X線ホログラム撮像用の試料構造体及びその製造方法。
【課題】X線ホログラム撮像用の試料構造体に、参照光が通過する実効的に小さな参照光孔を容易に形成する。
【解決手段】X線を透過する支持基板3の下面上に形成されたX線遮蔽層2と、遮蔽層2を貫通し底面に支持基板3を表出する透過窓5と、支持基板3上の透過窓5直上に形成された薄膜試料4と、透過窓5に入射するX線の可干渉長内に開設され、遮蔽層2及び支持基板3を斜めに貫通する参照光透過用の参照光孔6とを有し、垂直方向視したとき、参照光孔6の上下の開口形状6a、6bが、一部重畳するX線ホログラム撮像用の試料構造体10。
【解決手段】X線を透過する支持基板3の下面上に形成されたX線遮蔽層2と、遮蔽層2を貫通し底面に支持基板3を表出する透過窓5と、支持基板3上の透過窓5直上に形成された薄膜試料4と、透過窓5に入射するX線の可干渉長内に開設され、遮蔽層2及び支持基板3を斜めに貫通する参照光透過用の参照光孔6とを有し、垂直方向視したとき、参照光孔6の上下の開口形状6a、6bが、一部重畳するX線ホログラム撮像用の試料構造体10。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はX線ホログラム撮像用の試料構造体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コヒーレント光を参照光と試料を通過する物体光とに2分割し、物体光と参照光の回折光の干渉によりホログラムを作成し、これを逆フーリェ変換して試料構造の知見を得るホログラフィー測定は、試料の微細構造の解析に広く用いられている。赤外光等の長波長光に代えてX線を用いるX線ホログラフィー測定は、X線の波長が短いため優れた分解能を有し、また試料の透過力も大きいため、とくに薄膜試料の構造、例えば半導体装置の微細構造あるいは磁性膜の磁区構造の解析に有用と期待されている。
【0003】
しかし、現在容易に使用できるX線の可干渉長は赤外光に較べて短いため、入射X線を干渉性ある物体光と参照光とに分割するには、物体光と参照光とをX線の可干渉長内の小さな領域で、例えば数μm以内の領域内で分割する必要がある。
【0004】
図11は従来のX線ホログラム撮像用の試料構造体の断面図であり、薄膜試料を搭載した試料支持台の構造を表している。
【0005】
図11を参照して、従来のX線ホログラム撮像用の試料構造体は、X線を透過する支持基板3の上面に薄膜試料4が、下面にX線を遮蔽する遮蔽層2が形成されている。この遮蔽層2及び支持基板3は、薄膜試料4を支持する支持台1として機能する。
【0006】
遮蔽層2には物体光を透過する透過窓5が開設され、さらに透過窓5に近接して薄膜試料4及び支持台1を垂直に貫通する参照光孔106とが設けられている。そして、透過窓5上に、薄膜試料4に形成された構造(試料パターン4a)が形成される。X線は下 面(遮蔽層2のある側)から入射され、透過窓5を透過したX線が物体光となり、参照光孔を通過したX線が参照光となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2009−210538号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】S.Eisebitt,J.Lunlng,W.F.Schlotter,M.Lorgen,O.Hellwig,W.Eberhardt,J.Stohr,Nature,Vol.432,p.885,2004
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述した参照光を用いるホログラフィー測定では、参照光の断面積、即ち参照光孔106が小さいほど再生像の分解能が高くなる。従って、小さな参照光孔106を形成することが望ましい。かかる参照光孔106は、微細加工が可能な収束イオンビーム加工法により開設されている。
【0010】
しかし、遮蔽層2は厚いため、遮蔽層2を貫通する参照光孔106のアスペクト比が大きく、分解能を十分満たすまで参照光孔106を小さくすることは困難である。とくに分解能及び透過能を高めるため短波長X線を用いる場合、X線を十分に遮蔽するために遮蔽層2を厚くしなければならず、小さな参照光孔を開設するのは難しい。
【0011】
本発明は、参照光を用いるホログラフィー測定に用いられる試料構造体及びその製造方法に関し、厚い遮蔽層を有する試料構造体に実効的に小さな参照光孔を開設することができる試料構造体及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上述した課題を解決するための本発明の試料構造体は、第1の観点によれば、参照光のX線の回折光と薄膜試料を透過したX線の回折光とを干渉させてX線ホログラムを撮像するためのX線ホログラム撮像用の試料構造体において、上面及び下面を主面とし、前記X線を透過する支持基板と、前記支持基板の下面上に形成された、前記X線を遮蔽する遮蔽層と、前記遮蔽層を貫通し、底面に前記支持基板を表出する透過窓と、前記支持基板の上面上に形成された前記薄膜試料と、前記透過窓に入射する前記X線の可干渉長内の領域に開設され、前記遮蔽層、前記支持基板及び前記試料薄膜を前記主面に対して斜めに貫通し、前記参照光を通過させる参照光孔と、を有し、前記支持基板の主面の垂直方向から見たとき、前記参照光孔の上下の開口形状が、一部重畳するX線ホログラム撮像用の試料構造体として提供される。
【0013】
また、第2の観点によれば、参照光のX線の回折光と薄膜試料を透過したX線の回折光とを干渉させてX線ホログラムを撮像するためのX線ホログラム撮像用の試料構造体において、上面及び下面を主面とし、前記X線を透過する支持基板と、前記支持基板の下面上に形成された、前記X線を遮蔽する遮蔽層と、前記遮蔽層を貫通して形成され、底面に前記支持基板を表出する透過窓と、前記支持基板の上面上に形成された前記薄膜試料と、前記透過窓に入射する前記X線の可干渉長内の領域に開設され、前記遮蔽層、前記支持基板及び前記試料薄膜を前記主面に対して垂直に貫通する垂直貫通孔と、前記垂直貫通孔の前記支持基板の上面側の開口を塞ぐように、前記垂直貫通孔を覆いその周辺の前記支持基板の上面上に延在する前記遮蔽層より薄いX線遮蔽材料からなる遮蔽薄膜と、前記遮蔽薄膜を貫通し、前記参照光を通過させる参照光孔と、を有するX線ホログラム撮像用の試料構造体として提供される。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、参照光孔が斜めに形成されるので、垂直に入射するX線を通過させて小さな断面の参照光とすることができる。従って、実効面積が小さな透過光孔を熱い遮蔽層に容易に形成することができる。
【0015】
また、他の観点によれば、透過光孔が、大きな垂直貫通孔上を覆う薄い遮蔽薄膜に形成されるので、容易に小さな透過光孔を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の第1実施形態の試料構造体の断面図
【図2】本発明の第1実施形態の試料構造体の部分拡大平面図
【図3】本発明の第1実施形態の試料構造体の製造工程断面図
【図4】本発明の第1実施形態のX線ホログラム撮像装置構成図
【図5】本発明の第2実施形態の試料構造体の断面図
【図6】本発明の第2実施形態の試料構造体の製造工程断面図
【図7】本発明の第1実施形態の再生像
【図8】本発明の第2実施形態の再生像
【図9】従来のホログラフィー測定の再生像
【図10】従来の他のホログラフィー測定の再生像
【図11】従来のX線ホログラム撮像用の試料構造体の断面図
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の第1実施形態は、斜めに貫通する透過光孔を有する試料構造体を用いたX線ホログラフィー測定に関する。
【0018】
図1は本発明の第1実施形態の試料構造体の断面図であり、透過窓と参照光孔の構造を表している。図2は本発明の第1実施形態の試料構造体の部分拡大平面図であり、図1に示す試料構造体の参照光孔を図1中の上方から見た構造を表している。
【0019】
図1を参照して、本第1実施形態で用いた試料構造体10は、遮蔽層2上に設けられた支持基板3からなる支持台1と、支持台1上に形成された薄膜試料4とを有する。
【0020】
遮蔽層2は、X線ホログラフィー測定において、X線が遮蔽されたとして取り扱うことができる程度のX線透過率、例えは1%以下のX線透過率を有することが好ましい。なお、遮蔽層2を透過するX線はホログラフィー測定のノイズとなり測定精度を低下させるので、X線透過率は低いことが望ましい。他方、小さな断面を有する参照光孔6を容易に形成するために、遮蔽層2の層厚を薄くして参照光孔6のアスペクト比を小さくすることが好ましい。
【0021】
このような遮蔽層2に求められる小さなX線透過率と薄い層厚との両方の要求を満たすため、遮蔽層2はX線吸収係数が大きな重金属、たとえはタンタル、タングステン、イリジウム、白金又は金を用いることが好ましい。これらの重金属からなる厚さ1μmの遮蔽層2のX線透過率を、以下に示した。ここで、X線の光子エネルギーは700eVである。なお、()内に原子番号と密度をこの順に併記した。
【0022】
遮蔽層のX線透過率は、
タンタル(73、16.7g/cm2 )の場合は6.12×10-6、
タングステン(74、19.3g/cm2 )の場合は4.87×10-7、
イリジウム(77、22.4g/cm2 )の場合は9.35×10-9、
白金(78、21.5g/cm2 )の場合は1.24×10-8、
金(79、19.3g/cm2 ))の場合は2.35×10-8、
である。従って、これらの重金属からなる遮蔽膜2を1〜2μm厚とすることで、ホログラフィー測定に十分なX線遮蔽がなされる。なお、第1実施形態では、遮蔽層2として、厚さ2μmの金層を用いた。
【0023】
遮蔽膜2には、透過窓5と参照光孔6とが設けられる。透過窓5は遮蔽膜2を貫通する例えば2.0μm×2.0μmの矩形の孔からなり、その底面(図2中の支持基板3と遮蔽層2との界面側の面)に支持基板3を表出する。参照光孔6については後述する。
【0024】
支持基板3は、その上に設けられる薄膜試料4を支持するもので、支持に必要な機械強度と高いX線透過率とを有する。かかる支持基板3として、例えば厚さ0.5μm〜5μmのシリコン基板、厚さ0.1μm〜1μmの窒化シリコンメンブレンあるいは数μm〜数十μm厚の高分子樹脂膜を用いることができる。ここでは、支持基板3として、厚さ1μmのシリコン基板を用いた。この1μm厚のシリコン基板のX線透過率は、700eVの光子エネルギーのX線に対して0.378であり、X線ホログラフィー測定の支持基板3としてX線にたいする十分な透明性を有する。
【0025】
薄膜試料4は、X線ホログラフィー測定の被測定対象であり、例えば金属薄膜、半導体薄膜或いは磁性膜により構成することができる。もちろん、X線に対して吸収又は位相変化の分布を生じさせる薄膜であれば、薄膜試料4として用いることができる。ここでは、薄膜試料4として、厚さ50nmの金属膜、例えば金膜を用い、被測定対象部分をパターニングして金属パターン4aとした。この金属パターン4aは、透過窓5の直上、即ち透過窓5の開口領域内に含まれる位置に形成される。また、薄膜試料4は、少なくとも透過窓5の開口領域内に形成されればよく、支持基板3上面の全面を覆う必要はない。
【0026】
参照光孔6は、試料構造体10を上下に斜めに貫通して開設される。即ち、参照光孔6は、試料構造体10の上面の垂直方向からX軸及びY軸方向にそれぞれ角度θx及びθy傾けて開設される。ここで、Z軸は試料構造体10の上面に垂直な方向に、Y軸は参照光孔6から透過窓5へ向かう方向に、X軸はZ軸及びY軸に垂直な方向とした。
【0027】
図2を参照して、試料構造体10の上面に開口する参照光孔6の開口形状6aと、試料構造体10の下面に開口する参照光孔6の開口形状6bとは、参照光孔6の中心軸がZ軸から角度θx及びθy傾いている分、Z軸方向から見ると互いにずれている。この構造では、Z軸に平行に入射するX線のうち、上下の開口形状が重なる重畳する領域6cに入射するX線は、遮蔽されることなく上下方向に透過する。一方、開口形状6a、6bの内部領域に入射するX線のうち、重畳する領域6cの外側に入射されたX線は、傾斜した参照光孔6の壁面に遮蔽され透過することができない。即ち、本第1実施形態の参照光孔6は、参照光孔6の上下の開口形状6a、6bの重畳する領域6cのみがX線を通過させる実質的な参照光孔として機能する。この重畳する領域6cは、参照光孔6の断面(例えば開口形状6a、6b)に較べて小さい。このため、実際に形成された参照光孔6よりも、実効的な参照光孔6を小さくすることができる。従って、容易に微小な参照光孔6を形成することができる。
【0028】
本第1実施形態では、参照光孔6の加工孔を0.2μm×0.2μmの矩形とし、角度θx及びθyを4.5度とすることで、厚さがほぼ2μmの試料構造体10に、0.04μm×0.04μmの矩形の重畳する領域6cを形成することができた。
【0029】
上述した参照光孔6と透過窓5は、ホログラムの作成に用いられるX線の可干渉長の範囲に配置される。参照光孔6と透過窓5との距離が可干渉長を超えるとホログラムが作成されず、短過ぎるとホログラムから再生された像が重なり解析が困難になる。可干渉長はX線源により異なり、実験的に定めることが好ましい。また、像の重なりの有無は像再 生のシミュレートにより確認することができる。可干渉長と再生像の重なりとを考慮して、例えば、軌道放射光をX線減とする光子エネルギーが400eV〜1200eVのX線の場合、透過窓5の大きさが2μm×2μmでは、参照光孔6と透過窓5との距離を5μm程度とし、透過窓5の大きさが0.2μm×0.2μmでは、参照光孔6と透過窓5との距離を1μm程度とすることが好ましい。本第1実施形態では、参照光孔6と透過窓5との距離を0.8μmとした。
【0030】
次に、本第1実施形態の試料構造体10の製造方法を説明する。
【0031】
図3は本発明の第1実施形態の試料構造体の製造工程断面図であり、上述した試料構造体10の製造工程を表している。
【0032】
図3(a)を参照して、本第1実施形態の試料構造体10の製造方法では、まず、シリコン基板からなる支持基板3上面に、スパッタ又は蒸着により例えは厚さ50nmの金層からなる薄膜試料4を形成する。次いで、薄膜試料4をパターニングして、透過窓5の形成予定領域上にパターン4aを形成した。なお、この薄膜試料4は、測定対象となる薄膜であればよく、例えば磁性膜、半導体薄膜、金属のパターンとすることができる。
【0033】
次いで、図3(b)を参照して、例えばイオンエッチングにより支持基板3の下面を全面エッチングして削除することで減膜し、厚さ1μmの支持基板3を形成した。なお、支持基板3の厚さは、X線の透過率を考慮して、通常は厚さ0.5〜5μmとされる。
【0034】
次いで、図3(c)を参照して、支持基板3の下面に、重金属、例えば金からなる厚さ2μmの遮蔽層2を形成した。この遮蔽層2の形成は、例えば真空蒸着法、スパッタ法又はめっき法によりなすことができる。
【0035】
次いで、図3(d)を参照して、遮蔽層2の下面に例えばGaの収束イオンビーム51を照射して、遮蔽層2を貫通する透過窓5を開設する。なお、透過窓5の開設の際に遮蔽層2を完全に除去するために、透過窓5の底面に表出する支持基板3の下面をもオーバーエッチングする。他方、支持基板3の上層は残される。これにより、支持基板3上面に形成された薄膜試料4が、収束イオンビームエッチングにより損傷されることを防止する。この透過窓5の開設の終了は、例えば、2次イオン中に観測される遮蔽層2を構成する金と支持基板3を構成するシリコン原子との比により知ることができる。
【0036】
次いで、図3(e)を参照して、遮蔽層2の下面垂直方向からX及びY軸方向にそれぞれ角度θx及びθy傾いた方向から、収束イオンビームを照射して、遮蔽層2、支持基板3及び薄膜試料4を斜めに貫通する参照光孔6を形成した。
【0037】
以上の工程を経て本第1実施形態の、試料構造体10が製造された。なお、収束イオンビームは焦点から遠ざかるにつれ断面が拡がる。このため、図2を参照して、収束イオンビームの入射側の開口6bが広く、反対側の開口6aが狭くなり易い。従って、精密な参照光孔6を形成するには、収束イオンビームエッチング装置の特性を予め実験的に把握して、その特性に合わせて参照光孔6の大きさと角度θx及びθyを適切に定めることが望ましい。
【0038】
図4は本発明の第1実施形態のX線ホログラム撮像装置構成図であり、X線ホログラム撮像装置の主要な構成を表している。
【0039】
図4を参照して、本第1実施形態のX線ホログラム撮像装置では、CCD撮像パネル11と試料構造体10とが、薄膜試料4と撮像パネル11の撮像面とを対向させて平行に配置されている。
【0040】
試料構造体10の下面(図4中の左方)から入射した可干渉性のX線12は、一部が透過窓5及び薄膜試料4を透過して物体光12a’となり、他の一部が参照光孔6を通過して参照光12b’となる。物体光12a’と参照光12b’とは、それぞれ回折光12a、12bとして撮像パネル11上の点Pに到達し干渉して、撮像パネル11上にホログラムを作成する。
【0041】
周知のように、撮像パネル11上の点PのX線の電解強度Epは、薄膜試料4が設けられた試料構造体10の表面(図4に示す薄膜試料4の右表面)におけるX線(物体光12a’及び参照光12b’、必要ならば遮蔽層2により遮蔽される領域を通過するX線)の電解強度をEmとして、
Ep(X,Y)=(1/iλ)∬[Em(x,y)×
×(1/r)×exp(ikr)×cosα]dxdy (1)
と、電解強度Em(x,y)のフーリェ変換として表される。ここで、X、Y及びx、yはそれぞれ撮像パネル11面内の位置座標及び試料構造体10の表面面内の位置座標を表し、λはX線波長、kはその波数を表す。また、rは試料構造体10の表面から点Pまでの距離、αは回折光12a、12bと入射X線12とのなす角(回折角)を表し、積分範囲は試料構造体10の全表面である。
【0042】
さらに、(1)式は、近似式、
Ep(X,Y)≒(exp(ikZo)/iλZo)×∬[Em(x,y)×
×exp(ik((X−x)2 +(Y−y)2 )/2Z)]dxdy (2)
により表される。ここで、Zoは試料構造体10の表面から撮像パネル表面までの距離を表す。
【0043】
撮像パネル11により記録されるホログラムは、フーリェ変換(1)式で表示される電界強度Em(x,y)に従って記録される。従って、このホログラムをフーリェ逆変換することで、電解強度Em(x.y)が再生像として算出される。この逆変換により算出される再生像は、X線の強度分布,即ち薄膜試料4によるX線の吸収分布の他、X線の位相変化、即ち薄膜試料4によるX線の位相変調をも再現している。なお、本第1実施形態では、逆変換は近似式(2)式を用いて、コンピュータにより計算した。
【0044】
本発明の第2実施形態は、垂直貫通孔上を覆う薄い遮蔽薄膜に透過光孔が形成された試料構造体を用いたX線ホログラフィー測定に関する。
【0045】
図5は本発明の第2実施形態の試料構造体の断面図であり、図5(a)は試料構造体の透過窓と参照光孔の構造を表している。また、図5(b)は図5(a)に示す試料構造体の参照光孔の構造を部分拡大図により表している。
【0046】
図5(a)を参照して、本第2実施形態で用いた試料構造体20は、遮蔽層2上に設 けられた支持基板3からなる支持台1と、支持台1上に形成された薄膜試料4とを有する。遮蔽層2には、遮蔽層2を貫通し底面に支持基板3を表出する透過窓5が開設されている。この透過窓5の直上に位置する薄膜試料4には、薄膜試料4からなる金属パターン4aが形成されている。試料構造体20の上述した構成は、第1 実施形態の試料構造体10と同様である。
【0047】
本第2実施形態の試料構造体20は、参照光孔9とその下に開設される垂直貫通孔7とに関して第1実施形態の試料構造体10と異なる。
【0048】
図5(a)及び(b)を参照して、本第2実施形態の試料構造体20では、遮蔽層2、支持基板3及び薄膜試料4を試料構造体20の上下面に垂直に貫通する垂直貫通孔7が設けられる。この垂直貫通孔7は、収束イオンビームエッチングにより形成可能な大きさの断面、例えば0.2μm×0.2μmの正方形状に開設される。この垂直貫通孔7は、第1実施形態と同様の位置(透過窓5との位置関係)に形成され、その形状は、従来の試料構造体110の参照光孔106と同様にすることができる。
【0049】
この垂直貫通孔7の開口上面を覆い、開口周辺の薄膜試料4上に延在する金属膜からなる遮蔽薄膜8が設けられている。この遮蔽薄膜8は、例えば遮蔽層2と同じく重金属からなり、遮蔽層2より薄い、例えば遮蔽層2の10分の1程度の厚さの薄膜とする。従って、遮蔽薄膜8は入射X線を遮蔽層2程には遮蔽することができず、X線はある程度透過する。
【0050】
さらに、遮蔽薄膜8に、垂直貫通孔7より小さな、例えば0.04μm×0.04μmの正方形断面形状の、遮蔽薄膜8を貫通する参照光孔9が設けられる。この参照光孔9は遮蔽層2より薄い遮蔽薄膜8に開設されるから、遮蔽層2に直接開設するよりも膜厚が薄い分、参照光孔9のアスペクト比が小さい。従って、遮蔽層2に開設する従来の参照光孔106と較べて、容易に小さな参照光孔9を形成することができる。例えば、従来、遮蔽層2に0.2μm×0.2μmの参照光孔106が開設可能な場合、同じ遮蔽層2材料を用いその10分の1の厚さの遮蔽薄膜8を形成することで、遮蔽薄膜8に0.02μm×0.02μmの参照光孔106を開設することができる。
【0051】
本第2実施形態の試料構造体20では、参照光孔9の周囲の遮蔽薄膜はある程度X線を透過する。しかし、X線を透過する遮蔽薄膜8の面積は垂直貫通光孔7により制限される。また、遮蔽薄膜8の厚さも遮蔽層2の10分の1程度とされる。この程度の厚さと面積とを有する遮蔽薄膜8を通過するX線は、これを無視しても、ホログラフィー測定に問題とされる程の大きな精度の劣化を生じない。もちろん、逆フーリェ変換の際に、遮蔽薄膜8を通過するX線を計算対象として精度を向上することもできる。
【0052】
次に、上述した本第2実施形態の試料構造体20の製造方法を説明する。
【0053】
図6は本発明の第2実施形態の試料構造体の製造工程断面図であり、試料構造体20の製造工程を表している。
【0054】
図6(a)を参照して、本第2実施形態の試料構造体20の製造工程では、まず、支持基板3の上面に金属パターン4aが形成された薄膜試料4を形成し、その後、支持基板3の下面に遮蔽層2を形成し、遮蔽層2を貫通する透過窓5を開設する。この工程終了時の試料構造体20の構造及び材料は、図3(d)に示す第1実施形態の試料構造体10と同様である。
【0055】
次いで、図6(b)を参照して、透過窓5の近傍に、遮蔽層2、支持基板3及び薄膜試料4を垂直に貫通する垂直貫通孔7を開設する。この垂直貫通孔7は、第1実施形態の試料構造体10の参照光孔6と同じ位置に形成した。また、垂直貫通孔7は、遮蔽層2の下面から、遮蔽層2の下面に垂直に収束イオンビーム51を照射して形成することができる。なお、垂直貫通孔7は加工可能な限り小さい断面とすることが、ホログラフィー測定の精度の観点から好ましい。
【0056】
次いで、図6(c)を参照して、垂直貫通孔7が開口する近傍の薄膜試料4の上面にCVD(化学的気相堆積法)の原料ガスを供給しつつ、垂直貫通孔7の近傍に、薄膜試料4の上方から電子ビーム又はイオンビーム52を照射した。この電子ビーム又はイオンビーム52は、原料ガスを励起し垂直貫通孔7の上端開口の近傍に金属(例えばAu)を析出する。この析出した金属は、垂直貫通孔7の上端開口の周囲から垂直貫通孔7の上端開口を塞ぐように堆積し、垂直貫通孔7を塞ぐ例えば厚さ0.1μmの遮蔽薄膜8が形成される。
【0057】
次いで、図6(d)を参照して、再び収束イオンビーム51を用いて、遮蔽薄膜8を貫通する例えば0.04μm角の参照光孔9を形成した。既述のように、遮蔽薄膜8の厚さは薄いので、かかる微細な参照光孔9を容易に開設することができる。以上の工程を経て、本第2実施形態の試料構造体20が製造された。
【0058】
以下、上述した本発明の試料構造体10、20を用いたホログラフィー測定の評価結果を説明する。
【0059】
このホログラフィー測定の評価は、本発明の試料構造体10、20を用いてホログラムを撮像し、そのホログラムをフーリェ逆変換して再生像を作成し、再生像と試料パターン4aとを比較することで行った。なお、ホログラムの撮像はCCD撮像装置を用いて撮像し、フーリェ逆変換はパーソナルコンピュータを用いて計算した。
【0060】
図7は本発明の第1実施形態の再生像であり、第1実施形態の試料構造体10を用いて撮像したホログラムを、フーリェ逆変換して作成した再生像を表している。図8は、本発明の第2実施形態の再生像であり、第2実施形態の試料構造体20を用いて撮像したホログラムを、フーリェ逆変換して作成した再生像を表している。なお、図7(a)及び図8(a)は試料パターン4aを表し、図7(b)及び図8(b)は再生像を表している。再生像の中心の矩形の図形(白抜きの図形)は0次の回折像であり、その左側の試料パターン4aと同じ配列の白抜きの図形は実像であり、左側の上下逆向きに配列する白抜きの図形は虚像である。
【0061】
本ホログラフィー測定の評価では、試料パターン4aとして、図7(a)及び図8(a)を参照して、Auからなる薄膜試料4に開設されたスリット状の開口を用いた。この試料パターン4aはY軸およびX軸方向の長さがそれぞれ、200nm×200nm、100nm×200nm、80nm×200nm、60nm×200nm、40nm×200nm、20nm×200nm、の6個の矩形状の開口からなる。
【0062】
図7(a)及び図8(b)を参照して、第1実施形態の試料構造体10を用いたホログラム再生像は、試料パターン4aに形成された短辺が200nmから20nmまでの6個の開口を全て再現している。即ち、20nm以下の解像度を有している。
【0063】
ここで評価された第1実施形態の試料構造体10は、透過窓5から0.8μm離れた位置に開設された0.2μm×0.2μmの矩形(正方形)の参照光孔6を有する。なお、この参照光孔6の実効的な大きさ(試料構造体10に垂直入射するX線が透過する大きさ)は、0.04μm×0.04μmの矩形(正方形)である。また、第2実施形態の試 料構造体20は、透過窓5から0.8μm離れた位置に開設された0.04μm×0.04μmの矩形(正方形)の参照光孔9を有する。
【0064】
図9は従来のホログラフィー測定の再生像であり、透過窓5から50μm離れた位置に開設された0.2μm×0.2μmの矩形の参照光孔106を有する従来の試料構造体110を用いて撮像されたホログラムの再生像を表している。また、図10は従来の他のホログラフィー測定の再生像であり、透過窓5から0.8μm離れた位置に開設された0.2μm×0.2μmの矩形の参照光孔106を有する従来の他の試料構造体110を用いて撮像されたホログラムの再生像を表している。なお、図9(a)及び図10(a)は試料パターン4aを、図9(b)及び図10(b)は再生像を表している。
【0065】
図9を参照して、透過窓5と参照光孔106との距離が50μmと離れた場合、再生像は再現されない。これは、透過窓5と参照光孔106とが離れすぎ、透過窓5を通過する物体光12a’と、参照光孔106を通過する参照光12b’との可干渉性が少ないためである。
【0066】
一方、図10を参照して、透過窓5と参照光孔6との距離を第1及び第2実施形態と同じく0.8μmとした従来の他の試料構造体106を用いた場合、不鮮明な再生像が作成された。これは、透過窓5と参照光孔6とが可干渉長内にあること、及び、参照光孔106の実効断面形状が0.2μm×0.2μmと大きなため、ホログラフィー測定の精度が劣化したことを示している。
【0067】
上述したように、第1及び第2実施形態の試料構造体10、20は、従来の試料構造体110に較べて実効的に小さな参照光孔6、9を有するため、これらを用いたホログラフィー測定では精密な再生像を作成することができる。
【0068】
また、第1実施形態の試料構造体10は、容易に形成できる比較的大きな参照光孔6を斜めに形成することで、実効的に小さな参照光孔6として機能する参照光孔6を容易に形成することができる。さらに、第2実施形態の試料構造体20では、薄い遮蔽薄膜8に参照光孔9を形成するので、小さな参照光孔9を容易に形成することができる。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明を薄膜磁性体、半導体薄膜又は半導体装置の配線のホログラフィー測定に用いられる試料の支持構造体に適用することで、精度の高いホログラフィー測定を実現することができる。
【符号の説明】
【0070】
1 支持台
2 遮蔽層
3 支持基板
4 薄膜試料
4a パターン
5 透過窓
6、9、106 参照光孔
6a、6b 開口形状
6c 重畳する領域
7 垂直貫通孔
8 遮蔽薄膜
10、20、110 試料構造体
11 撮像パネル
12 入射X線
12a、12b 回折光
12a’ 物体光
12b’ 参照光
51 収束イオンビーム
52 イオンビーム
53 反応ガス
【技術分野】
【0001】
本発明はX線ホログラム撮像用の試料構造体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コヒーレント光を参照光と試料を通過する物体光とに2分割し、物体光と参照光の回折光の干渉によりホログラムを作成し、これを逆フーリェ変換して試料構造の知見を得るホログラフィー測定は、試料の微細構造の解析に広く用いられている。赤外光等の長波長光に代えてX線を用いるX線ホログラフィー測定は、X線の波長が短いため優れた分解能を有し、また試料の透過力も大きいため、とくに薄膜試料の構造、例えば半導体装置の微細構造あるいは磁性膜の磁区構造の解析に有用と期待されている。
【0003】
しかし、現在容易に使用できるX線の可干渉長は赤外光に較べて短いため、入射X線を干渉性ある物体光と参照光とに分割するには、物体光と参照光とをX線の可干渉長内の小さな領域で、例えば数μm以内の領域内で分割する必要がある。
【0004】
図11は従来のX線ホログラム撮像用の試料構造体の断面図であり、薄膜試料を搭載した試料支持台の構造を表している。
【0005】
図11を参照して、従来のX線ホログラム撮像用の試料構造体は、X線を透過する支持基板3の上面に薄膜試料4が、下面にX線を遮蔽する遮蔽層2が形成されている。この遮蔽層2及び支持基板3は、薄膜試料4を支持する支持台1として機能する。
【0006】
遮蔽層2には物体光を透過する透過窓5が開設され、さらに透過窓5に近接して薄膜試料4及び支持台1を垂直に貫通する参照光孔106とが設けられている。そして、透過窓5上に、薄膜試料4に形成された構造(試料パターン4a)が形成される。X線は下 面(遮蔽層2のある側)から入射され、透過窓5を透過したX線が物体光となり、参照光孔を通過したX線が参照光となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2009−210538号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】S.Eisebitt,J.Lunlng,W.F.Schlotter,M.Lorgen,O.Hellwig,W.Eberhardt,J.Stohr,Nature,Vol.432,p.885,2004
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述した参照光を用いるホログラフィー測定では、参照光の断面積、即ち参照光孔106が小さいほど再生像の分解能が高くなる。従って、小さな参照光孔106を形成することが望ましい。かかる参照光孔106は、微細加工が可能な収束イオンビーム加工法により開設されている。
【0010】
しかし、遮蔽層2は厚いため、遮蔽層2を貫通する参照光孔106のアスペクト比が大きく、分解能を十分満たすまで参照光孔106を小さくすることは困難である。とくに分解能及び透過能を高めるため短波長X線を用いる場合、X線を十分に遮蔽するために遮蔽層2を厚くしなければならず、小さな参照光孔を開設するのは難しい。
【0011】
本発明は、参照光を用いるホログラフィー測定に用いられる試料構造体及びその製造方法に関し、厚い遮蔽層を有する試料構造体に実効的に小さな参照光孔を開設することができる試料構造体及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上述した課題を解決するための本発明の試料構造体は、第1の観点によれば、参照光のX線の回折光と薄膜試料を透過したX線の回折光とを干渉させてX線ホログラムを撮像するためのX線ホログラム撮像用の試料構造体において、上面及び下面を主面とし、前記X線を透過する支持基板と、前記支持基板の下面上に形成された、前記X線を遮蔽する遮蔽層と、前記遮蔽層を貫通し、底面に前記支持基板を表出する透過窓と、前記支持基板の上面上に形成された前記薄膜試料と、前記透過窓に入射する前記X線の可干渉長内の領域に開設され、前記遮蔽層、前記支持基板及び前記試料薄膜を前記主面に対して斜めに貫通し、前記参照光を通過させる参照光孔と、を有し、前記支持基板の主面の垂直方向から見たとき、前記参照光孔の上下の開口形状が、一部重畳するX線ホログラム撮像用の試料構造体として提供される。
【0013】
また、第2の観点によれば、参照光のX線の回折光と薄膜試料を透過したX線の回折光とを干渉させてX線ホログラムを撮像するためのX線ホログラム撮像用の試料構造体において、上面及び下面を主面とし、前記X線を透過する支持基板と、前記支持基板の下面上に形成された、前記X線を遮蔽する遮蔽層と、前記遮蔽層を貫通して形成され、底面に前記支持基板を表出する透過窓と、前記支持基板の上面上に形成された前記薄膜試料と、前記透過窓に入射する前記X線の可干渉長内の領域に開設され、前記遮蔽層、前記支持基板及び前記試料薄膜を前記主面に対して垂直に貫通する垂直貫通孔と、前記垂直貫通孔の前記支持基板の上面側の開口を塞ぐように、前記垂直貫通孔を覆いその周辺の前記支持基板の上面上に延在する前記遮蔽層より薄いX線遮蔽材料からなる遮蔽薄膜と、前記遮蔽薄膜を貫通し、前記参照光を通過させる参照光孔と、を有するX線ホログラム撮像用の試料構造体として提供される。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、参照光孔が斜めに形成されるので、垂直に入射するX線を通過させて小さな断面の参照光とすることができる。従って、実効面積が小さな透過光孔を熱い遮蔽層に容易に形成することができる。
【0015】
また、他の観点によれば、透過光孔が、大きな垂直貫通孔上を覆う薄い遮蔽薄膜に形成されるので、容易に小さな透過光孔を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の第1実施形態の試料構造体の断面図
【図2】本発明の第1実施形態の試料構造体の部分拡大平面図
【図3】本発明の第1実施形態の試料構造体の製造工程断面図
【図4】本発明の第1実施形態のX線ホログラム撮像装置構成図
【図5】本発明の第2実施形態の試料構造体の断面図
【図6】本発明の第2実施形態の試料構造体の製造工程断面図
【図7】本発明の第1実施形態の再生像
【図8】本発明の第2実施形態の再生像
【図9】従来のホログラフィー測定の再生像
【図10】従来の他のホログラフィー測定の再生像
【図11】従来のX線ホログラム撮像用の試料構造体の断面図
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の第1実施形態は、斜めに貫通する透過光孔を有する試料構造体を用いたX線ホログラフィー測定に関する。
【0018】
図1は本発明の第1実施形態の試料構造体の断面図であり、透過窓と参照光孔の構造を表している。図2は本発明の第1実施形態の試料構造体の部分拡大平面図であり、図1に示す試料構造体の参照光孔を図1中の上方から見た構造を表している。
【0019】
図1を参照して、本第1実施形態で用いた試料構造体10は、遮蔽層2上に設けられた支持基板3からなる支持台1と、支持台1上に形成された薄膜試料4とを有する。
【0020】
遮蔽層2は、X線ホログラフィー測定において、X線が遮蔽されたとして取り扱うことができる程度のX線透過率、例えは1%以下のX線透過率を有することが好ましい。なお、遮蔽層2を透過するX線はホログラフィー測定のノイズとなり測定精度を低下させるので、X線透過率は低いことが望ましい。他方、小さな断面を有する参照光孔6を容易に形成するために、遮蔽層2の層厚を薄くして参照光孔6のアスペクト比を小さくすることが好ましい。
【0021】
このような遮蔽層2に求められる小さなX線透過率と薄い層厚との両方の要求を満たすため、遮蔽層2はX線吸収係数が大きな重金属、たとえはタンタル、タングステン、イリジウム、白金又は金を用いることが好ましい。これらの重金属からなる厚さ1μmの遮蔽層2のX線透過率を、以下に示した。ここで、X線の光子エネルギーは700eVである。なお、()内に原子番号と密度をこの順に併記した。
【0022】
遮蔽層のX線透過率は、
タンタル(73、16.7g/cm2 )の場合は6.12×10-6、
タングステン(74、19.3g/cm2 )の場合は4.87×10-7、
イリジウム(77、22.4g/cm2 )の場合は9.35×10-9、
白金(78、21.5g/cm2 )の場合は1.24×10-8、
金(79、19.3g/cm2 ))の場合は2.35×10-8、
である。従って、これらの重金属からなる遮蔽膜2を1〜2μm厚とすることで、ホログラフィー測定に十分なX線遮蔽がなされる。なお、第1実施形態では、遮蔽層2として、厚さ2μmの金層を用いた。
【0023】
遮蔽膜2には、透過窓5と参照光孔6とが設けられる。透過窓5は遮蔽膜2を貫通する例えば2.0μm×2.0μmの矩形の孔からなり、その底面(図2中の支持基板3と遮蔽層2との界面側の面)に支持基板3を表出する。参照光孔6については後述する。
【0024】
支持基板3は、その上に設けられる薄膜試料4を支持するもので、支持に必要な機械強度と高いX線透過率とを有する。かかる支持基板3として、例えば厚さ0.5μm〜5μmのシリコン基板、厚さ0.1μm〜1μmの窒化シリコンメンブレンあるいは数μm〜数十μm厚の高分子樹脂膜を用いることができる。ここでは、支持基板3として、厚さ1μmのシリコン基板を用いた。この1μm厚のシリコン基板のX線透過率は、700eVの光子エネルギーのX線に対して0.378であり、X線ホログラフィー測定の支持基板3としてX線にたいする十分な透明性を有する。
【0025】
薄膜試料4は、X線ホログラフィー測定の被測定対象であり、例えば金属薄膜、半導体薄膜或いは磁性膜により構成することができる。もちろん、X線に対して吸収又は位相変化の分布を生じさせる薄膜であれば、薄膜試料4として用いることができる。ここでは、薄膜試料4として、厚さ50nmの金属膜、例えば金膜を用い、被測定対象部分をパターニングして金属パターン4aとした。この金属パターン4aは、透過窓5の直上、即ち透過窓5の開口領域内に含まれる位置に形成される。また、薄膜試料4は、少なくとも透過窓5の開口領域内に形成されればよく、支持基板3上面の全面を覆う必要はない。
【0026】
参照光孔6は、試料構造体10を上下に斜めに貫通して開設される。即ち、参照光孔6は、試料構造体10の上面の垂直方向からX軸及びY軸方向にそれぞれ角度θx及びθy傾けて開設される。ここで、Z軸は試料構造体10の上面に垂直な方向に、Y軸は参照光孔6から透過窓5へ向かう方向に、X軸はZ軸及びY軸に垂直な方向とした。
【0027】
図2を参照して、試料構造体10の上面に開口する参照光孔6の開口形状6aと、試料構造体10の下面に開口する参照光孔6の開口形状6bとは、参照光孔6の中心軸がZ軸から角度θx及びθy傾いている分、Z軸方向から見ると互いにずれている。この構造では、Z軸に平行に入射するX線のうち、上下の開口形状が重なる重畳する領域6cに入射するX線は、遮蔽されることなく上下方向に透過する。一方、開口形状6a、6bの内部領域に入射するX線のうち、重畳する領域6cの外側に入射されたX線は、傾斜した参照光孔6の壁面に遮蔽され透過することができない。即ち、本第1実施形態の参照光孔6は、参照光孔6の上下の開口形状6a、6bの重畳する領域6cのみがX線を通過させる実質的な参照光孔として機能する。この重畳する領域6cは、参照光孔6の断面(例えば開口形状6a、6b)に較べて小さい。このため、実際に形成された参照光孔6よりも、実効的な参照光孔6を小さくすることができる。従って、容易に微小な参照光孔6を形成することができる。
【0028】
本第1実施形態では、参照光孔6の加工孔を0.2μm×0.2μmの矩形とし、角度θx及びθyを4.5度とすることで、厚さがほぼ2μmの試料構造体10に、0.04μm×0.04μmの矩形の重畳する領域6cを形成することができた。
【0029】
上述した参照光孔6と透過窓5は、ホログラムの作成に用いられるX線の可干渉長の範囲に配置される。参照光孔6と透過窓5との距離が可干渉長を超えるとホログラムが作成されず、短過ぎるとホログラムから再生された像が重なり解析が困難になる。可干渉長はX線源により異なり、実験的に定めることが好ましい。また、像の重なりの有無は像再 生のシミュレートにより確認することができる。可干渉長と再生像の重なりとを考慮して、例えば、軌道放射光をX線減とする光子エネルギーが400eV〜1200eVのX線の場合、透過窓5の大きさが2μm×2μmでは、参照光孔6と透過窓5との距離を5μm程度とし、透過窓5の大きさが0.2μm×0.2μmでは、参照光孔6と透過窓5との距離を1μm程度とすることが好ましい。本第1実施形態では、参照光孔6と透過窓5との距離を0.8μmとした。
【0030】
次に、本第1実施形態の試料構造体10の製造方法を説明する。
【0031】
図3は本発明の第1実施形態の試料構造体の製造工程断面図であり、上述した試料構造体10の製造工程を表している。
【0032】
図3(a)を参照して、本第1実施形態の試料構造体10の製造方法では、まず、シリコン基板からなる支持基板3上面に、スパッタ又は蒸着により例えは厚さ50nmの金層からなる薄膜試料4を形成する。次いで、薄膜試料4をパターニングして、透過窓5の形成予定領域上にパターン4aを形成した。なお、この薄膜試料4は、測定対象となる薄膜であればよく、例えば磁性膜、半導体薄膜、金属のパターンとすることができる。
【0033】
次いで、図3(b)を参照して、例えばイオンエッチングにより支持基板3の下面を全面エッチングして削除することで減膜し、厚さ1μmの支持基板3を形成した。なお、支持基板3の厚さは、X線の透過率を考慮して、通常は厚さ0.5〜5μmとされる。
【0034】
次いで、図3(c)を参照して、支持基板3の下面に、重金属、例えば金からなる厚さ2μmの遮蔽層2を形成した。この遮蔽層2の形成は、例えば真空蒸着法、スパッタ法又はめっき法によりなすことができる。
【0035】
次いで、図3(d)を参照して、遮蔽層2の下面に例えばGaの収束イオンビーム51を照射して、遮蔽層2を貫通する透過窓5を開設する。なお、透過窓5の開設の際に遮蔽層2を完全に除去するために、透過窓5の底面に表出する支持基板3の下面をもオーバーエッチングする。他方、支持基板3の上層は残される。これにより、支持基板3上面に形成された薄膜試料4が、収束イオンビームエッチングにより損傷されることを防止する。この透過窓5の開設の終了は、例えば、2次イオン中に観測される遮蔽層2を構成する金と支持基板3を構成するシリコン原子との比により知ることができる。
【0036】
次いで、図3(e)を参照して、遮蔽層2の下面垂直方向からX及びY軸方向にそれぞれ角度θx及びθy傾いた方向から、収束イオンビームを照射して、遮蔽層2、支持基板3及び薄膜試料4を斜めに貫通する参照光孔6を形成した。
【0037】
以上の工程を経て本第1実施形態の、試料構造体10が製造された。なお、収束イオンビームは焦点から遠ざかるにつれ断面が拡がる。このため、図2を参照して、収束イオンビームの入射側の開口6bが広く、反対側の開口6aが狭くなり易い。従って、精密な参照光孔6を形成するには、収束イオンビームエッチング装置の特性を予め実験的に把握して、その特性に合わせて参照光孔6の大きさと角度θx及びθyを適切に定めることが望ましい。
【0038】
図4は本発明の第1実施形態のX線ホログラム撮像装置構成図であり、X線ホログラム撮像装置の主要な構成を表している。
【0039】
図4を参照して、本第1実施形態のX線ホログラム撮像装置では、CCD撮像パネル11と試料構造体10とが、薄膜試料4と撮像パネル11の撮像面とを対向させて平行に配置されている。
【0040】
試料構造体10の下面(図4中の左方)から入射した可干渉性のX線12は、一部が透過窓5及び薄膜試料4を透過して物体光12a’となり、他の一部が参照光孔6を通過して参照光12b’となる。物体光12a’と参照光12b’とは、それぞれ回折光12a、12bとして撮像パネル11上の点Pに到達し干渉して、撮像パネル11上にホログラムを作成する。
【0041】
周知のように、撮像パネル11上の点PのX線の電解強度Epは、薄膜試料4が設けられた試料構造体10の表面(図4に示す薄膜試料4の右表面)におけるX線(物体光12a’及び参照光12b’、必要ならば遮蔽層2により遮蔽される領域を通過するX線)の電解強度をEmとして、
Ep(X,Y)=(1/iλ)∬[Em(x,y)×
×(1/r)×exp(ikr)×cosα]dxdy (1)
と、電解強度Em(x,y)のフーリェ変換として表される。ここで、X、Y及びx、yはそれぞれ撮像パネル11面内の位置座標及び試料構造体10の表面面内の位置座標を表し、λはX線波長、kはその波数を表す。また、rは試料構造体10の表面から点Pまでの距離、αは回折光12a、12bと入射X線12とのなす角(回折角)を表し、積分範囲は試料構造体10の全表面である。
【0042】
さらに、(1)式は、近似式、
Ep(X,Y)≒(exp(ikZo)/iλZo)×∬[Em(x,y)×
×exp(ik((X−x)2 +(Y−y)2 )/2Z)]dxdy (2)
により表される。ここで、Zoは試料構造体10の表面から撮像パネル表面までの距離を表す。
【0043】
撮像パネル11により記録されるホログラムは、フーリェ変換(1)式で表示される電界強度Em(x,y)に従って記録される。従って、このホログラムをフーリェ逆変換することで、電解強度Em(x.y)が再生像として算出される。この逆変換により算出される再生像は、X線の強度分布,即ち薄膜試料4によるX線の吸収分布の他、X線の位相変化、即ち薄膜試料4によるX線の位相変調をも再現している。なお、本第1実施形態では、逆変換は近似式(2)式を用いて、コンピュータにより計算した。
【0044】
本発明の第2実施形態は、垂直貫通孔上を覆う薄い遮蔽薄膜に透過光孔が形成された試料構造体を用いたX線ホログラフィー測定に関する。
【0045】
図5は本発明の第2実施形態の試料構造体の断面図であり、図5(a)は試料構造体の透過窓と参照光孔の構造を表している。また、図5(b)は図5(a)に示す試料構造体の参照光孔の構造を部分拡大図により表している。
【0046】
図5(a)を参照して、本第2実施形態で用いた試料構造体20は、遮蔽層2上に設 けられた支持基板3からなる支持台1と、支持台1上に形成された薄膜試料4とを有する。遮蔽層2には、遮蔽層2を貫通し底面に支持基板3を表出する透過窓5が開設されている。この透過窓5の直上に位置する薄膜試料4には、薄膜試料4からなる金属パターン4aが形成されている。試料構造体20の上述した構成は、第1 実施形態の試料構造体10と同様である。
【0047】
本第2実施形態の試料構造体20は、参照光孔9とその下に開設される垂直貫通孔7とに関して第1実施形態の試料構造体10と異なる。
【0048】
図5(a)及び(b)を参照して、本第2実施形態の試料構造体20では、遮蔽層2、支持基板3及び薄膜試料4を試料構造体20の上下面に垂直に貫通する垂直貫通孔7が設けられる。この垂直貫通孔7は、収束イオンビームエッチングにより形成可能な大きさの断面、例えば0.2μm×0.2μmの正方形状に開設される。この垂直貫通孔7は、第1実施形態と同様の位置(透過窓5との位置関係)に形成され、その形状は、従来の試料構造体110の参照光孔106と同様にすることができる。
【0049】
この垂直貫通孔7の開口上面を覆い、開口周辺の薄膜試料4上に延在する金属膜からなる遮蔽薄膜8が設けられている。この遮蔽薄膜8は、例えば遮蔽層2と同じく重金属からなり、遮蔽層2より薄い、例えば遮蔽層2の10分の1程度の厚さの薄膜とする。従って、遮蔽薄膜8は入射X線を遮蔽層2程には遮蔽することができず、X線はある程度透過する。
【0050】
さらに、遮蔽薄膜8に、垂直貫通孔7より小さな、例えば0.04μm×0.04μmの正方形断面形状の、遮蔽薄膜8を貫通する参照光孔9が設けられる。この参照光孔9は遮蔽層2より薄い遮蔽薄膜8に開設されるから、遮蔽層2に直接開設するよりも膜厚が薄い分、参照光孔9のアスペクト比が小さい。従って、遮蔽層2に開設する従来の参照光孔106と較べて、容易に小さな参照光孔9を形成することができる。例えば、従来、遮蔽層2に0.2μm×0.2μmの参照光孔106が開設可能な場合、同じ遮蔽層2材料を用いその10分の1の厚さの遮蔽薄膜8を形成することで、遮蔽薄膜8に0.02μm×0.02μmの参照光孔106を開設することができる。
【0051】
本第2実施形態の試料構造体20では、参照光孔9の周囲の遮蔽薄膜はある程度X線を透過する。しかし、X線を透過する遮蔽薄膜8の面積は垂直貫通光孔7により制限される。また、遮蔽薄膜8の厚さも遮蔽層2の10分の1程度とされる。この程度の厚さと面積とを有する遮蔽薄膜8を通過するX線は、これを無視しても、ホログラフィー測定に問題とされる程の大きな精度の劣化を生じない。もちろん、逆フーリェ変換の際に、遮蔽薄膜8を通過するX線を計算対象として精度を向上することもできる。
【0052】
次に、上述した本第2実施形態の試料構造体20の製造方法を説明する。
【0053】
図6は本発明の第2実施形態の試料構造体の製造工程断面図であり、試料構造体20の製造工程を表している。
【0054】
図6(a)を参照して、本第2実施形態の試料構造体20の製造工程では、まず、支持基板3の上面に金属パターン4aが形成された薄膜試料4を形成し、その後、支持基板3の下面に遮蔽層2を形成し、遮蔽層2を貫通する透過窓5を開設する。この工程終了時の試料構造体20の構造及び材料は、図3(d)に示す第1実施形態の試料構造体10と同様である。
【0055】
次いで、図6(b)を参照して、透過窓5の近傍に、遮蔽層2、支持基板3及び薄膜試料4を垂直に貫通する垂直貫通孔7を開設する。この垂直貫通孔7は、第1実施形態の試料構造体10の参照光孔6と同じ位置に形成した。また、垂直貫通孔7は、遮蔽層2の下面から、遮蔽層2の下面に垂直に収束イオンビーム51を照射して形成することができる。なお、垂直貫通孔7は加工可能な限り小さい断面とすることが、ホログラフィー測定の精度の観点から好ましい。
【0056】
次いで、図6(c)を参照して、垂直貫通孔7が開口する近傍の薄膜試料4の上面にCVD(化学的気相堆積法)の原料ガスを供給しつつ、垂直貫通孔7の近傍に、薄膜試料4の上方から電子ビーム又はイオンビーム52を照射した。この電子ビーム又はイオンビーム52は、原料ガスを励起し垂直貫通孔7の上端開口の近傍に金属(例えばAu)を析出する。この析出した金属は、垂直貫通孔7の上端開口の周囲から垂直貫通孔7の上端開口を塞ぐように堆積し、垂直貫通孔7を塞ぐ例えば厚さ0.1μmの遮蔽薄膜8が形成される。
【0057】
次いで、図6(d)を参照して、再び収束イオンビーム51を用いて、遮蔽薄膜8を貫通する例えば0.04μm角の参照光孔9を形成した。既述のように、遮蔽薄膜8の厚さは薄いので、かかる微細な参照光孔9を容易に開設することができる。以上の工程を経て、本第2実施形態の試料構造体20が製造された。
【0058】
以下、上述した本発明の試料構造体10、20を用いたホログラフィー測定の評価結果を説明する。
【0059】
このホログラフィー測定の評価は、本発明の試料構造体10、20を用いてホログラムを撮像し、そのホログラムをフーリェ逆変換して再生像を作成し、再生像と試料パターン4aとを比較することで行った。なお、ホログラムの撮像はCCD撮像装置を用いて撮像し、フーリェ逆変換はパーソナルコンピュータを用いて計算した。
【0060】
図7は本発明の第1実施形態の再生像であり、第1実施形態の試料構造体10を用いて撮像したホログラムを、フーリェ逆変換して作成した再生像を表している。図8は、本発明の第2実施形態の再生像であり、第2実施形態の試料構造体20を用いて撮像したホログラムを、フーリェ逆変換して作成した再生像を表している。なお、図7(a)及び図8(a)は試料パターン4aを表し、図7(b)及び図8(b)は再生像を表している。再生像の中心の矩形の図形(白抜きの図形)は0次の回折像であり、その左側の試料パターン4aと同じ配列の白抜きの図形は実像であり、左側の上下逆向きに配列する白抜きの図形は虚像である。
【0061】
本ホログラフィー測定の評価では、試料パターン4aとして、図7(a)及び図8(a)を参照して、Auからなる薄膜試料4に開設されたスリット状の開口を用いた。この試料パターン4aはY軸およびX軸方向の長さがそれぞれ、200nm×200nm、100nm×200nm、80nm×200nm、60nm×200nm、40nm×200nm、20nm×200nm、の6個の矩形状の開口からなる。
【0062】
図7(a)及び図8(b)を参照して、第1実施形態の試料構造体10を用いたホログラム再生像は、試料パターン4aに形成された短辺が200nmから20nmまでの6個の開口を全て再現している。即ち、20nm以下の解像度を有している。
【0063】
ここで評価された第1実施形態の試料構造体10は、透過窓5から0.8μm離れた位置に開設された0.2μm×0.2μmの矩形(正方形)の参照光孔6を有する。なお、この参照光孔6の実効的な大きさ(試料構造体10に垂直入射するX線が透過する大きさ)は、0.04μm×0.04μmの矩形(正方形)である。また、第2実施形態の試 料構造体20は、透過窓5から0.8μm離れた位置に開設された0.04μm×0.04μmの矩形(正方形)の参照光孔9を有する。
【0064】
図9は従来のホログラフィー測定の再生像であり、透過窓5から50μm離れた位置に開設された0.2μm×0.2μmの矩形の参照光孔106を有する従来の試料構造体110を用いて撮像されたホログラムの再生像を表している。また、図10は従来の他のホログラフィー測定の再生像であり、透過窓5から0.8μm離れた位置に開設された0.2μm×0.2μmの矩形の参照光孔106を有する従来の他の試料構造体110を用いて撮像されたホログラムの再生像を表している。なお、図9(a)及び図10(a)は試料パターン4aを、図9(b)及び図10(b)は再生像を表している。
【0065】
図9を参照して、透過窓5と参照光孔106との距離が50μmと離れた場合、再生像は再現されない。これは、透過窓5と参照光孔106とが離れすぎ、透過窓5を通過する物体光12a’と、参照光孔106を通過する参照光12b’との可干渉性が少ないためである。
【0066】
一方、図10を参照して、透過窓5と参照光孔6との距離を第1及び第2実施形態と同じく0.8μmとした従来の他の試料構造体106を用いた場合、不鮮明な再生像が作成された。これは、透過窓5と参照光孔6とが可干渉長内にあること、及び、参照光孔106の実効断面形状が0.2μm×0.2μmと大きなため、ホログラフィー測定の精度が劣化したことを示している。
【0067】
上述したように、第1及び第2実施形態の試料構造体10、20は、従来の試料構造体110に較べて実効的に小さな参照光孔6、9を有するため、これらを用いたホログラフィー測定では精密な再生像を作成することができる。
【0068】
また、第1実施形態の試料構造体10は、容易に形成できる比較的大きな参照光孔6を斜めに形成することで、実効的に小さな参照光孔6として機能する参照光孔6を容易に形成することができる。さらに、第2実施形態の試料構造体20では、薄い遮蔽薄膜8に参照光孔9を形成するので、小さな参照光孔9を容易に形成することができる。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明を薄膜磁性体、半導体薄膜又は半導体装置の配線のホログラフィー測定に用いられる試料の支持構造体に適用することで、精度の高いホログラフィー測定を実現することができる。
【符号の説明】
【0070】
1 支持台
2 遮蔽層
3 支持基板
4 薄膜試料
4a パターン
5 透過窓
6、9、106 参照光孔
6a、6b 開口形状
6c 重畳する領域
7 垂直貫通孔
8 遮蔽薄膜
10、20、110 試料構造体
11 撮像パネル
12 入射X線
12a、12b 回折光
12a’ 物体光
12b’ 参照光
51 収束イオンビーム
52 イオンビーム
53 反応ガス
【特許請求の範囲】
【請求項1】
上面及び下面を主面とし、X線を透過する支持基板と、
前記支持基板の下面上に形成された、前記X線を遮蔽する遮蔽層と、
.前記遮蔽層を貫通し、底面に前記支持基板を表出する透過窓と、
前記支持基板の上面上に形成された薄膜試料と、
前記透過窓に入射する前記X線の可干渉長内の領域に開設され、前記遮蔽層、前記支持基板及び前記薄膜試料を前記主面に対して斜めに貫通し、参照光を通過させる参照光孔と、を有し、
前記支持基板の主面の垂直方向から見たとき、前記参照光孔の上下の開口形状が、一部重畳するX線ホログラム撮像用の試料構造体。
【請求項2】
上面及び下面を主面とし、X線を透過する支持基板と、
前記支持基板の下面上に形成された、前記X線を遮蔽する遮蔽層と、
.前記遮蔽層を貫通して形成され、底面に前記支持基板を表出する透過窓と、
前記支持基板の上面上に形成された薄膜試料と、
前記透過窓に入射する前記X線の可干渉長内の領域に開設され、前記遮蔽層及び前記支持基板を前記主面に対して垂直に貫通する垂直貫通孔と、
前記垂直貫通孔の開口を塞ぐように、前記垂直貫通孔を覆いその周辺の前記支持基板又は前記遮蔽層上に延在する前記遮蔽層より薄いX線遮蔽材料からなる遮蔽薄膜と、
前記遮蔽薄膜を貫通し、参照光を通過させる参照光孔と、
を有するX線ホログラム撮像用の試料構造体。
【請求項3】
前記薄膜試料は前記支持基板の上面上の、前記透過窓の直上に形成され、
前記参照光孔は前記遮蔽層及び前記支持基板を貫通して形成されている、
ことを特徴とする請求項1記載のX線ホログラム撮像用の試料構造体。
【請求項4】
前記薄膜試料は前記支持基板の上面上の、前記透過窓の直上に形成され、
前記垂直貫通孔は前記遮蔽層及び前記支持基板を貫通して形成されている、
ことを特徴とする請求項2記載のX線ホログラム撮像用の試料構造体。
【請求項5】
上面及び下面を主面とする支持基板の上面上に、被測定用の薄膜試料を形成する工程と、
次いで、前記支持基板の下面を削除して、前記支持基板をX線が透過する厚さに減厚する工程と、
次いで、前記支持基板の下面上に前記X線を遮蔽する遮蔽層を形成する工程と、
前記遮蔽層を貫通し、底面に前記支持基板を表出する透過窓を開設する工程と、
前記遮蔽層の下面に垂直に収束イオンビームを照射して、前記透過窓に入射する前記X線の可干渉長内の領域に,前記遮蔽層、前記支持基板及び前記薄膜試料を貫通する垂直貫通孔を開設する工程と、
次いで、前記薄膜試料又は前記遮蔽層上に原料ガスを供給し、前記垂直貫通孔の近傍に電子ビーム又はイオンビームを照射する化学的気相堆積法を用いて、前記垂直貫通孔の開口を覆いその周辺の前記薄膜試料又は前記遮蔽層上に延在する前記遮蔽層より薄いX線遮蔽材料からなる遮蔽薄膜を形成する工程と、
次いで、前記遮蔽薄膜に垂直に収束イオンビームを照射して、前記遮蔽薄膜を貫通し、参照光を通過させる参照光孔を形成する工程と、
を有するX線ホログラム撮像用の試料構造体の製造方法。
【請求項1】
上面及び下面を主面とし、X線を透過する支持基板と、
前記支持基板の下面上に形成された、前記X線を遮蔽する遮蔽層と、
.前記遮蔽層を貫通し、底面に前記支持基板を表出する透過窓と、
前記支持基板の上面上に形成された薄膜試料と、
前記透過窓に入射する前記X線の可干渉長内の領域に開設され、前記遮蔽層、前記支持基板及び前記薄膜試料を前記主面に対して斜めに貫通し、参照光を通過させる参照光孔と、を有し、
前記支持基板の主面の垂直方向から見たとき、前記参照光孔の上下の開口形状が、一部重畳するX線ホログラム撮像用の試料構造体。
【請求項2】
上面及び下面を主面とし、X線を透過する支持基板と、
前記支持基板の下面上に形成された、前記X線を遮蔽する遮蔽層と、
.前記遮蔽層を貫通して形成され、底面に前記支持基板を表出する透過窓と、
前記支持基板の上面上に形成された薄膜試料と、
前記透過窓に入射する前記X線の可干渉長内の領域に開設され、前記遮蔽層及び前記支持基板を前記主面に対して垂直に貫通する垂直貫通孔と、
前記垂直貫通孔の開口を塞ぐように、前記垂直貫通孔を覆いその周辺の前記支持基板又は前記遮蔽層上に延在する前記遮蔽層より薄いX線遮蔽材料からなる遮蔽薄膜と、
前記遮蔽薄膜を貫通し、参照光を通過させる参照光孔と、
を有するX線ホログラム撮像用の試料構造体。
【請求項3】
前記薄膜試料は前記支持基板の上面上の、前記透過窓の直上に形成され、
前記参照光孔は前記遮蔽層及び前記支持基板を貫通して形成されている、
ことを特徴とする請求項1記載のX線ホログラム撮像用の試料構造体。
【請求項4】
前記薄膜試料は前記支持基板の上面上の、前記透過窓の直上に形成され、
前記垂直貫通孔は前記遮蔽層及び前記支持基板を貫通して形成されている、
ことを特徴とする請求項2記載のX線ホログラム撮像用の試料構造体。
【請求項5】
上面及び下面を主面とする支持基板の上面上に、被測定用の薄膜試料を形成する工程と、
次いで、前記支持基板の下面を削除して、前記支持基板をX線が透過する厚さに減厚する工程と、
次いで、前記支持基板の下面上に前記X線を遮蔽する遮蔽層を形成する工程と、
前記遮蔽層を貫通し、底面に前記支持基板を表出する透過窓を開設する工程と、
前記遮蔽層の下面に垂直に収束イオンビームを照射して、前記透過窓に入射する前記X線の可干渉長内の領域に,前記遮蔽層、前記支持基板及び前記薄膜試料を貫通する垂直貫通孔を開設する工程と、
次いで、前記薄膜試料又は前記遮蔽層上に原料ガスを供給し、前記垂直貫通孔の近傍に電子ビーム又はイオンビームを照射する化学的気相堆積法を用いて、前記垂直貫通孔の開口を覆いその周辺の前記薄膜試料又は前記遮蔽層上に延在する前記遮蔽層より薄いX線遮蔽材料からなる遮蔽薄膜を形成する工程と、
次いで、前記遮蔽薄膜に垂直に収束イオンビームを照射して、前記遮蔽薄膜を貫通し、参照光を通過させる参照光孔を形成する工程と、
を有するX線ホログラム撮像用の試料構造体の製造方法。
【図2】
【図3】
【図4】
【図1】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図3】
【図4】
【図1】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2011−209043(P2011−209043A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−75774(P2010−75774)
【出願日】平成22年3月29日(2010.3.29)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年3月29日(2010.3.29)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】
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