説明

S吸蔵触媒

【課題】低温〜中高温の全ての領域で高いS吸蔵能を発揮しうるS吸蔵触媒を提供する。
【解決手段】本発明のS吸蔵触媒は、触媒担体と、該触媒担体に担持され排ガス中のSOをSOに酸化する触媒金属と、該触媒担体に担持され排ガス中の硫黄成分を吸蔵するS吸蔵材とを備える。このS吸蔵触媒は、S吸蔵材としてBaを単独で含むBa単独含有部2と、S吸蔵材として少なくともKを含むK含有部1と、を有する。K含有部1は排ガス上流側に配置され、Ba単独含有部2は排ガス下流側に配置されている。Ba単独含有部2は、排ガス温度が400℃程度以上となる中高温域で極めて高いS吸蔵能を発揮する。K含有部は、200℃程度以下の低温域でも比較的高いS吸蔵能を発揮する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はS吸蔵触媒に関し、特に、リーンバーンエンジンから排出される排ガスを浄化する排ガス浄化装置に好適に利用できるS吸蔵触媒に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車の排ガス浄化触媒として、理論空燃比(ストイキ)の運転条件下において、排ガス中の一酸化炭素(CO)及び炭化水素(HC)の酸化と窒素酸化物(NOx)の還元とを同時に行って浄化する三元触媒が用いられている。このような三元触媒としては、例えば、コーディエライト等からなる耐熱性基材にγ−アルミナ等からなる多孔質担体層を形成し、その多孔質担体層に白金(Pt)やロジウム(Rh)等の触媒貴金属を担持させたものが広く知られている。
【0003】
一方、近年、地球環境保護の観点から、自動車等の内燃機関から排出される排ガス中の二酸化炭素(CO)が問題とされ、その解決策として酸素過剰雰囲気において希薄燃焼させるいわゆるリーンバーンが有望視されている。このリーンバーンにおいては、燃料の使用量を低減できるため、その燃焼排ガスであるCOの発生を抑制することができる。
【0004】
ところで、排ガス浄化触媒の性能は、エンジンの設定空燃比(A/F)によって大きく左右される。すなわち、空燃比の大きいリーン側では、燃焼後の排ガス中の酸素量が多くなるため、酸化作用が活発になり、還元作用が不活発になる。このため、理論空燃比(ストイキ)において排ガス中のCO、HC及びNOxを効率的に浄化しうる従来の三元触媒では、酸素過剰となるリーン雰囲気下においては、NOxの還元除去に対して充分な浄化性能を示さない。したがって、酸素過剰雰囲気下においてもNOxを効率的に浄化しうる、リーンバーンエンジン用の排ガス浄化触媒が望まれていた。
【0005】
このようなリーンバーンエンジン用の排ガス浄化触媒として、バリウム(Ba)等のアルカリ土類金属等よりなるNOx吸蔵材とPt等の触媒貴金属とを多孔質担体上に担持したNOx吸蔵還元型触媒が実用化されている。このリーンバーンエンジン用のNOx吸蔵還元型触媒は、三元触媒とは異なり、酸素過剰の排ガスであっても、NOxを効率良く吸蔵、還元して浄化する。すなわち、酸素過剰の燃料リーン条件で燃料を燃焼させる常時において、リーン雰囲気でNOx吸蔵材がNOxを吸蔵する一方、間欠的に燃料ストイキ〜リッチ条件とすることにより排ガスを還元雰囲気として、NOx吸蔵材からNOxを放出させ、それをHCやCO等の還元性成分と反応させて浄化する。なお、排ガス中のHCやCOは、貴金属触媒により酸化されるとともに、NOxの還元にも消費されるので、HC及びCOも効率良く浄化される。
【0006】
ところが、排ガス中には、燃料中に含まれる硫黄(S)が燃焼することで生成したSOが含まれる。このSOは、高温の排ガス中で触媒貴金属により酸化されてSOとなる。そして、このSOは、排ガス中に含まれる水蒸気により硫酸となる。こうして排ガス中にSOや硫酸が生成すると、そのSOや硫酸とNOx吸蔵材との反応により亜硫酸塩や硫酸塩が生成し、これによりNOx吸蔵材が被毒劣化する。このようにNOx吸蔵材が硫黄被毒(S被毒)により劣化すると、もはやNOxを吸蔵することができなくなり、耐久後のNOx浄化性能が低下してしまう。
【0007】
そこで、排ガスからS成分を吸蔵するS吸蔵触媒をNOx吸蔵還元型触媒の前段に配設した排ガス浄化装置が知られている(例えば、特許文献1、2参照)。
【0008】
この排ガス浄化装置におけるS吸蔵触媒は、アルミナよりなる担体上に、カリウム、ナトリウム等のアルカリ金属やカルシウム、バリウム等のアルカリ土類金属よりなるS吸蔵材と、白金やパラジウム等の触媒貴金属とを担持したものである。このようなS吸蔵触媒によれば、排ガス中のS成分を吸蔵することができるので、このS吸蔵触媒をNOx吸蔵還元型触媒の前段に配設することで、NOx吸蔵還元型触媒のS被毒を抑制することができる。
【0009】
なお、NOx吸蔵還元型触媒として、排ガス上流側に位置する第1触媒と、排ガス下流側に位置する第2触媒とからなり、第1触媒が第1NOx吸蔵材としてのBaを含み、第2触媒が第2NOx吸蔵材としてのKを含むものも知られている(例えば、特許文献3参照)。
【特許文献1】特開2006−329018号公報
【特許文献2】特開2006−116431号公報
【特許文献3】特開2001−86345号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところが、S吸蔵触媒においては、用いるS吸蔵材の種類や組み合わせ等によって、排ガス温度が200℃程度以下となる低温域でS吸蔵能が極端に低下したり、あるいは排ガス温度が400℃程度以上となる中高温域でS吸蔵能が低下したりすることが判明した。このため、従来のS吸蔵触媒では、低温〜中高温の全ての領域で高いS吸蔵能を発揮させることが困難であった。
【0011】
本発明は上記実情に鑑みてなされたものであり、低温〜中高温の全ての領域で高いS吸蔵能を発揮しうるS吸蔵触媒を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決する本発明のS吸蔵触媒は、触媒担体と、該触媒担体に担持され排ガス中のSOをSOに酸化する触媒金属と、該触媒担体に担持され排ガス中の硫黄成分を吸蔵するS吸蔵材とを備えたS吸蔵触媒であって、前記S吸蔵材として少なくともBa及びKを含み、前記S吸蔵材としてBaを単独で含むBa単独含有部と、前記S吸蔵材として少なくともKを含むK含有部と、を有し、前記K含有部が排ガス上流側に配置され、前記Ba単独含有部が排ガス下流側に配置されていることを特徴とする。
【0013】
S吸蔵材としてのBaは、後述する実施例で示されるように、排ガス温度が200℃程度以下となる低温域でS吸蔵能が極端に低下する一方、排ガス温度が400℃程度以上となる中高温域でS吸蔵能が大幅に向上するという、S吸蔵特性を有する。
【0014】
本発明のS吸蔵触媒は、このようなS吸蔵特性を有するBaを単独で含むBa単独含有部がある。ここに、仮にBa単独含有部にBa以外のS吸蔵材としてK等のアルカリ金属よりなるS吸蔵材が含まれていると、排ガス中のSOxが吸着されるにつれ強塩基性のアルカリ金属よりなるS吸蔵材がコート層表面に移動して凝着する。その結果、コート層の内部へのガス拡散が阻害され、コート層の内部に在るBaの利用効率が低下する。その点、本発明のS吸蔵触媒では、Ba単独含有部がBaを単独で含み、K等のアルカリ金属よりなるS吸蔵材を含んでいない。このため、コート層内部に在るBaの利用効率が低下することはなく、排ガス温度が400℃程度以上となる中高温域でS吸蔵能が大幅に向上するという、BaのS吸蔵特性が確実に発揮される。
【0015】
また、本発明のS吸蔵触媒は、Ba単独含有部の他に、S吸蔵材として少なくともKを含むK含有部を有する。このS吸蔵材としてのKは、後述する実施例で示されるように、低温域から中高温域(20〜300℃程度の範囲)にわたって、比較的高いS吸蔵能を発揮する。すなわち、Kは、200℃程度以下の低温域でS吸蔵能が極端に低下することがない。このため、本発明のS吸蔵材は、200℃程度以下の低温域でも比較的高いS吸蔵能を発揮する。
【0016】
したがって、本発明のS吸蔵触媒では、低温〜中高温の全ての領域で高いS吸蔵能を発揮させることができる。
【0017】
また、本発明のS吸蔵触媒においては、前記K含有部が排ガス上流側に配置され、前記Ba単独含有部が排ガス下流側に配置されている。このようにK含有部が排ガス上流側に配置されていると、温度の低い排ガス上流側でSOxを吸蔵する点で有利となる。
【0018】
ここに、本発明のS吸蔵触媒においては、前記K含有部が、S吸蔵触媒の排ガス流れ方向における全長に対して2/15〜2/3の長さ範囲に形成されていることが好ましい。K含有部がこの長さ範囲に形成されていると、後述する実施例で示されるように、低温域から中高温域(20〜600℃程度の範囲)にわたって高いS吸蔵能を発揮する。
【発明の効果】
【0019】
よって、本発明のS吸蔵触媒によれば、低温〜中高温の全ての領域で高いS吸蔵能を発揮することが可能になる。
【0020】
また、排ガス上流側に配置された本発明のS吸蔵触媒と、排ガス下流側に配置されたNOx吸蔵還元型触媒とを備えた排ガス浄化装置において、排ガス温度が低い場合でもNOx吸蔵還元型触媒のS被毒を良好に抑制することができる。したがって、このような排ガス浄化装置に寄れば、長期間にわたって、リーンバーンエンジンから排出される排ガス中のNOxを効率良く吸蔵、還元して浄化することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明のS吸蔵触媒の実施形態について詳しく説明する。なお、説明する実施形態は実施形態の一例にすぎず、本発明のS吸蔵触媒は、下記実施形態に限定されるものではない。本発明のS吸蔵触媒は、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、当業者が行い得る変更、改良等を施した種々の形態にて実施することができる。
【0022】
本実施形態のS吸蔵触媒10は、本発明のSOx吸蔵触媒をいわゆるモノリス型触媒に適用したもので、基材と、基材の表面に形成されたコート層よりなる触媒担体と、触媒担体に担持され排ガス中のSOをSOに酸化する触媒金属と、触媒担体に担持され排ガス中の硫黄(S)成分を吸蔵するS吸蔵材とを備えている。
【0023】
基材としては、コージェライト等のセラミックス又は耐熱合金等からなるハニカム体を用いることができる。なお、基材の形状は、ストレートフロー型、フィルター型やその他の型のいずれであってもよい。
【0024】
触媒担体は、多孔質の酸化物粉末を含むスラリーを基材の表面にウォッシュコートすることで該表面に層状に形成されている。この触媒担体は、基材の排ガス上流側の端から排ガス下流側の端に至るまで均一又は略均一な組成で形成されている。
【0025】
触媒担体の種類としては特に限定されないが、Al、CeO、ZrO、ゼオライト、TiO及びSiOから選ばれる少なくとも一種、及び/又はAl、CeO、ZrO、ゼオライト、TiO及びSiOから選ばれる二種よりなる複合酸化物の少なくとも一種とすることができる。複合酸化物としては、特にCeO−ZrO等のCeOを含む複合酸化物が好ましい。
【0026】
触媒担体のコート量は、例えばモノリス型触媒の場合、モノリス(ハニカム体)の体積1リットル当たり、30g以上とすることが好ましく、50g以上とすることがより好ましく、100g以上とすることが特に好ましい。触媒担体のコート量が少なすぎると、SOx吸蔵材の分酸性が悪くなり、吸蔵量が低下する。一方、触媒担体のコート量が多すぎると、圧損が高くなるため、触媒担体のコート量は、350g以下とすることが好ましく、300g以下とすることがより好ましい。
【0027】
触媒金属の種類は排ガス中のSOをSOに酸化することができれば特に限定されず、例えばPt、Pd、Rh、Fe及びAgから選ばれる少なくとも一種とすることができる。これらの中でも、特に酸化活性の高いPtを触媒金属として用いることが好ましい。
【0028】
触媒金属の担持量は、例えばモノリス型触媒の場合、モノリス(ハニカム体)の体積1リットル当たり、0.5〜10g程度とすることができる。
【0029】
ここに、本実施形態のS吸蔵触媒10は、S吸蔵材として少なくともBa及びKを含む。そして、本実施形態のS吸蔵触媒10は、図1に模式的に示されるように、排ガス上流側に配置されたK含有部1と、排ガス下流側に配置されたBa単独含有部2とからなる。
【0030】
K含有部1はS吸蔵材として少なくともKを含む。このK含有部1は、S吸蔵材としてKのみを含んでいてもよいし、あるいはKとK以外のS吸蔵材とを含んでいてもよい。K含有部1に含めることのできるK以外のS吸蔵材としては、K以外のアルカリ金属及びアルカリ土類金属から選ばれる少なくとも一種とすることができる。K含有部1に含めることのできるK以外のS吸蔵材として、具体的には、Li、Na、RbやCs等のアルカリ金属や、Mg、Ca、SrやBa等のアルカリ土類金属を挙げることができる。これらの中ではBaが特に好ましく、K含有部1がKとBaとを含む場合はS吸蔵性能向上の点で有利となる。
【0031】
Ba単独含有部2はS吸蔵材としてBaを単独で含む。すなわち、Ba単独含有部2は、S吸蔵材としてBaのみを含み、Ba以外のS吸蔵材を含んでいない。
【0032】
本実施形態のS吸蔵触媒10におけるS吸蔵材全体の担持量は、例えばモノリス型触媒の場合、モノリス(ハニカム体)の体積1リットル当たり、0.05mol以上とすることが好ましく、0.3mol以上とすることがより好ましい。
【0033】
K含有部1におけるS吸蔵材の担持量は、例えばモノリス型触媒の場合、モノリス(ハニカム体)の体積1リットル当たり、0.1mol以上とすることが好ましく、0.3mol以上とすることがより好ましい。また、K含有部1におけるKの担持量は、例えばモノリス型触媒の場合、モノリス(ハニカム体)の体積1リットル当たり、0.1mol以上とすることが好ましく、0.3mol以上とすることがより好ましい。K含有部1におけるKの担持量が少なすぎると、低温域のSOx吸蔵性能が低下する。一方、K含有部1におけるKの担持量が多すぎると、基材の損傷が発生する。このため、K含有部1におけるKの担持量は、例えばモノリス型触媒の場合、モノリス(ハニカム体)の体積1リットル当たり、1.0mol以下とすることが好ましく、0.6mol以下とすることがより好ましい。
【0034】
Ba単独含有部2におけるBaの担持量は、例えばモノリス型触媒の場合、モノリス(ハニカム体)の体積1リットル当たり、0.1mol以上とすることが好ましく、0.3mol以上とすることがより好ましい。Ba単独含有部2におけるBaの担持量が少なすぎると、400℃程度以上の中高温域で高いS吸蔵能を維持することが困難になる。一方、Ba単独含有部2におけるBaの担持量が多すぎると、基材の損傷が発生する。このため、Ba単独含有部2におけるBaの担持量は、例えばモノリス型触媒の場合、モノリス(ハニカム体)の体積1リットル当たり、1.0mol以下とすることが好ましく、0.6mol以下とすることがより好ましい。
【0035】
K含有部1は、S吸蔵触媒10の排ガス流れ方向Pにおける全長に対して2/15〜2/3の長さ範囲に形成されていることが好ましい。すなわち、S吸蔵触媒10の排ガス流れ方向Pにおける全長をLとし、K含有部1の排ガス流れ方向における長さをL1としたとき、2/15≦L1/L≦2/3であることが好ましい。K含有部1の長さL1が短すぎると、K含有部1の容量が小さくなるため、200℃程度以下の低温域でS吸蔵能が低下する。一方、K含有部1の長さL1が長すぎると、Ba単独含有部2の容量が小さくなるため、400℃程度以上の中高温域でS吸蔵能が低下する。
【0036】
なお、本実施形態のS吸蔵触媒10には、必要に応じて他の成分を配合してもよい。
【0037】
以上の構成を有する本実施形態のS吸蔵触媒10では、排ガス上流側に配置されたK含有部1が、排ガス温度が20〜300℃程度となる低温域から中高温域にわたって、比較的高いS吸蔵能を発揮する。また、排ガス下流側に配置されたBa単独含有部2が、排ガス温度が400℃程度以上となる中高温域で、極めて高いS吸蔵能を発揮する。
【0038】
また、本実施形態のS吸蔵触媒10では、Ba単独含有部2には、S吸蔵材としてK等のアルカリ金属よりなるS吸蔵材が含まれていない。このため、K等のアルカリ金属がコート層表面で凝着することによるガス拡散阻害がなく、コート層の内部に在るBaの利用効率が低下することもない。
【0039】
したがって、本実施形態のS吸蔵触媒10では、低温〜中高温の全ての領域で高いS吸蔵能を発揮させることができる。
【0040】
また、本実施形態のS吸蔵触媒10では、K含有部1が排ガス上流側に配置されているので、温度の低い排ガス上流側でSOxを吸蔵する点で有利となる。
【0041】
そして、本実施形態のS吸蔵触媒10は、図2に示されるように、触媒コンバータ20内に配置されたS吸蔵触媒10と、触媒コンバータ20内でS吸蔵触媒10よりも排ガス下流側に配置されたNOx吸蔵還元型触媒30とからなり、排ガス浄化システムにおけるリーンバーンエンジンからの排ガス流路40に配置される排ガス浄化装置50に好適に利用することができる。
【0042】
このような排ガス浄化装置50によれば、低温から中高温の全域にわたって、NOx吸蔵還元型触媒30のS被毒を良好に抑制することができ、長期間にわたって、リーンバーンエンジンから排出される排ガス中のNOxを効率良く吸蔵、還元して浄化することが可能である。
【0043】
(その他の実施形態)
なお、前述の実施形態では、1つのモノリス型触媒を用いて、その排ガス上流側をK含有部1とし、その排ガス下流側をBa単独含有部2とする例について説明したが、2つのモノリス触媒を排ガス流路中に直列に配置するタンデム型として、排ガス上流側のモノリス触媒をK含有部1の構成を有するものとし、排ガス下流側のモノリス触媒をBa単独含有部2の構成を有するものとしてもよい。
【0044】
また、前述の実施形態では、モノリス型触媒に本発明を適用する例について説明したが、ペレット型触媒に本発明を適用して触媒コンバータに組み込んでもよい。
【実施例】
【0045】
前記実施形態に準じて、本実施例のS吸蔵触媒10を作成した。
【0046】
まず、ジニトロジアミン白金水溶液にアルミナ粉末を浸漬してから、乾燥、焼成することにより、アルミナ粉末にPtを担持してなる、Pt担持アルミナ粉末を得た。このPt担持アルミナ粉末と、セリア粉末とを用いて所定のスラリーを調製した。
【0047】
そして、コージェライト製のハニカム体よりなる基材(径:φ30mm、長さ:L50mm)の表面にスラリーをウォッシュコートし、乾燥、焼成して、基材の表面に触媒コート層を形成した。
【0048】
次に、触媒コート層が形成された基材のうち排ガス上流側に相当する一端側の半分を、酢酸バリウムと酢酸カリウムの混合溶液に浸漬し、余分な溶液を吹き払った後、500℃で2時間焼成して、基材の触媒コート層のうち排ガス上流側に相当する一端側の半分にBa及びKを担持した。
【0049】
その後さらに、基材のうち排ガス下流側に相当する他端側の半分を、酢酸バリウム溶液に浸漬し、余分な溶液を吹き払った後、500℃で2時間焼成して、基材の触媒コート層のうち排ガス下流側に相当する他端側の半分にBaを担持した。
【0050】
こうして、本実施例のS吸蔵触媒10を得た。このS吸蔵触媒10においては、排ガス上流側のK含有部1に、S吸蔵材としてのK及びBaが担持されている。また、排ガス下流側のBa単独含有部2には、S吸蔵材としてBaのみが担持されている。
【0051】
本実施例のS吸蔵触媒10における各成分の担持量は、ハニカム体の体積1リットル当たり、Pt:2g、アルミナ:100g、セリア:100g、K:0.3モル、Ba:0.3モルである。なお、K含有部1におけるBa担持量とBa単独含有部2におけるBa担持量とは等しく、いずれも0.3モル/Lである。
【0052】
また、K含有部1は、S吸蔵触媒10の排ガス流れ方向Pにおける全長Lに対して1/2の長さ範囲に形成されている。すなわち、S吸蔵触媒10の排ガス流れ方向Pにおける全長をLとし、K含有部1の排ガス流れ方向における長さをL1としたとき、L1/L=1/2である。
【0053】
(比較例1)
比較例1のS吸蔵触媒においては、S吸蔵材としてBaのみが触媒全体に一様に担持されている。なお、Baの担持量は、前記実施例と同様、0.3モル/Lである。
【0054】
その他の構成は、実施例と同様であるため、その説明を省略する。
【0055】
(比較例2)
比較例2のS吸蔵触媒においては、S吸蔵材としてKのみが触媒全体に一様に担持されている。なお、Kの担持量は、前記実施例と同様、0.3モル/Lである。
【0056】
その他の構成は、前記実施例と同様であるため、その説明を省略する。
【0057】
(比較例3)
比較例3のS吸蔵触媒においては、S吸蔵材としてK及びBaが触媒全体に一様に担持されている。なお、前記実施例と同様、Kの担持量は0.3モル/Lであり、Baの担持量も0.3モル/Lである。
【0058】
その他の構成は、前記実施例と同様であるため、その説明を省略する。
【0059】
(実施例及び比較例1〜3の性能評価)
実施例及び比較例1〜3のS吸蔵触媒のSOx吸蔵量を、下記に示す評価試験により調べた。
【0060】
リーン排ガスを模擬したリーン雰囲気のモデルガスにSOを定常で流入し、この中に実施例1及び比較例1〜のS吸蔵触媒に係る試験材をおいて、入りガス温度100℃、200℃、300℃、400℃、500℃の各温度定常の条件にて、SOx吸蔵量を調べた。なお、試験雰囲気のガス組成は、SO:100ppm、NO:200ppm、C:200ppm、O:10%、CO:10%、HO:5%、N:残部である。また、ガス流量は30リットル/minとした。
【0061】
これらの結果を図3に示すように、S吸蔵材としてBaのみが触媒全体に担持された比較例1のS吸蔵触媒では、200℃程度以下の低温域でS吸蔵能が極端に低下し、400℃程度以上の中高温域でS吸蔵能が極めて高かった。
【0062】
S吸蔵材としてKのみが触媒全体に担持された比較例2のS吸蔵触媒では、比較例1のS吸蔵触媒と比較して、200℃程度以下の低温域でのS吸蔵能が高いが、400℃程度以上の中高温域でのS吸蔵能が低かった。
【0063】
S吸蔵材としてK及びBaが触媒全体に担持された比較例3のS吸蔵触媒では、比較例2のS吸蔵触媒と同様、比較例1のS吸蔵触媒と比較して、200℃程度以下の低温域でのS吸蔵能が高いが、400℃程度以上の中高温域でのS吸蔵能が低かった。
【0064】
これに対し、実施例のS吸蔵触媒10はいずれも、100〜500℃の温度範囲にわたって高いS吸蔵能を示した。
【0065】
(K含有部の長さとS吸蔵量との関係の評価)
実施例1において、K含有部1の長さL1、すなわちL1/Lの値を0、1/15、2/15、1/5、1/3、1/2、2/3、4/5、1と種々変更して、S吸蔵量との関係を調べた。なお、Kの担持量、Baの担持量は、いずれも0.3モル/L一定とした。
【0066】
これらの結果を図4に示すように、L1/Lの値が2/15よりも小さくなると、Ba単独含有部2の占める割合が増えることで、400℃でのS吸蔵能は高いが、200℃でのS吸蔵能は低かった。一方、L1/Lの値が2/3よりも大きくなると、K含有部1の占める割合が増えることで、200℃でのS吸蔵能は高いが、400℃でのS吸蔵能は低かった。
【0067】
これらの結果より、2/15≦L1/L≦2/3の関係を満たせば、200℃程度以下の低温域から400℃程度以上の中高温域にわたって、高いS吸蔵能を示すことが確認できた。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】実施形態のS吸蔵触媒の構成を模式的に説明する説明図である。
【図2】実施形態のS吸蔵触媒の適用例を模式的に説明する説明図である。
【図3】実施例及び比較例1〜3のS吸蔵触媒について、入りガス温度とSOx吸蔵量との関係を調べた結果を示すグラフである。
【図4】K含有部の長さとS吸蔵量との関係を調べた結果を示すグラフである。
【符号の説明】
【0069】
1…K含有部 2…Ba単独含有部
10…S吸蔵触媒

【特許請求の範囲】
【請求項1】
触媒担体と、該触媒担体に担持され排ガス中のSOをSOに酸化する触媒金属と、該触媒担体に担持され排ガス中の硫黄成分を吸蔵するS吸蔵材とを備えたS吸蔵触媒であって、
前記S吸蔵材として少なくともBa及びKを含み、
前記S吸蔵材としてBaを単独で含むBa単独含有部と、前記S吸蔵材として少なくともKを含むK含有部と、を有し、
前記K含有部が排ガス上流側に配置され、前記Ba単独含有部が排ガス下流側に配置されていることを特徴とするS吸蔵触媒。
【請求項2】
前記K含有部が、S吸蔵触媒の排ガス流れ方向における全長に対して2/15〜2/3の長さ範囲に形成されている請求項1に記載のS吸蔵触媒。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−99633(P2010−99633A)
【公開日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−275442(P2008−275442)
【出願日】平成20年10月27日(2008.10.27)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】