説明

POSSモノマー構築のためのプロセス

ポリマー化、グラフト化、アロイ化を包含するマイクロエレクトロニクス、生物用及び医療用への応用での使用に適する、高収率で、低樹脂含量で、溶媒不用で痕跡金属のない、モノマーを製造するための、フォスファゼン超強塩基を使用する、ポリヘドラルオリゴメリックシルセスキオキサンの合成プロセス。

【発明の詳細な説明】
【発明の開示】
【0001】
関連出願及び特許の相互参照
本出願は、2005年3月7日に出願された米国仮特許出願連番60/659,722の優先権を主張するものである。
【0002】
発明の分野
本発明は、一般的に、ポリマー及び生物学的製剤に組み入れられる、官能化POSSモノマーの特性を向上させるプロセスに関する。
【0003】
発明の背景
ナノ構造化学物質としては、低価格ポリヘドラルオリゴメリックシルセスキオキサン(POSS)及びポリヘドラルオリゴメリックシリケート(POS)系のものが、最も良い例である。POSSシステムは、内部の籠様の枠組みが、主として無機珪素-酸素結合で構成されているハイブリッド(即ち、有機-無機)組成物を含む。ナノ構造の外部は、反応性及び非反応性有機官能基(R)両方により覆われ、ナノ構造と、有機モノマー及びポリマーとの適合性及び適応性を保証している。ナノ構造化学物質のこれら及び他の性質と特徴は、米国特許第5412053号及び米国特許第5484867号で詳細に考察されているが、ここでは、特に、両者の全体を参照により組み入れることとする。
【0004】
現在実施されている工学は、官能化POSS分子を高い収率で製造しはするが、ある種のマイクロエレクトロニクス、医療及び生物学的用途は、より高い純度或いは化学的官能性を必要としており、そのようなものは、先行技術を使用しても、容易に、或いは経済的には製造されない。先行技術による方法は、POSS籠の構築とその機能付与に、水酸化物塩基、陰イオン塩及びプロトン酸触媒の使用を包含している。(米国特許出願09/631892号、米国特許出願10/186318号及び米国特許第6770724号、米国特許第6660823号、米国特許第6596821号、米国特許第3390163号参照。)これらのアプローチは、一般的には有効であることが知られているが、プロトン酸及び水酸化物塩基は、両方共に、樹脂を含むオリゴマー化POSS籠へのPOSSの個々の籠の自己縮合を触媒することがあるという点で制限されている。(図1)そのような樹脂は、それらの構造が分子的に不正確であるために、マイクロエレクトロニクス、医療及び生物学的用途には望ましくない。更に、POSS分子の分散度とそれのポリマーとの適合性は、熱力学的には、混合の自由エネルギーの式(ΔG=ΔH−TΔS)に支配されている。R基の性質とポリマー及び表面と反応し或いは相互作用するPOSS籠上の反応性基の能力は、有益なエンタルピー項(ΔH)に大いに貢献し、他方、POSSに対するエントロピー項(ΔS)は、籠サイズがモノスコピックであり、対応するオリゴマー分布が1.0であるときは、非常に有益である。
【0005】
したがって、先行技術についてPOSS籠の構築方法を改善し、官能化モノマーを改善することに強いニーズが存在する。プロセス収率が改善され、より高い純度で、分子的に正確なPOSSシステムが説明される。
【0006】
発明の概要
本発明は、ポリマー化、グラフト化、アロイ化用の使用に適するモノマー生成物を、迅速で、高収率で、低樹脂含量で、溶媒不用で製造する、ポリヘドラルオリゴメリックシルセスキオキサンのための改善された合成プロセスを提供する。合成プロセスは、[(RSiO1.5)(HOSiO1.5)Σ8、[(RSiO1.5)(RHOSiO)Σ8、[(RSiO1.5)(RHOSiO)Σ6、[(RSiO1.5)(RHOSiO)Σ7型式のシラノールにより官能化されたPOSS籠を生成するために、式RSiXのシランカップリング剤との反応に、フォスファゼン超強塩基を使用する。合成プロセスは、また、[(RSiO1.5)Σ6、[(RSiO1.5)Σ8、[(RSiO1.5)10Σ10、[(RSiO1.5)12Σ12型式のR基で官能化された多官能性のPOSS籠で、より大きなサイズの籠を生成するために、RSiX型のシランカップリング剤との反応でのフォスファゼン超強塩基の反応を包含することができる。
代わりに、フォスファゼン超強塩基は、式RSiX、RSiX、或いはRSiXのシランカップリング剤の存在下、式[(RSiO1.5)(HOSiO1.5)Σ8、[(RSiO1.5)(RHOSiO)Σ8、[(RSiO1.5)(RHOSiO)Σ7のPOSSシラノールと、溶媒と超強塩基の存在下、十分な時間、反応されることができ、そこで、HXの脱離が起こり、式[(RSiO1.5)(RSiO)]Σ9、[((RSiO1.5))(RSiO)]Σ17、[((RSiO1.5))(RSiO)]Σ25、[(RSiO1.5)((RSiO)(RSiO)Σ10、[(RSiO1.5)(RSiO)(RSiO)]Σ9、[(RSiO1.5)(RHOSiO)(RSiO )]Σ8、[(RSiO1.5)(R(RSiO)SiO)(RSiO )]Σ9、[(RSiO1.5)(R(RSiO)SiO)Σ10、[(RSiO1.5)(RSiO1.5)Σ8の単官能性のPOSSモノマーを夫々与える。結果得られるモノマーは、基本的に不純物がなく、組成、R基、ナノ構造サイズ及びトポロジーの選択により制御可能な特性を有する。高純度ナノ構造POSSモノマーは、改善されたろ過能力、減少された汚染性及び粘度、より確実なポリマー化、より低いコスト及び汚染系での廃棄物減少を示すことから望ましいものである。
【0007】
好ましいプロセスは、溶媒と超強塩基の存在下、式[(RSiO1.5)(HOSiO1.5)Σ8、[(RSiO1.5)(RHOSiO)Σ8、[(RSiO1.5)(RHOSiO)Σ7のPOSSシラノールと、式RSiX、RSiX、RSiXのシランカップリング剤との反応を包含する。
【0008】
ナノ構造表現式の定義
本発明の化学組成物を理解する目的で、ポリヘドラルオリゴメリックシルセスキオキサン(POSS)及びポリヘドラルオリゴメリックシリケート(POS)ナノ構造の表現式に対して、以下の定義がなされる。
【0009】
ポリシルセスキオキサンは、∞が、モル重合度を表し、Rは、有機置換基(H、シロキシ、環状或いは直鎖脂肪族或いは芳香族基であり、追加的に、アルコール、エステル、アミン、ケトン、オレフィン、エーテル或いはハライドの如き反応性官能基を含んでもよく、フッ素化基を含んでもよい。)である式[(RSiO1.5)]により表現される物質である。ポリシルセスキオキサンは、ホモレプティックか、ヘテロレプティックであり得る。ホモレプティック系は、唯一つのタイプのR基を含み、他方ヘテロレプティック系は、一を超えるのタイプのR基を含む。
【0010】
POSS及びPOSナノ構造組成は、以下の式により表現される。
【0011】
ホモレプティック組成に対しては、[(RSiO1.5)Σ#
ヘテロレプティック組成に対しては、[(RSiO1.5)(R´SiO1.5)Σ#(ここで、RとR´は、異なる。)
官能化ヘテロレプティック組成に対しては、[(RSiO1.5)(RXSiO1.0)Σ#(ここで、R基は、同じであるか、同じでなくても良い。)
上記すべてにおいて、Rは、上記で定義したものと同じであり、Xは、限定するものではないが、OH、Cl、Br、I、アルコキシド(OR)、ホルメート(OCH)、アセテート(OCOR)、酸(OCOH)、エステル(OCOR)、パーオキサイド(OOR)、アミン(NR)、イソシアネート(NCO)及びRを包含する。記号m及びnは、組成物の化学量論に関連する。記号Σは、組成物がナノ構造を形成することを示し、記号#は、ナノ構造内に含まれる珪素原子の数をいう。#の値は、通常はmとnの和であり、nは、典型的には1〜24の範囲であり、mは、典型的には1〜12の範囲である。Σ#は、化学量論を決定する乗数と混同されるべきではなく、単に、システムの全体のナノ構造特性(籠サイズとして知られる)を説明するものであることが留意されるべきである。
【0012】
発明の詳細な説明
本発明は、従来記載されていたものよりも、より高い純度で、より低いコストの製品を生み出すPOSSナノ構造化学物質の改善された合成方法を教示する。
【0013】
本発明の鍵となる特徴は、POSS籠構築を触媒する、フォスファゼン超強塩基の使用である。ある範囲のフォスファゼンが適用可能であり、分子量及び組成の異なるポリフォスファゼンを包含する。フォスファゼンオリゴマー及び分子が、優先的に使用され、特に、P1タイプ P(NtBu)(NH、P2タイプ (HN)P=N-P(NH、P3タイプ (HN)P=N-P(NH)-N=P(NH、P4タイプ (HN)P=N-P(NH=N-P(NH-N=P(NHが使用される。フォスファゼン超強塩基の塩基度は、燐原子の数の増加と共に増加し、これは、この試薬の使用のための有用な手段を提供する。トリシラノールに対する超塩基の好ましい濃度は、2モル%であるが、有益な範囲は、0.1〜10モル%を包含する。
【0014】
全プロセスに適用可能な一般的プロセス変数
化学的プロセスで典型的なように、純度、選択性、速度、プロセスメカニズムを制御するために使用される多くの変数がある。プロセスに影響を与える変数は、ナノ構造化学物質のサイズ、多分散度及び組成、分離及び単離方法、触媒或いは助触媒、溶媒及び助溶媒の使用を包含する。追加的に、合成メカニズム、速度、生成物分布を制御する動力学的及び熱力学的手段もまた、生成物の品質及び経済性に影響し得るトレ−ドツールであることが知られている。
【0015】
例1
[(イソブチルSiO1.5)(メタクリルプロピルSiO1.0)Σ8の合成
[(イソブチルSiO1.5)(イソブチル(OH)SiO1.0)Σ7(688g、0.87モル)がTHFに溶解され、次いでメタクリルプロピルトリメトキシシラン(204g、0.87モル)が加えられ、溶液は5℃に冷却された。フォスファゼン超強塩基(FW234.32、15.72ミリモル)が、その後添加され、混合物は、室温で3日間撹拌された。溶液は、その後酢酸(1.5g)でクエンチ(quench)された。それから、1lのメタノールが添加され、混合物は撹拌され、ろ過された。固形物は乾燥されると、純粋な白色製品となり、収率は75%であった。
【0016】
例2
[(EtSiO1.5)(グリシダルSiO1.0)Σ8の合成
[(EtSiO1.5)(Et(OH)SiO1.0)Σ7(50g、84ミリモル)がメタノールに溶解され、次いで3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(19.86g、84ミリモル)が加えられ、溶液は5℃に冷却された。フォスファゼン超強塩基(FW234.32、15.72ミリモル)が、その後添加され、混合物は、5℃で3日間撹拌された。溶液は、その後酢酸(87mg)でクエンチされ、ろ過され、そして、揮発物が除去され、乾燥され、固形状とされた。固形物は、メタノール(1400ml)で洗浄され、そして乾燥されると、純粋な白色製品415gとなり、収率は87%であった。
【0017】
例3
[(EtSiO1.5)(エチルノルボルネンSiO1.0)Σ8の合成
[(EtSiO1.5)(Et(OH)SiO1.0)Σ7(12g、20ミリモル)がメタノールに溶解され、次いでエクソ-ノルボルネニルエチルトリメトキシシラン(4.84g、20ミリモル)が加えられ、溶液は5℃に冷却された。フォスファゼン超強塩基が、その後添加され、混合物は、5℃で2日間撹拌された。溶液は、その後酢酸(87mg)でクエンチされ、ろ過され、そして揮発物が除去され、追加的なメタノールで洗浄され、そして乾燥されると、純粋な白色製品となった。
【0018】
例4
[(シクロヘキシルSiO1.5)(アミノエチルアミノプロピルSiO1.0)Σ8の合成
[(シクロヘキシルSiO1.5)(シクロヘキシル(OH)SiO1.0)Σ7(10g、10.3ミリモル)がTHFに溶解され、次いで3-(N-アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン(2.32g、10.27ミリモル)が加えられ、その後フォスファゼン超強塩基(FW234.32、15.72ミリモル)が添加され、そして、混合物は、室温で撹拌された。溶液は、その後酢酸でクエンチされ、メタノールが添加された。揮発物が除去され、乾燥されると、純粋な白色固形物となり、収率は62%であった。
【0019】
例5
[(フェニルSiO1.5)(アミノプロピルSiO1.0)Σ8の合成
[(フェニルSiO1.5)(フェニル(OH)SiO1.0)Σ7(5.9g、6.3モル)がトルエンに溶解され、次いで3-アミノプロピルトリメトキシシラン(2.0g、11ミリモル)が加えられ、それから、室温で12時間撹拌された。アセトニトリルが添加され、溶液はろ過され、そして、生成物が乾燥されると、純粋な白色固形物となり、収率は40%であった。
【0020】
一定の代表的具体例と詳細な説明が、本発明を説明するために示されてきたが、請求項で規定された発明の範囲を変更せずに、ここに開示された方法及び装置に種々な改変がなされ得ることは、当業者には明らかであろう。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】先行技術と改善されたシレート化プロセスとの比較を示す。
【図2】種々の好ましいフォスファゼン超強塩基を示す。
【図3】例5で合成された化合物の構造を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶媒とフォスファゼン超強塩基との存在下、式RSiXを有するシランカップリング剤を反応させる段階を含む、官能化POSSモノマーの調製方法。
【請求項2】
請求項1記載の方法であって、超強塩基は、P1、P2、P3及びP4型フォスファゼンからなる群より選択される方法。
【請求項3】
請求項1記載の方法であって、異なるシランカップリング剤の混合物を反応させることにより、官能化POSSモノマーを調製する方法。
【請求項4】
請求項1記載の方法であって、異なる超強塩基の混合物が、均一系触媒或いは共試薬(coreagent)として使用される方法。
【請求項5】
請求項1記載の方法であって、異なる溶媒の混合物が使用される方法。
【請求項6】
請求項1記載の方法であって、不均一系触媒或いは共試薬(coreagent)として、超強塩基を使用して、官能化POSSモノマーを与える連続的プロセスが使用される方法。
【請求項7】
溶媒とフォスファゼン超強塩基との存在下、RSiX、RSiX、及びRSiXからなる群より選択される式を有するシランカップリング剤により、POSSシラノールをシレート化する段階を含む、官能化POSSモノマーの調製方法。
【請求項8】
請求項7記載の方法であって、超強塩基は、P1、P2、P3及びP4型フォスファゼンからなる群より選択される方法。
【請求項9】
請求項7記載の方法であって、異なるPOSSシラノールとシランカップリング剤の混合物がシレート化される方法。
【請求項10】
請求項7記載の方法であって、異なる超強塩基の混合物が、均一系触媒或いは共試薬(coreagent)として使用される方法。
【請求項11】
請求項7記載の方法であって、異なる溶媒の混合物が使用される方法。
【請求項12】
請求項7記載の方法であって、超強塩基を均一系触媒或いは共試薬(coreagent)として使用して、連続的シレート化(silation)プロセスが使用される方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2008−537731(P2008−537731A)
【公表日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−500875(P2008−500875)
【出願日】平成18年3月7日(2006.3.7)
【国際出願番号】PCT/US2006/008262
【国際公開番号】WO2006/096775
【国際公開日】平成18年9月14日(2006.9.14)
【出願人】(506207473)ハイブリッド・プラスティックス・インコーポレイテッド (16)
【Fターム(参考)】