説明

SiC膜の形成方法

【課題】極薄で耐摩耗性および耐食性に優れたSiC膜を形成することが出来るSiC膜形成方法の提供。
【解決手段】SiC膜形成方法は、加熱を行わないスパッタ成膜法により被成膜面上にSi膜を形成し(S10)、その後に、該被成膜面上のSi膜を初期欠陥層が露出するまでエッチングする(S20)第1の工程と、第1の工程でエッチングされたSi膜の上に加熱を行わないスパッタ成膜法によりSi粒子を堆積して、該Si膜を所定膜厚のSi膜とする第2の工程(S40)と、所定膜厚のSi膜に炭素イオンを照射して、該Si膜をSiC化する第3の工程(S50)と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、極薄のSiC膜の形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炭化珪素(SiC)は、機械的強度、耐熱性および耐食性が優れた材料で、高温半導体などの高温材料として有効である。また、その耐食性から、数nm程度の極薄領域において、水や酸などからの腐食を防ぐ耐腐食保護膜としても有効である。例えば、磁気ヘッドの保護膜として利用されている。磁気ヘッドの保護膜には、薄くて耐摩耗性、耐食性を有することが求められる。
【0003】
炭化珪素膜の形成にはCVD法やスパッタ法が用いられる。CVD法を用いる場合は、通常1000℃以上の高温に基板を加熱して成膜が行われる(特許文献1参照)。また、炭化珪素(SiC)ターゲットを直接スパッタして成膜を行うスパッタ法においても、基板を400〜600℃に加熱する必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平9−221395号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、高温下で特性が劣化する材料、例えば磁性材料には、上述のような高温のSiC膜形成方法を適用するのは難しい。また、加熱を行わずにスパッタ成膜を行うことは可能であるが、形成される膜が非晶質SiC膜となり、耐食性や耐摩耗性の点で十分な性能が得られないという問題がある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1の発明に係るSiC膜形成方法は、加熱を行わないスパッタ成膜法により被成膜面上に珪素膜を形成した後に、該被成膜面上のSi膜を初期欠陥層が露出するまでエッチングする第1の工程と、第1の工程でエッチングされたSi膜の上に加熱を行わないスパッタ成膜法によりSi粒子を堆積して、該Si膜を所定膜厚のSi膜とする第2の工程と、所定膜厚のSi膜に炭素イオンを照射して、該Si膜をSiC化する第3の工程と、を有することを特徴とする。
請求項2の発明は、請求項1に記載のSiC膜形成方法において、窒素イオンおよび酸素イオンの少なくとも一方を照射する工程を、第2の工程と第3の工程との間、または第3の工程の後に設けて、SiCが窒化された層、SiCが酸化された層およびSiCが酸窒化された層のいずれか一つがSiC膜に形成されることを特徴とする。
請求項3の発明は、請求項1または2に記載のSiC膜形成方法において、第1の工程を複数回繰り返し行った後に、第2の工程を行うことを特徴とする。
請求項4の発明に係るSiC膜形成方法は、加熱を行わないスパッタ成膜法により被成膜面上にSiC膜を形成した後に、該被成膜面上のSiC膜を初期欠陥層が露出するまでエッチングする第1の工程と、第1の工程でエッチングされたSiC膜の上に加熱を行わないスパッタ成膜法によりSiC粒子を堆積して、該SiC膜を所定膜厚のSiC膜とする第2の工程と、を有することを特徴とする。
請求項5の発明は、請求項4に記載のSiC膜形成方法において、窒素イオンおよび酸素イオンの少なくとも一方を照射する工程を第2の工程の後に設けて、SiCが窒化された層、SiCが酸化された層およびSiCが酸窒化された層のいずれか一つがSiC膜に形成されることを特徴とする。
請求項6の発明は、請求項4または5に記載のSiC膜形成方法において、第1の工程を複数回繰り返し行った後に、第2の工程を行うことを特徴とする。
請求項7の発明に係るSiC膜形成方法は、加熱を行わないスパッタ成膜法により被成膜面上にSi膜を形成する工程と、該Si膜を初期欠陥層が露出するまでエッチングする工程と、エッチングされたSi膜に炭素イオンを照射してSiC化してSiC層を形成する工程とを順に繰り返し行い、SiC層が複数積層された所定厚さのSiC膜を形成することを特徴とする。
請求項8の発明は、請求項7に記載のSiC膜形成方法において、繰り返し行われるSiC層形成工程の内の最後のSiC層形成工程の前または後に、窒素イオンおよび酸素イオンの少なくとも一方を照射する工程を設けて、SiCが窒化された層、SiCが酸化された層およびSiCが酸窒化された層のいずれか一つがSiC膜に形成されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、極薄で耐摩耗性および耐食性に優れたSiC膜を形成することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】磁気ヘッドスライダ1の概略構成を示す図である。
【図2】SiC膜形成の手順を示すフローチャートである。
【図3】SiC膜の形成過程における膜構造を説明する断面図である。
【図4】SiC膜の形成過程における膜構造を説明する断面図である。
【図5】第2の形成方法における、SiC膜形成の手順を示すフローチャートである。
【図6】第2の形成方法のSiC膜形成過程における膜構造を説明する断面図である。
【図7】第2の形成方法のSiC膜形成過程における膜構造を説明する断面図である。
【図8】第3の形成方法における、SiC膜形成の手順を示すフローチャートである。
【図9】膜質調整工程を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図を参照して本発明の実施の形態を説明する。図1は、本実施の形態に係るSiC膜形成方法により形成されたSiC膜が保護膜として適用される、磁気ヘッドスライダ1の概略構成を示す図である。磁気ヘッドスライダ1は、アルチック(Al2O3TiC)のスライダ基板11に薄膜磁気ヘッドの積層体を形成したものである。
【0010】
積層体は、下部磁性層12および上部磁性層15と、それらの間に形成されたコイル導体14と、絶縁層13とから成り、積層体を保護する絶縁保護膜16によって覆われている。磁気記録媒体は磁気ヘッドスライダ1の図示下側に配置され、磁気ヘッドスライダ1の磁気記録媒体と対向する面には耐摩耗性の保護膜20が形成されている。本実施の形態のSiC膜形成方法により形成されるSiC膜は、この保護膜20として用いられる。
【0011】
(第1の形成方法)
次に、SiC膜の形成方法について説明する。図2は、SiC膜形成方法の一実施の形態を説明する図であり、SiC膜形成の手順を示すフローチャートである。また、図3,4は、SiC膜の形成過程における膜構造を説明する図であり、膜の断面を模式的に示したものである。
【0012】
図2のステップS10においては、成膜対象である磁気ヘッドスライダ1の記録媒体対向面に、Si層200をイオンビームスパッタやマグネトロンスパッタ等のスパッタ法により形成する。なお、以下では、この記録媒体対向面を基板表面1aと称することにする。ステップS10のSi成膜に限らず、本実施の形態の成膜においては、磁気ヘッドの磁性材料への熱的影響を避けるために、基板加熱(成膜対象の加熱)を行わずに膜を形成する。
【0013】
ここでは、Si層200の基板表面1aからの厚t1を、最終的なSiC膜の膜厚t3(1nm以下)と同程度としているが、これに限定されない。磁気ヘッドにおいては、検出性能の向上を図るためには磁気ヘッドと記録媒体との隙間が小さいほど好ましい。そのため、磁気ヘッドの保護膜として形成されるSiC膜も、耐食性等の機能を発揮できる範囲内で薄ければ薄いほど好ましい。本実施の形態のSiC膜形成方法は、膜厚が1nm以下の極薄膜を形成するために提案されたものである。Si原子の直径は約2.4オングストロームなので、厚さ1nmのSi層の原子層数はほぼ5層に相当する。以下の説明では、形成されるSi層200の原子層数はほぼ5層であるとして説明する。
【0014】
従来、SiC成膜の際の基板加熱はSiCの結晶化だけでなく、基板へのSiC付着直後のマイグレーションを促進する作用もある。SiC付着直後のマイグレーションが十分に行われない場合、膜の初期成長過程において、膜が島状から連続状ヘと変化する膜厚が厚くなる傾向を示す。また、マイグレーションの不足は、初期層のみならず、膜中の欠陥が発生する一因となる。すなわち、膜を形成する原子の初期層において、膜が完全に連続状になっていない不達続状態の原子層数は、付着直後のマイグレーションに依存する。
【0015】
一方、ステップS10におけるSi層200の成膜においては基板加熱が行われないので、スパッタにより付着したSi原子のマイグレーションが十分に行われず、Si層200の初期層において不達続状態の原子層が生じる。図3(a)はSi層200の断面を模式的に描いたものであるが、基板表面1aに近い原子層には隙間200aが多数形成されていて、不連続状態の原子層となっている。ここでは、このような原子層を初期欠陥層と称することにする。
【0016】
ステップS20では、基板表面1a上に成膜したSi層200に対して、スパッタエッチング法、ECRエッチング法およびイオンビームエッチング法等によるエッチング処理を行い、初期欠陥層が露出される厚さt2までSi層200をエッチングする。図3(b)はエッチング処理後のSi層200を示したものであり、初期欠陥層の隙間200aが露出されるように1〜2原子層までエッチングをしている。すなわち厚さt2は1〜2原子層に相当する厚さである。このようなエッチングを行うことにより、Si層200にエッチングイオンが入射する際のエネルギーにより、Si原子のマイグレーションが促進され、1〜2原子層における欠陥が改善される。そのため、エッチング後の隙間200aは、図3(a)の場合よりも減少している。
【0017】
ステップS30では、ステップS10のSi成膜処理とステップS20のエッチング処理とが所定回数行われたか否かを判定する。エッチングおよび成膜の処理回数が所定回数に達するまでは、ステップS30でNOと判定されてステップS10へ戻り、ステップS10およびステップS20の処理が所定回数繰り返される。
【0018】
上述したように、ステップS20のエッチングを行うことによりSi層の初期欠陥層が改善され、また、初期欠陥層が露出された後にSiスパッタ成膜をさらに行うと、隙間200aにSi原子が入り込み、より緻密なSi膜を形成することができる。このような初期欠陥層に対する改善効果は、成膜とエッチングとを繰り返し行うことさらに高まる。所定回数をいくつに設定するかは成膜条件やエッチング条件等によって異なるので、実際に成膜実験を行って設定する。
【0019】
ステップS30でNOと判定されるとステップS10に戻り、図3(b)のようにエッチングされて1〜2層のSi原子層が残っている基板表面1aに、スパッタによりSi粒子(Si原子や複数のSi原子から成る粒子)を堆積し、再び厚さt1のSi層200を形成する。図3(c)は、ステップS10に戻って2回目のスパッタ成膜が行われた後のSi層200を示す図である。このSi成膜により、露出している隙間200aにSi原子が入り込むことになる。その結果、1〜2層における欠陥がより改善される。また、1〜2層の欠陥が改善されるため、3層目以上の層構造も1回目のSi層200に比べて積層状態が良好になっている。
【0020】
その後、ステップS20に進んで、2回目のエッチングが行われる。図4(a)は、2回目のエッチング処理の結果を示したものである。図3(c)に示す例では、1〜2層領域に隙間200aが残っており、図4(a)のように1〜2層までエッチングを行うことによりに、Siのマイグレーションが促進されて隙間200aが減少する。
【0021】
一方、ステップS30でYESと判定されると、ステップS40に進み、図4(b)に示すような3回目のSiスパッタ成膜が行われる。この成膜時にも、エッチングにより露出した隙間200a内にSi原子が入り込みながらSiの堆積が進む。その結果、1〜2層における隙間200aの割合はさらに小さくなり、基板表面1aに近い1〜2層目から緻密な状態となっているSi層200が形成される。ステップS40のスパッタでは、Si層200の最終的な厚さ調整が行われる。すなわち、最終的に必要とされるSiC膜の厚さをt3とすれば、ステップS40ではSi層200の厚さがt3となるようにスパッタ成膜を制御する。なお、ステップS40におけるSi層の厚さをt3よりも大きく設定し、その後、エッチングにより厚さをt3に調整するようにしても良い。厚み調整のエッチングは、ステップS40の直後でも良いし、ステップS50の後でも良い。
【0022】
ステップS50では、図4(c)に示すように、形成された厚さ1nm以下の緻密なSi膜200に対して炭素イオンを照射する。炭素イオンの照射には、イオンビーム法により炭素イオンを照射しても良いし、FCVA(Filtered Cathodic Vacuum Arc)法に代表されるようなカソーディックアークイオンプラズマ源を用いても良い。FCVA法については、例えば、特開2005−264255号公報に記載されている。また、ECR(Electron Cyclotron Resonance)法により原料ガスをイオン化するECRプラズマ源を利用しても良い。
【0023】
このようにSi層200に炭素イオンを照射すると、イオン照射時のエネルギーによりSi層のSiC化が促進され、基板加熱を行うことなくSiC単層膜が形成される。すなわち、本実施の形態における炭素イオンの照射は、炭素膜を積層するためではなく、Si層に炭素イオンを注入してSiC化を促進するためのものである。その結果、Si層がSiC化されて、SiCの単層膜を形成することができる。イオン照射のエネルギーにも依存するが、照射された炭素イオンはSi層200の表面から3〜5層目程度までは入り込むことができる。照射の際、炭素イオンの入射速度が大きいと、Si層のSiC化よりもSi層上への炭素膜形成がすすむため、炭素イオン入射速度を制御する必要がある。炭素イオンの入射速度は、製膜速度において十分の一nm程度が望ましい。
【0024】
(第2の形成方法)
図5〜図7はSiC膜の第2の形成方法を説明する図である。図5は、SiC膜形成の手順を示すフローチャートである。図6および7は、図3,4の場合と同様に、膜形成手順の各段階における断面を示したものである。なお、図6,7では、Si原子の図示は省略した。また、第2の形成方法においても、Si成膜にはイオンビームスパッタやマグネトロンスパッタ等のスパッタ法が用いられ、炭素イオンの照射には、イオンビーム法やカソーディックアークイオンプラズマ源やECRプラズマ源が用いられる。また、Si層のエッチングには、スパッタエッチング法、ECRエッチング法およびイオンビームエッチング法などが用いられる。
【0025】
ステップS110では、図2のステップS10と同様に基板表面1a上にSi層200を形成する(図6(a)参照)。膜厚も上記と同様のt1とされる。なお、図6では図示を省略したが、図3(a),(b)と同様に、基板表面1aから数層の初期欠陥層には隙間200aが形成される。
【0026】
ステップS120では、イオンビームエッチング等により、基板表面1aから1〜2層が残る程度(膜厚t2)までSi層200をエッチングする。その結果、エッチングイオンのエネルギーによりSi原子のマイグレーションが促進され、初期欠陥が改善されて隙間200aの割合が減少する。
【0027】
ステップS130では、厚さt2までエッチングされたSi層200に対して、上述したステップS50の場合と同様の方法で炭素イオンが照射される。この炭素イオン照射時のエネルギーによりSiC化が促進され、SiC層201が形成される。また、露出した隙間200aに照射されたCが入り込むことになり、Si層形成時に発生した初期欠陥が改善される。
【0028】
ステップS140では、ステップS120のエッチングとステップS130のSi成膜とが、予め設定された所定回数だけ行われたか否かを判定する。所定回数は、最終的に必要とされるSiC膜の厚さをt3としたとき、「所定回数=t3/t2」のように設定される。ステップS140でNOと判定されると、ステップS110に戻って図7(a)に示すように2回目のSi成膜が行われ、厚さt2のSiC層201の上に厚さt1のSi層200が新たに形成される。
【0029】
このSi層の形成の際に、SiC層201の欠陥部分(隙間)にSi原子が入り込み、SiC層201の緻密さが向上する。
【0030】
さらに、ステップS120に進んで、新たに形成したSi層200に対して、イオンビームエッチング等によるエッチング処理を行う(図6(b)参照)。すなわち、SiC層201との境界から1〜2原子層が残る程度(膜厚t2)までSi層200をエッチングし、エッチングエネルギーによりSi原子のマイグレーションを促進するとともに、Si層200の初期欠陥層を露出させる。
【0031】
ステップS130では、エッチングしたSi層200に対して、炭素イオンの照射を行う。その結果、上述した1回目の炭素イオン照射と同様の処理(SiCの形成、初期欠陥の改善)が、2回目のSi層200に対して行われる。このようにして、SiC層201が2層形成され、SiC膜の厚さはt2の2倍となる。このように、ステップS110からステップS130までの処理が所定回数行われてSiC膜の厚みがt3となると、ステップS140でYESと判定されて、一連のSiC膜形成処理が終了する。
【0032】
上述した第2のSiC膜形成方法では、Si層200を厚さt2(原子層で1〜2層)までエッチングし、それに炭素イオンを照射してSiC層201を形成する工程を繰り返すことにより、所望の厚さt1のSiC膜を形成するようにした。第1の形成方法では、膜厚t1のSi層を形成した後に炭素イオンを照射してSiC膜を形成する方法であるため、厚さ方向に炭素濃度の濃淡が生じやすい。すなわち、SiC膜の表面側ほど炭素濃度が高くなる。一方、第2の形成方法では、厚さt2毎にSiC膜を形成し、それを複数回行うことで所定厚さt1のSiC膜としているので、膜質をより均一にすることができる。このように形成方法により膜質が若干異なることになり、それらは用途に応じて使い分けすることができる。例えば、磁気ヘッドの保護膜として用いる場合には、防湿性とともに潤滑性も求められるので、表面ほど炭素濃度が高くて潤滑性に優れた第1の形成方法によるSiC膜が適している。
【0033】
(第3の形成方法)
図8はSiC膜の第3の形成方法を説明する図である。上述した第1および第2の形成方法では、基板上に形成されたSi膜に炭素イオンを照射することでSiC膜を形成したが、SiCターゲットを使用したスパッタにより、直接SiC膜を形成しても良い。しかし、従来のスパッタ成膜では、基板加熱を行って所定厚さt3のSiC膜を形成するのが一般的であり、磁性材料への成膜に適用するのは難しかった。
【0034】
一方、本実施の形態では、後述するように基板加熱をせずにスパッタ成膜を行うので、加熱を嫌う磁性材料への成膜に適用することができる。ただし、加熱を行わないと上述したSi層形成の場合と同様に初期欠陥層がSiC層に形成されるので、初期欠陥層の向上を図るために、図8に示すような手順でSiC膜を形成する。
【0035】
なお、第3の形成方法においても、SiC成膜にはイオンビームスパッタやマグネトロンスパッタ等のスパッタ法が用いられ、SiC層のエッチングには、スパッタエッチング法、ECRエッチング法およびイオンビームエッチング法などが用いられる。
【0036】
SiC膜形成においては、ターゲット材料がSiではなくSiCであることを除き、図2のステップS10からステップS40までに示したSi層の形成方法と同様の手順で行われる。すなわち、図8のステップS210では厚さt1のSiC層をスパッタ法により形成する。このスパッタ成膜の場合も基板加熱を行っていないので、基板表面との境界領域において初期欠陥層が形成されることになる。なお、ここではSiC膜の断面図は示さないが、図3においてSi原子をSiCに置き換えたものと考えればよい。
【0037】
ステップS220では、イオンビームエッチング等により、基板表面1aから1〜2層のSiCが残る程度(膜厚t2)までSiC層をエッチングして、エッチングエネルギーによりSiC原子のマイグレーションを促進するとともに、SiC層の初期欠陥層を露出させる。ステップS230では、スパッタによりSiCを堆積し、再び厚さt1のSiC層を形成する。このSiC成膜により初期欠陥層の隙間にSiCが入り込みながらSiCの堆積が行われる。
【0038】
ステップS240では、ステップS220のエッチング処理とステップS230のSiC成膜処理とが所定回数行われたか否かを判定する。所定回数は、図2のステップS30の場合と同様に設定される。エッチングおよび成膜の処理回数が所定回数に達するまでは、ステップS240でNOと判定されてステップS210へ戻り、ステップS220およびステップS230の処理が所定回数繰り返される。一方、ステップS240でYESと判定されると、ステップS250へ進む。ステップS250では、最終的なSiC膜が要求される所定厚さt3となるように、SiCのスパッタ成膜を行う。
【0039】
上述したように、本実施の形態のSiC膜形成方法は、磁性材料のように加熱を嫌う成膜対象に極薄の(例えば、1nm以下の)SiC膜を形成するものであって、スパッタ法によりSi層を形成した後に炭素イオンを照射してSiC膜を形成するものと、SiC膜をスパッタ法により形成するものとがある。そして、スパッタ成膜されたSi層またはSiC層の初期欠陥層が露出するまでエッチングして、エッチングエネルギーによりSiやSiCのマイグレーションを促進すると共に、初期欠陥層の欠陥部分(間隙)にSiやSiC原子が入り込むことにより初期欠陥層の改善を行うようにした。その結果、成膜対象の加熱を行わずに、極薄で耐食性および耐摩耗性に優れた緻密なSiC膜を形成することが可能となった。
【0040】
従来、磁気ヘッド用の保護膜として、Si膜から成る密着層とDLC(ダイヤモンドライクカーボン)膜との二層膜を形成する方法が知られているが、それぞれの膜の性能を十分機能させるためには、各々1nm程度の厚さを必要とする。そのため、保護膜全体の厚さは少なくとも2nm程度となってしまう。一方、本願では、1nm以下のSi層に炭素イオンを照射して炭化珪素化した単層膜であるため、1nm以下のSiC膜を形成することができる。そのため、加熱しながらの成膜が困難な磁気ヘッドの保護膜として、極薄のSiC膜を形成することができる。
【0041】
(変形例)
なお、上述した実施の形態において、SiC膜に対して絶縁性などの膜質調整を行う工程を追加しても良い。例えば、図2に示すステップS40の後、またはステップS50の後に、以下のような膜質調整工程を実施する。
【0042】
図9は、ステップS40の後に膜質調整工程を実施する場合の手順を示したものである。窒素イオンを照射すると、図9(a)に示すようにSi層200の表面領域がSiNに改質される。その後、ステップS50において炭素イオンが照射されると、図9(b)に示すようにSiN領域はSiCNになり、Si層はSiCとなる。窒素イオンの照射には、窒素イオンビームを照射するイオンビーム法を用いる。また、窒素イオンを含むECRプラズマ源などから窒素イオンを引き出して、照射しても良い。
【0043】
なお、窒素イオンに代えて酸素イオンを照射しても良いし、窒素イオンと酸素イオンの両方を同時または順に照射するようにしても良い。酸素イオンを照射した場合には、SiOが形成された後、炭素イオン照射によりSiOCとなる。また、窒素イオンと酸素イオンの両方を照射した場合にはSiONが形成され、その後炭素イオンを照射するとSiOCNが形成される。
【0044】
第2の形成方法の場合には、図5のステップS110からステップS130までの処理が繰り返し行われるが、最後の繰り返しを行った後、すなわちステップS140の後に膜質調整工程を入れても良いし、最後の繰り返しの前に膜質調整工程を入れても良い。この場合も、窒素イオンおよび酸素イオンの少なくとも一つを照射する。
【0045】
第3の形成方法の場合には、図8のステップS240の処理を行った後に膜質調整を行う。この場合も、窒素イオンおよび酸素イオンの少なくとも一つを照射する。
【0046】
上述した各実施形態はそれぞれ単独に、あるいは組み合わせて用いても良い。それぞれの実施形態での効果を単独あるいは相乗して奏することができるからである。また、本発明の特徴を損なわない限り、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではない。
【符号の説明】
【0047】
1:磁気ヘッドスライダ、1a:基板表面、200:Si層、200a:隙間、201:SiC層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
加熱を行わないスパッタ成膜法により被成膜面上に珪素膜を形成した後に、該被成膜面上のSi膜を初期欠陥層が露出するまでエッチングする第1の工程と、
前記第1の工程でエッチングされたSi膜の上に加熱を行わないスパッタ成膜法によりSi粒子を堆積して、該Si膜を所定膜厚のSi膜とする第2の工程と、
前記所定膜厚のSi膜に炭素イオンを照射して、該Si膜をSiC化する第3の工程と、を有することを特徴とするSiC膜形成方法。
【請求項2】
請求項1に記載のSiC膜形成方法において、
窒素イオンおよび酸素イオンの少なくとも一方を照射する工程を、前記第2の工程と前記第3の工程との間、または前記第3の工程の後に設けて、SiCが窒化された層、SiCが酸化された層およびSiCが酸窒化された層のいずれか一つがSiC膜に形成されることを特徴とするSiC膜形成方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載のSiC膜形成方法において、
前記第1の工程を複数回繰り返し行った後に、前記第2の工程を行うことを特徴とするSiC膜形成方法。
【請求項4】
加熱を行わないスパッタ成膜法により被成膜面上にSiC膜を形成した後に、該被成膜面上のSiC膜を初期欠陥層が露出するまでエッチングする第1の工程と、
前記第1の工程でエッチングされたSiC膜の上に加熱を行わないスパッタ成膜法によりSiC粒子を堆積して、該SiC膜を所定膜厚のSiC膜とする第2の工程と、を有することを特徴とするSiC膜形成方法。
【請求項5】
請求項4に記載のSiC膜形成方法において、
窒素イオンおよび酸素イオンの少なくとも一方を照射する工程を第2の工程の後に設けて、SiCが窒化された層、SiCが酸化された層およびSiCが酸窒化された層のいずれか一つがSiC膜に形成されることを特徴とするSiC膜形成方法。
【請求項6】
請求項4または5に記載のSiC膜形成方法において、
前記第1の工程を複数回繰り返し行った後に、前記第2の工程を行うことを特徴とするSiC膜形成方法。
【請求項7】
加熱を行わないスパッタ成膜法により被成膜面上にSi膜を形成する工程と、該Si膜を初期欠陥層が露出するまでエッチングする工程と、エッチングされたSi膜に炭素イオンを照射してSiC化してSiC層を形成する工程とを順に繰り返し行い、前記SiC層が複数積層された所定厚さのSiC膜を形成することを特徴とするSiC膜形成方法。
【請求項8】
請求項7に記載のSiC膜形成方法において、
繰り返し行われる前記SiC層形成工程の内の最後のSiC層形成工程の前または後に、窒素イオンおよび酸素イオンの少なくとも一方を照射する工程を設けて、SiCが窒化された層、SiCが酸化された層およびSiCが酸窒化された層のいずれか一つがSiC膜に形成されることを特徴とするSiC膜形成方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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