説明

SPRセンサセルおよびSPRセンサ

【課題】非常に優れた検出感度を有するSPRセンサセルおよびSPRセンサを提供すること。
【解決手段】本発明のSPRセンサセルは、検知部と、該検知部に隣接するサンプル配置部とを備える。検知部は、アンダークラッド層と、少なくとも一部がアンダークラッド層に隣接するように設けられたコア層と、コア層を被覆する金属層と、金属層を被覆する被覆層とを有する。該被覆層が、1.0eVを超え7.0eV未満のバンドギャップ(Eg)を有する材料で構成され、該被覆層の屈折率が、該コア層の屈折率よりも高い。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、SPRセンサセルおよびSPRセンサに関する。より詳細には、本発明は、光導波路を備えるSPRセンサセルおよびSPRセンサに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、化学分析および生物化学分析などの分野において、光ファイバを備えるSPR(表面プラズモン共鳴:Surface Plasmon Resonance)センサが用いられている。光ファイバを備えるSPRセンサでは、光ファイバの先端部の外周面に金属薄膜が形成されるとともに、分析サンプルが固定され、その光ファイバ内に光が導入される。導入される光のうち特定の波長の光が、金属薄膜において表面プラズモン共鳴を発生させ、その光強度が減衰する。このようなSPRセンサにおいて、表面プラズモン共鳴を発生させる波長は、通常、光ファイバに固定される分析サンプルの屈折率などによって異なる。したがって、表面プラズモン共鳴の発生後に光強度が減衰する波長を計測すれば、表面プラズモン共鳴を発生させた波長を特定でき、さらに、その減衰する波長が変化したことを検出すれば、表面プラズモン共鳴を発生させる波長が変化したことを確認できるので、分析サンプルの屈折率の変化を確認できる。その結果、このようなSPRセンサは、例えば、サンプルの濃度の測定、免疫反応の検出など、種々の化学分析および生物化学分析に用いることができる。
【0003】
例えば、サンプルが溶液である場合には、サンプル(溶液)の屈折率は、溶液の濃度に依存する。したがって、サンプル(溶液)を金属薄膜に接触させたSPRセンサにおいて、サンプル(溶液)の屈折率を計測することにより、サンプルの濃度を検出することができ、さらには、その屈折率が変化したことを確認することにより、サンプル(溶液)の濃度が変化したことを確認することができる。免疫反応の分析においては、例えば、SPRセンサの光ファイバの金属薄膜上に誘電体膜を介して抗体を固定し、抗体に検体を接触させるとともに、表面プラズモン共鳴を発生させる。このとき、抗体と検体とが免疫反応すれば、そのサンプルの屈折率が変化するので、抗体と検体との接触前後においてサンプルの屈折率が変化したことを確認することにより、抗体と検体とが免疫反応したものと判断できる。
【0004】
このような光ファイバを備えるSPRセンサにおいては、光ファイバの先端部が微細な円筒形状であるので、金属薄膜の形成および分析サンプルの固定が困難であるという問題がある。このような問題を解決するために、例えば、光が透過するコアと、このコアを覆うクラッドとを備え、このクラッドの所定位置にコアの表面に至る貫通口を形成し、この貫通口に対応した位置におけるコアの表面に金属薄膜を形成したSPRセンサセルが提案されている(例えば、特許文献1)。このようなSPRセンサセルによれば、コア表面に表面プラズモン共鳴を発生させるための金属薄膜の形成、および、その表面への分析サンプルの固定が容易である。
【0005】
しかし、近年、化学分析および生物化学分析においては、微細な変化および/または微量成分の検出に対する要求が高まっており、SPRセンサセルのさらなる検出感度の向上が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−19100号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記従来の課題を解決するためになされたものであり、その目的とするところは、非常に優れた検出感度を有するSPRセンサセルおよびSPRセンサを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のSPRセンサセルは、検知部と、該検知部に隣接するサンプル配置部とを備え、該検知部が、アンダークラッド層と、少なくとも一部が該アンダークラッド層に隣接するように設けられたコア層と、該コア層を被覆する金属層と、該金属層を被覆する被覆層とを有し、該被覆層が、1.0eVを超え7.0eV未満のバンドギャップ(Eg)を有する材料で構成され、該被覆層の屈折率が、該コア層の屈折率よりも高い。
好ましい実施形態においては、上記被覆層を構成する材料が、ケイ素、セレン化亜鉛、ヒ化ガリウム、窒化アルミニウム、およびN,N’−ジ(1−ナフチル)−N,N’−ジフェニルベンジジンから選択される少なくとも1つの材料である。
好ましい実施形態においては、上記被覆層の屈折率は1.60以上である。
好ましい実施形態においては、上記被覆層の消衰係数は1.80×10−2以下である。
好ましい実施形態においては、上記被覆層の厚みは5nm〜260nmである。
本発明の別の局面によれば、SPRセンサが提供される。このSPRセンサは、上記のSPRセンサセルを備える。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、検知部としての光導波路のコア層を金属層で被覆し、さらに当該金属層を1.0eVを超え7.0eV未満のバンドギャップ(Eg)を有する材料で構成される被覆層で被覆することにより、非常に優れた検出感度を有するSPRセンサセルおよびSPRセンサを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の好ましい実施形態によるSPRセンサセルを説明する概略斜視図である。
【図2】図1に示すSPRセンサセルの概略断面図である。
【図3】本発明のSPRセルの製造方法の一例を説明する概略断面図である。
【図4】本発明の好ましい実施形態によるSPRセンサを説明する概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
A.SPRセンサセル
図1は、本発明の好ましい実施形態によるSPRセンサセルを説明する概略斜視図である。図2は、図1に示すSPRセンサセルの概略断面図である。なお、以下のSPRセンサセルの説明において方向に言及するときは、図面の紙面上側を上側とし、図面の紙面下側を下側とする。
【0012】
SPRセンサセル100は、図1および図2に示すように、平面視略矩形の有底枠形状に形成されており、検知部10と、検知部10に隣接するサンプル配置部20とを備える。検知部10は、サンプル配置部20に配置されるサンプルの状態および/またはその変化を検知するために設けられている。検知部10は、光導波路を有する。図示した形態においては、検知部10は、実質的には光導波路からなる。具体的には、検知部10は、アンダークラッド層11、コア層12、保護層13、金属層14および被覆層15を有する。サンプル配置部20は、オーバークラッド層16により規定されている。保護層13は、目的に応じて省略されてもよい。オーバークラッド層16も、サンプル配置部20を適切に設けることができる限りにおいて省略されてもよい。サンプル配置部20には、分析されるサンプル(例えば、溶液、粉末)が検知部(実質的には金属層)に接触して配置される。
【0013】
アンダークラッド層11は、所定の厚みを有する平面視略矩形平板状に形成されている。アンダークラッド層の厚み(コア層上面からの厚み)は、例えば5μm〜400μmである。
【0014】
コア層12は、アンダークラッド層11の幅方向(図2の紙面の左右方向)および厚み方向の両方と直交する方向に延びる略角柱形状(より詳細には、幅方向に扁平する断面矩形状)に形成され、アンダークラッド層11の幅方向略中央部の上端部に埋設されている。コア層12の延びる方向が、光導波路内を光が伝播する方向となる。コア層の厚みは、例えば5μm〜200μmであり、コア層の幅は、例えば5μm〜200μmである。
【0015】
コア層12は、その上面がアンダークラッド層11から露出するようにして配置されている。好ましくは、コア層12は、その上面がアンダークラッド層11の上面と面一となるように配置されている。コア層の上面がアンダークラッド層の上面と面一となるように配置することにより、金属層14をコア層12の上側のみに効率よく配置することができる。さらに、コア層12は、その延びる方向の両端面がアンダークラッド層の当該方向の両端面と面一となるように配置されている。
【0016】
コア層12の屈折率は、好ましくは1.33〜1.59である。コア層の屈折率を1.59以下とすることにより、後述の被覆層の屈折率との関係を適切なものとすることができ、結果として、検出感度を格段に向上させることができる。コア層の屈折率が1.33以上であれば、水溶液系のサンプル(水の屈折率:1.33)であってもSPRを励起することができ、かつ、汎用の材料を使用することができる。なお、本明細書において「屈折率」は、特に明記しない限り波長850nmにおける屈折率を意味する。
【0017】
コア層12の屈折率は、アンダークラッド層11の屈折率より高い。コア層の屈折率とアンダークラッド層の屈折率との差は、好ましくは0.010以上であり、さらに好ましくは0.020以上である。コア層の屈折率とアンダークラッド層の屈折率との差がこのような範囲であれば、検出部の光導波路をいわゆるマルチモードとすることができる。したがって、光導波路を透過する光の量を多くすることができ、結果として、S/N比を向上させることができる。
【0018】
コア層12を形成する材料としては、本発明の効果が得られる限りにおいて任意の適切な材料を用いることができる。具体例としては、フッ素樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミド樹脂、シリコーン樹脂、アクリル樹脂およびこれらの変性体(例えば、フルオレン変性体、重水素変性体、フッ素樹脂以外の場合はフッ素変性体)が挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらは、好ましくは感光剤を配合して、感光性材料として用いられ得る。アンダークラッド層11は、コア層を形成する材料と同様の材料であって、屈折率がコア層よりも低くなるように調整された材料から形成され得る。
【0019】
保護層13は、必要に応じて、アンダークラッド層11およびコア層12の上面をすべて被覆するように、平面視においてアンダークラッド層と同じ形状の薄膜として形成されている。保護層13を設けることにより、例えば、サンプルが液状である場合に、サンプルによってコア層および/またはクラッド層が膨潤することを防止することができる。保護層13を形成する材料としては、例えば、二酸化ケイ素、酸化アルミニウムが挙げられる。保護層13の厚みは、好ましくは1nm〜100nmであり、より好ましくは5nm〜20nmである。
【0020】
金属層14は、図2に示すように、保護層13を介して、コア層12の上面を均一に被覆するように形成されている。この場合、必要に応じて、保護層13と金属層14との間に易接着層(図示せず)が設けられ得る。易接着層を形成することにより、保護層13と金属層14とを強固に固着させることができる。保護層13を設けず、金属層14でコア層12を直接被覆してもよい。
【0021】
金属層14を形成する材料としては、金、銀、白金、銅、アルミニウムおよびこれらの合金が挙げられる。金属層14は、単一層であってもよく、2層以上の積層構造を有していてもよい。金属層14の厚み(積層構造を有する場合はすべての層の合計厚み)は、好ましくは40nm〜70nmであり、より好ましくは50nm〜60nmである。
【0022】
易接着層を形成する材料としては、代表的にはクロムまたはチタンが挙げられる。易接着層の厚みは、好ましくは1nm〜5nmである。
【0023】
被覆層15は、図2に示すように、金属層14を被覆するように形成されている。被覆層15は、1.0eVを超え7.0eV未満のバンドギャップ(Eg)を有する材料で構成され、好ましくは1.0eVを超え5.5eV未満、より好ましくは1.0eVを超え3.5eV未満のバンドギャップ(Eg)を有する材料で構成される。このような材料で被覆層を構成することにより、被覆層の屈折率を十分に高くするとともに、消衰係数を十分に小さくすることができる。その結果、優れたS/N比と検出感度とが得られ得る。バンドギャップ(Eg)は、分光法を用いた光吸収スペクトルの測定等により求めることができる。なお、本明細書において、上記バンドギャップ(Eg)は27℃での値である。
【0024】
上記被覆層を構成する材料としては、上記範囲のバンドギャップを有する材料であれば制限はなく、例えば、無機半導体材料、有機半導体材料、これらの不純物半導体材料等を用いることができる。無機半導体材料の具体例としては、ケイ素、炭素等の単体半導体およびセレン化亜鉛、ヒ化ガリウム、窒化アルミニウム等の化合物半導体が挙げられる。また、有機半導体材料の具体例としては、アリールアミン誘導体(例えば、N,N’−ジ(1−ナフチル)−N,N’−ジフェニルベンジジン)、キノリノール金属錯体等の低分子材料、ポリアセチレン、ポリアニリン等の高分子材料等が挙げられる。不純物半導体材料としては、上記無機半導体材料および有機半導体材料にドーパントを添加して得られる半導体材料が挙げられる。ドーパントの種類および添加量は、所望のバンドギャップ等に応じて適切に設定され得る。1つの実施形態においては、上記被覆層を構成する材料として、ケイ素、セレン化亜鉛、ヒ化ガリウム、窒化アルミニウム、およびN,N’−ジ(1−ナフチル)−N,N’−ジフェニルベンジジンが好ましく使用され得る。適切な屈折率および消衰係数を有する被覆層を形成することができるからである。
【0025】
被覆層15の屈折率は、コア層12の屈折率よりも高い。具体的には、被覆層の屈折率は、好ましくは1.60以上であり、より好ましくは2.00以上であり、さらに好ましくは2.50以上である。被覆層の屈折率が1.60未満である場合には、十分な検出感度が得られない場合がある。
【0026】
被覆層15の消衰係数は、好ましくは1.80×10−2以下であり、より好ましくは1.50×10−2以下である。消衰係数の下限は、好ましくは0(ゼロ)である。消衰係数がこのような範囲であれば、SPRピークが良好に発現し得る。
【0027】
被覆層15の厚みは、好ましくは5nm〜260nmであり、より好ましくは10nm〜100nmであり、さらに好ましくは15nm〜50nmである。厚みが5nm未満である場合には、検出感度の向上が十分でない場合がある。厚みが260nmを超えると、SPRの励起波長が大きくなりすぎてコア層の吸収の影響を受けてしまうので、適切な検出を行えない場合がある。
【0028】
オーバークラッド層16は、図1に示すように、アンダークラッド層11およびコア層12の上面(図示例では、保護層13の上面)において、その外周がアンダークラッド層11の外周と平面視において略同一となるように、平面視矩形の枠形状に形成されている。アンダークラッド層11およびコア層12の上面(図示例では、保護層13の上面)とオーバークラッド層16とで囲まれる部分が、サンプル配置部20として区画されている。当該区画にサンプルを配置することにより、検知部10の金属層とサンプルとが接触し、検出が可能となる。さらに、このような区画を形成することにより、サンプルを容易に金属層表面に配置することができるので、作業性の向上を図ることができる。
【0029】
オーバークラッド層16を形成する材料としては、例えば、上記コア層およびアンダークラッド層を形成する材料、ならびにシリコーンゴムが挙げられる。オーバークラッド層の厚みは、好ましくは5μm〜2000μmであり、さらに好ましくは25μm〜200μmである。オーバークラッド層の屈折率は、好ましくは、コア層の屈折率よりも低い。1つの実施形態においては、オーバークラッド層の屈折率は、アンダークラッド層の屈折率と同等である。なお、コア層よりも低い屈折率を有する保護層を形成する場合には、オーバークラッド層の屈折率は、必ずしもコア層の屈折率よりも低くなくてもよい。
【0030】
本発明の好ましい実施形態によるSPRセンサセルを説明してきたが、本発明はこれらに限定されない。例えば、コア層とアンダークラッド層の関係においては、コア層の少なくとも一部がアンダークラッド層に隣接するように設けられていればよい。例えば、上記実施形態ではアンダークラッド層にコア層が埋設された構成を説明したが、コア層はアンダークラッド層を貫通するようにして設けられてもよい。また、アンダークラッド層の上にコア層を形成し、当該コア層の所定の部分をオーバークラッド層で包囲する構成としてもよい。
【0031】
さらに、SPRセンサにおけるコア層の数は、目的に応じて変更してもよい。具体的には、コア層は、アンダークラッド層の幅方向に所定の間隔を隔てて複数形成されてもよい。このような構成であれば、複数のサンプルを同時に分析することができるので、分析効率を向上させることができる。コア層の形状もまた、目的に応じて任意の適切な形状(例えば、半円柱形状、凸柱形状)を採用することができる。
【0032】
さらに、SPRセンサセル100(サンプル配置部20)の上部には、蓋を設けてもよい。このような構成とすれば、サンプルが外気に接触することを防止することができる。また、サンプルが溶液である場合には、溶媒の蒸発による濃度変化を防止することができる。蓋を設ける場合には、液状サンプルをサンプル配置部へ注入するための注入口とサンプル配置部から排出するための排出口とを設けてもよい。このような構成とすれば、サンプルを流してサンプル配置部に連続的に供給することができるので、サンプルの特性を連続的に測定することができる。
【0033】
上記の実施形態は、それぞれを適切に組み合わせてもよい。
【0034】
B.SPRセンサセルの製造方法
本発明のSPRセンサセルは、任意の適切な方法により製造され得る。一例として、アンダークラッド層にコア層を形成する方法としてスタンパー方式を採用したSPRセンサセルの製造方法を説明する。アンダークラッド層にコア層を形成する方法としては、スタンパー方式以外に、例えば、マスクを用いたフォトリソグラフィー(直接露光方式)が挙げられる。なお、フォトリソグラフィーは周知である。
【0035】
図3(a)〜図3(h)は、アンダークラッド層にコア層を形成する方法としてスタンパー方式を採用したSPRセンサセルの製造方法を説明する概略断面図である。まず、図3(a)に示すように、アンダークラッド層を形成する材料11´を、アンダークラッド層のコア層形成部分に対応する突起部を有する鋳型31に塗布する。鋳型に塗布されたアンダークラッド層形成材料に紫外線を照射し、当該材料を硬化させる。紫外線の照射条件は、コア層形成材料の種類に応じて適切に設定され得る。アンダークラッド層形成材料を硬化させることにより、アンダークラッド層11が形成される。さらに、図3(b)に示すように、形成されたアンダークラッド層11を鋳型から剥離する。
【0036】
次いで、図3(c)に示すように、アンダークラッド層11の溝部に、コア層を形成する材料12´を充填する。さらに、特開平9−281351号公報に記載されている高分子光導波路の製造方法に従い、アンダークラッド層の溝部に充填されたコア層形成材料のうち、凹溝からはみ出ている余分なコア層材料をスクレイパーによって掻き取る。このようにして、コア層とアンダークラッド層とを面一とすることができる。さらに、図3(d)に示すように、充填したコア層形成材料12´に紫外線を照射し、当該材料を硬化させる。紫外線の照射条件は、コア層形成材料の種類に応じて適切に設定され得る。必要に応じて、コア層形成材料を加熱してもよい。加熱は、紫外線照射前に行ってもよく、紫外線照射後に行ってもよく、紫外線照射と併せて行ってもよい。加熱条件は、コア層形成材料の種類に応じて適切に設定され得る。コア層形成材料を硬化させることにより、図3(e)に示すように、アンダークラッド層11に埋設されたコア層12が形成される。
【0037】
必要に応じて、図3(f)に示すように、アンダークラッド層11およびコア層12の上に、保護層13を形成する。保護層は、例えば、保護層を形成する材料をスパッタリングまたは蒸着することにより形成される。保護層を形成する場合には、好ましくは、保護層の上に易接着層(図示せず)を形成する。易接着層は、例えば、クロムまたはチタンをスパッタリングすることにより形成される。
【0038】
次に、図3(g)に示すように、保護層13の上(保護層を形成しない場合には、コア層およびアンダークラッド層の上面)に、コア層12を被覆するようにして金属層14を形成し、さらに、金属層14を被覆するようにして被覆層15を形成する。具体的には、金属層14は、例えば、所定のパターンを有するマスクを介して金属層を形成する材料を真空蒸着、イオンプレーティングまたはスパッタリングすることにより形成される。被覆層15は、金属層を形成する場合と同様のパターンを有するマスクを介して被覆層を形成する材料を真空蒸着、化学蒸着、イオンプレーティングまたはスパッタリングすることにより形成される。有機半導体材料を用いる場合には、塗布によって被覆層を形成することもできる。金属層14および被覆層15は、連続的に形成してもよい。
【0039】
最後に、図3(h)に示すように、上記所定の枠形状を有するオーバークラッド層16を形成する。オーバークラッド層16は、任意の適切な方法により形成され得る。オーバークラッド層16は、例えば、上記所定の枠形状を有する鋳型を保護層13の上に配置し、当該鋳型にオーバークラッド層形成材料のワニスを充填して乾燥し、必要に応じて硬化させ、最後に鋳型を除去することにより形成され得る。感光性材料を用いる場合には、オーバークラッド層16は、保護層13の全面にワニスを塗布し、乾燥後に、所定のパターンのフォトマスクを介して露光および現像することにより形成され得る。
【0040】
以上のようにして、SPRセンサセルを作製することができる。
【0041】
C.SPRセンサ
図4は、本発明の好ましい実施形態によるSPRセンサを説明する概略断面図である。SPRセンサ200は、SPRセンサセル100と光源110と光計測器120とを備える。SPRセンサセル100は、上記A項およびB項で説明した本発明のSPRセンサである。
【0042】
光源110としては、任意の適切な光源が採用され得る。光源の具体例としては、白色光源、単色光光源が挙げられる。光計測器120は、任意の適切な演算処理装置に接続され、データの蓄積、表示および加工を可能としている。
【0043】
光源110は、光源側光コネクタ111を介して光源側光ファイバ112に接続されている。光源側光ファイバ112は、光源側ファイバブロック113を介してSPRセンサセル100(コア層12)の伝播方向一方側端部に接続されている。SPRセンサセル100(コア層12)の伝播方向他方側端部には、計測器側ファイバブロック114を介して計測器側光ファイバ115が接続されている。計測器側光ファイバ115は、計測器側光コネクタ116を介して光計測器120に接続されている。
【0044】
SPRセンサセル100は、任意の適切なセンサセル固定装置(図示せず)によって固定されている。センサセル固定装置は、所定方向(例えば、SPRセンサセルの幅方向)に沿って移動可能とされており、これにより、SPRセンサセルを所望の位置に配置することができる。
【0045】
光源側光ファイバ112は、光源側光ファイバ固定装置131により固定され、計測器側光ファイバ115は、計測器側光ファイバ固定装置132により固定されている。光源側光ファイバ固定装置131および計測器側光ファイバ固定装置132は、それぞれ、任意の適切な6軸移動ステージ(図示せず)の上に固定されており、光ファイバの伝播方向、幅方向(伝播方向と水平方向において直交する方向)および厚み方向(伝播方向と垂直方向において直交する方向)と、これらのそれぞれの方向を軸とする回転方向とに可動とされている。
【0046】
このようなSPRセンサによれば、光源110、光源側光ファイバ112、SPRセンサセル100(コア層12)、計測器側光ファイバ115および光計測器120を一軸上に配置することができ、これらを透過するように光源110から光を導入することができる。
【0047】
以下、このようなSPRセンサの使用形態の一例を説明する。
【0048】
まず、サンプルをSPRセンサセル100のサンプル配置部20に配置し、被覆層15を介してサンプルと金属層14とを接触させる。次いで、光源110から所定の光を、光源側光ファイバ112を介してSPRセンサセル100(コア層12)に導入する(図4の矢印L1参照)。SPRセンサセル100(コア層12)に導入された光は、コア層12内において全反射を繰り返しながら、SPRセンサセル100(コア層12)を透過するとともに、一部の光は、コア層12の上面において金属層14に入射し、表面プラズモン共鳴により減衰される。SPRセンサセル100(コア層12)を透過した光は、計測器側光ファイバ115を介して光計測器120に導入される(図4の矢印L2参照)。すなわち、このSPRセンサ200において、光計測器120に導入される光は、コア層12において表面プラズモン共鳴を発生させた波長の光強度が減衰している。表面プラズモン共鳴を発生させる波長は、金属層14(実質的には、被覆層15)に接触したサンプルの屈折率などに依存するので、光計測器120に導入される光の光強度の減衰を検出することにより、サンプルの屈折率の変化を検出することができる。
【0049】
例えば、光源110として白色光源を用いる場合には、光計測器120によって、SPRセンサセル100の透過後に光強度が減衰する波長(表面プラズモン共鳴を発生させる波長)を計測し、その減衰する波長が変化したことを検出すれば、サンプルの屈折率の変化を確認することができる。また例えば、光源110として単色光光源を用いる場合には、光計測器120によって、SPRセンサセル100の透過後における単色光の光強度の変化(減衰の度合い)を計測し、その減衰の度合いが変化したことを検出すれば、表面プラズモン共鳴を発生させる波長が変化したことを確認でき、サンプルの屈折率の変化を確認することができる。
【0050】
上記のように、このようなSPRセンサセルは、サンプルの屈折率の変化に基づいて、例えば、サンプルの濃度の測定、免疫反応の検出などの種々の化学分析および生物化学分析に用いることができる。より具体的には、例えば、サンプルが溶液である場合には、サンプル(溶液)の屈折率は溶液の濃度に依存するので、サンプルの屈折率を検出すれば、そのサンプルの濃度を測定することができる。さらに、サンプルの屈折率が変化したことを検出すれば、サンプルの濃度が変化したことを確認することができる。また例えば、免疫反応の検出においては、SPRセンサセル100の金属層14(実質的には、被覆層15)の上に誘電体膜を介して抗体を固定し、抗体に検体を接触させる。抗体と検体とが免疫反応すればサンプルの屈折率が変化するので、抗体と検体との接触前後におけるサンプルの屈折率変化を検出することにより、抗体と検体とが免疫反応したと判断することができる。
【実施例】
【0051】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例によって限定されるものではない。なお、実施例および比較例において、特に明記しない限り、屈折率の測定波長は850nmであり、吸収係数および消衰係数の測定波長は1200nmである。
【0052】
<実施例1>
図3(a)〜図3(e)に示すようなスタンパー方式を用いて光導波路を成形した。具体的には、アンダークラッド層のコア層形成部分に対応する突起部を有する鋳型に、アンダークラッド層形成材料であるフッ素系UV硬化型樹脂(DIC社製、商品名「OP38Z」)を充填し、紫外線硬化させてアンダークラッド層を形成した。得られたアンダークラッド層の屈折率は1.372であり、そのサイズは、長さ80mm、幅80mm、厚み150μmで、幅50μmおよび厚み(深さ)50μmのコア層形成用の溝部が形成されていた。鋳型からアンダークラッド層を剥離した後、上記溝部にコア層形成材料であるフッ素系UV硬化型樹脂(DIC社製、商品名「OP40Z」)を充填し、コア層を形成した。形成されたコア層の屈折率は1.399(波長850nm)、吸収係数は2.90×10−2(mm−1)であった。なお、屈折率は、シリコンウェハの上に10μm厚のコア層形成材料の膜を形成し、プリズムカプラ式屈折率測定装置を用いて波長850nmで測定した。吸収係数は、ガラス基板の上に50μm厚のコア層形成材料の膜を形成し、分光光度計を用いて波長1200nmで測定した。以上のようにして、埋め込み型光導波路フィルムを作製した。
【0053】
次いで、得られた光導波路フィルムの上面(コア層露出面)の全面にSiOをスパッタリングし、保護層(厚み:10nm)を形成した。保護層が形成された光導波路フィルムを長さ20mm×幅22.25mmにダンシング切断した後、長さ6mm×幅1mmの開口部を有するマスクを介して、クロムおよび金を順にスパッタリングし、保護層を介してコア層を覆うように易接着層(厚み:1nm)および金属層(厚み:50nm)を順に形成した。さらに、上記と同様のマスクを介してケイ素(Si:シリコン)をスパッタリングし、金属層を被覆する被覆層としてアモルファスのシリコン膜(厚み:20nm、バンドギャップ:1.1eV)を形成した。得られた被覆層の屈折率は4.1、消衰係数は1.1×10−2であった。被覆層の厚みは、断面を透過型電子顕微鏡(TEM)で観察することにより測定した。屈折率は、ガラス基板の上に100nm厚のシリコン膜を形成し、分光エリプソメーターを用いて波長850nmで測定した。消衰係数は、ガラス基板の上に100nm厚のシリコン膜を形成し、分光エリプソメトリーにて波長1200nmの値を算出した。
【0054】
最後に、アンダークラッド層形成材料と同じ材料を用い、アンダークラッド層を形成したのと類似の方法で、枠形状のオーバークラッド層を形成した。このようにして、図1および図2に示すようなSPRセンサセルを作製した。
【0055】
上記で得られたSPRセンサセルと、ハロゲン光源(オーシャンオプティクス社製、商品名「HL−2000−HP」)と、分光器(オーシャンオプティクス社製、商品名「USB4000」および「NIRQuest512」)とを一軸上に配置して接続し、図4に示すようなSPRセンサを作製した。SPRセンサセルのサンプル配置部に、濃度が異なる4種のエチレングリコール水溶液(濃度:0vol%(屈折率:1.3330)、1vol%(屈折率:1.3340)、5vol%(屈折率:1.3383)、10vol%(屈折率:1.3436))40μLをそれぞれ投入し、測定を行った。さらに、サンプル(エチレングリコール水溶液)を配置しない状態でSPRセンサセル(光導波路)に光を透過させたときの各波長の光強度を100%とした場合の透過率スペクトルを求め、透過率の極小値に対応する波長λminを計測した。エチレングリコール水溶液の屈折率をX軸、λminをY軸として、それらの関係をXY座標にプロットして検量線を作成し、その傾きを求めた。傾きが大きいほど検出感度が高いことを示す。被覆層の屈折率および消衰係数、サンプル濃度が10vol%のときのλmin、ならびに、傾き(検出感度)を下記の表1に示す。
【0056】
<実施例2>
セレン化亜鉛(ZnSe)をスパッタリングして被覆層(厚み:20nm)を形成したこと以外は実施例1と同様にして、SPRセンサセルおよびSPRセンサを作製した。得られたSPRセンサを実施例1と同様の評価に供した。結果を表1に示す。
【0057】
<実施例3>
セレン化亜鉛(ZnSe)をスパッタリングして被覆層(厚み:40nm)を形成したこと以外は実施例1と同様にして、SPRセンサセルおよびSPRセンサを作製した。得られたSPRセンサを実施例1と同様の評価に供した。結果を表1に示す。
【0058】
<実施例4>
アリールアミン誘導体であるN,N’−ジ(1−ナフチル)−N,N’−ジフェニルベンジジン(NPD)を真空蒸着して被覆層(厚み:20nm)を形成したこと以外は実施例1と同様にして、SPRセンサセルおよびSPRセンサを作製した。得られたSPRセンサを実施例1と同様の評価に供した。結果を表1に示す。
【0059】
<実施例5>
ヒ化ガリウム(GaAs)を真空蒸着して被覆層(厚み:20nm)を形成したこと以外は実施例1と同様にして、SPRセンサセルおよびSPRセンサを作製した。得られたSPRセンサを実施例1と同様の評価に供した。結果を表1に示す。
【0060】
<実施例6>
窒化アルミニウム(AlN)をスパッタリングして被覆層(厚み:20nm)を形成したこと以外は実施例1と同様にして、SPRセンサセルおよびSPRセンサを作製した。得られたSPRセンサを実施例1と同様の評価に供した。結果を表1に示す。
【0061】
<比較例1>
被覆層を形成しなかったこと以外は実施例1と同様にして、SPRセンサセルおよびSPRセンサを作製した。得られたSPRセンサを実施例1と同様の評価に供した。結果を表1に示す。
【0062】
<比較例2>
クロムをスパッタリングして被覆層(厚み:20nm)を形成したこと以外は実施例1と同様にして、SPRセンサセルおよびSPRセンサを作製した。得られたSPRセンサを実施例1と同様の評価に供した。結果を表1に示す。
【0063】
<比較例3>
アンチモン化ガリウム(GaSb)をスパッタリングして被覆層(厚み:20nm)を形成したこと以外は実施例1と同様にして、SPRセンサセルおよびSPRセンサを作製した。得られたSPRセンサを実施例1と同様の評価に供した。結果を表1に示す。
【0064】
<比較例4>
酸化シリコン(SiO)をスパッタリングして被覆層(厚み:20nm)を形成したこと以外は実施例1と同様にして、SPRセンサセルおよびSPRセンサを作製した。得られたSPRセンサを実施例1と同様の評価に供した。結果を表1に示す。
【0065】
【表1】

【0066】
<評価>
表1から明らかなように、実施例のSPRセンサセルの検出感度は、比較例に比べて優れていることがわかる。より詳細には、被覆層が1.0eVを超え7.0eV未満のバンドギャップ(Eg)を有する材料で形成された実施例のSPRセンサセルは、被覆層を形成していない比較例1およびバンドギャップが7.0よりも大きい材料を用いた比較例4に比べて検出感度が格段に優れていることがわかる。これは、実施例の被覆層の屈折率が極めて大きく、かつ、近赤外領域の消衰係数が十分に小さいためと考えられる。金属で被覆層を形成した比較例2は、消衰係数が大きすぎてSPRピークを確認できなかった。バンドギャップが1.0よりも小さい材料を用いた比較例3は、消衰係数が大きすぎてSPRピークを確認できなかった。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明のSPRセンサセルおよびSPRセンサは、サンプルの濃度の測定、免疫反応の検出など、種々の化学分析および生物化学分析に好適に利用され得る。
【符号の説明】
【0068】
10 検知部
11 アンダークラッド層
12 コア層
13 保護層
14 金属層
15 被覆層
16 オーバークラッド層
20 サンプル配置部
100 SPRセンサセル
110 光源
120 光計測器
200 SPRセンサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
検知部と、該検知部に隣接するサンプル配置部とを備え、
該検知部が、アンダークラッド層と、少なくとも一部が該アンダークラッド層に隣接するように設けられたコア層と、該コア層を被覆する金属層と、該金属層を被覆する被覆層とを有し、
該被覆層が、1.0eVを超え7.0eV未満のバンドギャップ(Eg)を有する材料で構成され、
該被覆層の屈折率が、該コア層の屈折率よりも高い
SPRセンサセル。
【請求項2】
前記被覆層を構成する材料が、ケイ素、セレン化亜鉛、ヒ化ガリウム、窒化アルミニウム、およびN,N’−ジ(1−ナフチル)−N,N’−ジフェニルベンジジンから選択される少なくとも1つの材料である、請求項1に記載のSPRセンサセル。
【請求項3】
前記被覆層の屈折率が1.60以上である、請求項1または2に記載のSPRセンサセル。
【請求項4】
前記被覆層の消衰係数が1.80×10−2以下である、請求項1から3のいずれかに記載のSPRセンサセル。
【請求項5】
前記被覆層の厚みが5nm〜260nmである、請求項1から4のいずれかに記載のSPRセンサセル。
【請求項6】
請求項1から5のいずれかに記載のSPRセンサセルを備える、SPRセンサ。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−61301(P2013−61301A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−201299(P2011−201299)
【出願日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】