説明

S100A8発現促進剤

【課題】S100A8の発現を促進するS100A8発現促進剤を提供する。
【解決手段】クワ科、マメ科、ジンチョウゲ科、ツリフネソウ科、又はガマ科に属する植物から選ばれる1以上を有効成分とする。上記クワ科に属する植物としてはラクーチャパンノキ(Artocarpus lakoocha Roxb.)、上記マメ科に属する植物としてはビルマネム(Albizia lebbeck (Linn.) Benth)、上記ジンチョウゲ科に属する植物としてはロウドク(Alocasia odora (Roxb.) C Koch)、上記ツリフネソウ科に属する植物としてはホウセンカ(Impatiens balsamina L)、上記ガマ科に属する植物としてはガマ(Typha latifolia L., T. angustifolia L.)を挙げることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、S100A8の発現を促進するS100A8発現促進剤に関する。
【背景技術】
【0002】
S100A8(別名:カルグラニュリンA又はMRP-8)は、カルシウム応答性を有するカルシウム結合タンパク質である(非特許文献1)。S100A8は、カルシウム結合タンパク質のカルシウム結合部位に共通してみられるEFハンド(EF-hand)と呼ばれる立体構造を有する。
【0003】
近年、急性期応答、創傷治癒及び乾癬などの角化亢進に伴い、S100A8の発現が亢進することが報告されている(非特許文献2〜4)。また、S100A8はケラチン繊維と結合するなど、細胞外及び細胞内における分子間相互作用に関与することが報告されている(非特許文献5〜6)。さらにS100A8は紫外線照射により発現上昇すること、アトピー性皮膚炎において発現亢進がみられることから紫外線障害やアトピー性皮膚炎のマーカーとして利用されうることが報告されている(特許文献1〜2)。
【0004】
一方、S100A8遺伝子やS100A8の発現を促進する物質が、S100A8の減少に伴う皮膚疾患、創傷、創傷治癒遅延及び毛髪の成長促進に有効であることが報告されている(特許文献3〜4)。
【0005】
さらに、S100A8の機能として、好中球及び単球の遊走活性を上昇させること(非特許文献7)及び抗菌活性を示すこと(非特許文献8)が報告されている。
【0006】
顆粒放出能を有する細胞系における活性型S100A8を制御することで、顆粒放出反応を制御できることが見出されている(特許文献5)。上記細胞系を、活性型S100A8を増加せしめる処理に供することで、該細胞系は顆粒放出し、一方、活性型S100A8を減少せしめる処理に供することで、該細胞系の顆粒放出が減少する。例えば、顆粒放出能を有する細胞系である好中球を、活性型S100A8を減少せしめる処理に供することによって、好中球の顆粒放出反応を抑制し、血管内膜の障害を抑制できることが報告されている。
【0007】
最近では、ヒト皮膚表皮においてS100A8が表皮再生のマーカーである可能性を報告している(非特許文献9)。
【0008】
【特許文献1】特表2005-520483号公報
【特許文献2】特開2005-110602号公報
【特許文献3】米国特許出願公開第2003/0003482号明細書
【特許文献4】特表2000-501115号公報
【特許文献5】国際公開第00/18970号パンフレット
【非特許文献1】Donato, R., Biochim. Biophys. Acta., 1450, 191-231, 1999
【非特許文献2】Thorey, I.S.ら, J. Biol. Chem., 276, 35818-25, 2001
【非特許文献3】Siegenthaler, G.ら, J. Biol. Chem., 272, 9371-77, 1997
【非特許文献4】Broome, AM.ら, J. Histochem. Cytochem., 51, 675-685, 2003
【非特許文献5】Donato, R., International J. Biochem. & Cell Biology, 33, 637-668, 2001
【非特許文献6】Goebeler, M.ら, Biochem. J., 309, 419-424, 1995
【非特許文献7】Geczy, C.L., Biochim. Biophys. Acta., 1313, 246-253, 1996
【非特許文献8】Murthy, A.R.K.ら, J. Immunol., 151, 6291-6301, 1993
【非特許文献9】Marionnet Cら, J. Invest. Dermatol. 121, 1447-58, 2003
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、例えば、S100A8の発現低下に関連して生じる各種症状や疾患の予防又は治療に有用な、生体内においてS100A8の発現を促進するS100A8発現促進剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意研究を行った結果、S100A8の発現を調節する天然物質について検討したところ、特定の植物にS100A8の発現を促進する作用があることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明に係るS100A8発現促進剤は、クワ科、マメ科、ジンチョウゲ科、ツリフネソウ科、又はガマ科に属する植物から選ばれる1以上を有効成分としている。ここで、上記クワ科に属する植物としてはラクーチャパンノキ(Artocarpus lakoocha Roxb.)、上記マメ科に属する植物としてはビルマネム(Albizia lebbeck (Linn.) Benth)、上記ジンチョウゲ科に属する植物としてはロウドク(Alocasia odora (Roxb.) C Koch)、上記ツリフネソウ科に属する植物としてはホウセンカ(Impatiens balsamina L)、上記ガマ科に属する植物としてはガマ(Typha latifolia L., T. angustifolia L.)を挙げることができる。
【0012】
特に、上記有効成分は、水を溶剤としたラクーチャパンノキの溶剤抽出物、水を溶剤としたビルマネムの溶剤抽出物、50%エタノールを溶剤としたロウドクの溶剤抽出物、50%エタノールを溶剤としたホウセンカの溶剤抽出物及び50%エタノールを溶剤としたガマの溶剤抽出物からなる群から選ばれる少なくとも1以上の溶剤抽出物であることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、S100A8の発現低下に関連して生じる各種症状や疾患の予防又は治療に有用なS100A8発現促進剤を提供することができる。本発明に係るS100A8発現促進剤は、有効成分として天然物質に由来するものを含有することから、医薬、医薬部外品又は化粧料として安全に使用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明に係るS100A8発現促進剤は、クワ科、マメ科、ジンチョウゲ科、ツリフネソウ科又はガマ科に属する植物から選ばれる1以上を有効成分とするものである。本発明に係るS100A8発現促進剤を、ヒトに投与することによって生体内においてS100A8の発現を促進することができる。
【0015】
ここで、「S100A8発現促進」とは、S100A8をコードする遺伝子レベル及び/又はS100A8タンパク質レベルでの発現促進を意味する。
【0016】
本発明に係るS100A8発現促進剤において使用するクワ科、マメ科、ジンチョウゲ科、ツリフネソウ科又はガマ科の植物としては、特に限定されるものではないが、下記に示す植物が好ましい。
クワ科:ラクーチャパンノキ(学名:Artocarpus lakoocha Roxb.、:生薬名:ラクディ)
マメ科:ビルマネム(学名:Albizia lebbeck (Linn.) Benth、生薬名:シリシャ)
ジンチョウゲ科:ロウドク(学名:Alocasia odora (Roxb.) C Koch、生薬名:狼毒)
ツリフネソウ科:ホウセンカ(学名:Impatiens balsamina L、生薬名:鳳仙花)
ガマ科:ガマ(学名:Typha latifolia L., T. angustifolia L、生薬名:ホオウ、蒲黄)
【0017】
本発明に係るS100A8発現促進剤においては、上記植物を、その植物の全草、葉、樹皮、枝、果実又は根等をそのまま用いることができる。あるいは、当該植物の全草、葉、樹皮、枝、果実又は根等を粉砕して用いてもよい。
【0018】
上記で具体的に列挙した植物について使用することが好ましい部位を、下記に示す。
ラクーチャパンノキ:樹皮
ビルマネム:樹皮
ロウドク:根
ホウセンカ:花
ガマ:花粉
【0019】
一方、本発明に係るS100A8発現促進剤において、植物の抽出物は、植物を常温又は加温下にて抽出するか又はソックスレー抽出器等の抽出器具を用いて抽出することにより得られる。本発明において、植物の抽出物とは、上記抽出方法で得られた各種溶剤抽出液、その希釈液、その濃縮液又はその乾燥末を意味する。
【0020】
植物の抽出物を得るために用いられる抽出溶剤としては、極性溶剤又は非極性溶剤のいずれをも使用することができる。抽出溶剤としては、例えば、水;メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等のアルコール類;プロピレングリコール、ブチレングリコール等の多価アルコール類;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類;酢酸メチル、酢酸エチル等のエステル類;テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル等の鎖状及び環状エーテル類;ポリエチレングリコール等のポリエーテル類;スクワラン、ヘキサン、シクロヘキサン、石油エーテル等の炭化水素類;トルエン等の芳香族炭化水素類;ジクロロメタン、クロロホルム、ジクロロエタン等のハロゲン化炭化水素類;及び二酸化炭素等が挙げられる。あるいは、上記溶剤の2種以上を組み合わせた混合物を、抽出溶剤として用いることができる。
【0021】
特に、ラクーチャパンノキの溶剤抽出物を有効成分とする場合、溶剤としては極性溶剤が好ましく、特に水性溶剤を使用することが好ましく、水を使用することが最も好ましい。ビルマネムの溶剤抽出物を有効成分とする場合、溶剤としては極性溶剤が好ましく、特に水性溶剤を使用することが好ましく、水を使用することが最も好ましい。ロウドクの溶剤抽出物を有効成分とする場合、溶剤としては極性溶剤が好ましく、特にアルコール溶剤を使用することが好ましく、50%エタノール溶剤を使用することが最も好ましい。ホウセンカの溶剤抽出物を有効成分とする場合、溶剤としては極性溶剤が好ましく、特にアルコール溶剤を使用することが好ましく、50%エタノール溶剤を使用することが最も好ましい。ガマの溶剤抽出物を有効成分とする場合、溶剤としては極性溶剤が好ましく、特にアルコール溶剤を使用することが好ましく、50%エタノール溶剤を使用することが最も好ましい。
【0022】
本発明に係るS100A8発現促進剤としては、上記植物の抽出物を、そのまま用いることもできるが、当該抽出物を希釈、濃縮若しくは凍結乾燥した後、粉末又はペースト状に調製して用いることもできる。また、上記植物等の抽出物をクロマトグラフィー液々分配等の分離技術に供し、当該抽出物から不活性な夾雑物を除去したものを用いることもできる。なお、本発明に係るS100A8発現促進剤においては、上記植物等の抽出物の2種以上を混合して用いてもよい。
【0023】
本発明に係るS100A8発現促進剤を医薬又は医薬部外品として使用する場合には、剤形としては、特に限定されるものではないが、例えば、錠剤及びカプセル剤等の内服剤、軟膏、水剤、エキス剤、ローション剤及び乳剤等の外用剤並びに注射剤が挙げられる。当該医薬又は医薬部外品には、植物の抽出物の他に、助剤、安定化剤、湿潤剤、乳化剤、吸収促進剤及び界面活性剤等の薬学的に許容される担体を任意に組合せて配合することができる。
【0024】
一方、本発明に係るS100A8発現促進剤を化粧料として使用する場合には、剤形としては、特に限定されるものではないが、例えば、油中水型又は水中油型の乳化化粧料、クリーム、ローション、ジェル、フォーム、エッセンス、ファンデーション、パック、スティック及びパウダー等が挙げられる。当該化粧料には、植物の抽出物の他に、化粧料成分として一般に使用されている油分、界面活性剤、紫外線吸収剤、アルコール類、キレート剤、pH調整剤、防腐剤、増粘剤、色素類、香料及び各種皮膚栄養剤等を任意に組合せて配合することができる。
【0025】
本発明に係るS100A8発現促進剤を医薬、医薬部外品又は化粧料として使用する場合、植物の抽出物の配合量は、乾燥物として計算して、通常、医薬、医薬部外品又は化粧料の全組成の0.00001〜5重量%、特に0.0001〜0.1重量%とすることが好ましい。また、本発明に係るS100A8発現促進剤を医薬として用いる場合、植物の抽出物の投与量は、通常の成人で固形分残量にして0.01mg〜1g/1日とすることが望ましい。
【0026】
本発明に係るS100A8発現抑制剤及びS100A8発現促進剤は、例えば、以下のようにin vitroで薬理評価を行なうことができる。
【0027】
in vitroでの薬理評価としては、例えば、S100A8を発現する細胞系を用いた方法が挙げられる。正常ヒト新生児包皮由来表皮角化細胞などの細胞系に、本発明に係るS100A8発現抑制剤又はS100A8発現促進剤を作用又は接触させる。次いで、作用又は接触させた細胞を培養し、培養後、当該細胞からタンパク質又はmRNAを抽出する。さらに、得られたタンパク質を、例えばELISAやウエスタンブロッティングに供する。あるいは、得られたmRNAを、例えばPCRやノーザンハイブリダイゼーションに供する。
【0028】
本発明に係るS100A8発現抑制剤に作用又は接触させていない細胞に比べて、本発明に係るS100A8発現促進剤に作用又は接触させた細胞において、S100A8タンパク質量又はS100A8をコードするmRNA量が、1.5〜10倍、好ましくは2〜5倍増加した場合、in vitroレベルで発現を促進することができたと判断することができる。
【0029】
本発明に係るS100A8発現調節剤において有効成分として含有する植物の抽出物は、後記実施例に示すように、S100A8の発現を促進することから、その有効量をヒトに投与することにより、生体内においてS100A8の発現を促進することができる。
【0030】
すでに述べたように、S100A8遺伝子やS100A8の発現を促進する物質は、S100A8の減少に伴う皮膚疾患、創傷、創傷治癒遅延や毛髪の成長促進に有効であることが報告されている(特許文献1〜2)。さらに、S100A8の機能として、好中球及び単球の遊走活性を上昇させること(非特許文献7)及び抗菌活性を示すこと(非特許文献8)が報告されている。また、S100A8の発現量を増減しめることによって、細胞系(好中球等)において顆粒放出反応を制御できることが報告されている(特許文献3)。
【0031】
以上の事実を考慮すると、本発明に係るS100A8発現促進剤は、S100A8の発現低下に関連して生じる症状又は疾患、例えば、創傷の予防や創傷治癒の促進等の皮膚性状の保護や治療、感染症の予防又は治療、毛髪の成長促進、顆粒(エラスターゼ、ラクトフェリン等)放出促進等に使用することができる。また、クワ科、マメ科、ジンチョウゲ科、ツリフネソウ科、又はガマ科に属する植物を、S100A8の発現低下に関連して生じる症状又は疾患の予防や改善、治療のための剤を製造するために使用することができる。
【0032】
さらに、本発明によれば、クワ科、マメ科、ジンチョウゲ科、ツリフネソウ科、又はガマ科に属する植物から選ばれる1以上を有効成分とするS100A8発現促進剤を、投与する工程を含むS100A8の発現低下に関連して生じる各種症状や疾患の予防方法又は治療方法を提供することができる。
【実施例】
【0033】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明はこれら実施例にその技術的範囲が限定されるものではない。
【0034】
〔実施例1〕 植物抽出物の製造1
(1)ラクーチャパンノキ抽出物の製造:
ラクーチャパンノキの樹皮100gに対し、水1,000mLを加え、70℃で5時間抽出後、濾過して抽出物を得た。抽出物の収量は903mL、蒸発残分1.18w/v%であった。
(2)ビルマネム抽出物の製造:
ビルマネムの樹皮100gに対し、水1,000mLを加え、70℃で5時間抽出後、濾過して抽出物を得た。抽出物の収量は887mL、蒸発残分0.87w/v%であった。
(3)ロウドク抽出物の製造
ロウドクの根100gに対し、50%エタノール1,000mLを加え、室温で7日間抽出後、濾過して抽出物を得た。抽出物の収量は796mL、蒸発残分1.24w/v%であった。
(4)ホウセンカ抽出物の製造
ホウセンカの花100gに対し、50%エタノール1,000mLを加え、室温で7日間抽出後、濾過して抽出物を得た。抽出物の収量は772mL、蒸発残分2.18w/v%であった。
(5)ガマ抽出物の製造
ガマの花粉100gに対し、50%エタノール1,000mLを加え、室温で7日間抽出後、濾過して抽出物を得た。抽出物の収量は642mL、蒸発残分1.45w/v%であった。
【0035】
〔実施例2〕 S100A8の発現調節効果1
本例では、実施例1で製造した抽出物を使用してS100A8の発現調節効果を検証した。
(1)材料及び方法
試験には、正常ヒト新生児包皮由来表皮角化細胞(KK-4009、Strain No 3C0660、クラボウ)を用いた。
まず、1穴あたりDefined-ケラチノサイト-SFM培地2mlを含有する6穴プレートに、細胞をプレーティングし、50〜60%コンフルエントになるまで培養した。なお、培養は5%CO2、37℃条件下で行った。50〜60%コンフルエントに達した後、細胞を試験に用いるために、被験物質添加24時間前に、培地を添加剤不含のDefined-ケラチノサイト-SFM培地(以下、「Defined-ケラチノサイト-SFM(-)培地」という)1mlに交換し、馴化させた。
【0036】
次いで、培地を、1.5ミリモル濃度のカルシウムを含むDefined-ケラチノサイト-SFM(-)培地に交換し、さらに、被験物質を0.1%vol濃度(すなわち、2μlを添加)となるように直接培地中に添加することで、試験を開始した。試験開始から24時間培養した後、培地を吸引除去し、PBS(-)で細胞を2回洗浄した。洗浄後、1穴あたりCelLytic-M(C-2978、シグマ)300μlを添加し、細胞からタンパク質を抽出した。
【0037】
各被験物質に供した細胞から得られたタンパク質10μgをウエスタンブロットに供した。ウエスタンブロットは、SDS−PAGEした後、PVDFメンブレンにウェット法により転写した。転写後のメンブレンをS100A8特異的抗体(抗MRP8抗体 T−1030、BMA Biomedicals)、ペルオキシターゼ標識抗マウスIgG抗体およびECLアドバンス試薬(GEヘルスケア社)をもちいてウエスタンブロット法により、S100A8タンパク質のバンドをオートラジオグラフィーフィルム(GEヘルスケア社)で検出した。検出したバンドのシグナル積算値をLane&Spot Analyzer(アトー社)により測定し、当該サンプル中のS100A8タンパク質量を算出した。なお、対照として、被験物質を添加しない以外は上記と同様にして培養した細胞を用いた。
【0038】
(2)結果
試験結果を図1に示す。なお、図1において、S100A8タンパク質量は、対照の細胞から得られたS100A8タンパク質量を1とした場合に対する相対値で表す。
図1から明らかなように、ラクーチャパンノキ、ビルマネム、ロウドク、ホウセンカ及びガマは、正常ヒト新生児包皮由来表皮角化細胞においてS100A8タンパク質の発現を促進した。この結果から、クワ科に属するラクーチャパンノキ、マメ科に属するビルマネム、ジンチョウゲ科に属するロウドク、ツリフネソウ科に属するホウセンカ及びガマ科に属するガマの溶剤抽出物は、S100A8発現促進剤として使用できることが実証された。
【0039】
〔実施例3〕 植物抽出物の製造2
実施例1ではラクーチャパンノキ及びビルマネムについて水を用いて抽出物を製造したが、本例では水とは異なる各種溶剤を使用して抽出物を製造した。
(1)ラクーチャパンノキ抽出物(50%エタノール抽出物)の製造:
ラクーチャパンノキの樹皮100gに対し、50%エタノール1,000mLを加え、室温で7日間抽出後、濾過して抽出物を得た。抽出物の収量は833mL、蒸発残分3.21w/v%であった。
(2)ラクーチャパンノキ抽出物(エタノール抽出物)の製造:
ラクーチャパンノキの樹皮100gに対し、エタノール1,000mLを加え、室温で7日間抽出後、濾過して抽出物を得た。抽出物の収量は937mL、蒸発残分1.98w/v%であった。
(3)ラクーチャパンノキ抽出物(ヘキサン抽出物)の製造:
ラクーチャパンノキの樹皮100gに対し、ヘキサン1,000mLを加え、室温で7日間抽出後、濾過して抽出物を得た。抽出物の収量は944mL、蒸発残分0.22w/v%であった。
(4)ビルマネム抽出物(50%エタノール抽出物)の製造:
ビルマネムの樹皮100gに対し、50%エタノール1,000mLを加え、室温で7日間抽出後、濾過して抽出物を得た。抽出物の収量は861mL、蒸発残分0.99w/v%であった。
(5)ビルマネム抽出物(エタノール抽出物)の製造:
ビルマネムの樹皮100gに対し、エタノール1,000mLを加え、室温で7日間抽出後、濾過して抽出物を得た。抽出物の収量は681mL、蒸発残分0.05w/v%であった。
(6)ビルマネム抽出物(ヘキサン抽出物)の製造:
ビルマネムの樹皮100gに対し、ヘキサン1,000mLを加え、室温で7日間抽出後、濾過して抽出物を得た。抽出物の収量は931mL、蒸発残分0.01w/v%未満であった。
【0040】
〔実施例4〕 S100A8の発現調節効果2
本例では、ラクーチャパンノキ及びビルマネムについて実施例1で製造した抽出物及び実施例3で製造した抽出物を使用してS100A8の発現調節効果を検証した。
【0041】
(1)材料及び方法
試験には、正常ヒト新生児包皮由来表皮角化細胞(KK-4009、Strain No 3C0660、クラボウ)を用いた。
まず、1穴あたりDefined-ケラチノサイト-SFM培地2mlを含有する6穴プレートに、細胞をプレーティングし、50〜60%コンフルエントになるまで培養した。なお、培養は5%CO2、37℃条件下で行った。50〜60%コンフルエントに達した後、細胞を試験に用いるために、被験物質添加24時間前に、培地を添加剤不含のDefined-ケラチノサイト-SFM培地(以下、「Defined-ケラチノサイト-SFM(-)培地」という)1mlに交換し、馴化させた。
【0042】
次いで、培地を、1.5ミリモル濃度のカルシウムを含むDefined-ケラチノサイト-SFM(-)培地に交換し、さらに、被験物質を0.1%vol濃度(すなわち、2μlを添加)となるように直接培地中に添加することで、試験を開始した。試験開始から24時間培養した後、培地を吸引除去し、PBS(-)で細胞を2回洗浄した。洗浄後、1穴あたりCelLytic-M(C-2978、シグマ)300μlを添加し、細胞からタンパク質を抽出した。
【0043】
各被験物質に供した細胞から得られたタンパク質10μgをウエスタンブロットに供した。ウエスタンブロットは、SDS−PAGEした後、PVDFメンブレンにウェット法により転写した。転写後のメンブレンをS100A8特異的抗体(抗MRP8抗体 T−1030、BMA Biomedicals)、ペルオキシターゼ標識抗マウスIgG抗体およびECLアドバンス試薬(GEヘルスケア社)をもちいてウエスタンブロット法により、S100A8タンパク質のバンドをオートラジオグラフィーフィルム(GEヘルスケア社)で検出した。検出したバンドのシグナル積算値をLane&Spot Analyzer(アトー社)により測定し、当該サンプル中のS100A8タンパク質量を算出した。なお、対照として、被験物質を添加しない以外は上記と同様にして培養した細胞を用いた。
【0044】
(2)結果
試験結果を表1に示す。表1から明らかなように、ラクーチャパンノキ、ビルマネムは、水抽出物においてのみ、正常ヒト新生児包皮由来表皮角化細胞においてS100A8タンパク質の発現を2倍以上促進した。一方、ラクーチャパンノキのヘキサン抽出物、ビルマネムの50%エタノール抽出物はS100A8タンパク質の発現を1.5倍以上抑制した。この結果から、ラクーチャパンノキ及びビルマネムについては、水を溶剤として抽出物を製造した場合、より優れたS100A8の発現促進効果を達成できることが明かとなった。
【0045】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】S100A8タンパク質の発現促進作用を示す特性図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
クワ科、マメ科、ジンチョウゲ科、ツリフネソウ科、又はガマ科に属する植物から選ばれる1以上を有効成分とするS100A8発現促進剤。
【請求項2】
上記クワ科に属する植物はラクーチャパンノキ(Artocarpus lakoocha Roxb.)であり、上記マメ科に属する植物はビルマネム(Albizia lebbeck (Linn.) Benth)であり、上記ジンチョウゲ科に属する植物はロウドク(Alocasia odora (Roxb.) C Koch)であり、上記ツリフネソウ科に属する植物はホウセンカ(Impatiens balsamina L)であり、上記ガマ科に属する植物はガマ(Typha latifolia L., T. angustifolia L.)であることを特徴とする請求項1記載のS100A8発現促進剤。
【請求項3】
上記有効成分は上記植物の溶剤抽出物であることを特徴とする請求項1記載のS100A8発現促進剤。
【請求項4】
上記有効成分は、ラクーチャパンノキの水又はアルコール水溶液抽出物であることを特徴とする請求項1記載のS100A8発現促進剤。
【請求項5】
上記有効成分は、水を溶剤としたビルマネムの溶剤抽出物であることを特徴とする請求項1記載のS100A8発現促進剤。
【請求項6】
上記有効成分は、ロウドクのアルコール水溶液抽出物であることを特徴とする請求項1記載のS100A8発現促進剤。
【請求項7】
上記有効成分は、ホウセンカのアルコール水溶液抽出物であることを特徴とする請求項1記載のS100A8発現促進剤。
【請求項8】
上記有効成分は、ガマのアルコール水溶液抽出物であることを特徴とする請求項1記載のS100A8発現促進剤。

【図1】
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【公開番号】特開2008−105991(P2008−105991A)
【公開日】平成20年5月8日(2008.5.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−289631(P2006−289631)
【出願日】平成18年10月25日(2006.10.25)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】