S−アリル−L−システインを有効成分として含む、胃腸疾患の予防用または治療用の組成物
S−アリル−L−システインを有効成分として含有し、かつ抗ヘリコバクター・ピロリ活性または胃粘膜保護機能を有する組成物、胃腸疾患の予防用、緩和用または治療用の組成物、及びこれらの組成物を使用する方法を提供する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連する特許出願の相互参照
本願は、2009年9月23日付で韓国特許庁に出願された韓国特許出願第10-2009-0090232の恩典を主張するものであり、その開示は全体として参照により本願に組み入れられる。
【0002】
発明の分野
本発明は、抗ヘリコバクター・ピロリ活性または胃粘膜保護機能を有する組成物、胃腸疾患の予防または治療に有用な組成物及びそれを利用する方法に関する。
【背景技術】
【0003】
胃腸疾患の原因は多様であり、ヘリコバクター・ピロリ(Helicobacter pylori)を始めとする胃酸、ペプシン、過労、ストレス、アルコールなどの攻撃因子;及び粘液、組織再生能、血行改善能などの防御因子;の不均衡に起因することが知られている。過労、ストレス、ヘリコバクター・ピロリ感染などによる胃炎の発生は、一般的な症状であり、これを放置すれば、慢性胃炎、胃潰瘍などに進み、まれに、胃ガンに発展する可能性がある。アルコールによる胃粘膜の病変は、刺激要因を排除することによって、数日内に正常に回復したりもするが、はなはだしい場合は、胃腸管出血、胃穿孔などが発生することもある(非特許文献1)。シメチジン、ラニチジン、ファモチジン、オメプラゾールやビスマスなど多様な胃腸疾患治療剤が開発されて使われているが、それらは、投薬中止時に再発率が高いという短所があるため、新しい薬物の開発が必要である。
【0004】
ヘリコバクター・ピロリは、グラム陰性菌であり、主にヒトの胃粘膜や粘液で発見され、急性・慢性胃炎、萎縮性胃炎、胃潰瘍、胃ガン、十二指腸潰瘍などのほとんどの胃腸管関連疾病に致命的な原因菌であると明らかにされた(非特許文献2)。それだけではなく、消化器系疾患以外にも、肝性脳症(hepatic encephalopathy)、動脈硬化症、肝胆道系疾患などの疾病誘発にあたり、ヘリコバクター・ピロリが危険因子として関与する可能性があるという研究が報告されている(非特許文献3、非特許文献4)。米国疾病統制センター(CDC)は、ヘリコバクター・ピロリ菌に感染すると、慢性疲労、じんましん、偏頭痛、低身長、不妊、食品アレルギーなどが現れることがあると明らかにし、かような症状を、「異常なヘリコバクター・ピロリ症候群(strange Helicobacter syndrome)」と命名した。ヘリコバクター・ピロリの除菌には、抗生物質が主に使われているが、完全撲滅後にも再感染が起こりやすく、完全に除菌するためには、多量の薬剤を長期間使用せねばならないために、抗生物質治療の副作用や耐性菌増加の問題などがあり、抗生物質ではない新たな代案が必要である。
【0005】
最近、ヘリコバクター・ピロリによる疾患に、新規かつ安全な治療方法の一つとして、食品中の菌を抑制することができる物質を探索する研究が進められている。プロバイオティクスを利用した乳酸菌発酵乳、ヘリコバクター・ピロリに対して中和効果抗体を含んだ卵黄抗体(IgY)、ワイン及び緑茶に含まれたカテキン(catechin)などが有効な物質として予測されている(非特許文献5、非特許文献6、非特許文献7)。
【0006】
一方、ニンニクは、アリウム(Allium)属の一種であり、抗細菌作用、抗真菌作用、抗酸化作用及び抗ガン作用があるということが明らかになり(非特許文献8)、血栓症(thrombosis)、炎症(inflammation)そして細胞の酸化的ストレス(oxidative stress)を防止することが知られ(非特許文献9)、注目される生薬素材である。ニンニクは、非常に多様な成分を含むが、それらのうちには、抗真菌効果、抗ガン効果を有するエルボシド(eruboside)Bのようなステロイドサポニン(非特許文献10);コレステロール低下効果を有するグリコシド分画(非特許文献11);血小板凝集阻害効果を有するβ−クロロゲニン(非特許文献12)などの非硫黄化合物(nonsulfur compound);及びさまざまな種類の有機硫黄化合物(organosulfur compound)などが含まれる。アリウム属植物に含まれる有機硫黄化合物としては、S−アリル−L−システインスルホキシド(alliin:S−allyl−L−cysteine sulfoxide)、ジアリルジスルフィド(DADS:diallyl disulfide)、ジアリルスルフィド(DAS:diallyl sulfide)などの脂溶性有機硫黄化合物;及びS−アリル−L−システイン(SAC:S−allyl−L−cysteine)、S−アリルメルカプトシステイン(SAMC:S−allylmercaptocysteine;SAMC)などの水溶性有機硫黄化合物などがある。
【0007】
成熟したニンニクの有効成分のうち一つであるS−アリル−L−システイン(SAC)は、抗酸化剤の役割を有することが知られ、かような抗酸化活性でもって、動脈硬化にも抑制効果を示し、いくつかのガン細胞株に対しても抗ガン活性(非特許文献13)を示すなど、多様な効能が報告されている。しかし、S−アリル−L−システインの胃腸疾患治療効果や抗ヘリコバクター・ピロリ活性については報告されていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Taeyoung Oh, et al., J. Applied Pharmacology, Vol. 5, pp202-210, 1997
【非特許文献2】Crowe, Curr Opin Gastrenterol., 21(1), pp32-38, 2005
【非特許文献3】Karahalil, et al., Curr Drug Saf, 2, pp43-46, 2007
【非特許文献4】Scragg, et al., J. Epidemiol Community Health, 50(5), pp578-579, 1996
【非特許文献5】McMahon, et al., Aliment Pharmacol Ther 23(8), pp1215-1223, 2006
【非特許文献6】Sachdeva, et al., Eur J Gastroenterol Hepatol, 21(1), pp45-53, 2009
【非特許文献7】Shin, et al., J Med Microbiol., 53(Pt 1), pp31-34, 2004
【非特許文献8】Ankri, et al., Microbes Infect. 1(2), pp125-129, 1999
【非特許文献9】Sener, et al., Mol Nutr Food Res., 51(11), pp1345-1352, 2007
【非特許文献10】Matsuura H, et al., Chem Pharm Bull (Tokyo), 36: 3659-3663, 1988
【非特許文献11】Slowing, et al., J Nutr., 131, pp994S-9S, 2001
【非特許文献12】Rahman K, et al., J. Nutr. 2006
【非特許文献13】Proceedings of the American Association for Cancer Research, 30, p181, 1989
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ヘリコバクター・ピロリの除菌に、抗生物質が主に使われているが、完全撲滅後にも、再感染が起こりやすく、完全に除菌するためには、多量の薬剤を長期間使用しなければならないために、抗生物質治療の副作用や耐性菌の増加の問題などがあり、抗生物質ではない新たな代案が必要である。このために、本発明は抗ヘリコバクター・ピロリ活性と、胃粘膜保護機能とを有する薬物を提供することを解決課題とする。また、本発明は、胃腸疾患の予防、緩和または治療のための安全かつ新規な組成物を提供することを解決課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決するために、本発明は、アリウム(Allium)属植物の水溶性有機硫黄化合物であるS−アリル−L−システイン(SAC:S−allyl−L−cysteine)を有効成分として含み、かつ抗ヘリコバクター・ピロリ活性または胃粘膜保護機能を有する組成物を提供する。また本発明は、S−アリル−L−システインを有効成分として含む胃腸疾患の予防用、緩和用、治療用の組成物を提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明のS−アリル−L−システインを有効成分として含む組成物は、ヘリコバクター・ピロリ菌の感染を抑制し、ヘリコバクター・ピロリによる胃病変を保護する効果を有する。従って、本発明の組成物は、抗ヘリコバクター・ピロリ剤として使用可能である。
【0012】
また、発明のS−アリル−L−システインを有効成分として含む組成物は、塩酸−エタノール、アスピリンまたはインドメタシンによって誘発された胃粘膜病変を予防し、かつ回復させる効果を示すので、胃腸疾患の予防用途、緩和用途または治療用途として有用に使うことができる。本発明のS−アリル−L−システインを有効成分として含む組成物は、薬学的組成物、食品組成物として使用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
本発明の上記または他の特徴および利点は、以下である添付の図面を参照して例示的態様を詳細に説明することでより明らかになるだろう。
【0014】
【図1】全試験期間にわたる対照群および実験群の動物の平均体重変化を比較したグラフであり、値はすべて、平均値で表示されている。
【図2】図2Aおよび2Bは、SACが、ヘリコバクター・ピロリ感染後に測定した各群の平均血清IgG抗体生成に及ぼす影響を示したグラフであり、値はすべて、平均値と標準誤差とで表示されており、**:P<0.01、*:P<0.05である。
【図3】10週間の全試験期間の間に測定した各群の平均血清TNF−αに及ぼす影響を示したグラフであり、値はすべて、平均値と標準誤差とで表示されている。
【図4】実験群間での組織病理学的変化を比較したイメージである。
【図5】実験群間での組織病理学的変化及び好酸球の数を比較した図面であり、値はすべて、平均値と標準誤差とで表示されており、**:P<0.01、*:P<0.05である。
【図6】各群間での組織病理学的変化を比較した図面であり、値はすべて、平均値と標準誤差とで表示されている。
【図7】実験群の血清GOTレベルを示したグラフであり、値はすべて、平均値と標準誤差とで表示されている。
【図8】実験群の血清GPTレベルを示したグラフであり、値はすべて、平均値と標準誤差とで表示されている。
【図9】実験群の血清Cu/Zn−SODレベルを示したグラフであり、値はすべて、平均値と標準偏差で表示されている。
【図10】塩酸−エタノールにより誘発されたラットの胃病変の長さに対するSACの効果を示したグラフであり、**は、ビヒクル対照群(G1)について、p<0.01で有意に違いがあることを示しており、G1:ビヒクル対照群(蒸留水)、G2:SAC 100mg/kg、G3:SAC 200mg/kg、G4:SAC 400mg/kg、G5:陽性対照群(有効成分としてスチレン(登録商標)55.6mg/kg)である。
【図11】塩酸−エタノールにより誘発されたラットの胃病変に対する阻害率を示したグラフであり、**は、ビヒクル対照群(G1)について、p<0.01で有意に違いがあることを示しており、G1:ビヒクル対照群(蒸留水)、G2:SAC 100mg/kg、G3:SAC 200mg/kg、G4:SAC 400mg/kg、G5:陽性対照群(有効成分としてスチレン(登録商標)55.6mg/kg)である。
【図12】塩酸−エタノール誘発胃病変モデルでの、実験群ラットの胃組織のイメージであり、G1:ビヒクル対照群(蒸留水)、G2:SAC 100mg/kg、G3:SAC 200mg/kg、G4:SAC 400mg/kg、G5:陽性対照群(有効成分としてスチレン(登録商標)55.6mg/kg)である。
【図13】アスピリンにより誘発されたラットの胃病変面積に対するSACの効果を示したグラフであり、***は、ビヒクル対照群(G1)について、p<0.001で有意に違いがあることを示しており、G1:ビヒクル対照群(蒸留水)、G2:SAC 100mg/kg、G3:SAC 200mg/kg、G4:SAC 400mg/kg、G5:陽性対照群(有効成分としてスチレン(登録商標)55.6mg/kg)である。
【図14】アスピリンにより誘発されたラットの胃病変に対する阻害率を示したグラフである。
【図15】アスピリン誘発胃病変モデルでの実験群ラットの胃組織のイメージである。
【図16】インドメタシンにより誘発されたラットの胃病変の長さに対するSACの効果を示したグラフであり、*は、ビヒクル対照群(G1)について、p<0.05で有意に違いがあることを示しており、G1:ビヒクル対照群(蒸留水)、G2:SAC 100mg/kg、G3:SAC 200mg/kg、G4:SAC 400mg/kg、G5:陽性対照群(有効成分としてスチレン(登録商標)55.6mg/kg)である。
【図17】インドメタシンにより誘発されたラットの胃病変に対する阻害率を示したグラフである。
【図18】インドメタシン誘発胃病変モデルでの実験群ラットの胃組織のイメージである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
発明の詳細な説明
以下、本発明の例示的態様を示す添付の図面を参照して、本願発明をより詳細に説明する。
【0016】
本発明のS−アリル−L−システイン(SAC:S-allyl-L-cysteine)を含む組成物の特徴は、強力な抗ヘリコバクター・ピロリ活性があり、胃粘膜保護効果にすぐれるということである。
【0017】
本発明の発明者らは、マウス実験を介して、ヘリコバクター・ピロリを投与した陽性対照群(positive control group)では、ヘリコバクター・ピロリを投与していない陰性対照群(negative control group)に比べて、ヘリコバクター・ピロリに対する抗体力価(antibody titer)(抗H.Pylori IgG)が有意に上昇するが(p<0.01)、SACとヘリコバクター・ピロリとを共に投与した実験群では、抗ヘリコバクター・ピロリIgGが、陽性対照群に比べて、有意な減少を示すということを確認した(図2)。これは、SACが、ヘリコバクター・ピロリのマウスへの感染を抑制する効果があるということを意味する。また、本発明の発明者らは、ヘリコバクター・ピロリを投与した陽性対照群マウスで増加したT細胞関連炎症因子であるTNF−αの量が、SACとヘリコバクター・ピロリとを共に投与すると、陽性対照群に比べて減少するということを確認した(図3)。これから、SACが、ヘリコバクター・ピロリ感染マウスで誘発される炎症を抑制するということが分かる。
【0018】
ヘリコバクター・ピロリ感染による胃病変に及ぼす影響に対するSACの効果を観察するために、マウスの胃を組織切片にして、H&E(hematoxylin and eosin)染色を実施して観察した結果、ヘリコバクター・ピロリを投与した群で、胃粘膜細胞の変性(denaturation)、及び胃粘膜固有層での好酸球の浸潤が観察され(図4)、胃粘膜上皮方向に浸潤していく好酸球の数が、非感染群の陰性対照群に比べて、ヘリコバクター・ピロリ感染群である陽性対照群で増加し(p<0.01)、一方、陽性対照群に比べて、SACを投与した群では有意に減少するということが確認された(p<0.05)(図5)。細胞の核が分裂する有糸分裂像(mitotic figure)の個数も、陰性対照群に比べて、ヘリコバクター・ピロリに感染した群で増加したが、SACを共に投与した群では減少する傾向を示し(図6)、ヘリコバクター・ピロリによる胃病変が、SACによって抑制されたり回復するということが分かる。
【0019】
SACが実験動物の血清生化学的数値に及ぼす影響を分析した結果は、GOT(グルタミン酸オキザロ酢酸トランスアミナーゼ)とGPT(グルタミン酸ピルビン酸トランスアミナーゼ)の測定結果で、非感染群である陰性対照群で、最も低い数値を示し、SACを供給した群は、陽性対照群より低いGOTおよびGPT数値を示した(図7及び図8)。
【0020】
SACが酸化的病変に及ぼす影響を観察するために、血清中のCu/Zn−SOD(銅-亜鉛含有スーパーオキシドジスムターゼ)数値を測定した結果、ヘリコバクター・ピロリ感染群で、非感染群である陰性対照群に比べて増加する結果が示された。しかし、単独でヘリコバクター・ピロリのみ投与した陽性対照群に比べて、SACを同時に投与した群ではさらに上昇することが示され(図9)、ヘリコバクター・ピロリ感染による防御メカニズムによって生産されるSODの発現を、SACが増加させると確認された。
【0021】
また、本発明の発明者らは、薬物投与によってラットに誘発された胃粘膜病変に対して、SACが有意な胃病変抑制効果を示すということを確認した。塩酸−エタノール投与によりラットに誘発された胃病変に対して、SAC投与群は、ビヒクルのみ投与した対照群と比較して、有意な病変減少効果(図10、図12)、及び最大約66%の胃病変阻害率(%)を示した(図11)。アスピリン投与(図13〜図15)またはインドメタシン投与(図16〜図18)により誘発された胃病変に対しても、SAC投与群は、陰性対照群と比較して、有意な病変減少効果を示した。SACは、アスピリン誘発モデルの場合、最大約85%、インドメタシン誘発モデルの場合、最大約94%の胃病変阻害率を示し、陽性対照群に使われたスチレン(登録商標)(Stillen(登録商標))と同等であるか、さらに優秀な胃粘膜保護効果を有すると確認された。前記実験結果は、SACが多様な原因によって発生した胃病変に対して、幅広い胃粘膜保護活性を有するということを示している。
【0022】
前記のような実験結果を基にして、本発明は、SACを有効成分として含み、さらに薬学的に許容される担体を含む、抗ヘリコバクター・ピロリ活性を有する薬学的組成物を提供する。
【0023】
本発明は、SACを有効成分として含み、さらに薬学的に許容される担体を含む、胃粘膜保護機能を有する薬学的組成物を提供する。
【0024】
また本発明は、SACを有効成分として含み、かつ抗ヘリコバクター・ピロリ活性または胃粘膜保護機能を有する食品組成物を提供する。
【0025】
さらに本発明は、SACを有効成分として含む組成物を使用してヘリコバクター・ピロリ菌の感染を抑制し、ヘリコバクター・ピロリによる胃病変を抑制する方法を提供する。
【0026】
本発明は、SACを有効成分として含み、さらに薬学的に許容される担体を含む、胃腸疾患の予防用または治療用の薬学的組成物を提供する。
【0027】
また本発明は、SACを有効成分として含む、胃腸疾患の予防用または緩和用の食品組成物を提供する。
【0028】
本発明の範囲には、SACと共に、他の胃腸疾患治療剤または抗ヘリコバクター・ピロリ剤をさらに含む組成物を含む。
【0029】
さらに本発明は、SACを有効成分として含みかつ薬学的に許容される担体を含む組成物を使用し、胃腸疾患の予防または治療を行う方法を提供する。
【0030】
ヘリコバクター・ピロリ菌や胃腸疾患は、ヒトだけではなく、多くの他の動物でも問題になるので、本発明はまた、ヒト以外の他の動物のための組成物を提供する。
【0031】
本発明の組成物が使われる胃腸疾患としては、慢性胃炎、急性胃炎、胃潰瘍、胃ガン、胃腸管出血、逆流性食道炎(GERD)、十二指腸炎、及び十二指腸潰瘍を含み、これらに制限されるものではない。
【0032】
本発明の組成物による抗ヘリコバクター・ピロリ効果は、肝性脳症(hepatic encephalopathy)、動脈硬化症、肝胆道系疾患、じんましん、偏頭痛、低身長、不妊、食品アレルギー、慢性胃炎、急性胃炎、胃潰瘍、胃ガン、胃腸管出血、逆流性食道炎(GERD)、十二指腸炎、十二指腸潰瘍などの予防または治療に使われるが、これらに制限されるものではない。
【0033】
本発明の組成物において、有効成分としては、SACの薬学的または食品学的に許容可能な塩を利用しても良い。かような塩としては、酸付加塩や第4級アンモニウム塩などを挙げることができる。酸付加塩としては、例えば、塩酸塩、ブロム化水素酸塩、ヨード化水素酸塩、硫酸塩、リン酸塩のような無機酸塩;シュウ酸塩、マレイン酸塩、フマル酸塩、乳酸塩、リンゴ酸塩、コハク酸塩、酒石酸塩、安息香酸塩、メタンスルホン酸塩のような有機酸塩を挙げることができる。また、第4級アンモニウム塩としては、例えば、ヨウ化メチル、臭化メチル、ヨウ化エチル、臭化エチルのような低級アルキルハロゲン化物(short-chain alkyl halogenide);メチルメタンスルホネート、エチルメタンスルホネートのような低級アルキルスルホネート;メチル−p−トルエンスルホネートなどの低級アルキルアリールスルホネートなどの第4級アンモニウム塩を挙げることができる。
【0034】
また、SACまたはその薬学的または食品学的に許容可能な塩は、溶媒和物または水和物として存在するものもあるので、本発明の治療剤の有効成分としては、それらの溶媒和物または水和物を利用してもよい。
【0035】
本発明に使われるSACは、ヨーロッパ公開特許公報EP0429080A1に記載された方法、それ以外の合成、発酵などこの技術分野に公知の多様な方法で、ニンニク(garlic)、巨大ニンニク(elephant garlic)、玉ネギ(onion)、ネギ(scallion)などのアリウム(Allium)属植物から製造可能である。
【0036】
本発明の組成物の有効成分であるSAC、その薬学的または食品学的に許容可能な塩、またはそれらの溶媒和物もしくは水和物は、それら自体を患者に投与してもよいが、一般的には、それらの有効成分の1種または2種以上を含む組成物を調製して投与したり、他の有用な抗ヘリコバクター・ピロリ剤や胃腸疾患治療薬物と混合し、複合製剤形態に剤形化して投与することができる。
【0037】
また本発明は、前記薬学的組成物が、経口投与用製剤、粘膜適用製剤、注射剤、吸入剤、外用剤として剤形化される薬学的組成物を提供し、これらに制限されるものではない。前記経口投与用製剤は、硬質/軟質カプセル剤、錠剤、懸濁剤、シロップ剤、散剤、徐放型製剤、腸溶性製剤、顆粒剤、油糖剤、細粒剤、丸剤、エキス剤、液剤、芳香水剤、乳剤、シロップ剤、エリキシル剤、流動エキス剤、浸煎剤、チンキ剤、酒精剤、浸出油剤などを含むが、これらに制限されるものではない。粘膜適用剤としては、トローチ剤、口腔錠、舌下錠、坐剤、鼻腔噴霧剤を含むことができるが、これらに制限されるものではない。注射剤としては、皮下注射、筋肉注射、静脈注射、移植錠などが含まれ、これらに制限されるものではない。外用剤としては、経鼻剤、点眼剤、点耳剤、眼軟膏剤、ペースト剤、パップ剤、リニメント剤、ローション剤、塗布剤、散布剤、外用液剤などが含まれ、これらに制限されるものではない。
【0038】
本発明の製剤には、一つまたはそれ以上の活性成分以外に、一つまたはそれ以上の不活性である一般的な担体、例えば、澱粉、ラクトース、カルボキシメチルセルロース、カオリンなどの賦形剤;水、ゼラチン、アルコール、グルコース、アラビアゴム、トラガカントゴムなどの結合剤;澱粉、デキストリン、アルギン酸ナトリウムなどの崩壊剤(disintegrant);タルク、ステアリン酸、ステアリン酸マグネシウム、流動パラフィンなどの滑沢剤;溶解補助剤のような追加の添加剤成分が含まれてもよい。
【0039】
本発明による用途のためのSACの1日投与量は、投与しようとする対象の疾病進行程度、発病時期、年齢、健康状態、合併症などの多様な要因によって異なるが、一般的には、成人基準で、1mgないし10g、望ましくは100mgないし4g、さらに望ましくは1日200〜2,000mgを投与することができる。しかし、重症の患者や合併症がある場合には、治療効率性を増進させるために、本発明の薬物を前記範囲を超える大用量まで増量して投与することができる。1日投与量は、1回1〜2回または1〜3回に分けて投与することができる。例えば、SAC 200ないし500mgを含有する投与単位1〜2個を、1日1回ないし2回経口投与可能であり、状況によって、適切に調節可能である。
【0040】
本発明の組成物が食品組成物である場合、有効成分の混合量は、その使用目的(予防的処置または治療的処置、健康補助)に適するように決定することができる。一般的には、SACは、食品または飲料などの製造時に、原料に対して0.0001ないし90重量%、望ましくは0.1ないし50重量%の量で添加されてもよい。健康及び衛生を目的としたり、健康調節を目的とする長期間の摂取の場合には、前記量は、前記範囲以下でもよいが、有効成分は安全性面で何らの問題もないので、それ以上の量でも使用可能であることは自明である。本発明の食品組成物を使用する食品としては、肉類、ソーセージ、パン、チョコレート、キャンディー類、スナック類、菓子類、ピザ、ラーメン、その他の麺類、ガム類、アイスクリーム類を含んだ酪農製品、各種スープ、飲料水、茶、ドリンク剤、アルコール飲料及びビタミン複合剤などがあり、これらに制限されるものではない。本発明は、下記実験例及び実施例によってさらに詳細に説明するが、本発明はそれらによって制限されるものではない。
【実施例】
【0041】
実験例
I.ヘリコバクター・ピロリ感染動物におけるSACの効果
実験材料
SAC(S−アリル−L−システイン)は、TCI Chemical Co.(Tokyo、Japan)から購入した。ヘリコバクター・ピロリは、ATCC(American Type Culture Collection) 43504(cagA+,vacA s1−mlタイプ)を使用し、培養は、Mueller Hinton-Agar brothで37℃で48時間、5%CO2微好気性条件下で行い、感染濃度は、1X109CFU/mlであった。
【0042】
実験動物
特定病原体除去(SPF)オス8週齢C57BL/6マウスを使用し、マウスは、慶北大学校獣医科大学病理学教室動物室で体重を測定した後、全て4群に分け、各群にマウスの体重が平均になるように適切に分配して飼育した。本試験に使われたマウスは、温度22±3℃、相対湿度50±10%、照明時間12時間(08:00点灯〜20:00消灯)に設定された自動温湿度調節装置が設置された慶北大学校獣医科大学病理学教室の動物室で順化及び飼育された。全試験期間の間、試験に影響を及ぼすと思料される飼育環境の変動は、認知されなかった。飼料は、実験動物用固形飼料(PMI Nutrition International, 505 North 4th Street Richmond, In 47374, USA)を自由摂取させ、水は、上水道水を濾過した後、給水瓶を利用して自由摂取させた。
【0043】
試験群の構成及び投与
8週齢、オス、C57BL/6マウスを陽性対照群(ヘリコバクター・ピロリのみ投与した群;PC)、陰性対照群(生理食塩水投与群;NC)、実験群1(ヘリコバクター・ピロリ及びSAC 200mg/kg投与群;SAC 1)、実験群2(ヘリコバクター・ピロリ及びSAC 400mg/kg投与群;SAC 2)の4群に区分した。各群は、10匹のマウスで構成された。実験に使われた白色粉末状のSACは、上水道水に、それぞれ20mg/mLと40mg/mLとの濃度に希釈し、各実験群1と実験群2とのマウスに体重別g当たり10μlを基準に、週3回経口投与法で供給して10週間投与した。全試験期間の間、飲み水は自由摂取させた。感染物質であるヘリコバクター・ピロリは、1×109CFU/mLの濃度で生理食塩水により集められ、マウス1匹当たり0.2mLずつ経口投与を行い、SAC投与開始後の2週間後から8週間実施した。感染前に8時間の絶食状態が維持され、ヘリコバクター・ピロリ投与10分前、絶食で酸性化された胃内部を中和させるために、0.2M重炭酸ナトリウム(NaHCO3)を、マウス1匹当たり0.15mLずつ投与した。陰性対照群には、感染物質の代わりに、生理食塩水だけを同一用量で投与した。すべての群に、一般飼料が供給された。10週間の実験期間後、すべての実験動物の剖検を実施し、病理組織学的検査のために、各実験動物ごとに、血液と臓器のサンプルを採取した。実験スケジュールは、次の通りであった。
【0044】
統計学的方法
得られた資料についての統計学的有意性検定は、独立標本t検定法で実施した。統計分析は、統計プログラムであるSPSS 14.OKを利用して分析し、有意確率pが0.05未満である場合、有意性があると判定した。
【0045】
<実験例1>試験物質が体重変化に及ぼす影響
オスC57BL/6マウスヘリコバクター・ピロリ感染モデルで、10週間の全試験期間の間、1週間に3回ずつ体重を測定することによって、体重変化を観察した。ヘリコバクター・ピロリ感染時点と、感染を確認するために中間血清採取を行った時点で若干の減少を示したことを除いては、全試験群で、徐々に増加することを観察することができた(図1)。非感染群である陰性対照群は、31.3%の体重増加率を示し、陽性対照群は28.9%、SAC 1は26.9%、SAC 2は28.7%の体重増加率を示した。陽性対照群では、陰性対照群に比べて、2.4%の減少率を示し、SAC 1群は、陽性対照群に比べて2%が減少し、SAC 2群は、0.2%ほど減少し、SAC 2群は、SAC 1群に比べて、1.8%が増加したが、有意性があるものではないので、ヘリコバクター・ピロリ感染と実験物質とが、実験期間の体重変化に有意な影響を及ぼさないと思料される。
【0046】
<実験例2>血清抗ヘリコバクター・ピロリ抗体(anti−H.Pylori IgG)形成能に対するSACの効果
方法
血清抗ヘリコバクター・ピロリ抗体形成能に対するSACの効果を確認するために、酵素結合免疫吸着分析法(ELISA)を使用した。マウスに、経口感染物質であるH.ピロリ ATCC 43504と、ヘリコバクター・ピロリが特異的に生産する組み換え毒素VacAとを抗原として、それぞれ1μg/ウェル及び10ng/ウェルの濃度で、分析用96ウェル・マイクロプレートに入れ、4℃に維持してコーティングされるようにした。上澄液を捨てた後、他の不要な反応を遮断するために、ブロッキングバッファー(1%スキムミルク)を入れた後、37℃で1時間反応させ、ここに各実験群のマウス血清を10μl入れ、37℃で2時間反応させた。Tween20の入っているトリス緩衝溶液で洗浄過程を経たマイクロプレートに、HRP(セイヨウワサビペルオキシダーゼ)が結合された抗マウスIgGである二次抗体を入れ、37℃で1時間維持した。その後、同じ洗浄過程を経た後、発色試薬である3、3',5,5'−テトラメチルベンジジン(TMB)とH2O2とを同量混合させて100μlを入れた後、光を遮断し、30分以内に発色を観察した。反応を止めるための0.2M硫酸を100μl入れて反応を終了させた後、それらを450nmで吸光度を測定した。
【0047】
結果
血清中抗H.ピロリIgG抗体値を測定した結果、ヘリコバクター・ピロリを投与した陽性対照群、SAC 1及びSAC 2では、感染期間の間、ヘリコバクター・ピロリに対する抗体(抗H.ピロリIgG)が生産されるということを確認することができ、ヘリコバクター・ピロリを投与していない陰性対照群では、生成されないということを確認することができた(図2)。一方、SACを供給した実験群では、抗H.ピロリIgG抗体力価(antibody titer)が陽性対照群に比べて減少したが、SAC 2群は、陽性対照群及びSAC 1群と比較して、抗体力価の著しい減少を示し、SAC濃度依存的に、実験群のヘリコバクター・ピロリに対する抗体生成が抑制された(図2A)。また、ヘリコバクター・ピロリの毒素型蛋白質であるVacAに対する抗体(抗s1m1 VacA IgG)形成も、抗H.ピロリIgGの減少と同じ様相を示した(図2B)。それにより、SACが濃度依存的に、ヘリコバクター・ピロリのマウスへの感染を抑制させるということが分かった。
【0048】
<実験例3>血清TNF−αに対するSACの効果
方法
炎症因子である血清のTNF−αに及ぼすSACの影響を観察するために、市販のマウスTNF−α抗体分析キットMicroplate(R&D systems Inc., USA)を利用し、キットに付属された実験方法によって、各実験動物の血清内に存在するTNF−αの濃度を測定した。
【0049】
結果
ヘリコバクター・ピロリを投与したすべての群で、非感染群である陰性対照群に比べて、TNF−α値が上昇することが観察され(p<0.1)、SACを供給したSAC 1、SAC 2群では、陽性対照群に比べて、その値が低下する傾向を示した(p<0.09)(図3)。従って、SACが、ヘリコバクター・ピロリ感染マウスで、ヘリコバクター・ピロリによって誘発される炎症を抑制させると思料された。
【0050】
<実験例4>ヘリコバクター・ピロリによる胃組織学的変化に対するSACの効果
方法
オスC57BL/6マウスヘリコバクター・ピロリ感染モデルで、感染8週間の試験期間の間、進行する病変過程中、胃に現れる組織病理学的変化を観察するために、胃サンプルを10%ホルマリンで固定した後、パラフィンブロックを形成した後、4μm厚に組織切片を作り、H&E(hematoxylin-eosin)染色法を実施して光学顕微鏡で観察した。群間の細胞病変程度、浸潤した好酸球の数、胃全般組織に現れる有糸分裂像の数など、すべての病理学的観察は二重検証を実施した。また、好酸球の数は、食道−胃連接部を確認し、胃憤門部を開始点として、胃小窩(gastric pit)及び粘膜固有層の胃陰窩(gastric crypt)の3つを基準とし、有糸分裂像の数は、憤門部を開始点として、幽門部確認地点前までの全体胃前庭部を確認し、個体当たり2ヵ所を400倍倍率で算定した後、各群間の平均値を求めて比較した。
【0051】
結果
H&E染色の結果、群間の好酸球の浸潤および有糸分裂像の数の差を観察することができた。胃粘膜固有層に多数存在し、胃粘膜上皮側に浸潤していく好酸球の様子を観察でき(図4)、その数を算定した結果、非感染群の陰性対照群に比べて、ヘリコバクター・ピロリ感染群で、好酸球の数が有意に増加することが分かった(p<0.01)(図5B)。一方、陽性対照群に比べて、SAC 1、SAC 2群では、その数が減少するという結果を観察でき、特に、SAC 1群では、有意な差を示した(p<0.05)(図5B)。細胞の核が分裂する有糸分裂像の個数もまた、陰性対照群に比べて、ヘリコバクター・ピロリ感染群で増加する結果を観察できた。陽性対照群、SAC 1及びSAC 2群間の有意な差は観察することができなかったが、SAC 2で、多少減少すると示された。従って、ヘリコバクター・ピロリ感染による胃の好酸球の浸潤増加は、先行実験及びさまざまな研究結果によって観察されていたが、SAC供給がこれを減少させたということは、ヘリコバクター・ピロリによる胃病変に対するSACの保護作用があることを意味する。
【0052】
<実験例5>SACが、ヘリコバクター・ピロリ感染を誘発したマウスモデルの血清指標に及ぼす影響
一般的病変に関連する指標である血清GOT(グルタミン酸オキザロ酢酸トランスアミナーゼ)の分析結果、ヘリコバクター・ピロリを投与した陽性対照群が、全群で最も高いGOT数値を示し、SAC 1、SAC 2群は、陽性対照群と比較して有意差が観察されなかったが、2つの群いずれも減少する様相を示した(p<0.08)(図7)。
【0053】
肝病変に関連する指標である血清GPT(グルタミン酸ピルビン酸トランスアミナーゼ)の分析結果、ヘリコバクター・ピロリを投与した陽性対照群が、全群で最も高いGPT数値を示し、SAC 1、SAC 2群は、陽性対照群と比較して有意差が観察されなかったが、2つの群いずれも減少するという様相を示した(図8)。
【0054】
<実験例6>血清Cu/Zn−SOD数値測定
方法
オスC57BL/6マウスヘリコバクター・ピロリ感染モデルで、10週間の全試験期間の間、試験物質が血清の抗酸化酵素であるCu/Zn−SOD(銅-亜鉛含有スーパーオキシドジスムターゼ)に及ぼす影響を観察するために、Superoxide Dismutase Activity Assay kit(BioVision, Mountain View, CA, USA)を利用して測定した。血清20μlと、基質であるWST希釈標準溶液200μlを入れ、ここに酵素希釈標準溶液20μlを入れ、37℃で20分反応させた。450nmで吸光度を測定した。血清に対する対照反応を検討するために、血清の代わりに蒸留水20μlを入れて同一反応を行い、SOD活性(阻害率%)を計算し、SODの活性度を測定した。
【0055】
結果
SACを投与した群では、陽性対照群に比べて増加したCu/Zn−SOD数値を示したが、SAC 1群は、陽性対照群に比べて約4%、SAC 2群は、約3%の増加数値を示した。SAC投与群の間で、SAC 2群では、若干の減少を観察した(図9)。従って、SACは、ヘリコバクター・ピロリ感染による防御メカニズムによって生産されたSODの発現をさらに促進させると思料された。
【0056】
II.薬物により誘発された胃病変動物におけるSACの胃粘膜保護効果
塩酸−エタノール、アスピリンまたはインドメタシンによって誘発された胃病変動物モデルにおいて、SACの胃粘膜保護効果を評価した。
【0057】
実験材料
SACは、TCI Chemical Co.(Tokyo、Japan)から購入した。ビヒクルとしては、滅菌注射用水(製造番号73H5F21、大韓薬品工業株式会社)を使用し、陽性対照物質としては、スチレン(登録商標)を使用した。スチレン(登録商標)の賦形剤としては、0.5%CMC−Na及び滅菌注射用水を使用した。塩酸は、Samjung Chemical, Co.、エタノールは、Baker, Co.から購入し、アスピリンは、Sigma, Co.、インドメタシンは、Sigma, Co.から購入した。
【0058】
実験動物
特定病原体除去(SPF)ラット、HsdKoat: Sprague-Dawley(登録商標)(商標)SD(登録商標)(商標)7〜8週齢オス(体重208.44〜227.39g(7週齢)、223.85〜245.03g(8週齢)、供給源:Koatech, Co. Ltd., Gyunggido, Korea)を入手して、試験を実施する動物室内で7日間隔離し順化させて使用した。飼育環境条件は、温度23±3℃、相対湿度55±15%、換気回数10〜20回/時間、照明時間12時間(08:00点灯〜20:00消灯)に設定した京畿バイオ研究センター動物飼育区域で行った。全試験期間の間、試験に影響を及ぼすものと思料される飼育環境の変動は認知されなかった。飼料は、実験動物用固形飼料(Harlan Co. Ltd., USA. Teklad certified global 18% protein rodent diet, 2918C)をFolas Internationalから供給を受けて自由摂取させ、飼料の成分分析証明書を検討した結果、飼料組成及び混入物において、試験に悪影響を与えるほどの要因はなかった。水は、上水道水を紫外線殺菌器及び微細濾過装置で消毒した後、給水瓶を利用して自由摂取させた。
【0059】
試験群構成及び投与
試験群は、ビヒクルのみを投与したビヒクル対照群G1、試験物質(SAC)100mg/kg投与群G2、200mg/kg投与群G3、400mg/kg投与群G4、陽性対照物質スチレン(登録商標)100mg/kg(有効成分として55.6mg/kg投与群)G5に分けた。各試験群は、塩酸/エタノール誘発モデル(実験例7)の場合、ラット8匹ずつ、アスピリン及びインドメタシン誘発モデル(実験例8及び9)の場合、ラット6匹ずつで構成した。
【0060】
【表1】
G1:ビヒクル対照群
G2〜G4:試験物質投与群
G5:陽性対照物質投与群
a):有効成分の用量
【0061】
試験物質は、経口用ゾンデを装着した注射管を利用して胃内に直接投与し、投与回数は、1回/日、単回投与した。
【0062】
試験期間中、すべての試験群で、死亡動物や一般症状変化は観察されず、投与及び観察の期間中、試験物質の投与と関連した有意な体重変化は観察されなかった。
【0063】
統計学的方法
ビヒクル対照群に対する試験物質投与群及び陽性対照物質投与群の比較は、一方向分散分析(一方向ANOVA)を介して検証し、このとき、有意性と等分散性とが認定され、ダンカンテストを利用して事後検定を実施した。有意性の認定は、p<0.05である場合とし、商用統計プログラムであるSPSS 10.1を利用した。
【0064】
<実験例7>塩酸−エタノールにより誘発された胃病変モデル動物での胃病変の長さ及び阻害率に対するSACの効果
方法
試験物質投与1時間後に、150mM HCl(60%エタノール中)をラット1匹当たり1.5ml経口で投与した。エタノールと試験物質とを投与した動物をステンレス製網飼育かごで、水を与えず、絶食させて、1時間放置した。塩酸−エタノール投与1時間後、エーテル麻酔下で屠殺し、十二指腸と食道の一部を含めて胃を摘出した。摘出した胃は、すぐに2%中性緩衝ホルマリン溶液13mlを注入して胃の内部洗浄した後、鉗子(forceps)で食道及び十二指腸の部分を固定し、2%中性緩衝ホルマリン溶液13mlを注入した後、5分間固定した。胃大彎部を切開し、剖検台に固定して広げた後、胃病変の長さをノギス(vernier calipers)で測定した。広げられた胃の個別写真撮影を行い(図12)、測定及び撮影が終わった胃組織は、10%中性緩衝ホルマリン溶液で固定した。
【0065】
結果
本胃病変モデルでは、エタノールが直接的に胃粘膜を刺激して粘膜下筋肉層に浮腫を誘発し、一時的な虚血状態を発生させることによって、酸化的損傷による細胞の懐死を誘発すると同時に、塩酸が胃粘膜に直接的な刺激を加え、胃運動を亢進して急性胃炎を起こす。誘発後、肉眼所見は、胃粘膜内全般にわたって発生し、線状に長く出血所見が観察された。塩酸−エタノール投与1時間後、剖検時にビヒクル対照群は、胃粘膜全体に病変が誘発された(209.60±28.39mm)。試験物質投与群のうち200mg/kg投与群(106.65±16.70mm、p<0.01)、400mg/kg投与群(72.25±19.33mm、p<0.01)及び陽性対照群(スチレン(登録商標)投与群)(102.51±11.35、p<0.01)は、ビヒクル対照群と比較して、有意な病変減少効果を示した(図10、図12)。
【0066】
胃病変阻害率(%)は(ビヒクル対照群の平均−各動物の胃病変の長さ)/ビヒクル対照群の平均X100で表した。胃病変阻害率(%)では、ビヒクル対照群に比べて、試験物質200mg/kg投与群(41.12±7.97%、p<0.01)、400mg/kg投与群(65.53±9.22%、p<0.01)及び陽性対照群(51.09±5.41%、p<0.01)で有意な胃病変阻害率(%)が観察された(図11)。
【0067】
<実験例8>アスピリンにより誘発された胃病変モデル動物での胃病変面積及び阻害率に対するSACの効果
方法
試験動物を、一般環境条件下で24時間以上絶食させ、試験物質を投与した後、それから30分後に、アスピリン0.15mol/L HClを200mg/kg用量で経口投与した。投与3時間後、エーテル麻酔下で屠殺し、十二指腸と食道の一部を含めて胃を摘出した。摘出した胃は、2%ホルマリン溶液12mlを注入して10分間固定した。胃大彎部を切開して広げた後、胃腺胃部の病変部位を写真撮影した後、映像分析機(image analyzer)を利用して胃病変面積を測定した。
【0068】
結果
【表2】
【0069】
本胃病変モデルでは、アスピリンは、非ステロイド性消炎剤であり、胃壁保護因子であるプロスタグランジンの合成を阻害することによって、胃潰瘍を発生させる。誘発後、肉眼所見は、胃粘膜全般にわたって発生し、網状に出血所見が観察された。アスピリン投与後、剖検時にビヒクル対照群は、胃粘膜全体にわたって出血及び病変が誘発された(215.3±48.35mm2)。試験物質100mg/kg投与群(68.6±25.94mm2)、200mg/kg投与群(31.4±16.99mm2)、400mg/kg投与群(32.5±29.78mm2)及び陽性対照群(32.5±28.09mm2)いずれも、ビヒクル対照群と比較して、有意な病変減少効果を示した(図13、図15)。
【0070】
胃病変阻害率は、(ビヒクル対照群の平均−各動物の胃病変面積)/ビヒクル対照群の平均胃病変面積X100(%)で表した。ビヒクル対照群に比べて、試験物質100mg/kg投与群(68.2%)、200mg/kg投与群(85.4%)、400mg/kg投与群(84.9%)及び陽性対照群(84.9%)で、有意な胃病変阻害率(%)が観察された(図14)。
【0071】
<実験例9>インドメタシンにより誘発された胃病変モデル動物での胃病変面積及び阻害率に対するSACの効果
方法
試験動物を、一般環境条件下で24時間以上絶食させ、試験物質を投与した後、それから30分後に、インドメタシン(蒸留水中)を25mg/kg用量で経口投与した。投与6時間後に、エーテル麻酔下で屠殺し、十二指腸と食道の一部を含めて胃を摘出した。摘出した胃は、2%ホルマリン溶液12mlを注入して10分間固定し、大彎部に沿って切開して広げた後、病変部位を写真撮影し、映像分析機(image analyzer)を介して胃病変面積を測定した。
【0072】
結果
【表3】
【0073】
本胃病変モデルでは、インドメタシンは、非ステロイド性消炎剤であり、胃壁保護因子であるプロスタグランジンの合成を阻害することによって、胃病変を発生させる。誘発後、肉眼所見は、胃粘膜に局地的病変が発生し、一部出血所見が観察された。インドメタシン投与後、剖検時にビヒクル対照群は、7.6±5.85mm2の面積にわたって病変が誘発された。試験物質100mg/kg投与群で、病変面積は、3.2±3.47mm2とおよそ半分以下に減少し、200mg/kg投与群(0.5±0.30mm2)、400mg/kg投与群(0.4±0.36mm2)及び陽性対照群(3.4±2.75mm2)いずれも、ビヒクル対照群と比較して、有意な病変減少効果を示した。特に、200mg/kg及び400mg/kg投与群で、胃病変は、軽微なレベルであり、出血も、ほとんど観察されなかった(図16、図18)。
【0074】
胃病変阻害率(%)は、<実験例8>と同様の方法で計算した。ビヒクル対照群に比べて、試験物質100mg/kg投与群(57.9%)、200mg/kg投与群(93.8%)、400mg/kg投与群(94.4%)及び陽性対照群(55.2%)で有意な胃病変阻害率(%)が観察され、特に、200mg/kg以上投与時に、ほぼ完全な胃病変抑制を示すことを確認した(図17)。
【0075】
製造例
有効成分としてSACを含有する多様な形態の製剤を下記の通り製造した。
【0076】
<製造例1>錠剤の製造
SAC 200mg
乳糖 50mg
澱粉 10mg
ステアリン酸マグネシウム 適量
【0077】
前記の成分を混合し、一般的な錠剤の製造方法によって打錠して錠剤を製造した。
【0078】
<製造例2>散剤の製造
SAC 250mg
乳糖 30mg
澱粉 20mg
ステアリン酸マグネシウム 適量
【0079】
前記の成分を稠密に混合した後、ポリエチレンがコーティングされた包に充填して密封して散剤を製造した。
【0080】
<製造例3>カプセル剤の製造
SAC 500mg
乳糖 30mg
澱粉 28mg
ステアリン酸マグネシウム 適量
【0081】
前記の成分を混合し、一般的なカプセル剤の製造方法によって、ゼラチン硬カプセルに充填してカプセル剤を製造した。
【0082】
<製造例4>懸濁剤の製造
SAC 50mg
異性化糖 10g
砂糖 30mg
ナトリウムカルボキシメチルセルロース 100mg
レモン香 適量
精製水 適量加えて全体100ml
【0083】
前記の成分を混合し、一般的な懸濁剤の製造方法によって懸濁剤を製造した後、100ml量の褐色ビンに充填して滅菌して懸濁剤を製造した。
【0084】
<製造例5>軟質カプセル剤の製造(軟質カプセル剤1錠中の含有量)
SAC 500mg
ポリエチレングリコール400 400mg
濃グリセリン 55mg
精製水 35mg
【0085】
ポリエチレングリコールと濃グリセリンとを混合した後、精製水を添加した混合物を約60℃に維持した状態でフラボンを入れ、撹拌器で約1,500rpmで撹拌しつつ均一に混合した。前記混合液を徐々に撹拌しつつ室温に冷却し、真空ポンプで気泡を除去して軟質カプセルの内容物を調製した。軟質カプセルの被膜は、当分野で公知のゼラチンおよび可塑剤により調製した。1カプセル当たりゼラチン132mg、濃グリセリン52mg、70%ジソルビトール液6mg、着香剤としてエチルバニリン適量、コーティング基剤としてカルナウバワックスを使用し、一般的な製造方法で製造した。
【0086】
<製造例6>注射剤の製造
SAC 200mg
マンニトール 180mg
注射用滅菌蒸留水 2,974mg
Na2HPO412H2O 26mg
【0087】
一般的な注射剤の製造方法によって、1アンプル当たり前記の成分含有量で製造する。
【0088】
<製造例7>飲料の製造
SAC 0.01g
クエン酸 8.5g
精白糖 10g
ブドウ糖 2.5g
DL−リンゴ酸 0.3g
精製水 適量
【0089】
前記の成分含有量に、精製水を適量配合して総100mLになるようにして撹拌し、通常の飲料製造方法で製造した。
【0090】
本発明を、その例示的態様を参照しながら具体的に示し説明してきたが、添付の特許請求の範囲に記載された本発明の精神および範囲から逸脱することなく形態および詳細における様々な改変を行うことができることが、当業者により理解される。
【技術分野】
【0001】
関連する特許出願の相互参照
本願は、2009年9月23日付で韓国特許庁に出願された韓国特許出願第10-2009-0090232の恩典を主張するものであり、その開示は全体として参照により本願に組み入れられる。
【0002】
発明の分野
本発明は、抗ヘリコバクター・ピロリ活性または胃粘膜保護機能を有する組成物、胃腸疾患の予防または治療に有用な組成物及びそれを利用する方法に関する。
【背景技術】
【0003】
胃腸疾患の原因は多様であり、ヘリコバクター・ピロリ(Helicobacter pylori)を始めとする胃酸、ペプシン、過労、ストレス、アルコールなどの攻撃因子;及び粘液、組織再生能、血行改善能などの防御因子;の不均衡に起因することが知られている。過労、ストレス、ヘリコバクター・ピロリ感染などによる胃炎の発生は、一般的な症状であり、これを放置すれば、慢性胃炎、胃潰瘍などに進み、まれに、胃ガンに発展する可能性がある。アルコールによる胃粘膜の病変は、刺激要因を排除することによって、数日内に正常に回復したりもするが、はなはだしい場合は、胃腸管出血、胃穿孔などが発生することもある(非特許文献1)。シメチジン、ラニチジン、ファモチジン、オメプラゾールやビスマスなど多様な胃腸疾患治療剤が開発されて使われているが、それらは、投薬中止時に再発率が高いという短所があるため、新しい薬物の開発が必要である。
【0004】
ヘリコバクター・ピロリは、グラム陰性菌であり、主にヒトの胃粘膜や粘液で発見され、急性・慢性胃炎、萎縮性胃炎、胃潰瘍、胃ガン、十二指腸潰瘍などのほとんどの胃腸管関連疾病に致命的な原因菌であると明らかにされた(非特許文献2)。それだけではなく、消化器系疾患以外にも、肝性脳症(hepatic encephalopathy)、動脈硬化症、肝胆道系疾患などの疾病誘発にあたり、ヘリコバクター・ピロリが危険因子として関与する可能性があるという研究が報告されている(非特許文献3、非特許文献4)。米国疾病統制センター(CDC)は、ヘリコバクター・ピロリ菌に感染すると、慢性疲労、じんましん、偏頭痛、低身長、不妊、食品アレルギーなどが現れることがあると明らかにし、かような症状を、「異常なヘリコバクター・ピロリ症候群(strange Helicobacter syndrome)」と命名した。ヘリコバクター・ピロリの除菌には、抗生物質が主に使われているが、完全撲滅後にも再感染が起こりやすく、完全に除菌するためには、多量の薬剤を長期間使用せねばならないために、抗生物質治療の副作用や耐性菌増加の問題などがあり、抗生物質ではない新たな代案が必要である。
【0005】
最近、ヘリコバクター・ピロリによる疾患に、新規かつ安全な治療方法の一つとして、食品中の菌を抑制することができる物質を探索する研究が進められている。プロバイオティクスを利用した乳酸菌発酵乳、ヘリコバクター・ピロリに対して中和効果抗体を含んだ卵黄抗体(IgY)、ワイン及び緑茶に含まれたカテキン(catechin)などが有効な物質として予測されている(非特許文献5、非特許文献6、非特許文献7)。
【0006】
一方、ニンニクは、アリウム(Allium)属の一種であり、抗細菌作用、抗真菌作用、抗酸化作用及び抗ガン作用があるということが明らかになり(非特許文献8)、血栓症(thrombosis)、炎症(inflammation)そして細胞の酸化的ストレス(oxidative stress)を防止することが知られ(非特許文献9)、注目される生薬素材である。ニンニクは、非常に多様な成分を含むが、それらのうちには、抗真菌効果、抗ガン効果を有するエルボシド(eruboside)Bのようなステロイドサポニン(非特許文献10);コレステロール低下効果を有するグリコシド分画(非特許文献11);血小板凝集阻害効果を有するβ−クロロゲニン(非特許文献12)などの非硫黄化合物(nonsulfur compound);及びさまざまな種類の有機硫黄化合物(organosulfur compound)などが含まれる。アリウム属植物に含まれる有機硫黄化合物としては、S−アリル−L−システインスルホキシド(alliin:S−allyl−L−cysteine sulfoxide)、ジアリルジスルフィド(DADS:diallyl disulfide)、ジアリルスルフィド(DAS:diallyl sulfide)などの脂溶性有機硫黄化合物;及びS−アリル−L−システイン(SAC:S−allyl−L−cysteine)、S−アリルメルカプトシステイン(SAMC:S−allylmercaptocysteine;SAMC)などの水溶性有機硫黄化合物などがある。
【0007】
成熟したニンニクの有効成分のうち一つであるS−アリル−L−システイン(SAC)は、抗酸化剤の役割を有することが知られ、かような抗酸化活性でもって、動脈硬化にも抑制効果を示し、いくつかのガン細胞株に対しても抗ガン活性(非特許文献13)を示すなど、多様な効能が報告されている。しかし、S−アリル−L−システインの胃腸疾患治療効果や抗ヘリコバクター・ピロリ活性については報告されていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Taeyoung Oh, et al., J. Applied Pharmacology, Vol. 5, pp202-210, 1997
【非特許文献2】Crowe, Curr Opin Gastrenterol., 21(1), pp32-38, 2005
【非特許文献3】Karahalil, et al., Curr Drug Saf, 2, pp43-46, 2007
【非特許文献4】Scragg, et al., J. Epidemiol Community Health, 50(5), pp578-579, 1996
【非特許文献5】McMahon, et al., Aliment Pharmacol Ther 23(8), pp1215-1223, 2006
【非特許文献6】Sachdeva, et al., Eur J Gastroenterol Hepatol, 21(1), pp45-53, 2009
【非特許文献7】Shin, et al., J Med Microbiol., 53(Pt 1), pp31-34, 2004
【非特許文献8】Ankri, et al., Microbes Infect. 1(2), pp125-129, 1999
【非特許文献9】Sener, et al., Mol Nutr Food Res., 51(11), pp1345-1352, 2007
【非特許文献10】Matsuura H, et al., Chem Pharm Bull (Tokyo), 36: 3659-3663, 1988
【非特許文献11】Slowing, et al., J Nutr., 131, pp994S-9S, 2001
【非特許文献12】Rahman K, et al., J. Nutr. 2006
【非特許文献13】Proceedings of the American Association for Cancer Research, 30, p181, 1989
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ヘリコバクター・ピロリの除菌に、抗生物質が主に使われているが、完全撲滅後にも、再感染が起こりやすく、完全に除菌するためには、多量の薬剤を長期間使用しなければならないために、抗生物質治療の副作用や耐性菌の増加の問題などがあり、抗生物質ではない新たな代案が必要である。このために、本発明は抗ヘリコバクター・ピロリ活性と、胃粘膜保護機能とを有する薬物を提供することを解決課題とする。また、本発明は、胃腸疾患の予防、緩和または治療のための安全かつ新規な組成物を提供することを解決課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決するために、本発明は、アリウム(Allium)属植物の水溶性有機硫黄化合物であるS−アリル−L−システイン(SAC:S−allyl−L−cysteine)を有効成分として含み、かつ抗ヘリコバクター・ピロリ活性または胃粘膜保護機能を有する組成物を提供する。また本発明は、S−アリル−L−システインを有効成分として含む胃腸疾患の予防用、緩和用、治療用の組成物を提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明のS−アリル−L−システインを有効成分として含む組成物は、ヘリコバクター・ピロリ菌の感染を抑制し、ヘリコバクター・ピロリによる胃病変を保護する効果を有する。従って、本発明の組成物は、抗ヘリコバクター・ピロリ剤として使用可能である。
【0012】
また、発明のS−アリル−L−システインを有効成分として含む組成物は、塩酸−エタノール、アスピリンまたはインドメタシンによって誘発された胃粘膜病変を予防し、かつ回復させる効果を示すので、胃腸疾患の予防用途、緩和用途または治療用途として有用に使うことができる。本発明のS−アリル−L−システインを有効成分として含む組成物は、薬学的組成物、食品組成物として使用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
本発明の上記または他の特徴および利点は、以下である添付の図面を参照して例示的態様を詳細に説明することでより明らかになるだろう。
【0014】
【図1】全試験期間にわたる対照群および実験群の動物の平均体重変化を比較したグラフであり、値はすべて、平均値で表示されている。
【図2】図2Aおよび2Bは、SACが、ヘリコバクター・ピロリ感染後に測定した各群の平均血清IgG抗体生成に及ぼす影響を示したグラフであり、値はすべて、平均値と標準誤差とで表示されており、**:P<0.01、*:P<0.05である。
【図3】10週間の全試験期間の間に測定した各群の平均血清TNF−αに及ぼす影響を示したグラフであり、値はすべて、平均値と標準誤差とで表示されている。
【図4】実験群間での組織病理学的変化を比較したイメージである。
【図5】実験群間での組織病理学的変化及び好酸球の数を比較した図面であり、値はすべて、平均値と標準誤差とで表示されており、**:P<0.01、*:P<0.05である。
【図6】各群間での組織病理学的変化を比較した図面であり、値はすべて、平均値と標準誤差とで表示されている。
【図7】実験群の血清GOTレベルを示したグラフであり、値はすべて、平均値と標準誤差とで表示されている。
【図8】実験群の血清GPTレベルを示したグラフであり、値はすべて、平均値と標準誤差とで表示されている。
【図9】実験群の血清Cu/Zn−SODレベルを示したグラフであり、値はすべて、平均値と標準偏差で表示されている。
【図10】塩酸−エタノールにより誘発されたラットの胃病変の長さに対するSACの効果を示したグラフであり、**は、ビヒクル対照群(G1)について、p<0.01で有意に違いがあることを示しており、G1:ビヒクル対照群(蒸留水)、G2:SAC 100mg/kg、G3:SAC 200mg/kg、G4:SAC 400mg/kg、G5:陽性対照群(有効成分としてスチレン(登録商標)55.6mg/kg)である。
【図11】塩酸−エタノールにより誘発されたラットの胃病変に対する阻害率を示したグラフであり、**は、ビヒクル対照群(G1)について、p<0.01で有意に違いがあることを示しており、G1:ビヒクル対照群(蒸留水)、G2:SAC 100mg/kg、G3:SAC 200mg/kg、G4:SAC 400mg/kg、G5:陽性対照群(有効成分としてスチレン(登録商標)55.6mg/kg)である。
【図12】塩酸−エタノール誘発胃病変モデルでの、実験群ラットの胃組織のイメージであり、G1:ビヒクル対照群(蒸留水)、G2:SAC 100mg/kg、G3:SAC 200mg/kg、G4:SAC 400mg/kg、G5:陽性対照群(有効成分としてスチレン(登録商標)55.6mg/kg)である。
【図13】アスピリンにより誘発されたラットの胃病変面積に対するSACの効果を示したグラフであり、***は、ビヒクル対照群(G1)について、p<0.001で有意に違いがあることを示しており、G1:ビヒクル対照群(蒸留水)、G2:SAC 100mg/kg、G3:SAC 200mg/kg、G4:SAC 400mg/kg、G5:陽性対照群(有効成分としてスチレン(登録商標)55.6mg/kg)である。
【図14】アスピリンにより誘発されたラットの胃病変に対する阻害率を示したグラフである。
【図15】アスピリン誘発胃病変モデルでの実験群ラットの胃組織のイメージである。
【図16】インドメタシンにより誘発されたラットの胃病変の長さに対するSACの効果を示したグラフであり、*は、ビヒクル対照群(G1)について、p<0.05で有意に違いがあることを示しており、G1:ビヒクル対照群(蒸留水)、G2:SAC 100mg/kg、G3:SAC 200mg/kg、G4:SAC 400mg/kg、G5:陽性対照群(有効成分としてスチレン(登録商標)55.6mg/kg)である。
【図17】インドメタシンにより誘発されたラットの胃病変に対する阻害率を示したグラフである。
【図18】インドメタシン誘発胃病変モデルでの実験群ラットの胃組織のイメージである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
発明の詳細な説明
以下、本発明の例示的態様を示す添付の図面を参照して、本願発明をより詳細に説明する。
【0016】
本発明のS−アリル−L−システイン(SAC:S-allyl-L-cysteine)を含む組成物の特徴は、強力な抗ヘリコバクター・ピロリ活性があり、胃粘膜保護効果にすぐれるということである。
【0017】
本発明の発明者らは、マウス実験を介して、ヘリコバクター・ピロリを投与した陽性対照群(positive control group)では、ヘリコバクター・ピロリを投与していない陰性対照群(negative control group)に比べて、ヘリコバクター・ピロリに対する抗体力価(antibody titer)(抗H.Pylori IgG)が有意に上昇するが(p<0.01)、SACとヘリコバクター・ピロリとを共に投与した実験群では、抗ヘリコバクター・ピロリIgGが、陽性対照群に比べて、有意な減少を示すということを確認した(図2)。これは、SACが、ヘリコバクター・ピロリのマウスへの感染を抑制する効果があるということを意味する。また、本発明の発明者らは、ヘリコバクター・ピロリを投与した陽性対照群マウスで増加したT細胞関連炎症因子であるTNF−αの量が、SACとヘリコバクター・ピロリとを共に投与すると、陽性対照群に比べて減少するということを確認した(図3)。これから、SACが、ヘリコバクター・ピロリ感染マウスで誘発される炎症を抑制するということが分かる。
【0018】
ヘリコバクター・ピロリ感染による胃病変に及ぼす影響に対するSACの効果を観察するために、マウスの胃を組織切片にして、H&E(hematoxylin and eosin)染色を実施して観察した結果、ヘリコバクター・ピロリを投与した群で、胃粘膜細胞の変性(denaturation)、及び胃粘膜固有層での好酸球の浸潤が観察され(図4)、胃粘膜上皮方向に浸潤していく好酸球の数が、非感染群の陰性対照群に比べて、ヘリコバクター・ピロリ感染群である陽性対照群で増加し(p<0.01)、一方、陽性対照群に比べて、SACを投与した群では有意に減少するということが確認された(p<0.05)(図5)。細胞の核が分裂する有糸分裂像(mitotic figure)の個数も、陰性対照群に比べて、ヘリコバクター・ピロリに感染した群で増加したが、SACを共に投与した群では減少する傾向を示し(図6)、ヘリコバクター・ピロリによる胃病変が、SACによって抑制されたり回復するということが分かる。
【0019】
SACが実験動物の血清生化学的数値に及ぼす影響を分析した結果は、GOT(グルタミン酸オキザロ酢酸トランスアミナーゼ)とGPT(グルタミン酸ピルビン酸トランスアミナーゼ)の測定結果で、非感染群である陰性対照群で、最も低い数値を示し、SACを供給した群は、陽性対照群より低いGOTおよびGPT数値を示した(図7及び図8)。
【0020】
SACが酸化的病変に及ぼす影響を観察するために、血清中のCu/Zn−SOD(銅-亜鉛含有スーパーオキシドジスムターゼ)数値を測定した結果、ヘリコバクター・ピロリ感染群で、非感染群である陰性対照群に比べて増加する結果が示された。しかし、単独でヘリコバクター・ピロリのみ投与した陽性対照群に比べて、SACを同時に投与した群ではさらに上昇することが示され(図9)、ヘリコバクター・ピロリ感染による防御メカニズムによって生産されるSODの発現を、SACが増加させると確認された。
【0021】
また、本発明の発明者らは、薬物投与によってラットに誘発された胃粘膜病変に対して、SACが有意な胃病変抑制効果を示すということを確認した。塩酸−エタノール投与によりラットに誘発された胃病変に対して、SAC投与群は、ビヒクルのみ投与した対照群と比較して、有意な病変減少効果(図10、図12)、及び最大約66%の胃病変阻害率(%)を示した(図11)。アスピリン投与(図13〜図15)またはインドメタシン投与(図16〜図18)により誘発された胃病変に対しても、SAC投与群は、陰性対照群と比較して、有意な病変減少効果を示した。SACは、アスピリン誘発モデルの場合、最大約85%、インドメタシン誘発モデルの場合、最大約94%の胃病変阻害率を示し、陽性対照群に使われたスチレン(登録商標)(Stillen(登録商標))と同等であるか、さらに優秀な胃粘膜保護効果を有すると確認された。前記実験結果は、SACが多様な原因によって発生した胃病変に対して、幅広い胃粘膜保護活性を有するということを示している。
【0022】
前記のような実験結果を基にして、本発明は、SACを有効成分として含み、さらに薬学的に許容される担体を含む、抗ヘリコバクター・ピロリ活性を有する薬学的組成物を提供する。
【0023】
本発明は、SACを有効成分として含み、さらに薬学的に許容される担体を含む、胃粘膜保護機能を有する薬学的組成物を提供する。
【0024】
また本発明は、SACを有効成分として含み、かつ抗ヘリコバクター・ピロリ活性または胃粘膜保護機能を有する食品組成物を提供する。
【0025】
さらに本発明は、SACを有効成分として含む組成物を使用してヘリコバクター・ピロリ菌の感染を抑制し、ヘリコバクター・ピロリによる胃病変を抑制する方法を提供する。
【0026】
本発明は、SACを有効成分として含み、さらに薬学的に許容される担体を含む、胃腸疾患の予防用または治療用の薬学的組成物を提供する。
【0027】
また本発明は、SACを有効成分として含む、胃腸疾患の予防用または緩和用の食品組成物を提供する。
【0028】
本発明の範囲には、SACと共に、他の胃腸疾患治療剤または抗ヘリコバクター・ピロリ剤をさらに含む組成物を含む。
【0029】
さらに本発明は、SACを有効成分として含みかつ薬学的に許容される担体を含む組成物を使用し、胃腸疾患の予防または治療を行う方法を提供する。
【0030】
ヘリコバクター・ピロリ菌や胃腸疾患は、ヒトだけではなく、多くの他の動物でも問題になるので、本発明はまた、ヒト以外の他の動物のための組成物を提供する。
【0031】
本発明の組成物が使われる胃腸疾患としては、慢性胃炎、急性胃炎、胃潰瘍、胃ガン、胃腸管出血、逆流性食道炎(GERD)、十二指腸炎、及び十二指腸潰瘍を含み、これらに制限されるものではない。
【0032】
本発明の組成物による抗ヘリコバクター・ピロリ効果は、肝性脳症(hepatic encephalopathy)、動脈硬化症、肝胆道系疾患、じんましん、偏頭痛、低身長、不妊、食品アレルギー、慢性胃炎、急性胃炎、胃潰瘍、胃ガン、胃腸管出血、逆流性食道炎(GERD)、十二指腸炎、十二指腸潰瘍などの予防または治療に使われるが、これらに制限されるものではない。
【0033】
本発明の組成物において、有効成分としては、SACの薬学的または食品学的に許容可能な塩を利用しても良い。かような塩としては、酸付加塩や第4級アンモニウム塩などを挙げることができる。酸付加塩としては、例えば、塩酸塩、ブロム化水素酸塩、ヨード化水素酸塩、硫酸塩、リン酸塩のような無機酸塩;シュウ酸塩、マレイン酸塩、フマル酸塩、乳酸塩、リンゴ酸塩、コハク酸塩、酒石酸塩、安息香酸塩、メタンスルホン酸塩のような有機酸塩を挙げることができる。また、第4級アンモニウム塩としては、例えば、ヨウ化メチル、臭化メチル、ヨウ化エチル、臭化エチルのような低級アルキルハロゲン化物(short-chain alkyl halogenide);メチルメタンスルホネート、エチルメタンスルホネートのような低級アルキルスルホネート;メチル−p−トルエンスルホネートなどの低級アルキルアリールスルホネートなどの第4級アンモニウム塩を挙げることができる。
【0034】
また、SACまたはその薬学的または食品学的に許容可能な塩は、溶媒和物または水和物として存在するものもあるので、本発明の治療剤の有効成分としては、それらの溶媒和物または水和物を利用してもよい。
【0035】
本発明に使われるSACは、ヨーロッパ公開特許公報EP0429080A1に記載された方法、それ以外の合成、発酵などこの技術分野に公知の多様な方法で、ニンニク(garlic)、巨大ニンニク(elephant garlic)、玉ネギ(onion)、ネギ(scallion)などのアリウム(Allium)属植物から製造可能である。
【0036】
本発明の組成物の有効成分であるSAC、その薬学的または食品学的に許容可能な塩、またはそれらの溶媒和物もしくは水和物は、それら自体を患者に投与してもよいが、一般的には、それらの有効成分の1種または2種以上を含む組成物を調製して投与したり、他の有用な抗ヘリコバクター・ピロリ剤や胃腸疾患治療薬物と混合し、複合製剤形態に剤形化して投与することができる。
【0037】
また本発明は、前記薬学的組成物が、経口投与用製剤、粘膜適用製剤、注射剤、吸入剤、外用剤として剤形化される薬学的組成物を提供し、これらに制限されるものではない。前記経口投与用製剤は、硬質/軟質カプセル剤、錠剤、懸濁剤、シロップ剤、散剤、徐放型製剤、腸溶性製剤、顆粒剤、油糖剤、細粒剤、丸剤、エキス剤、液剤、芳香水剤、乳剤、シロップ剤、エリキシル剤、流動エキス剤、浸煎剤、チンキ剤、酒精剤、浸出油剤などを含むが、これらに制限されるものではない。粘膜適用剤としては、トローチ剤、口腔錠、舌下錠、坐剤、鼻腔噴霧剤を含むことができるが、これらに制限されるものではない。注射剤としては、皮下注射、筋肉注射、静脈注射、移植錠などが含まれ、これらに制限されるものではない。外用剤としては、経鼻剤、点眼剤、点耳剤、眼軟膏剤、ペースト剤、パップ剤、リニメント剤、ローション剤、塗布剤、散布剤、外用液剤などが含まれ、これらに制限されるものではない。
【0038】
本発明の製剤には、一つまたはそれ以上の活性成分以外に、一つまたはそれ以上の不活性である一般的な担体、例えば、澱粉、ラクトース、カルボキシメチルセルロース、カオリンなどの賦形剤;水、ゼラチン、アルコール、グルコース、アラビアゴム、トラガカントゴムなどの結合剤;澱粉、デキストリン、アルギン酸ナトリウムなどの崩壊剤(disintegrant);タルク、ステアリン酸、ステアリン酸マグネシウム、流動パラフィンなどの滑沢剤;溶解補助剤のような追加の添加剤成分が含まれてもよい。
【0039】
本発明による用途のためのSACの1日投与量は、投与しようとする対象の疾病進行程度、発病時期、年齢、健康状態、合併症などの多様な要因によって異なるが、一般的には、成人基準で、1mgないし10g、望ましくは100mgないし4g、さらに望ましくは1日200〜2,000mgを投与することができる。しかし、重症の患者や合併症がある場合には、治療効率性を増進させるために、本発明の薬物を前記範囲を超える大用量まで増量して投与することができる。1日投与量は、1回1〜2回または1〜3回に分けて投与することができる。例えば、SAC 200ないし500mgを含有する投与単位1〜2個を、1日1回ないし2回経口投与可能であり、状況によって、適切に調節可能である。
【0040】
本発明の組成物が食品組成物である場合、有効成分の混合量は、その使用目的(予防的処置または治療的処置、健康補助)に適するように決定することができる。一般的には、SACは、食品または飲料などの製造時に、原料に対して0.0001ないし90重量%、望ましくは0.1ないし50重量%の量で添加されてもよい。健康及び衛生を目的としたり、健康調節を目的とする長期間の摂取の場合には、前記量は、前記範囲以下でもよいが、有効成分は安全性面で何らの問題もないので、それ以上の量でも使用可能であることは自明である。本発明の食品組成物を使用する食品としては、肉類、ソーセージ、パン、チョコレート、キャンディー類、スナック類、菓子類、ピザ、ラーメン、その他の麺類、ガム類、アイスクリーム類を含んだ酪農製品、各種スープ、飲料水、茶、ドリンク剤、アルコール飲料及びビタミン複合剤などがあり、これらに制限されるものではない。本発明は、下記実験例及び実施例によってさらに詳細に説明するが、本発明はそれらによって制限されるものではない。
【実施例】
【0041】
実験例
I.ヘリコバクター・ピロリ感染動物におけるSACの効果
実験材料
SAC(S−アリル−L−システイン)は、TCI Chemical Co.(Tokyo、Japan)から購入した。ヘリコバクター・ピロリは、ATCC(American Type Culture Collection) 43504(cagA+,vacA s1−mlタイプ)を使用し、培養は、Mueller Hinton-Agar brothで37℃で48時間、5%CO2微好気性条件下で行い、感染濃度は、1X109CFU/mlであった。
【0042】
実験動物
特定病原体除去(SPF)オス8週齢C57BL/6マウスを使用し、マウスは、慶北大学校獣医科大学病理学教室動物室で体重を測定した後、全て4群に分け、各群にマウスの体重が平均になるように適切に分配して飼育した。本試験に使われたマウスは、温度22±3℃、相対湿度50±10%、照明時間12時間(08:00点灯〜20:00消灯)に設定された自動温湿度調節装置が設置された慶北大学校獣医科大学病理学教室の動物室で順化及び飼育された。全試験期間の間、試験に影響を及ぼすと思料される飼育環境の変動は、認知されなかった。飼料は、実験動物用固形飼料(PMI Nutrition International, 505 North 4th Street Richmond, In 47374, USA)を自由摂取させ、水は、上水道水を濾過した後、給水瓶を利用して自由摂取させた。
【0043】
試験群の構成及び投与
8週齢、オス、C57BL/6マウスを陽性対照群(ヘリコバクター・ピロリのみ投与した群;PC)、陰性対照群(生理食塩水投与群;NC)、実験群1(ヘリコバクター・ピロリ及びSAC 200mg/kg投与群;SAC 1)、実験群2(ヘリコバクター・ピロリ及びSAC 400mg/kg投与群;SAC 2)の4群に区分した。各群は、10匹のマウスで構成された。実験に使われた白色粉末状のSACは、上水道水に、それぞれ20mg/mLと40mg/mLとの濃度に希釈し、各実験群1と実験群2とのマウスに体重別g当たり10μlを基準に、週3回経口投与法で供給して10週間投与した。全試験期間の間、飲み水は自由摂取させた。感染物質であるヘリコバクター・ピロリは、1×109CFU/mLの濃度で生理食塩水により集められ、マウス1匹当たり0.2mLずつ経口投与を行い、SAC投与開始後の2週間後から8週間実施した。感染前に8時間の絶食状態が維持され、ヘリコバクター・ピロリ投与10分前、絶食で酸性化された胃内部を中和させるために、0.2M重炭酸ナトリウム(NaHCO3)を、マウス1匹当たり0.15mLずつ投与した。陰性対照群には、感染物質の代わりに、生理食塩水だけを同一用量で投与した。すべての群に、一般飼料が供給された。10週間の実験期間後、すべての実験動物の剖検を実施し、病理組織学的検査のために、各実験動物ごとに、血液と臓器のサンプルを採取した。実験スケジュールは、次の通りであった。
【0044】
統計学的方法
得られた資料についての統計学的有意性検定は、独立標本t検定法で実施した。統計分析は、統計プログラムであるSPSS 14.OKを利用して分析し、有意確率pが0.05未満である場合、有意性があると判定した。
【0045】
<実験例1>試験物質が体重変化に及ぼす影響
オスC57BL/6マウスヘリコバクター・ピロリ感染モデルで、10週間の全試験期間の間、1週間に3回ずつ体重を測定することによって、体重変化を観察した。ヘリコバクター・ピロリ感染時点と、感染を確認するために中間血清採取を行った時点で若干の減少を示したことを除いては、全試験群で、徐々に増加することを観察することができた(図1)。非感染群である陰性対照群は、31.3%の体重増加率を示し、陽性対照群は28.9%、SAC 1は26.9%、SAC 2は28.7%の体重増加率を示した。陽性対照群では、陰性対照群に比べて、2.4%の減少率を示し、SAC 1群は、陽性対照群に比べて2%が減少し、SAC 2群は、0.2%ほど減少し、SAC 2群は、SAC 1群に比べて、1.8%が増加したが、有意性があるものではないので、ヘリコバクター・ピロリ感染と実験物質とが、実験期間の体重変化に有意な影響を及ぼさないと思料される。
【0046】
<実験例2>血清抗ヘリコバクター・ピロリ抗体(anti−H.Pylori IgG)形成能に対するSACの効果
方法
血清抗ヘリコバクター・ピロリ抗体形成能に対するSACの効果を確認するために、酵素結合免疫吸着分析法(ELISA)を使用した。マウスに、経口感染物質であるH.ピロリ ATCC 43504と、ヘリコバクター・ピロリが特異的に生産する組み換え毒素VacAとを抗原として、それぞれ1μg/ウェル及び10ng/ウェルの濃度で、分析用96ウェル・マイクロプレートに入れ、4℃に維持してコーティングされるようにした。上澄液を捨てた後、他の不要な反応を遮断するために、ブロッキングバッファー(1%スキムミルク)を入れた後、37℃で1時間反応させ、ここに各実験群のマウス血清を10μl入れ、37℃で2時間反応させた。Tween20の入っているトリス緩衝溶液で洗浄過程を経たマイクロプレートに、HRP(セイヨウワサビペルオキシダーゼ)が結合された抗マウスIgGである二次抗体を入れ、37℃で1時間維持した。その後、同じ洗浄過程を経た後、発色試薬である3、3',5,5'−テトラメチルベンジジン(TMB)とH2O2とを同量混合させて100μlを入れた後、光を遮断し、30分以内に発色を観察した。反応を止めるための0.2M硫酸を100μl入れて反応を終了させた後、それらを450nmで吸光度を測定した。
【0047】
結果
血清中抗H.ピロリIgG抗体値を測定した結果、ヘリコバクター・ピロリを投与した陽性対照群、SAC 1及びSAC 2では、感染期間の間、ヘリコバクター・ピロリに対する抗体(抗H.ピロリIgG)が生産されるということを確認することができ、ヘリコバクター・ピロリを投与していない陰性対照群では、生成されないということを確認することができた(図2)。一方、SACを供給した実験群では、抗H.ピロリIgG抗体力価(antibody titer)が陽性対照群に比べて減少したが、SAC 2群は、陽性対照群及びSAC 1群と比較して、抗体力価の著しい減少を示し、SAC濃度依存的に、実験群のヘリコバクター・ピロリに対する抗体生成が抑制された(図2A)。また、ヘリコバクター・ピロリの毒素型蛋白質であるVacAに対する抗体(抗s1m1 VacA IgG)形成も、抗H.ピロリIgGの減少と同じ様相を示した(図2B)。それにより、SACが濃度依存的に、ヘリコバクター・ピロリのマウスへの感染を抑制させるということが分かった。
【0048】
<実験例3>血清TNF−αに対するSACの効果
方法
炎症因子である血清のTNF−αに及ぼすSACの影響を観察するために、市販のマウスTNF−α抗体分析キットMicroplate(R&D systems Inc., USA)を利用し、キットに付属された実験方法によって、各実験動物の血清内に存在するTNF−αの濃度を測定した。
【0049】
結果
ヘリコバクター・ピロリを投与したすべての群で、非感染群である陰性対照群に比べて、TNF−α値が上昇することが観察され(p<0.1)、SACを供給したSAC 1、SAC 2群では、陽性対照群に比べて、その値が低下する傾向を示した(p<0.09)(図3)。従って、SACが、ヘリコバクター・ピロリ感染マウスで、ヘリコバクター・ピロリによって誘発される炎症を抑制させると思料された。
【0050】
<実験例4>ヘリコバクター・ピロリによる胃組織学的変化に対するSACの効果
方法
オスC57BL/6マウスヘリコバクター・ピロリ感染モデルで、感染8週間の試験期間の間、進行する病変過程中、胃に現れる組織病理学的変化を観察するために、胃サンプルを10%ホルマリンで固定した後、パラフィンブロックを形成した後、4μm厚に組織切片を作り、H&E(hematoxylin-eosin)染色法を実施して光学顕微鏡で観察した。群間の細胞病変程度、浸潤した好酸球の数、胃全般組織に現れる有糸分裂像の数など、すべての病理学的観察は二重検証を実施した。また、好酸球の数は、食道−胃連接部を確認し、胃憤門部を開始点として、胃小窩(gastric pit)及び粘膜固有層の胃陰窩(gastric crypt)の3つを基準とし、有糸分裂像の数は、憤門部を開始点として、幽門部確認地点前までの全体胃前庭部を確認し、個体当たり2ヵ所を400倍倍率で算定した後、各群間の平均値を求めて比較した。
【0051】
結果
H&E染色の結果、群間の好酸球の浸潤および有糸分裂像の数の差を観察することができた。胃粘膜固有層に多数存在し、胃粘膜上皮側に浸潤していく好酸球の様子を観察でき(図4)、その数を算定した結果、非感染群の陰性対照群に比べて、ヘリコバクター・ピロリ感染群で、好酸球の数が有意に増加することが分かった(p<0.01)(図5B)。一方、陽性対照群に比べて、SAC 1、SAC 2群では、その数が減少するという結果を観察でき、特に、SAC 1群では、有意な差を示した(p<0.05)(図5B)。細胞の核が分裂する有糸分裂像の個数もまた、陰性対照群に比べて、ヘリコバクター・ピロリ感染群で増加する結果を観察できた。陽性対照群、SAC 1及びSAC 2群間の有意な差は観察することができなかったが、SAC 2で、多少減少すると示された。従って、ヘリコバクター・ピロリ感染による胃の好酸球の浸潤増加は、先行実験及びさまざまな研究結果によって観察されていたが、SAC供給がこれを減少させたということは、ヘリコバクター・ピロリによる胃病変に対するSACの保護作用があることを意味する。
【0052】
<実験例5>SACが、ヘリコバクター・ピロリ感染を誘発したマウスモデルの血清指標に及ぼす影響
一般的病変に関連する指標である血清GOT(グルタミン酸オキザロ酢酸トランスアミナーゼ)の分析結果、ヘリコバクター・ピロリを投与した陽性対照群が、全群で最も高いGOT数値を示し、SAC 1、SAC 2群は、陽性対照群と比較して有意差が観察されなかったが、2つの群いずれも減少する様相を示した(p<0.08)(図7)。
【0053】
肝病変に関連する指標である血清GPT(グルタミン酸ピルビン酸トランスアミナーゼ)の分析結果、ヘリコバクター・ピロリを投与した陽性対照群が、全群で最も高いGPT数値を示し、SAC 1、SAC 2群は、陽性対照群と比較して有意差が観察されなかったが、2つの群いずれも減少するという様相を示した(図8)。
【0054】
<実験例6>血清Cu/Zn−SOD数値測定
方法
オスC57BL/6マウスヘリコバクター・ピロリ感染モデルで、10週間の全試験期間の間、試験物質が血清の抗酸化酵素であるCu/Zn−SOD(銅-亜鉛含有スーパーオキシドジスムターゼ)に及ぼす影響を観察するために、Superoxide Dismutase Activity Assay kit(BioVision, Mountain View, CA, USA)を利用して測定した。血清20μlと、基質であるWST希釈標準溶液200μlを入れ、ここに酵素希釈標準溶液20μlを入れ、37℃で20分反応させた。450nmで吸光度を測定した。血清に対する対照反応を検討するために、血清の代わりに蒸留水20μlを入れて同一反応を行い、SOD活性(阻害率%)を計算し、SODの活性度を測定した。
【0055】
結果
SACを投与した群では、陽性対照群に比べて増加したCu/Zn−SOD数値を示したが、SAC 1群は、陽性対照群に比べて約4%、SAC 2群は、約3%の増加数値を示した。SAC投与群の間で、SAC 2群では、若干の減少を観察した(図9)。従って、SACは、ヘリコバクター・ピロリ感染による防御メカニズムによって生産されたSODの発現をさらに促進させると思料された。
【0056】
II.薬物により誘発された胃病変動物におけるSACの胃粘膜保護効果
塩酸−エタノール、アスピリンまたはインドメタシンによって誘発された胃病変動物モデルにおいて、SACの胃粘膜保護効果を評価した。
【0057】
実験材料
SACは、TCI Chemical Co.(Tokyo、Japan)から購入した。ビヒクルとしては、滅菌注射用水(製造番号73H5F21、大韓薬品工業株式会社)を使用し、陽性対照物質としては、スチレン(登録商標)を使用した。スチレン(登録商標)の賦形剤としては、0.5%CMC−Na及び滅菌注射用水を使用した。塩酸は、Samjung Chemical, Co.、エタノールは、Baker, Co.から購入し、アスピリンは、Sigma, Co.、インドメタシンは、Sigma, Co.から購入した。
【0058】
実験動物
特定病原体除去(SPF)ラット、HsdKoat: Sprague-Dawley(登録商標)(商標)SD(登録商標)(商標)7〜8週齢オス(体重208.44〜227.39g(7週齢)、223.85〜245.03g(8週齢)、供給源:Koatech, Co. Ltd., Gyunggido, Korea)を入手して、試験を実施する動物室内で7日間隔離し順化させて使用した。飼育環境条件は、温度23±3℃、相対湿度55±15%、換気回数10〜20回/時間、照明時間12時間(08:00点灯〜20:00消灯)に設定した京畿バイオ研究センター動物飼育区域で行った。全試験期間の間、試験に影響を及ぼすものと思料される飼育環境の変動は認知されなかった。飼料は、実験動物用固形飼料(Harlan Co. Ltd., USA. Teklad certified global 18% protein rodent diet, 2918C)をFolas Internationalから供給を受けて自由摂取させ、飼料の成分分析証明書を検討した結果、飼料組成及び混入物において、試験に悪影響を与えるほどの要因はなかった。水は、上水道水を紫外線殺菌器及び微細濾過装置で消毒した後、給水瓶を利用して自由摂取させた。
【0059】
試験群構成及び投与
試験群は、ビヒクルのみを投与したビヒクル対照群G1、試験物質(SAC)100mg/kg投与群G2、200mg/kg投与群G3、400mg/kg投与群G4、陽性対照物質スチレン(登録商標)100mg/kg(有効成分として55.6mg/kg投与群)G5に分けた。各試験群は、塩酸/エタノール誘発モデル(実験例7)の場合、ラット8匹ずつ、アスピリン及びインドメタシン誘発モデル(実験例8及び9)の場合、ラット6匹ずつで構成した。
【0060】
【表1】
G1:ビヒクル対照群
G2〜G4:試験物質投与群
G5:陽性対照物質投与群
a):有効成分の用量
【0061】
試験物質は、経口用ゾンデを装着した注射管を利用して胃内に直接投与し、投与回数は、1回/日、単回投与した。
【0062】
試験期間中、すべての試験群で、死亡動物や一般症状変化は観察されず、投与及び観察の期間中、試験物質の投与と関連した有意な体重変化は観察されなかった。
【0063】
統計学的方法
ビヒクル対照群に対する試験物質投与群及び陽性対照物質投与群の比較は、一方向分散分析(一方向ANOVA)を介して検証し、このとき、有意性と等分散性とが認定され、ダンカンテストを利用して事後検定を実施した。有意性の認定は、p<0.05である場合とし、商用統計プログラムであるSPSS 10.1を利用した。
【0064】
<実験例7>塩酸−エタノールにより誘発された胃病変モデル動物での胃病変の長さ及び阻害率に対するSACの効果
方法
試験物質投与1時間後に、150mM HCl(60%エタノール中)をラット1匹当たり1.5ml経口で投与した。エタノールと試験物質とを投与した動物をステンレス製網飼育かごで、水を与えず、絶食させて、1時間放置した。塩酸−エタノール投与1時間後、エーテル麻酔下で屠殺し、十二指腸と食道の一部を含めて胃を摘出した。摘出した胃は、すぐに2%中性緩衝ホルマリン溶液13mlを注入して胃の内部洗浄した後、鉗子(forceps)で食道及び十二指腸の部分を固定し、2%中性緩衝ホルマリン溶液13mlを注入した後、5分間固定した。胃大彎部を切開し、剖検台に固定して広げた後、胃病変の長さをノギス(vernier calipers)で測定した。広げられた胃の個別写真撮影を行い(図12)、測定及び撮影が終わった胃組織は、10%中性緩衝ホルマリン溶液で固定した。
【0065】
結果
本胃病変モデルでは、エタノールが直接的に胃粘膜を刺激して粘膜下筋肉層に浮腫を誘発し、一時的な虚血状態を発生させることによって、酸化的損傷による細胞の懐死を誘発すると同時に、塩酸が胃粘膜に直接的な刺激を加え、胃運動を亢進して急性胃炎を起こす。誘発後、肉眼所見は、胃粘膜内全般にわたって発生し、線状に長く出血所見が観察された。塩酸−エタノール投与1時間後、剖検時にビヒクル対照群は、胃粘膜全体に病変が誘発された(209.60±28.39mm)。試験物質投与群のうち200mg/kg投与群(106.65±16.70mm、p<0.01)、400mg/kg投与群(72.25±19.33mm、p<0.01)及び陽性対照群(スチレン(登録商標)投与群)(102.51±11.35、p<0.01)は、ビヒクル対照群と比較して、有意な病変減少効果を示した(図10、図12)。
【0066】
胃病変阻害率(%)は(ビヒクル対照群の平均−各動物の胃病変の長さ)/ビヒクル対照群の平均X100で表した。胃病変阻害率(%)では、ビヒクル対照群に比べて、試験物質200mg/kg投与群(41.12±7.97%、p<0.01)、400mg/kg投与群(65.53±9.22%、p<0.01)及び陽性対照群(51.09±5.41%、p<0.01)で有意な胃病変阻害率(%)が観察された(図11)。
【0067】
<実験例8>アスピリンにより誘発された胃病変モデル動物での胃病変面積及び阻害率に対するSACの効果
方法
試験動物を、一般環境条件下で24時間以上絶食させ、試験物質を投与した後、それから30分後に、アスピリン0.15mol/L HClを200mg/kg用量で経口投与した。投与3時間後、エーテル麻酔下で屠殺し、十二指腸と食道の一部を含めて胃を摘出した。摘出した胃は、2%ホルマリン溶液12mlを注入して10分間固定した。胃大彎部を切開して広げた後、胃腺胃部の病変部位を写真撮影した後、映像分析機(image analyzer)を利用して胃病変面積を測定した。
【0068】
結果
【表2】
【0069】
本胃病変モデルでは、アスピリンは、非ステロイド性消炎剤であり、胃壁保護因子であるプロスタグランジンの合成を阻害することによって、胃潰瘍を発生させる。誘発後、肉眼所見は、胃粘膜全般にわたって発生し、網状に出血所見が観察された。アスピリン投与後、剖検時にビヒクル対照群は、胃粘膜全体にわたって出血及び病変が誘発された(215.3±48.35mm2)。試験物質100mg/kg投与群(68.6±25.94mm2)、200mg/kg投与群(31.4±16.99mm2)、400mg/kg投与群(32.5±29.78mm2)及び陽性対照群(32.5±28.09mm2)いずれも、ビヒクル対照群と比較して、有意な病変減少効果を示した(図13、図15)。
【0070】
胃病変阻害率は、(ビヒクル対照群の平均−各動物の胃病変面積)/ビヒクル対照群の平均胃病変面積X100(%)で表した。ビヒクル対照群に比べて、試験物質100mg/kg投与群(68.2%)、200mg/kg投与群(85.4%)、400mg/kg投与群(84.9%)及び陽性対照群(84.9%)で、有意な胃病変阻害率(%)が観察された(図14)。
【0071】
<実験例9>インドメタシンにより誘発された胃病変モデル動物での胃病変面積及び阻害率に対するSACの効果
方法
試験動物を、一般環境条件下で24時間以上絶食させ、試験物質を投与した後、それから30分後に、インドメタシン(蒸留水中)を25mg/kg用量で経口投与した。投与6時間後に、エーテル麻酔下で屠殺し、十二指腸と食道の一部を含めて胃を摘出した。摘出した胃は、2%ホルマリン溶液12mlを注入して10分間固定し、大彎部に沿って切開して広げた後、病変部位を写真撮影し、映像分析機(image analyzer)を介して胃病変面積を測定した。
【0072】
結果
【表3】
【0073】
本胃病変モデルでは、インドメタシンは、非ステロイド性消炎剤であり、胃壁保護因子であるプロスタグランジンの合成を阻害することによって、胃病変を発生させる。誘発後、肉眼所見は、胃粘膜に局地的病変が発生し、一部出血所見が観察された。インドメタシン投与後、剖検時にビヒクル対照群は、7.6±5.85mm2の面積にわたって病変が誘発された。試験物質100mg/kg投与群で、病変面積は、3.2±3.47mm2とおよそ半分以下に減少し、200mg/kg投与群(0.5±0.30mm2)、400mg/kg投与群(0.4±0.36mm2)及び陽性対照群(3.4±2.75mm2)いずれも、ビヒクル対照群と比較して、有意な病変減少効果を示した。特に、200mg/kg及び400mg/kg投与群で、胃病変は、軽微なレベルであり、出血も、ほとんど観察されなかった(図16、図18)。
【0074】
胃病変阻害率(%)は、<実験例8>と同様の方法で計算した。ビヒクル対照群に比べて、試験物質100mg/kg投与群(57.9%)、200mg/kg投与群(93.8%)、400mg/kg投与群(94.4%)及び陽性対照群(55.2%)で有意な胃病変阻害率(%)が観察され、特に、200mg/kg以上投与時に、ほぼ完全な胃病変抑制を示すことを確認した(図17)。
【0075】
製造例
有効成分としてSACを含有する多様な形態の製剤を下記の通り製造した。
【0076】
<製造例1>錠剤の製造
SAC 200mg
乳糖 50mg
澱粉 10mg
ステアリン酸マグネシウム 適量
【0077】
前記の成分を混合し、一般的な錠剤の製造方法によって打錠して錠剤を製造した。
【0078】
<製造例2>散剤の製造
SAC 250mg
乳糖 30mg
澱粉 20mg
ステアリン酸マグネシウム 適量
【0079】
前記の成分を稠密に混合した後、ポリエチレンがコーティングされた包に充填して密封して散剤を製造した。
【0080】
<製造例3>カプセル剤の製造
SAC 500mg
乳糖 30mg
澱粉 28mg
ステアリン酸マグネシウム 適量
【0081】
前記の成分を混合し、一般的なカプセル剤の製造方法によって、ゼラチン硬カプセルに充填してカプセル剤を製造した。
【0082】
<製造例4>懸濁剤の製造
SAC 50mg
異性化糖 10g
砂糖 30mg
ナトリウムカルボキシメチルセルロース 100mg
レモン香 適量
精製水 適量加えて全体100ml
【0083】
前記の成分を混合し、一般的な懸濁剤の製造方法によって懸濁剤を製造した後、100ml量の褐色ビンに充填して滅菌して懸濁剤を製造した。
【0084】
<製造例5>軟質カプセル剤の製造(軟質カプセル剤1錠中の含有量)
SAC 500mg
ポリエチレングリコール400 400mg
濃グリセリン 55mg
精製水 35mg
【0085】
ポリエチレングリコールと濃グリセリンとを混合した後、精製水を添加した混合物を約60℃に維持した状態でフラボンを入れ、撹拌器で約1,500rpmで撹拌しつつ均一に混合した。前記混合液を徐々に撹拌しつつ室温に冷却し、真空ポンプで気泡を除去して軟質カプセルの内容物を調製した。軟質カプセルの被膜は、当分野で公知のゼラチンおよび可塑剤により調製した。1カプセル当たりゼラチン132mg、濃グリセリン52mg、70%ジソルビトール液6mg、着香剤としてエチルバニリン適量、コーティング基剤としてカルナウバワックスを使用し、一般的な製造方法で製造した。
【0086】
<製造例6>注射剤の製造
SAC 200mg
マンニトール 180mg
注射用滅菌蒸留水 2,974mg
Na2HPO412H2O 26mg
【0087】
一般的な注射剤の製造方法によって、1アンプル当たり前記の成分含有量で製造する。
【0088】
<製造例7>飲料の製造
SAC 0.01g
クエン酸 8.5g
精白糖 10g
ブドウ糖 2.5g
DL−リンゴ酸 0.3g
精製水 適量
【0089】
前記の成分含有量に、精製水を適量配合して総100mLになるようにして撹拌し、通常の飲料製造方法で製造した。
【0090】
本発明を、その例示的態様を参照しながら具体的に示し説明してきたが、添付の特許請求の範囲に記載された本発明の精神および範囲から逸脱することなく形態および詳細における様々な改変を行うことができることが、当業者により理解される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
S−アリル−L−システイン、その薬学的に許容可能な塩、またはそれらの溶媒和物もしくは水和物を有効成分として含み、かつ抗ヘリコバクター・ピロリ活性を有する、薬学的組成物。
【請求項2】
抗ヘリコバクター・ピロリ活性が、肝性脳症、動脈硬化症、肝胆道系疾患、じんましん、偏頭痛、低身長、不妊、食品アレルギー、慢性胃炎、急性胃炎、胃潰瘍、胃ガン、胃腸管出血、逆流性食道炎、十二指腸炎、または十二指腸潰瘍を予防または治療する活性を含む、請求項1に記載の薬学的組成物。
【請求項3】
S−アリル−L−システイン、その薬学的に許容可能な塩、またはそれらの溶媒和物もしくは水和物を有効成分として含む、胃腸疾患の予防用または治療用の薬学的組成物。
【請求項4】
前記胃腸疾患が、慢性胃炎、急性胃炎、胃潰瘍、胃ガン、胃腸管出血、逆流性食道炎、十二指腸炎、及び十二指腸潰瘍からなる群より選択される、請求項3に記載の薬学的組成物。
【請求項5】
S−アリル−L−システイン、その薬学的に許容可能な塩、またはそれらの溶媒和物もしくは水和物を有効成分として含み、かつ胃粘膜保護機能を有する、薬学的組成物。
【請求項6】
前記S−アリル−L−システインが、アリウム(Allium)属植物から単離され、かつ精製、合成、または発酵によって調製されたものである、請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載の薬学的組成物。
【請求項7】
請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載の組成物を含む、経口投与用製剤、粘膜適用製剤、注射剤、吸入剤及び外用剤からなる群より選択される、医薬製剤。
【請求項8】
経口投与用製剤が、硬質カプセル剤、軟質カプセル剤、錠剤、懸濁剤、散剤、徐放型製剤、腸溶性製剤、顆粒剤、油糖剤、細粒剤、丸剤、エキス剤、液剤、芳香水剤、乳剤、シロップ剤、エリキシル剤、流動エキス剤、浸煎剤、チンキ剤、酒精剤、及び浸出油剤からなる群より選択される、請求項7に記載の医薬製剤。
【請求項9】
S−アリル−L−システイン、その塩、またはそれらの溶媒和物もしくは水和物を有効成分として含み、かつ抗ヘリコバクター・ピロリ活性または胃粘膜保護機能を有する、食品組成物。
【請求項10】
S−アリル−L−システイン、その塩、またはそれらの溶媒和物もしくは水和物を有効成分として含む、胃腸疾患の予防用、緩和用または治療用の食品組成物。
【請求項11】
前記胃腸疾患が、慢性胃炎、急性胃炎、胃潰瘍、胃ガン、胃腸管出血、逆流性食道炎、十二指腸炎、及び十二指腸潰瘍からなる群より選択される、請求項10に記載の食品組成物。
【請求項1】
S−アリル−L−システイン、その薬学的に許容可能な塩、またはそれらの溶媒和物もしくは水和物を有効成分として含み、かつ抗ヘリコバクター・ピロリ活性を有する、薬学的組成物。
【請求項2】
抗ヘリコバクター・ピロリ活性が、肝性脳症、動脈硬化症、肝胆道系疾患、じんましん、偏頭痛、低身長、不妊、食品アレルギー、慢性胃炎、急性胃炎、胃潰瘍、胃ガン、胃腸管出血、逆流性食道炎、十二指腸炎、または十二指腸潰瘍を予防または治療する活性を含む、請求項1に記載の薬学的組成物。
【請求項3】
S−アリル−L−システイン、その薬学的に許容可能な塩、またはそれらの溶媒和物もしくは水和物を有効成分として含む、胃腸疾患の予防用または治療用の薬学的組成物。
【請求項4】
前記胃腸疾患が、慢性胃炎、急性胃炎、胃潰瘍、胃ガン、胃腸管出血、逆流性食道炎、十二指腸炎、及び十二指腸潰瘍からなる群より選択される、請求項3に記載の薬学的組成物。
【請求項5】
S−アリル−L−システイン、その薬学的に許容可能な塩、またはそれらの溶媒和物もしくは水和物を有効成分として含み、かつ胃粘膜保護機能を有する、薬学的組成物。
【請求項6】
前記S−アリル−L−システインが、アリウム(Allium)属植物から単離され、かつ精製、合成、または発酵によって調製されたものである、請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載の薬学的組成物。
【請求項7】
請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載の組成物を含む、経口投与用製剤、粘膜適用製剤、注射剤、吸入剤及び外用剤からなる群より選択される、医薬製剤。
【請求項8】
経口投与用製剤が、硬質カプセル剤、軟質カプセル剤、錠剤、懸濁剤、散剤、徐放型製剤、腸溶性製剤、顆粒剤、油糖剤、細粒剤、丸剤、エキス剤、液剤、芳香水剤、乳剤、シロップ剤、エリキシル剤、流動エキス剤、浸煎剤、チンキ剤、酒精剤、及び浸出油剤からなる群より選択される、請求項7に記載の医薬製剤。
【請求項9】
S−アリル−L−システイン、その塩、またはそれらの溶媒和物もしくは水和物を有効成分として含み、かつ抗ヘリコバクター・ピロリ活性または胃粘膜保護機能を有する、食品組成物。
【請求項10】
S−アリル−L−システイン、その塩、またはそれらの溶媒和物もしくは水和物を有効成分として含む、胃腸疾患の予防用、緩和用または治療用の食品組成物。
【請求項11】
前記胃腸疾患が、慢性胃炎、急性胃炎、胃潰瘍、胃ガン、胃腸管出血、逆流性食道炎、十二指腸炎、及び十二指腸潰瘍からなる群より選択される、請求項10に記載の食品組成物。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【公表番号】特表2013−505292(P2013−505292A)
【公表日】平成25年2月14日(2013.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−530785(P2012−530785)
【出願日】平成22年9月20日(2010.9.20)
【国際出願番号】PCT/KR2010/006506
【国際公開番号】WO2011/037411
【国際公開日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(511055511)ファーマキング カンパニー リミテッド (2)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成25年2月14日(2013.2.14)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年9月20日(2010.9.20)
【国際出願番号】PCT/KR2010/006506
【国際公開番号】WO2011/037411
【国際公開日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(511055511)ファーマキング カンパニー リミテッド (2)
【Fターム(参考)】
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