TiC基Ti−Si−C系複合セラミックス及びその製造方法
【課題】TiCの持つ特性すなわち、高硬度、軽量、高導電性、高熱伝導性という特性を十分に活用し、さらに靭性、難焼結性を著しく改善すると共に、その他の特性も同時に向上させることのできるTiC基Ti−Si−C系複合セラミックス及びその製造方法を提供する。
【解決手段】Ti3SiC2、SiC及びTiCからなる相を備え、高密度、高ヤング率、高硬度、高破壊靭性の特性を有することを特徴とするTiC基Ti−Si−C系複合セラミックス。
【解決手段】Ti3SiC2、SiC及びTiCからなる相を備え、高密度、高ヤング率、高硬度、高破壊靭性の特性を有することを特徴とするTiC基Ti−Si−C系複合セラミックス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高密度、高ヤング率、高硬度、高破壊靭性、さらには熱伝導性、電気伝導性、耐酸化性、耐摩耗性、耐溶着性、耐熱衝撃性等の特性を有するTiC基Ti−Si−C系複合セラミックス及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
TiC(炭化チタン)は、高硬度、軽量、高導電性、高熱伝導性であり、さらに化学的に安定であるという優れた特性を備えている。このような硬質材料は、切削工具、研磨材など、耐摩耗性、耐溶着性が要求される部材などに使用される。
特に、鉄系金属材料の切削工具として用いる場合、高速化、高精度が要求されるのであるが、硬度及びヤング率の向上が不可欠である。すなわち、硬度向上は、切削工具の長寿命化をもたらし、切削工具の交換頻度を低減させる。ヤング率の向上は切削工具の変形を抑制する。その結果として、切削機械の高速化、高精度が実現できるからである。
【0003】
このTiCは、上記のような優れた特性を有する反面、低靭性であり、また難焼結性であるという欠点を持っている。このようなことから、Niなどの鉄系金属を焼結助剤として添加し、液相焼結をすることで、上記の難焼結性と低靭性という欠点を改善し、サーメットとして主に鉄系材料用の切削工具に利用されている。
しかしながら、一般的にNiなどの金属添加により、セラミックスの硬度及び高温耐酸化性の低下が生じるという欠点があり、Ni添加によって上記の欠点を十分に改善できるに至っていないのが現状である。このようなことから、Ni等の金属に替えることができる焼結助剤が求められている。
【0004】
チタンシリコンカーバイド(Ti3SiC2)に関連する従来技術として、結晶粒径が10μm以下であり、炭化チタン(TiC)含有量が8wt%以下であるチタンシリコンカーバイド(Ti3SiC2)焼結体(特許文献1参照)、炭化チタン(TiC)含有量が1wt%以下であるチタンシリコンカーバイド(Ti3SiC2)からなる金属性セラミックス粉末及び該粉末の製造方法(特許文献2参照)、炭化チタン(TiC)含有量が7wt%以下であるチタンシリコンカーバイド(Ti3SiC2)金属性焼結体とパルス通電加圧焼結方法(特許文献3参照)、水素化チタン粉、炭化チタン粉及び珪素粉末又は炭化珪素粉末を原料として、加圧焼結によりチタンシリコンカーバイド(Ti3SiC2)焼結体を製造する方法(特許文献4参照)、チタン粉、炭化珪素粉及びグラファイト粉末を原料として、固相反応により合成するチタンシリコンカーバイド(Ti3SiC2)焼結体の製造方法(特許文献5参照)の提案がある。
しかし、これらはいずれもチタンシリコンカーバイド(Ti3SiC2)それ自体か又はこれを主成分とする焼結体若しくはその製造方法であって、TiCを主成分とした焼結体、すなわち高硬度、軽量、高導電性、高熱伝導性等のTiCの持つ特性を十分に活かしているものではない。
【特許文献1】特開2003−2745号公報
【特許文献2】特開2004−107152号公報
【特許文献3】特開2003−20279号公報
【特許文献4】特開2006−1829号公報
【特許文献5】特開2005−89252号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記のような問題点に鑑みてなされたものであり、TiCの持つ特性すなわち、高硬度、軽量、高導電性、高熱伝導性という特性を十分に活用し、さらに靭性、難焼結性を著しく改善すると共に、その他の特性も同時に向上させることのできるTiC基Ti−Si−C系複合セラミックス及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
以上から、本願発明は、TiCを主成分とするTi−Si−C系複合セラミックスにおいて、金属に似た性質とセラミックスの優れた性質をもつ材料として近年注目されているTi3SiC2を利用するものである。このTi3SiC2材料は、金属に類似する熱伝導性、電気伝導性、耐熱衝撃性、機械加工性を持ち、セラミックスとしての優れた耐酸化性及び耐熱性を併せ備えている。さらに、比較的靭性が高く、高温で塑性変形するという特徴も有している。すなわち、本願発明は、このTi3SiC2をNiの代替とし、TiCを焼結させるためのバインダーとして用いるものである。
【0007】
1)本願発明は、Ti3SiC2、SiC及びTiCからなる相を備え、高密度、高ヤング率、高硬度、高破壊靭性の特性を有するTiC基Ti−Si−C系複合セラミックスを提供する。
2)本願発明のTiC基Ti−Si−C系複合セラミックスは、Ti3SiC2:1.0〜20.0vol.%、SiC:0.5〜8.0vol.%、残余TiCからなる相を備えていることが望ましい。
3)上記2)によって、本願発明のTiC基Ti−Si−C系複合セラミックスは、焼結密度σ:4.5gcm−3以上、ヤング率E:380GPa以上、ビッカース硬度Hv:12GPa以上、破壊靭性値Kc:3.5MPam1/2以上を達成することができる。
4)さらに、本願発明のTiC基Ti−Si−C系複合セラミックスは、上記の成分組成及び焼結条件を調整することにより、焼結密度σ:4.7gcm−3以上、ヤング率E:430GPa以上、ビッカース硬さHv:15GPa以上、破壊靭性値Kc:4.0MPam1/2以上を達成することができる。
【0008】
5)さらに、本願発明は、TiC基Ti−Si−C系複合セラミックス焼結体の製造に際し、出発原料としてTiC粉末とTiSi2粉末を用いるものである。これらの粉末を混合及び予備成型した後、この予備成型体をホットプレス又は通電加圧焼結法により加熱焼結し、TiC相、Ti3SiC2相、SiC相を備えたTiC基Ti−Si−C系複合セラミックス焼結体の製造方法を提供する。
前記Ti3SiC2相は、TiC相とTi−Si液相から生成するものであり、さらに焼結の際のバインダーとしての役割を担う。
【0009】
6)上記5)のTiC基Ti−Si−C系複合セラミックス焼結体の製造に際し、出発原料として、TiC粉末とTiSi2粉末とを0.9〜0.99:0.1〜0.01の比率となるように秤量した後、混合及び予備成型することが望ましい。
7)さらに、本願発明のTiC基Ti−Si−C系複合セラミックス焼結体を製造に際し、上記5)又は6)におけるホットプレス又は通電加圧焼結において、焼結温度1450〜1650°Cで加熱焼結することが望ましい。
8)上記5)〜7)の焼結により、Ti3SiC2:1.0〜20.0vol.%、SiC:0.5〜8.0vol.%、残余TiCからなる相を形成することが可能となる。
【0010】
9)上記本願発明のTiC基Ti−Si−C系複合セラミックス焼結体の製造方法により、焼結密度σ:4.5gcm−3以上、ヤング率E:380GPa以上、ビッカース硬度Hv:12GPa以上、破壊靭性値Kc:3.5MPam1/2以上を達成することができる。
10)さらに、TiC基Ti−Si−C系複合セラミックス焼結体の製造方法は、成分組成と、焼結条件の調整により、焼結密度σ:4.7gcm−3以上、ヤング率E:430GPa以上、ビッカース硬さHv:15GPa以上、破壊靭性値Kc:4.0MPam1/2以上を達成することが可能となる。
【発明の効果】
【0011】
上記により、TiCの持つ特性すなわち、高硬度、軽量、高導電性、高熱伝導性という特性を十分に活用し、さらに靭性、難焼結性を著しく改善すると共に、その他の特性も同時に向上させることのできるTiC基Ti−Si−C系複合セラミックス及びその製造方法を提供することができるという著しい効果を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本願発明を説明するに際し、図1にTi−Si−C系状態図(右図)及び反応式の説明図(左図)を示す。Ti3SiC2相はTiC相とTi−Si液相から生成することが知られている。
本願発明では、 出発原料にTiC粉末とTiSi2粉末を用いることにより、Ti3SiC2相を生成させ、これを焼結の際のバインダーとするものである。なお、TiSi2は低靭性であり、かつ比較的安価であるという特徴を有しており、また融点が1480°Cである。
【0013】
本願発明では、難焼結材料を合成するためにホットプレス法、特に反応性ホットプレス法又は反応性通電加圧焼結法を用いる。反応性通電加圧焼結法は、反応焼結と通電加圧焼結を組み合わせたものであるが、ホットプレス法よりも低温かつ短時間で焼結できるので、推奨される方法である。
ホットプレスは一般的な焼結に使用されている装置を使用できるので、特殊な焼結装置を設置する必要がないという利便性がある。ホットプレス法、特に反応性ホットプレス法、又は反応性通電加圧焼結法は、いずれも本願発明に適用できることは云うまでもない。
【0014】
下記の実施例において使用した通電加圧焼結用グラファイト型の概略を図2に示す。図2に示すように、ダイスとパンチでできたグラファイト型に粉末を充填し、真空チャンバー内で試料と型に通電することで加熱と加圧を同時に行えるようになっている。特に、型の中に充填した粉末に加圧しながらパルス状の電流を流して試料と型のみを加熱するものなので、炉内全部を加熱するホットプレスよりも省エネルギーであり、また急速昇温が可能であるという特徴を有している。
この通電加圧焼結法によれば、極めて短時間で難焼結材料の緻密化が可能であり、炭化物粒の増大を防ぐことができ、機械的性質の向上が可能である。しかし、前記の通り、汎用性のあるホットプレス装置を使用することに何ら制限はない。ホットプレス装置を使用する場合には、通電加圧焼結装置を使用して焼結する場合よりも、やや焼結温度を高めて実施することが望ましいということだけである。
【実施例】
【0015】
次に、実施例に基づいて説明する。なお、本実施例は下記の試験等に基づいて、より好適な実施の一例を提示するものであり、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。したがって、本発明の技術思想に含まれる変形、他の実施例又は態様は、全て本発明に含まれる。
本実施例を比較例となる条件との対比において説明する。
【0016】
(TiC基Ti−Si−C系複合セラミックスの作製)
原料粉末にTiC粉末とTiSi2粉末を用い、組成がxTiC−(1−x)TiSi2(0.78≦x≦1)となるように秤量し、乳鉢を用いて入念に混合した。混合粉末は、焼結用のグラファイトに充填し、予備成形として一軸加圧成形を50MPa、10minの条件で行い、その後反応性通電加圧焼結を行った。
焼結条件は、真空中、焼結荷重50MPa、所定の温度で10min間保持した。全ての組成で、1500°Cで焼結し,xが0.99では、1400から1500°Cまで温度を振り分けた。なお、焼結温度はグラファイト型の表面から10 mm内部の温度を光高温計で測定した値とした。
【0017】
xが1である場合、すなわちTiC単相については、1500°Cでは焼結できないので1700°Cで焼結する必要があるが、この1700°Cで焼結した試料については文献値を用いた。焼結した試料の両面を研削し、片面を鏡面に研磨したものを試料とした。
試料の評価は、生成相の同定、格子定数の計算、密度、弾性率、硬さ、破壊靱性、組織観察について行った。破壊靭性値はSEPB法による測定と、圧痕とクラックの長さから算出するIF法を用いた。
【0018】
(試験結果)
次に、試験結果を説明する。図3に各生成相の存在率とxの関係を示す。
すなわち、xTiC−(1−x)TiSi2(0.78≦x≦1)焼結体の各生成相の存在率を示す。この存在率は、x線回折パターンの最強ピーク強度比から算出したものである。焼結した結果、TiC相、Ti3SiC2相、SiC相の三相が同定できた。
反応式は次の通りである。xTiC+(1−x)TiSi2→((9x−7)/2)TiC+((3−3x)/2)Ti3SiC2+((1−x)/2)SiC(0.78≦x≦1)
【0019】
この生成相は、図1の右に示す状態図に従った。また、図3に示すようにxが増加するに連れ、TiCの存在率が増えバインダーとして生成させたTi3SiC2相の存在率が低下した。xが0.99以上でTi3SiC2相は同定できなかった。
また、SiCは常に低い存在率を示した。なお、x=0.8の試料は焼結中にグラファイトの型からTiSi2に液相が溶け出たため,0.9の組成に近づいていると思われる。
また、X線回折パターンにおいて、TiCとTi3SiC2のピーク位置がJCPDSカードに登録されているピーク位置とずれていたため、格子定数の計算を行った。
【0020】
(組織観察)
次に、組織観察の結果を図4に示す。得られた焼結体の生成物(反応生成物)と組織は、X線回折装置と走査型電子顕微鏡(SEM)と電子プローブマイクロアナライザー(EPMA)を用いて調べた。
この図4は、0.9TiC−0.1TiSi2(1500°C)の焼結体の微細組織である(x=0.9)。図4の(a)は組成像、(b)はTiの特性X線像、(c)はSiの特性X線像、(d)はCの特性X線像を示す。これらの特性X線像から、(a)における濃いグレーの相がTiC、白い相がTi3SiC2、黒い相がSiCであることが分った。
上記の組織図から、焼結中にTiCの周囲をTiSi2が囲み,そこで反応が生じたことが分る。
【0021】
次に、組成変化を生じた場合における微細組織の変化を図5に示す。xの増加と共に、図5の(a)→(e)に示すように、濃いグレーのTiCの領域が増え、白いTi3SiC2の領域が減っていくことが分る。そして、x=0.99では、組織観察では、Ti3SiC2は観察できなかった。
x=0.995では、TiCが殆どとなり、1500°Cでは焼結不足のため気孔が多く見られた。
図5の(f)に、x=1つまり、TiC単相のものを示した。この場合、1700°Cで焼結したものである。TiC単相は1700°C以上の焼結温度で緻密化するが、x=0.99(1500°C焼結)と比較すると粒径が大きくなっていることが確認できる。
【0022】
(体積率)
次に、これらの組成像から各生成相の体積率を、画像処理により求めた各生成相の体積率とxの関係を、図6に示す。この傾向はX線回折パターンから求めた存在率の傾向とよく合った。反応式とこの図から、後述する適正なxの範囲によって、好適なTi3SiC2相、SiC相及びTiC相の、それぞれの体積率を求めることができる。
【0023】
(密度)
作製したxTiC−(1−x)TiSi2(0.78≦x≦1)焼結体の密度(かさ密度)の測定結果及び開気孔率とxの関係を図7に示す。なお、焼結体の密度はアルキメデス法を用いて測定した。
xの増加とともに密度が上昇していき、x=0.99で最大値σ4.86gcm−3となった。この値は、TiC(単相)を1700°Cで焼結したときの値と等しくなった。このことは、TiCに少量のTiSi2の添加がTiCの焼結に有効であったと言える。すなわち、TiC(単相)での焼結温度よりも200°Cの低温で、同等の密度が達成できることを意味するものである。
図8に、0.99TiC−0.01TiSi2の焼結温度と焼結体の密度と開気孔率との関係を示す。これから明らかなように、1450°Cから1550°Cにかけて密度の向上はあるが、密度σは4.86〜4.87gcm−3でほぼ飽和しているのが分る。
【0024】
(ヤング率)
図9に、xTiC−(1−x)TiSi2(0.78≦x≦1)焼結体のヤング率とxの関係を示す。なお、ヤング率は高温動弾性率測定装置、探触子5MHzを用い、超音波パルス法により縦波の音速と横波の音速を測定して求めた。
xの増加とともにヤング率は上昇し、x=0.99の時、最大値461GPaとなった。これはTiC単相を焼結(1700°C)したものよりも高い値となった。すなわち、TiC(単相)での焼結温度よりも200°Cの低温で、さらに高いヤング率を達成できることを意味するものである。
【0025】
図10に、0.99TiC−0.01TiSi2の焼結温度とヤング率との関係を示す。これから明らかなように、1450°Cから1500°Cにかけてヤング率の向上はあるが、1500°Cから1550°Cにやや向上するもののヤング率461GPa〜462GPaでほぼ飽和しているのが分る。
ヤング率と気孔の関係はE=E0(1−kP)で表せる(但し、E0:気孔がない時のヤング率(GPa)、k:定数、P:気孔率(%))。すなわち、ヤング率は、気孔の量に依存することを示している。以上から、1500°C以上では、焼結体中の気孔の量に変化がないことが言え、x=0.99では1500°Cで焼結が完了したと言える。
【0026】
(ビッカース硬さ)
図11に、xTiC−(1−x)TiSi2(0.78≦x≦1)焼結体のビッカース硬さの関係を示す。xの増加にともないビッカース硬さは増大し、xが0.99で最大値19.6GPaの値をとった。
これは、TiC単相(1700°C焼結)のビッカース硬さ21.3GPaより、わずかに低い値となった。これは、焼結助剤として添加したTiSi2のためTiC粒界に、わずかに軟質のTi−Si−C系化合物を生成したためだと考えられる。いずれにしても、TiC(単相)の焼結温度よりも200°Cの低温で、ほぼ同等の硬さを達成できることを意味するものである。
【0027】
(破壊靭性値)
図12に、xTiC−(1−x)TiSi2(0.78≦x≦1)焼結体の破壊靭性値とxの関係を示す。破壊靭性値をSEPB法によるプロット(上方のライン)で示してある。なお、図12の下のラインはIF法(JIS式)によるものである。この図12に示す通り、xが0.9の時、破壊靭性値Kcは最大値6.1MPam1/2をとる。x=0.99では、破壊靭性値Kcは4.0MPam1/2であった。なお、x=1は純TiCであるが、この場合の破壊靭性値Kcは3.0MPam1/2であった。
図13は、Ti3SiC2相の体積率と焼結体の破壊靭性値との関係を示す。この図から明らかなように、破壊靭性値はTi3SiC2相の体積率(1.0〜20.0vol.%)の増加と共に急速に向上していることが分る。全体として、TiC単相よりはるかに靭性値が向上していることが分る。ここで、硬さのグラフも合わせて考えると、xが0.95の組成において、高硬度、高破壊靭性値の金属無添加の硬質セラミックス材料が合成できたことが分る。
【0028】
(以上の結果のまとめ)
以上から、TiCとTiSi2の混合粉末 (xTiC−(1−x)TiSi2(0.78≦x≦1) ) を出発原料にして、通電加圧焼結法により、TiC−Ti3SiC2−SiCを生成させる反応を起こさせながら焼結を行った結果、x = 0.9未満では、TiSi2が多く入っているため液相が多く生成し、型をいためてしまうという問題があることが分った。
そして、x=0.9以上では、型を傷めることなく焼結できることが分った。したがって、xは0.9以上とすることが必要である。
【0029】
Ti3SiC2をTiSi2の液相とTiCの反応から生成させることで、 1450〜1650°Cにおいて、x=0.8〜0.99において緻密に焼結した。しかし、型を傷めずに焼結するには、x=0.9以上であることが必要なことから、x=0.9〜0.99であることが望ましいことが分る。このx=0.9〜0.99の範囲は、図1に示す反応式と図6から、Ti3SiC2:1.0〜20.0vol.%、SiC:0.5〜8.0vol.%、残余TiCに相当する。
【0030】
本願発明のTiC基Ti−Si−C系複合セラミックスは、Ti3SiC2相の存在によって、TiCのみの焼結温度1700°Cよりも、250〜50°C低温の1450〜1650°Cの温度で焼結が可能となった。また、密度と開気孔率は純TiCと同程度することが可能であり、ビッカース硬さは純TiCとほぼ同程度までに達し、ヤング率は純TiCよりも改善することができる。さらに上記の通り、高破壊靭性値を大きく向上させることができる。
特に、x=0.99において、ヤング率E=461GPa、ビッカース硬さHv=19.6GPa、破壊靭性値Kcは4.0MPam1/2であり、純TiCに比べ、破壊靭性値に優れていることが分る。
【0031】
本願発明のTiC基Ti−Si−C系複合セラミックスにおいて、xが増加していくとTi3SiC2の体積率が減少しTiCが増加するが、これにより、焼結密度が上昇し、ヤング率、ビッカース硬さが増加する。逆に破壊靭性値は低下する傾向にある。
xが減少する場合には、この逆になる。密度、ヤング率及びビッカース硬さと破壊靭性値は、二律背反の関係にあるが、これらの特性値は、用途に応じて適宜選択することが可能である。
本願発明は、上記の条件を適宜選択することにより焼結密度σ:4.5gcm−3以上さらにはσ:4.7gcm−3以上、ヤング率E:380GPa以上さらにはE:430GPa以上、ビッカース硬度Hv:12GPa以上さらにはHv:15GPa以上、破壊靭性値Kc:3.5MPam1/2以上さらにはKc:4.0MPam1/2以上を達成することができる。
【0032】
上記の通り、密度、ヤング率及びビッカース硬さと破壊靭性値は二律背反の関係にあるが、いずれを主たる必要特性にするかによって、任意に選択できるものである。例えば密度、ヤング率及びビッカース硬さを主たる必要特性とする場合には、破壊靭性値の向上を抑えることも必要である。
その逆も、用途に応じて当然あり得ることである。また、双方の特性を活かしたい場合には、中間値をそれぞれ採用することが可能である。いずれの場合も、本願発明のTiC基Ti−Si−C系複合セラミックスは、通常のTi−Si−C系複合セラミックスに比べ、非常に高い特性値を示すので、このような中間値においても、優れた特性を活かすことが可能であることを知るべきである。
【0033】
また、以上については、特に反応性通電加圧焼結法を用いた製造例を説明したが、温度と加圧力を調整することによりホットプレス法により製造できることは容易に理解されるべきものである。焼結材料に対する均一加熱を行うために、焼結温度をやや高めにして実施することが望ましいと言えるが、他の条件は同様にして実施できる。説明を省略するが、ホットプレス法を使用した場合においても、同様の結果を得ることが可能であった。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明は、TiCの持つ特性すなわち、高硬度、軽量、高導電性、高熱伝導性、高ヤング率特性、耐酸化性、耐摩耗性、耐溶着性等の優れた特性を十分に活用し、さらに靭性、難焼結性を著しく改善したTiC基Ti−Si−C系複合セラミックスを得ることができ、例えば切削工具、ターゲット材、引抜きダイス、粉末冶金用金型、ノズル、メカニカルシール、軸受部品、射出成型用金型、ボールペン用ボール、電極、自動車部品などに有用である。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】Ti−Si−C系三元系状態図とTi3SiC2が形成される反応式の説明。
【図2】焼結用グラファイト型の概略説明図。
【図3】xTiC−(1−x)TiSi2の焼結後の、各生成相の存在率。
【図4】0.9TiC−0.1TiSi2(1500°C)の焼結体の微細組織を示す図。
【図5】xTiC−(1−x)TiSi2(1500°C)の焼結体の微細組織を示す図。
【図6】xTiC−(1−x)TiSi2の焼結体中の体積率を示す図。
【図7】xTiC−(1−x)TiSi2の焼結体の密度と開気孔率を示す図。
【図8】0.99TiC−0.01TiSi2の焼結温度と焼結体の密度と開気孔率の関係を示す図。
【図9】xTiC−(1−x)TiSi2の焼結体のヤング率を示す図。
【図10】0.99TiC−0.01TiSi2の焼結温度と焼結体のヤング率の関係を示す図。
【図11】xTiC−(1−x)TiSi2の焼結体のビッカース硬さを示す図。
【図12】xTiC−(1−x)TiSi2の焼結体の破壊靭性値を示す図。
【図13】Ti3SiC2の体積率と焼結体の破壊靭性値の関係を示す図。
【技術分野】
【0001】
本発明は、高密度、高ヤング率、高硬度、高破壊靭性、さらには熱伝導性、電気伝導性、耐酸化性、耐摩耗性、耐溶着性、耐熱衝撃性等の特性を有するTiC基Ti−Si−C系複合セラミックス及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
TiC(炭化チタン)は、高硬度、軽量、高導電性、高熱伝導性であり、さらに化学的に安定であるという優れた特性を備えている。このような硬質材料は、切削工具、研磨材など、耐摩耗性、耐溶着性が要求される部材などに使用される。
特に、鉄系金属材料の切削工具として用いる場合、高速化、高精度が要求されるのであるが、硬度及びヤング率の向上が不可欠である。すなわち、硬度向上は、切削工具の長寿命化をもたらし、切削工具の交換頻度を低減させる。ヤング率の向上は切削工具の変形を抑制する。その結果として、切削機械の高速化、高精度が実現できるからである。
【0003】
このTiCは、上記のような優れた特性を有する反面、低靭性であり、また難焼結性であるという欠点を持っている。このようなことから、Niなどの鉄系金属を焼結助剤として添加し、液相焼結をすることで、上記の難焼結性と低靭性という欠点を改善し、サーメットとして主に鉄系材料用の切削工具に利用されている。
しかしながら、一般的にNiなどの金属添加により、セラミックスの硬度及び高温耐酸化性の低下が生じるという欠点があり、Ni添加によって上記の欠点を十分に改善できるに至っていないのが現状である。このようなことから、Ni等の金属に替えることができる焼結助剤が求められている。
【0004】
チタンシリコンカーバイド(Ti3SiC2)に関連する従来技術として、結晶粒径が10μm以下であり、炭化チタン(TiC)含有量が8wt%以下であるチタンシリコンカーバイド(Ti3SiC2)焼結体(特許文献1参照)、炭化チタン(TiC)含有量が1wt%以下であるチタンシリコンカーバイド(Ti3SiC2)からなる金属性セラミックス粉末及び該粉末の製造方法(特許文献2参照)、炭化チタン(TiC)含有量が7wt%以下であるチタンシリコンカーバイド(Ti3SiC2)金属性焼結体とパルス通電加圧焼結方法(特許文献3参照)、水素化チタン粉、炭化チタン粉及び珪素粉末又は炭化珪素粉末を原料として、加圧焼結によりチタンシリコンカーバイド(Ti3SiC2)焼結体を製造する方法(特許文献4参照)、チタン粉、炭化珪素粉及びグラファイト粉末を原料として、固相反応により合成するチタンシリコンカーバイド(Ti3SiC2)焼結体の製造方法(特許文献5参照)の提案がある。
しかし、これらはいずれもチタンシリコンカーバイド(Ti3SiC2)それ自体か又はこれを主成分とする焼結体若しくはその製造方法であって、TiCを主成分とした焼結体、すなわち高硬度、軽量、高導電性、高熱伝導性等のTiCの持つ特性を十分に活かしているものではない。
【特許文献1】特開2003−2745号公報
【特許文献2】特開2004−107152号公報
【特許文献3】特開2003−20279号公報
【特許文献4】特開2006−1829号公報
【特許文献5】特開2005−89252号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記のような問題点に鑑みてなされたものであり、TiCの持つ特性すなわち、高硬度、軽量、高導電性、高熱伝導性という特性を十分に活用し、さらに靭性、難焼結性を著しく改善すると共に、その他の特性も同時に向上させることのできるTiC基Ti−Si−C系複合セラミックス及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
以上から、本願発明は、TiCを主成分とするTi−Si−C系複合セラミックスにおいて、金属に似た性質とセラミックスの優れた性質をもつ材料として近年注目されているTi3SiC2を利用するものである。このTi3SiC2材料は、金属に類似する熱伝導性、電気伝導性、耐熱衝撃性、機械加工性を持ち、セラミックスとしての優れた耐酸化性及び耐熱性を併せ備えている。さらに、比較的靭性が高く、高温で塑性変形するという特徴も有している。すなわち、本願発明は、このTi3SiC2をNiの代替とし、TiCを焼結させるためのバインダーとして用いるものである。
【0007】
1)本願発明は、Ti3SiC2、SiC及びTiCからなる相を備え、高密度、高ヤング率、高硬度、高破壊靭性の特性を有するTiC基Ti−Si−C系複合セラミックスを提供する。
2)本願発明のTiC基Ti−Si−C系複合セラミックスは、Ti3SiC2:1.0〜20.0vol.%、SiC:0.5〜8.0vol.%、残余TiCからなる相を備えていることが望ましい。
3)上記2)によって、本願発明のTiC基Ti−Si−C系複合セラミックスは、焼結密度σ:4.5gcm−3以上、ヤング率E:380GPa以上、ビッカース硬度Hv:12GPa以上、破壊靭性値Kc:3.5MPam1/2以上を達成することができる。
4)さらに、本願発明のTiC基Ti−Si−C系複合セラミックスは、上記の成分組成及び焼結条件を調整することにより、焼結密度σ:4.7gcm−3以上、ヤング率E:430GPa以上、ビッカース硬さHv:15GPa以上、破壊靭性値Kc:4.0MPam1/2以上を達成することができる。
【0008】
5)さらに、本願発明は、TiC基Ti−Si−C系複合セラミックス焼結体の製造に際し、出発原料としてTiC粉末とTiSi2粉末を用いるものである。これらの粉末を混合及び予備成型した後、この予備成型体をホットプレス又は通電加圧焼結法により加熱焼結し、TiC相、Ti3SiC2相、SiC相を備えたTiC基Ti−Si−C系複合セラミックス焼結体の製造方法を提供する。
前記Ti3SiC2相は、TiC相とTi−Si液相から生成するものであり、さらに焼結の際のバインダーとしての役割を担う。
【0009】
6)上記5)のTiC基Ti−Si−C系複合セラミックス焼結体の製造に際し、出発原料として、TiC粉末とTiSi2粉末とを0.9〜0.99:0.1〜0.01の比率となるように秤量した後、混合及び予備成型することが望ましい。
7)さらに、本願発明のTiC基Ti−Si−C系複合セラミックス焼結体を製造に際し、上記5)又は6)におけるホットプレス又は通電加圧焼結において、焼結温度1450〜1650°Cで加熱焼結することが望ましい。
8)上記5)〜7)の焼結により、Ti3SiC2:1.0〜20.0vol.%、SiC:0.5〜8.0vol.%、残余TiCからなる相を形成することが可能となる。
【0010】
9)上記本願発明のTiC基Ti−Si−C系複合セラミックス焼結体の製造方法により、焼結密度σ:4.5gcm−3以上、ヤング率E:380GPa以上、ビッカース硬度Hv:12GPa以上、破壊靭性値Kc:3.5MPam1/2以上を達成することができる。
10)さらに、TiC基Ti−Si−C系複合セラミックス焼結体の製造方法は、成分組成と、焼結条件の調整により、焼結密度σ:4.7gcm−3以上、ヤング率E:430GPa以上、ビッカース硬さHv:15GPa以上、破壊靭性値Kc:4.0MPam1/2以上を達成することが可能となる。
【発明の効果】
【0011】
上記により、TiCの持つ特性すなわち、高硬度、軽量、高導電性、高熱伝導性という特性を十分に活用し、さらに靭性、難焼結性を著しく改善すると共に、その他の特性も同時に向上させることのできるTiC基Ti−Si−C系複合セラミックス及びその製造方法を提供することができるという著しい効果を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本願発明を説明するに際し、図1にTi−Si−C系状態図(右図)及び反応式の説明図(左図)を示す。Ti3SiC2相はTiC相とTi−Si液相から生成することが知られている。
本願発明では、 出発原料にTiC粉末とTiSi2粉末を用いることにより、Ti3SiC2相を生成させ、これを焼結の際のバインダーとするものである。なお、TiSi2は低靭性であり、かつ比較的安価であるという特徴を有しており、また融点が1480°Cである。
【0013】
本願発明では、難焼結材料を合成するためにホットプレス法、特に反応性ホットプレス法又は反応性通電加圧焼結法を用いる。反応性通電加圧焼結法は、反応焼結と通電加圧焼結を組み合わせたものであるが、ホットプレス法よりも低温かつ短時間で焼結できるので、推奨される方法である。
ホットプレスは一般的な焼結に使用されている装置を使用できるので、特殊な焼結装置を設置する必要がないという利便性がある。ホットプレス法、特に反応性ホットプレス法、又は反応性通電加圧焼結法は、いずれも本願発明に適用できることは云うまでもない。
【0014】
下記の実施例において使用した通電加圧焼結用グラファイト型の概略を図2に示す。図2に示すように、ダイスとパンチでできたグラファイト型に粉末を充填し、真空チャンバー内で試料と型に通電することで加熱と加圧を同時に行えるようになっている。特に、型の中に充填した粉末に加圧しながらパルス状の電流を流して試料と型のみを加熱するものなので、炉内全部を加熱するホットプレスよりも省エネルギーであり、また急速昇温が可能であるという特徴を有している。
この通電加圧焼結法によれば、極めて短時間で難焼結材料の緻密化が可能であり、炭化物粒の増大を防ぐことができ、機械的性質の向上が可能である。しかし、前記の通り、汎用性のあるホットプレス装置を使用することに何ら制限はない。ホットプレス装置を使用する場合には、通電加圧焼結装置を使用して焼結する場合よりも、やや焼結温度を高めて実施することが望ましいということだけである。
【実施例】
【0015】
次に、実施例に基づいて説明する。なお、本実施例は下記の試験等に基づいて、より好適な実施の一例を提示するものであり、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。したがって、本発明の技術思想に含まれる変形、他の実施例又は態様は、全て本発明に含まれる。
本実施例を比較例となる条件との対比において説明する。
【0016】
(TiC基Ti−Si−C系複合セラミックスの作製)
原料粉末にTiC粉末とTiSi2粉末を用い、組成がxTiC−(1−x)TiSi2(0.78≦x≦1)となるように秤量し、乳鉢を用いて入念に混合した。混合粉末は、焼結用のグラファイトに充填し、予備成形として一軸加圧成形を50MPa、10minの条件で行い、その後反応性通電加圧焼結を行った。
焼結条件は、真空中、焼結荷重50MPa、所定の温度で10min間保持した。全ての組成で、1500°Cで焼結し,xが0.99では、1400から1500°Cまで温度を振り分けた。なお、焼結温度はグラファイト型の表面から10 mm内部の温度を光高温計で測定した値とした。
【0017】
xが1である場合、すなわちTiC単相については、1500°Cでは焼結できないので1700°Cで焼結する必要があるが、この1700°Cで焼結した試料については文献値を用いた。焼結した試料の両面を研削し、片面を鏡面に研磨したものを試料とした。
試料の評価は、生成相の同定、格子定数の計算、密度、弾性率、硬さ、破壊靱性、組織観察について行った。破壊靭性値はSEPB法による測定と、圧痕とクラックの長さから算出するIF法を用いた。
【0018】
(試験結果)
次に、試験結果を説明する。図3に各生成相の存在率とxの関係を示す。
すなわち、xTiC−(1−x)TiSi2(0.78≦x≦1)焼結体の各生成相の存在率を示す。この存在率は、x線回折パターンの最強ピーク強度比から算出したものである。焼結した結果、TiC相、Ti3SiC2相、SiC相の三相が同定できた。
反応式は次の通りである。xTiC+(1−x)TiSi2→((9x−7)/2)TiC+((3−3x)/2)Ti3SiC2+((1−x)/2)SiC(0.78≦x≦1)
【0019】
この生成相は、図1の右に示す状態図に従った。また、図3に示すようにxが増加するに連れ、TiCの存在率が増えバインダーとして生成させたTi3SiC2相の存在率が低下した。xが0.99以上でTi3SiC2相は同定できなかった。
また、SiCは常に低い存在率を示した。なお、x=0.8の試料は焼結中にグラファイトの型からTiSi2に液相が溶け出たため,0.9の組成に近づいていると思われる。
また、X線回折パターンにおいて、TiCとTi3SiC2のピーク位置がJCPDSカードに登録されているピーク位置とずれていたため、格子定数の計算を行った。
【0020】
(組織観察)
次に、組織観察の結果を図4に示す。得られた焼結体の生成物(反応生成物)と組織は、X線回折装置と走査型電子顕微鏡(SEM)と電子プローブマイクロアナライザー(EPMA)を用いて調べた。
この図4は、0.9TiC−0.1TiSi2(1500°C)の焼結体の微細組織である(x=0.9)。図4の(a)は組成像、(b)はTiの特性X線像、(c)はSiの特性X線像、(d)はCの特性X線像を示す。これらの特性X線像から、(a)における濃いグレーの相がTiC、白い相がTi3SiC2、黒い相がSiCであることが分った。
上記の組織図から、焼結中にTiCの周囲をTiSi2が囲み,そこで反応が生じたことが分る。
【0021】
次に、組成変化を生じた場合における微細組織の変化を図5に示す。xの増加と共に、図5の(a)→(e)に示すように、濃いグレーのTiCの領域が増え、白いTi3SiC2の領域が減っていくことが分る。そして、x=0.99では、組織観察では、Ti3SiC2は観察できなかった。
x=0.995では、TiCが殆どとなり、1500°Cでは焼結不足のため気孔が多く見られた。
図5の(f)に、x=1つまり、TiC単相のものを示した。この場合、1700°Cで焼結したものである。TiC単相は1700°C以上の焼結温度で緻密化するが、x=0.99(1500°C焼結)と比較すると粒径が大きくなっていることが確認できる。
【0022】
(体積率)
次に、これらの組成像から各生成相の体積率を、画像処理により求めた各生成相の体積率とxの関係を、図6に示す。この傾向はX線回折パターンから求めた存在率の傾向とよく合った。反応式とこの図から、後述する適正なxの範囲によって、好適なTi3SiC2相、SiC相及びTiC相の、それぞれの体積率を求めることができる。
【0023】
(密度)
作製したxTiC−(1−x)TiSi2(0.78≦x≦1)焼結体の密度(かさ密度)の測定結果及び開気孔率とxの関係を図7に示す。なお、焼結体の密度はアルキメデス法を用いて測定した。
xの増加とともに密度が上昇していき、x=0.99で最大値σ4.86gcm−3となった。この値は、TiC(単相)を1700°Cで焼結したときの値と等しくなった。このことは、TiCに少量のTiSi2の添加がTiCの焼結に有効であったと言える。すなわち、TiC(単相)での焼結温度よりも200°Cの低温で、同等の密度が達成できることを意味するものである。
図8に、0.99TiC−0.01TiSi2の焼結温度と焼結体の密度と開気孔率との関係を示す。これから明らかなように、1450°Cから1550°Cにかけて密度の向上はあるが、密度σは4.86〜4.87gcm−3でほぼ飽和しているのが分る。
【0024】
(ヤング率)
図9に、xTiC−(1−x)TiSi2(0.78≦x≦1)焼結体のヤング率とxの関係を示す。なお、ヤング率は高温動弾性率測定装置、探触子5MHzを用い、超音波パルス法により縦波の音速と横波の音速を測定して求めた。
xの増加とともにヤング率は上昇し、x=0.99の時、最大値461GPaとなった。これはTiC単相を焼結(1700°C)したものよりも高い値となった。すなわち、TiC(単相)での焼結温度よりも200°Cの低温で、さらに高いヤング率を達成できることを意味するものである。
【0025】
図10に、0.99TiC−0.01TiSi2の焼結温度とヤング率との関係を示す。これから明らかなように、1450°Cから1500°Cにかけてヤング率の向上はあるが、1500°Cから1550°Cにやや向上するもののヤング率461GPa〜462GPaでほぼ飽和しているのが分る。
ヤング率と気孔の関係はE=E0(1−kP)で表せる(但し、E0:気孔がない時のヤング率(GPa)、k:定数、P:気孔率(%))。すなわち、ヤング率は、気孔の量に依存することを示している。以上から、1500°C以上では、焼結体中の気孔の量に変化がないことが言え、x=0.99では1500°Cで焼結が完了したと言える。
【0026】
(ビッカース硬さ)
図11に、xTiC−(1−x)TiSi2(0.78≦x≦1)焼結体のビッカース硬さの関係を示す。xの増加にともないビッカース硬さは増大し、xが0.99で最大値19.6GPaの値をとった。
これは、TiC単相(1700°C焼結)のビッカース硬さ21.3GPaより、わずかに低い値となった。これは、焼結助剤として添加したTiSi2のためTiC粒界に、わずかに軟質のTi−Si−C系化合物を生成したためだと考えられる。いずれにしても、TiC(単相)の焼結温度よりも200°Cの低温で、ほぼ同等の硬さを達成できることを意味するものである。
【0027】
(破壊靭性値)
図12に、xTiC−(1−x)TiSi2(0.78≦x≦1)焼結体の破壊靭性値とxの関係を示す。破壊靭性値をSEPB法によるプロット(上方のライン)で示してある。なお、図12の下のラインはIF法(JIS式)によるものである。この図12に示す通り、xが0.9の時、破壊靭性値Kcは最大値6.1MPam1/2をとる。x=0.99では、破壊靭性値Kcは4.0MPam1/2であった。なお、x=1は純TiCであるが、この場合の破壊靭性値Kcは3.0MPam1/2であった。
図13は、Ti3SiC2相の体積率と焼結体の破壊靭性値との関係を示す。この図から明らかなように、破壊靭性値はTi3SiC2相の体積率(1.0〜20.0vol.%)の増加と共に急速に向上していることが分る。全体として、TiC単相よりはるかに靭性値が向上していることが分る。ここで、硬さのグラフも合わせて考えると、xが0.95の組成において、高硬度、高破壊靭性値の金属無添加の硬質セラミックス材料が合成できたことが分る。
【0028】
(以上の結果のまとめ)
以上から、TiCとTiSi2の混合粉末 (xTiC−(1−x)TiSi2(0.78≦x≦1) ) を出発原料にして、通電加圧焼結法により、TiC−Ti3SiC2−SiCを生成させる反応を起こさせながら焼結を行った結果、x = 0.9未満では、TiSi2が多く入っているため液相が多く生成し、型をいためてしまうという問題があることが分った。
そして、x=0.9以上では、型を傷めることなく焼結できることが分った。したがって、xは0.9以上とすることが必要である。
【0029】
Ti3SiC2をTiSi2の液相とTiCの反応から生成させることで、 1450〜1650°Cにおいて、x=0.8〜0.99において緻密に焼結した。しかし、型を傷めずに焼結するには、x=0.9以上であることが必要なことから、x=0.9〜0.99であることが望ましいことが分る。このx=0.9〜0.99の範囲は、図1に示す反応式と図6から、Ti3SiC2:1.0〜20.0vol.%、SiC:0.5〜8.0vol.%、残余TiCに相当する。
【0030】
本願発明のTiC基Ti−Si−C系複合セラミックスは、Ti3SiC2相の存在によって、TiCのみの焼結温度1700°Cよりも、250〜50°C低温の1450〜1650°Cの温度で焼結が可能となった。また、密度と開気孔率は純TiCと同程度することが可能であり、ビッカース硬さは純TiCとほぼ同程度までに達し、ヤング率は純TiCよりも改善することができる。さらに上記の通り、高破壊靭性値を大きく向上させることができる。
特に、x=0.99において、ヤング率E=461GPa、ビッカース硬さHv=19.6GPa、破壊靭性値Kcは4.0MPam1/2であり、純TiCに比べ、破壊靭性値に優れていることが分る。
【0031】
本願発明のTiC基Ti−Si−C系複合セラミックスにおいて、xが増加していくとTi3SiC2の体積率が減少しTiCが増加するが、これにより、焼結密度が上昇し、ヤング率、ビッカース硬さが増加する。逆に破壊靭性値は低下する傾向にある。
xが減少する場合には、この逆になる。密度、ヤング率及びビッカース硬さと破壊靭性値は、二律背反の関係にあるが、これらの特性値は、用途に応じて適宜選択することが可能である。
本願発明は、上記の条件を適宜選択することにより焼結密度σ:4.5gcm−3以上さらにはσ:4.7gcm−3以上、ヤング率E:380GPa以上さらにはE:430GPa以上、ビッカース硬度Hv:12GPa以上さらにはHv:15GPa以上、破壊靭性値Kc:3.5MPam1/2以上さらにはKc:4.0MPam1/2以上を達成することができる。
【0032】
上記の通り、密度、ヤング率及びビッカース硬さと破壊靭性値は二律背反の関係にあるが、いずれを主たる必要特性にするかによって、任意に選択できるものである。例えば密度、ヤング率及びビッカース硬さを主たる必要特性とする場合には、破壊靭性値の向上を抑えることも必要である。
その逆も、用途に応じて当然あり得ることである。また、双方の特性を活かしたい場合には、中間値をそれぞれ採用することが可能である。いずれの場合も、本願発明のTiC基Ti−Si−C系複合セラミックスは、通常のTi−Si−C系複合セラミックスに比べ、非常に高い特性値を示すので、このような中間値においても、優れた特性を活かすことが可能であることを知るべきである。
【0033】
また、以上については、特に反応性通電加圧焼結法を用いた製造例を説明したが、温度と加圧力を調整することによりホットプレス法により製造できることは容易に理解されるべきものである。焼結材料に対する均一加熱を行うために、焼結温度をやや高めにして実施することが望ましいと言えるが、他の条件は同様にして実施できる。説明を省略するが、ホットプレス法を使用した場合においても、同様の結果を得ることが可能であった。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明は、TiCの持つ特性すなわち、高硬度、軽量、高導電性、高熱伝導性、高ヤング率特性、耐酸化性、耐摩耗性、耐溶着性等の優れた特性を十分に活用し、さらに靭性、難焼結性を著しく改善したTiC基Ti−Si−C系複合セラミックスを得ることができ、例えば切削工具、ターゲット材、引抜きダイス、粉末冶金用金型、ノズル、メカニカルシール、軸受部品、射出成型用金型、ボールペン用ボール、電極、自動車部品などに有用である。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】Ti−Si−C系三元系状態図とTi3SiC2が形成される反応式の説明。
【図2】焼結用グラファイト型の概略説明図。
【図3】xTiC−(1−x)TiSi2の焼結後の、各生成相の存在率。
【図4】0.9TiC−0.1TiSi2(1500°C)の焼結体の微細組織を示す図。
【図5】xTiC−(1−x)TiSi2(1500°C)の焼結体の微細組織を示す図。
【図6】xTiC−(1−x)TiSi2の焼結体中の体積率を示す図。
【図7】xTiC−(1−x)TiSi2の焼結体の密度と開気孔率を示す図。
【図8】0.99TiC−0.01TiSi2の焼結温度と焼結体の密度と開気孔率の関係を示す図。
【図9】xTiC−(1−x)TiSi2の焼結体のヤング率を示す図。
【図10】0.99TiC−0.01TiSi2の焼結温度と焼結体のヤング率の関係を示す図。
【図11】xTiC−(1−x)TiSi2の焼結体のビッカース硬さを示す図。
【図12】xTiC−(1−x)TiSi2の焼結体の破壊靭性値を示す図。
【図13】Ti3SiC2の体積率と焼結体の破壊靭性値の関係を示す図。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Ti3SiC2、SiC及びTiCからなる相を備え、高密度、高ヤング率、高硬度、高破壊靭性の特性を有することを特徴とするTiC基Ti−Si−C系複合セラミックス。
【請求項2】
Ti3SiC2:1.0〜20.0vol.%、SiC:0.5〜8.0vol.%、残余TiCからなる相を備えていることを特徴とする請求項1記載のTiC基Ti−Si−C系複合セラミックス。
【請求項3】
焼結密度σ:4.5gcm−3以上、ヤング率E:380GPa以上、ビッカース硬度Hv:12GPa以上、破壊靭性値Kc:3.5MPam1/2以上を備えていることを特徴とする請求項1又は2記載のTiC基Ti−Si−C系複合セラミックス。
【請求項4】
焼結密度σ:4.7gcm−3以上、ヤング率E:430GPa以上、ビッカース硬さHv:15GPa以上、破壊靭性値Kc:4.0MPam1/2以上を備えていることを特徴とする請求項1又は2記載のTiC基Ti−Si−C系複合セラミックス。
【請求項5】
TiC粉末とTiSi2粉末とを混合及び予備成型し、この予備成型体をホットプレス又は通電加圧焼結法により加熱焼結し、TiC相、Ti3SiC2相、SiC相を備えた焼結体を得ることを特徴とするTiC基Ti−Si−C系複合セラミックス焼結体の製造方法。
【請求項6】
TiC粉末とTiSi2粉末とを0.9〜0.99:0.1〜0.01の比率となるように秤量した後、混合及び予備成型することを特徴とする請求項5記載のTiC基Ti−Si−C系複合セラミックス焼結体の製造方法。
【請求項7】
予備成型体をホットプレス又は通電加圧焼結法により、焼結温度1450〜1650°Cで加熱焼結することを特徴とする請求項5又は6記載のTiC基Ti−Si−C系複合セラミックス焼結体の製造方法。
【請求項8】
焼結により、Ti3SiC2:1.0〜20.0vol.%、SiC:0.5〜8.0vol.%、残余TiCからなる相を形成することを特徴とする請求項5〜7のいずれかに記載のTiC基Ti−Si−C系複合セラミックス焼結体の製造方法。
【請求項9】
焼結密度σ:4.5gcm−3以上、ヤング率E:380GPa以上、ビッカース硬度Hv:12GPa以上、破壊靭性値Kc:3.5MPam1/2以上を備えていることを特徴とする請求項5〜8のいずれかに記載のTiC基Ti−Si−C系複合セラミックス焼結体の製造方法。
【請求項10】
焼結密度σ:4.7gcm−3以上、ヤング率E:430GPa以上、ビッカース硬さHv:15GPa以上、破壊靭性値Kc:4.0MPam1/2以上を備えていることを特徴とする請求項5〜8のいずれかに記載のTiC基Ti−Si−C系複合セラミックス焼結体の製造方法。
【請求項1】
Ti3SiC2、SiC及びTiCからなる相を備え、高密度、高ヤング率、高硬度、高破壊靭性の特性を有することを特徴とするTiC基Ti−Si−C系複合セラミックス。
【請求項2】
Ti3SiC2:1.0〜20.0vol.%、SiC:0.5〜8.0vol.%、残余TiCからなる相を備えていることを特徴とする請求項1記載のTiC基Ti−Si−C系複合セラミックス。
【請求項3】
焼結密度σ:4.5gcm−3以上、ヤング率E:380GPa以上、ビッカース硬度Hv:12GPa以上、破壊靭性値Kc:3.5MPam1/2以上を備えていることを特徴とする請求項1又は2記載のTiC基Ti−Si−C系複合セラミックス。
【請求項4】
焼結密度σ:4.7gcm−3以上、ヤング率E:430GPa以上、ビッカース硬さHv:15GPa以上、破壊靭性値Kc:4.0MPam1/2以上を備えていることを特徴とする請求項1又は2記載のTiC基Ti−Si−C系複合セラミックス。
【請求項5】
TiC粉末とTiSi2粉末とを混合及び予備成型し、この予備成型体をホットプレス又は通電加圧焼結法により加熱焼結し、TiC相、Ti3SiC2相、SiC相を備えた焼結体を得ることを特徴とするTiC基Ti−Si−C系複合セラミックス焼結体の製造方法。
【請求項6】
TiC粉末とTiSi2粉末とを0.9〜0.99:0.1〜0.01の比率となるように秤量した後、混合及び予備成型することを特徴とする請求項5記載のTiC基Ti−Si−C系複合セラミックス焼結体の製造方法。
【請求項7】
予備成型体をホットプレス又は通電加圧焼結法により、焼結温度1450〜1650°Cで加熱焼結することを特徴とする請求項5又は6記載のTiC基Ti−Si−C系複合セラミックス焼結体の製造方法。
【請求項8】
焼結により、Ti3SiC2:1.0〜20.0vol.%、SiC:0.5〜8.0vol.%、残余TiCからなる相を形成することを特徴とする請求項5〜7のいずれかに記載のTiC基Ti−Si−C系複合セラミックス焼結体の製造方法。
【請求項9】
焼結密度σ:4.5gcm−3以上、ヤング率E:380GPa以上、ビッカース硬度Hv:12GPa以上、破壊靭性値Kc:3.5MPam1/2以上を備えていることを特徴とする請求項5〜8のいずれかに記載のTiC基Ti−Si−C系複合セラミックス焼結体の製造方法。
【請求項10】
焼結密度σ:4.7gcm−3以上、ヤング率E:430GPa以上、ビッカース硬さHv:15GPa以上、破壊靭性値Kc:4.0MPam1/2以上を備えていることを特徴とする請求項5〜8のいずれかに記載のTiC基Ti−Si−C系複合セラミックス焼結体の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
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【図5】
【図6】
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【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2007−261830(P2007−261830A)
【公開日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−86240(P2006−86240)
【出願日】平成18年3月27日(2006.3.27)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2005年9月28日 社団法人日本金属学会発行の「日本金属学会講演概要」に発表
【出願人】(591108178)秋田県 (126)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年3月27日(2006.3.27)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2005年9月28日 社団法人日本金属学会発行の「日本金属学会講演概要」に発表
【出願人】(591108178)秋田県 (126)
【Fターム(参考)】
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