説明

PACAPペプチドを含む眼科用剤

【課題】新規な涙液分泌促進剤を提供すること。
【解決手段】His−Ser−Asp−Gly−Ile−Phe−Thr−Asp−Ser−Tyr−Ser−Arg−Tyr−Arg−Lys−Gln−Met−Ala−Val−Lys−Lys−Tyr−Leu−Ala−Ala−Val−Leuで表されるペプチド、His−Ser−Asp−Gly−Ile−Phe−Thr−Asp−Ser−Tyr−Ser−Arg−Tyr−Arg−Lys−Gln−Met−Ala−Val−Lys−Lys−Tyr−Leu−Ala−Ala−Val−Leu−Gly−Lys−Arg−Tyr−Lys−Gln−Arg−Val−Lys−Asn−Lys で表されるペプチド、又は薬学的に許容されるそれらの塩を含有する、涙液分泌促進剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、PACAPペプチドを有効成分とする涙液分泌促進剤に関する。特に本発明は、PACAPペプチドを有効成分とする、涙液分泌の減少を伴う眼科疾患の治療剤として使用できる涙液分泌促進剤に関する。
【背景技術】
【0002】
現代社会において、目を酷使する場面が急増している。その疾患要因の一つにドライアイ(乾燥眼)がある。ドライアイは一般に、涙液の分泌量の低下や涙液の質的変化により、眼球表面の角膜や結膜が障害をうけた状態のことである。正常な眼の表面では、涙はまばたきにより、薄い膜となり、乾燥、ほこり、細菌から眼を守っている。しかし、ドライアイになると、眼の表面を十分に保護できなくなり、角膜や結膜に障害が生じることになる。ドライアイは単に眼が乾くだけでなく、眼の表面を傷つけることからも、様々な眼病に発展する前に早期対策が必要である。
【0003】
涙液は油層、水層、ムチン層の3層より構成されており、これまでに用いられているドライアイ の一般的な治療法としては、水層の補給を目的とした人工涙液の点眼やムチン層の補給を目的として保水効果のあるコンドロイチン硫酸ナトリウム、ヒアルロン酸ナトリウムなどの点眼が行われている。しかし、これらはいずれも本来の涙液分泌を促進させるものではない。
【0004】
PACAP(Pituitary Adenylate Cyclase−Activating Polypeptide)(下垂体アデニレートサイクラーゼ活性化ペプチド)は、ヒツジの視床下部から下垂体前葉細胞のアデニレートサイクラーゼを活性化させるバイオアッセイ系を指標にして単離された38個のアミノ酸残基よりなるペプチドである。PACAP及びPACAP誘導体の薬理作用については幾つかの報告がある。例えば、特開2004−168697号公報には、PACAP誘導体ペプチドを含有する網膜疾患の治療剤が記載されている。また、国際公開WO2003/039577には、所定のアミノ酸配列からなるVIP誘導体ペプチドを有効成分として含有するドライアイおよびドライアイを伴う疾病の治療剤が記載されている。
【0005】
【特許文献1】特開2004−168697号公報
【特許文献2】国際公開WO2003/039577
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、新規な涙液分泌促進剤を提供することを解決すべき課題とした。本発明は、特に、ドライアイなどの涙液分泌の減少を伴う眼科疾患の治療剤として有用な涙液分泌促進剤を提供することを解決すべき課題とした。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を行った結果、配列表の配列番号2に示すアミノ酸配列からなるPACAP38を静脈内投与又は点眼投与することにより涙液の分泌を促進できることを実証し、ドライアイなどの涙液分泌の減少を伴う眼科疾患の治療に有効であることを見い出した。本発明はこれらの知見に基づいて完成されたものである。
【0008】
即ち、本発明によれば、His−Ser−Asp−Gly−Ile−Phe−Thr−Asp−Ser−Tyr−Ser−Arg−Tyr−Arg−Lys−Gln−Met−Ala−Val−Lys−Lys−Tyr−Leu−Ala−Ala−Val−Leuで表されるペプチド、His−Ser−Asp−Gly−Ile−Phe−Thr−Asp−Ser−Tyr−Ser−Arg−Tyr−Arg−Lys−Gln−Met−Ala−Val−Lys−Lys−Tyr−Leu−Ala−Ala−Val−Leu−Gly−Lys−Arg−Tyr−Lys−Gln−Arg−Val−Lys−Asn−Lys で表されるペプチド、又は薬学的に許容されるそれらの塩を含有する、涙液分泌促進剤が提供される。
【0009】
好ましくは、本発明の涙液分泌促進剤は、涙液分泌の減少を伴う眼科疾患の治療剤である。
好ましくは、涙液分泌の減少を伴う眼科疾患はドライアイである。
好ましくは、本発明の涙液分泌促進剤は、眼に局所的に投与される薬剤である。
好ましくは、本発明の涙液分泌促進剤は、点眼剤である。
【0010】
本発明のさらに別の側面によれば、His−Ser−Asp−Gly−Ile−Phe−Thr−Asp−Ser−Tyr−Ser−Arg−Tyr−Arg−Lys−Gln−Met−Ala−Val−Lys−Lys−Tyr−Leu−Ala−Ala−Val−Leuで表されるペプチド、His−Ser−Asp−Gly−Ile−Phe−Thr−Asp−Ser−Tyr−Ser−Arg−Tyr−Arg−Lys−Gln−Met−Ala−Val−Lys−Lys−Tyr−Leu−Ala−Ala−Val−Leu−Gly−Lys−Arg−Tyr−Lys−Gln−Arg−Val−Lys−Asn−Lys で表されるペプチド、又は薬学的に許容されるそれらの塩の有効量をヒトを含む哺乳動物に投与する工程を含む、涙液分泌を促進する方法が提供される。
【0011】
本発明のさらに別の側面によれば、涙液分泌促進剤の製造のための、His−Ser−Asp−Gly−Ile−Phe−Thr−Asp−Ser−Tyr−Ser−Arg−Tyr−Arg−Lys−Gln−Met−Ala−Val−Lys−Lys−Tyr−Leu−Ala−Ala−Val−Leuで表されるペプチド、His−Ser−Asp−Gly−Ile−Phe−Thr−Asp−Ser−Tyr−Ser−Arg−Tyr−Arg−Lys−Gln−Met−Ala−Val−Lys−Lys−Tyr−Leu−Ala−Ala−Val−Leu−Gly−Lys−Arg−Tyr−Lys−Gln−Arg−Val−Lys−Asn−Lys で表されるペプチド、又は薬学的に許容されるそれらの塩の使用が提供される。
【発明の効果】
【0012】
本発明の涙液分泌促進剤は、ドライアイなどの涙液分泌の減少を伴う眼科疾患の治療剤として有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
本発明の涙液分泌促進剤は、PACAP、又は薬学的に許容されるそれらの塩を有効成分として含むことを特徴とする。
【0014】
本発明において有効成分として用いるPACAPは、His−Ser−Asp−Gly−Ile−Phe−Thr−Asp−Ser−Tyr−Ser−Arg−Tyr−Arg−Lys−Gln−Met−Ala−Val−Lys−Lys−Tyr−Leu−Ala−Ala−Val−Leu(配列表の配列番号1)、又はHis−Ser−Asp−Gly−Ile−Phe−Thr−Asp−Ser−Tyr−Ser−Arg−Tyr−Arg−Lys−Gln−Met−Ala−Val−Lys−Lys−Tyr−Leu−Ala−Ala−Val−Leu−Gly−Lys−Arg−Tyr−Lys−Gln−Arg−Val−Lys−Asn−Lys(配列表の配列番号2)からなる27又は38アミノ酸残基のペプチドである(以下、これらを本発明で用いるPACAPとも称する)。本発明は、涙腺分泌促進作用を持つペプチドに関するものである。すなわち、本発明は、ドライアイ患者やシェーグレン症候群患者などにおける涙腺分泌障害を改善するためのPACAPに関するものである。
【0015】
本発明で用いるPACAPは、例えば、特開平8−333276号公報、特開平9−100237号公報に記載されているような公知のペプチド合成法にしたがって合成することができる。例えばアジド法、酸クロライド法、酸無水物法、混合酸無水物法、DCC法、活性エステル法(P-ニトロフェニルエステル法、N−ヒドロキシコハク酸イミドエステル法、シアノメチルエステル法等)、ウッドワ−ド試薬Kを用いる方法、カルボイミダゾ−ル法、酸化還元法、DCC−アデイテイブ(HONB、HOBt、HOSu)法等により合成することができる。また、その合成法は、固相合成法又は液相合成法のいずれでもよい。すなわち、本発明のペプチドを構成し得るアミノ酸と残余部分とを縮合させ、生成物が保護基を有する場合は保護基を脱離することにより目的とするペプチドが合成される。縮合方法や保護基の脱離としては、公知のいずれの手法を用いてもよい。反応後は、通常の精製法、例えば溶媒抽出、蒸留、カラムクロマトグラフィー、液体クロマトグラフィー、再結晶などを組み合わせて本発明で用いるペプチドを精製することができる。
【0016】
本発明では、PACAPの薬学的に許容される塩を有効成分として用いることもできる。PACAPの薬学的に許容される塩としては、ナトリウム又はカリウム等のアルカリ金属との塩;カルシウム又はマグネシウム等のアルカリ土類金属との塩;アルミニウム塩又はアンモニウム塩等の無機塩基との塩;トリメチルアミン、ピリジン、ピコリン、エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ジシクロヘキシルアミン又はN,N−ジベンジルエチレンジアミン等の有機塩基との塩;塩酸、臭化水素酸、硝酸、硫酸又はリン酸等の無機酸との塩;ギ酸、酢酸、トリフルオロ酢酸、フマール酸、シュウ酸、酒石酸、乳酸、マレイン酸、クエン酸、コハク酸、リンゴ酸、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸又はp−トルエンスルホン酸等の有機酸との塩;およびタンニン酸、カルボキシメチルセルロース、ポリ乳酸、ポリグリコール酸等の重合酸との塩などを挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【0017】
本発明で用いるPACAPまたはそれらの薬学的に許容される塩は、涙液分泌促進剤として、非経口的に投与してもよいし、経口的に投与してもよい。非経口的投与としては、例えば、静脈内注射、皮下注射又は筋肉内注射など注射剤として投与してもよいし、坐剤として投与してもよいし、皮膚に経皮的に投与してもよいし、あるいは眼に局所的に投与してもよい。
【0018】
本発明で用いるPACAPまたはそれらの薬学的に許容される塩はそのまま投与してもよいが、採用する投与形態に適した製剤の形態で投与することが好ましい。製剤の形態としては、注射剤、坐剤、粉末、顆粒、錠剤、カプセル剤、シロップ剤、液剤、エアゾール剤、軟膏、クリーム剤、ローション剤、点鼻剤および眼局所用剤(例えば、点眼剤、眼軟膏剤又は徐放製剤)などが挙げられるが、これらに限定されるわけではない。
【0019】
注射剤は、例えば、溶剤(注射用蒸留水など)、安定化剤(エデト酸ナトリウムなど)、等張化剤(塩化ナトリウム、グリセリンおよびマンニトールなどの糖アルコールなど)、pH調整剤(塩酸、クエン酸、水酸化ナトリウムなど)、懸濁化剤(メチルセルロースなど)を用いて処方することができ、坐剤は、例えば、坐剤基剤(カカオ脂、マクロゴールなど)などを用いて処方することができる。また、固形製剤を処方するのに好適な任意の製薬担体、例えば、賦形剤(澱粉、ブドウ糖、果糖、白糖など)、滑沢剤(ステアリン酸マグネシウムなど)、崩壊剤(澱粉、結晶セルロースなど)、結合剤(澱粉、アラビアゴムなど)などを用いて粉末、顆粒、錠剤などを処方することができる。さらに、安定剤(エデト酸ナトリウムなど)、懸濁化剤(アラビアゴム、カルメロースなど)、矯味剤(単シロップ、ブドウ糖など)、芳香剤などを用いてシロップや液剤を処方することができる。
【0020】
軟膏、クリーム剤、ローション剤、点鼻剤および眼局所用剤を処方するためには、例えば、軟膏基剤(ワセリン、ラノリンなど)、溶剤(生理食塩水、精製水など)、安定剤(エデト酸ナトリウム、クエン酸など)、湿潤剤(グリセリンなど)、乳化剤(ポリビニルピロリドンなど)、懸濁化剤(ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、メチルセルロースなど)、界面活性剤(ポリソルベート80、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油など)、保存剤(塩化ベンザルコニウム、パラベン類、クロロブタノールなど)、緩衝剤(ホウ酸、ホウ砂、酢酸ナトリウム、クエン酸緩衝剤、リン酸緩衝剤など)、等張化剤(塩化ナトリウム、グリセリン、マンニトールなど)、pH調整剤(塩酸、水酸化ナトリウムなど)など適宜に選択して用いることができる。また、眼局所用の徐放製剤としては、コラーゲン等のゲル成形物、ポリ乳酸等の生体分解性高分子等により成形された眼内埋込み製剤や強膜プラグ、あるいは生体非分解性の眼内埋込み製剤などを使用できる。
【0021】
また、ペプチドがガラスあるいは樹脂容器に吸着するのを防止する目的で吸着防止成分を利用することもできる。ここで利用される吸着防止成分の具体例として、ポリオキシエチレンアルコールエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、グリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ゼラチン、アルブミン、又はポリゲニン等が挙げられる。吸着防止成分とペプチドとを溶解する溶媒としては、生理学的に許容されるものであれば特に限定されず、例えば、生理食塩水などが挙げられる。
【0022】
本発明の涙液分泌促進剤は、哺乳動物(例えば、ラット、ウサギ、ネコ、イヌ、ブタ、サル、ヒトなど)に投与することができ、これにより涙液の分泌を促進することができる。好ましくは、本発明の涙液分泌促進剤は、ヒトに投与される。本発明の涙液分泌促進剤を成人患者に投与する場合、一回あたりのPACAPの投与量は、注射剤では通常0.00001〜100mgであり、好ましくは0.0001〜0.1mgであり、経口投与では通常0.1〜500mgであり、好ましくは1〜50mgである。また、成人患者の眼に局所的に適用する場合には、通常、PACAPを0.001〜3.0w/v%、好ましくは0.01〜0.5w/v%に含有する点眼液を、1回当たり20〜50μlの投与量で1日当たり1〜8回点眼することが好ましい。
【0023】
本発明の涙液分泌促進剤には、目的と必要に応じて、PACAPペプチドに加えて、他のドライアイ治療用成分を組み合わせて含有させることもできる。また、本発明の涙液分泌促進剤は、本発明の目的に反しない限り、他の薬効成分と併用して使用することもできる。
【0024】
本発明の涙液分泌促進剤は、例えば、涙液分泌の減少を伴う眼科疾患の治療剤として用いることができる。本明細書における涙液分泌の減少を伴う眼科疾患としては、ドライアイを挙げることができる。即ち、本発明の涙液分泌促進剤は、例えば、涙液減少症、眼乾燥症、シェーグレン症候群、乾性角結膜炎、スティーブンス−ジョンソン症候群、VDT(Visual Display Terminal)作業に関連したドライアイ等のドライアイの治療に用いることができる。
【0025】
以下の実施例により本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【実施例】
【0026】
(i)試薬:
His−Ser−Asp−Gly−Ile−Phe−Thr−Asp−Ser−Tyr−Ser−Arg−Tyr−Arg−Lys−Gln−Met−Ala−Val−Lys−Lys−Tyr−Leu−Ala−Ala−Val−Leu−Gly−Lys−Arg−Tyr−Lys−Gln−Arg−Val−Lys−Asn−Lys(配列表の配列番号2)で表されるアミノ酸配列からなるPACAP38(Human)は、株式会社ペプチド研究所(大阪市)より凍結乾燥品を購入した。なお、PACAPは哺乳類間でアミノ酸配列が完全に保存されており、同一な配列である。
【0027】
(ii)動物:
PACAPノックアウトマウス(C57BL/6系統)は大阪大学の馬場明道教授より提供いただき、昭和大学SPF動物飼育室内にて繁殖・維持を行った。全ての遺伝子組み換え動物は、昭和大学の遺伝子組み換え実験安全管理規定に従って繁殖・維持され、全ての実験動物について、昭和大学動物実験委員会の承認のもと昭和大学動物実験指針に基づき実験を行った。
【0028】
(iii)結果:
(1)PACAPノックアウトマウスにおける涙腺の異常と涙液量の減少(図1)
涙腺の組織学的所見は以下の手法により行った。
動物はネンブタール50mg/kg投与により麻酔を施し、4%パラホルムアルデヒドにより潅流固定を行った。眼球を涙腺が付属した状態で取り出し、さらに一晩4%パラホルムアルデヒドにより浸漬固定を行った。組織はパラフィン包埋後に6マイクロメートルの切片を作成し、ヘマトキシリンおよびエオシンにより染色した後に封入・観察を行った。
【0029】
結果を図1に示す。野生型と比べてPACAPノックアウトマウスでは涙腺の腺腔が狭まっている像が認められた。
【0030】
次に、綿糸法により涙液量を測定した。涙液量の測定には実際にヒトでドライアイなどの涙液量の診断に用いられている綿糸(ゾーンクイック:メニコン)を用いた。マウスの両目の下眼瞼にゾーンクイックを30秒間挿入し、涙液の染み込んだ綿糸の長さの合計を涙液量とみなした。測定結果を図1に示す。PACAPノックアウトマウス(8.86±2.11)では野生型(17.18±5.00)、ヘテロ型(15.66±3.48 )と比べて有意に涙液量が減少した(ANOVA, Dunnet's post hoc test)。
【0031】
(2)涙腺におけるPACAPとPACAP受容体(PAC1R)の発現(図2)
涙腺におけるPACAPおよびPAC1Rの発現を調べるため、逆転写ポリメラーゼチェーンリアクション(RT-PCR)法および免疫染色法を行った。RT-PCR法では以下のプライマーによりPACAP、PAC1Rおよび内部標準であるGAPDH mRNAの特異的なcDNAを増幅し、その産物をアガロースゲル電気泳動法により検出した。
【0032】
PACAP ; 528 bp
Fw: 5'-CTTGTGCAGAAGCTGCAGTCCCCAGACATG-3'(配列番号3)
Re: 5'-CCGGTGCTTGAAGTCCATAGTGAAGTAACGGTTCACCTT-3' (配列番号4)
【0033】
PAC1R ; 384, 387 bp (hip hop type), 303 bp (short type)
Fw: 5'-ATGACCATGTGTAGCGGAGCAAGGCTGG-3' (配列番号5)
Re: 5'-CTACAAGTATGCTATTCGGCGTCC-3' (配列番号6)
【0034】
GAPDH ; 498 bp
Fw: 5'-GCCAAGGTCATCCATGACAAC-3' (配列番号7)
Re: 5'-GTCCACCACCCTGTTGCTGTA-3' (配列番号8)
【0035】
PAC1Rの免疫染色法は、8μm涙腺の凍結切片を作成後にPAC1R特異的抗体を用い、蛍光色素(Alexa)標識した2次抗体を用いることにより可視化した。
【0036】
結果を図2に示す。RT-PCR法および免疫組織化学的手法により、涙腺ではPACAPおよびPAC1Rが発現しており、PAC1R陽性反応(緑色蛍光)は特に涙腺の腺房細胞基底部に強く発現していた。青色蛍光はDAPIによる核染色によるものである。
【0037】
(3)PACAP静脈内投与による涙液分泌促進効果(図3及び4)
PACAPの静脈内持続投与実験はOhtaki et al 2006 PNAS(103(19):7488-93)に従った(図3)。すなわち、頚静脈より溶媒(0.1%BSA in PBS)、PACAP38(5 nmol/kg)またはPACAP38+PACAP6-38(PAC1R拮抗薬、50 nmol/kg)(PACAP6-38は、PACAP38の6番目から38番目のアミノ酸残基からなるペプチドである)を単回投与し、その後に大腿静脈内にカニューレーションを施した浸透圧ポンプ(Alzet, model 1007D 0.5μl/ hour)を接続した。浸透圧ポンプには上記の溶媒、PACAP38 (32 pmol/μl)またはPACAP38 + PACAP6-38(320 pmol/μl)を満たした。投与開始4日後に涙液量を上記の綿糸法により測定した。
【0038】
測定結果を図4に示す。溶媒投与群(16.5±0.7)と比べてPACAP投与群(24.0±1.6)では有意に涙液分泌量が増加した(p<0.01、ANOVA, Dunnet's post hoc test vs. 溶媒投与群)。 この作用はPACAPとPACAP6-38同時投与群では有意に抑制された。(17.5±1.0、p<0.05、 ANOVA, Dunnet's post hoc test vs. PACAP投与群)
【0039】
(4)PACAP点眼投与による涙液分泌促進効果(図5及び6)
PACAP点眼投与後の涙液の変化を経時的に調べた。その実験スケジュールを図5に示す。野生型マウスをペントバルビタールにより麻酔を施し、安定した後に涙液量を測定する(pre)。両眼にsalineまたはPACAP38(10-6,10-8, 10-10,10-12M)の溶液を1μl点眼し、その7.5分後に残っている溶液を綿棒により拭き取った。投与後15、30、45、60、120分後に涙液量を綿糸法により測定した。
【0040】
測定結果を図6に示す。点眼投与開始15分後にはsaline投与群(11.2±0.50 )に比べてPACAP10-10, 10-8M投与群(17.3±1.95、16.8±1.79)において有意に涙液量の増加が認められた(p<0.05, ANOVA, Dunnet's post hoc test vs. saline投与群)。この作用は投与45分後まで持続した(saline: 11.7±0.81, PACAP 10-10M: 20.6±1.95 p<0.01, PACPA 10-8M:18.2±2.35 p<0.05)。点眼投与120分後では全ての群で涙液量が基本値に戻った。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】図1は、野生型及びPACAPノックアウトマウスにおける涙腺の組織学的所見及び涙液量の測定結果を示す。
【図2】図2は、涙腺におけるPACAPとPACAP受容体(PAC1R)の発現を調べた結果を示す。
【図3】図3は、PACAPの静脈内持続投与実験の模式図を示す。
【図4】図4は、PACAP静脈内投与による涙液分泌量の変化を測定した結果を示す。
【図5】図5は、PACAP点眼投与後の涙液の変化を経時的に調べるための実験スケジュールを示す。
【図6】図6は、PACAP点眼投与後の涙液の変化を経時的に調べた結果を示す。
【配列表フリーテキスト】
【0042】
[配列表]
SEQUENCE LISTING
<110> Taisho Pharmaceutical Co., Ltd.
<120> An ophthalmologic agent containing PACAP peptide
<130> A61570A
<160> 8
<210> 1
<211> 27
<212> PRT
<213> Artificial Sequence
<220>
<223> Description of Artificial Sequence: Synthetic peptide
<400> 1
His Ser Asp Gly Ile Phe Thr Asp Ser Tyr Ser Arg Tyr Arg Lys Gln
1 5 10 15
Met Ala Val Lys Lys Tyr Leu Ala Ala Val Leu
20 25
<210> 2
<211> 38
<212> PRT
<213> Artificial Sequence
<220>
<223> Description of Artificial Sequence: Synthetic peptide
<400> 2
His Ser Asp Gly Ile Phe Thr Asp Ser Tyr Ser Arg Tyr Arg Lys Gln
1 5 10 15
Met Ala Val Lys Lys Tyr Leu Ala Ala Val Leu Gly Lys Arg Tyr Lys
20 25 30
Gln Arg Val Lys Asn Lys
35
<210> 3
<211> 30
<212> DNA
<213> Artificial Sequence
<220>
<223> Description of Artificial Sequence: Synthetic DNA
<400> 3
cttgtgcaga agctgcagtc cccagacatg 30
<210> 4
<211> 39
<212> DNA
<213> Artificial Sequence
<220>
<223> Description of Artificial Sequence: Synthetic DNA
<400> 4
ccggtgcttg aagtccatag tgaagtaacg gttcacctt 39
<210> 5
<211> 28
<212> DNA
<213> Artificial Sequence
<220>
<223> Description of Artificial Sequence: Synthetic DNA
<400> 5
atgaccatgt gtagcggagc aaggctgg 28
<210> 6
<211> 24
<212> DNA
<213> Artificial Sequence
<220>
<223> Description of Artificial Sequence: Synthetic DNA
<400> 6
ctacaagtat gctattcggc gtcc 24
<210> 7
<211> 21
<212> DNA
<213> Artificial Sequence
<220>
<223> Description of Artificial Sequence: Synthetic DNA
<400> 7
gccaaggtca tccatgacaa c 21
<210> 8
<211> 21
<212> DNA
<213> Artificial Sequence
<220>
<223> Description of Artificial Sequence: Synthetic DNA
<400> 8
gtccaccacc ctgttgctgt a 21

【特許請求の範囲】
【請求項1】
His−Ser−Asp−Gly−Ile−Phe−Thr−Asp−Ser−Tyr−Ser−Arg−Tyr−Arg−Lys−Gln−Met−Ala−Val−Lys−Lys−Tyr−Leu−Ala−Ala−Val−Leuで表されるペプチド、His−Ser−Asp−Gly−Ile−Phe−Thr−Asp−Ser−Tyr−Ser−Arg−Tyr−Arg−Lys−Gln−Met−Ala−Val−Lys−Lys−Tyr−Leu−Ala−Ala−Val−Leu−Gly−Lys−Arg−Tyr−Lys−Gln−Arg−Val−Lys−Asn−Lys で表されるペプチド、又は薬学的に許容されるそれらの塩を含有する、涙液分泌促進剤。
【請求項2】
涙液分泌の減少を伴う眼科疾患の治療剤である、請求項1に記載の涙液分泌促進剤。
【請求項3】
涙液分泌の減少を伴う眼科疾患がドライアイである、請求項2に記載の涙液分泌促進剤。
【請求項4】
眼に局所的に投与される薬剤である、請求項1から3の何れかに記載の涙液分泌促進剤。
【請求項5】
点眼剤である、請求項1から4の何れかに記載の涙液分泌促進剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−269818(P2009−269818A)
【公開日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−225219(P2006−225219)
【出願日】平成18年8月22日(2006.8.22)
【出願人】(592019213)学校法人昭和大学 (23)
【出願人】(000002819)大正製薬株式会社 (437)
【出願人】(504176911)国立大学法人大阪大学 (1,536)
【Fターム(参考)】