説明

RNA含有組成物

【課題】 血中におけるRNAの安定性と滞留性を改善するための組成物、および方法の提供。
【解決手段】 ポリカチオン性化合物に対して櫛型に結合している親水性基を側鎖として有する担体と、RNAとの複合体を含む、RNAを血液中に投与するための組成物が提供された。好ましいポリカチオン性化合物は、ポリ(カチオン性アミノ酸)である。RNAの腎からの排泄が抑制され、RNAの滞留性が改善される。たとえば、がん治療効果を有するsiRNAを血中に投与することによって、がんの治療が可能となる。担体としては、たとえばポリ−L−リジン−g−デキストラン、あるいはポリ−L−リジン−g−ポリエチレングリコールなどを用いることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血液中に投与することができるRNA含有組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
医薬品開発において、有効成分を目的とする組織あるいは細胞に効果的に到達させる技術は重要な研究課題の一つである。たとえば、いかに優れた薬理作用を有する化合物も、目的とする組織に到達しなければ、薬理効果は期待できない。局所的な投与方法を除けば、通常、医薬品の有効成分(薬物)は、血中や経口的に投与された後に、作用部位に到達することによってその薬理効果を発揮する。投与された薬物が作用部位に効率的に到達できない場合には、大量の薬物を投与しなければならない。その結果、薬物投与による副作用の危険が高まる。薬物を目的とする部位に送達(Delivery)するために、様々なメカニズムが考え出された。このようなメカニズムは、薬物送達システム(Drug Delivery System;以下DDSと省略する)と呼ばれている。
【0003】
生体に投与された薬物は、生体から次のような影響を受ける。これらの影響を逃れて最終的に作用部位に到達した薬物によって、期待された治療効果がもたらされる。結果として治療効果につながらなかった薬物は、代謝あるいは排泄される。
−吸収−
薬物はまず生体に吸収されなければならない。局所投与を除けば、薬物は、通常、患部から離れた部位に投与され、生体に吸収された後に、生体内に拡散することにより、患部に到達する。生体による薬物の吸収は、薬物が作用部位に到達するための最初の関門となる。たとえば、経口投与、経皮的投与、経腸的投与、あるいは経気道投与などの投与方法においては、薬物の吸収量がその生体内濃度を左右する。
【0004】
薬物を静脈内に投与する場合には、通常、生体における薬物濃度は投与量に依存し、吸収の影響は受けない。ただし、静脈内に投与する場合であっても、作用部位が血流から隔離されているときには、血中から作用部位への薬物の移行の程度が、薬物の最終的な作用濃度を左右することになる。たとえばがん組織は、血管新生が亢進していて、血流の豊富な組織である。しかし組織を構成する個々の細胞に薬物が到達するためには、薬物が細胞膜を透過する必要がある。抗体医薬などのように、細胞表面への結合によって治療効果が得られる場合を除けば、多くの抗がん剤の作用部位は細胞内部である。つまり、がん細胞の細胞膜を透過した薬物によって治療効果が達成される。薬物が生体に吸収されて血中に移行した後、更に作用部位に到達する過程も、薬物の吸収に位置づけることができる。
【0005】
−生体による薬物の代謝−
多くの場合、薬物は、生体にとっては異物である。そのため生体に投与(あるいは吸収)された薬物は、通常、生体から除去される。具体的には、生体が有する分解機構や排泄機構は、薬物に対してそれを除去する方向に作用する。その結果、一般に、生体に投与された薬物の生体内濃度は、時間とともに低下する。もしも薬物が作用部位に対する蓄積性が無い場合には、生体内濃度は薬物の作用濃度と一致する。つまり、時間とともに薬物の効果が低下することを意味する。あるいは血液から作用部位への移行性が良好な薬物であっても、速やかに排泄され血中濃度を維持できない薬物では、高い治療効果を期待することは難しい。すなわち薬物による治療効果は、投与された薬物が生体から除去されるまでの間にもたらされているといってよい。
【0006】
DDSによる薬物の送達は、薬物に対する生体の影響を制御し、薬物を効率的に作用部位に送達することを目的としている。具体的には、たとえば次のようなアプローチによって薬物を効率的に作用部位に到達させる努力が続けられてきた。
−薬物の作用部位への標的化:特定の細胞に親和性の高い物質を利用して、薬物を特定の細胞に選択的に移送する技術が公知である。たとえば抗体に細胞障害性物質を結合した抗がん剤が公知である。このようなアプローチによる治療方法を、標的治療(targeting therapy)を呼ぶ。標的化により、薬物は特定の細胞に結合させられる。その結果、作用部位(あるいはその近く)における薬物濃度を高く維持することができる。また標的化によって、薬物の肝臓あるいは腎臓などの代謝をつかさどる器官への移行が妨げられる。その結果、薬物を生体内に長く保持することができる。
【0007】
−薬物の保護:薬物の生体による代謝を防ぐことができれば、投与した薬物をより長時間、生体内に存在させることができる。たとえば、経口投与においては、しばしば強酸性に耐えるカプセルに薬物が充填される。投与されたカプセルは胃を経て腸内で溶解し薬物を放出する。胃内の強酸性条件下による薬物の分解を防ぎ、吸収量を高めることがカプセルの役割である。また、たんぱく質製剤に高分子化合物を結合することによって、血中濃度を高い水準に維持できることも公知である。この方法は生体によるたんぱく質の代謝が、高分子化合物の結合によって阻害される現象を利用している。
【0008】
さて、遺伝子の発現を効果的に制御することができる技術として、RNA干渉(RNA interferance;RNAi)と呼ばれる現象が明らかにされている。RNAiは、2本鎖RNAが相同な塩基配列を有する遺伝子の発現を特異的に抑制する現象である。当初、線虫において確認された現象で(Fire et al., Nature, 391, 806-811, 1998)、その後哺乳動物細胞においても21塩基の2本鎖RNAによるRNAiが確認された(Elbashir et al., Nature, 411, 494-498, 2001)。RNAiのメカニズムは、現在のところ、完全には明らかにされていない。さまざまな解析によって次のようなモデルが推定されている。
【0009】
すなわち、まず細胞内に導入された2本鎖RNAがRNaseIII型の核酸分解酵素によって、21−23塩基程度の長さを有する短いRNAに断片化される。このとき作用するRNaseIII型の核酸分解酵素は、ダイサー(dicer)と呼ばれている。断片化されたRNAはヘリカーゼなどの複数のたんぱく質と複合体を形成する。このとき形成されるRNAとたんぱく質との複合体がRISC(RNA -induced silencing cmplex)である。ヘリカーゼは、2本鎖の核酸をATP依存的に1本鎖に解きほぐす作用を有する酵素である。RISCは、それを構成している2本鎖RNAがヘリカーゼの作用によって1本鎖化されると、活性型となる。続いて活性型RISCが有する1本鎖RNAに相補的な塩基配列を含むmRNAが分解される。RISCを構成する断片化されたRNAは、特にsiRNA(small interfering RNA)と呼ばれた。しかし現在では、細胞への導入によって遺伝子発現抑制をもたらす人為的に合成された2本鎖RNAも含めて広くsiRNAと呼んでいる。
【0010】
siRNAによる遺伝子発現抑制作用は非常に強力である。そのため、アンチセンスやリボザイムに代わる、新たな遺伝子発現抑制技術として注目されている。siRNAが有する遺伝子発現の抑制作用は、さまざまな遺伝子に応用された。たとえば医療においては、疾患の原因となる遺伝子の発現を、siRNAの作用によって抑制する試みが報告されている。以下に医療分野において効果が確認されたsiRNAの標的を示す。
感染性病原体の遺伝子:HIV、HBV、HCVなど
がん遺伝子:Her2/neu, EGFR, VEGF, HPVなど
本発明者らも、各種のヘリカーゼの発現をsiRNAによって抑制することによって、がん細胞にアポトーシスを誘導しうることを明らかにして特許出願している(WO2004/100990)。
【0011】
これらのsiRNAの医療分野における利用には、なお解決すべき課題が残されている。課題のひとつは、siRNAの安定性である。もともとRNAはきわめて分解されやすい生体分子である。たんぱく質の発現レベルが遺伝子の転写調節によってコントロールできるのは、RNAが分解されやすいために他ならない。生体内においては、たんぱく質合成を終えたmRNAは速やかに分解される。加えて、血中に存在する短鎖のRNAは、そのままでは腎臓によって速やかに尿中に排泄される。ところがRNAを医薬として利用するときには、RNAが安定に維持されなければ持続的な薬効が望めない恐れがある。これらの課題に対して、たとえば各種のベクターを用いて、細胞内でsiRNAを発現させる試みがある。
生体内においてsiRNAの治療効果を期待するためには、目的とする組織に効率的にsiRNAをデリバリーする技術が必要である。特に、たとえばがんのように、特定の組織に対してsiRNAを運搬したい場合には、薬剤が組織移行性を有することが好ましい。ところが現在知られている生体への遺伝子導入用ベクターは、細胞に対する選択性が低い。そのため、全身性に投与した場合には、特定の組織を標的とすることが難しい。
【0012】
更に、コレステロールをキャリアーとして用い、化学修飾した2本鎖RNAを組み合わせて遺伝子の発現抑制を実現した報告もある(Soutschek et al., Nature, 432, 173-178, 2004)。この報告においては肝のアポリプロテインBの発現が抑制された。その他の組織に移行性を有するキャリアーが提供されれば有用である。
【0013】
一方、たとえば、次のようなブロック共重合体と核酸との配合によって、薬剤や核酸などの運搬に有用なナノミセルを得られることが明らかにされている。しかしこれらのナノミセルを構成する重合体の構造と、血中への投与後の挙動との関連性は明らかでない。
特開平7-69900:ポリエチレングリコールとポリアスパラギン酸などのブロック共重合体+アドリアマイシン
特開2001-146556:チオール化された、ポリエチレングリコールとポリリジンなどのブロック共重合体+高分子電解質
WO2002/26241:ポリエチレングリコールとポリグルタミン酸などのブロック共重合体+シスプラチン
特開2003-113214:ポリエチレングリコールとポリメタクリル酸などのブロック共重合体+核酸
特開2004-352972:ポリエチレングリコールとポリカチオンのブロック共重合体+核酸または陰イオン性たんぱく質
【0014】
更に本発明者らは、カチオン性のアミノ酸ポリマーに、親水性基を櫛型に結合した担体が、核酸のハイブリダイゼーションを促進し、2本鎖あるいは3本鎖形成の安定化作用を有することを明らかにしている (Bioconjug Chem. (1998) 9, 292-299.; Bioconjug Chem. (2000) 11, 520-526.; Nat Mater. (2003) 2, 815-820.)。この現象に基づいて、カチオン性のアミノ酸ポリマーに、親水性基を櫛型に結合した担体の、核酸キャリアーとしての有用性が見出されている(特開平10-158196)。
【0015】
【非特許文献1】Fire et al., Nature, 391, 806-811, 1998
【非特許文献2】Elbashir st al., Nature, 411, 494-498, 2001
【非特許文献3】Soutschek et al., Nature, 432, 173-178, 2004
【非特許文献4】Maruyama A, Watanabe H, Ferdous A, Katoh M, Ishihara T, Akaike T. Characterization of interpolyelectrolyte complexes between double-stranded DNA and polylysine comb-type copolymers having hydrophilic side chains. Bioconjug Chem. (1998) 9, 292-299.
【非特許文献5】Ferdous A, Akaike T, Maruyama A. Mechanism of intermolecular purine-purine-pyrimidine triple helix stabilization by comb-type polylysine graft copolymer at physiologic potassium concentration. Bioconjug Chem. (2000) 11, 520-526.
【非特許文献6】Kim WJ, Sato Y, Akaike T, Maruyama A. Cationic comb-type copolymers for DNA analysis. Nat Mater. (2003) 2, 815-820.
【特許文献1】WO2004/100990
【特許文献2】特開平7-69900
【特許文献3】特開2001-146556
【特許文献4】WO2002/26241
【特許文献5】特開2003-113214
【特許文献6】特開2004-352972
【特許文献7】特開平10-158196
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明は、血中に投与することができるRNA組成物の提供を課題とする。あるいは本発明は、RNAを血中で安定に維持しうる組成物、あるいはそのための方法の提供を課題とする。更に本発明は、血中における滞留性が改善されたRNAの用途の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者らは上記の課題を解決するために、RNAの血中滞留性を向上させる化合物について研究を重ねた。そして特定の担体との配合によって、RNAの血中における滞留性が改善されることを見出した。すなわち本発明は、以下のRNA組成物、その製造方法、そしてRNAの血中における安定化方法を提供する。また本発明は、本発明に基づいて血中における滞留性が改善されたRNAの用途を提供する。
〔1〕ポリカチオン性化合物に対して櫛型に結合している親水性基を側鎖として有する担体と、RNAとの複合体を含む、RNAを血液中に投与するための組成物。
〔2〕ポリカチオン性化合物がポリ(カチオン性アミノ酸)である、〔1〕に記載の組成物。
〔3〕ポリ(カチオン性アミノ酸)が、ポリ(リジン)である〔2〕に記載の組成物。
〔4〕親水性基が、グリコサミノグリカン、デキストラン、ポリエチレングリコール、ポリエチレングリコール誘導体、及び糖類からなる群から選択される少なくとも1つである〔1〕に記載の組成物。
〔5〕ポリカチオンと親水性基とが、グラフト重合している〔1〕に記載の組成物。
〔6〕担体の10重量%〜99重量%が親水性基である〔1〕に記載の組成物。
〔7〕ポリ(カチオン性アミノ酸)を構成するカチオン性アミノ酸基の数(N)と、担体と複合体を形成するRNAに含まれるリン酸基の数(P)との比(N/P比)が、0.5〜40の範囲である、〔2〕に記載の組成物。
〔8〕前記ポリ(カチオン性アミノ酸)を構成するカチオン性アミノ酸基の数(N)と、担体と複合体を形成するRNAに含まれるリン酸基の数(P)との比(N/P比)が、2〜20である〔7〕に記載の組成物。
〔9〕RNAが機能性RNAである〔1〕に記載の組成物。
〔10〕機能性RNAがRNAi効果を有するRNAである〔9〕に記載の組成物。
〔11〕ポリカチオン性化合物に対して櫛型に結合している親水性基を側鎖として有する担体とRNAとの複合体を形成させる工程を含む、RNAを血液中で安定化する方法。
〔12〕ポリカチオン性化合物が、ポリ(カチオン性アミノ酸)である、〔11〕に記載の方法。
〔13〕前記ポリ(カチオン性アミノ酸)を構成するカチオン性アミノ酸基の数(N)と、前記担体と複合体を形成するべき核酸に含まれるリン酸基の数(P)との比(N/P比)が、0.5〜40の範囲であることを特徴とする、〔12〕に記載の方法。
〔14〕前記ポリ(カチオン性アミノ酸)を構成するカチオン性アミノ酸基の数(N)と、担体と複合体を形成するRNAに含まれるリン酸基の数(P)との比(N/P比)が、2〜20である〔13〕に記載の方法。
〔15〕ポリカチオン性化合物に対して櫛型に結合している親水性基を側鎖として有する担体をRNAと混合する工程を含む、RNAを血液中に投与するための組成物の製造方法。
〔16〕ポリカチオン性化合物が、ポリ(カチオン性アミノ酸)である〔15〕に記載の製造方法。
〔17〕ポリカチオン性化合物に対して櫛型に結合している親水性基を側鎖として有する担体と、RNAとの複合体を含む、RNAの腎臓からの排泄が抑制された組成物。
〔18〕ポリカチオン性化合物が、ポリ(カチオン性アミノ酸)である〔17〕に記載の組成物。
〔19〕ポリカチオン性化合物に対して櫛型に結合している親水性基を側鎖として有する担体とRNAとの複合体を形成させる工程と、得られた複合体を血中に投与する工程を含む、血中に投与されたRNAの腎臓からの排泄を抑制する方法。
〔20〕ポリカチオン性化合物が、ポリ(カチオン性アミノ酸)である〔19〕に記載の方法。
〔21〕ポリカチオン性化合物に対して櫛型に結合している親水性基を側鎖として有する担体と、RNAとの複合体を含む、RNAのヌクレアーゼによる分解が抑制された組成物。
〔22〕ポリカチオン性化合物が、ポリ(カチオン性アミノ酸)である〔21〕に記載の組成物。
〔23〕ポリカチオン性化合物に対して櫛型に結合している親水性基を側鎖として有する担体とRNAとの複合体を形成させる工程と、得られた複合体を血中に投与する工程を含む、血中に投与されたRNAのヌクレアーゼによる分解を抑制する方法。
〔24〕ポリカチオン性化合物が、ポリ(カチオン性アミノ酸)である〔23〕に記載の方法。
〔25〕次の工程を含む、遺伝子の機能解析方法;
(1)ポリカチオン性化合物に対して櫛型に結合している親水性基を側鎖として有する担体と、機能解析の対象遺伝子に相補的な塩基配列を含む2本鎖RNAとの複合体を形成させる工程;
(2)(1)のRNA−担体複合体を非ヒト動物の血中に投与する工程;
(3)(1)のRNA−担体複合体を投与された非ヒト動物の表現型を観察し対照と比較する工程;および
(4)対照と比較して表現型の相違が検出されたときに、前記遺伝子の機能抑制に起因する表現型が同定される工程。
〔26〕ポリカチオン性化合物が、ポリ(カチオン性アミノ酸)である〔25〕に記載の方法。
〔27〕ポリ(カチオン性アミノ酸)を主鎖とし、かつ前記ポリ(カチオン性アミノ酸)に対して櫛型に結合している親水性基を側鎖として有する担体と、RNAとの複合体からなり、前記ポリ(カチオン性アミノ酸)を構成するカチオン性アミノ酸基の数(N)と、担体と複合体を形成するRNAに含まれるリン酸基の数(P)との比(N/P比)が2〜20である複合体。
【発明の効果】
【0018】
本発明によってRNAの血中における安定性が改善された。すなわち本発明は、siRNAのような安定性ならびに血中における滞留性の向上が重要な課題となる機能性RNAを、血中に直接投与することを可能とした。RNAi効果による遺伝子の発現抑制作用は強力である。したがってRNAi効果を利用して特定の遺伝子の発現を抑制することは、疾患の治療戦略として重要である。RNAi効果を治療戦略として利用するときに、RNAの血中における安定化は重要な課題である。本発明は、RNAの血中における安定性、ならびに滞留性を飛躍的に向上させるための組成物、そして方法を実現した。本発明によって、RNAi効果をもたらすRNAの臨床応用が、大きく前進したということができる。
【0019】
本発明の具体的な用途として、RNAi効果の治療薬としての応用が挙げられる。たとえば多くの抗がん剤は、細胞に障害を与えることによって、細胞増殖の抑制、あるいは細胞死を誘導する。薬剤が作用する分子が、がん細胞に特異的に発現していれば、がん細胞特異的な治療を実現できる可能性が高まる。各種のヘリカーゼは、一般に、がん細胞において特に発現レベルが高く、正常細胞における発現レベルが低い遺伝子とされている。したがってヘリカーゼ遺伝子の発現抑制における影響は、もともと正常細胞には現れにくいと考えられる。したがって、本発明を利用してヘリカーゼの発現をRNAi効果によって抑制しうるRNAを血中に投与すれば、効果的ながん治療を実現できる可能性がある。本発明に基づく組成物、あるいはRNAの投与方法によれば、RNAの血中における安定性と滞留性を向上させることができる。したがって、ヘリカーゼを標的分子とするRNAi効果によるがんの治療を、本発明によって実現することができる。
【0020】
あるいは、RNAi効果の強力な遺伝子発現抑制効果は、遺伝子の機能解析においても有用なツールである。RNAi効果によって解析すべき遺伝子発現を抑制すれば、当該遺伝子の機能を推定することができる。本発明を利用すれば、siRNAのようなRNA分子を血中に投与し、血中で安定に維持することができる。そのため、生体を使って遺伝子機能解析を容易に実施することができる。RNAを細胞に直接導入するだけでなく、生体を利用することによって、生体における表現型の変化を通じて、遺伝子の機能を同定することができる。たとえば、次のような表現型の変化は、生体反応であるため、細胞レベルではその変化を直接的に捉えることが困難である。一方、生体を利用すれば、このような表現型の変化を、容易に、かつ明瞭に検出することができる。
組織の機能(呼吸、消化、循環、内分泌、生殖などの機能)
生理反応(血圧、心拍、発汗、排泄等の生理反応)
神経系(記憶、行動、運動などの神経系の働き)
疾患(疾患モデル動物における症状の変化)
薬剤応答(薬剤の投与に対する生体の応答の変化)
【0021】
あるいはがん細胞の増殖抑制効果のような、細胞を使った実験が可能な場合であっても、生体中で、RNAi効果による遺伝子抑制の影響を確認できる意義は大きい。生体を利用することによって、より、実際の治療に近い環境で、遺伝子抑制の影響を確認することができる。たとえば、がんを移植した動物における抗がん作用の確認は、がんとして細胞株のみならず患者から採取されたがん組織を使った実験を可能とする。あるいは、生体を利用することによって、血中からがん細胞へのRNAの移行に関する知見を得ることもできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明は、ポリカチオン性化合物に対して櫛型に結合している親水性基を側鎖として有する担体と、RNAとの複合体を含む、RNAを血液中に投与するための組成物に関する。
【0023】
また本発明は、ポリカチオン性化合物に対して櫛型に結合している親水性基を側鎖として有する担体とRNAとの複合体を形成させる工程を含む、RNAを血液中で安定化する方法に関する。あるいは本発明は、ポリカチオン性化合物に対して櫛型に結合している親水性基を側鎖として有する担体をRNAと混合する工程を含む、RNAを血液中に投与するための組成物の製造方法に関する。
【0024】
更に本発明は、ポリカチオン性化合物に対して櫛型に結合している親水性基を側鎖として有する担体と、RNAとの複合体を含む、RNAの腎臓からの排泄が抑制された組成物を提供する。また本発明は、ポリカチオン性化合物に対して櫛型に結合している親水性基を側鎖として有する担体とRNAとの複合体を形成させる工程と、得られた複合体を血中に投与する工程を含む、血中に投与されたRNAの腎臓からの排泄を抑制する方法に関する。
【0025】
本発明においては、カチオン性化合物に対して櫛型に結合している親水性基を側鎖として有する担体が用いられる。本発明におけるカチオン性化合物は、たとえばカチオン性の官能基を含む構成単位の繰り返し構造を含むポリマーを含む。このようなポリマーはカチオン性ポリマーと呼ばれる。すなわち本発明における担体は、カチオン性ポリマーの主鎖に対して、該主鎖に櫛型に結合した親水性側鎖を有する化合物であることができる。
カチオン性ポリマーを構成するカチオン性の官能基には、アミノ基、イミノ基、グアニジノ基、およびビグアニド基等が含まれる。具体的には、たとえば、次のようなポリマーを本発明の担体を構成するカチオン性ポリマーとして示すことができる。これらのポリマーの製造方法は公知である。
ポリエチレンイミン
ポリビニルアミン
ポリアリルアミン
ポリオルニチン
ポリリジン
ポリ(アリルビグアニド-co-アリルアミン)
ポリ(アリル-N-カルバモイルグアニジノ-co-アリルアミン)
カチオン性アミノ酸を含むポリペブチド
ポリアルギニン
RGDペプタイド等
【0026】
中でも、ポリ(カチオン性アミノ酸)の構造を主鎖として有し、かつそのアミノ基に側鎖を導入された化合物は、本発明における好ましい担体である。本発明において、担体の主鎖とすることができるポリ(カチオン性アミノ酸)としては、例えば、ポリ(リジン)、ポリ(オルニチン)、およびポリ(オルニチン−セリン)等を示すことができる。
【0027】
これらのポリ(カチオン性アミノ酸)は、通常公知の重合方法により合成することができる。例えば、ε−カルボベンゾキシ−リジン−N−カルボン酸無水物、第1級アミンを開始剤として重合させて、ポリ(リジン)を得ることができる。重合開始剤である第1級アミンには、片末端アミノ基のポリエチレンオキシド(分子量200−250,000)等を用いることができる。あるいはベンジル−セリン−N−カルボン酸無水物を利用すれば、セリンを含むアミノ酸ポリマーを合成することもできる。ポリエチレンオキシド−ポリアミノ酸ブロックコポリマーにおけるポリアミノ酸部分の分子量は、限定されない。好ましい分子量は、200〜500,000である。
【0028】
本発明における担体は、上記ポリカチオン性化合物からなる主鎖に、側鎖として、親水性基が櫛型状に導入(結合)された化合物である。側鎖は、化学修飾、あるいは化学結合によって導入される。より具体的には、たとえばグラフト重合によって側鎖が導入される。本発明において、グラフト重合によって櫛型に導入される親水性基の例を以下に示す。
ポリエチレングリコール(PEG)
PEG誘導体
グリコサミノグリカン
単糖
オリゴ糖
多糖類等の糖類
合成水溶性高分子など
【0029】
本発明において、親水性基の櫛型の結合とは、主鎖を構成するカチオン官能基を含む繰り返し単位の側鎖として親水性基が結合されていることを言う。たとえばポリ(カチオン性アミノ酸)を主鎖とするときには、繰り返し単位を構成するカチオン性アミノ酸に親水性基が結合される。このとき、親水性基からなる側鎖は、主鎖を構成するカチオン性アミノ酸の、すべてに結合される場合と、その一部に結合される場合がある。本発明における担体は、主鎖を構成するカチオン性アミノ酸の一部に親水性基が結合された構造を含む。主鎖を構成するカチオン性アミノ酸に対する親水性基の割合は、得られた担体の構造を解析することによって、平均値として測定することができる。たとえば、実施例に示すように、NMR、GPC、あるいは静的光散乱法などの解析を通じて、側鎖の導入率と構造を明らかにすることができる。
【0030】
より具体的には、たとえばポリエチレングリコール誘導体として、メトキシポリエチレングリコールのアルデヒド誘導体、アミノ酸誘導体、カルボキシメチル誘導体等を示すことができる。またグリコサミノグリカンとしては、例えばヒアルロン酸、ヘパリン、コンドロイチン硫酸等を示すことができる。更に糖類には、例えばデキストランやアミロース等を示すことができる。あるいは合成水溶性高分子としては、ポリアクリルアミド、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)などを示すことができる。
【0031】
特に、本発明において好ましい側鎖となる親水性基としては、デキストラン(Dex)、ポリエチレングリコール(PEG)またはその誘導体、またはヒアルロン酸(HA)、ヒアルロン酸塩(例えば、ヒアルロン酸ナトリウム塩、ヒアルロン酸カリウム塩)である。本発明における担体として利用することができる化合物としては、以下のようなグラフト共重合体を示すことができる。
ポリ(リジン)とポリエチレングリコール(PEG)とのグラフト共重合体
ポリ(オルニチン)とPEGとのグラフト共重合体
ポリ(オルニチン−セリン)とPEGとのグラフト共重合体
【0032】
たとえば下記式(1)の構造を有するポリ-L-リジンとデキストランのグラフト共重合体、および式(2)の構造を有するポリ-L-リジンとポリエチレングリコールのグラフト共重合体は、RNAとの複合体として血中に投与したときに、RNAの血中滞留性が著しく向上することが確認された。
【0033】
【化1】

(式1)
前記式(1)で示される化合物において、X=1-1,000、Y=1-1,000、Z=1-1,000、たとえばX=1-300、Y=1-300、Z=1-300、更に具体的にはX=1-50、Y=1-100、Z=10-100である化合物を、本発明における好ましい化合物として示すことができる。
【0034】
【化2】

(式2)
前記式(2)で示される化合物において、X=1-1,000、Y=1-1,000、Z=1-5,000、たとえばX=1-300、Y=1-300、Z=10-1,000、更に具体的にはX=1-50、Y=1-200、Z=20-300である化合物を、本発明における好ましい化合物として示すことができる。
【0035】
上記、ポリ(カチオン性アミノ酸)を主鎖とし、親水性基を側鎖にもつグラフト共重合体の合成方法は限定されない。これらのポリマーを構成単位とするグラフト共重合体は、公知の有機合成法により合成することができる。すなわち、主鎖重合体の官能基へ適当な結合生成反応により側鎖を導入すればよい。たとえば、多糖鎖を側鎖とする場合、糖鎖還元末端とポリアミノ酸のアミノ基との反応に基づくアミノ結合を生成することができる。糖鎖還元末端とポリアミノ酸のアミノ基とは、シッフ塩基形成を経由して結合させることができる。
【0036】
また、デキストランまたはヒアルロン酸等の多糖類を親水性の側鎖とする場合は、多糖の還元末端をポリ(リジン)等のアミノ基とカップリングさせることができる。具体的には、多糖の還元末端をヨウ素等で酸化しカルボン酸化した後にラクトン化し、アミノ基とカップリングさせる方法を利用することができる。あるいは、多糖の末端ではなく不特定の部分をポリ(リジン)等と結合させることもできる。そのための合成方法としては、多糖を過ヨウ素酸で酸化しアルデヒド基を生成させた後に、ポリ(リジン)等のアミノ基と還元アミノ化させる方法を示すことができる。
【0037】
さらに、ポリエチレングリコールを親水性の側鎖とするグラフト重合体についても、例えばメトキシポリエチレングリコールのアルデヒド誘導体を用いて同じくシッフ塩基を形成することで合成することができる。この場合、ポリエチレングリコールをそのまま側鎖として用いることができる。あるいは、ポリエチレングリコールの一方の水酸基を保護し、他方の水酸基を適当な官能基に置換した誘導体を用いることもできる。
水酸基の保護には任意の保護基を利用することができる。保護基としては、たとえばメトキシ基等のアルコキシ基、アルキルチオエチレンスルホニル基等を示すことができる。他方の水酸基に導入するための官能基としては、アルデヒド基、アミノ基、サクシニル基、カルボキシル基、カルボキシメチル基、チオール基、ジメトキシトリチル基等を示すことができる。側鎖として導入することができるポリエチレングリコールまたはその誘導体の分子量は特に限定されない。好ましいポリエチレングリコールまたはその誘導体の平均分子量は300〜100、000、より好ましくは1、000〜20、000である。
【0038】
本発明において、担体に対して導入される親水性基の割合は、限定されない。担体を構成する主鎖と、導入される親水性基の種類に応じて、適宜選択することができる。通常は担体に対する親水性基の割合は、担体の10重量%〜99重量%であり、好ましくは20重量%〜99重量%、さらに好ましくは50重量%〜99重量%である。かかる範囲より少ない場合には、主に親水性基に基づく、可溶化の効果が小さくなる。またかかる範囲より大きい場合には、カチオン性の低下にともなって、RNAとの静電気相互作用も低下する。
【0039】
本発明の組成物は、上記担体をRNAと混合することによって得ることができる。本発明においてRNAに対する担体の使用量は限定されない。例えば、核酸1μmolに対して約0.01〜1000μmolの担体を配合することができる。また担体とRNAの配合比は、RNAの血中における安定性と滞留性の改善が期待できる範囲で、適切な範囲に調節することができる。
担体とRNAの配合比は、担体のカチオン性の官能基の数と核酸のリン酸基の数との比、([担体のカチオン性の官能基](N)/[核酸のリン酸基](P))によって表すことができる。Nは担体の合成に使ったポリカチオンの分子量、および重量から算出することができ、またPは配合する核酸の長さに依存する。したがって、[担体のカチオン性の官能基](N)/[核酸のリン酸基](P)はそれぞれ担体の合成に使ったポリカチオンの構造とその分子量および重量、そして配合するRNA核酸の長さから求めることができる。
【0040】
例えば担体のポリカチオンとしてポリ-L-リジン(分子量25、856)を、核酸として21塩基のsiRNAを使用したとき、N/P比は以下のように計算される。ポリ-L-リジンはリジン(分子量128)が重合したものであり、構成しているリジン残基の数は分子量から求められる。25856/128=202、つまりこのポリ-L-リジン1分子あたり202個のリジン残基を有する。一方、21塩基のsiRNAは、1本鎖当たり21個のヌクレオチド残基より構成される。ヌクレオチド1分子につきリン酸基1個が含まれることから、1本鎖当たり21個のリン酸基を有する。21塩基のsiRNAは2本鎖なので、1分子につき42個のリン酸基を有する。上記ポリ-L-リジン1分子と21塩基のsiRNA1分子を混合したときのN/P比を求めると、N=202、P=42なので、202/42=4.8となる。
【0041】
例えば、担体とRNAは、カチオン性ポリアミノ酸への親水性基の導入率が低い(20mol%以下)場合、上記チャージ比が1付近であれば凝縮するが、ポリリジン等のカチオン性ホモポリマーとDNAでは、チャージ比1付近では凝縮するのみならず、沈殿を形成する。すなわち、本発明における担体とRNAの複合体においては、凝縮を生じるが、該担体分子の親水性基の存在により沈殿が起こらず、例えばコロイド状粒子として溶液中に安定に存在するという機能を示す。本発明に係る担体においては、上記チャージ比は、通常0.5〜40の範囲であり、より好ましくは2〜20である。このような範囲において、RNAの血中における十分な安定化効果を得ることができる。すなわち本発明における担体は、RNAの安定化用キャリアーとして機能する。
N/P比が2以上では、RNAに対して十分量の該担体分子が静電的相互作用により結合することになり、ヌクレアーゼなどの酵素による分解が阻害される。また、血中へ投与した場合、十分量の該担体分子が存在することで、血中での希釈が起きても複合体は安定化した状態にある。
【0042】
一方、本発明における担体−RNA複合体を構成するRNAとしては、任意のRNAを用いることができる。たとえば複合体を形成するRNAの長さは、生体への投与が必要な任意の長さのRNAとすることができる。好ましいRNAの長さとしては、たとえば500塩基以下、あるいは300塩基以下、通常5〜200塩基、より具体的には10〜100塩基程度のRNAを用いることができる。RNAは、1本鎖であっても2本鎖であっても良い。1本鎖RNAは、同じ分子内に相補的な塩基配列を含むことができる。相補的な塩基配列を含む1本鎖RNAは、相補的な塩基配列が互いにハイブリダイズすることによって部分的な2本鎖を形成する。その結果、ステムループやステムバルジなどの構造が形成される。これらの構造を複数含むことによって、更に高度な高次構造が形成される場合もある。これらの構造を有するRNAを、本発明における複合体形成に用いることもできる。RNAが相補配列を含み、2本鎖構造を有する場合、いずれかの末端がオーバーハングした構造とすることもできる。
【0043】
また複合体を形成するRNAは、天然のRNAを構成するリボヌクレオチド核酸に加え、人工的な塩基に置換したものや、その誘導体を含む。したがって、天然の塩基であるa、u、c、およびgに代えて、イノシン(i)を有するRNAを複合体形成に用いることができる。あるいはリン酸結合をチオエート結合やボラノフォスフェート結合に置換した核酸誘導体を人工的に合成する方法も公知である。リボヌクレオチド核酸の糖構造を修飾することもできる。糖構造の修飾方法として、2’-O-メチル修飾、2’-フルオロ修飾、あるいはlocked nucleic acid (LNA)修飾等を用いることもできる。また、部分的にDNAを導入したDNA-RNAキメラ分子も公知である。
更に、RNAに他の物質を結合させた誘導体を、本発明におけるRNAとして利用することもできる。たとえば、PEG、コレステロール、糖、膜透過性ペプチド、抗体などの化合物をRNAに結合させることができる。これらの物質の結合によって、RNAの血中滞留性の向上、もしくは疾患部位への効率的送達を可能とすることができる。
【0044】
RNAは、さまざまな機能を有することが明らかにされている。たとえば、RNAi効果やアンチセンス効果は、遺伝子に相補的な塩基配列を含むRNAが有する、遺伝子発現の抑制効果である。同様に、さまざまな構造を有するリボザイムが細胞内において、遺伝子発現を抑制することも明らかにされている。これらの遺伝子発現抑制作用を有するRNAは、いずれも本発明に基づいて担体−RNA複合体として血中に投与することができる。あるいは、特定の塩基配列を有するRNAが、蛋白質などの高分子化合物に特異的に結合する現象も明らかにされている。核酸以外の物質に対する結合活性を有するRNAは、アプタマーと呼ばれる。アプタマーは、蛋白質への結合によって、その活性を調節する作用を有する場合がある。アプタマーとして機能するRNAを、本発明のRNA−担体複合体とすることもできる。
【0045】
これらの、遺伝暗号の伝達以外の機能を有するRNAを、本発明においては特に機能性RNA(functional RNA)と呼ぶ場合がある。本発明において、機能性RNAとは、遺伝暗号をアミノ酸配列に翻訳する機能以外の、機能を有するRNAを言う。遺伝暗号の翻訳機能には、DNAの塩基配列の転写とアミノ酸の移送が含まれる。したがって、たとえば以下のような機能を有するRNAは、機能性RNAに含まれる。
核酸の切断
蛋白質の合成阻害
核酸以外の物質に対する結合
なお遺伝暗号の翻訳機能は、細胞内においては、通常、mRNAとtRNAによって支えられている。本発明においては、mRNAやtRNAと同じ塩基配列を含むRNAであっても、そのRNAが翻訳以外の機能を有する場合には、機能性RNAに含まれる。これらの機能性RNAは、目的とするRNAの塩基配列をコードするDNAを適当なプロモーターの下流に連結し、RNAポリメラーゼによって転写することによって合成することができる。RNAへの転写は、細胞内で行っても良いし、適当な環境を与えれば、in vitroにおける転写反応によって合成することもできる。鋳型となるDNAのコード配列の3'側には、好ましくは転写終結シグナルを配置することができる。以下に各種の機能性RNAについて更に具体的に説明する。
【0046】
RNAi効果を有するRNA:
本発明における機能性RNAとして、遺伝子に対してRNAi(RNA interferance;RNA干渉)効果を有する二本鎖RNAを示すことができる。一般的にRNAiとは、標的遺伝子のmRNA配列と相同な配列からなるセンスRNAおよびこれと相補的な配列からなるアンチセンスRNAとからなる二本鎖RNAを細胞内に導入することにより、標的遺伝子mRNAの破壊を誘導し、標的遺伝子の発現が阻害される現象を言う。
【0047】
RNAi効果は、現在のところ、次のようなメカニズムを含むと考えられている。
−DICERといわれる酵素(RNase III核酸分解酵素ファミリーの一種)と2本鎖RNAとの接触;および
−2本鎖RNAのDICERによるsmall interfering RNAまたはsiRNAと呼ばれる小さな断片への分解.
本発明におけるRNAi効果を有する2本鎖RNAには、このsiRNAも含まれる。
RNAiのために使用されるRNAは、発現抑制すべき遺伝子の部分領域と完全に同一(相同)である必要はないが、完全な同一(相同)性を有することが好ましい。以下、発現抑制の対象とする遺伝子を標的遺伝子と言う。
【0048】
本発明において、RNAi効果を有する2本鎖RNAは、通常、標的遺伝子のmRNAにおける任意の連続する塩基配列と相同な配列からなるセンスRNA、および該センスRNAに相補的な配列からなるアンチセンスRNAからなる2本鎖RNAである。上記「任意の連続する塩基配列」の長さは、通常20〜30塩基であり、好ましくは21〜23塩基である。しかしながら、そのままの長さではRNAi効果を有さないような長鎖のRNAであっても、細胞においてRNAi効果を有するsiRNAへ分解されるため、本発明における2本鎖RNAの長さは、特に制限されない。
【0049】
また、標的遺伝子のmRNAの全長もしくはほぼ全長の領域に対応する長鎖二本鎖RNAを、例えば、予めDICERで分解させ、その分解産物をRNAi効果を有するRNAとして利用することもできる。このような分解産物には、RNAi効果を有する二本鎖RNA分子(siRNA)が含まれることが期待される。この方法によれば、RNAi効果を有することが期待されるmRNA上の領域を、特に選択しなくともよい。
【0050】
また、末端に数塩基のオーバーハングを有する二本鎖RNAは、RNAi効果が高いことが知られている。したがってRNAi効果を有する二本鎖RNAは、末端に数塩基のオーバーハングを有することが望ましい。このオーバーハングを形成する塩基の長さは特に制限されない。オーバーハングの塩基の数は、好ましくは、2塩基である。本発明においては例えば、TT(チミンが2個)、UU(ウラシルが2個)、その他の塩基のオーバーハングを有する二本鎖RNAが好ましい。たとえばヒトにおいては、19塩基の二本鎖RNAと2塩基(TT)のオーバーハングを有する分子は、RNAi効果が高いといわれている。RNAi効果を有する二本鎖RNAには、オーバーハングを形成する塩基がDNAであるようなキメラ分子も含まれる。
【0051】
ここでいう2本鎖RNAは、相補配列が互いにハイブリダイズした構造を含むRNAを言う。したがって、先に述べたように1本鎖RNA中に相補的な塩基配列を含み、それが互いにハイブリダイズすることによって2本鎖構造を取った場合には、2本鎖RNAに含まれる。すなわちステムループ構造を取る1本鎖RNAは、2本鎖構造(ステム部分)を含むため、2本鎖RNAに含まれる。
【0052】
当業者は、標的遺伝子に対してRNAi効果を有する二本鎖RNAを、その塩基配列をもとに、適宜デザインすることができる。すなわち、標的遺伝子の塩基配列をもとに、該配列の転写産物であるmRNAの任意の連続するRNA領域を選択し、この領域に対応する二本鎖RNAを作製することができる。また、該配列の転写産物であるmRNA配列から、より強いRNAi効果を有するsiRNA配列を選択する方法も公知である。例えば、Reynoldsらが発表した論文(Reynold et al. Nature biotechnology 22. 326-330 (2004))や、Ui-Teiらが発表した論文(Ui-Tei et al. Nucleic Acids Res. 32. 936-948 (2004))等に基づいて、siRNAに必要な塩基配列を予測することができる。
【0053】
siRNAは、遺伝子の部分的な塩基配列に基づいてデザインすることもできる。siRNAの塩基配列を特定するためには、選択すべき任意の連続する塩基配列が判明していればよい。必要な塩基配列の長さは、たとえば、少なくとも20〜30塩基である。つまり、全長配列が明らかでない標的遺伝子に対して、siRNAをデザインすることもできる。従って、EST(Expressed Sequence Tag)等のようにmRNAの一部は判明しているが、全長が判明していない遺伝子断片からも、該断片の塩基配列を基に当該遺伝子の発現を抑制する二本鎖RNAを作製することができる。
【0054】
アンチセンス効果を有するRNA:
本発明における機能性RNAとして、遺伝子に対してアンチセンス効果を有するRNAを用いることもできる。特定の遺伝子の発現を阻害(抑制)する方法として、アンチセンス技術を利用する方法が公知である。アンチセンス核酸による標的遺伝子の発現阻害には、以下のような複数のメカニズムが関与している。
−三重鎖形成による転写開始阻害、
−RNAポリメラーゼによって局部的に開状ループ構造が作られた部位とのハイブリッド形成による転写阻害、
−合成の進みつつあるRNAとのハイブリッド形成による転写阻害;、
−イントロンとエキソンとの接合点におけるハイブリッド形成によるスプライシング阻害;
−スプライソソーム形成部位とのハイブリッド形成によるスプライシング阻害;
−mRNAとのハイブリッド形成による核から細胞質への移行阻害;
−キャッピング部位やポリ(A)付加部位とのハイブリッド形成によるスプライシング阻害、
−翻訳開始因子結合部位とのハイブリッド形成による翻訳開始阻害;
−開始コドン近傍のリボソーム結合部位とのハイブリッド形成による翻訳阻害;
−mRNAの翻訳領域やポリソーム結合部位とのハイブリッド形成によるペプチド鎖の伸長阻害;および
−発現制御領域と転写調節因子との相互作用部位とのハイブリッド形成による遺伝子発現阻害など
【0055】
このようにアンチセンス核酸は、転写、スプライシングまたは翻訳など様々な過程を阻害することで、標的遺伝子の発現を阻害する(平島および井上著、新生化学実験講座2 核酸IV遺伝子の複製と発現、日本生化学会編、東京化学同人、1993年、p.319-347)。
【0056】
本発明で用いられるアンチセンス効果を有するRNAには、これらのいずれかの作用によって標的遺伝子の発現を阻害しうるRNAが含まれる。一つの態様としては、標的遺伝子のmRNAの5'端近傍の非翻訳領域に相補的なアンチセンス配列を設計すれば、遺伝子の翻訳阻害に効果的と考えられる。また、コード領域もしくは3'側の非翻訳領域に相補的な配列も使用することができる。このように、標的遺伝子の翻訳領域だけでなく、非翻訳領域の配列のアンチセンス配列を含むRNAも、本発明におけるアンチセンス効果を有するRNAに含まれる。
【0057】
本発明におけるアンチセンスRNAは、任意の方法によって合成することができる。具体的には、RNAポリメラーゼによる転写反応、あるいは化学合成によって、必要な塩基配列からなるRNAを得ることができる。合成RNAオリゴマーとしてアンチセンスRNAを合成する場合には、リン酸エステル結合部のO(酸素)をS(硫黄)に置換したSオリゴ(ホスホロチオエート型オリゴヌクレオチド)とすることができる。Sオリゴとすることによって、ヌクレアーゼ分解に対する耐性を付与することができる。したがって本発明において、Sオリゴは、機能性RNAとして好ましい。
【0058】
アンチセンスRNAの配列は、標的遺伝子またはその一部と相補的な配列であることが好ましい。ただし、遺伝子の発現を有効に抑制できる限り、アンチセンスRNAを構成する塩基配列は、標的遺伝子の塩基配列に対して完全に相補的でなくてもよい。転写されたRNAは、標的遺伝子の転写産物に対して好ましくは90%以上、最も好ましくは95%以上の相補性を有する。アンチセンスRNAを用いて標的遺伝子の発現を効果的に抑制するには、アンチセンスRNAの長さは少なくとも15塩基以上であり、好ましくは100塩基以上であり、さらに好ましくは500塩基以上である。
【0059】
リボザイム活性を有するRNA:
本発明における機能性RNAとして、リボザイム活性を有するRNAを利用することもできる。リボザイムとは触媒活性を有するRNA分子を指す。リボザイムには種々の活性を有するものが存在する。たとえば、RNAを部位特異的に切断するリボザイムを設計することもできる。リボザイムには、グループIイントロン型やRNase Pに含まれるM1 RNAのように400ヌクレオチド以上の大きさのものもあるが、ハンマーヘッド型やヘアピン型と呼ばれる40ヌクレオチド程度の活性ドメインを有するものもある(小泉誠および大塚栄子、蛋白質核酸酵素、1990年、35、2191)。
【0060】
例えば、ハンマーヘッド型リボザイムの自己切断ドメインは、G13U14C15という配列のC15の3'側を切断する。その切断活性にはU14とA9との塩基対形成が重要とされている。また、C15の代わりにA15またはU15でも切断されることも示されている(Koizumi, M.ら著、FEBS Lett、 1988年、228、228.)。基質結合部位が標的部位近傍のRNA配列と相補的なリボザイムを設計すれば、標的RNA中のUC、UUまたはUAという配列を認識する制限酵素的なRNA切断リボザイムを人工的に作り出すことができる(Koizumi, M.ら著、FEBS Lett, 1988年、239, 285.、小泉誠および大塚栄子、蛋白質核酸酵素、1990年、35, 2191.、Koizumi, M.ら著、Nucl Acids Res、 1989年、17, 7059.)。
【0061】
また、ヘアピン型リボザイムもRNAの切断に有用である。ヘアピン型リボザイムは、例えばタバコリングスポットウイルスのサテライトRNAのマイナス鎖に見出される(Buzayan, JM., Nature, 1986年、323, 349.)。ヘアピン型リボザイムに基づいて、標的配列特異的なRNA切断リボザイムを作り出すことができる(Kikuchi, Y. & Sasaki, N., Nucl Acids Res, 1991, 19, 6751.、菊池洋, 化学と生物, 1992, 30, 112.)。このように、標的遺伝子の転写産物を特異的に切断することができるリボザイム活性を有するRNAをデザインし、本発明に利用することもできる。
【0062】
本発明における担体−RNA複合体は、血中に投与される。血中への投与とは、血管内への投与に加え、採血された血液中へ予め担体−RNA複合体を混合した後に、当該血液を生体に投与すること(ex vivo)も含まれる。また、輸血のために採取された血液に、特定の遺伝子の発現を抑制するsiRNAを含む本発明の組成物を加え、生体外で標的遺伝子の発現を抑制することもできる。担体−RNA複合体を混合する血液は、全血のみならず、全血を分画したものであってもよい。たとえば、血清、血漿、血小板、リンパ球などの血液成分に、予め担体−RNA複合体を混合することができる。特に、リンパ球などの遺伝子発現を伴っている細胞を含む血液あるいはその分画は、担体−RNA複合体を混合する血液成分として好ましい。
【0063】
本発明における担体−RNA複合体は、目的に応じて、担体−RNA複合体のみを投与してもよいし、あるいは他の化合物とともに投与してもよい。たとえば、本出願人は、ある種の薬剤の作用が、特定の酵素の遺伝子発現の抑制によって増強される場合があることを明らかにしている。本発明においては、特定の酵素の遺伝子発現を抑制することができるsiRNAを含む担体−RNA複合体を、薬剤とともに投与することもできる。この場合、担体−RNA複合体の投与によって、siRNAが酵素遺伝子の発現を抑制すれば、ともに投与された薬剤の作用を増強することができる。
【0064】
あるいは、ある薬剤を投与した場合の生体のレスポンスが、特定の遺伝子の発現抑制によってどのように変化するのかを観察することもできる。たとえば、薬剤代謝に関連する各種の遺伝子の発現抑制によって、生体におけるある薬剤の代謝に関与する遺伝子群を同定することもできる。その他、発現抑制によって、薬剤の効果の増強、あるいは副作用の軽減につながる遺伝子を見出すこともできる。
【0065】
本発明によって、血中におけるRNAの安定性が増強された担体−RNA複合体が提供された。本発明において、血中におけるRNAの安定性とは、血中におけるRNAの滞留時間の延長を意味する。より具体的には、血液中でのRNAの分解が抑制された状態は、RNAの安定化に含まれる。RNAは、血液中においては、主にヌクレアーゼの作用によって分解される。つまり、ヌクレーゼに対する耐性をRNAに与えることは、RNAの安定化に含まれる。また、水溶性の低分子化合物であるRNAは、生体においては、速やかに尿中に排泄される。血中RNAの安定化には、腎臓による尿へのRNAの排泄が抑制された状態も含まれる。
【0066】
すなわち本発明は、ポリカチオン性化合物に対して櫛型に結合している親水性基を側鎖として有する担体と、RNAとの複合体を含む、RNAの腎臓からの排泄が抑制された組成物に関する。また本発明は、ポリカチオン性化合物に対して櫛型に結合している親水性基を側鎖として有する担体とRNAとの複合体を形成させる工程と、得られた複合体を血中に投与する工程を含む、血中に投与されたRNAの腎臓からの排泄を抑制する方法を提供する。本発明における好ましい担体は、ポリ(カチオン性アミノ酸)を主鎖とし、かつ前記ポリ(カチオン性アミノ酸)に対して櫛型に結合している親水性基を側鎖として有する化合物である。
【0067】
加えて本発明は、ポリカチオン性化合物に対して櫛型に結合している親水性基を側鎖として有する担体と、RNAとの複合体を含む、RNAのヌクレアーゼによる分解が抑制された組成物に関する。あるいは本発明は、ポリカチオン性化合物に対して櫛型に結合している親水性基を側鎖として有する担体とRNAとの複合体を形成させる工程と、得られた複合体を血中に投与する工程を含む、血中に投与されたRNAのヌクレアーゼによる分解を抑制する方法を提供する。本発明における好ましい担体は、ポリ(カチオン性アミノ酸)を主鎖とし、かつ前記ポリ(カチオン性アミノ酸)に対して櫛型に結合している親水性基を側鎖として有する化合物である。
【0068】
本発明の担体−RNA複合体は、RNAの血中の滞留性が向上している。その結果、本発明にしたがって血中に投与されたRNAは、血流の多い臓器、あるいは組織に、効果的に送達される。具体的には、肝臓や腎臓などの臓器は、血流の多い臓器とされている。したがって、本発明によって、これらの臓器にRNAを送達することができる。また、がん組織は血管の新生を伴う血流の多い組織である。したがって、がんへのRNAの送達にも有用である。
【0069】
あるいは、前記担体-RNA複合体を特定の臓器や細胞に対して標的化することもできる。たとえば、肝臓を構成する細胞を対象にした遺伝子の導入は重症肝疾患の治療にとって極めて重要な課題となっている。肝臓の内皮細胞がレセプターを介したエンドサイトーシスにより、ヒアルロン酸を取り込む現象が知られている。ヒアルロン酸は、細胞外マトリックスの成分である。この作用によってヒアルロン酸は、循環系から極めて効率よく除去される。前記担体としてヒアルロン酸を構成成分とする担体を合成すれば、肝臓の内皮細胞のエンドサイトーシスを利用して、RNAを肝臓に対して標的化することができる。このような担体は、たとえばポリ(カチオン性アミノ酸)に、ヒアルロン酸をグラフト重合することによって得ることができる。このような構造を有する担体とRNAとの複合体は、肝類洞内皮細胞に特異的に取り込まれる。
【0070】
本発明において、血中に投与される担体−RNA複合体は、その使用方法、使用目的等により応じて、適宜調節することができる。例えば、注射投与に用いる場合の投与量は、通常、1日量として約0.1μg/kg〜200mg/kg、より具体的には1日量約1μg/kg〜100mg/kgである。
【0071】
本発明により、RNAの血中における滞留性が改善された。その結果、各種の機能性RNAを生体に投与し、その機能を生体中で安定に維持できることが確認された。したがって本発明を利用すれば、機能性RNAが生体にもたらす影響を明らかにすることができる。すなわち本発明は、次の工程(1)〜(4)を含む、遺伝子の機能解析方法を提供する。
(1)ポリカチオン性化合物に対して櫛型に結合している親水性基を側鎖として有する担体と、機能解析の対象遺伝子に相補的な塩基配列を含む2本鎖RNAとの複合体を形成させる工程;
(2)(1)のRNA−担体複合体を非ヒト動物の血中に投与する工程;
(3)(1)のRNA−担体複合体を投与された非ヒト動物の表現型を観察し対照と比較する工程;および
(4)対照と比較して表現型の相違が検出されたときに、前記遺伝子の機能抑制に起因する表現型が同定される工程
本発明における好ましい担体は、ポリ(カチオン性アミノ酸)を主鎖とし、かつ前記ポリ(カチオン性アミノ酸)に対して櫛型に結合している親水性基を側鎖として有する化合物である。
【0072】
本発明において、RNA−担体複合体を投与する非ヒト動物としては、ヒト以外の任意の動物を利用することができる。たとえば、マウス、ラット、サル、イヌ、ネコ、ウシ、ヤギ、ヒツジ、あるいはウサギなどの、一般的な実験動物を利用することができる。あるいは、各種の、疾患モデル動物を利用して、疾患と遺伝子の関係を明らかにすることもできる。疾患モデル動物とは、特殊な飼育環境、薬物の投与、外科的処置、あるいは遺伝学的な改変などによって、人為的に病的な状態に置かれた動物である。
本発明において、動物へのRNA−担体複合体の投与方法は限定されない。本発明においては、複合体は血中に投与される。したがって、通常、複合体は、血管への注射によって、投与される。複合体を投与された非ヒト動物は、投与後の表現型が観察される。対照と比較して表現型の相違が確認された場合には、その相違が複合体として投与されたRNAの影響によるものであることがわかる。
たとえば、標的遺伝子の発現を抑制する機能を有するRNAを複合体として投与したときには、表現型の相違は、当該遺伝子の発現抑制によってもたらされたと考えることができる。すなわち、標的遺伝子の機能抑制に起因する表現型を同定することができる。
【0073】
本発明において、対照とは、たとえば複合体を構成する担体のみを投与した動物の表現型とすることができる。あるいは、非ヒト動物が有していない塩基配列を含むRNAと担体との複合体を投与して対照とすることもできる。あるいは、一定のレベルの遺伝子抑制作用を有することが明らかなRNAを含む複合体を投与した非ヒト動物を対照として用いれば、そのRNAよりも、より大きな作用を有するRNAを見出すことができる。
【0074】
本発明において、RNA−担体複合体は、単独で投与することもできるし、あるいは複合体以外の他の成分とともに投与することもできる。たとえば、薬物の代謝メカニズムを解明するために、薬物と複合体とをともに投与することもできる。標的遺伝子の発現抑制によって、薬物の薬理作用や副作用が増強(あるいは抑制)されれば、標的遺伝子が、その薬物の薬理作用や副作用と関連していることがわかる。
【0075】
その他、非ヒト動物にさまざまな病態を誘導する物質を投与して疾患モデル動物とし、RNA−担体複合体を投与して、RNAの治療効果を検証することができる。たとえば、発がん物質を投与したモデル動物において、本発明に基づいて、さまざまな標的遺伝子の発現抑制を試みることことができる。もしもある遺伝子の発現抑制によって発癌が防止できれば、その遺伝子は、発癌に関与している遺伝子であると同定される。
【0076】
更に、患者から採取されたがん組織を移植した非ヒト動物に、RNA−担体複合体を投与することもできる。移植したがん組織が複合体の投与によって退縮すれば、当該標的遺伝子が治療標的として有用であることが確認できる。たとえば、がん治療に有効な可能性のある複数の標的遺伝子があるとき、患者のがんに対してどの標的遺伝子が有効なのかを評価する方法としても有用である。
【0077】
さらに本発明は、前記担体−RNA複合体を含む医薬組成物とその製造方法を提供する。治療薬としての有効性が確認された多くのRNAが公知である。たとえば、がん細胞などの悪性の細胞に対して、特定の遺伝子発現を抑制しうるsiRNAを導入することで、細胞増殖を阻害できることが知られている。このような治療効果を有するRNAを用いて、本発明に基づいて医薬組成物を製造することができる。
【0078】
すなわち本発明は、ポリカチオン性化合物に対して櫛型に結合している親水性基を側鎖として有する担体と、RNAとの複合体、および薬学的に供される担体とを含む血液中に投与するための医薬組成物を提供する。あるいは本発明は、ポリカチオン性化合物に対して櫛型に結合している親水性基を側鎖として有する担体と、RNAとの複合体を薬学的に供される担体と混合する工程を含む、血液中に投与するための医薬組成物の製造方法に関する。本発明における好ましい担体は、ポリ(カチオン性アミノ酸)を主鎖とし、かつ前記ポリ(カチオン性アミノ酸)に対して櫛型に結合している親水性基を側鎖として有する化合物である。
薬学上許容される担体として、例えば界面活性剤、着色料、着香料、保存料、安定剤、緩衝剤、懸濁剤、等張化剤、流動性促進剤等が挙げられるが、これらに制限されず、その他常用の担体を適宜使用することができる。
【0079】
本発明の医薬組成物の製剤化にあたっては、常法に従い、必要に応じて上記担体を添加することができる。具体的には、乳糖、マンニトール、カルメロースナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ゼラチン、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60、白糖、カルボキシメチルセルロース、無機塩類等を挙げることができる。これらの担体と配合された前記複合体は、溶解状態で注射剤として血液中に投与するための医薬組成物とすることができる。あるいは乾燥させた後に、投与時に滅菌生理食塩水などで溶解して、注射剤とすることもできる。
本発明の医薬組成物の投与量は、剤型の種類、投与方法、患者の年齢や体重、患者の症状等を考慮して、最終的には医師の判断により適宜決定することができる。以下、実施例に基づいて本発明を更に具体的に説明する。
【実施例】
【0080】
本発明に基づくsiRNAデリバリーシステム
1.ポリ-L-リジン-g-デキストラン(PLL-Dex)、およびポリ-L-リジン-g-ポリエチレングリコールPLL-PEGの合成
本発明における担体−RNA複合体を得るために、下記式1に示す構造を有するポリ-L-リジン-g-デキストラン (PLL-Dex)および、および式2に示す構造を有するポリ-L-リジン-g-ポリエチレングリコール (PLL-PEG)を合成した。これらの化合物は、いずれもポリカチオン性アミノ酸を主鎖として、この主鎖に対して櫛型に結合している親水性基を側鎖として有する化合物である。
【0081】
PLL-Dexは主鎖がポリ-L-リジン (PLL)で、側鎖がデキストランの化合物である。またPLL-PEGは主鎖がPLLで、側鎖がポリエチレングリコールの化合物である。本実施例においては、式1で示す化合物として「7K90D」を合成した。7K90Dは、PLL (分子量7,000)を主鎖とし、側鎖として平均7.3個のデキストラン (分子量6000)がPLLに結合している化合物である。7K90Dに対するデキストラン (Mn 6000)の重量は、90wt%となる。
【0082】
グラフティング率とはPLLのすべてのアミノ酸残基に対して何%のアミノ酸残基にデキストランが結合しているかを示している。7K90Dの場合、分子量7,000のPLLは平均55個のアミノ酸残基があり、13.4%のアミノ酸残基にデキストランが結合している。すなわち、平均7.3個のデキストランがPLL一分子に結合していることになる。グラフティング率は1H NMRの測定により算出することができる。7K90D以外にPLLの分子量が28,000の化合物やグラフティング率が異なる化合物である28K90D、7K70D、28K70Dを合成した。各化合物におけるグラフティング率と、一般式中のxyzの数値を示す。
【0083】
【化3】

(式1)
グラフティング率
7K90D 13.4% x= 6.5, y= 7.3, z=36
28K90D 9.5% x= 9.5, y=20.8, z=36
7K70D 5.1% x=18.6, y= 2.8, z=36
28K70D 3.1% x=31.3, y= 6.8, z=36
【0084】
塩化ナトリウム(NaCl、和光純薬工業社製) 2.3376 gと四ほう酸二ナトリウム(Na2B4O7、和光純薬工業社製) 2.0122 g に水を加えて100mlとした。別に塩化ナトリウム2.3376 gとほう酸(H3BO3、和光純薬工業社製) 0.6183 gに水を加えて100 mlとした。この溶液に先の溶液をpHが8.5になるように加え、0.4 M塩化ナトリウムを含む0.1 Mほう酸緩衝液pH8.5を調製した。
28K90Dを合成する時には、上記のほう酸緩衝液10 m1にポリ-L-リジン臭化水素酸塩(PLL・HBr、シグマ社製) 201.8 mgおよびデキストラン(Dextran T、アマシャムバイオサイエンス社製) 804.7 mgを加え、40℃で4時間、撹拌した。その後、水5 mlに水素化シアノホウ酸ナトリウム(NaBH3CN、ナカライテスク社製)78.6 mgを溶かした溶液1.9 mlを加え、40℃で5日間、撹拌した。この溶液を透析膜(分子排除限界50,000、スペクトラムラボラトリーズ社製)を用いて透析後、さらに限外ろ過(分子排除限界50,000、東洋濾紙社製)で精製した。得られた溶液を凍結乾燥し、生成物を得た。生成物の収量は320.5 mg(収率 34.5%)であった。デキストラン導入率と化学構造は1H−NMR、ゲル浸透クロマトグラフ(GPC)および、静的光散乱法による分子量解析によって確認した。
同様に、分子量7000(7K)と28,000(28k)のPLLに、分子量6,000のデキストランをグラフト重合させ、7K90D、7K70D、28K70Dを合成した。
【0085】
分子量7000(7k)と28,000(28k)のPLLに、分子量5000のポリエチレングリコールをグラフト重合させ、式2の構造を有する4種類の担体7k90P, 28k90P, 7k70P, および28k70Pを合成した。各化合物におけるグラフティング率と、一般式中のxyzの数値を示す。
【0086】
【化4】

(式2)
グラフティング率
7k90P 16.7% x= 5.0, Y= 9.1, z=114
28k90P 22.5% x= 3.4, Y=49.7, z=114
7k70P 6.3% x=14.9, Y= 3.4, z=114
28k70P 5.1% x=18.6, Y=11.2, z=114
【0087】
28K90Pを合成する時には、ポリ-L-リジン臭化水素酸塩(PLL・HBr シグマ社製)200.3 mgを水15 mlに溶解しPLL溶液とした。別にポリエチレングリコール(PEG、日本油脂社製)1.2763 gをアセトニトリル(CH3CN、和光純薬工業社製)73 mlに溶解しPEG溶液とした。PLL溶液にPEG溶液を加え25℃で1時間、撹拌した。その後、水5 mlに水素化シアノホウ酸ナトリウム(NaBH3CN、ナカライテスク社製)314.2 mgを溶かした溶液1.32 mlを加え、25℃で1日間、撹拌した。反応溶液をロータリーエバポレーターで30 ml程度になるまで濃縮した。その溶液を透析膜(分子排除限界50,000、スペクトラムラボラトリーズ社製)を用いて透析後、さらに限外ろ過(分子排除限界50,000、東洋濾紙社製)で精製した。得られた溶液を凍結乾燥し、生成物を得た。生成物の収量は1.1068 g(収率79.1%)であった。PEG導入率と構造は1H−NMR、ゲル浸透クロマトグラフ(GPC)、および静的光散乱法による分子量解析によって確認した。
同様に、分子量7000(7K)と28,000(28k)のPLLに、分子量5、000のPEGをグラフト重合させ、7K90P、7K70P、28K70Pを合成した。
【0088】
担体として合成した各化合物の物性は、表1のとおりである。
【表1】

【0089】
2.RNaseAに対する安定性の向上
siRNA (21 mer)としては、以下の配列を用いた。
guu cag acc acu uca gcu u、3'オーバーハング:dTdT (DNA)(配列番号:1)
aag cug aag ugg ucu gaa c、3'オーバーハング:dTdT (DNA)(配列番号:2)
また、ブラントエンドdsRNA(27 mer)としては、以下の配列を用いた。
aaa agu uca gac cac uuc agc uug aaa(配列番号:3)
uuu caa gcu gaa gug guc uga acu uuu(配列番号:4)
【0090】
ここで、21mer siRNA 1 nmolに対して、N/P比が2になるように28K90Pを混合する時、28K90Pの使用量は以下のように算出する。1分子のsiRNAに40個のリン酸基があるので、siRNA 1 nmolにリン酸基は40 nmolある。N/P比が2であるため、アミノ基は80 nmol必要である。従って、28K90PのPLL部分の必要重量は80 nmol×128 (リジンユニットの分子量)で20.48 μgになる。更に、28K90Pの必要重量は、10重量%がPLLであることから、20.48μg÷0.1で204.8μgとなる。
【0091】
リン酸緩衝液にsiRNA (21 mer)と27 merのブラントエンドdsRNAを20 pmolそれぞれ加えた。次いで、合成したPLL-PEG (28K90P)をN/P比が2となるように加えた。ここでN/P比のNはPLLのアミノ基のモル数を、PはsiRNAのリン酸基のモル数を表す。更に、RNaseA (ニッポンジーン社製)を1 μg加え、全量を50 μlにした。37℃、30分保温後、反応溶液にエチレンジアミン四酢酸二ナトリウム、ドデシル硫酸ナトリウムをそれぞれ終濃度10 mM、1 %となるように加え、フェノール/クロロホルム処理にてsiRNAを抽出した。抽出液をポリアクリルアミド電気泳動し、ゲルをSYBR Gold (Invitrogen社製) にて染色した。そのゲルをイメージアナライザー(FMBIOII、HITACHI)で検出した。電気泳動の結果を図1に示した。
siRNAおよび、27mer dsRNAは、いずれも28K90Pが存在しない条件では完全分解された。しかしながら、28K90Pと複合体を形成するとRNaseAに対して高い耐性を示した。
【0092】
蛍光標識したsiRNA 48 pmolと非標識siRNA 192 pmolを混合した。次いで、合成したPLL-PEG (28K90P)をN/P比が2となるように加えた。更に、マウスより採血した血漿を135μl加え、全量を150 μlにした。37℃、48時間保温後、反応溶液にエチレンジアミン四酢酸二ナトリウム、ドデシル硫酸ナトリウムをそれぞれ終濃度10 mM、1 %となるように加え、フェノール/クロロホルム処理にてsiRNAを抽出した。抽出液をポリアクリルアミド電気泳動し、蛍光標識siRNAをイメージアナライザー(FMBIOII、HITACHI)で検出した。電気泳動の結果を図2に示した。
siRNAおよび、27mer dsRNAは、いずれも28K90Pが存在しない条件では血漿中で分解された。しかしながら、28K90Pと複合体を形成すると血漿中でほとんど分解を受けずに高い安定を示した。
【0093】
3.担体−RNA複合体の血液中における滞留性
蛍光標識したsiRNA 0.64 nmolと非標識siRNA 2.56 nmolを混合した。次いで、1で合成した各種PLL-Dex、およびびPLL-PEGをN/P比4または8となるように加えた。ここでN/P比のNはPLLのアミノ基のモル数を、PはsiRNAのリン酸基のモル数を表す。調製した混合液をマウス(ICR、5週令、雄)の尾静脈より投与し、経時的に眼底採血した。血液にエチレンジアミン四酢酸二ナトリウム、ドデシル硫酸ナトリウムをそれぞれ終濃度10 mM、1 %となるように加え、フェノール/クロロホルム処理にてsiRNAを抽出した。抽出液をポリアクリルアミド電気泳動し、蛍光標識siRNAをイメージアナライザー(FMBIOII、HITACHI)で検出した。電気泳動の結果を図3(PLL-Dex)、および図4(PLL-PEG)に示した。
【0094】
siRNA単独を静脈内投与したところ、投与後約5分で血中から消失した(図3のnaked)。これに対し、PLL-DexまたはPLL-PEGと混合して投与したsiRNAは、投与後30分、長いものでは90分まで血中に滞留していた。また、N/P比が4より8の方が、各時間における血中siRNA量が多かった。
図3と同様の条件で27mer dsRNAを28K90Pと混合して、マウスに投与した。その結果、2時間以上の高い血中滞留性を示した(図5)。
【0095】
4.遺伝子発現の抑制効果
内在性遺伝子Ubc13に対するsiRNAとしては、以下の配列を用いた。
gua cgu uuc aug acc aaa a、3'オーバーハング:dTdT (DNA)(配列番号:5)
uuu ugg uca uga aac gua c、3'オーバーハング:dTdT (DNA)(配列番号:6)
内在性遺伝子Ubc13に対するsiRNA 6.4 nmolと、滞留性が最も優れていたPLL-PEG (28K90P)をN/P比4となるように混合し、マウス(ICR、5週令、雄)の尾静脈より投与した。24時間後に肺、肝臓を回収し、RNeasy Kit (キアゲン)を用いてメーカーのプロトコールに従い、RNAを抽出した。また、コントロールとして、Ubc13の発現に影響を及ぼさないNon-silencing (NS) siRNAを用いて同様の処理を行った。定量的PCRには、ABI PRISM 7000 Sequence Detection System(Applied Biosystems)を用いた。Ubc13遺伝子および、β-アクチン遺伝子のRT-PCR用プライマーおよび、TaqManプローブを、Applied Biosystemsより購入した。RT-PCR反応をQuantiTect Probe RT-PCR Kit(Qiagen)を用いて、そのマニュアルに従って行った。Ubc13 mRNAの発現を、β-アクチンの発現量を標準として用いて定量比較した。測定結果を図6にまとめた。
【0096】
NS siRNAを投与したマウスの各組織における遺伝子発現量を100%とし、Ubc13遺伝子に対するsiRNAを投与したマウスでの発現量を求めた。その結果、肝臓において約80%の遺伝子発現の抑制効果が得られた。肺においても30%程度の抑制効果が観察された。以上の結果をまとめると、ポリ-L-リジン-g-デキストラン(PLL-Dex)、あるいはポリ-L-リジン-g-ポリエチレングリコール(PLL-PEG)とsiRNAとの混合体は、siRNAの血中滞留性を飛躍的に上昇させ、特に肝臓での遺伝子発現を強く抑制することが判明した。
【産業上の利用可能性】
【0097】
本発明によって、RNAを血中に投与し、安定に維持することができる。RNAは、たとえば、RNAi効果を利用した遺伝子の発現抑制技術に利用することができる。したがって、遺伝子の発現抑制による、疾患の治療や予防、あるいは遺伝子の機能解析などに、本発明を利用することができる。治療や予防に利用した場合には、本発明に基づいて、治療用のRNAを血中に投与し、その血中における安定性を向上させることができる。あるいは、遺伝子の機能解析においては、機能を解析すべき遺伝子の発現を抑制しうるsiRNAを生体中に投与し、発現抑制に伴う表現型の変化を知ることができる。生体に対して、効果的な遺伝子発現抑制を実現できるので、生体の生理的な変化や、実際の疾患モデル動物に対する影響を知ることができる。このような知見は、培養細胞における遺伝子発現抑制では得ることができない。
【図面の簡単な説明】
【0098】
【図1】合成した担体PLL-PEG (28K90P)と、siRNA (21mer)またはdsRNA (27mer)の複合体(N/P比=2)のRNaseAに対する分解阻害効果を調べた電気泳動像を示す写真である。
【図2】合成した担体PLL-PEG (28K90P)と、siRNA またはdsRNA の複合体(N/P比=2)の血漿中での安定性を調べた電気泳動像を示す写真である。
【図3】各種担体 (PLL-Dex)とsiRNAの複合体 (N/P比=4)をマウスの血中に投与後、0分〜90分間のsiRNAの血中滞留性を比較した電気泳動像を示す写真である。nakedは、siRNAを担体と混合しないでRNAのまま投与した結果である。
【図4】各種担体(PLL-PEG)とsiRNAの複合体(N/P比=8)をマウスの血中に投与後、0分〜90分間のsiRNAの血中滞留性を比較した電気泳動像を示す写真である。
【図5】合成した担体 (PLL-PEG)とdsRNAの複合体(N/P比=4)をマウスの血中に投与後、0分〜90分間のdsRNAの血中滞留性を比較した電気泳動像を示す写真である。
【図6】内在性遺伝子Ubc13に対するsiRNAをマウスの血中に投与後の遺伝子発現の抑制効果を調べた結果をまとめたグラフである。図中、縦軸は対照に対するmRNAのレベル(%)を、横軸は組織の種類を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリカチオン性化合物に対して櫛型に結合している親水性基を側鎖として有する担体と、RNAとの複合体を含む、RNAを血液中に投与するための組成物。
【請求項2】
ポリカチオン性化合物がポリ(カチオン性アミノ酸)である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
ポリ(カチオン性アミノ酸)が、ポリ(リジン)である請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
親水性基が、グリコサミノグリカン、デキストラン、ポリエチレングリコール、ポリエチレングリコール誘導体、及び糖類からなる群から選択される少なくとも1つである請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
ポリカチオンと親水性基とが、グラフト重合している請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
担体の10重量%〜99重量%が親水性基である請求項1に記載の組成物。
【請求項7】
ポリ(カチオン性アミノ酸)を構成するカチオン性アミノ酸基の数(N)と、担体と複合体を形成するRNAに含まれるリン酸基の数(P)との比(N/P比)が、0.5〜40の範囲である、請求項2に記載の組成物。
【請求項8】
前記ポリ(カチオン性アミノ酸)を構成するカチオン性アミノ酸基の数(N)と、担体と複合体を形成するRNAに含まれるリン酸基の数(P)との比(N/P比)が、2〜20である請求項7に記載の組成物。
【請求項9】
RNAが機能性RNAである請求項1に記載の組成物。
【請求項10】
機能性RNAがRNAi効果を有するRNAである請求項9に記載の組成物。
【請求項11】
ポリカチオン性化合物に対して櫛型に結合している親水性基を側鎖として有する担体とRNAとの複合体を形成させる工程を含む、RNAを血液中で安定化する方法。
【請求項12】
ポリカチオン性化合物が、ポリ(カチオン性アミノ酸)である、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記ポリ(カチオン性アミノ酸)を構成するカチオン性アミノ酸基の数(N)と、前記担体と複合体を形成するべき核酸に含まれるリン酸基の数(P)との比(N/P比)が、0.5〜40の範囲であることを特徴とする、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記ポリ(カチオン性アミノ酸)を構成するカチオン性アミノ酸基の数(N)と、担体と複合体を形成するRNAに含まれるリン酸基の数(P)との比(N/P比)が、2〜20である請求項13に記載の方法。
【請求項15】
ポリカチオン性化合物に対して櫛型に結合している親水性基を側鎖として有する担体をRNAと混合する工程を含む、RNAを血液中に投与するための組成物の製造方法。
【請求項16】
ポリカチオン性化合物が、ポリ(カチオン性アミノ酸)である請求項15に記載の製造方法。
【請求項17】
ポリカチオン性化合物に対して櫛型に結合している親水性基を側鎖として有する担体と、RNAとの複合体を含む、RNAの腎臓からの排泄が抑制された組成物。
【請求項18】
ポリカチオン性化合物が、ポリ(カチオン性アミノ酸)である請求項17に記載の組成物。
【請求項19】
ポリカチオン性化合物に対して櫛型に結合している親水性基を側鎖として有する担体とRNAとの複合体を形成させる工程と、得られた複合体を血中に投与する工程を含む、血中に投与されたRNAの腎臓からの排泄を抑制する方法。
【請求項20】
ポリカチオン性化合物が、ポリ(カチオン性アミノ酸)である請求項19に記載の方法。
【請求項21】
ポリカチオン性化合物に対して櫛型に結合している親水性基を側鎖として有する担体と、RNAとの複合体を含む、RNAのヌクレアーゼによる分解が抑制された組成物。
【請求項22】
ポリカチオン性化合物が、ポリ(カチオン性アミノ酸)である請求項21に記載の組成物。
【請求項23】
ポリカチオン性化合物に対して櫛型に結合している親水性基を側鎖として有する担体とRNAとの複合体を形成させる工程と、得られた複合体を血中に投与する工程を含む、血中に投与されたRNAのヌクレアーゼによる分解を抑制する方法。
【請求項24】
ポリカチオン性化合物が、ポリ(カチオン性アミノ酸)である請求項23に記載の方法。
【請求項25】
次の工程を含む、遺伝子の機能解析方法;
(1)ポリカチオン性化合物に対して櫛型に結合している親水性基を側鎖として有する担体と、機能解析の対象遺伝子に相補的な塩基配列を含む2本鎖RNAとの複合体を形成させる工程;
(2)(1)のRNA−担体複合体を非ヒト動物の血中に投与する工程;
(3)(1)のRNA−担体複合体を投与された非ヒト動物の表現型を観察し対照と比較する工程;および
(4)対照と比較して表現型の相違が検出されたときに、前記遺伝子の機能抑制に起因する表現型が同定される工程。
【請求項26】
ポリカチオン性化合物が、ポリ(カチオン性アミノ酸)である請求項25に記載の方法。
【請求項27】
ポリ(カチオン性アミノ酸)を主鎖とし、かつ前記ポリ(カチオン性アミノ酸)に対して櫛型に結合している親水性基を側鎖として有する担体と、RNAとの複合体からなり、前記ポリ(カチオン性アミノ酸)を構成するカチオン性アミノ酸基の数(N)と、担体と複合体を形成するRNAに含まれるリン酸基の数(P)との比(N/P比)が2〜20である複合体。

【図6】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−201673(P2008−201673A)
【公開日】平成20年9月4日(2008.9.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−142420(P2005−142420)
【出願日】平成17年5月16日(2005.5.16)
【出願人】(504145342)国立大学法人九州大学 (960)
【出願人】(502028430)株式会社ジーンケア研究所 (14)
【Fターム(参考)】