説明

SAW共振子

【課題】表面閉じ込め型のSH波を利用するSAW共振子において、ドライブ特性の良好なSAW共振子を提供する。
【解決手段】表面閉じ込め型のSH波を利用するSAW共振子1において、水晶基板10と、水晶基板10表面に線状で周期的に連続するように形成された複数の溝部23と、溝部23に挟まれた水晶基板10表面にAl膜からなる交差指電極21,22が正極と負極とを交互に配置されるように形成された櫛歯電極25と、を備え、溝部23に挟まれた水晶基板10表面の線幅Lgに対して、交差指電極21,22の線幅Lmが狭くなるように構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面閉じ込め型のSH波を利用するSAW共振子に関し、特にドライブ特性を向上させるSAW共振子に関する。
【背景技術】
【0002】
SAW(Surface Acoustic Wave)共振子などの弾性表面波デバイスにおいて、レイリー波よりも電気機械結合係数が大きく、かつ反射係数が大きいことから装置の小型化が図れるSH波が注目されている。
例えば特許文献1に開示されたような、水晶基板にAlを主成分とするIDT電極を形成した、表面閉じ込め型のSH波を利用する弾性表面波デバイスが知られている。
【0003】
【特許文献1】特開2006−41692号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般に弾性表面波デバイスにおいて、ドライブレベル(駆動電力)による周波数の変動を示す特性であるドライブ特性は、非線形現象であることが知られている。弾性表面波デバイスの中でも、周波数精度の要求されるSAW共振子においては、このドライブ特性の非線形係数(傾き)が小さいことが望まれる。
しかしながら、表面閉じ込め型のSH波を利用するSAW共振子において、ドライブ特性の非線形係数が大きく、このSAW共振子を用いて発振器を構成した場合にドライブレベルにより周波数が大きく変動する問題がある。
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、その目的は、表面閉じ込め型のSH波を利用するSAW共振子において、ドライブ特性の良好なSAW共振子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本発明は表面閉じ込め型のSH波を利用するSAW共振子であって、水晶基板と、前記水晶基板表面に線状で周期的に連続するように形成された複数の溝部と、前記溝部に挟まれた前記水晶基板表面にAl膜からなる交差指電極が正極と負極とを交互に配置されるように形成された櫛歯電極と、を備え、前記溝部に挟まれた前記水晶基板表面の線幅に対して、前記交差指電極の線幅が狭いことを特徴とする。
【0006】
この構成によれば、水晶基板にAl膜からなる櫛歯電極を備え、表面閉じ込め型のSH波を利用するSAW共振子において、溝部に挟まれた水晶基板表面の線幅に対して交差指電極の線幅を狭くしている。このことから、SH波の励振時におけるAl膜の交差指電極の受けるすべり応力が小さくなり、Al膜内部の結晶に生ずるすべり欠陥の発生を緩和することができる。そして、Al膜内部の結晶に発生したすべり欠陥に起因するドライブ特性を改善し、ドライブ特性が向上した良好なSAW共振子を提供することができる。
【0007】
本発明のSAW共振子は、SH波の伝搬方向である前記櫛歯電極の両側に周期的に連続して形成された複数の反射溝部をさらに備え、前記複数の反射溝部が反射器として機能することが望ましい。
【0008】
この構成によれば、櫛歯電極の両側に複数の反射溝部がさらに周期的に連続して形成され、この複数の反射溝部が反射器として機能する。このように、SAW共振子に反射器を備えていることで、反射器でSH波を反射させ、効率よくSAW共振子の中央部に励振エネルギを閉じ込めることができる。
また、反射溝部は溝部と同じ工程で水晶基板に形成すればよく、効率よくSAW共振子を製造するこができる。
【0009】
本発明のSAW共振子は、オイラー角表示(φ,θ,ψ)で前記水晶基板の切断方位が、光軸であるZ軸回りに反時計方向にφ=0°±1°で、電気軸であるX軸回りに反時計方向にθ=29.2°〜40.7°であり、SH波の位相伝搬方位が新たに生成したZ´軸回りに水晶基板平板内においてX軸を起点として反時計方向に面内回転してψ=90°±2°の方向であることが望ましい。
【0010】
この構成によれば、ドライブ特性が向上し、かつ周波数温度特性の優れた表面閉じ込め型のSH波を利用するSAW共振子を実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の実施形態の説明に先立ち、発明者が本発明に至った経緯について説明する。
本発明のSAW共振子で利用する弾性表面波はSH波であり、この弾性波は良く知られたATカット水晶振動子に使用されているバルク振動モードである。
図3にSH波の振動変位模式状態図を示す。SH波は、基板50の表面に形成された正極側の交差指電極51と負極側の交差指電極52により励振される、基板50の表面に平行な波である。SH波の励振により、交差指電極51,52には交互に矢印55,56方向の力が働き、交差指電極51,52にすべり応力を与えている。
【0012】
SAW共振子に関して、電極構造体であるAl金属は比較的小さな応力により伸びおよびすべり欠陥が発生して内部状態が変化することから、従来から励振によってAl膜の交差指電極に応力マイグレーションが発生することが知られている。発明者は交差指電極にかかる応力に着目して、この応力がドライブ特性に影響を与えていると考察した。そして、SH波の場合の交差指電極に発生する応力を解析した。
図4および図5は交差指電極の位置に対応する応力を示すグラフである。これらのグラフでは図3における交差指電極51の線幅方向に沿ったB−B断面と対比できるように示し、応力は矢印55,56方向の力を示している。また、図5は図4に比べて交差指電極51の線幅が狭い場合の解析結果を示している。なお、基板50に水晶基板を用い交差指電極51はAl電極として解析した。
【0013】
図4によれば、交差指電極51の電極端部において応力が高いことがわかる。また、図5に示すように交差指電極51の線幅を狭くした場合においても電極端部において応力が高い。しかし、交差指電極51の線幅が狭くなると、電極端部の応力が小さくなることがわかる。
このように交差指電極の線幅を狭く形成することで、交差指電極にかかる応力を低減できることができる。
また、交差指電極の電極端部形状は実際には、図6に示すように水晶基板と交差指電極とのなす角がC部、D部のように鋭角となっており、この電極端部には上記の解析結果より大きな応力集中がおこっていると推測される。
以上の考察を踏まえて、発明者は交差指電極の線幅を小さくすることで交差指電極にかかる応力を減少させる構成について着想を得た。
次に、本発明を具体化した実施形態について図面に従って説明する。
(実施形態)
【0014】
図1は本実施形態のSAW共振子の構成を示す構成図であり、図1(a)は平面図、図1(b)は同図(a)のA−A断線に沿う部分拡大断面図である。
SAW共振子1は、水晶基板10にIDT(Interdigital Transducer)20と、その両側に反射器30を備えている。
水晶基板10の切断方位とSH波の位相伝搬方位をオイラー角表示(φ,θ,ψ)で表すと、次のように構成されている。
水晶基板の切断方位は、光軸であるZ軸回りに反時計方向にφ=0°±1°で、電気軸であるX軸回りに反時計方向にθ=29.2°〜40.7°として切断された水晶基板を用いている。そして、SH波の位相伝搬方位は、新たに生成したZ´軸回りに水晶基板平板内においてX軸を起点として反時計方向に面内回転してψ=90°±2°の方向となるように構成されている(図示せず)。
この水晶基板10の切断方位とSH波の位相伝搬方位は、表面閉じ込め型のSH波を利用するSAW共振子において従来から知られた周波数温度特性に優れた方位である。
【0015】
IDT20には、水晶基板10の表面に線状に周期的に連続するように複数の溝部23が形成され、この溝部23に挟まれた水晶基板10の表面にAl膜からなる交差指電極21,22が形成されている。交差指電極21,22はそれぞれ正極と負極が交互に配置されるように形成され、櫛歯電極25を構成している。
交差指電極21,22の線幅Lmは、溝部21に挟まれた水晶基板表面の線幅Lgに対してLg>Lmとなる関係になっている。なお、交差指電極21,22の線幅Lmが小さくなるとSAW共振子のCI値が大きくなることから、このCI値を考慮してLm/Lg=2/3〜1/2の範囲にあることが好ましい。
【0016】
また、交差指電極21,22の厚みHmと、溝部23の深さHgの関係は、Hm/Hg=1〜1/2となる関係に設定されている。
例えば300MHzのSAW共振子の実現において、反射係数は従来と同様に5〜6%確保するとすれば、水晶基板10の溝部23の深さHgを0.2〜0.4μmとして2〜4%の反射係数を得て、残りの反射係数分を交差指電極の厚みHmで確保すれば良い。
【0017】
さらに、SH波の伝搬方向である櫛歯電極25の両側には、周期的に連続するように複数の反射溝部33が形成されている。
この反射溝部33は通常の金属膜で形成された反射器と同様に、IDT20から伝搬するSH波を反射する反射器として機能する。
なお、溝部23および反射溝部33は同じ工程で水晶基板10をドライエッチングして形成されている。
【0018】
次に、上記のような構成のSAW共振器におけるドライブ特性について説明する。
図2はSAW共振子のドライブ特性を示すグラフである。グラフでは縦軸に周波数の変化量ΔF、横軸にドライブレベルを表示している。そして、測定結果を一次近似したグラフである。
近似直線40は従来のSAW共振子におけるドライブ特性を示している。従来のSAW共振子は水晶基板の表面にAl膜で櫛歯電極を形成してIDTとした構成である。このように、従来のSAW共振子はドライブ特性の非線形係数(傾き)が大きく、ドライブレベルの変化により周波数が大きく変化している。
【0019】
近似直線41,42は、本実施形態のSAW共振子のドライブ特性を示し、近似直線41は線幅の関係がLm/Lg=2/3の場合であり、近似直線42は線幅の関係がLm/Lg=1/2の場合である。
このグラフから、両者ともにドライブ特性の非線形係数(傾き)が小さく、ドライブレベルが変化しても周波数の変化量は少ない。また、その傾向は交差指電極の線幅Lmが小さいほど非線形係数が小さくなる。
【0020】
以上、本実施形態のSAW共振子は、水晶基板10にAl膜からなる櫛歯電極25を備え、溝部23に挟まれた水晶基板表面の線幅Lgに対して交差指電極21,22の線幅Lmを狭くしている。このことから、SH波の励振時におけるAl膜の交差指電極21,22の受けるすべり応力が小さくなり、Al膜内部の結晶に生ずるすべり欠陥の発生を緩和することができる。そして、Al膜内部の結晶に発生したすべり欠陥に起因するドライブ特性を改善し、ドライブ特性が向上した良好なSAW共振子1を提供することができる。
【0021】
また、櫛歯電極25の両側に複数の反射溝部33がさらに周期的に連続して形成されている。このように、SAW共振子1に反射器30を備えていることで、反射器30でSH波を反射させ、効率よくSAW共振子1の中央部に励振エネルギを閉じ込めることができる。
また、反射溝部33は溝部23と同じ工程で形成すればよく、効率よくSAW共振子1を製造するこができる。
さらに、本実施形態のような水晶基板10の切断方位とSH波の位相伝搬方位を用いることで、ドライブ特性が向上し、かつ周波数温度特性の優れた表面閉じ込め型のSH波を利用するSAW共振子1を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本実施形態のSAW共振子の構成を示す構成図であり、(a)は平面図、(b)は同図(a)のA−A断線に沿う部分拡大断面図。
【図2】本実施形態のSAW共振子におけるドライブ特性を示すグラフ。
【図3】SH波の振動変位模式状態図。
【図4】交差指電極の位置でかかる応力を示すグラフ。
【図5】交差指電極の位置でかかる応力を示すグラフ。
【図6】実際の交差指電極の電極形状を示す模式断面図。
【符号の説明】
【0023】
1…SAW共振子、10…水晶基板、20…IDT、21,22…交差指電極、23…溝部、25…櫛歯電極、30…反射器、33…反射溝部、50…基板、51,52…交差指電極、Lm…交差指電極の線幅、Lg…溝部に挟まれた水晶基板表面の線幅。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面閉じ込め型のSH波を利用するSAW共振子であって、
水晶基板と、
前記水晶基板表面に線状で周期的に連続するように形成された複数の溝部と、
前記溝部に挟まれた前記水晶基板表面にAl膜からなる交差指電極が正極と負極とを交互に配置されるように形成された櫛歯電極と、を備え、
前記溝部に挟まれた前記水晶基板表面の線幅に対して、前記交差指電極の線幅が狭いことを特徴とするSAW共振子。
【請求項2】
請求項1に記載のSAW共振子において、
SH波の伝搬方向である前記櫛歯電極の両側に周期的に連続して形成された複数の反射溝部をさらに備え、前記複数の反射溝部が反射器として機能することを特徴とするSAW共振子。
【請求項3】
請求項1または2に記載のSAW共振子において、
オイラー角表示(φ,θ,ψ)で前記水晶基板の切断方位が、光軸であるZ軸回りに反時計方向にφ=0°±1°で、電気軸であるX軸回りに反時計方向にθ=29.2°〜40.7°であり、
SH波の位相伝搬方位が新たに生成したZ´軸回りに水晶基板平板内においてX軸を起点として反時計方向に面内回転してψ=90°±2°の方向であることを特徴とするSAW共振子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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