説明

SMR1ペプチドの新規な治療的使用

【課題】膜メタロペプチダーゼの活性の調整が求められている疾患の処置又は予防、又は処置するための治療用組成物の調製のための、内因性SMR1タンパク質又はペプチドと膜メタロペプチダーゼとの間の相互作用を調整する薬剤の使用法を提供する。
【解決手段】式(1)のSMR1-ペプチドの使用。(1):X1QHX2X3X4(ここで、X1は水素原子を表し、又はX1は次のX1=R若しくはG,X1=RR,又はX1=PRR,又はX1=GPRR,又はX1=RGPRR,又はX1=VRGPRRから選択されるアミノ酸鎖を表し、X2はN,G又はDを表し、X3はP又はLを表し、そしてX4はR又はTを表す。)SMR1-ペプチドはNEPを阻害する、あるいはエンケファリン分解を阻害すること等により作用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
第一の観点において、本発明はSMR1ペプチドの新規な治療的使用に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明者は、すでにSMR1(顎下腺ラット1タンパク質)と名付けた、プロホルモンの構造を有し、そしてその合成がアンドロゲンの支配下にある、新規のラット顎下腺タンパク質を特徴づけていた(Rosinsky-Chupin et al., (1988), Proc. Natl. Acad. Sci.USA; 85(22):8553-7)及びPCT特許出願番号WO 90/03981)。SMR1をコードする遺伝子は、新規の多重遺伝子ファミリーであるVCSファミリーに属し、これはラットの第14染色体のp21-p22帯に位置しており(Courty et al., (1996) Mol. Biol. Evol. 13(6):758-66; Rosinsky-Chupin et al., (1995) Mamm. Genome 6(2):153-4))、そしていくつかのヒト遺伝子のメンバーが特徴づけられている(Isemura et al., (1997) J Biochem 121:1025-1030; Isemura et al. (1994) J Biochem 115:1101-1106; Isemura et al., (1979) J Biochem 86:79-86; Dickinson et al. (1996) Curr Eye Res 15:377-386)。当該遺伝子は、多くのホルモン前駆体と類似の構成を有している(Rosinsky-Chupin et al., (1990) DNA Cell Biol. 9(8):553-9)。SMR1 mRNAは、雄のラットの、顎下腺(SMG)の腺房細胞及び前立腺において高度に組織、年齢、そして性別特異的に発現している (Rosinsky-Chupin et al., (1993) Histochem. Cytochem. 41(11):1645-9)。
【0003】
in vivoでは、SMR1は、ペプチド−ホルモン前駆体の成熟経路と類似して、成熟ペプチド産物が生成するように、組織及び性別特異的に塩基性アミノ酸対において選択的にプロセシングされる(Rougeot et al., (1994) Eur. J. Biochem. 219(3):765-73)。アルギニン残基対における開裂によってSMR1から生成する、構造的に関連したペプチド(例えばウンデカペプチド:VRGPRRQHNPR;ヘキサペプチド:RQHNPR;及びペンタペプチド:QHNPR)が、in vivoにおいて、対になった塩基性アミノ酸変換酵素、例えばFurineコンバターゼによって、塩基性アミノ酸残基対におけるプロセシングの後に当該前駆体から選択的に成熟し、差示的に、組織、年齢、そして性別に関連して蓄積し、そして多因子的な神経分泌制御により局所的及び全身的に放出される(Rougeot et al, 1994)。
【0004】
そのような状況において、SMR1ペンタペプチド(SMR1-QHNPR)、更にはシアロルフィン(sialorphine)と命名された、SMR1から生成した最終的な成熟ペプチドが、アンドロゲンステロイドに応じて支配的に合成され、そして基本条件において血流中に構成的に放出され、そしてSMGの分泌応答性を制御するアドレナリン受容体の活性化状態に依存する、環境ストレスに応じて急激に放出される。
【0005】
続いて、循環しているSMR1ペンタペプチドは、主に腎臓、骨及び歯の組織内の、特異的な結合部位を介して末梢の標的に取り込まれる。
【0006】
当該ペプチドの標的部位がイオンの捕捉、輸送及び制御の主要組織内に主に局在するという事実は、SMR1-ペンタペプチドが、in vivoにおいて、無機イオンの恒常性過程を調節する局所的及び全身的な役割を果たしうるという証拠を示している。更に、アンドロゲン制御型SMR1-ペンタペプチドが環境ストレスによって急激に分泌されるという事実に関連して、これらの発見は、このSMG特異的シグナル伝達ペプチドが、雄のラット特異的な行動上の特性、例えば攻撃的な関係及び/又は性交に応じた、そして雌特異的な生理学的特性、例えば妊娠及び授乳に関連する、動的な恒常性の応答の統合的な再建を媒介するのに関与しうるという仮説を本発明者に与えた。
【0007】
WO 98/37 100は、SMR1タンパク質の成熟産物、具体的には構造式XQHNPRのペプチドが、無機イオンの濃度に深く関与している器官において特異的な標的を認識していることを開示している。この発見は、SMR1-ペプチド(特にSMR1-ペンタペプチド、ヘキサペプチド又はウンデカペプチド)が、体液の金属イオン濃度の制御における積極的役割、及びそれによる無機イオンの不均衡に関連する全ての代謝疾患におけるこれらのペプチドの治療的役割を果たしていることを本発明者に気づかせた。
【0008】
すなわち、本明細書に開示されている治療的ペプチドは、体液又は組織中の無機イオンの不均衡によって生じた骨、歯、腎臓、腸、膵臓、胃、又は唾液腺の障害、すなわち副甲状腺機能抗進症又は副甲状腺機能低下症、骨粗鬆症、膵炎、顎下腺結石症、腎結石症又は骨形成異常症を処置し、又は予防するのに有用である。
【0009】
上述の仮定に基づき、行動上の薬理学的アプローチが行われてきた。SMR1-ペプチド、特にSMR1-ペンタペプチドは、コントロールのラットに見られる活動的な衝動的挙動に対する用量依存的な向上を誘導することが明らかとなった (PCT特許出願WO01/00 221)。
【0010】
SMR1-ペプチドの作用が起こっている経路を解明するための、必須の段階の1つは、ペプチド−受容体部位の分子特性を研究することであった。特に髄質外部内での、放射性標識されたSMR1-ペンタペプチドの全身投与によって到達されうる膜結合部位の単離が行われてきた。そのアミノ酸配列の同定は、in vivoで当該ペプチドに結合する細胞表面分子が、膜メタロペプチダーゼであり、そして更に具体的には哺乳類のII型膜内在性亜鉛含有エンドペプチダーゼ、すなわち中性エンドペプチダーゼ24-11又はNEPであることを明らかにし、これらはまた、ペプチド作動性シグナルの機能的効力において必須の役割を果たす、ネプライシンサブファミリーに属するエンケファリナーゼとも称される。更に、ラット腎NEPとSMR1-ペンタペプチドのin vivoでの相互作用は、精製したウサギ腎NEPを用いてin vitroで確認された。
【0011】
更に、合計のラットの体重のレベルで、良好な(形態学的及び動態学的)一致が、in vivoにおいて、循環している放射性標識されたSMR1-ペンタペプチドが接近することのできる標的器官の分布と既知の合成NEP阻害剤(3HHACBO-Gly) (Sales et al, (1991) Reguratory Peptides 33, 209-22)のそれとの間で見られた。その他には、多数の意見が、SMR1-ペプチドはNEP活性のSMG由来の天然のモジュレーター、特に阻害剤であるという仮説について主張している:
1−SMR1-ペンタペプチドの組織の取り込みが、薬理学的且つ生化学的にin vivoで安定であることが明らかとなっており、
2−NEPが優先的にX-Phe結合間でペプチドを開裂することから、SMR1-ペプチドがNEPの基質に必要とされる残基を有しておらず、
3−SMR1-ペンタペプチドが、潜在的な合成NEP阻害剤のために設計された強力な亜鉛キレート化基を有している。
【0012】
多くのNEPの基質(すなわち、ペプチドホルモン:エンケファリン、サブスタンスP、ブラジキニン、アンギオテンシンII及び心房性ナトリウム利尿ペプチド)を考慮して、NEP/SRM1-ペンタペプチドの相互作用の生理学的な因果関係は、中枢及び末梢の疼痛近く、炎症現象及び動脈の調子の調整に影響を与えることが予想される(下記のRoques et al, 1993)。
【0013】
中性エンドペプチダーゼNEP24-11は、哺乳類の神経及び末梢組織の両方に分布しており、そして末梢においては、それは特に腎臓及び胎盤において豊富に存在している。これらの組織において、細胞表面メタロペプチダーゼNEPは、ニューロペプチド、全身性免疫調節ペプチド及びペプチドホルモンの分泌後のプロセシング及び代謝に関与している。循環している、又は分泌された制御ペプチドの活性レベルの調節によって、NEPは、それらの生理学的な受容体媒介性の作用を調整する。それ故に、膜結合型のNEPは潜在的な血管作用性ペプチド、例えばサブスタンスP、ブラジキニン(BK)、心房性ナトリウム利尿ペプチド(ANP)及びアンギオテンシンII(AII);潜在的な炎症/免疫制御ペプチド、例えばサブスタンスP及びBK及びfMet-Leu-Phe (fMLP);潜在的なオピオイドニューロペプチド、例えばMet及びLeu-エンケファリン(Enk)並びに潜在的な鉱物交換及び体液の恒常性制御ペプチド、例えばAMP、C型ナトリウム利尿ペプチド(CNP)及びB型ナトリウム利尿ペプチド(BNP)、の活性を制御するのに関与している。しかしながら、これらのペプチドのレベルは、それらが持続的に放出され、又はそれらの放出が刺激によって引き起こされる領域においてのみ、NEP誘導型の形成/分解を介して変化する。
【0014】
統合的な観点から、NEPの生物活性は、動脈内血圧の制御、炎症現象及び水−鉱物の恒常性、並びに痛みの過程の調節に関与するペプチド原性シグナルの活性レベルを調節するためにある。臨床的な観点から、このことは、NEPが種々の病状における重要な薬物の標的であるという事実を立証する。例えば、NEPを阻害することにより中枢又は末梢の内因性オピオイドの作用のレベル及び期間が増大することで、鎮痛薬及び止痢薬が得られることがあり、あるいは内因性のAllの形成並びにBK及びANPの不活性化を阻害することによって、ナトリウム利尿薬及び利尿薬が得られる。NEP阻害剤の使用によって内因性ペプチド濃度を修飾する主な利点は、薬理学的作用が天然のエフェクターによって刺激された状態でのみ誘導され、そして、環境的な、行動上の、そして整理病理学的なストレス性刺激によって起こる、天然のエフェクターの持続性の、又は刺激誘発型の放出に臨床的に依存することである (Roques et al, (1993) Pharmacological Reviews 45, 87-146)。そのようなストレスのある状況においては、天然の潜在的なNEPモジュレーターであるSMR1-ペプチドも急性的且つ持続的に放出され、分布され、そしてその全身的標的組織、特に腎のNEP部位に取りこまれることを強調することが重要である(Rougeot et al, 1997)。それによって、SMR1-ペプチドは、NEP活性を調整し、そして局所的及び全身的な炎症、昇圧及び/又はストレスに対する恒常性の応答を最適化するために、in vivoで動態学的に生物学的利用可能であろう。この統合的観点は、循環している顎下腺(SMG)由来の因子が、休止している恒常性の定常状態に寄与するというよりもむしろ、生理学的又は病理学的「ストレス状態」(損傷、外傷又は感染)に関与しうるという仮説に従うものである(Rougeot et al, (2000) Peptides 21, 443-55)。
【0015】
一般的な観点から、生理学的な適応における統合的役割を果たし、そして、特に組織損傷、炎症、及び攻撃的な行動を有する齧歯類において見られる「ストレス条件」のもとで、哺乳類の恒常性の維持に寄与する、頚部交感神経幹(CST)-SMGの神経内分泌軸の存在を、生理学的な重大性の証拠が証明している。当研究所において集められたデータは、SMR1-ペプチドが、膜結合型NEP活性の制御を介して、局所的及び全身的な侵害受容性の炎症、昇圧及び/又はイオンの恒常性応答を最適化するように、性別及び種特異的な環境的、行動上又は生理学的特性に適合し、緊急事態に持続的に且つ動的に動員される、新規のシグナル伝達メディエーターであるという確かな証拠を提供する。他には、現時点で、同定された末梢NEP活性の最初の天然のレギュレーターであるSMR1-ペプチドは、このメタロペプチダーゼが、特にラット、ウサギ、そしてヒトの種間において90%以上の配列相同性で非常に保存されているので、治療分子の新規クラスとして設計されると考えられる。
【0016】
NEP配列との著しい相同性と共に、本発明者によって提示される証拠は更に、SMR1-ペプチドが、膜メタロペプチダーゼ、特に亜鉛メタロペプチダーゼの天然のモジュレーター/インヒビターとして働きうることを示唆する(GenBankアクセスナンバーP 08473, Malfroy et al, (1988) FEBS Lett., 229(1), 206-210; NP 258428, Bonvouloir et al, (2001) DNA Cell Biol. 20(8), 493-498;NP 037640, Malfroy et al. (1987) Biochem Biophys Res Commun 144, 59-66)。
【0017】
NEP以外の哺乳類の膜メタロペプチダーゼの例としては、ECE(エンドセリン変換酵素)、特にECE1及びECE2;赤血球細胞表面抗原KELL及びX染色体連鎖の遺伝性低リン血症性くる病に関連するPEX遺伝子産物、並びにACE(アンギオテンシン変換酵素)及びAPN(アミノペプチダーゼN)がある。
【0018】
ACE及び/又はECEの阻害は、高血圧の処置並びにアテローム性動脈硬化症の予防及び処置においてよく利用されている。
【0019】
NEPと一緒にAPNを阻害することは、痛みの処置においてよく利用されている。
【0020】
関連する膜メタロペプチダーゼの阻害は、腫瘍、すなわち、卵巣ガン、結腸直腸ガン、脳腫瘍、肺ガン、膵臓ガン、胃ガン、及びメラノーマの処置における治療的作用を有し、そして転移、アテローム性動脈硬化症及び/又は高血圧の発症を減らす。関連する膜メタロペプチダーゼの阻害剤はまた、疼痛管理における治療的作用を有している。そのような急性痛に対する抗侵害受容性の作用は、鎮静作用だけでなく、慢性炎症痛、例えば関節炎又は炎症成長疾患に対する作用でもある。
【0021】
更に、細菌又はウイルスのメタロペプチダーゼの阻害は、抗感染作用を有することが予想される。
【0022】
病原の宿主組織への侵入並びに免疫学的過程及び炎症の過程において重要な役割を果たすメタロペプチダーゼは、例えばストレプトコッカス・パイオジェネス (Streptococcus pyogenes)、シュードモナス・アエルギノサ(Pseudomonas. aeruginosa)、ポルフィロモナス・ギンギバリス(Porphyromonas gingivalis)及びレジオネラ・ニューモフィラ(Legionella pneumophila)のものである。
【0023】
更に、細菌のメタロペプチダーゼ、特に亜鉛メタロペプチダーゼは、タンパク質分解毒素、例えばB.アントラシス(B. anthracis)の毒素(炭疽菌の致死因子)及びC.テタヌム(C. tetanum)及びボツリナム(C. botulinum)の神経毒によって引き起こされる疾患において重要な役割を果たしている。
【0024】
他のメタロペプチダーゼは、種々の感染、例えばHIVによって引き起こされる感染において重要な役割を果たしている(FR 2 707 169)。
【0025】
細菌又はウイルス疾患の処置のためのプロテイナーゼ阻害剤の重要性は、J. Potempa, J. Travis, (Proteinases as virulence factors in bacterial diseases and as potential targets for therapeutic interaction with proteinase inhibitors. In proteases as targets for therapy. 99, 159-188 - Eds K. Helm, B.D. Korant and J.C. Cheronis - Spinger Handbook Exp. Pharm. 140).により明らかとなっていると考えられる。
【0026】
メタロペプチダーゼの異なる役割は、Turner et al, (2001) Bioassays, 23, 261-9;Kenny et al, (1977) Proteinases in mammalian cells and tissues) ; Kenny et al, (1987) mammalian ectoenzymes ; Beaumont et al, (1996) zinc metallopeptidases in health and disease, 105-129)に開示されている。
【0027】
本発明の最初の主題は、膜メタロペプチダーゼ、すなわち亜鉛メタロペプチダーゼの活性の調整が求められている、哺乳類、特にヒトの疾患を予防し、又は処置するための治療用組成物の調製のための、SMR1-ペプチド又は医薬として活性な量の前記SMR1-ペプチドの治療的な使用にある。
【0028】
本発明の別の主題は、内因性SMR1-ペプチドと前記膜メタロペプチダーゼとの間の相互作用を調整するためのSMR1-ペプチドの生物学的に活性な誘導体の様な薬剤の治療的な使用にある。前記調整は動力学的及び/又は分子的なものである。
【0029】
「内因性」は、処置されるべき患者の組織で天然に発現し、又は成熟する分子(本明細書ではSMR1-ペプチド)を言及する。
【0030】
本発明は更に、前記膜メタロペプチダーゼの活性の調整が求められる疾患を予防し、又は処置するための治療用組成物の調製のための、内因性SMR1タンパク質又はペプチドと膜メタロペプチダーゼとの間の相互作用を調整する薬剤の使用に関する。
【0031】
本発明は、更に具体的には、NEP感受性ペプチドのNEP誘導型分解の調整が求められる、哺乳類、特にヒトの疾患を予防し、又は処置する薬物の調製のための、SMR1-ペプチド又は医薬として活性な量のSMR1-ペプチドの治療的な使用に関する。
【0032】
本明細書で使用する場合、SMR1-ペプチドとは、SMR1タンパク質、SMR1から産生するペプチドであって、SMR1タンパク質の成熟産物と称されるもの、又は前記タンパク質又は前記成熟産物の生物学的に活性な誘導体のうちの1つを意味する。
【0033】
好ましい態様において、SMR1-ペプチドは、構造式(1):
X1QHX2X3X4
(ここで、X1は水素原子を表し、又はX1は次のX1 = R若しくはG, X1= RR, 又はX1= PRR, 又はX1= GPRR, 又はX1= RGPRR, 又は X1=VRGPRRから選択されるアミノ酸鎖を表し、X2はN, G 又はDを表し、X3はP又はLを表し、そしてX4はR又はTを表す)の化合物である。
【0034】
好ましいペプチドは、配列
ラツス・ノルベギウス(Ratus norvegius)由来のQHNPR, RQHNPR 及び VRGPRRQHNPR、
ラツス・ラツス(Ratus ratus)由来のQHNLR 及び RQHNLR
マウス由来のGQHGPR 及び GQHDPT
のペプチドを含んで成る。
【0035】
上記アミノ酸配列において、
Qはグルタミンを表し、
Hはヒスチジンを表し,
Nはアスパラギンを表し、
Gはグリシンを表し、
Pはプロリンを表し、
Rはアルギニンを表し、
Lはロイシンを表し、
Tはトレオニンを表し、
Dはアスパラギン酸を表し、そして
Vはバリンを表す。
【0036】
SMR1-ペプチドの「生物学的に活性な誘導体」は、機能保存的な変異体、相同性タンパク質及びペプチドミメティック、並びに好ましくは親ペプチドの結合特異性及び/又は生理活性を保持するホルモン、抗体又は合成化合物(すなわち、ペプチド又は非ペプチド分子のいずれか)であって以下で定義するものを言及する。それらは、好ましくは、膜メタロペプチダーゼ、更に具体的にはNEPと結合する能力を示す。そのような結合活性は、結合アッセイによって、例えば、SMR1誘導体の標識によって、任意に標識した、常用のNEP基質との競合アッセイによって容易に決定されうる。
【0037】
「機能保存的変異体」は、タンパク質の所定のアミノ酸残基が、ポリペプチドの全体的なコンフォーメーション及び機能を変化させることなく変化したものであり、限定しないが、アミノ酸を類似の特性(例えば、極性、水素結合能、酸性、塩基性、疎水性、芳香族性等)を有するもので置換したものである。類似の特性を有するアミノ酸は当業界で周知である。例えば、アルギニンとリジンは親水性塩基性アミノ酸であり、そして交換可能である。同様に、イソロイシンは疎水性アミノ酸であり、ロイシン又はバリンと交換可能である。そのような変化は、前記タンパク質又はポリペプチドの見かけの分子量又は等電点にほとんど又は全く影響を及ぼさないことが予想される。保存されていることが示されているもの以外のアミノ酸はタンパク質又は酵素の中で異なることがあり、その結果類似の機能の任意な2つのタンパク質間のタンパク質又はアミノ酸配列の類似性のパーセントが変化することがあり、そして例えば、アラインメントスキームに従い、例えば、類似性がMEGALIGNアルゴリズムを基にしているCluster法によって決定される場合に70%〜99%であることもある。「機能保存的変異体」はまた、BLAST又はFASTAアルゴリズムによって決定した場合に少なくとも60%、好ましくは少なくとも75%、最も好ましくは少なくとも85%、そしてより更に好ましくは少なくとも90%のアミノ酸同一性を有し、そして比較される天然又は親のタンパク質又は酵素と同一又は実質的に類似の特性又は機能を有するポリペプチド又は酵素を含む。
【0038】
「対立遺伝子変異体」は、下文でより詳細に説明するように、更に特に包含される。
【0039】
本明細書で使用する場合、あらゆる文法的な形及び綴りの変化形の用語「相同」は、スーパーファミリー(例えば、イムノグロブリンスーパーファミリー)由来のタンパク質及び異なる種由来の相同タンパク質(例えば、ミオシンの軽鎖)を含む「共通の進化的起源」を有するタンパク質間の関係を言及する(Reeck et al., Cell 50:667, 1987)。そのようなタンパク質は、保存されている位置での特定の残基又はモチーフの類似性(%)又は存在のいずれかの面で、それらの配列類似性によって反映されるような配列の相同性を有している。
【0040】
従って、あらゆる文法的な形での用語「配列類似性」は、共通の進化的起源を有しうる、又は有しえないタンパク質のアミノ酸配列間の同一性又は一致の程度を言及する(上記のReeck et al., を参照のこと)。しかしながら、一般的な使用法及び簡便的な利用法においては、用語「相同」は、副詞によって、例えば「高度に」によって修飾されている場合、配列の類似性を言及することがあり、そして共通の進化的起源に関連していることもあるし、関連していないこともある。
【0041】
特定の態様において、2つのアミノ酸配列は、80%超のアミノ酸が同一であり、又は約90%超のものが類似で且つ機能的に同一である場合、「実質的に相同」又は「実質的に類似」である。好ましくは類似又は相同の配列は、例えばGCG(Genetics Computer Group, Program Manual fo the GCG package, Version 7, Madison, Wisconsin)パイルアッププログラム、又は上記プログラム(BLAST又はFASTA等)のいずれかを用いるアラインメントによって同定される。
【0042】
天然のNEP基質は主に、中枢及び末梢の疼痛知覚、炎症現象、鉱物の交換及び/又は動脈の調子の調整において重要な役割を果たすペプチドホルモン:エンケファリン、サブスタンスP、ブラジキニン、アンギオテンシンII及び心房性ナトリウム利尿ペプチドである。
【0043】
更に詳細には、本発明の1つの目的は、末梢、脊髄及び/又は上脊髄レベルを阻害すことにより中枢又は末梢の内因性オピオイド、例えばエンケファリンの作用のレベル及び期間を増大させることによる、鎮痛薬としての上述の治療用ペプチドの使用である。
【0044】
別の目的には、止痢薬としての上述のペプチドの使用がある。
【0045】
別の目的には、内因性AIIの形成の阻害及びサブスタンスP、BK及びANPの不活性化による、降圧剤、ナトリウム利尿薬及び利尿薬としての上述のペプチドの使用がある。
【0046】
更なる目的には、アテローム性動脈硬化症を予防し、又は処置するための薬剤としての、上述のペプチドの使用がある。
【0047】
別の目的には、慢性炎症痛、例えば関節炎又は炎症性腸疾患を含む痛みの処置のための薬剤としての、上述のペプチドの使用がある。
【0048】
別の目的には、免疫−炎症応答の調節のための薬剤としての、上述のペプチドの使用がある。
【0049】
別の目的には、悪性細胞の増殖及び播種の過程を予防し、又は処置するための薬剤としての、上述のペプチドの使用がある。
【0050】
本発明の別の目的には、薬物乱用、すなわちモルヒネ薬乱用の処置に代わるものとしての上述のペプチドの使用がある。
【0051】
事実、研究によって、薬物乱用の影響の受け易さ、診査料の発生及び薬物依存性が、内因性オピオイド系が既に存在し、又はその修飾及び/又は欠損が誘導された結果であることを示唆した。これに関しては、内因性のエンケファリンの作用を可能にするSMR1-ペプチドの使用して、慢性のモルヒネ又はヘロインの投与の中断によって生まれる種々の副作用(使用中断の体性の徴候)を減らす。
【0052】
本発明の更に別の目的には、感染、例えば細菌又はウイルス性疾患を処置するための、上述のペプチドの使用がある。
【0053】
本発明のための、用語「哺乳類」は、その通常の分類学的な意味で使用され、そして具体的にはヒトを含む。
【0054】
本発明のために、「ペプチド」は、ペプチド結合によって、直線的な配列で互いに連結したアミノ酸残基の直線的な配列から成る分子である。そのような直線的な配列は、任意に環状であってもよく、すなわち、直鎖ペプチドの末端又はペプチド中のアミノ酸の側鎖は、例えば化学結合によって連結していてもよい。本発明に従うそのようなペプチドは、約3〜約500アミノ酸を含むことがあり、そして更には二次、三次又は四次構造、並びに他のペプチド又はペプチド以外の分子との分子間会合を含むことがある。そのような分子間会合は、限定しないが、共有結合を介することもあり(例えば、ジスルフィド結合を介する)、又はキレート化、静電的相互作用、疎水性相互作用、水素結合、イオン双極子相互作用、双極子間相互作用、又は上述のものの任意な組み合わせを介することもある。
【0055】
本発明に従う好ましいペプチドは、
【化1】

(当該配列は、NからCへの配置で示しており、そしてGlpはピログルタミン酸であり、そしてGlnはグルタミンであり、Hisはヒスチジンであり、Asnはアスパラギンであり、Proはプロリンであり、Argはアルギニンであり、Glyはグリシンであり、Valはバリンであり、Leuはロイシンであり、そしてThrはトレオニンである)から成る群から選択されるアミノ酸配列を含んで成る。
【0056】
これらのペプチドにおいては、N末端での環化/開環により、GlpとGlnは相互転換する。
【0057】
尚、本発明に従うある好ましいペプチドは、配列番号1〜8のいずれかで示されるペプチドの対立遺伝子変異体を含んで成り、本質的にそれらから成り、又はそれらから成る。本明細書で使用する場合、「対立遺伝子変異体」は、親ペプチドからの1又は2つのアミノ酸の置換を有するが、親ペプチドの結合特異性及び/又は生理活性を保持しているペプチドである。本明細書で使用する場合、「親ペプチドの結合特異性を保持している」とは、配列番号1〜8に示す実際上のペプチドのうちの1つのものの少なくとも1/10、更に好ましくは少なくとも1/2、そして最も好ましくは少なくともそれと同じ大きさの親和性で、配列番号1〜8に示すペプチドのうちの1つと結合するモノクローナル又はポリクローナル抗体と結合することができることを意味する。そのような親和性の決定は、好ましくは標準的な競合的結合イムノアッセイ条件下で実施される(Rougeot et al., (E. J. B. 219(3)765-773)。「親ペプチドの生理活性を保持している」とは、NEPと結合し、そしてNEP活性を調整することで、局所的及び全身的侵害受容、炎症、昇圧及び/又はストレスに対するイオンの恒常性応答を最適化する、配列番号1〜8に示したペプチドのいずれか1つの能力を保持していることを意味する。そのような活性が調整されるか否かの決定は、本明細書の更に後文で説明する。用語「対立遺伝子変異体」は、同一のアミノ酸配列を有しない配列番号1〜8に記載のペプチドの任意なヒト機能的ホモログを含むことが具体的に意図される。
【0058】
本発明に従うペプチドは、当業界で認識された技術を用いて都合良く合成されうる(例えば、Merrifield, J. Am. Chem. Soc. 85:2149-2154を参照のこと)。
【0059】
また、本発明の一部は、上記親ペプチドの結合特異性及び/又は生理活性を保持する好ましいペプチドミメティックである。本明細書で使用する場合、「ペプチドミメティック」は、ペプチドの複数の特性、好ましくはそれらの結合特異性及び/又は生理活性を模倣する有機分子である。好ましいペプチドミメティックは、好ましくは非天然アミノ酸であるDアミノ酸をLアミノ酸の代わりに用いる、本発明に従うペプチドの構造的修飾、立体構造の制限、イソステリックな置換、環化、又は他の修飾によって得られる。他の好ましい修飾には、限定しないが、1又は複数のアミド結合が非アミド結合によって置換されるもの、及び/又は1又は複数のアミノ酸の側鎖が異なる化学的部分によって置換されるもの、あるいは1又は複数のN末端、C末端、又は1又は複数の側鎖が保護基によって保護されるもの、並びに/あるいは二重結合及び/又は環化及び/又は立体特異性が、硬性及び/又は結合親和性を増大させるためにアミノ酸鎖に導入されるもの、が含まれる。
【0060】
更に他の好ましい修飾には、酵素分解に対する耐性、特に神経、腸、胎盤及び性腺組織による生物学的利用能並びに更に一般的には薬物動態学的特性における向上を増大させることを意図するものが含まれ、そして特に
−親油性アルコールを用いるエステル化(COOH)、アミド化(COOH)及び/又はアセチル化(NH2)によるNH2及びCOOH親水性基の保護あるいはNH2末端におけるカルボキシアルキル又は芳香族疎水性鎖の付加;
−CO-NHのレトロインバーション(retroinversion)又は還元異性体あるいはアミド官能基のメチル化(又はケトメチレン、メチレンオキシ、ヒドロキシエチレン);
−Lアミノ酸によるDアミノ酸の置換;
−アミノ酸ペプチド鎖の二量体化、
を含んで成る。
【0061】
これらの変異体は全て当業界で周知である。従って、本明細書で開示されたペプチドを検討することで、当業者は、当該ペプチドと類似の、又はそれらよりも優れた結合特性を有するペプチドミメティックを設計し、そして生成することが可能である(例えば、Horwell et al., Bioorg. Med. Chem. 4:1573 (1996); Liskamp et al., Recl. Trav. Chim. Pays-Bas 1:113 (1994); Gante et al., Angew. Chem. Int. Ed. Engl. 33: 1699 (1994); Seebach et al., Helv. Chim. Acta 79: 913 (1996)を参照のこと)。
【0062】
本発明に従い使用されるペプチドは、組み込まれるべき異なるアミノ酸残基の連続カップリングによる液相又は固相でのペプチド合成(液相においてはN末端からC末端、又は固相においてはC末端からN末端)による常用の方法で調製されうる(ここで、N末端及び反応性の側鎖は常用の基によってあらかじめブロッキングされる)。
【0063】
固相合成の場合、Merrifieldによって記載された技術が特に使用されうる。あるいは、Houbenweylによって1974年に記載された技術も使用されうる。
【0064】
更に詳しくは、WO 98/37 100を参照のことを。
【0065】
本発明に従う治療方法で使用されるペプチドはまた、遺伝子操作方法を用いて得ることができる。完全な146個のアミノ酸であるSMR1タンパク質をコードするcDNAの核酸配列は、PCT特許出願番号WO 90/03891(Rougeon et al.)に記載されている。SMR1-ペプチドの生物活性ペプチド誘導体、例えばX1QHX2X3X4の場合、当業者はどの適切なコドンが所望のペプチドを合成するために使用されうるかを決定するために、一般的な文献を参照する。
【0066】
同一の標的に結合し、そして本発明のアゴニスト又はアンタゴニスト生物活性を有する生物活性誘導体を当業者に選択させ、そして精製させることを可能にする方法を以下に記載する。
【0067】
SMR1-ペプチドの生物活性誘導体は、有機化学の常用の方法によって合成されうるペプチド又は非ペプチド分子、例えば任意な化合物である、タンパク質、ペプチド、ホルモン、抗体又は合成化合物であってもよい。
【0068】
本発明のSMR1-ペプチドの生物活性誘導体の選択は、QHNPRペンタペプチドのNEP結合部位に対する候補リガンド分子の結合を評価し、且つこの候補分子によって誘導されたその標的分子上の代謝変化、例えばプロテインキナーゼ又はアデニルシクラーゼを介する伝達シグナルの結果としての一次又は二次メッセンジャーの代謝物の合成及び/又は放出並びにGファミリーのタンパク質の活性化又はNEPの酵素活性の変化、具体的には天然のNEP基質の代謝に対するもの、を決定する際に実施される。
【0069】
候補分子の結合アッセイは、一般的に4℃〜25℃又は37℃で実施される。後述したプロトコールの理解を容易にするために、QHNPRペンタペプチドも、生物活性誘導体の候補分子の代わりに、又はそれらと競合的に使用される。
【0070】
従って、本発明の別の目的は、QHNPRペンタペプチドのNEP結合部位に対して特異的に結合するリガンド分子をスクリーニングするための方法であって、
a)細胞培養物を調製し、又はQHNPRペンタペプチドのNEP結合部位を含む、器官の標本又は組織試料(凍結切片又はスライス又は膜調製物又は粗製のホモジェネート)を調製し;
b)試験される候補分子を、半飽和濃度の標識ペンタペプチドと競合して添加し;
c)段階a)の細胞培養物、器官の標本又は組織試料を、候補分子の存在下で、特異的な結合が起こるのに十分な時間で、且つそれが起こる条件下でインキュベートし;
d)細胞培養物、器官の標本又は組織試料に特異的に結合する標識を、種々の濃度の候補分子の存在下で(好ましくは10-10〜10-5M)定量する、
段階を含んで成る方法である。
【0071】
前記方法において、半飽和濃度は、50%のNEP結合部位に結合する標識QHNPRペンタペプチドの濃度である。
【0072】
この方法はまた、QHNPRの親和性と比較した候補分子の相対的な親和性を限定することを可能にする。
【0073】
本発明の別の目的は、QHNPRペンタペプチドのNEP結合部位に対して特異的に結合するリガンド分子の相対的親和性を決定する方法であって、各候補分子のために上記方法の段階a), b), c)及びd)を含んで成り、そして更に他の候補分子の1つに対する、段階d)で定量化された各候補分子の親和性を比較する段階e)を含んで成る方法である。
【0074】
本発明の目的は、QHNPRペンタペプチドのNEP結合部位に対して特異的に結合するリガンド分子の親和性を決定するための方法であって、
a)細胞培養物を調製し、又はQHNPRペンタペプチドのNEP結合部位を含む、器官の標本又は組織試料(凍結切片又はスライス又は膜調製物又は粗製のホモジェネート)を調製し;
b)あらかじめ放射性又は非放射性標識で標識した候補分子を添加し;
c)段階a)の細胞培養物、器官の標本又は組織試料を、標識候補分子の存在下で、特異的な結合が起こるのに十分な時間で、且つそれが起こる条件下でインキュベートし;
d)細胞培養物、器官の標本又は組織試料に特異的に結合する標識を、種々の濃度の候補分子の存在下で(好ましくは10-10〜10-5M)定量する、
段階を含んで成る方法である。
【0075】
候補リガンド分子は、放射性標識(32P, 35S, 3H, 125I等)又は非放射性標識(ビオチン、ジゴキシゲニン、フルオレセイン等)されることがある。
【0076】
このように、本発明はまた、QHNPRペンタペプチドのNEP結合部位に対するアゴニストの生物活性を有するリガンド分子をスクリーニングするための方法であって、
a)細胞培養物を調製し、又はQHNPRペンタペプチドのNEP結合部位を含む、器官の標本又は組織試料(凍結切片又はスライス又は膜調製物又は粗製のホモジェネート)を調製し;
b)候補分子(好ましくは10-10〜10-5M)、半飽和濃度のQHNPR及びNEP基質の存在下で、例1の方法(材料及び方法)によって限定した初速度の条件下でNEP酵素活性の測定を可能にする濃度で、段階a)の細胞培養物、期間の標本又は組織試料を、NEP基質の加水分解が初速度条件下で起こるのに十分な時間インキュベートし;
c)段階a)の生物材料中に存在するNEPの活性を、NEP基質の加水分解レベルをそれぞれ候補リガンド分子の存在下又は不在下で、そしてQHNPRペプチドの存在下又は不在下で測定することによって定量する、
段階を含んで成る方法に関する。
【0077】
前記方法において、半飽和濃度は、NEP基質の分解を半分に低下させるQHNPRペンタペプチドの濃度である。
【0078】
本発明の別の目的は、QHNPRペンタペプチドのNEP結合部位に対するアンタゴニストの生物活性を有するリガンド分子をスクリーニングするための方法であって、
a)細胞培養物を調製し、又はQHNPRペンタペプチドのNEP結合部位を含む、器官の標本又は組織試料(凍結切片又はスライス又は膜調製物又は粗製のホモジェネート)を調製し;
b)準最大濃度のXQHNPRペプチド、具体的にはQHNPRペプチド及びNEP基質の存在下で、初速度の条件下でNEP酵素活性の測定を可能にする濃度で、段階a)の細胞培養物、器官の標本又は組織試料を、NEP基質の加水分解が初速度の条件下で起こるのに十分な時間、候補分子の存在下でインキュベートし;
c)段階a)の生物学的材料中に存在するNEPの活性を、候補リガンド分子の存在下又は不在下で、そしてQHNPRの存在下又は不在下でNEP基質の加水分解レベルを測定することによって定量する、
段階を含んで成る方法である。
【0079】
前記方法の好ましい態様において、準最大濃度は、基質の分解を少なくとも50%、そして好ましくは少なくとも75%低下させるペンタペプチドの濃度である。
【0080】
上述の通り、候補リガンド分子のアゴニスト又はアンタゴニスト活性を評価するための別の代謝アッセイは、ラット、マウス又はヒト起源の一次細胞培養物又は確立細胞系又は組織試料及び内因性又は外因性のNEP基質の存在下でのリガンド候補のインキュベーション及び、定量的及び定性的のいずれか又はその両方で、NEP基質の加水分解を決定すること、を含んで成る。
【0081】
本発明に従うスクリーニング方法において使用される好ましい組織試料は、ラット由来の膜調製物又は脊髄のスライス、NEP活性の測定に適していることが知られている組織、である。
【0082】
本発明に従うスクリーニング方法において使用されうる他の好ましい組織試料は、NEPペプチダーゼが豊富で、そして/あるいはSMR1-ペプチドの標的であることが知られている全ての末梢組織であり、例えば腎の髄質外部、胎盤、精巣、前立腺並びに骨及び歯の組織である。尚、そのような手順は、哺乳類(例えば、マウス)及び特にヒト起源の組織及び/又は細胞、ヒトNEP cDNAをトランスフェクションした細胞系、例えばヒトNEP cDNAで最初にトランスフェクションしたMDCK、HEK又はCOS細胞に適用されうる。
【0083】
SMR1-ペプチドの、特に本発明に従う治療用組成物のX1QHX2X3X4の好ましい生物活性誘導体は、内因性の天然又は合成X1QHX2X3X4ペプチドよりも優れた薬理動態特性を有し、そしてその結果それらの天然の対応物と比較してより長期のin vivoでの半減期及び所定の組織/空間、特に神経、腸、胎盤及び性腺組織においてより優れた生物学的利用能を保持する。
【0084】
上述の生物活性誘導体も本発明の対象である。
【0085】
このように、本発明はまた、SMR1成熟産物及びSMR1タンパク質又は前述のスクリーニング方法に従い選択されうるその成熟産物の生物活性誘導体に関し、但しそれらは上文の式(1)の構造を有していない。事実、SMR1タンパク質自体を構成する146個のアミノ酸も除外される(PCT特許出願番号WO 90/03981)。しかしながら、本発明自体が排除されるこれらの分子の治療的な使用は、本発明の主な目的である。
【0086】
本発明の別の目的には、メタロペプチダーゼ活性を増大させるか減少させ、又はSMR1-ペプチドと前記メタロペプチダーゼとの間の正常な相互作用を防ぐ能力を特徴とする、SMR1-ペプチドの生物活性誘導体がある。好ましくは、前記メタロペプチダーゼは膜亜鉛メタロペプチダーゼである。更に好ましくは、前記膜亜鉛メタロペプチダーゼはNEPである。
【0087】
このように特徴づけられたSMR1-ペプチドの生物活性誘導体はまた、SMR1タンパク質の成熟産物を含み、但しそれらは上記式(1)の構造を有しない。
【0088】
本発明に従う治療用組成物において使用されるSMR1タンパク質又はその成熟産物及びSMR1タンパク質又はその成熟産物の生物活性誘導体は、好ましい態様において、X1QHX2X3X4と同一の標的、特にQHNPRペプチドに結合するそれらの能力に従い最初に選択され、そして次に、例えばin vitro又はin vivoでメタロペプチダーゼの基質の加水分解を調整するそれらの能力によって選択されてきた。
【0089】
「調整する」とは、前記SMR1-ペプチドが、メタロペプチダーゼ活性を増大させるか減少させ(阻害し)、又はSMR1-ペプチドと前記メタロペプチダーゼとの間の正常な相互作用を防ぐ能力を有することと理解される。
【0090】
本発明はまた、有効量のSMR1-ペプチドを含んで成る治療用組成物の使用にも取り組む。
【0091】
本発明に従う方法において、本発明に従うペプチド又はペプチドミメティックも様々な方法のうちのいずれかによって投与されうる。ある好ましい態様において、投与は非経口であることがあり、最も好ましくは静脈内である。他の好ましい態様において、投与は経鼻、経口、舌下、経粘膜、呼吸器内、又は不活性なパッチ若しくはイオントフォレティックパッチを介するものであってもよい。
【0092】
投与されるべきペプチド又はペプチドミメティックの用量は、特定の患者、症状、及び投与経路に依存し、そして、投与量を増減する養生法に応じて、上文で列記した病理学的障害と関連した減少又は排除によって実験的に決定されうる。好ましい投与量は約0.1μg/kg〜約1mg/kgであり、更に好ましくは約1μg/kg〜約100μg/kgであり、そして最も好ましくは約1μg〜約5μg/kgである。
【0093】
ある好ましい態様において、本発明に従うペプチド又はペプチドミメティックは、第二医薬と一緒に投与され、ここで、第二医薬剤は、処置されるべき障害又は疾患の症候を低下させ、又は排除するのに不十分な量で存在し、そして、本発明の従うペプチド又はペプチドミメティックと第二医薬剤は、処置されるべき障害又は疾患の症候を低下させ、又は排除するために相乗作用で働く。そのような第二医薬剤は、メタロペプチダーゼのモジュレーターとして働くこともあるし、働かないこともある。
【0094】
「相乗作用で」とは、ペプチド又はペプチドミメティックと第二医薬剤が一緒に、いずれか一方が同濃度である場合よりも障害又は疾患の症候を低下させ、又は排除するのに更に有効であることを意味する。
【0095】
本発明はまた、
−NEP受容体又はNEP受容体のSMR1-結合部位
−SMR1-ペプチド、
を含んで成る分子複合体に関する。
【0096】
本発明は、これらの特定の態様を何ら限定することなく、以下の実施例において詳細に例示される。
【0097】
実施例
実施例1:ex vivoでの、SMR1-QHNPRペプチドとNEPとの相互作用から生じる機能的な結果の探索
Met-エンケファリン及びサブスタンスPの細胞外レベルにおける、SMR1-ペンタペプチドによる外因性NEP感受性ペプチドの保護の結果が、ラット神経組織の膜調製物及び新鮮なスライスを用いて評価された。
【0098】
1.材料と方法
1.1.動物と組織の調製
性的に成熟した(7〜9週)の雄のウィスターラット(Iffa Credo)を使用した。実験日まで、ラットを一定の周囲温度(24℃)及び一定周期の光(オン8時間/オフ20時間)の条件の下、任意に食餌及び水を与えて飼育した。実験日、当該動物をペントパルビタール(Sanofi, 45mg/kg体重、腹腔内)又はケタミン(Imalgene 500, Phone Merieux, 150mg/kg 体重、腹腔内)麻酔のもとでの心臓穿刺によって又は二酸化炭素窒息によってと殺された。
【0099】
・新鮮な組織のスライス
器官を素速く摘出し、氷上で解剖し、神経線維及び脂肪組織を除き、そして、組成が次の120 mM NaCI - 5 mM KCI -1.2 mM KH2PO4 - 27.5 mM NaHCO3 -2.6 mM CaCl2 -0.67 mM MgSO4 -5.9 mMグルコースである、冷たい、酸化したグルコース及び炭酸水素塩を含むクレブスリンガー(KRBG)液中で洗浄される。組織のスライスは外科用メス(1mmの厚さ)によって手で、又は「ティッシュチョッパー」(1mmの厚さ)によって機械的に調製される。スライスを続いて反応チューブ内に分散させ、この中で、それらを氷冷した酸化LRBG中での3回の連続した洗浄にかける。その後、それらを10μMのベスタチン(膜アミノペプチダーゼ(APN)阻害剤、Roche)を追加した同一の緩衝液中に4℃で保持し、そして酵素の供給源として使用する直前まで95%O2-5%CO2の雰囲気のもとで酸化する。
【0100】
・膜の調製
解剖し、そして氷冷KRBG中で洗浄した組織を、10倍量(体積/重量)のpH7.2に緩衝化した50mM Tris/HCl中で、テフロン(登録商標)−ガラスホモジェナイザー(3x5秒)を用いて4℃でホモジェナイズする。5分、1000xg、そして4℃での最初の遠心により、ペレット中の組織片及び核を除去することが可能である。100,000xg、5℃での上清の2回目の遠心により、膜画分がペレットに濃縮され、これを冷たいTris/HClで表面的に洗浄し、そしてKontesのホモジェナイザーを用いて新しい緩衝液中で再懸濁し、等分して、酵素の供給源として使用するのを待つ間、少なくとも3ヶ月間−80℃で保存する。
【0101】
1.2 タンパク質の決定
組織及び膜タンパク質濃度の決定のために、Bio-Rad DCタンパク質アッセイ(Bio-Rad)を使用した。ローリーアッセイと同様に、当該Bio-Radキットは、試料タンパク質含量とアルカリ性の酒石酸銅溶液及びフォリン試薬との反応に基づいている。吸光度は、試薬の添加から15分〜2時間後まで、750nmで読みとられる。検量曲線は、0.2〜1.44mg/mlタンパク質の、BSA(ウシ血清アルブミン)の標準溶液の希釈液から作成される。
【0102】
1.3.NEP酵素活性の測定
1.3.1.NEP供給源−基質及び阻害剤
NEPペプチダーゼ活性の解析実験のために、NEPペプチダーゼ活性を調査するのに適当であることが知られている神経組織、すなわちラット脊髄の背中側の領域に由来する膜及び新鮮な組織のスライス調製物のインキュベーションを用いるex vivoモデルが最初に展開された。NEP感受性ペプチドの代謝率は、侵害受容性応答のシグナル伝達に関与するNEP基質:ニューロペプチドMet-エンケファリン及びサブスタンスPをそれぞれ用いて測定した。天然のMet-エンケファリン(Peninsula, 10μM)及び修飾したトリチウム化サブスタンスP:40 Ci/mmolの比放射能を有する[(3,43H) Pro2-Sar9-Met(O2)11]-サブスタンスP(NEM, 12.5〜25nM)を使用した。
【0103】
ここでの目的は、これらの基質のNEP特異的エンドプロテアーゼ分解を測定することであった。この理由から、各試験において、NEPの特異的合成阻害剤(10μM ホスホラミドン, Roche及び/又は1-10μMチオルファン, Sigma)の存在下及び非存在下で、且つ全ての場合においてAPN阻害剤であるベスタチン(10μM)の存在下で、基質の加水分解が解析された。更に、SMR1-QHNPRの機能的役割を研究するために、当該反応はSMR1-ペプチドを単独又は、C末端を開裂することによってQHNPRペプチドを不活性化しうる膜ペプチダーゼの特異的阻害剤:カルボキシペプチダーゼBの阻害剤(GEMSA, 10μM, Sigma)及びジペプチルペプチダーゼIVの阻害剤(DPPIV阻害剤、10μM, Roche)と一緒に、それらの存在下で実施された。
【0104】
1.3.2.酵素活性アッセイ
・新鮮な組織のスライス
最初の例において、新鮮な組織のスライスは、常に振とうされる水槽において、且つ95%O2-5%CO2の雰囲気のもと、NEP阻害剤の存在下又は非存在下で、25,30又は37℃で、10μMのベスタチンを含むKRBG溶液中でプレインキュベートされる。プレインキュベーション期間(15分)の終わりに、前記溶液を、基質を単独で又はNEP阻害剤若しくはSMR1-QHNPRと組み合わせて含む新しい溶液と交換し、そしてインキュベーションをプレインキュベーションとインキュベーション条件で実施する。インキュベーション期間(5〜30分)の終わりに、HClの終濃度が0.1Nとなるように塩酸を含む氷冷したチューブに溶液を移す。試料は、それらの無傷の基質及びその代謝物の含量の測定の間、−30℃で維持する。
【0105】
インキュベーションの温度及び時間並びに基質及び組織酵素の濃度は、NEP加水分解活性が初速度の条件下で測定されるような結果に従い定義される。
【0106】
・膜調製物
膜調製物は、常に振とうされる水槽において、NEP阻害剤の存在下又は非存在下で、25,30又は37℃で、10μMのベスタチンを含むKRBG溶液中でプレインキュベートされる。プレインキュベーション期間(10分)の終わりに、基質を単独で又はNEP阻害剤若しくはSMR1-QHNPRと組み合わせて添加し、そしてインキュベーションをプレインキュベーションとインキュベーション条件で実施する。インキュベーション期間の終わりに、当該反応は、4℃に冷却し、そしてHClの終濃度が0.1Nとなるように、塩酸に添加することによって停止する。試料は、それらの無傷の基質及びその代謝物の含量の測定の間、−30℃で維持する。
【0107】
インキュベーションの温度及び時間並びに基質及び組織酵素の濃度は、NEP加水分解活性が初速度の条件下で測定されるような結果に従い定義される。
【0108】
1.3.3.基質及びその代謝物の検出
無傷の基質とその代謝物を分離し、検出し、そして定量するために、様々な技術(基質が放射性標識されているか否かに依存する)が使用され:最初の2つは反応産物の逆相クロマトグラフィー(C-18 SepPakカートリッジ及びRP-HPLC)を基にしたものであり、そして第三のものはラジオイムノアッセイ(RIA)による基質の特異的な検出を基にしたものである。
【0109】
・C-18 Sep-Pakカートリッジ
C-18 Sep-Pakカートリッジ(Waters)が、放射性標識ペプチドの加水分解を解析するために使用され:それらはそれらの極性の違いに従い化合物を分離する。この固相抽出手順が、基質をその代謝物から分離することを可能にするのは、ペプチド代謝物の疎水性特性が、無傷のペプチド基質と比較して低下し、又は失われさえするためである。
【0110】
放射性標識されたサブスタンスPの3H代謝物を二段階で、最初にH2O - 0.1% TFAで、そして次に20%メタノール- 0.1% TFAで溶出し、同時に無傷の3H-サブスタンスPを三番目の段階で、70〜100%メタノール-0.1% TFAで溶出する。溶出され、そして単離された化合物の放射能を液体シンチレーションスペクトロメトリーによって決定する。
【0111】
・RP-HPLC(逆相高性能クロマトグラフィー)
HPLCは、結合分光分析計の解析によって、濃度が少なくとも1〜10μMである非放射性のペプチドを単離し、そして検出することを可能にする高度に分解力のある手順である。C-18 RP-HPLCは、C-18 SepPakカートリッジと同じ原理を基にしている。クロマトグラフィー解析は、Met-エンケファリンの加水分解を研究するために使用され、これは5μmの直径のビーズを充填したC-18 LUNA解析カラム(150X4.6mmの内径、AIT)上で実施された。
【0112】
H2O-0.1% TFAから100%アセトニトリル-0.1% TFAに及ぶ、1 ml/分の流速の、一段階の30分の直線勾配で実施されたRP-HPLCは、2つのMet-エンケファリン代謝物と無傷の基質の分解力のある分離をもたらした。それらの同定及び相対的な定量(ピーク高)が、カラムの流出物の254nmでのUV吸光を連続的にモニタリングすることによって調べられる。
【0113】
・RIAアッセイ(放射性イムノアッセイ)
RIAは、濃度が1〜100nM、又はそれ未満である化合物を定量することが可能な、素晴らしい解析方法である。本明細書では、競合的RIA系が使用され:抗体に結合した放射性抗原の量が、スタンダードの溶液又は試料中に含まれる抗原の量に反比例するように低下する。遊離した放射性抗原は、免疫沈降によって放射性抗原−抗体複合体から分離される。
【0114】
エンケファリナーゼNEPの活性は、最初のMet-エンケファリン基質の消失の定量によってモニタリングされる。使用した一次抗体はMet-エンケファリンのC末端に対するウサギ抗体である(代謝物又は他のペプチドとの交差反応性は1 %である) (Gros et al, J. Neurochem. (1978), 31; 29-39.Radio immunoassay of methionine and leucine enkephalins in regions of rat brain and comparison with endorphins estimated by a radioreceptor assay)。二次抗体は、ウサギイムノグロブリンに対するウマ抗体である。放射性標識抗原は、3000 Ci/mmolと推定される比放射能を有するヨウ素化Met-エンケファリン(125I-Met-Enk エンケファリン)である。
【0115】
要約すると、Met-エンケファリンのRIAは、pH8.6で緩衝化され、そして0.1% BSA及び0.1% Triton X 100を含む100mMのTris/HCl中で実施される。スタンダード(1〜100nM)又は試料(100μl)、希釈抗Met-エンケファリン抗体(100μl, 1/2000)及び125I-Met-Enk(1000cpm, 100μl)を4℃で一晩インキュベートする。結合画分と遊離画分を、ポリエチレングリコール6000(6%)の存在下での二次抗ウサギイムノグロブリンを用いる免疫沈降によって分離される。遠心の後、沈澱の結合放射能はガンマ線分光計を用いて定量される。
【0116】
2.結果
NEPの酵素活性に対するSMR1-QHNPRの阻害的な役割を特定するために、サブスタンスP又はMet-エンケファリンのペプチドの加水分解を、初速度の測定条件下で実施することを可能にする実験のプロトコールを最初に開発する必要があった。
【0117】
2.1.NEPエンドペプチダーゼ活性の初速度測定の実験条件についての調査
2.1.1.天然のMet-エンケファリンの加水分解
最初の一連の実験において、脊髄組織のスライス及び膜調製物を、1mlの最終量のKRBG中で、30℃で、そして0.25mlの最終量の50mM、pH7.2のTris/HCl中で、37℃でそれぞれインキュベートされた。
【0118】
・RP-HPLC解析
RP-HPLCクロマトグラフィー系の検量は、マーカーであるMet-エンケファリンが18.8分の保持時間で溶出されることを明らかにしている。当該試料の場合、高さがNEP特異的阻害剤の存在下でかなり増大するピークが同定され:保持時間が18.8±0.2分であるこのピークは、無傷のMet-エンケファリン基質に相当する。反対に、5.8±0.2分及び12.8±0.1分の保持時間を有し、それぞれTyr-Gly-Gly及びPhe-Metに相当する2つのピークは、NEP阻害剤の非存在下で現れる。この結果は、脊髄組織の酵素が、主にペプチドのGly3-Phe4で基質を開裂し、これが既にエンケファリナーゼ活性に相当していることを示す。
【0119】
膜調製物及び新鮮な組織のスライスのレベルで、外因性のMet-エンケファリンの高度にNEP特異的な加水分解が、37℃で10分のインキュベーションの間に観察され:脊髄のエンケファリナーゼ活性がMet-エンケファリンのピークの消失を招き、そしてそれは10μMのホスホラミドン又は1μMのチオルファン(80〜90%の阻害)の存在下で逆転する。尚、これらの条件下で、両方の特異的NEP阻害剤は、10〜30分の、37℃でのインキュベーション時間に及ぶ、ほぼ完全なエンケファリナーゼ活性の阻害を保証する。
【0120】
最大の加水分解が、37℃の温度で10分以内に間違いなく達成されたので、次の実験においては、インキュベーション温度は引き続き30℃、そして25℃に低下させられた。効果的には、30℃でインキュベートした新鮮な組織のスライスの場合、Met-エンケファリンの加水分解レベルは時間につれ増大する(0〜30分)。同様に、30℃でインキュベートした膜調製物の場合、酵素濃度(0〜2mg/ml)に比例した加水分解レベルの増大を言及することもできる。しかしながら、明確な線形の関係は確立され得ない。
【0121】
事実、分光光度計解析と連動したHPLCクロマトグラフィーは半定量的な技術であり、そしてピークの高さ又は面積の単独の測定は、定量的な比例の関係を算出するのに十分に正確ではない。よって、Met-エンケファリンを正確に定量するために、特異的な定量的RIA検出が使用された。
【0122】
2.1.2.修飾したトリチウム化サブスタンスPの加水分解
初速度測定の条件下で、基質であるMet-エンケファリン及びサブスタンスPの加水分解を、NEP含有神経組織によって研究することを可能にする実験的なパラメーターが確立されてきた。
【0123】
その点においては、ラット脊髄の膜タンパク質濃度(0.03〜1mg/mlの終濃度)が、30℃で15分のインキュベーション後にサブスタンスPの加水分解レベル(25nM)に対して与える影響を最初に試験された。図1−Aに例示するように、最初の基質濃度のパーセントで表した、3H-サブスタンスPの分解レベルは、膜タンパク質濃度に対する線形関数において2〜25%に比例して増大する。r=0.98, n=7の密接な相関関係は、10μMのホスホラミドンの不在下でみられ、r=0.99, n=7の密接な相関関係は、10μMのホスホラミドンの存在下でみられた。更に、同一の実験条件において、ホスホラミドンの添加は、サブスタンスPの分解のはっきりとした減少をもたらす(外因性ペプチドの50〜65%の保護)。
【0124】
同様に、25℃でのインキュベーション時間(5〜20分)の関数としてのサブスタンスPの加水分解レベル(12.5nM)も研究された。選択した膜タンパク質濃度は1mg/mlであった。脊髄膜によるサブスタンスPの異化は、インキュベーション時間につれ、r=0.97, n=18の密接な関係(図1−B)で線形に増大する。更にサブスタンスPを開裂するアンギオテンシン変換酵素(ACE)の潜在的阻害剤であるカプトプリル(10μM)は、酵素膜調製物の活性に対する効果、及びCPB及びDPPIV酵素の潜在的阻害剤(C末端のSMR1-QHNPRの潜在的異化の保護化合物)についての効果を有さない。
【0125】
その結果、NEPを含有する脊髄組織によるサブスタンスPの加水分解の初速度測定条件が確立しているように思われる。しかしながら、NEP阻害剤(ホスホラミドン及びチオルファン)のいずれの活性も、インキュベーション期間の関数として比例的に安定でないようである。従って、NEP活性に対するSMR1-QHNPRペプチドの効果は、インキュベーション時間と関連して体系的に研究される。
【0126】
2.1.3.記録
初速度測定のもとで、ex vivoでの脊髄組織によるMet-エンケファリン及びサブスタンスPの異化を研究することを可能にする実験条件を以下の表で報告する。
【表1】

【0127】
2.2.SMR1-QHNPRとNEPとの相互作用から生じる関数的な結論の研究
2.2.1NEP脊髄によるMet-エンケファリンの分解
2.1.3.の項目において定義した実験条件下での、脊髄スライスによるMet-エンケファリナーゼ活性に対する一定濃度のMR1-QHNPR(10μM)の効果が最初に試験された。
【0128】
・RP-HPLC解析
図2-Bに例示したとおり、HPLC解析は、25℃での25分のインキュベーションで、脊髄スライスによるMet-エンケファリン基質の強力なNEP特異的加水分解を示す。10μMの濃度のホスホラミドンはMet-エンケファリナーゼ活性の完全な阻害を保証し、そしてチオルファン(10μM)の添加は、80%のMet-エンケファリン分解により明確な低下をもたらす。
【0129】
同一の実験において、10μMの濃度のQHNPRペプチド単独又はCPB及びDDPIVプロテアーゼの阻害剤と組み合わせたものは、70ないし80%の阻害活性を有し;それによりSMR1-ペンタペプチドは、NEP結合部位についてエンケファリン−ペンタペプチドと等濃度で競合することができる。脊髄膜調製物によるサブスタンスP分解の場合のように、CPB及びDDPIV単独の阻害剤は、新鮮な脊髄のスライスによるMet-エンケファリンに対する任意な固有の阻害活性を有しない。更に、それらはおそらく、新鮮な脊髄組織のスライスに潜在的に存在するペプチダーゼ活性から、SMR1-QHNPR自身を、特にそのC末端で保護する必要がない。
【0130】
NEPの活性及び阻害を厳密に定量するために、同じ実験が特異的なMet-エンケファリン RIAにより解析された。
【0131】
・RIAアッセイ
全体として、逆相HPLC技術によって得られた大まかな結果は、RIAアッセイから導いたものによって確認される(図2−A)。25℃で20分のインキュベーション期間内に、ホスホラミドン、チオルファン、及びSMR1-QHNPRは、NEP分解活性からMet-エンケファリンを保護するための非常に潜在的な化合物として現れる。このように、10μMの濃度で、それらは、新鮮な脊髄組織による10μMのMet-エンケファリンの分解をほぼ完全に防ぎ、それぞれ96%、100%及び96%であった。
【0132】
結論として、これら全ての結果が、ex vivoでのラット神経組織のMet-エンケファリナーゼ活性に対するSMR1-QHNPRによって発揮されるネガティブな制御的役割を示す。
【0133】
2.2.2.NEP脊髄によるサブスタンスPの分解
・サブスタンスPの異化に対するNEP活性の阻害剤であるSMR1-QHNPR
最初の例において、サブスタンスPの加水分解に対するQHNPRペプチドの作用は、既にMet-エンケファリンに関して行われたように探索された。その理由から、背傷のスライスが使用され、そして動的な、30分に及ぶインキュベーション期間が2.1.3.で定義した初速度の測定条件下で実施された。
【0134】
図3-Aに例示したように、サブスタンスPの加水分解反応は、初速度の条件下で効果的に起こり:r=0.99の密接な関係がサブスタンスPの加水分解のパーセンテージと25℃でのインキュベーション時間との間に見られた。10μMのホスホラミドン又は10μMのチオルファンは、比較的同じ阻害活性を示す(60〜65%の阻害)。QHNPRペプチド(10μM)は、それが単独である場合に、サブスタンスPの分解を75%阻害し、それがGEMBA(10μM)及びDPPIV阻害剤(10μM)と組み合わされた場合に90%超阻害し、有効な阻害剤であることが明らかとなった。しかしながら、これらの後者のものは、新鮮な脊髄組織によるサブスタンスPの分解の固有の阻害活性を示すようである。
【0135】
他にも、この実験において、阻害剤の効果は30分のインキュベーション期間に及ぶインキュベーションの間の関数として比例的に安定である(r=0.99)。
【0136】
・IC50の決定
図3-Bの右側に示した、脊髄膜調製物による3H-サブスタンスPの分解に対するSMR1-QHNPRの阻害効果の用量応答曲線は、約1.10-7MのIC50値(3H-サブスタンスPの分解を半分に低下させる阻害剤の濃度)の計算を可能にする。同じ実験において、ホスホラミドンとの比較は、SMR1-QHNPRによる外因性サブスタンスPの保護が、ホスホラミドンで得られたt0と同様であることを明らかにする(図3-Bの左側)。更に、CPB及びDPPIVの阻害剤と組み合わせたQHNPRペプチドが、ホスホラミドンのものよりも大きな、最高の阻害活性を示す(図3-Bの左側)。
【0137】
2.2.3.記録
NEP感受性ペプチドの代謝速度は、クロマトグラフィー解析に連動した、トリチウム化した基質を用いて(サブスタンスP)、又は特異的RIA定量と連動した、天然の基質を用いて(Met-エンケファリン)測定された。NEPの酵素活性の初速度測定条件下で、SMR1-ペプチドの添加によって生じる外因性Met-エンケファリン又はサブスタンスPのほぼ完全な阻害が観察され;脊髄組織によるサブスタンスPの分解を半分に減らすSMR1-QHNPRの濃度は1.10-7Mと算出され、そしてその阻害能は、2つの周知のNEP特異的阻害剤であるチオルファン及びホスホラミドンのものに等しい。これらの結果から、ex vivoでは、SMR1-ペンタペプチドは、脊髄の疼痛知覚の制御に関与する両方のニューロペプチド、例えばサブスタンスP及びMet-エンケファリンの脊髄NEP誘導型の分解を効果的に防ぐと思われる。
【0138】
例2:末梢組織によるサブスタンスP代謝の阻害剤であるSMR1-QHNPR(シアロルフィン)
最初の結果は、ラットの神経組織のエンケファリナーゼ活性に対する、シアロルフィンによって発揮される制御的役割を示した。同一のアプローチが、NEP-ペプチダーゼに富み、そして/あるいはin vivoでのシアロルフィンの標的であることが知られている末梢組織の膜調製物、すなわち腎の髄質外部、腸の粘膜、胎盤、前立腺、歯及び骨の組織、並びに顎下上皮に適用され(Rougeot, C. et al, American Journal of Physiology, (1997) 273, R1309-20; Sales et al., (1991) Regulartory Peptides 33, 209-22)、そしてこれらはKenny等によって概説された。ほぼ全てのこれらの組織が、特定の組織の機能を調節するためのニューロキニン受容体を含む標的細胞上の放出部位付近で働く、末梢の副交感神経末端及び交感神経末端から放出されるサブスタンスPを含むという証拠が存在する(McCarson et al., (1999), Neuroscience 93, 361-70)。このように、ニューロペプチドは、末梢における生物学的に関連のあるNEPの基質とみなすことができるようである。しかしながら、サブスタンスPは、NEP及びACE膜結合ペプチダーゼによって潜在的に開裂され、そしてこの両酵素は腎の上皮に高度に分布している(Skidgel et al., (1985), Progress in Clinical & Biological Research 192, 371-8)。
【0139】
当該ペプチダーゼアッセイの特異性は、種々の組織−膜酵素による3HサブスタンスPの内部タンパク質分解に対する、選択的ペプチダーゼ阻害剤(最大の阻害応答を誘導するために1〜10μMの濃度で)の阻害効果を試験することによって、そして上文の通り脊髄組織を用いて定義された反応のNEP関連トリチウム化産物の選択的形成を解析することによって評価された。尚、初速度測定の標準的な条件のもと、ベスタチン(10μM)が、膜アミノペプチダーゼ活性を非選択的に防ぐために、インキュベーション液に添加された。
【0140】
図4-Aに示され、そしてこれまでのデータと一致しているように、雄のラットの腎臓には、197pM/分/μgの最高レベルのサブスタンスP加水分解特異的活性が含まれ;このうち、61±10%, n=4はNEP活性に起因し、そして38±12%はACE活性の結果であった。シアロルフィンは、ホスホラミドンNEP阻害剤と同等の効果、すなわち60±5%の最大阻害応答(n=9)で腎の活性を阻害した。阻害効果が、基質としてサブスタンスP(Vi=140pM/分/μg)を用いることによって、精製したウサギの腎NEPに対して試験された場合、可溶性酵素によるサブスタンスPの異化が既にシアロルフィンによって阻害されたことが明らかとなった(5μMの場合に46%)。
【0141】
更に、図4-Bに示した、ラット腎臓による3H-サブスタンスP分解に対するシアロルフィンの阻害効果は、厳密には用量依存性のものであり(r=0.970, n=20)、[0.5〜1]マイクロモーラーの範囲内のIC50値で阻害能を評価することが可能であった。この阻害能は、精製したウサギ腎NEP及び合成特異的蛍光発生的な基質を、すなわち0.6μM又はラット脊髄NEPを、すなわち0.4μM用いて得られたものと極めて関連している。
【0142】
これら全ての結果は、in vivoでの組織による取りこみの後の、既に証明された腎のNEP/シアロルフィンの分子相互作用が、生理作用、例えばこの組織内に存在する制御ペプチド、例えばサブスタンスP、体液性の血管拡張性−炎症誘発性のメディエーター及び自律神経の神経伝達物質の、NEP誘導型代謝の保護を導きうることを示した。最高のNEP活性を含む腎臓は、ANP代謝の主要部位でもあるようである(Webb et al., (1989), Journal of Cardiovascular Pharmacology 14, 285-93)。このように、腎の一部に存在するシアロルフィンは、作用が明確にNEPによって制御されているこのペプチドメッセンジャーの生理学的作用を増強する役割も果たすことがあり(Kenny et al. (1988) FEBS Letters 232, 1-8);ANPは血圧、体液循環及び無機物の恒常性の生理学的な制御を媒介する血管拡張性で、且つナトリウム利尿性の因子であると仮定することができる。
【0143】
NEPが最も豊富にある、それ以外の2つの組織であるラットの胎盤及び前立腺組織において、サブスタンスPのエンドプロテアーゼ分解活性レベルは腎臓よりも12〜14倍低く、そして74±10%, n=5がNEPによるものであることが示され、一方でわずかに8%がACEの結果であった。更に、シアロルフィンは、これらの組織からのサブスタンスPの分解を70±3%にまで低下させた。前立腺組織は、全身的に投与される親水性化合物、例えばシアロルフィン 3H-ペプチドによって接近可能でないようであるが、この組織は既にこれを合成することができ、このことから、シアロルフィンが、例えばサブスタンスPの、内因性のペプチド性のシグナル不活性化阻害剤として、潜在的な重要な局所的役割を果たしていることを示唆している(Rougeot et al., (1994), European Journal of Biochemistry 219, 765-73; Rougeot, C. et al. (1997), American Journal of Physiology 273, R1309-20)。
【0144】
最も特筆すべき結果は、シアロルフィンの主要な標的の1つであるラットの内側の歯の組織が高レベルのサブスタンスP−エンドプロテアーゼ分解活性、すなわち44pM/分/μg膜タンパク質、を示した観察に由来する(Rougeot, C. et al. (1997), American Journal of Physiology 273, R1309-20)。NEP阻害剤の添加は、3H-サブスタンスPの分解反応を53±4%まで低下させ、一方、ACE阻害剤はそれを21%に、そしてシアロルフィンは39±4%, n=4に低下させた。この結果に沿って、内側の骨の組織によるエンドペプチダーゼ感受性のサブスタンスP分解に対する、75±10%へのシアロルフィンの阻害作用がここで証明される。これらの組織内でのNEP機能におけるシアロルフィンの考えられる関与は、ラットの末梢組織における酵素の局在及び活性は、シアロルフィンの組織分布及び隔離部位の密度と非常に一致しており;そして、これらの組織には、骨格及び歯槽骨並びに骨膜表面が含まれるという観察によって支持される(Rougeot, C. et al. (1997), American Journal of Physiology 273, R1309-20; Sales et al., (1991), Regulatory Peptides 33, 209-22; Llorens et al., (1981), European Journal of Pharmacology 69, 113-6)。更に、内側の骨及び歯の膜に由来する、主要なシアロルフィン関連分子がpI5.2±0.4, (n=5)及び5.7±0.6, (n=3)をそれぞれ示し、その結果、NEPのpI(5.5)とよく対応している。しかしながら、骨格及び歯の鉱化及び/又は吸収過程の制御に関与している生理学的なNEP感受性エフェクターペプチドはまだ同定されていない。
【0145】
同様の状況は、NEP阻害剤又はシアロルフィンによって標識されることが既に証明されている他の構造、例えばラットSMGで起こる(Rougeot, C. et al. (1997), American Journal of Physiology 273, R1309-20; Sales et al., (1991), Regulatory Peptides 33, 209-22)。事実、サブスタンスPの加水分解特異的活性のSMGレベルは、4.2pM/分/μg膜タンパク質であることが明らかとなり、そして55±12%, n=4がNEP活性に起因し、そして20%がACE活性に起因し、一方で、シアロルフィンの添加は79%の阻害をもたらした。この腺はシアロルフィン合成の主要部位であり、この場所は、結果として、ラットにおける極度に潜在性のあるシアロログ(sialolog)化合物であるサブスタンスPの活性の調整を介して局所タンパク質の制御及び/又は体液分泌に関与しうる(Yu et al., (1983), Experimental Biology & Medicine 173, 467-70)。
【0146】
更に、他の豊富に提供されている領域は腸、特に腸壁であり、これはNEPを発現し、サブスタンスPの外因性知覚神経及び腸内のニューロン並びにシアロルフィン取り込み部位を含んでいる(Rougeot, C. et al. (1997), American Journal of Physiology 273, R1309-20; Holzer et al., (1997), Pharmacology & Therapeutics 73, 219-63)。ラットの腸の膜画分によるサブスタンスPのエンドプロテアーゼ分解は、93.5pM/分/μg膜タンパク質であることが明らかとなった。当該阻害プロファイルは、NEP阻害剤の存在下で、51%の外因性3HサブスタンスPが分解反応から救われ、一方、シアロルフィンの添加が87±17%, n=3の保護という強力な阻害反応を誘導したことを示した。
【0147】
総合すれば、これらの結果は、in vitroにおいてシアロルフィンが、NEP及びシアロルフィンの合成及び/又は吸収部位でもある多くの組織において局所的に利用可能である、ニューロペプチド又は体液性のメディエーターであるサブスタンスPのエンドペプチダーゼ誘導型の分解を効率的に防ぐことを強力に示唆する。このことは、循環しているシアロルフィンが、in vivoで、サブスタンスPの、末梢の血管拡張及び炎症誘導性の作用の制御に寄与することを示唆する。更に、循環しているANPの多数の末梢性の効果がNEPの制御下にあるので、シアロルフィンが更に、特に腎、腸、骨及び顎下腺の部位で、その血管弛緩、利尿及びナトリウム利尿作用を調整すると仮定することができる(Kenny et al., (1988), FEBS Letters 232, 1-8; Vargas et al., (1989), Endocrinology 125, 2527-31 ; Gonzales et al., (2000), Peptides 21, 875-87)。
【0148】
例3:シアロルフィンは競合的阻害剤の動的挙動特性を有する
阻害剤の様式を決定するために、腎の酵素反応の初速度の全測定値を、複数の一定の阻害剤濃度の場合には基質濃度に対し、又は一定の基質濃度の場合には阻害剤濃度に対しプロットした。
【0149】
腎の膜による[3H]サブスタンスP分解に対するシアロルフィンによる阻害の変形されてないプロット(図5-A)及び二重逆数プロット(図5-B)並びにディクソンプロット(図5-C)解析の曲線のパターンは、競合的阻害の特徴的なサインである。競合的阻害剤は、酵素の活性部位での結合を介して機能し、それ故に、活性な遊離酵素の基質と直接的に競合する。従って、シアロルフィンとサブスタンスPとの間の競合は、基質にとっての当該酵素のみかけのKmを2〜5倍に上昇させる動的な効果を有する。
【0150】
他にも、シアロルフィンペプチドの組織による取りこみが、陽イオンの無機質の元素を含む複合的な分子種に関与するのは、当該ペプチドが強力な二価の金属イオンキレート化剤の存在下でのみ回収されるためである(Rougeot, C. et al. (1997), American Journal of Physiology 273, R1309-20)。更に、キレート化FPLC解析は、シアロルフィンが選択的で且つ強力な亜鉛キレート化基を有しており、これら恐らくそのヒスチジン残基が関与していることを示した。NEP触媒部位の必須成分である亜鉛イオンは、どこかしらで説明されている合成の潜在的なNEP阻害剤の共通の標的である。事実、それらは、メタロペプチダーゼの活性部位に適合する、亜鉛の配位部分として、リン酸基(ホスホラミドン)又はチオール基(チオルファン)又はヒドロキサム酸基(ケラトルファン(kelatorphan))を用いて設計された(Roques et al., (1993), Pharmacological Reviews 45, 87-146にて概説)。
【0151】
ペプチドと膜受容体部位とのin vivoでの相互作用が多価の無機イオンを包含しているという事実に加え、シアロルフィンの動的な挙動を考慮することで、シアロルフィンが、反応の遷移状態との複数の構造的連携状態を共有し、その結果、例えば亜鉛配位リガンドとしての、酵素の活性部位内の基との相互作用を最適化することが可能になることが予想されうる。
【0152】
シアロルフィンと複合した場合のNEPの結晶構造の決定は、この天然の競合阻害剤の独特な結合状態についての洞察力を得ることを可能にする。
【0153】
例4:天然の鎮痛剤の新規クラスとしてのシアロルフィン
NEPは、末梢組織(皮膚、筋肉、内臓の領域)から多数の中枢及び末梢神経系の神経回路への、異なるモダリティーの知覚情報を運ぶのに関与するニューロペプチドのシグナルの生物活性の制御における中心的な役割を果たす。これらのメディエーターの中でも傑出しているのは、サブスタンスP、交感神経伝達物質及びエンケファリン、鎮痛性のニューロモジュレーターである(Dickenson, (1995), British Journal of Anaesthesia 75, 193-200)。後文において、シアロルフィンが、in vitroでの、ラットの脊髄組織によるそれらの細胞外分解を潜在的に防ぐことが証明される。
【0154】
侵害受容性の情報の調節におけるエンケファリンの重要性は、侵害受容性の閾値の重大な低下を示した、プレプロエンケファリン遺伝子欠損マウスにおいて証明されており(Konig, M. et al. (1996) Nature 383, 535-8)。反対に、膜結合型の亜鉛メタロプロテアーゼの阻害剤を用いることで、エンケファリンの迅速な不活性化に関与するNEP及びAPNが潜在的な鎮痛性の応答をもたらした(Chen et al., (1998) Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America 95, 12028-33)。
【0155】
エンケファリン分解酵素の阻害を介するシアロルフィンのin vivoでの可能性のある抗侵害受容性特性に対して洞察を広げるために、その効果は、痛みのラットモデル、すなわち、疼痛反応の種々の行動上のパラメーターが3分のカットオフ時間内に記録されたピンペインテスト(pin pain test)(Hebert et al. (1999) Physiology & Behavior 67, 99-105)において評価された。
【0156】
シアロルフィンのin vivoでの活性は、雄のラット(350〜400g, Charles Rivers)を用いてピンペインテストで試験された。実験装置はオープンフィールド(45x45x40cm)内にあり、これは9つの正方形(150x150mm)に分けられ、それらのうち8つが端にあり、そして1つが中心にある。端の四角はステンレス鋼のピン(2/cm2, 長さ8mm及び直径0.6mm)が敷かれている。当該試験は、ラットをオープンフィールドの中心の四角の中に据え、そしてその異なる行動を記録することにある(カットオフ時間、3分)。疼痛試験の2日前に、ラットは、空間的な新奇恐怖症に関連したストレスを減らすために、20分間ピン無しの当該実験装置に慣れさせられた。全ての統計的解析は、Statview 5 statistical packageを用いて実施された。
【0157】
図6-Aに示すように、静脈内に投与されたシアロルフィン処置ラットは、担体のコントロールと比較してほとんど声を発することなく、そして端のピン領域において運動及び探索行動を示した。例えば、体重1kg当たり100μgのシアロルフィンは、それが3分の試験の間に、ANOVA及び対応のないt検定により、端の四角を通過し(11.13±1.43, n=8対コントロール2.88±0.44, n=8, p=0.001)、そして端の四角の上に立つ回数(3.88±0.83対0.75±0.41, p 0.005)の有意な増大を招いたように、著しい鎮痛応答をもたらした。同時に、それは、痛みのある刺激に対して聞き取り可能な発声(0.25±0.16対7.25±3.13 p 0.05)及び逃避(0.13±0.13対6.88±2.47, p≦0.05)応答回数の有意な低下を招いた。
【0158】
故に、シアロルフィンで処置したラットは、強力なモルヒネ様のレベルの無痛覚症を示し、すなわちラットにおけるピンペインテストにおいて、静脈内に100μg/kgを与えることで74〜97%の無痛覚症を示した。
【0159】
更に、第二試験の試行において、図6-Bに示した、有害な応答のこれらの行動上のパラメーターに対するシアロルフィン効果は、体重1kg当たり0.3mgの、μオピオイド受容体アンタゴニストであるナロキソンをあらかじめ投与することによって、42〜63%に反転した(発声のパラメーターは20%、ナロキソンで反転可能であった)。尚、図6-Cに示すとおり、シアロルフィンで処置したラットは、コントロールと比べて、ピンが敷かれていないオープンフィールドの中央の領域において有意により少ない時間を過ごし(57.75±21.30秒対155.13±14.21秒, p=0.0019)、そしてこの行動は56%、ナロキソンで反転可能であった(112.38±17.44秒)。このことは、μオピエート受容体が、完全な薬理学的なシアロルフィン誘導型鎮痛作用に必要であり、その結果、シアロルフィン誘導型無痛覚症の内因性のオピオイド性媒介を支持していることを証明する。Mu-受容体依存性のオピオイド性経路は、侵害受容性の入力の脊髄及び脊髄上位の制御において必須の役割を有する(Besse et al., (1990) Brain Research 521, 15-22 ; Matthes et al., (1996), Nature 383, 819-23 ; Sora, I. et al., (1997) Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America 94, 1544-9)。このように、シアロルフィンは、脊髄及び脳の抗侵害受容性をもたらす、内因性のμオピオイド依存性経路の増強を介してその鎮痛作用の一部を生み出しうる。
【0160】
例5:嫌悪光刺激の回避試験におけるQHNPRペプチドの活性の研究
1−材料と方法
1.1−動物
300〜320gの重量の、24匹の雄のSPFウィスター/AFラットを使用した。レセプション時に、当該ラットを計量し、印をつけ、そしてF型ポリカーボネートケージ内で3つの群にわけた。動物を空調管理された、22〜24℃の飼育小屋で飼育した。食べ物と飲み物はラットが自由に手に入れることができた。彼らは、12時間の明暗サイクルにかけられた(午後8時から午前8時まで明るい)。
【0161】
研究所の条件に慣れるための1週間の期間の後、24匹のラットは無作為に2つの群に分けられた(n=12)。種々の群に由来するラットは、全て同じ方法で、且つ同じ条件で扱われた。
【0162】
1.2−材料
嫌悪光刺激回避の条件付けのための装置(ALSAT)
当該実験装置は、明るく照射され、そして2つのレバーを含んで成る、隔離されたケージ(50x40x37cm)から成る:一方のレバーは、それが作動した場合、30秒の暗がりを得て、そのご明るさを戻すことができる能動的なものであり、他方のレバーは能動的でない(積極的に強化されない)。暗闇の時間内に能動レバーを押しても、更なる暗がりの期間を生まない。ラットは20分間当該ケージ内に据えられ、そして各レバーの回数は本実験の間カウントされる。
【0163】
4つの条件付けの装置から構成される試験バッテリーは、全体的に自動化され、そしてコンピューター制御されている。それにより、実験者は当該試験の間に室内には存在していない。
【0164】
1.3−実験手順
このモデルは、明るく照射された環境に対するラットの嫌悪を使用している。慣れ親しむ期間及び学習する期間の間、ラットは、オペラント条件付けと関連して、当該試験装置の嫌悪光環境を制御することを学び:動物は、暗闇の期間を得るために、能動レバーを押すことを学ぶ。
【0165】
当該学習試験は、2つの期間から構成される:
−実験装置と慣れる期間1(1日目)
−試験を学習する期間2(2日目)。
【0166】
記録された変数
−能動レバー(AL)が押された回数
−非活動レバー(IL)が押された回数
【0167】
1.4−生成物
【表2】

【0168】
1.5−生成物の投与
QHNPRペプチドは、5mlの0.01Nの酢酸当たり500μgの比率で懸濁され、そして次に、当該試験の1分前に、ラットの背側の尾の静脈内で、静脈内経路を介して50μg/kgの用量で投与するために、PBSで希釈される。
【0169】
【表3】

【0170】
1.6−統計解析
両側の確率の、対応のないt検定は、2つの群のラットの、レバーを押す活動を比較するために使用された。
【0171】
2つのレバー間の違いを評価するために、両側の確率の、対応のあるt検定が、各群において、能動レバーが押された回数と、非活動レバーが押された回数とを比較するために使用された。
【0172】
2−結果
2.1−2つのレバーが試験期間内に押された回数の合計数
2つの試験期間内に、QHNPRペプチドで処置されたラットは、嫌悪光刺激回避試験において、コントロールラットよりも有意にあまり活動的でないことが証明された。
【表4】

【0173】
2.2−レバー間の違い
2つの試験期間内に、コントロールのラットは、非活動レバーよりも有意に能動レバーを押す。
【0174】
このことは、2つのレバー間で違いのない、QHNPRペプチドで処理されたラットの場合と異なる。
【0175】
【表5】

【0176】
3−結論
これらの実験条件のもと、2つの試験期間内に、QHNPRペプチドで処理されたラットが、嫌悪光刺激回避試験において、コントロールのラットよりも有意に能動的でないことを証明している。更に、彼らは、2つのレバー間で違いがないので、学習していないことを示している。
【0177】
これらのラットは侵害受容性の光刺激に対してあまり感受性がないか、又は彼らは実験的な光の環境のストレスに対してより感受性がある。これらのラットが、試験の間満足の行く運動及び探索活動を有することが直接的に観察されたことを考慮すると、彼らが、自身の行動を説明する嫌悪のある刺激に対しあまり感受性がないことは事実である。このように、当該ペプチドは鎮痛活性を示す。
【0178】
コントロールラットは、第一期間と第二期間の両方で、当該レバーを操作することに関して満足の行く活動を示し、そして能動レバーと非活動レバーとの違いを示す。
【図面の簡単な説明】
【0179】
【図1A】10μMの、合成NEP阻害剤であるホスホラミドンの存在下又は非存在下での、サブスタンスPの加水分解(25nM)に対する脊髄膜タンパク質濃度の影響。各点は、250μlの最終量のTris/HCl緩衝液中で30℃で15分インキュベートされた脊髄膜によって加水分解された3H-サブスタンスPのパーセントを表す。
【図1B】10μMの終濃度の異なるペプチダーゼ阻害剤:ACE阻害剤であるカプトプリル、CPB及びDPPIV阻害剤であるGEMSA及びDPPIV阻害剤の存在下又は非存在下でのラット脊髄膜調製物によるサブスタンスPの加水分解(12.5nM)の時間経過。各点は、250μlの最終量のTris/HCl緩衝液中で30℃で15分インキュベートされた250μgの膜タンパク質によって加水分解された3H-サブスタンスPのパーセントを表す。
【図2A】10μMの終濃度の異なるペプチダーゼ阻害剤:NEP阻害剤であるホスホラミドン、NEP阻害剤であるチオルファン、CPB及びDPPIV阻害剤、SMR1-QHNPR単独又はCPB及びDPPIV阻害剤と組み合わせたものの存在下又は非存在下での、脊髄スライスにおけるMet-エンケファリナーゼ活性。コントロールは、組織スライスの不在下でのMet-エンケファリンの回収を表す。値は、RIA解析によって決定され(μM)、そして1mlの最終量のKRBG緩衝液中での1mgの新鮮な組織のスライスを用いた25℃でのインキュベーションの20分後に回収された、無傷で免疫反応性のMet-エンケファリンの濃度(2つの値の平均)を表す。
【図2B】値は、RP-HPLC解析によって決定され(18.9分の保持時間でのピーク高)、そして1mlの最終量のKRBG緩衝液中での1mgの新鮮な組織のスライスを用いた25℃でのインキュベーションの20分後に回収された、無傷で免疫反応性のMet-エンケファリンの濃度(2つの値の平均)を表す。
【図3A】10μMの終濃度の異なるペプチダーゼ阻害剤:NEP阻害剤であるホスホラミドン、NEP阻害剤であるチオルファン、CPB及びDPPIV阻害剤、SMR1-QHNPR単独又はCPB及びDPPIV阻害剤と組み合わせたものの存在下又は非存在下での、脊髄スライスによるサブスタンスPの加水分解(25nM)。コントロールは、組織スライスの不在下でのサブスタンスPの加水分解を表す。各点は、1mlの最終量のKRBG緩衝液中で25℃でインキュベートされた1mgの新鮮な組織のスライスによって加水分解された3HサブスタンスPの加水分解を表す。
【図3B】ラット脊髄膜調製物による3H-サブスタンスP(12.5nM)分解の、SMR1-QHNPRによる濃度依存性阻害。NEP阻害剤であるホスホラミドン及び、CPB及びDPPIV阻害剤であるGEMSA及びDPPIV阻害剤との比較。QHNPRペプチド単独又はCPB及びDPPIV阻害剤と組み合わせたものによって発揮された阻害活性間の比較。各点は、250μlのTris/HCl緩衝液中の250μgの膜タンパク質との25℃でのインキュベーションの10分後の、無傷の3H-サブスタンスPの平均回収率(パーセント)を意味する(2つの値の平均)。
【図4A】種々の末梢ラット組織膜のサブスタンスP分解活性及び腎の膜に対するSMR1-QHNPR(シアロルフィン)の用量応答性の阻害能。組織の膜調製物のエンドペプチダーゼ活性は、25nMの[3H]サブスタンスPを用いて、10μMのベスタチンの存在下で決定された。pM/分/μgの膜タンパク質で表した酵素の比活性は、10μMのシアロルフィン又はNEP阻害剤(10μMのホスホラミドン又は1μMのチオルファン)の非存在下及び存在下で決定される。
【図4B】ラット腎膜調製物による[3H]サブスタンスP分解の、シアロルフィンによる濃度依存性阻害。各点は、回収され、そして阻害剤無しの速度−阻害剤の存在下での速度/阻害剤無しの速度のパーセンテージとして算出した320nMの無傷の[3H]サブスタンスPのパーセンテージを表し、そして(*)は4つの値の平均±SDを表す。シアロルフィン濃度はnMで表され、そしてB rightにおいてlogでプロットされた。膜酵素のタンパク質濃度は、初速度の測定条件に従い決定された。
【図5A】ラット腎膜によるサブスタンスPのエンドプロテアーゼ分解活性に対するシアロルフィンの阻害活性の未変換プロット(図5A)及び二重逆数プロット(図5B)及びディクソンプロット解析の体表的なプロファイル。シアロルフィンの阻害能は、基質として、図A及びBで示した濃度の、及び図5Cの場合には14〜24nM(白三角)又は56〜105nM(黒三角)のサブスタンスPを用いることによって測定した。図5−A及び図5−Bの阻害剤の濃度は、0(黒丸)、1500(白丸)及び4500nM(白色の菱形)とした。未変換プロット及び二重逆数プロットの各点は、2つ1組の実験の2つの独立した値の平均値を表す。実験は、初速度の測定条件のもと、250μlのTris-HCl緩衝液中で25℃で実施された。
【図5B】ラット腎膜によるサブスタンスPのエンドプロテアーゼ分解活性に対するシアロルフィンの阻害活性の未変換プロット(図5A)及び二重逆数プロット(図5B)及びディクソンプロット解析の体表的なプロファイル。シアロルフィンの阻害能は、基質として、図A及びBで示した濃度の、及び図5Cの場合には14〜24nM(白三角)又は56〜105nM(黒三角)のサブスタンスPを用いることによって測定した。図5−A及び図5−Bの阻害剤の濃度は、0(黒丸)、1500(白丸)及び4500nM(白色の菱形)とした。未変換プロット及び二重逆数プロットの各点は、2つ1組の実験の2つの独立した値の平均値を表す。実験は、初速度の測定条件のもと、250μlのTris-HCl緩衝液中で25℃で実施された。
【図5C】ラット腎膜によるサブスタンスPのエンドプロテアーゼ分解活性に対するシアロルフィンの阻害活性の未変換プロット(図5A)及び二重逆数プロット(図5B)及びディクソンプロット解析の体表的なプロファイル。シアロルフィンの阻害能は、基質として、図A及びBで示した濃度の、及び図5Cの場合には14〜24nM(白三角)又は56〜105nM(黒三角)のサブスタンスPを用いることによって測定した。図5−A及び図5−Bの阻害剤の濃度は、0(黒丸)、1500(白丸)及び4500nM(白色の菱形)とした。未変換プロット及び二重逆数プロットの各点は、2つ1組の実験の2つの独立した値の平均値を表す。実験は、初速度の測定条件のもと、250μlのTris-HCl緩衝液中で25℃で実施された。
【図6A】シアロルフィンの静脈内投与後の、ラットにおける有害な刺激に対する疼痛反応。3分の試験期間は、シアロルフィン又はその担体の、ラットの尾の静脈に対する静脈内投与の5分後に実施された。ナロキソン(0.3mg/kg体重)が、シアロルフィンの投与の15分前に皮下から注射された。3分の試験期間内の、中心領域にいる時間(図6−C)(ピン無しのオープンフィールドの中央にある四角)及び端の四角での活動(図6−A及び6−B)(ピンが敷かれている)。各値は、1群当たり8匹の動物の平均±SEMを表す。1=端の四角を通過する回数;2=端の四角の上で立つ回数;3=逃避反応の回数;4=聞き取り可能な発声の回数及び5=中心領域にいた時間。コントロールの群は、担体で処置したラットにおける疼痛反応に相当した。50μg/kgシアロルフィン、100μg/kgシアロルフィン、100μg/kgシアロルフィン+ナロキソン0.3mg/kg。
【図6B】シアロルフィンの静脈内投与後の、ラットにおける有害な刺激に対する疼痛反応。3分の試験期間は、シアロルフィン又はその担体の、ラットの尾の静脈に対する静脈内投与の5分後に実施された。ナロキソン(0.3mg/kg体重)が、シアロルフィンの投与の15分前に皮下から注射された。3分の試験期間内の、中心領域にいる時間(図6−C)(ピン無しのオープンフィールドの中央にある四角)及び端の四角での活動(図6−A及び6−B)(ピンが敷かれている)。各値は、1群当たり8匹の動物の平均±SEMを表す。1=端の四角を通過する回数;2=端の四角の上で立つ回数;3=逃避反応の回数;4=聞き取り可能な発声の回数及び5=中心領域にいた時間。コントロールの群は、担体で処置したラットにおける疼痛反応に相当した。50μg/kgシアロルフィン、100μg/kgシアロルフィン、100μg/kgシアロルフィン+ナロキソン0.3mg/kg。
【図6C】シアロルフィンの静脈内投与後の、ラットにおける有害な刺激に対する疼痛反応。3分の試験期間は、シアロルフィン又はその担体の、ラットの尾の静脈に対する静脈内投与の5分後に実施された。ナロキソン(0.3mg/kg体重)が、シアロルフィンの投与の15分前に皮下から注射された。3分の試験期間内の、中心領域にいる時間(図6−C)(ピン無しのオープンフィールドの中央にある四角)及び端の四角での活動(図6−A及び6−B)(ピンが敷かれている)。各値は、1群当たり8匹の動物の平均±SEMを表す。1=端の四角を通過する回数;2=端の四角の上で立つ回数;3=逃避反応の回数;4=聞き取り可能な発声の回数及び5=中心領域にいた時間。コントロールの群は、担体で処置したラットにおける疼痛反応に相当した。50μg/kgシアロルフィン、100μg/kgシアロルフィン、100μg/kgシアロルフィン+ナロキソン0.3mg/kg。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
膜メタロペプチダーゼの活性の調整が、哺乳類、具体的にはヒトにおいて求められている疾患を予防又は処置するための治療用組成物の調製のための、SMR1-ペプチド又は医薬として活性な量の前記SMR1-ペプチドの治療的使用。
【請求項2】
前記メタロペプチダーゼが膜−亜鉛メタロペプチダーゼである、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
NEP感受性ペプチドのNEP誘導型分解の調整が、哺乳類、具体的にはヒトにおいて求められている疾患を予防又は処置するための、請求項2に記載の使用。
【請求項4】
前記SMR1-ペプチドがNEPを阻害することにより作用する、請求項3に記載の使用。
【請求項5】
前記SMR1-ペプチドがエンケファリン分解を阻害することにより作用する、請求項1〜4のいずれか1項に記載の使用。
【請求項6】
前記SMR1-ペプチドが抗侵害受容性の薬剤として作用する、請求項1〜5のいずれか1項に記載の使用。
【請求項7】
前記SMR1-ペプチドが鎮痛剤として作用する、請求項1〜6のいずれか1項に記載の使用。
【請求項8】
前記SMR1-ペプチドが慢性炎症痛を制御する薬剤として作用する、請求項1〜6のいずれか1項に記載の使用。
【請求項9】
前記SMR1-ペプチドが、慢性炎症痛、例えば関節炎又は炎症性腸疾患を制御する薬剤として作用する、請求項8に記載の使用。
【請求項10】
前記SMR1-ペプチドが止痢薬として作用する、請求項1〜6のいずれか1項に記載の使用。
【請求項11】
前記SMR1-ペプチドが内因性のA IIの形成の阻害及びサブスタンスP, BK及びANPの不活性化により作用する、請求項3に記載の使用。
【請求項12】
前記SMR1-ペプチドが血圧降下剤として作用する、請求項1〜6又は11のいずれか1項に記載の使用。
【請求項13】
前記SMR1-ペプチドがナトリウム利尿剤として作用する、請求項1〜6又は11のいずれか1項に記載の使用。
【請求項14】
前記SMR1-ペプチドが利尿剤として作用する、請求項1〜6又は11のいずれか1項に記載の使用。
【請求項15】
アテローム性動脈硬化症の予防又は処置のための、請求項1に記載の使用。
【請求項16】
悪性細胞の増殖及び/又は播種の過程の予防又は処置のための、請求項1に記載の使用。
【請求項17】
感染、例えば細菌又はウイルス感染を処置するための抗感染剤としての、請求項1に記載の使用。
【請求項18】
免疫−炎症反応を制御するための、請求項1に記載の使用。
【請求項19】
前記SMR1-ペプチドが薬物乱用の処置の代替物として作用する、請求項1に記載の使用。
【請求項20】
治療用組成物が、式(1)のSMR1-ペプチド
(1):X1QHX2X3X4(ここで、X1は水素原子を表し、又はX1は次のX1 = R若しくはG, X1= RR, 又はX1= PRR, 又はX1= GPRR, 又はX1= RGPRR, 又は X1=VRGPRRから選択されるアミノ酸鎖を表し、X2はN, G 又はDを表し、X3はP又はLを表し、そしてX4はR又はTを表す)を含んで成る、請求項1〜19のいずれか1項に記載の使用。
【請求項21】
SMR1-ペプチドがSMR1タンパク質の生物活性誘導体である、請求項1〜19のいずれか1項に記載の使用。
【請求項22】
SMR1-ペプチド又はその生物活性誘導体が、1又は複数のD型のアミノ酸を含んで成る、請求項20又は21に記載の使用。
【請求項23】
SMR1-ペプチド又はその生物活性誘導体のペプチドが、生物活性を増強し、あるいは前記ペプチド又はその生物活性誘導体の酵素分解に対する耐性を増強するために、置換され、又は修飾され、又は追加された基を更に含んで成る、請求項20又は21に記載の使用。
【請求項24】
QHNPRペンタペプチドのNEP結合部位に特異的に結合するリガンド分子をスクリーニングするための方法であって、
a)細胞培養物を調製し、又はQHNPRペンタペプチドのNEP結合部位を含む、器官の標本又は組織試料を調製し;
b)試験される候補分子を、半飽和濃度の標識ペンタペプチドと競合して添加し;
c)段階a)の細胞培養物、器官の標本又は組織試料を、標識候補分子の存在下で、特異的な結合が起こるのに十分な時間で、且つそれが起こる条件下でインキュベートし;
d)細胞培養物、器官の標本又は組織試料に特異的に結合する標識を、種々の濃度の前記候補分子の存在下で定量する、
段階を含んで成る方法。
【請求項25】
QHNPRペンタペプチドのNEP結合部位に特異的に結合するリガンド分子の相対的親和性を決定するための方法であって、各候補分子につき請求項24に記載の方法の段階a), b), c)及びd)を含んで成り、そして段階d)で定量した各候補分子の親和性を、他の候補分子のものと比較する段階e)を更に含んで成る方法。
【請求項26】
QHNPRペンタペプチドのNEP結合部位に対して特異的に結合するリガンド分子の親和性を決定するための方法であって、
a)細胞培養物を調製し、又はQHNPRペンタペプチドのNEP結合部位を含む、器官の標本又は組織試料を調製し;
b)あらかじめ放射性又は非放射性標識で標識した候補分子を添加し;
c)段階a)の細胞培養物、器官の標本又は組織試料を、標識候補分子の存在下で、特異的な結合が起こるのに十分な時間で、且つそれが起こる条件下でインキュベートし;
d)細胞培養物、器官の標本又は組織試料に特異的に結合した標識を、種々の濃度の標識候補分子の存在下で定量する、
段階を含んで成る方法。
【請求項27】
QHNPRペンタペプチドのNEP結合部位に対するアゴニストの生物活性を有するリガンド分子をスクリーニングするための方法であって、
a)細胞培養物を調製し、又はQHNPRペンタペプチドのNEP結合部位を含む、器官の標本又は組織試料を調製し;
b)候補分子、半飽和濃度のQHNPR及びNEP基質の存在下で、初速度の条件下でNEP酵素活性の測定を可能にする濃度で、段階a)の細胞培養物、期間の標本又は組織試料を、NEP基質の加水分解が初速度条件下で起こるのに十分な時間インキュベートし;
c)段階a)の生物材料中に存在するNEPの加水分解活性を、NEP基質の加水分解レベルをそれぞれ候補リガンド分子の存在下又は不在下で、且つQHNPRペプチドの存在下又は不在下で測定することによって定量する、
段階を含んで成る方法。
【請求項28】
QHNPRペンタペプチドのNEP結合部位に対するアンタゴニストの生物活性を有するリガンド分子をスクリーニングするための方法であって、
a)細胞培養物を調製し、又はQHNPRペンタペプチドのNEP結合部位を含む、器官の標本又は組織試料を調製し;
b)準最大濃度のXQHNPRペプチド、具体的にはQHNPRペプチド及びNEP基質の存在下で、初速度の条件下でNEP酵素活性の測定を可能にする濃度で、段階a)の細胞培養物、器官の標本又は組織試料を、NEP基質の加水分解が初速度の条件下で起こるのに十分な時間、候補分子の存在下でインキュベートし;
c)段階a)の生物学的材料中に存在するNEPの加水分解活性を、候補リガンド分子の存在下又は不在下で、そしてQHNPRの存在下又は不在下でNEP基質の加水分解レベルを測定することによって定量する、
段階を含んで成る方法。
【請求項29】
請求項24〜28のいずれか1項に記載の方法に従い得ることができる、SMR1タンパク質の成熟産物又はSMR1タンパク質若しくはその成熟産物の、請求項20に記載の式(1)の構造を有さない生物活性誘導体。
【請求項30】
−NEP受容体又はNEP受容体のSMR1-結合部位;
−SMR1-ペプチド、
を含んで成る分子複合体。
【請求項31】
メタロペプチダーゼ活性を増大させ、又は減少させ、あるいはSMR1-ペプチドと前記メタロペプチダーゼとの間の正常な相互作用を妨げる能力を特徴とする、SMR1-ペプチドの生物活性誘導体。
【請求項32】
前記メタロペプチダーゼが膜−亜鉛メタロペプチダーゼである、請求項31に記載の生物活性誘導体。
【請求項33】
前記膜−亜鉛メタロペプチダーゼがNEPであることを特徴とする、請求項32に記載の生物活性誘導体。
【請求項34】
SMR1-ペプチドが、SMR1-ペプチドと相乗的に作用する第二医薬剤を伴う、請求項1〜23のいずれか1項に記載の使用。
【請求項35】
内因性SMR1タンパク質又はペプチドと膜メタロペプチダーゼとの間の相互作用を調整するための、SMR1タンパク質の生物活性誘導体の使用。
【請求項36】
膜メタロペプチダーゼの活性の調整が求められる疾患を予防又は処置するための治療用組成物の調製のための、内因性SMR1タンパク質又はペプチドと前記膜メタロペプチダーゼとの相互作用を調整するための薬剤の使用。

【図1A】
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【図1B】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4A】
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【図4B】
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【図5A】
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【図5B】
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【図5C】
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【図6A】
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【図6B】
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【図6C】
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【公開番号】特開2009−7352(P2009−7352A)
【公開日】平成21年1月15日(2009.1.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−149611(P2008−149611)
【出願日】平成20年6月6日(2008.6.6)
【分割の表示】特願2002−552577(P2002−552577)の分割
【原出願日】平成13年12月24日(2001.12.24)
【出願人】(591282984)アンスティテュ パストゥール (17)
【氏名又は名称原語表記】INSTITUT PASTEUR
【出願人】(501089863)サントル ナシオナル ドゥ ラ ルシェルシェサイアンティフィク(セエヌエールエス) (173)
【Fターム(参考)】