、白色ワセリン、流動パラフィンなどの汎用される基剤を用い、調製することができる。
【0155】
注射剤は、塩化ナトリウムなどの等張化剤;リン酸ナトリウムなどの緩衝化剤;ポリオキシエチレンソルビタンモノオレートなどの界面活性剤;メチルセルロースなどの増粘剤などから必要に応じて選択して用い、調製することができる。
【0156】
挿入剤は、生体分解性ポリマー、たとえばヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシビニルポリマー、ポリアクリル酸などの生体分解性ポリマーを本化合物とともに粉砕混合し、この粉末を圧縮成型することにより、調製することができ、必要に応じて、賦形剤、結合剤、安定化剤、pH調整剤などを用いることができる。
【0157】
眼内インプラント用製剤は、生体分解性ポリマー、たとえば、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、乳酸・グリコール酸共重合体、ヒドロキシプロピルセルロースなどの生体分解性ポリマーを用い、調製することができる。
【0158】
本発明において、本治療剤の用法は、剤型、投与すべき患者の症状の軽重、年令、体重、医師の判断などに応じて適宜変えることができるが、たとえば、剤形として点眼剤または眼軟膏を選択した場合には、1日1〜10回、好ましくは1日2〜8回、より好ましくは1日4〜6回に分けて眼局所に投与することができる。なお、当該用法は、治療有効濃度のP2Y2受容体作動薬およびヒアルロン酸またはその塩を含有する配合眼科用剤の用法を意味するだけでなく、治療有効濃度のP2Y2受容体作動薬を含有する眼科用剤と、治療有効濃度のヒアルロン酸またはその塩を含有する眼科用剤を別々且つ連続的に投与する場合の用法をも意味する。
【0159】
以下に、薬理試験および製剤例の結果を示すが、これらの例は本発明をよりよく理解するためのものであり、本発明の範囲を限定するものではない。
【実施例】
【0160】
[薬理試験1]
涙液貯留量の変化は、フルオレセイン溶液により染色された涙液メニスカスの面積値を測定することで評価することができる(Exp. Eye. Res., 78(3), 399−407 (2004))。そこで、Murakamiらの方法(Ophthalmic Res., 34, 371−374 (2002))に準じ、正常雄性白色ウサギを用いて、P2Y2受容体作動薬であるジクアホソルナトリウムおよびヒアルロン酸ナトリウム連続点眼後の、涙液メニスカスの面積値の経時変化を評価した。
【0161】
(薬物調製方法)
ジクアホソルナトリウム30mgをリン酸緩衝液に溶解させ、塩化カリウム、塩化ナトリウム、ベンザルコニウム塩化物およびpH調節剤を添加することで、等張且つ中性の水溶液 1mLを調製し、これを、3% ジクアホソルナトリウム点眼液として本試験に用いた。なお、人工涙液としては、参天製薬株式会社製の「ソフトサンティア」、0.1% ヒアルロン酸ナトリウム点眼液としては、参天製薬株式会社製の「ヒアレイン(登録商標)点眼液0.1%」をそれぞれ用いた。
【0162】
(試験方法および薬物投与方法)
正常雄性白色ウサギ(計20匹40眼)の下眼瞼涙液メニスカス上に0.1% フルオレセイン溶液3μLを点眼し、眼瞼に貯留したフルオレセインに染色された涙液メニスカスを写真撮影した。写真画像中の染色された涙液メニスカス部分の面積を画像解析ソフトにて算出し、これを前値とした。次に、人工涙液、3% ジクアホソルナトリウム点眼液および0.1% ヒアルロン酸点眼液を以下のように投与した。
【0163】
・人工涙液単独投与群:人工涙液(50μL)を1回点眼(一群4匹8眼)、
・ジクアホソル単独投与群:3% ジクアホソルナトリウム点眼液(50μL)を1回点眼(一群4匹8眼)、
・ヒアルロン酸単独投与群:0.1% ヒアルロン酸ナトリウム点眼液(50μL)を1回点眼(一群4匹8眼)、
・ジクアホソル/人工涙液併用投与群:3% ジクアホソルナトリウム点眼液(50μL)を点眼した5分後に、人工涙液(50μL)を点眼(一群4匹8眼)、
・ジクアホソル/ヒアルロン酸併用投与群:3% ジクアホソルナトリウム点眼液(50μL)を点眼した5分後に、0.1% ヒアルロン酸ナトリウム点眼液(50μL)を点眼(一群4匹8眼)。
【0164】
人工涙液単独投与群、ジクアホソル単独投与群、およびヒアルロン酸単独投与群については、点眼10分および35分後に、0.1% フルオレセイン溶液3μLを下眼瞼涙液メニスカス上に点眼し、眼瞼に貯留したフルオレセインに染色された涙液メニスカスを写真撮影した。一方、ジクアホソル/人工涙液併用投与群、およびジクアホソル/ヒアルロン酸併用投与群については、1剤目の点眼から10分および35分後に、前記単独投与群と同様の操作を行なった。
【0165】
(評価方法)
薬物点眼前後の涙液メニスカス面積の変化を「Δ涙液メニスカス面積値」として算出した。図1に、各測定値におけるΔ涙液メニスカス面積値を示す。各値は、8例の平均値±標準誤差である。
【0166】
(結果)
ジクアホソル単独投与群においては、点眼10分後および35分後のいずれにおいても、涙液メニスカス面積値の上昇が認められたが、ヒアルロン酸単独投与群では、点眼10分後に若干の上昇が認められるのみで、点眼35分後には涙液メニスカス面積値の上昇は確認できなかった。一方、ジクアホソル/ヒアルロン酸併用投与群については、点眼10および35分後(すなわち、2剤目の点眼5分後および30分後)のいずれにおいても、前記ジクアホソル単独投与群またはヒアルロン酸単独投与群を凌ぐ涙液メニスカス面積値の上昇が確認された。なお、ジクアホソル/人工涙液併用投与群については、ジクアホソル単独投与群とほぼ同等の涙液メニスカス面積値の上昇しか確認されなかった。
【0167】
(考察)
背景技術の項でも述べたように、ヒアルロン酸は涙液分泌促進作用を有しておらず、実際、0.1% ヒアルロン酸点眼液は点眼35分後においては全く涙液メニスカス面積値を上昇させなかった。それにもかかわらず、3% ジクアホソルナトリウム点眼液と0.1% ヒアルロン酸ナトリウム点眼液を併用投与した場合には、驚くべきことに、1剤目の点眼10分後から35分後にかけて、各点眼液を単独投与した場合を遥かに凌ぐ涙液メニスカス面積値の上昇が認められた。すなわち、3% ジクアホソルナトリウム点眼液と0.1% ヒアルロン酸ナトリウム点眼液を組み合わせて投与することで、各点眼液の単独投与で得られる効果の総和を遥かに凌ぐ顕著な涙液分泌の促進が認められるものと考えられる。以上のことから、治療有効濃度のP2Y2受容体作動薬と治療有効濃度のヒアルロン酸またはその塩を組み合わせて投与することで、顕著な涙液分泌促進作用が得られることが示唆された。
【0168】
[薬理試験2]
ラット眼窩外涙腺摘出モデルは、ドライアイを原因とする角膜上皮障害の治療効果を評価するモデルとして汎用されており、また、P2Y2受容体作動薬の治療効果を評価するモデルとしても利用されている(Invest. Ophthalmol. Vis. Sci., 42(1), 96−100 (2001))。当該モデルに送風付加を与えたドライアイモデルを用いて、治療有効濃度のP2Y2受容体作動薬とヒアルロン酸またはその塩を組み合わせて投与することで角膜上皮障害の改善効果が得られるか否かを検討した。
【0169】
(ドライアイモデルの作製方法)
雄性SDラットを用い、Fujiharaらの方法(Invest. Ophthalmol. Vis. Sci., 42(1), 96−100 (2001))に準じてラット眼窩外涙腺摘出モデルを作製した。すなわち、ソムノペンチルを投与して全身麻酔を施した後、眼窩外涙腺を摘出し、さらに送風付加(8週間)を与えて角膜上皮障害を誘発した。
【0170】
(薬物調製方法)
前記薬理試験1と同様にして、3% ジクアホソルナトリウム点眼液を調製した。また、人工涙液としては、参天製薬株式会社製の「ソフトサンティア」、0.1% ヒアルロン酸ナトリウム点眼液としては、参天製薬株式会社製の「ヒアレイン(登録商標)点眼液0.1%」をそれぞれ用いた。
【0171】
(試験方法および薬物投与方法)
前記角膜上皮障害を誘発されたラットに対して、人工涙液、3% ジクアホソルナトリウム点眼液および0.1% ヒアルロン酸点眼液を以下のように投与した。
【0172】
・人工涙液単独投与群:人工涙液(5μL)を両眼に1日6回、6週間点眼(一群4匹8眼)、
・ヒアルロン酸単独投与群:0.1% ヒアルロン酸ナトリウム点眼液(5μL)を両眼に1日6回、6週間点眼(一群4匹8眼)、
・ジクアホソル単独投与群:3% ジクアホソルナトリウム点眼液(5μL)を両眼に1日6回、6週間点眼(一群4匹8眼)、
・人工涙液/ヒアルロン酸併用投与群:人工涙液および0.1% ヒアルロン酸ナトリウム点眼液(各5μL)を両眼に1日6回、6週間点眼(一群3匹6眼)、
・ジクアホソル/ヒアルロン酸併用投与群:3% ジクアホソルナトリウム点眼液および0.1% ヒアルロン酸ナトリウム点眼液を両眼に1日6回、6週間点眼(一群4匹8眼)。
【0173】
なお、前記角膜上皮障害を誘発されたラットのうち、6週間無点眼であったもの無点眼群とした(一群4匹8眼)。
【0174】
点眼開始6週間後、角膜の障害部分をフルオレセインにて染色し、村上らの方法(あたらしい眼科, 21(1), 87−90 (2004))に従い、角膜上皮障害を判定した。すなわち、角膜の上部、中間部および下部のそれぞれについて、フルオレセインによる染色の程度を下記の基準に従ってスコア判定し、それらのスコアの合計の平均値を算出した。なお、0、1、2および3の各スコア間に中間値として0.5を設けた。
【0175】
(判定基準)
0:染色されていない、
1:染色が疎であり、各点状の染色部分は離れている、
2:染色が中程度であり、点状の染色部分の一部が隣接している、
3:染色が密であり、各点状の染色部分は隣接している。
【0176】
(結果)
算出された各群のフルオレセイン染色スコアをグラフ化したものを図2に示す。なお、スコアは各6または8例の平均値±標準誤差である。
【0177】
図2から明らかなように、ヒアルロン酸単独投与群およびジクアホソル単独投与群では、フルオレセイン染色スコアが改善する傾向は認められたものの、統計的に有意と言えるほどのフルオレセイン染色スコアの改善は認められなかった。一方で、ジクアホソル/ヒアルロン酸併用投与群においては、顕著なフルオレセイン染色スコアの改善が認められ、本改善効果は統計的に有意(p<0.05、Tukeyの多群検定(無点眼群との比較))なものであった。
【0178】
(考察)
以上のことから明らかなように、3% ジクアホソルナトリウム点眼液と0.1% ヒアルロン酸ナトリウム点眼液を組み合わせて投与することで、各点眼液の単独投与では治療できない重篤な角膜上皮障害を改善し得ることが示された。すなわち、治療有効濃度のP2Y2受容体作動薬と治療有効濃度のヒアルロン酸またはその塩を組み合わせて投与することで、重篤な角膜上皮障害を伴うドライアイに対して優れた治療効果が期待できる。
【0179】
[薬理試験3]
治療有効濃度のP2Y2受容体作動薬と添加剤として用いられる濃度のヒアルロン酸またはその塩を組み合わせた場合に、涙液メニスカス面積値の上昇が認められるか否かを検討するため、薬理試験1と同様の方法で、3% ジクアホソルナトリウムおよび0.002% ヒアルロン酸ナトリウム連続点眼後の涙液メニスカスの面積値の経時変化を評価した。
【0180】
(薬物調製方法)
前記薬理試験1と同様にして、3% ジクアホソルナトリウム点眼液を調製した。0.002% ヒアルロン酸ナトリウム点眼液は、参天製薬株式会社製の「ヒアレイン(登録商標)点眼液0.3%」を生理食塩液で希釈して調製した。
【0181】
(試験方法および薬物投与方法)
薬理試験1と同様の方法で、正常雄性白色ウサギ(計12匹24眼)について、薬物点眼前の涙液メニスカスの写真撮影を行なった。次に、3% ジクアホソルナトリウム点眼液および0.002% ヒアルロン酸点眼液を以下のように投与し、その35分後に、再度、涙液メニスカスの写真撮影を行なった。
【0182】
・ジクアホソル単独投与群:3% ジクアホソルナトリウム点眼液(50μL)を1回点眼(一群4匹8眼)、
・ヒアルロン酸単独投与群:0.002% ヒアルロン酸ナトリウム点眼液(50μL)を1回点眼(一群4匹8眼)、
・ジクアホソル/ヒアルロン酸併用投与群:3% ジクアホソルナトリウム点眼液(50μL)を点眼した5分後に、0.002% ヒアルロン酸ナトリウム点眼液(50μL)を点眼(一群4匹8眼)。
【0183】
(結果)
薬物点眼前後の涙液メニスカス面積の変化を「Δ涙液メニスカス面積値」として算出した。結果を表1に示す。
【0184】
【表1】

【0185】
(考察)
表1から明らかなように、ジクアホソル/ヒアルロン酸併用投与群においては、ヒアルロン酸単独併用投与群を凌ぐ涙液メニスカス面積値の上昇は認められたものの、同作用はジクアホソル単独投与群と同等またはそれに劣るものであった。すなわち、0.002% ヒアルロン酸ナトリウム点眼液は3% ジクアホソルナトリウム点眼液の涙液分泌作用を全く促進しないことが示された。
【0186】
以上のことから、治療有効濃度のP2Y2受容体作動薬と治療有効濃度のヒアルロン酸またはその塩を組み合わせて投与する場合には、顕著な涙液分泌促進作用が得られる一方で(薬理試験1参照)、治療有効濃度のP2Y2受容体作動薬と添加物として使用される濃度のヒアルロン酸またはその塩を組み合わせて投与した場合には、同作用は認められないことが示された。
【0187】
[薬理試験4]
薬理試験1と同様の方法で、3% ジクアホソルナトリウムおよび0.3% ヒアルロン酸ナトリウム連続点眼後の涙液メニスカスの面積値の経時変化を評価した。
【0188】
(薬物調製方法)
前記薬理試験1と同様にして、3% ジクアホソルナトリウム点眼液を調製した。また、0.3% ヒアルロン酸ナトリウム点眼液としては、参天製薬株式会社製の「ヒアレイン(登録商標)点眼液0.3%」を用いた。
【0189】
(試験方法および薬物投与方法)
薬理試験1と同様の方法で、正常雄性白色ウサギ(計9匹18眼)について、薬物点眼前の涙液メニスカスの写真撮影を行なった。次に、3% ジクアホソルナトリウム点眼液および0.3% ヒアルロン酸点眼液を以下のように投与し、その35分後に、再度、涙液メニスカスの写真撮影を行なった。
【0190】
・ジクアホソル単独投与群:3% ジクアホソルナトリウム点眼液(50μL)を1回点眼(一群3匹6眼)、
・ヒアルロン酸単独投与群:0.3% ヒアルロン酸ナトリウム点眼液(50μL)を1回点眼(一群3匹6眼)、
・ジクアホソル/ヒアルロン酸併用投与群:3% ジクアホソルナトリウム点眼液(50μL)を点眼した5分後に、0.3% ヒアルロン酸ナトリウム点眼液(50μL)を点眼(一群3匹6眼)。
【0191】
(結果)
薬物点眼前後の涙液メニスカス面積の変化を「Δ涙液メニスカス面積値」として算出した。結果を表2に示す。
【0192】
【表2】

【0193】
(考察)
表2から明らかなように、ジクアホソル/ヒアルロン酸併用投与群においては、ヒアルロン酸単独投与群またはジクアホソル単独投与群において認められる「Δ涙液メニスカス面積値」の総和を遥かに凌ぐ効果が確認された。すなわち、0.3% ヒアルロン酸ナトリウム点眼液は、0.1% ヒアルロン酸ナトリウム点眼液同様に、3% ジクアホソルナトリウム点眼液の涙液分泌作用を顕著に促進することが明らかとなった。
【0194】
以上のことから、治療有効濃度のP2Y2受容体作動薬と治療有効濃度のヒアルロン酸またはその塩を組み合わせて投与する場合には、顕著な涙液分泌促進作用が得られることが再確認された。
【0195】
[製剤例]
製剤例を挙げて本発明の薬剤をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの製剤例にのみ限定されるものではない。
【0196】
(処方例1;点眼剤(ジクアホソルナトリウム濃度:3%(w/v)、ヒアルロン酸ナトリウム濃度:0.1%(w/v))
100ml中
ジクアホソルナトリウム 3.0g
ヒアルロン酸ナトリウム 0.1g
塩化ナトリウム 0.9g
リン酸水素ナトリウム水和物 適量
滅菌精製水 適量
滅菌精製水にジクアホソルナトリウム、ヒアルロン酸ナトリウムおよびそれ以外の上記成分を加え、これらを十分に混合して点眼液を調製する。ジクアホソルナトリウムおよびヒアルロン酸ナトリウムの添加量を変えることにより、ジクアホソルナトリウムの濃度が0.5%(w/v)、1%(w/v)または5%(w/v)であり、ヒアルロン酸ナトリウムの濃度が0.3%(w/v)または0.5%(w/v)である点眼剤を調製できる。
【0197】
(処方例2;眼軟膏(ジクアホソルナトリウム濃度:3%(w/w)、ヒアルロン酸ナトリウム濃度:0.1%(w/w))
100g中
ジクアホソルナトリウム 3.0g
ヒアルロン酸ナトリウム 0.1mg
流動パラフィン 10mg
白色ワセリン 適量
均一に溶融した白色ワセリンおよび流動パラフィンに、ジクアホソルナトリウムおよびヒアルロン酸ナトリウムを加え、これらを十分に混合して後に徐々に冷却することで眼軟膏を調製する。ジクアホソルナトリウムおよびヒアルロン酸ナトリウムの添加量を変えることにより、ジクアホソルナトリウムの濃度が0.5%(w/v)、1%(w/v)または5%(w/v)であり、ヒアルロン酸ナトリウムの濃度が0.3%(w/v)または0.5%(w/v)である眼軟膏を調製できる。
【産業上の利用可能性】
【0198】
治療有効濃度のP2Y2受容体作動薬と、治療有効濃度のヒアルロン酸またはその塩とを組み合わせたことを特徴とするドライアイ治療剤であって、剤型が眼科用剤であるドライアイ治療剤は、涙液分泌を顕著に促進するとともに、角膜上皮障害をも顕著に改善することから、新たなドライアイ治療剤となることが期待される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
治療有効濃度のP2Y2受容体作動薬と、治療有効濃度のヒアルロン酸またはその塩とを組み合わせたことを特徴とするドライアイ治療剤であって、剤型が眼科用剤であるドライアイ治療剤。
【請求項2】
P2Y2受容体作動薬が、下記一般式[I]で表される化合物またはその塩である、請求項1に記載のドライアイ治療剤。
【化1】

[式中、X1はヒドロキシ基、チオール基、
【化2】

または
【化3】

を示し;
2は酸素原子、−NH−または−CR12−を示し;
3
【化4】


【化5】

または
【化6】

を示し;
Aは
【化7】

または
【化8】

を示し;
YはCO、CSまたはCHSR6を示し;
1、R2、R3、R4、R5およびR6は同一または異なって水素原子、ハロゲン原子またはアルキル基を示し;
nは0〜4の整数を示す。]
【請求項3】
P2Y2受容体作動薬が、P1,P4−ビス(5’−ウリジル)四リン酸、ウリジン 5’−三リン酸、アデノシン 5’−三リン酸またはそれらの塩である、請求項1に記載のドライアイ治療剤。
【請求項4】
眼科用剤が点眼剤または眼軟膏である、請求項1〜3のいずれかに記載のドライアイ治療剤。
【請求項5】
1〜5%(w/v)の濃度のP1,P4−ビス(5’−ウリジル)四リン酸またはその塩と、0.05〜0.5%(w/v)の濃度のヒアルロン酸またはその塩とを組み合わせたことを特徴とするドライアイ治療用点眼剤。
【請求項6】
3%(w/v)の濃度のP1,P4−ビス(5’−ウリジル)四リン酸またはその塩と、0.1〜0.5%(w/v)の濃度のヒアルロン酸またはその塩とを組み合わせたことを特徴とするドライアイ治療用点眼剤。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−77080(P2012−77080A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−197020(P2011−197020)
【出願日】平成23年9月9日(2011.9.9)
【出願人】(000177634)参天製薬株式会社 (177)
【Fターム(参考)】