説明

SMCシ−ト

【課題】FRP成形品の曲げ強度や曲げ弾性率が低下しないSMCシ−トを提供する。
【解決手段】不飽和ポリエステル樹脂と、硬化剤、増粘剤、充填剤、離型剤、顔料等を混合した長尺のペ−スト状の混合物(a)上にガラス短繊維チョップドストランドを分散し、更にこの上に上記と同様の長尺のぺ−スト状の混合物(b)を積層してなる長尺のSMCシ−トにあって、ガラス短繊維チョップドストランドを長尺のぺ−スト状の混合物の幅端部の含有率を高くしたSMCシ−トで、好ましくは、ガラス短繊維チョップドストランドの幅端部の含有率は、中央部の含有率よりも5〜15%多くしたシ−ト。1、6‥PEフィルム、2、7‥ペ−スト状とした混合物、3‥ガラスロ−ビング、4‥カッタ−、5‥ガラス短繊維チョップドストランド、8‥SMCシ−ト。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は改良されたSMCシ−トに関するものである。
【背景技術】
【0002】
FRP成形品の成形方法にあっては、種々の成形法があるが、パネル水槽、ユニットバス、床パネル等の大型の成形品は通常はSMC成形法が採用されている。
【0003】
SMCシ−トとしては、ドラムタイプ、コンベヤ−タイプ、含浸ロ−ルタイプ等いくつかのタイプがあるが、通常は、コンベヤ−タイプのSMCシ−トが用いられ、これは不飽和ポリエステル樹脂と、硬化剤、増粘剤、充填剤、離型剤、顔料等を混合したペ−スト状の混合物を、ガラス繊維チョップドストランドに含浸し、両面をフィルムで覆ってシ−ト状としたものであり、これを所定の温度に一定時間置き、化学反応によって増粘させ粘着性のない状態としたものである(非特許文献1)。
【0004】
【非特許文献1】FRP成形の実際((株)高分子刊行会:森本尚夫著)
【0005】
図1は含浸ロ−ルタイプによるSMCシ−トの製造システムの概要を示すものであり、PEフィルム1上に上記のペ−スト状とした混合物2を積層し、この表面にガラスロ−ビング3をカッタ−4にて切断したガラス短繊維チョップドストランド5を分散し、この表面をPEフィルム6を表面剤とする混合物7をもって積層し、ガラス短繊維チョップドストランド5に前記混合物を含浸させたもので、これをロ−ル状8に巻き取って、或いはつづら折り状に収納してSMCシ−トとしたものである。
【0006】
そして、成形は加熱した金型に成形品の形状に合わせ、その展開面積の50〜80%のSMCシ−トをチャ−ジして加圧硬化後、離型することによってFRP成形品が得られるものであり、SMCシ−トは切断されて成形品の形状に合わせて積層され、加圧及び加熱によって金型のキャビティ全域に行き渡らせ、硬化するものである。
【0007】
さて、得られたFRP成形品にあって、場合によっては、その成形品の曲げ強度や曲げ弾性率が予定よりも低下することがあり、このため、場合によっては、必要以上に成形品の厚みを厚くしたり、金属等の補強をインサ−トし、上記の強度の低下を防ぐことが行われていた。しかるに、前者にあっては、成形品のコストアップの原因となり、又、形状設計の自由度を阻害することとなっていた。後者にあっても同様であり、多額のコストがかかり、更に部品点数が増える等の欠点が指摘されていた。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上記した従来の技術に鑑みてなされたものであり、FRP成形品とした場合、成形品の曲げ強度や曲げ弾性率が低下しないようなSMCシ−トを提供することを目的としたものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の要旨は、不飽和ポリエステル樹脂と、硬化剤、増粘剤、充填剤、離型剤、顔料等を混合した長尺のペ−スト状の混合物(a)上にガラス短繊維チョップドストランドを分散し、更にこの上に上記と同様の長尺のぺ−スト状の混合物(b)を積層し、通常はこれをつづら折り状に箱内に収納してなるSMCシ−トであって、ガラス短繊維チョップドストランドを長尺のぺ−スト状の混合物の幅端部の含有率を高くしたSMCシ−トに係るものである。
【0010】
更に、ガラス短繊維チョップドストランドの幅端部の含有率は、中央部の含有率よりも5〜15%多くしたSMCシ−トである。尚、本発明で言うSMCシ−トのガラス短繊維チョップドストランドの含有率とは、SMCシ−ト全体に対する重量%で示す。
【発明の効果】
【0011】
本発明にあって、長尺のSMCシ−トに対して、その幅端側のガラス短繊維チョップドストランドの含有率を、中央部のそれよりも多くしたものであり、これによってかかるSMCシ−トが裁断されて積層されて得られたFRP成形品の強度が予定した通りのものが得られるようになったものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
FRP成形品の成形にあって、SMC成形法は比較的薄いSMCシ−トを成形品の形状に合わせて適当な大きさに裁断し、これを何枚も重ねて金型内にセットし、加圧・加熱下に成形するものである。しかるに、この積層時にSMCシ−トに方向性があり、同一方向のものを積層することは得られる成形品の強度に問題が生じることが言われている。特に、SMCシ−トの両端部からの裁断品の積層にあっては注意を必要としていた。
【0013】
かかる現象を精査したところ、SMCシ−トの幅端側のガラス短繊維チョップドストランドの含有率が、中央部のそれよりも低いことが要因であることをつきとめたものであり、本発明はこの欠点を改良するための発明である。即ち、SMCシ−トのシ−ト製造にあって、ガラス短繊維チョップドストランドは完全に均等に含浸できるものではなく、中央部よりも幅端のガラス短繊維チョップドストランドの含有率が低い傾向にある。これを同一方向に積層して成形された成形品はその部分の強度が低い傾向にあり、時としてそれが製品欠陥につながってしまうものである。
【0014】
更に言えば、不飽和ポリエステル樹脂と、各種配合物を混合した長尺のペ−スト状の混合物(a)上にガラス短繊維チョップドストランドを分散する際、ストランドを所定の本数、均一に引き揃えて束にしたガラスロ−ビングをカッタ−にて所定の長さに切断して分散するが、通常は、ガラスロ−ビング導入部に導入するロ−ビングの数をどの箇所も一定として切断し分散してSMCシ−トを得ていた。しかるに、これによってSMCシ−トの幅端側には、その中央域よりもガラス短繊維チョップドストランドの含有率が少なくなることは避けられない。
【0015】
このため、かかるSMCシ−トの幅端部から裁断されたSMCシ−トを同一方向をもって金型上に積層された場合には、全体として比較的ガラス短繊維チョップドストランドの含有率が少ない部位が生じてしまい、これが得られたFRP成形品の強度の低下につながっていることが判明した。
【0016】
本発明は従来技術のかかる欠点を改良するものであり、端的に言えば、FRP成形品に用いられる長尺のSMCシ−トにあって、その両端部のガラス含有率を高くしたことを特徴とするものである。
【0017】
より具体的に言えば、上記の長尺のペ−スト状の混合物(a)上にガラス短繊維チョップドストランドを分散する際、ガラスロ−ビング導入部に導入するロ−ビングの数を、SMCシ−トの幅端側の数を、その中央域の数よりも多くしてガラス短繊維チョップドストランドの含有率を多くしたものである。その含有率の程度は成形品の形状や大きさ等によって異なるが、一般的には、ガラス短繊維チョップドストランドの幅端部における含有率は、中央部の含有率よりも5〜15%多くしたものであり、SMCシ−トの全幅の寸法にもよるが、例えば全幅が1000mmのSMCシ−トに対し、その両端80〜120mm部分の含有率を高くするのがよく、こうすることによってSMCシ−トの方向性を考慮することなく金型上に積層することが可能となったものである。
【実施例】
【0018】
以下、実施例をもって本発明を更に詳細に説明するが、この例では、全幅1000mmのSMCシ−トに対し、両端100mm部分のガラス短繊維チョップドストランドの含有率を高くしたものである。具体的には、SMC含浸機のガラスロ−ビング導入部に導入するロ−ビングの数を他の部分よりも密にしたものである。
【0019】
(供試1) 供試1は、従来から行われているSMCシ−トの作成法であり、全幅1000mmのSMCシ−トを作成する場合、ガラスロ−ビングを21mmピッチで48本セットし、これをカッタ−にて切断して分散しSMCシ−トを作成した。得られたSMCシ−トの100mmピッチのガラス含有率の分布(%)を表1に示す。
【0020】
(供試2) これに対し、供試2は本発明のSMCシ−トの作成法であり、両幅100mm部分に関しては15mmピッチにてガラスロ−ビングを7本づつセットし、カッタ−にて切断して分散しSMCシ−トを作成した。得られたSMCシ−トの100mmピッチのガラス含有率の分布(%)を表1に示す。
【0021】
【表1】

【0022】
表1の結果より、供試1におけるSMCシ−トはその両端100mmのガラス含有率は低下し、一方、供試2の場合には両端100mmのガラス含有率は高くなっていることを示す。
【0023】
上記のSMCシ−トを用いて図2に示す貯水タンク用パネル10(1000×1000mm)を成形し、そのフランジ部11(高さ75mm、厚さ10mm)における曲げ強度、曲げ弾性率を測定した。測定結果を表2に示す。
【0024】
尚、供試1及び供試2共にSMCシ−トの全幅1000mmをそのまま裁断し、これを同じ方向性をもって金型上に積層して加圧・加熱して得たものであり、測定箇所はいずれもSMCシ−トの幅端側に形成されたフランジ部11である。
【0025】
【表2】

【0026】
かかる測定結果によって本発明の特徴がはっきりしたが、SMCシ−トを金型上に積層してFRP成形品を得る場合、樹脂の流れによって金型のキャビティ内に樹脂が万遍なく行き渡ることとなるが、樹脂の流れはその端部になるにしたがって、流れにくくなり、この例で言えば、フランジの先端にはガラス短繊維は流れ込みにくく樹脂分が主要材料となる。かかる点から言ってもSMCシ−トの当初からガラス分の少ないSMCシ−トであっては、更に強度が低下することは明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明はSMCシ−トを用いるFRP成形品全てに適用可能であり、その用途は極めて広い。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】図1は含浸ロ−ルタイプによるSMCシ−トの製造システムの概要を示す。
【図2】図2はSMCシ−トをもって得られた貯水タンク用パネルを示す図である。
【符号の説明】
【0029】
1‥PEフィルム、
2、7‥ペ−スト状とした混合物、
3‥ガラスロ−ビング、
4‥カッタ−、
5‥ガラス短繊維チョップドストランド、
6‥PEフィルム、
8‥SMCシ−ト、
10‥パネル、
11‥フランジ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
不飽和ポリエステル樹脂と、硬化剤、増粘剤、充填剤、離型剤、顔料等を混合した長尺のペ−スト状の混合物(a)上にガラス短繊維チョップドストランドを分散し、更にこの上に上記と同様の長尺のぺ−スト状の混合物(b)を積層してなる長尺のSMCシ−トにあって、ガラス短繊維チョップドストランドを長尺のぺ−スト状の混合物の幅端部の含有率を高くしたことを特徴とするSMCシ−ト。
【請求項2】
ガラス短繊維チョップドストランドの幅端部の含有率は、中央部の含有率よりも5〜15%多くした請求項1記載のSMCシ−ト。
【請求項3】
長尺のSMCシ−トがつづら折り状に箱内に収納された請求項1又は2記載のSMCシ−ト。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−241190(P2006−241190A)
【公開日】平成18年9月14日(2006.9.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−54887(P2005−54887)
【出願日】平成17年2月28日(2005.2.28)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】