説明

X線回折試料揺動装置、X線回折装置及びX線回折パターンの測定方法

【課題】粗粒かつ微少試料であっても均一な回折リングを得ることができるX線回折試料揺動装置、X線回折装置及びX線回折パターンの測定方法を提供する。
【解決手段】X線回折試料を保持する試料保持部31をX線入射方向と平行にした第1の回転軸の周りに揺動可能な第1の揺動部21と、前記第1の回転軸と直交する第2の回転軸の周りに揺動可能な第2の揺動部22と、前記第1及び第2の回転軸と直交する第3の回転軸の周りに揺動可能な第3の揺動部23を有するX線回折試料揺動装置11を用いることによって前記課題を解決できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、X線回折試料揺動装置、X線回折装置及びX線回折パターンの測定方法に関する。特に、本発明は、高圧下における粗粒かつ微少な粉末試料をX線照射位置で揺動することにより、均一な粉末X線回折リングを得る技術である。
【背景技術】
【0002】
ダイヤモンドアンビルセル(以下、DAC)の微少試料による高圧下のX線回折実験においては、回折に寄与する粒子の統計上の問題から、精密解析に足る良質な回折強度プロファイルを得ることが難しい。特に、DACを使った高圧下でのレーザー加熱実験においては、結晶粒の成長が不可避となることから、正確なX線回折強度データを獲得することは著しく困難である。
【0003】
非特許文献1には、ガンドルフィカメラ型揺動について記載されている。また、非特許文献2および非特許文献3には、ガンドルフィカメラの原理が解説されている。
非特許文献1、2,3の記載から、我々は、微少かつ粗粒の試料から均一なデバイリングを得ることができる、ガンドルフィカメラ型の揺動に着目した。
しかし、ガンドルフィカメラによる揺動は、大気圧下の試料のX線回折で、試料支持方向は入射X線方向に対し、傾き角45度方向で支持され、自転しながら公転する。そのため、高圧装置を回転することができない。
【0004】
従来技術によれば、高圧下では、θ方向のみの揺動がおこなわれてきた。これでは不十分で、回折点の数は増えるが、均一な回折リングを得ることはできない。ωのみの揺動、もしくはθ、ωを組み合わせた揺動の場合でも、回折点の数は増えるが、均一な回折リングを得ることはできない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】H.H.Otto,W.Hofmann,K.Schroder, J.Appl.Cryst.,35,13−16(2002)
【非特許文献2】中牟田義博,鉱物学雑誌,28巻,117−121.,1999.01
【非特許文献3】G.Gandolfi,Miner.Petrogr.Acta, 13,67−74(1967)
【非特許文献4】Hammersley,A.P.European Synchrotron Radiation Facility Internal Report 1997,ESRF97HA02T
【非特許文献5】G.Malmros,Acta Chemica Scandinavia,24,384−396(1970)
【非特許文献6】A.C.Larson,R.B.V.Dreele,Los Alamos National Laboratory Report LAUR,2004.pp86−748.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、粗粒かつ微少試料であっても均一な回折リングを得ることができるX線回折試料揺動装置、X線回折装置及びX線回折パターンの測定方法を提供することを課題とする。特に、高圧下においても、粗粒かつ微少試料の均一な回折リングを得ることができるX線回折試料揺動装置、X線回折装置及びX線回折パターンの測定方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記事情を鑑みて、本発明者は試行錯誤を重ね、従来のθのみの揺動に加え、すべての軸の中心をあわせるための調整機構を付与して、ω及びφの軸あわせを可能にして、φ、θ及びωの組み合わせ揺動により均一な回折リングを得ることができることを見出した。また、X線に対し垂直に保持できることから、高圧装置(ダイヤモンドアンビルセル)を回転することが可能な揺動機構を開発した。この揺動機構は、試料を中空ピンホール内に保持することができ、大気圧下の試料に対しても揺動しながら均一なX線回折リングを撮ることができる。これらの技術に基づき、DACによる高圧下粉末X回折用に多軸揺動装置を開発し、本発明を完成した。本発明者の知る限り、高圧下でこのような揺動をおこなってX線回折実験を行った研究報告はない。
本発明は、以下の構成を有する。
【0008】
(1) X線回折試料を保持する試料保持部をX線入射方向と平行にした第1の回転軸の周りに揺動可能な第1の揺動部と、前記第1の回転軸と直交する第2の回転軸の周りに揺動可能な第2の揺動部と、前記第1及び第2の回転軸と直交する第3の回転軸の周りに揺動可能な第3の揺動部を有することを特徴とするX線回折試料揺動装置。
【0009】
(2) 前記第1の揺動部を前記第1の回転軸の周りに360度回転させる第1の回転機構が取り付けられていることを特徴とする(1)に記載のX線回折試料揺動装置。
(3) 前記第2の揺動部を前記第2の回転軸の周りに回転させる第2の回転機構が取り付けられていることを特徴とする(2)に記載のX線回折試料揺動装置。
(4) 前記第3の揺動部を前記第3の回転軸の周りに回転させる第3の回転機構が取り付けられていることを特徴とする(3)に記載のX線回折試料揺動装置。
【0010】
(5) 前記第3の揺動部が、3軸パルスモーター制御装置が備えられた台上に固定されていることを特徴とする(4)に記載のX線回折試料揺動装置。
(6) 前記第1の回転軸、前記第2の回転軸及び前記第3の回転軸の軸方向をそれぞれ独立に調整可能な軸調整機構が備えられていることを特徴とする(1)〜(5)のいずれかに記載のX線回折試料揺動装置。
(7) 前記試料保持部がダイヤモンドアンビルセルであることを特徴とする(1)〜(6)のいずれかに記載のX線回折試料揺動装置。
【0011】
(8) (1)〜(7)のいずれかに記載のX線回折試料揺動装置と、X線発生部と、二次元X線検出器とを有することを特徴とするX線回折装置。
【0012】
(9) (8)に記載のX線回折装置を用いるX線回折パターンの測定方法であって、軸調整機構により、第1の揺動部の第1の回転軸、第2の揺動部の第2の回転軸及び第3の揺動部の第3の回転軸の軸方向を互いに直交するように調整する工程と、第1の揺動部、第2の揺動部及び第3の揺動部を揺動させた状態で、X線発生部で発生させたX線を、X線回折試料揺動装置の試料保持部に保持したX線回折試料に照射して、前記X線回折試料で散乱させたX線を二次元X線検出器に投射する工程と、を有することを特徴とするX線回折パターンの測定方法。
【0013】
(10) 第1の揺動部、第2の揺動部及び第3の揺動部の揺動を同時に行うことを特徴とする(9)に記載のX線回折パターンの測定方法。
(11) 第1の揺動部の第1の回転軸をX線入射方向と平行に調整する工程を有することを特徴とする(9)〜(10)のいずれかに記載のX線回折パターンの測定方法。
【0014】
(12) 3軸パルスモーター制御装置により、第3の揺動部の位置及び方向を制御する工程を有することを特徴とする(9)〜(11)のいずれかに記載のX線回折パターンの測定方法。
(13) 前記試料保持部としてダイヤモンドアンビルセルを用い、前記X線回折試料に高圧を印加した状態でX線を照射することを特徴とする(9)〜(12)のいずれかに記載のX線回折パターンの測定方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明のX線回折試料揺動装置は、X線回折試料を保持する試料保持部をX線入射方向と平行にした第1の回転軸の周りに揺動可能な第1の揺動部と、前記第1の回転軸と直交する第2の回転軸の周りに揺動可能な第2の揺動部と、前記第1及び第2の回転軸と直交する第3の回転軸の周りに揺動可能な第3の揺動部を有する構成なので、第1の揺動部、第2の揺動部及び第3の揺動部からなる揺動機構により、X線回折試料を3つの軸の周りに揺動させることができ、X線回折パターンを測定したときに、均一な回折リングが得られ、その結果、結晶構造因子の精密化につながり、結晶構造中の原子位置が精密に求められる。
【0016】
本発明のX線回折試料揺動装置は、前記試料保持部がダイヤモンドアンビルセルである構成なので、ダイヤモンドアンビルセルを固定した状態で、ダイヤモンドアンビルセルごと回転することにより、内部の高圧のX線回折試料をX線照射状態で揺動できる。
【0017】
本発明のX線回折装置は、先に記載のX線回折試料揺動装置と、X線発生部と、二次元X線検出器とを有する構成なので、第1の揺動部、第2の揺動部及び第3の揺動部からなる揺動機構により、均一な回折リングが得られ、その結果、結晶構造因子の精密化につながり、結晶構造中の原子位置が精密に求められる。
【0018】
本発明のX線回折パターンの測定方法は、先に記載のX線回折装置を用いるX線回折パターンの測定方法であって、軸調整機構により、第1の揺動部の第1の回転軸、第2の揺動部の第2の回転軸及び第3の揺動部の第3の回転軸の軸方向を互いに直交するように調整する工程と、第1の揺動部、第2の揺動部及び第3の揺動部を揺動させた状態で、X線発生部で発生させたX線を、X線回折試料揺動装置の試料保持部に保持したX線回折試料に照射して、前記X線回折試料で散乱させたX線を二次元X線検出器に投射する工程と、を有する構成なので、第1の揺動部、第2の揺動部及び第3の揺動部からなる揺動機構により、均一な回折リングが得られ、その結果、結晶構造因子の精密化につながり、結晶構造中の原子位置が精密に求められる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の実施形態であるX線回折装置の一例を示す模式図である。
【図2】図1に示すX線回折試料揺動装置の平面図(a)、正面図(b)及び右側面図(c)である。
【図3】ダイヤモンドアンビルセル(DAC)の一例を示す模式図である。
【図4】DACの製造方法の一例を示す工程図である。
【図5】DACの製造方法の一例を示す工程図である。
【図6】揺動の有無の比較の概念図である。
【図7】揺動の有無によるイメージングプレート上の粉末X線回折リングである。
【図8】リートベルト解析による強度対2θの評価である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
(本発明の実施形態)
<X線回折装置>
本発明の実施形態であるX線回折装置の一例について説明する。
図1は、本発明の実施形態であるX線回折装置の一例を示す模式図である。
図1に示すように、本発明の実施形態であるX線回折装置1は、X線発生装置41と、X線回折試料揺動装置11と、二次元X線検出器51とから構成されている。
X線発生装置41で発生させたX線を試料保持部31に照射して、試料保持部31に保持されたX線回折試料でX線を散乱させ、二次元X線検出器51にX線回折パターンを形成する。
二次元X線検出器51は、例えば、イメージングプレート等である。
【0021】
<X線回折試料揺動装置>
次に、本発明の実施形態であるX線回折試料揺動装置の一例について説明する。
図1に示すように、本発明の実施形態であるX線回折試料揺動装置11は、第1の揺動部21、第2の揺動部22、第3の揺動部23と、を備えている。試料保持部31は、第1の揺動部21に固定されている。
図2は、図1に示すX線回折試料揺動装置の平面図(a)、正面図(b)及び右側面図(c)である。
【0022】
第1の揺動部21は、中心に試料保持部31を固定したリング状の部材であり、第1の回転軸61の周りに回転させる第1の回転機構(図示略)が取り付けられている。
第1の回転軸61は、リング状の第1の揺動部21の中心軸にあわされており、X線入射方向と平行とされている。
図2(c)では、第1の揺動部21は第1の回転軸61の周りにφ度回転可能であることが示されている。なお、第1の回転軸61の周りに第1の揺動部21を360度回転可能である。
【0023】
第2の揺動部22は、第1の揺動部21を固定した部材であり、第2の回転軸62の周りに回転させる第2の回転機構(図示略)が取り付けられている。
第2の揺動部22は、保持部材25の湾曲部に保持されており、湾曲部の湾曲形状に合わせて第2の回転軸62の周りに揺動可能とされている。
図2(b)では、第2の揺動部22は第2の回転軸62の周りにω度回転可能であることが示されている。
【0024】
第3の揺動部23は、第2の揺動部22を固定した円板状の部材であり、第3の回転軸63の周りに回転させる第3の回転機構(図示略)が取り付けられている。
図2(a)では、第3の揺動部23は第3の回転軸63の周りにθ度回転可能であることが示されている。
【0025】
第3の揺動部23は、3軸パルスモーター制御装置が備えられた台上に固定されている(図示略)。3軸パルスモーター制御装置を制御することにより、第3の揺動部23の位置及び方向を任意の値に設定することができる。
【0026】
第1の回転軸61、第2の回転軸62及び第3の回転軸63の軸方向をそれぞれ独立に調整可能な軸調整機構が備えられている(図示略)。軸調整機構を制御することにより、第1の回転軸61、第2の回転軸62及び第3の回転軸63の軸方向をそれぞれ直交するように設定することができる。
【0027】
試料保持部31として、ダイヤモンドアンビルセル(DAC)を用いることができる。DACを用いることにより、高圧状態のX線回折試料のX線回折パターンを得ることができる。
試料保持部31として、大気圧用セルを用いれば、大気圧下のX線回折試料のX線回折パターンを得ることができる。
【0028】
図3は、DACの一例を示す模式図である。
図3に示すように、DACは対称型であり、一対のダイヤモンドアンビル32a、32bと、1枚のガスケット33と、X線回折試料34とからなる。2つのダイヤモンドアンビル32a、32bは、X線回折試料34の上下に設けられており、その間に存在するX線回折試料34を挟んで、X線回折試料34に加圧可能とされている。
なお、図3では、下側のダイヤモンドアンビル32aを表示するために、仮想的にガスケットを部分的に切断して表示している。
【0029】
図4及び図5は、DACの製造方法の一例を示す工程図である。各工程図は、平面図と、B−B’線における断面図で示されている。
まず、図4(a)に示すように、平面視略正方形状のガスケット基板33を準備する。例えば、100〜250μmの厚さのレニウム製のガスケット基板を用いることができる。
次に、図4(b)に示すように、ガスケット基板33の両面の中心部に平面視円形状の凹部33h、33iを形成する。
次に、図4(c)に示すように、凹部33h、33iの中心に貫通孔33jを形成する。例えば、貫通孔33jの径は、直径100〜150μmとする。
次に、図5(a)に示すように、1つのダイヤモンドアンビル32aの円形面部を一面側の凹部33iに嵌合してから、一面側が塞がれた貫通孔33jの内部に、X線粉末試料35を装填する。
【0030】
次に、図5(b)に示すように、水、アルコール又は水とアルコールの混合物からなる液圧媒体を注射器等の液圧媒体注入容器36により、X線粉末試料35に注入・混合して、X線回折試料34とする。例えば、メタノール:エタノール:水=16:3:1を使用できる。なお、液圧媒体を用いるのは、室温での加圧の場合である。
次に、図5(c)に示すように、もう1つのダイヤモンドアンビル32bの円形面部を他面側の凹部33hに嵌合して、貫通孔33jの他面側を塞ぐ。
以上の工程により、DACを作製する。
【0031】
<X線回折パターンの測定方法>
次に、本発明の実施形態であるX線回折パターンの測定方法の一例について説明する。
本発明の実施形態であるX線回折パターンの測定方法は、X線回折装置1を用いるX線回折パターンの測定方法であって、軸調整機構により、第1の揺動部21の第1の回転軸61、第2の揺動部22の第2の回転軸62及び第3の揺動部23の第3の回転軸63の軸方向を互いに直交するように調整する工程と、第1の揺動部21、第2の揺動部22及び第3の揺動部23を揺動させた状態で、X線発生部41で発生させたX線を、X線回折試料揺動装置11の試料保持部31に保持したX線回折試料34に照射して、X線回折試料34で散乱させたX線を二次元X線検出器51に投射する工程と、を有する。
【0032】
図6は、揺動の有無の比較の概念図である。
図6(a)に示すように、粗粒な粉末試料を用い、揺動させない場合には、二次元X線検出器51に投射されたX線回折パターンは点状となり、均一なX線回折リングを得ることができない。
一方、図6(b)に示すように、第1の揺動部21、第2の揺動部22及び第3の揺動部23を揺動させた状態で、X線発生部41で発生させたX線を、X線回折試料揺動装置11の試料保持部31に保持したX線回折試料34に照射することにより、粗粒な粉末試料であっても均一なX線回折リングを得ることができる。
なお、第1の揺動部21の第1の回転軸61、第2の揺動部22の第2の回転軸62及び第3の揺動部23の第3の回転軸63の軸方向を互いに直交するように調整することにより、X線回折試料34を大きく揺動させることができる。
【0033】
第1の揺動部21、第2の揺動部22及び第3の揺動部23の揺動を同時に行ってもよい。これにより、粗粒な粉末試料であっても均一なX線回折リングを得ることができ、揺動を行わない場合に点状のX線回折パターンであっても線状のX線回折パターンにすることができる。
【0034】
第1の揺動部21の第1の回転軸61をX線入射方向と平行に調整する工程を有することが好ましい。これにより、軸調整機構により、第1の揺動部21の第1の回転軸61、第2の揺動部22の第2の回転軸62及び第3の揺動部23の第3の回転軸63の軸方向を互いに直交するように調整することを容易にできる。
【0035】
3軸パルスモーター制御装置により、第3の揺動部23の位置及び方向を制御する工程を有することが好ましい。これにより、軸調整機構により、第1の揺動部21の第1の回転軸61、第2の揺動部22の第2の回転軸62及び第3の揺動部23の第3の回転軸63の軸方向を互いに直交するように調整することを容易にできる。
【0036】
試料保持部31としてダイヤモンドアンビルセルを用い、X線回折試料34に高圧を印加した状態でX線を照射してもよい。これにより、高圧下のX線回折試料34を回転させることによって、粗粒な粉末試料であっても均一なX線回折リングを得ることができ、高圧状態のX線回折パターンを容易に測定できる。
【0037】
室温でのその場高圧力X線回折は、例えば、Spring8(財団法人高輝度光科学研究センター(JASPRI))BL04B2で行うことができる。38keVに調節された単色シンクロトロンX線を、DAC中の試料上で直径が約50μmのスポットに収束させ、回折されたX線はイメージングプレート(IP)を使用して検出できる。検出器に記録したデバイ(Debye)リングはFIT2Dプログラム(非特許文献4)を使用して強度対2θのデータに変換できる。なお、非特許文献4は、変換プログラムに関するものである。
【0038】
本発明の実施形態であるX線回折試料揺動装置11は、X線回折試料34を保持する試料保持部31をX線入射方向と平行にした第1の回転軸61の周りに揺動可能な第1の揺動部21と、第1の回転軸61と直交する第2の回転軸62の周りに揺動可能な第2の揺動部22と、第1及び第2の回転軸61、62と直交する第3の回転軸63の周りに揺動可能な第3の揺動部23を有する構成なので、第1の揺動部、第2の揺動部及び第3の揺動部からなる揺動機構により、X線回折試料を3つの軸の周りに揺動させることができ、X線回折パターンを測定したときに、均一な回折リングが得られ、その結果、結晶構造因子の精密化につながり、結晶構造中の原子位置が精密に求められる。
【0039】
本発明の実施形態であるX線回折試料揺動装置11は、第1の揺動部21を第1の回転軸61の周りに360度回転させる第1の回転機構が取り付けられている構成なので、X線回折試料を第1の回転軸61の周りに揺動させることができ、X線回折パターンを測定したときに、均一な回折リングが得られ、その結果、結晶構造因子の精密化につながり、結晶構造中の原子位置が精密に求められる。
【0040】
本発明の実施形態であるX線回折試料揺動装置11は、第2の揺動部22を第2の回転軸62の周りに回転させる第2の回転機構が取り付けられている構成なので、X線回折試料を第2の回転軸62の周りに揺動させることができ、X線回折パターンを測定したときに、均一な回折リングが得られ、その結果、結晶構造因子の精密化につながり、結晶構造中の原子位置が精密に求められる。
【0041】
本発明の実施形態であるX線回折試料揺動装置11は、第3の揺動部23を第3の回転軸63の周りに回転させる第3の回転機構が取り付けられている構成なので、X線回折試料を第2の回転軸63の周りに揺動させることができ、X線回折パターンを測定したときに、均一な回折リングが得られ、その結果、結晶構造因子の精密化につながり、結晶構造中の原子位置が精密に求められる。
【0042】
本発明の実施形態であるX線回折試料揺動装置11は、第3の揺動部23が、3軸パルスモーター制御装置が備えられた台上に固定されている構成なので、X線回折試料を第2の回転軸63の周りに揺動させることができ、X線回折パターンを測定したときに、均一な回折リングが得られ、その結果、結晶構造因子の精密化につながり、結晶構造中の原子位置が精密に求められる。
【0043】
本発明の実施形態であるX線回折試料揺動装置11は、第1の回転軸61、第2の回転軸62及び第3の回転軸63の軸方向をそれぞれ独立に調整可能な軸調整機構が備えられている構成なので、第1の回転軸61、第2の回転軸62及び第3の回転軸63の軸方向を互いに直交するように調整することができ、X線回折試料をできるだけ大きく揺動させることができ、X線回折パターンを測定したときに、均一な回折リングが得られ、その結果、結晶構造因子の精密化につながり、結晶構造中の原子位置が精密に求められる。
【0044】
本発明の実施形態であるX線回折試料揺動装置11は、試料保持部31がダイヤモンドアンビルセルである構成なので、ダイヤモンドアンビルセルを固定した状態で、ダイヤモンドアンビルセルごと回転することにより、内部の高圧のX線回折試料をX線照射状態で揺動できる。
【0045】
本発明の実施形態であるX線回折装置1は、X線回折試料揺動装置11と、X線発生部41と、二次元X線検出器51とを有する構成なので、第1の揺動部、第2の揺動部及び第3の揺動部からなる揺動機構により、均一な回折リングが得られ、その結果、結晶構造因子の精密化につながり、結晶構造中の原子位置が精密に求められる。
【0046】
本発明の実施形態であるX線回折パターンの測定方法は、X線回折装置1を用いるX線回折パターンの測定方法であって、軸調整機構により、第1の揺動部21の第1の回転軸61、第2の揺動部22の第2の回転軸62及び第3の揺動部23の第3の回転軸63の軸方向を互いに直交するように調整する工程を有する工程と、第1の揺動部21、第2の揺動部22及び第3の揺動部23を揺動させた状態で、X線発生部41で発生させたX線を、X線回折試料揺動装置11の試料保持部31に保持したX線回折試料34に照射して、X線回折試料34で散乱させたX線を二次元X線検出器51に投射する工程と、を有する構成なので、第1の揺動部、第2の揺動部及び第3の揺動部からなる揺動機構により、均一な回折リングが得られ、その結果、結晶構造因子の精密化につながり、結晶構造中の原子位置が精密に求められる。
【0047】
本発明の実施形態であるX線回折パターンの測定方法は、第1の揺動部21、第2の揺動部22及び第3の揺動部23の揺動を同時に行う構成なので、均一な回折リングが得られ、その結果、結晶構造因子の精密化につながり、結晶構造中の原子位置が精密に求められる。
【0048】
本発明の実施形態であるX線回折パターンの測定方法は、第1の揺動部21の第1の回転軸61をX線入射方向と平行に調整する工程を有する構成なので、均一な回折リングが得られ、その結果、結晶構造因子の精密化につながり、結晶構造中の原子位置が精密に求められる。
【0049】
本発明の実施形態であるX線回折パターンの測定方法は、3軸パルスモーター制御装置により、第3の揺動部の位置及び方向を制御する工程を有する構成なので、均一な回折リングが得られ、その結果、結晶構造因子の精密化につながり、結晶構造中の原子位置が精密に求められる。
【0050】
本発明の実施形態であるX線回折パターンの測定方法は、試料保持部31としてダイヤモンドアンビルセルを用い、X線回折試料34に高圧を印加した状態でX線を照射する構成なので、高圧状態の試料について、均一な回折リングが得られ、その結果、結晶構造因子の精密化につながり、結晶構造中の原子位置が精密に求められる。
【0051】
本発明の実施形態であるX線回折試料揺動装置、X線回折装置及びX線回折パターンの測定方法は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想の範囲内で、種々変更して実施することができる。本実施形態の具体例を以下の実施例で示す。しかし、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0052】
(実施例1)
以下、本発明を、実施例に基づいて説明する。
実施例1は、X線回折試料に印加する圧力を変化させて、高圧状態及び大気圧状態のX線回折パターンの測定を行った一例である。
次に、図3に示す対称型のダイヤモンドアンビルセル(DAC)を用意した。100μmの厚さのレニウム製のガスケットを用い、直径100〜150μmの孔を形成した。
次に、孔にX線粉末試料を装填してから、メタノール:エタノール:水=16:3:1からなる液圧媒体を加えて、X線回折試料とした。
次に、X線回折試料揺動装置にDACを配置した。
なお、高圧状態の結果を得る際には、上下に設けられた一対のダイヤモンドアンビルでその間に存在するX線回折試料を挟んで、大気圧(1気圧)から7万気圧に加圧した。
実験条件は、加圧しない場合(実験No.1、2)と加圧する場合(実験No.3、4)及び揺動しない場合(実験No.1、3)と揺動させた場合(実験No.2、4)に分けた。
【0053】
室温でのその場高圧力X線回折実験は、Spring8(財団法人高輝度光科学研究センター(JASPRI))BL04B2で行った。
38keVに調節された単色シンクロトロンX線を、DAC中の試料上で直径が約50μmのスポットに収束させた。
回折されたX線はイメージングプレート(IP)を使用して検出した。
検出器に記録したデバイ(Debye)リングはFIT2Dプログラム(非特許文献4)を使用して強度対2θのデータに変換した。
【0054】
表1は、実験No.1〜4におけるφ、ω及びθの実験条件と、イメージングプレート(IP)を使用して検出結果(図7a〜7d)である。なお、実験No.1、2は大気圧(1気圧)におけるものであり、実験No.3、4は高圧におけるものである。
【0055】
【表1】

【0056】
表1に示す実験結果において、実験No.1、3の場合にはスポット状のX線回折リングが観察された。一方、実験No.2、4の場合には均一なX線回折リングが観察された。
図8は、非特許文献5に記載の原子座標及び非特許文献6に記載の解析プログラムGSASを用い、実験No.1、2のX線回折リングを強度対2θのデータに変換して得られたリートベルト解析の結果である。なお、非特許文献5は、Biの構造に関するものであり、非特許文献6はプログラムに関するものである。
図8に示すように、実験No.2(図8(b):揺動有り)のR因子(構造の確からしさを評価する因子)であるRwp=7.1%が、実験No.1(図8(a):揺動無し)のRwp=16.3%に比べて、小さく、構造が精密化できていた。なお、図8では、φを0度、360度と表記する代わりにそれぞれ、固定、100sec/turnと表記している。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明は、X線回折試料揺動装置、X線回折装置及びX線回折パターンの測定方法に関するものであり、X線回折装置光学系として利用することができ、X線分析産業、X線装置産業等において利用可能性がある。
【符号の説明】
【0058】
1…X線回折装置、11…X線回折試料揺動装置、21…第1の揺動部、22…第2の揺動部、23…第3の揺動部、25…保持部材、31…試料保持部、32a、32b…ダイヤモンドアンビル、33…ガスケット(基板)、33h、33i…凹部、33j…貫通孔、34…X線回折試料、35…X線粉末試料、36…液圧媒体注入容器、61…第1の回転軸、62…第2の回転軸、63…第3の回転軸。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
X線回折試料を保持する試料保持部をX線入射方向と平行にした第1の回転軸の周りに揺動可能な第1の揺動部と、
前記第1の回転軸と直交する第2の回転軸の周りに揺動可能な第2の揺動部と、
前記第1及び第2の回転軸と直交する第3の回転軸の周りに揺動可能な第3の揺動部を有することを特徴とするX線回折試料揺動装置。
【請求項2】
前記第1の揺動部を前記第1の回転軸の周りに360度回転させる第1の回転機構が取り付けられていることを特徴とする請求項1に記載のX線回折試料揺動装置。
【請求項3】
前記第2の揺動部を前記第2の回転軸の周りに回転させる第2の回転機構が取り付けられていることを特徴とする請求項2に記載のX線回折試料揺動装置。
【請求項4】
前記第3の揺動部を前記第3の回転軸の周りに回転させる第3の回転機構が取り付けられていることを特徴とする請求項3に記載のX線回折試料揺動装置。
【請求項5】
前記第3の揺動部が、3軸パルスモーター制御装置が備えられた台上に固定されていることを特徴とする請求項4に記載のX線回折試料揺動装置。
【請求項6】
前記第1の回転軸、前記第2の回転軸及び前記第3の回転軸の軸方向をそれぞれ独立に調整可能な軸調整機構が備えられていることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載のX線回折試料揺動装置。
【請求項7】
前記試料保持部がダイヤモンドアンビルセルであることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載のX線回折試料揺動装置。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載のX線回折試料揺動装置と、X線発生部と、二次元X線検出器とを有することを特徴とするX線回折装置。
【請求項9】
請求項8に記載のX線回折装置を用いるX線回折パターンの測定方法であって、
軸調整機構により、第1の揺動部の第1の回転軸、第2の揺動部の第2の回転軸及び第3の揺動部の第3の回転軸の軸方向を互いに直交するように調整する工程を有する工程と、
第1の揺動部、第2の揺動部及び第3の揺動部を揺動させた状態で、X線発生部で発生させたX線を、X線回折試料揺動装置の試料保持部に保持したX線回折試料に照射して、前記X線回折試料で散乱させたX線を二次元X線検出器に投射する工程と、を有することを特徴とするX線回折パターンの測定方法。
【請求項10】
第1の揺動部、第2の揺動部及び第3の揺動部の揺動を同時に行うことを特徴とする請求項9に記載のX線回折パターンの測定方法。
【請求項11】
第1の揺動部の第1の回転軸をX線入射方向と平行に調整する工程を有することを特徴とする請求項9〜10のいずれか1項に記載のX線回折パターンの測定方法。
【請求項12】
3軸パルスモーター制御装置により、第3の揺動部の位置及び方向を制御する工程を有することを特徴とする請求項9〜11のいずれか1項に記載のX線回折パターンの測定方法。
【請求項13】
前記試料保持部としてダイヤモンドアンビルセルを用い、前記X線回折試料に高圧を印加した状態でX線を照射することを特徴とする請求項9〜12のいずれか1項に記載のX線回折パターンの測定方法。




【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−88113(P2013−88113A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−225394(P2011−225394)
【出願日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【出願人】(301023238)独立行政法人物質・材料研究機構 (1,333)
【Fターム(参考)】