説明

X線回折方法及びそれを用いた可搬型X線回折装置

【課題】人力で保持可能で、測定位置の画像確認が可能な可搬型X線回折計測装置を提供する。
【解決手段】
可搬型X線回折装置を、平行なX線を試料に斜め方向から照射するX線照射手段と、このX線照射手段によりX線が照射された試料で回折したX線のうち平行な成分の回折X線を集光して検出する回折X線検出手段と、回折X線を検出した前記回折X線検出手段から出力される信号を処理する信号処理手段とを備えて構成し、平行な連続波長のX線を試料に照射し、このX線が照射された試料で回折した回折X線から平行な成分を抽出してこの抽出した回折X線の平行な成分を集光し、この集光した回折X線をエネルギー分散型の検出素子で検出し、この検出素子で検出して得た信号を処理するX線回折方法とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、X線管が発生する連続波長のX線を試料に照射して材料の分析を行うX線回折方法及びそれを用いた可搬型X線回折装置に関する。
【背景技術】
【0002】
X線回折法は未知結晶試料の材料同定やの大きな試料の一部分又は各種基板に搭載された試料の測定方法としてその利用方法が確立されてきた。これに伴い、従来建物の中で使われてきた分析装置が屋外でも使用できるような計測装置の要求が大きくなってきた。近年の電子技術の進展により、電源や制御回路が小型・軽量・低消費電力化されてきた。しかしながら、通常のX線回折法では、試料位置が所定の位置からずれると測定精度あるいは感度が悪化するという問題点があり、ゴニオメータと呼ばれる機械式の測角器を用いて試料位置が所定の位置にあるようなX線回折測定を行っていた。
【0003】
従来方法は、例えば、非特許文献1にも記載されるように、試料、X線源、検出器を特定の配置に可動維持する測角器(ゴニオメータ)を用いた計測装置が開発されている。一方、特定部分X線回折の計測を目的とした可搬型X線回折装置が特許文献1に記載されている。
【0004】
また、非特許文献2には、X線光子のエネルギー分析が可能なX線検出器を用いたX線測角器の無いX線回折測定方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許第7646847号
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Jenkins & Snyder, Introduction to X-ray Powder Diffractometry, 1996, John Wiley & Sons, Inc. pp178-203
【非特許文献2】International Center for Diffraction Data2003, Advances in X-ray Analysis、Vol.14 pp98-105
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
一般的に、X線回折の測定はX線回折角度に対するX線回折強度をX線検出器により測定するため、角度毎に試料や検出器の角度と位置を移動させて測定する必要があった。そのためX線源や検出器の保持や角度移動の精度確保のために、機械式の測角器は必然的に重量を必要とし、可搬型X線回折装置として用いることに困難があった。
【0008】
また、角度移動を必要としないエネルギー分析型X線回折装置はX線検出器が大型であるとともに、X線回折測定精度を確保するため、試料検出器間距離を離す等の設定がなされており、重量及び寸法で可搬型X線回折装置を構成するには困難があった。
【0009】
非特許文献1にも記載されている測角器は機械式であり、小型・軽量化することは困難であった。また特許文献1に記載されている装置では、装置を試料に設置するための治具及び複数の2次元検出器を用いた複雑な構成の装置とする必要があった。更に、非特許文献2に記載されているX線測角器の無いX線回折測定方法では、X線検出器を液体窒素温度に冷却する必要があり、大型の冷媒容器が必要であるとともに、計測精度を得るために試料検出器間距離を離す構成となっており、必ずしも可搬型X線回折装置として用いられるものではなかった。
【0010】
本発明は、上述した従来技術における問題点に鑑みて達成されたものであり、その目的は、小型かつ軽量なX線回折装置を実現し、人力により保持しての使用条件でも充分に安定した精度のデータ取得が可能なX線回折方法及びそれを用いた可搬型X線回折装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、上述したように、人力で保持可能な小型・軽量の可搬型X線回折装置の実現に鑑みて達成されたものであり、特に、以下に述べる発明者による知見によるものである。即ち、X線回折計測を行う場合、従来は入射X線と試料と回折X線の位置関係が確実に保持されるような条件で計測を行ってきた。例えば、X線管から放射される特性X線(ターゲットがCuの場合、Kα1の波長は0.154056nm)を用いて、試料からの回折X線を計測する。この計測条件はBraggの法則に基づいており、X線管と試料とX線検出器の位置関係が正確に保たれるよう、ゴニオメータと呼ばれる機械式の角度設定機を用いていた。この機械式ゴニオメータは重量が大きく、必ずしも人力で保持して測定するための装置としては不適当であり、人力で保持されるため試料位置のずれに測定が影響されず、ゴニオメータを用いないで構成されるX線回折方法及びそれを用いたX線回折装置が望まれていた。
【0012】
上記した目的を達成するために、本発明では、可搬型X線回折装置を、平行なX線を試料に照射するX線照射手段と、このX線照射手段によりX線が照射された試料で回折したX線のうち平行な成分の回折X線を集光して検出する回折X線検出手段と、回折X線を検出した前記回折X線検出手段から出力される信号を処理する信号処理手段とを備えて構成した。
【0013】
また、上記した目的を達成するために、本発明では、平行な連続波長のX線を試料に照射し、このX線が照射された試料で回折した回折X線から平行な成分を抽出してこの抽出した回折X線の平行な成分を集光し、この集光した回折X線をエネルギー分散型の検出素子で検出し、この検出素子で検出して得た信号を処理するX線回折方法とした。
【0014】
更に、上記した目的を達成するために、本発明では、試料のX線を照射する箇所を撮像し、この撮像された試料のX線を照射する箇所の画像を表示し、X線管で連続波長のX線を発生し、X線管で発生させたX線を平行化して画像を表示された試料のX線を照射する箇所に斜め方向から照射し、このX線が照射された試料で回折したX線から平行な成分を選択して集光させ、この選択して集光させた回折X線を検出素子で検出し、この検出素子で検出した信号を処理するX線回折方法とした。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、人力で運搬保持可能な大きさ・重量のX線回折装置を実現するとともに、大型試料の特定部分の顕微鏡画像を表示ディスプレイで観察しながらX線回折計測することを可能にすると共に、表面に凹凸があったり位置がずれ易い試料であっても、安定して、特定部分のX線計測が可能なX線回折方法及びそれを用いた可搬型X線計測装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】可搬型X線回折装置の概略構成を示す正面図である。
【図2】X線回折装置における試料位置の変動に対する回折X線の位置変動を説明する図である。
【図3】X線回折装置において、受光光学素子による検出する回折X線角度幅とX線検出器に入射する受光径の縮小を説明する図である。
【図4】上記実施例の可搬型X線回折装置において、X線回折計測モジュールについて説明する図である。
【図5】上記実施例の可搬型X線回折装置において、X線発生装置(X線管)の高圧電源実装方法について説明する図である。
【図6】可搬型X線回折装置のX線発生装置(X線管)の高圧電源実装方法について説明する図である。
【図7】上記実施例の可搬型X線回折装置において、X線発生装置(X線管)の重量を低減する方法について説明する図である。
【図8】X線検出器の検出信号の一例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態について、添付の図面を参照しながら詳細に説明する。
【0018】
図1は、本発明の実施例になる可搬型X線回折装置100の全体構成を示す図である。X線照射部20側の筐筒21の内部には、X線発生用X線管1、X線シャッタ2、試料照射用X線光学素子3、X線透過用窓22、X線検出部30側の筐筒31の内部にはX線透過窓32、回折X線受光光学素子4、X線検出器5が内装されている。更に、試料観察部6、X線発生用高圧電源7、検出器信号処理部8、高圧電源及びシャッタ開閉制御部9、データ処理及び表示制御部10、蓄電部11、電源ケーブル12、ハンドル13、シャッタ開閉スイッチ14、そして、折り畳み式データ表示部15が筐体部50に搭載されている。
【0019】
X線照射部20側の筐筒21とX線検出部30側の筐筒31とは互いに空間的に接続しており、それぞれ筐体部50に装着されている。また、X線照射部20側の筐筒21とX線検出部30側の筐筒31とは図示していない真空排気手段により、内部が真空に排気される。更に、X線照射部20側の筐筒21とX線検出部30側の筐筒31との試料200の側の面には、X線照射部20側から試料200に照射したX線が外部に漏れるのを防止するためのリング状の防X線シールド試料接触部40が装着されており、接触部41が試料200と接触してX線が外部に漏れるのを防止する。
【0020】
上記した構成において、X線発生用X線管1で発生したX線を、シャッタ開閉スイッチ13によりX線シャッタ2の開閉を行うことによって試料への照射のOn/Offを行う。シャッタ開閉スイッチ13によりシャッタ2が開の状態でX線発生用X線管1で発生したX線は試料照射用X線光学素子3を透過して試料200に照射される。
試料照射用X線光学素子3は、X線発生用X線管1で発生したX線を平行化して試料200に照射する役割をもち、本実施例ではX線発生用X線管1のX線焦点16と同様なサイズの開口をもつスリットを用いた。この試料照射用X線光学素子3には平行管タイプのモノキャピラリであっても良いし、平行管タイプのモノキャピラリを複数束ねて形成したポリキャピラリ型の素子としてもよい。
【0021】
X線が照射された試料で反射(散乱も含む)したX線の一部は回折X線受光光学素子4に入射してX線検出器5に到達する。回折X線受光光学素子4には平行管タイプのモノキャピラリを複数束ねて形成したポリキャピラリ型の素子を用いた。このポリキャピラリ型回折X線受光光学素子4に入射した試料200で反射したX線は平行成分がポリキャピラリ型回折X線受光光学素子4を透過し、X線のエネルギー分解能をもつX線検出器5に入射して、試料からの回折X線を計測する。ここでポリキャピラリ型回折X線受光光学素子4は、出射したX線がX線検出器5の検出面(図示せず)上に集光するように形成されている。
【0022】
X線検出器5でX線を検出して得られたアナログ信号は検出器信号処理部8でデータ処理可能なデジタル化され、データ処理及び表示制御部10で処理され、その結果が折り畳み式データ表示部14に表示する。また、本実施例による可搬型X線回折計測装置100のX線回折計測のX線の光軸中心を図中の1点鎖線a及びbで示す。
【0023】
図1で示した本実施例のうち、図2に於いて、X線回折計測のX線の光軸中心aに対し試料100の位置は理想的にはSの位置である。人手により保持された可搬型X線回折計測装置100での実際の測定に於いて、理想位置に試料200を保持し続けることは困難であり、図2に示すようにLで示す量だけ変動する(ずれる)ことが想定される。このときの回折を生ずる試料200の位置はS1からS2の間(変動幅L)になる。
【0024】
このときX線検出部30の側に図1に示したようなポリキャピラリ型回折X線受光光学素子4が無く、試料100で反射したX線が角度θ2の方向に直進すると仮定すると、回折X線を検出するための受光光学素子5’の断面上での回折X線の光軸中心bのずれ幅Dは下式(数1)で表される。
=L×sin(θ1+θ2)/sin((θ1+θ2)/2) ・・・・・ (数1)
ここで、θ1は試料照射用X線光学素子3の試料への入射角度、θ2は試料で回折したX線の出射角度である。θ1とθ2とは、何れも10°〜60°の範囲に設定される。入射X線のビーム径をdとすると、試料位置がLだけずれても回折X線が安定して計測することができるようにするためには、X線検出器5’の受光面が下式(数2)で示されるような数値Dよりも大きくなければならない。
【0025】
=d+D
=d+L×sin(θ1+θ2)/sin((θ1+θ2)/2) ・・・ (数2)
次に図1に示した回折X線受光光学素子4に回折X線ビームを取り込むためのX線検出部30の原理の一部について図3を用いて説明する。本実施例では、回折X線受光光学素子4として平行管タイプのモノキャピラリを束ねて形成した平行部分をもつポリキャピラリを用いた。ポリキャピラリは平滑なガラス細管内面でのX線の全反射を利用してX線ビームの形状を変換することが可能である。石英ガラスでの全反射臨界角はX線の波長(エネルギー)によって異なるが、X線波長0.083nm、エネルギー15keVに対しおよそ0.125度(2.2mrad)である。
【0026】
図3に於いて、ガラス管内壁径が200nmのモノキャピラリを束状に集めて形成したポリキャピラリ4のとき、全反射臨界角の角度でポリキャピラリ4に入射したX線は約100μmに1回全反射することになり、図3のT1長さ10mmの平行ポリキャピラリ4では100回全反射を生ずる。このとき全反射の反射率が0.99とすると、0.125度でポリキャピラリ4の入射端401の側から入射したX線はポリキャピラリ内部でほとんど吸収される。全反射臨界角の半分の0.06度程度で入射したX線は全反射の回数が半分の50回となりポリキャピラリからの出射強度が約50%となる。従って、入射角度と出射角度の関係は図4に示すような分布となる。
【0027】
X線の波長が0.083nmより短い(エネルギーが15keVより高い)X線では更に小さな入射角度でないと平行ポリキャピラリを通過することができない。一方、長い波長(低いエネルギー)のX線でも反射率は同程度なため、反射回数が多くなる大きな入射角度では平行ポリキャピラリを通過することはできない。従って、ガラス管内壁径200nm長さ10mmのモノキャピラリを束状に集めて形成したポリキャピラリ4は、角度発散が0.12度程度の平行なX線ビームのみを選択することが可能である。
【0028】
このようなポリキャピラリ4によるコリメータの動作は通常の積層型のものでも可能であり、小型化した積層型コリメータを用いることも可能である。
【0029】
このポリキャピラリ4の出射端402の側は、後述するようにポリキャピラリ4の出射端402から出射したX線がX線検出器5の検出面上に収束するようにし、検出面の大きさをDよりも小さくできるようにしたので、図2で説明した構成と比べて、X線検出器5の小型化を図れるようになった。
【0030】
次に図3で、本発明の実施例で用いた平行キャピラリ型回折X線受光光学素子4の設計について説明する。X線受光光学素子4の入射端401の側の開口径Dは前記(2)式によるが、実用的な寸法であるX線ビーム径(d)を1mm、試料位置のずれ(L)を±2mmとすると受光光学系の入射端401の側の開口径(D)はおよそ9mm程度を必要とする。X線検出器5としては、エネルギー分散型検出器であるシリコンドリフト型半導体検出器(SDD)で直径10mmのものが製品化されており、それを入手できるので、平行ポリキャピラリの一端にX線検出器5として直接SDDをとりつけて使うことが可能である。
【0031】
ここでは、ポリキャピラリの特徴を活かして、X線検出器5の径の縮小を行う受光光学素子を用いた。前記したX線波長0.083nm、エネルギー15keVでは、石英表面の全反射臨界角0.125度(2.2mrad)であるため1回の全反射で約0.25度の反射角とすることが可能である。ポリキャピラリを受光部(X線の入射側)から滑らかに、回転楕円面形状で直径を縮小していくと、ポリキャピラリ内壁での全反射により回折X線の径を縮小することができる。全反射を20回させるとして直線平均で約5度の口径縮小を行うと、平行ポリキャピラリ部分からT2=24mm延長した部分で出射端402の側の開口径が約6mmとなり、直径10mmの入射端401に入射した回折X線を集光して出射端402から出射させることができる。このとき、全反射の反射率を0.99とするとX線強度の低下は約20%に過ぎない。
【0032】
このような縮小光学素子を使うことにより、X線検出器5として直径10mmの検出器(面積80mm)に替わり、計算上直径6mm(面積25mm)の検出器とすることができる。現在大型のシリコンドリフト半導体検出器は価格も高く、エネルギー分解能の特性的にも小型検出器が優れているため、小型の光学素子を利用するほうが有利である。更に、断面を回転楕円面形状に形成した出射端402の側のT2=50mmとすれば出射端402の側の開口径を約2mmとして、標準的に量産されている面積7mm(直径3mm)の安価な検出器を用いることができる。
ここで示した計算値は全反射臨界角度を用いたものであるが、本発明の実施例では長さ50mmで入射端401側の開口径10mmを出射端402の側で5mmに縮小する滑らかな回転楕円面形状をもつポリキャピラリとした。このポリキャピラリは、入射したX線を集光してX線検出器5の側に出射させれば良いので、形状については焦点に結ぶ必要がなく、滑らかな2次元曲面形状とすることが可能である。
【0033】
次に、図5を用いて本発明の実施例で用いたX線発生用X線管1、X線発生用高圧電源7及び高圧電源及びシャッタ開閉制御9について説明する。X線発生用X線管1にはセラミック絶縁の小型X線管を用いた。ガラス管型でも使用可能である。全体の回路構成で、陽極(ターゲット)接地型とすると、熱陰極を用いた場合高圧絶縁型のフィラメント・トランスが必要であるが、陰極接地型では高圧絶縁型フィラメント・トランス不要なため、軽量化に有利であり、本実施例では陰極接地型とした。この場合、X線発生用X線管1で発生する熱(10W)は高電圧絶縁材料を介して、熱伝導によりX線計測装置本体で放熱する。
【0034】
X線発生用高圧電源7には12段の全波整流コッククロフト・ウヲルトン高圧昇圧整流回路70を用いた。コッククロフト・ウヲルトン高圧昇圧整流回路70への高周波電力供給はピエゾトランス71により行った。単一のピエゾトランス71で4kV−10Wの供給を行った。ピエゾトランス71の動作周波数は約80kHzである。ピエゾトランス71への電力供給は、高圧電源及びシャッタ開閉制御部9から±24Vの高周波で行う。高圧電源及びシャッタ開閉制御部9には80kHzの高周波発信回路91とX線発生用X線管1の印加電圧から負帰還をかけデータ処理及び表示制御部10により外部から設定した電圧になるように制御される。
【0035】
また、高圧電源及びシャッタ開閉制御部9にはX線発生用X線管1の電流制御のためのフィラメント電流制御部92とX線シャッタ用のスイッチ回路93を含んでいる。X線発生用X線管1及びX線発生用高圧電源7は一体に高圧電源安全シールド77の中にモールドされ、高圧電源安全シールド77の外部端子は全て24V以下の電圧として、使用・製造及び調整・点検作業の安全を図っている。
ここでは小型軽量化のためピエゾトランス72を用いたが、多少の重量の増加で済む高周波コイルトランスを用いることも可能である。
【0036】
次に図6を用いてX線発生用高圧電源7の構造について説明する。X線発生用高圧電源7はセラミック基板75上にチップコンデンサ73、チップダイオード74、図6に記載の無いチップレジスタを用いて形成した。これらのチップ部品は表面実装用のものを用い、小型に構成した。コッククロフト・ウヲルトン高圧昇圧整流回路70の1段を4kVと設定したため、4kV耐圧のチップコンデンサ73と2kV耐圧のチップダイオード74を2個直列として、ブリッジ回路72を構成し、12逓倍全波整流回路とした。従って、本発明の実施例では最大印加電圧48kVで定格使用電圧と電流を40kV−0.25mAとした。更に高電圧を必要とする場合は逓倍段数を増すことにより対応可能である。
【0037】
X線発生用高圧電源7はセラミック基板75の裏面には電圧負帰還制御用の電圧分割用チップレジスタ(図示せず)が搭載されるとともに、ピエゾ(圧電)トランス78を実装している。ピエゾトランス78は薄い長方形の短冊形状のため、小型の実装に最適である。また、電磁高周波トランスと比較して、小型装置に採用する場合、電磁ノイズの観点からも優れている。ただし、その原理上高周波(80kHz)の振動をしているため、テフロン(登録商標)製のケース77に入れて基板上に実装した。
【0038】
次に図7を用いて、本実施例を用いたX線回折測定について詳細を説明する。図7(a)に示すように、X線発生用X線管1のX線焦点15で発生したX線は試料照射用X線光学素子3を通過するとともに、図7(b)に示す防X線シールド部40の試料面側に設けられた試料照射X線透過窓22を通して、試料200に照射される。このとき試料200との接触部41はタングステン(W)、タンタル(Ta)や鉛(Pb)等の重金属で構成されており、試料と密着させることにより、X線の漏洩が無いようにできている。更に、使用時の安全性を高めるため、試料の形状に合わせて図に記載の無い重金属入りプラスチック片がその外側に設置され、X線漏洩を防止している。更に、図に記載の無い近接スイッチと試料観察用開口42を通して光学的な計測を行う試料観察部6によるデータから防X線シールド部40の接触部41が試料に接触しているかを確認した上で、シャッタ開閉スイッチ13のOn/OffによりX線の照射が制御される安全機構となっている。
【0039】
試料200に照射されたX線の一部は回折X線として回折X線検出透過窓32を透過して回折X線受光光学素子4に入射し、X線検出器5に導かれX線回折データが測定される。本実施例の場合、X線発生用X線管1にモリブデン(Mo)の対陰極(ターゲット)を用い、試料照射X線角度(θ1)と回折X線取出し角度(θ2)を20度に設定し、測定可能なd値を0.7nmから0.07nmとした。このとき使われるX線の波長範囲は0.5nmから0.07nmである。0.5nmの波長のX線(2.4keV)等0.3nm以上の波長のX線は大気中で吸収されやすいため、X線照射部20側の筐筒21とX線検出部30の筐筒31とは図示していない手段により内部が真空排気されている。本実施例の場合は完全な真空封切り構造としたが、完全な真空封切りではなく、使用するときだけポンプで排気することも可能である。
【0040】
本実施例ではX線照射部20側の筐筒21及びX線検出部30の筐筒31と防X線シールド部40の接触部41との間、及びX線照射部20側の筐筒21及びX線検出部30の筐筒31と筐体50との間は回転可動に保持されている。これにより、試料測定を行っているとき、筐体50を手動で回転して測定データを折り畳み式データ表示部15に表示することが可能である。これにより、回転させながら計測を継続することで、平均化したデータの取得が可能であり、正確で安定した計測が可能である。さらに、特定の回折パターンが現れる方向を特定でき、試料の中でX線回折を生ずる結晶がどのように配向しているかが計測できる。
【0041】
回折X線を検出したX線検出器5から出力される検出信号の例を図8に示す。本実施例では、X線検出器5としてエネルギー分散型のSDDを用いている。SDDは、1画素のセンサーであるので、試料200から回折角θ2の方向に回折したX線をポリキャピラリ4の大きな径の入射端401に入射させ、それをX線検出器5の画素サイズ程度に収束させて検出することは、検出感度を向上させる上で有効になる。
【0042】
図8に示すような検出信号を受けた検出信号処理部8では、信号を処理して、試料200の結晶格子間隔を算出する。
【0043】
試料200の結晶面の間隔dとピーク波長λとの関係は、ブラッグの条件式より、
2dsinθ=λ ・・・(数3)
と表される。ここで、θはX線の入射角である。
【0044】
一方、 波長λ(nm)とエネルギE(keV)との間には
λ=12.4/E ・・・(数4)
という関係が有るので、数1に数2を代入してX線の入射角度θを30°としたとき、
d=12.4/E ・・・(数5)
と表される。
【0045】
したがって、図8に示したような検出信号から数5の関係を用いて、結晶面間隔dを求めることができる。
【0046】
この求めた結晶間隔dのデータを用いて、内部応力と結晶間隔との関係から試料200の内部応力を求めることができる。
【0047】
ここで、X線管1の陽極ターゲットとして、モリブデン(Mo)を用いたとき、3〜15KeVのエネルギー範囲のX線を検出することができるので、数5より試料200の結晶面の間隔dが0.41〜0.083nmの範囲で検出することができる。
【0048】
また、X線管1の陽極ターゲットとして、銀(Ag)を用いたとき、3〜20keVのエネルギー範囲のX線を検出することができるので、数5より試料200の結晶面の間隔dが0.41〜0.062nmの範囲で検出することができる。
【0049】
本実施例によれば、X線が照射された試料から発生してX線検出部30の筐筒31に入射した回折X線からポリキャピラリ型の光学素子で平行成分だけを抽出できるようにしたので、試料表面の高さが変動しても確実に回折X線の平行成分を検出することが可能になり、可搬型のX線回折装置の試料への取付けが容易になり、可搬型のX線回折装置を用いて効率よく試料を分析することが可能になった。
【0050】
さらに、試料表面の高さの変動がある程度の範囲で許容されるので、表面が粗い試料や、表面が柔軟でうねりのあるような試料を分析することも可能になる。
【0051】
また、ポリキャピラリ型の光学素子で回折X線を集光して検出するために、X線検出器を小型化することが可能になり、可搬型のX線回折装置をより小型で軽量化することが可能になった。
【符号の説明】
【0052】
1・・・X線発生用X線管 2・・・X線シャッタ 3・・・試料照射用X線光学素子 4・・・回折X線受光光学素子 5・・・X線検出器 6・・・試料観察部 7・・・X線発生用高圧電源 8・・・検出器信号処理部 9・・・高圧電源及びシャッタ開閉制御部 10・・・データ処理及び表示制御部 11・・・蓄電部
12・・・電源ケーブル 14・・・シャッタ開閉スイッチ 15・・・折り畳み式データ表示部 20・・・X線照射部 21・・・筐筒 22…試料照射X線透過窓 30・・・X線検出部 31・・・筐筒 32・・・回折X線検出透過窓
40・・・防X線シールド試料接触部 42・・・試料観察用開口 50・・・筐体部 77・・・高圧電源安全シールド。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平行なX線を試料に方向から照射するX線照射手段と、
該X線照射手段によりX線が照射された試料で回折したX線のうち平行な成分の回折X線を集光して検出する回折X線検出手段と、
前記回折X線を検出した前記回折X線検出手段から出力される信号を処理する信号処理手段と、
を備えたことを特徴とする可搬型X線回折装置。
【請求項2】
前記試料の前記X線を照射する箇所を撮像する撮像手段と
該撮像して得た画像を表示する表示手段と
を更に備えたことを特徴とする請求項1記載の可搬型X線回折装置。
【請求項3】
前記X線照射手段は、
連続波長のX線を発生するX線管と、
該X線管で発生させたX線の光路を開閉するシャッタ手段と、
前記X線管で発生させたX線を平行化して試料に斜め方向から照射する照射光学手段と、
前記X線管と前記シャッタ手段と前記照射光学手段とを内装するX線照射部筐筒と
を備えたことを特徴とする請求項1又は2に記載の可搬型X線回折装置。
【請求項4】
前記照射光学手段は、スリットまたはポリキャピラリで形成されていることを特徴とする請求項3記載の可搬型X線回折装置。
【請求項5】
前記回折X線検出手段は、
前記X線照射手段によりX線が照射された前記試料で回折したX線を入射させて平行な成分を集光する受光光学素子と、
該受光光学素子で集光された回折X線を検出する検出光学素子と、
前記受光光学素子と前記検出光学素子とを内装するX線検出部筐体と
を備えたことを特徴とする請求項1乃至4の何れかに記載の可搬型X線回折装置。
【請求項6】
前記受光光学素子はポリキャピラリで構成され、該ポリキャピラリの前記試料からの回折X線が入射する側は平行に形成され、前記回折X線を出射する側はその断面が前記入射する側の断面よりも小さく形成されていることを特徴とする請求項5記載の可搬型X線回折装置。
【請求項7】
前記検出光学素子はエネルギー分散型の検出器で構成されていることを特徴とする請求項5記載の可搬型X線回折装置。
【請求項8】
前記エネルギー分散型の検出器は、シリコンドリフト型半導体検出器(SDD)であることを特徴とする請求項7記載の可搬型X線回折装置。
【請求項9】
平行な連続波長のX線を試料に照射し、
該X線が照射された前記試料で回折した回折X線から平行な成分を選択して該選択した回折X線の平行な成分を集光し、
該集光した回折X線をエネルギー分散型の検出素子で検出し、
該検出素子で検出して得た信号を処理する
ことを特徴とするX線回折方法。
【請求項10】
前記平行な連続波長のX線を、スリットまたはポリキャピラリを用いて形成することを特徴とする請求項9記載のX線回折方法。
【請求項11】
試料のX線を照射する箇所を撮像し、
該撮像された試料のX線を照射する箇所の画像を表示し、
X線管で連続波長のX線を発生し、
該X線管で発生させたX線を平行化して前記画像が表示された試料のX線を照射する箇所に斜め方向から照射し、
該X線が照射された試料で回折したX線から平行な成分を選択して集光させ、
該選択して集光させた回折X線を検出素子で検出し、
該検出素子で検出した信号を処理する、
ことを特徴とするX線回折方法。
【請求項12】
前記X線管で発生させたX線を平行化することを、スリットまたはポリキャピラリを用いて行うことを特徴とする請求項11記載のX線回折方法。
【請求項13】
前記試料で回折したX線から平行な成分を選択して集光させることを、前記試料で回折したX線をポリキャピラリに入射させ、該ポリキャピラリに入射させた回折X線のうち平行な成分の回折X線を前記ポリキャピラリの前記回折X線が入射する側よりも径が小さい出射側から出射させることにより行うことを特徴とする請求項9または11に記載のX線回折方法。
【請求項14】
前記選択して集光させた回折X線をエネルギー分散型の検出素子で検出することを特徴とする請求項11記載のX線回折方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2012−32164(P2012−32164A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−169338(P2010−169338)
【出願日】平成22年7月28日(2010.7.28)
【出願人】(000250339)株式会社リガク (206)
【Fターム(参考)】