説明

W/O/W型乳化組成物

【課題】保存安定性に優れたW/O/W型乳化組成物を提供することを課題とする。
【解決手段】多価アルコールのポリ(12−ヒドロキシステアリン酸)エステル及び/又はポリグリセリン脂肪酸エステルを含有する油相と内水相から成るW/O型乳化物がポリオキシエチレン硬化ひまし油を含有する外水相に分散したW/O/W型乳化組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、W/O/W型乳化組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
化粧品などの皮膚外用剤にW/O/W型乳化組成物を利用すると3つの利点があるといわれている。
1つ目は、O/W型乳化組成物の持つ皮膚への心地よさと、W/O型乳化組成物の皮膚にうるおいを与える特性を兼ね備えていることである。2つ目は、内水相に取り込まれた活性物質が緩徐に放出されることにより、活性物質の効果の持続が期待できることである。3つめは、複数の活性物質をそれぞれ別の相に取り込むこと(区分化)ができる点である(非特許文献1:FRAGRANCE JOURNAL 9月号 第83〜86頁 1999年9月 フレグランスジャーナル社発行)。
W/O/W型乳化組成物は、内水相に有用な物質を封入することにより、化粧品、食品、医薬品をはじめ、様々な用途に応用することができる有用な剤型であるが、時間の経過にともなって内相水と外相水が融合したり、W/O型乳化物の凝集・合一が生じたりして分離しやすく、保存安定性が極めて悪いことが知られ、利用が制限されている。特に、化粧品や医薬品では1〜2年という長期に渡る品質保証期間がある為、その製品化が困難であった。
【0003】
このような中、W/O/W型乳化組成物の保存安定性を向上させるために、高分子を含有させる技術、界面活性剤を含有させる技術などが開示されている。
例えば、外水相に高分子を含有させる技術として、アルキル変性カルボキシビニルポリマーを含む外水相中にW/O型乳化物を分散させる技術(特許文献1:特開平11−33391号、特許文献2:特開2002−275029号公報)、多糖誘導体を含む外水相中にW/O型乳化物を分散させる技術(特許文献3:特開2007−284354号)が開示されている。
内水相に高分子を含有させる技術としては、W/O型乳化物の水相に酸性ムコ多糖類を含有させ、W/O/W型乳化組成物を調製する技術が開示されている(特許文献4:特許第4478264号公報)。
また、外水相に界面活性剤を含有させる技術としては、陰イオン界面活性剤を含む外水相中にW/O型乳化物を分散させる技術が開示されている(特許文献5:特開2003−275573)。
しかしながら、これらのW/O/W型乳化組成物は、長期間の安定性達成するには至っていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−33391号公報
【特許文献2】特開2002−275029号公報
【特許文献3】特開2007−284354号公報
【特許文献4】特許第4478264号公報
【特許文献5】特開2003−275573号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】FRAGRANCE JOURNAL 9月号 第83〜86頁 1999年9月 フレグランスジャーナル社発行
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
保存安定性に優れたW/O/W型乳化組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の構成は、次のとおりである。
(1)多価アルコールのポリ(12−ヒドロキシステアリン酸)エステル及び/又はポリグリセリン脂肪酸エステルを含有する油相と内水相から成るW/O型乳化物が、ポリオキシエチレン硬化ひまし油を含有する外水相に分散したW/O/W型乳化組成物。
(2)多価アルコールのポリ(12−ヒドロキシステアリン酸)エステルがポリエチレングリコールのジ(12−ヒドロキシステアリン酸)エステルであり、
ポリグリセリン脂肪酸エステルがイソステアリン酸、ポリヒドロキシステアリン酸、セバシン酸から成る混合脂肪酸とポリグリセリンとのエステルであること
を特徴とする(1)記載のW/O/W型乳化組成物。
(3)ポリオキシエチレン硬化ひまし油の酸化エチレンの平均付加モル数が60〜100モルであることを特徴とする(1)又は(2)に記載のW/O/W型乳化組成物。
(4)外水相にアクリル酸系ポリマーを含有させたことを特徴とする(1)〜(3)のいずれかに記載のW/O/W型乳化組成物。
(5)アクリル酸系ポリマーが(アクリル酸ヒドロキシエチル/アクリロイルジメチルタウリンNa)コポリマーであることを特徴とする(4)記載のW/O/W型乳化組成物。(6)外水相にレシチンを含有させた(1)〜(5)のいずれかに記載のW/O/W型乳化組成物。
(7)(1)〜(6)記載の組成物からなる化粧品又は医薬部外品。
【発明の効果】
【0008】
本発明の構成をとることにより、常温での環境下で保存安定性に優れたW/O/W型乳化組成物が得られる。
さらに、高温の環境下でも保存安定性の優れた乳化組成物を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明においては、まず、W/O/W型乳化組成物の内相となるW/O型乳化組成物(一次乳化物)を調製する。即ち、水若しくは水相と、多価アルコールのポリ(12−ヒドロキシステアリン酸)エステル及び/又はポリグリセリン脂肪酸エステルを含有する油相とを乳化してW/O型乳化組成物(一次乳化物)を調製する。ここでW/O型乳化組成物(一次乳化物)の水相がW/O/W型の乳化組成物の内水相となる。油相に含ませる油成成分は化粧料や医薬部外品に適合する成分であればいずれでもよい。内水相には水以外に任意の成分を配合して構わない。W/O型乳化組成物の調製において、油相および水相の比率は適宜設定されるが、一般的には、水相:油相の比率が質量比で10:90〜90:10の範囲であり、好ましくは60:40〜70:20の範囲である。
【0010】
本発明においては、このW/O型乳化組成物(一次乳化物)を水相に分散させてW/O/W型乳化組成物を調製する。即ち、上述のW/O型乳化組成物(一次乳化物)を、ポリオキシエチレン硬化ひまし油を含む水相に分散させてW/O/W型乳化組成物を調製する。ポリオキシエチレン硬化ひまし油を含む水相が、外水相となる。
【0011】
また、外水相にアクリル酸系ポリマーをさらに配合することで、W/O/W型乳化組成物の高温安定性を高めることができる。また、さらにまた外水相にレシチンを配合することで、W/O/W型乳化組成物の高温安定性を高めることができる。
【0012】
〔乳化組成物の構成成分について〕
本発明に使用する多価アルコールのポリ(12−ヒドロキシステアリン酸)エステルは、多価アルコールをアルカリ存在下で、ポリ(12−ヒドロキシステアリン酸)に塩化チオニル等のハロゲン化剤を用いて反応させて調製した酸クロライド化合物を反応させて得ることができる。
多価アルコ−ルとしては、プロピレングリコール、ブタンジオール、ペンタンジオール、(ポリ)グリセリン、(ポリ)プロピレングリコール、ポリエチレングリコールなどが好ましく、ポリエチレングリコールが特に好ましい。この場合のポリエチレングリコールのサイズは、平均分子量で400〜6000が好ましい。一方、疎水基となるポリ(12−ヒドロキシステアリン酸)は、そのサイズが平均分子量1000〜3000であることが好ましい。
本発明の実施にあたっては、ポリエチレングリコールのジ(12−ヒドロキシステアリン酸)エステルを用いることが好ましい。この物質は、INCI名がジポリヒドロキシステアリン酸PEG−30と収載されている。市販品としては、ユニケマ社製のアラセルP−135(商品名)、クローダジャパン株式会社製のシスロールDPHS(商品名)等が挙げられる。
【0013】
ポリグリセリン脂肪酸エステルとしては、グリセリンが2〜20個重合したポリグリセリンに炭素数8〜22の脂肪酸が1〜5個エステル結合したものを用いることができ、具体的にはモノステアリン酸デカグリセリル、モノラウリン酸デカグリセリル、モノミリスチン酸デカグリセリル、モノイソステアリン酸デカグリセリル、モノオレイン酸デカグリセリル、モノリノール酸デカグリセリル、ジステアリン酸デカグリセリル、ジイソステアリン酸デカグリセリル、トリステアリン酸デカグリセリル、トリオレイン酸デカグリセリル、ペンタステアリン酸デカグリセリル、ペンタヒドロキシステアリン酸デカグリセリル、ペンタイソステアリン酸デカグリセリル、ペンタオレイン酸デカグリセリル、モノステアリン酸テトラグリセリル、モノオレイン酸テトラグリセリル、トリステアリン酸テトラグリセリル、モノラウリン酸ヘキサグリセリル、モノミリスチン酸ヘキサグリセリル、モノステアリン酸ヘキサグリセリル、モノオレイン酸ヘキサグリセリル、(ジイソステアリン酸/ポリヒドロキシステアリン酸/セバシン酸)ポリグリセリル等のポリグリセリン脂肪酸エステル等が挙げられる。
中でも、(ジイソステアリン酸/ポリヒドロキシステアリン酸/セバシン酸)ポリグリセリル−4を用いることが好ましい。(ジイソステアリン酸/ポリヒドロキシステアリン酸/セバシン酸)ポリグリセリル−4は、イソステアリン酸、ポリヒドロキシステアリン酸、セバシン酸から成る混合脂肪酸とポリグリセリンとのエステルである。市販品としては、エボニックデグサジャパン株式会社製のISOLAN GPS(商品名)が挙げられる。
【0014】
最初に調製する一次乳化物であるW/O型乳化組成物の乳化は、多価アルコールのポリ(12−ヒドロキシステアリン酸)エステル及び/又はポリグリセリン脂肪酸エステルを乳化剤として用いる。この物質は、一次乳化物であるW/O型乳化物の全量に対して0.1〜5質量%が好ましく、特に好ましくは1〜4質量%である。0.1質量%に満たないと、W/O乳化が不十分になる場合ある。5質量%を超えると、べたついた使用感になる場合がある。
多価アルコールのポリ(12−ヒドロキシステアリン酸)エステル及び/又は脂肪酸ポリグリセリルを油相の総量に対し0.1〜5質量%、特に好ましくは1〜4質量%含有させることが好ましい。
【0015】
ポリオキシエチレン硬化ひまし油は、水添ヒマシ油のポリエチレングリコールエーテルである。酸化エチレンの平均付加モル数が60〜100モルであるものを用いることが好ましい。ポリオキシエチレン硬化ひまし油は、W/O/W型乳化組成物としたときの外水相を構成させるためのO/W型乳化剤である。
この物質は酸化エチレンの平均付加モル数がこの数値範囲を外れると、一次乳化物であるW/Oエマルションが転相してO/W型乳化組成物になり、所望するW/O/W型の乳化組成物が得られなくなる恐れがある。市販品としては、日本サーファクタント工業株式会社製のNIKKOL HCO−80、NIKKOL HCO−100等が挙げられる。
【0016】
ポリオキシエチレン硬化ひまし油の配合量は、本発明のW/O/W型乳化組成物の総量に対し0.1〜5質量%配合することが好ましい。好ましい範囲を外れると、所望するW/O/W型の乳化組成物が得られなくなる恐れがある。特に好ましくは1〜4質量%である。
【0017】
アクリル酸系ポリマーは、ポリオキシエチレン硬化ひまし油に加えて、W/O/W型乳化組成物に配合すると安定性が向上するので好ましい。
アクリル酸系ポリマーとしては、 (アクリル酸ヒドロキシエチル/アクリロイルジメチルタウリンNa)共重合体、(アクリル酸Na/アクリロイルジメチルタウリン)共重合
体、ポリアクリルアミド、ポリアクリル酸Na、(アクリルアミド/アクリル酸アンモニウム)共重合体が例示できる。
【0018】
(アクリル酸ヒドロキシエチル/アクリロイルジメチルタウリンNa)共重合体の市販品としては、例えばSEPPIC社の複合原料であるセピノブEMT10((アクリル酸ヒドロキシエチル/アクリロイルジメチルタウリンNa)共重合体、イソステアリン酸ソルビタン、ポリソルベート60)、SEPPIC社のSIMULGEL NS((アクリ
ル酸ヒドロキシエチル/アクリロイルジメチルタウリンNa)共重合体、スクワラン、ポリソルベート、水)を例示できる。
(アクリル酸Na/アクリロイルジメチルタウリン)共重合体としては、SEPPIC社の複合原料であるSIMULGEL EG((アクリル酸Na/アクリロイルジメチル
タウリン)共重合体、イソヘキサデカン、ポリソルベート80、水)、SIMULGEL
EPG((アクリル酸Na/アクリロイルジメチルタウリン)共重合体、ポリイソブテ
ン、(カプリリル/カプリル)グルコシド、水)等を例示できる。
ポリアクリルアミドとしては例えばSEPPIC社の複合原料であるセピゲル305(ポリアクリルアミド、水添ポリイソブテン、ラウレス−7、水)を例示できる。
ポリアクリル酸Naとしては東レ・ダウコーニング株式会社の複合原料であるRM2051 Thickening Agent(ポリアクリル酸Na、ジメチコン、シクロペンタシロキサン、トリデセス−6、PEG/PPG−18/18ジメチコン)等を例示できる。
(アクリルアミド/アクリル酸アンモニウム)共重合体としてはSEPPIC社の複合原料であるSEPIPLUS 265((アクリルアミド/アクリル酸アンモニウム)共
重合体、ポリイソブテン、ポリソルベート20、水)等を例示できる。
これらの物質の中で(アクリル酸ヒドロキシエチル/アクリロイルジメチルタウリンNa)共重合体を用いることが好ましい。(アクリル酸ヒドロキシエチル/アクリロイルジメ
チルタウリンNa)共重合体を含む市販品としては、前述のとおりセピノブEMT10、SIMULGEL NSが例示できる。セピノブEMT10は、((アクリル酸ヒドロキ
シエチル/アクリロイルジメチルタウリンNa)共重合体を94質量%含有する混合原料であり、イソステアリン酸ソルビタン3質量%、ポリソルベート60を3質量%から成る。
SIMULGEL NSは、(アクリル酸ヒドロキシエチル/アクリロイルジメチルタ
ウリンNa)共重合体を37.5質量%含有する混合原料であり、スクワラン25.5質
量%、モノステアリン酸ポリオキシエチレンソルビタン(20EO)5.5質量%、イソステアリン酸ソルビタン1.5質量%、水30質量%から成るが、これを用いてもよい。
【0019】
アクリル酸系ポリマーの配合量は、本発明のW/O/W型乳化組成物の総量の0.01〜5質量%配合することが好ましく、特に好ましくは0.1〜2質量%である。0.01質量%に満たないと、W/O/W型乳化組成物の安定性を向上させる効果が不十分になる恐れがある。5質量%を超えるとべたついた使用感になる恐れがある。
【0020】
レシチンは、ポリオキシエチレン硬化ひまし油に加えて、W/O/W型乳化組成物の外水相に好ましく配合される成分である。レシチンを配合すると、乳化の安定性がより向上するので好ましい。レシチンとしては、卵黄レシチンや大豆レシチン等の天然のリン脂質、レシチン中の不飽和炭素鎖を水素添加により飽和結合に変えた水素添加大豆レシチン、水素添加卵黄レシチン等のリン脂質、天然レシチンから精製するか、あるいは合成したホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルセリン、ホスファチジン酸、ホスファチジルイノシトール、ホスファチジルグリセロール等が例示できる。
これらの中で、水素添加レシチン(水素添加大豆レシチン、水素添加卵黄レシチン)が安定性の点で特に好ましい。これらのレシチンを単独で、あるいは組み合わせて用いることができる。市販品としては、日光ケミカルズ社製のレシノール S−10Mが挙げられる。
本発明に用いるレシチンの配合量は、本発明のW/O/W型乳化組成物の総量の0.1〜2質量%が好ましい。
【0021】
本発明のW/O/W型乳化組成物は、長期間保存してもW/O/Wの乳化系が安定なため、空気に触れると変質しやすい薬剤を内水相に配合することができる。空気に触れると変質しやすい薬剤とは、酸化されやすく、光、空気などにより容易に変質する成分であり、化粧料や皮膚外用剤などに配合する場合には変質しないように工夫が必要な成分である。空気に触れると変質する薬剤としてビタミンC類、アントシアニン、ハイドロキノン等を例示できる。
【0022】
ビタミンC類としては、L−アスコルビン酸や、アスコルビン酸誘導体が挙げられる。L−アスコルビン酸モノステアレート、L−アスコルビン酸モノパルミテート、L−アスコルビン酸モノオレート等のアスコルビン酸モノアルキルエステル類、L−アスコルビン酸モノリン酸エステル、L−アスコルビン酸−2−硫酸等のアスコルビン酸モノエステル誘導体、L−アスコルビン酸ジステアレート、L−アスコルビン酸ジパルミテート、L−アスコルビン酸ジオレート等のアスコルビン酸ジアルキルエステル類、L−アスコルビン酸ジリン酸エステル等のアスコルビン酸ジエステル誘導体、L−アスコルビン酸トリステアレート、L−アスコルビン酸トリパルミテート、L−アスコルビン酸トリオレート等のアスコルビン酸トリアルキルエステル類、L−アスコルビン酸トリリン酸エステル等のアスコルビン酸トリエステル誘導体、アスコルビン酸2−グルコシド等を挙げることができる。塩としては、アスコルビン酸と各種塩基との塩があげることができる。塩としては、アルカリ金属塩(例えばナトリウム塩等)、アルカリ土類金属塩(例えば、カルシウム塩、マグネシウム塩等)等が例示できる。なかでも、L−アスコルビン酸、L−アスコルビン酸リン酸エステル、L−アスコルビン酸−2−硫酸エステル、アスコルビン酸2−グルコシド等が好ましく用いられる。
L−アスコルビン酸の市販品としては、BASFジャパン株式会社製の日本薬局方 ア
スコルビン酸等を使用することができる。
アスコルビン酸−2−リン酸エステルマグネシウム塩の市販品としては、昭和電工株式会社製のアスコルビン酸PM、日本サーファクタント工業株式会社製のNIKKOL V
C−PMG等を使用することができる。アスコルビン酸2−グルコシドの市販品としては、株式会社林原社製のアスコルビン酸2−グルコシド等を例示できる。
アントシアニンは、植物界において広く存在する色素、アントシアン (anthocyan (果
実や花の赤、青、紫を示す水溶性色素の総称)) のうち、アントシアニジン (anthocyanidin) がアグリコンとして糖や糖鎖と結びついた配糖体成分のことである。天然系色素としての利用以外にも、抗酸化作用、末梢血管の病気の治療や尿路感染予防機能などの有効な薬理学的性質が見いだされており、食品、医薬品、医薬部外品、化粧品などに幅広く使用されている。アントシアニンは、アントシアニンを含有する植物、例えばクランベリー、ビルベリー、ブルーベーリーやカシスなどの果実、果汁、花弁、葉部などを凍結乾燥法、熱風乾燥法などの常法により乾燥し、粉末としたもの、あるいは前記果実、果汁、花弁、葉部などから常法により抽出して得ることができる。
ハイドロキノンは、ハイドロキノン誘導体でもよく、ハイドロキノン誘導体としては、ハイドロキノンと糖の縮合物、ハイドロキノンに炭素数1〜4のアルキル基を一つ導入したアルキルハイドロキノンと糖の縮合物等があり、例えばアルブチン等が挙げられる。
【0023】
本発明の油中水型乳化組成物の粘度は1000〜60000mPa・s(B型粘度計、4号ローター、12rpm、30秒で測定)、より好ましくは1000〜20000mPa・s(B型粘度計、4号ローター、12rpm、30秒で測定)の範囲にあることが化粧品として用いる場合、使用感の点で好ましい。粘度が1000mPa・sに満たないと、時間の経過に伴って乳化安定性が悪くなる場合がある。また20000mPa・sを超えると使用感が悪いと感じることが多い。
【0024】
本発明の油中水型乳化組成物には、任意成分として本発明の効果を損なわない範囲で、化粧料に通常用いられている成分、例えば、非イオン性界面活性剤、陰イオン性界面活性剤、陽イオン性界面活性剤、両性界面活性剤、油剤、保湿剤、水溶性高分子、抗酸化剤、紫外線吸収剤、キレート剤、塩類、PH調整剤、防腐剤、抗菌剤、着色剤、香料等を配合することができる。また、セラミド、植物抽出液等の美容成分を配合することができる。
【0025】
油剤としては、エステル油、植物油のような油脂類、炭化水素類、高級脂肪酸、高級アルコール、シリコ−ン油などが例示できる。
エステル油としては、例えば、エチルヘキサン酸セチル、ジイソノナン酸1,3−ブチレングリコール、ジ2−エチルヘキサン酸1,3−ブチレングリコール、ジイソノナン酸ジプロピレングリコール、ジ2−エチルヘキサン酸ジプロピレングリコール、イソノナン酸イソノニル、トリ2−エチルヘキサン酸グリセリル、トリカプリン酸グリセリル、トリイソステアリン酸グリセリル、ジカプリン酸ネオペンチルグリコール、パルミチン酸エチルヘキシル、ネオペンタン酸イソステアリル等が挙げられる。
油脂類としては、例えば、ツバキ油、月見草油、マカデミアナッツ油、オリーブ油、ナタネ油、トウモロコシ油、ゴマ油、ホホバ油、胚芽油、小麦胚芽油、等の液体油脂、カカオ脂、ヤシ油、硬化ヤシ油、パーム油、パーム核油、モクロウ、モクロウ核油、硬化油、硬化ヒマシ油等の固体油脂、ミツロウ、キャンデリラロウ、綿ロウ、ヌカロウ、ラノリン、酢酸ラノリン、液状ラノリン、サトウキビロウ等のロウ類が挙げられる。
炭化水素類としては、例えば、流動パラフィン、スクワレン、スクワラン、マイクロクリスタリンワックス等が挙げられる。
高級脂肪酸としては、例えば、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、ドコサヘキサエン酸(DHA)、エイコサペンタエン酸(EPA)等が挙げられる。
高級アルコールとしては、例えば、ラウリルアルコール、ステアリルアルコール、セチルアルコール、セトステアリルアルコール等の直鎖アルコール、モノステアリルグリセリンエーテル、ラノリンアルコール、コレステロール、フィトステロール、オクチルドデカノール等の分枝鎖アルコール等が挙げられる。
シリコ−ン油として、例えば、鎖状ポリシロキサンのジメチルポリシロキサン、メチルフェニルポリシロキサン等、環状ポリシロキサンのデカメチルシクロペンタシロキサン、シクロペンタシロキサン、(ジメチコン/ビニルジメチコン)クロスポリマー等が挙げられる。
保湿剤としては、グリセリン、ジグリセリン、1,3−ブチレングリコール、ジプロピレングリコール、ペンチレングリコール等が挙げられる。
塩類としては、塩化ナトリウム、硫酸マグネシウム等が挙げられる。
PH調製剤としては、クエン酸、クエン酸ナトリウム、リン酸、リン酸ナトリウム、水酸化カリウム等が挙げられる。
防腐剤としては、フェノキシエタノール、パラベン等が挙げられる。
セラミドとしては、セチルPGヒドロキシエチルパルミタイド、セレブロシド等が挙げられる。
【0026】
本発明のW/O/W型油中水型乳化組成物は乳液、クリーム、美容液、日焼け止め、リキッドファンデーション等の化粧料、皮膚外用剤、医薬部外品や医薬品として使用することができる。特に空気に触れると変質する薬剤を含有させた化粧料、皮膚外用剤、医薬部外品や医薬品として使用することができる。
【実施例】
【0027】
以下に実施例、比較例を挙げて、本発明の特徴と効果をさらに詳細に説明する。
【0028】
W/O/W乳化物の調製方法
前述のとおり、本発明においては、まず、W/O/W型乳化組成物の内相となるW/O型乳化組成物(一次乳化物)を調製し、次にW/O型乳化組成物(一次乳化物)を、界面活性剤を含む水相に投入しW/O/W型乳化組成物を調製する。
【0029】
<一次乳化物(W/O型乳化組成物)の調製>
表1に示す油相Aと水相Bをそれぞれ別に80℃に加熱して溶解させ、十分に攪拌混合後、50℃まで冷却する。50℃まで冷却した水相Bに、室温で調製した水相Cを加えて混合し、水相Bと水相Cの混合水相を調製する。この混合水相を油相Aへ添加し、ホモミキサーで6000rpm、2分攪拌して乳化し、その後、室温まで攪拌しながら冷却して、W/O型の一次乳化物を調製する。
【0030】
【表1】

【0031】
<W/O/W型乳化組成物の調製>
表2に示す組成の外水相を調製する。各成分を混合し、80℃に加熱しながら十分に攪拌溶解する。先に調製しておいた一次乳化物を再度50℃まで再加温し、外水相に投入して撹拌乳化し、その後、室温まで攪拌しながら冷却して、W/O/W型乳化組成物を調製する。
【0032】
【表2】

【0033】
乳化状態・安定性の評価
乳化組成物(一次乳化物、W/O/W型乳化組成物)について、乳化状態、粘度、安定性の評価を下記基準により行った。
【0034】
<乳化状態(顕微鏡観察)>
OLYMPUS社製のシステム偏光顕微鏡BX−50−33P−Dを用いて乳化組成物を倍率400で観察し、下記の基準で乳化状態を判定した。
○;W/O/W型を均一に形成している
△;W/O/W型を形成しているが粒子径が若干均一でない
×;W/O/W型がほとんど形成されていないか、全く形成されていない
【0035】
<粘度>
乳化組成物を直径約3cmのガラス容器に充填し25℃に保存して、翌日に粘度を測定(B型粘度計、4号ローター、12rpm、30秒)した。
【0036】
安定性については、乳化安定性と薬剤の安定性について評価した。
<乳化安定性>
乳化組成物を、それぞれ直径約3cmのガラス容器に充填し、5℃、25℃、40℃、50℃に保存して、乳化安定性を以下の基準により目視評価した。
(各温度での評価基準)
○:外観に異常がない
△:油浮きしている
×:完全に分離している
【0037】
<アスコルビン酸−2−リン酸エステルマグネシウム塩(APM)の安定性>
得られた乳化組成物を、それぞれ直径3cmのガラス容器に充填し、5℃、25℃、40℃、50℃に保存して、APMの安定性を以下の基準により目視評価した。
○:APMの析出がなく、変色もない
×:APMの析出がある、または変色している
【0038】
表1〜3に示した配合組成で、成分名の横に*マークが付与されたものは、下記の市販品を用いたことをあらわしている。
*1 クローダジャパン株式会社製 シスロールDPHS
*2 エボニックデグサジャパン株式会社製 ISOLAN GPS
*3 日本サーファクタント工業株式会社製 NIKKOL DGMIS
*4 日本サーファクタント工業株式会社製 NIKKOL Hexaglyn PR−
15
*5 味の素株式会社製 エルデュウAPS−307
*6 日本サーファクタント工業株式会社製 NIKKOL VC−PMG
*7 日本サーファクタント工業株式会社製 NIKKOL HCO−100
*8 花王株式会社製 レオドール TW−S120V
*9 日本サーファクタント工業株式会社製 NIKKOL Decaglyn 1−S

*10 日本サーファクタント工業株式会社製 NIKKOL MYS−25V
*11 日光ケミカルズ株式会社 レシノールS−10M
*12 SEPPIC社製 SIMULGEL NS
【0039】
<一次乳化物の評価>
表1のとおり、1〜5の一次乳化物は、乳化状態、乳化安定性、APMの安定性のいずれも優れていた。
【0040】
<W/O/W乳化組成物の評価>
これらの一次乳化物を、4種類の親水性界面活性剤を含む水相に投入して乳化したところ、W/O/W型乳化組成物を形成するものと、形成できないものが表2に示すように認められた。一次乳化物の親油性界面活性剤に、ジポリヒドロキシステアリン酸PEG−30、(ジイソステアリン酸/ポリヒドロキシステアリン酸/セバシン酸)ポリグリセリル−4を用い、外水相の親水性界面活性剤にポリオキシエチレン硬化ヒマシ油(100EO)を配合した実施例1、2、3、4のW/O/W型乳化組成物は、乳化状態が優れていた。
比較例1〜9は、W/O/W型乳化組成物を調製中に乳化状態が変化し、O/W型乳化組成物となるか、あるいは分離した状態のいずれかであった。
以上のことから、一次乳化物の親油性界面活性剤にジポリヒドロキシステアリン酸PEG−30、(ジイソステアリン酸/ポリヒドロキシステアリン酸/セバシン酸)ポリグリセリル−4を用いた場合に、外水相にポリオキシエチレン硬化ヒマシ油(100EO)を配合すると乳化状態の優れたW/O/W型乳化組成物が得られることが確認された。
実施例1、2、3、4のW/O/W型乳化組成物は、25℃で安定であり室温保存下では保存安定性に問題はないが、50℃に保存したものは翌日に分離していた。このことから、実施例1、2、3、4の乳化組成物は、室温下での保管には全く問題ないが、製品移送時などに高温となる環境下では、製品の安定性が不良になる恐れがあることが予想される。
そこで、50℃での高温安定性を高めるために、外水相の成分をさらに検討する実験を行った。
【0041】
表3に示す組成でW/O/Wの乳化組成物を調製し高温での安定性を確認した。
【0042】
【表3】

【0043】
<安定性評価>
外水相にカルボキシビニルポリマー、アクリル酸メタクリル酸アルキル共重合体を配合した比較例11、12は、W/O/W型の乳化組成物が形成されたが、安定性は向上されず1ヶ月以内に40℃、50℃保管のもので分離が認められた。
【0044】
外水相に(アクリル酸ヒドロキシエチル/アクリロイルジメチルタウリンNa)コポリマーを含有した実施例5〜8は、ほぼ均一なW/O/W型の乳化組成物を形成し、50℃で一ヶ月間保管後も乳化組成物のW/O/W型の乳化状態(顕微鏡観察)に変化はなく、乳化安定性が非常に優れていた。また、50℃で一ヶ月間保管した乳化組成物にアスコルビン酸−2−リン酸エステルマグネシウム塩(APM)の析出や変色は認められなかった。
【0045】
尚、実施例5の組成は、さらに長期間の保存試験を実施したが、50℃で半年間保管したものでも乳化状態に変化はみられなかった。
【0046】
また内水相に含有された薬剤(アスコルビン酸−2−リン酸エステルマグネシウム塩(APM))は安定性に難がある化合物であるがまったく問題がなかった。
【0047】
処方例1 乳液
(成分) (質量%)
1.ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油(60EO) 2
2.水素添加大豆リン脂質 1
3.(アクリル酸ヒドロキシエチル/アクリロイルジメチルタウリンNa)
コポリマー 1.5
4.グリセリン 4
5.ペンチレングリコール 2
6.1,3−ブチレングリコール 5
7.フェノキシエタノール 0.2
8.精製水 残余
9.一次乳化物4の油中水型乳化組成物 30

(製法)
成分1〜8を混合し、80℃に加熱する。先に調製しておいた成分9を50℃に加温し、成分1〜8に投入しホモミキサーで撹拌する。その後、室温まで冷却しW/O/W型乳化組成物を調製する。
【0048】
処方例2 クリーム
(成分) (質量%)
1.ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油(80EO) 2
2.水素添加大豆リン脂質 0.5
3.(アクリル酸ヒドロキシエチル/アクリロイルジメチルタウリンNa)
コポリマー 2.5
4.グリセリン 5
5.ペンチレングリコール 2
6.1,3−ブチレングリコール 3
7.フェノキシエタノール 0.2
8.精製水 残余
9.一次乳化物4の油中水型乳化組成物 30

(製法)
成分1〜8を混合し、80℃に加熱する。先に調製しておいた成分9を50℃に加温し、成分1〜8に投入しホモミキサーで撹拌する。その後、室温まで冷却しW/O/W型乳化組成物を調製する。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
多価アルコールのポリ(12−ヒドロキシステアリン酸)エステル及び/又はポリグリセリン脂肪酸エステルを含有する油相と内水相から成るW/O型乳化物が、ポリオキシエチレン硬化ひまし油を含有する外水相に分散したW/O/W型乳化組成物。
【請求項2】
多価アルコールのポリ(12−ヒドロキシステアリン酸)エステルがポリエチレングリコールのジ(12−ヒドロキシステアリン酸)エステルであり、
ポリグリセリン脂肪酸エステルがイソステアリン酸、ポリヒドロキシステアリン酸、セバシン酸から成る混合脂肪酸とポリグリセリンとのエステルであること
を特徴とする請求項1記載のW/O/W型乳化組成物。
【請求項3】
ポリオキシエチレン硬化ひまし油の酸化エチレンの平均付加モル数が60〜100モルであることを特徴とする請求項1又は2に記載のW/O/W型乳化組成物。
【請求項4】
外水相にアクリル酸系ポリマーを含有させたことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のW/O/W型乳化組成物。
【請求項5】
アクリル酸系ポリマーが(アクリル酸ヒドロキシエチル/アクリロイルジメチルタウリンNa)コポリマーであることを特徴とする請求項4記載のW/O/W型乳化組成物。
【請求項6】
外水相にレシチンを含有させた請求項1〜5のいずれかに記載のW/O/W型乳化組成物。
【請求項7】
請求項1〜6記載の組成物からなる化粧品又は医薬部外品

【公開番号】特開2012−224598(P2012−224598A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−95213(P2011−95213)
【出願日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【出願人】(593106918)株式会社ファンケル (310)
【Fターム(参考)】