説明

RFIDタグ

【課題】改竄抑止効果を狙いつつ通信性能の低下を抑制したRFIDタグを提供する。
【解決手段】ICチップ10を含む金属パターン層2と金属製の光反射膜4とが非接触状態で積層すると共に、上記金属パターン層2に、電波を放射する放射素子12と、その放射素子12に電気的に接続して上記ICチップ10とのインピーダンス整合を実現するためのループ状のマッチング回路11とを有するRFIDタグである。上記光反射膜4との電気的接続を含めた上記マッチング回路11の虚部インピーダンスの絶対値が、放射素子12の虚部インピーダンスの絶対値の0.7倍以上1.3倍以下となるように、上記積層方向Dからみた、マッチング回路11に対する光反射膜4の配置位置を規定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、RFIDタグに関する発明であって、ICチップ及び放射素子を有する金属パターン層に、例えばホログラム層の一部を形成する金属製の光反射膜が積層したRFIDタグに関する技術である。ここで、RFIDタグとは、近距離通信の無線ICタグであって、ICチップとアンテナを一体化して構成した電子コンポーネントである。カードその他種々の形態で使用される。例えばUHF帯の周波数(800MHz〜6GHz)を動作周波数とする。
【背景技術】
【0002】
ICチップや放射素子を有する金属パターン層の上にホログラム層を積層して、改竄抑止効果を狙ったRFIDタグがある。
例えば、特許文献1に記載のRFIDタグでは、ICチップ及びアンテナを覆うように、接着剤によってホログラム箔を貼り合わせて当該ホログラム箔を積層する。これによって、アンテナはホログラム像を伴って目視可能な状態となる。
【0003】
また特許文献2に記載のRFIDタグでは、導線性金属パターン層を配した金属薄板の所要位置にホログラム加工を施して前記導電性金属パターン層をアンテナパターンとして、改竄抑止効果を狙っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−42074号公報
【特許文献2】特開2002−42088号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載のように、RFIDタグの金属アンテナにホログラム箔を貼り合わせて一体化した場合、アンテナの放射素子(誘導コイル)を単純にホログラム箔で覆ってしまうと、アンテナとしての性能が低下し、タグとしての通信性能が低下、若しくは、通信が出来なくなってしまうという課題がある。
また、特許文献2に記載のように、アンテナ導体自体にホログラム加工を施す場合には、ホログラムのレイアウトがアンテナパターンの形状に依存してしまう。このため、ホログラムの外形的なデザイン面が大きく制約されてしまう。
【0006】
本発明は、上記のような点に着目したものであり、改竄抑止効果を狙いつつ通信性能の低下を抑制したRFIDタグを提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明のうち請求項1に記載した発明は、ICチップを含む金属パターン層と金属製の光反射膜とを非接触状態で積層すると共に、上記金属パターン層に、上記ICチップとのインピーダンス整合を実現するためのループ状のマッチング回路とを有するRFIDタグにおいて、
上記光反射膜は、上記積層方向からみて、ICチップと重ならず且つマッチング回路と少なくとも一部が重なる1又は2以上の重複の光反射膜部分を有し、
上記ループ状のマッチング回路におけるICチップと連結する両端子間を流れる電流の最短距離をAとし、
上記マッチング回路と当該マッチング回路に電気的に接続する上記重複の光反射膜部分の部分との両方で構成される電気回路における、上記両端子間を流れる電流の最短距離をBとした場合に、下記式を満足するように、上記積層方向からみた上記重複の光反射膜部分を配置することを特徴とするものである。
0.7×A ≦ B
ここで、上記金属パターン層上のマッチング回路には、予め電波を放射する放射素子が電気的に接続される形で形成されていても良い。
【0008】
次に、請求項2に記載した発明は、請求項1に記載した構成に対し、マッチング回路を短絡する重複の光反射膜部分の少なくとも一つは、上記積層方向からみて、短絡する2カ所を結ぶ直線に交差するスリットを有することを特徴とするものである。
なお、スリットは、一端が開口していても開口していなくても良い。
【0009】
次に、請求項3に記載した発明は、請求項1又は請求項2に記載した構成に対し、上記マッチング回路を短絡する重複の光反射膜部分の少なくとも一つは、上記積層方向からみて、短絡する2カ所を連絡する部分の少なくとも一部分の幅が、使用する動作周波数から予め求められる電気的に接合していると見なせないだけの幅となっていることを特徴とするものである。
【0010】
次に、請求項4に記載した発明は、請求項3に記載した構成にたいし、動作周波数が800M以上のRFIDタグにおいて、
上記マッチング回路を短絡する重複の光反射膜部分の少なくとも一つは、上記積層方向からみて、短絡する2カ所を連絡する部分の少なくとも一部分の幅が、0.2mm以下となっていることを特徴とするものである。
【0011】
次に、請求項5に記載した発明は、請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載した構成に対し、動作周波数が800M以上のRFIDタグにおいて、
上記積層方向からみて、マッチング回路と重ならない1又は2以上の非重複の光反射膜部分を有し、その非重複の光反射膜部分と上記マッチング回路との間の間隙の平均値をdとし、当該非重複の光反射膜部分とマッチング回路との対向する長さをLとした場合に、下記条件を満足するように上記非重複の光反射膜部分を配置することを特徴とするものである。
(L/d) ≦ 10 又は L ≦ 0.2 [mm]
【0012】
次に、請求項6に記載した発明は、請求項5に記載した構成に対し、上記積層方向からみて、上記非重複の光反射膜部分は、ICチップの外周を囲む電気的に閉じた閉回路を形成しない、有端形状若しくは外周側にICチップが位置する無端環状の形状となっていることを特徴とするものである。
【0013】
次に、請求項7に記載した発明は、ICチップを含む金属パターン層と金属製の光反射膜とが非接触状態で積層すると共に、上記金属パターン層に、電波を放射する放射素子と、その放射素子に電気的に接続して上記ICチップとのインピーダンス整合を実現するためのループ状のマッチング回路とを有するRFIDタグにおいて、
上記光反射膜との電気的接続を含めた上記マッチング回路の虚部インピーダンスの絶対値が、タグの動作周波数において光反射膜がない状態での虚部インピーダンスの絶対値と比べて0.7倍以上となるように、上記積層方向からみた、マッチング回路に対する光反射膜の配置位置を規定することを特徴とするものである。
【0014】
次に、請求項8に記載した発明は、請求項1〜請求項7のいずれか1項に記載した構成に対し、上記光反射膜との電気的接続を含めた放射素子の実効的な電気長が、通信に使用する動作周波数における波長に対し1/4以上1/2以下となるように、上記積層方向からみた、放射素子と光金属膜との重なりを規制することを特徴とするものである。
次に、請求項9に記載した発明は、ICチップを含む金属パターン層と金属製の光反射膜とを非接触状態で積層すると共に、上記金属パターン層に、電波を放射する放射素子と、その放射素子に電気的に接続して上記ICチップとのインピーダンス整合を実現するためのループ状のマッチング回路とを有するRFIDタグにおいて、
上記光反射膜との電気的接続を含めた放射素子の実効的な電気長が、通信に使用する動作周波数における波長に対して1/4以上1/2以下となるように、上記積層方向からみた、放射素子と光金属膜との重なりを規制することを特徴とするものである。
【0015】
ここで、上記「積層方向からみて」とは、金属パターン層と光反射膜を積層する方向からみてという意味である。カード状となっていれば、例えば表面側からみてとの意である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、マッチング回路に重なるように光反射膜を配置しても、エネルギーロスを一定以内に抑えられる結果、改竄抑止効果を狙いつつ通信性能の低下を抑制したRFIDタグを提供することが可能となる。
なお、光反射膜の重なりによる、ICチップの両端間に流れる電流の最短距離の減少を30%以下に抑えることで、インピーダンスアンマッチングによるエネルギー伝達ロスを5dB以下に抑えることが可能となる。
【0017】
また、請求項2に係る発明によれば、重複の光反射膜部分によって生じる、短絡での上記電流の最短距離の減少を抑えることが可能となる。すなわち、スリットを設けることで、短絡間の電流経路が、2つの短絡点を直線に結んだルートでなくなり長くなる。
また、請求項3又は請求項4に係る発明によれば、形式的には重複の光反射膜部分による短絡の状態となっていても、短絡間を連絡する部分の幅を細くすることで電気的接合となることがない。これによって、重複の光反射膜部分による短絡で上記電流の最短距離の減少を抑えることが可能となる。
【0018】
例えば、重複の光反射膜部分において、2つの短絡間を連絡する連絡部分が一カ所であれば、その連絡部分の途中を、動作周波数に対して電気的接合と見なせないだけの幅に設定すれば、短絡した状態とならない。また、2つの短絡間を連絡する連絡部分が複数箇所あっても、全ての連絡部分の途中を、動作周波数に対して電気的接合と見なせないだけの幅に設定すれば、短絡した状態とならない。
【0019】
そして、動作周波数が800M以上(UHF帯若しくはそれ以上の周波数帯)のように高周波である場合には、短絡間の一部の幅を0.2mm以下に設定することで電気的接合を遮断することが可能となる。
また、請求項5に係る発明によれば、動作周波数が800M以上(UHF帯若しくはそれ以上の周波数帯)のように高周波である場合には、非重複の光反射膜部分との電気的な接続を無視することが可能となる。
【0020】
なお、実験によって、(L/d) ≦ 10に設定すれば、実質的に電気的な接続とならないことを確認した。
また、請求項6に係る発明によれば、より確実に非重複の光反射膜部分との電気的な接続を無視することが可能となる。
すなわち、ICチップを囲むように無端環状に非重複の光反射膜部分を配置、つまり非重複の光反射膜部分が閉回路を形成する場合には、上記請求項5の構成を満足しても、非重複の光反射膜部分にマッチング回路と反対方向に電流が誘導して流れることで損失が発生する。これを抑制することで、エネルギー伝達ロスを抑制する。
【0021】
なお、IC及びマッチング回路から100mm以上離れていれば、実質的には問題無いと考えられる。
また請求項7に係る発明によれば、例えば請求項1〜請求項6に係る発明を採用することで、虚部インピーダンスの差を30%以下に抑えることで、エネルギー伝達ロスが5dB以下に抑えることが可能となる。
【0022】
また、請求項8又は請求項9に係る発明によれば、放射素子に対する光反射膜の重なりによるロスを一定値以下に抑えることが可能となる。実効的な電気長が、動作周波数における波長の1/4となると、1/2の場合と比較して、RFIDに対する通信する受信装置の通信可能な距離が1/4程度となる。この観点から1/4を下限値とした。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明に基づく実施形態に係るRFIDの断層構造を説明する模式図である。
【図2】本発明に基づく実施形態に係る金属パターンを説明する図である。
【図3】本発明に基づく実施形態に係る重複の光反射膜部分とマッチング回路との関係を説明する図である。
【図4】本発明に基づく実施形態に係る最短経路長Aを説明する図である。
【図5】伝達ロスの関係を説明する図である。
【図6】本発明に基づく実施形態に係る重複の光反射膜部分にスリットを設ける例を説明する図である。
【図7】本発明に基づく実施形態に係る短絡間の一部の幅が細い場合の例を説明する図である。
【図8】本発明に基づく実施形態に係るマッチング回路と非重複の光反射膜部分との関係を例示する模式図である。
【図9】本発明に基づく実施形態に係る間隙が一定で無い場合を説明する模式図である。
【図10】本発明に基づく実施形態に係る対向する辺の長さが違う場合を説明する模式図である。
【図11】本発明に基づく実施形態に係る非重複の光反射膜部分がICチップを囲む閉回路を形成しない場合を説明する図である。
【図12】非重複の光反射膜部分がICチップを囲む閉回路を形成する場合を説明する図である。
【図13】非重複の光反射膜部分がICチップを囲む閉回路を形成する場合を説明する図である。
【図14】非重複の光反射膜部分がICチップを囲む閉回路を形成する場合を説明する図である。
【図15】非重複の光反射膜部分がICチップを囲む閉回路を形成しない場合を説明する図である。
【図16】本発明に基づく実施形態に係る放射素子の実効的電気長を説明する図である。
【図17】本発明に基づく実施形態に係る放射素子と光反射膜との重なりによる実効的電気長の変化を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
次に、本発明に係る実施形態を図面を参照しつつ説明する。
図1は、本実施形態のRFIDタグの断面構造を示す図である。
(構成)
本実施形態のRFIDタグは、図1に示すように、下側基材1の上に金属パターン層2が積層し、その金属パターン層2の上に、絶縁層3を介してホログラム層7が積層され、そのホログラム層7の上に上側基材6が積層して構成されている。
【0025】
上記金属パターン層2には、図2に示すように、ICチップ10、ループ状のマッチング回路11及び放射素子12からなる金属パターンが形成されている。具体的には、ループ状のマッチング回路11の両端部の端子がそれぞれICチップ10に電気的に接続すると共に、そのマッチング回路11に放射素子12が電気的に接続する。上記ループ状のマッチング回路11は、放射素子12に電気的に接続して上記ICチップ10とのインピーダンス整合を実現する。
【0026】
図2では、マッチング回路11と放射素子12とが直接接続することで電気的に接続している場合を例示しているが、マッチング回路11に対し放射素子12が近接配置されることで、両者が磁界結合や静電容量結合などによって電気的に接続している構成となっていても良い。
【0027】
ここで、ICチップ10の入力インピーダンスをZi、マッチング回路11と放射素子12で形成されるアンテナの入力インピーダンスをZaとそれぞれ定義すると、各入力インピーダンスZi及びZaは、下記式で表すことが出来る。
Zi = Zi(re) + j×Zi(im)(実装に伴う浮遊容量分も含む)
Za = Za(re) + j×Za(im)
そして、下記条件を満足若しくは下記条件に近づけるように設計することで、インピーダンス整合を実現する。
Zi(re) = Za(re)
Zi(im) = −Za(im)
【0028】
例えば、通信に用いる動作周波数fにおける、ICチップ10の入力インピーダンスZi(特にICチップ10が最小動作電力に近いエネルギーを加えたときの入力インピーダンスであり、かつ実装に伴う浮遊容量分の影響も含む)と、同動作周波数fにおける、マッチング回路11と放射素子12とで形成されるアンテナの入力インピーダンスZaは、例えば下記のような値に設定する。
Zi =15 −j×150
Za =15 +j×150
また、上記放射素子12は、電気長が、動作周波数fにおける波長に対し1/2となるように設定される。
また、上記のような金属パターンを有する金属パターン層2の上に接着剤を介してホログラム層7が積層する。ここで、上記接着剤が絶縁層3を形成する。絶縁層3は、接着剤で構成する必要はない。印刷などによって絶縁層3を形成しても良い。
【0029】
ホログラム層7は、タグ表面側に配置されて目視する向きによって色彩や画像が変化する光学デバイス5と、その下層(金属パターン層2側)の金属製の光反射膜4とを有する。上記金属製の光反射膜4は、金属パターン層2に近接するほど、当該金属パターンと電気的に接続した状態となり易い。特に、金属パターン層2と光反射膜4との積層方向Dからみて、光反射膜4と金属パターンとの重なっている部分(重複部分)では、両者が電気的に接続した状態となる傾向にある。
【0030】
ここで、上記マッチング回路11、放射素子12、及び金属製の光反射膜4は、20μm以下の厚みの圧延箔、蒸着、又は導電性塗料の印刷の何れか又はこれらの組合せによって形成する。
また、ホログラム層7は、部分的にその金属製の光反射膜4が除去(ディメタライズ)されることでデザインしても良い。
【0031】
(光反射膜4の配置規則)
次に、上記金属パターンに対する、積層方向Dからみた、上記光反射膜4の配置について説明する。上記金属パターンとは、上記ICチップ10、マッチング回路11、及び放射素子12である。
【0032】
まず、ICチップ10及びマッチング回路11に対する光反射膜4の配置規則について説明する。
ここで、光反射膜4は、必ずしも物理的に連続した1枚の膜で形成されるわけではない。そこで、光反射膜4を、重複の光反射膜部分4Aと非重複の光反射膜部分4Bに区分する。重複の光反射膜部分4Aとは、積層方向Dからみて、上記マッチング回路11と重なる当該光反射膜4と重なる部分を有する光反射膜4を指す。非重複の光反射膜部分4Bとは、重複の光反射膜部分4A以外を指し、積層方向Dからみて、上記マッチング回路11と重なる部分を有しない光反射膜4を指す。
【0033】
(重複の光反射膜部分4Aの配置規則)
重複の光反射膜部分4Aが、図3に示すように、マッチング回路11と2カ所で重なるように配置されると、重複の光反射膜部分4Aによって、その2点間で短絡が発生し、重複の光反射膜部分4Aを含むマッチング回路11の入力インピーダンスは小さくなる。
【0034】
これを考慮して、ループ状マッチング回路11のIC実装部両端子10a、10b間を流れる電流の最短経路の長さをAとし、更にマッチング回路11と電気的に接続された光反射膜4を含んだ状態においてループ状マッチング回路11のIC実装部両端子関を流れる電流の最短経路の長さをBとした場合、以下の条件を満足する範囲で、光反射膜4がマッチング回路11と重なるように、当該重複の光反射膜部分4Aをデザイン(配置)する。
【0035】
ここで、重複の光反射膜部分4Aを無視した上記電流の最短経路長Aは、図4に示すように、ループ状マッチング回路11の内周側を流れる経路の長さである。
−0.7×(Zi(im)/Za(im))×A ≦ B ≦ A
通常、Zi(im)=−Za(im)に設計するため、下記式を使用しても良い。
−0.7×A ≦ B
すなわち、金属製の光反射膜4によるマッチング回路11の短絡による、マッチング回路11の入力インピーダンスの低減を30%以下に抑えるように、重複の光反射膜部分4Aをデザインするようにする。
【0036】
ここで、入力インピーダンスの低減が30%以下というのは、次の理由である。すなわち、図5に示すように、マッチング回路11側の虚部インピーダンスZi(im)に対する放射素子12側の虚部インピーダンスZa(im)の比率が、70%〜130%の範囲では、放射素子12とICチップ・マッチング回路との間のエネルギー伝達ロスを5dB以下に押させることが可能となる。この観点から、30%以下となるように、重複の光反射膜部分4Aのデザイン(配置)を規定する。
【0037】
例えば、図3のように、マッチング回路11の2カ所を横断する部分を有するように重複の光反射膜部分4Aを配置する場合、同図に記載する経路が最短経路長Bとなる。したがって、下記条件を満足させるには、上記マッチング回路11の2カ所の横断位置(短絡の位置)を、ICチップ10から離れた位置となるように重複の光反射膜部分4Aをデザインすれば良い。
【0038】
また、マッチング回路11の2カ所を横断して短絡する場合であっても、図6のように、重複の光反射膜部分4Aに、上記短絡間を結ぶ直線と交差するスリット4aを設けることで最短経路長Bを長く設定することが可能となる。すなわち、上記マッチング回路11の2カ所の横断位置の間を区切るようなスリット4aを設けることで、上記マッチング回路11の2カ所の横断位置を、よりICチップ10側に近づけて設けることが可能となる。 この結果、当該マッチング回路11との重複部分を多く設定して光反射膜4をデザイン可能となる。
【0039】
ただし、図3のように、マッチング回路11の2カ所を横断して重複の光反射膜部分4Aが配置していても、図7のように短絡する2カ所を連絡する重複の光反射膜部分4Aの少なくとも一部の幅が0.2mm以下の幅(符号4bの位置)の場合には、上記2カ所を電気的に接続していないので、短絡が発生していない。すなわち、積層方向Dからみて、マッチング回路11の2カ所を接続するように重複の光反射膜部分4Aが配置していても、上記2カ所を最短で接続する部分の一部に幅が0.2mm以下の場合には、上記重複の光反射膜部分4Aとは見なさない。
【0040】
ここで、上記説明では、重複の光反射膜部分4Aが1つの場合で説明しているが、2以上の分離した重複の光反射膜部分4Aで構成しても良い。この場合には、全ての重複の光反射膜部分4Aによる電気的接続で発生する最短経路長Bで判定すれば良い。
【0041】
(非重複の光反射膜部分4Bの配置規則)
UHF帯の周波数を使用するRFIDタグの動作周波数fは800M〜6GHzと高周波である。このため、直流的には未接続でも電気的(UHF帯において)には接続していると判断できる場合がある。
【0042】
下記条件を満足する非重複の光反射膜部分4Bは、直流的には未接続でも電気的(UHF帯において)には接続していると判断し、その状態を回避して、非重複の光反射膜部分4Bのデザインを決定する。ここで、図8に示すように、d[mm]は、非重複の光反射膜部分4Bと上記マッチング回路11との間の間隙の値である。L[mm]は、当該非重複の光反射膜部分4Bとマッチング回路11との対向する長さである。ただし、図9のように間隙が一定値でない場合には、dとして、間隙の平均値を取る。また、図10のように対向する辺の長さが異なる場合には、その2つの辺の平均値(=(L1+L2)/2)とした。
(L/d) >10 且つ L > 0.2mm
【0043】
ここで、上記式を満足する場合に、UHF帯において、実質的に電気的に接続してインダクタンスが減少してしまうことを確認した。
従って、(L/d)≦10又は L ≦ 0.2mmを満足するように、非重複の光反射膜部分4Bのデザイン(配置)を規定すればよい。
上記説明は、マッチング回路11と非重複の光反射膜部分4Bとの関係を規定したが、放射素子12と非重複の光反射膜部分4Bとの関係もこの条件を満足することが好ましい。
【0044】
さらに、上記規定を満足しても、非重複の光反射膜部分4Bが、ICチップ10を完全に囲った無端環状の状態、つまりICチップ10の外周を囲むように電気的に閉じた閉回路を形成している場合には、その非重複の光反射膜部分4Bにも電流が誘導して、伝達ロスが発生する。
【0045】
このため、上記積層方向Dからみて、図11に示すように、上記非重複の光反射膜部分4Bは、ICチップ10の外周を囲む電気的に閉じた閉回路を形成しない配置とする。すなわち、非重複の光反射膜部分4Bを、上記積層方向からみて、有端形状若しくは外周側にICチップが位置する無端環状の形状とする。すなわち、開口端を有する形状が、無端状としても、内周側にICチップが位置しない形状とする。
【0046】
ICチップ10の外周を囲む電気的に閉じた閉回路となる例を、図12及び図13に例示する。なお、図14に示すように、非重複の光反射膜部分4Bを分離する隙間が空いていても、その隙間が0.2mm以下の場合には電気的に接続していると見なす。逆に、直流的には閉回路を形成していても、図15に示すように、その一部の幅が0.2mm以下の場合には、上記高周波に対しては電流が流れないので電気的に閉じた閉回路を形成しない。すなわち、ICチップ10の外周を無端環状に囲むように非重複の光反射膜部分4Bをデザインする場合には、その一部の幅が0.2mm以下となるようにデザインすればよい。
【0047】
すなわち、金属製光反射膜4は一般的に80nmと非常に薄く面積抵抗が高い。また、UHF帯の周波数を使用するRFIDタグの動作周波数fは800M〜6GHzと高周波であることから、非常に細い線においてはレジスタンスの他にインダクタンスが非常に高い値となる。よって、幅が0.2mm以下の箇所があると誘導電流は実質的に流れなくなる。なお、上限値である0.2mmとは、動作周波数fが800M〜6GHzの場合である。動作周波数fの値に応じて、実質的に誘導電流が流れなくなる幅の上限値を求めて採用すればよい。
【0048】
なお、内側にICチップが位置する無端形状としてもICチップ及びマッチング回路から2、3cm離れていていれば、実質的に無視可能となる。通常、ホログラムは数センチ角内に配置されるため、2、3cm離れて配置される部分を対象としない。
【0049】
以上のような配置規則によって光反射膜4をデザイン(配置)することで、金属パターン層2に設けたループ状のマッチング回路11又は放射素子12の虚部インピーダンスの値を、ホログラム層7の光反射膜4と組み合わせた状態において、使用する動作周波数fにおけるICチップ10の最小動作電力における虚部インピーダンスの複素共役となる値を基準としてその±30%の範囲内であるように設定する。例えば、上記光反射膜4との電気的接続を含めた上記マッチング回路11の虚部インピーダンスの絶対値が、放射素子12の虚部インピーダンスの絶対値の0.7倍以上1.3倍以下となるように、上記積層方向Dからみた、マッチング回路11に対する光反射膜4の配置位置を規定する。その関係を下記式で示す。
−0.7×Zi(im) < Za(im) < −1.3×Zi(im)
【0050】
又は、金属パターン層2に設けたループ状のマッテング回路又は放射素子12の虚部インピーダンスの値はホログラム層7と組み合わせた状態において、所望の動作周波数fにおけるICチップ10の最小動作電力における虚部インピーダンスの複素共役となる値を基準として同チップの最小動作電力における実部インピーダンスの±300%の範囲内であるか否かで判定しても良い。実質的に同義である。すなわち、下記式で判定しても良い。これは虚部を実部の10倍に設定するとした場合である。
−Zi(im) −3×Zi(re)
< Za(im) < −Zi(im)+3×Zi(re)
【0051】
(放射素子12に対する重複の光反射膜部分4Aの配置規則)
上記光反射膜4との電気的接続を含めた放射素子12の実効的な電気長が、通信に使用する動作周波数fにおける波長λに対し1/4以上1/2以下となるように、上記積層方向Dからみた、放射素子12と光金属膜との重なりを規制する。
【0052】
一般に放射素子12の電気長は、動作周波数fにおける波長λの1/2に設定する。図16が、放射素子12単独の電気長(電流の最短経路長)である。
しかしながら、図17のように、積層方向Dからみて放射素子12と重複の光反射膜4Bが重なると電気的な短絡が発生して、実効的な電気長が短くなる。ただし、重複の光反射膜4Bの幅が0.2mm以下の場合には短絡しないので、無視する。
【0053】
そして、実効的な電気長が、波長λの1/4となると、1/2の場合に比べて通信距離が1/4程度となる。通信距離の損失としては1/4程度が限界と判定してλ/4を下限値とした。例えばλ/2で通信距離が20cmとしたら、λ/4で通信距離は5cm程度と短くなる。
重複による電気長の長さの考えは、上記重複の光反射膜部分4Aとマッチング回路11との間の短絡に対する考えと同様である。すんわち、短絡間に交叉するようにスリットを形成するようにすると良い。
【0054】
これに基づいて放射素子12と重なる光反射膜4のデザイン(配置)を規定する。
例えば、下記式を満足するように放射素子12と重なる光反射膜4のデザイン(配置)を規定する。
|(Za−Zi*)/(Za+Zi)|2 ≦ 0.25
ただし、Zi*はZiの複素共役数である。
【0055】
(本実施形態の効果)
上記構成を採用することで、RFIDタグの放射素子12を含む金属パターン上に金属製の光反射膜4を含むホログラム層7を積層・配置してもRFIDタグとして十分な通信性能を確保できる。
【0056】
また、上記実施形態に説明したルールに従うことにより、RFIDタグの放射素子12を含む金属パターンの形状とホログラムのデザインはほぼ独立して設計することが可能となり、ホログラムデザインの自由度を大幅に高めることが可能となる。
【0057】
すなわち、マッチング回路11に重なるように光反射膜4を配置しても、エネルギーロスを一定以内に抑えられる結果、改竄抑止効果を狙いつつ通信性能の低下を抑制したRFIDタグを提供することが可能となる。なお、電流の最短距離の光反射膜4の重なりによる減少を30%以下に抑えることで、インピーダンスアンマッチによるエネルギー伝達ロスを5dB以下に抑えることが可能となる。
【0058】
このとき、重複の光反射膜部分4Aに対しスリット4aを設けることで、短絡間の電流経路が、2つの短絡点を直線に結んだルートでなくなる。この結果、マッチング回路11との重複を増やしつつ、重複の光反射膜部分4Aによる短絡で上記電流の最短距離の減少を抑えることが可能となる。
また、直流的には重複の光反射膜部分4Aによる短絡となっていても、短絡間を連絡する部分の幅を細くすることで電気的接合となることがない。これによって、マッチング回路11との重複を増やしつつ、重複の光反射膜部分4Aによる短絡で上記電流の最短距離の減少を抑えることが可能となる。
【0059】
例えば、重複の光反射膜部分4Aにおいて、2つの短絡間を連絡する連絡部分が一カ所であれば、その連絡部分の途中を、動作周波数fに対して電気的接合と見なせないだけの幅に設定すれば、短絡した状態とならない。また、2つの短絡間を連絡する連絡部分が複数箇所あっても、全ての連絡部分の途中を、動作周波数fに対して電気的接合と見なせないだけの幅に設定すれば、短絡した状態とならない。
【0060】
そして、動作周波数fが800M以上(UHF帯若しくはそれ以上の周波数帯)のように高周波である場合には、短絡間の一部の幅を0.2mm以下に設定することで電気的接合を遮断することが可能となる。
また、非重複の光反射膜部分4Bに対しても、上述の条件を満足すれば、マッチング回路11と非重複の光反射膜部分4Bとの電気的な接続を無視することが可能となる。
【0061】
すなわち、ICチップ10を囲むように無端環状に非重複の光反射膜部分4Bを配置、つまり非重複の光反射膜部分4Bが閉回路を形成する場合には、非重複の光反射膜部分4Bにマッチング回路11と反対方向に電流が誘導して流れることで損失が発生する可能性がある。これを回避するように光反射膜4をデザインすることで、エネルギー伝達ロスを抑制する。
【0062】
また放射素子12の光反射膜4との重なりによる影響を含めた実効的な電気長が、動作周波数fにおける波長の1/4〜1/2となるように、光反射膜4を配置することで、通信距離の低減を所定以下に抑えることが可能となる。
【符号の説明】
【0063】
1 下側基材
2 金属パターン層
3 絶縁層
4 金属製光反射膜
4A 光反射膜部分
4B 光反射膜部分
4a スリット
5 光学デバイス
6 上側基材
7 ホログラム層
10 ICチップ
10a、10b 実装部両端子
11 マッチング回路
12 放射素子
D 積層方向
Za マッチング回路の入力インピーダンス
Zi 放射素子の入力インピーダンス
f 動作周波数

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ICチップを含む金属パターン層と金属製の光反射膜とを非接触状態で積層すると共に、上記金属パターン層に、上記ICチップとのインピーダンス整合を実現するためのループ状のマッチング回路とを有するRFIDタグにおいて、
上記光反射膜は、上記積層方向からみて、ICチップと重ならず且つマッチング回路と少なくとも一部が重なる1又は2以上の重複の光反射膜部分を有し、
上記ループ状のマッチング回路におけるICチップと連結する両端子間を流れる電流の最短距離をAとし、
上記マッチング回路と当該マッチング回路に電気的に接続する上記重複の光反射膜部分の部分との両方で構成される電気回路における、上記両端子間を流れる電流の最短距離をBとした場合に、下記式を満足するように、上記積層方向からみた上記重複の光反射膜部分を配置することを特徴とするRFIDタグ。
0.7×A ≦ B
【請求項2】
マッチング回路を短絡する重複の光反射膜部分の少なくとも一つは、上記積層方向からみて、短絡する2カ所を結ぶ直線に交差するスリットを有することを特徴とする請求項1に記載したRFIDタグ。
【請求項3】
上記マッチング回路を短絡する重複の光反射膜部分の少なくとも一つは、上記積層方向からみて、短絡する2カ所を連絡する部分の少なくとも一部分の幅が、使用する動作周波数から予め求められる電気的に接合していると見なせないだけの幅となっていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載したRFIDタグ。
【請求項4】
動作周波数が800M以上のRFIDタグにおいて、
上記マッチング回路を短絡する重複の光反射膜部分の少なくとも一つは、上記積層方向からみて、短絡する2カ所を連絡する部分の少なくとも一部分の幅が、0.2mm以下となっていることを特徴とする請求項3に記載したRFIDタグ。
【請求項5】
動作周波数が800M以上のRFIDタグにおいて、
上記積層方向からみて、マッチング回路と重ならない1又は2以上の非重複の光反射膜部分を有し、その非重複の光反射膜部分と上記マッチング回路との間の間隙の平均値をdとし、当該非重複の光反射膜部分とマッチング回路との対向する長さをLとした場合に、下記条件を満足するように上記非重複の光反射膜部分を配置することを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載したRFIDタグ。
(L/d) ≦ 10 又は L ≦ 0.2 [mm]
【請求項6】
上記積層方向からみて、上記非重複の光反射膜部分は、ICチップの外周を囲む電気的に閉じた閉回路を形成しない、有端形状若しくは外周側にICチップが位置する無端環状の形状となっていることを特徴とする請求項5に記載したRFIDタグ。
【請求項7】
ICチップを含む金属パターン層と金属製の光反射膜とが非接触状態で積層すると共に、上記金属パターン層に、電波を放射する放射素子と、その放射素子に電気的に接続して上記ICチップとのインピーダンス整合を実現するためのループ状のマッチング回路とを有するRFIDタグにおいて、
上記光反射膜との電気的接続を含めた上記マッチング回路の虚部インピーダンスの絶対値が、タグの動作周波数において光反射膜がない状態での虚部インピーダンスの絶対値と比べて0.7倍以上となるように、上記積層方向からみた、マッチング回路に対する光反射膜の配置位置を規定することを特徴とするRFIDタグ。
【請求項8】
上記光反射膜との電気的接続を含めた放射素子の実効的な電気長が、通信に使用する動作周波数における波長に対し1/4以上1/2以下となるように、上記積層方向からみた、放射素子と光金属膜との重なりを規制することを特徴とする請求項1〜請求項7のいずれか1項に記載したRFIDタグ。
【請求項9】
ICチップを含む金属パターン層と金属製の光反射膜とを非接触状態で積層すると共に、上記金属パターン層に、電波を放射する放射素子と、その放射素子に電気的に接続して上記ICチップとのインピーダンス整合を実現するためのループ状のマッチング回路とを有するRFIDタグにおいて、
上記光反射膜との電気的接続を含めた放射素子の実効的な電気長が、通信に使用する動作周波数における波長に対して1/4以上1/2以下となるように、上記積層方向からみた、放射素子と光金属膜との重なりを規制することを特徴とするRFIDタグ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2011−113452(P2011−113452A)
【公開日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−271362(P2009−271362)
【出願日】平成21年11月30日(2009.11.30)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】