説明

VYGFVRACL−HLA−A24に特異的に結合するT細胞レセプター

本発明は、VYGFVRACL−HLA-A24ペプチド-MHCへの特異的結合性を有する単離T細胞レセプター(TCR)を提供する。このTCRは、単独又は治療剤との組合せで、該複合体を提示するガン性細胞を標的するに有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、VYGFVRACL−HLA-A24への特異的結合性を有する単離T細胞レセプター(TCR)に関する。
【背景技術】
【0002】
(発明の背景)
VYGFVRACLペプチドは、テロメラーゼタンパク質の触媒サブユニットに由来する(Meyersonら(1997) Cell 90:785-795及びNakamuraら(1997) Science 277:955-9を参照)。これら研究は、データベース配列からのテロメラーゼ触媒サブユニットのDNA及び推定アミノ酸配列のほぼ同時の発見を記載している。両方の研究とも、テロメラーゼ触媒サブユニット活性がヒトガンに関連することを述べている。これらガン性細胞のクラスI HLA分子は、このタンパク質からのペプチド(VYGFVRACLを含む)を提示する。このペプチドは、HLA-A24に関連して提示される(Araiら(2001) Blood 97(9):2903-2907、及びTajimaら、Int. J. Cancer (2004) 110: 403-412)。したがって、VYGFVRACL−HLA-A24複合体は、(例えばガン細胞へ細胞傷害性薬剤を送達する目的のために)本発明のTCRが標的し得るガンマーカーを提供する。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0003】
(発明の簡単な説明)
本発明は、VYGFVRACL−HLA-A24複合体への特異的結合性を有する単離T細胞レセプター(TCR)を初めて利用可能にする。このTCRは、単独で又は治療剤との組合せで、前記複合体を提示するガン細胞を標的するに有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0004】
(発明の詳細な説明)
本発明は、VYGFVRACL−HLA-A24への特異的結合性を有する単離TCRを提供する。好ましくは、VYGFVRACL(配列番号1)ペプチドは、HLA-A*2402に関連して提示される。
【0005】
VYGFVRACL−HLA-A24への特異的結合性を有するTCRは、本明細書中では、VYG−A24 TCRと呼ぶ。「親」VYG−A24 TCRは、図1aに示されるα鎖可変領域(配列番号2)及び図1bに示されるβ鎖可変領域(配列番号3)を含んでなるものとして定義される。例えば、ジスルフィド連結した可溶型の親VYG−A24 TCRは、図5aに示されるTCRα鎖(配列番号15)及び図5bに示されるTCRβ鎖(配列番号16)からなる。
【0006】
本発明の1つの実施形態は、VYGFVRACL−HLA-A24への特異的結合性を有する非天然TCRにより提供される。これは、天然には見出されない配列からなる本発明のTCRである。
【0007】
別の実施形態は、TCRがVYGFVRACL−HLA-A*02402複合体に対して5μM又はそれより少ないKDを有することを特徴とする本発明のTCRを提供する。本明細書中の実施例4は、可溶性TCRとpMHC分子との間の相互作用に対するKDを決定するに適切なBiacoreベースの方法の詳細を提供する。
【0008】
更なる観点は、図10b(配列番号20)及び/又は図3b(配列番号12)に示される相補性決定領域(CDR)を含んでなる本発明の単離TCRにより提供される。これらTCR鎖のCDRには、対応する図において下線を付す。
【0009】
VYGFVRACL−HLA-A24複合体に特異的な親VYG-A24 TCRは、以下のVα鎖遺伝子及びVβ鎖遺伝子使用(usage)を有する:
α鎖 − TRAV22
β鎖:− TRBV 6.5
【0010】
VYG-A24 TCRは、本発明の他のTCRを製造できる鋳型として使用することができる。したがって、本発明は、少なくとも1つの相補性決定領域(CDR)及び/又は可変ドメインフレームワーク領域において、親VYG-A24 TCRのα鎖可変領域(図1a及び配列番号2を参照)及び/又はβ鎖可変領域(図1b及び配列番号3を参照)に対して変異したTCRを、1つの実施形態に包含する。関連する実施形態において、本発明はまた、VYG−A24 TCRα鎖可変領域(図10a及び配列番号19を参照)に対し、少なくとも1つの相補性決定領域(CDR)及び/又は可変ドメインフレームワーク領域で変異しているTCRを包含する。
【0011】
また、VYGFVRACL−HLA-A24複合体への特異的結合性を保持する高親和性変異体TCRを作製するために、本発明のTCRの可変ドメイン中の他の超可変領域、例えば超可変4(HV4)領域が変異していてもよいと企図される。
【0012】
ファージディスプレイは、TCR変形体のライブラリを作製し得る1つの手段を提供する。各々が非天然型ジスルフィド鎖間結合を含有するTCR変形体のライブラリのファージディスプレイ及びその後のスクリーニングに適切な方法は、Liら(2005) Nature Biotech 23(3):349-354及びWO 2004/04404に詳述されている。
【0013】
天然型TCRはへテロ二量体αβ又はγδ形態で存在する。しかし、単一のTCRα鎖又はTCRβ鎖からなる組換えTCRが、ペプチドMHC分子に結合することが以前に示されている。更に、αα又はββホモ二量体からなる組換えTCRは、ペプチドMHC分子に結合することが以前に示されている。したがって、本発明の他の実施形態は、TCRαα又はTCRββホモ二量体により提供される。
【0014】
1つの実施形態において、本発明のTCRは、α鎖可変領域及びTCRβ鎖可変領域を両方含んでなる。
【0015】
反する記載がない限り、本明細書中のTCRアミノ酸配列は、一般には、N末端メチオニン(Met又はM)残基を含んで提供される。当業者には公知であろうが、この残基は、組換えタンパク質の産生の間に除去され得る。これもまた当業者には自明であろうが、TCRのpMHC結合特性に実質的に影響することなく、C末端及び/又はN末端に提供される配列を1、2、3、4、5又はそれより多くの残基だけ短縮することもまた可能である。全てのそのような平凡な(trivial)変形体は、本発明に包含される。
【0016】
本明細書中で使用する場合、用語「単離TCR」は、天然で見出されるもの以外の形式のTCR(例えば、可溶性TCR、又はTCRをコードする遺伝物質で非天然にトランスフェクトされた細胞に存在する当該TCR)を意味する。
【0017】
本明細書中で使用する場合、用語「可変領域」は、所定のTCRの、TCRα鎖に関してはTRAC遺伝子により、TCRβ鎖に関してはTRBC1遺伝子又はTRBC2遺伝子のいずれかによりコードされる定常ドメイン内に含まれない全てのアミノ酸を包含すると理解される(T cell receptor Factsbook(2001) LeFranc and LeFranc,Academic Press,ISBN 0-12-441352-8)。
【0018】
好ましい実施形態は、図1a(配列番号2)に示されるα鎖可変領域及び図1b(配列番号3)に示されるβ鎖可変領域、又はそれらの表現型上サイレントな変形体を含んでなる本発明のTCRを提供する。例えば、配列番号15(図5a)及び配列番号16(図5b)のアミノ酸配列を含んでなるTCR。このTCRα鎖は、ILAKFLHWL−HLA-A*0201複合体に特異的な公知のTCRのものである。このTCR鎖αのDNA配列及びアミノ酸配列は、WO 2005/116075に最初に公開された。
【0019】
他の好ましい実施形態は、図10a(配列番号19)に示されるα鎖可変領域及び図1b(配列番号3)に示されるβ鎖可変領域、又はそれらの表現型上サイレントな変形体を含んでなる本発明のTCRを提供する。例えば、配列番号20(図10b)及び配列番号16(図5b)のアミノ酸配列を含んでなるTCR。
【0020】
関連する実施形態において、本発明のこのようなTCRは、図6a(配列番号4)に示される短縮型α鎖定常領域アミノ酸配列と、図6b及び6c(配列番号5及び6)に示される短縮型β鎖アミノ酸定常領域配列の一方、又はそれらの表現型上サイレントな変形体を更に含んでなってもよい。
【0021】
本明細書中で使用する場合、用語「表現型上サイレントな変形体」は、HLA-A24に関連して提示されるテロメラーゼ由来VYGFVRACLペプチドへの結合性を保持するTCRをいうと理解される。例えば、当業者には公知であるが、VYGFVRACL−HLA-A24複合体との相互作用に関する親和性及び/又は解離速度を変化させることなく、上記で詳述したものと比較して軽微な変化が定常ドメイン及び/又は可変領域に組み込まれているTCRを作製することは可能であり得る。このような平凡な変形体は本発明の範囲に包含される。1又はそれより多い保存的置換がなされたTCRもまた、本発明の一部を形成する。
【0022】
1つの広い観点では、本発明のTCRは、単鎖TCR(scTCR)又は二量体TCR(dTCR)のいずれかの形態であり、それぞれWO 04/033685及びWO 03/020763に記載されるものを包含するがこれらに限定されない。
【0023】
適切なscTCR形態は、TCRα鎖可変領域に相当するアミノ酸配列により構成される第1のセグメントと、TCRβ鎖定常ドメイン細胞外配列に相当するアミノ酸配列のN末端に融合したTCRβ鎖可変領域配列に相当するアミノ酸配列により構成される第2のセグメントと、第1のセグメントのC末端を第2のセグメントのN末端に連結するリンカー配列とを含んでなる。
【0024】
或いは、第1のセグメントは、TCRβ鎖可変領域に相当するアミノ酸配列により構成されてもよく、第2のセグメントは、TCRα鎖定常ドメイン細胞外配列に相当するアミノ酸配列のN末端に融合したTCRα鎖可変領域に相当するアミノ酸配列により構成されてもよい。
【0025】
上記scTCRは、第1の鎖と第2の鎖との間のジスルフィド結合を更に含んでなってもよく、このジスルフィド結合は、天然型αβT細胞レセプター中に等価物がないものであり、リンカー配列の長さ及びジスルフィド結合の位置は、第1及び第2のセグメントの可変領域配列が天然型αβT細胞レセプター中と実質的に同様に互いに配向するような長さ及び位置である。
【0026】
より具体的には、第1のセグメントは、TCRα鎖定常ドメイン細胞外配列に相当するアミノ酸配列のN末端に融合したTCRα鎖可変領域配列に相当するアミノ酸配列により構成されていてもよく、第2のセグメントは、TCRβ鎖定常ドメイン細胞外配列に相当するアミノ酸配列のN末端に融合したTCRβ鎖可変領域に相当するアミノ酸配列により構成されていてもよく、ジスルフィド結合は、第1の鎖と第2の鎖との間に提供されてもよく、このジスルフィド結合は、天然型αβT細胞レセプター中に等価物がないものである。
【0027】
上記scTCR形態では、リンカー配列は、第1のセグメントのC末端を第2のセグメントのN末端に連結してもよく、式-PGGG-(SGGGG)n-P-(式中、nは5又は6であり、Pはプロリンであり、Gはグリシンであり、Sはセリンである)を有していてもよい。
-PGGG-SGGGGSGGGGSGGGGSGGGGSGGGG-P (配列番号7)
-PGGG-SGGGGSGGGGSGGGGSGGGGSGGGGSGGGG-P (配列番号8)
【0028】
本発明のTCRの適切なdTCR形態は、TCRα鎖可変領域配列に相当する配列がTCRα鎖定常ドメイン細胞外配列に相当する配列のN末端に融合している第1のポリペプチドと、TCRβ鎖可変領域配列に相当する配列がTCRβ鎖定常ドメイン細胞外配列に相当する配列のN末端に融合している第2のポリペプチドとを含んでなり、第1及び第2のポリペプチドが天然型αβT細胞レセプター中に等価物がないジスルフィド結合により連結している。
【0029】
第1のポリペプチドは、TCRα鎖定常ドメイン細胞外配列に相当する配列のN末端に融合したTCRα鎖可変領域配列を含んでなってもよく、第2のポリペプチドでは、TCRβ鎖可変領域配列に相当する配列がTCRβ鎖定常ドメイン細胞外配列に相当する配列のN末端に融合し、第1及び第2のポリペプチドは、TRAC*01のエキソン1のThr 48及びTRBC1*01若しくはTRBC2*01のエキソン1のSer 57、又はこれらの非ヒト等価物から置換したシステイン残基同士間のジスルフィド結合により連結していてもよい(本明細書中の「TRAC」などの命名法は、T cell receptor Factsbook(2001) LeFranc and LeFranc,Academic Press,ISBN 0-12-441352-8による)。
【0030】
本発明のTCRのdTCR形態又はscTCR形態は、ヒトαβTCRの細胞外定常領域及び可変領域の配列に相当するアミノ酸配列を有していてもよく、ジスルフィド結合は、前記定常ドメイン配列のアミノ酸残基同士を連結してもよく、このジスルフィド結合は、天然型TCR中には等価物がない。ジスルフィド結合は、β炭素原子が天然型TCR中で0.6nm未満離れているアミノ酸残基に相当するシステイン残基同士間、例えばTRAC*01のエキソン1のThr 48及びTRBC1*01若しくはTRBC2*01のエキソン1のSer 57、又はこれらの非ヒト等価物から置換されたシステイン残基同士間にある。システインが導入されてジスルフィド結合を形成することができる他の部位は、TCRα鎖についてはTRAC*01のエキソン1中の、TCRβ鎖についてはTRBC1*01又はTRBC2*01のエキソン1中の以下の残基である:
【0031】
【表1】

【0032】
上記で言及した非天然型ジスルフィド結合に加えて、本発明のTCRのdTCR形態又はscTCR形態は、天然型TCR中のジスルフィド結合により連結される残基に相当する残基同士間のジスルフィド結合を含んでもよい。
【0033】
本発明のTCRは、好ましくは、膜貫通配列に相当する配列を含有しない。
本発明のTCRは、好ましくは、天然型TCRの細胞質配列に相当する配列を含有しない。
【0034】
dTCR形態又はscTCR形態の本発明のTCRは、TCRα鎖可変領域配列に相当する配列がTCRα鎖定常ドメイン細胞外配列に相当する配列のN末端に融合している第1のポリペプチドと、TCRβ鎖可変領域配列に相当する配列がTCRβ鎖定常ドメイン細胞外配列に相当する配列のN末端に融合している第2のポリペプチドとを含んでなり、第1及び第2のポリペプチドが、TRAC*01のエキソン1のThr 48及びTRBC1*01若しくはTRBC2*01のエキソン1のSer 57、又はそれらの非ヒト等価物から置換したシステイン残基同士間のジスルフィドにより連結していてもよい。
【0035】
現時点で好ましい本発明の1つの実施形態は、配列番号15のα鎖アミノ酸配列と配列番号16のβ鎖アミノ酸配列とを含んでなるTCRを提供する。別の現時点で好ましい本発明の実施形態は、配列番号20のα鎖アミノ酸配列と配列番号16のβ鎖アミノ酸配列とを含んでなるTCRを提供する。
【0036】
本発明のTCRをコードする核酸もまた提供される。この核酸は、原核性又は真核性の宿主細胞における発現に適合された形態で提供されてもよい。適切な宿主細胞としては、細菌細胞、酵母細胞、哺乳動物細胞又は昆虫細胞が挙げられるがこれらに限定されない。例えば、宿主細胞はヒトT細胞又はヒト造血幹細胞であり得る。
【0037】
この適合された核酸は、該核酸が導入される宿主細胞のコドン嗜好性を反映して変異される。導入される変異は、コードされるポリペプチドのアミノ酸配列に影響しないサイレント変異である。GeneArt(Regensburg、ドイツ)は、適切な核酸最適化サービス(GeneOptimizerTM)を提供する。GeneArtが保有するWO 2004/059556は、最適化プロセスの更なる詳細を提供する。
【0038】
更に現時点で好適な本発明の実施形態は、完全長TCRα鎖DNA配列及び完全長TCRβ鎖DNA配列からなる核酸により提供される。前記核酸のいずれかに相補的な核酸、又は対応するRNA配列もまた本発明の一部を構成する。更に、当業者には自明であるが、本発明のTCRをコードする核酸は、非コード(イントロン)配列も含有し得る。
【0039】
当業者には自明であるが、この完全長TCR鎖DNA配列は以下の配列をコードする:
リーダー配列、並びに細胞外、膜貫通及び細胞質のTCR配列。
【0040】
PEG化TCR単量体
1つの特定の実施形態において、本発明のTCRは、少なくとも1つのポリアルキレングリコール鎖と組み合わされている。この結合は、当業者に公知の多くの方法で引き起こされ得る。好ましい実施形態では、ポリアルキレン鎖は、TCRと共有結合している。更なる実施形態では、本発明のこの観点のポリエチレングリコール鎖は、少なくとも2つのポリエチレン反復単位を含んでなる。
【0041】
多価TCR複合体
本発明の1つの観点は、少なくとも2つの本発明のTCRを含んでなる多価TCR複合体を提供する。この観点の1つの実施形態では、少なくとも2つのTCR分子は、リンカー成分を介して連結して多価複合体を形成する。好ましくは、この複合体は水に可溶性であるので、リンカー成分はそのように選択されるべきである。更に、リンカー成分は、形成される複合体の構造的多様性が最小となるように、TCR分子の規定位置に付着することができるべきであることが好ましい。この観点の1つの実施形態は、ポリマー鎖又はペプチド性リンカー配列が各TCRの可変領域配列中に位置しないアミノ酸残基同士の間に伸びる本発明のTCR複合体により提供される。
【0042】
本発明の複合体は医薬で使用され得るので、リンカー成分は、医薬的適合性(例えば免疫原性)に当然払うべき注意をもって選択されるべきである。
【0043】
上記の望ましい基準を満たすリンカー成分の例は、当該分野(例えば抗体フラグメントを連結する技術分野)で公知である。
【0044】
本発明の多価TCR分子の製造での使用に好ましい2つのクラスのリンカーが存在する。これらは、非ペプチド性ポリマー鎖又はペプチド性リンカー配列である。TCRがポリアルキレングリコール鎖により連結している本発明のTCR複合体は、この観点の1つの実施形態を提供する。
【0045】
第1は、親水性ポリマー、例えばポリアルキレングリコールである。最も通常に使用されるこのクラスのものは、ポリエチレングリコールすなわちPEGをベースにする。その構造を下記に示す。
HOCH2CH2O(CH2CH2O)n−CH2CH2OH
(式中、nは2より大きい)。しかし、他の適切な(任意に置換されていてもよい)ポリアルキレングリコールをベースにするものもある。ポリプロピレングリコール及びエチレングリコールとプロピレングリコールとのコポリマーが挙げられる。
【0046】
このようなポリマーは、治療剤、特にポリペプチド又はタンパク質治療薬を処理するか又はこれに接合するかして、該治療薬のPKプロフィールに有益な変化(例えば、減少した腎クリアランス、向上した血漿半減期、減少した免疫原性及び向上した溶解性)を達成するために使用され得る。PEG−治療薬接合体のPKプロフィールのこのような改善は、PEG分子が該治療薬の周囲に、免疫系との反応を立体的に障害し、タンパク質分解性分解を減少させる「殻」を形成することに起因すると考えられる(Caseyら(2000) Tumor Targeting 4 235-244)。使用する親水性ポリマーのサイズは、具体的には、TCR複合体の意図する治療用途に基づいて選択し得る。
【0047】
したがって、例えば、(例えば腫瘍治療における使用のために)生成物が循環中に放出され組織に浸透することを意図する場合には、5KDaのオーダーの低分子量ポリマーを使用することが有利であり得る。医薬製剤におけるPEG及び類似分子の使用を詳述する多くの総説論文及び本が存在する。例えば、Harris(1992) Polyethylene Glycol Chemistry - Biotechnical and Biomedical Applications,Plenum,New York,NY.、又はHarris & Zalipsky(1997) Chemistry and Biological Applications of Polyethylene Glycol ACS Books,Washington,D.C.を参照。
【0048】
使用するポリマーは、直鎖状又は分枝状の構造を有することができる。分枝状PEG分子又はその誘導体は、グリセロール及びグリセロールオリゴマー、ペンタエリスリトール、ソルビトール並びにリジンを含む分枝成分の付加により誘導することができる。
【0049】
通常、ポリマーは、該ポリマーがTCR中の標的部位へ連結することが可能となるように、その構造中、例えば一方又は両方の端部及び/又は主鎖からの分枝上に、化学反応性の基を有する。下記に示すように、この化学反応性の基は親水性ポリマーに直接結合させてもよいし、又は親水性ポリマーと反応性化学成分との間にスペーサ基/成分が存在していてもよい:
反応性化学成分−親水性ポリマー−反応性化学成分
反応性化学成分−スペーサ−親水性ポリマー−スペーサ−反応性化学成分
【0050】
上記で概説したタイプの構築物の形成に使用するスペーサは、非反応性の化学的に安定な鎖である任意の有機成分であり得る。このようなスペーサには、以下が含まれるがそれらに限定されない:
-(CH2)n- (式中、n=2〜5)
-(CH2)3NHCO(CH2)2
【0051】
二価アルキレンスペーサ基がポリアルキレングリコール鎖とTCRへのその結合点との間に位置する本発明のTCR複合体は、この観点の更なる実施形態を提供する。
ポリアルキレングリコール鎖が少なくとも2つのポリエチレングリコール反復単位を含んでなる本発明のTCR複合体は、この観点の更なる実施形態を提供する。
【0052】
本発明において有用であり得る反応性化学成分に直接か又はスペーサを介して連結する親水性ポリマーの商業的供給業者は多く存在する。これら供給業者としては、Nektar Therapeutics(CA、米国)、NOF Corporation(日本)、Sunbio(韓国)及びEnzon Pharmaceuticals(NJ、米国)が挙げられる。
【0053】
本発明において有用であり得る反応性化学成分に直接か又はスペーサを介して連結する市販の親水性ポリマーには、以下のものが含まれるがそれらに限定されない。
【0054】
【表2】

【0055】
種々のカップリング化学成分を使用して、ポリマー分子をタンパク質治療薬やペプチド治療薬とカップリングすることができる。最も適切なカップリング化学成分の選択は、所望するカップリング部位に大きく依存する。例えば、以下のカップリング化学成分が、PEG分子の1又はそれ以上の末端に付着されるために使用されてきた(出典:Nektar Molecular Engineering Catalogue 2003):
【0056】
N−マレイミド
ビニルスルホン
炭酸ベンゾトリアゾール
スクシンイミジルプロピオネート
スクシンイミジルブタノエート(succinimidyl butanoate)
チオエステル
アセトアルデヒド類
アクリレート類
ビオチン
一級アミン類
【0057】
上記のように、非PEGベースのポリマーもまた、本発明のTCRを多量化するために適切なリンカーを提供する。例えば、脂肪族鎖により連結したマレイミド末端を含有する成分、例えばBMH及びBMOE(Pierce,製品番号22330及び22323)が使用できる。
【0058】
ペプチド性リンカーが他のクラスのTCRリンカーである。これらリンカーは、アミノ酸の鎖から構成され、単純なリンカー又はTCR分子を付着させることができる多量体化ドメインを作製するために機能する。ビオチン/ストレプトアビジン系は、以前に、インビトロ結合研究用のTCR四量体を作製するために使用された(WO/99/60119を参照)。しかし、ストレプトアビジンは微生物由来のポリペプチドであり、よって治療薬における使用に理想的には適していない。
【0059】
TCRがヒト多量体化ドメインに由来するペプチド性リンカーにより連結している本発明のTCR複合体は、この観点の更なる実施形態を提供する。
【0060】
多価TCR複合体の作製に使用できる多量体化ドメインを含有する多くのヒトタンパク質が存在する。例えば、p53の四量体化ドメインは、単量体scFvフラグメントと比較して、増大した血清残存率及び有意に減少した解離速度を示すscFv抗体フラグメント四量体を作製するために利用されている(Willudaら(2001) J. Biol. Chem. 276 (17)14385-14392)。ヘモグロビンもまた、この種の適用におそらく使用できる四量体化ドメインを有する。
【0061】
少なくとも1つが治療剤と組み合わされている少なくとも2つのTCRを含んでなる本発明の多価TRC複合体は、この観点の最後の実施形態を提供する。
1つの観点では、本発明のTCR(又はその多価複合体)は、択一的又は追加的に、そのα鎖又はβ鎖のC末端又はN末端に反応性のシステインを含んでなり得る。
【0062】
診断及び治療用途
1つの観点では、本発明のTCRは治療剤又は検出可能な成分と組み合わされてもよい。例えば、治療剤又は検出可能な成分はTCRに共有結合させてもよい。
本発明の1つの実施形態において、治療剤又は検出可能な成分は、一方又は両方のTCR鎖のC末端に共有結合している。
【0063】
1つの観点において、本発明のscTCR又はdTCRの一方若しくは両方の鎖が検出可能な成分、例えば診断目的に適切な標識で標識されてもよい。このような標識TCRは、TCRリガンドと該TCRリガンドに特異的なTCR(又は多量体高アビディティ親和性TCR複合体)とを接触させ、該TCRリガンドへの結合を検出することを含んでなる、VYGFVRACL−HLA-A*0201複合体を検出する方法において有用である。(例えばビオチン化ヘテロ二量体を用いて)形成された四量体TCR複合体では、蛍光ストレプトアビジンを使用し、検出可能な標識を提供することができる。このような蛍光標識TCR四量体は、例えばこれらTCRが特異的であるVYGFVRACL−HLA-A*0201複合体を有する抗原提示細胞を検出するために、FACS分析における使用に適切である。
【0064】
本発明の可溶性TCRが検出され得る別の様式は、T細胞特異的抗体(例えば、抗CD3抗体)、特にモノクローナル抗体の使用による。多くの市販の抗T細胞抗体、例えばαF1及びβF1(それぞれTCRα鎖及びβ鎖の定常ドメインを認識する)が存在する。
【0065】
更なる観点において、本発明のTCR(又はその多価複合体)は、択一的又は追加的に、例えば細胞殺傷に使用するための細胞傷害成分又は免疫エフェクター分子(例えばインターロイキン又はサイトカイン)であり得る治療剤と組み合わされていてもよい(例えば、共有結合又はその他の結合をしていてもよい)。本発明の多価TCR複合体は、非多量体の野生型又は本発明のT細胞レセプターへテロ二量体と比べて、TCRリガンドに関して増強した結合能力を有し得る。したがって、本発明による多価TCR複合体は、特定の抗原を提示する細胞をインビトロ又はインビボで追跡又は標的するために特に有用であり、またそのような用途を有する更なる多価TCR複合体の製造のための中間体としても有用である。したがって、これらTCR又は多価TCR複合体は、インビボでの使用のために医薬的に許容される製剤で提供され得る。
【0066】
本発明はまた、標的細胞に治療剤を送達するための方法を提供する。この方法は、可能性のある標的細胞を本発明によるTCR又は多価TCR複合体と、標的細胞へのTCR又は多価TCR複合体の付着を可能にする条件下で接触させることを含んでなり、当該TCR又は多価TCR複合体は、VYGFVRACL−HLA-A24複合体に特異的であり、治療剤と組み合わされている。
【0067】
特に、本発明の可溶性TCR又は多価TCR複合体を使用して、特定の抗原を提示する細胞の位置に治療剤を送達することができる。このことは、多くの状況で、特に腫瘍に対して有用である。治療剤は、その効果を局所的にではあるが、該治療剤が結合する細胞に限らず発揮するように送達され得る。したがって、1つの特定の戦略は、腫瘍抗原に特異的な本発明のTCR又は多価TCR複合体に連結した抗腫瘍分子を考案する。
【0068】
多くの治療剤、例えば放射活性化合物、酵素(例えばパーフォリン)又は化学療法剤(例えばシスプラチン)がこの用途に用いられ得る。確実に所望の位置で毒性効果が発揮されるために、毒素は、それがゆっくりと放出されるように、ストレプトアビジンに連結したリポソーム内にあり得る。このことにより、体内での輸送の間の損傷効果が防止され、TCRと該当する抗原提示細胞との結合後に毒素が最大効果を有することが確実になる。
【0069】
他の適切な治療剤として、以下のものが挙げられる:
・小分子細胞傷害性物質、すなわち、哺乳動物細胞を殺傷する能力を有する分子量700ダルトン未満の化合物。このような化合物はまた、細胞傷害性効果を有することができる毒性金属を含有し得る。更に、これら小分子細胞傷害性物質にはまた、プロドラッグ、すなわち、生理学的条件下で崩壊又は変換して細胞傷害性物質を放出する化合物が含まれると理解される。このような物質の例には、シスプラチン、メイタンシン(maytansine)誘導体、ラケルマイシン(rachelmycin)、カリケアマイシン(calicheamicin)、ドセタキセル、エトポシド、ゲムシタビン、イホスファミド、イリノテカン、メルファラン、ミトキサントロン、ソルフィマーソディウムホトフィリンII(sorfimer sodiumphotofrin II)、テモゾロマイド(temozolmide)、トポテカン、トリメトレキサート(trimetreate)、グルクロナート、オーリスタチンE(auristatin E)、ビンクリスチン及びドキソルビシンが含まれる;
【0070】
・ペプチド細胞毒素、すなわち、哺乳動物細胞を殺傷する能力を有するタンパク質又はそのフラグメント。リシン、ジフテリア毒素、シュードモナス細菌外毒素A及びその変形体(例えばPE38)、DNAアーゼ及びRNAアーゼが含まれるがこれらに限定されない;
・放射性核種、すなわち、1以上のα粒子若しくはβ粒子又はγ線の同時放射を伴って崩壊する元素の不安定同位体。ヨウ素131、レニウム186、インジウム111、イットリウム90、ビスマス210及び213、アクチニウム225及びアスタチン213が含まれるがこれらに限定されない;キレート化剤が、TCR又はその多量体へのこれら放射性核種の結合を促進するために使用されてもよい;
【0071】
・プロドラッグ、抗体を指向する酵素プロドラッグを含むがこれに限定されない;
・免疫刺激剤、すなわち、免疫応答を刺激する成分。サイトカイン(例えば、IL-2及びIFN)、スーパー抗原及びその変異体、pHLA複合体及びケモカイン(例えばIL-8)、血小板第4因子、メラノーマ増殖刺激タンパク質など、抗体又はそのフラグメント、補体活性因子、異種タンパク質ドメイン、同種タンパク質ドメイン、ウイルス性/細菌性タンパク質ドメイン、ウイルス性/細菌性ペプチド及び抗T細胞決定基抗体(例えば、抗CD3又は抗CD28)を含むがこれらに限定されない。
【0072】
機能的抗体フラグメント及び変形体
本明細書に記載の組成物及び方法での使用に適切な抗体フラグメント及び変形体/アナログは、以下を包含するがそれらに限定されない。
【0073】
抗体フラグメント
当業者には公知であるが、親の抗体の結合特性と実質的に同じ結合特性を保持する、所定の抗体のフラグメントを作製することは可能である。以下にそのようなフラグメントの詳細を提供する:
【0074】
ミニボディ(minibody) − この構築物は短縮されたFc部分を有する抗体からなる。よって、これは、由来する抗体の完全な結合性ドメインを保持する。
【0075】
Fabフラグメント − これは、免疫グロブリン重鎖の一部に共有結合した単一免疫グロブリン軽鎖を含んでなる。よって、Fabフラグメントは1つの抗原結合部位を含んでなる。Fabフラグメントは、パパイン処理で遊離され得るIgG部分によって規定される。このフラグメントは、一般に、組換えDNA技術(Reevesら(2000) Lecture Notes on Immunology(第4版)Blackwell Science発行)により作製される。
【0076】
F(ab')2フラグメント − これは、単一抗体に由来する両方の抗原結合部位及びヒンジ領域を含んでなる。F(ab')2フラグメントは、ペプシン処理で遊離され得るIgG部分によって規定される。このフラグメントは、一般に、組換えDNA技術(Reevesら(2000) Lecture Notes on Immunology(第4版)Blackwell Science発行)により作製される。
【0077】
Fvフラグメント − これは、免疫グロブリン軽鎖可変ドメインに連結した免疫グロブリン重鎖可変ドメインを含んでなる。多くのFv設計がなされてきた。これには、2つのドメイン間の結合が導入ジスルフィド結合により強化されたdsFvが含まれる。或いは、scFvは、ペプチドリンカーを使用して2つのドメインを一緒に単一ポリペプチドとして結合して形成することができる。対応する免疫グロブリンの重鎖又は軽鎖の可変ドメイン及び定常ドメインと組み合わされた免疫グロブリン重鎖又は軽鎖の可変領域を含有するFv構築物もまた作製されている。Fvはまた多量体化されてダイアボディ(diabody)及びトリアボディ(triabody)に形成されている(Maynardら(2000) Annu Rev Biomed Eng 2 339-376)。
【0078】
ナノボディ(商標)(NanobodiesTM) − この構築物はAblynx(ベルギー)から市販されており、ラクダ科動物(例えば、ラクダ又はラマ)の抗体に由来する合成単一免疫グロブリン重鎖可変ドメインを含んでなる。
【0079】
ドメイン抗体 − この構築物は、Domantis(ベルギー)から市販されており、親和性成熟単一免疫グロブリン重鎖可変ドメイン又は免疫グロブリン軽鎖可変ドメインを含んでなる。
【0080】
抗体の変形体及びアナログ
本発明に関して規定される抗体の機能的特徴は、標的リガンドに特異的に結合する能力である。当業者には公知であるが、種々の他のタンパク質中にそのような結合特性を操作してつくることは可能である。本発明の組成物及び方法での使用に適切な抗体の変形体及びアナログの例には、以下が包含されるがそれらに限定されない。
【0081】
タンパク質足場をベースとした結合性ポリペプチド − このファミリーの結合性構築物は、天然型結合性ループを含有するタンパク質の変異アナログを含んでなる。例として、Affibody(スウェーデン)から市販されている、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)プロテインAのIgG結合性ドメインの1つに由来する3へリックスモチーフ(three-helix motif)に基づくアフィボディ(Affibodies)が挙げられる。別の例として、EvoGenix(オーストラリア)から市販されている、抗体結合性ループに類似するドメインが移植されているCTLA-4の細胞外ドメインに基づくエビボディ(Evibodies)が提供される。最後の例は、Regeneron Pharmaceuticals(米国)から市販されている、抗体足場にサイトカインレセプタードメインが移植されているサイトカイントラップ(Cytokine Traps)である。Nygrenら(2000)(Current Opinion in Structural biology 7 463-469)は、タンパク質中に新規な結合性部位を操作してつくるための足場の使用の総説を提供している。この総説は、足場の供給源として以下のタンパク質を述べている:CP1ジンクフィンガー、テンダミスタット(Tendamistat)、Zドメイン(プロテインAアナログの1つ)、PST1、コイルドコイル、LACI-D1及びシトクロムb562。他のタンパク質足場の研究は、フィブロネクチン、緑色蛍光タンパク質(GFP)及びアンキリンリピートの使用を報告している。
【0082】
当業者には公知であるが、所定のタンパク質リガンドの種々の部分に結合する抗体又はそのフラグメント、変形体若しくはアナログを作製することができる。例えば、抗CD3抗体は、この複合体を形成しているポリペプチド鎖(すなわち、γ、δ、ε、ζ及びηCD3鎖)のいずれに対しても惹起させることができる。εCD3鎖に結合する抗体が、本発明の組成物及び方法での使用に好ましい抗CD3抗体である。
【0083】
本発明の可溶性TCR又は多価TCR複合体は、プロドラッグを薬物に変換し得る酵素に連結されてもよい。これにより、プロドラッグが薬物を必要とする(すなわち、sTCRにより標的にされる)部位でのみ薬物に変換することが可能になる。
【0084】
本明細書中で開示されるVYGFVRACL(配列番号1)−HLA-A24特異的TCRは、ガンの診断方法及び治療方法に使用され得ると考えられる。
ガンの治療には、腫瘍又は転移の近傍への局在化が、毒素又は免疫刺激剤の効果を増強する。ワクチン送達には、ワクチン抗原を抗原提示細胞の近傍に局在させ、該抗原の効力を増強させ得る。この方法はまた造影目的にも適用できる。
【0085】
1つの実施形態は、本発明のTCRを提示する細胞により提供される。別の関連する実施形態は、本発明のTCRを提示するようにトランスフェクトされた細胞により提供される。本発明のTCRを提示する細胞又は本発明のTCRを提示するようにトランスフェクトされた細胞は、好ましくは、ヒトT細胞又はヒト造血幹細胞であり得る。本発明のTCRを提示する細胞は、養子療法によるガンの治療に有用である。これら方法は、細胞(例えばT細胞)を患者の標的細胞集団に指向させる手段を提供する。該方法は、標的細胞集団上のVYGFVRACL−HLA-A24リガンドに特異的な本発明のTCRを提示する複数の細胞をガン患者に投与することを含んでなる。
【0086】
本発明の更なる実施形態は、以下:医薬的に許容されるキャリアと共に、本発明のTCR若しくは多価TCR複合体(任意に治療剤と組み合わされていてもよい)、又は本発明のTCRを少なくとも1つ提示する複数の細胞、又は本発明のTCRをコードする核酸を含んでなる医薬組成物により提供される。
【0087】
本発明はまた、ガン疾患を患う対象に、本発明のTCR若しくは多価TCR複合体(任意に治療剤と組み合わされていてもよい)又は本発明のTCRを少なくとも1つ提示する複数の細胞又は本発明のTCRをコードする核酸の有効量を投与することを含んでなる、ガンの治療法を提供する。関連する実施形態では、本発明は、ガン治療用組成物の製造における、本発明のTCR若しくは多価TCR複合体(任意に治療剤と組み合わされていてもよい)又は本発明のTCRを少なくとも1つ提示する複数の細胞又は本発明のTCRをコードする核酸の使用を提供する。
【0088】
本発明による治療用又は造影用TCRは、通常、一般には医薬的に許容されるキャリアを含む、滅菌医薬組成物の一部として供給される。この医薬組成物は(患者への所望の投与法に依存して)任意の適切な形態であり得る。この医薬組成物は、単位剤形で提供されてもよく、一般には密封容器中で提供され、キットの一部として提供されてもよい。そのようなキットは、通常(必ずというわけではないが)、使用のための指示書を含む。キットは、前記の単位剤形を複数含み得る。
【0089】
医薬組成物は、任意の適切な経路、例えば、非経口経路、経皮経路又は吸入を介する経路(好ましくは非経口(皮下、筋肉内又は(最も好ましい)静脈内を含む)経路)による投与に適合され得る。このような組成物は、医薬の技術分野において公知の任意の方法(例えば、滅菌条件下で活性成分をキャリア又は賦形剤と混合すること)により製造され得る。
【0090】
本発明の物質の投薬量は、治療すべき疾患又は障害、治療すべき個体の年齢及び状態などに依存して、広範囲に変わり得る。最終的には、医師が使用すべき適切な投薬量を決定する。
【0091】
追加の観点
本発明のscTCR又はdTCR(好ましくは、ヒト配列に相当する定常配列及び可変配列により構成される)は、実質的に純粋な形態で、又は精製若しくは単離された調製物として提供されてもよい。例えば、本発明のscTCR又はdTCRは、他のタンパク質を実質的に含まない形態で提供されてもよい。
【0092】
VYGFVRACL−HLA-A*2402への特異的結合性を有し、(i)少なくとも1つのTCRα鎖可変領域及び/又は少なくとも1つのTCRβ鎖可変領域を含んでなり、且つ(ii)1μMより少ないか又は等しいVYGFVRACL−HLA-A*2402複合体に対するKDを有する高親和性TCRは、
(a)各々が親VYG−A24 TCRのα鎖及びβ鎖の可変領域を含んでなり、そのα鎖及びβ鎖の可変領域の一方又は両方が変異を含んでなる複数のTCRを作製し;
(b)この変異TCRをVYGFVRACL−HLA-A*2402と、該TCRと該VYGFVRACL−HLA-A*2402との結合を可能にするに適切な条件下で接触させ、
(c)その相互作用のKDを測定し、所望のKDを有するTCRを選択する
ことを含んでなる方法により同定され得る。
【0093】
本発明の各観点の好ましい特徴は、必要な変更を加えてではあるが、他の観点の各々についても同様である。本明細書中で言及する先行技術文献は法が許す最大限の範囲で本明細書に組み込まれる。
【実施例】
【0094】
実施例
以下の実施例で本発明を更に説明する。以下の実施例は、如何なる態様でも本発明の範囲を制限しない。
以下、添付の図面に言及する:
【0095】
図1a及び1bはそれぞれ、親VYG−A24 TCRのα鎖可変領域アミノ酸配列及びβ鎖可変領域アミノ酸配列を提供する。
図2a及び2bはそれぞれ、可溶型の親VYG−A24 TCRα鎖及びβ鎖のDNA配列を提供する。NdeI及びHindIII制限酵素認識部位に下線を付す。
図3a及び3bはそれぞれ、図2a及び2bのDNA配列から産生される可溶型の親VYG−A24 TCRα鎖及びβ鎖のアミノ酸配列を提供する。これら可溶性TCR鎖中のCDR配列に下線を付す。
【0096】
図4a及び4bはそれぞれ、非天然型ジスルフィド結合を形成するための追加のシステイン残基を含むように変異した可溶型の親VYG−A24 TCRα鎖及びβ鎖のDNA配列を提供する。各鎖中の導入システインコドンを影付きで示す。NdeI及びHindIII制限酵素認識部位に下線を付す。
図5a及び5bはそれぞれ、図4a及び4bのDNA配列から産生される可溶型の親VYG−A24 TCRα鎖及びβ鎖のアミノ酸配列を示す。各鎖における導入システインを影付きで示す。
【0097】
図6aは、TRACの短縮形態のアミノ酸配列を提供する。
図6bは、TRBC1の短縮形態のアミノ酸配列を提供する。
図6cは、TRBC2の短縮形態のアミノ酸配列を提供する。
図7aは、pGMT7プラスミドのプラスミドマップを提供する。
図7bは、pGMT7プラスミドのDNA配列を提供する。
【0098】
図8は、ペプチドリンカーを介して野生型ヒトIL-2に融合したTRBC2コード定常領域を使用する可溶性ジスルフィド連結型の親VYG−A24 TCRのβ鎖アミノ酸配列を詳述する。リンカー及びIL-2の配列はイタリック体である。
図9は、可溶性ジスルフィド連結型の親VYG−A24 TCRとHLA−VYGFVRACL−HLA-A*2402との相互作用について作成したBiacore応答曲線を提供する。
【0099】
図10aは、(c8) VYG−A24 TCRα鎖の可変領域のアミノ酸配列を提供する。
図10bは、非天然型システインアミノ酸が組み込まれた可溶形態の(c8) VYG−A24 TCRα鎖のアミノ酸配列を提供する。導入システインアミノ酸を強調し、このTCR鎖中のCDR内のアミノ酸に下線を付す。
【0100】
実施例1 − 親VYG−A24可変領域を含んでなる可溶性ジスルフィド連結TCRの作製
図4a及び4bは、VYGFVRACL−HLA-A*2402複合体に特異的な可溶性ジスルフィド連結形態の親VYG−A24 TCRのα鎖及びβ鎖のDNA配列を提供する。β鎖配列は、下記実施例6で言及する方法によりファージライブラリから同定した。α鎖は、ILAKFLHWL−HLA-A*0201複合体に特異的な公知のTCRのものである。このα鎖のDNA配列及びアミノ酸配列は、WO 2005/116075に最初に公開された。これらDNA配列は、多くの受託研究会社、例えばGeneArt(Regensburg、ドイツ)により新たに合成され得る。pGMT7ベースの発現プラスミド(これは、E.coli株BL21-DE3(pLysS)における高レベル発現用のT7プロモータを含有する(Panら、Biotechniques(2000) 29(6):1234-8))中へのこれらDNA配列のライゲーションを容易にするために、制限酵素認識部位もまた付加する。
【0101】
NdeI及びHindIIIで切断した各TCR鎖をコードするDNA配列を別個のpGMT7ベクター中にライゲートする。このベクターもまた、NdeI及びHindIIIで切断されている(pGMT7のプラスミドマップについては図7a、このベクターのDNA配列については図7b(配列番号17)を参照)。
【0102】
可溶性親VYG−A24 TCR鎖をコードするDNA中に導入した制限酵素認識部位:
NdeI - CATATG
HindIII - AAGCTT
【0103】
ライゲーション
ライゲートしたプラスミドをコンピテントE.coli株XL1-blue細胞に形質転換し、100mg/mlアンピシリン含有LB/寒天プレート上に播種する。37℃で一晩のインキュベーション後、1つのコロニーを採取し、100mg/mlアンピシリンを含有する10mlのLB中で振盪させながら37℃で一晩増殖させる。クローン化プラスミドを、Miniprepキット(Qiagen)を用いて精製し、挿入物を自動DNAシーケンサ(Lark Technologies)を用いて配列決定する。
【0104】
図5a及び5bはそれぞれ、図4a及び4bのDNA配列から産生した可溶性ジスルフィド連結親VYG−A24 TCRのα鎖及びβ鎖の細胞外アミノ酸配列を示す。
【0105】
実施例2 − 可溶性ジスルフィド連結VYG−A24 TCRの高親和性変形体の作製
実施例1に記載されるように作製した可溶性ジスルフィド連結親VYG−A24 TCRは、VYGFVRACL(配列番号43)−HLA-A*0201複合体に対して増大した親和性を有する本発明のTCRを作製するための鋳型として用いることができる。
【0106】
当業者には公知であるが、これらの変異鎖を作製するために要する必要なコドン変更は、これらの鎖をコードするDNA中に、部位特異的変異誘発により導入することができる(StratageneのQuickChangeTM Site-Directed Mutagenesis Kit)。
【0107】
簡潔には、これは、所望のコドン変更が組み込まれたプライマーと、変異誘発の鋳型として該当する親VYG−A24 TCR鎖DNAを含有するpGMT7プラスミドとを用いることにより達成することができる。
【0108】
変異誘発は次の条件を用いて行うことができる:全容量50μl中、50ngのプラスミド鋳型、1μlの10mM dNTP、5μlの製造業者により供給された10×Pfu DNAポリメラーゼ緩衝液、25pmolのfwdプライマー、25pmolのrevプライマー、1μlのpfu DNAポリメラーゼ。95℃で2分間の最初の変性工程後、反応物を、変性(95℃、10秒)、アニーリング(55℃、10秒)及び伸長(72℃、8分)の25サイクルに供し得る。得られた産物をDpnI制限酵素で消化して鋳型プラスミドを除き、E.coli株XL1-blueに形質転換し得る。変異誘発を配列決定により確証することができる。
【0109】
実施例3 − 可溶性TCRの発現、リフォールディング及び精製
実施例1で作製した親VYG−A24 TCRα鎖及び親VYG−A24 TCRβ鎖を含有するpGMT7発現プラスミドを、E.coli株BL21pLysSに別々に形質転換し、1つのアンピシリン耐性コロニーを37℃にてTYP(アンピシリン100μg/ml)培地中で0.4のOD600まで増殖させた後、0.5mM IPTGでタンパク質発現を誘導した。誘導の3時間後に、Beckman J-6B中で4000rpmにて30分間の遠心分離により細胞を回収した。細胞ペレットを、50mMのTris-HCl、25%(w/v)のスクロース、1mMのNaEDTA、0.1%(w/v)のNaAzide、10mMのDTTを含有する緩衝液(pH8.0)中に再懸濁した。一晩の凍結−解凍工程の後、再懸濁細胞を、Milsonix XL2020ソニケータ中での標準の12mm径プローブを使用する1分間のバーストで合計約10分間の超音波処理に付した。
【0110】
封入体ペレットを、Beckman J2-21遠心機における13000rpmにて30分間の遠心分離により回収した。次いで、3回の界面活性剤での洗浄を行い、細胞残渣及び膜成分を除去した。各回、封入体ペレットをTriton緩衝液(50mMのTris-HCl、0.5%のTriton-X100、200mMのNaCl、10mMのNaEDTA、0.1%(w/v)のNaAzide、2mMのDTT、pH8.0)中でホモジナイズした後、Beckman J2-21における13000rpmにて15分間の遠心分離によりペレット化した。次いで、以下の緩衝液中での同様な洗浄により界面活性剤及び塩を除去した:50mMのTris-HCl、1mMのNaEDTA、0.1%(w/v)のNaAzide、2mMのDTT、pH8.0。最後に、封入体を30mgずつ小分けし、−70℃にて凍結させる。封入体タンパク質の収率を、6Mグアニジン-HClで可溶化し、Bradford色素結合アッセイ(PerBio)で測定することにより定量した。
【0111】
約30mgのTCRβ鎖及び60mgのTCRα鎖の可溶化封入体を凍結ストックから解凍し、次いでサンプルを混合し、混合物を15mlのグアニジン溶液(6M塩酸グアニジン、10mM酢酸ナトリウム、10mM EDTA)中に希釈して、完全な鎖変性を確実に行った。次いで、十分に還元され変性したTCR鎖を含有するグアニジン溶液を、以下の1リットルのリフォールディング緩衝液中に注入した:100mM Tris pH8.5、400mM L-アルギニン、2mM EDTA、5mM還元型グルタチオン、0.5mM酸化型グルタチオン、5M尿素、0.2mM PMSF。酸化還元対(2-メルカプトエチルアミン及びシスタミン(それぞれ最終濃度6.6mM及び3.7mMまで))を加え、約5分後に変性TCR鎖を加えた。この溶液を5時間±15分間放置した。リフォールディングしたTCRを、Spectrapor 1メンブレン(Spectrum;製品番号132670)中で、10Lの10mM Tris(pH8.1)に対し、5℃±3℃にて18〜20時間透析した。この時間の後、透析緩衝液を新鮮な10mM Tris(pH8.1)(10L)に変え、透析を5℃±3℃にて更に20〜22時間継続した。
【0112】
透析したリフォールディング物をPOROS 50HQアニオン交換カラムに充填し、Akta Purifier(Pharmacia)を用いて50カラム容量を超える0〜500mM NaClグラジエントで結合タンパク質を溶出させることにより、sTCRを分解産物及び不純物から分離した。ピーク画分を4℃にて貯蔵し、クーマシー染色SDS-PAGEで分析した後、プールして濃縮した。最後に、sTCRを精製して、HBS-EP緩衝液(10mM HEPES pH7.4、150mM NaCl、3.5mM EDTA、0.05% Nonidet p40)で予め平衡化したSuperdex 200HRゲル濾過カラムを用いて特徴付けを行った。約50kDaの相対分子量で溶出するピークをプールし、濃縮した後、BIAcore表面プラズモン共鳴分析により特徴付けを行った。
【0113】
実施例4 − 特異pMHCへのsTCR結合のBiacore表面プラズモン共鳴特徴付け
表面プラズモン共鳴バイオセンサ(Biscore 3000TM)を使用して、VYGFVRACL−HLA-A*2402への親VYG−A24 TCRの結合を分析した。これは、半配向様式(semi-oriented fashion)でストレプトアビジン被覆結合表面に固定した単一VYGFVRACL−HLA-A*2402複合体(下記で説明)を作製することにより容易となった。これにより、同時に4つまでの異なるpMHC(別個のフローセルに固定)への可溶性T細胞レセプターの結合を効率的に試験することが可能になった。HLA複合体の手動での注入により、正確なレベルの固定化クラスI分子を容易に操作することが可能となる。
【0114】
ビオチン化クラスI HLA-A*2402分子を、構成サブユニットタンパク質及び合成ペプチドを含有する細菌発現封入体から、インビトロでリフォールディングさせ、続いて精製し、インビトロにて酵素でビオチン化した(O'Callaghanら(1999) Anal. Biochem. 266:9-15)。そのタンパク質の膜貫通ドメイン及び細胞質ドメインと置換したC末端ビオチン化タグを有するHLA-A*2402-重鎖を適切な構築物中で発現させた。〜75mg/リットル細菌培養物の封入体発現レベルが得られた。MHC軽鎖又はβ2-ミクログロブリンもまた、適切な構築物からE.coli中の封入体として〜500mg/リットル細菌培養物のレベルで発現させた。
【0115】
E. coli細胞を溶解し、封入体を約80%純度まで精製した。封入体からのタンパク質を6Mのグアニジン-HCl、50mMのTris(pH8.1)、100mMのNaCl、10mMのDTT、10mMのEDTA中で変性させ、5℃より低いリフォールディング緩衝液中に変性タンパク質の単一パルス(single pulse of denatured protein)を添加することにより、0.4MのL-アルギニン-HCl、100mMのTris(pH8.1)、3.7mMのシスタミン、6.6mMのβ-システアミン、HLA-A*0201分子が搭載するために必要な4mg/mlのVYGFVRACLペプチド中で30mg/リットルの重鎖、30mg/リットルのβ2mの濃度にてリフォールディングさせた。リフォールディングは、4℃にて少なくとも1時間で完了に到達させた。
【0116】
緩衝液を、10容量の10mM Tris(pH8.1)での透析により交換した。溶液のイオン強度を十分に減少させるために、2回の緩衝液交換が必要であった。次いで、タンパク質溶液を1.5μm酢酸セルロースフィルターに通して濾過し、POROS 50HQアニオン交換カラム(8ml床容量)に充填した。タンパク質を0〜500mMのNaCl線形グラジエントで溶出させた。HLA-A*0201−ペプチド複合体は約250mM NaClで溶出した。ピーク画分を収集し、プロテアーゼ阻害剤のカクテル(Calbiochem)を加え、画分を氷上で冷却した。
【0117】
ビオチン化タグを付したpMHC分子を、10mM Tris(pH8.1)、5mM NaCl中に、同じ緩衝液中で平衡化したPharmacia迅速脱塩カラムを使用して移して緩衝液を交換した。溶出に際して即座に、タンパク質含有画分を氷上で冷却し、プロテアーゼ阻害剤カクテル(Calbiochem)を加えた。次いで、ビオチン化試薬を加えた:1mMビオチン、5mM ATP(pH8に緩衝化)、7.5mM MgCl2及び5μg/ml BirA酵素(O’Callaghanら(1999)Anal.Biochem.266:9-15に従って精製)。次いで、混合物を室温にて一晩インキュベートした。
【0118】
ゲル濾過クロマトグラフィーを使用してビオチン化pHLA-A*2402分子を精製した。Pharmacia Superdex 75 HR 10/30カラムを濾過PBSで予め平衡化し、1mlのビオチン化反応混合物を充填し、カラムをPBSで0.5ml/分にて展開した。ビオチン化pHLA-A*0201分子は、約15mlで単一ピークとして溶出した。タンパク質含有画分をプールし、氷上で冷却し、プロテアーゼ阻害剤カクテルを加えた。クーマシー結合アッセイ(PerBio)を使用してタンパク質濃度を測定し、ビオチン化VYGFVRACL−HLA-A*2402分子のアリコートを−20℃で凍結保存した。標準的なアミンカップリング法によりストレプトアビジンを固定化した。
【0119】
この固定化複合体はT細胞レセプター及びコレセプターCD8αα(共に可溶相中に注入され得る)の両方に結合することができる。低濃度(少なくとも40μg/ml)でさえTCRの特異的結合が得られる。このことは、このTCRが比較的安定であることを示す。sTCRのpMHC結合性は、sTCRが可溶相又は固定相のいずれかで使用する場合、質的にも量的にも同様であることが観察されている。これは、可溶種の部分的な活性についての重要なコントロールであり、また、ビオチン化pMHC複合体が非ビオチン化複合体と同程度に生物学的に活性であることを示唆する。
【0120】
新規鎖間結合を含有する可溶性親VYG−A24 TCRとその同族pMHC又は無関係のpMHCとの組合せ(これらの製造は上記で説明)の間の相互作用を、Biacore 3000TM表面プラズモン共鳴(SPR)バイオセンサで分析した。SPRは、レセプターリガンド相互作用を検出しその親和性及び動力学的パラメータを分析するために使用することができる原理である、小さなフローセル内のセンサ表面近くでの屈折率の変化(応答単位(RU)で表示)を測定する。β2mに架橋したビオチンとフローセルの活性化表面に化学的に架橋されているストレプトアビジンとの間の結合を介して、個々のHLA−ペプチド複合体を別個のフローセルに固定化することにより、プローブフローセルを準備した。次いで、異なるフローセルの表面上にsTCRを一定流速で通過させ、そうしている間のSPR応答を測定することにより、アッセイを実施した。
【0121】
平衡結合定数の測定
親VYG−A24 TCRの系列希釈物を調製し、5μl/分の一定流速で2つの異なるフローセル(一方は〜1000RUの特異VYGFVRACL−HLA-A*2402複合体を被覆し、2つめは〜1000RUの非特異HLA-A24-ペプチド複合体を被覆)に注入した。応答は、コントロールセルの測定値を用いて各濃度について規格化した。規格化データ応答を、TCRサンプルの濃度に対してプロットし、平衡結合定数KDを算出するために双曲線にフィットさせた(Price & Dwek,Principles and Problems in Physical Chemistry for Biochemists(第2版) 1979,Clarendon Press,Oxford)。
【0122】
動力学パラメータの測定
高親和性TCRについて、解離速度定数kd及び結合速度定数kaを実験的に測定することによりKDを決定することができる。平衡定数KDはkd/kaとして算出した。1つは〜300RUの特異HLA-A*2402−VYGFVRACL複合体で被覆し、2つめは〜300RUの非特異ペプチド−HLA複合体で被覆した2つの異なるセル上にTCRを注入し得る。流速を50μl/分に設定する。代表的には、250μlのTCRを〜3μM濃度で注入する。次いで、反応がベースラインに戻るまで緩衝液を流す。Biaevaluationソフトウェアを用いて動力学パラメータを算出する。また、半減期の算出を可能とするために、解離相を一次指数関数減衰式にフィットさせる。
【0123】
結果
可溶性ジスルフィド連結親VYG−A24 TCR(それぞれ配列番号15及び16に詳述される可溶性ジスルフィド連結αTCR鎖及びβTCR鎖からなる)とVYGFVRACL−HLA-A*2402複合体との間の相互作用を、上記の方法を用いて分析し、4μMのKDが示された(Biacore応答曲線については図9を参照)。
【0124】
実施例5 − 可溶性VYG−A24 TCR−WTヒトIL-2融合タンパク質の作製
実質的に実施例1〜3に記載の方法を使用して、可溶性VYG−A24 TCR−WTヒトIL-2融合タンパク質を作製することができる。簡潔には、所望のリンカー及びWTヒトIL-2をコードするDNAを、可溶性ジスルフィド連結VYG−A24 TCRβ鎖のDNA配列の3'末端に付加する。図8は、WTヒトIL-2にリンカー配列を介して融合したジスルフィド連結親VYG−A24 TCRβ鎖を含んでなる融合タンパク質のアミノ酸配列を提供する(配列番号18)。この融合タンパク質のリンカー及びIL-2部分はイタリック体で示され、TCRβ中の導入システイン残基は影付きで示されている。次いで、この構築物をコードするDNAは、pGMT7中にライゲートし得る。次いで、可溶性親VYG−A24 TCR−IL-2融合タンパク質は、実質的に実施例3に記載された方法を使用して、このβ鎖融合タンパク質を、図5a(配列番号15)に詳述される可溶性ジスルフィド連結親VYG−A24 TCRα鎖と組み合せることにより、発現させ得る。
【0125】
実施例6 − A6 TCR由来のファージディスプレイライブラリからのHLA-A24−VYGFVRACL結合性TCRの単離
ファージディスプレイされるTCRライブラリを、WO 2004/044004に記載の手順を用いて作製した。簡潔には、ライブラリは、HLA-A2−LLFGYPVYVに特異的な可溶性ジスルフィド連結A6 TCRをベースとした。A6 TCRライブラリの多様性は、ディスプレイされるA6 TCRのCDR3領域中に変異を導入した変異誘発性プライマーを用いて創出した。A6 TCRライブラリをディスプレイするために、非天然型ジスルフィド鎖間結合を含有するへテロ二量体A6 TCRをgIIIファージコートタンパク質と共に含んでなる融合タンパク質の発現用のファージミドベクターを構築した。ファージgIIIタンパク質に融合した可溶性A6 TCRα鎖及びA6 TCRβ鎖をコードするファージミドを含有するE. coli XL-1-Blue細胞を使用して、ファージによりディスプレイされるTCRを発現させた。ファージ粒子上にディスプレイされる機能的なVYGFVRACL−HLA-A*2402結合性TCRの存在は、ファージELISA法を用いて検出した。次いで、ELISAにより選択したファージディスプレイされるTCRをコードするDNAを使用して、可溶性ジスルフィド連結TCRを構築した。次いで、HLA-A24−VYGFVRACLへのこれら可溶性TCRの結合は、本明細書中の実施例4のBiacore法を用いて評価した。可溶性ジスルフィド連結親VYG−A24 TCRは、「野生型」ILAKFLHWL−HLA-A*0201結合性TCRα鎖(配列番号15)の可溶性ジスルフィド連結アナログと組み合わされた、このライブラリから単離したTCRβ鎖(配列番号16)を用いて構築した。図10b(配列番号20)に示されるTCRα鎖もまた、このライブラリから単離した。これは、図5b(配列番号16)に示されるTCRβ鎖との組合せで、VYGFVRACL−HLA-A*2402複合体に特異的なαβTCRとしてディスプレイされる。
【図面の簡単な説明】
【0126】
【図1a】親VYG−A24 TCRのα鎖可変領域アミノ酸配列を提供する。
【図1b】親VYG−A24 TCRのβ鎖可変領域アミノ酸配列を提供する。
【図2】a及びbはそれぞれ可溶型の親VYG−A24 TCRα鎖及びβ鎖のDNA配列を提供する。
【図3】a及びbはそれぞれ図2a及び2bのDNA配列から産生される可溶型の親VYG−A24 TCRα鎖及びβ鎖のアミノ酸配列を提供する。
【図4】a及びbはそれぞれ非天然型ジスルフィド結合を形成するための追加のシステイン残基を含むように変異した可溶型の親VYG−A24 TCRα鎖及びβ鎖のDNA配列を提供する。
【図5】a及びbはそれぞれ図4a及び4bのDNA配列から産生される可溶型の親VYG−A24 TCRα鎖及びβ鎖のアミノ酸配列を示す。
【図6】aはTRACの短縮形態のアミノ酸配列、bはTRBC1の短縮形態のアミノ酸配列、cはTRBC2の短縮形態のアミノ酸配列を提供する。
【図7a】pGMT7プラスミドのプラスミドマップを提供する。
【図7b−1】pGMT7プラスミドのDNA配列を提供する。
【図7b−2】図7b−1の続きである。
【図8】ペプチドリンカーを介して野生型ヒトIL-2に融合したTRBC2コード定常領域を使用する可溶性ジスルフィド連結型の親VYG−A24 TCRのβ鎖アミノ酸配列を詳述する。
【図9】可溶性ジスルフィド連結型の親VYG−A24 TCRとHLA−VYGFVRACL−HLA-A*2402との相互作用について作成したBiacore応答曲線を提供する。
【図10】aは(c8) VYG−A24 TCRα鎖の可変領域のアミノ酸配列を提供する。bは、非天然型システインアミノ酸が組み込まれた可溶形態の(c8) VYG−A24 TCRα鎖のアミノ酸配列を提供する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
VYGFVRACL−HLA-A24への特異的結合性を有する単離T細胞レセプター(TCR)。
【請求項2】
VYGFVRACL−HLA-A24への特異的結合性を有する非天然TCR。
【請求項3】
HLA-A*2402サブタイプに関連して提示されるテロメラーゼ由来VYGFVRACLペプチドへの特異的結合性を有する、請求項1又は2に記載のT細胞レセプター(TCR)。
【請求項4】
TCRがVYGFVRACL−HLA-A*2402複合体に対して5μMかそれより少ないKDを有することを特徴とする、請求項1に記載の単離TCR又は請求項2に記載の非天然TCR。
【請求項5】
配列番号20及び/又は配列番号12に示される相補性決定領域(CDR)を含んでなる請求項1又は2に記載の単離TCR。
【請求項6】
配列番号2及び配列番号3を含んでなる請求項1〜5のいずれか1項に記載のTCR。
【請求項7】
配列番号19及び配列番号3を含んでなる請求項1〜6のいずれか1項に記載のTCR。
【請求項8】
配列番号15及び配列番号16を含んでなる請求項1〜6のいずれか1項に記載のTCR。
【請求項9】
配列番号20及び配列番号16を含んでなる請求項1〜5及び7のいずれか1項に記載のTCR。
【請求項10】
膜貫通配列を含まない請求項1〜9のいずれか1項に記載のTCR。
【請求項11】
二量体T細胞レセプター(dTCR)又は単鎖T細胞レセプター(scTCR)である、請求項1〜10のいずれか1項に記載のTCR。
【請求項12】
TCRα鎖可変領域配列に相当する配列がTCRα鎖定常ドメイン細胞外配列に相当する配列のN末端に融合している第1のポリペプチドと、
TCRβ鎖可変領域配列に相当する配列がTCRβ鎖定常ドメイン細胞外配列に相当する配列のN末端に融合している第2のポリペプチドと
を含んでなり、
第1及び第2のポリペプチドが、TRAC*01のエキソン1のThr 48及びTRBC1*01若しくはTRBC2*01のエキソン1のSer 57、又はそれらの非ヒト等価物から置換したシステイン残基同士間のジスルフィドにより連結しているdTCR又はscTCRである、請求項1〜11のいずれか1項に記載のTCR。
【請求項13】
TCRが少なくとも1つのポリアルキレングリコール鎖と組み合わされている請求項1〜12のいずれか1項に記載のTCR。
【請求項14】
治療剤又は検出可能な成分と組み合わされている請求項1〜13のいずれか1項に記載のTCR。
【請求項15】
TCRが治療剤又は検出可能な成分と共有結合している請求項14に記載のTCR。
【請求項16】
治療剤又は検出可能な成分が一方又は両方のTCR鎖のC末端に共有結合している請求項15に記載のTCR。
【請求項17】
免疫エフェクター分子である治療剤と組み合わされている請求項14〜16のいずれか1項に記載のTCR。
【請求項18】
治療剤が細胞傷害性薬剤である請求項14〜16のいずれか1項に記載のTCR。
【請求項19】
治療剤が放射性核種である請求項14〜16のいずれか1項に記載のTCR。
【請求項20】
請求項1〜19のいずれかに記載の少なくとも2つのTCRを含んでなる多価TCR複合体。
【請求項21】
非ペプチド性ポリマー鎖又はペプチド性リンカー配列により連結した請求項1〜13のいずれかに記載の少なくとも2つのTCRを含んでなる多価TCR。
【請求項22】
請求項1〜13のいずれかに記載の少なくとも2つのTCRを含んでなり、該TCRの少なくとも1つが請求項14〜19のいずれかに記載のとおり治療剤と組み合わされている多価TCR複合体。
【請求項23】
請求項2〜9、11及び12のいずれか1項に記載のTCRを提示する細胞。
【請求項24】
請求項1〜9、11及び12のいずれか1項に記載のTCRを提示するようにトランスフェクトした細胞。
【請求項25】
ヒトT細胞又はヒト造血幹細胞である、請求項23又は24に記載の細胞。
【請求項26】
請求項1〜12のいずれか1項に記載のTCRをコードする核酸。
【請求項27】
請求項1〜22のいずれか1項に記載のTCR又は多価TCR複合体、又は請求項23〜25のいずれかに記載の複数の細胞、又は請求項26に記載の核酸を、医薬的に許容されるキャリアと共に含んでなる医薬組成物。
【請求項28】
請求項1〜22のいずれか1項に記載のTCR又は多価TCR複合体、又は請求項23〜25のいずれかに記載の複数の細胞、又は請求項26に記載の核酸の有効量を、ガンに罹患した対象に投与することを含んでなるガンの治療方法。
【請求項29】
ガンの治療用組成物の製造における、請求項1〜22のいずれか1項に記載のTCR又は多価TCR複合体、又は請求項23〜25のいずれかに記載の複数の細胞、又は請求項26に記載の核酸の使用。

【図1a】
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【図1b】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7a】
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【図7b−1】
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【図7b−2】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公表番号】特表2009−506753(P2009−506753A)
【公表日】平成21年2月19日(2009.2.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−512901(P2008−512901)
【出願日】平成18年5月19日(2006.5.19)
【国際出願番号】PCT/GB2006/001857
【国際公開番号】WO2006/125962
【国際公開日】平成18年11月30日(2006.11.30)
【出願人】(505121578)メディジーン リミテッド (17)
【氏名又は名称原語表記】MEDIGENE LIMITED
【Fターム(参考)】