説明

PTC素子

【課題】 素体から延出するリード端子を他の端子に接合する際の接合強度を向上させることが可能なPTC素子を提供すること。
【解決手段】 このPTC素子1は、素体10と、素体10を挟んで圧着される一対の端子電極12,14と、素体10を覆う保護膜16を更に備え、端子電極12,14は素体10と重なる重複領域121,141と、素体10と重ならない非重複領域122,142とを有し、この重複領域121,141には素体10に食い込むアンカー突起ACが形成されており、素体10に隣接する非重複領域122,142にはアンカー保護膜16a〜16dの剥離を抑制するための剥離抑制領域が形成されており、剥離抑制領域には貫通孔17a〜17dが形成されて、この貫通孔17a〜17dを通って端子電極12,14の反対面まで保護膜16が回りこんでいる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、PTC(Positive Temperaature Coefficient)素子に関する。
【背景技術】
【0002】
過電流から回路素子を保護するための素子として、PTC素子が知られている。PTC素子は、ある特定の温度領域に達すると抵抗値の正温度係数が急激に増大する素子である。そのようなPTC素子の一つとして、下記特許文献1に記載されたものが知られている。
【特許文献1】特公平5−9921号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記特許文献1に記載のPTC素子は、重合体とその重合体に分散された導電性粉末とからなる正の抵抗温度特性を有する素子の表面に、その素子の表面と接する面を粗面化した金属板を接合し、その金属板を端子電極としている。このように素子の表面と接する面を粗面化するのは、素子と金属板との接合強度を向上させるためである。
【0004】
しかしながら、上記特許文献1に記載のPTC素子のように素子の表面と接する面全体を粗面化した場合、端子電極となった金属板を外部端子等の接続端子と溶接やはんだで接合すると接合強度が十分に確保できない場合があった。
【0005】
そこで本発明では、素体から延出するリード端子を他の端子に接合する際の接合強度を向上させることが可能なPTC素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは上述した課題を解決可能なPTC素子を検討する過程で、次のような新たな課題も見出した。PTC素子を製造してから所定の時間が経過すると、素体に周囲から酸素が入ってくる場合がある。そこで素体を覆うように保護膜を設けることが考えられる。しかしながら、この保護膜が剥がれる場合があり、何らかの対策が必要であることを本発明者らは見出した。本発明はこの視点からなされたものである。
【0007】
本発明に係るPTC素子は、結晶性高分子に導電性フィラーを分散させてなる素体と、当該素体を挟んで圧着される一対のリード端子とを備えるPTC素子であって、素体の前記一対のリード端子に圧着されていない部分を覆う保護膜を更に備え、一対のリード端子はそれぞれ、素体と重なる重複領域と、素体と重ならない非重複領域とを有し、一対のリード端子それぞれの重複領域には素体に食い込むアンカー突起が形成されており、素体に隣接する非重複領域には貫通孔及び切欠きの少なくとも一方が形成された剥離抑制領域を有し、保護膜は貫通孔及び切欠きの少なくとも一方を通ってリード端子の反対面まで形成されていると共に、少なくとも剥離抑制領域を除いた非重複領域においてはアンカー突起が押しつぶされて平坦化されている。
【0008】
本発明によれば、リード端子の剥離抑制領域を除いた非重複領域が平坦化されているので、他の端子と接合する際の接合強度を向上させることができる。また、剥離抑制領域に貫通孔及び切欠きの少なくとも一方が形成され、保護膜が貫通孔及び切欠きの少なくとも一方を通って回り込みアンカー形状を形成するため、素体を覆う保護膜の剥離を抑制できる。
【0009】
また本発明では、貫通孔及び切欠きの少なくとも一方は一対のリード端子が互いに重なりあう領域にそれぞれ形成されていることも好ましい。貫通孔及び切欠きの少なくとも一方はリード端子が互いに重なりあう領域に形成されているので、保護膜をリード端子が挟み込み、保護膜の剥離をより抑制できる。また、素体及び素体に隣接する非重複領域周辺に配される保護膜に滞留するエアを、貫通孔及び切欠きの少なくとも一方を通して抜くことができる。従って、窪んだ形状となっている部分に保護膜を充填する際にも、エアを抱くことなくコーティングできる。
【0010】
また本発明では、貫通孔及び切欠きの少なくとも一方は、重複領域の両側に有する非重複領域の互いに重なり合う領域にそれぞれ形成されていることも好ましい。貫通孔及び切欠きの少なくとも一方は素体の両側の互いに重なり合う領域に形成されているので、さらに保護膜の剥離を抑制できる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、素体から延出するリード端子を他の端子に接合する際の接合強度を向上させることが可能となると共に、素体を覆う保護膜の剥離を抑制できる。従って、素体に酸素が接触し、素体が酸化することを抑制できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の知見は、例示のみのために示された添付図面を参照して以下の詳細な記述を考慮することによって容易に理解することができる。引き続いて、添付図面を参照しながら本発明の実施の形態を説明する。可能な場合には、同一の部分には同一の符号を付して、重複する説明を省略する。
【0013】
本発明の実施形態であるPTC素子について図1を参照しながら説明する。図1の(a)は、PTC素子1の平面図であり、図1の(b)は、PTC素子1の中央近傍(図1の(a)のI−I)における断面図であり、図1の(c)は、PTC素子1の構成要素である端子電極14の平面図である。PTC素子1は、ポリマーPTC素子であり、一対の端子電極12,14(リード端子)と、素体10と、保護膜16とを備えている。
【0014】
一対の端子電極12,14は、厚みが0.1mm程度のNi又はNi合金である。端子電極12,14それぞれは、第1の部分12a,14aと、第2の部分12b,14bとを備えている。第2の部分12b,14bは、第1の部分12a,14aの一つの辺の略中央部分から延びるように形成されている。第2の部分12b,14bは、第1の部分12a,14aよりも幅が狭くなるように形成されている。一対の端子電極12,14は、第1の部分12a,14aが対向するように配置されている。その対向している第1の部分12a,14aの間には素体10が配置されているので、一対の端子電極12,14はそれぞれの向き合う面で素体10を挟んでいる。従って、一対の端子電極12,14にはそれぞれ、素体10と重なる重複領域121,141と、素体10と重ならない非重複領域122,142とが形成されている。
【0015】
端子電極12,14それぞれの非重複領域122,142に、貫通孔17a,17b,17c,17dが形成されている。貫通孔17a,17bは端子電極14の非重複領域142に含まれる剥離抑制領域に形成されている。この剥離抑制領域は、非重複領域142であって重複領域141に隣接する領域である。
【0016】
貫通孔17aは、端子電極14の第1の部分14aであって、第2の部分14bが延びる辺の略中央近傍に形成されている。貫通孔17bは、端子電極14の第1の部分14aであって、第2の部分14bが延びる辺と対向する辺の略中央近傍に形成されている。
【0017】
貫通孔17c,17dは端子電極12の非重複領域122に含まれる剥離抑制領域に形成されている。この剥離抑制領域は、非重複領域122であって重複領域121に隣接する領域である。貫通孔17cは、端子電極12の第1の部分12aであって、第2の部分12bが延びる辺の略中央近傍に形成されている。貫通孔17dは、端子電極12の第1の部分12aであって、第2の部分12bが延びる辺と対向する辺の略中央近傍に形成されている。
【0018】
図1の(a)における平面視方向においては、貫通孔17aと貫通孔17dとが、貫通孔17bと貫通孔17cとが、それぞれ対応する位置に重なり合うように形成されている。
【0019】
素体10は、端子電極12と端子電極14とが互いに重なりあう部分よりも小さくなるように形成されている。従って、素体10の周囲には、端子電極12と端子電極14とが互いに重なりあうが、素体10とは重ならない非重複領域122,142が形成されている。
【0020】
素体10は、結晶性高分子樹脂に導電性フィラーを分散させて形成されている。導電性フィラーとしてはNi粉が、結晶性高分子樹脂としては熱可塑性樹脂であるポリエチレン樹脂がそれぞれ好適に用いられる。素体10は一対の端子電極12,14に加圧・加熱して圧着されている。
【0021】
保護膜16は、素体10が端子電極12,14に圧着されていない部分を覆うように配置されている。素体10が端子電極12,14に圧着されていない面は4面あり、保護膜16はそれぞれその4面に沿って配置されている。
【0022】
保護膜16は、アンカー保護膜16a,16b,16c,16dを含んでいる。アンカー保護膜16a,16b,16c,16dは、貫通孔17a,17b,17c,17dを通って端子電極12,14の反対面まで回り込んでいる部分である。アンカー保護膜16a,16b,16c,16dは、貫通孔17a,17b,17c,17dを覆うように形成されている。従って、貫通孔17a,17b,17c,17dを介して、アンカー保護膜16a,16b,16c,16dそれぞれのアンカー効果により、保護膜16全体が端子電極12,14を挟み込むように形成され、端子電極12,14と保護膜16とが固定されている。
【0023】
保護膜16は、エポキシ樹脂とチオール系硬化剤とが反応して形成された硬化物層中に、その硬化物層よりも酸素透過性の低い材料からなるフィラーが分散されて形成されている。フィラーは無機フィラーであることが好ましい。また、フィラーの少なくとも一部は板状であることが好ましい。また、保護膜16は、それら保護膜全体の質量を基準としてフィラーを5〜50質量%含んでいることも好ましい。
【0024】
保護膜16は、例えば、エポキシ樹脂、チオール系硬化剤及びフィラーを含有するエポキシ樹脂組成物を加熱してエポキシ樹脂とチオール系硬化剤との反応を進行させることにより形成される。
【0025】
フィラーとしては、マイカ、シリカ、タルク、粘土(天然若しくは合成スメクタイト又はそれらの混合物等)、ガラス、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム及びセラミック等の無機フィラーや、銀粉、金粉、銅粉及びニッケル粉等の金属フィラー、カーボン及びポリイミド等の有機フィラーが好適に用いられる。
【0026】
端子電極12,14それぞれが素体10を挟む面には、アンカー突起AC及び平坦化突起FCがそれぞれ複数形成されている。
【0027】
アンカー突起ACは、重複領域121,141と、非重複領域122,142であって重複領域121,141に隣接する剥離抑制領域とにそれぞれ形成されている。別の観点からは、アンカー突起ACは、重複領域121,141と、非重複領域122,142であって端子電極12,14が互いに重なりあっている領域とにそれぞれ形成されている。
【0028】
平坦化突起FCは非重複領域122,142であって、剥離抑制領域を除いた領域に形成されている。別の観点からは、平坦化突起FCは非重複領域122,142であって、端子電極12,14が互いに重なりあっていない領域に形成されている。
【0029】
尚、図1においては、説明のためにアンカー突起AC及び平坦化突起FCを相対的に大きく描いている。実際のアンカー突起AC及び平坦化突起FCは微小突起であって視認することは困難な大きさとなっている。以下の説明に用いる図面においても同様である。
【0030】
アンカー突起ACは、それぞれ大径部及び小径部を有している。大径部は、アンカー突起ACが端子電極12,14から延びる方向において先端側に設けられ、その方向における外周が小径部の外周よりも大きくなるように形成されている。小径部は、大径部よりもアンカー突起ACの根元側に設けられている。各アンカー突起ACにおける大径部及び小径部の形状は不揃いであってもよい。また、大径部及び小径部の外周形状が円形又は楕円形といった整った形状でなく、いびつな形状であってもよい。
【0031】
隣接するアンカー突起ACは、互いに離隔するように配置されている。従って、各アンカー突起AC間に形成される凹部に素体10が入り込み(素体10にアンカー突起ACが食い込み)、端子電極12,14と素体10とが固定されている。また、各アンカー突起AC間に形成される凹部に保護膜16が入り込み(保護膜16にアンカー突起ACが食い込み)、端子電極12,14と保護膜16とが更に強固に固定されている。
【0032】
平坦化突起FCは、それぞれ大径部及び小径部を有している。大径部は、平坦化突起FCが端子電極12,14から延びる方向において先端側に設けられ、その方向における外周が小径部の外周よりも大きくなるように形成されている。大径部の先端には平坦面が形成されている。小径部は、大径部よりも平坦化突起FCの根元側に設けられている。各平坦化突起FCにおける大径部及び小径部の形状は不揃いであってもよい。また、大径部及び小径部の外周形状が円形又は楕円形といった整った形状でなく、いびつな形状であってもよい。
【0033】
隣接する平坦化突起FCは、互いに接するように配置されている。各平坦化突起FCの平坦面(平坦化突起FCの先端面)が連続し、実質的な平坦面を形成している。従って、各平坦化突起間に形成される凹部に素体10や保護膜16が入り込むことは実質的にない。もっとも、全面に渡って完全に各平坦化突起FCが接しているわけではなく、端子電極12,14が他の端子と接合する際の接合強度に実質的な影響を与えない範囲で、平坦化突起FC同士が離隔している場合もある。
【0034】
本実施形態においては平坦化突起FCを互いに接するように形成することによって実質的な平坦面を形成したけれども、実質的な平坦面を形成することが可能であれば、実施形態は上述したものに限られない。例えば、切削又は研削するなどして平坦化しても構わない。
【0035】
本実施形態の第1の変形例を図2に示す。図2の(a)は、第1の変形例であるPTC素子2の平面図であり、図2の(b)は、PTC素子2の端部近傍(図2の(a)のII−II)における断面図であり、図2の(c)は、PTC素子2の構成要素である端子電極24の平面図である。PTC素子2は、一対の端子電極22,24と、素体10aと、保護膜26とを備えている。
【0036】
一対の端子電極22,24は、厚みが0.1mm程度のNi又はNi合金である。端子電極22,24それぞれは、第1の部分22a,24aと、第2の部分22b,24bとを備えている。第2の部分22b,24bは、第1の部分22a,24aの一つの辺の略中央部分から延びるように形成されている。第2の部分22b,24bは、第1の部分22a,24aよりも幅が狭くなるように形成されている。一対の端子電極22,24は、第1の部分22a,24aが対向するように配置されている。その対向している第1の部分22a,24aの間には素体10aが配置されているので、一対の端子電極22,24はそれぞれの向き合う面で素体10aを挟んでいる。従って、一対の端子電極22,24にはそれぞれ、素体10aと重なる重複領域221,241と、素体10aと重ならない非重複領域222,242とが形成されている。
【0037】
端子電極22,24それぞれの非重複領域222,242に、切欠き18a,18b,18c,18d,18e,18f,18g,18hが形成されている。
【0038】
切欠き18a,18b,18c,18dは端子電極24の非重複領域242に含まれる剥離抑制領域に形成されている。切欠き18a,18bは、端子電極24の第1の部分24aにおいて、第2の部分24bが延びる辺と隣接する2辺それぞれから、第2の部分24bが延びる辺に沿って形成されている。切欠き18b,18cは、端子電極24の第1の部分24aにおいて、第2の部分24bが延びる辺と隣接する2辺それぞれから、第2の部分24bが延びる辺と対向する辺に沿って形成されている。
【0039】
切欠き18e,18f,18g,18hは端子電極22の非重複領域222に含まれる剥離抑制領域に形成されている。切欠き18e,18hは、端子電極22の第1の部分22aにおいて、第2の部分24bが延びる辺と隣接する2辺それぞれから、第2の部分22bが延びる辺に沿って形成されている。切欠き18f、18gは、端子電極22の第1の部分22aにおいて、第2の部分22bが延びる辺と隣接する2辺それぞれから、第2の部分22bが延びる辺と対向する辺に沿って形成されている。
【0040】
図2の(a)における平面視方向においては、切欠き18aと切欠き18eとが、切欠き18bと切欠き18fとが、切欠き18cと切欠き18gとが、切欠き18dと切欠き18hとが、それぞれ対応する位置に重なり合うように形成されている。
【0041】
素体10aは、端子電極22と端子電極24とが互いに重なりあう部分よりも小さくなるように形成されている。従って、素体10aの周囲には、端子電極22と端子電極24とが互いに重なりあうが、素体10aとは重ならない非重複領域222,242が形成されている。素体10aは一対の端子電極22,24に加圧・加熱して圧着されている。
【0042】
保護膜26は、素体10aが端子電極22,24に圧着されていない部分を覆うように配置されている。素体10aが端子電極22,24に圧着されていない面は4面あり、保護膜26はそれぞれその4面に沿って配置されている。
【0043】
保護膜26は、アンカー保護膜26a,26b,26c,26d,26e,26f,26g,26hを含んでいる。アンカー保護膜26a,26b,26c,26d,26e,26f,26g,26hは、切欠き18a,18b,18c,18d,18e,18f,18g,18hを通って端子電極22,24の反対面まで回り込んでいる部分である。
【0044】
アンカー保護膜26a,26b,26c,26d,26e,26f,26g,26hは、切欠き18a,18b,18c,18d,18e,18f,18g,18hを覆うように形成されている。従って、切欠き18a,18b,18c,18d,18e,18f,18g,18hを介して、アンカー保護膜26a,26b,26c,26d,26e,26f,26g,26hそれぞれのアンカー効果により、保護膜26全体が端子電極22,24を挟み込むように形成され、端子電極22,24と保護膜26とが固定されている。
【0045】
尚、素体10a、保護膜26の組成等は既に説明した素体10、保護膜16と同様であるのでその説明を省略する。
【0046】
本実施形態の第2の変形例を図3に示す。図3の(a)は、第2の変形例であるPTC素子3の平面図であり、図3の(b)は、PTC素子3の端部近傍(図3の(a)のIII−III)における断面図であり、図3の(c)は、PTC素子3の構成要素である端子電極34の平面図である。PTC素子3は、一対の端子電極32,34と、素体10bと、保護膜36とを備えている。
【0047】
一対の端子電極32,34は、厚みが0.1mm程度のNi又はNi合金である。端子電極32,34それぞれは、第1の部分32a,34aと、第2の部分32b,34bとを備えている。第2の部分32b,34bは、第1の部分32a,34aの一つの辺の略中央部分から延びるように形成されている。第2の部分32b,34bは、第1の部分32a,34aよりも幅が狭くなるように形成されている。一対の端子電極32,34は、第1の部分32a,34aが対向するように配置されている。その対向している第1の部分32a,34aの間には素体10bが配置されているので、一対の端子電極32,34はそれぞれの向き合う面で素体10bを挟んでいる。従って、一対の端子電極32,34にはそれぞれ、素体10bと重なる重複領域321,341と、素体10bと重ならない非重複領域322,342とが形成されている。
【0048】
端子電極32,34それぞれの非重複領域322,342に、貫通孔19a,19d,19e,19h及び切欠き19b,19c,19f,19gが形成されている。
【0049】
貫通孔19a,19d及び切欠き19b,19cは端子電極34の非重複領域342に含まれる剥離抑制領域に形成されている。貫通孔19a,19dは、端子電極34の第1の部分34aであって、第2の部分34bが延びる辺の近傍に形成されている。貫通孔19a,19dは、第2の部分34bよりも外側にそれぞれ形成されている。切欠き19b,19cは、端子電極34の第1の部分34aにおいて、第2の部分34bが延びる辺と対向する辺から、第2の部分34bが延びる辺と隣接する辺に沿って形成されている。
【0050】
貫通孔19f,19g及び切欠き19e,19hは端子電極32の非重複領域322に含まれる剥離抑制領域に形成されている。貫通孔19f,19gは、端子電極32の第1の部分32aであって、第2の部分32bが延びる辺の近傍に形成されている。貫通孔19f,19gは、第2の部分32bよりも外側にそれぞれ形成されている。切欠き19e,19hは、端子電極32の第1の部分32aであって、第2の部分32bが延びる辺と対向する辺から、第2の部分32bが延びる辺と隣接する辺に沿って形成されている。
【0051】
図3の(a)における平面視方向においては、貫通孔19a,19dと切欠き19e,19hとが、切欠き19b、19cと貫通孔19f,19gとが、それぞれ対応する位置に形成されている。
【0052】
素体10bは、端子電極32と端子電極34とが互いに重なりあう部分よりも小さくなるように形成されている。従って、素体10bの周囲には、端子電極32と端子電極34とが互いに重なりあうが、素体10bとは重ならない非重複領域322,342が形成されている。素体10bは一対の端子電極32,34に加圧・加熱して圧着されている。
【0053】
保護膜36は、素体10bが端子電極32,34に圧着されていない部分を覆うように配置されている。素体10bが端子電極32,34に圧着されていない面は4面あり、保護膜36はそれぞれその4面に沿って配置されている。
【0054】
保護膜36は、アンカー保護膜36a,36b,36c,36d,36e,36f,36g,36hを含んでいる。アンカー保護膜36a,36b,36c,36d,36e,36f,36g,36hは、貫通孔19a,19d,19e,19h及び切欠き19b,19c,19f,19gを通って端子電極32,34の反対面まで回り込んでいる部分である。
【0055】
アンカー保護膜36a,36d,36e,36hは、貫通孔19a,19d,19e,19hを覆うように形成されている。アンカー保護膜36b,36c,36f,36gは、切欠き19b,19c,19f,19gを覆うように形成されている。従って、貫通孔19a,19d,19e,19h及び切欠き19b,19c,19f,19gを介して、アンカー保護膜36a,36b,36c,36d,36e,36f,36g,36hそれぞれのアンカー効果により、保護膜36全体が端子電極32,34を挟み込むように形成され、端子電極32,34と保護膜36とが固定されている。
【0056】
尚、素体10b、保護膜36の組成等は既に説明した素体10、保護膜16と同様であるのでその説明を省略する。
【0057】
本実施形態の第3の変形例を図4に示す。図4の(a)は、第3の変形例であるPTC素子4の平面図であり、図4の(b)は、PTC素子4の中央近傍(図4の(a)のIV−IV)における断面図であり、図4の(c)は、PTC素子4の構成要素である端子電極44の平面図である。PTC素子4は、一対の端子電極42,44と、素体10cと、保護膜46とを備えている。
【0058】
一対の端子電極42,44は、厚みが0.1mm程度のNi又はNi合金である。端子電極42,44それぞれは、第1の部分42a,44aと、第2の部分42b,44bとを備えている。第2の部分42b,44bは、第1の部分42a,44aの一つの辺の略中央部分から延びるように形成されている。第2の部分42b,44bは、第1の部分42a,44aよりも幅が狭くなるように形成されている。一対の端子電極42,44は、第1の部分42a,44aが対向するように配置されている。その対向している第1の部分42a,44aの間には素体10cが配置されているので、一対の端子電極42,44はそれぞれの向き合う面で素体10cを挟んでいる。従って、一対の端子電極42,44にはそれぞれ、素体10cと重なる重複領域421,441と、素体10cと重ならない非重複領域422,442とが形成されている。
【0059】
端子電極42,44それぞれの非重複領域422,442に、貫通孔20a,20bが形成されている。
【0060】
貫通孔20aは、端子電極44の非重複領域442に含まれる剥離抑制領域に形成されている。貫通孔20aは、端子電極44の第1の部分44aであって、第2の部分44bが延びる辺の略中央近傍に形成されている。
【0061】
貫通孔20bは、端子電極42の非重複領域422に含まれる剥離抑制領域に形成されている。貫通孔20bは、端子電極42の第1の部分42aであって、第2の部分42bが延びる辺の略中央近傍に形成されている。
【0062】
従って、第3の変形例は非重複領域422,442の、第2の部分42b、44bが延びる辺側にのみ貫通孔20a,20bが形成されている。
【0063】
素体10cは、端子電極42と端子電極44とが互いに重なりあう部分よりも小さくなるように形成されている。従って、素体10cの周囲には、端子電極42と端子電極44とが互いに重なりあうが、素体10cとは重ならない非重複領域422,442が形成されている。素体10cは一対の端子電極42,44に加圧・加熱して圧着されている。
【0064】
保護膜46は、素体10cが端子電極42,44に圧着されていない部分を覆うように配置されている。素体10cが端子電極42,44に圧着されていない面は4面あり、保護膜46はそれぞれその4面に沿って配置されている。
【0065】
保護膜46は、アンカー保護膜46a,46bを含んでいる。アンカー保護膜46a,46bは、貫通孔20a,20bを通って端子電極42,44の反対面まで回り込んでいる部分である。
【0066】
アンカー保護膜46a,46bは、貫通孔20a,20bを覆うように形成されている。従って、貫通孔20a,20bを介して、アンカー保護膜46a,46bそれぞれのアンカー効果により、保護膜46全体が端子電極42,44を挟み込むように形成され、端子電極42,44と保護膜46とが固定されている。
【0067】
尚、素体10c、保護膜46の組成等は既に説明した素体10、保護膜16と同様であるのでその説明を省略する。
【0068】
引き続いて、本実施形態のPTC素子1,2,3,4における保護膜16,26,36,46の剥離防止効果について説明する。比較の対象としては、図5に示すPTC素子5を用いる。
【0069】
PTC素子5は、一対の端子電極52,54と、素体10dと、保護膜56とを備えている。
【0070】
一対の端子電極52,54は、厚みが0.1mm程度のNi又はNi合金である。端子電極52,54それぞれは、第1の部分52a,54aと、第2の部分52b,54bとを備えている。第2の部分52b,54bは、第1の部分52a,54aの一つの辺の略中央部分から延びるように形成されている。第2の部分52b,54bは、第1の部分52a,54aよりも幅が狭くなるように形成されている。一対の端子電極52,54は、第1の部分52a,54aが対向するように配置されている。その対向している第1の部分52a,54aの間には素体10dが配置されているので、一対の端子電極52,54はそれぞれの向き合う面で素体10dを挟んでいる。従って、一対の端子電極52,54にはそれぞれ、素体10dと重なる重複領域521,541と、素体10dと重ならない非重複領域522,542とが形成されている。
【0071】
素体10dは、端子電極52と端子電極54とが互いに重なりあう部分よりも小さくなるように形成されている。従って、素体10dの周囲には、端子電極52と端子電極54とが互いに重なりあうが、素体10dとは重ならない非重複領域522,542が形成されている。素体10dは一対の端子電極52,54に加圧・加熱して圧着されている。
【0072】
保護膜56は、素体10dが端子電極52,54に圧着されていない部分を覆うように配置されている。素体10dが端子電極52,54に圧着されていない面は4面あり、保護膜56はそれぞれその4面に沿って配置されている。
【0073】
尚、素体10d、保護膜56の組成等は既に説明した素体10、保護膜16と同様であるのでその説明を省略する。
【0074】
端子電極52,54それぞれが素体10dを挟む面には、アンカー突起AC及び平坦化突起FCがそれぞれ複数形成されている。
【0075】
アンカー突起ACは、重複領域521,541のみに形成されている。平坦化突起FCは非重複領域522,542に形成されている。
【0076】
上述したPTC素子1,2,3,4,5について、端子電極の剥離試験を行った結果を図6に示す。図6は、PTC素子1,2,3,4,5それぞれの端子電極を素体から垂直に引き離した場合の保護膜の剥離強度を示している。
【0077】
図6に示すように、本実施形態に係るPTC素子1,2,3,4は、PTC素子5に比較して剥離強度が高くなっている。具体的には、PTC素子5の剥離強度はサンプル数5で、2.75N〜7.16N、平均値が4.63Nである。PTC素子1の剥離強度はサンプル数5で、7.45N〜13.14N、平均値が10.49Nである。PTC素子2の剥離強度はサンプル数5で、9.08N〜13.28N、平均値が10.97Nである。PTC素子3の剥離強度はサンプル数5で、7.65N〜14.71N、平均値が11.02Nである。PTC素子4の剥離強度はサンプル数5で、6.54N〜7.45Nである。
【0078】
これは、保護膜16,26,36,46にアンカー突起ACが食い込んでいると、剥離強度が上昇するためである。また、保護膜16,26,36,46は、端子電極12,22,32,42と端子電極14,24,34,44とに挟まれているので、更に剥離強度が上昇するためである。また、保護膜16,26,36,46が、貫通孔17a〜17d、切欠き18a〜18h、貫通孔19a〜19d及び切欠き19e〜19h、貫通孔20a,20bをそれぞれ通って端子電極12,14,22,24,32,34,42,44の反対面に回り込んで挟み込んでいるので、更に剥離強度が上昇するためである。
【0079】
引き続いて、上述したPTC素子1,2,3,4の製造方法について説明する。PTC素子1,2,3,4の製造方法は、素体準備工程と、端子準備工程と、平坦化工程と、熱圧着工程と、保護膜形成工程と、を備えている。尚、PTC素子1,2,3,4の製造方法は、貫通孔17a〜17d、切欠き18a〜18h、貫通孔19a〜19d及び切欠き19e〜19h、貫通孔20a及び20bの形成以外は基本的に同じであるため、PTC素子1で代表して説明する。
【0080】
素体準備工程では、素体10となる素体素材を作製して準備する。まず、導電性フィラーとなるNi粉と、母材樹脂となるポリエチレンとを混錬してブロックを形成する。このブロックを円盤状にプレスし、カットして素体素材を得る。
【0081】
続く端子準備工程では、端子電極12,14となる金属板を作成して準備する。端子電極12,14が素体10を挟む面には、アンカー突起ACが形成されている。アンカー突起ACは、上述した節瘤状の突起が連続して形成されたものである。尚、端子電極12には貫通孔16c,16dが、端子電極14には貫通孔16a,16dがそれぞれ形成されているものを準備する。
【0082】
平坦化工程では、上述したように必要な領域においてアンカー突起ACを押しつぶして平坦化し、平坦化突起FCとする。この場合のプレス移動量は、10〜35μmであり、より好ましくは10〜15μmである。
【0083】
各平坦化突起FCは、上述したように互いに接触して実質的に平坦化されている。端子電極の厚みからみると、アンカー突起ACが形成されている領域の平均厚みよりも、平坦化突起FCが形成されている領域の平均厚みは薄くなっている。尚、平均厚みは、所定面積を打ち抜いた試料を作り、その質量及び比重から求めることができる。
【0084】
例えば本実施形態であるPTC素子1の場合、平坦化後の厚みは、重複領域121,141と剥離抑制領域(アンカー突起ACが形成されている領域)を含む非重複領域122,142が60〜140μm、剥離抑制領域(アンカー突起ACが形成されている領域)を除く非重複領域122,142が50〜120μmであることが好ましい。この場合、アンカー突起ACの平均高さは5〜40μmである。また、平坦化後の厚みは、重複領域121,141と剥離抑制領域を含む非重複領域122,142が95〜100μm、剥離抑制領域を除く非重複領域122,142が80〜90μmであることがより好ましい。この場合、アンカー突起ACの平均高さは5〜20μmである。
【0085】
重複領域121,141と剥離抑制領域を含む非重複領域122,142の厚みが140μmよりも厚くなると、端子電極12,14が厚くなり過ぎてしまい、素体10と端子電極12,14との熱圧着が不十分となり、素体10と端子電極12,14との接続強度が弱くなる。従って、剥離抑制領域を除く非重複領域122,142の厚みは、平坦化を考慮して120μm以下とすることが好ましい。
【0086】
また、剥離抑制領域を除く非重複領域122,142の厚みが50μmよりも薄くなると端子電極12,14自体の強度が低下し、剥離抑制領域を除く非重複領域122,142において折れ曲がってしまうなど製造工程時及び製品後の取り扱いが困難になる。従って、重複領域121,141の厚みは、非重複領域122,142の平坦化を考慮して60μm以上とすることが好ましい。
【0087】
また、アンカー突起ACの平均高さが5μmよりも低いと、素体10と端子電極12,14との間におけるアンカー効果を十分に発揮できず、素体10と端子電極12,14との接続強度が弱くなる。また、アンカー突起ACの平均高さが40μmよりも高いと、アンカー突起AC自体の強度が低下し、素体10との熱圧着時にアンカー突起ACが端子電極12,14から脱落する。
【0088】
熱圧着工程では、一対の端子電極12,14それぞれにおける重複領域121,141で素体素材(素体)を挟み込み、熱圧着によって一対の端子電極12,14と素体10とを固定する。
【0089】
保護膜形成工程では、保護膜16を形成する。保護膜16は、エポキシ樹脂とチオール系硬化剤とが反応して形成された硬化物層中に、その硬化物層よりも酸素透過性の低い材料からなるフィラーを分散して形成する。
【0090】
尚、保護膜16の形成においては、貫通孔17a〜17d(他の変形例の貫通孔及び切欠きも、この貫通孔と同等である。)を通って保護膜16を端子電極12,14の反対側に回り込ませてアンカー保護膜16a〜16dを形成する。また、保護膜16を形成する際に、端子電極12,14に挟まれる部分に生じるエアは、貫通孔17a〜17dを通して抜くことができる。
【0091】
本実施形態によれば、端子電極12,14の剥離抑制領域を除いた非重複領域122,142が平坦化されているので、他の端子と接合する際の接合強度を向上させることができる。また、剥離抑制領域が素体に隣接する非重複領域122,142に形成されており、また貫通孔17a〜17dを通って保護膜16がアンカー形状となって端子電極12,14を固定しているので、素体10を覆う保護膜16の剥離を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0092】
【図1】本実施形態におけるPTC素子を示す平面図及び断面図である。
【図2】本実施形態におけるPTC素子の第1の変形例を示す図である。
【図3】本実施形態におけるPTC素子の第2の変形例を示す図である。
【図4】本実施形態におけるPTC素子の第3の変形例を示す図である。
【図5】本実施形態の比較例のPTC素子を示す図である。
【図6】本実施形態のPTC素子と比較例のPTC素子とを比較した結果を示す図である。
【符号の説明】
【0093】
1…PTC素子、12,14…端子電極、10…素体、121,141…重複領域、122,142…非重複領域、16…保護膜、17…貫通孔、18…切欠き、16a,16b,16c,16d…アンカー保護膜。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
結晶性高分子に導電性フィラーを分散させてなる素体と、当該素体を挟んで圧着される一対のリード端子とを備えるPTC素子であって、
前記素体の前記一対のリード端子に圧着されていない部分を覆う保護膜を更に備え、
前記一対のリード端子はそれぞれ、前記素体と重なる重複領域と、前記素体と重ならない非重複領域とを有し、
前記一対のリード端子それぞれの重複領域には前記素体に食い込むアンカー突起が形成されており、
前記素体に隣接する前記非重複領域には貫通孔及び切欠きの少なくとも一方が形成された剥離抑制領域を有し、
前記保護膜は前記貫通孔及び切欠きの少なくとも一方を通って前記リード端子の反対面まで形成されていると共に、少なくとも前記剥離抑制領域を除いた前記非重複領域においては前記アンカー突起が押しつぶされて平坦化されている、PTC素子。
【請求項2】
前記貫通孔及び切欠きの少なくとも一方は前記一対のリード端子が互いに重なりあう領域にそれぞれ形成されている、請求項1に記載のPTC素子。
【請求項3】
前記貫通孔及び切欠きの少なくとも一方は、前記重複領域の両側に有する非重複領域の互いに重なり合う領域にそれぞれ形成されている、請求項2に記載のPTC素子。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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