説明

PI3キナーゼの阻害剤及びその利用

【課題】PI3キナーゼの新規阻害剤及びその利用方法を提供すること。
【解決手段】病原性大腸菌由来のEspH蛋白質を投与することにより、PI3キナーゼ活性を抑制する。樹状細胞に投与した場合、炎症性サイトカインの合成を亢進させることができ、個体に投与した場合、細胞性免疫を賦活化できる。EspH蛋白質による、これらの作用効果を利用して、抗アレルギー剤などにも利用できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
脊椎動物の細胞内におけるPI3キナーゼの阻害剤及びその利用に関する。
【背景技術】
【0002】
脂質リン酸化酵素の一つであるフォスフォイノシタイド3(PI3)キナーゼは、細胞内情報伝達分子の一つであるフォスファチジルイノシトールをリン酸化する活性を有しており、リン酸化によって多くの細胞の機能を調節している。一方、動物の異物に対する防御機構である免疫応答は、細胞性および液性免疫応答という二つの機構からなるが、これらの機構の両方において樹状細胞が重要な役割を果たしている。樹状細胞は刺激を受けるとインターロイキン12(IL−12)を初めとするサイトカインを発現・分泌する。サイトカインは免疫系の細胞を含む各種細胞の機能を制御する生理活性物質であり、インターロイキンのほかインターフェロンやケモカインなども含む。これらのうち、炎症性サイトカインであるIL−12は、T細胞に作用して細胞性免疫応答を開始する役割を担っている。このIL−12の樹状細胞における発現が、PI3キナーゼの活性によって負に制御されていることが最近明らかとなった(非特許文献1を参照)。このため、PI3キナーゼの阻害剤を樹状細胞に与えることにより、IL−12の発現を誘導し、細胞性免疫応答を賦活化することが可能になる。
【非特許文献1】Fukao, T., Tanabe, M., Terauchi, Y., Ota, T., Matsuda, S., Asano, T., Kadowaki, T., Takeuchi, T. and Koyasu, S. (2002) “PI3K-mediated negative feedback regulation of IL-12 production in dendritic cells.” Nat. Immunol.3:875-881.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
PI3キナーゼの阻害剤として、Wortmannin、Edelfosine、Quercetin Dihydrate、LY 294002などが知られているが、それぞれ特異性や毒性が異なる。そこで、本発明はPI3キナーゼの新規阻害剤及びその利用方法を提供することを目的としてなされた。
【課題を解決するための手段】
【0004】
細菌が宿主細胞に感染すると、多くの場合細胞内のPI3キナーゼが長期間にわたって活性化される。ところが、大腸菌のうち下痢や腸炎等の原因となる病原性大腸菌の一種である腸管病原性大腸菌(enteropathogenic Escherichia coli、EPEC)は、株化された樹状細胞と共に培養すると、樹状細胞内のPI3キナーゼ活性を速やかに不活性化する。そこで、EPECのespH遺伝子座に変異を導入したEspH機能欠損変異株を作製し、このespH変異株、または野生株を、株化樹状細胞と共培養した。その結果、野生株を感染させた樹状細胞ではPI3キナーゼ活性の抑制が見られたのに対し、espH変異株の場合ではPI3キナーゼの不活化が起こらないことが分かった(実施例1)。次に、マウス骨髄から単離した樹状細胞(bone marrow-derived dendritic cell、BMDC)の初代培養細胞に対して同様の共培養実験を行ったところ、野生株はBMDCのPI3キナーゼ活性の低下をもたらし、IL−12の高い発現が持続する一方、espH変異株ではリン酸化抑制は低下し、IL−12の発現亢進も低下した(実施例2)。これらのことから、EspH蛋白質が、樹状細胞においてPI3キナーゼ活性を抑制することにより、IL−12の発現を亢進することが示された。
【0005】
次に、マウスに対して感染性を有する病原性大腸菌Citrobacter rodentiumの野生株あるいはespH変異株を、マウスに経口投与して大腸への感染を調べたところ、野生株を用いると炎症が誘発され、菌の増殖・定着が見られたのに対し、espH変異株を用いた場合は感染の度合いが低かった(実施例3)。さらに、PI3キナーゼ遺伝子を欠損させたノックアウトマウスに対してCitrobacter rodentium野生株またはespH変異株を感染させたところ、野生型マウスに感染させた場合のような、espH変異の有無による感染の差が見られなくなった(実施例4)。加えて、ノックアウトマウス由来の骨髄(樹状細胞を含む)を移植されたマウスを用いた同様の感染実験においても、ノックアウトマウスに感染させた場合と同様の表現型が認められた(実施例5)。一方、ノックアウトマウス由来のT細胞に対する分化誘導実験から、T細胞によるケモカインの分泌はPI3キナーゼによって制御されていることが分かった(実施例6)。以上から、EspH蛋白質が、PI3キナーゼの抑制による樹状細胞のIL−12発現の亢進を介して、宿主動物の細胞性免疫応答を誘導する作用を有していることが明らかになった。これらの新しい知見に基づき、発明者らは、以下の発明の完成に至った。
【0006】
すなわち、本発明に係るPI3キナーゼの阻害剤は、病原性大腸菌由来のEspH蛋白質を含有することを特徴とするものであって、PI3キナーゼはPI3キナーゼ依存性炎症性サイトカイン分泌細胞内に存在してもよい。そして細胞は、樹状細胞、T細胞、マクロファージ、または上皮細胞のいずれかであってもよい。阻害剤はPI3キナーゼによって分泌される炎症性サイトカインの阻害剤をさらに含んでいてもよく、EspH蛋白質は、配列番号1または2で示されるアミノ酸配列を有していてもよい。そして、本発明は以上のような阻害剤を用いて、ヒトおよびヒト以外の系において、PI3キナーゼを阻害する方法も提供する。
【0007】
次に、本発明に係る細胞内のPI3キナーゼ依存性炎症性サイトカイン合成を促進する促進剤は、病原性大腸菌由来のEspH蛋白質を有効成分として含むことを特徴とするものであり、細胞は、樹状細胞、T細胞、マクロファージ、または上皮細胞のいずれかであってもよく、細胞が樹状細胞である場合サイトカインはIL−12であってもよい。さらに本発明は、以上のような促進剤を用いて、ヒト個体内にある細胞以外の細胞に対して、PI3キナーゼを阻害することによりPI3キナーゼ依存性炎症性サイトカイン合成を促進する方法も提供する。一方、本発明に係るT細胞におけるサイトカイン合成の促進剤は、樹状細胞に作用してIL−12を分泌させ、このIL−12がT細胞に作用してサイトカイン合成を促進させるものであり、この場合サイトカインはIFN−γであってもよく、本発明はこの阻害剤を用いてT細胞におけるサイトカイン合成を促進する方法も提供する。そして、以上述べた促進剤に含まれるEspH蛋白質は、配列番号1または2で示されるアミノ酸配列を有していてもよい。
【0008】
続いて、本発明に係る細胞性免疫応答の賦活剤は、病原性大腸菌由来のEspH蛋白質を有効成分として含むことを特徴とするものであり、EspH蛋白質は配列番号1または2に示されたアミノ酸配列を有していてもよい。そして本発明はこのような賦活剤を用いて、ヒトおよびヒト以外の脊椎動物の細胞内のPI3キナーゼを阻害することにより、細胞性免疫応答を賦活する方法も提供し、細胞は、樹状細胞、T細胞、マクロファージ、または上皮細胞のいずれかであってもよい。
【0009】
一方、本発明に係る脊椎動物の液性免疫応答の抑制剤は、病原性大腸菌由来のEspH蛋白質を有効成分として含むことを特徴とするものであり、その液性免疫応答はアレルギー反応によるものであってもよい。そしてEspH蛋白質は配列番号1または2に示すアミノ酸配列を有していてもよい。加えて、この抑制剤は抗炎症剤を含んでいてもよく、以上述べたような抑制剤を有効成分として含む抗アレルギー剤も本発明によって提供される。併せて本発明は、以上の抑制剤を用いてヒトおよびヒト以外の脊椎動物における液性免疫応答を抑制する方法も提供し、この場合細胞は、樹状細胞、T細胞、マクロファージ、または上皮細胞のいずれかであってもよい。
【0010】
さらに本発明は、病原性大腸菌由来のEspH蛋白質を含有し、癌抗原を提示する抗原提示細胞も提供する。細胞は樹状細胞であってもよく、EspH蛋白質は配列番号1または2に示すアミノ酸配列を有していてもよく、これらの抗原提示細胞を含有する抗がん剤も本発明によって提供される。そして本発明は、ヒトおよびヒト以外の脊椎動物における癌の治療方法も提供する。この方法は、EspH蛋白質を含有し、癌の抗原を提示する抗原提示細胞を、脊椎動物に投与することを特徴とするものであり、細胞は樹状細胞であってもよく、EspH蛋白質は配列番号1または2に示すアミノ酸配列を有していてもよい。
【0011】
そして、本発明はさらに、espH遺伝子座に、PI3キナーゼの不活性化に関してハイポモルフ(hypomorph)またはアモルフ(amorph)である変異を有することを特徴とする、病原性大腸菌の変異株も提供する。この大腸菌は、腸管病原性大腸菌(EPEC)あるいはCitrobacter rodentiumであってもよい。
【0012】
最後に、本発明に係るT細胞内のPI3キナーゼ依存性炎症性サイトカイン合成を促進する促進剤は、PI3キナーゼ阻害剤を有効成分として含むことを特徴とするものであり、サイトカインはmacrophage inflammatory protein-2(MIP−2)であってもよい。そしてPI3キナーゼ阻害剤は、病原性大腸菌由来のEspH蛋白質を含有していてもよい。さらに本発明はこの促進剤を用いて、ヒト個体中の細胞を除くT細胞内のPI3キナーゼ依存性炎症性サイトカイン合成を促進する方法も提供する。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、PI3キナーゼの新規阻害剤及びその利用方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、上記知見に基づき完成した本発明の実施の形態を詳細に説明する。実施の形態及び実施例に特に説明がない場合には、 J. Sambrook, E. F. Fritsch & T. Maniatis (Ed.), Molecular Cloning, A Laboratory Manual (3rd edition), Cold Spring Harbor Press, Cold Spring Harbor, New York (2001) や、 F. M. Ausubel, R. Brent, R. E. Kingston, D. D. Moore, J.G. Seidman, J. A. Smith, K. Struhl (Ed.), Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons Ltd. などの、当該技術分野における標準的なプロトコール集に記載の方法、あるいはそれらを修飾したり、改変した方法を用いる。また、市販の試薬キットや測定装置を用いている場合には、特に説明が無い場合、それらに添付のプロトコールを用いる。
【0015】
なお、本発明の目的、特徴、利点、及びアイデアは、本明細書の記載により当業者には明らかであり、本明細書の記載に基づき、当業者が本発明を再現することは容易である。以下に記載された具体的な実施例などは、本発明の好ましい実施態様を示すための例示又は説明として示されているのであって、本発明をそれらに限定するものではない。本明細書で開示されている本発明の意図並びに範囲内で、本明細書の記載に基づき、様々な改変並びに修飾ができることは、当業者にとって明らかである。
【0016】
===病原性大腸菌由来のEspH蛋白質===
EPECを含む多くのグラム陰性病原細菌は、III型分泌装置(type III secretion system、TTSS)を通して様々なエフェクター分子を宿主動物の細胞内部へ導入し、細胞の性質に変化を与える。EPECや腸管出血性大腸菌(enterohemorrhagic Escherichia coli、EHEC)などの腸管接着性細菌は、腸管の上皮細胞に接着して、微絨毛を破壊する(A/E(attaching and effacing)病変)が、このA/E病変はTTSSを介して分泌されるエフェクター分子によって引き起こされるものであり、それらエフェクター分子の遺伝子の多くは、LEE(locus of enterocyte effacement、腸管付着性遺伝子群)と呼ばれる病原遺伝子群に属している。本発明の有効成分であるEspH蛋白質も、LEEの産物の一つとして知られていたものである(Xuanlin Tu, Israel Nisan, Chen Yona, et al. (2003) “EspH, a new cytoskeleton-modulating effector of enterohaemorrhagic and enteropathogenic Escherichia coli.” Molecular Microbiology, 47(3), 595-606)。
【0017】
LEEはEPECやEHECのほか、EPECとほとんど同じA/E病原因子をもち、他の動物に対しても感染性を有する病原性大腸菌、例えばマウスにも感染性のあるCitrobacter rodentiumにも存在している(Wanyin Deng, Yuling Li, Bruce A. Vallance, and B. Brett Finlay (2001) "Locus of Enterocyte Effacement from Citrobacter rodentium: Sequence Analysis and Evidence for Horizontal Transfer among Attaching and Effacing Pathogens." Infection and Immunity, 69(10), 6323-6335.)。このマウスに対するEPECと言えるCitrobacter rodentiumやその変異株をマウスに感染させることにより、A/E病変について解析するモデル実験の実施が可能となっている。
【0018】
従って、本発明に用いられるEspH蛋白質としては、実施例に記載のように、病原性大腸菌のうちCitrobacter rodentiumに由来し、配列番号1に示すアミノ酸配列を有している蛋白質や、EPECに由来し、配列番号2に示すアミノ酸配列を有している蛋白質を利用できるが、その他の、保存性の高いLEEを有していて同様のA/E変異を引き起こす病原性大腸菌、例えばEHECに由来するものも同様に用いることができる。
【0019】
===EspH蛋白質によるPI3キナーゼの阻害===
実施例1、2に示すように、EspH蛋白質は、PI3キナーゼに対する阻害活性を有するため、EspH蛋白質は、PI3キナーゼを阻害するのに利用できる。ここで、PI3キナーゼの阻害は、EspH蛋白質のPI3キナーゼに対する阻害活性を利用するものであれば、EspH蛋白質がどのような形でなされてもよい。例えば、EspH蛋白質の全体を用いても、EspH蛋白質の一部からなる蛋白質を用いても構わないが、最低限、EspH蛋白質の活性中心は必要であると考えられる。この場合、EspH蛋白質の阻害活性を用いる反応系は、in vitroでもin vivoでもよく、例えば、試験管内の再構成系や細胞抽出物内でも、あるいは組織培養や個体中の細胞内でも、反応系として利用できる。この阻害作用は、EspH蛋白質がPI3キナーゼを直接的に阻害してもよいし、あるいはEspH蛋白質が、PI3キナーゼにシグナルを伝える上流の他の分子の機能を調節し、その調節された分子の機能によって間接的にPI3キナーゼを阻害してもよい。
【0020】
このように、EspH蛋白質は、PI3キナーゼの阻害剤として有用である。ここで、PI3キナーゼの阻害剤は、どのような形状でもよく、EspH蛋白質のPI3キナーゼに対する阻害活性を阻害しないものであれば、どのような添加剤を含有してもよい。
【0021】
なお、細胞に対するEspH蛋白質の投与方法としては、EspH蛋白質をコードする遺伝子をプラスミドやウイルスベクター等の発現ベクターに組み込み、細胞に形質導入することや、HIVウイルスのTAT蛋白質の細胞膜透過ドメイン(Tyr-Gly-Arg-Lys-Lys-Arg-Arg-Gln-Arg-Arg-Arg)との融合蛋白質を作製し、細胞に投与すること、感染時にEspH蛋白質を導入できるEPEC等の細菌を感染させること、などが挙げられる。
【0022】
EspH蛋白質を導入する対象となる細胞としては、PI3キナーゼを含有する細胞であれば何でもよく、EspH蛋白質はその細胞に対するPI3キナーゼの阻害剤として有効に機能するが、とりわけ樹状細胞が好適である。この場合は樹状細胞の炎症性サイトカイン発現を亢進させることができるので、個体内の樹状細胞にEspH蛋白質を含有させることにより、後述するように、個体内で免疫応答を調節したり、アレルギー等の疾患に対する治療薬を提供できるようになるからである。
【0023】
===EspH蛋白質による炎症性サイトカイン分泌の合成促進===
PI3キナーゼの抑制は、PI3キナーゼ依存性炎症性サイトカインの合成を促進することができる。ここで、EspH蛋白質を導入する対象となる細胞としては、前述の樹状細胞が好適な例であるが、その他炎症性サイトカイン分泌がPI3キナーゼ依存的に制御されている細胞、例えば、単球やマクロファージ(例えば、Guha, M. and Mackman, N. (2002) “The phosphatidylinositol 3-kinase-Akt pathway limits lipopolysaccharide activation of signaling pathways and expression of inflammatory mediators in human monocytic cells.” J. Biol. Chem. 277:32124-32132. を参照)、サルモネラ菌が感染した上皮細胞(例えば、Huang, F. C., Li, Q. and Cherayil, B. J. (2005) “A phosphatidyl-inositol- 3-kinase-dependent anti-inflammatory pathway activated by Salmonella in epithelial cells.” FEMS Microbiol. Lett. 243:265-270. を参照)、さらにT細胞(実施例6)、などのサイトカイン分泌細胞をも対象とすることができる。
【0024】
合成が促進される炎症性サイトカインとしては、樹状細胞の場合であれば主にIL−12であるが、その他の炎症性サイトカイン、例えばT細胞から分泌されるケモカインの合成も促進される(実施例6)。また、上述のマクロファージから分泌される腫瘍壊死因子(Tumor Necrosis Factor、TNF)や組織因子(Tissue factor、TF)、あるいは、サルモネラ菌の感染などによりToll-like 受容体を介して刺激された上皮細胞から分泌されるケモカインやサイトカインなどについても、PI3キナーゼの阻害によりそれらの合成を促進することができる。
【0025】
このように、EspH蛋白質は、炎症性サイトカインの合成を促進する促進剤として有用である。ここで、炎症性サイトカイン合成の促進剤は、どのような形状でもよく、EspH蛋白質のPI3キナーゼに対する阻害活性を阻害しないものであれば、どのような添加剤を含有してもよい。
【0026】
さらに、樹状細胞でのIL−12の合成促進の結果として、IL−12によって炎症性サイトカイン合成が調節される細胞でのサイトカイン合成を促進することもできる。例えばEspH蛋白質を投与した樹状細胞の存在下では、樹状細胞からのIL−12分泌が亢進し、その結果T細胞が分泌するサイトカイン、例えばIFN−γのT細胞での合成が促進される。
【0027】
このように、EspH蛋白質は、EspH蛋白質を投与した樹状細胞の存在下で、T細胞におけるサイトカイン合成を促進する促進剤としても有用である。ここで、T細胞におけるサイトカイン合成の促進剤は、どのような形状でもよく、EspH蛋白質のPI3キナーゼに対する阻害活性を阻害しないものであれば、どのような添加剤を含有してもよい。
【0028】
なお、例えば樹状細胞において、EspH蛋白質によってPI3キナーゼを阻害する場合、IL−12の発現亢進が生じることが望ましくないときは、IL−12遺伝子が欠損した樹状細胞を用いたり、あるいはIL−12の阻害剤を樹状細胞に投与することによって、IL−12の発現亢進を回避しながらPI3キナーゼを阻害することもできる。
【0029】
===EspH蛋白質による免疫応答の調節===
炎症性サイトカイン、なかでもIL−12は強力な細胞性免疫応答の賦活化能を有することから、実施例3、4に示すように、EspH蛋白質は細胞性免疫応答の賦活剤としても有用であり、脊椎動物個体への投与により、炎症性サイトカインの発現の亢進を介して細胞性免疫応答を増強できる。それに加えて、脊椎動物においては、細胞性免疫応答と液性免疫応答という二つの免疫応答機構のバランスが互いに保たれるため、EspH蛋白質は液性免疫応答の抑制剤として利用することもできる。
【0030】
その際、免疫応答を調節する目的に対してもっとも効果的になるように、EspH蛋白質の用量や剤形を適宜選択すればよい。例えば、個体に対し、EspH蛋白質自体を投与してもよいし、あるいはEspH蛋白質をコードする遺伝子を投与してもよい。個体に対してEspH蛋白質を投与する場合の投与方法は特に限定されないが、たとえば塗布、散布、注射、感染体の感染などでもよい。また遺伝子を用いる場合の導入方法も、一般的に生体内に遺伝子を導入して発現させる方法でよく、たとえば発現ベクターを投与する方法でもよい。
【0031】
以上のように本発明は、EspH蛋白質を利用することにより、動物の免疫応答を調節することのできる調節剤、及び調節のための方法を提供することができる。
【0032】
===EspH蛋白質の疾患治療における利用===
アレルギー反応は、ある抗原に対し、過剰な液性免疫応答が生じた結果として起きる疾患である。従って、本発明に従いEspH蛋白質を投与することにより、液性免疫応答を抑制することができるので、アレルギー疾患の治療を行うことができる。
【0033】
例えば皮膚アレルギーの場合、皮下に存在しアレルギーの原因となっている樹状細胞にEspH蛋白質を送達できる剤型、例えば軟膏にすれば、本発明は皮膚アレルギーに対する抗アレルギー剤を提供できる。あるいはアレルギー反応の形態によっては、その他の一般的な投与方法と剤型を用いることもできる。なおこのような液性免疫応答の抑制を実施する際に、細胞性免疫応答の亢進に伴う炎症などの発症が望ましくない場合は、併せて樹状細胞における反応より下流の反応に効果がある対症的な抗炎症剤を投与することでその問題を回避することもできる。
【0034】
本発明はさらに、癌の治療のための治療薬を提供する。例えば、癌免疫療法においては、樹状細胞は癌抗原を提示するように調節されて癌患者に投与される。ここで、患者に投与される樹状細胞に、EspH蛋白質を導入しておくことにより、樹状細胞移植後、IL−12発現を亢進させ、癌特異的な細胞傷害性T細胞の産生を増強することができる。
【実施例】
【0035】
以下に、実施例及び図を用いて本発明の実施の態様をより詳細に説明する。
【0036】
<実施例1>
===腸管病原性大腸菌(EPEC)と株化樹状細胞との共培養実験===
株化されたミエロイド系樹状細胞であるDC2.4にEPECを感染させたときの、樹状細胞におけるPI3キナーゼ活性を、PI3キナーゼのリン酸化反応の基質であるAkt蛋白質のリン酸化を指標として調べ、EspH蛋白質によってPI3キナーゼ活性が阻害されることを示す。
【0037】
[共培養]株化樹状細胞DC2.4(Dr. Kenneth Rock of Dana-Farber Cancer Instituteから供与された)を、10%ウシ胎児血清(SIGMA)を含有するRPMI1640培地(Invitrogen)中で37℃・5%CO2にて培養した。一方、EPEC株Escherichia coli 2348/69(東京大学医科学研究所笹川研究室から供与)またはそのTTSS変異株(東京大学医科学研究所笹川研究室から供与)、さらに非病原性大腸菌であるMC1064(東京大学医科学研究所笹川研究室から供与)を、それぞれLB培地(10g/1l Polypepton(大五栄養化学株式会社)、5g/1l BactoTM Yeast Extract(BD)、5g/1l NaCl(Wako)、1.2ml/1l 4N-NaOH(Wako))で一晩培養した後、DMEM培地(SIGMA)で1:10に希釈し、さらに37℃で2時間培養した。6穴培養プレートに移した培養細胞に対し、感染多重度(multiplicity of infection、moi)が100となるよう上記細菌の培養液をそれぞれ添加して、10%ウシ胎児血清含有RPMI1640培地で37℃にてさらに3時間培養した。
【0038】
[ウェスタンブロッティング]細菌感染から所定の時間経過後の培養細胞の一部をリン酸緩衝液(PBS)で洗浄し、それぞれSDS試料可溶化溶液で可溶化して5分間煮沸した。これらの試料をSDSポリアクリルアミドゲルで電気泳動してからPVDF転写膜(BIORAD)上に転写した。転写膜は5%スキムミルク及び0.05%Tween-20含有トリス緩衝液(TBS)でブロッキング処理の後、0.05%Tween-20含有TBSで10分間3度洗浄した。一次抗体として、抗リン酸化Akt抗体(Cell Signaling)を5%BSA含有TBSで500倍希釈してから、4℃にて一晩、上記の転写膜に対して結合させた。コントロールとして、抗α-チューブリン抗体(SIGMA)をTBSで1000倍に希釈し、室温にて同様に転写膜に結合させた。その後、TBSで2000倍に希釈した二次抗体(SIGMA)で37℃・1時間転写膜を処理し、転写膜上のリン酸化Akt蛋白質をECL(登録商標)ウエスタンブロッティング検出試薬(Amersham Biosciences)で検出した。
【0039】
[espH変異株の作製と共培養実験]まず、EspH蛋白質の機能が低下したEPEC変異体を準備した。変異体は、hypomorphでもamorphでもよいが、ここでは、espH遺伝子に欠損を導入したamorphを作製した(方法の詳細は、Matsuzawa, T., Kuwae, A., Yoshida, S., Sasakawa, C. and Abe, A. (2004) “Enteropathogenic Escherichia coli activates the RhoA signaling pathway via the stimulation of GEF-H1.” EMBO J. 23:3570-3582.を参照)。得られたespH変異株を使用し、野生株を用いた前述の場合と同様にして、DC2.4細胞に対する共培養実験を実施した。espH変異株に感染した細胞に対して、前述の方法でウェスタンブロッティングを実施して、リン酸化Akt蛋白質を検出した。なお、ここでは、細菌感染が樹状細胞刺激になっているため、特に樹状細胞を刺激する処理はしていないが、リポ多糖やCpG-DNAなどのToll様受容体リガンドなどを投与して、樹状細胞を刺激してもよい。
【0040】
[結果]樹状細胞に非病原性大腸菌を感染させるとAkt蛋白質リン酸化が漸次増大した(図1a)。しかし、野生型のEPECを同様に感染させると、リン酸化Aktが急速に減少して3時間以内にほぼ消失した(図1bの右側)。一方、TTSSによる分泌機能を欠失した変異株を用いるとこのようなリン酸化の抑制が起こらなかった(図1bの左側)ことから、このリン酸化抑制がTTSSが関与する因子によるものであることが示唆された。そこでespH遺伝子を欠損させた変異株を同様にして用いると、リン酸化の低減がやはり消失した(図1c右)。なおa、bでは、非病原性大腸菌やEPECのTTSS変異株が貪食されることによる副次的な変化を避けるため、貪食を阻害できるサイトカラシンDを添加した。サイトカラシンDの非存在下(c)でも同様の結果が得られた。
【0041】
これらの結果より、樹状細胞における、EPECによるPI3キナーゼ活性の抑制は、EspH蛋白質の作用によることが分かると同時に、樹状細胞にEspH蛋白質を導入することにより、樹状細胞内でPI3キナーゼ活性が阻害されることが示された。従って、EspH蛋白質は、PI3キナーゼ阻害剤として有用であることが明らかになった。
【0042】
<実施例2>
===EPECと骨髄由来樹状細胞との共培養実験===
次に、骨髄由来樹状細胞(BMDC)の初代培養に対して実施例1と同様にEPECを感染させた時の、IP3キナーゼ活性及びIL−12発現を調べた。初代培養樹状細胞にEspH蛋白質を投与すると、株化樹状細胞の場合と同様に細胞内のIP3キナーゼが抑制され、さらにIL−12が合成されることを示す。
【0043】
[骨髄細胞の単離と共培養]B10.D2マウスの大腿骨および脛骨の骨髄から、注射針を装着した注射器で細胞を採取し、6穴培養プレート中の10ng/ml顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM−CSF、PEPROTECH EC)を含有するRPMI1640完全培地へ移して培養を開始した。培養開始後2日目および4日目に培地を交換して、顆粒状細胞を除去した。6日目に、軽く付着していた細胞を穏やかなピペッティング操作で回収し、N418磁気ビーズ及びセルソーター (Myltenyi Biotec)を用いて、CD11c発現細胞をBMDCとして分離した。分離されたBMDCを用いて、実施例1の株化樹状細胞の場合と同様に、EPECと共培養し、以下の分析を行った。
【0044】
[細胞及び核の形態観察]感染させた細胞をカバーガラス上に移し、4%パラフォルムアルデヒド含有PBSを用いて室温で20分間固定した。アクチンの検出のため、rhodamine-phalloidin(Molecular Probe)をTBSに100倍希釈し37℃で一時間静置して標識を実施した。またDNAの検出のため、TO−PRO−3(Molecular Probe)をTBSに100倍希釈し37℃で一時間静置して核染色を実施した。細胞を共焦点顕微鏡で観察し、アクチンの検出によって細胞の形態の画像を、またDNAの検出により細胞および感染細菌の核の画像を得た。
【0045】
[リン酸化測定] 培養した細胞の一部に対して、実施例1と同様のウェスタンブロッティングを実施して、Aktリン酸化の程度を指標として、PI3キナーゼの活性化を調べた。
【0046】
[サイトカイン発現測定]培養細胞からISOGEN RNA抽出試薬(NIPPON GENE)を用いて全RNAを単離し、5μgの全RNAを鋳型として用い、ReverTra Ace cDNA合成キット(TOYOBO)を使用してcDNAを合成した。これをさらに鋳型として用い、Light Cycler (登録商標)2.0 PCR装置(Rosch)を使用して、以下のプライマー対を使用し、下記の反応条件によるリアルタイムPCRを実施することにより、IL−12に対するmRNA(IL-12p40)の発現量の相対的定量化を行った:
p40 forwardプライマー:CAGAAGCTAACCATCTCCTGGTTTG(配列番号6);
p40 reverseプライマー:CCGGAGTAATTTGGTGCTCCACAC(配列番号7);
反応条件:95℃で0.5分間変性後、95℃10秒−57℃30秒−72℃30秒のサイクルを45回。
【0047】
[espH変異株を用いた共培養および測定]実施例1に記載したEPECのespH変異株を使用して、上記と同様にBMDCとの共培養実験を実施した。得られた感染細胞について、免疫蛍光染色及びリン酸化測定を、上記のそれぞれの方法で行った。
【0048】
[結果]骨髄から単離したBMDCの初代培養細胞について、EPECの野生株で見られたPI3キナーゼ活性の抑制が、espH変異株では低減した(図2c)。また、細菌感染によるIL−12発現の増大は、野生株の場合は感染後2時間以降も持続したのに対し、TTSS変異株およびespH変異株では3時間以内に低下した(図2d)。これらの結果から、実施例1と同様、樹状細胞にEspH蛋白質を導入することにより、樹状細胞内でPI3キナーゼ活性が阻害され、IL−12合成が促進されることが示された。
【0049】
なお、EPECまたはその変異株の感染を観察すると、野生型細菌は細胞の表面に付着して微小コロニーを形成する(図2a上段およびb)のに対し、TTSS変異細菌株は細胞に貪食され(図2a下段)、espH変異株を共培養した場合は、野生型同様、貪食されず、微小コロニーを形成する(図2a中段)ことから、espH変異株が野生型同様細胞に感染することはできること、従って、espH変異株の表現型は、EPECが細胞に感染できないからではないこと、も示された。
【0050】
<実施例3>
===Citrobacter rodentiumのマウスへの感染実験===
本実施例では、Citrobacter rodentiumをマウス個体に感染させてマウスの免疫応答を調べることにより、EspH蛋白質をマウスに投与することによってマウスの細胞性免疫応答を亢進させることができることを示す。
【0051】
[経口感染と結腸の感染測定]BALB/c系統のマウスをクレアジャパンから、またB10.D2系統のマウスを日本エスエルシーから入手し、到着したすべてのマウスを東京大学医科学研究所内の動物飼育施設において東京大学策定のガイドラインに従って一週間飼育した。Citrobacter rodentium EX-33株(以下C.rodentiumと略記、東京大学医科学研究所笹川研究室から供与)を一晩37℃で培養し、その200μl(一頭当たり2〜3×10 コロニー形成単位(cfu)相当量)を、飼養にてそれぞれのマウスに経口投与して感染させた。所定の期間飼育を継続した後に屠殺し、直腸から4.5cm分の遠位結腸を切除してPBSによる洗浄で糞便ペレットを除去した。組織の重量測定および肉眼観察の後、ポッターエルベージェム型デジタルホモジェナイザー(AS ONE)でホモジェナイズした。ホモジェネートを冷PBSで段階的に希釈のうえ、マッコンキー寒天培地(DIFCO LABORATORIES)上に接種した。プレート上に生じたコロニーの数を計数し、マウス1匹当たりのcfuを算出して感染の程度の指標とした。一方、感染後12日目に同様に摘出した組織を10%中性緩衝ホルマリンで固定し、薄切して、ヘマトキシリンエオジンにより組織染色して顕微鏡観察を行った。
【0052】
[IFN−γの定量]感染後12日目のマウスの腸間膜から、腸間膜リンパ節(MLN)細胞を注射針を用いて単離した。穏やかに懸濁した後100μmメッシュを通して組織片を除去してから、RPMI1640培地中に移して、37℃にて培養を開始した。続いて、MLN細胞を細菌溶解液37℃で72時間にわたって刺激した。培養上清中のマウスIFN−γの含有量を、Quantikine M ELISAキット(R&D Systems)を使用して測定した。
【0053】
[C.rodentiumのespH変異株の作製]C.rodentiumについて、以下のようにしてespH遺伝子の変異株を作製した。変異体は、hypomorphでもamorphでもよいが、ここでは、espH遺伝子が欠損したamorphを作製した。
【0054】
まず、C. rodentium の染色体DNAを鋳型とし、以下のプライマー対を用いて、下記反応条件によるPCRを実施することによってespH遺伝子の上流部分に対応するDNA断片(espH−5)を増幅した:
espH-5 forwardプライマー:AACTGCAGAAGAGGAGCACTCGT(配列番号2);
espH-5 reverseプライマー:GCGTCGACCATGATACATCTCCC(配列番号3);
反応条件:94℃で2分間変性後、94℃60秒−58℃60秒−72℃120秒のサイクルを30回。
【0055】
同様にして、espH遺伝子の下流部分に対応するDNA断片(espH−3)を、以下のプライマー対および反応条件でのPCRにより増幅した:
espH-3 forwardプライマー:GCGTCGACCCTTTGTCAGGCATG(配列番号4);
espH-3 reverseプライマー:GCTCTAGAAATCTGCTCCTGCCG(配列番号5);
反応条件:94℃で2分間変性後、94℃60秒−58℃60秒−72℃120秒のサイクルを30回。
【0056】
得られたespH−5から制限酵素PstI切断部位とSalI切断部位との間のDNA断片を、またespH−3からSalI切断部位とXbaI切断部位間のDNA断片を、それぞれ対応する制限酵素による切断処理で切り出した。これら二つのDNA断片を互いにXbaI部位で連結し、連結されたDNA断片をショ糖感受性自殺ベクターpCACTUS(東京大学医科学研究所笹川研究室から供与)のクローン化部位に挿入した。挿入されたespH由来のDNA断片は、espH遺伝子によりコードされるEspH蛋白質の10番目から171番目までを欠失させる変異を有している。
【0057】
こうして得られた組み換え体発現ベクター、pCACTUS-espHを、エレクトロポレーション法によりC.rodentiumに導入した。形質転換株を5μg/mlトリメトプリム存在下のLBプレート上で一晩培養し、pCACTUS-espHが導入された菌を選択した。pCACTUSベクターはその複製部位が温度感受性のため、30℃以上では複製できず、結果として宿主大腸菌のゲノムへ組み込まれることが知られている。これを利用して、選択された菌を42℃で一晩培養することでpCACTUS-espHのゲノムへの導入を誘導した。こうして、C.rodentiumのespH遺伝子部位にpCACTUS-espH全体を組み込ませた。次にpCACTUSのショ糖感受性を利用して、ゲノムに組み込まれたpCACTUS-espHを再びゲノムの外に脱落させた。この作業において、pCACTUS-espHの遺伝子が組み込まれたゲノムは元の状態に戻るが、この時、一定の確率でespH変異遺伝子が安定に組み込まれた状態になってしまうゲノムも存在する。そこで、最終的に得られたコロニーからゲノムを取り出し、これを鋳型としてespH-5 forwardプライマーおよびespH-3 reverseプライマーを用いたPCRを、94℃で2分間変性後、94℃60秒−58℃60秒−72℃120秒のサイクルを30回の条件で行い、増幅したDNA断片を電気泳動し、それぞれのPCR産物の長さを比較することで、espH変異遺伝子が安定にゲノムに組み込まれた菌の同定を行った。この結果得られた複数の菌をさらに培養し、もう一度PCR法を用いて遺伝子の変異を確認し、C.rodentiumのespH変異株を得た。この変異株は、EspH蛋白質の機能が欠損した表現型を示した。
【0058】
[espH変異株による感染および測定]こうして得られたC.rodentiumのespH変異株を使用して、上記と同様にしてBALB/cマウスに対する感染実験を実施した。得られた感染マウスに対して、結腸への細菌感染の測定、組織観察およびサイトカイン定量を、上記のそれぞれの方法で実施した。
【0059】
[結果]C.rodentiumの野生株はマウス結腸に感染すると8日以内に急速に増殖し(図3aの黒色縦棒)、組織の重量が増加した(図3bの白丸)。これに対しespH変異株では結腸内の菌数が野生型より少なく、組織の重量増加の程度も小さかった(図3a白色縦棒、図3b黒丸)。
【0060】
マウス結腸の肉眼観察では、野生株の感染では腸内の固形糞便が消失して全体が浮腫状となっており、組織病理学的観察でも感染部位の病変が認められた(図3c左)のに対し、espH変異株の場合は固形糞便を含有する健康な結腸が観察され、組織像にも病変を認めなかった(図3c右)。従って、espH蛋白質が、細菌の増殖を促進し、感染部位の病変を引き起こしていると考えられる。
【0061】
さらにMLNでのサイトカインを定量すると、感染前には未検出だったIFN−γが感染後に顕著に発現していたが、変異株ではほとんど発現が起こらなかった(図3d)。IFN−γは、細胞性免疫応答を増強する機能を有するTh1細胞において、IL−12によって発現誘導され、Th1細胞の分化・増殖に中心的な役割を果たすことから、EspH蛋白質が、マウスの細胞性免疫応答を増強していることが示された。
【0062】
以上より、マウス結腸に感染させたC.rodentiumが分泌するEspH蛋白質が、マウスの細胞性免疫応答を亢進していることが明らかとなり、EspH蛋白質が、細胞性免疫応答の賦活剤として有効であることがわかった。
【0063】
<実施例4>
===C.rodentiumのPI3キナーゼノックアウトマウスへの感染実験===
本実施例では、遺伝的に細胞性免疫に比べて液性免疫応答が優位であるため、C.rodentium感染の効果が生じないことが知られているBALB/cマウスの遺伝的バックグラウンドを有するPI3キナーゼノックアウトマウスに対し、C.rodentiumを感染させ、その効果を調べる。これにより、BALB/cマウスにおける液性免疫応答の優位性にPI3キナーゼが関与しており、PI3キナーゼを阻害することにより、液性免疫応答を抑制できること、さらに、マウスにおいても、EspH蛋白質の機能がPI3キナーゼを通じて発揮されるため、EspH蛋白質の投与により、PI3キナーゼが阻害され、その結果として生じる下流のイベントが起きること、を示す。
【0064】
[ノックアウトマウスの作製]PI3キナーゼのp85α調節サブユニットの欠損したマウスを以下の方法で作製した(詳細は、Terauchi, Y., Tsuji, Y., Satoh, S.et al. (1999) “Increased insulin sensitivity and hypoglycemia in mice lacking the p85a subunit of phosphoinositide 3-kinase.” Nature Genetics 21:230-235. を参照)。すなわち、p85αをコードする遺伝子Pik3r1を、マウスD3ゲノムライブラリーから単離した。そのエクソン1Aの両側の制限酵素PstI切断部位間に、ネオマイシン耐性遺伝子を含むカセットを挿入した。こうして作製したp85α欠損遺伝子を、ES細胞に相同組み替えにより導入して、得られたp85α(+/-)ES細胞を用いてPI3キナーゼのノックアウトマウスを作製した。得られたノックアウトマウスをBALB/cマウスに12代の戻し交配をすることにより、ノックアウトマウスの遺伝的バックグラウンドをBALB/cのものに置換した。こうして作製された、変異p85α遺伝子に関しホモ接合であるマウス個体は、PI3キナーゼ機能の欠損した表現型を示し、ここではp85αノックアウトマウスと記載する。また、変異p85α遺伝子のヘテロ接合個体は、その表現型においては、野生型マウスと同様に、正常なPI3キナーゼ機能を有し、ここではp85αヘテロザイゴートと記載する。
【0065】
[感染実験]野生型BALB/cマウスおよびp85αノックアウトマウスに対して、C.rodentium野生株またはそのespH遺伝子欠損型変異株を用いて、実施例3と同様の感染実験を実施した。そして感染マウスの各々について、実施例3に記載した方法で、感染菌数の測定、摘出した結腸の組織重量測定、並びにそれらの肉眼的及び組織学的観察を実施した。
【0066】
[結果]BALB/cマウスの遺伝的バックグラウンドを有するp85αノックアウトマウスに対してC.rodentiumの野生株を感染させたところ、野生型B10.D2マウスへの感染と同程度の高い感染を示した(図4)。この結果は、BALB/cマウスにおいて液性免疫応答が優位であることに、PI3キナーゼが関与していることを示しており、espH蛋白質によってPI3キナーゼを阻害することにより、液性免疫応答を抑制できることがわかった。
【0067】
一方、ノックアウトマウスに対してC.rodentiumのespH変異株を感染させたところ、実施例3の場合に見られたようなespH遺伝子の変異による感染性の低下がここでは見られなかった(図4)。また、摘出した結腸の観察においても、espH変異の有無にかかわらず、野生型マウス(図4c左)よりもノックアウトマウス(図4c右)の方が高い感染を示していた。これらのことから、マウスの個体においても、EspH蛋白質の標的がPI3キナーゼであることが確認された。
【0068】
<実施例5>
===C.rodentiumの骨髄移植キメラマウスへの感染実験===
野生型マウスにp85αノックアウトマウスの骨髄を移植したキメラマウスに対し、C.rodentiumによる感染実験を行うことにより、C.rodentiumのもつEspH蛋白質の標的は骨髄由来の細胞、特に樹状細胞であることを示す。
【0069】
[骨髄移植] BALB/cの遺伝的背景を持つ、実施例4に記載の方法で作製したp85αノックアウトマウスあるいはp85αヘテロザイゴートマウスの大腿骨の骨髄から、実施例2に記載の方法で細胞を採取した。赤血球を塩化アンモニウム溶液により溶血させて除去し、10個の骨髄細胞を0.15mlのPBSに懸濁した。一方、別のp85αヘテロザイゴートマウスに、4.5GyのX線をX線照射装置(日立メディコ社製)で照射した後、上記の骨髄細胞懸濁液のいずれかを静脈内投与した。
【0070】
[感染実験]こうして得られた2種類の骨髄移植キメラマウスに対して、実施例3と同様にして、C.rodentiumによる感染実験を実施した。それぞれの感染マウスに対して、実施例3に記載の方法で、細菌感染の測定及び組織観察を実施した。
【0071】
[結果]致死量の紫外線照射により骨髄の細胞はすべて死滅するため、p85αヘテロザイゴートマウスにノックアウトマウスの骨髄を移植したキメラマウスにおいては、樹状細胞も含めて骨髄の細胞はほとんどすべてがノックアウトマウス由来の細胞となる。このようなキメラマウスへの感染実験を行ったところ、ノックアウトマウス自体の場合と同様に野生型マウスよりも高い感染性を有しており(図5a、b)、野生型マウスなら生じない結腸での感染による病変も認められた(図5c)。これらのことから、C.rodentiumのもつEspH蛋白質の標的は骨髄由来の細胞であることが確認され、実施例1、2などから、少なくとも樹状細胞がその標的であることがわかる。従って、EspH蛋白質を発現させる対象の細胞として、樹状細胞が好適であることが示された。
【0072】
<実施例6>
===ノックアウトマウス由来のT細胞に対する分化誘導実験===
マウス個体から単離したT細胞を分化誘導することにより、T細胞から分泌されるケモカインmacrophage inflammatory protein-2(MIP−2)の発現が、T細胞内のPI3キナーゼによって制御されていることを示す。
【0073】
[マウス脾臓細胞の単離と刺激]実施例4に記載の方法で作成したp85αヘテロザイゴートマウスおよびp85αノックアウトマウスからそれぞれ脾臓細胞を分離し、赤血球を塩化アンモニウム溶液による溶血処理で除去した。抗CD4抗体マイクロビーズ(第一化学薬品)を用いて、AutoMACS(登録商標)セルソーター(Miltenyi Biotec)を使用してCD4+T細胞を分離し、10%ウシ胎児血清を含むRPMI1640培地中で培養した。これらの培養細胞に、抗CD3抗体及びCD28抗体(共に10 μg/ml、B-Dファーミンジェン)、もしくはPhorbol myristate acetate(PMA、50 ng/ml、Calbiochem)及びIonomycin(1 μg/ml、Calbiochem)をそれぞれ同時添加することにより刺激を与えた。刺激開始から48時間後に培養上清を回収し、上清に含まれるMIP−2の濃度を、抗MIP−2抗体(R&D Systems)を使用したELISAにて測定した。
【0074】
[結果]PI3キナーゼの欠損したノックアウトマウス由来の培養T細胞では、分化誘導剤の添加によりMIP−2の発現が亢進し、抗体による刺激の場合は、より顕著に亢進が起こった(図6左)。これに対し、野生型マウス由来のT細胞を用いた実験では、分化誘導剤ではMIP−2の発現の亢進が見られず、抗体刺激の場合も、発現亢進の程度はノックアウトマウスの場合よりは小さかった(図6右)。
【0075】
このことから、PI3キナーゼはT細胞におけるケモカイン発現を抑制する作用を有しており、従ってT細胞は、そのPI3キナーゼ活性を阻害することによりケモカイン分泌を亢進させる対象として好適であることが分かった。
【0076】
なお、T細胞においてケモカイン発現を亢進させるためには、T細胞内でPI3キナーゼ活性を阻害できる方法であれば、どのような方法でも構わない。EspH蛋白質を発現させることは、その実施態様の一例となる。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】本発明の実施例1における、EPECまたはその変異株の株化樹状細胞との共培養実験の結果を表す図である。a〜cの上部に示した菌株に感染した後、所定の時間(H表示)経過した細胞における、リン酸化Akt蛋白質(各上段)、および内部標準としてαチューブリン(a、bの下段)の量が、それぞれウェスタンブロッティングによるバンドの濃淡として示されている。
【図2】本発明の実施例2における、EPECまたはその変異株の骨髄由来樹状細胞(BMDC)との共培養実験の結果を表す図である。aおよびbでは、左上隅に示したマウス系統から採取されたBMDCに、左端に表示した菌株(bでは野生株)をそれぞれ感染させて培養したものを、アクチン(左列)またはDNA(中列)をそれぞれ可視化して顕微鏡観察した画像、そしてそれらを重ね合せた画像(右列)が示されている。細菌はDNAの可視化によって画像中では小斑点状に現されている。cでは、野生株または変異株に感染後のBMDCにおけるリン酸化Akt量の変動が、図1と同様にして示されている。dでは、感染後所定の時間(H表示)経過後の細胞について、サイトカイン発現(IL−12p40mRNAの量)の相対的な測定結果が示されており、黒色、斜線、白色の縦棒がそれぞれ野生株、TTSS変異株、およびespH変異株による感染を表している。
【図3】本発明の実施例3における、C. rodentiumまたはその変異株のB10.D2マウスへの感染実験の結果を表す図である。aでは、経口感染から所定日数経過後の結腸での感染の程度が示されており、黒色および白色の縦棒はそれぞれ野生株または変異株の細菌数(cfu)を表している。bでは、感染から所定日数経過後に摘出した結腸の組織重量の変化の様子が示されており、白丸と黒丸はそれぞれC.rodentium野生株とespH変異株を表している。cでは、野生株(左)または変異株(右)に感染後12日目に摘出した結腸の肉眼的(上段)または病理組織学的(下段)観察結果が示されており、各下段の左側パネル内の四角枠の領域がさらに拡大されて右側に示されている。dでは、未感染または各菌株に感染したマウスの腸間膜リンパ節におけるIFN−γの産生量が示されている。
【図4】本発明の実施例4における、C. rodentiumまたはその変異株のPI3キナーゼノックアウト(KO)BALB/cマウスまたは野生型BALB/cマウスへの感染実験の結果を表す図である。aとbでは、C.rodentium野生株(黒色縦棒)またはespH変異株(白色縦棒)に感染したマウスの結腸について、感染細菌数(a)および組織重量(b)が示されている。cとdでは、野生株(c)または変異株(d)に感染した、野生型(左)またはノックアウト(右)マウスから摘出した結腸の観察結果が示されており、図3cと同様に、肉眼的観察像(上段)、病理組織学的観察像(下段左)およびその部分拡大図(下段右)がそれぞれ示されている。
【図5】本発明の実施例5における、C. rodentiumの骨髄キメラマウスへの感染実験の結果を表す図である。C.rodentium野生株に感染したキメラマウスの、細菌数(a)および組織重量(b)の経時変化、さらに感染後12日目に摘出された結腸の観察結果(c)、がそれぞれ示されている。p85αヘテロザイゴートマウスにp85αノックアウトマウスの骨髄を移植したキメラマウスへの移植実験の結果は、a、bでは白色縦棒で、またcでは左半分に示されており、他方、ヘテロザイゴートマウスにヘテロザイゴートマウスの骨髄を移植したキメラマウスを用いた場合の結果は、a、bでは黒色縦棒、cでは右半分に示されている。cでは、図3cと同様に、肉眼的観察像(上段)、病理組織学的観察像(下段左)およびその部分拡大図(下段右)がそれぞれ示されている。
【図6】本発明の実施例6における、PI3キナーゼに関するノックアウトマウスまたはヘテロザイゴートマウス由来のT細胞に対する分化誘導実験の結果を表す図である。p85αノックアウトマウス(PI3KKO)またはp85αヘテロザイゴートマウス(PI3KHT)の脾臓由来のT細胞について、薬物無添加で培養した場合(−)、2種類の抗体(α−CD3及びα−CD28)、または2種類の分化誘導剤(PMA及びionomycin)を同時添加した場合の、それぞれ48時間後に、細胞が培養上清中に分泌したケモカイン(MIP−2)を定量した結果が縦軸に示されている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
PI3キナーゼの阻害剤であって、
病原性大腸菌由来のEspH蛋白質を含有することを特徴とする阻害剤。
【請求項2】
前記PI3キナーゼがPI3キナーゼ依存性炎症性サイトカイン分泌細胞内に存在することを特徴とする、請求項1に記載の阻害剤。
【請求項3】
前記細胞が、樹状細胞、T細胞、マクロファージ、または上皮細胞のいずれかであることを特徴とする、請求項2に記載の阻害剤。
【請求項4】
前記PI3キナーゼによって分泌される炎症性サイトカインの阻害剤をさらに含有することを特徴とする、請求項2または3に記載の阻害剤。
【請求項5】
EspH蛋白質が配列番号1または2に示されたアミノ酸配列を有することを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の阻害剤。
【請求項6】
ヒト個体以外の系において、PI3キナーゼ活性を阻害する阻害方法であって、
病原性大腸菌由来のEspH蛋白質のPI3キナーゼ阻害活性によって、前記PI3キナーゼ活性を阻害することを特徴とする阻害方法。
【請求項7】
前記PI3キナーゼがPI3キナーゼ依存性炎症性サイトカイン分泌細胞内に存在することを特徴とする、請求項6に記載の阻害方法。
【請求項8】
前記細胞が、樹状細胞、T細胞、マクロファージ、または上皮細胞のいずれかであることを特徴とする、請求項7に記載の阻害方法。
【請求項9】
前記細胞に前記PI3キナーゼによって分泌される炎症性サイトカインの阻害剤を投与する工程をさらに含むことを特徴とする、請求項6〜8のいずれかに記載の阻害方法。
【請求項10】
前記EspH蛋白質が配列番号1または2に示されたアミノ酸配列を有することを特徴とする、請求項6〜9のいずれかに記載の阻害方法。
【請求項11】
細胞内のPI3キナーゼ依存性炎症性サイトカイン合成を促進する促進剤であって、
病原性大腸菌由来のEspH蛋白質を有効成分として含むことを特徴とする促進剤。
【請求項12】
前記細胞が、樹状細胞、T細胞、マクロファージ、または上皮細胞のいずれかであることを特徴とする、請求項11に記載の促進剤。
【請求項13】
前記細胞が樹状細胞であって、前記サイトカインがIL−12であることを特徴とする、請求項12に記載の促進剤。
【請求項14】
T細胞におけるサイトカイン合成を促進する促進剤であって、
樹状細胞に作用してIL−12を分泌させ、該IL−12がT細胞に作用して前記サイトカイン合成を促進することを特徴とする促進剤。
【請求項15】
前記サイトカインがIFN−γであることを特徴とする、請求項14に記載の促進剤。
【請求項16】
前記EspH蛋白質が配列番号1または2に示されたアミノ酸配列を有することを特徴とする、請求項11〜15のいずれかに記載の促進剤。
【請求項17】
細胞(ヒト個体中の細胞を除く)内において、PI3キナーゼ依存性炎症性サイトカイン合成を促進する促進方法であって、
病原性大腸菌由来のEspH蛋白質のPI3キナーゼ阻害活性によって前記細胞内のPI3キナーゼを阻害することにより、前記サイトカイン合成を促進することを特徴とする促進方法。
【請求項18】
前記細胞が、樹状細胞、T細胞、マクロファージ、または上皮細胞のいずれかであることを特徴とする、請求項17に記載の促進方法。
【請求項19】
前記サイトカインがIL−12であることを特徴とする、請求項18に記載の促進方法。
【請求項20】
T細胞におけるサイトカイン合成を促進する促進方法であって、
樹状細胞において病原性大腸菌由来のEspH蛋白質のPI3キナーゼ阻害活性によってIL−12を分泌させ、該IL−12がT細胞に作用して前記サイトカイン合成を促進することを特徴とする促進方法。
【請求項21】
前記サイトカインがIFN−γであることを特徴とする、請求項20に記載の促進方法。
【請求項22】
前記EspH蛋白質が配列番号1または2に示されたアミノ酸配列を有することを特徴とする、請求項17〜21のいずれかに記載の促進方法。
【請求項23】
細胞性免疫応答の賦活剤であって、
病原性大腸菌由来のEspH蛋白質を有効成分として含むことを特徴とする賦活剤。
【請求項24】
前記EspH蛋白質が配列番号1または2に示されたアミノ酸配列を有することを特徴とする、請求項23に記載の賦活剤。
【請求項25】
ヒト以外の脊椎動物の細胞性免疫応答を賦活する賦活方法であって、
病原性大腸菌由来のEspH蛋白質のPI3キナーゼ阻害活性によって前記脊椎動物の細胞内のPI3キナーゼを阻害することにより、前記脊椎動物の細胞性免疫応答を賦活することを特徴とする賦活方法。
【請求項26】
前記脊椎動物の細胞が、樹状細胞、T細胞、マクロファージ、または上皮細胞のいずれかであることを特徴とする、請求項25に記載の賦活方法。
【請求項27】
前記EspH蛋白質が配列番号1または2に示されたアミノ酸配列を有することを特徴とする請求項27または28に記載の賦活方法。
【請求項28】
脊椎動物の液性免疫応答の抑制剤であって、
病原性大腸菌由来のEspH蛋白質を有効成分として含むことを特徴とする抑制剤。
【請求項29】
前記液性免疫応答がアレルギー反応によることを特徴とする、請求項28に記載の抑制剤。
【請求項30】
前記EspH蛋白質が配列番号1または2に示されたアミノ酸配列を有することを特徴とする、請求項28または29に記載の抑制剤。
【請求項31】
抗炎症剤をさらに含有することを特徴とする、請求項28〜30のいずれかに記載の抑制剤。
【請求項32】
病原性大腸菌由来のEspH蛋白質を有効成分として含むことを特徴とする抗アレルギー剤。
【請求項33】
ヒト以外の脊椎動物において液性免疫応答を抑制する抑制方法であって、
病原性大腸菌由来のEspH蛋白質のPI3キナーゼ阻害活性によって前記脊椎動物の細胞内のPI3キナーゼを阻害することにより、前記脊椎動物の液性免疫応答を抑制することを特徴とする抑制方法。
【請求項34】
前記液性免疫応答がアレルギー反応によることを特徴とする、請求項33に記載の抑制方法。
【請求項35】
前記脊椎動物の細胞が、樹状細胞、T細胞、マクロファージ、または上皮細胞のいずれかであることを特徴とする、請求項33または34に記載の抑制方法。
【請求項36】
前記EspH蛋白質が配列番号1または2に示されたアミノ酸配列を有することを特徴とする、請求項33〜35のいずれかに記載の抑制方法。
【請求項37】
前記脊椎動物に対し、前記PI3キナーゼを阻害する際、抗炎症剤を投与することを特徴とする、請求項33〜36のいずれかに記載の抑制方法。
【請求項38】
病原性大腸菌由来のEspH蛋白質を含有し、癌抗原を提示する抗原提示細胞。
【請求項39】
前記細胞が樹状細胞であることを特徴とする、請求項38に記載の抗原提示細胞。
【請求項40】
前記EspH蛋白質が配列番号1または2に示されたアミノ酸配列を有することを特徴とする、請求項38または39に記載の抗原提示細胞。
【請求項41】
請求項38〜40のいずれかに記載の抗原提示細胞を含有する抗がん剤。
【請求項42】
ヒト以外の脊椎動物における癌の治療方法であって、
EspH蛋白質を含有し、前記癌の抗原を提示する抗原提示細胞を、前記脊椎動物に投与することを特徴とする治療方法。
【請求項43】
前記細胞が樹状細胞であることを特徴とする、請求項42に記載の治療方法。
【請求項44】
前記EspH蛋白質が配列番号1または2に示されたアミノ酸配列を有することを特徴とする、請求項42または43に記載の治療方法。
【請求項45】
病原性大腸菌の変異株であって、
espH遺伝子座に、PI3キナーゼの不活性化に関してハイポモルフ(hypomorph)またはアモルフ(amorph)である変異を有することを特徴とする変異株。
【請求項46】
前記大腸菌が腸管病原性大腸菌(EPEC)あるいはCitrobacter rodentiumであることを特徴とする、請求項45に記載の変異株。
【請求項47】
T細胞内のPI3キナーゼ依存性炎症性サイトカイン合成を促進する促進剤であって、
PI3キナーゼ阻害剤を有効成分として含むことを特徴とする促進剤。
【請求項48】
前記サイトカインがmacrophage inflammatory protein-2(MIP−2)であることを特徴とする、請求項47に記載の促進剤。
【請求項49】
前記PI3キナーゼ阻害剤が、病原性大腸菌由来のEspH蛋白質を含有することを特徴とする、請求項47に記載の促進剤。
【請求項50】
T細胞(ヒト個体中の細胞を除く)内において、PI3キナーゼ依存性炎症性サイトカイン合成を促進する促進方法であって、
病原性大腸菌由来のEspH蛋白質のPI3キナーゼ阻害活性によって前記T細胞内のPI3キナーゼを阻害することにより、前記サイトカイン合成を促進することを特徴とする促進方法。
【請求項51】
前記サイトカインがmacrophage inflammatory protein-2(MIP−2)であることを特徴とする、請求項50に記載の促進方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−161672(P2007−161672A)
【公開日】平成19年6月28日(2007.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−362523(P2005−362523)
【出願日】平成17年12月15日(2005.12.15)
【出願人】(899000079)学校法人慶應義塾 (742)
【Fターム(参考)】