説明

TNF−α遮断薬に対する治療応答性の予測方法

本発明は、TNF-α遮断薬を用いた治療に対する患者の応答性の予測方法であって、前記患者のTNF-α遺伝子の位置238でのグアニン、位置308でのグアニン、および位置857でのシトシンの存在または非存在を確定することを包含する方法であり、前記患者の前記TNF-α遺伝子の両コピーにおけるTNF-α遺伝子の位置238でのグアニン、位置308でのグアニン、および位置857でのシトシンの同時的存在が標準応答性に比してTNF-α遮断薬を用いた治療に対する前記患者の応答性の可能性減少を示す方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、TNF-α遮断薬を用いた治療に対する応答の予測方法に関する。
【背景技術】
【0002】
慢性関節リウマチ(RA)は、関節の損傷および能力障害を誘導する慢性の自己免疫および炎症性多発性関節炎である。滑膜炎症過程に関与する不可欠なサイトカインの1つとしてのTNF-αの認識を、種々の研究がもたらしてきた。このような結果は、RAの治療のためのTNF遮断薬(TBA)の開発のための基礎を提供してきた。3つのTBAがRA治療のために一般に用いられており、その1つは組換え形態のTNF受容体、即ちTNFRSF1B(エタネルセプト)に相当し、そして他の2つは抗TNF-αモノクローナル抗体:即ちインフリキシマブおよびアダリムマブ(ADA)に相当する。これらのTBAは、細胞表面のTNF受容体とのTNFの結合を抑制し、したがってTNF駆動シグナル伝達経路を妨害することにより作用する。エタネルセプトはTNF-αおよびTNF-β(リンフォトキシンA(LTA)としても既知)の両方と結合し、一方、インフリキシマブおよびアダリムマブはTNF-αのみと結合する。
【0003】
TBA/メトトレキセート組合せを用いた種々の臨床試験は、RA患者の55〜75%において効能を示してきた。TBAは、関節炎症を低減し、関節損傷を遅らせ、そして身体機能を改善する。依然として、TNF-α遮断薬/メトトレキセート組合せを投与されたRA患者の25〜45%が子の治療に応答しない。さらにまた、TBAは副作用を有し得るし、且つ費用が掛かり、そして投与患者において任意に投与されたTBAの効力は予測不可能である。
【0004】
これらの治療の経費、潜在的長期悪事象(感染および癌)についての存続する疑念、ならびにRAの治療における他の効率的生物療法の利用可能性を考慮に入れると、応答の予測因子の同定は重要な問題である。
【0005】
HLA-DRハプロタイプのような遺伝的多型はRAの可変性の自然な過程ならびに慣用的疾患修飾性抗リウマチ薬(DMARD)に対する異種応答に関連するため、少数の研究がTBA効能に関して遺伝子マーカーの同定を試みてきたし、そしてそれらはいくつかのサイトカイン遺伝子のプロモーターに集中してきた(Kang CP et al. 2006;Mugnier et al. 2003;Cuchacovich et al. 2004;Padyulov et al. 2003)。例えばTNF-α遺伝子プロモーターにおける配列変異はインフリキシマブに対する可変性応答と関連づけられてきた(Mugnier et al. 2003)。しかしながらそれらの研究は、矛盾する結果を、特にTNF-308A/G多型性および/または共有エピトープの役割に関して矛盾する結果をもたらした(Padyulov et al. 2003;Criswell et al. 2004;Mugnier et al. 2003;Cuchacovich et al. 2004;Martinez et al. 2004;Mugnier et al. 2004;Fronseca et al. 2005;Kang et al. 2005;Lee et al. 2006)。
【発明の概要】
【0006】
発明の要約
本発明人等は、ここで、TNF-α遺伝子中の-238G、-308Gおよび-857CからなるハプロタイプがTNF-α遮断薬を用いた治療に対する応答を予測するのに有用であり得る、ということを同定した。
【0007】
彼らは実際、慢性関節リウマチを有し、メトトレキセート(MTX)を伴いまたは伴わずにアダリムマブ(ADA)を用いて処置された白色人種患者の大型コホートにおいて、HLA-DRB1、ならびにTNF-α遺伝子の3つの単一ヌクレオチド多型(SNP)、すなわち-857C/T、-308A/Gおよび-238A/Gを遺伝子型分類した。各遺伝子型に関しては、遺伝子型およびハプロタイプは、処置の12週目に、ACR50応答(米国リウマチ学会判定基準による症候の50%改善)との関連に関して試験された。本発明人等は、遺伝子型分布で別個に試験された3つのTNF-α多型の何れもが一変量または多変量分析においてACR50応答と関連しない、ということを実証した。逆に、TNF-α遺伝子座のハプロタイプ再構築は、-238G、-308Gおよび-857Cからなるハプロタイプ(「GGC」ハプロタイプ)が、ホモ接合形態(患者のほぼ50%に存在)では、ADAに対するより乏しい応答と有意に関連する、ということを明示した。
【0008】
したがって、本発明は、TNF-α遮断薬を用いた治療に対する患者の応答性の予測方法、特にin vitro方法であって、上記患者のTNF-α遺伝子の位置238でのグアニン、位置308でのグアニン、および位置857でのシトシンの存在または非存在を確定することを包含する方法であり、上記患者の上記TNF-α遺伝子の両コピーにおけるTNF-α遺伝子の位置238でのグアニン、位置308でのグアニン、および位置857でのシトシンの同時的存在が標準応答性に比してTNF-α遮断薬を用いた治療に対する上記患者の応答性の可能性減少を示す方法に関する。
【0009】
本発明は、TNF-α関連疾患を有する患者を治療するために意図された薬剤の製造のためのTNF-α遮断薬の使用であって、上記患者が上記TNF-α遺伝子の両コピーにおけるTNF-α遺伝子の位置238でのグアニン、位置308でのグアニン、および位置857でのシトシンを同時的に保有しない使用にも関する。
【0010】
本発明は、TNF-α遮断薬を用いた治療に応答すると思われる患者におけるTNF-α関連疾患の治療方法であって、以下の:
a)上記患者のTNF-α遺伝子の位置238でのグアニン、位置308でのグアニン、および位置857でのシトシンの存在または非存在を確定するステップ;
b)上記患者がTNF-α遮断薬を用いた治療に応答すると思われる場合、即ち、上記患者の上記TNF-α遺伝子の両コピーにおけるTNF-α遺伝子の位置238でのグアニン、位置308でのグアニン、および位置857でのシトシンを上記患者が同時的に保有しない場合、治療的有効量の少なくとも1つのTNF-α遮断薬を患者に投与するステップ
を包含する方法にも関する。
【0011】
発明の詳細な説明
定義:
「コード配列」、あるは発現産物、例えばRNA、ポリペプチド、タンパク質または酵素を「コードする」配列は、発現された場合にそのRNA、ポリペプチド、タンパク質または酵素の産生を生じるヌクレオチド配列であり、即ち、ヌクレオチド配列は、そのポリペプチド、タンパク質または酵素に関するアミノ酸配列をコードする。タンパク質に関するコード配列は、開始コドン(通常はATG)および停止コドンを含み得る。
【0012】
「遺伝子」という用語は、1つまたは複数のタンパク質または酵素の全部または一部を含むアミノ酸の一特定配列をコードするかまたはそれに対応するDNA配列を意味し、そして例えば遺伝子が発現される条件を確定する調節DNA配列、例えばプロモーター配列を含むことも含まないこともあり得る。構造遺伝子でないいくつかの遺伝子はDNAからRNAに転写され得るが、しかしアミノ酸配列に翻訳されない。他の遺伝子は、構造遺伝子の調節因子として、あるいはDNA転写の調節因子として機能し得る。特に遺伝子という用語は、タンパク質をコードするゲノム配列、即ち調節因子、プロモーター、イントロンおよびエキソン配列を含む配列に関して意図され得る。
本明細書中で用いる場合、「オリゴヌクレオチド」という用語は、一般的に少なくとも10、好ましくは少なくとも15、さらに好ましくは少なくとも20のヌクレオチド、好ましくは100以下のヌクレオチド、さらに好ましくは70以下のヌクレオチドを有し、そしてゲノムDNA、cDNAまたはmRNAとハイブリダイズ可能である核酸を指す。オリゴヌクレオチドは、当該技術分野で既知の任意の技法に従って、例えば放射性標識、蛍光標識、酵素標識、配列タグ等を用いて、標識され得る。標識オリゴヌクレオチドは、TNF核酸の対立遺伝子変異体の存在を検出するためのプローブとして用いられ得る。代替的には、オリゴヌクレオチド(標識され得るものの一方または両方)は、対立遺伝子変異体を検出するために、例えばPCR(Saiki et al., 1988)により、TNF核酸の一領域を増幅するために用いられ得る。一般的には、オリゴヌクレオチドは、合成的に、好ましくは核酸合成機で、調製される。したがってオリゴヌクレオチドは、非天然リンエステル類似体結合、例えばチオエステル結合等を用いて調製され得る。
【0013】
核酸分子は、温度および溶液イオン強度の適切な条件下で1本鎖形態の核酸分子が別の核酸分子とアニーリングされ得る場合、別の核酸分子、例えばcDNA、ゲノムDNAまたはRNAと「ハイブリダイズ可能」である(Sambrook et al., 1989参照)。
【0014】
温度およびイオン強度の条件は、ハイブリダイゼーションの「緊縮性」を確定する。同種の核酸に関する予備的スクリーニングのために、55℃のTm(融点)に対応する低緊縮性ハイブリダイゼーション条件、例えば、5×SSC、0.1%SDS、0.25%ミルク、および無ホルムアミド;あるいは30%ホルムアミド、5×SSC、0.5%SDSが用いられ得る。中等度の緊縮性ハイブリダイゼーション条件は、最高Tm、例えば50%ホルムアミド、5×または6×SCCに相当する。SCCは、0.15 MNaCl、0.015 MNaクエン酸塩である。ハイブリダイゼーションは、2つの核酸が相補的配列を含有することを必要とするが、しかしハイブリダイゼーションの緊縮性によって、塩基間のミスマッチが考えられる。核酸をハイブリダイズするための適切な緊縮性は、核酸の長さおよび相補性の程度(これらは当該技術分野で周知の変数である)によっている。2つのヌクレオチド配列間の類似性または相同性の程度が大きいほど、それらの配列を有する核酸のハイブリッドに関するTmの値は大きい。核酸ハイブリダイゼーションの総体的安定性(より高いTmに対応する)は、以下の順で低減する:RNA:RNA、DNA:RNA、DNA:DNA。100ヌクレオチド長より大きいハイブリッドに関しては、Tmを算定するための方程式が得られている(Sambrook et al., 1989, 9.50-9.51参照)。より短い核酸、即ちオリゴヌクレオチドを用いたハイブリダイゼーションに関しては、ミスマッチの位置がより重要になり、そしてオリゴヌクレオチドの長さがその特異性を確定する(Sambrook et al., 1989, 11.7-11.8参照)。ハイブリダイズ可能な核酸に関する最小長は、少なくとも約10ヌクレオチド、好ましくは少なくとも約15ヌクレオチドであり、そしてさらに好ましくはその長さは少なくとも約20ヌクレオチドである。
【0015】
特定の一実施形態では、「標準ハイブリダイゼーション条件」という用語は55℃のTmを指し、そして上記のような条件を利用する。好ましい一実施形態では、Tmは60℃である。さらに好ましい一実施形態では、Tmは65℃である。特定の一実施形態では、「高緊縮性」は、0.2×SSC中で68℃での、50%ホルムアミド、4×SSC中で42℃での、あるいはこれら2つの条件のいずれかの下で観察されるものと等価のハイブリダイゼーションのレベルを提供する条件下での、ハイブリダイゼーションおよび/または洗浄条件を指す。
【0016】
本明細書中で用いる場合、増幅プライマーは、標的配列とのハイブリダイゼーション後のオリゴヌクレオチドの伸長による、あるいは標的配列とハイブリダイズされる場合に隣接する多数のオリゴヌクレオチドの結紮による標的配列の増幅のためのオリゴヌクレオチドである。増幅プライマーの少なくとも一部分は、標的とハイブリダイズする。この部分は標的結合配列と呼ばれ、そしてそれはプライマーの標的特異性を確定する。標的結合配列のほかに、ある種の増幅方法は、増幅プライマー中に特殊化非標的結合配列を要する。これらの特殊化配列は、増幅反応が進行するために必要であり、そして典型的には、特殊化配列を標的に付すのに役立つ。例えば標準置換増幅(SDA)に用いられる増幅プライマーとしては、標的結合配列に対して5‘の制限エンドヌクレアーゼ認識部位が挙げられる(米国特許第5,455,166号および米国特許第5,270,184号)。核酸ベースの増幅(NASBA)、自立配列複製(3SR)、ならびに転写ベースの増幅プライマーは、プライマーの標的結合配列に連結されるRNAポリメラーゼプロモーターを要する。選択された増幅反応に用いるための標的結合配列とのこのような特殊化配列の連結は、当該技術分野における常套手段である。それに対して、標的の末端に特殊化配列を必要としないPCRのような増幅方法は、一般的に、標的結合配列のみからなる増幅プライマーを用いる。
【0017】
本明細書中で用いる場合、「プライマー」および「プローブ」という用語は、オリゴヌクレオチドの機能を指す。プライマーは、典型的には、ポリメラーゼまたは標的とのハイブリダイゼーション後の結紮により伸長されるが、しかしプローブは典型的にはそうではない。ハイブリダイズ化オリゴヌクレオチドは、それが標的配列を捕捉するかまたは検出するために用いられる場合、プローブとして機能し得るし、そして同一オリゴヌクレオチドは、それが増幅プライマー中の標的結合配列として用いられる場合、プライマーとして機能し得る。したがって、TNF遺伝子の増幅、検出または量子化のために本明細書中で開示される標的結合配列のいずれかは、ハイブリダイゼーションプローブとして、あるいは選択された増幅反応に必要とされる特殊化配列に任意に連結される検出または増幅のためのプライマー中の標的結合配列として、あるいは検出を促進するために、用いられ得る、と理解される。
【0018】
本明細書中で用いる場合、「TNF-α遺伝子」という用語は、本発明の方法が適用し得るヒト遺伝子を意味する。当該遺伝子は、腫瘍壊死因子(TNF)スーパーファミリーに属する多機能性前炎症性サイトカインである。ヒト(Homo sapiens)TNF-α遺伝子は、位置6p21.33で第6染色体上に限局され、この配列は、寄託番号X02910下でGenebankに委託される。TNFプロモーター配列は、http://rulai.cshl.edu/cgi-bin/TRED/tred.cgi?process=prominfo&pid=113301に設置されたプロモーター・データベースでNo. 13301と呼ばれる。TNF-α遺伝子のゲノム配列の一例は、配列番号1で示される。
【0019】
本明細書中で意図される場合、「TNF-α遺伝子の両コピー」という表現は、ヒトゲノム中に存在するTNF-α遺伝子の2つの対立遺伝子に関する。
【0020】
「TNF-α」という用語は、腫瘍壊死因子-αを意味する。ヒトTNF-αは、TNF-α遺伝子によりコードされるヒトサイトカインである。このサイトカインは、17 kD分泌形態および26 kD膜関連形態として存在し、その生物学的活性形態は、非共有結合17 kD分子の三量体からなる。ヒトTNF-αの構造はさらに、例えばPennica, D., et al. (1984) Nature 312: 724-729;Davis, J.M., et al. (1987) Biochemistry 26: 1322-1326;およびJones, E.Y., et al. (1989) Nature 338: 225-228に記載されている。天然サイトカインであるTNF-αは、炎症性応答において、そして免疫損傷において、中心的役割を演じる。それは前駆体膜貫通タンパク質の切断により形成されて、三分子複合体を形成するよう集合する可溶性分子を形成する。これらの複合体は、次に、種々の細胞上に見出される受容体と結合する。結合は、一連の前炎症性作用、例えば他の前炎症性サイトカイン(例えばIL‐6、IL‐8およびIL‐1)の放出;マトリックス・メタロプロテイナーゼの放出;および内皮細胞接着分子の発現の上向き調節、さらに血管外組織に白血球を引きつけることにより炎症および免疫カスケードの増幅を生じる。
【0021】
「突然変異体」および「突然変異」という用語は、遺伝物質、例えばDNA、RNA、cDNA、または任意のプロセス、メカニズムにおける任意の検出可能な変化、あるいはこのような変化の結果を意味する。これは、遺伝子の構造(例えばDNA配列)が変更される遺伝子突然変異、任意の突然変異過程から生じる任意の遺伝子またはDNA、ならびに修飾遺伝子またはDNA配列により発現される任意の発現産物(例えばタンパク質または酵素)を包含する。一般的には、突然変異は、被験者により発現される核酸またはポリペプチドの配列を、対照集団で発現される対応する核酸またはポリペプチドと比較することにより、上記被験者において同定される。遺伝物質における突然変異は「サイレント」でもあり得る、即ち、突然変異は、発現産物のアミノ酸配列の変更を生じない。
【0022】
「単一ヌクレオチド多型」または「SNP」という用語は、上記のような特異的置換を指す。TNF-α遺伝子における-857C/T、-308A/G、-238A/G置換からなる単一ヌクレオチド多型(SNP)は、それぞれ、NCBI寄託番号rs1799724、rs1800629およびrs361525(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/entrez/query.fcgi?CMD=search&DB=snp)により開示されている。
【0023】
上記SNPは、当業者に周知の、そしてSimmonds et al. (2004)(特にSimmonds et alの図2)に特筆されているTNF-αの特定のナンバリングにより番号付けされる。上記の特定のナンバリングにおける元のヌクレオチド(ヌクレオチド0)は、標準ナンバリングを用いる場合、−180に対応する(ここで、ヌクレオチド+1は翻訳開始コドンATGのAに対応する)。標準ナンバリングによれば、上記SNPはそれぞれ、−1037C/T、−488A/Gおよび−418A/Gに対応する。代替的には、参照として配列番号1を考えると、SNPはそれぞれ、33C/T、582A/Gおよび652A/Gに対応する。
【0024】
「ハプロタイプ」という用語は、統計学的に関連する単一染色分体の上の一組の単一ヌクレオチド多型(SNP)を意味する。ハプロタイプは、ホモ接合またはヘテロ接合形態で存在し得る。
【0025】
「患者」という用語は、TNF-α遮断薬を用いた治療から利益を受けると思われる疾患、特にTNF-α関連疾患に罹患した任意の被験者(好ましくはヒト)を指す。
【0026】
「TNF-α関連疾患」という用語は、TNF-αにより推進される炎症過程に関連した疾患を意味する。さらに特定的には、TNF-α関連疾患としては、障害に罹患している被験者におけるTNF-αの存在が、障害の病態生理学の原因である存在または障害の悪化に関与する因子であることが示されているかまたはそれが疑われる疾患およびその他の障害が挙げられる。
【0027】
「TNF-α遮断薬」は、TNF-α特性を有意に低減し得る分子、例えばタンパク質または小分子を指す。
【0028】
TNF-α遮断薬を用いた治療に対する「応答者」または「応答性」患者、あるいは患者の群は、TNF-α遮断薬を用いて治療された場合に疾患における臨床的に有意の軽減を示すかまたは示すであろう患者または患者の群を指す。疾患活性は、当該技術分野で認識される基準、例えば「疾患活性スコア(DAA)」または米国リウマチ学会(ACR)判定基準(慢性関節リウマチの活性の測定である)に従って測定され得る。算定には、以下のパラメーターが包含される:
- 28-疼痛関節点数に基づいた接触に対する関節圧痛(TEN)の数
- 28-疼痛関節点数に基づいた腫脹関節(SW)の数
- 赤血球沈降速度(ESR)
- 疾患活性についての患者の査定(VAS;mm)(PATDAI)
DAS28は、ベースラインに対する参照を必要としない連続変数を提供する:DAS28=0.56×平方根(TEN28)+0.28×平方根(SW28)+0.70×(InESR)+0.014×PATDAI.(Prevoo et al. 1995)。ACR応答判定基準は、圧痛および腫脹関節の数、急性期応答、機能的評価(例えばHAQスコア)、疼痛に関する視覚的アナログ尺度、ならびにこれも視覚的アナログ尺度に関する患者および医者による疾患の包括的評価におけるベースラインからの変化を測定する。腫脹および圧痛関節点数における、そして残りの5つのパラメーターのうちの3つにおける20%、50%および70%改善は、それぞれ、ACR20、ACR50およびACR70応答を表す(Arnett)。したがって疾患が慢性関節リウマチである場合、参照値を提供する患者の好ましい一応答群は、ACR判定基準および/またはDASの有意の変化を示す一群である。例えばTNF-α遮断薬、例えばアダリムマブ(ADA)を用いた治療の3ヶ月後のDAS28≧1.2は、疾患における有意の軽減を示す。それぞれTNF-α遮断薬、例えばアダリムマブ(ADA)を用いた治療の12週後のACR50は、疾患の有意の軽減を示す。
【0029】
本明細書中で意図されるように、「標準応答性に比してのTNF-α遮断薬を用いた治療に対する上記患者の応答性の見込み減少」とは、−238G、−308G、−857Cハプロタイプに関してホモ接合である例えばRAを有する患者がTNF-α遮断薬を用いた治療に応答する確率は、同一病態、例えばRAを有する患者の一般集団に関して観察されたものより低いということを意味する。好ましくは、治療に応答する患者の比率が統計的に有意であると考えられ得るよう、一般集団は十分な患者を含む。
【0030】
特に、−238G、−308G、−857Cハプロタイプに関してホモ接合である例えばRAを有する患者がTNF-α遮断薬を用いた治療に応答する確率は、−238G、−308G、−857Cハプロタイプに関してホモ接合でない同一病態を有する患者の集団に関して観察されたものより低い。
【0031】
例えば、以下の実施例で実証されるように、−238G、−308G、−857Cハプロタイプに関してホモ接合性であるRA患者がTNF-α遮断薬を用いた治療に応答するという確率は約35%であり、一方、この確率は、患者の一般集団においては少なくとも約40%を有するかまたは−238G、−308G、−857Cハプロタイプに関してホモ接合でない患者の間では少なくとも約50%を有する。
【0032】
本明細書中で意図されるように、上記患者の上記TNF-α遺伝子の両コピーにおけるTNF-α遺伝子の位置−238のグアニン、位置−308のグアニン、および位置−857のシトシンを同時に保有しない患者は、上記患者の上記TNF-α遺伝子の少なくとも1つのコピー上の位置−238のアデニン、位置−308のアデニン、および位置−857のチミンのうちの少なくとも1つを特に保有し得る。
【0033】
発明の方法:
本発明の方法は、ホモ接合形態でのその存在が患者をTNF-α遮断薬を用いた治療に対する応答者と非応答者とに区別可能にする特定のハプロタイプの同定に基づいている。
【0034】
好ましくは、患者のハプロタイプは、上記患者から採取された核酸試料に関して確定される。
【0035】
核酸試料は、任意の細胞源または組織生検から得られる。利用可能な細胞源の例としては、血球、頬細胞、上皮細胞、繊維芽細胞、あるいは生検により得られる組織中に存在する任意の細胞が挙げられるが、これらに限定されない。細胞は、体液、例えば血液またはリンパ液等からも得られる。DNAは、当該技術分野で既知の任意の方法、例えばSambrook et al., 1989に記載されたような方法を用いて抽出され得る。
【0036】
SNPは、好ましくは増幅後に、核酸試料中で検出され得る。例えば単離DNAは、突然変異化部位に特異的であるか、あるいは突然変異化部位を含有する領域の増幅を可能にするオリゴヌクレオチドプライマーを用いて、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)による増幅に付され得る。第一の代替法によれば、プライマーアニーリングのための条件は、特異的逆転写(適切な場合)および増幅を保証するために選択され得る;したがって増幅産物の出現は、特定突然変異の存在の診断メッセージである。別の状況では、DNAが増幅され、その後、適切なプローブとのハイブリダイゼーションにより、あるいは直接シーケンシングまたは当該技術分野で既知の任意の他の適切な方法により、増幅配列中で、突然変異化部位が検出され得る。
【0037】
実際には、遺伝子型分析のための多数の戦略が利用可能である。要するに、核酸分子は、制限部位の存在または非存在に関して試験され得る。塩基置換突然変異が制限酵素の認識部位を作製するかまたは廃棄する場合、これは、突然変異に関する簡単な直接PCR試験を可能にする。さらなる戦略としては、直接シーケンシング、制限断片長多型(RFLP)分析;適切緊縮ハイブリダイゼーション条件下で完全整合配列とのみハイブリダイズする短い合成プローブである対立遺伝子特異的オリゴヌクレオチド(ASO)とのハイブリダイゼーション;対立遺伝子特異的PCR;突然変異誘発プライマー;リガーゼ-PCR、HOT切断;変性勾配ゲル電気泳動(DGGE)、温度変性勾配ゲル電気泳動(TGGE)、一本鎖立体配座多型(SSCP)および変性高速液体クロマトグラフィーが挙げられるが、これらに限定されない。直接シーケンシングは、任意の方法、例えば化学的シーケンシングにより、Maxam-Gilbert法を用いて;酵素的シーケンシングにより、Sanger法を用いて;質量分析的シーケンシングにより;チップ・ベースの技法を用いたシーケンシング;ならびに実時間定量的PCRにより成し遂げられ得るが、これらに限定されない。好ましくは、被験者からのDNAは、先ず、特異的増幅プライマーを用いて、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)による増幅に付される。しかしながら、PCRとは別にDNAを試験させるいくつかのその他の方法、例えばローリング・サークル増幅(RCA)、インベーダーTMアッセイ、またはオリゴヌクレオチド結紮検定(OLA)が利用可能である。OLAは、塩基置換突然変異を明示するために用いられ得る。この方法によれば、標的核酸中の隣接配列とハイブリダイズする2つのオリゴヌクレオチドが構築され、連結は突然変異の位置に置かれる。DNAリガーゼは、それらが完全にハイブリダイズされる場合、2つのオリゴヌクレオチドのみを共有的に連結する。
【0038】
本発明のSNPは、文書WO 2004/106546およびWO 2006/001627に記載されたものと同様のDNAチップ技法を用いることにより同定され得る。
【0039】
少なくとも10ヌクレオチドを有し、そして本明細書中の当該配列と相補的なまたは相同の配列を示す核酸は、ハイブリダイゼーションプローブまたは増幅プライマーとしての有用性を見出す。このような核酸は同一である必要はないが、しかし典型的には、匹敵サイズを有する相同領域と少なくとも約80%同一、好ましくは85%同一、さらに好ましくは90〜95%同一である、と理解される。ある種の実施形態では、ハイブリダイゼーションを検出するための適切な手段、例えば検出可能標識と組合せて核酸を用いることが有益である。広範な種々の適切な指標、例えば蛍光性、放射性および酵素的またはその他のリガンド(例えばアビジン/ビオチン)が、当該技術分野で既知である。プローブは、典型的には、10〜1000ヌクレオチド長の、例えば10〜800ヌクレオチド長の、さらに好ましくは15〜700ヌクレオチド長の、典型的には20〜500ヌクレオチド長の1本鎖核酸を含む。
【0040】
プライマーは、典型的には、増幅されるべき当該核酸と完全にまたはほぼ完全に整合するよう意図された10〜25ヌクレオチド長のより短い1本鎖核酸である。プローブおよびプライマーは、それらがハイブリダイズする核酸に「特異的」であり、即ち、それらは好ましくは、高緊縮ハイブリダイゼーション条件(最高融解温度Tmに対応する、例えば50%ホルムアミド、5×または6×SCC。SCCは0.15 MNaCl、0.015 MNaクエン酸塩である)下でハイブリダイズする。
【0041】
本発明の別の態様によれば、当該突然変異は、患者の核酸試料を、任意に標識される核酸プローブと接触することにより検出される。プライマーは、当該突然変異化位置を含有するTNF-α遺伝子(例えば配列番号1)の部分を増幅するかまたはシーケンシングするためにも有用であり得る。
【0042】
このようなプローブまたはプライマーは、当該突然変異化位置を含有するTNF-α遺伝子配列(例えば配列番号1)の一部分と特異的にハイブリダイズし得る核酸である。それは、それらが高緊縮条件下で関連する突然変異化TNF-α核酸配列の部分とハイブリダイズする配列である、ということを意味する。
【0043】
オリゴヌクレオチド・プローブまたはプライマーは、少なくとも10、15、20または30のヌクレオチドを含有し得る。それらの長さは、400、300、200または100ヌクレオチドより短いことがある。
【0044】
TNF-α遮断薬:
特定の一実施形態では、TNF-α遮断薬は、組換えTNF-受容体ベースのタンパク質(例えば、ヒトIgG1分子のFc断片により連結される2つの可溶性TNF-α受容体からなる組換え融合タンパク質であるエタネルセプト)を包含する。ペギル化可溶性TNF1型受容体も、TNF遮断薬として用いられ得る。付加的には、サリドマイドは、強力な抗TNF剤であることが実証されている。したがってTNF-α遮断薬はさらに、ホスホジエステラーゼ4(IV)阻害薬サリドマイド類似体およびその他のホスホジエステラーゼIV阻害薬を包含する。特定の一実施形態では、TNF-α遮断薬は、可溶性形態のTNF-α受容体または抗TNF-α抗体、例えばインフリキシマブ、アダリムマブまたはCDP571である。別の特定の一実施形態では、TNF-α遮断薬は、エタネルセプト、インフリキシマブおよびアダリムマブから成る群から選択される。最も好ましい一実施形態では、TNF-α遮断薬はアダリムマブである。
【0045】
TNF-α関連疾患:
特定の実施形態では、患者はTNF-α関連疾患に冒される。
【0046】
TNF-α関連疾患としては、自己免疫障害、感染性疾患、移植片拒絶または移植片対宿主病、悪性疾患、肺障害、腸障害、心臓障害、敗血症、脊椎関節症、代謝障害、貧血、疼痛、肝障害、皮膚障害、爪障害および血管炎が挙げられ得る。一実施形態では、自己免疫障害は、慢性関節リウマチ、リウマチ様脊椎炎、骨関節炎、痛風関節炎、アレルギー、多発性硬化症、自己免疫性糖尿病、自己免疫性ブドウ膜炎およびネフローゼ症候群から成る群から選択される。別の実施形態では、TNF-α関連疾患は、炎症性骨障害、骨吸収疾患、アルコール性肝炎、ウイルス性肝炎、劇症肝炎、凝固障害、熱傷、再還流損傷、ケロイド形成、瘢痕組織形成、発熱、歯周病、肥満症および放射線毒から成る群から選択される。さらに別の実施形態では、TNF-α関連疾患は、ベーチェット病、強直性脊椎炎、喘息、慢性閉塞性肺障害(COPD)、特発性肺繊維症(IPF)、再狭窄、糖尿病、貧血、疼痛、クローン病関連障害、若年性関節リウマチ(JRA)、C型肝炎ウイルス感染症、乾癬性関節炎および慢性尋常性乾癬から成る群から選択される。
【0047】
本発明の一実施形態では、TNF-α関連疾患はクローン病である。別の実施形態では、疾患は潰瘍性大腸炎である。さらに別の実施形態では、疾患は乾癬である。さらに別の実施形態では、疾患は乾癬性関節炎(PsA)と組合せた乾癬である。
【0048】
好ましい実施形態では、TNF-α関連疾患は慢性関節リウマチである。
【0049】
本発明の方法は、活動性である慢性関節リウマチ患者におけるTNF-α遮断薬による治療に対する応答性を予測するために特に有用である。
【0050】
RAの治療のために通常考察される最前線療法であるメトトレキセート(MTX)に対して耐性である患者は、本発明の方法が特に有用であり得るさらなる好ましい群の患者である。
【0051】
さらに一般的には、例えばMTX、アザチオプリンまたはレフルノミドを用いた彼らのTNF-α関連疾患のための基礎治療をすでに受けている患者は、本発明の試験方法のための特に良好な候補である。
【0052】
TNF-α遮断薬を用いた治療に対する応答性に関して試験された後、患者は、同一基礎治療とともにまたは伴わずに、TNF-α遮断薬を処方され得る。特に併用アダリムマブ/MTXは、RAおよびその他のTNF-α関連疾患を有する患者において特に有効であり得る。
【0053】
キット:
本発明はさらに、本発明のハプロタイプを確定するのに適したキットを提供する。
【0054】
キットは、以下の構成成分を包含し得る:
(i)通常はDNAから作製され、そして前標識され得るプローブ。あるいはプローブは標識され得ず、そしてラベリングのための成分は別個の容器でキットに包含され得る;そして
(ii)ハイブリダイゼーション試薬:キットは、特定のハイブリダイゼーション・プロトコールに必要とされる適切に包装された試薬および物質、例えば固相マトリックス(適用可能な場合)、そして標準物質も含有し得る。
【0055】
別の実施形態では、キットは以下のものを包含する:
(i)配列確定または増幅プライマー:シーケンシング・プライマーは前標識され得るし、あるいはアフィニティー精製または結合部分を含有し得る;そして
(ii)配列確定または増幅試薬:キットは、特定のシーケンシング増幅プロトコールに必要とされるその他の適切に包装された試薬および物質も含有し得る。好ましい一実施形態では、キットは、それらの配列が多型位置のうちの少なくとも1つに隣接する配列に対応するシーケンシングまたは増幅プライマーのパネルを、ならびに各多型性配列の存在を検出するための手段を含む。
【0056】
特定の一実施形態では、本明細書中で同定される少なくとも1つの突然変異化位置、特にTNF遺伝子中の位置−238、−308および−857を含むTNF-α遺伝子プロモーターを増幅するために特異的な一対のヌクレオチドプライマーを含むキットが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】例示薬理遺伝学的試験の流れ図を表す。
【図2】TNF-α遺伝子または別のハプロタイプに関して、−238G、−308Gおよび−857Cハプロタイプ(GGC)を有するRA患者のアダリムマブを用いた治療の開始後12週のACR50(米国リウマチ学会判定基準による症候の50%改善)を表す。
【図3】治療(MTXを用いてまたは用いずに)およびGGCハプロタイプ保有状態によるACR50応答(縦軸、ACR50応答者患者の%)の時間経過展開(横軸、週)を示す。
【実施例】
【0058】
方法
患者:この薬理遺伝学的試験は、補助的に、欧州およびオーストラリアにおける種々の場所で実施されるReAct(活動期慢性関節リウマチの調査)プロトコールからであった。親ReAcT試験において、完全ヒトIgG1抗TNFモノクローナル抗体であるアダリムマブの安全性および有効性を査定するために、6610名の患者を包含した。ReAct試験の目的は、エタネルセプトまたはインフリキシマブで予め処置された患者を含めて、種々の疾患修飾性抗リウマチ薬(DMARD)と組合せたADAの効力および耐容性を評価することであった。要するに、ReAct試験に登録された患者は、米国リウマチ学会(ACR)の1987年改訂判定基準(Amett et al. 1988)に従った活動期成人発症性RAを有する年齢≧18歳の男性および女性であった。選択基準は、≧3ヶ月の疾患持続期間;少なくとも中等度の疾患活性を示す≧3.2の赤血球沈降速度および28関節の評価に基づいた疾患活性スコア(DAS28)(13);ならびに少なくとも1つの伝統的DMARDによる治療ミスを要した。他のTNFアンタゴニストを含めた生物学的応答修飾剤を用いた従来の療法は、当該投薬が登録前に≧2ヶ月中断された場合、容認された。
【0059】
本明細書中に記載される薬理遺伝学的試験は、フランス人患者の大型コホートを包含した。包含される患者はすべて、書面でインフォームド・コンセントを提供した。試験は、地方倫理委員会により承認された。主要結果変数(治療の12週間後のACR50応答の達成)に対応する主分析において、臨床試験に含まれた患者7名が、彼らがアジア系またはアフリカ系であったため、この薬理遺伝学的試験から除外された(図1)。9名の他の患者は、治療に対する応答に関するデータの欠如のため、統計学的分析から除外された。したがって、元の集団から総計382名の患者がこの試験に適格であった。これらの患者の間では、ADAはMTXと併用され(n=186)、そして他の場合はMTXを伴わずに投与された(n=196)。
【0060】
臨床的および生物学的データの収集ならびに結果測定: 臨床的および生物学的収集データは、元のReActプロトコールからのものであった。ベースライン、2、6、12週目に、DAS 28およびACR応答を査定するために必要な変数すべてを、AAQスコアと同様に記録した。遺伝的試験のために選択された主要結果は、治療の12週後のACR50応答であった。12週目に記録された他の応答データは、ACR20およびACR70応答であった。
【0061】
遺伝的多型:白人集団におけるTNF+488、−238および−308単一ヌクレオチド多型(SNP)により構成される4つの主要ハプロタイプを立証した従来の報告に従って、分析されるTNF遺伝子多型を選択した。それにもかかわらず、TNF+488はTNF−857と強連鎖不均衡(LD)で存在すると報告されている(LD値、白人集団ではD‘=0.92(Simmonds et al. 2004))ので、そしてTNF−857は、エタネルセプトに対する臨床的応答に影響を及ぼすことが近年報告された(Kang et al. 2005)ため、TNF+488の代わりにTNF−857を遺伝子型分類することに決めた。予測どおり、ハプロタイプ再構成後、RA患者の白人集団中に4つの主要ハプロタイプをわれわれも見出した。特定HLA-DRB1対立遺伝子はRA感受性 - 共有エピトープ仮説(SE)(Gregersen et al. 1987) - および重症度において重要な役割を演じることが従来報告されているので、われわれも、直接シーケンシングによりHLA-DRB1対立遺伝子に関してRA患者を遺伝子型分類した。SEを有すると考えられる対立遺伝子は、HLA-DRB1 *0101、*0102、*0401、*0404、*0405、*0408、*0413、*01001および*01402であった(Gregersen et al. 1987)。ADA治療に対する応答におけるSE寄与を分析するために、SEの0、1または2つのコピーを有するとして、あるいはSEキャリアであるか否かであるとして、患者を分類した。HLA-DRB1対立遺伝子およびTNF SNPを含む延長されたハプロタイプも再構築した。
【0062】
遺伝子型分類方法:HLA-DRB1および3つのTNF-α遺伝子多型(−238A/G、−308A/Gおよび−857C/T)に関して、患者を遺伝子型分類した。ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)増幅およびABI 3700シーケンサー(PE Applied Biosystems, Foster City, CA)を用いたDNAシーケンシングにより、HLA-DRB1対立遺伝子を確定した。
【0063】
本明細書中で提供される手法に従って、対立遺伝子識別TaqMan PCRにより、TNF-α −857C/Tを遺伝子型分類した。用いたプライマーは、5’ GGTCCTGGAGGCTCTTTCACT 3’(配列番号2)および5’ AGAATGTCCAGGGCTATGAAAGTC 3’(配列番号3)であった。本明細書中で用いたプローブは、野生型に関しては5’ CCCTGTCTTCATTAAG(配列番号4)および突然変異体に関しては5’ CCCTGTCTTCGTTAAG(配列番号5)であった。
【0064】
MspI制限酵素を用いて、ミスマッチポリメラーゼ連鎖反応(PCR)-制限全長多型(RFLP)により、TNF −238A/G PCR遺伝子多型を遺伝子型分類した。PCR増幅のために用いられるプライマーは、以下のものであった:順方向5’ ATCTGGAGGAAGCGGTAGTG 3’(配列番号6)および逆方向5’ AGAAGACCCCCCTCGGAACC 3’(配列番号7)。逆方向プライマーは目的のあるミスマッチ配列を含有し、したがってPCR産物中に組入れられると、それらはG対立遺伝子を有するがしかしA対立遺伝子を有さないMspIを作り出す。
【0065】
PreDeveloped TaqMan検定キットC_7514879を用いて、対立遺伝子識別TaqMan PCRにより、TNF-α −308A/Gを遺伝子型分類した。7900HT Applied Biosystems実時間サーマルサイクラー(Applied Biosystems, Courtaboeuf, France)を用いて、増幅を実施した。
【0066】
統計学的分析:定量的データはすべて、平均+/−SDとして表される。定性的データはすべて、頻度およびパーセンテージとして表される。一変量回帰を実施して、候補共変量をスクリーニングした。次に、共変量を有するモデルと有さないモデルを、χ2検定を用いて比較した。次に、前の分析で選択されたすべての共変量を含めた多変量回帰モデルを構築した。モデル中に共変量を保有するための閾値は、0.05であった。
【0067】
各遺伝子に関しては、遺伝子型およびハプロタイプを、12週目のADAに対するACR50応答との関連に関して試験した。遺伝子型分類されたSNPはすべて、Hardy-Weinberg平衡であった。各遺伝子型に関しては3×2クロスタブを用いて、そして両側カイ二乗検定で、ホモ接合およびへテロ接合遺伝子型の各々の考え得る組合せに関しては2×2クロスタブを用いて、効能に関する遺伝子型分布の差を試験した。
【0068】
TNF遺伝子内で、異なるSNP間のLDの測定値を、Somers’のD係数を用いて概算した。すべてのTNF SNP間、ならびにTNF SNPおよびHLA-DRB1対立遺伝子間に有意のLDが存在したので、TNFに関するハプロタイプならびにHLA DRB1対立遺伝子およびTNFを含む延長されたハプロタイプを、われわれも考察した。ソフトウエアPHASE(バージョン2.1)を用いて、ハプロタイプ再構築を実施した。このBayesianアルゴリズムは、各被験者により保有されるハプロタイプの最もありそうな対を提供する(Stephens et al. 2001, Stephens et al. 2003)。ハプロタイプ推定におけるPHASE確実性の平均確率は、TNFハプロタイプに関しては99%、そしてSE-TNF広範囲ハプロタイプに関しては83%であった。TNF遺伝子座中のSEおよび3 SNPが調査されたため、そしてハプロタイプ再構築が実施されたため、多重比較のためにBonferroni補正を適用した。調整および非調整P値がともに、提示される。0.05未満のP値は有意と考えられた。
【0069】
結果:
コホートの説明:患者のベースライン特性を表1に示す。
【0070】
【表1】

【0071】
この薬理遺伝学的試験に含まれる382名の患者の臨床的応答のプロフィールは、全ReAct集団(6,610名の患者)のものと同一であった。12週目には、患者の41%(n=152)がACR50応答者であり、70%(n=267)がACR20応答者であり、そして15%(n=59)がACR70応答者であった。ADAへのMTX付加は、一変量(P=0.005)および多変量分析(見込み比:1.76;95%CI:1.14〜2.74)の両方において、より良好なACR50応答に有意に関連した。
【0072】
遺伝子型分布を以下に示す:TNF −238 G>Aに関しては、94.4%GG、5.3%AG、一患者は稀なAA遺伝子型を有した;−308G>Aに関しては、70%GG、26.5%AG、2.5%AA;−857 C>Tに関しては:82.7%CC、17%CT、一患者は稀なTT遺伝子型を有した。これらの分布は、白人集団に関する公的データベース(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/projects/SNP)からのものと一致した。
【0073】
患者間のSEの分布を、以下に示す:0コピー25.4%、1コピー47.6%、2コピー27%。このような分布は、SEキャリア74.6%および非SEキャリア25.4%を生じた。
【0074】
位置−238、−308および−857でTNF-αプロモーター中にSNPを有する4つの主要ハプロタイプを構築した(例えば−238G、−308Gおよび−857CからなるハプロタイプGGC)。これらの最高頻度のハプロタイプ(GGC、GAC、GGTおよびAGC)は、それぞれ73、15、9および3%の頻度で、合計99%以上を占める。稀なAACハプロタイプは、一患者にのみ見出された。
【0075】
ADA応答に及ぼすSEおよび個々のTNF-α遺伝子型の影響: 12週目のADAに対するACR50応答とSEまたはSE保有状態のコピー数との間の相関を、われわれは見出さなかった(表2)。
【0076】
【表2】

【0077】
12週目のADAに対するACR50応答と3つのTNF-α遺伝子多型(−238A/G、−308A/Gおよび−857C/T)遺伝子型のいずれかとの間の相関も、われわれは見出さなかった(表2)。それにもかかわらず、−238GG、−308GGおよび−857CC遺伝子型間の関連傾向、ならびにADAに対するより乏しい応答が観察された(表2)。
【0078】
ADA応答に及ぼすTNF-αハプロタイプの影響: ADA応答に及ぼすTNFAハプロタイプの遺伝的作用が分析された場合、GGCハプロタイプ保有状態による有意の応答差をわれわれは観察した(表3)。
【0079】
【表3】

【0080】
第一の分析において、10回未満示される稀なハプロタイプの組合せ:AGC/AAC(N=1)、GAC/AGC(N=2)、GAC/GAC(N=9)、GGT/AGC(N=3)、GGT/GAC(N=9)、GGT/GGT(N=3)を、われわれは除いた。残りの4つの主要ハプロタイプの組合せでは、GGCハプロタイプに関するホモ接合個体(N=184)は、3つの他のより高頻度の組合せハプロタイプ:GGC/GAC 47%(N=77)、GGC/GGT 53%(N=45)およびGGC/AGC 71%(N=14)と比較して、有意に低いACR50応答率(34%)を有した(P=0.0041、Pc=0.02)(表3)。このような観察は、治療に対する応答に及ぼすGGCハプロタイプの逆行性作用を大いに示唆した。実際、GGCハプロタイプホモ接合キャリア間の応答率は33%で、他のハプロタイプの組合せすべてに関して観察された50%応答率より有意に低かった(P=0.003、Pc=0.015)(図2)。12週目のACR20およびACR70応答は、類似の傾向が両方の群で観察された場合でさえ、GCCホモ接合性により有意に影響されない二次終点判定基準であった:それぞれ、GGC/GGC群における69%応答対他のハプロタイプ・キャリアの間の76%(P=0.14)、ならびにGGC/GGC群における15%応答対他のハプロタイプ・キャリアの間の19%(P=0.3)。これらの群における有意差の欠如は、おそらくは、応答者および非応答者間の患者の不均衡分布のための力の損失により説明される。逆に、12週目でのACR50は、全集団の50%に近い応答者および非応答者の分布を伴う作用を実証するための最良の統計学的力を提供する。
【0081】
次に、GGCホモ接合患者と、われわれの結果を妨害し得る他のハプロタイプ・キャリアとの間のベースライン特性差を探索した。特にDAS28RA疾患活性判定基準に関して、両群間に有意差は認められなかった(表4)。
【0082】
【表4】

【0083】
試験した集団の約半数はMTX治療を受けていたので、(MTXを用いてまたは用いずに)各治療亜群に及ぼすGGCホモ接合性をさらに分析した。意外にも、GGCホモ接合性に関連したより不十分な応答は、MTXを摂取している患者の群に主に存在した:この群では、ACR50応答率はGGCハプロタイプホモ接合キャリア間では38%であったが、これに対して他のハプロタイプ・キャリア間では60%であった(P=0.0095;Pc=0.047)。MTXを用いない群では、GGCハプロタイプホモ接合キャリア間のACR50応答率(30%)は他のハプロタイプ・キャリア間(40%)より低かったが、しかし両群間の差は有意ではなかった(P=0.25)。各治療群におけるACR50応答の時間経過展開は、非常に興味深いものであった(図3)。実際、MTX処置患者の間では、GGCハプロタイプホモ接合キャリアと他のハプロタイプ・キャリアとの間の応答差は2週目にすぐに同定可能であり、そして12週目まで依然として増大した。MTXを用いない群では、GGC/GGCキャリアと他の患者との応答差はより遅く、約10週目に、より低い大きさで認められたが、これは、MTXを用いない群における12週目での応答率間の有意差を支持する傾向がReActプロトコールに残念ながら利用可能でないより長期の追跡調査で真の有意差になり得る、ということを示唆する。
【0084】
ADA応答に及ぼすGGCホモ接合性の負の作用に及ぼすSEの影響: TNFA遺伝子座はHLA DRB1の直ぐ近くに位置し、そこで、GGCハプロタイプがSEに属するいくつかの対立遺伝子とLDで存在する程度を分析したいとわれわれは考えた。SEのコピー数の分布はGGCホモ接合患者と他の患者との間で有意に異なり(P=0.0012)、したがってGGCハプロタイプとSEからの対立遺伝子との間のLDを示唆した(表4)。
【0085】
それにもかかわらず、このような分布は延長されたハプロタイプ再構築を基礎とせず、そしてGGCハプロタイプとのSE対立遺伝子のシス、ならびにトランス関係を反映し得た。延長されたハプロタイプ再構築後、GGCハプロタイプの60%がSEの対立遺伝子と関連したが、これに比して、非GGCハプロタイプは28%に過ぎなかった(P=2.10-12)。したがって、GGCハプロタイプとSEの対立遺伝子との間のLDが確証された。延長されたハプロタイプ再構築は、82のSE-TNFハプロタイプ組合せをもたらした。これらの延長されたハプロタイプの注意深い検査は、GGCハプロタイプが、白人間の最も高頻度のHLA DRB1対立遺伝子に対応して、SEのHLA DRB1*0101および*0401対立遺伝子と主に関連する、ということを示した(表5)。
【0086】
【表5】

【0087】
0701-GGCハプロタイプ(24%応答)および0405-GGCハプロタイプ(30%応答)を除いて、これらの延長されたハプロタイプのほとんどが約40%のACR50応答率(範囲36〜42)と関連した。
【0088】
試験のこの段階では、GGCホモ接合ハプロタイプ・キャリアの間で観察されたより不十分な応答がSEの対立遺伝子とのLDのためであり得るか否かを分析することが重要であった。2コピーのSEのキャリアの間の12週目のACR50応答者の割合は40%で、0または1コピーのSEのキャリアの応答率(41%)と有意に異ならなかった。したがって、SEとの関連の欠如は、両染色体上に保有された場合でも、そして12週目のADAに対するACR50応答が不十分でも、このような仮説を申し立てる。さらに、GGCホモ接合ハプロタイプ・キャリアは、患者がSEを保有した場合(37%)または保有しなかった場合(27%)、ADAに対して等しく応答した(P=0.43)。
【0089】
結論:
この薬理遺伝学的試験は、集団のサイズならびにReAct試験内で記録された臨床データの質のために、注目に値する。それは、単一TNF-α遺伝子座ハプロタイプ(−238G/−308G/−857C)が、両染色体上に保有される場合、特定のSE対立遺伝子に起因しない劣性モードに従ってRA患者におけるADIに対するより不十分な応答と関連する、ということを示す強固なデータを提供する。
【0090】
参考文献
【化1】

【0091】
【化2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
TNF-α遮断薬を用いた治療に対する患者の応答性の予測方法であって、前記患者のTNF-α遺伝子の位置238でのグアニン、位置308でのグアニン、および位置857でのシトシンの存在または非存在を確定することを包含する方法であり、前記患者の前記TNF-α遺伝子の両コピーにおけるTNF-α遺伝子の位置238でのグアニン、位置308でのグアニン、および位置857でのシトシンの同時的存在が標準応答性に関してTNF-α遮断薬を用いた治療に対する前記患者の応答性の可能性減少を示す方法。
【請求項2】
前記患者が慢性関節リウマチに罹患している、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記患者が活動期慢性関節リウマチに罹患している、請求項2記載の方法。
【請求項4】
TNF-α遮断薬が抗TNF-α抗体または可溶性形態のTNF-α受容体である、請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
TNF-α遮断薬がエタネルセプト、インフリキシマブおよびアダリムマブから成る群から選択される、請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
TNF-α遮断薬がアダリムマブである、請求項1〜5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
TNF-α関連疾患を有する患者を治療するために意図された薬剤の製造のためのTNF-α遮断薬の使用であって、前記患者が前記TNF-α遺伝子の両コピーにおけるTNF-α遺伝子の位置238でのグアニン、位置308でのグアニン、および位置857でのシトシンを同時的に保有しない使用。
【請求項8】
TNF-α遮断薬が抗TNF-α抗体または可溶性形態のTNF-α受容体である、請求項7記載の使用。
【請求項9】
TNF-α遮断薬がエタネルセプト、インフリキシマブおよびアダリムマブから成る群から選択される、請求項7または8記載の使用。
【請求項10】
TNF-α遮断薬がアダリムマブである、請求項7〜9のいずれかに記載の使用。
【請求項11】
TNF-α関連疾患が慢性関節リウマチである、請求項7〜10のいずれかに記載の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2010−508838(P2010−508838A)
【公表日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−535819(P2009−535819)
【出願日】平成18年11月9日(2006.11.9)
【国際出願番号】PCT/IB2006/003165
【国際公開番号】WO2008/056198
【国際公開日】平成20年5月15日(2008.5.15)
【出願人】(500248467)アンスティテュ ナシオナル ドゥ ラ サントゥ エ ドゥ ラ ルシェルシェ メディカル(イーエヌエスエーエールエム) (19)
【Fターム(参考)】