説明

PET熱分解用高反応性生石灰およびその製造方法

【課題】ベンゼン化合物の回収率が向上し、残渣量が少なく、しかも、生石灰の粉化を抑制することが可能となるPET熱分解用高反応性生石灰およびその製造方法を提供する。
【解決手段】PETを熱分解炉に装入して、ベンゼンを選択的に生成させる際に触媒として使用するPET熱分解用高反応性生石灰において、BET比表面積が4〜10m2/g、細孔容積が0.02〜0.1cm3/g、細孔径が30〜100nm、塩酸活性度が400〜446mlの範囲内である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、PET熱分解用高反応性生石灰およびその製造方法、特に、生石灰をPET熱分解の触媒として用いてベンゼンを選択的に生成させる場合に、PET熱分解を促進させることが可能なPET熱分解用高反応性生石灰およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
PET(Polyethylene terephthalate)は、高い強度・バリア性および光学透明度等の特徴を備えていることにより多用されているが、その処理方法が課題となっている。
【0003】
現在、有効な廃プラスチックのフィードストックリサイクル技術の一つとして、熱分解による油化が行われているが、PETの熱分解では、テレフタル酸等の昇華性物質が発生して、生成油の品質低下や配管の腐食・閉塞を引き起こしている。
【0004】
PET熱分解用に消石灰(水酸化カルシウム)、または、生石灰(酸化カルシウム)を混合し、水蒸気下で同時に熱分解することにより昇華性物質の生成が抑制されて、高い収率でベンゼンが得られることが確認されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
PET熱分解用に消石灰を触媒とした場合は、ベンゼン化合物の回収率は、70%程度であるが炭化物中(残渣)に生石灰が発生する。
【0006】
生石灰(微粉)を触媒とした場合は、ベンゼン化合物の回収率は、80%程度まで上昇するが、生石灰の粉化が起こり反応槽の圧損が高くなる傾向で、操業上支障をきたす。
【0007】
従って、この発明の目的は、ベンゼン化合物の回収率が向上し、残渣量が少なく、しかも、生石灰の粉化を抑制することが可能なPET熱分解用高反応性生石灰を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明は、上記目的を達成するためになされたものであり、下記を特徴とする。
【0009】
請求項1に記載の発明は、PETを熱分解炉に装入して、ベンゼンを選択的に生成させる際に触媒として使用するPET熱分解用高反応性生石灰において、
BET比表面積が4〜10m2/g、
細孔容積が0.02〜0.1cm3/g、
細孔径が30〜100nm、
塩酸活性度が400〜446ml
の範囲内であることに特徴を有するものである。
【0010】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のPET熱分解用高反応性生石灰において、生石灰の粒度が0.1〜10mmであることに特徴を有するものである。
【0011】
請求項3に記載の発明は、PETを熱分解炉に装入して、ベンゼンを選択的に生成させる際に触媒として使用するPET熱分解用高反応性生石灰の製造方法において、
結晶質からなる結晶の大きさが1mm以上の石灰石を粉砕し、粒子径を75μmアンダー、ブレーン空気透過装置による粉末度測定法により測定した比表面積を3000〜6000cm2/gに調整した粉末石灰石を造粒成形して造粒石灰石を調製し、前記造粒石灰石を2時間で900〜1050℃まで昇温させ、次いで、2〜4時間焼成し、そして、2時間かけて常温まで降下させることに特徴を有するものである。
【0012】
請求項4に記載の発明は、請求項3に記載の、PET熱分解用高反応性生石灰の製造方法において、生石灰の粒度を0.1〜10mmの範囲内としたことに特徴を有するものである。
【発明の効果】
【0013】
この発明によれば、ベンゼン化合物の回収率が向上し、残渣量が少なく、しかも、生石灰の粉化を抑制することが可能なPET熱分解用高反応性生石灰を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
この発明のPET熱分解用高反応性生石灰の一実施態様を説明する。
【0015】
この発明のPET熱分解用高反応性生石灰は、結晶質からなる結晶の大きさが1mm以上の石灰石を粉砕し、粒子径を75μmアンダー、ブレーン空気透過装置による粉末度測定法により測定した比表面積を3000〜6000cm2/gに調整した粉末石灰石を造粒成形して造粒石灰石を調製し、前記造粒石灰石を2時間で900〜1050℃まで昇温させ、次いで、2〜4時間焼成し、そして、2時間かけて常温まで降下させることによって製造することができる。
【0016】
上記方法により製造された本発明生石灰は、BET比表面積が4〜10m2/g、細孔容積が0.02〜0.1cm3/g、細孔径が30〜100nm、塩酸活性度が400〜446mlの範囲内である。
【0017】
このような性状を有する本発明生石灰によれば、後述する実施例から明らかなように、ベンゼン化合物の回収率が向上し、残渣量が少なく、しかも、生石灰の粉化を抑制することが可能となるので、反応槽の圧損を抑えることができる。
【0018】
ここで、細孔容積は、窒素ガス吸着による細孔分布測定(BJH法)による測定値であり、塩酸活性度は、50g法3min値である。
【0019】
また、この発明のPET熱分解用高反応性生石灰の粒度を0.1〜10mmの範囲内にすることによって、ベンゼン回収率がさらに向上する。
【実施例】
【0020】
次に、この発明を、実施例によりさらに説明する。
【0021】
(実施例1)
BET比表面積、細孔容積、細孔径および塩酸活性度が表1に示すような値の硬焼生石灰、市販生石灰(関東薬品)および本発明生石灰を用意した。本発明生石灰は、この発明の製造方法に従って、結晶質石灰石を粉砕し、粒子径を75μmアンダー、ブレーン比表面積を4000cm2/gに調整した粉末石灰石を、縦30mm・横25mm・高さ16mmに造粒成形し、この造粒石灰石を1000℃で2時間、焼成することにより製造した。そして、それぞれの生石灰の粒子径を38μmに調整した。そして、各生石灰を、PETを熱分解炉に装入して、ベンゼンを選択的に生成させる際のPET熱分解用触媒として使用し、そのときの残渣率およびベンゼン回収率を測定した。この結果を表2に示す。
【0022】
なお、何れの実施例においてもBET比表面積は、日本ベル(株)社製BELPREP-vacII、細孔容積は、日本ベル(株)社製BELSORP-mini、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いてそれぞれ測定した。また、PET熱分解後の評価では、液体生成物は、GC-FID、GC-MS、気体生成物は、GC-FIDおよびGC-TCDにより定性・定量分析を行った。
【0023】
【表1】

【0024】
【表2】

【0025】
表2から明らかなように、本発明生石灰は、他の生石灰に比べて残渣率およびベンゼン回収率が共に優れていることが分かった。すなわち、細孔容積、細孔径および塩酸活性度が本発明範囲外の硬焼生石灰は、残渣率およびベンゼン回収率が共に本発明生石灰に大幅に劣っていた。また、細孔径および塩酸活性度が本発明範囲外の市販生石灰は、硬焼生石灰に比べれば、残渣率およびベンゼン回収率は共に優れているものの、本発明生石灰に比べれば劣っていた。
【0026】
(実施例2)
次に、本発明生石灰を粉砕し、粒度を0.05mmアンダー、0.3〜1mm、1〜3mmおよび3〜5mmに調整し、このように粒度調整した各生石灰をPET熱分解用触媒として使用した。そして、それぞれについて、残渣率およびベンゼン回収率を測定した。この結果を表3に示す。
【0027】
【表3】

【0028】
表3から明らかなように、粒度が0.3〜1mmの本発明生石灰は、他の粒度の生石灰に比べて残渣率およびベンゼン回収率が共に優れていることが分かった。
【0029】
(実施例3)
粒度が0.3〜1mmの本発明生石灰の熱分解炉への充填量(層厚)を1.5cm、3cmおよび6cmに変え、それぞれについて、残渣率およびベンゼン回収率を測定した。この結果を表4に示す。
【0030】
【表4】

【0031】
表4から明らかなように、触媒充填量を3cmに調整した場合には、他の充填量に比べて残渣率およびベンゼン回収率が共に優れていることが分かった。
【0032】
以上、説明したように、この発明の高反応性生石灰によれば、ベンゼン化合物の回収率が向上し、残渣量が少なく、しかも、生石灰の粉化を抑制することが可能となるといった従来生石灰では得られない有用な効果がもたらされる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
PETを熱分解炉に装入して、ベンゼンを選択的に生成させる際に触媒として使用するPET熱分解用高反応性生石灰において、
BET比表面積が4〜10m2/g、
細孔容積が0.02〜0.1cm3/g、
細孔径が30〜100nm、
塩酸活性度が400〜446ml
の範囲内であることを特徴とするPET熱分解用高反応性生石灰。
【請求項2】
前記生石灰の粒度が0.1〜10mmであることを特徴とする、請求項1に記載のPET熱分解用高反応性生石灰。
【請求項3】
PETを熱分解炉に装入して、ベンゼンを選択的に生成させる際に触媒として使用するPET熱分解用高反応性生石灰の製造方法において、
結晶質からなる結晶の大きさが1mm以上の石灰石を粉砕し、粒子径を75μmアンダー、ブレーン空気透過装置による粉末度測定法により測定した比表面積を3000〜6000cm2/gに調整した粉末石灰石を造粒成形して造粒石灰石を調製し、前記造粒石灰石を2時間で900〜1050℃まで昇温させ、次いで、2〜4時間焼成し、そして、2時間かけて常温まで降下させることを特徴とする、PET熱分解用高反応性生石灰の製造方法。
【請求項4】
前記生石灰の粒度を0.1〜10mmの範囲内としたことを特徴とする、請求項3に記載の、PET熱分解用高反応性生石灰の製造方法。

【公開番号】特開2011−173078(P2011−173078A)
【公開日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−39999(P2010−39999)
【出願日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【出願人】(390020167)奥多摩工業株式会社 (26)
【Fターム(参考)】