説明

T細胞免疫を調節するためのジアステレオマーペプチド

本発明は、ペプチド及び結合体が、T細胞媒介炎症性疾患の予防及び治療に効果がある、T細胞受容体アルファ膜貫通領域由来のジアステレオマーペプチド、及びこの親油性結合体を提供する。本発明は、これらのジアステレオマーペプチド及び結合体を含む医薬組成物、並びに炎症性疾患、自己免疫及び移植片拒絶反応を治療するためのこの使用を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、TCRα膜貫通領域由来のジアステレオマーペプチド及びこの親油性結合体、これらを含む医薬組成物、並びにT細胞媒介炎症性疾患、自己免疫及び移植片拒絶反応を治療するためのこの使用を提供する。
【背景技術】
【0002】
Tリンパ球(T細胞)は、免疫応答に関与する種々の異なる細胞型の1つである。正常な免疫系は厳密に制御されている一方、免疫応答の異常は珍しいことではない。不適切なT細胞応答が疾患の1つの構成要素となる、数多くのT細胞媒介炎症性疾患が知られている。これらには、T細胞に直接媒介される疾患、及び不適切なT細胞応答が、異常抗体の産生に寄与する疾患の両方が含まれる。
【0003】
幾つかの例では、免疫系は不適切に機能し、宿主の構成要素に対し、実際、これが異物であるかのように応答する。このような応答は、宿主免疫系が宿主自身の組織を攻撃する、自己免疫疾患をもたらす。免疫系の主要な制御因子であるT細胞は、このような自己免疫病態に直接的又は間接的に影響する。T細胞はまた、臓器移植拒絶反応又は骨髄(造血幹細胞)移植による移植片対宿主疾患において重要な役割を果たす。したがって、こうした免疫応答を制御することが、治療上望ましい。
【0004】
T細胞の活性は、主要組織適合性複合体(MHC)分子と関連してT細胞に提示される抗原により制御される。T細胞受容体(TCR)は、次いで、MHC−抗原複合体に結合する。抗原がMHCと複合体を形成すると、MHC−抗原複合体は、T細胞上の特定のTCRにより結合されるため、このT細胞の活性を変化させる。故に、CD3/TCRは、免疫修飾の魅力的な標的である。
【0005】
大多数の成熟T細胞のCD3/T細胞受容体(TCR)複合体は、CD3のγ、δ、ε及びζ鎖に結合したTCRαβヘテロ二量体である。この複合体は、TCR鎖の膜貫通領域とCD3サブユニットとの相互作用により安定化される。TCRと、主要組織適合性複合体分子(MHC)により提示されたペプチドとの相互作用は、CD3リン酸化を誘発する、TCRのコンフォメーション変化を誘導する。
【0006】
コアペプチド(CP)として示される、TCRα鎖膜貫通領域由来の9つのアミノ酸(aa)ペプチドは、インビトロ及びインビボでのT細胞の抗原特異的活性化を阻害する(Manolios等、1997年)。CPペプチドは、TCR分子との共局在化によりT細胞の抗原特異的活性化を阻害することで、TCR−CD3複合体の適切な会合を阻害すると想定された(Gerber等、2005年;Manolios等、1997年;Wang等、2002年;Wang等、2002年b;Bender等、2004年)。この相互作用は、CPの二次構造及びこれの2つの陽性残基の側鎖に依存すると考えられている。なぜなら、グリシンによるこれらの置換又は負に帯電したaaによる置換は、ペプチド活性を消失させるためである(Manolios等、1997年;Bender等、2004年)。本発明者は、最近、鏡像ペプチド(全D CP)が、野生型(全L CP)と同程度にTCRと会合することができることを立証した(Gerber等、2005年)。本発明者は、これは、螺旋キラリティーの変化に適応するため膜内で生じる全D CPの構造的再配向によるものであり、これがL分子との相互作用を可能にすると仮定した。
【0007】
T細胞受容体ペプチドを免疫関連疾患の治療法に使用することが、幾つか開示されている。例えば、米国特許第5,614,192号は、T細胞媒介疾患の重症度を減少させることができるペプチドを開示する。該ペプチドは、こうしたT細胞媒介疾患に特徴的なT細胞受容体の第2の相補性決定領域の少なくとも一部を含むアミノ酸配列を有する。
【0008】
WO94/19470は、サプレッサーT細胞により産生される可溶性T細胞受容体α鎖の予防又は治療有効量を含む、自己免疫疾患を治療するための予防及び治療組成物を開示する。
【0009】
WO97/43411は、T細胞受容体α鎖定常領域の実質的部分又は全部を含有するポリペプチドを開示する。該ポリペプチドは、免疫抑制効果を有するが、投与してもこれ自体に対する抗体産生の実質的原因にならない。この出願は、該ポリペプチドをコードするDNAのほか、活性成分としてこれらのポリペプチドを含有する医薬組成物を開示する。
【0010】
US6,057,294は、恐らくT細胞抗原受容体での作用により、T細胞に影響するペプチドであって、これらのペプチドの使用を含む、炎症性疾患状態及び免疫疾患状態の治療に有用なペプチドを開示する。該ペプチドは、以下の式である:A−B−C−D−E(Aは、欠如しているか又は1個若しくは2個の疎水性アミノ酸であり、Bは、正に帯電した1個のアミノ酸であり、Cは、3〜5個の疎水性アミノ酸からなる1個のペプチドであり、Dは、正に帯電した1個のアミノ酸であり、Eは、欠如しているか又は最大8個の疎水性アミノ酸である)。‘294特許は、D−異性体アミノ酸を有するペプチドの使用を開示又は示唆しない。
【0011】
Manolios等(1997年)は、トリスリンカーを介した、カルボキシル末端でのCPのパルミチン酸との結合を記載する。これは、インビトロでのT細胞のインターロイキン−2(IL−2)産生を、ペプチド単独よりも大幅に阻害する結果となった。
【0012】
激しく乱された二次構造を有するCP由来ペプチドが、この免疫抑制活性を保持できることを開示又は示唆する背景技術はない。背景技術は、CP由来ジアステレオマーペプチドに結合した脂肪酸を含む親油性結合体の産生及び使用を開示又は示唆しない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
T細胞媒介の炎症性疾患又は免疫疾患を治療又は改善する、及びT細胞媒介病態を改善する有効な手段が、長年切望されている。患者における免疫応答を制御するべく使用される従来の試薬及び方法は、望ましくない副作用ももたらし、効果も限られる。例えば、自己免疫疾患患者の治療に使用される免疫抑制試薬(例えば、シクロスポリンA、アザチオプリン、及びプレドニゾン)は、患者の全ての免疫応答も抑制するため、感染リスクを増加させ、非リンパ組織に対する有害な副作用の原因になりうる。さらに、疾患が進行し続ける間に、通常は疾患の症状のみが治療されうるため、重度の衰弱又は死をもたらす場合が多い。したがって、このような治療は理想的には、単に症状を低減するのではなく、不適切なT細胞応答を制御すべきである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、T細胞受容体アルファ(TCRα)膜貫通領域(TM)由来のジアステレオマーペプチド及びリポペプチド、これらを含む医薬組成物、並びにT細胞媒介炎症性疾患、自己免疫及び移植片拒絶反応を治療するためのこの使用を提供する。
【0015】
意外にも、コアペプチド(CP)として示される、TCRαTM由来の既知ペプチドの二次構造の破壊は、ペプチドの免疫抑制活性を消失させないことが、今回初めて開示される。本発明は、D及びLアミノ酸の両方を組み込むジアステレオマーCP(この結果得られるペプチドは、場合により脂肪酸に結合する可能性がある)は、意外にも、天然CPに比べ、ペプチドに優れた免疫抑制活性を付与できることを初めて開示する。
【0016】
本発明は、TCRαTMのフラグメントに基づくアミノ酸配列を有する、ジアステレオマーペプチド、この誘導体及び結合体を提供する。1つの実施形態では、フラグメントは、本明細書ではCPとして示される、マウス由来TCRαTM由来のペプチドであり、アミノ酸配列GLRILLLKV(配列番号1)を有する。他の実施形態では、ペプチドは、他の種、例えば、哺乳類、鳥類、爬虫類、魚類及び両生類のTCRαTM由来である。配列番号4〜9として示される、選択された種のTCRαTMフラグメントの相同な特定の非限定例は、以下の表1に示される。
【0017】
第1の態様によれば、少なくとも2個の塩基性アミノ酸残基を含むTCRアルファ鎖膜貫通領域由来のジアステレオマーペプチドが提供される。
【0018】
用語「ジアステレオマーペプチド」は、D−アミノ酸残基及びL−アミノ酸残基の両方を有するペプチドを意味する。D−アミノ酸残基の位置は、T細胞活性化においてペプチドの阻害活性が保持される限り、変わりうる。ある特定の実施形態では、ペプチドは、少なくとも2個のD−アミノ酸残基を含む。
【0019】
1つの実施形態では、ペプチドは、少なくとも1個のアミノ酸残基が、D−異性体立体配置である、配列番号1に記載のアミノ酸配列を含む。
【0020】
別の実施形態では、ジアステレオマーペプチドは、配列番号2に記載のアミノ酸配列(D−アミノ酸残基は、太字で下線付きである):
【化1】


を有する2D−CPである。
【0021】
本発明の種々の実施形態によれば、CP並びにこの相同体のジアステレオマーなペプチド誘導体、フラグメント、類似体、伸長物、結合体及び塩が提供される。前記ペプチドは、少なくとも2個の塩基性アミノ酸残基を含み、未知のタンパク質又はペプチドである。ある実施形態では、2個の塩基性アミノ酸残基は、3〜5個の疎水性(非極性)アミノ酸残基により隔てられてよい。ある特定の実施形態では、2個の塩基性アミノ酸残基は、4個の疎水性アミノ酸残基により隔てられる。こうしたCP由来ジアステレオマーペプチドの特定の非限定例のアミノ酸配列は、以下の表2に示されている。
【0022】
本発明によるペプチド、この誘導体、フラグメント、類似体、伸長物及び塩は、好ましくは、5〜50アミノ酸長であり、より好ましくは、5〜30アミノ酸長であり、及び最も好ましくは、7〜15アミノ酸長である。
【0023】
別の特定の実施形態では、前記ジアステレオマーペプチドは、ヒトTCRαTM由来である。ある他の特定の実施形態では、前記ペプチドは、配列番号10に記載のアミノ酸配列(
【化2】


D−アミノ酸残基は、太字で下線付きである)又はこの誘導体、フラグメント、類似体、伸長物、結合体及び塩を有する。
【0024】
特定の他の実施形態によれば、ジアステレオマーペプチドは、以下の表2に記載された配列番号12〜17のいずれか1つに記載のアミノ酸配列を有する。他の特定の実施形態では、ジアステレオマーペプチドは、配列番号19〜28のいずれか1つに記載のアミノ酸配列を有する。さらに別の特定の実施形態では、ジアステレオマーペプチドは、配列番号37〜47のいずれか1つに記載のアミノ酸配列を有するCP類似体又は誘導体である(表2参照)。
【0025】
別の実施形態では、ジアステレオマーペプチドは、親油性部分に結合している。
【0026】
本発明の1つの実施形態によれば、親油性部分は、脂肪酸である。1つの実施形態では、脂肪酸は、飽和脂肪酸、不飽和脂肪酸、単不飽和脂肪酸、多価不飽和脂肪酸及び分岐脂肪酸からなる群から選択される。現在好ましい実施形態によれば、脂肪酸は、少なくとも3個、好ましくは少なくとも6個、及びより好ましくは少なくとも8個の炭素原子からなる。本発明のペプチドに結合することができる脂肪酸の例には、オクタン酸(OA)、デカン酸(DA)、ウンデカン酸(UA)、ドデカン酸(DDA;ラウリン酸)、ミリスチン酸(MA)、パルミチン酸(PA)、ステアリン酸、アラキジン酸、リグノセリン酸、パルミトレイン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、アラキドン酸、トランス−ヘキサデカン酸、エライジン酸、ラクトバシル酸、ツベルクロステアリン酸、及びセレブロン酸が挙げられるが、これらに限定されない。好ましい実施形態では、脂肪酸は、オクタン酸である。特定の他の現在好ましい実施形態によれば、脂肪酸は、デカン酸、ウンデカン酸、ドデカン酸、ミリスチン酸、及びパルミチン酸から選択される。
【0027】
脂肪酸は、ペプチドのN末端、C末端、又はペプチド鎖に沿った任意の他の遊離官能基、例えば、リシンのεアミノ基に結合することができる。
【0028】
ある特定の実施形態では、ジアステレオマーペプチド親油性結合体(リポペプチド)は、以下の表2に示された、配列番号29に記載のアミノ酸配列を有する。他の特定の実施形態では、ジアステレオマーリポペプチドは、配列番号30〜36のいずれか1つに記載のアミノ酸配列を有する。ある他の特定の実施形態では、ジアステレオマーリポペプチドは、配列番号48〜50のいずれか1つに記載のアミノ酸配列を有する(表2参照)。
【0029】
別の態様では、少なくとも2個の塩基性アミノ酸残基を含むT細胞受容体(TCR)アルファ鎖膜貫通領域由来のペプチドであって、前記ペプチドのアミノ酸残基が全て「D」異性体立体配置であるペプチドが提供される。
【0030】
別の態様では、本発明は、配列番号3(
【化3】


、全D CPとして示されている;D−アミノ酸残基は、太字で下線付きである)及び配列番号11(
【化4】


、ヒト全D CPとして示されている;D−アミノ酸残基は、太字で下線付きである)のいずれか1つに記載のアミノ酸配列を有するエナンチオマーペプチドを提供する。他の実施形態では、本発明は、脂肪酸に結合している配列番号3及び11のいずれか1つに記載のアミノ酸配列を有するペプチドを含む、親油性結合体を提供する。
【0031】
本発明のジアステレオマー及びエナンチオマーなペプチド及び結合体は、以下を含むがこれらに限定されない、多くのT細胞媒介病態に効果がある:多発性硬化症、関節リウマチ、若年性関節リウマチ、自己免疫性神経炎、全身性エリテマトーデス、乾癬、I型糖尿病、シェーグレン病、甲状腺疾患、重症筋無力症、サルコイドーシス、自己免疫性ブドウ膜炎、炎症性腸疾患(クローン大腸炎及び潰瘍性大腸炎)、自己免疫性肝炎、特発性血小板減少症、強皮症、円形脱毛症、溶血性貧血、糸球体腎炎、皮膚炎及び天疱瘡、T細胞媒介炎症性疾患、アレルギー及び移植片拒絶反応。
【0032】
別の実施形態では、本発明は、活性成分として本発明のペプチド又は結合体、及び薬学的に許容可能な担体、賦形剤又は希釈剤を含む医薬組成物を提供する。
【0033】
他の態様では、本発明は、T細胞媒介病態の治療又は予防を必要とする被験者におけるT細胞媒介病態の治療又は予防方法であって、被験者に、本発明のペプチド又は結合体の治療有効量を投与することを含む方法を提供する。
【0034】
1つの実施形態では、T細胞媒介病態は、自己免疫疾患である。別の実施形態では、自己免疫疾患は、多発性硬化症、関節リウマチ、若年性関節リウマチ、自己免疫性神経炎、全身性エリテマトーデス、乾癬、I型糖尿病、シェーグレン病、甲状腺疾患、重症筋無力症、サルコイドーシス、自己免疫性ブドウ膜炎、炎症性腸疾患(クローン大腸炎及び潰瘍性大腸炎)、自己免疫性肝炎、特発性血小板減少症、強皮症、円形脱毛症、溶血性貧血、糸球体腎炎、皮膚炎及び天疱瘡からなる群から選択される。特定の実施形態では、自己免疫疾患は、関節リウマチである。
【0035】
別の実施形態では、T細胞媒介病態は、T細胞媒介炎症性又はアレルギー性疾患である。特定の実施形態では、炎症性又はアレルギー性疾患は、遅延型過敏症である。
【0036】
別の実施形態では、T細胞媒介病態は、移植片拒絶反応である。
【0037】
別の態様では、本発明は、T細胞活性化の阻害を必要とする被験者におけるT細胞活性化の阻害方法であって、被験者に、本発明のペプチド又は結合体の治療有効量を投与することを含む方法を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0038】
本発明のこれら及び他の実施形態は、以下の記述、図、実施例、及び特許請求の範囲との関連においてよく理解されるであろう。
【0039】
本発明は、ペプチド及び結合体が、T細胞媒介炎症性疾患を予防又は治療するのに効果がある、TCRα膜貫通領域コアペプチド(CP)由来のジアステレオマーペプチド、及びこの親油性結合体を提供する。本発明は、これらのジアステレオマーペプチド及び結合体を含む医薬組成物、並びに炎症性疾患、自己免疫及び移植片拒絶反応を治療するためのこの使用を提供する。
【0040】
ジアステレオマーペプチドの使用は、当技術分野で記載されている(例えば、WO2005/060350及びUS2004/053847参照)。
【0041】
意外にも、CP由来のジアステレオマーペプチドは、CPに導入された2つのD aaが、CPの二次構造を乱すことが観察されているにもかかわらず、天然ペプチドの免疫抑制活性を保持することが今回開示される(図1)。
【0042】
本発明は、一部には、膜に結合すると、2D−CP(配列番号2)と呼ばれるジアステレオマーペプチドは、野生型の機能性を示し、TCR複合体と共局在化し(図2)、抗原に誘導されたT細胞活性化を妨げる(図3、4及び5)という驚くべき所見に基づく。著しくは、ジアステレオマーペプチド2D−CPは、野生型の全L CPよりも強力な免疫抑制活性を示した。インビトロでは、2D−CPは、全L CPよりも低濃度でより活性であった(図3)。インビボでは、2D−CPの投与は、全L CPと比較した場合、AAの臨床徴候のより大きな減少をもたらし(図4)、治療設定においてDTH反応を阻害するのに使用される場合、全L CPよりも2倍効果があった(図5)。
【0043】
ペプチド、誘導体及び結合体
本発明のペプチドは、当技術分野でよく知られた方法により合成又は調製することができる。ペプチドは、メリフィールドの固相ペプチド合成法(1963年)により合成することができる。或いは、本発明のジアステレオマーペプチドは、当技術分野でよく知られた標準溶液法(例えば、Bodanszky、1984年)を用いて、又はペプチド合成に関する当技術分野で知られたいずれか他の方法により合成することができる。
【0044】
本発明は、本明細書でコアペプチド(CP):GLRILLLKV(配列番号1)として示される、TCRα膜貫通領域のフラグメントに基づくアミノ酸配列を有する、このペプチド誘導体及び結合体を提供する。特に指定のない限り、本明細書に記載のアミノ酸残基は、「L」異性体又は「D」異性体のどちらかであり得る。
【0045】
具体的には、本発明は、少なくとも2個の塩基性アミノ酸残基を含むT細胞受容体アルファ鎖(TCRα)膜貫通領域(TM)由来のジアステレオマーペプチドを提供する。
【0046】
用語「由来の」とは、当業者に知られた適切な手段のいずれか1つ、例えば、当技術分野の標準プロトコルによる化学合成などを用いた配列知識に基づくペプチド構築を言う。TcRα TM配列由来のペプチドは、ペプチドが、少なくとも2個の正に帯電したアミノ酸を含み、及び前記ペプチドが、T細胞活性化を阻害する能力を保持する限り、天然TcRα TM配列の類似体、フラグメント、結合体又は誘導体、及びこれらの塩であってよい。本発明の合成ジアステレオマーペプチドは、Lアミノ酸、及び天然Lアミノ酸のD異性体の両方を含み、他の人工アミノ酸(アミノ酸模倣物)又は非天然アミノ酸を含んでいてもよい。TcRα TM配列は、典型的には、疎水性配列により隔てられる2個の正に帯電したアミノ酸を含む。有利には、本発明のTcRα TM由来ペプチドは、3〜5個、又は別の実施形態では、4個の疎水性アミノ酸残基により隔てられる2個の正に帯電したアミノ酸を含む。
【0047】
TcRαの膜貫通領域に含まれるアミノ酸配列は、例えば、膜貫通領域予測アルゴリズムを用いて、当業者により容易に決定されうる。TcRα TM配列は、典型的には、約20〜30アミノ酸長の間である。例えば、配列番号18で示された、ヒトTcRα TMは、以下の表2に示されている。
【0048】
疎水性は、一般に、非極性溶媒と水との間のアミノ酸の分配に関して定義される。疎水性アミノ酸は、非極性溶媒を好むような酸である。自然発生する疎水性アミノ酸の例は、脂肪族アミノ酸アラニン、イソロイシン、ロイシン、メチオニン、プロリン、及びバリン、並びに芳香族アミノ酸トリプトファン及びフェニルアラニンである。これらのアミノ酸は、タンパク質内の残基として見出された場合、脂肪族側鎖の長さ及び芳香族側鎖の大きさの1つの機能として疎水性を付与する。疎水性アミノ酸もまた、例えば、α−アミノイソ酪酸など、遺伝情報によりコードされないアミノ酸を含む。
【0049】
1つの実施形態によれば、本発明は、ジアステレオマーペプチドの少なくとも1個のアミノ酸残基、又は別の実施形態では少なくとも2個のアミノ酸残基が、D−異性体立体配置である、配列番号1に記載のアミノ酸配列を含むジアステレオマーペプチドを提供する。
【0050】
別の実施形態では、ジアステレオマーペプチドは、配列番号2に記載のアミノ酸配列
【化5】


(3位及び8位の太字で下線付きのアミノ酸残基は、「D」異性体立体配置である)を有する2D−CPである。他の実施形態では、ペプチド又は誘導体が、以下に詳述の通り、既知のタンパク質又はペプチドではないという条件で、この誘導体、フラグメント、類似体、伸長物、結合体及び塩が意図される。
【0051】
本発明のペプチドは、好ましくは、5から50個のアミノ酸、より好ましくは5から30個のアミノ酸、及び最も好ましくは7から15個のアミノ酸である。本発明のジアステレオマーペプチドは、免疫抑制活性が保持される限り配列番号2のアミノ酸配列と同一である必要はなく、下記の通り、好ましくは増加されることを理解すべきである。
【0052】
用語「類似体」は、本明細書に具体的に示された配列の1つと実質的に同一のアミノ酸配列を有するいずれかのペプチドであって、1個又は複数個の残基が、機能的に類似した残基で保存的に置換されており、本明細書に記載された能力を示すペプチドを含む。保存的置換の例には、イソロイシン、バリン、ロイシン又はメチオニンなど1個の非極性(疎水性)残基の別の残基に対する置換、アルギニン及びリシン間、グルタミン及びアスパラギン間など1個の極性(親水性)残基の別の残基に対する置換、グリシン及びセリン間の置換、リシン、アルギニン若しくはヒスチジンなど1個の塩基性残基の別の残基に対する置換、又はアスパラギン酸若しくはグルタミン酸など、1個の酸性残基の別の残基に対する置換が挙げられる。
【0053】
ペプチド誘導体とは、種々の変化を受けやすい本発明のペプチドのアミノ酸配列を含む分子を言い、こうした変化が、ペプチドの免疫抑制活性を破壊しない化学修飾、置換、挿入、伸長及び欠失を含むが、これらに限定されない。及びこのような誘導体は、既知のペプチド又はタンパク質ではない。
【0054】
化学修飾を有するペプチド誘導体は、例えば、側鎖又は官能基の反応により化学的に誘導体化された1個又は複数個の残基を有するペプチドのいずれかの化学的誘導体を含む。このような誘導体化された分子には、例えば、遊離アミノ酸残基が、誘導体化されてアミン塩酸塩、p−トルエンスルホニル基、カルボベンゾキシ基、t−ブチルオキシカルボニル基、クロロアセチル基又はホルミル基を形成するような分子が挙げられる。遊離カルボキシル基は、誘導体化されて塩、メチル及びエチルエステル若しくは他のタイプのエステル、又はヒドラジドを形成することができる。遊離ヒドロキシル基は、誘導体化されて0−アシル又は0−アルキル誘導体を形成することができる。ヒスチジンのイミダゾール窒素は、誘導体化されてN−im−ベンジルヒスチジンを形成することができる。また、化学誘導体として、20種類の標準アミノ酸残基の1個又は複数個の自然発生アミノ酸誘導体を含有するペプチドも挙げられる。例えば、4−ヒドロキシプロリンは、プロリンを置換することができ、5−ヒドロキシリシンは、リシンを置換することができ、3−メチルヒスチジンは、ヒスチジンを置換することができ、ホモセリンは、セリンを置換することができ、オルニチンは、リシンを置換することができる。ある特定の実施形態によれば、ペプチドは、C末端でアミド化することができる。
【0055】
本発明のペプチド誘導体は、由来となった配列と実質的に同一となるように構築される。好ましくは、本発明のジアステレオマーペプチドは、このアミノ酸配列において、2D−CP(配列番号2)のアミノ酸配列に対し、少なくとも約40%の同一性、より好ましくは少なくとも約50%、より好ましくは少なくとも約70%、及び最も好ましくは少なくとも約90%の同一性を有することができる。本発明のペプチド誘導体は、疎水性アミノ酸配列、好ましくは3〜5個の疎水性アミノ酸により隔てられた2個の塩基性アミノ酸残基のコンセンサス配列を含むこと理解すべきである。
【0056】
本発明のペプチドはまた、T細胞活性化において必要な阻害活性が維持される限り、本発明のペプチド配列、本明細書に示された配列に対して、1つ又は複数の残基の付加及び/又は欠失を有するいずれかのペプチドも含む。用語「フラグメント」又は「活性フラグメント」は、故に、本発明の完全長ペプチド(例えば、2D−CP)のペプチド部分に関する。ペプチド部分は、少なくとも2個の正に帯電したアミノ酸を保持し、対応する完全長ペプチドに特有の少なくとも1つの活性を有する。故に、例えば、TCRαTMのフラグメントは、完全長TMを除いて、TM部分と同一のアミノ酸配列を含む。アミノ酸伸長物は、単一のアミノ酸残基又は複数の残基の伸展からなることができる。伸長物は、ジアステレオマーペプチドのカルボキシ又はアミノ末端、及びペプチド内の位置で作製されうる。このような伸長物は、一般に、2から15アミノ酸長の範囲となり、2個の正に帯電したアミノ酸残基間の距離は、好ましくは、5アミノ酸長を超えない。特定の実施形態では、ジアステレオマーペプチドは、既知のタンパク質又はペプチドではないという条件で、完全長TCRα膜貫通領域の誘導体、又はこの活性フラグメントを含むことができる(例えば、それぞれ、表2及び1の配列番号18及び4〜9参照)。ある特定の実施形態では、ジアステレオマーペプチドは、少なくとも1個のアミノ酸残基が、「D」異性体立体配置である、TCRα鎖の膜貫通領域に対応する配列を含むが、TCRα鎖の他の領域、例えば、細胞質領域、細胞外領域又はこの実質的部分を欠いている。
【0057】
ある特定の実施形態によれば、ジアステレオマーペプチドは、以下の表2に示された、配列番号12〜17のいずれか1つに記載のアミノ酸配列を有する。他の特定の実施形態では、ジアステレオマーペプチドは、配列番号19〜28のいずれか1つに記載のアミノ酸配列を有する(表2参照)。さらに別の特定の実施形態では、ジアステレオマーペプチドは、配列番号37〜47のいずれか1つに記載のアミノ酸配列を有するCP類似体又は誘導体である(表2参照)。
【0058】
本発明のジアステレオマーペプチドは、別のタンパク質又はポリペプチドと結合(coupled)又は結合(conjugated)して結合体を産生することができる。このような結合体は、単独で使用されるペプチドより有利であり得る。例えば、本発明のジアステレオマーペプチドは、T細胞媒介病態に関与する抗原に結合することができる。作用のいずれかの理論又は機序に拘ろうとしなければ、このような結合体のワクチン接種は、結合抗原に対するT細胞活性化の低下をもたらすことができ、これにより、前記疾患標的抗原に対する寛容原性免疫応答を誘導することができ、或いは、前記抗原に応答するT細胞のサイトカインプロフィールを変えることができる(Th1からTh2参照)。ペプチドは、本発明が関係する当技術分野でよく知られているように、アミド結合を介して直接結合することができ、二重リガンドペプチドとして合成することができ、リンカー部分により連結することができる。
【0059】
自己免疫疾患に関与する既知の抗原の例には、ミエリン塩基性タンパク質、ミエリンオリゴデンドロサイトグリコプロテイン及びミエリンプロテオリピドタンパク質(多発性硬化症に関与)、アセチルコリン受容体コンポーネント(重症筋無力症に関与)、コラーゲン及びマイコバクテリアhspペプチド180〜188(関節炎に関与)、ラミニン及びp53ペプチド(全身性エリテマトーデスに関与)、並びにp277(ヒトHSP60の437〜460位)及びグルタミン酸脱炭酸酵素(GAD)などインスリン依存性糖尿病に関与するAgが挙げられるが、これらに限定されない。
【0060】
別の実施形態では、本発明は、脂肪酸に結合したジアステレオマーペプチドであって、ジアステレオマーペプチドの少なくとも1個のアミノ酸残基が、D−異性体立体配置、並びにこの類似体、フラグメント、誘導体及び伸長物である、配列番号1に記載のアミノ酸配列を含むジアステレオマーペプチドを含む親油性結合体を提供する。1つの実施形態では、ジアステレオマーペプチドの少なくとも2個のアミノ酸残基は、D−異性体立体配置である。
【0061】
本明細書及び特許請求の範囲を通じて同じ意味で使用される用語「親油性結合体」及び「リポペプチド」は、親油性部分、例えば、脂肪酸に共有結合したペプチドを含む結合体を指す。
【0062】
本発明のペプチドに結合することができる脂肪酸は、飽和脂肪酸、不飽和脂肪酸、単不飽和脂肪酸、多価不飽和脂肪酸及び分岐脂肪酸から選択される。典型的には、脂肪酸は、例えば、オクタン酸(OA)、デカン酸(DA)、ウンデカン酸(UA)、ドデカン酸(ラウリン酸)、ミリスチン酸(MA)、パルミチン酸(PA)、ステアリン酸、アラキジン酸、リグノセリン酸、パルミトレイン酸、オレイン酸、リノレン酸、アラキドン酸、トランス−ヘキサデカン酸、エライジン酸、ラクトバシル酸、ツベルクロステアリン酸、及びセレブロン酸など、少なくとも3個、好ましくは少なくとも6個、及びより好ましくは少なくとも8個の炭素原子からなる。1つの実施形態では、親油性部分は、オシル基である。別の特定の実施形態では、前記脂肪酸は、デカン酸、ウンデカン酸、ドデカン酸及びミリスチン酸から選択される。
【0063】
脂肪酸は、N末端、C末端、又はペプチド鎖に沿ったいずれか他の遊離官能基、例えば、リシンのεアミノ基に結合することができる。脂肪酸のペプチドとの結合は、ペプチド合成中のアミノ酸のペプチドとの結合と同様に行われる。脂肪酸は、ペプチドと共有結合することを理解すべきである。用語「結合(coupling)」及び「結合(conjugation)」は、本明細書では同じ意味で使用され、脂肪酸のペプチドとの共有結合をもたらし親油性結合体を生ずる、化学反応のことを言う。
【0064】
1つの特定の実施形態では、親油性結合体は、ペプチドに直接結合される。別の実施形態では、親油性部分は、リンカーを介してペプチドに結合している。
【0065】
1つの特定の実施形態では、ジアステレオマーペプチドは、配列番号29、又は他の実施形態では、30〜36に記載のアミノ酸配列を有するリポペプチドである(表2)。他の特定の実施形態では、ジアステレオマーペプチドは、配列番号48〜50のいずれか1つに記載のアミノ酸配列を有するCP類似体又は誘導体リポペプチドである(表2参照)。
【0066】
本発明のペプチドは、マウス由来TCRαのTM由来、又は種間に進化的関係があることから、この相同体、すなわち、これと大幅に関連のある配列由来であってよい。表1は、種々の種の野生型TCRα膜貫通領域(TM)フラグメントを示す。高度に保存された塩基性アミノ酸は、太字イタリック体で示されている。
表1−TCRαTM配列
【表1】

【0067】
別の特定の実施形態では、前記ジアステレオマーペプチドは、ヒトTCRαTM由来である。ある他の特定の実施形態では、前記ペプチドは、配列番号10に記載のアミノ酸配列(
【化6】


D−アミノ酸残基は、太字で下線付きである)又はこの誘導体、フラグメント、類似体、伸長物、結合体及び塩を有する。
【0068】
表2は、本発明の典型的なジアステレオマーペプチド及びリポペプチド、並びに天然(全L)及び本明細書に記載されたエナンチオマー(全D)TM由来配列を含む、TCRα膜貫通領域(TM)由来ペプチドを示す。D−アミノ酸残基は、太字で下線付きである。
表2−TCRαTM由来ペプチド
【表2−1】


【表2−2】

【0069】
脂肪酸は、変えることができること、及び開示されたリポペプチドは、非限定的な代表的実施形態であることを理解すべきである。
【0070】
分子内相互作用は、立体的に制約される。したがって、配列特異的相互作用が、D及びL−立体異性体間で生じることはないと考えられた。驚くべきことに、CP(D−CP)のD−立体異性体は、T細胞活性化を阻害することができることが開示される。L−CP及びD−CPは、膜においてTCRと共局在化し、配列特異的な形でT細胞活性化を阻害した。
【0071】
別の態様では、少なくとも2個の塩基性アミノ酸残基を含むT細胞受容体(TCR)アルファ鎖膜貫通領域由来のペプチドであって、前記ペプチドのアミノ酸残基が全て「D」異性体立体配置であるペプチドが提供される。
【0072】
別の態様では、本発明は、配列番号3(
【化7】


、全D CPとして示されている;D−アミノ酸残基は、太字で下線付きである)及び11(
【化8】


、ヒト全D CPとして示されている;D−アミノ酸残基は、太字で下線付きである)のいずれか1つに記載のアミノ酸配列を有するペプチドを提供する。種々の実施形態では、この類似体、フラグメント及び誘導体が提供される。前記類似体、フラグメント及び誘導体における全てのアミノ酸残基は、D−異性体立体配置である。別の特定の実施形態では、前記ペプチドは、そのC末端でアミド化される。
【0073】
他の実施形態では、本発明は、脂肪酸に結合した配列番号3及び11のいずれか1つに記載のアミノ酸配列を有するペプチドを含む、親油性結合体を提供する。
【0074】
医薬組成物
別の態様によれば、本発明は、本発明の原則によるペプチド又は結合体の治療有効量、及び薬学的に許容可能な担体を含む医薬組成物を提供する。
【0075】
本発明の実践において有用な医薬組成物は、典型的には、薬学的に許容可能な塩の形態として医薬組成物に処方される本発明のペプチド又は結合体を含有する。薬学的に許容可能な塩は、無機酸及び有機酸を含む、薬学的に許容可能な非毒性酸から調製することができる。こうした酸には、酢酸、ベンゼンスルホン酸、安息香酸、カンファースルホン酸、クエン酸、エタンスルホン酸、フマル酸、グルコン酸、グルタミン酸、臭化水素酸、塩酸、イセチオン酸、乳酸、マレイン酸、リンゴ酸、マンデル酸、メタンスルホン酸、粘液酸、硝酸、パモン酸、パントテン酸、リン酸、コハク酸、硫酸、酒石酸、p−トルエンスルホン酸などが挙げられる。
【0076】
薬学的に許容可能な塩は、無機塩基及び有機塩基を含む薬学的に許容可能な非毒性塩基から調製することができる。無機塩基由来の塩には、アルミニウム、アンモニウム、カルシウム、銅、鉄、第二鉄、第一鉄、リチウム、マグネシウム、第二マンガン、第一マンガン、カリウム、ナトリウム、亜鉛などが挙げられる。薬学的に許容可能な有機非毒性塩基由来の塩には、第一アミン、第二アミン、及び第三アミン、天然の置換アミンを含む置換アミン、環状アミン、及び塩基性イオン交換樹脂、例えば、アルギニン、ベタイン、カフェイン、コリン、N,N’−ジベンジルエチレンジアミン、ジエチルアミン、2−ジエチルアミノエタノール、2−ジメチルアミノエタノール、エタノールアミン、エチレンジアミン、N−エチル−モルホリン、N−エチルピペリシン、グルカミン、グルコサミン、ヒスチジン、ヒドラバミン、イソプロピルアミン、リシン、メチルグルカミン、モルホリン、ピペラジン、ピペリシン、ポリアミン樹脂、プロカイン、プリン、テオブロミン、トリエチルアミン、トリメチルアミン、トリプロピルアミン、トロメタミンなどの塩が挙げられる。
【0077】
本発明のペプチドの治療有効量は、患者に投与した場合、以下に記載の通り、T細胞活性化を阻害することができる。
【0078】
活性成分にペプチドを含有する医薬組成物の調製は、当技術分野ではよく知られている。典型的には、こうした組成物は、液体溶液又は懸濁液の注射剤として調製される。しかし、注射前に懸濁又は可溶化することができる固形もまた、調製されうる。調製は、乳化することもできる。活性治療成分は、薬学的に許容可能で活性成分に適合する、無機及び/又は有機担体と混合される。担体は、適切な稠度又は形を組成物に付与するため医薬組成物に添加される不活性物質を多かれ少なかれ含む、薬学的に許容可能な賦形剤(ビヒクル)である。適切な担体は、例えば、水、生理食塩水、デキストロース、グリセロール、エタノールなど、及びこれらの組成物である。さらに、所望ならば、組成物は、湿潤剤又は乳化剤、pH緩衝剤、安定剤、及び抗酸化剤など、活性成分の有効性を高める少量の補助剤を含有することができる。薬剤の処方及び投与法は、参照により本明細書に完全に組み込まれている、「レミントンの薬科学(Remington’s Pharmaceutical Science)」,Mack Publishing Co.,Easton,PAの最新版に見ることができる。
【0079】
注射では、医薬組成物の活性成分は、水溶液において、好ましくは、ハンクス液、リンゲル液、又は生理食塩緩衝液などの生理的に適合可能な緩衝液において処方することができる。
【0080】
非経口投与用の医薬組成物には、水溶性型の活性調製物の水溶液が挙げられる。さらに、活性成分の懸濁液は、適切な油性又は水性の注射懸濁液として調製することができる。適切な親油性溶媒又はビヒクルには、ゴマ油などの油脂、又はオレイン酸エチル、トリグリセリド、若しくはリポソームなどの合成脂肪酸エステルが挙げられる。水性注射懸濁液は、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ソルビトール、又はデキストランなど、懸濁液の粘性を増加する物質を含有することができる。場合により、懸濁液は、高濃度溶液の調製を可能にするため、適切な安定剤又は活性成分の可溶性を増加する物質を含有することもできる。或いは、活性成分は、使用前に、適切なビヒクル、例えば、滅菌した、ピロゲンフリーの、水性溶液などと構成するため、粉末形態であってもよい。
【0081】
本発明の医薬組成物は、局所及び病巣内適用にも有用である。本明細書では、用語「局所」とは、特定の表面領域に関することを意味し、前記表面の特定の領域に適用される局所剤は、これが適用される領域のみに影響するであろう。本発明は、幾つかの実施形態では、本発明のペプチド又は結合体を活性成分として含む局所組成物を提供する。幾つかの実施形態では、本発明は、基本的に本発明の前記ペプチド及び結合体からなる組成物を提供する。
【0082】
局所医薬組成物は、非水溶性(油中水型)クリーム又は水溶性(水中油型)クリーム、軟膏(ointment)、ローション、ゲル、懸濁液、水性又は共溶媒溶液、軟膏(salve)、乳剤、創傷被覆材、被覆された包帯又は他のポリマー被覆剤、スプレー、エアロゾール、リポソーム及び薬剤の局所投与に適したいずれか他の薬学的に許容可能な担体を含むことができるが、これらに限定されない。
【0083】
当技術分野でよく知られている通り、担体の物理化学的特性は、増粘剤、ゲル化剤、湿潤剤、凝集剤、懸濁化剤などを含むがこれらに限定されない、種々の賦形剤を添加して操作することができる。これらの任意の賦形剤は、適用が、より快適又は便利となりうるように、得られた製剤の物理化学的特性を決定づけるであろう。選択された賦形剤は、好ましくは、製剤の貯蔵安定性を高めるべきであり、いかなる場合も製剤の貯蔵安定性を妨げてはならないことが、当業者には理解されるであろう。
【0084】
軟膏及びクリームは、例えば、適切な増粘剤及び/又はゲル化剤を添加して水性又は油性基剤と共に処方することができる。ローションは、水性又は油性基剤と共に処方することができ、一般には、1種又は複数種の乳化剤、安定化剤、分散剤、懸濁化剤、増粘剤、又は着色剤も含有するであろう。例えば、クリーム製剤は、活性化合物に添加して、(a)疎水性成分、(b)親水性水性成分、及び(c)少なくとも1種の乳化剤を含むことができる。クリームの疎水性成分は、鉱油、黄色軟パラフィン(バセリン)、白色軟パラフィン(バセリン)、パラフィン(固形パラフィン)、重パラフィン油、含水羊毛脂(含水ラノリン)、羊毛脂(ラノリン)、羊毛アルコール(ラノリンアルコール)、ペトロラタム及びラノリンアルコール、蜜ロウ、セチルアルコール、アーモンド油、落花生油、ヒマシ油、硬化ヒマシ油ワックス、綿実油、オレイン酸エチル、オリーブ油、ゴマ油、及びこれらの混合物からなる群により例示される。クリームの親水性成分は、水単独、プロピレングリコール、或いは薬学的に許容可能な緩衝液又は溶液により例示される。乳化剤は、クリームを安定化させ、液滴合体を回避するためにクリームに添加される。乳化剤は、表面張力を低下させ、安定な、コヒーレント界面薄膜を形成する。適切な乳化剤は、コレステロール、セトステアリルアルコール、羊毛脂(ラノリン)、羊毛アルコール(ラノリンアルコール)、含水羊毛脂(含水ラノリン)、及びこれらの混合物からなる群により例示することができるが、これらに限定されない。
【0085】
局所懸濁液は、例えば、活性化合物に添加して、(a)水性培地、及び(b)懸濁化剤又は増粘剤を含むことができる。場合により、追加の賦形剤が添加される。適切な懸濁化剤又は増粘剤は、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース及びヒドロキシプロピルセルロースなどのセルロース誘導体、アルギン酸及びこの誘導体、キサンタンガム、グアーガム、アラビアガム、トラガカント、ゼラチン、アカシア、ベントナイト、デンプン、微結晶セルロース、ポビドン及びこれらの混合物からなる群により例示することができるが、これらに限定されない。水性懸濁液は、場合により、例えば、湿潤剤、凝集剤、増粘剤など、追加の賦形剤を含有することができる。適切な湿潤剤は、グリセロールポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール及びこれらの混合物、並びに界面活性剤からなる群により例示されるが、これらに限定されない。懸濁液中の湿潤剤の濃度は、湿潤剤の実現可能な最低濃度により懸濁液内で医薬品粉末の最適分散を実現するように選択されるべきである。適切な凝集剤は、電解質、界面活性剤、及びポリマーからなる群により例示されるが、これらに限定されない。懸濁化剤、湿潤剤及び凝集剤は、薬学的有効物質の安定な懸濁液を形成するのに有効な量で提供される。
【0086】
局所ゲル製剤は、例えば、活性化合物に添加して、少なくとも1種のゲル化剤及び1種の酸化合物を含むことができる。適切なゲル化剤は、親水性ポリマー、天然及び合成ゴム、架橋タンパク質及びこれらの混合物からなる群により例示することができるが、これらに限定されない。ポリマーは、例えば、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、並びにアミロース、デキストラン、キトサン、プルラン及びその他の多糖類の類似の誘導体;アルブミン、ゼラチン及びコラーゲンなどの架橋タンパク質;カルボポールなどのアクリルベースのポリマーゲル、ユードラギット(Eudragit)及びヒドロキシエチルメタクリレートベースのゲルポリマー、ポリウレタンベースのゲル並びにこれらの混合物を含むことができる。
【0087】
本発明の局所医薬組成物は、さらに、溶液として処方することができる。こうした溶液は、活性化合物に添加して、水、緩衝液、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、グリセリン、グリコフォロール(glycoforol)、クレモフォール、乳酸エチル、乳酸メチル、N−メチルピロリドン、エトキシル化トコフェロール及びこれらの混合物などの有機溶媒からなる群により例示されるがこれらに限定されない少なくとも1種の共溶媒を含む。
【0088】
本発明の組成物は、経粘膜送達、例えば、経皮送達に使用することができる。本明細書では、用語「経皮」送達とは、医薬品の送達部位を言う。典型的には、送達は、血液循環が意図される。しかし、送達は、表皮内又は皮内送達、すなわち、角質層の下の、それぞれ表皮又は皮層への送達を含むことができる。経粘膜投与では、浸透するバリアに適した浸透剤が、製剤として使用される。このような浸透剤は、当技術分野において一般的に知られている。
【0089】
2種類の一般的な経皮パッチデザイン、すなわち、薬剤に対し透過性である基底面を有する貯蔵層内に薬剤が含有される貯蔵層タイプ、及び皮膚に添付されるポリマー層で薬剤が分散される、マトリックスタイプがある。両タイプのデザインは、典型的には、バッキング層及び使用前に除去される内部放出ライナー層も含む。こうした経皮パッチの調製は、当業者の能力の範囲内である。治療薬の経皮送達に適したパッチの例としては、例えば、米国特許第5,560,922号、第4,559,222号、第5,230,898号及び第4,668,232号を参照のこと。
【0090】
経口投与では、医薬組成物は、活性化合物を当技術分野でよく知られた薬学的に許容可能な担体と組み合わせて、容易に処方することができる。こうした担体は、患者による経口摂取のため、医薬組成物が、錠剤、ピル、糖衣錠、カプセル、液体、ゲル、シロップ、スラリー、懸濁液などとして処方されるのを可能にする。経口使用のための薬理製剤は、固体賦形剤を用いて、場合によりその結果得られる混合物を粉砕し、所望の適切な補助剤を添加後、顆粒混合物を加工して作製し、錠剤又は糖衣錠コアを得ることができる。適切な賦形剤は、特に、ラクトース、スクロース、マンニトール、又はソルビトールを含む、糖などの充填剤;例えば、トウモロコシデンプン、小麦デンプン、米デンプン、ジャガイモデンプン、ゼラチン、トラガカントガム、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチル−セルロース、及びカルボメチルセルロースナトリウムなどのセルロース製剤;及び/又はポリビニルピロリドン(PVP)などの生理学的に許容可能なポリマーである。所望であれば、架橋ポリビニルピロリドン、アガール、又はアルギニン酸若しくはアルギニン酸ナトリウムといったこの塩などの崩壊剤が、添加されてよい。
【0091】
糖衣錠コアは、適切な被覆により提供される。この目的のため、場合によりアラビアゴム、タルク、ポリビニルピロリドン、カルボポールゲル、ポリエチレングリコール、二酸化チタン、ラッカー溶液、及び適切な有機溶媒又は溶液混合液を含有することができる濃縮糖液が、使用されうる。染料又は色素は、活性化合物量の同定のため又は活性化合物量の異なる組合せを特性化するため、錠剤又は糖衣錠被覆に添加することができる。
【0092】
経口使用することができる医薬組成物には、ゼラチン製プッシュフィットカプセルのほか、ゼラチン製ソフトカプセル、密閉カプセル、及びグリセロール又はソルビトールなどの可塑剤が挙げられる。プッシュフィットカプセルは、ラクトースなどの充填剤、デンプンなどの結合剤、タルク又はステアリン酸マグネシウムなどの潤滑剤、及び、場合により、安定剤と混合して活性成分を含有することができる。ソフトカプセルでは、活性成分は、油脂、流動パラフィン、又は液体ポリエチレングリコールなどの適切な液体中で溶解又は懸濁することができる。さらに、安定剤が添加されうる。経口投与用製剤は全て、選択された投与経路に適した用量であるべきである。
【0093】
口腔投与では、組成物は、従来の様式で処方された錠剤又はトローチ剤の形をとることができる。
【0094】
治療的使用
他の態様では、本発明は、T細胞媒介病態の症状の治療又は予防を必要とする被験者におけるT細胞媒介病態の症状の治療又は予防方法であって、被験者に、本発明のペプチド又は結合体の治療有効量を投与することを含む方法を提供する。
【0095】
1つの態様では、本発明は、T細胞媒介病態の治療を必要とする被験者におけるT細胞媒介病態の治療方法であって、被験者に、少なくとも2個の塩基性アミノ酸残基を含むT細胞受容体(TCR)アルファ鎖膜貫通領域由来のジアステレオマーペプチドの治療有効量を投与することを含む方法を提供する。1つの実施形態では、ペプチドは、ジアステレオマーペプチドの少なくとも1個のアミノ酸残基が、D−異性体立体配置である、配列番号1に記載のアミノ酸配列を含む。別の実施形態では、ジアステレオマーペプチドの少なくとも2個のアミノ酸残基が、D−異性体立体配置である。
【0096】
別の実施形態では、ジアステレオマーペプチドは、配列番号2に記載のアミノ酸配列を有する。別の実施形態では、ペプチドは、ペプチド又は誘導体が、既知のタンパク質又はペプチドではないという条件で、配列番号2のいずれか1つに記載のアミノ酸配列、並びにこの誘導体、フラグメント、類似体、伸長物、結合体及び塩を含む。別の実施形態では、ジアステレオマーペプチドは、配列番号10に記載のアミノ酸配列を有する。
【0097】
ある特定の実施形態によれば、ジアステレオマーペプチドは、配列番号12〜17、19〜28及び37〜47のいずれか1つに記載のアミノ酸配列を有する。
【0098】
別の実施形態では、ジアステレオマーペプチドは、親油性部分に結合している。
【0099】
本発明の1つの実施形態によれば、親油性部分は、飽和脂肪酸、不飽和脂肪酸、単不飽和脂肪酸、多価不飽和脂肪酸及び分岐脂肪酸からなる群から選択される脂肪酸である。現在好ましい実施形態によれば、脂肪酸は、少なくとも3個、好ましくは少なくとも6個、及びより好ましくは少なくとも8個の炭素原子からなる。別の実施形態では、脂肪酸は、オクタン酸(OA)、デカン酸(DA)、ウンデカン酸(UA)、ドデカン酸(DDA;ラウリン酸)、ミリスチン酸(MA)、パルミチン酸(PA)、ステアリン酸、アラキジン酸、リグノセリン酸、パルミトレイン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、アラキドン酸、トランス−ヘキサデカン酸、エライジン酸、ラクトバシル酸、ツベルクロステアリン酸、及びセレブロン酸からなる群から選択される。
【0100】
1つの特定の実施形態では、ジアステレオマーペプチドは、配列番号29に記載のアミノ酸配列を有する。他の特定の実施形態では、ジアステレオマーペプチドは、配列番号30〜36及び48〜50のいずれか1つに記載のアミノ酸配列を有する。
【0101】
用語「T細胞媒介病態」とは、不適切又は有害なT細胞応答が、疾患又は障害の病因又は病態1つの構成要素となるいずれかの状況を言う。この用語は、T細胞に直接媒介される疾患、及び不適切又は有害なT細胞応答が、異常抗体の産生に寄与する疾患(例えば、病的IgG、IgA又はIgE抗体産生に関連した自己免疫疾患又はアレルギー性疾患)の両方、及び移植片拒絶反応を含むことが意図される。
【0102】
本明細書では、用語「治療(treating)」は、予防的及び治療的(therapeutic)使用を含み、患者における特定の障害の症状緩和、特定の障害に関連した解明可能な測定の改善、又は特定の免疫応答(移植拒絶反応など)の予防を含む。
【0103】
種々の実施形態では、被験者は、ヒト及びヒト以外の動物から選択されてよい。
【0104】
本発明の1つの実施形態では、T細胞媒介病態は、以下を含むがこれらに限定されないT細胞媒介自己免疫疾患である:多発性硬化症、自己免疫性神経炎、全身性エリテマトーデス(SLE)、乾癬、I型糖尿病(IDDM)、シェーグレン病、甲状腺疾患、重症筋無力症、サルコイドーシス、自己免疫性ブドウ膜炎、炎症性腸疾患(クローン大腸炎及び潰瘍性大腸炎)、自己免疫性肝炎及び関節リウマチ。1つの特定の実施形態では、自己免疫疾患は、関節リウマチである。他の疾患には、特発性血小板減少症、強皮症、円形脱毛症、溶血性貧血、免疫媒介腎疾患(例えば、糸球体腎炎)、皮膚炎及び天疱瘡が挙げられるが、これらに限定されない。
【0105】
別の実施形態では、T細胞媒介病態は、喘息(特にアレルギー性喘息)、過敏性肺疾患、過敏性肺炎、遅延型過敏症、間質性肺疾患(ILD)(例えば、特発性肺腺維症、又は関節リウマチ若しくは他の炎症性疾患に関連したILD)などの炎症性又はアレルギー性疾患を含むがこれらに限定されない、T細胞媒介炎症性疾患である。
【0106】
他の実施形態では、T細胞媒介病態は、同種移植拒絶反応及び移植片対宿主疾患(GVHD)を含む、移植片拒絶反応である。臓器拒絶反応は、免疫応答を介した移植組織の宿主免疫細胞破壊により生じる。同様に、免疫応答は、GVHDにも関与しているが、この場合では、外来性の移植免疫細胞が、宿主組織を破壊する。免疫応答、特にT細胞活性化を阻害する、本発明のジアステレオマーペプチドの投与は、臓器拒絶反応又はGVHDの予防において有効な療法となりうる。1つの実施形態では、移植される免疫細胞は、移植される前に本発明のジアステレオマーペプチドと共にインキュベートされる。
【0107】
別の態様では、本発明は、T細胞活性化の阻害を必要とする被験者におけるT細胞活性化の阻害方法であって、被験者に、少なくとも2個の塩基性アミノ酸残基を含むT細胞受容体(TCR)アルファ鎖膜貫通領域由来のジアステレオマーペプチドの治療有効量を投与することを含む方法を提供する。1つの実施形態では、ペプチドは、ジアステレオマーペプチドの少なくとも1個のアミノ酸残基が、D−異性体立体配置である、配列番号1に記載のアミノ酸配列を含む。別の実施形態では、ジアステレオマーペプチドの少なくとも2個のアミノ酸残基は、D−異性体立体配置である。
【0108】
別の実施形態では、ジアステレオマーペプチドは、配列番号2に記載のアミノ酸配列を有する。別の実施形態では、ペプチドは、ペプチド又は誘導体が、既知のタンパク質又はペプチドではないという条件で、配列番号2に記載のアミノ酸配列並びにこの誘導体、フラグメント、類似体、伸長物、結合体及び塩を含む。別の実施形態では、ジアステレオマーペプチドは、配列番号10に記載のアミノ酸配列を有する。
【0109】
ある他の特定の実施形態によれば、ジアステレオマーペプチドは、配列番号12〜17、19〜28及び37〜47のいずれか1つに記載のアミノ酸配列を有する。
【0110】
別の実施形態では、ジアステレオマーペプチドは、親油性部分に結合している。
【0111】
本発明の1つの実施形態によれば、親油性部分は、飽和脂肪酸、不飽和脂肪酸、単不飽和脂肪酸、多価不飽和脂肪酸及び分岐脂肪酸からなる群から選択される脂肪酸である。現在好ましい実施形態によれば、脂肪酸は、少なくとも3個、好ましくは少なくとも6個、及びより好ましくは少なくとも8個の炭素原子からなる。別の実施形態では、脂肪酸は、オクタン酸(OA)、デカン酸(DA)、ウンデカン酸(UA)、ドデカン酸(DDA;ラウリン酸)、ミリスチン酸(MA)、パルミチン酸(PA)、ステアリン酸、アラキジン酸、リグノセリン酸、パルミトレイン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、アラキドン酸、トランス−ヘキサデカン酸、エライジン酸、ラクトバシル酸、ツベルクロステアリン酸、及びセレブロン酸からなる群から選択される。
【0112】
1つの特定の実施形態では、ジアステレオマーペプチドは、配列番号29に記載のアミノ酸配列を有する。他の特定の実施形態では、ジアステレオマーペプチドは、配列番号30〜36及び48〜50のいずれか1つに記載のアミノ酸配列を有する。
【0113】
別の態様では、本発明は、T細胞媒介病態の治療及びT細胞活性化の阻害を必要とする被験者における、T細胞媒介病態の治療及びT細胞活性化の阻害方法であって、被験者に、少なくとも2個の塩基性アミノ酸残基を含むT細胞受容体(TCR)アルファ鎖膜貫通領域由来のペプチドの治療有効量を投与することを含み、アミノ酸残基が全て「D」異性体立体配置である方法を提供する。
【0114】
別の態様では、本発明は、T細胞媒介病態の治療又はT細胞活性化の阻害を必要とする被験者における、T細胞媒介病態の治療又はT細胞活性化の阻害方法であって、被験者に、配列番号3及び11のいずれか1つに記載のアミノ酸配列を有するペプチド、又はこの親油性結合体の治療有効量を投与することを含む方法を提供する。
【0115】
医薬組成物は、静脈内、筋肉内、注射、経口、鼻腔内、腹腔内、皮下、直腸、局所、又は、滑液などの他の領域を含むが、これらに限定されない、種々の局所及び全身送達経路により送達することができる。組成物の送達は、経皮パッチを介した拡散によるなど、経皮的にも意図される。1つの特定の実施形態では、局所及び経皮投与経路は、例えば、DTH及び接触性皮膚炎に対し、意図される。
【0116】
組成物は、投与剤形と適合可能な方法で、及び治療有効量で投与される。投与量は、治療される被験者、及び被験者の血中止血系が活性成分を利用する能力に依存する。投与に必要な活性成分の正確な量は、開業医の判断に依存し、各個人に特有である。
【0117】
本明細書では、用語「治療有効量」とは、被験者に投与された場合、T細胞活性化を阻害することができる医薬組成物の量を言う。本発明のペプチドの活性を検出するためのアッセイは、T細胞抗原特異的増殖の阻害、並びに実施例に記載の、アジュバント関節炎及びDTHを含むがこれらに限定されない、インビボ疾患モデルの阻害を含むことができるが、これらに限定されない。しかし、抗原特異的T細胞活性化の阻害を検出するための他の方法が、当技術分野ではよく知られており、本発明のペプチド活性の評価に使用されてよい。好ましくは、本発明のペプチドの治療有効量は、インビトロアッセイ又はインビボアッセイで測定した場合、T細胞活性化を、少なくとも10パーセント、より好ましくは少なくとも50パーセント、及び最も好ましくは少なくとも90パーセント低減(阻害)する量である。好ましくは、医薬組成物は、本明細書でさらに記載される患者におけるT細胞媒介病態を阻害するのに有用である。この実施形態では、治療有効量は、患者に投与した場合、T細胞媒介病態を阻害する、好ましくは根絶するのに十分な量である。本発明のペプチド誘導体又は結合体の好ましい単回投与量は、体重kgあたり約0.8μgから約8mg、好ましくは体重kgあたり約8μgから約800mg、及びより好ましくは体重kgあたり約20μgから約300μgである。例えば、局所投与では、典型的には、全身投与量の5〜10倍に等しい投与量が使用されてよい。典型的には、医師は、個々の患者に最も適する実際の投与量を決定するであろう。及びこれは、特定の患者の年齢、体重及び奏効により変わるであろう。当然、高用量又は低用量範囲がメリットとなる個々の例もあり得、このような例は、本発明の範囲内である。本発明のペプチド誘導体又は結合体は、例えば、上述の単回投与量を1日1回又は週1回投与することができる。
【0118】
本発明による疾患の治療法は、単一の活性薬剤として、又は別の治療法と併用しての本発明の医薬組成物の投与を含めることができる。本発明の治療法は、別の治療法と並行して、別の治療法前、又は別の治療法後であってよい。
【0119】
以下の実施例は、本発明の幾つかの実施形態をより充分に説明するために示される。しかし、これらは、本発明の幅広い範囲を限定するものとして解釈されるべきではない。
【実施例】
【0120】
A.ジアステレオマーペプチド
ペプチド合成及び蛍光標識
ペプチドを、以前に記載されている通り(Kliger等、1997年;Merrifield等、1982年)、PAM−アミノ酸樹脂(0.15meq)の固相により合成した。合成ペプチドを、0.05%TFAにおける20〜60%アセトニトリルの直線勾配を用いてCカラムでRP−HPLCにより60分間精製した(>98%均一性)。ペプチドを、アミノ酸分析及び質量分析にかけ、これらの組成を確認した。特に指定のない限り、DMSO中の濃縮ペプチド原液を、使用前のペプチド凝集を回避するのに使用した。樹脂結合ペプチドを、5−カルボキシテトラメチルローダミン、スクシニミジルエステル(ローダミン−SE)で処理した。ローダミンとの反応は、2%ジイソプロピルエチルアミン含有DMF中であった。蛍光プローブを、2当量を超えて使用し、樹脂結合N末端ローダミン標識ペプチドを形成した(Gerber及びShai、2000年;Gerber等、2004年)。1時間後、樹脂をDMF、次いで塩化メチレンで完全に洗浄した。精製ペプチドは全て、分析RP−HPLC(Gerber及びShai、2000年)により均一である(>98%)ことを示した。
【0121】
CD分光
ペプチドのCDスペクトルは、Aviv 202分光偏光計(Aviv、レイクウッド、NJ)で測定した。スペクトルを、1mm経路長で温度規定の石英光学セルにより走査した。各スペクトルを、260から190nmの波長範囲で、平均化時間20秒で1nm間隔にて記録した。ペプチドを、HO又は1%LPCミセルにおいて50μM濃度でテストした。
【0122】
分子動力学シミュレーション
本発明者は、Insight IIソフトウェア(Accelrys、サンディエゴ、CA、USA)を用いて、理想的なα−ヘリックス構造をもとに、全L CP(野生型)及び2D−CP(ジアステレオマー)ペプチドの構造をモデル化した。2D−CPでは、Arg及びLysを、D−エナンチオマーと置換した。これらの構造を、分子動力学シミュレーションにおいて使用し、これらの構造安定性を比較した。シミュレーションは、真空で300Kのコンシステント原子価力場(consistent valence force field)(cvff)により10psで右巻きα−へリックスにおいて行った。使用した制約はなかった。シミュレーションにより作成した構造を、最小化後に当初の構造と比較し、炭素アルファ(CA)のRMSDを、Insight IIソフトウェアのDecipherモジュールを用いて算出した。
【0123】
脂質二重層モデルでは、シミュレーションシステムは、107 DMPC分子、3655水分子及び調べられるペプチドからなる。シミュレーションボックスを中性に保つため、2個の水分子を、2個の対Clアニオンで置換した。DMPC膜の開始コンフォメーションは、カルガリー大学D.P.Tielemanのグループサイトからダウンロードした(http://moose.bio.ucalgary.ca/index.php?page=Downloads)。シミュレーション及びデータ分析は、Gromacs 3.2.1スイート(Berendsen等、1995年)を用いて行った。システムは、定圧及び定温(NPT)下で弱結合を維持した(Berendsen等、1984年)。1バールの定圧を、最適な分子密度を可能にするため、シミュレーションボックスの3方向に、結合定数τ=1.0psで独立に結合した。温度槽を、結合定数イオン、水、脂質及びタンパク質の分子に、310K及びτ=0.1psで別個に結合した。静電相互作用及びレナード−ジョーンズ相互作用のカットオフ距離を、それぞれ15Å及び12Åに設定した。隣接原子リストを、20フェムト秒(fs)ごとにアップデートした。長距離の静電相互作用を、Particle Mesh Ewald(PME)和を用いて算出した(Darden等、1993年)。結合長を、LINCSアルゴリズムを用いて制約した(Hess等、1997年)。脂質パラメータの向上のために改良された融合原子GROMOS−96力場の修正版を使用した(van Gunsteren等、1996年)。全ての極性水素原子を、明示的に処理したのに対し、脂肪族水素原子は、力場で暗示的に記述した。フレキシブルシンプル点電荷(flexible simple point charge)(SPC)水ポテンシャル記述(Berendsen等、1981年)を使用した。総シミュレーション時間は、最初の100psの制限ランとは別に、10nsとした。シミュレーション中は、2fs時間ステップを使用した。CPU時間は、インテル2.7GHzジオンプロセッサでナノ秒あたり約36時間であった。
【0124】
動物
2カ月齢の雌のルイスラットを使用した。ラットは、ワイツマン科学研究所の動物育種センターにおいて無菌条件下で飼育し、維持した。8週齢の雌のBALB/cマウスを、同様の無菌条件下で維持した。実験は、ワイツマン科学研究所の所内動物管理使用委員会の監督及びガイドライン下で行った。
【0125】
蛍光顕微鏡法
活性化したA2b T細胞(van Eden等、1988年)(10細胞/試料)を、パラ−ホルムアルデヒド4%含有PBS100μlで15分間、氷上でインキュベートした。次いで、試料を、冷たいPBSで洗浄し、1100rpmにて7分間遠心分離した。次いで、BSA1%含有PBSを、非特異的結合を防止するため室温で添加した。30分後、TCRに対するFITC標識抗体を、1:100の希釈で添加し、2.5時間インキュベートした。TCRのペプチドとの共局在化では、ローダミン2D−CPを、最終濃度1μM(DMSO原液)で添加し、5分間インキュベートした。次いで、試料を、PBSで1回洗浄し、顕微鏡用スライドに添加した。
【0126】
次いで、細胞を、蛍光共焦点顕微鏡下で観察した。FITC励起は、フルオロフォアの退色を最小化するためレーザーを20%パワーに設定して、488nmとした。蛍光データは、505〜525nmから回収した。ローダミン励起は、レーザーを5%パワーに設定して、543nmとした。蛍光データは、560nm以上から回収した。
【0127】
FITC(ドナー)及びローダミン(アクセプター)間の蛍光エネルギー転移を、ローダミンプローブが退色した領域のFITC蛍光の増加として検出した。退色は、レーザーを100%に設定して543nmで6秒間、点励起により達成した。FITC蛍光の増加は、自己蛍光が原因でないことを検証するため、退色を、最初は488nmレーザーを用いて、次いで543nmで行った。505〜525nm又は560<のどちらにおいても信号は観察されず、自己蛍光の可能性は排除された。
【0128】
蛍光標識ペプチドのTCR分子との免疫共沈降
活性化したA2b T細胞(2×10)を、CP又は2D−CP(25μg/ml)或いは2G−CP存在下で37℃にて1時間培養し、0.1ml溶解緩衝液で15分間、氷上で溶解した(Adachi等、1996年)。不溶性物質を、4℃にて10分間、10.000gで遠心分離により除去した。次いで、溶解物を、ラットTCR又はMHCクラスIに対する抗体に結合したプロテインA−プラスアガロースビーズ(Santa Cruz Bitechnology Inc.、サンタクルス、カリフォルニア、USA)と共に一晩インキュベートした。ラットTCR(クローンR73)又はHSP60(クローンLK1)に対し反応する抗体を、研究室で各ハイブリドーマから精製した。ラットCD28に対する抗体、アクチン及びラットMHCクラスIは、Serotec(オックスフォード、UK)から購入した。4℃で一晩インキュベートした後、ビーズを溶解緩衝液で洗浄し、10分間煮沸し、タンパク質上清を、4〜20% SDS−PAGEにかけた。免疫共沈降したペプチドの存在を、Typhoon 9400可変モード撮像装置により検出した。
【0129】
T細胞増殖
T細胞増殖アッセイは、Mtで免疫したラット由来のLNCを用いて行った。PPD及び65 kDa熱ショックタンパク質(HSP65)のMt176−90ペプチド(Quintana等、2002年)に対する強いT細胞応答が検出できる場合、膝下及び鼠径LNCを、不完全フロインドアジュバント(IFA)中のMtを注射後26日目に除去した。LNCを、2×10細胞/ウェルの濃度で培養し、5×10 A2b T細胞を、以前に記載されている通りに調製した、ウェルあたり、照射した5×10胸腺抗原提示細胞の存在下で刺激した(van Eden等、1985年)。細胞を、種々の濃度の試験下ペプチド及びPPD又はMt176−90の存在下で、抗原有り又は抗原無しで、200μl丸底マイクロタイターウェルに4連で播種した。培養物を、7.5%COの加湿雰囲気で37℃にて72時間インキュベートした。T細胞応答は、インキュベーションの最後の18時間で添加した、[メチル−H]−チミジン(Amersham、バッキンガムシャー、UK;1μCi/ウェル)の取り込みにより検出した。T細胞増殖実験の結果を、ペプチド非存在下で抗原刺激により誘発したT細胞増殖に対する阻害の%として示す。
【0130】
AAの誘導及び評価
インビボでのT細胞活性化に与えるCPの影響をテストするため、実験的T細胞媒介自己免疫疾患アジュバント関節炎(AA)を使用した。AAは、尾の基底にIFA(10mg/ml)で懸濁したMt 50μlを注射して誘導した。AA誘導時に、各ラットは、IFA 50μlで溶解し、AAを誘導するのに使用したMt/IFAと混合した全L CP、2D−CP又は2GCP対照ペプチド(又はPBS)100μgも投与された。AA誘導日は、0日目とした。疾患重症度は、各動物の4肢全てを直接観察して評価した。0から4の間の相対スコアを、関節の炎症、発赤及び変形の程度に基づき、各肢に割り当てた。したがって、各動物の最大となるスコアは、16であった(Quintana等、2002年)。平均AAスコア(±SEM)を、各実験群について示す。関節炎はまた、キャリパーで後肢径を測定して定量化した。測定は、AA誘導当日及び26日後(AAピーク時)に行った。結果を、各群の動物全てについて2値間の差の平均±SEMで示す。疾患をスコア化する者は、群のアイデンティティを盲検化された。
【0131】
PPDに対する遅延型過敏反応
PPD20μl(PBSの0.5mg/ml)を、AA誘導後16日目に各ラットの右耳の耳介に皮内注射した。滅菌PBS 20μlを、対照として左耳に注射した。耳の厚さを、ノギスを用いて48時間後に測定し、左右の耳の差として表した(Quintana等、2005年)。
【0132】
オキサザロンに対する遅延型過敏反応
5匹のメスの近交系BALB/cマウス(The Jackson Laboratory)群を、アセトン/オリーブ油[4:1(vol/vol)]に溶解した2%オキサゾロン100μlを局所適用し、剪毛した腹部皮膚で感作した。DTH感受性は、耳の両側に10μlずつ局所適用した、アセトン/オリーブ油中の0.5%オキサゾロン20μlでマウスを曝露して、5日後に誘発した。耳の一定の領域を、曝露直前及び曝露24時間後に、ミツトヨエンジニアズマイクロメータ(Mitutoyo engineer’s micrometer)で測定した。耳の腫張を測定する者は、マウス群のアイデンティティについて分かっていなかった。DTH反応を、10〜2mm単位で平均±SEMとして表した、曝露後の耳の腫張の増加で示す。曝露1時間後、マウスの耳を、いずれも40μl DMSOで溶解した、全L CP又は2D−CPで局所処理した。ペプチド治療活性を、「未治療マウス」についてはDMSO単独による治療、陽性対照としてはデキサメタゾン(生理食塩中100μg/ml)による治療と比較した。
【0133】
統計的有意
InStat2.01プログラム(Graph Pad Software、サンディエゴ、CA)を、統計分析に使用した。スチューデントtテスト及びマン−ホイットニーUテスト(両側)を行い、異なる実験群間の有意差をアッセイした。
【0134】
実施例1 2D−CPは安定なα−ヘリカル構造に欠ける
最近、本発明者らは、CPのT細胞活性化に対する阻害活性は、ペプチドキラリティーに依存しないことを示した。TCR/CD3複合体と相互作用しT細胞活性化を妨げる能力に対する、二次構造及び側鎖配列の寄与の差を分析するため、本発明者らは、CPの2個の陽性残基(Arg及びLys)をこれらのD−エナンチオマー(2D−CP)で置換した。D aaのLペプチドへの挿入は、aa配列を保ちながら二次構造を不安定化することが記載されている(図1)。配列特異性をテストするため、本発明者らは、2個の陽性残基が、グリシンに変異した既知の変異体(Gerber等、2005年;Manolios等、1997年)を合成した。実施例1〜5に使用されたCPペプチドの指定及びaa配列は、以下の通りである。
全L CP(野生型):GLRILLLKV(配列番号1)。
2D−CP(ジアステレオマー):
【化9】


(配列番号2;D−aaは太字で下線付きである)。
2G−CP(対照):
【化10】


(配列番号51;Gly変異は太字イタリック体である)。
【0135】
2つのD aaのCPペプチドへの導入は、二次構造を不安定化することが期待される。本発明者は、2つの実験条件:HO、及び1%リソホスファチジル−コリン(LPC)ミセルにおいて、2D−CPペプチドの円偏光二色性(CD)スペクトルを試験した(図1B)。後者は、膜の疎水性環境を模倣する。全L CPは、以前の報告と同様、ミセル中でα−ヘリカル二次構造を有した(Gerber等、2005年;Ali等、2001年)。期待された、2D−CPペプチドの有意な二次構造は見られなかった(図1B)。
【0136】
本発明者らはさらに、以下に記載されている通り、全L CP及び2D−CPの二次構造の安定性を、分子動力学シミュレーションを行って比較した。
【0137】
(i)真空での分子動力学シミュレーション:分子動力学シミュレーションの結果得られる二次構造の比較は、全L CPが、2D−CP変異体では失われるα−ヘリカル構造を維持することを示す(図1C)。本発明者は、インサイトIIソフトウェアのDecipher分析パッケージを使用して全L CP及び2D−CPペプチドの安定性を比較した。分子構造としてのRMSD増加は、当初の構造から逸れ、いったん新規の安定したコンフォメーションが得られると停滞期に入る。図1Cは、平衡到達後の全L CP及び2D−CPを示す。全L CPが、ヘリカル構造を維持したのに対し、2D−CPは螺旋性を失っていた。2つのペプチドについてCAのRMSDを比較した場合、野生型全L CP及び2D−CPはどちらも、真空で約4ps後、平衡化することが見出された。平衡相に対し算出したRMSDは、全L CP及び2D−CPそれぞれ、2.16及び3.39である。2D−CPのRMSDは、全L CPのRMSDより60%高く、この場合もやはり、2D−CPが、全L CPより安定性の低い二次構造を示すことを示している。
【0138】
(ii)脂質二重層モデルでの分子動力学シミュレーション:本発明者はさらに、脂質二重層モデルにおいて10ナノ秒間、分子動力学シミュレーションを行って全L CP及び2D−CPの二次構造の安定性を比較した。分子動力学シミュレーションの結果得られる二次構造の比較は、全L CPが、2D−CP変異体では失われるそのα−ヘリカル構造を維持することを示す。全L CP及び2D−CPペプチドの安定性は、平衡状態で比較した。分子構造としてのRMSD増加は、当初の構造から逸れ、いったん新規の安定したコンフォメーションが得られると停滞期に入る。全L CPが、ヘリカル構造を維持したのに対し、2D−CPは螺旋性を失っていた。2つのペプチドについてCAのRMSDを比較した場合、野生型全L CP及び2D−CPはいずれも、脂質二重層で約4ns後、平衡化することが見出された。平衡相に対し算出したRMSDは、全L CP及び2D−CPそれぞれ、0.25nm(図1D)及び0.4nm(図1E)である。2D−CPのRMSDは、全L CPのRMSDより62.5%高く、この場合もやはり、2D−CPが、全L CPより安定性の低い二次構造を示すことを示している。2つのペプチドの、二重層への挿入後の膜密度に与える影響に、有意差は認められなかった。
【0139】
結論として、このコンピュータ分析と、CDスペクトルのコンピュータ分析を併せた結果、2つのD aaは、全L CPペプチドでとられる右巻きα−ヘリカル構造を乱すことを示す。
【0140】
実施例2 CPのα−ヘリカル構造はT細胞の結合及び共局在化に必要ではない
CPペプチドは、CD3/TCR複合体に自らを挿入し、この同種抗原により誘発されるT細胞活性化を妨げることが記載されている(Manolios等、1997年;Wang等、2002年;Wang等、2002年b)。CP−CD3/TCR相互作用に対する二次構造の寄与を、T細胞膜におけるローダミン標識2D−CP及びTCR特異的FITC標識抗体(αTCR−FITC)の共局在化を試験して分析した。図2は、αTCR−FITC及びローダミン2D−CPの共局在化を表す(図2)。これは、2D−CP類似体が、野生型CPで見られたように、T細胞膜に挿入し、TCRと共局在化することを示唆している(Gerber等、2005年;Wang等、2002年b)。
【0141】
これらの共局在化の結果を確かめるため、本発明者らは、ローダミン2D−CP及びαTCR−FITC間の蛍光エネルギー転移実験を行った。543nmレーザーを用いて、高輝度のローダミン2D−CP及びαTCR−FITCを示すT細胞膜上の点を照射し、ローダミン2D−CPにより発生したシグナルを退色させたが、αTCR−FITCにより発生した発光はそのままにした。この処置は、図2Dに示したαTCR−FITC蛍光の有意な増加をもたらした。505〜525nm範囲にある増加したシグナル源としての自己蛍光を除外するため、2つの対照を使用した。1つ目は、同じ位置を、488nmレーザーで退色させた。この結果、シグナルの完全な退色が得られた。これは、上記に見られる蛍光増加は、FITCプローブにより発生したこと、試料における自己蛍光の結果ではないことを示唆するものである。2つ目は、本発明者らは、蛍光シグナルを示さないローダミン2D−CP及びαTCR−FITCで染色した細胞表面の点を選択し、543nmレーザーでこれを退色させた。FITC蛍光の増加は観察されなかった。これは、FITCの範囲にある蛍光源としての自己蛍光を除外するものである。全体として、これらの結果は、野生型CP及びこの2D−CP立体異性体が、これらの二次構造の相違とは無関係に、T細胞膜において同じ局在化を示すことを追認する。
【0142】
次に、共局在化実験を行った。TCR/CP、TCR/2D−CP及びTCR/2G−CP相互作用の親和性を、異なる濃度のRho−標識CP、2D−CP及び2G−CPペプチドにより一連の共沈実験を行って比較した。図6は、CP及び2D−CPがいずれも、TCRと共沈できることを示すが、TCR/CP相互作用は、親和性が高いように思われる。CP及び2D−CPはいずれも、2G−CP変異体より著しくTCRと相互作用する。一方、対照受容体として使用されたMHC I分子と共に、著しく共沈したペプチドはなかった。これらの結果は、さらに、2D−CPのTCR分子との特異的相互作用を裏付ける。
【0143】
実施例3 2D−CPはインビトロでのT細胞活性化と相互作用する
本明細書に示された共局在化試験(図2)は、CPの二次構造が、T細胞膜に挿入し、CD3/TCR複合体と相互作用するCPの能力に不可欠ではないことを示した。CPの二次構造が、抗原によるT細胞活性化をCPが妨げることに寄与したかどうかをテストするため、本発明者らは、ヒト型結核菌(Mycobacterium tuberculosis)(Mt)免疫したラット由来のリンパ節細胞(LNC)を単離し、ツベルクリン精製タンパク質誘導体(PPD)又はMt176−90ペプチドにより、インビトロでT細胞を活性化した。PPD及びMt176−90はいずれも、Mt免疫したラットのLNCにおいて強いT細胞増殖反応を誘導することが報告されている(Quintana等、2002年;Quintana等、2003年)。野生型全L CP及び2D−CPはいずれも、PPD及びMt176−90に対するT細胞増殖を、用量依存的な形で阻害した(図3)。しかし、特筆すべきことは、低濃度では、2D−CPの阻害が、全L CPにより生じる阻害より幾分大きかった(p<0.02)点である(図3B)。反対に、2G CP変異体は、T細胞増殖に対しいかなる阻害作用も有さなかった。このことは、阻害が配列特異的であること、重大な分子相互作用が、Gly残基を2個の陽性aaが置換することで乱されたことを示唆するものである(図1参照)。いずれのペプチド(全L CP、2D−CP又は2G CP)も、標的細胞と共にインキュベートした場合、毒性作用を有さなかった。このことは、抗原誘発増殖に対する影響は、細胞死が原因であったことを除外するものである。故に、CPの二次構造は、T細胞活性化に対するCPの阻害作用に必要ではないと思われる。T細胞活性化は、2G CP変異体により証明された通り、正確な側鎖相互作用に依存したままであった。
【0144】
実施例4 2D−CPはインビボでのT細胞免疫を阻害する
次に、インビボでのT細胞活性化において、CP阻害作用に対する二次構造及び側鎖の寄与を、実験的自己免疫疾患アジュバント関節炎(AA)を用いて分析した。ルイスラットのMtによる免疫化は、自己抗原と交差反応する、Mt特異的T細胞により誘発される自己免疫疾患、AAを誘発する(Holoshitz等、1984年;Holoshitz等、1983年)。PPD及びMt176−90は、関節炎を発症させるT細胞応答により標的される(Anderton等、1994年)。実際、関節炎の進行を阻害する免疫調節療法は、PPD及びMt176−90に対するT細胞応答の低下、及びPPDに対する遅延型過敏(DTH)反応の減弱に関連している(van Eden等、1985年)。
【0145】
AA誘導時にMtと共に全L CP又は2D−CPを投与した結果、臨床スコアの点でも(図4A)、肢の腫脹の点でも(図4B)著しく軽度の関節炎をもたらした。2G CPペプチドは、AAに影響しなかった。平均最大スコアは、2G CP治療したラットで12±0.3であったのに対し、2D−CP治療したラットで6.6±0.7及び全L CP群で7.7±0.7であった(2G CP群と比較した場合、全L CP及び2D−CP群ではp<0.05)。2D−CPの用量が、ラットあたり900μgに増加すると、AAスコアはさらに25%低下し(データ不図示)、肢の腫脹は50%改善した(図4C)ことから、2D−CPのAAに対する影響は、用量依存的であった。
【0146】
AA誘導後16日目のPPDに対するDTH反応の試験は、野生型全L CP又は2D−CPの投与が、PPDに対するDTH反応を、それぞれ39%及び51%減少させることにつながったことを明らかにした。2G CPによる治療は、DTH反応の8.5%の阻害をもたらすのみであった。
【0147】
以上のことから、これらの結果は、2D−CP及び野生型全L CPはいずれも、ペプチドの二次構造に依存しない配列特異的な形で、インビボでT細胞活性化を妨げうることを示している。
【0148】
実施例5 2D−CPは治療設定においてDTH反応を減少させる
TCR膜貫通ペプチドが、既存のDTH反応性の誘出を阻害するかどうかテストするため、ナイーブBALB/cマウス群を、2%オキサゾロンに感作した。5日後、マウスを、0.5%オキサゾロンを耳に投与して曝露した。曝露1時間後、マウスを、ジメチルスルホキシド(DMSO)、DMSO中の全L CP 150μg(6mg/kg)、DMSO中の2D−CP 150μg(6mg/kg)、又はデキサメタゾンを局所適用して治療した。翌日、耳の厚さを、DMSOで治療したマウスの腫脹(0.33±0.01mm)により測定し、全L CP(0.30±0.01mm)、2D−CP(0.27±0.01mm)及びデキサメタゾン(0.15±0.02mm)で治療したマウスの腫脹と比較した。耳の腫脹の有意な減少が、2D−CPで治療したマウスにおいて観察された(DMSO群と比較した場合、p<0.01)。実際、2D−CPは、全L CPによる治療で生じた減少の2倍の減少をもたらした(DMSO群と比較した場合、p<0.05)(図5)。故に、2D−CPは、既に抗原に感作した被験者におけるT細胞媒介免疫応答を阻害することができる。
【0149】
実施例6 CP親油性結合体。
(i)材料
4−メチル ベンジドリルアミン樹脂(BHA)及びブチルオキシカルボニル(Boc)アミノ酸は、Calbiochem−Novabiochem Co.(La Jolla CA USA)から購入した。ペプチド合成に使用した他の試薬には、トリフルオロ酢酸(TFA、Sigma)、N,N−ジイソプロピルエチルアミン(DIEA、Sigma)、ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC、Fluka)、1−ヒドロキシベンゾトリアゾール(1−HOBT、Pierce)、及びジメチルホルムアミド(DMF、ペプチド合成グレード、Biolab、IL)が挙げられる。他の試薬は全て、分析グレードである。緩衝液は、再蒸留水で調製する。
【0150】
(ii)ペプチド合成、アシル化及び精製
ペプチドを、4−メチル ベンジドリルアミン樹脂(BHA)(0.05meq)(Merrifield等、1982年;Shai等、1990年)において固相法により合成する。樹脂結合ペプチドを、フッ化水素(HF)で樹脂から切断し、HF蒸発、及び乾燥エーテルで洗浄後、50%アセトニトリル/水により抽出した。BHA樹脂結合ペプチドのHF切断は、C末端アミド化ペプチドをもたらす。粗ペプチド製剤を、RP−HPLCにかける。合成ペプチドを、さらに、C18逆相Bio−Radセミ分取カラム(250×10mm、300nm細孔径、5−μm粒子径)でRP−HPLCにより精製する。カラムを、0.05% TFA(v/v)も含有する水中での25〜60%アセトニトリル直線勾配を、流速1.8ml/分にて用い、40分で溶出する。次いで、精製ペプチドを、分析HPLC、アミノ酸分析及びエレクトロスプレー質量分析にかけ、この組成及び分子量を確認した。脂肪酸を、ペプチド合成のため保護アミノ酸を結合するのに使用したのと同じプロトコルにより、ペプチドのN末端に結合する。
【0151】
以下のリポペプチドを、本明細書に記載の通りに合成する。デカン酸(DA)、ウンデカン酸(UA)、及びオクタン酸(OA)を、ジアステレオマーCP由来ペプチドに結合して以下の親油性結合体を得る。
【化11】

【0152】
(iii)インビトロアッセイ
次いで、実施例3に記載した通り、インビトロでのT細胞活性化を妨げるリポペプチドの能力について調べる。
【0153】
(iv)インビボアッセイ
リポペプチドを、実施例4及び5に記載した通り、T細胞活性化のインビボアッセイにかける。
【0154】
B.全Dペプチド
ペプチド合成及び蛍光標識
ペプチドを、PAM−アミノ酸樹脂(0.15meq)の固相により合成した。合成ペプチドを、0.05%TFAにおける20〜60%アセトニトリルの直線勾配を用いてCカラムでRP−HPLCにより60分間精製した(>98%均一性)。ペプチドを、アミノ酸分析及び質量分析にかけ、これらの組成を確認した。特に指定のない限り、DMSO中の濃縮ペプチド原液を、使用前のペプチド凝集を回避するのに使用した。各実験では、DMSOの最終濃度は、研究中のシステムに影響しなかった。樹脂結合ペプチドを、それぞれ、4−クロロ−7−ニトロベンゼン−2−オキサ1,3−ジアゾール フルオリド(NBD−F)又は5−カルボキシテトラメチルローダミン、スクシニミジル エステル(5−TAMRA,SE(ローダミン−SE)で処理した。NBD−Fとの反応は、DMF単独中で生じ、ローダミンとの反応は、2%ジイソプロピルエチルアミン含有DMF中であった。蛍光プローブを、2当量を超えて使用し、樹脂結合N末端NBDペプチド又はローダミンペプチドを形成した。1時間後、樹脂をDMF、次いで塩化メチレンで完全に洗浄した。精製ペプチドは全て、分析RP−HPLCにより均一である(>98%)ことを示した。
【0155】
表3は、実施例7〜10で使用されたペプチドの配列及び割り当てを示す。
表3.ペプチドの割り当て及び配列
【表3】

【0156】
円偏光二色性(CD)分光法
ペプチドのCDスペクトルは、Aviv 202分光偏光計で測定した。スペクトルを、1mm経路長で温度規定の石英光学セルにより走査した。各スペクトルを、260から190nmの波長範囲で、平均化時間20秒で1nm間隔にて記録した。ペプチドを、1%LPCミセルにおいて100μM濃度で走査した。
【0157】
動物
2カ月齢のメスのルイスラットを使用した。ラットは、ワイツマン科学研究所の動物育種センターにおいて無菌条件下で飼育し、維持した。実験は、動物福祉委員会の監督及びガイドライン下で行った。
【0158】
T細胞増殖
T細胞増殖アッセイは、Mt176−90ペプチドと反応する、リンパ節細胞(LNC)又はA2b T細胞系を用いて行った。PPD及びMt176−90に対する強いT細胞応答が検出できる場合、膝下及び鼠径LNCを、不完全フロインドアジュバント(IFA)中のヒト型結核菌(Mycobacterium tuberculosis)(Mt)の注射後26日目に除去した。LNCを、2×10細胞/ウェルの濃度で培養し、5×10 A2b T細胞を、以前に記載されている通りに調製した、ウェルあたり、照射した5×10胸腺抗原提示細胞(APC)の存在下で刺激した。細胞を、種々の濃度の試験下ペプチドの存在下で、抗原有り又は抗原無しで、200μl丸底マイクロタイターウェルに4通りに播種した。培養物を、7.5%COの加湿雰囲気で37℃にて72時間インキュベートした。T細胞応答は、インキュベーションの最後の18時間で添加した、[メチル−H]−チミジン(Amersham、バッキンガムシャー、UK;1μCi/ウェル)の取り込みにより検出した。T細胞増殖実験の結果を、ペプチド非存在下で抗原により誘発したT細胞増殖の阻害の%として示す。
【0159】
アジュバント関節炎(AA)の誘導及び評価
インビボでのT細胞活性化に与えるCPの影響をテストするため、モデル系としてAAを使用した。AAは、尾の基底にIFA(0.5mg/ml)で懸濁したMt 50μlを注射して誘導した。AA誘導時に、各ラットは、IFA 50μlで溶解し、AAを誘導するのに使用したMt/IFAと混合したL−CP、D−CP又は2G CP対照ペプチド(又はPBS)100μgも投与された。AA誘導日は、0日目とした。疾患重症度は、各動物の4肢全てを直接観察して評価した。0から4の間の相対スコアを、関節の炎症、発赤及び変形の程度に基づき、各肢に割り当てた。したがって、各動物の最大となるスコアは、16であった。平均AAスコア(±SEM)を、各実験群について示す。関節炎はまた、キャリパーで後肢径を測定して定量化した。測定は、AA誘導当日及び26日後(AAピーク時)に行った。結果を、各群の動物全てについて2値間の差の平均±SEMで示す。疾患をスコア化する者は、群のアイデンティティを盲検化された。
【0160】
遅延型過敏反応(DTH)
PPD20μl(PBS中0.5mg/ml)を、AA誘導後16日目に右耳の耳介に皮内注射した。滅菌PBS20μlを、対照として左耳に注射した。耳の厚さを、ノギスを用いて48時間後に測定し、左右の耳の差として表した。
【0161】
蛍光顕微鏡法
活性化したT細胞(10細胞/試料)を、パラ−ホルムアルデヒド4%含有PBS100μlで15分間、氷上でインキュベートした。次いで、試料を、冷たいPBSで洗浄し、1100rpmにて7分間遠心分離した。次いで、BSA1%含有PBSを、非特異的結合を防止するため周囲温度で添加した。30分後、TCRに対するFITC標識抗体を、1:100の希釈で添加し、2.5時間インキュベートした。TCRのペプチドとの共局在化では、L−CP−Rho、D−CP−Rho又は2D CP−Rhoを、最終濃度1μM(DMSO原液)で添加し、5分間インキュベートした。次いで、試料を、PBSで1回洗浄し、顕微鏡用スライドに添加した。
【0162】
次いで、細胞を、蛍光共焦点顕微鏡下で観察した。FITC励起は、フルオロフォアの退色を最小化するためレーザーを20%パワーに設定して、488nmとした。蛍光データは、505〜525nmから回収した。ローダミン励起は、レーザーを5%パワーに設定して、543nmとした。蛍光データは、560nm以上から回収した。
【0163】
FITC(ドナー)及びローダミン(アクセプター)間のFRETを、ローダミンプローブが退色した領域のFITC蛍光の増加として観察した。退色は、レーザーを100%に設定して543nmで6秒間、点励起により達成した。FITC蛍光の増加は、自己蛍光が原因でないことを検証するため、本発明者は、488nmレーザーを用いて、次いで543nmのみで退色させた。505〜525nm又は560<のどちらにおいても信号は観察されず、自己蛍光の可能性は排除された。
【0164】
実施例7 D−CPはL−CPの構造的鏡像である
3つのCPペプチドを化学合成した:標的抗原によるT細胞活性化を阻害することが示されている野生型L−CP;第1のペプチドの鏡像であるD−CP;及び不活性変異体ペプチド(2G CP)。表3は、ペプチド配列及び割り当てを示し、図7は、2つのジアステレオマーの構造的違いを、標準ヘリカル構造を想定して視覚的に示す。D−CPでは2つの分厚い陽性側鎖が、L−CPの陽性側鎖の反対方向を向いていることに注目。
【0165】
D−CPの二次構造が、実際にL−CPの鏡像であることを確実にするため、円偏光二色性実験を行った。実験は、Melynk等、2004年に記載されている通り、膜環境を刺激するため両性イオン界面活性剤(HO中1%LPC)において行った。D−CPのスペクトルは、L−CPのまさしく鏡像であることが見出された(図8)。両方とも部分的にヘリカルである。両方のペプチドは、9 aa長であるため、これらの構造は、完全長タンパク質の状況での構造よりも不安定である可能性があることに注目。
【0166】
実施例8 D−CPはL−CPと同様にT細胞活性化を妨げる
本発明者は、Mt抗原PPD又はMt176−90ペプチドに対する、Mt免疫したラット由来のLNCのT細胞応答を試験した。これらの抗原は、AAラットの所属LNC(draining LNC)においてT細胞から強力な増殖応答を誘導することが知られている。図9A及び9Bは、L−CP及びD−CPが、PPD及びMt176−90に対するT細胞増殖応答を用量依存的な形で阻害したことを示す。さらに、2G CPに阻害作用はなかった。このことは、阻害が配列特異的であること、重大な分子相互作用が、Gly残基を2個の陽性aaが置換することで乱されたことを示唆するものである(表3参照)。L−CP、D−CP及び2G CPは、細胞と共にインキュベートした場合、毒性作用を有さなかった。このことは、抗原誘発増殖に対するL及びD−CPペプチドの阻害作用は、細胞死が原因であったことを除外するものである。興味深いことに、低濃度では、D−CPの阻害は、L−CPの阻害よりも一貫して高い。
【0167】
実施例9 D−CPはL−CPと同程度にインビボでのT細胞免疫を阻害する
インビボでの特異的T細胞の活性化に与えるCPの阻害作用をテストするため、アジュバント関節炎(AA)モデルを使用した。ルイスラットの油中Mtによる免疫化は、自己抗原と交差反応するMt特異的T細胞により誘発される実験的自己免疫疾患、AAを誘発する。Mt176−90特異的T細胞は、AA誘導において検出することができる。実際、A2b T細胞クローンは、軟骨と交差反応しAAを媒介する。L及びD−CPは、インビトロでのPPD及びMt176−90に対する、初回免疫したLNC及びクローンA2bとのT細胞応答を阻害したため(図9)、本発明者は、AAを誘発するインビボでのT細胞活性化に与えるL−及びD−CPの影響も調査した。AA誘導時に抗原を投与されたD−CP又はL−CPは、臨床スコアの点でも(図10A)、足首の腫脹の点でも(図10B)著しく軽度の関節炎をもたらした。対照ペプチド2G CPは、AAを阻害しなかった。平均最大スコアは、対照治療したラットで12±0.3であったのに対し、D−CP治療したラットで6±0.7及びL−CP治療したラットで7.3±0.7であった(対照群と比較した場合、L及びD−CP群ではp<0.05)。
【0168】
AAを媒介するT細胞活性化は、PPDに対する遅延型過敏(DTH)反応を試験してインビボで検出することもできる。本発明者は、3つのペプチドで治療したラットにおけるAA誘導後16日目のPPDに対するDTH反応を試験した。図11は、D−CP又はL−CPの投与が、PPDに対するDTH反応を、それぞれ48%及び39%減少させたのに対し、2G CPペプチドによる治療により生じた阻害は、10%未満であったことを示す。
【0169】
以上のことから、これらの結果は、D及びL−CPはいずれも、特異的抗原により誘導されたT細胞活性化をインビボで妨げることができることを示している。この妨害は、Mt抗原との反応において、より軽度のAAをもたらし(図10A及び10B)、DTH反応性を低下させた(図11)。さらに、インビボでのD−CPの影響は、L−CPよりも大きいように思われる。
【0170】
実施例10 L−CP及びD−CPのTCRとの共局在化
CPペプチドは、TCRとCD3との間のシグナルを脱共役することで機能するため、これらは、受容体複合体と共局在化する必要がある。この仮説をテストするため、本発明者は、TCRに対するFITC標識抗体、及びローダミン標識したL−CP又はD−CPでT細胞を標識した。TCRの標識は、活性化T細胞のキャッピング現象特性を示した。TCRとCPのL又はD類似体との間にほぼ完全な重なりが認められた。これらの結果は、CP類似体は、T細胞膜に結合し、キャッピング領域内でTCRと共局在化することを示す。本発明者は、同じ結果がNBD標識ペプチド及びPE標識TCRで得られたことから、標識は共局在化に影響しないと考える。
【0171】
共局在化の結果を裏付けるため、本発明者は、CPペプチドとTCRとの間の蛍光エネルギー転移を実証する一連の退色実験を行った。本発明者は、543nmレーザーを用いて、高輝度のローダミン及びFITCを示す細胞膜上の点を退色させた。こうして、CPローダミン退色ペプチドが退色されたのに対し、TCRα−FITCは影響されなかった。この処置は、図12の矢印に示された、TCRα−FITC蛍光の有意な増加をもたらした。故に、本発明者は、TCRとL−CP又はD−CPペプチドとの間で蛍光エネルギー転移が生じると結論することができた。505から525nm範囲にある増加したシグナル源としての自己蛍光の可能性を除外するため、本発明者は2つの対照実験を行った。1つ目は、同じ位置を、488nmレーザーで退色させた。この結果、シグナルの完全な退色が得られた。これは、上述の蛍光増加が、試料からの自己蛍光というよりFITCプローブにより発生することを示唆するものである。次に、本発明者は、ほとんどシグナルのない位置で543nmレーザーにより退色させた。細胞は影響されないままであり、FITC蛍光の増加を観察することはなかった。これは、FITCの同じスペクトル範囲での自己蛍光の可能性を排除するものである。
【0172】
前述の特定の実施形態は、他の者が、現在の知見を応用して、過度な実験を行うことなく、及び類概念から逸脱することなく、このような特定の実施形態の修正及び/又は種々の適用を容易に行うことができるように、本発明の一般的性質を充分に明らかにするであろう。したがって、このような適応及び修正は、開示された実施形態の均等物の意味及び範囲内で理解されるべきであり、理解されることが意図される。本発明は、この特定の実施形態と併せて記載されたが、多くの代替、修正及びバリエーションが当業者には明らかであろうことは明白である。したがって、添付の特許請求の範囲の趣旨及び広範な範囲内にあるこのような代替、修正及びバリエーションを全て含むことが意図される。
【0173】
詳細な記述及び特定の実施例は、本発明の趣旨及び範囲内の種々の変更及び修正が、この詳細な記述から当業者には明らかになるため、本発明の好ましい実施形態を示しつつ、実例としてのみ与えられる。
「引用文献」



【図面の簡単な説明】
【0174】
【図1】2D−CPは、α−ヘリカル構造に折り畳まれないことを示す図である。A.HO中の2D−CP(黒い菱形)、1%LPCミセル中の2D−CP(白い菱形)及び1%LPCミセル中の全L CP(白い四角)のCDスペクトル。B.分子動力学シミュレーションにより生まれた全L CP(左)及び2D−CP(右)の構造。D aaが、CPのα−ヘリカル構造を乱すことを示す。C.脂質二重層における初回5nsの全L CP刺激を通じた全原子のRMSDプロフィル。D.2D−CPのRMSDプロフィル。
【図2】2D−CPペプチドは、TCR受容体と共局在化することを示す図である。A.TCRが、TCR−FITC抗体により視覚化されている。励起は488nmであり、発光は505から525nmの間で回収された。B.2D−CPは、N末端に結合したローダミンプローブにより視覚化された。励起は543nmであり、発光は560nm以上から回収された。C.退色前の2つの経路の融合は、2D−CPがTCRと共局在化することを示す。D.円は、退色した領域を囲んでいる。退色は、レーザー(543nm)を6秒間、100%パワーに設定して達成された。故に、FITCドナー分子は、影響されなかった。緑色の増加は、ローダミン標識2D−CPペプチドとTCR−FITCとの間に蛍光エネルギー転移があったことを示す。
【図3】2D−CPペプチドは、T細胞活性化を妨げることを示す図である。Mt初回免疫したラット由来のLNCは、野生型全L CP(黒)、2D−CP(グレー)又は2G CP(白)の存在下、PPD(A)又はMt176−90(B)によりインビトロで活性化された。
【図4】野生型及び2D−CPによるアジュバント関節炎(AA)の阻害を示す図である。アジュバント関節炎は、油中Mtにより誘導され、全L CP(野生型)、2D−CP、2G CP又はPBSと混合された。関節炎は、10日目から2〜3日ごとにスコア化された。A.平均±SEMで表されたAAスコアの時間的経過。2D−CP又は全L CP治療した動物の結果を、PBS又は2G CPで治療した対照群の結果と比較した場合、p<0.05。B.AA誘導後26日目に測定された肢の腫脹。結果は、0及び26日目に測定された後肢径の2値間の差の平均±SEMで表されている。PBS又は2G CPで治療した対照群と全L 又は2D−CP治療したラット(p<0.05)との間では、p<0.05。C.26日目に肢の腫脹により測定された、2D−CPのAAに与える影響の用量依存性。D.ペプチドの、Mtに対する免疫応答に与える影響を定量化するため、DTHは、方法のセクションに記載の通りに測定された。結果は、Mtに対する阻害されないDTH反応のパーセントで表されている。全L CP又は2D−CPで治療したラットにおいて観察された減少は、2G CPの影響と比較した場合、有意(p<0.05)である。
【図5】2D−CPは、マウスにおけるオキサゾロンに対するDTH反応を阻害することを示す図である。DMSO単独、全L CP、2D−CP又はデキサメタゾンで治療したマウスの、オキサゾロンによる初回免疫1時間後に測定されたDTH反応。結果は、デキサメタゾン治療マウスで観察された減少(100%とみなした)と比較した、ペプチド治療後に得られた耳の厚さの減少、±SEMとして表されている。
【図6】CP及び2D−CPはいずれもTCRと共に免疫共沈降することを示す図である。CP、2D−CP又は2G−CPは、活性化A2B細胞、及び(a)TCR又は(b)MHC I分子のいずれかと共にインキュベートされ、免疫共沈降された。CP及び2D−CPは、2G−CP変異体よりも有意にTCRと共に免疫共沈降した。ペプチドは、有意な程度ではMHC I分子と共に免疫共沈降しなかった。
【図7】L及びD−CP間の構造差を説明する図である。側鎖位置に与えるD−アミノ酸置換の影響を実証するため、アルギニン及びリシンの側鎖が可視化される。D−CP骨格は、野生型類似体よりも反対方向に向いている。
【図8】L及びD−CPはいずれも鏡像構造を有することを示す図である。L−CP(三角)及びD−CP(菱形)の遠紫外線円偏光二色性スペクトルは、膜模倣環境(1%LPC)において回収された。スペクトルは、0.1cm光路を用いて、20秒平均化時間で1nm間隔にてAviv分光偏光計で測定された。Y軸は、1%LPC単独のバックグラウンドスペクトルを減じた後の生データ(mdeg)を表す。構造は、このような短ペプチドで期待されうる標準α−ヘリックスではない(ランダムコイルコンフォメーションを有する集団にはありがちである)。しかし、L−CP及びD−CPのスペクトルは、まさしく鏡像である。
【図9】L及びD−CPはいずれも、同じようにインビトロでT細胞を不活性化することを示す図である。T細胞活性化の阻害は、抗原特異的活性化後の以下の増殖により測定された。T細胞は、PPD(A)又はMt176−90(B)により活性化された。活性化は、1μg/ml、5μg/ml及び75μg/mlの濃度で、L−CP(黒)、D−CP(グレー)又は2G CP(白)の存在下で生じた。
【図10】L及びD−CPによるAAの阻害を示す図である。AAは、油中Mtに対する免疫化により誘導され、L−CP、D−CP、2G CP又はPBSと混合された(1群あたり3ラット)。関節炎は、10日目から2〜3日ごとにスコア化された。パネルAは、AA疾患の時間的経過を示す。パネルBは、AA誘導後26日目に測定された肢の腫脹を示す。結果は、0及び26日目に測定された後肢径の値間の差の平均±SEMで表されている。L及びD−CPいずれの存在も、対照群に比べてAAの重症度を有意に低下させる(p<0.05)。
【図11】L−CP及びD−CPはインビボでの細胞性免疫応答に影響することを示す図である。ラットは、L−CP、D−CP、2G CP、又はPBSの存在下、AAを誘導するためMtにより免疫化された。ペプチドの、Mtに対する免疫応答に与える影響を定量化するため、DTHは、方法のセクションに記載の通りに測定された。結果は、DTH反応のパーセント阻害として正規化された。PBSと共免疫したラットで測定された値は、ゼロ阻害とみなされた。結果は、L及びD−CPのインビボにおける有意な影響を示す。
【図12】L及びD−CPペプチドは膜においてTCR受容体と共局在化することを示す図である。(A)TCRは、αTCR−FITCを用いて視覚化される。励起は488nmであり、発光は505及び525nmの間で回収された。(B)ペプチドは、このN末端に結合したローダミンプローブを用いて視覚化される。励起は543nmであり、発光は560nm以上から回収された。(C)(A)及び(B)の融合は、全てのCPペプチドがTCRと共局在化することを示す。(D)100%で6秒間のレーザーによる、543nmでの点退色は、CP−RhoペプチドとTCR FITC標識抗体との間にエネルギー転移があることを示す。矢印は、退色処置を受けた領域を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも2個の塩基性アミノ酸残基を含むT細胞受容体(TCR)アルファ鎖膜貫通領域由来のジアステレオマーペプチド。
【請求項2】
ジアステレオマーペプチドの少なくとも2個のアミノ酸残基が、D−異性体立体配置である、請求項1のジアステレオマーペプチド。
【請求項3】
2個の塩基性アミノ酸残基が、3〜5個の疎水性アミノ酸残基により隔てられる、請求項1のジアステレオマーペプチド。
【請求項4】
2個の塩基性アミノ酸残基が、4個の疎水性アミノ酸残基により隔てられる、請求項3のジアステレオマーペプチド。
【請求項5】
5〜50アミノ酸残基長である、請求項1のジアステレオマーペプチド。
【請求項6】
TCR膜貫通領域が、配列番号4〜9のいずれか1つに記載のアミノ酸配列を含む、請求項1のジアステレオマーペプチド。
【請求項7】
TCR膜貫通領域が、マウスTCR由来である、請求項1のジアステレオマーペプチド。
【請求項8】
配列番号1に記載のアミノ酸配列を含み、少なくとも1個のアミノ酸残基が、D−異性体立体配置、並びにこの誘導体、フラグメント、類似体、伸長物、結合体及び塩である、請求項7のジアステレオマーペプチド。
【請求項9】
ジアステレオマーペプチドが、アミノ酸配列
【化1】


を有し、3位及び8位の下線付きのアミノ酸配列が、「D」異性体立体配置である(配列番号2)、請求項8のジアステレオマーペプチド。
【請求項10】
TCR膜貫通領域が、ヒトTCR由来である、請求項1のジアステレオマーペプチド。
【請求項11】
配列番号10に記載のアミノ酸配列を有する、請求項10のジアステレオマーペプチド。
【請求項12】
配列番号12〜17のいずれか1つに記載のアミノ酸配列を有する、請求項1のジアステレオマーペプチド。
【請求項13】
配列番号19〜28のいずれか1つに記載のアミノ酸配列を有する、請求項1のジアステレオマーペプチド。
【請求項14】
配列番号37〜47のいずれか1つに記載のアミノ酸配列を有する、請求項1のジアステレオマーペプチド。
【請求項15】
親油性部分に結合している、請求項1のジアステレオマーペプチド。
【請求項16】
親油性部分が、飽和脂肪酸、不飽和脂肪酸、単不飽和脂肪酸、多価不飽和脂肪酸及び分岐脂肪酸からなる群から選択される脂肪酸である、請求項15のジアステレオマーペプチド。
【請求項17】
脂肪酸が、少なくとも3個の炭素原子からなる、請求項16のジアステレオマーペプチド。
【請求項18】
脂肪酸が、オクタン酸(OA)、デカン酸(DA)、ウンデカン酸(UA)、ドデカン酸(DDA;ラウリン酸)、ミリスチン酸(MA)、パルミチン酸(PA)、ステアリン酸、アラキジン酸、リグノセリン酸、パルミトレイン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、アラキドン酸、トランス−ヘキサデカン酸、エライジン酸、ラクトバシル酸、ツベルクロステアリン酸、及びセレブロン酸からなる群から選択される、請求項16のジアステレオマーペプチド。
【請求項19】
配列番号29〜36のいずれか1つに記載のアミノ酸配列を有する、請求項15のジアステレオマーペプチド。
【請求項20】
配列番号48〜50のいずれか1つに記載のアミノ酸配列を有する、請求項15のジアステレオマーペプチド。
【請求項21】
少なくとも2個の塩基性アミノ酸残基を含むT細胞受容体(TCR)アルファ鎖膜貫通領域由来のペプチドであって、前記ペプチドのアミノ酸残基が全て「D」異性体立体配置であるペプチド。
【請求項22】
1〜9位の下線付きのアミノ酸残基が、「D」異性体立体配置である、
【化2】


(配列番号3)及び
【化3】


(配列番号11)からなる群から選択されるアミノ酸配列を有するペプチド。
【請求項23】
親油性部分に結合している、請求項21のペプチド。
【請求項24】
活性成分である請求項1から23のいずれか一項に記載のペプチド、及び薬学的に許容可能な担体、賦形剤又は希釈剤を含む医薬組成物。
【請求項25】
T細胞媒介病態の治療を必要とする被験者におけるT細胞媒介病態の治療方法であって、被験者に、少なくとも2個の塩基性アミノ酸残基を含むT細胞受容体(TCR)アルファ鎖膜貫通領域由来のジアステレオマーペプチドの治療有効量を投与することを含む方法。
【請求項26】
ジアステレオマーペプチドの少なくとも2個のアミノ酸残基が、D−異性体立体配置である、請求項25の方法。
【請求項27】
ペプチドが、5〜50アミノ酸残基長である、請求項25の方法。
【請求項28】
ペプチドが、D−異性体立体配置の少なくとも1個のアミノ酸残基、並びにこの誘導体、フラグメント、類似体、伸長物、結合体及び塩を有する配列番号1に記載のアミノ酸配列を含む、請求項25の方法。
【請求項29】
前記ジアステレオマーペプチドが、配列番号2に記載のアミノ酸配列を有する、請求項28の方法。
【請求項30】
前記ジアステレオマーペプチドが、配列番号10に記載のアミノ酸配列、並びにこの誘導体、フラグメント、類似体、伸長物、結合体及び塩を有する、請求項25の方法。
【請求項31】
ペプチドが、配列番号12〜17のいずれか1つに記載のアミノ酸配列を有する、請求項28の方法。
【請求項32】
ペプチドが、配列番号19〜28のいずれか1つに記載のアミノ酸配列を有する、請求項28の方法。
【請求項33】
ペプチドが、配列番号37〜47のいずれか1つに記載のアミノ酸配列を有する、請求項28の方法。
【請求項34】
ジアステレオマーペプチドが、親油性部分に結合している、請求項25の方法。
【請求項35】
親油性部分が、飽和脂肪酸、不飽和脂肪酸、単不飽和脂肪酸、多価不飽和脂肪酸及び分岐脂肪酸からなる群から選択される脂肪酸である、請求項34の方法。
【請求項36】
脂肪酸が、オクタン酸(OA)、デカン酸(DA)、ウンデカン酸(UA)、ドデカン酸(DDA;ラウリン酸)、ミリスチン酸(MA)、パルミチン酸(PA)、ステアリン酸、アラキジン酸、リグノセリン酸、パルミトレイン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、アラキドン酸、トランス−ヘキサデカン酸、エライジン酸、ラクトバシル酸、ツベルクロステアリン酸、及びセレブロン酸からなる群から選択される、請求項35の方法。
【請求項37】
ペプチドが、配列番号29〜36のいずれか1つに記載のアミノ酸配列を有する、請求項35の方法。
【請求項38】
ペプチドが、配列番号48〜50のいずれか1つに記載のアミノ酸配列を有する、請求項35の方法。
【請求項39】
T細胞媒介病態が、T細胞媒介自己免疫疾患である、請求項25の方法。
【請求項40】
自己免疫疾患が、多発性硬化症、自己免疫性神経炎、全身性エリテマトーデス(SLE)、乾癬、I型糖尿病(IDDM)、シェーグレン病、甲状腺疾患、重症筋無力症、サルコイドーシス、自己免疫性ブドウ膜炎、炎症性腸疾患(クローン大腸炎及び潰瘍性大腸炎)、自己免疫性肝炎、関節リウマチ、特発性血小板減少症、強皮症、円形脱毛症、溶血性貧血、糸球体腎炎、皮膚炎及び天疱瘡からなる群から選択される、請求項25の方法。
【請求項41】
自己免疫疾患が、関節リウマチである、請求項39の方法。
【請求項42】
T細胞媒介病態が、T細胞媒介炎症性疾患である、請求項25の方法。
【請求項43】
T細胞媒介病態が、同種移植片反応及び移植片対宿主疾患からなる群から選択される、請求項25の方法。
【請求項44】
T細胞活性化の阻害を必要とする被験者におけるT細胞活性化の阻害方法であって、被験者に、少なくとも2個の塩基性アミノ酸残基を含むT細胞受容体(TCR)アルファ鎖膜貫通領域由来のジアステレオマーペプチドの治療有効量を投与することを含む方法。
【請求項45】
ジアステレオマーペプチドの少なくとも2個のアミノ酸残基が、D−異性体立体配置である、請求項44の方法。
【請求項46】
ペプチドが、5〜50アミノ酸残基長である、請求項44の方法。
【請求項47】
ペプチドが、D−異性体立体配置の少なくとも1個のアミノ酸残基、並びにこの誘導体、フラグメント、類似体、伸長物、結合体及び塩を有する配列番号1に記載のアミノ酸配列を含む、請求項44の方法。
【請求項48】
前記ジアステレオマーペプチドが、配列番号2に記載のアミノ酸配列を有する、請求項44の方法。
【請求項49】
前記ジアステレオマーペプチドが、配列番号10に記載のアミノ酸配列、並びにこの誘導体、フラグメント、類似体、伸長物、結合体及び塩を有する、請求項44の方法。
【請求項50】
ペプチドが、配列番号12〜17、19〜28及び37〜47のいずれか1つに記載のアミノ酸配列を有する、請求項44の方法。
【請求項51】
ジアステレオマーペプチドが、親油性部分に結合している、請求項44の方法。
【請求項52】
親油性部分が、飽和脂肪酸、不飽和脂肪酸、単不飽和脂肪酸、多価不飽和脂肪酸及び分岐脂肪酸からなる群から選択される脂肪酸である、請求項51の方法。
【請求項53】
ペプチドが、配列番号29〜36及び48〜50のいずれか1つに記載のアミノ酸配列を有する、請求項52の方法。
【請求項54】
T細胞媒介病態の治療及びT細胞活性化の阻害を必要とする被験者におけるT細胞媒介病態の治療及びT細胞活性化の阻害方法であって、被験者に、請求項20及び21のいずれか一項に記載のペプチド又はこの親油性結合体の治療有効量を投与することを含む方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公表番号】特表2009−508937(P2009−508937A)
【公表日】平成21年3月5日(2009.3.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−531886(P2008−531886)
【出願日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【国際出願番号】PCT/IL2006/001113
【国際公開番号】WO2007/034490
【国際公開日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【出願人】(500370311)イエダ リサーチ アンド デベロップメント カンパニー リミテッド (30)
【Fターム(参考)】