説明

Pd−Fe合金ナノ粒子、その製造方法、およびPd−Fe合金ナノ粒子を用いた排ガス浄化触媒

【課題】多面体形状、特には四面体形状や十四面体形状等の多面体形状を有し、従来のPd単体ナノ粒子に対して、初期状態はもちろん耐久後の状態でも、より高い触媒活性を示すPd−Fe合金ナノ粒子及びその製造方法を提供する。
【解決手段】PdとFeとから成るPd−Fe合金ナノ粒子であって、粒径が15nm以下、粒径分布がσ<1.2であり、形状が立方体および/または正四面体であることを特徴とするPd−Fe合金ナノ粒子。上記Pd−Fe合金ナノ粒子を製造する方法であって、パラジウム塩、鉄塩及び還元剤として水素化ホウ素ナトリウムを含む混合溶液を、120℃〜200℃に加熱することを特徴とする製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Pd−Fe合金ナノ粒子、その製造方法、およびPd−Fe合金ナノ粒子を用いた排ガス浄化触媒に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車の排ガス浄化用触媒としては、一酸化炭素(CO)及び炭化水素(HC)の酸化と窒素酸化物(NOx)の還元とを同時に行う三元触媒が用いられている。このような触媒としては、アルミナ(Al23)等の多孔質酸化物担体に、白金(Pt)、ロジウム(Rh)、パラジウム(Pd)等の貴金属を担持させたものが広く知られている。中でも、PtやPdはCOやHCの酸化活性が高く、三元触媒等の排ガス浄化用触媒において必須の成分となっている。
【0003】
PtやPd等の金属粒子の物性及び機能は、主としてその粒子径や形状に大きく左右される。これら金属粒子の結晶構造とその反応性に関しては古くから研究がなされており、(111)面や(100)面の結晶面が高活性であると言われ、特には(111)面の結晶面が最も高活性であると言われている。しかしながら、これら金属粒子の製造では、球形、正八面体の頂点を切り落とした形状の十四面体、あるいは正二十面体の粒子は生成しやすいものの、表面に(111)面のみを有する四面体形状の金属粒子、特には四面体形状のPd粒子の選択的な製造方法に関しては限られた報告しかない。
【0004】
一方で、正八面体の頂点を切り落とした上記の十四面体の粒子は、その表面に8つの(111)面と6つの(100)面を有する多面体であり、それゆえ高活性であるとされる(111)面及び(100)面を多く含むものである。上記のとおり、PtやPd等の金属粒子の製造では、このような十四面体形状を有する粒子が生成しやすいことは知られているものの、それを選択的に製造することは困難である。
【0005】
さらに言えば、これらの金属粒子は、一般的に粒径が小さいほど活性点数が増加するため、それらを触媒等の用途において使用した場合には、高い活性を示す触媒を得ることができる。しかしながら、このような微小な金属粒子、特にはナノメートルサイズの微小な金属粒子の製造においては、当該金属粒子は、一般に表面エネルギーを安定化させるために球状の粒子として生成されやすい。したがって、ナノメートルサイズに構造が制御された多面体形状、特には高活性とされる(111)面や(100)面を多く含む多面体形状の金属粒子を選択的に製造することは極めて困難である。
【0006】
特許文献1には、四面体形状の粒子を60〜100%の割合で含有するパラジウム微粒子が記載され、このようなパラジウム微粒子がセラミックス、カーボン、有機ポリマー等の担体に担持されてなる触媒によれば、炭素―炭素結合生成反応、水素添加反応、水素化分解反応、酸化反応、及び脱水素反応等において、高い活性及び選択性が得られると記載されている。
【0007】
しかし、特許文献1には、四面体形状を有するパラジウム微粒子及びその製造方法について記載されているものの、パラジウム以外の他の金属を含む金属粒子、さらには、このような金属粒子を含む触媒の排ガス浄化用触媒としての適用については何ら記載も示唆もされていない。
【0008】
特許文献2には、白金粒子からなり、その5重量%以上が立方体形状又は正四面体形状の白金粒子である燃料電池用電極触媒が記載されている。
【0009】
特許文献3には、(111)面を選択的に有する四面体粒子、特には白金ナノ粒子を10〜70%含有する金属粒子が記載されている。
【0010】
しかし、特許文献2及び3には、四面体形状を有する白金粒子及びその製造方法について記載されているものの、四面体形状を有するパラジウム粒子及びその製造方法については何ら記載も示唆もされていない。
【0011】
特許文献4には、(a)有機保護剤の存在下、アルコール単独或いは水とアルコール或いはアルコールとアルコールに混和する有機溶剤中に、(i)Fe及びCoから選ばれる少なくとも一種の遷移金属の塩又はその錯体と、(ii)Pt及びPdから選ばれる少なくとも一種の貴金属の塩又はその錯体と(但し、Co−Pdの組合せを除く)を溶解させるステップと、(b)不活性雰囲気中で、アルコールによる加熱還流を行うことによって、一般式、Ax(1-x)(式中、AはFe及びCoから選ばれる少なくとも一種であり、BはPt及びPdから選ばれる少なくとも一種であり(但し、Co−Pdの組合せを除く)、40at%≦x≦60at%である)で示される組成を有し、かつ、粒径が1nm〜50nmの範囲内である金属合金微粒子を生成するステップとを有することを特徴とする金属合金微粒子の製造方法が記載されている。
【0012】
しかし、特許文献4には、上記の方法で得られた金属合金微粒子をさらに不活性雰囲気中で加熱処理することにより、CuAu−I型のL10規則相を有する金属合金微粒子が得られると記載されている。しかしながら、特許文献4では、このような加熱処理を行う前の金属合金微粒子の形状については何ら具体的に記載されておらず、さらには、このような金属合金微粒子を排ガス浄化用触媒として適用することについても何ら記載も示唆もされていない。
【0013】
特許文献5には、第4周期遷移金属元素、第5周期遷移金属元素、白金および金からなる群より選ばれる少なくとも1種の金属からなる金属粒子が無機系担体物質に担持されてなる金属粒子担持触媒であって、前記金属粒子の少なくとも一部が多面体状構造を有する多面体状金属粒子であることを特徴とする金属粒子担持触媒が記載されている。
【0014】
しかし、特許文献5には、実施例において、多面体状構造のPd−Cu複合粒子をカーボンに担持してなるPd−Cu複合粒子担持触媒が開示され、このような触媒が硝酸性窒素の処理に有用である旨が記載されている。しかしながら、特許文献5では、Pd−Cu以外の特定の複合金属粒子及びそのような複合金属粒子を含む触媒並びにその効果については何ら具体的には開示されていない。
【0015】
結局、面方位を制御したナノ粒子の選択的な製造方法に関して、(111)面を制御した四面体微粒子を製造する方法(特許文献1)はあるものの、他の面方位を制御した特異な形状のPdナノ粒子には適用できないし、Pd単体ナノ粒子への適用のみであり、Pd−Fe合金ナノ粒子には適用できない。
【0016】
これに対し本発明者は、電子状態を改質し(111)面を有する四面体状のPd−Fe合金ナノ粒子や、同じく電子状態を改質し(111)面と(100)面を有する十四面体状のPd−Fe合金ナノ粒子の製造方法を提案した(特許文献6、7)。
【0017】
しかし、面制御はなされたものの、Pd単体ナノ粒子に比べて、高い触媒活性は得られたが、いずれも粒径が60nm以上と大幅に粗大になっており、更に粒径を微細化する必要があった。
【0018】
そこで本発明者は、粒径が20nm未満で(111)面や(100)面を有する形状のPd−Fe合金ナノ粒子を製造する方法を提案したが(特許文献8)、Pd単体の粒子に比べて、初期状態では高い触媒活性が得られたが、耐久後には粒子が粗大化してしまい優位性が失われてしまう、という問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0019】
【特許文献1】特開2007−239054号公報
【特許文献2】特開2002−042825号公報
【特許文献3】特開2005−248203号公報
【特許文献4】国際公開第02/062509号パンフレット
【特許文献5】特開2009−172574号公報
【特許文献6】特願2009−105234
【特許文献7】特願2009−275444
【特許文献8】特願2010−092244
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
本発明は、多面体形状、特には四面体形状や十四面体形状等の多面体形状を有し、従来のPd単体ナノ粒子に対して、初期状態はもちろん耐久後の状態でも、より高い触媒活性を示すPd−Fe合金ナノ粒子及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0021】
上記の目的を達成するために、本発明は、PdとFeとから成るPd−Fe合金ナノ粒子であって、粒径が15nm以下、粒径分布がσ<1.2であり、形状が立方体および/または正四面体であることを特徴とするPd−Fe合金ナノ粒子を提供する。
【0022】
上記の目的を達成するために、本発明は、上記Pd−Fe合金ナノ粒子を製造する方法であって、パラジウム塩、鉄塩及び還元剤として水素化ホウ素ナトリウムを含む混合溶液を、120℃〜200℃に加熱することを特徴とする製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0023】
本発明のPd−Fe合金ナノ粒子は、粒径が15nm以下、粒径分布がσ<1.2であるため、初期状態はもちろん、耐久後の状態であっても、粒子が粗大化せずに高い触媒活性を発揮する。
【0024】
本発明のPd−Fe合金ナノ粒子の製造方法は、還元剤として従来(特許文献8)よりも還元力の強い水素化ホウ素ナトリウムを用い、従来よりも高い120〜200℃で還元反応をさせたことにより、PdとFeとを急速に同時還元および合金化して、多数の微細な生成核を発生させることができるので、従来よりも微細でかつ粒径の揃ったPd−Fe合金ナノ粒子を合成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】図1は、本発明の実施例で調製したPd−Fe合金ナノ粒子のTEM像である。
【図2】図2は、図1のTEM像から測定した粒径分布を示す。
【図3】図3は、比較例で調製したPd−Fe合金ナノ粒子のTEM像である。
【図4】図4は、図3のTEM像から測定した粒径分布を示す。
【図5】図5は、実施例および比較例1、2の貴金属ナノ粒子を用いた初期状態の触媒の排ガス浄化性能を比較して示す。
【図6】図6は、実施例および比較例1、2の貴金属ナノ粒子を用いた耐久後の触媒の排ガス浄化性能を比較して示す。
【図7】図7は、実施例および比較例2のPd−Fe合金ナノ粒子について、耐久後のCO吸着量を比較して示す。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明のPd−Fe合金ナノ粒子の特徴は、粒径が15nm以下、粒径分布がσ<1.2であり、形状が多面体形状であることである。多面体は、典型的には立方体、四面体、十四面体である。望ましくは、立方体は(100)面から成り、四面体は(111)面から成り、十四面体は(100)面と(111)面とから成る。
【0027】
粒径が15nm以下であり、粒径分布がσ<1.2以下と、微細でかつ均一であることにより、触媒に用いたときに、初期状態ばかりでなく耐久後でも優れた排ガス浄化性能を発揮することができる。
【0028】
形状が多面体形状、望ましくは高活性な(100)面および/または(111)面から成る多面体形状であることにより、球状の粒子に比べて活性点が増加し、高い触媒活性が得られる。
【0029】
本発明のPd−Fe合金ナノ粒子の製造方法の特徴は、特に前述した直近の特許文献8(特願2010−092244)と対比して下記のとおりである。特許文献8の方法の典型例は比較例2として後述する。この項では特許文献8を「先行例」と呼ぶ。
【0030】
(1)還元剤の強化
先行例:1−プロパノール
本発明:水素化ホウ素ナトリウム
【0031】
(2)反応の高温化
先行例:90℃〜120℃
本発明:120℃〜200℃
【0032】
(3)反応場の沸点上昇
先行例:イオン交換水(沸点:100℃)
本発明:テトラエチレングリコール(沸点:198℃)
【0033】
(4)反応場の保護
反応溶液の外囲雰囲気を下記のように変更。
先行例:大気中
本発明:不活性雰囲気
【0034】
上記の特徴を選択した理由は、合成されるPd−Fe合金ナノ粒子を更に細粒化すると共に、粒径分布幅を狭くすなわち粒径を均一に揃えるためである。
【0035】
これは請求項1に規定したように、(1)還元剤を強化し、(2)高温で反応させることにより、すなわち微細な生成核を多数発生させることにより実現される。
【0036】
その際、望ましくは(3)高温反応が可能な高沸点の反応場とすることが望ましい。
【0037】
更に、(4)不活性雰囲気を用いることにより、反応場としての反応溶液に対する外囲雰囲気の影響をできるだけ排除することが望ましい。
以下に、上記本発明の特徴およびその効果を実施例により具体的に説明する。
【実施例】
【0038】
〔実施例〕
<Pd−Fe合金ナノ粒子の製造>
本発明による下記の条件および手順でPd−Fe合金ナノ粒子を製造した。
【0039】
まず、下記(1)〜(4)を調製した。
(1)Pd総量が7.50×10−6molの硫酸パラジウム(II)水溶液に、テトラエチレングリコールを加えて攪拌し、総量20gのPd希釈溶液を調製した。
【0040】
(2)Fe総量が8.33×10−7mol(Pd:Feのmol比=90:10)の硫酸鉄(II)七水和物(FeSO・7HO)に、テトラエチレングリコールを加えて攪拌し、総量20gのFe希釈溶液を調製した。
【0041】
(3)モノマーユニット換算で3.75×10−5mol(Pd総量の5倍)のポリビニルピロリドン(PVP)に、テトラエチレングリコールを加えて攪拌し、総量40gのPVP溶液を調製した。
【0042】
(4)総量300mgの水素化ホウ素ナトリウム(NaBH)に、テトラエチレングリコールを加えて攪拌し、総量30gの水素化ホウ素ナトリウム溶液を調製した。
【0043】
次に、上記で調製したPVP溶液にPd希釈溶液をゆっくり滴下し混合して、窒素雰囲気中、室温で1時間程度攪拌した。
【0044】
これに、Fe希釈溶液をゆっくり滴下し混合して、窒素雰囲気中で1時間程度攪拌した。
【0045】
これに更に、還元剤として水素化ホウ素ナトリウム溶液を加え、150℃に加熱し、1時間程度加熱還流することで、PdとFeとを同時還元した。
【0046】
TEM−EDXにより、得られた粒子がPd−Fe合金粒子であることを確認した。
【0047】
図1にTEM像を示すように、このPd−Fe合金ナノ粒子は、立方体や四面体が大部分を占めること、そして粒子サイズがナノメートルレベルであり全体に揃っていることが分かった。典型的には、立方体は(100)面から成り、四面体、特に正四面体は(111)面から成る。ただし、立方体の各頂点が切断された十四面体の混在も認められた。
【0048】
図2は、TEM像から測定した粒径分布を示す。100点の測定結果から、平均粒径は12.2nmであり、標準偏差はσ=1.2と非常に狭い分布幅であることが分かった。更に、全ての粒径が15nm以下であった。
【0049】
<触媒の作製>
上記のPd−Fe合金ナノ粒子コロイド溶液を、重量にして6倍の蒸留水に分散させたセリア(CeO)系複合酸化物の粉末に、Pdが粉末に対して0.1wt%となるように添加し、1時間攪拌した。更に、120℃で水分を蒸発させ、450℃で2時間焼成し、乳鉢で粉砕し、得られた粉末をペレット化することで、形状制御したPd−Fe合金ナノ粒子をCeO系複合酸化物の担体に担持した排ガス浄化触媒を作製した。
【0050】
〔比較例1〕
<Pdナノ粒子の製造>
比較のために、Pd単体のナノ粒子を下記の条件および手順で製造した。
【0051】
まず、下記(1)〜(2)を調製した。
(1)Pd総量が7.50×10−6molの硝酸パラジウム水溶液に、イオン交換水を加えて攪拌し、総量20gのPd希釈溶液を調製した。
【0052】
(2)モノマーユニット換算で1.125×10−4mol(Pd総量の15倍)のポリビニルピロリドン(PVP)に、イオン交換水を加えて攪拌し、総量40gのPVP溶液を調製した。
【0053】
次に、上記で調製したPVP溶液にPd希釈溶液をゆっくり滴下し混合して、大気中、室温で1時間程度攪拌した。
【0054】
これに、イオン交換水とメタノールの混合比率が90:10(wt%)となるように、還元剤としてメタノールを20g加えて30分程度攪拌した。
【0055】
これを更に、90℃で6時間加熱還流し、Pdイオンを還元することで、Pd単体のナノ粒子を得た。
【0056】
TEM観察により、Pd粒子は四面体形状を種とする多面体形状であり、粒径は10nm〜60nm程度であった。
【0057】
<触媒の作製>
上記のPdナノ粒子コロイド溶液を、重量にして6倍の蒸留水に分散させたセリア(CeO)系複合酸化物の粉末に、Pdが粉末に対して0.1ウェPとなるように添加し、1時間攪拌した。更に、120℃で水分を蒸発させ、450℃で2時間焼成し、乳鉢で粉砕し、得られた粉末をペレット化することで、形状制御したPdナノ粒子をCeO系複合酸化物の担体に担持した排ガス浄化触媒を作製した。
【0058】
〔比較例2〕
<Pd−Fe合金ナノ粒子の製造>
比較のために、下記の条件および手順でPd−Fe合金ナノ粒子を製造した。
【0059】
まず、下記(1)〜(3)を調製した。
(1)Pd総量が7.50×10−6molの硫酸パラジウム(II)水溶液に、イオン交換水を加えて攪拌し、総量20gのPd希釈溶液を調製した。
【0060】
(2)Fe総量が8.33×10−7mol(Pd:Feのmol比=90:10)の硫酸鉄(II)七水和物(FeSO・7HO)に、イオン交換水を加えて攪拌し、総量20gのFe希釈溶液を調製した。
【0061】
(3)モノマーユニット換算で3.75×10−5mol(Pd総量の5倍)のポリビニルピロリドン(PVP)に、イオン交換水を加えて攪拌し、総量40gのPVP溶液を調製した。
【0062】
次に、上記で調製したPVP溶液にPd希釈溶液をゆっくり滴下し混合して、大気中、室温で1時間程度攪拌した。
【0063】
これに、Fe希釈溶液をゆっくり滴下し混合して、大気中で1時間程度攪拌した。
【0064】
これに更に、イオン交換水と1−プロパノールの混合比率が20:80(wt%)となるように、還元剤として1−プロパノールを160g加えて30分程度攪拌した後、120℃に加熱し、6時間加熱還流することで、PdとFeとを同時還元した。
【0065】
TEM−EDXにより、得られた粒子がPd−Fe合金粒子であることを確認した。
【0066】
図3にTEM像を示すように、このPd−Fe合金粒子は、粒子形状は非球状であり、立方体や四面体等の種々の多面体形状であり、粒子サイズはナノメートルレベルであるが全体にバラツキが大きい。
【0067】
図4は、TEM像から測定した粒径分布を示す。100点の測定結果から、平均粒径は13.5nmであり、標準偏差はσ=4.3とかなり広い分布幅である。全ての粒径が20nm以下である。
【0068】
<触媒の作製>
上記のPd−Fe合金ナノ粒子コロイド溶液を、重量にして6倍の蒸留水に分散させたセリア(CeO)系複合酸化物の粉末に、Pdが粉末に対して0.1wt%となるように添加し、1時間攪拌した。更に、120℃で水分を蒸発させ、450℃で2時間焼成し、乳鉢で粉砕し、得られた粉末をペレット化することで、形状制御したPd−Fe合金ナノ粒子をCeO系複合酸化物の担体に担持した排ガス浄化触媒を作製した。
【0069】
≪ 触媒性能の評価 ≫
<(1)初期状態での評価>
実施例および比較例1、2で作製した触媒について、作製したままの初期状態で排ガス浄化性能を評価した。評価条件は下記のとおりであった。
【0070】
<浄化性能の評価条件>
<評価ガス条件>
ガス総流量: 15L/min
ガス組成: C 1000ppm
CO 6500ppm
NO 1500ppm
7000ppm
CO 10%
O なし
残部
【0071】
<温度条件>
降温600℃→100℃、20min
【0072】
<評価結果>
図5に評価結果を示す。本発明の実施例によるPd−Fe合金ナノ粒子を担持した触媒は、Pdナノ粒子を担持した比較例1よりも高性能であるのはもとより、Pd−Fe合金ナノ粒子を担持した比較例2と比べても高性能であることが分かる。
【0073】
本発明の実施例が比較例1のPdナノ粒子担持触媒より高性能であるのは、Feと合金化したことによる電子状態の改質および高活性の(111)面や(100)面の効果によるものであると考えられる。
【0074】
本発明の実施例が比較例2のPd−Fe合金ナノ粒子担持触媒より高性能であるのは、上記の効果に加えて、Pd−Fe合金ナノ粒子が全て15nm以下と比較例2の20nm以下より更に微細化したことにより、活性点が増加したためであると考えられる。
【0075】
<(2)耐久後の評価>
実施例および比較例1、2で作製した触媒について、1000℃×5時間熱処理の耐久後に排ガス浄化性能を評価した。評価条件は(1)と同じであった。
【0076】
<評価結果>
図6に評価結果を示す。比較例2が比較例1に対する優位性が初期状態よりも低下しているのに対して、実施例はこれらに対する優位性が初期状態と同様に保たれている。
【0077】
<CO吸着試験>
実施例と比較例2について、上記耐久後に、COパルス方によりPd−Fe合金ナノ粒子のCO吸着量を測定した。CO吸着量の多寡は比表面積の大小すなわち粒径の大小に対応する。
【0078】
<COパルス法の試験条件>
試験サンプル:耐久後の実施例、比較例2の触媒各0.1g
試験条件:400℃で20分間酸化→還元処理後、0℃でCO吸着
【0079】
<試験結果>
図7にCO吸着試験結果を示す。実施例は比較例2に比べてCO吸着量が格段に多いことが分かる。したがって、Pd−Fe合金ナノ粒子が実施例の方が比較例2よりも細粒であることが推察できる。
【0080】
既に図1、2と図3、4との比較で説明したように、Pd−Fe合金ナノ粒子の粒径が、実施例は15nm以下、平均粒径が12.2nmであり、粒径分布がσ=1.2と、微細なだけでなく分布幅が非常に狭く全体として粒径が良く揃っているのに対して、比較例2は20nm以下、平均粒径が13.5nmであり、粒径分布がσ=4.3と、微細ではあるが分布幅がかなり広く全体として粒径がばらついている。
【0081】
一般に金属の粒成長は、金属の気相拡散と熱振動が原因であることが知られており、気相拡散は金属の粒径を均一に揃えることで抑制できると言われている。実施例のPd−Fe合金ナノ粒子は上記のようにナノレベルで均一に粒径制御されているために、耐久熱処理による粒成長が抑制され、高い触媒活性を実現できたと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0082】
本発明によれば、多面体形状、特には四面体形状や十四面体形状等の多面体形状を有し、従来のPd単体ナノ粒子に対して、初期状態はもちろん耐久後の状態でも、より高い触媒活性を示すPd−Fe合金ナノ粒子及びその製造方法が提供される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
PdとFeとから成るPd−Fe合金ナノ粒子であって、粒径が15nm以下、粒径分布がσ<1.2であり、形状が多面体形状であることを特徴とするPd−Fe合金ナノ粒子。
【請求項2】
請求項1において、前記多面体は、立方体、四面体、十四面体の少なくとも1種であることを特徴とするPd−Fe合金ナノ粒子。
【請求項3】
請求項1において、前記立方体が(100)面から成り、前記四面体が(111)面から成り、前記十四面体が(100)面と(111)面とから成ることを特徴とするPd−Fe合金ナノ粒子。
【請求項4】
請求項1から3のPd−Fe合金ナノ粒子を製造する方法であって、パラジウム塩、鉄塩及び還元剤として水素化ホウ素ナトリウムを含む混合溶液を、120℃〜200℃に加熱することを特徴とする製造方法。
【請求項5】
請求項4において、前記混合溶液が溶媒としてテトラエチレングリコールを含むことを特徴とする製造方法。
【請求項6】
請求項4または5において、前記混合溶液を不活性雰囲気で保護することを特徴とする製造方法。
【請求項7】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のPd−Fe合金ナノ粒子を触媒担体に担持して成ることを特徴とする排ガス浄化用触媒。

【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図1】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−41622(P2012−41622A)
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−186264(P2010−186264)
【出願日】平成22年8月23日(2010.8.23)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】