説明

RNA干渉ベクター

本発明は、RNA干渉を介した遺伝子特異的沈黙化に関し、特にRNAi分子を発現するベクターに関する。いくつかの態様において、本発明は、RNAi分子の誘導性発現のための、および/またはRNAi分子の長期間の発現のための組成物ならびに方法を提供する。したがって、本明細書に記述の組成物および方法は、細胞における調節可能なおよび/または持続的な遺伝子特異的沈黙化に適している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、RNA干渉を通しての遺伝子特異的沈黙化、特にRNAi分子を発現するためのベクターに関する。いくつかの態様において、本発明は、RNAi分子の誘導性発現のための、および/またはRNAi分子の長期間の発現のための組成物および方法を提供する。したがって、本明細書に記述の組成物および方法は、細胞における調節可能なおよび/または持続的な遺伝子特異的沈黙化にとって適している。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
二本鎖RNA干渉(RNAi)は、真核生物における遺伝子発現を選択的に沈黙化するための強力な手段である(Sharp, Genes Dev., 15:485〜490, 2001(非特許文献1)
;およびElbashir et al., Genes Dev., 15:188〜200, 2001(非特許文献2))。哺乳動物細胞において、遺伝子特異的沈黙化は二つの方法の一つにおいて達成され得る。はじめに、低分子干渉RNA(siRNAi)をインビトロで合成して、遺伝子発現の一過性の抑制を得るするために細胞に直接トランスフェクトする。第二の方法において、低分子ヘアピンRNA(shRNA)をインビボでRNAiベクターから転写する(Yu et al., Proc Natl Acad Sci USA, 99:6047〜6052, 2002(非特許文献3);Sui et al., Proc Natl Acad Sci USA, 99:5515〜5520, 2002(非特許文献4);およびBrummelkamp et al., Science, 296:550〜553, 2002(非特許文献5))。後者の方法は、遺伝子特異的RNAiベクターが、構築するために比較的安価であって、選択可能なプラスミドまたはレトロウイルスの形で細胞に安定に導入することができるという点において望ましい。
【0003】
ほとんどのRNAiベクターは、RNAポリメラーゼIII(polIII)転写単位(例えば、H1およびU6)を含むプロモーターの制御下でshRNAを構成的に発現する。RNAi polIIIベクターは、全ての組織において活性であることから、およびそれらが短いTに富む終止部位を利用してそれによって2 bpのUUオーバーハング(ポリAテールとは対照的に)がshRNAに付加されることから、shRNA発現にとって特に有用である。これらのベクターはsiRNAトランスジェニックまたは「遺伝子ノックダウン」マウスを作製するために首尾よく用いられているが(Carmell et al., Nature Struct Biol, 10:91〜92, 2003(非特許文献6);およびKunath et al., Nature Biotechnol, 21:559〜561, 2003(非特許文献7))、それらは誘導型または組織特異的RNAiを得るためには用いにくい。これは試験中の標的が本質的な遺伝子(細胞の生存にとって必要)である場合、特に問題となる。
【0004】
このように、当技術分野において必要であるのは、誘導型および/または組織特異的に遺伝子発現を抑制するために用いることができるRNAiベクターであると共に、他の望ましい増強された発現特性を提供するベクターである。
【0005】
【非特許文献1】Sharp, Genes Dev., 15:485〜490, 2001
【非特許文献2】Elbashir et al., Genes Dev., 15:188〜200, 2001
【非特許文献3】Yu et al., Proc Natl Acad Sci USA, 99:6047〜6052, 2002
【非特許文献4】Sui et al., Proc Natl Acad Sci USA, 99:5515〜5520, 2002
【非特許文献5】Brummelkamp et al., Science, 296:550〜553, 2002
【非特許文献6】Carmell et al., Nature Struct Biol, 10:91〜92, 2003
【非特許文献7】Kunath et al., Nature Biotechnol, 21:559〜561, 2003
【発明の開示】
【0006】
発明の概要
本発明は、RNA干渉を介した遺伝子特異的沈黙化に関し、特にRNAi分子を発現するためのベクターに関する。いくつかの態様において、本発明は、RNAi分子の誘導性発現のための、および/またはRNAi分子の長期間の発現のための組成物ならびに方法を提供する。したがって、本明細書に記述の組成物および方法は、細胞における調節可能なおよび/または持続的な遺伝子特異的沈黙化に適している。
【0007】
例えば、いくつかの態様において、本発明は、RNAi分子に機能的に会合したsnRNA pol IIプロモーターを含むベクターを含む組成物(例えば、キット、細胞、反応混合物等)を提供する。好ましい態様において、プロモーターはU1またはU2プロモーターである。他の態様において、プロモーターはU4またはU5プロモーターである。ベクターはさらに、他のプロモーター配列、またはベクターおよび発現ベクターにとって共通の他の任意の配列(例えば、制限クローニング部位、ターミネーター、選択マーカー遺伝子(例えばピューロマイシン、ヒグロマイシン、およびネオマイシン)等)を含んでもよい。本発明は、ベクターに含まれるRNAi分子の性質によって限定されない。いくつかの態様において、RNAi分子は、siRNAまたはmiRNA(例えば、前駆体型)である;RNAiの考察に関しては、例えばLee, Nature, 425:415(2003)を参照されたい。いくつかの好ましい態様において、ベクターは、snRNA pol II終止配列をさらに含む。そのようないくつかの態様において、スペーサー配列(例えば、塩基5個またはそれより多く、例えば7、10個…を有する)がプロモーターと終止配列との間(例えば、RNAi分子と終止配列との間)に存在する。いくつかの態様において、マルチクローニング部位が、プロモーターと終止配列との間に存在する。
【0008】
本発明のさらなる態様は、RNAi分子に機能的に会合したsnRNA pol IIプロモーターを含む、ウイルス起源である発現ベクターを提供する。哺乳動物系のためのウイルスベクター発現系の例には、レンチウイルス、シンドビスウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、およびレトロウイルスが含まれるがそれらに限定されるわけではない。植物系のためのウイルス発現系の例には、ジェミニウイルス、トマトゴールドモザイクウイルス、およびカリフラワーモザイクウイルスが含まれるがそれらに限定されるわけではない。
【0009】
本発明はまた、本発明のベクターを含む宿主細胞を提供する。本発明は、宿主の性質によって限定されない。宿主細胞には、原核細胞および真核細胞、培養中に存在する細胞、組織中に存在する細胞、ならびに生きている生物(例えば、植物、動物等)においてインビボで存在する細胞が含まれるがそれらに限定されるわけではない。いくつかの態様において、ベクターは、宿主細胞のゲノムに安定に組み入れられる。他の態様において、ベクターは宿主細胞に一過性にトランスフェクトされる。
【0010】
本発明はさらに、本発明のベクターを用いる方法を含む。ベクターは、研究、診断、薬物開発、および治療のための広範な遺伝子沈黙化法において有用である(例えば、それぞれその全体が参照により本明細書に組み入れられる、Prawitt et al., Cytogenet Genome Res., 105:412, 2004;Berkhout, Curr. Opin. Mol. Ther., 6:141, 2004;Downward, BMJ, 328:1245, 2004;Horiguchi, Differentiation, 72:65, 2004を参照されたい)。
【0011】
本発明はさらにキットを提供する。いくつかの態様において、キットは、増幅または伸長プロセスによってRNAi分子を含むベクターの作製を許容する成分を提供する。例えば、本発明は、以下を含む、RNAi分子をクローニングするためのキットを提供する:i)snRNA RNAポリメラーゼIIプロモーター鋳型オリゴヌクレオチド、およびii)該鋳型に対して相補的なプライマー。好ましい態様において、キットは以下の一つまたは複数をさらに含む:iii)ベクター、iv)増幅試薬、およびv)ライゲーション試薬。いくつかの好ましい態様において、ベクターは直線状であり、平滑末端であり、および/またはホスファターゼによって処理される。いくつかの態様において、キットはRNAi分子(例えば、陽性対照として)をさらに含む。好ましい態様において、増幅試薬は、高忠実度プルーフリーディングDNAポリメラーゼ(例えば、Tliポリメラーゼ)を含むが、本発明は、ポリメラーゼの性質によって限定されない。いくつかの態様において、キットは亜硫酸マグネシウムを含む増幅緩衝液を含む。
【0012】
本発明はまた、RNAi分子に機能的に会合したsnRNA pol IIプロモーターを含むベクターを含むキットを提供する。いくつかの態様において、キットは以下の一つまたは複数を含む:ライゲーション試薬(例えば、リガーゼ、リガーゼ緩衝液)、アニーリング緩衝液、陽性および/または陰性対照試料、およびその使用説明書。好ましい態様において、キットは、アニールしたヘアピンオリゴヌクレオチドとベクターとの付着末端ライゲーションによるクローニングを許容にするような形状を有する。いくつかの態様において、クローニングプロセスは、新しい制限部位を生成する(例えば、正確にクローニングされたコンストラクトを容易に同定できるように)。
【0013】
定義
本発明の理解を容易にするために、本明細書において用いられる多くの用語および句を以下に定義する。
【0014】
「遺伝子」という用語は、RNA、および/またはポリペプチド、またはその前駆体の産生にとって必要なコード配列を含む核酸(例えば、DNAまたはRNA)配列を指す。機能的ポリペプチドは、完全長のコード配列によって、またはポリペプチドの所望の活性または機能的特性(例えば、酵素活性、リガンド結合、シグナル伝達等)が保持される限り、コード配列の任意の一部によってコードされ得る。遺伝子を参照して用いられる場合の「一部」という用語は、その遺伝子の断片を指す。断片は、数ヌクレオチドから遺伝子配列の全長マイナス1ヌクレオチドまでの大きさに及んでもよい。このように、「遺伝子の少なくとも一部を含むオリゴヌクレオチド」は、遺伝子または遺伝子全体の断片を含んでもよい。
【0015】
「遺伝子」という用語はまた、構造遺伝子のコード領域を含み、これには、遺伝子が完全長のmRNAの長さに対応するように、いずれかの末端で約1 kbの距離で5'および3'末端の双方においてコード領域に隣接して存在する配列が含まれる。コード領域の5'に存在してmRNA上に存在する配列は、5'非翻訳配列と呼ばれる。コード領域の3'または下流に存在してmRNA上に存在する配列は、3'非翻訳配列と呼ばれる。「遺伝子」という用語は、遺伝子のcDNAおよびゲノム型の双方を含む。ゲノム型または遺伝子のクローンは、「イントロン」、「介在領域」、または「介在配列」と呼ばれる非コード配列によって中断されるコード領域を含む。イントロンは、核RNA(hnRNA)に転写される遺伝子のセグメントであり;イントロンは、エンハンサーのような調節エレメントを含んでもよい。イントロンは、核または一次転写物から除去または「スプライシングによって除去」される:したがって、イントロンは、メッセンジャーRNA(mRNA)転写物には存在しない。mRNAは翻訳の際に、新生ポリペプチドにおけるアミノ酸の配列または順序を指定するように機能する。
【0016】
イントロンを含むことに加え、遺伝子のゲノム型にはまた、RNA転写物上に存在する配列の5'および3'末端の双方に存在する配列が含まれてもよい。これらの配列は、「隣接」配列または領域と呼ばれる(これらの隣接配列はmRNA転写物上に存在する非翻訳配列の5'または3'に存在する)。5'隣接領域は、遺伝子の転写を制御するまたは影響を及ぼすプロモーターおよびエンハンサーのような調節配列を含んでもよい。3'隣接領域は、転写の終了、転写後切断、およびポリアデニル化を指示する配列を含んでもよい。
【0017】
「異種遺伝子」という用語は、その天然の環境に存在しない因子をコードする(すなわち、ヒトの手によって改変されている)遺伝子を指す。例えば、異種遺伝子には、別の種に導入されたある種由来の遺伝子が含まれる。異種遺伝子にはまた、何らかの方法で改変されている(例えば、変異、多数のコピーにおける付加、非天然のプロモーターまたはエンハンサー配列に連結している等)、生物に本来存在する遺伝子が含まれる。異種遺伝子は、遺伝子のcDNA型を含んでもよい;cDNA配列は、センス(mRNAを産生する)またはアンチセンス方向(mRNA転写物と相補的であるアンチセンスRNA転写物を産生する)のいずれの方向で発現されてもよい。異種遺伝子は、異種遺伝子配列が典型的に、異種遺伝子によってコードされるタンパク質に関する遺伝子もしくは染色体における遺伝子配列と天然に会合して見いだされないプロモーター、または天然において見いだされない染色体の一部と会合している(例えば、遺伝子が通常発現されない座において発現される遺伝子)プロモーターのような調節要素を含むヌクレオチド配列に接合されるという点において、内因性の遺伝子とは区別される。
【0018】
「ポリヌクレオチド」という用語は、二つまたはそれより多い、好ましくは3個より多い、および通常10個より多いデオキシリボヌクレオチドまたはリボヌクレオチドを含む分子を指す。正確な大きさは多くの要因に依存し、次にこれらは、オリゴヌクレオチドの最終的な機能または用途に依存する。ポリヌクレオチドは、化学合成、DNA複製、逆転写、またはその組み合わせを含む、如何なる方法で生成されてもよい。「オリゴヌクレオチド」という用語は一般的に、通常、長さが30ヌクレオチド未満の長さの短い一本鎖ポリヌクレオチド鎖を指すが、これは「ポリヌクレオチド」という用語と互換的に用いられてもよい。
【0019】
「核酸」という用語は、先に記述したようにヌクレオチドのポリマー、またはポリヌクレオチドを指す。この用語は、単一の分子、または分子の集合体を指定するために用いられる。核酸は一本鎖または二本鎖であってもよく、コード領域を含んでもよく、以下に記述するように様々な制御要素の領域を含んでもよい。
【0020】
核酸分子を参照して用いる場合の「領域」または「一部」という用語は、分子の全長より短い連結したヌクレオチドの組を指す。
【0021】
核酸分子を参照して用いる場合の「鎖」という用語は、分子の全長、全長より短い、または分子の全長を含む連結したヌクレオチドの組を指す。
【0022】
核酸分子を参照して用いる場合の「連結」という用語は、核酸分子の他の二つの領域または一部を接合させるヌクレオチド領域を指す;そのような接続手段は典型的にヌクレオチドの領域であるが、必ずしもそうである必要はない。ヘアピンRNAi分子において、そのような連結領域は互いに相補的であって、したがって、相補性の領域において分子の二本鎖または二本鎖の枝を形成することができるRNA分子の他の二つの領域を接合してもよい。そのような連結は通常、二本鎖の枝の双方の枝に隣接する一本鎖ヌクレオチド領域であって、「ループ」と呼ばれるが、必ずしもそうである必要はない。
【0023】
多数のRNAi分子を参照して用いる場合の「リンカー」という用語は、二つまたはそれより多いRNAi分子を接合させる接続手段を指す。そのような接続手段は典型的に、それぞれのRNAi分子の鎖に隣接するヌクレオチドの領域であるが、必ずしもその必要はない;隣接するヌクレオチドの領域は「接合配列」と呼ばれる。
【0024】
「遺伝子をコードするヌクレオチド配列を有するポリヌクレオチド」、または「遺伝子をコードするヌクレオチド配列を有するポリヌクレオチド」、または明記されたRNA分子またはポリペプチドを「コードする核酸配列」という用語は、遺伝子のコード領域を含む核酸配列、または言い換えれば遺伝子産物をコードする核酸配列を指す。コード領域はcDNA、ゲノムDNA、またはRNA型のいずれで存在してもよい。DNA型で存在する場合、オリゴヌクレオチド、ポリヌクレオチド、または核酸は、一本鎖(すなわち、センス鎖)または二本鎖であってもよい。エンハンサー/プロモーター、スプライス接合部、ポリアデニル化シグナル等のような適した制御要素を、必要であれば、一次RNA転写物の転写および/または正確なプロセシングの適切な開始を許容するために、遺伝子のコード領域の近位に配置してもよい。または、発現ベクターにおいて利用されるコード領域は、内因性のエンハンサー/プロモーター、スプライス接合部、介在配列、ポリアデニル化シグナル等、または内因性および外因性双方の制御要素の組み合わせを含んでもよい。
【0025】
核酸分子を参照する場合の「組換え型」という用語は、分子生物学的技術によって互いに接合された核酸のセグメントを含む核酸分子を指す。タンパク質またはポリペプチドを参照する場合の「組換え型」という用語は、組換え型核酸分子を用いて発現されたタンパク質分子を指す。
【0026】
「相補的」または「相補性」という用語は、塩基対形成規則によって関連するポリヌクレオチド(すなわちヌクレオチドの配列)を指す。例えば、配列「5'-A-G-T-3'」は、配列「3'-T-C-A-5'」と相補的である。相補性は、核酸の塩基のいくつかのみが塩基対形成規則に従ってマッチする、「部分的」であってもよい。または、核酸の間に「完全な」または「全」相補性が存在してもよい。核酸鎖の相補性の程度は、核酸鎖の間のハイブリダイゼーションの効率および強度に有意な影響を及ぼす。このことは、増幅反応のみならず、核酸間の結合に依存する検出法において特に重要である。同様に、これは遺伝子発現のRNAi阻害効率またはRNA機能においても重要である。
【0027】
核酸に関連して用いる場合の「相同性」という用語は、相補性の程度を指す。部分的な相同性または完全な相同性(すなわち同一性)が存在してもよい。「配列同一性」は、二つまたはそれより多い核酸またはタンパク質の間の関連性の測定手段を指し、比較する全長を参照して百分率として表す。同一性の計算は、同一であって、それぞれのより大きい配列において同じ相対的位置に存在するヌクレオチドまたはアミノ酸残基を考慮に入れる。同一性の計算は、「GAP」(Genetics Computer Group, Madison, Wis.)および「ALIGN」(DNAStar, Madison, Wis.)のようなコンピュータープログラム内に含まれるアルゴリズムによって実行されてもよい。部分的相補的配列は、完全に相補的な配列が標的核酸とハイブリダイズすることを少なくとも部分的に阻害する(または競合する)配列であり、これは機能的な用語である「実質的に相同である」という用語を用いて呼ばれる。標的配列に対する完全に相補的な配列のハイブリダイゼーションの阻害は、低ストリンジェンシー条件でのハイブリダイゼーションアッセイ(サザンまたはノザンブロット、溶液ハイブリダイゼーション等)を用いて調べてもよい。実質的に相同な配列またはプローブは、低ストリンジェンシー条件で標的と完全に相同である配列の結合(すなわち、ハイブリダイゼーション)に競合し、かつそれを阻害するであろう。これは、低ストリンジェンシー条件が非特異的結合が許容されることを言っているのではない;低ストリンジェンシー条件は、互いに対する二つの配列の結合が特異的(すなわち、選択的)相互作用であることを必要とする。非特異的結合が存在しないことは、部分的な程度の相補性を欠損する(例えば、約30%未満の同一性)第二の標的を用いることによって試験してもよく;非特異的結合が存在しない場合、プローブは第二の非相補的標的にハイブリダイズしないであろう。
【0028】
以下の用語は、二つまたはそれより多いポリヌクレオチド間の配列関係を記述するために用いられる:「参照配列」、「配列同一性」、「配列同一性の百分率」、および「実質的な同一性」。「参照配列」は、配列比較のための基本として用いられる定義された配列である;参照配列はより大きい配列のサブセットであってもよく、例えば配列表に記載される完全長のcDNA配列のセグメントであってもよく、または完全な遺伝子配列を含んでもよい。一般的に、参照配列は、例えば長さが20ヌクレオチド、しばしば長さが少なくとも25ヌクレオチド、およびしばしば長さが少なくとも50ヌクレオチドである。二つのポリヌクレオチドはそれぞれ(1)二つのポリヌクレオチド間で類似である配列(すなわち、完全なポリヌクレオチド配列の一部)を含んでもよく、(2)二つのポリヌクレオチド間で異なる配列をさらに含んでもよいことから、二つ(またはそれより多い)ポリヌクレオチド間の配列比較は、典型的に、配列類似性の局所領域を同定および比較するために「比較ウィンドウ」にわたって二つのポリヌクレオチドの配列を比較することによって行われる。本明細書において用いられるように、「比較ウィンドウ」は、ポリヌクレオチド配列を少なくとも20隣接ヌクレオチドの参照配列と比較してもよく、比較ウィンドウにおけるポリヌクレオチド配列の一部が、二つの配列の最適なアライメントのために、参照配列(付加または欠失を含まない)と比較して20%またはそれ未満の付加または欠失(すなわち、ギャップ)を含んでもよい、少なくとも20隣接ヌクレオチド位置の概念的セグメントを指す。比較ウィンドウを整列させるための配列の最適なアライメントは、Smith and Waterman(Smith and Waterman, Adv. Appl. Math. 2:482(1981))の局所相同性アルゴリズムによって、Needleman and Wunsch(Needleman and Wunsch, J. Mol. Biol. 48:443(1970))の相同性アライメントアルゴリズムによって、Pearson and Lipman(Pearson and Lipman, Proc. Natl. Acad. Sci. (U.S.A.)85:2444(1988))の類似性検索法によって、コンピューター処理されたこれらのアルゴリズムの実行(Wisconsin Genetics Software Package Release 7.0, Genetics Computer Group, 575 Science Dr., Madison, Wis.のGAP、BESTFIT、FASTA、およびTFASTA)によって、または検分によって実行してもよく、様々な方法によって生成された最善のアライメント(すなわち、それによって比較ウィンドウにわたって最高の百分率の相同性が起こる)が選択される。「配列同一性」という用語は、二つのポリヌクレオチド配列が、比較ウィンドウにわたって同一である(すなわち、ヌクレオチド対ヌクレオチドに基づいて)ことを意味する。「配列同一性の百分率」という用語は、比較ウィンドウにわたって二つの最適に整列された配列を比較する段階、双方の配列において同一の核酸塩基(例えば、A、T、C、G、U、またはI)が起こる位置の数を決定して、それによってマッチした位置の数を得る段階、比較ウィンドウにおける位置の総数(すなわち、ウィンドウの大きさ)によってマッチした位置の数を除する段階、および結果に100を乗じて配列同一性の百分率を得る段階によって計算される。本明細書において用いられるように、「実質的な同一性」という用語は、少なくとも20ヌクレオチドの位置の比較ウィンドウ、しばしば少なくとも25〜50ヌクレオチドのウィンドウにわたって参照配列と比較した場合に、少なくとも85%の配列同一性、好ましくは少なくとも90〜95%の配列同一性、より通常、少なくとも99%の配列同一性を有する配列を含み、配列同一性の百分率が比較ウィンドウにわたって参照配列の全体の20%またはそれ未満である欠失または付加が含まれてもよいポリヌクレオチド配列と参照配列とを比較することによって計算される、ポリヌクレオチド配列の特徴を指す。参照配列は、より大きい配列のサブセットであってもよく、例えば、本発明において特許請求される組成物の完全長の配列のセグメントであってもよい。
【0029】
cDNAまたはゲノムクローンのような二本鎖核酸配列を参照して用いる場合、「実質的に相同な」という用語は、先に記述した低から高ストリンジェンシー条件で二本鎖核酸配列の一つまたは双方の鎖とハイブリダイズすることができる如何なるプローブも指す。
【0030】
一本鎖核酸配列を参照して用いる場合、「実質的に相同な」という用語は、先に記述したように低から高ストリンジェンシー条件で一本鎖核酸配列とハイブリダイズすることができる(すなわち、相補的である)如何なるプローブも指す。
【0031】
「ハイブリダイゼーション」という用語は、相補的核酸の対形成を指す。ハイブリダイゼーションおよびハイブリダイゼーション強度(核酸間の会合の強度)は、核酸間の相補性の程度、関係する条件のストリンジェンシー、形成されたハイブリッドのTm、および核酸内のG:C比のような要因によって影響を受ける。その構造内に相補的核酸の対形成を含む単一の分子は、「自己ハイブリダイズした」と言われる。
【0032】
「Tm」という用語は、核酸の「融解温度」を指す。融解温度は、二本鎖核酸分子の集団が一本鎖へと半分解離される温度である。核酸のTmを計算する等式は、当技術分野において周知である。標準的な参考文献によって示されるように、Tm値の単純な推定値は以下の等式によって計算してもよい:核酸が1 M NaClの水溶液中に存在する場合、Tm=81.5+0.41(%G+C)(例えば、Anderson and Young, Quantitative Filter Hybridization, in Nucleic Acid Hybridization(1985)を参照されたい)。他の参考文献には、Tmの計算に関して構造特徴と共に配列特徴を考慮に入れる、より洗練された計算が含まれる。
【0033】
本明細書において用いられるように、「ストリンジェンシー」という用語は、核酸のハイブリダイゼーションが行われる、温度、イオン強度、および有機溶媒のような他の化合物の存在の条件を指す。「高ストリンジェンシー」条件では、核酸の塩基対形成は、高頻度の相補的な塩基配列を有する核酸断片間に限って起こるであろう。このように、遺伝的に異なる生物に由来する核酸では、相補的配列の頻度が通常より低いことから、「低」ストリンジェンシー条件がしばしば必要である。
【0034】
核酸ハイブリダイゼーションを参照して用いる場合の「低ストリンジェンシー条件」は、長さが約500ヌクレオチドのプローブを用いる場合、5×SSPE(43.8 g/l NaCl、6.9 g/l NaH2PO4・H2O、および1.85 g/l EDTA、pHをNaOHによって7.4に調節する)、0.1%SDS、5×デンハルト試薬[50×デンハルトは500 mlあたり、Ficoll(Type 400, Pharmacia)5 g、BSA(分画V;Sigma)5 gを含む]、および100μg/ml変性サケ精子DNAからなる溶液において42℃での結合またはハイブリダイゼーションの後に、5×SSPE、0.1%SDSを含む溶液中で42℃での洗浄と同等の条件を含む。
【0035】
核酸ハイブリダイゼーションを参照して用いる場合の「中等度のストリンジェンシー条件」は、長さが約500ヌクレオチドのプローブを用いる場合に、5×SSPE(43.8 g/l NaCl、6.9 g/l NaH2PO4・H2O、および1.85 g/l EDTA、pHをNaOHによって7.4に調節する)、0.5%SDS、5×デンハルト試薬、および100μg/ml変性サケ精子DNAからなる溶液中で42℃での結合またはハイブリダイゼーションの後に、1.0×SSPE、1.0%SDSを含む溶液中で42℃での洗浄と同等の条件を含む。
【0036】
核酸ハイブリダイゼーションを参照して用いる場合の「高ストリンジェンシー条件」は、長さが約500ヌクレオチドのプローブを用いる場合に、5×SSPE(43.8 g/l NaCl、6.9 g/l NaH2PO4・H2O、および1.85 g/l EDTA、pHをNaOHによって7.4に調節する)、0.5%SDS、5×デンハルト試薬、および100μg/ml変性サケ精子DNAからなる溶液中で42℃での結合またはハイブリダイゼーションの後に、0.1×SSPE、1.0%SDSを含む溶液中で42℃での洗浄と同等の条件を含む。
【0037】
低ストリンジェンシー条件を用いるために、多数の同等の条件を用いてもよいことは周知である;プローブの長さおよび性質(DNA、RNA、塩基組成)、標的の性質(DNA、RNA、塩基組成、溶液中に存在するか、固定されているか等)、ならびに塩および他の成分の濃度(例えば、ホルムアミド、硫酸デキストラン、ポリエチレングリコールの存在または非存在)のような要因を検討して、先に記述した条件とは異なるが同等である低ストリンジェンシーハイブリダイゼーションの条件を生成するために、ハイブリダイゼーション溶液を変化させてもよい。さらに、当技術分野では、高ストリンジェンシー条件でのハイブリダイゼーションを促進する条件(例えば、ハイブリダイゼーションおよび/または洗浄段階の温度の増加、ハイブリダイゼーション溶液におけるホルムアミドの使用等)が公知である。
【0038】
「プライマー」という用語は、精製された制限消化物において天然に存在するか、または合成によって生成されるかによらず、核酸鎖に対して相補的なプライマー伸長産物の合成が誘導される条件に置かれた場合に(すなわち、ヌクレオチドおよびDNAポリメラーゼのような誘導物質の存在下で、適した温度およびpHで)合成の開始点として作用することができるオリゴヌクレオチドを指す。プライマーは、増幅における最大効率のためには好ましくは一本鎖であるが、または二本鎖であってもよい。二本鎖の場合、プライマーを最初に処理してその鎖を分離してから、伸長産物を調製するために用いる。好ましくは、プライマーは、オリゴデオキシリボヌクレオチドである。プライマーは、誘導物質の存在下で伸長産物の合成をプライミングするために十分な長さでなければならない。プライマーの正確な長さは、温度、プライマー源、および方法の使用を含む多くの要因に依存するであろう。
【0039】
「プローブ」という用語は、精製制限消化物において天然に存在する、または合成、組換え、もしくはPCR増幅によって産生されるか否かによらず、対象のもう一つのオリゴヌクレオチドとハイブリダイズすることができるオリゴヌクレオチド(すなわち、ヌクレオチドの配列)を指す。プローブは、一本鎖または二本鎖であってもよい。プローブは、特定の遺伝子配列の検出、同定、および単離において有用である。本発明において用いられる如何なるプローブも、酵素(例えば、ELISAと共に酵素に基づく組織化学アッセイ)、蛍光、放射活性、比色、および発光系が含まれるがそれらに限定されるわけではない任意の検出系において検出可能となるように、任意の「リポーター分子」によって標識されると企図される。本発明は、任意の特定の検出系または標識に限定されないと意図される。
【0040】
「遺伝子発現」という用語は、遺伝子においてコードされる遺伝情報を遺伝子の「転写」を通して(すなわち、RNAポリメラーゼの酵素作用によって)RNA(例えば、mRNA、rRNA、tRNA、またはsnRNA)に変換するプロセスに関し、RNAがタンパク質をコードする場合には、mRNAの「翻訳」を通してタンパク質に変換するプロセスを指す。遺伝子発現は、プロセスにおける多くの段階で調節することができる。「アップレギュレーション」または「活性化」は、遺伝子発現産物(すなわち、RNAまたはタンパク質)の産生を増加させる調節を指し、一方「ダウンレギュレーション」または「抑制」は産生を減少させる調節を指す。アップレギュレーションまたはダウンレギュレーションに関係する分子(例えば、転写因子)はそれぞれ、しばしば「アクチベーター」および「リプレッサー」と呼ばれる。
【0041】
「RNA機能」という用語は、細胞におけるRNA分子の役割を指す。例えば、mRNAの機能はタンパク質への翻訳である。他のRNAはタンパク質に翻訳されず、他の機能を有する;そのようなRNAには、転移RNA(tRNA)、リボソームRNA(rRNA)、および低分子核RNA(snRNA)が含まれるがそれらに限定されるわけではない。RNA分子は細胞において複数の役割を有してもよい。
【0042】
遺伝子発現またはRNA機能を参照して用いる場合の「阻害」という用語は、干渉または相互作用の非存在下での発現または機能のレベルと比較して、遺伝子発現もしくはRNA機能との何らかの干渉または相互作用の結果としての、遺伝子発現またはRNA機能のレベルの減少を指す。阻害は、検出可能な発現もしくは機能が存在しない完全であってもよく、または部分的であってもよい。部分的阻害は、ほぼ完全な阻害からほぼ阻害なしまで及ぶ;典型的に阻害は、少なくとも約50%の阻害、または少なくとも約80%阻害、または少なくとも約90%阻害である。
【0043】
「機能的な組み合わせで」、「機能的な順序で」、および「機能的に連結した」という用語は、所定の遺伝子の転写および/または所望のタンパク質分子の合成を指示することができる核酸分子が産生されるように核酸配列が連結していることを指す。この用語はまた、機能的タンパク質が産生されるようにアミノ酸配列が連結していることを指す。
【0044】
「調節要素」という用語は、核酸配列の発現のいくつかの局面を制御する遺伝子要素を指す。例えば、プロモーターは、機能的に連結したコード領域の転写の開始を促進する調節要素である。他の調節要素はスプライシングシグナル、ポリアデニル化シグナル、終止シグナル等である。
【0045】
真核生物における転写制御シグナルは、「プロモーター」および「エンハンサー」要素を含む。プロモーターおよびエンハンサーは、転写に関係する細胞タンパク質と特異的に相互作用するDNA配列の短いアレイからなる(Maniatis, et al., Science 236:1237, 1987)。プロモーターおよびエンハンサー要素は、酵母、昆虫、哺乳動物および植物細胞における遺伝子を含む、多様な真核生物起源から単離されている。プロモーターおよびエンハンサー要素はまた、ウイルスからも単離されており、プロモーターのような類似の制御要素はまた原核細胞においても見いだされる。特定のプロモーターおよびエンハンサーの選択は、対象となるタンパク質を発現させるために用いられる細胞のタイプに依存する。いくつかの真核細胞プロモーターおよびエンハンサーは広い宿主範囲を有するが、他のプロモーターおよびエンハンサーは限られたサブセットの細胞タイプにおいて機能的である(論評に関しては、Voss, et al., Trends Biochem. Sci., 11:287, 1986;およびManiatis, et al., 前記1987を参照されたい)。
【0046】
本明細書において用いられるように、「プロモーター要素」、「プロモーター」、または「プロモーター配列」という用語は、DNAポリマーのコード領域の5'末端に存在する(すなわち先行する)DNA配列を指す。天然において公知であるほとんどのプロモーターの位置は、転写領域の前に存在する。プロモーターは、遺伝子の発現を活性化するスイッチとして機能する。遺伝子が活性化されると、転写される、または転写に関与すると言われる。転写は遺伝子からのRNAの合成を含む。したがって、プロモーターは、転写調節要素として作用して、同様に遺伝子のRNAへの転写の開始部位を提供する。
【0047】
プロモーターは組織特異的または細胞特異的であってもよい。プロモーターに適用される場合の「組織特異的」という用語は、対象ヌクレオチド配列の選択的発現を、異なるタイプの組織における同じ対象ヌクレオチド配列の発現の相対的非存在下で、特定のタイプの組織に向けることができるプロモーターを指す。プロモーターに適用される場合の「細胞タイプ特異的」という用語は、同じ組織内の異なるタイプの細胞における同じ対象ヌクレオチド配列の発現の相対的非存在下で、特定のタイプの細胞に対象ヌクレオチド配列の選択的発現を向けることができるプロモーターを指す。プロモーターに適用される場合の「細胞タイプ特異的」という用語はまた、単一の組織内の領域において対象ヌクレオチド配列の選択的発現を促進することができるプロモーターを意味する。プロモーターの細胞タイプ特異性は、当技術分野で周知の方法、例えば免疫組織化学染色を用いて評価してもよい。簡単に説明すると、組織切片をパラフィンに抱埋して、パラフィン切片を、その発現がプロモーターによって制御される対象ヌクレオチド配列によってコードされるポリペプチド産物に対して特異的な一次抗体と反応させる。一次抗体に対して特異的である標識された(例えば、ペルオキシダーゼと共役した)二次抗体を切片組織に結合させて、特異的結合を顕微鏡によって(例えばアビジン/ビオチンによって)検出する。
【0048】
プロモーターは構成的または調節型であってもよい。プロモーターを参照する場合の「構成的」という用語は、プロモーターが刺激(例えば、熱ショック、化学物質、光等)の非存在下で、機能的に連結した核酸配列の転写を指示することができることを意味する。典型的に構成的プロモーターは、実質的に如何なる細胞および如何なる組織においてもトランスジーンの発現を指示することができる。
【0049】
対照的に、「調節型」または「誘導型」プロモーターは、刺激(例えば、熱ショック、化学物質、光等)の非存在下での機能的に連結した核酸配列の転写レベルとは異なる、刺激の存在下で機能的に連結した核酸配列の転写レベルを指示することができるプロモーターである。
【0050】
エンハンサーおよび/またはプロモーターは、「内因性」、「外因性」、または「異種」であってもよい。「内因性」エンハンサーまたはプロモーターは、ゲノムにおける所定の遺伝子に本来連結しているエンハンサーまたはプロモーターである。「外因性」もしくは「異種」エンハンサーまたはプロモーターは、連結したエンハンサーまたはプロモーターによって遺伝子の転写が指示されるように、遺伝子操作(すなわち、分子生物学的技術)によって遺伝子に近接して配置されるプロモーターである。例えば、第一の遺伝子と機能的に組み合わせた内因性のプロモーターを、単離、除去し、第二の遺伝子と機能的に組み合わせて配置することができ、それによってそれを第二の遺伝子と機能的に組み合わせた「異種プロモーター」とすることができる。多様なそのような組み合わせが企図される(例えば第一および第二の遺伝子は、同じ種または異なる種由来であり得る)。
【0051】
発現ベクター上の「スプライシングシグナル」の存在によって、しばしば、真核宿主細胞における組換え型転写物のより高レベル発現が起こる。スプライシングシグナルは、一次RNA転写物からのイントロンの除去を媒介し、スプライスドナーおよびアクセプター部位からなる(Sambrook, et al., Molecular Cloning:A Laboratory Manual, 2nd ed., Cold Spring Harbor Laboratory Press, New York(1989)pp.16.7〜16.8)。一般的に用いられるスプライスドナーおよびアクセプター部位は、SV40の16S RNA由来のスプライス接合部である。
【0052】
「ベクター」という用語は、一つの細胞から他の細胞へとDNAセグメントを転移する核酸分子を指し、これにはウイルス起源の核酸分子が含まれる。「媒体」という用語は時に「ベクター」と互換的に用いられる。ベクターは、細胞に発現カセットを転移するために用いてもよく;さらに、もしくはまたは、ベクターはそれによって細胞のトランスフェクションを決定することができるマーカータンパク質、それによってトランスフェクトされた細胞が非トランスフェクト細胞から選択される可能性がある選択タンパク質、またはそれによってリポータータンパク質の発現、活性、もしくは機能に及ぼす影響をモニターすることができるリポータータンパク質をコードする遺伝子が含まれるがそれらに限定されない、さらなる遺伝子を含んでもよい。
【0053】
「発現カセット」という用語は、所望のコード配列およびインビトロまたはインビボのいずれかで機能的に連結したコード配列の発現にとって必要な適当な核酸配列を含む、化学合成または組換え型DNA分子を指す。インビトロでの発現には、転写系および転写/翻訳系における発現が含まれる。インビボでの発現には、特定の宿主細胞および/または生物における発現が含まれる。原核細胞またはインビトロ発現系における発現にとって必要な核酸配列には通常、しばしば他の配列と共にプロモーター、オペレーター(任意)、およびリボソーム結合部位が含まれる。真核細胞インビトロ転写系および細胞は、プロモーター、エンハンサー、ならびに終止およびポリアデニル化シグナルを利用することが知られている。当技術分野において転写鋳型と呼ばれる細菌のRNAポリメラーゼによる発現にとって有用な核酸配列には、ポリメラーゼプロモーター領域の後に所望のRNA配列の相補体が続く鋳型DNA鎖が含まれる。転写鋳型を作製するために、相補鎖を鋳型鎖のプロモーター部分にアニールする。しかし、本発明は、任意の特定の形状に限定されず、公知の全ての系が企図される。
【0054】
「発現ベクター」という用語は、一つまたは複数の発現カセットを含むベクターを指す。そのような発現カセットには、その発現によってRNAi転写物が得られる本発明の発現カセットが含まれる。
【0055】
「トランスフェクション」という用語は、外来DNAを細胞に導入することを指す。トランスフェクションは、リン酸カルシウム-DNA共沈殿、DEAE-デキストランによるトランスフェクション、ポリブレンによるトランスフェクション、ガラスビーズ、電気穿孔、マイクロインジェクション、リポソーム融合、リポフェクション、プロトプラスト融合、細菌感染、ウイルス感染、微粒子銃(すなわち、粒子の衝突)等を含む、当技術分野において公知の多様な手段によって行ってもよい。「トランスフェクト」および「形質転換」(および「トランスフェクトした」および「形質転換された」のような文法的同等物)という用語は、本明細書において互換的に用いられる。
【0056】
「安定なトランスフェクション」または「安定にトランスフェクトした」という用語は、トランスフェクトされた細胞のゲノムへの外来DNAの導入および組み込みを指す。「安定なトランスフェクタント」という用語は、ゲノムDNAに外来DNAが安定に組み込まれた細胞を指す。
【0057】
「一過性のトランスフェクション」または「一過性にトランスフェクトした」という用語は、外来DNAがトランスフェクトした細胞のゲノムに組み入れられていない場合の、細胞への外来DNAの導入を指す。外来DNAは、トランスフェクトした細胞の核に数日間存在する。この間に、外来DNAは、染色体における内因性の遺伝子の発現を支配する調節制御を受ける。「一過性のトランスフェクタント」という用語は、外来DNAを取り込んでいるが、このDNAを組み入れることができなかった細胞を指す。
【0058】
「感染する」および「感染」という用語は、細菌に含まれる核酸配列が標的生物学的試料の一つまたは複数の細胞に導入されるような条件で、標的生物学的試料(例えば、細胞、組織等)を細菌と共に同時インキュベートすることを指す。
【0059】
「衝突する」、「衝突」、および「微粒子銃衝突」という用語は、標的生物学的試料における細胞の細胞膜の創傷を作製するために、および標的生物学的試料への粒子の流入を行うために、標的生物学的試料(例えば、細胞、組織等)に向けて粒子を加速させるプロセスを指す。微粒子銃衝突のための方法は、当技術分野で公知であり(例えば、その内容物が参照により本明細書に組み入れられる、米国特許第5,584,807号を参照されたい)、市販されている(例えば、ヘリウムガス駆動微小発射物加速器(PDS-1000/He, BioRad))。
【0060】
本明細書において用いられるように、「トランスジーン」という用語は、細胞に外来遺伝子を導入することによって生物に留置される外来遺伝子を指す。「外来遺伝子」という用語は、実験操作によって動物のゲノムに導入された任意の核酸(例えば、遺伝子配列)を指し、これには、導入された遺伝子が天然に存在する遺伝子と同じ位置に存在しない限り、その動物において見いだされる遺伝子配列が含まれてもよい。
【0061】
「宿主細胞」という用語は、異種遺伝子を複製および/または転写および/または翻訳することができる任意の細胞を指す。このように、「宿主細胞」は、インビトロまたはインビボに存在するか否かによらず、任意の真核または原核細胞(例えば、大腸菌のような細菌細胞、酵母細胞、哺乳動物細胞、鳥類細胞、両生類細胞、植物細胞、魚類細胞、および昆虫細胞)を指す。例えば宿主細胞はトランスジェニック動物に存在してもよい。
【0062】
「選択マーカー」という用語は、選択マーカーが発現される細胞、または検出され得る形質(例えば、発光または蛍光)の発現を付与する細胞に対して、抗生物質または薬物に対する抵抗性を付与する活性を有する酵素をコードする遺伝子を指す。選択マーカーは、「陽性」または「陰性」であってもよい。陽性選択マーカーの例には、G418およびカナマイシンに対する抵抗性を付与するネオマイシンホスホトランスフェラーゼ(NPTII)遺伝子、ならびに抗生物質ヒグロマイシンに対する抵抗性を付与する細菌ヒグロマイシンホスホトランスフェラーゼ遺伝子(hyg)が含まれる。陰性選択マーカーは、適当な選択培地において増殖させた場合に、その発現が細胞に対して細胞障害性である酵素活性をコードする。例えば、HSV-tk遺伝子は陰性選択マーカーとして一般的に用いられている。ガンシクロビルまたはアシクロビルの存在下で増殖させた細胞におけるHSV-tk遺伝子の発現は、細胞障害性である;このように、ガンシクロビルまたはアシクロビルを含む選択培地における細胞の増殖は、機能的HSV TK酵素を発現することができる細胞に対して選択する。
【0063】
「リポーター遺伝子」という用語は、アッセイされてもよいタンパク質をコードする遺伝子を指す。リポーター遺伝子の例には、ルシフェラーゼ(例えば、その全体が参照により本明細書に組み入れられる、deWet et al., Mol. Cell. Biol. 7:725(1987)、ならびに米国特許第6,074,859号、第5,976,796号、第5,674,713号、および第5,618,682号を参照されたい)、緑色蛍光タンパク質(例えば、GenBankアクセッション番号U43284;多くのGFP変種がClonTech Laboratories, Palo Alto, CAから市販されている)、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ、β-ガラクトシダーゼ、アルカリホスファターゼ、および西洋ワサビペルオキシダーゼが含まれるが、それらに限定されるわけではない。
【0064】
遺伝子を参照する場合の「野生型」という用語は、天然に存在する起源から単離された遺伝子の特徴を有する遺伝子を指す。遺伝子産物を参照する場合の「野生型」という用語は、天然に存在する起源から単離された遺伝子産物の特徴を有する遺伝子産物を指す。本明細書において用いられるように物質に適用される場合の「天然に存在する」という用語は、物質が天然において見いだされ得るという事実を指す。例えば、天然の起源から単離することができる生物(ウイルスを含む)に存在する、および実験室においてヒトによって意図的に改変されていないポリペプチドまたはポリヌクレオチド配列は、天然に存在する。野生型遺伝子は、集団において最も頻繁に観察される遺伝子であり、このように遺伝子の「正常」または「野生型」型として任意で指定される。対照的に、遺伝子または遺伝子産物を参照する場合の「改変」または「変異体」という用語はそれぞれ、野生型遺伝子または遺伝子産物と比較した場合に、配列および/または機能的特性の改変(すなわち、変化した特徴)を示す、遺伝子または遺伝子産物を指す。天然に存在する変異体は単離され得ることが認められ;これらは野生型遺伝子または遺伝子産物と比較した場合に変化した特徴を有するという事実によって同定される。
【0065】
DNAを参照して用いる場合の「アンチセンス」という用語は、DNA二本鎖のセンス鎖に対して相補的である配列を指す。DNA二本鎖の「センス鎖」は、その天然の状態で細胞によって「センスmRNA」に転写されるDNA二本鎖における鎖を指す。このように、「アンチセンス」配列は、DNA二本鎖における非コード鎖と同じ配列を有する配列である。「アンチセンスRNA」という用語は、標的一次転写物またはmRNAの全てまたは一部と相補的であって、およびその一次転写物またはmRNAのプロセシング、輸送、および/または翻訳を干渉することによって、標的遺伝子の発現を遮断するRNA転写物を指す。アンチセンスRNAの相補性は、特異的遺伝子転写物の如何なる一部に対してであってもよく、すなわち、5'非コード配列、3'非コード配列、イントロン、またはコード配列に対する相補性であってもよい。さらに、本明細書において用いられるように、アンチセンスRNAは、遺伝子発現を遮断するためにアンチセンスRNAの有効性を増加させるリボザイム配列の領域を含んでもよい。「リボザイム」は触媒的RNAを指し、これには配列特異的エンドリボヌクレアーゼが含まれる。「アンチセンス阻害」は、標的タンパク質の発現を阻止することができるアンチセンスRNA転写物の産生を指す。
【0066】
「siRNA」という用語は、低分子干渉RNAを指す。いくつかの態様において、siRNAは、長さが約18〜25ヌクレオチドの二本鎖または二本鎖領域を含む;siRNAはしばしば、それぞれの鎖の3'末端で約2〜4個の不対ヌクレオチドを含む。siRNAの二本鎖または二本鎖領域の少なくとも一つの鎖は、標的RNA分子と実質的に相同である、または実質的に相補的である。標的RNA分子に対して相補的な鎖が、「アンチセンス」鎖であり、標的RNA分子に対して相同な鎖が「センス鎖」であり、siRNAアンチセンス鎖に対しても相補的である。siRNAはまた、さらなる配列を含んでもよく;そのような配列の非制限的な例には、連結配列、またはループと共に幹構造および他の折り畳み構造が含まれる。siRNAは、無脊椎動物および脊椎動物においてRNA干渉を誘発するために、ならびに植物における転写後遺伝子沈黙化の際の配列特異的RNA分解を誘発するために、重要な中間体として機能するように思われる。
【0067】
「標的RNA分子」という用語は、それに対してRNAi分子が相同または相補的であるRNA分子を指す。典型的に、そのような相同性または相補性が約100%である場合、RNAiは、標的RNA分子の発現を沈黙化または阻害することができる。プロセシングされたmRNAはsiRNAの標的であると考えられるが、本発明は、如何なる特定の仮説にも限定されず、そのような仮説は本発明の実践にとって必要ではない。このように、他のRNA分子も同様にRNAiの標的となる可能性があると企図される。そのような標的には、非プロセシングmRNA、リボソームRNAおよびウイルスRNAゲノムが含まれる。
【0068】
「ds siRNA」という用語は、siRNA分子が二つのRNAポリヌクレオチドを含むように、二本鎖構造を形成するRNAの異なる二つの非連結鎖を含むsiRNA分子を指す。
【0069】
「ヘアピンsiRNA」という用語は、siRNA分子が一本鎖RNAポリヌクレオチドを含むように、二本鎖の鎖が一つまたは双方の末端で接続または隣接している少なくとも一つの二本鎖領域を含むsiRNA分子を指す。アンチセンス配列または標的RNAと相補的な配列は、少なくとも一つの二本鎖領域の一部である。
【0070】
「RNA干渉」または「RNAi」という用語は、RNAi分子(例えば、siRNAまたはmiRNA)によって遺伝子の発現を沈黙化または減少させることを指す。これは、沈黙化した遺伝子の配列に対してその二本鎖領域において相同であるRNAi分子によって開始される、動物および植物における配列特異的転写後遺伝子沈黙化のプロセスである。遺伝子は生物に対して内因性または外因性であってもよく、染色体に組み入れられて存在してもよく、またはゲノムに組み入れられていないトランスフェクションベクターに存在してもよい。遺伝子の発現は、完全または部分的に阻害される。RNAiはまた、標的RNAの機能を阻害すると見なされる可能性があり;標的RNAの機能は完全または部分的であってもよい。
【0071】
「マイクロRNA分子」(「miRNA」)は、哺乳動物を含む広範な真核生物において見いだされている低分子の非コードRNA分子である。miRNA前駆体は、低分子「ヘアピン」RNAを形成する特徴的な二次構造を共有する。「miRNA」という用語には、対応する長い一次転写物(プリ-miRNA)およびプロセシングされた前駆体(プレ-miRNA)と共に、プロセシングされた配列が含まれる。遺伝的および生化学的研究によって、miRNAは、RNAseIIIファミリーのヌクレアーゼであるダイサーによってその成熟型へとプロセシングされ、RNAによる干渉(RNAi)および関連経路を通して機能して、標的遺伝子の発現を調節することが示されている(Hannon 2002, Nature 418:244〜251;Pasquinelli et al. 2002, Annu. Rev. Cell. Dev. Biol. 18:495〜513)。miRNAは合成沈黙化誘発物質である「低分子ヘアピンRNA」(shRNA)として、哺乳動物細胞における遺伝子発現の実験的操作を許容にするような形状にされてもよい(Paddison et al. 2002, Cancer Cell 2:17〜23)。shRNAによる沈黙化は、RNAi機構を含み、RNAiの識別特性である低分子干渉RNA(siRNA)の産生と相関する。
【0072】
「細胞終着シグナル」という用語は、RNA分子の輸送を核外に向ける、またはRNA分子の核内での保持を指示するRNA分子の一部であり;そのようなシグナルはまた、特定の細胞下位置にRNA分子を向ける可能性がある。そのようなシグナルは、コードされたシグナルであってもよく、またはそれは転写後に付加されてもよい。
【0073】
「配列非特異的遺伝子沈黙化」という用語は、転写後の哺乳動物細胞において遺伝子発現を沈黙化することを指し、約30塩基対より大きいdsRNAによって誘導される。これは、約30塩基対より大きいdsRNAが、タンパク質PKRおよび2',5'-オリゴヌクレオチドシンテターゼ(2',5'-AS)に結合してこれらを活性化するインターフェロン反応によるように思われる。活性化PKRは、翻訳開始因子eIF2αのリン酸化によって翻訳を停止して、活性化2',5'-ASは、2',5'-オリゴヌクレオチド活性化リボヌクレアーゼLによるmRNA分解を引き起こす。これらの反応は、誘導型dsRNAに対して本質的に配列非特異的である。
【0074】
核酸に関連して用いる場合の、「単離されたオリゴヌクレオチド」のような、「単離された」という用語は、同定されて、その天然の起源において通常会合している少なくとも一つの混入核酸から分離されている核酸配列を指す。単離された核酸は、天然において見いだされる場合とは異なる型または状況で存在する。対照的に、DNAおよびRNAのような単離されていない核酸は、それらが天然に存在する状態で見いだされる。例えば、所定のDNA配列(例えば、遺伝子)は、隣接する遺伝子の近傍で宿主細胞染色体において見いだされ;特異的タンパク質をコードする特異的mRNA配列のようなRNA配列は、多数のタンパク質をコードする多数の他のmRNAとの混合物として細胞において見いだされる。しかし、特定のタンパク質をコードする単離された核酸には、例として、タンパク質を通常発現する細胞におけるそのような核酸が含まれ、この場合核酸は、天然の細胞の位置とは異なる染色体の位置に存在するか、またはそうでなければ天然において見いだされる異なる核酸配列によって隣接される。単離された核酸またはオリゴヌクレオチドは、一本鎖または二本鎖型で存在してもよい。単離された核酸またはオリゴヌクレオチドを利用してタンパク質を発現させる場合、オリゴヌクレオチドは、最小限、センスまたはコード鎖を含む(すなわち、オリゴヌクレオチドは一本鎖であってもよい)が、センスおよびアンチセンス鎖の双方を含んでもよい(すなわち、オリゴヌクレオチドは二本鎖であってもよい)。
【0075】
「精製された」という用語は、その天然の環境から除去、単離、または分離されている核酸またはアミノ酸配列である分子を指す。したがって、「単離された核酸配列」は、精製核酸配列である。「実質的に精製された」分子は、それらが天然に会合している他の成分を少なくとも60%、好ましくは少なくとも75%、およびより好ましくは少なくとも90%含まない。本明細書において用いられるように、「精製された」または「精製する」という用語はまた、試料から混入物を除去することも指す。混入タンパク質の除去によって、試料中の対象ポリペプチドの百分率が増加する。もう一つの例において、組換え型ポリペプチドは植物、細菌、酵母、または哺乳動物宿主細胞において発現され、ポリペプチドは、宿主細胞タンパク質の除去によって精製される;組換え型ポリペプチドの百分率はそれによって試料中で増加する。
【0076】
「試料」という用語はその最も広い意味において用いられる。一つの意味において、これは植物細胞または組織を指すことができる。もう一つの意味において、これには任意の起源から得た標本または培養物と共に、生物学的および環境試料が含まれることを意味する。生物学的試料は植物または動物(ヒトを含む)から得てもよく、液体、固体、組織、および気体を含んでもよい。環境試料には、表面物質、土壌、水、および産業試料のような環境材料が含まれる。これらの例は本発明に適用可能な試料のタイプの制限であると解釈してはならない。
【0077】
発明の説明
本発明は、RNA干渉を通しての遺伝子特異的沈黙化に関し、特に、RNAi分子を発現するためのベクターに関する。いくつかの態様において、本発明は、RNAi分子の誘導性発現のための、および/またはRNAi分子の長期発現のための組成物ならびに方法を提供する。したがって、本明細書に記載の組成物および方法は、細胞における調節可能なおよび/または持続的な遺伝子特異的沈黙化に適している。
【0078】
RNA干渉(RNAi)は、dsRNA(低分子干渉RNA;siRNA)によって誘導される転写後遺伝子沈黙化プロセスであり、遺伝子発現を調節するために用いられている。一般的に、RNAiは、細胞を二本鎖siRNAに接触させることによって行われている。しかし、細胞外でのRNAの操作は、RNAの分解に対する感受性のために冗長である。本発明は、低分子干渉RNA(siRNA)分子をコードするデオキシリボ核酸(DNA)組成物、または中間体siRNA分子を提供することによって、RNAを操作する必要性を回避する。
【0079】
miRNA(マイクロRNA)は3'UTRに結合する低分子細胞RNAであり、哺乳動物細胞において標的化メッセージの翻訳を阻害すると考えられている(いくつかは切断を媒介する可能性がある)。それらは一般的に、その標的配列に対して少なくとも一つのミスマッチを含む。これは、mRNAの切断を促進すると考えられ、一般的にその標的配列に対してミスマッチを含まないsiRNAとは対照的である。miRNAは、発達および神経細胞に関係する遺伝子のみならず、広範な遺伝子の発現を非常に良好に調節する可能性があるように思われるが、メカニズムの理解は本発明を実践するために必要ではなく、本発明は如何なる特定のメカニズムにも限定されない。
【0080】
miRNAは細胞において100〜500 bpの前駆体RNA(プレ-miRNA)として発現され、これはプロセシングを受けて〜70 bpの成熟miRNAを形成する。miRNAによる遺伝子の調節を理解するために、研究者らは、長いプレmiRNAまたは成熟miRNAのいずれかを発現する。本発明のプロモーター(例えば、U1プロモーター)からmiRNAのいずれかの型を発現する長所は、これらの配列において終止ボックス配列がU6(UUUUU)の終止配列より統計学的に起こる確率が低いという点である。実際に、Wellcome Trust Sanger Institute(Griffiths-Jones, Nucl. Acids. Res., 32:D109〜D111, 2004)のmiRNA登録データベースの研究から、調べたmiRNA 750個のうち、約半数がUUUU終止配列を有し、130個がUUUUU終止配列を有することが判明した。いずれもU1終止配列を有さないことが判明した。
【0081】
いくつかの好ましい態様において、本発明は、pol II snRNAプロモーター(例えば、U1-5 snRNAプロモーター)を有するベクターを提供する。これは、pol IIIプロモーターとして作用するU6プロモーターとは対照的である。本発明は、pol II snRNAプロモーターの起源または同一性によって限定されない。いくつかの態様において、ベクターはヒトpol II snRNAプロモーターを含む。ヒトpol II snRNAコアプロモーターは、一つのみの重要な要素、すなわち近位配列プロモーター(PSE)を含む。遠位配列プロモーター(DSE)は、コアプロモーターからの転写を増強するように作用するが機能にとって必要ではない。多数の参考文献が様々な生物からのpol IIプロモーターを記述してその特徴を調べている(例えば、Li et al., J. Virol., 72:4205, 1998;Kwek et al., Nat. Struct. Biol, 9:800, 2002;Abounader et al., Methods Mol. Biol., 252:209, 2004を参照されたい)。説明目的のために、本発明は、以下のU1プロモーターの文脈において記述される。本発明はそのような態様に限定されない。
【0082】
U1プロモーターは、pol IIプロモーターであり、mRNA pol IIプロモーターと同じRNAポリメラーゼII酵素サブユニットの多くによって認識される。この類似性には、因子TFIIAによる認識が含まれる。対照的に、RNAポリメラーゼIIIは、TFIIAを必要としないように思われる。誘導系は、RNAポリメラーゼを活性化する転写因子を含んだ。例えば、VP16は、tet-onおよびtet-off系の一部である転写因子である。VP16は、TFIIAと相互作用して転写を促進することによって機能する。U1プロモーターはTFIIAによって認識されることから、TFIIAと相互作用する転写因子を利用する誘導系は、U1プロモーターの調節において有用である。対照的に、RNAポリメラーゼIIIプロモーターはこのタイプの調節に対して感受性がない。
【0083】
いくつかの好ましい態様において、本発明のベクターは、RNAi分子(例えば、miRNAまたはsiRNA)、またはRNAi分子前駆体に機能的に会合したpol II snRNAプロモーターを単独で、または他の対象配列(リポーター分子等)と共に含む。本発明の開発の際に行われた実験は、RNAi分子の発現(最大の50%またはそれより多い)が7日またはそれより多い日数延長したという意外な結果を示した。これは、典型的に約3日間の発現を観察するこれまでの系とは対照的である。このように、本発明は、延長された(例えば、4、5、6、7日またはそれより多い日数)RNAi分子の発現のための組成物および方法を提供する。
【0084】
本発明の開発の際に行われた実験は、プロモーターと干渉することなく、pol II snRNAプロモーターと発現された配列との間に制限酵素配列を用いてもよいことを示した。このように、多様な他の一般的に用いられるベクター成分の他に、クローニングまたはマルチクローニング部位を本発明のベクターにおいて自由に用いてもよい。
【0085】
先行技術の方法とは逆に、本発明のベクターは、RNAi分子を有するより長い配列をコードする必要なくRNAi分子を直接組み入れてもよい。先行技術の方法は典型的に、適切に発現させるためにRNAi分子をもう一つの遺伝子に埋め込む。本発明のベクターは、非常に短い転写された配列によって良好に作用する(転写および終止する)ことが見いだされており、他のコード配列を含める必要がない。本発明の開発の際に行われた実験はまた、pol II snRNAプロモーター(例えば、U1プロモーター)を有するベクターを、グアノシン塩基で始まるRNAi成分を発現させるために用いてもよいことを示した。U1プロモーターは典型的に、アデノシンで始まる配列を転写する。
【0086】
いくつかの好ましい態様において、本発明のベクターは、pol II snRNA終止ボックス(例えば、U1プロモーターを用いる場合にはU1終止ボックス)を含む。特に好ましい態様において、スペーサーは、インサートから終止ボックスを分離する。本発明の開発の際に行われた実験は、短いスペーサー(例えば、3塩基)が良好に作用しないことを見いだした。10塩基のスペーサーが好ましかった。
【0087】
本発明はまた、本発明のベクターおよびキットを作製ならびに用いるための方法を提供する。例えば、RNAi分子または前駆体を有する本発明のベクターを、インビトロまたはインビボでのRNA干渉実験において、研究、診断、薬物スクリーニング、および治療応用のために、一過性にまたは安定に用いてもよい。例えば、いくつかの態様において、ベクターはウイルスベクター(例えば、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、レンチウイルス等)を含む。トランスフェクション効率を増加させる他に、ウイルス感染症はまた、一次および神経細胞株を含む、他のトランスフェクション法に対して感受性を示さない細胞のトランスフェクションの利点を提供する可能性がある。いくつかの態様において、ベクターは、研究または治療的用途のために、生物においてRNAi分子を発現させるための遺伝子治療ベクターとして用いられる。
【0088】
いくつかの態様において、ベクターは、RNAi分子の誘導性発現を許容する配列を含む(実施例5を参照されたい)。いくつかの態様において、誘導性発現は組織特異的である。例えば、組織特異的プロモーターを用いて、RNAi分子の発現と干渉するリプレッサーまたはインデューサーの発現を開始させてもよい。この系は、RNAi分子と異なるベクターまたは同じベクター上で含まれてもよい。制御要素の挿入、U1プロモーター配列の制御要素との置換、または最小のU1プロモーターへの制御要素の付加が含まれるがそれらに限定されるわけではない多数の戦略を用いて、誘導系をプロモーターに組み入れることができる。いくつかの態様において、組織特異的プロモーター(例えば、ヒト、マウス、ラット等)を用いる。いくつかの態様において、プロモーター配列の組織特異的イソ型を用いる(例えば、Caceres et al., Nucleic Acids Research, 20:4247(1992))。
【0089】
本発明はまた、上記のベクターを含むキットまたはそのようなベクターの構築を許容する成分を含むキットを提供する。例えば、いくつかの態様において、本発明は、対象RNAi分子をユーザーが挿入することができる形状であるpol II snRNAプロモーターを含む、直線状または直線状にすることができるベクターを提供する。例えばいくつかのそのような態様において、ユーザーは、ベクターを直線状にして、対象二本鎖RNAi分子と混合してライゲーションする。このように、そのような態様において、キットは好ましくはベクター、リガーゼ、リガーゼ緩衝液、アニーリング緩衝液、および対照試料(陽性および陰性対照)を提供する。キットにはまた、説明書が含まれてもよい。これは、キットがインビトロ診断用製品または治療用製品の一部として用いられる場合に特に当てはまる。
【0090】
他のキットの態様において、キットは、例えばPCRまたは他のプライマー伸長法を用いて、ユーザーが二本鎖RNAi発現カセットを産生することができる成分と共に提供される。例えば、ベクターは直線状または直線状にすることができるベクターとして提供される。好ましい態様において、ベクターは、自己ライゲーションを防止または低減するために、キットにおいて直線状で、平滑末端を有し、仔ウシ腸アルカリホスファターゼによって脱リン酸化されて提供される。キットはさらに、pol II snRNA配列を含む増幅鋳型を含む。キットはさらに、プロモーター配列と相補的で、かつプロモーター配列を含む鋳型の一方の末端と相補的なプライマー(例えば、5'プライマー)を含む。ユーザーは、RNAi分子の3'末端がpol II snRNA鋳型配列の他方の末端の一部と相補的になるように、キットにおいて提供されるプライマーの反対方向に伸長プライマーとして作用するような形状を有するRNAi分子の一つの鎖を提供する。プライマーの存在下での鋳型のPCR増幅は、RNAi分子に機能的に会合したpol II snRNAプロモーターを有する二本鎖産物を生成する。次に、このコンストラクトはベクターに容易に組み入れられる。このように、そのようないくつかの態様において、キットは、PCRマスターミックス(すなわち、PCR反応を行うために必要な成分の全てを有する)、ベクター、プロモーター鋳型、およびプライマーを含む。当業者は、キットにおいてそれらを提供していなくとも、ユーザーがこれらの成分の任意の一つまたは複数を提供し得ると認識するであろう。好ましい態様において、ヘアピン構造(例えばRNAi分子において見いだされるヘアピン)の存在下で効率的な増幅または伸長を許容するポリメラーゼを用いる。本発明の開発の際に行われた実験から、Taqポリメラーゼ酵素がこれらの増幅反応において有効に作用しないことが判明した。さらなる実験は、Tliポリメラーゼ(Promega Corporation, Wisconsin)を、選択される有効な酵素として同定した。当業者はまた、そのようなベクターを産生する様々な代替の方法を認識するであろう。
【0091】
いくつかの態様において、本発明は、多くのRNAi分子の大量(high-volume)クローニングと共に用いるためのキットを提供する。例えば、いくつかの態様において、キットは、オーバーハンド(例えば、制限酵素消化によって生成された4〜12塩基オーバーハンド)を有する異なる二つの二本鎖構造を提供するような形状を有する核酸成分を含む。図9は、そのような一つの態様を示す。二つの成分は、相補鎖上のギャップがRNAi分子配列から生成されるように、RNAi分子(例えば、ヘアピンオリゴヌクレオチド)を含む配列が、オーバーハングのそれぞれとハイブリダイズするような形状を有する(すなわち、RNAi分子を有する配列の5'末端がオーバーハンドの一つとハイブリダイズして、3'末端が他方にハイブリダイズする)。次に配列をライゲーションして、ポリメラーゼまたは他の適した酵素がギャップを塞いで、RNAi分子を含む配列を含むベクターの二本鎖配列を作製する。そのようなキットは、無作為の多数のRNAi配列の挿入にとって特に有用である。そのような態様において、オーバーハングに対するハイブリダイゼーションおよびライゲーションを可能にするために、RNAi分子を含む配列の末端が公知であるが、RNAi配列は未知であってもよい。このように、RNAi配列を含むベクターの大きいライブラリを作製してもよい。
【0092】
実験
以下の実施例は、本発明の特定の好ましい態様および局面を示してさらに図示するために提供されるのであって、その範囲を制限すると解釈されない。
【0093】
以下の実験の開示において、以下の省略語を適用する:eq(等量);M(モル濃度);μM(マイクロモル濃度);N(規定);mol(モル);mmol(ミリモル);μmol(マイクロモル);nmol(ナノモル);g(グラム);mg(ミリグラム);μg(マイクログラム);ng(ナノグラム);lまたはL(リットル);ml(ミリリットル);μl(マイクロリットル);cm(センチメートル);mm(ミリメートル);μm(マイクロメートル);nm(ナノメートル);℃(セ氏℃);U(単位)、mU(ミリ単位);min.(分);sec.(秒);%(パーセント);kb(キロベース);bp(塩基対);PCR(ポリメラーゼ連鎖反応);WT(野生型);SN(上清);およびRS(制限部位)。
【0094】
実施例1
U1プロモーターRNAiベクターの作製
対照ベクターの作製
siSTRIKE(商標)U6ヘアピンクローニングシステム(Promega Corporation)のための技術マニュアル246に記述されているように、直線状ベクターpsiSTRIKE(商標)基本ベクターおよびpsiSTRIKE(商標)ピューロマイシンベクターを用いてウミシイタケルシフェラーゼ発現を阻害するために、U6プロモーターを含むsiRNAヘアピンコンストラクトを作製するための陽性対照ベクターを調製した。オリゴヌクレオチド

をアニールして、説明書に従ってpsiSTRIKE(商標)基本ベクターにライゲーションして、図5Aのウミシイタケルシフェラーゼヘアピン配列インサートを生成した(配列番号:17)。強調された配列は、ヘアピンループ構造を形成するヌクレオチドである。ループは、ヘアピンに含まれるが、強調されていない。非特異的ヘアピンコンストラクトも同様に作製して陰性対照とした。
【0095】
U1プロモーター配列が単独でウミシイタケルシフェラーゼ発現の阻害を引き起こすか否かを決定するために、U1プロモーター制御配列を調製した。U1プロモーターを、GenBankアクセッション番号J00318からのU1プロモーター配列40-431ヌクレオチドを含むpH1U1ベクター(Dr. James Dahlberg博士からの寄贈、University of Wisconsin Madison)から、5'プライマー

および3'プライマー

を用いて増幅した。増幅産物を、下記に詳述するようにいくつかの実験の「プロモーター対照」として用いた。増幅産物の3'末端を図5Bに示し(配列番号:18)、完全長の増幅産物を配列番号:25

として提供する。
【0096】
試験ベクターの構築
最適なヘアピンsiRNA発現および標的遺伝子の阻害にとって有用なU1プロモーター配列および任意のヌクレオチドスペーサー特色を定義するために、いくつかのベクターを構築した。簡単に説明すると、U1プロモーター配列をウミシイタケルシフェラーゼヘアピン配列の5'に組み入れて、スペーサーヌクレオチドをヘアピンループ構造と終止ボックス領域との間に挿入した。ベクターコンストラクトは、その全内容物が参照により本明細書に組み入れられる、siLentGene(商標)-2 U6ヘアピンクローニングシステム(Promega Corporation)に関する技術マニュアル247において説明されるとおりに作製し、増幅は、U1プロモーターの鋳型としてpH1U1ベクターを用いて行った。増幅産物を、技術文献に記述されるように、psiLentGene(商標)基本ベクターおよびpsiLentGene(商標)ピューロマイシンベクターにライゲーションした。
【0097】
増幅のために用いられるオリゴヌクレオチド対には、対1

が含まれ、これは、最終的なヘアピン構造と終止配列(配列番号:19)との間にヌクレオチドスペーサーを組み入れていない、図6Aのウミシイタケルシフェラーゼヘアピン配列を生成した。強調された配列は、ヘアピン構造を形成するヌクレオチドであり、四角で囲んだヌクレオチドは、正常なU1プロモーター配列に対する付加を表し、下線はヌクレオチドシトシンおよびその相補的グアニンの欠失を表す。増幅のための他のヌクレオチド対には、対2

が含まれ、これは最終的なヘアピンループ構造と終止配列(配列番号:20)との間に10 bpのスペーサーを有する図6Bのウミシイタケルシフェラーゼヘアピン配列を生成した。増幅のために用いた最終的なヌクレオチド対には、対3

が含まれ、これは最終的なヘアピンループ構造と終止配列(配列番号:21)との間に3 bpのスペーサーを有する図6Cのウミシイタケルシフェラーゼヘアピン配列を生成した。
【0098】
細胞のトランスフェクション
哺乳動物細胞における発現に関して最適化したウミシイタケルシフェラーゼコンストラクトを安定にトランスフェクトしたHeLa細胞を、U1プロモーターコンストラクトを試験するために用いた。HeLa細胞を産物の技術文献(ML001, Rev. 1/04)に記述されているように、TransIT(登録商標)-LT1トランスフェクション試薬(Mirus Corporation)を用いてトランスフェクトした。簡単に説明すると、細胞を、白色のウェルの透明な底の96ウェルプレート(Costar)において、10%FBSおよび1%各ペニシリンおよびストレプトマイシンを加えたDMEMを含む完全HeLa培地の全量100μl中に細胞3000個/ウェルで播種して、5%CO2において37℃で終夜インキュベートした。翌日、TransIT(登録商標)-LT1試薬36μlをDMEM 3 mlに加える段階、および混合物を室温で15分間インキュベートする段階によってトランスフェクション複合体を調製した。ベクターDNAをLT1/DMEM混合物に0.1μg/ウェルで加えて、LT1/DMEM/DNA混合物を室温でさらに20分間インキュベートさせた。トランスフェクション混合物を加える直前に、培地を細胞上で交換して、LT1/DMEM/DNA混合物25μlを細胞を含む各ウェルに加えた。それぞれの異なるDNAコンストラクトに関して同じ技法を行った。トランスフェクトした細胞を5%CO2において37℃で終夜インキュベートした。トランスフェクションの翌日、先に記述したように、トランスフェクション培地を完全な増殖培地と交換した。
【0099】
トランスフェクションの2日後、ウミシイタケルシフェラーゼビビレン(Promega Corporation)の60μM細胞透過性コエレントラジン基質を各ウェルに加えて、細胞を室温で2分間インキュベートした。2分間のインキュベーションの後、ウミシイタケルシフェラーゼ発現を反映する発光を、FLUOstar Optima多重検出プレートリーダー(BMG Labtech)においてn=6で測定し、ウミシイタケ相対光単位(RLU)として報告した。細胞の生存率をアッセイして、ファイアフライルシフェラーゼRLUとして報告した直後に、技術文献(TM288、Promega Corporation)において定義されているように、CellTiter-Glo(登録商標)発光細胞生存率アッセイを用いて、ウミシイタケルシフェラーゼ検出を行った。ウミシイタケルシフェラーゼ媒介発光を生存細胞に対して標準化するために、CellTiter-Glo(登録商標)発光細胞生存率アッセイにおいて生成された光の単位によってウミシイタケRLUを除した。さらに、特異的ウミシイタケルシフェラーゼ阻害に関連したウミシイタケRLUの量を決定するために、非特異的ヘアピン対照DNAを用いて生成されたRLUによってウミシイタケ特異的RLUを除した。ウミシイタケ発光の低減を、標準化に基づいて「%阻害」として表す。
【0100】
結果
図1に示すように、ウミシイタケルシフェラーゼ遺伝子発現の転写およびその後の阻害において、U6プロモーター(プライマーセットAおよびBならびに関連する構築)をU1プロモーター(プライマーEおよびFを含むプライマー対1ならびに関連する構築)と比較した場合、3'末端でのシトシンの欠失と3'末端からシトシン8ヌクレオチドの付加を有するU1プロモーター領域は、psiSTRIKEベクター系のU6プロモーターと同様にウミシイタケルシフェラーゼ発現を阻害しなかった。しかし、シトシンの付加または欠失を伴わず、およびヘアピン構造と終止ボックスとの間に10塩基対のスペーサーに会合したU1プロモーター領域を用いると、図2に示すようにU6プロモーターの場合と同等の阻害が得られた。この阻害はピューロマイシン選択遺伝子がベクターに存在するか否かによらず認められた。
【0101】
実施例2
哺乳動物細胞におけるヘアピンsiRNAの長期間の一過性の発現
ウミシイタケルシフェラーゼの阻害のためのヘアピンsiRNAを含むDNAコンストラクトを、既に記述されているとおりに調製した。用いたU1プロモーター領域は、実施例1に記述するように10 bpのスペーサーインサートを有するDNAコンストラクトについて概要したとおりであり、ヘアピン構造と終止ボックスとの間のスペーサー配列は、実施例1の10 bpスペーサー領域と同じであり、チミジン2個をスペーサー領域の5'末端に付加して12 bpのスペーサーを作製した。ダイサーがdsRNAを切断する場合に生成するヌクレオチドオーバーハングを模倣する試みで、これらのさらなるチミジンをスペーサー領域に付加した。U1プロモーターおよびsiRNAインサートを生成するために用いたオリゴヌクレオチドには、センスプライマー

およびアンチセンスプライマー

が含まれ、図7Aのインサートを生成した(配列番号:22)。強調された配列は標的ヘアピン構造を形成するであろうヌクレオチドである。ループはヘアピンの一部であるが、強調されていない。下線の配列は、スペーサー領域におけるさらなるヌクレオチドである。実施例1に記述したU6プロモーターコンストラクトを比較のために用いた。
【0102】
トランスフェクションは実施例1に記述したとおりに実施したが、細胞を半分の細胞密度(1.75×105個/ウェル)でトランスフェクトして7日間増殖させた。試料を多数の組でトランスフェクトして、トランスフェクション後3、5、および7日目に細胞を回収してアッセイした。トランスフェクションの2、4、および6日後に、培地を完全HeLa培地に変更した。ウミシイタケルシフェラーゼ阻害および細胞生存率のアッセイおよび標準化の計算は、同様に実施例1に記述したようにトランスフェクション後3、5、および7日目に行った。
【0103】
結果
図3において認められるように、ウミシイタケルシフェラーゼ発現の長期阻害は、U1プロモーターをウミシイタケヘアピンRNAの発現のために用いた場合では、7日間認められたのに対し、U6プロモーターコンストラクトは同じ期間で長期間の発現を示さなかった。U1コンストラクトによる発現の阻害は7日間の期間で約60%またはそれより多く残っていたのに対し、U6コンストラクトによる7日目の阻害はU1コンストラクトに関して観察された値の約30%、または半分まで低下した。同様に、U6プロモーターヘアピンsiRNAに関するトランスフェクション後3日目でのウミシイタケルシフェラーゼ発現の最初の阻害は、U1プロモーター系に関して認められた阻害(平均値は約83%阻害)より小さかった(平均値は約69%阻害)。
【0104】
実施例3
ヘアピン発現と終止配列に関する要件
U6プロモーターおよび終止配列を含むDNAコンストラクトならびにU1プロモーターおよび終止ボックスを含むDNAコンストラクトを、実施例1に記述されるとおりに調製した。比較目的のために、終止配列の非存在下でU6およびU1プロモーターを含むさらなるDNAコンストラクトを作製した。終止配列を含まないU6プロモーターコンストラクトに関して、以下のプライマー:センスプライマー

およびアンチセンスプライマー

を用いて、図7Bのヘアピンインサート(配列番号:23)を生成した。終止ボックス配列を含まないU1プロモーターコンストラクトは、以下のプライマー:センスプライマー

およびアンチセンスプライマー

を用いて実施例1に記述したとおりに作製し、図7Cのヘアピンインサート(配列番号:24)を生成した。
【0105】
HeLa細胞のトランスフェクションは、実施例1に記述されるように実行した。細胞を、トランスフェクションの2日後にウミシイタケルシフェラーゼ発現および細胞生存率に関してアッセイして、細胞生存率に対する阻害および非特異的阻害の標準化を実施例1のように計算した。
【0106】
結果
終止配列の組み入れは、図4において認められるように、用いるプロモーターによらず、HeLa細胞におけるヘアピンsiRNAの効率的な発現、およびウミシイタケルシフェラーゼのその後の阻害にとって重要である。ルシフェラーゼ発現の阻害は、終止配列を欠損するコンストラクトからの阻害と比較して、終止配列が存在する場合では3倍大きい。
【0107】
実施例4
ウイルスベクター
DNA指向性RNAiのウイルスによる送達効率は、一般的なトランスフェクション技法に関連した問題を回避する。ウイルス送達には、非分裂細胞を含む、より広い範囲の細胞タイプにより有効に送達するという恩典が含まれる。本発明のいくつかの態様において、U1プロモーターを含むDNA指向性RNAiは、ウイルス外被にパッケージングされて、細胞に感染するためのウイルス粒子を形成する。U1プロモーターおよび低分子ヘアピンRNA配列を含むウイルス粒子を生成するために、ウイルス産生および抗生物質選択を促進するDNA要素の状況において、U1プロモーターを配置する。U1プロモーターは、レンチウイルス、レトロウイルス、アデノウイルス、および植物ウイルスが含まれるがそれらに限定されるわけではない多くのウイルス系と適合性である。
【0108】
例えば、レンチウイルス系によってU1 RNAiを送達するために、U1プロモーターおよび低分子ヘアピンRNA(shRNA)またはマイクロRNA(mRNA)配列の後に適当なU1終止配列を、ベクターにおいて5'LTR(長末端反復)、psi部位(シス作用RNAパッケージングシグナル)、およびRRE(Rev反応要素)の後であって、真核細胞選択マーカーの前に配置して、その後に3'LTRが続く(図8を参照されたい)。ベクターはまた、細菌細胞のための適当な抗生物質マーカーを含む。
【0109】
適当な細胞(293FT細胞株、例えば)にパッケージングベクターおよびU1プロモーターとshRNAとを含むウイルスベクターを同時トランスフェクトすると、U1プロモーターベクターを含むウイルス粒子が生成される。次に、ウイルス粒子を形質導入するために哺乳動物細胞に加える。真核細胞選択マーカーによって、形質導入された哺乳動物細胞の選択が可能となる。
【0110】
実施例5
誘導型ベクター
ポリメラーゼII U1プロモーターは、二つの主な上流の要素、すなわちPSE(近位配列要素)およびDSE(遠位配列要素)を含むが、TATAボックスを含まない。誘導型U1プロモーターは、U1プロモーターの近傍にまたは内部に調節型オペレーターを配置することによって生成される。オペレーターの存在によって、U1プロモーターからのバックグラウンド転写が減少して、適当なインデューサーを加えると転写は増加する。
【0111】
PSEの近傍にテトラサイクリンオペレーターを配置する例を下記に示す。テトラサイクリンの非存在下において、テトラサイクリンリプレッサーは、オペレーターに結合して、U1プロモーターからのバックグラウンド転写レベルを有意に減少させる。テトラサイクリンの存在下では、リプレッサーは、テトラサイクリンに結合して、U1プロモーターから除去され、それによって転写の抑制を軽減する。テトラサイクリンリプレッサーは、テトラサイクリンリプレッサー遺伝子を含むプラスミドを一過性にトランスフェクトした細胞において、またはテトラサイクリンリプレッサーを発現する安定な細胞株において発現される。
【0112】
以下の配列に示すように、U1プロモーターはtetオペレーターと共に、PSEの前に配置してもよい。配列はヌクレオチド-87位でU1プロモーターによって始まる。プロモーターには、ヌクレオチド(-392〜+1)が含まれるであろう。上付き文字はtetオペレーター(tet O1)を示し、太字はU1 PSEを表す。遺伝子は、オペレーターおよびインデューサー効果のモニターを可能にするプロモーター(ルシフェラーゼ、例えば)の後に続く。

【0113】
いくつかの態様において、U1プロモーターはtetオペレーターと共に、PSEの前に配置される。配列はヌクレオチド-87位でU1プロモーターによって始まる。プロモーターには、ヌクレオチド(-392〜+1)が含まれるであろう。上付き文字はtetオペレーター(tet O2)を示し、太字はU1 PSEを表す。

【0114】
いくつかの態様において、U1プロモーターはtetオペレーターと共に、PSEの後に配置される。配列はヌクレオチド-87位でU1プロモーターによって始まる。プロモーターには、ヌクレオチド(-392〜+1)が含まれるであろう。上付き文字はtetオペレーター(tet O1)を示し、太字はU1 PSEを表す。

【0115】
いくつかの態様において、U1プロモーターはtetオペレーターと共に、PSEの後に配置される。配列はヌクレオチド-87位でU1プロモーターによって始まる。プロモーターには、ヌクレオチド(-392〜+1)が含まれるであろう。上付き文字はtetオペレーター(tet O2)を示し、太字はU1 PSEを表す。

【0116】
上記の明細書において言及した全ての刊行物および特許は、参照により本明細書に組み入れられる。記述の方法および本発明の系に関する様々な改変および変更が当業者に明らかとなるであろうが、それらも本発明の範囲および趣旨に含まれる。本発明は、特異的な好ましい態様と結びつけて記述してきたが、請求される本発明は、そのような特異的態様に不当に限定されてはならないと理解すべきである。実際に、本発明を行うために記述された様式の様々な改変は、関連する技術分野の当業者には明白であり、それらも以下の請求の範囲に含まれると意図される。
【図面の簡単な説明】
【0117】
【図1】ウミシイタケluc特異的ヘアピンsiRNAの発現を開始する、U6プロモーターと共にRNAiベクターによって、およびU1プロモーターと共にRNAiベクターによって得られたウミシイタケのルシフェラーゼ(luc)発現の抑制をグラフによって示す。簡単に説明すると、ウミシイタケのlucを発現するHeLa細胞に、U6(プライマー対AおよびBによって定義される)、またはU1プロモーター(プライマー対EおよびFによって定義される)のいずれかから転写されたsiRNAヘアピンコンストラクトをトランスフェクトした。細胞生存率および非特異的阻害(n=8)に対して標準化した後の%阻害を示す。
【図2】異なるU1プロモーターコンストラクトを用いることによって得られたウミシイタケルシフェラーゼ(luc)発現の抑制のグラフによる比較を提供する。そのそれぞれが以下の一つを含む二つのベクターを、ピューロマイシン選択遺伝子の存在下(ピューロ)または非存在下(基本)でウミシイタケルシフェラーゼを発現するHeLa細胞にトランスフェクトした:i)U1プロモーター領域のみ(U1クローニング);ii)U1プロモーターおよびヘアピン構造と終止ボックスとの間の3塩基対スペーサー;ならびにiii)U1プロモーターと、ヘアピン構造と終止ボックスとの間の10塩基対スペーサー。細胞生存率および非特異的阻害(n=8)に対して標準化した後の%阻害を表す。
【図3】ウミシイタケlucヘアピンsiRNAの発現を開始するU6およびU1プロモーターRNAiコンストラクトを一過性にトランスフェクトした後、経時的に得られたウミシイタケルシフェラーゼ(luc)発現レベルの抑制の比較を提供する。ウミシイタケlucを安定に発現するHeLa細胞に、U6プロモーターまたはU1プロモーターのいずれかと、ヘアピン配列と終止ボックスとの間に12塩基対スペーサーとを含むヘアピンsiRNA DNAコンストラクトをトランスフェクトした。データは、細胞生存率および非特異的ヘアピン阻害に対する標準化を表す(n=6)。
【図4】ウミシイタケルシフェラーゼ(luc)発現の抑制に及ぼす終止ボックス配列の影響を示す。ウミシイタケlucを安定に発現するHeLa細胞に、終止配列の存在下および非存在下でヘアピンウミシイタケluc siRNAをトランスフェクトした。細胞をウミシイタケluc発現に関してアッセイして、これを細胞生存率および非特異的阻害(n=6)に対して標準化した。
【図5】パネルAは、オリゴヌクレオチドAおよびBによって生成したU6陽性対照のウミシイタケルシフェラーゼヘアピンインサートの配列(配列番号:17)を提供し、パネルBはプライマーCおよびDによって生成したU1プロモーター対照増幅産物の3'末端の配列(配列番号:18)を提供する。
【図6】パネルAは、オリゴヌクレオチドEおよびFによって生成したスペーサーヌクレオチドを欠損するウミシイタケルシフェラーゼヘアピンインサートの配列(配列番号:19)を提供し、パネルBは、オリゴヌクレオチドGおよびHによって生成した10 bpスペーサーを含むウミシイタケルシフェラーゼヘアピンインサートの配列(配列番号:20)を提供し、パネルCは、オリゴヌクレオチドIおよびJによって生成した3 bpスペーサーを含むウミシイタケルシフェラーゼヘアピンインサートの配列(配列番号:21)を提供する。
【図7】パネルAは、オリゴヌクレオチドKおよびLによって生成された12 bpスペーサーを含むウミシイタケルシフェラーゼヘアピンインサートの配列(配列番号:22)を提供し、パネルBは、オリゴヌクレオチドLおよびMによって生成された終止配列を欠損するU6コンストラクトウミシイタケルシフェラーゼヘアピンインサートの配列(配列番号:23)を提供し、ならびにパネルCは、オリゴヌクレオチドNおよびOによって生成された終止配列を欠損するU1コンストラクトウミシイタケルシフェラーゼヘアピンインサートの配列(配列番号:24)を提供する。
【図8】本発明の例としてのウイルスベクターを示す。
【図9】本発明の例としてのキット成分を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
RNAi分子に機能的に会合したsnRNA pol IIプロモーターを含むベクターを含む組成物。
【請求項2】
snRNA pol IIプロモーターがU1プロモーターを含む、請求項1記載の組成物。
【請求項3】
snRNA pol IIプロモーターがU2プロモーターを含む、請求項1記載の組成物。
【請求項4】
RNAi分子がsiRNAをコードする配列を含む、請求項1記載の組成物。
【請求項5】
RNAi分子がmiRNAをコードする配列を含む、請求項1記載の組成物。
【請求項6】
ベクターがsnRNA pol II終止配列をさらに含む、請求項1記載の組成物。
【請求項7】
終止配列が核酸リンカーによってプロモーターから分離されている、請求項6記載の組成物。
【請求項8】
ベクターが、プロモーターと終止配列との間に制限酵素クローニング部位をさらに含む、請求項6記載の組成物。
【請求項9】
ベクターがウイルスベクター配列を含む、請求項1記載の組成物。
【請求項10】
ベクターが、RNAi分子の誘導性発現を許容する配列をさらに含む、請求項1記載の組成物。
【請求項11】
請求項1記載のベクターを含む宿主細胞を含む組成物。
【請求項12】
細胞が培養下にある、請求項11記載の組成物。
【請求項13】
細胞がインビボで存在する、請求項11記載の組成物。
【請求項14】
ベクターが細胞のゲノムに安定に組み入れられる、請求項11記載の組成物。
【請求項15】
請求項1記載のベクターを細胞にトランスフェクトする段階を含む、遺伝子発現を沈黙化するための方法。
【請求項16】
i)snRNA RNAポリメラーゼIIプロモーター鋳型オリゴヌクレオチド、ii)該鋳型と相補的なプライマー、iii)ベクター、iv)増幅試薬、およびv)ライゲーション試薬を含む、RNAi分子をクローニングするためのキット。
【請求項17】
プロモーターがU1プロモーターを含む、請求項16記載のキット。
【請求項18】
ベクターが平滑末端ベクターを含む、請求項16記載のキット。
【請求項19】
RNAi分子をさらに含む、請求項16記載のキット。
【請求項20】
増幅試薬が、高忠実度プルーフリーディングDNAポリメラーゼを含む、請求項16記載のキット。
【請求項21】
ポリメラーゼがTliポリメラーゼを含む、請求項20記載のキット。
【請求項22】
亜硫酸マグネシウムを含む増幅緩衝液をさらに含む、請求項21記載のキット。
【請求項23】
ベクターが直線状である、請求項16記載のキット。
【請求項24】
ベクターがホスファターゼによって処理されている、請求項16記載のキット。
【請求項25】
RNAi分子に機能的に会合したsnRNA pol IIプロモーターを含むベクターを含むキット。
【請求項26】
ライゲーション試薬をさらに含む、請求項25記載のキット。
【請求項27】
プロモーターがU1プロモーターである、請求項25記載のキット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公表番号】特表2008−510470(P2008−510470A)
【公表日】平成20年4月10日(2008.4.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−528087(P2007−528087)
【出願日】平成17年8月22日(2005.8.22)
【国際出願番号】PCT/US2005/029773
【国際公開番号】WO2006/023848
【国際公開日】平成18年3月2日(2006.3.2)
【出願人】(500430084)プロメガ・コーポレーション (18)
【Fターム(参考)】